説明

ナット締付装置及びナット締付方法

【課題】複数のナットを小さなトルクで同時に締め付けることを可能にするナット締付装置及びナット締付方法を提供する。
【解決手段】トルク導入装置5とトルク伝達機構6とを備えて構成されている。トルク導入装置5は、ウォーム7bを設けて形成した第1回転部材7と、ウォーム7bに噛合するウォームホイール8bとウォーム8c、8dを設けて形成した第2回転部材8と、ウォーム8cに噛合するウォームホイール9bと第1スプロケット9cを設けて形成した第3回転部材9と、ウォーム8dに噛合するウォームホイール10bと第2スプロケット10cを設けて形成した第4回転部材10とを備えている。トルク伝達機構6は、複数のナット3に取り付けた複数のナット締付用スプロケット15と、第1スプロケット9cと第2スプロケット10cと複数のナット締付用スプロケット15に巻き掛けて配設される無端状の伝動部材16とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばPC鋼材の緊張作業時など、複数のナットを締め付ける際に用いるナット締付装置及びナット締付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばコンクリート構造物やコンクリート部材などのコンクリート構造体の内部に挿通(あるいは埋設)したPC鋼材を緊張させ、コンクリート構造体に予めプレストレスを導入することにより、コンクリートのひび割れなどに対する構造性能を高めることが行われている。また、PC鋼材を緊張させる際には、油圧ジャッキが多用され、カプラーを介して延長用PC鋼材を接続した後に油圧ジャッキをセットし、導入緊張力と伸び量を管理しながらPC鋼材を緊張、定着するようにしている。
【0003】
しかしながら、油圧ジャッキを用いた緊張作業では、セットロスを考慮(仮定)して緊張作業時の緊張力を決めるため、実際の緊張力は仮定の緊張力に過ぎない。また、通常、複数本のPC鋼材が配設されている場合が多く、このような場合には、重量が大きい油圧ジャッキの運搬、設置、撤去に多大な労力を要する。さらに、複数本のPC鋼材の緊張作業では、順次各PC鋼材を緊張してゆくと、既に定着完了したPC鋼材の緊張力が隣接するPC鋼材に緊張力を導入することによって減少する場合がある。このため、品質保証の観点から緊張管理が最も重要であるが、油圧ジャッキを用いた緊張作業は、緊張力をジャッキ圧力などで管理するため、工事の専門性が高く、緊張力の管理も容易でない。
【0004】
これに対し、コンクリート構造体の端面に、PC鋼材の端部側を挿通孔に挿通させた状態で定着板(支圧板)を設け、PC鋼材の端部側にナット(定着ナット)を螺合し、このナットを回転させて(ねじ込んで)、PC鋼材を緊張させる方法がある(例えば、特許文献1参照)。そして、このプレストレス導入方法においては、油圧ジャッキのような大掛かりな装置を用いることなくPC鋼材を緊張することが可能であり、また、ナットの締付トルクを計測しながら緊張することで、このトルクを基に容易に緊張管理を行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−63840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のトルクによるプレストレス導入方法は、PC鋼材の端部側に取り付けたナットをねじ込むことによりPC鋼材を緊張するため、極めて大きなトルクが必要になり、実用的でない。
【0007】
また、品質保証や作業効率などの観点から、複数のナットを同時に締め付けて、複数のPC鋼材を同時に且つ所望の緊張力で均等に緊張させる手法が強く望まれていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、複数のナットを小さなトルクで同時に締め付けることを可能にするナット締付装置及びナット締付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明のナット締付装置は、複数のナットを締め付ける際に用いるナット締付装置であって、トルク導入装置とトルク伝達機構とを備えて構成されており、前記トルク導入装置は、軸部にウォームを設けて形成され、一方向に延びる軸線回りに回転自在に設けられた第1回転部材と、軸部にウォームホイールとウォームを設けて形成され、前記第1回転部材のウォームにウォームホイールを噛合させつつ、前記一方向に直交する他方向に延びる軸線回りに回転自在に設けられた第2回転部材と、軸部にウォームホイールと第1スプロケットを設けて形成され、前記第2回転部材のウォームにウォームホイールを噛合させつつ、前記一方向に延びる軸線回りに回転自在に設けられた第3回転部材と、軸部にウォームホイールと第2スプロケットを設けて形成され、前記第2回転部材のウォームにウォームホイールを噛合させつつ、前記一方向に延びる軸線回りに回転自在に設けられた第4回転部材とを備え、前記トルク伝達機構は、前記複数のナットのそれぞれに互いの軸線を同軸上に配した状態で着脱可能に取り付けた複数のナット締付用スプロケットと、前記第1スプロケットと前記第2スプロケットと前記複数のナット締付用スプロケットに巻き掛けて配設される無端状の伝動部材とを備えていることを特徴とする。
【0011】
この発明においては、トルク導入装置の第1回転部材を一方向に延びる軸線回りに回転させると、第1回転部材のウォームにウォームホイールが噛合する第2回転部材が他方向に延びる軸線回りに回転する。そして、第2回転部材のウォームにウォームホイールが噛合する第3回転部材と第4回転部材がそれぞれ一方向に延びる軸線回りに回転し、これら第3回転部材と第4回転部材に具備された第1スプロケットと第2スプロケットがそれぞれ一方向に延びる軸線回りに回転する。さらに、第1スプロケットと第2スプロケットと複数のナット締付用スプロケットに巻き掛けられたトルク伝達機構の伝動部材が第1スプロケットと第2スプロケットの回転とともに回動し、この伝動部材の回動によって複数のナット締付用スプロケットが軸線回りに回転する。
【0012】
そして、このようにトルク導入装置の第1回転部材を回転させて伝動部材を回動させるとともに、伝動部材が幾何的に変形しながらトルク導入装置が入力トルクと釣合い(自己釣合い)が取れる位置に自動的に配置される。このため、第1回転部材の回転量(第1回転部材に導入した入力トルク)に応じてトルク伝達機構の複数のナット締付用スプロケットが同時に且つ同じ回転量で均等に回転する。これにより、第1回転部材を回転させることによって、複数のナット締付用スプロケットをそれぞれ取り付けた複数のナットをそれぞれ同時に且つ同じ回転量で均等に回転させて締め付けることが可能になる。
【0013】
さらに、このとき、第1回転部材のウォームと第2回転部材のウォームホイールとのギア比を1:m、第2回転部材のウォームと第3回転部材及び第4回転部材のウォールホイールとのギア比を1:nにすると、理論上は最終的に1:m×nのギア比になるため、各ナットを所定の締付力で締め付けるために必要なトルクに対し、第1回転部材の入力トルクを小さくすることが可能になる。すなわち、第1回転部材への入力トルクを低トルクにしても大きなトルクがナットに出力されるため、第1回転部材の入力トルクを小さくして各ナットを所定の締付力で締め付けることが可能になる。
【0014】
また、本発明のナット締付装置において、前記第1回転部材は、軸部の一端部側に回転工具を取り付けるための工具取付部を備えて形成されていることが望ましい。
【0015】
この発明においては、第1回転部材の軸部の一端部側に工具取付部が設けられていることで、例えばトルクレンチや電動ドライバーなどの回転工具を取り付けて容易に第1回転部材を回転させ、複数のナットを締め付けることが可能になる。また、トルク値の計測が可能な回転工具を用い、第1回転部材を所定の入力トルクになるまで回転させることで、容易に且つ確実に各ナットを必要トルクで締め付けることが可能になる。
【0016】
さらに、本発明のナット締付装置において、前記複数のナット締付用スプロケットは、前記ナットに対して空回りさせるための空回り機構を備えて形成されていることがより望ましい。
【0017】
この発明においては、例えばラチェット機構などの空回り機構によってナット締付用スプロケットをナットに対して空回りさせることができる。これにより、複数のナット締付用スプロケットのうち、選択的に一部のナット締付用スプロケットを空回り機構で空回りさせることで、残りの締付用スプロケットを取り付けたナットのみを選択的に締め付けることも可能になる。
【0018】
また、第1回転部材を回転させて複数のナットを所定の締付力で締め付けた後に、1つのナット締付用スプロケットを除く他のナット締付用スプロケットを空回り機構で空回りさせるようにし、この状態で再度第1回転部材を回転させることにより、1つのナット締付用スプロケットを取り付けたナットのトルクを計測することが可能になる。これにより、1つのナットのトルクを確認して、容易に全てのナットが所定のトルクで締め付けられていることを確認することも可能になる。
【0019】
本発明のナット締付方法は、上記のいずれかのナット締付装置を用いて前記複数のナットを締め付けるようにしたことを特徴とする。
【0020】
この発明においては、上記のいずれかのナット締付装置による作用効果を奏功してナットを締め付けることが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のナット締付装置及びナット締付方法によれば、トルク導入装置の第1回転部材を回転させることによって、トルク伝達機構の複数のナット締付用スプロケットを取り付けた複数のナットをそれぞれ同時に且つ同じ回転量で均等に回転させて締め付けることが可能になる。さらに、各ナットを所定の締付力で締め付けるために必要なトルクに対し、第1回転部材の入力トルクを小さくして各ナットを所定の締付力で締め付けることが可能になる。
【0022】
これにより、例えば複数のPC鋼材の緊張作業時に本発明のナット締付装置を用いることで、複数のPC鋼材にそれぞれ取り付けたナットを同時に且つ均等に締め付けることが可能になる。また、第1回転部材を小さなトルクで回転させて、複数のナットを必要トルクで締め付けることができ、複数のPC鋼材に、同時に且つ均等に所定の緊張力を導入することが可能になる。よって、従来の極めて大きなトルクを必要とする場合と比較し、トルクによる緊張管理及び緊張作業を容易に且つ効率的に行うことが可能になる。
【0023】
また、油圧ジャッキなどと比較し、トルク導入装置を大幅に軽量化することが可能であるため、取扱いが容易となり、この点からも緊張作業を容易に且つ効率的に行うことが可能になる。さらに、複数のナットを締め付けて複数のPC鋼材を緊張させるため、従来と比較し、緊張管理の効率化及び品質の向上を図ることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るナット締付装置を示す図であり、このナット締付装置を2本のPC鋼材にそれぞれ取り付けた2つのナットの締付作業に用いた状態を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るナット締付装置を示す図であり、このナット締付装置を4本のPC鋼材にそれぞれ取り付けた4つのナットの締付作業に用いた状態を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るナット締付装置のトルク導入装置を示す図である。
【図4】図3のX1−X1線矢視図である。
【図5】図3のX2−X2線矢視図である。
【図6】図3のX3−X3線矢視図である。
【図7】1本のPC鋼材に緊張力を導入するように構成したプレストレス導入装置を示す図である。
【図8】図7のX1−X1線矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図1から図6を参照し、本発明の一実施形態に係るナット締付装置及びナット締付方法について説明する。本実施形態は、コンクリート構造物やコンクリート部材などのコンクリート構造体の内部に挿入(あるいは埋設)して配設されたPC鋼材を緊張して、コンクリート構造体にプレストレスを導入する際に用いるナット締付装置及びナット締付方法に関するものである。
【0026】
はじめに、本実施形態において、コンクリート構造体1の内部には間隔をあけて複数のPC鋼材2が挿入して配設されている。また、各PC鋼材2は、コンクリート構造体1の両端面1a側にそれぞれ配設した定着板(不図示)の挿通孔に両端部側を挿通し、この定着板を挿通した端部側にナット(定着ナット)3を螺合して、コンクリート構造体1の端面1aに係止されている(図1及び図2参照)。
【0027】
そして、図1及び図2に示すように、本実施形態のナット締付装置Aは、トルク導入装置5とトルク伝達機構6とを備えて構成され、複数のPC鋼材2(図1では2本のPC鋼材、図2では4本のPC鋼材)を各PC鋼材2の一端部側に螺合して取り付けたナット3を締め付けて緊張させるために用いられる。
【0028】
トルク導入装置5は、図3から図6に示すように、第1回転部材7と、第2回転部材8と、第3回転部材9と、第4回転部材10と、これら第1から第4回転部材7〜10を軸支する枠体11とを備えて構成されている。
【0029】
第1回転部材7は、軸部7aにウォーム(ねじ歯)7bを設けて形成され、軸線O1方向を一方向T1に向け、軸部7aの両端部側をそれぞれ枠体11に支持させて、軸線O1回りに回転自在に設けられている。また、第1回転部材7は、軸部7aの一端部側に工具取付部7cを備えて形成されており、本実施形態では、この工具取付部7cが軸部7aの一端部から軸線O1方向他端部側に向けて凹む断面六角状の六角穴として形成されている。
【0030】
第2回転部材8は、軸部8aにウォームホイール(はす歯車)8bとウォーム(ねじ歯)8c、8dを設けて形成され、軸線O2方向を一方向T1に直交する他方向T2に向け、軸部8aの両端部側をそれぞれ枠体11に支持させて、他方向T2に延びる軸線O2回りに回転自在に設けられている。また、本実施形態の第2回転部材8は、軸部8aの軸線O2方向略中央にウォームホイール8bを配設し、2つのウォーム8c、8dをウォームホイール8bを挟んで両端部側にそれぞれ配設して形成されている。そして、第2回転部材8は、そのウォームホイール8bを第1回転部材7のウォーム8bに噛合させて設けられている。
【0031】
第3回転部材9は、軸部9aにウォームホイール(はす歯車)9bと第1スプロケット9cを設けて形成され、軸線O3方向を一方向T1に向け、軸部9aの両端部側をそれぞれ枠体11に支持させて、軸線O3回りに回転自在に設けられている。また、第3回転部材9は、そのウォームホイール9bを第2回転部材8の一方のウォーム8cに噛合させて設けられている。
【0032】
第4回転部材10は、軸部10aにウォームホイール(はす歯車)10bと第2スプロケット10cを設けて形成され、軸線O4方向を一方向T1に向け、軸部10aの両端部側をそれぞれ枠体11に支持させて、軸線O4回りに回転自在に設けられている。また、第4回転部材10は、そのウォームホイール10bを第2回転部材8の他方のウォーム8dに噛合させて設けられている。
【0033】
一方、トルク伝達機構6は、図1及び図2に示すように、複数のナット締付用スプロケット15と伝動部材16とを備えて構成されている。
【0034】
複数のナット締付用スプロケット15はそれぞれ、複数のPC鋼材2に螺合した複数のナット3のそれぞれに互いの軸線を同軸上に配した状態で着脱可能に取り付けられている。また、各ナット締付用スプロケット15は、ソケット付きスプロケットであり、ソケットを嵌合させてナット3に取り付けられている。さらに、このナット締付用スプロケット15は、例えば従来周知のラチェット機構などの空回り機構15aを備え、この空回り機構15aによってソケットに対しスプロケット本体が空回り/共回りを自在に切替えることができるように形成されている。このため、空回り機構15aをオンにした場合には、ナット3に対してナット締付用スプロケット15(スプロケット本体)が空回りし、空回り機構15aをオフにした場合には、ナット3とナット締付用スプロケット15が互いの回転量が同じになるように共回りする。
【0035】
伝動部材16は、無端状の伝動チェーンであり、第1スプロケット9cと第2スプロケット10cと複数のナット締付用スプロケット15に巻き掛けて配設される。また、伝動部材16は、このように各スプロケット9c、10c、15に巻き掛けた状態である程度緩みが発生する長さで形成されている。
【0036】
そして、このように構成した本実施形態のナット締付装置Aを用いて複数のナット3を締め付け、複数のPC鋼材2を緊張させる際には、各ナット3にナット締付用スプロケット15を取り付けるとともに、第1スプロケット9cと第2スプロケット10cと複数のナット締付用スプロケット15に伝動部材16を巻き掛けて、トルク導入装置5とトルク伝達機構6をそれぞれ設置する。このとき、特にトルク導入装置5が枠体11に第1から第4回転部材7〜10を軸支して構成され、従来の緊張作業に用いる油圧ジャッキなどと比較すると大幅に軽量化されている。このため、その取扱いが容易であり、設置作業が人の手で簡易に行える。
【0037】
ついで、例えばトルクレンチや電動ドライバーなどのトルク値を計測可能な回転工具をトルク導入装置5の第1回転部材7の工具取付部7cに取り付け、この回転工具によって第1回転部材7を一方向T1に延びる軸線O1回りに回転させる。このように第1回転部材7が回転すると、第1回転部材7のウォーム7bにウォームホイール8bが噛合する第2回転部材8が他方向T2に延びる軸線O2回りに回転する。そして、第2回転部材8のウォーム8c、8dにウォームホイール9b、10bが噛合する第3回転部材9と第4回転部材10がそれぞれ一方向T1に延びる軸線O3、O4回りに回転し、これら第3回転部材9と第4回転部材10の第1スプロケット9cと第2スプロケット10cがそれぞれ一方向T1に延びる軸線O1回りに回転する。さらに、第1スプロケット9cと第2スプロケット10cと複数のナット締付用スプロケット15に巻き掛けられたトルク伝達機構6の伝動部材16が第1スプロケット9cと第2スプロケット10cの回転とともに回動し、この伝動部材16の回動によって複数のナット締付用スプロケット15が軸線回りに回転する。
【0038】
このようにトルク導入装置5の第1回転部材7を回転させて伝動部材16を回動させると、図1及び図2に示すように伝動部材16が幾何的に変形し、トルク導入装置5が入力トルクと釣合い(自己釣合い)が取れる位置に自動的に配置される。
【0039】
このため、第1回転部材7の回転量(第1回転部材7に導入した入力トルク)に応じてトルク伝達機構6の複数のナット締付用スプロケット15が同時に且つ同じ回転量で均等に回転する。これにより、第1回転部材7を回転させることによって、複数のナット締付用スプロケット15をそれぞれ取り付けた複数のナット3もそれぞれ同時に且つ同じ回転量で均等に回転して締め付けられてゆく。
【0040】
さらに、このとき、第1回転部材7のウォーム7bと第2回転部材8のウォームホイール8bとのギア比を1:m、第2回転部材8のウォーム8c、8cと第3回転部材9及び第4回転部材10のウォールホイール9b、10bとのギア比を1:nにすると、理論上は最終的に1:m×nのギア比になる。このため、各ナット3を所定の締付力で締め付けるために必要なトルクに対し、第1回転部材7の入力トルクが小さくなる。すなわち、第1回転部材7への入力トルクを低トルクにしても大きなトルクがナット3に出力されるため、第1回転部材7の入力トルクを小さくして各ナット3が所定の締付力で締め付けられてゆく。
【0041】
そして、予めPC鋼材2に導入する必要緊張力と、第1回転部材7に入力する必要入力トルク、あるいは第1回転部材7の必要回転量との関係を求めておき、第1回転部材7を回転させる際のトルクが必要入力トルクになった段階、あるいは第1回転部材7の回転量が必要回転量になった段階で、確実に複数のナット3が均等に締め付けられ、複数のPC鋼材2に必要緊張力が導入されることになる。すなわち、第1回転部材7の入力トルクあるいは回転量を管理することで、容易に緊張管理が行える。また、複数のPC鋼材2に必要緊張力を導入した状態で各PC鋼材2がナット3によって定着されているため、従来の油圧ジャッキを使用した緊張作業のようにセットロスを考慮する必要がなく、確実に所望の緊張力がPC鋼材2に導入される。
【0042】
一方、本実施形態のナット締付装置Aにおいては、トルク伝達機構6のナット締付用スプロケット15に空回り機構15aが具備されている。そして、複数のナット締付用スプロケット15のうち、一部のナット締付用スプロケット15の空回り機構15aをオンにして空回りさせることで、任意のナット3のみの締め付けが行える。このため、本実施形態のナット締付装置Aは、上述のように複数のナット3を全て同時に締め付けるように使用することに限定しなくてもよく、複数のナット締付用スプロケット15の空回り機構15aのオン/オフを切替えながら、複数のナット3を順次締め付け、複数のPC鋼材2に順次緊張力を導入するように使用してもよい。
【0043】
また、複数のナット3を同時に締め付けるようにして使用した場合においても、締め付けが完了した後に、例えば、1つのナット締付用スプロケット15を除く他のナット締付用スプロケット15を空回り機構15aで空回りさせるようにし、この状態で再度第1回転部材7を回転させることによって1つのナット締付用スプロケット15を取り付けたナット3のトルクを計測することができる。このため、空回り機構15aを設けることで、1つのナット3が所定の必要トルクで締め付けられているか否かを確認することができ、このような確認作業によって容易に全てのナット3が所定の必要トルクで締め付けられていることを確認することが可能になる。
【0044】
したがって、本実施形態のナット締付装置A及びナット締付方法によれば、トルク導入装置5の第1回転部材7を回転させることによって、トルク伝達機構6の複数のナット締付用スプロケット15を取り付けた複数のナット3をそれぞれ同時に且つ同じ回転量で均等に回転させて締め付けることが可能になる。さらに、各ナット3を所定の締付力で締め付けるために必要なトルクに対し、第1回転部材7の入力トルクを小さくして各ナット3を所定の締付力で締め付けることが可能になる。
【0045】
これにより、例えば複数のPC鋼材2の緊張作業時にナット締付装置Aを用いることで、複数のPC鋼材2にそれぞれ取り付けたナット3を同時に且つ均等に締め付けることが可能になる。また、第1回転部材7を小さなトルクで回転させて、複数のナット3を必要トルクで締め付けることができ、複数のPC鋼材2に、同時に且つ均等に所定の緊張力を導入することが可能になる。よって、従来の極めて大きなトルクを必要とする場合と比較し、トルクによる緊張管理及び緊張作業を容易に且つ効率的に行うことが可能になる。
【0046】
また、油圧ジャッキなどと比較し、トルク導入装置5を大幅に軽量化することが可能であるため、取扱いが容易となり、この点からも緊張作業を容易に且つ効率的に行うことが可能になる。さらに、複数のナット3を締め付けて複数のPC鋼材2を緊張させるため、従来と比較し、緊張管理の効率化及び品質の向上を図ることも可能になる。
【0047】
また、第1回転部材7の軸部7aの一端部側に工具取付部7cが設けられていることで、例えばトルクレンチや電動ドライバーなどの回転工具を取り付けて容易に第1回転部材7を回転させ、複数のナット3を締め付けることが可能になる。さらに、トルク値の計測が可能な回転工具を用い、第1回転部材7を所定の入力トルクになるまで回転させることで、容易に且つ確実に各ナット3を必要トルクで締め付けることが可能になる。
【0048】
さらに、ナット締付用スプロケット15をラチェット機構などの空回り機構15aを備えて形成することによってナット締付用スプロケット15をナット3に対して空回りさせることができる。これにより、複数のナット締付用スプロケット15のうち、選択的に一部のナット締付用スプロケット15を空回り機構15aで空回りさせることで、残りの締付用スプロケット15を取り付けたナット3のみを選択的に締め付けることも可能になる。
【0049】
また、空回り機構15aを備えることで、第1回転部材7を回転させて複数のナット3を所定の締付力で締め付けた後に、例えば、1つのナット締付用スプロケット15を取り付けたナット3のトルクを計測することが可能になる。これにより、1つのナット3のトルクを確認して、容易に全てのナット3が所定のトルクで締め付けられていることを確認することも可能になる。
【0050】
以上、本発明に係るナット締付装置及びナット締付方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、複数のPC鋼材2のそれぞれの端部側に螺合して取り付けた複数のナット3を締め付けて、複数のPC鋼材2を同時に緊張するために本発明に係るナット締付装置A(及びナット締付方法)を用いるものとして説明を行った。これに対し、例えば図7及び図8に示すように反力シリンダ20と接続板21と複数の緊張用鋼棒22と締付ナット23と接続用ナット24とを備えて構成したプレストレス導入装置25を用いて1本のPC鋼材2を緊張する際に、本発明に係るナット締付装置A及びナット締付方法を使用するようにしてもよい。
【0051】
具体的に、このプレストレス導入装置25は、コンクリート構造体1の端面1aから外側に延出するPC鋼材2の一端部側にカップラー26と延長用PC鋼材27を介して繋がる接続板21と、一端側を接続板21に繋げ、接続板21を挟んでコンクリート構造体1の端面1aと反対側に延びるように配設される複数の緊張用鋼棒22と、緊張用鋼棒22の他端側が挿通する反力板20a及びこの反力板20aを支持する支持部材20bからなる反力シリンダ20と、反力板20aを挿通した複数の緊張用鋼棒22の他端側にそれぞれ螺合して配設される複数の締付ナット23とを備えて構成されている。そして、コンクリート構造体1の端面1aに反力シリンダ20を支持させてプレストレス導入装置25を設置した状態で複数の締付ナット23を螺入するように回転させると、複数の緊張用鋼棒22が緊張し、これら緊張用鋼棒22に生じた緊張力が接続板21を介してPC鋼材2に伝達され、このPC鋼材2を複数の締付ナット23の回転とともに緊張させることができる。
【0052】
そして、このようにプレストレス導入装置25で1本のPC鋼材2を緊張する際に、本発明に係るナット締付装置A及びナット締付方法を適用することで、複数の締付ナット23をそれぞれ同時に且つ同じ回転量で均等に回転させて締め付けることができ、複数の緊張用鋼棒22を均等に緊張してPC鋼材2に緊張力を導入することが可能になる。これにより、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能になる。
【0053】
さらに、本発明に係るナット締付装置A及びナット締付方法は、複数のナットを締め付けるために使用されればよく、必ずしもPC鋼材への緊張力の導入を目的として使用することに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
1 コンクリート構造体
1a 端面
2 PC鋼材
3 ナット(定着ナット)
5 トルク導入装置
6 トルク伝達機構
7 第1回転部材
7a 軸部
7b ウォーム(ねじ歯)
7c 工具取付部
8 第2回転部材
8a 軸部
8b ウォームホイール(はす歯車)
8c ウォーム(ねじ歯)
8d ウォーム(ねじ歯)
9 第3回転部材
9a 軸部
9b ウォームホイール(はす歯車)
9c 第1スプロケット
10 第4回転部材
10a 軸部
10b ウォームホイール(はす歯車)
10c 第2スプロケット
11 枠体
15 ナット締付用スプロケット
16 伝動部材(伝動チェーン)
20 反力シリンダ
21 接続板
22 緊張用鋼棒
23 締付ナット(ナット)
25 プレストレス導入装置
A ナット締付装置
O1 第1回転部材の軸線
O2 第2回転部材の軸線
O3 第3回転部材の軸線
O4 第4回転部材の軸線
T1 一方向
T2 他方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のナットを締め付ける際に用いるナット締付装置であって、
トルク導入装置とトルク伝達機構とを備えて構成されており、
前記トルク導入装置は、軸部にウォームを設けて形成され、一方向に延びる軸線回りに回転自在に設けられた第1回転部材と、
軸部にウォームホイールとウォームを設けて形成され、前記第1回転部材のウォームにウォームホイールを噛合させつつ、前記一方向に直交する他方向に延びる軸線回りに回転自在に設けられた第2回転部材と、
軸部にウォームホイールと第1スプロケットを設けて形成され、前記第2回転部材のウォームにウォームホイールを噛合させつつ、前記一方向に延びる軸線回りに回転自在に設けられた第3回転部材と、
軸部にウォームホイールと第2スプロケットを設けて形成され、前記第2回転部材のウォームにウォームホイールを噛合させつつ、前記一方向に延びる軸線回りに回転自在に設けられた第4回転部材とを備え、
前記トルク伝達機構は、前記複数のナットのそれぞれに互いの軸線を同軸上に配した状態で着脱可能に取り付けた複数のナット締付用スプロケットと、
前記第1スプロケットと前記第2スプロケットと前記複数のナット締付用スプロケットに巻き掛けて配設される無端状の伝動部材とを備えていることを特徴とするナット締付装置。
【請求項2】
請求項1記載のナット締付装置において、
前記第1回転部材は、軸部の一端部側に回転工具を取り付けるための工具取付部を備えて形成されていることを特徴とするナット締付装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のナット締付装置において、
前記複数のナット締付用スプロケットは、前記ナットに対して空回りさせるための空回り機構を備えて形成されていることを特徴とするナット締付装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のナット締付装置を用いて前記複数のナットを締め付けるようにしたことを特徴とするナット締付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−284741(P2010−284741A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139502(P2009−139502)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】