説明

トリグリセリドの酵素性加水分解を予防するためのクエン酸トリエチルをベースとする組成物

本発明は、トリグリセリドの酵素性加水分解を予防するために局所使用するための組成物に関するものであり、有効成分としてクエン酸トリエチルを純粋な形態または相乗作用薬とともに含む。クエン酸トリエチルは、0.1〜99.9重量%、好ましくは0.2〜50重量%の割合で表される量、より好ましくは1.0〜25.0重量%の割合で表される量である。請求項は、座瘡および脂漏性皮膚炎の治療、食品におけるトリグリセリドの保護、化粧分野における美容上の皮膚治療のためにクエン酸トリエチルを使用することも示している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリグリセリドの酵素性加水分解を予防するために食品、化粧品、または医薬品において使用される新規組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トリグリセリドまたはトリアシルグリセロールは、グリセロールの3個のヒドロキシル基に同一高度の3個のエステル化脂肪酸を含む。トリグリセリドは疎水性かつ無極性分子である。
【0003】
トリグリセリドは、植物由来および動物由来の単純かつ複合的な有機体において重要なエネルギー貯蔵庫を形成する。
【0004】
トリグリセリドは多くの食品、拘束するためではなく、示唆するために挙げると、オリーブ、ヒマワリ、ピーナッツオイル等の植物油脂やバター等の動物油脂に存在する。
【0005】
皮膚レベル、特に詳細には座瘡、脂漏性皮膚炎、およびその他の症状等の病的状態に対してトリグリセリドが果たす特定の機能的役割において、分子を加水分解し、脂肪酸およびグリセロールを放出し得る特定の酵素(エステラーゼ群、具体的にはリパーゼクラスに属する)の作用によりトリグリセリドの完全性が変化する。
【0006】
従来技術によれば、トリグリセリドと結合するときに、エステラーゼ群、具体的にはリパーゼ群(細菌、植物、および動物由来によらず)の一部である酵素に対し、トリグリセリドの優先基質として振舞うことのできる化学的手段は存在しない。
【0007】
ここで、発明者による特定の研究および実験実施後、本明細書にて検討する有効成分クエン酸トリエチルが、酵素学的に得られるトリグリセリドの加水分解を阻害するにあたって特定の活性を発揮することが明らかになった。
【0008】
ブタリパーゼ存在下のトリグリセリド溶解の阻害について、遊離脂肪酸の比色分析により評価した。
【0009】
試験は、2つの異なる相からなり、1つはブタリパーゼ存在下でトリグリセリドがオリーブ油から離れて溶解され得る酵素反応試験、もう1つは遊離脂肪酸の形成を確認する比色法である。
【0010】
基質(オリーブ油)存在下かつ適切な培養条件下で、ブタリパーゼは以下の反応を触媒する。
【0011】
トリグリセリド+H2O→ジグリセリド+脂肪酸
【0012】
脂肪酸の適用により、酵素活性およびトリグリセリドの溶解を間接的に評価できる。
【0013】
分析対象となる物質の阻害活性を排除するため、被験物質を3種類の濃度(水中5%、1%、0.5%)で2回(15および30分間)試験を行った。
【0014】
完全に溶解させるため、5%濃度のものを室温で72時間放置した。
【0015】
2000 U/mlの濃度のときに、使用直前にブタリパーゼを4°Cの脱イオン水に溶解した。トリグリセリドの供給源として、オリーブ油を使用した。反応に使用したバッファーはTris HCl 200 mM(37°CでpH=7.7)である。試験は、異なる濃度で試験物質の存在下および不在下で実施した。
【0016】
脱イオン水(150 μL)、バッファー(100 μL)、およびオリーブ油(300 μL)などの試薬を37°Cでインキュベートした。
【0017】
試料(TEC5%、1%、および0.5%)の場合、水を試験対象の溶液150 μLで置換した。
【0018】
次に酵素溶液(200 μL)を添加したところ、37°Cの温度で30分間および15分間反応が生じた。15分間および30分間の最後に、95%エタノール300 μLの添加により反応が阻害された。
【0019】
形成された遊離脂肪酸を含む溶液50 μLを、特殊なキットを用いて実施される比色法に使用する。この試験法では、必要とされる試薬を提供して下記の反応を生じさせる。
【0020】
アシル-CoA酵素合成(AcylCS)およびアデノシン‐5’‐三リン酸(ATP)の存在下で、遊離脂肪酸をアシル‐CoA、アデノシン‐5’‐一リン酸(AMP)、およびピロリン酸に変換する。アシル‐CoAは、2,3‐エノイル・コエンザイムAを形成するアシルCoAオキシダーゼ(ACOD)の存在下で酸素(O2)と反応する。結果生じるH2O2は、ペルオキシダーゼ(POD)存在下で2,4,6‐トリブロモ‐3‐ヒドロキシ‐安息香酸(TBHB)および4‐アミノアンチピリン(4‐AA)を赤に染色させる。
【0021】
試料は室温で波長546 nmに達し、反応はACOD添加の前後に室温で生じる。
【0022】
脂肪酸+CoA+ATP→acyl−CoA+AMP+二リン酸
【0023】
アシル‐CoA+O2→エノイル‐CoA+H2O2
【0024】
H2O2+4‐AA+TBHB→染色+2H2O+HBr
【0025】
吸光値から、以下の方法により、リパーゼにより生じる最大85%の酵素性加水分解からクエン酸トリエチルがいかにして保護し得るか分かる。

【発明の開示】
【0026】
この研究結果に基づき、本発明の主要な目的が、少なくとも食物、有機体、および一般的な意味においていかなる場合でも、トリグリセリドの構造を保護するのに役立つ新規の有効成分の使用を提案するものと考えられており、この有効成分は、結果としてクエン酸を放出するクエン酸トリエチルの酵素性加水分解からトリグリセリドの分子構造を保護するのに有用および/または必要であり、脂肪酸等の分子構造を酸化および結果生じる分子分解から保護し得る著明な抗酸化能を特徴とする。
【0027】
したがって、本発明の目的は、食物を保護するため、さらに化粧品と医薬品を調製するための有効成分を提供することであり、本成分は局所または全身経路(経口、筋肉内、静脈内等)を介して使用され、トリグリセリドの酵素性加水分解を遮断および/または阻害する。
【0028】
とりわけ本発明は、特に一部の皮膚病(脂漏、座瘡、脂漏性皮膚炎等)において、広義にはトリグリセリドの加水分解および脂肪酸の連続的放出によって臨床状態が悪化し、直接的にも間接的にも病気の原因病理に影響を及ぼし得るという事実を特徴とする疾患において有用であることが分かっている。
【0029】
本発明のさらなる目的は、抗酸化剤、抗生物質、ビタミン、レチノイド、有機酸、そして広義には後で相乗作用薬として分類される、クエン酸トリエチルとの併用が食物の分解の回避および/または特定の疾患および/または軽微な皮膚障害を制御するのに役立つ作用を有するような、様々な物質を使用する可能性を提供することである。
【0030】
本発明により、食品、化粧品、または医薬品において使用される有効成分としてクエン酸トリエチルを純粋な形態または相乗作用薬とともに含有する組成物によって、これらの目的が達成される。
【0031】
座瘡においてトリグリセリドの完全性を維持することの重要性は、徹底的とは言えないまでも、明記する。
【0032】
座瘡は青年男性の大多数に典型的にみられる疾患であり、特に初期段階における皮脂分泌増加(男性ホルモンの作用による)を特徴とするが、それのみではない。
【0033】
皮脂は、座瘡プロピオニバクテリウム(疾患進行時に放出されるリパーゼを増加させる雑菌)により放出される細菌性リパーゼの作用下で加水分解される、主にトリグリセリドから作られており、一方、脂肪酸は過剰な座瘡プロピオニバクテリウムを破壊することが想起される好中球により放出されるフリーラジカルおよび酸素活性種(SWR)の作用下で放出され、より小さな分子(ケトン、アルデヒド等)に分解され、独特の炎症活動および座瘡病変の連続出現に付随することを特徴とする。
【0034】
したがって、トリグリセリドの完全性が維持される可能性は、間接的ではあっても炎症過程の進捗、すなわち典型的な皮膚病変(丘疹、膿疱、嚢胞、結節等)のコントロールと密接に関連している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明において、上述の使用のため、クエン酸トリエチルを純粋な形態で適切な支持体または担体あるいはより優れたものとともに使用し、その他の化学成分(相乗作用薬、添加物、賦形剤等)を用いて、食品、化粧品、および医薬品用調製物の最終配合物のベースとして0.1〜99.9重量%、好ましくは0.2〜50重量%、より好ましくは1.0〜25重量%の量で調製し得る。
【0036】
―適切な相乗作用薬との関連性―
【0037】
本発明においては、クエン酸トリエチルの個々の使用がトリグリセリドに対し徹底的な特定の保護作用を示すことが明らかになっても、異なる成分を併用しない場合と比較して、適切な相乗作用薬との関連により得られる結果が強化され得る。
【0038】
結果として、クエン酸トリエチルにより表される有効成分は、有機または無機を問わず、例えばカルボン酸、ヒドロキシ酸、ビタミン、アミノ酸、バイオフラボノイド、オリゴエレメント、抗生物質、スルファ剤、殺菌剤、オレイン酸のジエチルエーテル、リノール酸、リノレン酸、他の組成物(例えばエリスロマイシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ゲンタマイシン、フシジン酸、エコナゾール、ケトエコナゾール、ムピロシン、安息香酸過酸化水素、セチルピリジニウム、銀、および相対塩等)を含むグループの一部である物質とともに使用し得る。
【0039】
相乗作用薬は、例えばトランスレチノイン酸、レチノール、レチナールアルデヒド、トコフェロール、アスコルビン酸、アゼライン酸、オクタデカネジオル酸、ビオチン、パラアミノ安息香酸、ルチン、β‐カロチン、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ピリドキサール、ナイアシン、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸、パンテノール、グルコサミン、酢酸グルコサミン、葉酸、レシチン、リン脂質(例えばホスファチジルコリン、セファリン、リン脂質酸、リソホォスファチジルコリン等)、ヒドロキノン、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸エチル、リノレン酸エチル、リネオール酸エチル、コウジ酸、アスコルビン酸グルコシド、エリスロマイシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ゲンタマイシン、フシジン酸、エコナゾール、ケトエコナゾール、ムピロシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、過酸化水素水、過酸化ベンゾイル、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、クロルヘキシジンと相対的な塩およびエステル、銀と相対的な塩、有機または無機を問わずヒドロキシ酸およびベータヒドロキシ酸、モノカルボン酸とジカルボン酸の両方、グリコール酸等、乳酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、ヒドロキシ酪酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、マンデル酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、酒石酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、リンゴ酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、サリチル酸、3‐ヒドロキシ安息香酸、4‐ヒドロキシ安息香酸、システイン、アセチルシステイン、グリシン、硫化セレンなど、個別あるいはそれぞれ塩、エステル、およびアミドと相対的なD−L−DL形態を含む2種類以上とともに使用されるものを意図している。
【0040】
このグループの物質の1種類以上の成分は、0.01〜50重量%、好ましくは0.5〜15重量%の割合で表される量で、クエン酸トリエチルと併用され得る。
【0041】
以下の調製物の実施例は、クエン酸トリエチルを含有する本発明の組成物の有効性のさらなる証拠である。
【0042】
上述の通り、適切な相乗作用薬と併用し得るクエン酸トリエチルは、支持体または適切な担体を用いて、油中水型乳剤、一相溶液、二相偽溶液、一相ゲル、二相ゲル、無水軟膏、散剤等、外部使用用の製剤に使用し得る。
【実施例】
【0043】
クエン酸トリエチルを基剤として有する調製物の実施例は、食用油が酸敗するのを阻害する。
【0044】
調製物1

調製法:そのまま
【0045】
調製物2

調製法:そのまま
【0046】
調製物3

調製法:そのまま
【0047】
座瘡、脂漏性皮膚炎、およびすべての病因の治療におけるクエン酸トリエチルをベースとして有する調製物の実施例において、トリグリセリドの加水分解により臨床状態が増悪し得る/または疾患および/または症候群の病因を妨げ得る。
【0048】
調製物4:座瘡治療用ローション剤

調製法:03に02を溶解し、得られた溶液に04を添加し、01にて混合する。
【0049】
抗生物質:例えば、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ムピロシン、メトロニダゾール、ゲンタマイシンのなかから選択される組成物。
【0050】
調製物5:脂漏性皮膚炎治療用ローション剤

調製法:03に02を溶解し、得られた溶液に04を添加し、01にて混合する。
【0051】
*抗菌剤:フシジン、エコナゾール、ケトコナゾール酸のなかから選択される組成物。
【0052】
調製物6

調製法:そのまま
【0053】
調製物7

調製法:そのまま
【0054】
調製物8

調製法:03に02を溶解し、得られた溶液に01を混合し、04を添加する。
【0055】
調製物9

調製法:03に02を溶解し、得られた溶液に01を混合し、04を添加する。
【0056】
調製物10

調製法:03に02を溶解し、得られた溶液に01を分散させる。
【0057】
調製物11

調製法:01に02を溶解する。
【0058】
調製物12

調製法:成分(A)および成分(B)を別々に70°Cで加熱する。成分(B)を成分(A)に添加し、正確に均質化された、局所使用用乳剤の形態の混合物になるまで混合する。
【0059】
調製物13

調製法:03に01+02を溶解し、得られた溶液に03を分散させると、ゲルが完全に溶媒化し、調製される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として純粋なクエン酸トリエチルまたはクエン酸トリエチルと相乗作用薬をともに含むことを特徴とする、トリグリセリドの酵素性加水分解を予防するための局所使用用の、組成物。
【請求項2】
0.01〜99.9重量%、好ましくは0.2〜50重量%の割合で表される量でクエン酸トリエチルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1.0〜25.0重量%の割合で表される量でクエン酸トリエチルを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
クエン酸トリエチルにより示される有効成分と、トランスレチノイン酸、レチノール、レチナールアルデヒド、トコフェロール、アスコルビン酸、アゼライン酸、オクタデカネジオル酸、ビオチン、パラアミノ安息香酸、ルチン、β‐カロチン、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ピリドキサール、ナイアシン、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸、パンテノール、グルコサミン、酢酸グルコサミン、葉酸、レシチン、リン脂質(例えばホスファチジルコリン、セファリン、リン脂質酸、リソホォスファチジルコリン等)、ヒドロキノン、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸エチル、リノレン酸エチル、リネオール酸エチル、コウジ酸、アスコルビン酸グルコシド、エリスロマイシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ゲンタマイシン、フシジン酸、エコナゾール、ケトエコナゾール、ムピロシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、過酸化水素水、過酸化ベンゾイル、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、クロルヘキシジンと相対的な塩およびエステル、銀と相対的な塩、有機または無機を問わずヒドロキシ酸およびベータヒドロキシ酸、モノカルボン酸とジカルボン酸の両方、グリコール酸等、乳酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、ヒドロキシ酪酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、マンデル酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、酒石酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、リンゴ酸(デキストロース左型およびラセミ混合物)、サリチル酸、3‐ヒドロキシ安息香酸、4‐ヒドロキシ安息香酸、システイン、アセチルシステイン、グリシン、硫化セレンなど、個別あるいはそれぞれ塩、エステル、およびアミドと相対的なD−L−DL形態を含む2種類以上とともに使用されるものなかから選択される、少なくとも1つの追加物質とをともに含む、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記追加物質が、0.01重量%〜50重量%、好ましくは0.5〜15重量%の割合で表される重量で含まれることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
食品におけるトリグリセリドの酵素性加水分解を予防するための物質として請求項1〜請求項5のいずれかに記載のクエン酸トリエチルを含む組成物の、使用。
【請求項7】
直接的にも間接的にもトリグリセリドの加水分解と関連のある疾患に対する医薬物質として請求項1〜請求項5のいずれかに記載のクエン酸トリエチルを含む組成物の、使用。
【請求項8】
座瘡または脂漏性皮膚炎の治療のための医薬物質として請求項1〜請求項5に記載のクエン酸トリエチルを含む組成物の、使用。
【請求項9】
少なくとも直接的にも間接的にもトリグリセリドの加水分解と関連のある軽微な美容上の皮膚障害の治療のための化粧物質として請求項1〜請求項5に記載のクエン酸トリエチルを含む組成物の、使用。

【公表番号】特表2009−518388(P2009−518388A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544014(P2008−544014)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【国際出願番号】PCT/IT2006/000827
【国際公開番号】WO2007/066371
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(508123272)
【Fターム(参考)】