説明

トンネル磁気抵抗素子およびスピントランジスタ

【課題】強磁性半導体膜への効率的なスピン注入を可能とすること。
【解決手段】本発明は、InAsを含む強磁性半導体膜と、強磁性金属膜と、前記強磁性半導体膜と前記強磁性金属膜との間に設けられた絶縁膜と、を具備するトンネル磁気抵抗素子およびスピントランジスタである。本発明によれば、InAsを含む強磁性半導体膜を用いることにより、強磁性金属膜に印加される電圧が小さくとも強磁性半導体膜にキャリアをスピン注入することができる。よって、強磁性金属膜から強磁性半導体膜への効率的なスピン注入が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル磁気抵抗素子およびスピントランジスタに関し、特に、強磁性金属膜と強磁性半導体膜とを有するトンネル磁気抵抗素子およびスピントランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル磁気抵抗素子は、2つの強磁性導電性膜の間にキャリアがトンネル伝導可能な膜厚を有する絶縁膜を設けた素子である。強磁性導電性膜の一方を強磁性半導体膜とすることにより、半導体素子とトンネル磁気抵抗素子との集積化が可能となる。強磁性導電性膜の他方を強磁性金属膜とすることにより、スピン偏極したキャリアを強磁性半導体膜の伝導帯(または価電子帯)に注入すること(これをスピン注入)ができる。トンネル磁気抵抗素子は、2つの強磁性導電膜の相対的な磁化方向により磁気抵抗を変化させることができる。よって、半導体素子とトンネル磁気抵抗素子とを集積化することによりスピントランジスタを実現することができる。
【0003】
非特許文献1には、Ga1−xMnAs(以降、GaMnAs(ガリウムマンガン砒素)とも記載する)を含む半導体を用いたトンネル磁気抵抗素子が開示されている
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett., Vol. 89, p232502 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Ga1−xMnAsを含む半導体を用いたトンネル磁気抵抗素子においては、強磁性金属膜から強磁性半導体膜への効率的なスピン注入は困難である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、強磁性半導体膜への効率的なスピン注入が可能なトンネル磁気抵抗素子およびスピントランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、InAsを含む強磁性半導体膜と、強磁性金属膜と、前記強磁性半導体膜と前記強磁性金属膜との間に設けられた絶縁膜と、を具備することを特徴とするトンネル磁気抵抗素子である。本発明によれば、InAsを含む強磁性半導体膜を用いることにより、強磁性金属膜に印加される電圧が小さくとも強磁性半導体膜にキャリアをスピン注入することができる。よって、強磁性金属膜から強磁性半導体膜への効率的なスピン注入が可能となる。
【0008】
上記構成において、前記強磁性半導体膜と前記強磁性金属膜との間の逆方向耐圧は、前記強磁性半導体のエネルギーバンドギャップに対応する電圧より大きい構成とすることができる。この構成によれば、強磁性金属膜に強磁性半導体膜に対し電圧を印加していった場合、逆方向リーク電流が流れる前に、強磁性半導体膜にキャリアをスピン注入することができる。
【0009】
上記構成において、前記絶縁膜は、前記強磁性金属膜から前記強磁性半導体膜にキャリアがトンネル注入できるような膜厚を有する構成とすることができる。また、上記構成において、前記絶縁膜の障壁の高さは前記強磁性半導体膜のエネルギーバンドギャップより大きい構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記強磁性半導体膜は、InAsと砒化磁性元素とを含む構成とすることができる。また、上記構成において、前記強磁性半導体膜には、ドーパントが添加されている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記強磁性半導体膜の前記絶縁膜と反対側にドーパントを添加した非磁性半導体層を具備し、前記強磁性半導体膜は、ノンドープである構成とすることができる。
【0012】
本発明は、上記トンネル磁気抵抗素子を有するスピントランジスタである。本発明によれば、効率的なスピン注入が可能なスピントランジスタを提供することができる。
【0013】
本発明は、コレクタ層と、前記コレクタ層上に形成され、強磁性半導体膜を含むベース層と、InAsを含む強磁性半導体膜を含むエミッタ層と、前記強磁性半導体膜と前記強磁性金属膜との間に設けられた絶縁膜と、を具備することを特徴とするスピントランジスタである。本発明によれば、ベース層への効率的なスピン注入が可能なスピントランジスタを提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強磁性金属膜から強磁性半導体膜への効率的なスピン注入が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1に係るトンネル磁気抵抗素子の断面図である。
【図2】図2(a)および図2(b)は、実施例1に係るトンネル磁気抵抗素子のエネルギーバンド図である。
【図3】図3(a)および図3(b)は、比較例1に係るトンネル磁気抵抗素子のエネルギーバンド図である。
【図4】図4は、実施例2に係るトンネル磁気抵抗素子の断面図である。
【図5】図5は、実施例2係るトンネル磁気抵抗素子の製造条件を示す図である。
【図6】図6は、実施例2および比較例2に係るトンネル磁気抵抗素子の電流−電圧特性を示す図である。
【図7】図7は、実施例2における磁界の強さに対する磁気抵抗を示した図である。
【図8】図8(a)から図8(d)は、それぞれ図7における(a)〜(d)でのトンネル磁気抵抗素子の強磁性半導体膜および強磁性金属膜の磁化の方向を示した図である
【図9】図9は、実施例3に係るスピントランジスタの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を参照に説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1は、本発明の原理的な例である。図1は、実施例1の断面図である。InAsを含む強磁性半導体膜10と強磁性金属膜30との間にトンネル絶縁膜20が設けられている。強磁性半導体膜10は、例えば、InAs(インジウム砒素)と磁性元素(例えば、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Co(コバルト)またはNi(ニッケル))を含む。例えば、InAsと砒化磁性元素との混晶であり、例えば、In1−xMnAs(以降、InMnAs(インジウムマンガン砒素)とも記載する)である。さらに、InAsと砒化磁性元素と他のIII−V族化合物半導体との混晶でもよい。例えば、In1−x−yMnGaAsでもよい。また、複数の強磁性半導体膜の積層膜でもよい。
【0018】
絶縁膜20は、強磁性金属膜30から強磁性半導体膜10に伝導するキャリアに対し障壁を有しており、かつ強磁性金属膜30から強磁性半導体膜10にキャリア(電子またはホール)がトンネル注入できる膜厚を有する。絶縁膜20としては、例えば、ZnSe(亜鉛セレン)、MgO(酸化マグネシウム)、ZnTe(テルル化亜鉛)、AlSb(アンチモン化アルミニウム)、AlAs(砒素化アルミニウム)、AlO(酸化アルミニウム)またはGaO(酸化ガリウム)等である。強磁性金属膜30は、強磁性の金属膜であり、Fe、CoまたはNi等の単元素金属でもよいし、FeCo(鉄コバルト)、FeCoBo(鉄コバルトボロン)またはFeNi(パーマロイ)等の合金でもよい。また、複数の強磁性金属膜の積層膜でもよい。
【0019】
図2(a)から図3(b)を用い、実施例1の効果について説明する。図2(a)および図2(b)は、実施例1に係るトンネル磁気抵抗素子のエネルギーバンド図である。図3(a)および図3(b)は、比較例1に係るトンネル磁気抵抗素子のエネルギーバンド図である。実施例1の強磁性半導体膜10のエネルギーバンドギャップEg1は比較例1のエネルギーバンドギャップEg2より小さい。実施例1の強磁性半導体膜10は例えばInMnAsであり、比較例1の強磁性半導体膜10は例えばGaMnAsである。実施例1および比較例1とも強磁性半導体膜10はp型半導体の例を示している。図2(a)および図3(a)は、強磁性半導体膜10と強磁性金属膜30との間に電圧を印加しない場合を示し、図2(b)および図3(b)は、強磁性半導体膜10に対し強磁性金属膜30に負の電圧を印加した場合を示している。
【0020】
図2(a)のように、実施例1では、強磁性半導体膜10の価電子帯のトップ(単に価電子帯ともいう)Eと伝導帯のボトム(単に伝導帯ともいう)Eとの差であるエネルギーバンドギャップEg1は小さい。強磁性半導体膜10はp型のため、フェルミ準位Eは価電子帯E近くにある。強磁性半導体膜10と強磁性金属膜30との電位差はほぼ0のため、強磁性半導体膜10と強磁性金属膜30とのフェルミ準位Eはほぼ一致している。絶縁膜20の電子親和力は強磁性半導体膜10の電子親和力より小さい。すなわち、絶縁膜20の障壁の高さE(強磁性金属膜30の仕事関数と絶縁膜20の電子親和力の差)は強磁性半導体膜10のエネルギーバンドギャップEg1より大きい。これにより、絶縁膜20は強磁性金属膜30から強磁性半導体膜10へのキャリア(この場合は、強磁性半導体膜10の少数キャリアである電子)の障壁として機能する。
【0021】
図2(b)のように、強磁性金属膜30に強磁性半導体膜10に対し電圧−VB1を印加する。ここで、強磁性金属膜30のフェルミ準位Eが強磁性半導体膜10の伝導体Eより高くなると、強磁性金属膜30からキャリア40(電子)が絶縁膜20をトンネルし強磁性半導体膜10の伝導体Eに注入される。このとき、キャリア40は、強磁性金属膜30の磁化方向に応じスピン偏極している。強磁性半導体膜10内では、フェルミ準位Eは価電子帯Eの近くに位置しているため、スピン偏極したキャリア40を強磁性半導体膜10にスピン注入するためには、強磁性金属膜30に強磁性半導体膜10のエネルギーバンドギャップEg1に対応する電圧−VB1を印加することとなる。
【0022】
図3(a)のように、比較例1では、強磁性半導体膜10のエネルギーバンドギャップEg2が実施例1に比べ大きい。このため、図3(b)のように、強磁性金属膜30のキャリアを強磁性半導体膜10の伝導帯Eに注入するために強磁性金属膜30に印加する電圧−VB2は、図2(b)の実施例1より大きくなる。電圧VB2が強磁性半導体膜10と強磁性金属膜30との間の逆方向耐圧より大きくなると、強磁性金属膜30から強磁性半導体膜10にスピン偏極したキャリアが注入される前に、逆方向リーク電流が流れてしまう。これにより、強磁性半導体膜10への効率的なスピン注入が行なわれない。
【0023】
一方、実施例1によれば、強磁性半導体膜10のエネルギーバンドギャップEg1が小さいため、強磁性半導体膜10と強磁性金属膜30との間の逆方向耐圧を、エネルギーバンドギャップEg1に対応する電圧より大きくすることができる。これにより、強磁性金属膜30に強磁性半導体膜10に対し負の電圧を印加していった場合、逆方向リーク電流が流れる前に、強磁性半導体膜10にキャリアをスピン注入することができる。このように、InAsを含む強磁性半導体膜を用いることにより、強磁性金属膜に印加される電圧が小さくとも強磁性半導体膜にキャリアをスピン注入することができる。よって、強磁性金属膜30から強磁性半導体膜10への効率的なスピン注入が可能となる。
【0024】
InAsはエネルギーバンドギャップが小さい半導体である。そこで、強磁性半導体膜10としてInAsを含む半導体膜を用いることにより、強磁性金属膜30から強磁性半導体膜10への効率的なスピン注入が可能となる。
【0025】
図2(a)から図3(b)においては、ドーパントが添加された強磁性半導体膜10の例としてp型半導体の例を説明したが、強磁性半導体膜10はn型半導体でもよい。強磁性半導体膜10がp型の場合は、強磁性半導体膜10の伝導帯に少数キャリアである電子が注入され、強磁性半導体膜10がn型の場合は、強磁性半導体膜10の価電子帯に少数キャリアであるホールが注入される。
【実施例2】
【0026】
実施例2は、作製したトンネル磁気抵抗素子の例である。図4は、作製した実施例2に係るトンネル磁気抵抗素子の断面図である。図5は、実施例2のトンネル磁気抵抗素子の各層の材料、膜厚およびホール濃度を示している。図4および図5のように、基板50上に、緩衝膜52、強磁性半導体層10、絶縁膜20、強磁性金属膜30およびキャップ膜54が順次積層されている。基板50は、(001)面を主面とするp型GaAsであり、Zn(亜鉛)をドーパントとし、ホール濃度は1×1018cm−3である。緩衝膜52は、基板50と強磁性半導体膜10との格子定数差を緩和する層である。緩衝膜52は、基板50上に形成されたp型AlSb0.8As0.2層と、AlSbAs(アルミニウムアンチモン砒素)層上に形成されたp型In0.7Ga0.3As層とを有している。p型AlSbAs層は、膜厚が50nm、Be(ベリリウム)をドーパントとし、ホール濃度が1×1019cm−3である。p型InGaAs層は、膜厚が30nm、Beをドーパントとし、ホール濃度が1×1019cm−3である。
【0027】
強磁性半導体膜10は、In0.9Mn0.1Asであり、膜厚が6nmである。絶縁膜20はZeSeであり膜厚が3nmである。強磁性金属膜30は、下から膜厚が10nmのFe膜と膜厚が10nmのCo膜の積層膜である。キャップ膜54は、強磁性金属膜30の保護と、強磁性金属膜30との電気的な接触のための膜であり、膜厚が30nmのAu(金)膜である。
【0028】
各層の成膜は、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用いた。MBE装置は、III−V族半導体用チャンバ、II−VI族半導体用チャンバおよび金属膜用チャンバを有している。III−V族半導体用チャンバは緩衝膜52、強磁性半導体膜10の成膜に用いた。II−VI族半導体用チャンバは、絶縁膜20の成膜に用いた。金属膜用チャンバは強磁性金属膜30およびキャップ膜54の成膜に用いた。各チャンバ間は搬送室で連結されている。これにより、各層は大気に曝すことなく超高真空中で一貫して成膜することができる。FeとCo用のセルは電子銃、その他のソースはクヌーセンセルを用いた。
【0029】
比較例2として、強磁性半導体膜10として膜厚が6nmのGa0.9Mn0.1Asを用い、他の層は図5と同じトンネル磁気抵抗素子を作製した。
【0030】
図6は、実施例2および比較例2に係る磁気抵抗素子において電流−電圧特性を測定した結果を示した図である。電圧は、基板50に対しキャップ膜54に印加した電圧(すなわち、強磁性半導体膜10に対し強磁性金属膜30に印加した電圧)であり、強磁性半導体膜10のエネルギーバンドギャップで規格化している。ここで、実施例2および比較例2の強磁性半導体膜10のエネルギーバンドギャップはそれぞれ0.4eVおよび1.5eVである。図2(b)で説明したように、規格化電圧が−1.0以下(絶対値が以上)において、強磁性金属膜30から強磁性半導体膜10へのスピン注入が可能となる。比較例2においては、規格化電圧を0から負に印加していくと規格化電圧が−1.0となる前に大きな電流が流れてしまう。これは、比較例2においては、逆方向耐圧が強磁性半導体膜10のエネルギーバンドギャップに対応する電圧より小さいため、逆方向リーク電流が流れてしまうためにである。このように、比較例2では、強磁性半導体膜10にスピン注入する前にリーク電流が流れてしまう。
【0031】
一方、実施例2においては、0Vから負に電圧を印加していくと規格化電圧が−1.0あたりから電流が流れはじめている。このように、実施例2では、リーク電流が流れる前に、強磁性金属膜30から強磁性半導体膜10へのキャリアのスピン注入が可能となる。
【0032】
作製した実施例2に係るトンネル磁気抵抗素子を用い、10Kにおいて磁気抵抗曲線を測定した。図7は、磁界の強さに対する素子抵抗を示した図である。図8(a)〜図8(d)は、それぞれ図7における(a)〜(d)での強磁性半導体膜10および強磁性金属膜30の磁化の方向を示した図である。
【0033】
図7および図8(a)のように、磁界の強さが1000Oeでは、強磁性半導体膜10および強磁性金属膜30は同じ方向に磁化している。すなわち平行磁化状態である。よって、トンネル磁気抵抗素子の抵抗変化率は小さい。図8(b)のように、磁界の強さを小さくし、磁界の強さを負とすると、強磁性半導体膜10および強磁性金属膜30のうち保磁力の小さい一方(図8(b)では強磁性半導体膜10)の磁化が反転する。これにより、強磁性半導体膜10と強磁性金属膜30との磁化方向が異なり、反平行状態となる。よって、トンネル磁気抵抗素子の抵抗変化率が大きくなる。
【0034】
図8(c)のように、磁界の強さをさらに小さくすると、強磁性金属膜30の磁化が反転する。これにより、強磁性半導体膜10と強磁性金属膜30との磁化方向は平行状態となる。よって、トンネル磁気抵抗素子の抵抗変化率が小さくなる。図8(d)のように、磁界の強さを大きくし、磁界の強さを正とすると、強磁性半導体膜10の磁化が反転する。これにより、強磁性半導体膜10と強磁性金属膜30との磁化方向は反平行状態となり、抵抗変化率は大きくなる。さらに、磁界の強さを大きくすると、図8(a)に戻り、強磁性金属膜30の磁化が反転し、抵抗変化率は小さくなる。実施例2では、磁気抵抗変化率は14%であった。なお、磁気抵抗変化率は、[R(H)−Rp]/Rp×100(%)で定義される。ここで、R(H)は磁界H中での素子抵抗、Rpは上下の磁性膜の磁化方向が完全に平行に揃った時の素子抵抗である。
【0035】
以上のように、強磁性半導体膜10としてInMnAsを用いることにより、良好なトンネル磁気抵抗素子を形成することができた。
【0036】
なお、強磁性半導体膜10へのドーピングが難しい場合、図5のように、強磁性半導体膜10は、ノンドープとし、強磁性半導体膜10の絶縁膜20と反対側の非磁性半導体膜(緩衝膜52)にドーパントを添加してもよい。非磁性半導体膜としてp型半導体膜の例を説明したが、非磁性半導体膜はn型半導体膜でもよい。
【実施例3】
【0037】
実施例3は、実施例1または2に係るトンネル磁気抵抗素子を用いたスピントランジスタの例である。実施例3は、Appl. Phys. Lett., Vol. 89, p232502に記載されているスピントランジスタに実施例1または2に係るトンネル磁気抵抗素子を適用した例である。図9は、実施例3に係るスピントランジスタの断面模式図である。図9を参照し、コレクタ層60上にベース層62、ベース層62上に絶縁膜64を挟みエミッタ層66が形成されている。コレクタ層60は第1導電型(例えば、n型)の半導体層である。ベース層62は、実施例1または2の強磁性半導体膜10を含む。ベース層62全体が強磁性半導体膜でもよいが、例えば、ベース層62の絶縁膜64側が強磁性半導体膜であり、コレクタ層60側は非磁性半導体膜でもよい。ベース層62の少なくとも一部の層は第1導電型と反対の第2導電型(p型)の半導体層である。絶縁膜64は、実施例1または実施例2の絶縁膜20である。エミッタ層66は、実施例1または実施例2の強磁性金属膜30を含む。エミッタ層66全体が強磁性金属膜でもよいが、例えば、エミッタ層66の絶縁膜64側が強磁性金属膜であり、他方側は非磁性金属膜でもよい。
【0038】
実施例3では、エミッタ層66の強磁性金属膜からベース層62の強磁性半導体膜に、スピン偏極された少数キャリアが注入される。強磁性金属膜と強磁性半導体膜とが平行磁化または反平行磁化かにより、強磁性金属膜と強磁性半導体膜との間の抵抗を変化させることができる。以上のように、実施例1または実施例2をスピントランジスタに用いることにより、効率的なスピン注入が可能となる。なお、実施例3以外の構造のスピントランジスタに実施例1または2を用いることもできる。
【0039】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 強磁性半導体膜
20 絶縁膜
30 強磁性金属膜
52 緩衝膜
60 コレクタ層
62 ベース層
64 絶縁膜
66 エミッタ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
InAsを含む強磁性半導体膜と、
強磁性金属膜と、
前記強磁性半導体膜と前記強磁性金属膜との間に設けられた絶縁膜と、
を具備することを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記強磁性半導体膜と前記強磁性金属膜との間の逆方向耐圧は、前記強磁性半導体のエネルギーバンドギャップに対応する電圧より大きいことを特徴とする請求項1記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記絶縁膜は、前記強磁性金属膜から前記強磁性半導体膜にキャリアがトンネル注入できるような膜厚を有することを特徴とする請求項1または2記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記絶縁膜の障壁の高さは前記強磁性半導体膜のエネルギーバンドギャップより大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記強磁性半導体膜は、InAsと砒化磁性元素とを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記強磁性半導体膜には、ドーパントが添加されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記強磁性半導体膜の前記絶縁膜と反対側にドーパントを添加した非磁性半導体層を具備し、
前記強磁性半導体膜は、ノンドープであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載のトンネル磁気抵抗素子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項記載のトンネル磁気抵抗素子を有するスピントランジスタ。
【請求項9】
コレクタ層と、
前記コレクタ層上に形成され、強磁性半導体膜を含むベース層と、
InAsを含む強磁性半導体膜を含むエミッタ層と、
前記強磁性半導体膜と前記強磁性金属膜との間に設けられた絶縁膜と、
を具備することを特徴とするスピントランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−29573(P2011−29573A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203971(P2009−203971)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 第56回応用物理学会関係連合講演会講演予稿集 No.2 主催者名 社団法人応用物理学会 発行日 平成21年3月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構委託研究「強磁性金属/半導体界面制御によるスピントランジスタの創製」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】