説明

トリメチルガリウム、その製造方法およびそのトリメチルガリウムから得られた窒化ガリウム薄膜

【課題】 有機ケイ素化合物含有量が少なく、GaN層を製造した場合にキャリア濃度を安定して調整できるトリメチルガリウム、およびこのトリメチルガリウムの製造方法、ならびにこのトリメチルガリウムを用いて成膜された窒化ガリウム薄膜を提供する。
【解決手段】 本発明のトリメチルガリウムは、全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満であることを特徴とし、このトリメチルガリウムの製造方法は、原料のトリメチルアルミニウムを加水分解し、含有する有機ケイ素化合物を溶媒に抽出後、ガスクロマトグラフ質量分析法によってメチルトリエチルシランを定量し、原料としてメチルトリエチルシラン濃度が0.5ppm未満のトリメチルアルミニウムを選択し、蒸留精製後、塩化ガリウムと反応させ、反応液を蒸留してトリメチルガリウムを得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム薄膜を製造する際にキャリア濃度を安定して調整可能なトリメチルガリウム、その製造方法およびそのトリメチルガリウムから得られた窒化ガリウム薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム系化合物半導体層を有する窒化物系化合物半導体としては、例えば、サファイア基板の上に窒化ガリウム系化合物半導体層として一般式Inx Gay Alz N(x、yおよびzは0以上、1以下で、x+y+z=1)で表わされるn型及び/又はp型層を有する半導体が知られており、なかでもn型及びp型層の両層を有するものは紫外、青色または緑色の発光ダイオード、もしくは紫外、青色または緑色のレーザーダイオード等の発光素子材料として使用されている。
【0003】
このような窒化物系化合物半導体は、分子線エピタキシー(以下、MBEと略記する)法、有機金属気相成長(以下、MOVPEと略記する)法、ハイドライド気相成長(以下、HVPEと略記する)法等によって、窒化ガリウム薄膜を含む多層構造として製造されている。
【0004】
高輝度の発光ダイオードやレーザーダイオードを製造する場合、n型及びp型層の両層のキャリア濃度を安定して高く調整する必要がある。キャリアを調整するためには、不純物を意図的にドープするが、キャリア濃度が安定しないという問題点があった。
【0005】
半導体薄膜の品質は、原料の有機金属化合物中の不純物に影響されることは知られており、そのため、より高純度の有機金属化合物が求められている。
有機金属化合物の精製方法としては、例えば、有機金属化合物を溶媒中で金属ナトリウム、金属カリウム等と接触させて精製する方法が知られている。この方法において、ケイ素含有量の分析は、有機金属化合物を加水分解後、希塩酸に溶解させたもの、すなわち無機ケイ素を原子吸光分光光度法によって行っており、具体的には無機ケイ素含有量が0.1ppmのトリメチルガリウムを得ている(特許文献1参照。)。
また、液体の有機金属化合物を冷却して凝固、析出させて精製する方法も知られている。この方法において、ケイ素含有量は、有機金属化合物を炭化水素に希釈した後、加水分解し、炭化水素溶媒中に抽出される有機ケイ素化合物を誘導結合プラズマ発光法によって分析しており、具体的には有機ケイ素化合物がケイ素原子として0.8ppmのトリメチルアルミニウムを得ている(特許文献2参照。)。
【0006】
半導体のより高性能化に伴い、従来以上に高純度で、窒化ガリウム薄膜を製造した場合、キャリア濃度を安定して調整できる有機ガリウム化合物が求められている。
【特許文献1】特開昭62−132888号公報(第3頁の実施例)
【特許文献2】特開平8−12678号公報(第4頁の実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来以上に高純度のトリメチルガリウム、特に有機ケイ素化合物の含有量が少なく、窒化ガリウム薄膜(以下、GaNと表す。)を製造した場合にキャリア濃度を安定して調整できるトリメチルガリウム、およびこのトリメチルガリウムの製造方法、ならびにこのトリメチルガリウムを用いて成膜された窒化ガリウム薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこのキャリア濃度の安定化のために、鋭意検討を進めた結果、不純物の中でも有機ケイ素化合物がキャリア濃度の安定化に影響すること、全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満のトリメチルガリウムを用いることによって、ノンドープGaNのキャリア濃度を安定して、1×1016cm‐3以下に制御できること、従って、不純物をドープして得られるn型及びp型層の両層のキャリア濃度を安定して高く調整することが可能であること、またこのトリメチルガリウムは、ガスクロマトグラフ質量分析法によって原料のトリメチルアルミニウム中のメチルトリエチルシランを定量し、原料としてメチルトリエチルシラン濃度が0.5ppm未満のトリメチルアルミニウムを選択し、蒸留精製後、塩化ガリウムと反応させ、反応液を蒸留することによって得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明において、全有機ケイ素化合物の濃度は、測定対象の有機金属化合物の金属原子に対する全有機ケイ素化合物のケイ素原子の重量比で表す。従って、トリメチルガリウム中の全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満とは、トリメチルガリウム中のガリウム原子に対する全有機ケイ素化合物中のケイ素原子の重量比が0.1ppm未満であることを表す。通常、この濃度は誘導結合プラズマ発光法(ICP-AES: Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)で測定される。
また、メチルトリエチルシラン等の個々の有機ケイ素化合物の濃度は、測定対象の有機金属化合物に対する個々の有機ケイ素化合物中のケイ素原子の重量比で表す。従って、トリメチルアルミニウム中のメチルトリエチルシランの濃度が0.5ppm未満とは、トリメチルアルミニウムに対するメチルトリエチルシラン中のケイ素原子の重量比が0.5ppm未満であることを表す。この濃度はガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS: Gas Chromatography-Mass Spectrometry)で測定される。
【0010】
請求項1に係わる発明は、トリメチルガリウムに関し、全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満であることを特徴とする。
トリメチルガリウム中の全有機ケイ素化合物の濃度を0.1ppm未満とすることにより、ノンドープGaNのキャリア濃度を安定して、1×1016cm‐3以下に制御でき、従って、不純物をドープして得られるn型及びp型層の両層のキャリア濃度を安定して高く調整することが可能である。
【0011】
請求項2に係わる発明は、全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満であるトリメチルガリウムの製造方法に関し、原料のトリメチルアルミニウムを加水分解し、含有する有機ケイ素化合物を溶媒に抽出後、ガスクロマトグラフ質量分析法によってメチルトリエチルシランを定量し、原料としてメチルトリエチルシラン濃度が0.5ppm未満のトリメチルアルミニウムを選択し、蒸留精製後、塩化ガリウムと反応させ、反応液を蒸留してトリメチルガリウムを得ることを特徴とする。
メチルトリエチルシラン以外の有機ケイ素化合物が1ppm以上存在しても全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満のトリメチルガリウムを得ることは可能であるが、メチルトリエチルシラン濃度が0.5ppm未満のトリメチルアルミニウムでなければ、全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満のトリメチルガリウムを得ることできない。
【0012】
請求項3に係わる発明は、原料のトリメチルアルミニウムの蒸留精製を、原料のトリメチルアルミニウムに含有するメチルトリエチルシランの定量前に行うことを特徴とする。
請求項2に係わる発明と同様に全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満のトリメチルガリウムを得ることできる。
【0013】
請求項4に係わる発明は、請求項1記載のトリメチルガリウム或いは請求項2又は3に記載の製造方法により得られたトリメチルガリウムを用いて成膜された窒化ガリウム薄膜である。
この窒化ガリウム薄膜のキャリア濃度は安定している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来以上に高純度のトリメチルガリウム、特に有機ケイ素化合物の含有量が少なく、GaN薄膜を製造した場合にキャリア濃度を安定して調整できるトリメチルガリウム、およびこのトリメチルガリウムの製造方法、ならびにこのトリメチルガリウムを用いて成膜された窒化ガリウム薄膜が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のトリメチルガリウム(以下、TMGという。)は、全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満であることを特徴とし、全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm以上になると、ノンドープGaNのキャリア濃度を安定して、1×1016cm‐3以下に制御できなくなり、従って、不純物をドープして得られるn型及びp型層の両層のキャリア濃度を安定して高く調整することができなくなる。
【0016】
次に、本発明のTMGの製造方法を説明する。
通常、TMGは、トリメチルアルミニウム(以下、TMAと表す。)を蒸留精製後、塩化ガリウムと反応し、蒸留精製して製造される。
原料のTMAには、製造方法やその際に使用する材料等によって種々の不純物が含まれる。原料のTMAには不純物として、通常、数〜数10ppmの有機ケイ素化合物が含まれている。有機ケイ素化合物としては、テトラメチルシラン(以下、TMSと表す。)、エチルトリメチルシラン(以下、ETMSと表す。)、メチルトリエチルシラン(以下、MTESと表す。)、テトラエチルシラン(以下、TESと表す。)等が含まれ、原料のTMAの製造方法等によって、その含有量は異なる。
【0017】
MTES以外の有機ケイ素化合物が原料のTMA中に数〜数10ppm存在していても、上記の方法でTMG中の全有機ケイ素化合物の濃度を0.1ppm未満とすることは可能であるが、原料中のMTES濃度が0.5ppm未満でないと、得られるTMG中の全有機ケイ素化合物濃度を0.1ppm未満とすることはできない。
その理由は、原料のTMAの蒸留によってMTES以外のETMSを含む有機ケイ素化合物は除去されるが、MTESはTMAとほぼ同沸点(127℃)であるために蒸留分離できず、精製後TMA中に混入するMTESが、TMG生成反応時にTMGの沸点(56℃)に近いETMS(沸点:62℃)へと変化し、TMG蒸留精製時にこのETMSの分離が困難となるためと考えられる。
【0018】
本発明においては、原料のTMA中のMTES濃度を分析し、MTES濃度が0.5ppm未満、好ましくは0.3ppm未満、更に好ましくは0.1ppm未満のTMAを選択使用する。濃度が低い方が、原料のTMAの入手が制約されるが、反応前後の蒸留が容易になる。
TMA中の全有機ケイ素化合物の濃度は、上記したとおり、通常、前処理を行った後、誘導結合プラズマ発光法(以下、ICP-AES法と言うことがある。)によって分析されるが、この方法では全有機ケイ素化合物の全ケイ素原子の濃度を分析することはできるが、MTES等の個々の有機ケイ素化合物の濃度を定量することはできない。
本発明において、MTES等の個々の有機ケイ素化合物の濃度を定量は、前処理を行った後、ガスクロマトグラフ質量分析法(以下、GC-MS法と言うことがある。)で行う。
【0019】
前処理としては、酸を用いてTMAを加水分解し、有機ケイ素化合物を溶媒に抽出する。酸としては塩酸、硫酸等の鉱酸が用いられ、通常、約5〜50重量%溶液が用いられる。溶媒としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の芳香族や脂肪族の炭化水素が用いられる。通常、TMAを溶媒で希釈した状態で加水分解は行われ、含有する有機ケイ素化合物は溶媒に抽出される。溶媒に抽出された有機ケイ素化合物をICP-AES法やGC-MS法で分析する。
具体的には以下のように行われる。原料のTMAの充填容器、TMAの希釈容器、溶媒の計量容器、攪拌器具を備え、酸溶液を入れた加水分解容器、溶媒を入れた発生ガス吸収容器を連結し、系内をアルゴン等の不活性ガスで置換し、加水分解容器および発生ガス吸収容器を約−20℃に冷却した後、原料のTMAの充填容器から所定量のTMAをTMAの希釈容器に圧入する。TMAが入った希釈容器に溶媒の計量容器から所定量の溶媒を流し込み、十分に混合する。次に希釈容器から酸溶液を入れた加水分解容器に溶媒で希釈したTMAを滴下してTMAの加水分解を行う。この時、加水分解液の温度が約−5〜−20℃になるよう冷却を行うと共に、滴下するTMAの量を調節する。加水分解によって発生するガスは希釈溶媒と同じ溶媒を入れた吸収容器で吸収する。TMAの滴下が終了後もしばらく(10分程度)攪拌を続け、加水分解を完結させる。
加水分解終了後、加水分解溶液と吸収溶液を混合し、分液ロートにて有機相を分離し、分離した有機相を分析に使用する。
【0020】
有機相をGC-MSの常法に従って分析し、各有機ケイ素化合物の定量を行う。
分析感度を上げるために、有機相を濃縮して行うのが好ましい。含有する有機ケイ素化合物のうち、MTESおよびTES等の高沸点成分を分析する場合には、溶媒としてヘキサンを使用し、有機相のヘキサンの約10〜90%を留去して、残りの有機相を分析する。なお、濃度が高かったり、留去しすぎたりすると、留出側に有機ケイ素化合物が同伴するので、この場合は留出側も分析する。
また、TMSおよびETMS等の低沸点成分を分析する場合には、溶媒としてキシレンを使用し、有機相のキシレンの約10〜90%を留去して、留出側を分析する。なお、留去が不十分になると、残りの蒸留釜側に有機ケイ素化合物が残るので、この場合は蒸留釜側も分析する。なお、TMSおよびETMS等の低沸点成分を分析する場合、溶媒を気相に追い出し、その気相を分析する、いわゆるヘッドスペースGC-MS法で分析することにより、分析感度を上げることができる。
【0021】
前処理によって有機ケイ素化合物を溶媒に抽出しICP-AES法でTMA中の全有機ケイ素化合物の濃度が0.5ppm未満、好ましくは0.1ppm未満であることを確認して、原料TMAとして使用しても良い。すなわち、MTES以外の有機ケイ素化合物も0.5ppm未満、好ましくは0.1ppm未満のTMAである。
【0022】
上記のようにして、原料のTMA中のMTES濃度を分析し、MTES濃度が0.5ppm未満のTMAを選択する。
次に、MTES濃度が0.5ppm未満のTMAを蒸留精製し、低沸点物および高沸点物を除去する。蒸留方法は特に限定されるものではなく、不活性ガスで置換後、通常の減圧蒸留または常圧蒸留で行われる。除去する低沸点物および高沸点物の量は、圧力等の条件にもよるが、通常、供給するTMAの、それぞれ約10〜15重量%、約15〜20重量%とするのが好ましい。これらの低沸点物および高沸点物は、必要により他の精製法によって精製後、再利用される。
この蒸留は、MTES濃度が0.5ppm未満であることが予想される場合や他の不純物濃度が高い場合等に、MTES濃度の定量前に予め実施しても良い。定量前に蒸留し、定量した結果、MTES濃度が0.5ppm以上であった場合には、蒸留が無駄になる場合があるので、通常は定量し、MTES濃度が0.5ppm未満のTMAを選択し、蒸留精製するのが好ましい。
【0023】
次に、MTES濃度が0.5ppm未満で蒸留精製したTMAを塩化ガリウムと反応させる。通常、塩化ガリウムを反応器に仕込み、反応系内を不活性ガスで置換後、塩化ガリウムを加熱溶融(融点:78℃)し、溶融塩化ガリウムを攪拌しながらTMAを滴下し、反応させる。添加するTMAは、通常、塩化ガリウムと約等量である。TMAの滴下速度は、反応温度が上がりすぎないようにし、約80〜110℃に調整する。
添加終了後、約80〜90℃に約4〜8時間保持し、反応を完結させる。
【0024】
次いで反応液を蒸留して製品のTMGを取得する。蒸留方法は特に限定されるものではなく、TMAの蒸留と同様に行われる。低沸点物および高沸点物としてTMGの理論生産量のそれぞれ約2〜5重量%および約15〜30重量%を除き、約65〜80重量%の製品TMGを取得する。
このようにして得られるTMG中の全有機ケイ素化合物の濃度は0.1ppm未満である。
TMGの全有機ケイ素化合物の分析はTMA中の全有機ケイ素化合物の分析と同様に行われる。通常、ICP-AES法によって行われる。
【0025】
GaN薄膜の製造は常法によって行われ、例えば、有機金属気相成長(以下、MOVPEと記すことがある。)法、分子線エピタキシー(以下、MBEと記すことがある。)法、ハイドライド気相成長(以下、HVPEと記すことがある。)法などが挙げられる。また、MOVPE法の具体例としては、成長時雰囲気ガス及びTMGのキャリアガスとしては、窒素、水素、アルゴン、ヘリウムなどの気体を単独あるいは混合して用いることができる。水素ガス、ヘリウムガス雰囲気中では、原料の前分解が抑制されるため、より好ましい。結晶成長温度は、700℃以上1100℃以下であるが、結晶性の高いGaN薄膜を得るためには、800℃以上が好ましく、より好ましくは900℃以上、さらに好ましくは、1000℃以上である。
【0026】
また、MBE法の具体例としては、窒素原料としては、窒素ガス、アンモニア、及びその他の窒素化合物を気体状態で供給する方法である気体ソース分子線エピタキシー(以下、GSMBEと記すことがある。)法が挙げられる。この場合、窒素原料が化学的に不活性で、窒素原子が結晶中に取り組まれにくいことがある。その場合には、マイクロ波などにより窒素原料を励起して、活性状態にして供給することで、窒素の取り込み効率を上げることができる。
【0027】
MOVPE法を用いてGaN薄膜を結晶成長させる場合、TMGと、アンモニア、ヒドラジン、メチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、t−ブチルアミン、エチレンジアミンなどを単独でまたは任意の組み合わせで混合して用いる。これらのうち、アンモニアとヒドラジンは、分子中に炭素原子を含まないため、薄膜中への炭素の汚染が少なく好適である。
【0028】
また薄膜を成長させるための基板としては、サファイア、SiC、Si、ZrB2 、CrB2等を好適に用いることができる。
【0029】
以上のような方法によって成長したGaN薄膜は不純物をドーピングしないで成長するとn型で1×1016cm−3以下のキャリア濃度を示す。また、ドーピングを行う場合、伝導の型とキャリア濃度を制御するためには、5×1017cm−3以上、好ましくは1×1018cm−3以上、さらに好ましくは2×1018cm−3以上である。本願発明の方法によれば、不純物をドープしない(以下、ノンドープということがある。)GaN薄膜のキャリア濃度をn型で1×1016cm−3以下とすることが可能となるため、n型、p型不純物をドープする場合、いずれも伝導の型とキャリア濃度を再現性よく制御することが可能となる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例により本発明を詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(原料のTMAの分析)
入手先およびグレードが異なる原料TMA(1)、TMA(2)およびTMA(3)について、有機ケイ素化合物の分析を行った。
TMA(1)11.3gをキシレン143.6gで希釈混合した。36重量%塩酸を半分に希釈した酸溶液80mlを入れた加水分解容器にキシレンで希釈したTMAを、加水分解液の温度が約−5〜−20℃になるよう冷却を行うと共に、滴下するTMAの量を調節してTMAの加水分解を行った。加水分解によって発生するガスはキシレン30mlを入れた吸収容器で吸収した。TMAの滴下が終了後も約10分間攪拌を続け、加水分解を完結させた。
加水分解終了後、加水分解溶液と吸収溶液を混合し、分液ロートにてキシレン溶液を分離し、キシレン溶液を蒸留して、キシレン溶液19.6gを得た。
これをヘッドスペースGC-MS法(装置:HP7694、MS5973 アジレント テクノロジー社製)によって分析し、TMSおよびETMSの定量を行った。結果を表1に示す。
キシレンの代わりにヘキサンを用いて同様に加水分解し、ヘキサン溶液を分離し、ヘキサン溶液を蒸留して、ヘキサン34.9gを除き、濃縮液109.5gを得た。
この濃縮液をGC-MS法(装置:MS Station JMS-700 日本電子(株)製)によって分析し、MTES、TESの定量を行った。結果を表1に示す。
TMA(2)およびTMA(3)についてもTMA(1)と同様に有機ケイ素化合物の分析を行った。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(TMGの製造)
108mmφ×2150mmの蒸留塔を窒素ガスで置換後、TMA(1)73kgを仕込み、釜温130℃、常圧で回分蒸留してTMAの精製を行った。初留14重量%、主留68重量%、釜残18重量%を得た。
次に、29Lの攪拌器付き反応器に10kgの塩化ガリウムを仕込み、窒素ガスで置換後、加熱して塩化ガリウムを溶融し、攪拌しながら上記主留のTMA12.6kgを滴下して反応を行った。滴下速度は反応温度が約90〜105℃になるよう調整した。
TMAの添加終了後、約80℃に約6時間保持し、反応を完結させた。次にこの反応液22.6kgを単蒸留することで留分62重量%、釜残38重量%を得た。
次にこの単蒸留留分14kgを窒素置換した70mmφ×1985mmの蒸留塔に仕込み、塔頂温度56℃、常圧で回分蒸留してTMG(1)を取得した。この時の初留は8重量%、主留は64重量%、釜残が28重量%であった。
TMA(2)およびTMA(3)についてもTMA(1)と同様にしてTMG(2)およびTMG(3)を製造した。
TMG(1)、TMG(2)およびTMG(3)について、TMA(1)と同様にして有機ケイ素化合物の分析を行った。結果を表2に示す。
表2にはICP-AES法による分析結果も示す。GC-MS法の前処理と同様に、TMGをキシレンに希釈し、加水分解後、キシレン溶液をICP-AES装置 SPS5000(セイコー電子工業(株)製)を用いて有機ケイ素化合物を分析した。
【0034】
【表2】

【0035】
(窒化ガリウム薄膜の製造)
全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満であるTMG(2)を用いて、サファイア基板上にMOVPE法によって以下の通り、GaN層を成長させた。
基板としてサファイアのC面を鏡面研磨したものを有機洗浄して用いた。成長方法については、低温成長バッファ層としてGaNを用いる2段階成長法を用いた。1気圧で、サセプタの温度を485℃、キャリアガスを水素とし、キャリアガス、TMG及びアンモニアを供給して、厚みが約500ÅのGaNバッファ層を成長した。次に、サセプタの温度を1040℃にしたのち、キャリアガス、TMG、アンモニアを供給して、厚さが約3μmのノンドープのGaN層を成長させた。
【0036】
これらのノンドープのGaN層を空乏層容量の電圧依存性(Capacitance-Voltage characteristics:以下、C−V測定と略記することがある。)から求めたキャリア濃度は測定下限(1.0×1016cm−3)であった。また、有機金属容器の充填量に対する使用割合には依存せず、該TMGを用いて成長したGaN層のキャリア濃度は、測定下限(1.0×1016cm−3)以下の低い値で安定して制御できた。
【0037】
全有機ケイ素化合物の濃度が0.3ppmであるTMG(1)、0.4ppmおよび0.5ppmであるTMGを用いてTMG(2)を使用した時と同様の操作によって、ノンドープのGaN層を成長した。なお、全有機ケイ素化合物の濃度が0.4ppmおよび0.5ppmであるTMGは、MTESが存在するTMA(1)を用いて繰り返しTMGを製造して得られたものであり、全有機ケイ素化合物の濃度はICP-AES法によって分析したものである。
【0038】
これらのノンドープのGaN層をC−V測定から求めたキャリア濃度と有機金属容器の充填量に対する使用割合との相関を図1に示す。
上記C―V測定から全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm以上のTMGを用いてノンドープGaN層を成長させると有機金属容器の充填量に対する使用割合が少ない場合は1.0×1017cm−3以上を示した。また、TMGの使用割合の増加に伴い(有機金属容器の残量が少なくなるにつれて)、キャリア濃度が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例におけるキャリア濃度と有機金属容器の充填量に対する使用割合との相関を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全有機ケイ素化合物の濃度が0.1ppm未満であることを特徴とするトリメチルガリウム。
【請求項2】
原料のトリメチルアルミニウムを加水分解し、含有する有機ケイ素化合物を溶媒に抽出後、ガスクロマトグラフ質量分析法によってメチルトリエチルシランを定量し、原料としてメチルトリエチルシラン濃度が0.5ppm未満のトリメチルアルミニウムを選択し、蒸留精製後、塩化ガリウムと反応させ、反応液を蒸留してトリメチルガリウムを得ることを特徴とするトリメチルガリウムの製造方法。
【請求項3】
原料としてメチルトリエチルシラン濃度が0.1ppm未満のトリメチルアルミニウムを選択して行う請求項1記載のトリメチルガリウムの製造方法。
【請求項4】
原料のトリメチルアルミニウムの蒸留精製を、原料のトリメチルアルミニウムに含有するメチルトリエチルシランの定量前に行うことを特徴とする請求項2または3記載のトリメチルガリウムの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載のトリメチルガリウム或いは請求項2〜4記載の製造方法により得られたトリメチルガリウムを用いて成膜された窒化ガリウム薄膜。






【図1】
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【公開番号】特開2006−111546(P2006−111546A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298564(P2004−298564)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】