説明

データ伝送システム及び方法

【課題】 パケット廃棄の無い高品質なデータ伝送、及び、最適なバースト性制御を実現する。
【解決手段】 本発明は、送信装置が許容データ量以下で構成される複数のパケットをデータバーストとして送信し、受信装置が、パケット廃棄を検出した場合はパケット廃棄通知を、データバースト間隔とデータバースト送信間隔の比が一定以下となった回数が一定回数以上連続した場合はレート超過通知を、送信装置に送信する。送信装置が、パケット廃棄通知を受信し、廃棄がデータバースト終端部分で高確率に発生している場合には、許容データ量を低減し、許容データ量が低減された時、データバースト送信周期が一定以上ある場合には、データバーストの送信周期を許容データ量の低減割合と比例するように低減する。レート超過通知を受信した場合、または、バッファ内のデータ量が一定以上に達した場合には、当該送信装置へのデータ入力レートを低減するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ伝送システム及び方法に係り、帯域制限やバースト性に関する制限があるネットワークにおいて、データを伝送する場合に用いられ、特に、送受信装置においてネットワークの特性が未知であり、それらを推定することにより、データ損失を発生させず、ネットワーク帯域を効率的に伝送する必要のある場合に用いられるデータ伝送システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
データ配信ネットワークは、複数のユーザによりネットワーク帯域を共有して伝送を行う。このため、配信ネットワークの余剰帯域にあわせて伝送レートを制御することが必要である。
【0003】
レート制御機能を有するプロトコルの代表的なものとしてTCP(Transmission Control Protocol)が挙げられる。TCPでは、パケット廃棄によりネットワークの余剰帯域があるかどうか推定し、廃棄が発生した場合には、ウィンドウ制御により伝送レートを低減する。TCPは、データ転送では広く用いられているが、以下のような問題点がある。
【0004】
第一に、TCPのレート制御がパケット廃棄を指標として制御をかけていることである。ネットワーク内で、パケット廃棄を許容しないトラヒック、例えば、マルチメディアデータのストリーム伝送等が存在する場合、TCPによって発生するパケット廃棄が他のトラヒックの品質に対して悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
第二に、TCPは、余剰帯域をすべて使い切ろうと動作する上、レート制御時にウィンドウサイズを大きく低減させるため、伝送レートが一気に低下することである。このため、一定のレートで伝送を行うことを前提としているマルチメディアデータのストリーム伝送などにはTCPは適していない。
【0006】
第三に、TCPは、出力のバースト性に着目した制御を行わないため、QOSの制限のある配信ネットワークに適用した場合、パケット廃棄が発生し、ネットワークを有効に利用した伝送が行えないことである。さらに、TCPはユニキャストプロトコルであり、マルチキャスト配信では用いることは出来ない。
【0007】
上記のような問題点を考慮し、マルチメディアのストリーミングでは、種々のレート制御の方法が用いられる。1つの方法は、ネットワークの余剰帯域を推定することにより、データ伝送のレートを制御する方法である。
【0008】
データの余剰帯域を推定する方法は多数考案されているが、決まったパターンを有するパケット(プローブパケット)をネットワークに送信し、受信側でプローブパケットの受信間隔や遅延を測定することで、帯域測定を行う方法が一般的である(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
例えば、Pathloadと呼ばれる帯域推定方法では、一定間隔の複数のパケットから構成されるパケット列をネットワークに入力し、受信されたパケットの間隔が開いたかどうかにより利用可能帯域の推定を行う(例えば、非特許文献2参照)。この方法はロバストであるが、間隔を一定としたパケット列を送信する必要があること、2分検索によりレート推定を行うため、測定のために多量のプローブパケットを送信する必要があり、ネットワークに与える負荷が大きいという問題がある。一方、2つの連続したパケットで構成されるパケットペアを送信し、その間隔の変化を測定する方法は、オーバーヘッドは、少ないが、パケットの受信間隔を精密に測定する必要があり、データ伝送帯域が高くなった場合には、必ずしも高い精度の帯域推定が得られない。
【0010】
また、ストリーミング通信のレートを決定するという観点より、余剰帯域の推定方法を比較する技術がある(例えば、非特許文献3参照)。この余剰帯域推定方法は、プローブパケットを用いて測定を行う方法であり、データの伝送中にレートを制御することは必ずしも考慮されていない。余剰帯域を推定しながらレート制御を行う方法として、2つのパケットの間隔により受信側において転送帯域を推定し、これに基づいて送信レートの制御を行う方法が提案されている(例えば、非特許文献4参照)。この方法は、パケット間隔に基づいてレート推定を行うため、パケット間隔が精密に測定される必要があり、当該非特許文献4においても数百kbpsの低いレートにおいてしか評価が行われていない。パケット間隔による評価は、前記のように、ビットレートが高くなると不正確になる可能性がある。
【0011】
マルチメディア配信において用いられるRTP(Real-time Transport Protocol)では、制御プロトコルであるRTCP(Real-time Transport Control Protocol)において、受信したパケットの遅延、廃棄率、ジッタといった情報を送信元にフィードバックする手段が用意されており(例えば、非特許文献5参照)、TCPと整合性のあるレート制御手段が規格化されている(例えば、非特許文献6参照)。しかし、標準化されているレート制御手法は、パケット廃棄によりレートを制御するものであり、前記の余剰帯域推定技術のように、パケット廃棄を発生させずにレートを制御するものではない。
【0012】
ネットワークにおけるパケット廃棄を無くす、もう1つの方法は、ネットワーク内で、パケット廃棄や過度の遅延が発生しないようにQOSを保証することである。QOSでは、帯域予約を行う事が必要となる。動的に帯域予約を行うプロトコルとしては、例えばRSVP(Resource reSerVation Protocol)(例えば、非特許文献7参照)等があるが、一般的に使われるようにはなっていない。また、QOSを保証したネットワークでは、入力トラヒックに対して、最大伝送レートの他、連続して入力可能なデータの量、すなわちバースト性を指標とし、指定以上のレートやバースト性を持つトラヒックがネットワーク内に流入することを阻止することで、他のトラヒックに対する影響が発生することを阻止する。したがってQOSが設定された配信ネットワークにおいて、ポリシングによる帯域制限を考慮せずに通信を行った場合、配信ネットワークにおいて、このようなポリシングが行われる場合には、平均レートがネットワークが許容する最大レート以下であっても、データが廃棄されてしまうという問題が発生する可能性がある。ところが、配信網におけるバースト性の制限条件は、送信装置に知られていない場合が多く、また、ソフトウェア制御によりデータ伝送を行うシステムでは、バースト性を一定以下に保つようにパケット間隔を調節することは、システムに大きな負荷を与える可能性がある。
【0013】
上記のレート制御技術は、いずれも、余剰帯域に着目したレート制御手法であり、配信ネットワークにおける許容バースト性といったものに着目した制御とはなっておらず、パケット間隔を制御するための処理オーバーヘッドを考慮した制御にもなっていない。
【0014】
レート制御するこのシステムでは、パケット送出の間隔を1パケットごとに精密に制御しようとすると、処理のためのオーバーヘッドが大きくなるという問題がある。このため、ネットワークが許容するバースト性の範囲内で、出来るだけ大きな粒度でパケット送出を管理することが必要である。
【0015】
以上のように、特にマルチメディアのストリーム伝送などのアプリケーションを想定した場合、データ伝送帯域やバースト性に制約のある配信ネットワークにおいて、安定かつ効率的なデータ伝送を行う手段は確立していない。さらに、マルチメディア配信において多く用いられるマルチキャスト配信においては、配信先毎にネットワークの制約条件が異なるため、ボトルネックを考慮してデータ伝送のパラメータ設定を行うことも必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】R. S. Prasad, "Bandwidth estimation: metrics, measurement techniques, and tools" IEEE Network 2003.
【非特許文献2】Alok Shriram1, Margaret Murray2, Young Hyun1, Nevil Brownlee1, Andre Broido1, Marina Fomenkov1,"Comparison of Public End-to-End BandwidthEstimation Tools on High-Speed Links" In Proceedings of PAM 2005.
【非特許文献3】"End-to-End 可用帯域推定方式の性能評価とストリーミンク通信への適用に関する検討" 加藤 肇、行松 健一、橋本 仁、平成 17 年度 情報処理学会東北支部研究会 講演番号 8.
【非特許文献4】Nadeem Aboobaker, David Chanady, Mario Gerla, M. Y. Sanadidi, "Streaming Media Congestion Control using Bandwidth Estimation1" Proceedings of the 5th IFIP/IEEE International Conference on Management of Multimedia Networks and Services: Management of Multimedia on the Internet 2002.
【非特許文献5】"RTP: A Transport Protocol for Real-Time Applications" RFC1889
【非特許文献6】"TCP Friendly Rate Control (TFRC):Potocol Specification" RFC3448
【非特許文献7】"Resource ReSerVation Protocol (RSVP)" RFC2205
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のように、配信ネットワークの余剰帯域に応じて伝送レートを制御及び配信を行う方法として、TCPプロトコルは、輻輳時に伝送レートを急激に下げるフロー制御を行い、送信パケットのバースト性に着目した制御を行わないため、マルチメディアデータには適さないという問題がある。
【0018】
また、余剰帯域を推定しながらレート制御を行う方法である非特許文献4の技術は、2つのパケット間隔を測定し、転送帯域を推定した上で送信レートを制御するが、パケット間隔が精密に測定される必要があり、高ビットレートで効果が得られるか疑問がある。
【0019】
また、非特許文献6の技術は、RTCPを用いた制御方法であるが、パケット廃棄により制御を行うものであって、パケット廃棄を発生させずにレートを制御するのではない。
【0020】
一方、QOS保証されたネットワークにおいても、ネットワークの許容バースト性を超える入力トラヒックに対しては、たとえ、平均的に保証レート内であったとしてもパケット廃棄が生じてしまうという問題がある。
【0021】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、配信ネットワークの余剰帯域を考慮することによりパケット廃棄の無い高品質なデータ伝送を実現するとともに、配信網の許容バースト性と、送出パケットの時間精度を考慮することにより、最適なバースト性制御を実現することが可能なデータ伝送システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するために、請求項1(請求項5)に係る発明によれば、本発明のデータ伝送システムにおいて、送信装置に、データ送信手段、レート監視手段、レート制御手段が、受信装置に、データ受信手段、レート超過検出手段が設けられ、一度に送信されるデータ量と最大伝送レートを制限するため、前記データ送信手段には、入力パケットをバッファリングし、一定の送信間隔ごとに、バッファリングされたパケットの中から許容データ量以下で構成される複数のパケットを取り出し、それらをデータバーストとして連続的に送信するように制御を行うデータ送信手段が設けられる。さらに、データ送信手段には、データバーストの先頭位置と送信間隔を受信装置に通知する機能が設けられる。データ送信手段を用いることにより、本データ伝送システムは、配信ネットワークの帯域及びバースト性の制限範囲内でデータを伝送するように制御することが可能である。さらに、データ送信手段は、複数のパケットをまとめて送出することが出来るため、送信装置をソフトウェア実装した場合など、パケット送出時間の制御が一定の粒度以下では行えない場合にも適用することが可能である。
【0023】
また、パケット廃棄及び配信ネットワークの利用可能帯域を評価するため、受信装置のデータ受信手段には、入力パケットからデータバーストの先頭位置を検出する機能と、データバースト内のパケット廃棄、及び、データバースト間の間隔を観測する機能が設けられる。レート超過検出手段にはパケット廃棄が検出された場合にはパケット廃棄通知を行う機能が設けられ、さらに、データバースト間隔とデータバースト送信周期の比が一定以下となったことと検出し、その状態が一定回数以上連続した場合には、レート超過を通知する機能が設けられる。送信側から送信されたデータバーストは、配信ネットワーク内で受ける帯域制限により、パケット間隔が広がって受信されるが、本発明の受信装置では、データバーストの最後のパケットから次のデータバーストの先頭までの間隔、すなわちデータバースト間隔とデータバースト送信周期の比率を評価することにより、配信ネットワークの伝送帯域にどのくらい余裕があるかを推定する。
【0024】
また、送信装置のレート監視手段は、前記パケット廃棄通知に対して、データバースト内でのパケット廃棄位置の累積分布を評価するとともに、パケット廃棄がデータバースト終端部分で高確率に発生している場合には、許容データ量を低減するように制御する。この機能により、本発明のデータ伝送システムでは、ネットワークのバースト性に関する制限値を検出することができる。さらに、データバースト送信周期が一定以上である場合には、送信周期を許容データ量の低減割合と比例して低減させる。この機能により、最大伝送レートを一定に保ちながらバースト性を一定以下に抑えることが可能となる。さらに、レート監視手段では、データバースト送信周期が一定以上であるように制御を行うことで、データの送出処理に要する時間精度が限られる場合に対応することができる。
【0025】
また、請求項2(請求項6)に係る発明によれば、本発明の送信装置は、一定個数のデータバーストを送信した際に、レート超過通知を受けなかった場合に、レート制御手段によりデータ転送レートを一定割合で増加させるように制御を行うことができる。
【0026】
また、請求項3(請求項7)に係る発明によれば、本発明のデータ伝送システムは、複数の受信装置に対してデータを送信する場合、いずれかの配信先(受信装置)よりレート超過通知、及び、パケット廃棄通知を受信することにより、前記レート監視手段、及び、レート制御手段を実行する。
【0027】
また、請求項4(請求項8)に係る発明によれば、データバーストを配信ネットワーク内で転送する場合、一般的には、データバースト自体の負荷により、データバーストの終端部分に行くほど廃棄が発生する確率が高くなる。本発明の送信装置では、パケット並び替え手段により、重要度の高いデータをデータバーストの先頭部分に配置することで、パケット廃棄の影響を低減することが可能である。パケットの順序は、パケットにシーケンス番号を付加しておくことで元に戻すことが可能である。
【発明の効果】
【0028】
上述のように、請求項1,5に係る発明によれば、送信手段の入力パケットバッファ内のパケット量が増加した場合には、レート制御手段によりデータ入力レートが低減される。このため、装置に入力されるデータのレートは最大レート以下に制限することが出来る。さらに、受信装置よりレート超過通知を受信した場合、送信装置は、レート制御手段により、当該送信装置へのデータ入力レートを低減させる。この機能により、伝送データ帯域が配信ネットワークの許容データ帯域に近づいた場合には、レートを落とすように制御を行うことができる。
【0029】
また、請求項2,6に係る発明によれば、配信網の輻輳が回復し、余剰帯域が増加した場合には、データ伝送レートを復元することが可能である。本発明のデータ伝送システムでは、受信装置におけるデータバースト間隔と送信周期の比が一定以下になるように制御するため、一定の余剰帯域を確保するようにレートが調節される。
【0030】
また、請求項3,7に係る発明によれば、伝送帯域や許容バースト性に関してボトルネックとなっている配信先に合わせてバースト性及び伝送レートを制御することが可能である。さらにレート超過通知、パケット廃棄通知の送信元を判定することで、配信ネットワーウ内で、ボトルネックとなっている受信装置を特定することが出来る。
【0031】
また、請求項4,8に係る発明によれば、データ送信手段にパケット並び替え手段を設けることでデータバーストの先頭部分に重要度の高いデータが来るように、パケットを並び替えて出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるデータ伝送システムの構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態におけるデータ送信部の構成例である。
【図3】本発明の第1の実施の形態におけるデータバーストの構成の概念図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における配信ネットワークでのデータバーストの概念図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における受信装置で受信されたデータバーストを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態におけるバースト性の制限によるパケット廃棄の例である。
【図7】本発明の第1の実施の形態におけるパケット廃棄に対する処理のフローチャートである。
【図8】本発明の第1の実施の形態におけるデータ入力レートの制御例である。
【図9】本発明の第3の実施の形態における複数の受信装置がある場合のシステム構成図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態におけるパケット並び替え部を有する送信部の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下図面と共に、本発明の実施の形態を説明する。
【0034】
図1は、本発明の一実施の形態におけるデータ伝送システムの構成を示す。
【0035】
同図に示すデータ伝送システムは、送信装置100、受信装置200、及び、配信ネットワーク300によって構成される。送信装置100は、データ送信部110、レート監視部120、レート制御部130を有し、受信装置200は、データ受信部210、レート超過検出部220を有する。
【0036】
図2は、本発明の一実施の形態におけるデータ送信部の構成を示す。
【0037】
送信装置100のデータ送信部110は、入力バッファ111とパケット出力部112を有する。
【0038】
データ送信部110は、まず、入力パケットを入力バッファ111にバッファリングし、パケット出力部112が、そこから、一定周期ごとに複数のパケットを取り出し、図3に示すようなデータバーストとして連続的に配信ネットワークに送出する。
【0039】
図3は、本発明の一実施の形態におけるデータバーストの概念図である。データバースト内のパケット数は、データバーストのデータ量が、許容データ量以下となるように制御され、また、データバーストの間隔は、データバースト送出周期によって一定に制御される。データ送信部110によって出力されるデータの最大レートは、データバーストの許容データ量/送出周期となる。このように、データ送信部110では、送信データの最大レートとバースト性が一定以下となるように制御を行う。最大出力レート以上でパケットを受信すると、入力バッファ111にパケットが蓄積されるが、一定量以上のパケットが蓄積された場合には、レート制御部120を介して入力データレートを低減するように制御が行われる。
【0040】
データ送信部110には、このほか、データバーストの先頭位置と、送信周期を受信装置200に通知する機能が設けられる。データバーストの先頭位置は、パケットヘッダにマーカフラグを設ける方法、マーカーパケットをデータバーストの前あるいは後に送信する方法、あるいは、パケットにシーケンス番号を添付し、データバーストの先頭パケットのシーケンス番号を受信装置に通知する方法により実現することが出来る。
【0041】
図4は、本発明の一実施の形態における配信ネットワーク内でのデータバーストの概念図であり、配信ネットワーク内でデータバーストが転送される際の振る舞いを示している。配信ネットワーク300内のノードにおいて、データバーストの伝送レートより出力リンクの伝送帯域が低い場合、パケットの出力に入力より長い時間が必要となるため、パケットはバッファリングされ、(b)に示すように入力間隔よりも広いパケット間隔でデータバーストが出力される。一方、データバーストの伝送レートが出力帯域より低い場合、パケットの転送時間は短くなるが、一旦、広がったパケット間隔は元には戻らないため、(c)に示すように、データバーストは、広がったパケット間隔を保存して伝送される。他のトラヒックとの干渉がある場合、他のトラヒックのパケットが対象とするパケットの前後に挿入されることにより、(d)に示すように、パケット間隔はランダム化された状態となる。しかし、ネットワークの余剰帯域に応じて、パケット間隔が開くという性質は残る。
【0042】
図5は、本発明の一実施の形態における受信装置で受信されたデータバーストを示す。
ここで、データバーストが受信装置200に到着した時、次のデータバーストと連続した状態になっていた場合は、データバースト内のパケットがバースト周期の時間内に送りきれなくなった状態、つまり、データの伝送レートが、配信網内の伝送レートを超えている状態と考えることが出来る。本発明のデータ伝送システムでは、この点に着目し、データバースト間隙とデータバースト送信周期の比率を算出し、その値が閾値以下となる状態が一定回数連続した場合には、レート超過検出部220により送信装置100にレート超過を通知する。送信装置100のレート監視部120は、受信装置200よりレート超過通知を受けると、送信装置100に対する入力データレートを低減するようにレート制御部130を制御する。このように、本発明のデータ伝送システムでは、データ伝送レートが配信網の許容伝送レートに近づいていることをパケット廃棄が発生する前に検出し、フィードバックを行う。
【0043】
図6は、本発明の一実施の形態におけるバースト性の制限によるパケット廃棄の例を示す。データバーストの許容データ量が、配信ネットワーク300のポリシングまたはバッファ量によって許容されるバースト性を超えている場合、図6に示すように、配信ネットワーク300内でパケット廃棄が発生する。このようにして発生するパケット廃棄は、データバーストのデータサイズが一定以上となった場合に、データバーストの終端部分で定常的に発生するが、受信装置200では、データバースト内のデータ位置に対するパケット廃棄の累積分布を観測することにより、データバーストの終端部に連続かつ高確率でパケット廃棄が発生する場合には、送信装置100にパケット破棄通知を送信する。当該パケット破棄通知を受信した送信装置100のレート監視部120は、データバーストの許容データ量を削減するように制御を行う。
【0044】
ここで、ネットワークの伝送帯域は、バースト性に関する制約とは独立しているため、本発明の送信装置100では、データバーストの許容データ量を低減された場合には、データバーストの出力周期を同じ割合で低減することにより、最大出力レートが保持されるように制御する。また、パケット出力間隔の制御に関して時間粒度の制限が存在する場合には、送出時間間隔は、最小周期以下とならないように制御される。ソフトウェア実装によって実装されるデータ伝送システムでは、最小周期は、割り込みや、プロセスのスケジュール時間精度により制約される。出力周期が制限値となった場合には、許容データ量に比例して最大出力レートは低減される。これは、送信装置100の性能の限界を反映している。
【0045】
図7は、本発明の一実施の形態におけるパケット廃棄に対する処理のフローチャートであり、送信装置100における、受信装置200から受信したパケット廃棄通知に対する処理を示している。
【0046】
レート監視部120は、受信装置200からパケット廃棄通知を受信すると(ステップ101)、パケット廃棄のデータバースト内での位置に対する発生頻度を測定し、廃棄がデータバースト終端部分で高確率に発生している場合には(ステップ102、Yes)、データバーストの許容データ量を低減するように制御するようにレート制御部130を制御する(ステップ103)。さらに、許容データ量が低減された時、データバースト送信周期が一定以上ある場合には(ステップ104、Yes)、データバーストの送信周期を許容データ量の低減割合と比例するように低減する(ステップ105)。これにより出力周期を短くして小刻みにデータを出力することにより、一度に出力するデータ量を低減することができる。バースト出力周期限界未満の場合は(ステップ104、No)、許容データ量に比例して最大出力レートを低減する(ステップ106)。
【0047】
次に、送信装置100のレート制御部120について説明する。
【0048】
図8は、本発明の一実施の形態におけるデータ入力レートの制御例であり、送信装置100のレート制御部130による入力レートの制御例を示している。まず、データ送信部110において入力バッファ111内のデータ量が一定以上となった場合には、レートを低減するように制御を行う。この機能により、送信装置100へのデータ入力レートが、配信ネットワーク300で許容される最大伝送レートを超えないように制御を行うことができる。さらに、レート監視部120は、受信装置200よりレート超過通知を受けた場合に、レートを低減するように送信装置100への入力レートの制限を行うようレート制御部130を制御する。この機能により、データ伝送レートが配信ネットワーク300の許容データ帯域に近づいたときには、データ伝送レートを低減するように制御を行うことができる。
【0049】
[第2の実施の形態]
本実施の形態では、送信装置100が受信装置200からレート超過通知を受信しない場合について説明する。
【0050】
本発明の送信装置100のレート制御部130は、受信装置200からレート超過通知を受けない場合には、データレートを微増するように制御を行う。これにより、配信ネットワーク300の余剰帯域が増加した場合には、伝送レートを一定の割合で増加させる。この機能により、配信ネットワーク300の輻輳が回復し、余剰帯域が増加した場合には、データ伝送レートを復元することが可能である。さらに、配信ネットワーク300の利用可能帯域を有効に利用した伝送を行うこともできる。本データ伝送システムでは、受信装置200において、データバースト間隔とデータバースト送信周期の比率が一定以下とならないように制御が行われるため、配信ネットワーク300の余剰帯域を一定量確保するように伝送レートを調節する。TCP等の伝送プロトコルでも、データ伝送レートを増加させていくことにより許容伝送帯域を探索する手法が用いられるが、本発明のデータ伝送システムでは、パケット廃棄に基づく制御ではないこと、レートを低減させる際に、ウィンドウサイズを半減するといった極端な制御を行わないことが異なる。
【0051】
[第3の実施の形態]
本実施の形態では、1つの送信装置に対して複数の受信装置がある場合について説明する。
【0052】
図9は、本発明の第3の実施の形態における複数の受信装置がある場合のデータ伝送システムの構成を示している。複数の受信装置200〜200がある場合、データはマルチキャストにより効率的に伝送することが可能である。一方。受信装置200〜200から通知されるパケット廃棄通知、レート超過通知は、受信装置毎に個別に通知が行われるため、送信装置100は、許容バースト性が最も小さな受信装置、利用可能なデータ伝送帯域が最も小さな受信装置にあわせてパラメータを制御することが可能である。さらに、送信装置100は、受信装置からの通知に含まれる送信元アドレスや、送信元識別子により、どの受信装置から通知を受けたかを知ることが出来るため、配信ネットワーク内でボトルネックとなっている受信装置を特定することができる。
【0053】
[第4の実施の形態]
本実施の形態では、パケットのデータ順序の再配置を行う例を説明する。
【0054】
図10は、本発明の第4の実施の形態におけるパケット並び替え機能を有するデータ送信部の構成を示す。同図に示す送信装置100のデータ送信部110は、図2のデータ送信部110の機能にパケット並び替え部113を付加した構成である。
【0055】
前述の図6に示すように、データバーストを伝送する際、データバーストの終端になるほどネットワークに対しては負荷がかかるため、パケット廃棄はデータバーストの終端部分で発生する確率が高くなる。この点を考慮し、パケット並び替え部113では、データバーストの先頭に近い部分に、重要度の高いデータを配置することでデータ廃棄の影響を低減することが可能である。パケットにシーケンス番号を添付しておくことにより、データ送信部110において並べ替えたパケット順序は、データ受信部210で元に復元することが可能である。
【0056】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々変更・応用が可能である。
【符号の説明】
【0057】
100 送信装置
110 データ送信部
111 入力バッファ
112 パケット出力部
113 パケット並び替え部
120 レート監視部
130 レート制御部
200 受信装置
210 データ受信部
220 レート超過検出部
300 配信ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置、1つまたは複数の受信装置、及び、配信ネットワークによって構成されるデータ伝送システムであって、
前記データ送信手段は、
入力パケットをバッファリングし、送信間隔毎に、バッファリングされたパケットの中から許容データ量以下で構成される複数のパケットを取り出し、それらをデータバーストとして連続的に前記配信ネットワークに送信すると共に、データバースト送信間隔、及び、先頭パケット位置を前記受信装置に通知するデータ送信手段と、
前記受信装置からレート超過通知を受信した場合、または、前記データ送信手段のバッファ内のデータ量が一定以上に達した場合には、当該送信装置へのデータ入力レートを低減するように制御を行うレート制御手段と、
前記レート監視手段は、前記受信装置からパケット廃棄通知を受信した時、パケット廃棄のデータバースト内での位置に対する発生頻度を測定し、廃棄がデータバースト終端部分で高確率に発生している場合には、前記データバーストの許容データ量を低減するように制御するように前記レート制御手段を制御し、さらに、許容データ量が低減された時、データバースト送信周期が一定以上ある場合には、データバーストの送信周期を許容データ量の低減割合と比例するように低減するレート監視手段と、
を有し、
前記受信装置は、入力パケットからデータバーストの先頭位置を検出するとともに、該データバースト内のパケット廃棄、及び、該データバーストの最終パケットから次のデータバーストの開始までの間隔を検出するデータ受信手段と、
パケット廃棄が検出された場合に、パケット廃棄通知を前記受信手段の前記レート監視手段に送信する機能と、前記データバースト間隔と前記データバースト送信間隔の比が一定以下となったことを検出する機能、及び、それが一定回数以上連続した場合に、レート超過通知を該レート監視手段に送信する機能を含むレート超過検出手段と、
を有することを特徴とするデータ伝送システム。
【請求項2】
前記送信装置の前記レート制御手段は、
一定個数のデータバーストを送信した際に、レート超過通知を受けなかった場合には、当該送信装置への入力データレートを一定割合で増加させるように制御するレート調節手段を含む
請求項1に記載のデータ伝送システム。
【請求項3】
前記送信装置は、
複数の受信装置に対してデータを送信する際に、レート超過通知、及び、パケット廃棄通知が、いずれかの受信装置より通知された場合には、前記レート監視手段及び前記レート調節手段を実行すると同時に、通知元を判定することにより、レート超過及びパケット廃棄の発生した受信装置を特定する手段を含む
請求項1に記載のデータ伝送システム。
【請求項4】
データ送信手段は、
前記データバースト内で重要度の高いパケットを、データバースト先頭になるようにパケットの送出順序を並び替えるパケット並び替え手段を有し、
前記データ受信手段は、
前記データ送信手段から受信したパケットの順序を元に戻す手段を有する
請求項1に記載のデータ伝送システム。
【請求項5】
配信ネットワークの余剰帯域に応じて伝送レートを制御及び配信するデータ伝送方法であって、
送信装置、1つまたは複数の受信装置、及び、前記配信ネットワークによって構成されるデータ伝送システムにおいて、
前記送信装置は、データ送信手段、レート監視手段、レート制御手段を有し、
前記受信装置は、データ受信手段、レート超過検出手段を有し、
前記送信装置の前記データ送信手段が、入力パケットをバッファリングし、送信間隔毎に、バッファリングされたパケットの中から許容データ量以下で構成される複数のパケットを取り出し、それらをデータバーストとして連続的に前記配信ネットワークに送信すると共に、データバースト送信間隔、及び、先頭パケット位置を前記受信装置に通知し、
前記受信装置の前記データ受信手段が、入力パケットから前記データバーストの先頭位置を検出するとともに、該データバースト内のパケット廃棄、及び、該データバーストの最終パケットから次のデータバーストの開始までの間隔を検出するデータ送信ステップと、
前記レート超過検出手段が、パケット廃棄が検出された場合に、パケット廃棄通知を前記レート監視手段に送信すると共に、前記データバースト間隔と前記データバースト送信間隔の比が一定以下となったことを検出し、それが一定回数以上連続した場合に、レート超過通知を前記送信装置に送信するレート超過検出ステップと、
前記送信装置の前記レート監視手段が、前記受信装置から前記パケット廃棄通知を受信すると、パケット廃棄のデータバースト内での位置に対する発生頻度を測定し、廃棄がデータバースト終端部分で高確率に発生している場合には、前記データバーストの許容データ量を低減するように前記レート制御手段を制御し、さらに、許容データ量が低減された時、データバースト送信周期が一定以上ある場合には、データバーストの送信周期を許容データ量の低減割合と比例するように低減するレート監視ステップと、
前記送信装置のレート制御手段が、前記受信装置からレート超過通知を受信した場合、または、前記データ送信手段のバッファ内のデータ量が一定以上に達した場合には、当該送信装置へのデータ入力レートを低減するように制御を行うレート制御ステップと、
を行うことを特徴とするデータ伝送方法。
【請求項6】
前記送信装置において、
前記レート制御手段が、一定個数のデータバーストを送信した際に、前記レート超過通知を受けなかった場合には、当該送信装置への入力データレートを一定割合で増加させるように制御する
請求項5記載のデータ伝送方法。
【請求項7】
前記送信装置において、
複数の受信装置に対してデータを送信する際に、レート超過通知、及び、パケット廃棄通知が、いずれかの受信装置より通知された場合には、前記レート監視ステップ及び前記レート調節ステップを実行すると同時に、通知元を判定することにより、レート超過及びパケット廃棄の発生した受信装置を特定する
請求項5に記載のデータ伝送方法。
【請求項8】
前記データ送信装置において、
データ送信手段が、前記データバースト内で重要度の高いパケットを、データバースト先頭になるようにパケットの送出順序を並び替え、
前記データ受信装置において、
前記データ送信手段から受信したパケットの順序を元に戻す
請求項5に記載のデータ伝送方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−5087(P2012−5087A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141087(P2010−141087)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】