説明

トンネル内装用パネル

【課題】本発明の目的は、優れた耐火性並びに視線誘導機能を有し、そりを生ずることがなく、視線誘導機能を長期間にわたり維持することができるトンネル内装用パネルを提供することにある。
【解決手段】本発明のトンネル内装用パネルは、主たるマトリックスがゾノトライトによって形成され、針状ワラストナイトを30〜60質量%及び補強用繊維を3〜8質量%含有してなり、見掛け密度が0.8〜1.1g/cmの範囲内にあり、吸水寸法変化率が0.05%以下であるけい酸カルシウム板を基材とし、該基材の片面に、視線誘導機能を有する表面材を積層してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用道路等のトンネル内装材として使用されるトンネル内装用パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル内壁を火災等から防護するための耐火材としてけい酸カルシウム板のような多孔質無機質板が使用されている。また、トンネル内装材の表面には視線誘導機能が必要とされているが、視線誘導機能を得るためには、耐火材として使用されている多孔質無機質板の表面に視線誘導層を形成する必要がある。この視線誘導層には、緻密且つ平滑で、且つ耐久性(塗膜自体の耐久性の他に、基材と塗膜との密着性の持続性を含む)や汚染洗浄性に優れていることが要求されるが、トンネル内壁の耐火材として使用される多孔質無機質板は、多孔質であるため、その表面に塗装等を施すことにより上述のような性能を有する視線誘導層を形成することは難しい。そこで、多孔質無機質板に、視線誘導機能を有する表面材を積層してパネルを形成する必要がある。
【0003】
トンネル内壁に使用される耐火材としてのけい酸カルシウム板として、例えば、特許文献1に、ケイ酸カルシウム水和物からなるマトリックスと繊維とを含有してなるケイ酸カルシウム材において、前記ケイ酸カルシウム水和物は、トバモライトとゾノトライトとからなるとともに、前記ゾノトライトの(001)面のX線回折強度と前記トバモライトの(002)面のX線回折強度との比が、前者/後者として0.3〜5.0であり、前記ケイ酸カルシウム材は、前記繊維として20〜60質量%の範囲の針状ワラストナイトおよび1〜10質量%の範囲のセルロースパルプを含有することにより、1200℃における加熱残存収縮率が5%以下であることを特徴とするケイ酸カルシウム材(請求項1);石灰質原料、ケイ酸質原料、繊維原料および水を混合し、原料スラリーを形成し、前記原料スラリーを加熱養生し加圧脱水成形してケーキを形成し、前記ケーキをオートクレーブ養生して硬化させる工程を有するケイ酸カルシウム材の製造方法において、前記石灰質原料と前記ケイ酸カルシウム材に占める比率が20〜60質量%の範囲の針状ワラストナイトおよび1〜10質量%の範囲のセルロースパルプを使用し、前記加熱養生の加熱温度は80〜100℃であり、前記加熱脱水成形における圧力は2MPa〜10MPaであり、前記オートクレーブ養生は温度が190〜210℃、かつ養生時間が5時間〜15時間であることにより、ケイ酸カルシウム水和物からなるマトリックスと繊維とを含有してなるケイ酸カルシウム材を成形し、ここで前記ケイ酸カルシウム水和物は、トバモライトとゾノトライトとからなるとともに、前記ゾノトライトの(001)面のX線回折強度と前記トバモライトの(002)面のX線回折強度との比が、前者/後者として0.3〜5.0であり、かつ前記ケイ酸カルシウム材は、1200℃における加熱残存収縮率が5%以下であることを特徴とするケイ酸カルシウム材の製造方法(請求項4)が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、耐火物中に、NaO及びKOの含有合計が10%未満である軽量骨材を8〜30重量%(質量%)と、繊維長さが500μm〜4μmである無水無機長繊維を1〜8重量%(質量%)と、繊維長さが50〜<500μmである無水無機短繊維を4〜30重量%(質量%)と、残部にアルミナセメントと超微粉非晶質シリカと、補強繊維及びその他の耐火材料等とを含有する無水無機繊維含有断熱性耐火物が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−104769号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特許第3206905号 特許請求の範囲
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、けい酸カルシウム板のような多孔質無機質板の片面のみに視線誘導機能を有する表面材を積層したパネルにおいては、表面材を積層していない面のみから、水分(水蒸気を含む)が出入りすることになり、けい酸カルシウム板内の含水率の分布が不均一になり、パネルに「そり」が生ずる原因となる。パネルに「そり」が生じると、視線誘導機能が低下したり、パネル同士の接合部に隙間を生じ、パネルによるトンネル内壁の耐火防護機能が低下することがあるので好ましくない。
【0007】
トンネル内装材のみならず、一般の建築用であっても、多孔質無機質板を基材とし、その片面に、緻密な材料を積層するか、または塗膜を形成したパネルにおいては、同様の現象を生じる。この現象を防ぐために、通常はパネルのもう一方の面に、シーラーや塗料を塗布するか、表面材を両面に積層する等の方法が用いられることが多い。しかし、トンネル内装材においては、環境条件が厳しいので、シーラー塗布ではパネルの「そり」を充分に防止することはできず、また、上述のように、トンネル内装用のけい酸カルシウム板に耐久性の高い塗膜は形成しにくいという問題がある。更に、けい酸カルシウム板の両面に表面材を積層すると、コスト高になると共にパネルの厚さが厚くなるので好ましくない。
【0008】
従って、本発明の目的は、優れた耐火性並びに視線誘導機能を有し、そりを生ずることがなく、視線誘導機能を長期間にわたり維持することができるトンネル内装用パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、視線誘導機能を有する表面材を積層するための基材として用いるけい酸カルシウム板として、高い耐火性を有し、且つ吸水寸法変化率を大幅に低減させたけい酸カルシウム板を使用することにより、トンネルの内装材に適したトンネル内装用パネルを提供するものである。
【0010】
即ち、本発明のトンネル内装用パネルは、主たるマトリックスがゾノトライトによって形成され、針状ワラストナイトを30〜60質量%及び補強用繊維を3〜8質量%含有してなり、見掛け密度が0.8〜1.1g/cmの範囲内にあり、吸水寸法変化率が0.05%以下であるけい酸カルシウム板を基材とし、該基材の片面に、視線誘導機能を有する表面材を積層してなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のトンネル内装用パネルは、視線誘導機能を有する表面材が、琺瑯を施釉した金属板または無機塗装を施した硬質けい酸カルシウム板であることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明のトンネル内装用パネルは、視線誘導機能を有する表面材が、基材上に接着剤により接着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材と視線誘導機能を有する表面材とを積層してなるトンネル内装用パネルの基材として特定のけい酸カルシウム板を使用することにより、優れた耐火性を有し、且つ優れた視線誘導機能を長期間にわたり維持することができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のトンネル内装用パネルは、基材と、その片面に積層された視線誘導機能を有する表面材から構成されるものである。本発明のトンネル用パネルに基材として使用されるけい酸カルシウム板は、主たるマトリックスがゾノトライトによって形成され、針状ワラストナイトを30〜60質量%、好ましくは40〜50質量%及び補強用繊維を3〜8質量%、好ましくは4〜7質量%含有してなるものである。ここで、けい酸カルシウム板の針状ワラストナイトの含有量が30質量%未満の場合には、けい酸カルシウム板の吸水寸法変化率が大きくなるために好ましくない。また、針状ワラストナイトの含有量が60質量%を超えると、けい酸カルシウム板の強度が低下するために好ましくない。また、けい酸カルシウム板に補強用繊維を含有させることにより、けい酸カルシウム板に基材として要求される強度を付与することができる。ここで、主たるマトリックスがゾノトライトにより形成されるけい酸カルシウム板の代表的な補強用繊維はセルロースパルプ等である。補強用繊維の含有量が3質量%未満であると、基材としての強度が得られないことがあるために好ましくない。また、セルロースパルプのような補強用繊維は、可燃物であるため、その含有量が8質量%を超えると、けい酸カルシウム板の不燃性が不充分となる危険性があるので好ましくない。なお、本明細書において「主たるマトリックスがゾノトライトによって形成され」とは、けい酸カルシウム材を構成するマトリックスに、トバモライトのようなその他の鉱物が若干混入していても許容できることを意味するものである。
【0015】
更に、基材として使用されるけい酸カルシウム板は、見掛け密度が0.8〜1.1g/cm、好ましくは0.9〜1.0g/cmの範囲内にあるものが好ましい。見掛け密度が0.8g/cm未満であると、トンネル内装用パネルとして使用した場合の長期耐久性が低下する危険性があるために好ましくない。また、見掛け密度が1.1g/cmを超えると、熱伝導率が大きくなり、火災等が発生した時にトンネル内壁面に熱が伝わり易くなり、トンネル内壁を防護するための耐火材としては望ましくない。また、「そり」の発生を防止するためには、含水率が変化した場合の寸法の伸び縮みを小さくする必要があり、具体的には、けい酸カルシウム板の吸水寸法変化率が0.05%以下、好ましくは0.04%以下であることが好ましい。
【0016】
なお、本明細書において、「吸水寸法変化率」は、JIS A5430 6.7項の「吸水による長さ変化率試験」により測定したものである。
【0017】
ここで、見掛け密度が0.8〜1.1g/cmの範囲内にあるけい酸カルシウム板の平衡含水率は、およそ2〜5%程度である。基材であるけい酸カルシウム板が吸水して含水率が高くなった場合、トンネル内装用パネルの裏面側が伸びるので表面が凹状にそることになり、一方、けい酸カルシウム材が乾燥して含水率が低くなった場合、トンネル内装用パネルの裏面側が縮むので表面が凸状となる。いずれの場合であっても、吸水寸法変化率が0.05%以下であれば、平衡含水率状態からの寸法変化率は、およそその1/2であるので、そりの量はパネル長さ1mあたり15mm以下となり、実質的にそりの影響はなくなる。なお、基材となるけい酸カルシウム板の厚さは、必要とされる基材の耐火性能にもよるが、20〜40mm、好ましくは25〜30mmが好適である。
【0018】
視線誘導機能を有する表面材としては、硬質けい酸カルシウム板や金属板を基材とし、水ガラス系塗料のような無機系塗料を塗布したもの、琺瑯を施釉した金属板等を用いることができる。
ここで、硬質けい酸カルシウム板を基材とする視線誘導内装板に使用可能な硬質けい酸カルシウム板は、原料スラリーを抄造し、加圧成形した後、オートクレーブ養生することにより緻密化した硬質けい酸カルシウム系材料(見掛け密度が1.45〜1.75g/cm程度、好ましくは約1.6g/cm程度)である。なお、硬質けい酸カルシウム系材料の厚さは、3〜10mm、好ましくは4〜6mmの範囲内のものを使用することが好ましい。このような硬質けい酸カルシウム系材料は、その表面に、緻密且つ平滑で、耐久性並びに汚染洗浄性に優れた視線誘導機能を有する塗膜を形成することができる。なお、けい酸カルシウム板へのコーティングの厚さは、30〜80μm、好ましくは40〜50μm程度のものが好ましい。
【0019】
また、金属板を基材とする視線誘導機能を有する表面材としては、例えば琺瑯を施釉した金属板としては例えば琺瑯引き鉄板を使用することができる。ここで、基材となる金属板の厚さは、0.3〜1mm、好ましくは0.4〜0.5mmの範囲内のものを使用することが好ましい。また、琺瑯を施釉することにより形成されるコーティングの厚さは、30〜80μm、好ましくは40〜50μm程度のものが好ましい。
【0020】
基材であるけい酸カルシウム板と視線誘導機能を有する表面材を積層して一体化するための方法は、特に限定されるものではないが、接着剤を用いて積層することにより一体化することが好ましい。接着剤の種類としては、使用される表面材の種類にもよるが、例えばエポキシ樹脂系接着剤等を使用することができる。
【実施例】
【0021】
表1に示すけい酸カルシウム基材(厚さ27mmまたは25mm×幅600mm×長さ1200mm)を用い、その一面にエポキシ系接着剤を180g/mの量で塗布した後、視線誘導機能を有する表面材として無機塗装(厚さ45μm)を施した硬質けい酸カルシウム板[厚さ4mm、見掛け密度1.6g/cm:JIS A5430 6.3a)「けい酸カルシウム板タイプ1」に従って求めたものである]を貼り合わせることにより表面材をけい酸カルシウム基材上に積層して本発明品及び比較品のトンネル内装用パネルを得た。
得られたトンネル内装用パネルの諸特性を表1に併記する。
【0022】
【表1】

【0023】
表1において、
見掛け密度は、JIS A5430 6.3b)項の「けい酸カルシウム板タイプ3」に従って測定したものである。
吸水寸法変化率は、JIS A5430 6.7項の「吸水による長さ変化率試験」に従って求めたものである;
耐火性は、けい酸カルシウム基材の供試体(厚さ27mmまたは25mm×幅80mm×長さ150mm)を1000℃の電気炉中で3時間加熱し、次に、水中に浸漬して冷却した後、外観を目視にて観察したものである。○は、けい酸カルシウム基材に変化なし、△は、けい酸カルシウム基材に軽微な亀裂が認められる、×は、けい酸カルシウム基材に亀裂が認められる、をそれぞれ表す;
そり量は、得られたトンネル内装用パネルの表面材を表側にしてパネルの幅方向を横にして横方向に2枚、高さ方向に5枚、合計10枚のパネルをコンクリート壁に立て掛け、室温に1時間保持し、その間に0.5時間散水を行い(散水量パネル1mあたり2.5リットル/分)、次に、加熱用ランプを用いて60℃まで2時間掛けて昇温し、60℃に1時間保持した後、2時間掛けて室温まで降温する操作を1サイクルとし、この操作を100サイクル行った後、パネルの長さ方向のそり量(mm)を測定し、1mあたりのそり量(mm)に換算して表したものである。
長期耐久性は、上記そり量の測定を行った本発明品及び比較品のトンネル内装用パネルのけい酸カルシウム基材の様子を目視にて観察したものである。○は、けい酸カルシウム基材に異常なし、△は、けい酸カルシウム基材に軽微なフクレが認められる、×は、けい酸カルシウム基材にフクレが認められる、をそれぞれ表す。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のトンネル内装用パネルは、自動車用道路等のトンネル内装材として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たるマトリックスがゾノトライトによって形成され、針状ワラストナイトを30〜60質量%及び補強用繊維を3〜8質量%含有してなり、見掛け密度が0.8〜1.1g/cmの範囲内にあり、吸水寸法変化率が0.05%以下であるけい酸カルシウム板を基材とし、該基材の片面に、視線誘導機能を有する表面材を積層してなることを特徴とするトンネル内装用パネル。
【請求項2】
視線誘導機能を有する表面材は、琺瑯を施釉した金属板または無機塗装を施した硬質けい酸カルシウム板である、請求項1記載のトンネル内装用パネル。
【請求項3】
視線誘導機能を有する表面材が基材上に接着剤により接着されている、請求項1または2記載のトンネル内装用パネル。

【公開番号】特開2006−193899(P2006−193899A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3790(P2005−3790)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】