説明

トルクリミッタ付き歯車減速機

【課題】 減速機にトルクリミッタ機構を内蔵して、コンパクトでかつ部品点数の削減を図り得るトルクリミッタ付き歯車減速機を提供する。
【解決手段】 互いに平行な軸を持つ複数の歯車を有する歯車減速機において、前記複数の歯車のうちのいずれかのピニオン軸20と歯車21との間に、減速機出力軸40に一定以上のトルクがかかったときに、前記ピニオン軸20と歯車21とが摺動するトルクリミッタ機構60を設けた歯車減速機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータで駆動する歯車減速機における減速機保護機構に関し、詳しくは出力軸に負荷が加わったときに減速機を負荷から保護することができるトルクリミッタ付き歯車減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、歯車減速機の一例を示したもので、ケースハウジング100の側板100aに設けられた貫通孔を通してモータ軸ピニオン101が組みつけられている。ケースハウジング100には、複数のピニオン軸102,103と、出力軸104がそれぞれ軸受け105,106を介して互いに平行に配設されている。モータ軸ピニオン101には、モータ軸ピニオン101に噛み合う歯車107が、ピニオン軸103には、ピニオン軸102の出力歯車102aに噛み合う歯車108が装着されている。出力軸104には、ピニオン軸103の出力歯車103aに噛み合う歯車109が装着されて、モータ軸ピニオン101の回転が伝達されている。こうして、歯車107,108,109および出力歯車102a,103aの歯車比によってモータ軸ピニオン101の回転を減速して出力軸104から取り出される。
【0003】
一方、歯車減速機の出力軸に一定値以上の負荷が加わった場合に、減速機の損傷を防ぐためトルクリミッタが用いられている。
図6および図7は、従来のこの種のトルクリミッタ付き歯車減速機を示したもので、この歯車減速機によれば、モータ110のモータ軸111に、歯車減速機112の入力軸113をトルクリミッタ114を介して連結したものである。トルクリミッタ114は、モータ軸111の先端部に設けられ、外周部をスプライン加工した円筒状のセンタハブ115と、センタハブ115のスプライン溝と内周部が軸方向にのみ移動可能に噛み合い、両側面に接触摩擦力の大きい環状ライニング116を接着等により固着した環状の回転円板117と、中間ブラケット118に軸受け119を介して支持され、回転円板117を環状の座板120および皿ばね121を介して軸方向に押圧する円筒状の押圧軸122と、減速機に軸受けを介して支持され、後端部を回転円板117、座板120等を包囲して押圧軸122の外周に設けたねじ部122aに装着された入力軸113と、この入力軸113の後端部に径方向に挿通し、先端部を、座板120の外周部にねじ込んで、座板120を支持するねじ123と、ねじ123と入力軸113の後端部外周との間に設けられ、端部を折り曲げて押圧軸122の外周部に係止させる板座金124などで構成されている。
【特許文献1】特開平3−173332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術によると、減速機とトルクリミッタが別構造になっているため、モータと歯車減速機の間にトルクリミッタ部のための専用スペースが必要になり、全体構造が大きくなってしまうという問題点があった。また、トルクリミッタ部が独立した構造になっていたための連結機構、トルクリミッタ用ケースハウジング、トルクリミッタ部自体と多くの部品が必要になり、結果的に製品コストが高くなる課題を有していた。
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、減速機にトルクリミッタ機構を内蔵し、コンパクトでかつ部品点数の削減を図り得るトルクリミッタ付き歯車減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、互いに平行な軸によってそれぞれ支持された複数の歯車を有する歯車減速機において、前記複数の歯車のうちのいずれかの歯車とピニオン軸との間にすべり機構を設け、該すべり機構を設けた歯車に回転を伝達するとともに減速機出力軸に一定以上のトルクがかかったときに、前記すべり機構を設けた歯車がピニオン軸に対して摺動するトルクリミッタ機構を設けたことにある。
また、本発明は、前記トルクリミッタ機構が、ピニオン軸と、軸受けを介して前記ピニオン軸に回転自在に配設された歯車と、前記ピニオン軸に固着配設された摺動板と、前記歯車と前記摺動板とに挟まれるように配設された摩擦板と、前記摺動板を前記摩擦板に押し付けるべく、前記ピニオン軸のピニオン部と前記摺動板との間に配設された反発手段と、前記軸受けが軸方向に移動しないようにするための係止部材とからなることにある。
さらに、本発明は、前記トルクリミッタ機構が、ピニオン軸と、軸受けを介して前記ピニオン軸に回転自在に配設された歯車と、前記ピニオン軸に固着配設された摺動板と、前記歯車と前記摺動板とに挟まれるように配設された摩擦板と、前記摺動板を前記摩擦板に押し付けるべく、前記ピニオン軸のピニオン部と前記摺動板との間に配設された反発手段と、前記軸受けが軸方向に移動しないようにし、かつ前記反発手段による押し付け力を調節できるようにするために設けられたロックナットとからなることにある。
またさらに、前記トルクリミッタ機構が、ピニオン軸と、軸受けを介して前記ピニオン軸に回転自在に配設され、かつ側面に複数個の穴が設けられた歯車と、前記歯車の穴に対向するように前記ピニオン軸に固着配設され、かつ前記歯車との対向面に円錐状穴が設けられたボール受け板と、前記歯車の穴と、前記ボール受け板の前記円錐状穴とに挟持されたボールと、前記ボールを前記ボール受け板に押し当てるべく、前記歯車の穴の奥部に配設された反発手段と、前記軸受けが軸方向に移動しないようにするための係止部材とからなることにある。
また、本発明は、前記軸受けが、軸方向の荷重を受けるためのすべり軸受けと、径方向の荷重を受けるためのすべり軸受けとから構成されることにある。
さらに、本発明は、前記トルクリミッタ機構が、歯車減速機の初段に配設されたことにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、減速機出力軸に、一定値以上のトルクが加わるとクラッチが作動することにより、減速機の破損を防止することができる。また、歯車減速機内部のピニオン軸、歯車とトルクリミッタ機構を一体構造にすることにより、全体構造がコンパクトになり減速機に内蔵することができる。ピニオン軸、歯車とトルクリミッタ機構を一体構造にすることにより、部品点数の削減を図り、かつ安価にトルクリミッタ機構を作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図示の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、円板式の摩擦クラッチ機構を採用したトルクリミッタ付き歯車減速機を示したもので、図2は、図1のトルクリミッタ機構を拡大して示す概念図である。
図1および図2において、1は、歯車減速機の箱形のケースハウジングである。このケースハウジングの一側には、側板2によって塞がれる開口が設けられ、ねじ3によって側板2が組み付けられている。側板2に形成された挿通穴2aには、モータのモータ軸ピニオン10が挿通されて、ケースハウジング1内にモータ軸11が導入されている。
【0009】
上記ケースハウジング1内には、モータ軸11のモータ軸ピニオン10とそれぞれ平行に、第1のピニオン軸20、第2のピニオン軸30および減速機の出力軸40が、それぞれ軸受け51ないし56を介して配設されている。第1のピニオン軸20には、モータ軸ピニオン10に噛合する入力歯車21と、第1のピニオン軸20の回転を伝達する出力歯車22が設けられている。第2のピニオン軸30には、出力歯車22に噛合する入力歯車31と、第2のピニオン軸30の回転を伝達する出力歯車32が設けられている。減速機の出力軸40には、出力歯車32に噛合する入力歯車41が設けられており、上記ケースハウジング1に形成された挿通穴1aから出力軸40の一端部40aが導出されている。
【0010】
上記入力歯車21は、第1のピニオン軸20に対して、すべり機構として、すべり軸受け23,24を介して回転自在に支持されている。すべり軸受け23,24は、入力歯車21の内周面21aに配設されており、すべり軸受け23は入力歯車21の端面側凹部21bに、止め輪64によって背面を係止されて配設されている。
軸方向荷重を受けるすべり軸受け23には樹脂軸受けを用い、径方向荷重を受けるすべり軸受け24には、鉄系含油軸受けを用いることができる。
この第1のピニオン軸20には、出力軸40に負荷トルクが加わった場合に、モータ軸ピニオン10にこの負荷トルクが伝達されないように摩擦クラッチを用いたトルクリミッタ機構60が設けられている。
【0011】
このトルクリミッタ機構60は、第1のピニオン軸20に、上記入力歯車21に一定の間隙を置いて対向するように並設された環状の摺動板61と、上記入力歯車21と摺動板61との間に互いに接触するように配設された摩擦クラッチとしての摩擦板62と、上記摺動板61の背面に配置された反発手段としてのばね63とから構成されている。上記摺動板61には鉄鋼材を用い、摩擦板62には焼結金属系摩擦材を用いている。摩擦板62は入力歯車21の周縁部に、円周方向に形成され環状の凹部21aに配設されている。上記摺動板61は、ピニオン軸20との間に廻り止めが施されている。
また、ばね63は、摺動板61を入力歯車21側に押圧するためのもので、例えば、皿ばねを使用することができる。第1のピニオン軸20には、上記入力歯車21の背面側に、係止部材として止め輪64が装着されて、すべり軸受け23とともに入力歯車21の軸方向の動きを係止している。係止部材としては、止め輪64以外に種々のものを用いることができる。
摩擦クラッチの摺動は、入力歯車21の端面と摺動板61の間に挟まれた摩擦板62で行う。摩擦クラッチとしての摩擦板62に摩擦力を発生させる押し付け力は反発手段としての、ばね63で発生させている。トルクリミッタ機構60作動時の入力歯車21とピニオン軸20の摺動は、上記入力歯車21の内周面側に配置されたすべり機構としての、すべり軸受け23,24で行われる。
【0012】
次に、上記実施の形態の作用を説明する。
モータ軸ピニオン10の回転は、入力歯車21に伝達される。入力歯車21の回転は、摩擦クラッチとしての摩擦板62を介して摺動板61に伝達され、摺動板61とともに第1のピニオン軸20が回転する。第1のピニオン軸20の回転によって出力歯車22が回転し、この出力歯車22に噛合する入力歯車31が回転する。この入力歯車31の回転は、第2のピニオン軸30に伝達され、第2のピニオン軸30とともに出力歯車32が回転する。そして、この出力歯車32に噛合する入力歯車41が回転し、この入力歯車41を支持する減速機の出力軸40が回転する。
次に、減速機出力軸に一定値以上の負荷トルクが加わると円板式の摩擦クラッチが摺動する。
摺動板61に負荷トルクが伝達されると、摩擦板62との間ですべりが生じ、トルクリミッタ機構60が作動する。トルクリミッタ機構60作動時の入力歯車21とピニオン軸20の摺動は、上記入力歯車21の内周面側に配置されたすべり軸受け23,24によって、すべり機構が作用し、負荷トルクの伝達を防ぐ。
【0013】
図3および図4は、本発明の他の実施の形態であり、図2と同一部分は、同符号を付して同一部分の説明は省略して説明する。
図3の実施の形態では、係止部材としての止め輪64に代えてロックナット65を用いたもので、ばね63による押し付け力をロックナット65で調整する方式である。
ロックナット65装着部周辺にはピニオン軸20の外周にねじ20aが切ってあり、ロックナット65を回転させることによってばね63の押し付け力を調整することができる。
【0014】
図4の実施の形態では、クラッチ部にラチェット機構70を採用した例である。
ラチェット機構70は、上記入力歯車21の片側端面に、軸方向の凹部71を円周方向に一定間隔で所定数形成し、この凹部71内にボール押しばね72とともにボール73を収納し、このボール73をボール受け板74とともに保持するようにしたものである。ボール受け板74はピニオン軸20に固定されており、入力歯車21の凹部71に対向するボール受け板74の板面には、円錐状の穴部75が形成されている。
ボール73はボール押しばね72に付勢されてボール受け板74の円錐状の穴部75内に一部が入りボール73を介して回転が伝達される。
そして、減速機出力軸に一定値以上のトルクが加わると、ボール73に加わる力がボール押しばね72の力より大きくなる。
すると、ラチェット機構70が作動し、ボール73が円錐状の穴部75から外れてボール受け板74の板面を転がる。こうして、入力歯車21は空転を開始し、モータ軸側への伝達を阻止する。
【0015】
なお、上記実施の形態では、トルクリミッタ機構60の歯車用軸受けにすべり軸受け23,24を用いたが、玉軸受けなど他の種類の軸受けを使用することができるのは言うまでもない。また、トルクリミッタ機構60の摺動板61および摩擦板62なども種々の変更が可能である。
【0016】
以上述べたように、上記実施の形態によれば、減速機出力軸に、一定値以上のトルクが加わると入力歯車21とピニオン軸20との間にトルクリミッタ機構60が作動して減速機の破損を防止することができる。また、入力歯車21とピニオン軸20とトルクリミッタ機構60を一体構造にすることにより、全体構造がコンパクトになり減速機に内蔵することができる。さらに、部品点数が削減でき、安価にトルクリミッタ機構60を製造することができる。トルクリミッタ機構60としては、摩擦クラッチ機構、ラチェット機構70など種々の構造を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態によるトルクリミッタ付き歯車減速機を示す断面図である。
【図2】図1のトルクリミッタ機構を示す部分拡大図である。
【図3】本発明のトルクリミッタ機構にロックナットを採用した変形例を示す断面図である。
【図4】本発明のトルクリミッタ機構のクラッチ部にラチェット機構を採用した変形例を示す断面図である。
【図5】従来の歯車減速機を示す断面図である。
【図6】従来のトルクリミッタ付き歯車減速機を示す部分断面図である。
【図7】従来のトルクリミッタ付き歯車減速機を示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ケースハウジング
2 側板
10 モータ軸ピニオン
20 第1のピニオン軸
21,31,41 入力歯車
22,32 出力歯車
23,24 すべり軸受け
30 第2のピニオン軸
40 減速機の出力軸
51〜56 軸受け
60 トルクリミッタ機構
61 摺動板(相手板)
62 摩擦板
63 ばね(反発手段)
64 止め輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な軸によってそれぞれ支持された複数の歯車を有する歯車減速機において、前記複数の歯車のうちのいずれかの歯車とピニオン軸との間にすべり機構を設け、該すべり機構を設けた歯車に回転を伝達するとともに減速機出力軸に一定以上のトルクがかかったときに、前記すべり機構を設けた歯車がピニオン軸に対して摺動するトルクリミッタ機構を設けたことを特徴とするトルクリミッタ付き歯車減速機。
【請求項2】
前記トルクリミッタ機構が、ピニオン軸と、軸受けを介して前記ピニオン軸に回転自在に配設された歯車と、前記ピニオン軸に固着配設された摺動板と、前記歯車と前記摺動板とに挟まれるように配設された摩擦板と、前記摺動板を前記摩擦板に押し付けるべく、前記ピニオン軸のピニオン部と前記摺動板との間に配設された反発手段と、前記軸受けが軸方向に移動しないようにするための係止部材とからなることを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ付き歯車減速機。
【請求項3】
前記トルクリミッタ機構が、ピニオン軸と、軸受けを介して前記ピニオン軸に回転自在に配設された歯車と、前記ピニオン軸に固着配設された摺動板と、前記歯車と前記摺動板とに挟まれるように配設された摩擦板と、前記摺動板を前記摩擦板に押し付けるべく、前記ピニオン軸のピニオン部と前記摺動板との間に配設された反発手段と、前記軸受けが軸方向に移動しないようにし、かつ前記反発手段による押し付け力を調節できるようにするために設けられたロックナットとからなることを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ付き歯車減速機。
【請求項4】
前記トルクリミッタ機構が、ピニオン軸と、軸受けを介して前記ピニオン軸に回転自在に配設され、かつ側面に複数個の穴が設けられた歯車と、前記歯車の穴に対向するように前記ピニオン軸に固着配設され、かつ前記歯車との対向面に円錐状穴が設けられたボール受け板と、前記歯車の穴と、前記ボール受け板の前記円錐状穴とに挟持されたボールと、前記ボールを前記ボール受け板に押し当てるべく、前記歯車の穴の奥部に配設された反発手段と、前記軸受けが軸方向に移動しないようにするための係止部材とからなることを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ付き歯車減速機。
【請求項5】
前記軸受けが、軸方向の荷重を受けるためのすべり軸受けと、径方向の荷重を受けるためのすべり軸受けとから構成されることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載のトルクリミッタ付き歯車減速機。
【請求項6】
前記トルクリミッタ機構が、歯車減速機の初段に配設されたことを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のトルクリミッタ付き歯車減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−70961(P2006−70961A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253764(P2004−253764)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】