説明

デオキシグルコソン生成抑制剤

【課題】安全性に優れたデオキシグルコソン生成抑制剤を提供する。
【解決手段】本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤は、ネギ類植物に含まれるスルフィド化合物である、ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィドまたはジメチルトリスルフィドを有効成分として含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデオキシグルコソンの生成抑制剤およびそれを用いたデオキシグルコソン生成抑制方法に関する。より詳しくは、本発明は食経験のある植物に含まれる化合物を用いた安全性の高いデオキシグルコソン生成抑制剤およびデオキシグルコソン生成抑制方法に関する。また、本発明は、当該デオキシグルコソン生成抑制剤を用いて処理された食品に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシグルコソンは、食品の褐変反応や生体内での糖化反応(グリケーション)に関与する物質である。これらの褐変反応や糖化反応はタンパク質のアミノ酸と糖のカルボニル基の間で生じる脱水縮合であり、アミノ−カルボニル反応ともいわれている。
【0003】
デオキシグルコソンは、醤油、味噌および日本酒などに通常45〜73ppm程度の割合で含まれており(非特許文献1)、また蜂蜜、果汁や菓子類などの食品にも含まれているが、食品中に多量にデオキシグルコソンが含まれている場合には、色調が変化(褐変や退色)したり、風味や味が劣化するなどといった食品の変質をもたらす。
【0004】
また、近年ポテト加工品等で問題となっているアクリルアミドの生成過程でも1−デオキシグルコソンや3−デオキシグルコソンなどのデオキシグルコソンが中間体として生成されることが知られており、アクリルアミドの生成を防止するうえでもデオキシグルコソンの生成を抑制することが重要であるとされている(非文献文献2〜3等参照)。
【0005】
またデオキシグルコソンは体内でグルコースと同様に吸収されるため、デオキシグルコソンを多量に含む食品を摂取した場合には、血中のデオキシグルコソンが増加し、血中のタンパク質と結合して体調に影響する可能性がある。具体的には、デオキシグルコソンは、生体内でリジン残基やアルギニン残基を介して細胞内タンパク質(ヘモグロビン、レンズタンパク質など)や細胞外たんぱく質(アルブミン、イムノグロブリン、コラーゲン、各種の酵素など)と反応して、これが例えば糖尿病などの慢性的な疾患や神経の異常(非特許文献4)、腎症(非特許文献5)、血管に由来する疾患(非特許文献6)、アルツハイマー症(非特許文献7)、白内障(非特許文献8)、または老化の要因となるといった報告もされている。
【0006】
また糖尿病から糖尿病合併症や動脈硬化症を発症する過程には、血中に高濃度に含まれるグルコースから2,3−エノール物質を経由して3−デオキシグルコソンが形成されることが明らかにされており(例えば、非特許文献9参照)、当該デオキシグルコソンの生成を抑制することが、かかる疾患の発症予防に有効であると考えられている(非特許文献10、11など)。
【0007】
デオキシグルコソンの生成を抑制する物質として、従来よりアミノグアニジンおよびピリドキサミンが知られている(例えば、非特許文献12)。アミノグアニジンはデオキシグルコソンがタンパク質と反応する過程を阻害し、またピリドキサミンはアマドリ転移物からデオキシグルコソンが生成する過程を阻害することによって、生体内でのアミノ−カルボニル反応を抑制する作用を有しており、糖尿病などの諸疾患の治療剤として利用されているが、医療用途での使用に限られ、食品分野で利用できないのが実情である。
【非特許文献1】吉澤淑編集、「酒の科学」、p67、朝倉書店(1995)
【非特許文献2】桜井芳人編、「総合食品辞典(四訂版)」、pp.156-158、同文書院(1980)
【非特許文献3】辺野喜正夫、栗飯原景昭、内山充編、「食品衛生学」、pp.175-180、朝倉書店(1979)
【非特許文献4】Miyata, T.,et al,J.Clin.Invest,92,1242-1252(1993)
【非特許文献5】McCance,D.R.,et al, J.Clin.Invest,91,2470-2478(1993)
【非特許文献6】Vlasara,H.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89.12043-12047(1992)
【非特許文献7】Horiuchi,S.,Trends Cardivasc.Med.,6,163-168(1996)
【非特許文献8】Vitek,M.P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91.4766-4770(1994)
【非特許文献9】Lyons,T.J., et al.,Diabtes,40,1010-1015(1991)
【非特許文献10】Thornalley,P.J.,Langborg,A.,and Minhas,H.S., Biochem.J., 344, 106-116 (1999)
【非特許文献11】楠仁美、宮田哲、糖化反応中間体3−デオキシグルコソンの特異的測定法、Dojin News、NO.98、1-3、(2001)
【非特許文献12】Williams, M.E., Current Diabets Reports, 4;441-446 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、食品におけるデオキシグルコソンの生成を抑制するために有効に用いられる剤(デオキシグルコソン生成抑制剤)、並びに食品におけるデオキシグルコソンの生成を抑制するための方法を提供することを目的とする。なお、デオキシグルコソン生成抑制剤を食品に適用する場合には、そのもの自体の安全性や加熱等の加工処理によって生じる生成物の安全性が確認されていることが必要である。そこで、本発明のより好適な目的は、食経験のある植物に由来する成分を有効成分とするデオキシグルコソン生成抑制剤を提供することである。
【0009】
さらに、本発明の目的は、当該デオキシグルコソン生成抑制剤で処理されることによってデオキシグルコソンの生成が抑制されてなる食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来から植物抽出物の機能性に着目し、とくに食品中でのデオキシグルコソンの生成を抑制する植物抽出物について鋭意研究を行ってきた。その結果、ネギ類に含まれているスルフィド化合物、特にジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィドが、当該食品中でのデオキシグルコソンの生成に対して優れた抑制効果を発揮することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本願発明は下記の様態を含むものである。
(1)デオキシグルコソン生成抑制剤
項1.スルフィド化合物を有効成分として含有するデオキシグルコソン生成抑制剤。
項2.スルフィド化合物がメチル基、プロピル基、アリル基、及びイソプロピル基より選択される少なくとも1つの官能基を有するものである、項1記載のデオキシグルコソン生成抑制剤。
項3.スルフィド化合物が、モノスルフィド、ジスルフィドおよびトリスルフィドより選択される少なくとも1つの化合物である、項1または2に記載するデオキシグルコソン生成抑制剤。
項4.スルフィド化合物が、ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、アリルプロピルモノスルフィド、アリルプロピルジスルフィド、アリルプロピルトリスルフィド、ジアリルモノスルフィド、ジアリルトリスルフィド、ジアリルポリスルフィド、アリルメチルモノスルフィド、アリルメチルジスルフィド、アリルメチルトリスルフィド、ジプロピルモノスルフィド、ジプロピルジスルフィド、ジプロピルトリスルフィド、メチルプロピルモノスルフィド、メチルプロピルジスルフィド、メチルプロピルトリスルフィド、ジイソプロピルモノスルフィドおよびジメチルテトラスルフィドより選択される少なくとも1つの化合物である、項1乃至3のいずれかに記載するデオキシグルコソン生成抑制剤。
項5.ネギ類植物のスルフィド化合物含有画分を有効成分として含有するものである、項1乃至4のいずれかに記載のデオキシグルコソン生成抑制剤。
項6.上記スルフィド化合物含有画分が、ネギ類植物の抽出画分である項6に記載のデオキシグルコソン生成抑制剤。
【0012】
(2)デオキシグルコソン生成抑制方法、当該方法により得られるもの
項7.被験物質を、項1乃至6のいずれかに記載のデオキシグルコソン生成抑制剤を用いて処理する工程を有する、被験物質におけるデオキシグルコソンの生成抑制方法。
項8.項1乃至6のいずれかに記載のデオキシグルコソン生成抑制剤を用いて処理された、デオキシグルコソンの生成が抑制されてなる食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、食品中でのデオキシグルコソンの生成を抑制することができ、その結果、デオキシグルコソンの生成に起因する食品の変質(具体的には、着色や変色、風味や味の劣化など)を防止することができる。また本発明によれば、食品中でのデオキシグルコソンの生成を抑制することにより、食品中でのアクリルアミドの生成を防止することも可能である。さらに本発明によれば、食品中でのデオキシグルコソンの生成を抑制することによってデオキシグルコソンの多量摂取を防止することができ、また生体内でのデオキシグルコソンの生成を抑制することにより、デオキシグルコソンによる生体内での悪影響(例えば、非特許文献4〜9等参照)を防止することができると考えられる。
【0014】
なお、本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤は、特に食経験に基づいて安全性が確認されているネギ類に含まれるスルフィド化合物を有効成分とするものである。ゆえに安全性が高く、人体に用いられる例えば食品や医薬品などの有効成分して好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤は、スルフィド化合物を有効成分とすることを特徴とする。
【0016】
ここで本発明が対象とするデオキシグルコソンには、1−デオキシグルコソン、2−デオキシグルコソンおよび3−デオキシグルコソンが含まれる。本発明の生成抑制剤は、これらのデオキシグルコソンの少なくとも1つに対して生成抑制作用を有するものであればよく、好ましくは、これらのデオキシグルコソンのうち、少なくとも3−デオキシグルコソンに対して生成抑制作用を有するものである。
【0017】
本発明の有効成分であるスルフィド化合物は、イオウの数は1,2,3など任意の個数でよく、また、化合物中に位置するイオウの位置は任意でよい。さらに任意の官能基で修飾されていてもよい。たとえば、かかる修飾されてなるスルフィド化合物には、1または2の、炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分枝状の鎖状アルキル基で修飾されてなるスルフィド化合物が含まれる。
【0018】
ここで典型的な鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ペブチル基、メチルプロピル基、4,4−ジメチルペンチル基、オクチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、並びにこれらの分枝鎖状異性基および同様の基を例示することができる。好ましくは、炭素数1〜4の低級アルキル基であり、より好ましくはメチル基、プロピル基およびイソプロピルである。
【0019】
鎖状アルキル基で修飾されてなるスルフィド化合物としては、より具体的には、ジメチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、イソプロピルスルフィドおよびメチルプロピルスルフィドなどの、モノスルフィド、ジスルフィドおよびトリスルフィドを挙げることができる。具体的には、ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィドなどジメチルスルフィド:ジプロピルモノスルフィド、ジプロピルジスルフィドおよびジプロピルトリスルフィドなどのジプロピルスルフィド:ジイソプロピルモノスルフィド:メチルプロピルモノスルフィド、メチルプロピルジスルフィドおよびメチルプロピルトリスルフィドなどのメチルプロピルスルフィド:およびジメチルテトラスルフィドを例示することができる。
【0020】
また、本発明で用いられるスルフィド化合物には、1または2のアリル基(1−プロペニル基)で修飾されてなるスルフィド化合物も含まれる。かかるスルフィド化合物は、アリル基とともに上記アルキル基で修飾されていてもよい。

かかるものとして、ジアリルスルフィド、アリルプロピルスルフィドおよびアリルメチルスルフィドなどの、モノスルフィド、ジスルフィド、トリスルフィドを挙げることができる。具体的には、ジアリルモノスルフィド、ジアリルトリスルフィドおよびジアリルポリスルフィド等のジアリルスルフィド:アリルプロピルモノスルフィド、アリルプロピルジスルフィドおよびアリルプロピルトリスルフィドなどのアリルプロピルスルフィド:アリルメチルモノスルフィド、アリルメチルジスルフィドおよびアリルメチルトリスルフィドなどのアリルメチルスルフィドを例示することができる。
【0021】
本発明で使用するスルフィド化合物の修飾官能基の種類は、本発明の効果を奏することを限度として、上記の特定基に限定されることはなく任意である。また、スルフィド化合物の由来は問わず、合成品であっても天然物に由来するものであってもよい。好ましくは、植物に由来するスルフィド化合物であり、より好ましくはネギ類植物に由来するスルフィド化合物である。
【0022】
ネギ類はユリ科の植物であり、たとえば、タマネギ、ニンニク(りん茎)、リーキ、ラッキョウ、アサギ、ワケギ、ネギ(青)、ネギ(白)、ユリ(根茎)、アマドコロ、アマナ、エンレイソウ、オモト、カタクリ、ニラ(葉)、キダチアロエ(葉)、コバイケイソウ(根、根茎)、コヤブラン、ジャノヒゲ、スズラン、バイケイソウ、ハナスゲ、イヌサフラン(種子)などを挙げることができる。これらのうち、好適な植物としては、タマネギ、ネギ(白)、ラッキョウ、およびニンニクなどを挙げることができ、より好ましくはタマネギである。
【0023】
なお、キャベツなどのアブラナ科植物、コーヒー、ジャガイモ、トマト、パッションフルーツ、ブドウ、パイナップル、メロン、青ノリ、及びクレソンなどにもスルフィド化合物が含まれていることが報告されており、含有量が少ないものの、本発明はこれらの植物に由来するスルフィド化合物を用いても良い(Perfumer&Flavorists,Vol.18May/June,33-39,1993)。
【0024】
本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤は、有効成分として、上記ネギ類植物のスルフィド化合物含有画分を含むものであってもよい。ここでネギ類植物に含まれるスルフィド化合物としては、ハイドロゲンスルフィド(hydrogen sulfide)、プロピレンスルフィド、ジメチルスルフィド、メチルプロピルスルフィド、メチル1−プロピルスルフィド、アリルメチルスルフィド、1−プロペニルプロピルスルフィド、ジアリルスルフィドおよびビス(1−プロピル)スルフィドの、モノスルフィド、ジスルフィドおよびトリスルフィドが報告されている(特許庁発行:特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、pp856、平成12(2000).1.14発行)。本発明で用いるネギ類植物のスルフィド化合物含有画分として、好ましくはジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィドから選択される少なくとも1つのスルフィド化合物を高い割合でまたは選択的に含有する画分である。
【0025】
またネギ類植物のスルフィド化合物含有画分として、ネギ類植物の精油を用いることもできる。たとえば、タマネギの精油には、ジ−2−プロペニルスルフィド、ジメチルジスルフィド、メチル−2−プロペニルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、プロピル−2−プロペニルジスルフィド、cis−及びtrans−1−プロペニルプロピルジスルフィド、ジ−2−プロペニルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、ジプロピルトリスルフィド、ジ−2−プロペニルトリスルフィド、ジ−2−プロペニルテトラスルフィド、メタンチオール、2−ヒドロキシプロパンチオール、チオプロパナール、2−チオプパナール、3−ヒドロキシチオプロパナール、チオシアン酸、メチルチオスルフィネート、3,4−ジメチルチオフェンなどが含まれていることが知られている(Agnes Sass-Kiss et al, J.Sci.Food Agri.1998,76,189-194;Sinha et al, J.Agric.Food Chem.1992,40,842-845; J.Agri. Food Chem.1980,28,1037-1038; Boelens et al,J.Agr.Food Chem.1971,19,NO.5,984-991; Henk Maarse ed.,Volatilecompounds in foods and beverages, 1991,Marrcel Dekker 203-271)。なお、タマネギに含まれる精油の含量は約0.1%前後である。
【0026】
スルフィド化合物またはスルフィド化合物含有画分の取得に使用されるネギ類の部位は、特に制限されず、ネギ類植物の全植物体であっても、また、部分部位、例えば、葉、茎、根、花またはりん茎(可食部)のいずれであってもよい。好ましくは可食部であり、例えばネギ類植物としてタマネギを使用する場合は、葉及びりん茎(可食部)を好適な部位として用いることができる。
【0027】
ネギ類植物に含まれるスルフィド化合物、及び当該化合物を含有する画分は、ネギ類植物(例えば、好適にはタマネギ、ネギ、ラッキョウ)を溶媒との共存下で抽出処理して調製取得することができる。ここでネギ類は、そのまま(生)の状態で抽出処理に供してもよいし、また生のままスライスしたり細断した破砕物、摺り下ろした物、または搾り液を抽出処理に供してもよい。さらにネギ類植物の乾燥物をそのままもしくは破砕、粉砕して抽出処理に供することができる。
【0028】
抽出に使用する溶媒(抽出溶媒)としては、メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−プロパノール、及び2−プロパノール等の炭素数1〜4の低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、及びブチレングリコール等の多価アルコール;アセトン、エチルメチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、食用デオキシグルコソン、ヘキサン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテンなどの有機溶剤、または水を挙げることができる。好ましくはエタノールなどの低級アルコールおよび水である。
【0029】
上記に掲げる抽出溶媒は、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて用いてもよい。より好ましくは水と有機溶剤との混合物であり、特に低級アルコールと水との混合物(含水アルコール)、より好ましくはエタノールと水との混合物(含水エタノール)を挙げることができる。含水アルコールとしては、具体的には水を40〜60容量%の割合で含む含水アルコールを好適に用いることができる。
【0030】
抽出に用いるネギ類植物に対して用いられる上記抽出溶媒の割合としては、特に制限されないが、生のネギ類植物100重量部に対して用いられる溶媒の重量比に換算した場合、通常50〜20,000重量部、好ましくは10〜10,000重量部を例示することができる。
【0031】
なお、スルフィド化合物含有画分に含まれるスルフィド化合物の含有割合を高める方法(またはスルフィド化合物を選択的に取得する方法)として、上記抽出方法に代えて、または加えて、圧縮、蒸留(水蒸気蒸留、分子蒸留、分画蒸留、アロマディスティレート、回収エッセンス)、抽出(チンクチャー、マセレーション、パーコレーション、オレオレジン、コンクリート、アブソリュート)、亜臨界または超臨界抽出方法など調製方法を採用することもできる。
【0032】
本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤は、前述するスルフィド化合物またはネギ類植物から得られるスルフィド化合物含有画分だけからなってもよいし、また本発明の効果を妨げない範囲で、製薬上または食品上許容される担体や添加剤を含んでいてもよい。担体としては、水;エタノール等の低級アルコール;プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;砂糖、果糖、ぶどう糖、デキストリン、シクロデキストリン、環状オリゴ糖などの糖質;ソルビトールなどの糖アルコール;アラビアガム、キトサン、キサンタンガムなどのガム質;清酒、ウォッカや焼酎などの蒸留酒;グリシン、酢酸ナトリウムなど製造用剤を例示することができる。また、添加剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤を例示することができる。
【0033】
また、本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤は、本発明の効果を損なわないことを限度として、デオキシグルコソン生成抑制効果が知られている、または抑制の可能性のある他の成分を含むこともできる。かかる成分としては、例えば、ヤマモモ抽出物、酵素処理イソクエルシトリン、酵素処理ルチン、クエルセチン、ケンフェロール、ルテオリン、ミリスチン、イソクエルシトリン、ナリンゲニンなどのフラボノイド類、及びビタミンC、エリソルビン酸ナトリウム、ビタミンEなどのビタミン類等を挙げることができる。
【0034】
本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤の形態は特に制限されない。例えば本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤は、錠剤、顆粒状または粉末状等の固形物、液状、乳液状および懸濁状などの液体、またはペースト状等の半固形物の形態で用いることができる。
【0035】
なお、デオキシグルコソン生成抑制剤を粉末状態に調製する方法としては、例えば、上記スルフィド化合物またはネギ類植物から得られるスルフィド化合物含有画分に、必要に応じてデキストリンやシクロデキストリン等の糖類または糖アルコールなどの賦形剤または炭酸カルシウム、セラミックス、シリカゲル、活性炭などのポーラスな無機有機質を加え、凍結乾燥、噴霧乾燥または凍結粉砕などの慣用の手法によって調製することができる。
【0036】
さらに、デオキシグルコソン生成抑制剤を液体状態に調製する方法としては、例えば、上記スルフィド化合物またはネギ類植物から得られるスルフィド化合物含有画分に食用液体を配合する方法を挙げることができる。
【0037】
なお、デオキシグルコソン生成抑制剤に含まれる有効成分たるスルフィド化合物の含有量は、通常1〜100重量%の割合で適宜選択することができる。
【0038】
本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤は、デオキシグルコソンが生成するおそれのある成分を含む組成物の処理に好適に使用することができる。その結果、デオキシグルコソンの生成に起因して生じる変質(褐変などの変色や退色、風味や味の劣化などを含む)やアクリルアミドの生成を抑制し、製品の品質保持や安全性保持のために好適に使用することができる。
【0039】
なお、デオキシグルコソンは、タンパク質やペプチドのアミノ酸と糖のカルボニル基とのアミノ−カルボニル反応によって生じることが知られている。従って、本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤が対象とする組成物としては、アミノ酸成分(アミノ酸、ペプチドまたはタンパク質)と糖を含む食品(サプリメントを含む)、医薬品、医薬部外品、香粧品、飼料、および餌料を挙げることができる。
【0040】
例えば、食品としては、糖とアミノ酸成分(タンパク質、ペプチドまたはアミノ酸)を含むことによってデオキシグルコソンを生成しえる飲食物を広く挙げることができる。
【0041】
たとえば、果汁飲料、果実飲料など清涼飲料一般、栄養ドリンク、サプリメント飲料などの機能性飲料一般、ココア、コーヒー飲料など焙煎を行う嗜好飲料、フレンチフライ、ポテトチップス、フライドポテト、コーンスナック、甘栗、豆菓子、ワッフル、かりんとう、せんべい、クラッカー、シリアル、麦こがし、アーモンド、プレッツエル、クッキー、ビスケットなどの菓子類;コロッケ、トンカツ、唐揚、フライドポテト、餃子、春巻などの惣菜、加工食品、サンドウィッチ;シチュー、カレー、カレー粉を用いたカレー食品、リゾット、パスタなどのレトルト食品:焦げ目をつけた焼おにぎりやご飯;豚肉、魚介、野菜などの天ぷらを含む食品または食品付き麺、うどん、長崎ちゃんぽん麺、うどん、冷麺、蕎麦、油あげ即席麺、ラーメンなど;野菜やご飯類の炒め物(中華どんぶり、チャーハンなど);しょうゆで味付けした食品、野菜、食品や果実をオーブンで焼いた焼き物(チキン、ターキー);野菜のてんぷら、魚肉を揚げたさつま揚げや各種具材のてんぷらなどの各種の総菜や弁当等、日本酒、ビール、果実酒、ウイスキー、甘酒などのアルコール類あるいは温めて飲用する飲料一般を例示することができる。なお、上記は単に例示であって、これらの食品のみに適用できるわけではなく、他の食品に対しても適用することができる。
【0042】
これらの各組成物(食品、医薬品、医薬部外品、香粧品、飼料、餌料)におけるデオキシグルコソンの生成を抑制し、当該組成物の変質を防止するための処理方法としては、前述する本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤をこれらの各組成物と接触させる方法を挙げることができる。接触方法としては、各組成物の形態や製造方法に応じて適宜選択され、特に制限されない。例えば、食品を例にすると、(1)食品の表面または切断面にデオキシグルコソン生成抑制剤を塗布若しくは噴霧する方法、(2)デオキシグルコソン生成抑制剤を含む溶液中に食品を浸漬する方法、および(3)デオキシグルコソン生成抑制剤を食品の配合物に添加混合する方法などを挙げることができる。なお、(3)の方法の場合、デオキシグルコソン生成抑制剤の添加時期は特に制限されず、食品の製造または加工処理工程で行われても、または最終的に得られた食品に対して行なわれてもよい。また当該デオキシグルコソン生成抑制剤を対象物に添加配合する処理方法は、食品にかぎらず、医薬品、医薬部外品、香粧品、飼料または餌料に対するデオキシグルコソン生成抑制方法としても好適に使用することができる。
【0043】
対象物にデオキシグルコソン生成抑制剤を配合する場合のデオキシグルコソン生成抑制剤の添加量は、処理する対象物(被験物)の種類や処理方法等によって種々異なり一概に規定することができないが、例えば、最終対象物中に含まれるスルフィド化合物の総量として、1〜10,000μg/g、好ましくは1〜100μg/gの割合を例示することができる。
【0044】
また、被験物を浸漬または噴霧処理する場合は、当該浸漬または噴霧処理に使用する溶液中に含まれるスルフィド化合物の総量として、1〜10,000μg/g、好ましくは10〜1,000μg/gの割合を例示することができる。
【0045】
斯くして処理された各組成物(食品、色素、香料、医薬品、医薬部外品、香粧品、飼料など)はデオキシグルコソンの生成が抑制され、その結果、当該デオキシグルコソンの生成による好ましくない変質(例えば、味、風味、変色、退色、悪臭発生を含む)を防止することができる。
【0046】
さらに、デオキシグルコソンの生成が抑制されるため、それを生成中間体とするアクリルアミドの生成を防止することができる。
【0047】
従って、本発明は、上記本発明のデオキシグルコソン生成抑制剤によって処理されることによってデオキシグルコソンの生成が抑制された各種の組成物(食品、色素、香料、医薬品、医薬部外品、香粧品、飼料など)を提供する。当該組成物は、上記本発明のデオキシグルコソンデオキシグルコソン生成抑制剤で処理されることによって、結果としてデオキシグルコソンの生成が抑制され、デオキシグルコソンに起因して生じる変化、変質(例えば、味、風味、変色、退色、悪臭発生を含む)が抑制されてなるものであれば特に制限されない。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。但し、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「%」とは「重量%」を、「部」とは「重量部」を意味するものとする。なお、以下の実験例において、各種のスルフィド化合物(ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド)はOxford Chemicals社、3−デオキシグルコソンおよび2,3−ジアミノナフタレン(2,3-diaminonaphthalene: DAN)は(株)同仁化学、グルコース(純度99.9%)はALFA Aesar社、及びアスパラギン(特級)は(株)キシダ化学から入手した。
【0049】
実験例1 スルフィド化合物の添加による3−デオキシグルコソンの生成抑制
グルコースとアスパラギンの混合物をメタノール還流すると、メタノール中でアマドリ転移物から3−デオキシグルコソンの生成を経由して、アクリルアミドが生成することが知られている(J. R. Pederson and J. O. Olsson, Analyst, 128,332-334 (2003);桜井芳人編、「総合食品辞典(四訂版)」同文書院、pp.156-158(1980);辺野喜正夫、栗飯原景昭、内山充編、「食品衛生学」朝倉書店、pp.175-180(1979))。
【0050】
そこで、本実験では、3−デオキシグルコソンを生成しえる組成物として、グルコースとアスパラギンを含有するメタノール溶液を用い、当該溶液にスルフィド化合物を添加して、3−デオキシグルコソンの生成抑制効果を評価した。
【0051】
<実験方法>
3−デオキシグルコソンの生成およびその測定は楠らの方法(楠仁美、宮田哲、「糖化反応中間体3−デオキシグルコソンの特異的測定法」、Dojin News、NO.98、1-3、(2001))に準じて行った。具体的には、10mMグルコースのメタノール溶液に、0.09gのL−アスパラギン、100μLの5M水酸化ナトリウム水溶液、および各種のスルフィド化合物(ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィドまたはジメチルトリスルフィド)10μLを添加し、最終容量を100mLに調整した。この溶液約10mLを20mL容のバイアル瓶に入れ、ブチルゴム栓にて密栓し、予め60℃に加温したプレートヒーターにて0〜2時間(0分,15分,30分,60分,90分,120分)加温した。
【0052】
室温冷却後、試料液1mLに0.1%の2,3−ジアミノナフタレン(DAN)100μLを加え、5℃冷蔵庫にて16時間反応させた。反応後、反応液に酢酸エチル4mLを加えて反応生成物を抽出し、蒸発乾固した後、1mLメタノールにて再溶解したものを下記条件のHPLCに供した。対照実験として、スルフィド化合物を添加していない溶液を上記と同様に処理した(対照区:ブランク)。
【0053】
なお、標準品として3−デオキシグルコソンとDANの付加物(1mg/mL)をメタノールに溶解し、この付加物のピークを3−デオキシグルコソンのピークとして確認した。また、3−デオキシグルコソン(1mg/mL)に0.1%DAN(100μL)を添加し、5℃冷蔵庫にて16時間保持して分析に供し、反応物のピークの再現性を確認した。
【0054】
<HPLC条件>
カラム:ODS 80TM(250mm×4.6mm、東ソー社製)
カラム温度:30℃
溶離液:
A液;5mMリン酸水溶液:アセトニトリル:メタノール=70:15:15(容量比)
B液;5mMリン酸水溶液:アセトニトリル:メタノール=40:30:30(容量比)
グラジェント条件:0から50分までA液100%、50分から60分にかけてB液を増量
流速:0.44mL/min
注入量:10μL
検出器:蛍光検出器(日本分光)
検出波長:271nm(励起波長)、503nm(蛍光波長)。
【0055】
各クロマトグラムのデオキシグルコソンに相当するピーク面積を求め、デオキシグルコソンの経時的な生成量(μg/g)(反応時間0、15、30、60、90、120分)を算出した。
【0056】
スルフィド化合物としてジメチルモノスルフィドを用いた場合の結果を表1、ジメチルジスルフィドを用いた場合の結果を表2、およびジメチルトリスルフィドを用いた場合の結果を表3にそれぞれ示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
スルフィド化合物を添加しない系では、グルコースとアスパラギンとの反応により3−デオキシグルコソンが生成して反応時間に伴って増加しているのに対し(対照区)、ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィドまたはジメチルトリスルフィドを添加した系では、3−デオキシグルコソンの生成が抑制され、反応時間の長さに拘わらずその生成抑制効果が維持されており、また一部分解も生じているようであった。
【0061】
このメカニズムとしては、制限はされないが、スルフィド化合物はエン反応を起こし求核的に反応することから、糖のエノール化の過程を経由し、糖とアミノ酸によるアマリド転移物からデオキシグルコソンが生成する過程で、スルフィド化合物が反応することによって、デオキシグルコソンの生成が阻害されるものと推測される。
【0062】
実験例2
糖とアミノ酸との反応でアクリルアミドを生成する過程で、デオキシグルコソンが中間体として生成することが知られている。このため、実験例1で得られた試料を用い、これらの試料中に生成しているアクリルアミド量を求め、デオキシグルコソンの生成抑制がアクリルアミドの生成に影響しているかを調べた。
【0063】
アクリルアミドの分析方法は、公知の方法に従ってGC/MS分析を行い、その値を求めた。
【0064】
具体的には、実験例1で得られた各試料液5mLを50mL容の褐色共栓瓶に移し、冷却後、濃硫酸約0.5mLを添加し攪拌した。これに臭化カリウムを約10g添加し、次いで0.1Mの臭素酸カリウムを6mL添加した。冷蔵庫(4℃)にて約12時間静置して臭素化した後、各試料溶液に1モルのチオ硫酸ナトリウム溶液を臭素の黄褐色が消失するまで加え(約2mL)、過剰の臭素を分解させた。次いで、100mL容の分液ロートに試料溶液を移し、分液ロートにて5分間振とうする。得られた水層を元の褐色共栓瓶に移し、酢酸エチル層を100mL容の三角フラスコに移した。酢酸エチル層に無水硫酸ナトリウムを添加し、脱水する。ろ液を50mL容ナスフラスコに移し、酢酸エチル層を留去した。得られた残留物に、20%アセトン含有ヘキサン1mL、及びトリエチルアミン20μLを添加し、脱臭化水素し、脱臭化水素して得られたモノブロモ誘導体(モノブロモプロピオンアミド)を、下記条件のガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS分析計)で分析し、検量線の結果から、アクリルアミドの生成量を求めた。
【0065】
<GC−MS分析の条件>
機器: GC 3800(Varian社製)、MS Saturn2100T(Varian社製)
カラム:DB-5ms(Varian社製)、0.25mmi.d.×30m
注入量:1μL、splitless
注入温度: 250℃
カラム温度:50℃(1分保持、10℃/min)→250℃(1分保持)
転送ライン温度:280℃
キャリアガス:ヘリウムガス
イオントラップ温度:220℃
イオン化電圧: 70eV
イオン化モード:EI+。
【0066】
結果を表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
表4に示すように、反応初期のアクリルアミド濃度がスルフィド化合物を使用することによって低下していることから、スルフィド化合物によりアクリルアミドの生成が抑制されることが判明した。また、加熱時間ごとの生成量を比べると、60分、120分経過したときの対照区(ブランク)のアクリルアミド量に比べ、ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィドを添加した系ではいずれもアクリルアミドの生成が抑制された。これはアクリルアミドの生成過程で生じる中間体であるオキシグルコソンの生成が抑えられたことに起因するものと考えられる。
【0069】
なお、生体内での糖化反応を抑制することが知られているアミノグアニジン(使用量1mM)やピリドキサミン(使用量1mM)を用いて同様に実験した結果を、表4に併せて示す。
【0070】
両者の結果を比較すると、スルフィド化合物は、これらのアミノグアニジンやピリドキサミンとほぼ同様な傾向を示すことがわかる。これらのことから、スルフィド化合物は、オキシグルコソン生成抑制作用に起因して、食物中でのアクリルアミド生成を抑制する作用や、食物中での糖反応を抑制する作用を発揮することが確認された。
【0071】
実験例3
(1)タマネギ超臨界CO抽出物の調製
生タマネギ1600gを水洗後、カッターで粉砕し、これをろ布でろ過して、約400gの微淡黄色清澄なタマネギ搾汁を得た(タマネギ粉砕物1600g使用)。この調製したタマネギ搾汁のうち190mL(タマネギ760g分)に、95容量%エタノール(含水エタノール)60mLを添加して混合した(タマネギ:含水エタノール=38:3)。調製したタマネギ含有エタノール溶液250mLを、超臨界抽出システムの抽出槽に充填し、圧力17.5MPa及び温度50℃に調整した超臨界状態の二酸化炭素700Lを導入した。二酸化炭素導入後、25分間そのままの状態で保持し、次いで抽出槽を温度調節しつつ圧力調整バルブを用いて開放して、二酸化炭素を分離槽に放出して、タマネギ超臨界CO抽出物50gをサンプル採取口から採取した(タマネギ760g分)。得られた超臨界CO抽出物の収率(使用した生タマネギの重量に対する抽出物の重量比)は6.6%であった。
【0072】
(2)GC−MS分析
上記で調製したタマネギ超臨界CO抽出物(試料1)をそれぞれ下記条件のGC/MS分析に供した。
【0073】
<GC−MS分析>
機器: GC 3800(Varian社製)、MS Saturn2100T(Varian社製)
カラム:DB-5msitd(Micromass社製)、0.25mmi.d.×30m
注入量:1μl、split(100:1)
注入温度: 250℃
カラム温度:50℃(1分保持、10℃/min)→250℃(1分保持)
転送ライン温度:280℃
キャリアガス:ヘリウムガス
イオントラップ温度:220℃
イオン化電圧: 70eV
イオン化モード:EI+。
【0074】
結果を表5に示す。なお、物質の同定は、各スルフィド化合物の標品を同様に上記条件のGC−MS分析にかけて、その保持時間と対比することで確認した。
【0075】
【表5】

【0076】
表5に示すように、タマネギ超臨界CO抽出物には、多種類のスルフィド化合物が含まれており、本発明に用いるスルフィド化合物が任意に選択、使用できることが確認された。
【0077】
実験例4
実験例3で調製したタマネギ超臨界CO抽出物を用いて、実験例1の方法に準じて、3−デオキシグルコソンの生成抑制効果を評価した。具体的には、実験例3で調製したタマネギ超臨界CO抽出物を、グルコースとアスパラギン酸を含有するメタノール溶液に100μL添加して、55℃で60分間反応させて3−デオキシグルコソンの生成量を測定した。また対照として、超臨界CO抽出物を添加しない系についても同様にして3−デオキシグルコソンの生成量を測定した(対照区)。結果を、表6に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
上記の結果からわかるように、超臨界CO抽出物を添加することにより、無添加の場合(対照区)に比べて、3−デオキシグルコソンの生成量が抑制された。とくに超臨界条件で25分間の保持をおこなった超臨界CO抽出物による3−デオキシグルコソン生成抑制効果は高く、無添加の対照区に比して約57%の3−デオキシグルコソンの生成が低下された。これは臨界抽出を超臨界COに保持させないで行った抽出物に比べ、超臨界条件で25分間保持させることによって抽出物に含まれるスルフィド濃度が高まったことによると考えられる。
【0080】
実験例5
実験例3で示したスルフィド類を含め、官能基やスルフィドの数の異なる各種のスルフィド類(表7)について、デオキシグルコソンの生成抑制効果を実験例1に準じて評価した。具体的には、各スルフィド類を、グルコースとアスパラギン酸を含有するメタノール溶液に10μL添加して、55℃で60分間反応させて3−デオキシグルコソンの生成量を測定した。また対照として、スルフィド類を添加しない系についても同様にして3−デオキシグルコソンの生成量を測定した(対照区)。結果を、表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
上記表7に示すように、スルフィド類の添加によってデオキシグルコソンの生成が顕著に抑制された。また、スルフィド類の官能基の違いはデオキシグルコソン生成抑制効果に大きな差は認められなかった。ただ、ジアリル基は、モノ>トリ>ポリとイオウの数が少なくなるほど効果が高くなる傾向があった。また、アリルメチル基も同様の傾向を示した。そのほかのスルフィド類については、イオウの数による影響は殆ど認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルフィド化合物を有効成分として含有するデオキシグルコソン生成抑制剤。
【請求項2】
スルフィド化合物がメチル基、プロピル基、アリル基、及びイソプロピル基より選択される少なくとも1つの官能基を有するものである、請求項1記載のデオキシグルコソン生成抑制剤。
【請求項3】
スルフィド化合物が、モノスルフィド、ジスルフィドおよびトリスルフィドより選択される少なくとも1つの化合物である、請求項1または2に記載するデオキシグルコソン生成抑制剤。
【請求項4】
スルフィド化合物が、ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、アリルプロピルモノスルフィド、アリルプロピルジスルフィド、アリルプロピルトリスルフィド、ジアリルモノスルフィド、ジアリルトリスルフィド、ジアリルポリスルフィド、アリルメチルモノスルフィド、アリルメチルジスルフィド、アリルメチルトリスルフィド、ジプロピルモノスルフィド、ジプロピルジスルフィド、ジプロピルトリスルフィド、メチルプロピルモノスルフィド、メチルプロピルジスルフィド、メチルプロピルトリスルフィド、ジイソプロピルモノスルフィドおよびジメチルテトラスルフィドより選択される少なくとも1つの化合物である、請求項1乃至3のいずれかに記載するデオキシグルコソン生成抑制剤。
【請求項5】
ネギ類植物のスルフィド化合物含有画分を有効成分として含有するものである、請求項1乃至4のいずれかに記載のデオキシグルコソン生成抑制剤。
【請求項6】
上記スルフィド化合物含有画分が、ネギ類植物の抽出画分である請求項6に記載のデオキシグルコソン生成抑制剤。
【請求項7】
被験物質を、請求項1乃至6のいずれかに記載のデオキシグルコソン生成抑制剤を用いて処理する工程を有する、被験物質におけるデオキシグルコソンの生成抑制方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載のデオキシグルコソン生成抑制剤を用いて処理された、デオキシグルコソンの生成が抑制されてなる食品。

【公開番号】特開2007−261983(P2007−261983A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87918(P2006−87918)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】