説明

デスケール用ブラシ

【課題】冷却水を噴出する水冷孔を形成した鋼製リングの外周に砥粒入りナイロン毛を放射状に植毛したディスクを積層してなるステンレス鋼熱延鋼板のデスケール用ブラシにおいて、ブラシの寿命を延ばすと共に、研削力と品質を向上させる。
【解決手段】砥粒をダイヤモンド砥粒として10〜15%含有させ、外周面積と植毛面積の比であるブラシ密度を48%とし、ブラシを駆動するモータの負荷電流をSiC砥粒入りブラシを用いた従来法より低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板のデスケール用ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板のデスケール方法としては、主にスケールブレーカ、ショットブラスト、ブラシ研削、酸洗等がある。図1は、下記特許文献1に開示されるステンレス鋼熱延鋼板の酸洗設備を示すもので、複数の酸洗槽2と酸洗槽2の前後に配置される研削ユニット3よりなり、スケールブレーカとショットブラストによる工程を経た鋼板1は、ブラシ研削と酸洗を交互に繰返してデスケールされたのち、巻取機4に巻取られるようになっている。そして前記各研削ユニット3では、鋼板1のラインの上下にモータにより回転駆動されるブラシ9が配置され、各ブラシ9は一般に図2に示すようにシャフトを構成する鋼製リング5の外周に砥粒入りナイロン毛6を放射状に植毛したディスク7を積層したものよりなり、内部に通した冷却水を水冷孔8より噴出してブラシを内部冷却すると共に、外部のスプレーからブラシに冷却水を散布して外部冷却を行うようになっており、ナイロン毛に混入される砥粒としては炭化珪素SiCが用いられてきた。
【特許文献1】特開平8−188892号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ブラシ研削は、ブラシの損耗が避けられず、損耗すると、損耗したディスクを取外して新たなディスクと取換える巻き換えが行われるが、従来のブラシでは損耗が激しく、ブラシの寿命が短いことから、ブラシの巻き換えを頻繁に行う必要があった。そこでブラシ研削では、ブラシの寿命を延ばして、ランニングコストの低減を図ることが望まれていた。ブラシ研削ではまた、ランニングコストの低減のほか、デスケール性を改善するために研削力の向上、品質の向上などが望まれる。とくに難酸洗鋼種であるCr系ステンレス鋼においてそうである。
【0004】
本発明は、上述する技術的課題を解決することを目的としてなされたもので、そのためのデスケール用ブラシを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係わる発明は、砥粒入りナイロン毛よりなる、鋼板のデスケール用ブラシであって、前記砥粒は少なくとも一部、好ましくは全部がダイヤモンド砥粒であることを特徴とする。
請求項2に係わる発明は、請求項1に係わる発明において、ダイヤモンド砥粒の含有量が10〜15重量%であることを特徴とする。
【0006】
請求項3に係わる発明は、請求項1又は2に係わる発明において、ブラシが鋼製リングの外周にダイヤモンド砥粒入りナイロン毛を放射状に植毛したディスクを積層したものよりなり、リング外周面積とナイロン毛の植毛面積の比であるブラシ密度が48%以上であることを特徴とする。ダイヤモンドブラシの作製に関し、ダイヤモンド砥粒は単価が高いことから、砥粒含有量を多くすることはコスト上好ましくない。しかしながらダイヤモンド砥粒の含有量を少なくすると、今度は毛折れが発生する不具合を生じた。この毛折れの問題はブラシ密度を48%以上とすることにより改善することができた。
【0007】
好ましい発明では、請求項3に係わる発明において、研削時の研削負荷を下げ、かつ内部冷却の水量を外部冷却の水量より多くして内部冷却の冷却効果を上げると共に、図2に示す水冷孔8の密度を高めて冷却の均一化が図られる。これにより毛折れをより少なくすることができる。
【発明の効果】
【0008】
ダイヤモンドはSiCよりヌープ硬度で約3倍の硬度を有していることから、研削力が向上し、また磨耗しにくくブラシの寿命を延ばすことができる。またダイヤモンド砥粒入りナイロン毛のブラシ密度を48%以上とすることにより毛折れを少なくすることができ、ブラシの寿命をより延ばすことができる。
【実施例】
【0009】
実施例1.
サンプルとして、スケールブレーカとショットブラストと硫酸浸漬酸洗処理した板厚3.0mm、長さ500mm、板幅100mmのCr系ステンレス鋼SUS430を用い、表1に示す毛材仕様のダイヤモンド砥粒入りブラシにより通板速度24.4m/min、ブラシの回転速度1200rpmに設定してブラシ研削を行った。結果を図3に示す。図中、押込み量は鋼板に押付けられるナイロン毛の鋼板への接触長さを示している。
【0010】
【表1】

【0011】
比較例1.
実施例1と同じサンプルを用い、表1に示す毛材仕様のSiC砥粒ブラシにより、実施例1と同じ条件でブラシ研削を行った。結果を図3に示す。図中、白抜きプロットは、ダイヤモンド砥粒入りブラシ、黒抜きプロットはSiC砥粒入りブラシの研削量を示す。
【0012】
図3に見られるように、ダイヤモンド砥粒入りブラシによる研削量は、ダイヤモンド砥粒の含有量がSiC砥粒の含有量に比べ少ない(3分の1)にもかかわらず、SiC砥粒入りブラシによる研削量に比べ、およそ2倍となり、研削量が格段に向上した。
なお、実施例1及び比較例1ともブラシ研削後、酸洗処理したが、表面状態に変わりはなかった。
【0013】
実施例2.
ラインの上下に配置される各ブラシを実施例1と同じブラシにしてブラシ外径での外周面積に対する植毛面積の割合であるブラシ密度を43%とし、シャフトに形成される水冷孔を図2に示すように周方向に等間隔で3個、シャフト軸方向に9個設け、水冷孔を通してブラシを内部から冷却する冷却水量と、スプレーよりブラシを外部から冷却する冷却水量の比を30%:70%とした。そして研削時におけるブラシを駆動するモータの負荷電流を70A(アンペア)とし、実施例1と同じ鋼種のCr系ステンレス鋼よりなるコイル(板幅1252mm)に対してブラシ研削を行った。その結果、以下の表2に示すように、研削性及び研削後の鋼板表面状態はSiC砥粒入りブラシに比べきわめて良好であり、耐摩耗性も良好であった。一方、30時間研削を行ってブラシを点検したところ、上下のブラシには毛折れを生じていた。
【0014】
実施例3.
図2に示す円周方向の水冷孔8を9個とし、内部冷却する冷却水の水量とスプレーよりブラシを外部から冷却する冷却水量の比を70%:30%とした以外は、実施例2と同じ条件で実施例2と同じコイルに対しブラシ研削を行った。その結果、以下の表2に示すように、実施例2と同じ結果が得られた。
【0015】
実施例4.
モータの負荷電流を40A(アンペア)に下げ、かつブラシ密度を48%とした以外は、実施例2と同じ条件で実施例2のコイルに対し、ブラシ研削を行った。その結果、以下の表2に示すように、研削性及び研削後の鋼板表面状態はSiC砥粒入りブラシに比べ良好であり、耐摩耗性も最も良好で、尚且つ上下のブラシにも毛折れを生じていなかった。
【0016】
比較例2.
ブラシとしてSiC砥粒の含有量を30重量%としたブラシを用い、実施例2と同じ鋼種のコイルに対し、圧下量を0.5mmとした以外は、実施例2と同じ条件でブラシ研削を行った。その結果、以下の表2に示すように、研削性、耐摩耗性及び研削後の鋼板表面状態は前記実施例に比べ悪かった。なお、上下のブラシには毛折れを生じていなかった。
結果を以下の表2に示す。
【0017】
比較例3.
比較例2のブラシを用い、そのほかは実施例3と同じ条件でブラシ研削を行った。結果を以下の表2に示す。
【0018】
比較例4.
ブラシ密度を48%とした以外は、比較例2と同じブラシを用い、そのほかは実施例4と同じ条件でブラシ研削を行った。その結果、以下の表2に示すように、耐摩耗性はやや良好であったが、研削性及び研削後の鋼板表面状態は前記実施例に比べ悪かった。なお、ブラシの毛折れは生じなかった。
【0019】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】デスケール工程の一部を示す図。
【図2】ブラシを構成するディスクの側面図。
【図3】実施例1と比較例1の研削量を示す図。
【符号の説明】
【0021】
1・・熱延鋼板
2・・酸洗槽
3・・研削ユニット
4・・巻取機
5・・鋼製リング
6・・砥粒入りナイロン毛
7・・ディスク
8・・水冷孔
9・・ブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒入りナイロン毛よりなる、鋼板のデスケール用ブラシであって、前記砥粒は少なくとも一部がダイヤモンド砥粒であることを特徴とするデスケール用ブラシ。
【請求項2】
ダイヤモンド砥粒の含有量は、10〜15重量%であることを特徴とする請求項1記載のデスケール用ブラシ。
【請求項3】
ブラシが鋼製リングの外周にダイヤモンド砥粒入りナイロン毛を放射状に植毛したディスクを積層したものよりなり、ブラシ外径での外周面積とナイロン毛の植毛面積の比であるブラシ密度が48%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のデスケール用ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−285694(P2008−285694A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129049(P2007−129049)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(506214459)永塚工業株式会社 (2)
【出願人】(507159119)株式会社マサン (1)
【Fターム(参考)】