説明

ドリルビット

【課題】
ダイヤモンド砥粒の取付部のボディ形状を改良することにより、ダイヤモンド砥粒が剥離し難いドリルビットを提供する。
【解決手段】
円柱状のボディ2の先端にダイヤモンド砥粒5を溶着するドリルビットであって、ボディ2の先端部の一部分が、先端面に対して軸方向後方に後退する後退面2bとなるように形成し、後退面2bにおいてダイヤモンド砥粒5を先端面よりも多く積層して多層にした。ボディ2には、先端部から軸方向後方に延びるキー溝が形成され、キー溝の先端側開口面の一部又は全部が後退面2bに含まれるような位置関係にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート、モルタル、タイルなどの穴あけに使用され、回転動作のみで穿孔可能なダイヤモンド砥粒を用いたドリルビットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート、モルタル、タイルなどの穴あけに使用されるダイヤモンド砥粒を用いたドリルビットは、大径穴の穿孔に使用されるコア形と、細径穴の穿孔に使用されるノンコア形とがあり、穿孔刃がダイヤモンド砥粒と金属粉末の焼結体で形成される。ダイヤモンド砥粒の保持力と穿孔刃の強度を保つため、穿孔刃に含有されるダイヤモンド砥粒の体積含有率は5〜15Vol%程度であり、含有率が低い。このため切れ味が劣り、コンクリート等へ穿孔するには、ビットの回転動作のみでは穿孔が困難となるため、回転動作に加えて振動動作を与える振動ドリル、打撃動作を与えるハンマドリルなどの専用電動工具に取り付けて使用されることが多かった。その場合、振動、打撃による騒音を伴っていた。
【0003】
これに対し特許文献1によれば、ドリルビットの金属ボディの先端に一条のスリットを設け、金属ボディの外周面及び先端面にろう付用合金(ろう材)を溶融してダイヤモンド砥粒を固着させる(溶着)ようにしたドリルビットが開示されている。このドリルビットは、コンクリートや石材などに代表される硬脆材に対して孔あけ作業を行う場合に、冷却水またはその他の加工液を用いずに、通常のドリルに装着するだけで容易に操作することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−108117号公報
【0005】
従来の回転動作用のノンコアタイプのドリルビットの場合、切り粉排出を良好にするためにキー溝が設けられ、穿孔刃を形成するダイヤモンド砥粒は単層になるように溶着されていた。ここで、従来のノンコア型のドリルビットを、図6〜図10を用いて説明する。
【0006】
図6は、従来のノンコア型のドリルビット101の正面図である。ドリルビット101を構成する部材は、円柱状のベース部分を構成する金属製のボディ102と、後端側に形成される取付部110と、ボディ102と取付部110の間に形成される円盤状のツバ部112と、ボディ102の先端部に設けられる穿孔刃103によって構成される。取付部110は、駆動源となる動力工具に取り付けるために断面が六角形の、いわゆる六角軸であり、例えば、ドリルビット101を電動ドリル、インパクトドライバ、ハンマドリルなどの駆動用工具の六角取付口に装着することができる。六角形状の中心軸に対称な対辺間の間隔は例えば6.35mmであって、軸方向の長さ(上下方向長さ)は30mm程度である。また、取付部110の軸方向(上下方向)の中央付近に、円周方向に連続した窪み部111を形成して、インパクトドライバ等のいわゆるワンタッチ取り付け機構のボールが嵌合できるように構成した。窪み部111の最細部の直径は、例えば5mmである。
【0007】
ツバ部112は、穿孔作業中に発生する粉塵がインパクト工具などの動力工具や作業者側に直接飛散するのを低減させる役目を果たすものであり、ボディ102及び取付部110の直径よりも大きい直径を有する。ボディ102の直径は、被削材にあける穴の大きさによって決定される。例えば、直径5mm程度から直径40mm以上の大径のボディ102まで、様々なサイズのドリルビット101が提供される。穿孔作業においては、ドリルビット101を低速で回転させると好ましく、例えば毎分1,000〜3、000回転程度で回転させる。
【0008】
穿孔刃103は、例えば砥粒を単層に並べて溶着させた単層構造からなるものである。ボディ102の側面には、らせん状の突起113が形成される。らせん状の突起113は、ボディ102と一体で構成されると好ましい。らせんの向きは、通常のドリル刃と同じように回転方向に対して切削粉を後端側に引き出すような回転方向とする。突起113の製造方法は、規定の厚さよりも肉厚の円筒形のボディ102から、らせん状に突起113の部分を残すように削り出すことによって製造する。尚、突起113の外径は、穿孔刃103の外径(切削径)よりやや小さく構成すると良い。ボディ102の穿孔刃103付近には軸方向に延びるキー溝106が形成される。
【0009】
図7は、従来のドリルビット101の底面図である。円柱状のボディ102の先端面(底面)にはダイヤモンド砥粒がろう材で固定された穿孔刃103が形成される。穿孔刃103の先端面(底面)は、略円形であるがキー溝106の部分には穿孔刃103が形成されないため、切り欠き部103aとなっている。
【0010】
図8は、図6のドリルビット101のC−C部の断面図である。ドリルビット101は、例えば鉄系合金の削り出しによって製造された一体構成の部材に穿孔刃103が溶着されたものである。ボディ102のおおよそ下半分にはキー溝106が形成される。キー溝106は、穿孔刃103によって切削された切削粉を効率よく排出するように設けられるもので、軸方向(上下方向)に延びるように先端面(底面)から形成される。
【0011】
図9は、穿孔刃103のボディ102への溶着状態を説明するための概略図である。軸方向に延びるキー溝106を有した円柱状のボディ2の先端にダイヤモンド砥粒5がろう材によって固定される。穿孔刃103を固定するためのボディ102の先端面(下端面)102aは平坦に形成される。穿孔刃103は先端面102aの下部だけでなく、ボディ102の先端付近の外周部にも固定される。図10は図9のD−D部の断面図である。ボディ102にはろう材104が塗布され、ろう材104にはダイヤモンド砥粒5が単層に固定される。尚、図10では図示されないが、ろう材104はキー溝106の溝枠に沿って形成されるため、穿孔刃103の側面外周は連続せずにキー溝106の所で分離される形状となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術におけるドリルビット101では、電動ドリル等を用いて回転動作のみで穿孔した場合、キー溝106近傍に固定されたダイヤモンド砥粒105が、回転動作によるせん断力を受けて欠けや剥離を起こしやすいという欠点があり、ドリルビット101の更なる寿命の向上の阻害要因になるという欠点があった。
【0013】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、穿孔寿命を改善することができるダイヤモンド砥粒を用いたドリルビットを提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、穿孔効率を大幅に向上させたダイヤモンド砥粒を用いたドリルビットを提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、ダイヤモンド砥粒が取り付けられる領域のボディ形状を改良することにより、ダイヤモンド砥粒が剥離し難くしたドリルビットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0017】
本発明の一つの特徴によれば、円柱状のボディの先端にダイヤモンド砥粒を溶着するドリルビットであって、ボディの先端部の一部分が、先端面に対して軸方向後方に後退する後退面となるように形成し、後退面においてダイヤモンド砥粒を先端面よりも多く積層、例えば多層に固着した。ボディには、先端部から軸方向後方に延びるキー溝が形成され、キー溝の先端側開口面の一部又は全部が後退面に含まれるような位置関係になるようにキー溝が形成される。
【0018】
本発明の他の特徴によれば、後退面は、ボディの軸方向投影面積で半分以下の領域に形成され、キー溝の先端側開口面が後退面内に位置する。また後退面は、ボディの先端面から接続される傾斜面で形成される。この際、キー溝の周方向の開口と後退面の外周側交差部分は、先端面に比べて最も後退した位置となるように後退面が形成される。
【0019】
本発明のさらに他の特徴によれば、後退面は、ボディの先端面から軸方向後方に後退する段差状に形成される。この段差は1段または多段の階段状に形成すると良い。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、軸方向に延びるキー溝を有した円柱状ボディの先端にダイヤモンドを溶着するドリルビットにおいて、ボディの先端部の一部分が、先端面に対して軸方向後方に後退する後退面となるように形成し、後退面においてダイヤモンド砥粒を先端面よりも多く積層したので、後退面のダイヤモンド砥粒が回転動作によるせん断力を受けて欠けや剥離を起こしても、下層ダイヤモンド砥粒が自生するため、長期にわたり良好な穿孔性能を持続することができる。
【0021】
請求項2の発明によれば、キー溝の先端側開口面の一部又は全部が後退面に含まれるようにキー溝が形成されるので、回転動作によるせん断力を受けて欠けや剥離を起こしやすいキー溝近傍のダイヤモンド砥粒を補充することができる。
【0022】
請求項3の発明によれば、後退面は、ボディの軸方向投影面積で半分以下の領域に形成され、キー溝の先端側開口面が後退面内に位置するので、キー溝近傍のみを多層化することで、全面を多層化することに比べて高価なダイヤモンド砥粒の使用量を抑えることができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、後退面はボディの先端面から接続される傾斜面で形成されるので、周速の早い外周側を意図的に多層化することができる。また、ボディの機械加工を容易に行うことができ、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0024】
請求項5の発明によれば、キー溝の周方向の開口と後退面の外周側交差部分は、先端面に比べて最も後退した位置となるので、欠けや剥離を起こしやすい交差部分におけるダイヤモンド砥粒の厚さを最も厚くすることができる。
【0025】
請求項6の発明によれば、後退面は、ボディの先端面から軸方向後方に後退する段差状に形成されるので、ボディの段差加工が容易にでき、均一の厚さを有するダイヤモンド砥粒の多層配置を実現できる。
【0026】
請求項7の発明によれば、段差は1段であるのでボディの機械加工の増加を最小に抑えることができる。
【0027】
請求項8の発明によれば、段差は多段であるので周速が高くて欠けや剥離を起こしやすい外周部分のダイヤモンド砥粒の厚さを段階的に厚くすることができる。
【0028】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例に係るドリルビット1のボディ2及び穿孔刃3の形状を示す部分斜視図である。
【図2】図1のA−A部の断面図である。
【図3】本発明の実施例に係るドリルビット1の製造手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2の実施例に係るドリルビット41のボディ2及び穿孔刃3の形状を示す斜視図である。
【図5】図4のB−B部の断面図である。
【図6】従来のノンコア型のドリルビット101の正面図である
【図7】従来のドリルビット101の底面図である。
【図8】図6のドリルビット101のC−C部の断面図である。
【図9】従来のドリルビット101のボディ102及び穿孔刃103の形状を示す部分斜視図である。
【図10】図9のD−D部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0030】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0031】
図1は本発明の実施例に係るドリルビット1のボディ2及び穿孔刃3の形状を示す部分斜視図であり、図1ではドリルビット1を倒立させた状態で先端部分(前端部分)を図示している。本実施例のドリルビット1の基本形状は、異なる参照符号を付した部分を除いて図6〜図10で説明した形状と同一形状である。本実施例では図1に示すように、円柱状のボディ2の先端部のキー溝6の開口部近傍を、軸方向と垂直に形成される先端面2aに対して斜めに傾斜するように形成される後退面(傾斜面)2bで形成した。先端面2aはボディ2の軸方向と垂直な断面の半分を占め、半円状の形状である。一方、後退面2bは、先端面2aに隣接して形成され、先端面2aから離れるにつれて後退距離が大きくなるように形成される。また、後退面2bの中央部分には、キー溝6の先端側開口面が位置するので、後退面2bは2つに分割されることになる。本実施例においては、キー溝6の先端側開口面(略長方形)が、後退面2bの位置する半円状の部分にすべて含まれるように配置される。
【0032】
このように片側半面に後退面2bが形成されたボディ2の先端部分に、ろう材4とダイヤモンド砥粒5から構成される穿孔刃3が形成されるが、穿孔刃3の形状は、外見から見る限り図6〜図8で説明した従来の形状と同一になるように形成される。即ち、図1に示すように穿孔刃3の先端面(下側面)は略円形の平面となるように構成される。このため、後退面2b部分には、先端面2aよりもダイヤモンド砥粒5を多く積層する。
【0033】
このダイヤモンド砥粒5を多層構造とした状態を示すのが図2である。図2は図1のA−A部の断面図である。図2に示すように、ボディ2の先端部分は、軸方向中心線と垂直な先端面2aと、先端面2aに対して軸方向後方に後退して形成される後退面2bにより形成される。傾斜させる後退面2bの後退量は、ダイヤモンド砥粒5の平均粒径の2〜3倍程度が好ましく、本実施例においては、ボディ2の直径が6mmで、直径0.6mmのダイヤモンド砥粒5を用いたドリルビット1において、最大後退量dを1.2mmとした。本実施例では先端面2aを軸方向に投影した面積(軸方向投影面積)と、後退面2bの軸方向投影面積は等しく形成されるが、必ずしも等しくする必要性はなく、後退面2bの軸方向投影面積を先端面2aの軸方向投影面積よりも小さくするようにしても良い。
【0034】
このような形状のボディ2において、穿孔刃3の外形を従来形状と同一とするために、後退面2bの部分には図示のようにダイヤモンド砥粒5を多層に配置した。図2の例では、ダイヤモンド砥粒5を部分的に3層となるように溶着し、中心線から後退面2bの外周側(図中右側)になるにつれてダイヤモンド砥粒5の層数が増えるように構成した。このため、周速が早いために欠けや剥離の生じやすい穿孔刃3の外周側において、表層(例えば3層目)のダイヤモンド砥粒5が剥離したとしても、深層(例えば2、1層目)のダイヤモンド砥粒5が自生するので、良好な穿孔性能を長期にわたり持続することができる。また、キー溝6の開口部近傍のダイヤモンド砥粒5のみを多層化することで、ボディ2の先端面全面を多層化することに比べて高価なダイヤモンド砥粒5の使用量を抑えることができるので、ドリルビット1の製造コストの上昇を抑制することができる。
【0035】
次に図3のフローチャートを用いて、本発明の実施例に係るドリルビット1の製造手順を説明する。まず、公知の加工方法を用いてドリルビット1の機械加工を行う。この機械加工によって図9に示すドリルビット101のうち、穿孔刃103がつけられていない状態の形状に形成され、さらに、先端部分の後退面2bが機械加工により形成される。ドリルビット101は例えば鉄系の合金である。次に、機械加工した素材全体に、錆止め保護のための下地塗りを行う(ステップ31)。
【0036】
次に、大気中で所定時間放置することにより、塗られた塗料を十分乾燥させる(ステップ32)。その後、ドリルビットのボディ2の先端(下端)をビーカー等の容器内に入れた液状のろう材(ろう材ペースト)に浸した後に引き上げる(ステップ33)。ろう材ペーストには、いわゆる「銀ろう」「銅ろう」「ニッケルろう」等の市販されているろう材を用いることができる。ろう材4を、ボディ2の先端部分に浸漬させてすぐにボディ2を引き上げることにより、金属製のボディ2の先端部分に塗り残し無く所定量のろう材4を塗布することができる。
【0037】
次に、ドリルビット1を上下反転させて倒立状態にして、上からダイヤモンド砥粒5を振りかけることにより、ボディ2の先端(下端)に付着したろう材4の表面に多数のダイヤモンド砥粒5を付着させる(ステップ34)。ステップ33の終了からステップ34でダイヤモンド砥粒を付着させるまでの時間は、例えば30秒から60秒程度であり、ろう材4が乾燥して固まらないうちにダイヤモンド砥粒5を付着させることが重要である。この際、ボディ2を直立状態でなく斜めに傾けたり回転させたりして、ろう材4の先端側及び側方側円周面にダイヤモンド砥粒5をまんべんなく付着させることが重要である。
【0038】
次に、穿孔刃3を所定時間、例えば数十分程度、大気中において乾燥させた後に(ステップ35)、刷毛を用いて後退面2bの部分にだけ再びろう材4を塗布する(ステップ36)。ここでろう材4を塗布した部分にだけ2層目のダイヤモンド砥粒5が付着するので、後退面2bに対応する部分にだけろう材4を塗布することが重要である。次に、多数のダイヤモンド砥粒5を塗布したろう材4の部分に振りかけて、ダイヤモンド砥粒5の2層目を形成する(ステップ37)。尚、この工程においては多数のダイヤモンド砥粒5を振りかけたとしても、先端面2aに相当する部分にはろう材4を塗布していないので、この部分には2層目のダイヤモンド砥粒5は付着しない。
【0039】
次に、2層目のダイヤモンド砥粒5を付着させたろう材4を十分乾燥させた後に(ステップ38)、刷毛を用いて後退面2bの部分にだけろう材4を塗布する(ステップ39)。この塗布作業においても、ろう材4を塗布した部分にだけ3層目のダイヤモンド砥粒5が付着するので、ろう材4を慎重に塗布することが重要である。次に、多数のダイヤモンド砥粒5を振りかけるようにしてろう材4に付着させる(ステップ40)。このようにして、後退面2bにダイヤモンド砥粒5を3層に構成することにより、穿孔刃3の先端面が先端面2a側と同一の軸方向位置となるように形成する。
【0040】
3層目のダイヤモンド砥粒5を付着させると、ダイヤモンド砥粒5の付着工程は終了であるので、穿孔刃3を十分乾燥させる(ステップ41)。この際の乾燥時間は、例えば数十分から数時間程度である。次に、水素を充填した高温炉等を用いて、ろう材4を還元雰囲気内で焼結する(ステップ42)。焼結の際の温度や焼結時間は、ろう材4の材質で変わるが、例えば、ニッケルベースのろう材4を用いる場合は、1000℃程度の炉内で30分以上焼結すると好ましい。焼結により、ろう材の溶媒成分が蒸発し、その後融解することによりダイヤモンド砥粒5がボディ2に良好に固着する。この際、ダイヤモンド砥粒5の粒子がろう材4から外部に大きく露出するようになる。
【0041】
以上説明したように、本実施例によれば軸方向に延びるキー溝6を有したボディ2の先端にダイヤモンド砥粒5を溶着するドリルビット1において、ボディ2の先端部の一部分が、先端面2aに対して軸方向後方に後退する後退面2bとなるように形成し、後退面2bにおいてダイヤモンド砥粒5を先端面2aの部分よりも多く積層したので、仮に後退面2bのダイヤモンド砥粒が回転動作によるせん断力を受けて欠けや剥離を起こしても、下層のダイヤモンド砥粒が自生するため、長期にわたり良好な穿孔性能を持続することができる。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明の第2の実施例を図4及び図5を用いて説明する。本発明の第2の実施例に係るドリルビットのボディ42及び穿孔刃43の形状を示す斜視図である。第2の実施例において第1の実施例と異なる点は、ボディ42の先端部分に形成される後退面42bの形状である。第1の実施例の後退面2bは先端面2aに対して斜めになるように形成されたが、第2の実施例においては、後退面42bは先端面42aに対して平行に形成され、段差状に後退するように構成される。後退面42bと先端面42aとの軸方向の距離は、ダイヤモンド砥粒45の平均粒径の2〜3倍程度が好ましく、本実施例では直径0.6mmのダイヤモンド砥粒45を用いて、距離d(図5)を1.2mmとした。
【0043】
この段差状に形成される後退面42bの部分には、ダイヤモンド砥粒45が多層に、例えば3層に固着される。穿孔刃43の外形は、従来のドリルビット101の穿孔刃103とほぼ同様の、先端が平坦な円筒形状となるように形成される。図5は図4のB−B部の断面図である。本図から理解できるように、穿孔刃43のうち、欠けや剥離の生じやすいキー溝46の近傍において後退面42bが形成される。後退面42bにおいては、ダイヤモンド砥粒45が多層に固着される。このダイヤモンド砥粒45を多層化する工程は、図3のフローチャートで説明した手順を用いて製造することができる。
【0044】
第2の実施例においても、欠けや剥離の生じやすいキー溝46近傍においてダイヤモンド砥粒45の層数が増えるため、穿孔作業中に表層(例えば3層目)のダイヤモンド砥粒45が剥離したとしても、深層(例えば2、1層目)のダイヤモンド砥粒45が自生するので、良好な穿孔性能を持続することができる。また、キー溝6の近傍のみを多層化することで、全面を多層化することに比べて高価なダイヤモンド砥粒5の使用量を抑えることができ、ドリルビット41の製造コストの上昇を抑制することができる。さらに、後退面42bが1段の階段状段差で形成されるので、ボディ42への機械加工が容易となり、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0045】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の第2の実施例において、後退面42bは先端面42aから後退する1段の階段状段差で形成したが、2段以上の階段状段差で形成しても良い。また、軸方向の下側から見た先端面2a(42a)と後退面2b(42b)の軸方向の投影面積比は、同じである必要はなく、先端面2a(42a)を大きくして投影面積が半円以上となるようにして、後退面2b(42b)を半円以下の小さい領域としても良い。さらに、本発明の実施例では軸方向に延びるキー溝近傍において段差状に形成される後退面を形成する構成としたが、ドリルビット先端部の外周縁部に円周方向に沿って後退面を形成し、先端面よりも多くダイヤモンド砥粒を積層するようにしてもよい。これによっても、欠けや剥離の生じやすい外周縁部においてダイヤモンド砥粒の層数が増えるため、良好な穿孔性能を持続することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ドリルビット 2 ボディ 2a 先端面 2b 後退面
3 穿孔刃 4 ろう材 5 ダイヤモンド砥粒
6 キー溝 41 ドリルビット 42 ボディ
42a 先端面 42b 後退面 43 穿孔刃
44 ろう材 45 ダイヤモンド砥粒 46 キー溝
101 ドリルビット 102 ボディ 103 穿孔刃
104 ろう材 105 ダイヤモンド砥粒 106 キー溝
110 取付部 111 窪み部 112 ツバ部
113 (らせん状の)突起


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のボディの先端にダイヤモンド砥粒を溶着するドリルビットであって、
前記ボディの先端部の一部分が、先端面に対して軸方向後方に後退する後退面となるように形成し、
前記後退面において前記ダイヤモンド砥粒を前記先端面よりも多く積層したことを特徴とするドリルビット。
【請求項2】
前記ボディには、前記先端部から軸方向後方に延びるキー溝が形成され、
前記キー溝の先端側開口面の一部又は全部が前記後退面に含まれるように前記キー溝が形成されることを特徴とする請求項1に記載のドリルビット。
【請求項3】
前記後退面は、前記ボディの軸方向投影面積で半分以下の領域に形成され、
前記キー溝の先端側開口面が前記後退面内に位置することを特徴とする請求項2に記載のドリルビット。
【請求項4】
前記後退面は、前記ボディの先端面から接続される傾斜面で形成されることを特徴とする請求項3に記載のドリルビット。
【請求項5】
前記キー溝の周方向の開口と前記後退面の外周側交差部分は、前記先端面に比べて最も後退した位置となるように前記後退面が形成されることを特徴とする請求項4に記載のドリルビット。
【請求項6】
前記後退面は、前記ボディの先端面から軸方向後方に後退する段差状に形成されることを特徴とする請求項2に記載のドリルビット。
【請求項7】
前記段差は1段であることを特徴とする請求項6に記載のドリルビット。
【請求項8】
前記段差は多段であることを特徴とする請求項6に記載のドリルビット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−245810(P2011−245810A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123625(P2010−123625)
【出願日】平成22年5月29日(2010.5.29)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】