説明

トーションダンパ

【課題】 捩り振動吸収装置におけるコイルスプリング内に遊挿されるトーションダンパの破損を防止する。
【解決手段】 コイルスプリングの線間スキマを考慮し、トーションダンパのガイド部の長さを、長く設定できる形状とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捩じり振動吸収装置のトーションダンパに関するものであり、特に燃焼機関、電動モータのトルク変動を吸収するために、フライホイール、クラッチディスクまたは駆動軸系中に用いられる振動吸収装置のトーションダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の捩じり振動吸収装置用のトーションダンパとして、特開平9−229138号公報の捩じり振動吸収装置に開示されるトーションダンパがある。このトーションダンパは、駆動源に連結されるドライブプレートと被駆動源に連結されるドリブンプレートとの間に配設される弾性手段として、相対回転方向に配置されるコイルスプリングの内部に遊嵌され、弾性樹脂材料から成形される略円筒形状をしたクッションである。トーションダンパの外径のガイド部は、滑らかなコイルスプリングの伸縮を許容するため、コイルスプリングの内径に対して所定のクリアランス分小さく形成されている。また、トーションダンパの圧縮時に圧縮により外側へ変形した部分がコイルスプリングに接触しないように、中央部が両端部よりも小径に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−229138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されるトーションダンパは、圧縮時の中央部の変形を考慮して中央部を小径とし、ガイド部を両端に設ける構成のため、必要な弾性部の長さを確保し、且つ、ガイド部の軸方向への長さを確保するには限界があった。
【0005】
一方、このようなトーションダンパを備えるフライホイールダンパやクラッチディスクに代表される捩り振動吸収装置は、高トルク性能化等のため、ドライブプレートとドリブンプレートの相対捩り角度が拡大され、トーションダンパの長さを短くするか、或はダンパ機構に用いられるコイルスプリングの巻きピッチを大きく設定する必要性が生じる。また、ばね特性を圧縮量によって可変にするコイルスプリングでは、巻きピッチが不等にされており、巻きピッチが大きく設定される箇所がある。
【0006】
これらの場合、図8に示すように、圧縮されていないときのコイルスプリングの線間スキマdにトーションダンパ110が落ち込み、コイルスプリング10の圧縮時にトーションダンパが破壊される虞がある。
【0007】
そこで本発明は、上記の問題点を解決する捩じり振動吸収装置のトーションダンパを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するために請求項1において講じた技術的手段は、駆動源に連結するドライブプレートと被駆動源に連結するドリブンプレートとに設けられた窓孔内に配設されるコイルスプリングの内部に遊挿され、前記コイルスプリングの内径に対して、所定のクリアランスをもって形成されるガイド部と、前記ドライブプレートと前記ドリブンプレートの所定角度相対回転時に、前記ドライブプレートと前記ドリブンプレートに直接的または間接的に当接し、前記ドライブプレートと前記ドリブンプレート間の衝撃トルクを伝達するクッション部と、を有するトーションダンパにおいて、前記ガイド部の内側に前記ガイド部と一体的に前記クッション部が形成されるとともに、前記ガイド部と前記クッション部との間に軸方向に延在する空間が形成されることとした。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、トーションダンパにおいて、ドライブプレートとドリブンプレートとに間接的または直接的に当接して圧縮され、ドライブプレートとドリブンプレート間のトルク伝達をし、当接時のショック(衝撃トルク)を緩和するクッション部を内側に配置し、外側にトーションダンパのガイド部を配置する構成としたので、トーションダンパの外径部に、コイルスプリングの線間スキマに対して十分な長さのガイド部を配設することができて、コイルスプリングの線間スキマに落ち込むことが回避されたトーションダンパを提供できる。また、トーションダンパの内側にクッション部を設けているため、クッション部とガイド部の間に、トーションダンパの圧縮による変形を考慮した空間を配設でき、クッション部が圧縮されても、ガイド部の外径には影響がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のトーションダンパを用いた捩じり振動吸収装置の一実施の形態を示す図である。
【図2】図1のX−X断面図である。
【図3】本発明に係わるトーションダンパの一実施を示す正面図および断面図(AA)である。
【図4】本発明に係わるトーションダンパの他の実施を示す断面図である。
【図5】本発明に係わるトーションダンパの他の実施を示す断面図である。
【図6】トーションダンパの他の実施を示す側面図である。
【図7】トーションダンパの他の実施を示す側面図である。
【図8】従来のトーションダンパの不具合示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び図2は、本発明のトーションダンパが適用される車両のエンジンと変速機との間に配設される捩り振動吸収装置の一例であるディスクダンパ1を示している。図1はディスクダンパの一部を切欠いた正面図、図2は図1におけるX−X断面図である。ディスクダンパ1の外周部の両面に接着固定(リベット固定でも可能である)された摩擦部材21、22が、駆動源であるエンジンのクランクシャフトに連結されたフライホイール(図示せず)と、フライホイールにボルト固定された伝達トルクを制限する役割を果たすリミッターの皿バネに付勢されたプレッシャプレート(図示せず)と、に挟持され摩擦係合により、フライホイールと一体的に回転する。一方、ディスクダンパ1のハブ30は、従動要素(被駆動源)である変速機のインプットシャフト(図示せず)とスプライン嵌合している。従って、ディスクダンパ1は、フライホイールとインプットシャフト間に発生するトルクを伝達する。
【0012】
ダンパディスク1のハブ30は、径方向に延在するフランジ部31を有している。フランジ部31の外周部には、円周上複数箇所(等分4箇所)にコイルスプリング10を収容する収容部32が形成されており、収容部32の両端にシート40を介してコイルスプリング10を収容する。そして、コイルスプリング10の内部にトーションダンパ100が遊挿される。また、ハブの回転時に収容部32の壁33にて、シート40を介してコイルスプリング10を押圧する。
【0013】
ディスクダンパ1のドライブプレート51の外周部の両面には、摩擦材21、22がリベットによりかしめ固定されている。また、ドライブプレート51は摩擦材21、22より内周側にてサブドライブプレート52とリベット53でかしめ固定されており、ドライブプレート51とサブドライブプレート52で、ハブ30のフランジ部31、およびコイルスプリング10を挟み込む。ドライブプレート51とサブドライブプレート52は、軸受けの役割も果たすブッシュ、スラスト部材60を介して、略同軸に、相対回転可能に、ハブ30に軸支される。一体的に構成されるドライブプレート51とサブドライブプレート52は、ハブ30のフランジ部31に形成されるコイルスプリング10を収容する収容部32に対応して、略円周方向または接線方向に延びる窓孔54、55が形成され、シート40を介してコイルスプリング10を収容する。この窓孔54、55も、ハブ30の収容部と同様に、ドライブプレート51の回転時に、壁56、57にてシート40を介してコイルスプリング10を押圧する。
【0014】
このように構成されたダンパディスク1のトルク伝達について説明する。自動車の加速時などに、エンジンやモータからフライホイールに伝達されたトルクは、摩擦材21、22がフライホイールとプレッシャプレートに挟持され発生する摩擦係合力により、ドライブプレート51とサブドライブプレート52に伝達され、ドライブプレート51とハブ30の間に相対回転が発生し、窓孔54、55の壁56、57がシート40を介してコイルスプリング10の一端を押圧しコイルスプリング10を圧縮する。圧縮されたコイルスプリング10の他端は復元力によりシート40を介して、ハブ30のフランジ部31に形成された収容部32の壁33を押圧し、トルクをハブ30に伝達する。そしてトルクは変速機のインプットシャフトに入力される。一方、減速時などに発生する逆向きのトルクもハブ30から、コイルスプリング10を介して逆の経路でドライブプレート51に伝達される。
【0015】
さらに、トルク伝達において、自動車のシフトチェンジや駆動源の発生する急なトルクアップなどによるエンジンとインプットシャフト間に生じた急激なトルク変動により、ドライブプレート51とハブ30の相対回転は大きくなる。この場合、相対回転が進み、相対回転角度が所定値に達すると、コイルスプリング10の両端部に配置されたシートの当接部41とトーションダンパ100が当接し、トーションダンパ100が弾性変形して、トルクはトーションダンパ100を介して伝達される。また、当接時に発生する衝撃トルクは、トーションダンパ100の弾性によりピーク値が抑制される。
【0016】
本発明の要部であるトーションダンパ100について詳述する。トーションダンパ100は、弾性樹脂(例えば、熱可塑性ポリエステル・エストラマーなどが揚げられる)から、射出成形される概して円筒状のクッションである。トーションダンパ100の外径は、コイルスプリング10の内径より小さく(例えば直径で0.6mm程度小さく)形成されており、コイルスプリング10の内部に遊挿される。トーションダンパ100は、ドライブプレート51とハブ30の相対回転が所定値に達すると、シートの当接部41と当接し弾性変形してトルクを伝達するとともに、トーションダンパ100の弾性により当接時のショックを緩和する。また、圧縮された際の変形量を考慮して小径部が形成される。
【0017】
以下、トーションダンパの実施例について説明する。
【0018】
図3はトーションダンパ300の形状を示しており、図3(a)は正面図、図3(b)は(a)のA−Aに沿う断面図である。トーションダンパ300は、両端にガイド部301がコイルスプリングの線間スキマを考慮して設定されており、さらに、クッション部302に円周上に延在し軸方向に貫通する空間303が、一端に4箇所形成される。トーションダンパ300の圧縮時には、この空間303に変形部が侵入し、ガイド部301の外径変化が抑制される。
【0019】
図4は別の実施形態であるトーションダンパ400の断面図を示しており、両端にガイド部401がコイルスプリングの線間スキマを考慮して設定され、ガイド部402の中央側とクッション部402との間に円周上に空間403が設けられる。
【0020】
図5は別の実施形態であるトーションダンパ500の断面図を示しており、中央部からクッション部502と延在してガイド部501がコイルスプリングの線間スキマを考慮して形成され、両端に開口して空間504が設けられる。
【0021】
図6は別の形態であるトーションダンパ600の側面図を示しており、両端のガイド部601からガイド部の外周と同じ外径をなすリブ604が一端で4箇所、中央部にむかってコイルスプリングのスキマに落ち込まないように形成される。また、トーションダンパ600が圧縮された際には、リブ604が形成されていない箇所が変形部を許容して、ガイド部601の変形が抑制される。
【0022】
図7は別の形態であるトーションダンパ700の側面図を示しており、一端のガイド部701から多端のガイド部701へリブ704が延在する構成であり、中央部に切欠が設けられ、リブ704が形成されていない箇所が変形部を許容して、ガイド部701の変形が抑制される。
【0023】
以上、複数の本発明に関するトーションダンパの形状を例示したが、形状はこれらに限定されるものではなく、本発明に基づき、コイルスプリングの線間スキマを考慮した構成、形状であるなら、本発明の適用範囲内である。
【符号の説明】
【0024】
1 ・・・捩り振動吸収装置
10・・・コイルスプリング
40・・・シート
41・・・当接部
110、100、200、300、400、500、600、700・・・トーションダンパ
101、201、301、401、501、601、701・・・ガイド部
102、202、302、402、502、602、702・・・クッション部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に連結するドライブプレートと被駆動源に連結するドリブンプレートとに設けられた窓孔内に配設されるコイルスプリングの内部に遊挿され、前記コイルスプリングの内径に対して、所定のクリアランスをもって形成されるガイド部と、
前記ドライブプレートと前記ドリブンプレートの所定角度相対回転時に、前記ドライブプレートと前記ドリブンプレートに直接的または間接的に当接し、前記ドライブプレートと前記ドリブンプレート間の衝撃トルクを伝達するクッション部と、
を有するトーションダンパにおいて、
前記ガイド部の内側に前記ガイド部と一体的に前記クッション部が形成されるとともに、前記ガイド部と前記クッション部との間に軸方向に延在する空間が形成されることを特徴とするトーションダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−174720(P2009−174720A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114550(P2009−114550)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【分割の表示】特願2003−339351(P2003−339351)の分割
【原出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】