説明

ナノコンポジットおよびそれらの表面の改良

ナノコンポジットの表面のナノ粒子の濃度が内容積部より何倍も高い、新たな非対称タイプのナノコンポジットを産生するために、溶融処理か、または溶液処理のいずれかによってポリマー中にナノ粒子を分散させ、ナノコンポジットの内容積部から表面へのナノ粒子の移動を引き起こすことによりナノコンポジットおよびナノコンポジットポリマー生成物を調製するための方法を提供する。これらの表面は、新品のポリマー、および移動プロセスを経ていないナノコンポジットと比較して、高度に強化された特性(エージングに対する安定性、より長い貯蔵寿命、より高い疎水性、より高い耐摩耗性、より高い硬度、およびより低い摩擦を含む。)をナノコンポジットへ与える。ナノコンポジットポリマー生成物の新たな表面は、表面へのナノ粒子の移動を誘導し、それによって表面より下に濃度勾配を作り出すことにより産生される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府の利権についての言及)
本発明は、契約番号NSF(DMR)0352558の下で全米科学財団、および契約番号NIST 4H1129の下で米国の国立標準技術研究所により後援された。
【0002】
(関連出願についての言及)
本特許出願は、2007年4月5日の出願日を有する米国仮特許出願第60/910,234号に基づいており、そしてその優先権を主張する。この米国仮特許出願は、その全体が本明細書中で援用される。
【0003】
(発明の背景)
(1.技術分野)
本発明は、一般的に、(a)ナノコンポジット生成物の新たな表面を調製すること、および(b)非極性ポリマーを基にしたナノコンポジットを調製することについての分野である。本発明は、より具体的には(a)ナノ粒子の表面への移動を誘導し、それによりナノコンポジットの表面上のナノ粒子の濃度を増加させ、ナノコンポジットの表面から下に濃度勾配を作り出すことによって、ナノコンポジット生成物の新たな表面を調製すること、および(b)穏やかな酸化剤の存在下でポリマー中にナノ粒子を分散させることにより、非極性ポリマーを基にしたナノコンポジットを調製することについての分野である。
【背景技術】
【0004】
(2.先行技術)
ポリプロピレン(PP)は、ナノコンポジットの調製において最も広範に使用されるポリマーである。ポリプロピレンは、それをすぐに入手できること、比較的低コストであること、および多くの可能性のある応用性に起因して、他のポリマーより好まれ得る。しかし、ポリプロピレンの非極性および低い表面張力が、この疎水性ポリマー中での親水性粘土の分散において困難をもたらす。いくつかの系がこれらの困難を克服するために設計され、発展されてきた。これらの系は、ポリプロピレン巨大分子への極性官能基の付加を含む。1つの系において、スチレンモノマーはポリプロピレンとコポリマー化された。他の系において、OH、NH、およびカルボキシル基が組み込まれ、最近の開発においては、アンモニウムイオン末端ポリプロピレンが調製された。しかし、これまでに記載された全てのアプローチは、調製における困難さおよび比較的高コストであることに起因して、いずれの実用的適用も見出さなかった。非特許文献1、非特許文献2を参照のこと。
【0005】
現在、ナノコンポジットの調製において使用するためにポリプロピレンへ適用される唯一の改変は、マレイン酸化(maleation)である、すなわち、無水マレイン酸(MA)基をポリマーの鎖上へグラフトすることである。マレイン酸化処理は、β切断、連鎖移動、およびカップリング、ならびに上記全てのものといった副反応、分子量の極度の減少を含む多数の複雑化の要因と関係する。マレイン酸化プロセスの興味深い改変は最近示唆された(例えば、鎖末端が不飽和のポリプロピレンのヒドロホウ素化により調製されるホウ素末端中間体の調製)けれども、これらの改変はまだ商業的に適用されていない。マレイン酸化プロセスは現在使用される唯一のプロセスであり、適用範囲(例えば、構造的用途のための金属プラスチックラミネート、ポリマーのブレンド、および最近のナノコンポジット(例えば、多面体オリゴシルセスキオキサン(POSS:polyhedral oligomeric silsesquioxane)について広範に研究されている。非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5を参照のこと。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wang Z.M.ら,Macromolecules 2003,36:8919
【非特許文献2】Manias E.ら,Chem Mater.2001,13:3516
【非特許文献3】Lu B.ら,Macromolecules 1998,31:5943
【非特許文献4】Lu B.ら,Macromolecules 1998,32:2525
【非特許文献5】Heinen W.ら,Macromolecules 1996,29:1151
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、ナノコンポジット、およびポリマー中にナノ粒子を分散させることによりポリマー性ナノコンポジット生成物を調製する新規方法を包含する。上記分散は、例えば、溶融ポリマー中か、または適切な溶媒中に溶解したポリマー中のいずれかに上記ナノ粒子を分散させることにより達成され得る。ナノ粒子が溶融溶媒中に分散する場合で、そのとき非極性ポリマーの場合には、この分散は穏やかな酸化剤の存在下で実行され得る。本発明は、ナノ粒子が分散しているマトリクスポリマーの表面へのナノ粒子の移動を誘導し、それにより表面上でのナノ粒子の濃度を増加させ、ナノコンポジットの表面から下の深さ方向に濃度勾配を作り出すことにより、上記ポリマー性ナノコンポジット生成物の新たな表面を調製する新規方法をさらに包含する。これらの強化された表面は、改良された表面の物理学的特性(例えば、限定はされないが、硬度、摩損、耐摩耗性、摩擦、疎水性、酸素に対する透過性、耐老化性の増加、光酸化の減少)を含む。この方法で、物質の分離を可能にし得る非対称膜もまた産生され得る。
【0008】
1つの例示的実施形態において、ナノコンポジットは、例えば、POSS、モンモリロナイト、または有機化処理されたモンモリロナイトといったナノ粒子を用いて調製される。例示的ポリマーとしては、限定はされないが、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−プロピレンコポリマー(EP)、ポリアミド(PA)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、エチレン−ビニルコポリマー(EVA)、ポリ尿素、ポリウレタン(PU)、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、およびスチレン−アクリロニトリル(SAN)が挙げられる。例示的酸化剤としては、限定はされないが、空気、および有機過酸化物が挙げられる。粘土(例えば、モンモリロナイト粘土)の場合、界面活性剤はアルミノシリケート層に化学的に結合され得る。そのような界面活性剤は、10個から18個のメチル基を含む脂肪族の長鎖を含む四級アンモニウム化合物であり得る。粘土は極性基を含まないポリマー中に分散しない。極性基をポリマー(例えば、新品のポリプロピレン)へ導入し、上記ポリマーを相溶化するための存在する方法は、面倒である。本発明はこの課題に取り組み、そのようなポリマーを相溶化する簡単な方法を提供し、有機過酸化物、空気または酸素を、粘土と一緒に溶融ポリマーと混合する工程を含む。
【0009】
本発明により取り組まれる追加の課題は、ナノコンポジット構造の表面における改良である。上記表面は、例えば、ポリマーの内容積部(interior bulk)から表面へのナノ粒子の移動を引き起こし、それにより表面をナノ粒子で強化することにより変えられ得、改良され得る。そのような表面の強化は、移動の程度により調節され得る。例えば、上記表面が、ナノコンポジットまたはナノコンポジット生成物の内容積部のナノ粒子濃度の2倍より大きいナノ粒子濃度を有し得る。そのような強化された表面は、本来のナノコンポジット表面と比較して、強化された特性を有する。そのような強化された表面を有するナノコンポジットは「第二世代ナノコンポジット」と呼ばれ得る。1つのそのような改良は、表面の強化された硬度においてそれを表す。本発明は、そのような強化された表面を調製するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、オクタイソブチル多形体オリゴシルセスキオキサンを例示する。
【図2】図2は、実施例30の結果得られた表面のAFM画像である。
【図3】図3は、実施例30の結果得られた表面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
高温で焼きなます際に表面へ粘土が移動する現象は、最近、本発明者のうちの一人であるMenachem Lewinにより議論されてきた。
【0012】
【数1】

を参照のこと。
【0013】
この移動の理由は、ナノコンポジットサンプルが加熱される方法に依存すると想定された。2つの他の移動の理由が仮定された。有機粘土中の有機界面活性剤およびポリマー性マトリクスの熱分解および燃焼において形成される気体および泡が粘土を表面へ運ぶ。しかし、そのような気体または泡が存在しない場合、すなわち、界面活性剤およびポリマーの分解が始まる温度より低い場合、推進力は熱力学的であり、マトリクスと粘土との間の界面張力と、マトリクスとの間の表面自由エネルギーの差異から発生する。上記界面の表面張力は、ポリマー性マトリクスのものよりはるかに低いことが示された。したがって、表面へ移動する部分は粘土粒子、および粘土粒子に付着する一部のマトリクス分子である。
【0014】
ナノコンポジットに2つの大きな部分が存在する。1つは、粘土を構成するアルミノシリケートの2つの層の間に存在する空間(gallery)への、ポリマー性マトリクス分子の挿入により形成される挿入部分である。挿入されたポリマー性マトリクス分子を含むこれらの粘土粒子は、高分解能電子顕微鏡で認識可能な、比較的大きなスタック(stack)に構成される。これらのスタックはあまりに重過ぎて表面へ移動できない。移動する種は剥離した部分であり、挿入された粘土粒子を裂く際に形成される粘土の単層から構成される。そのような剥離する構成単位は薄い。アルミノシリケート粘土層に加えて、そのような剥離する構成単位もまた、付着している界面活性剤およびポリマー性マトリクス分子から構成される。したがって、移動の程度は、ナノコンポジット中の挿入およびその結果としての剥離の程度に依存する。ポリプロピレンの場合、挿入は、ある極性がポリマーへ与えられるときにのみ起こる。溶融ポリマーを焼きなます間の酸化(例えば、空気が、焼きなましているサンプルをパージするために使用される場合に起こる)は、移動の程度を大いに増加させる。ポリプロピレンに適した相溶化剤が存在しない場合、酸化なしに移動は起こらない。
【0015】
本発明は2つの部分を含む。第一部分は、好ましくは穏やかな酸化剤(例えば、空気または有機過酸化物、および他の酸化剤)の存在下で、非極性ポリマー中にナノ粒子を分散させることによりナノコンポジットを調製し、次いで、ガラス転移温度(T)以上でナノコンポジットを焼きなまし、ナノコンポジットの内容積部からナノコンポジット表面へのナノ粒子の移動を誘導する新規方法である。第二部分は、ナノコンポジット生成物の表面へのナノ粒子の移動を誘導し、それにより表面のナノ粒子の濃度を増加させ、表面より下に濃度勾配を作り出す(すなわち、ナノコンポジット生成物の内容積部から、外側のナノコンポジット生成物の表面へ向かって増加していく)工程による、ナノコンポジット生成物の新規表面の調製である。これらの強化された表面は、表面の物理学的特性(例えば、硬度)を改良する。この方法で、非対称膜もまた産生され得、物質の分離を可能にし得る。
【0016】
一般的な例示的方法および生成物:
本発明の1つの実施形態は、表面が内容積部と異なる化学組成を有するナノコンポジットを調製するための方法であり、上記方法は(a)溶融ポリマー中または適切な溶媒中に溶解されたポリマー中にナノ粒子を分散させる工程、および(b)ガラス転移温度(T)より高い温度で所定の時間、上記ナノコンポジットを焼きなまし、そうして上記ナノコンポジットの表面へのナノ粒子の移動を誘導し、それにより上記ナノコンポジットの表面でナノ粒子の濃度を増加させる工程を包含し、それにより、上記ナノコンポジットが、ナノコンポジットの表面でより高い濃度のナノ粒子を有し、ナノコンポジットの内容積部でより低い濃度のナノ粒子を有し、ナノコンポジットの内容積部からナノコンポジットの外側の表面へ向かって徐々に増加していくナノ粒子の濃度勾配を有する。
【0017】
本発明の別の実施形態は、新たなポリマー性ナノコンポジット生成物を調製するための方法であり、上記ナノコンポジットポリマー生成物は、ナノ粒子とポリマーとのブレンドであり、内容積部と異なる化学組成の表面を有し、上記方法は上記ナノ粒子とポリマーとのブレンドをその融点未満の温度で所定の時間焼きなます工程を包含し、ここで、表面でのナノ粒子の濃度は内容積部のナノ粒子の濃度より高く、それにより、ナノコンポジット生成物はナノコンポジット生成物の表面近くでより高い濃度のナノ粒子を有し、ナノコンポジット生成物の内側近くでより低い濃度のナノ粒子を有し、それにより、ナノコンポジット生成物の表面より下でナノ粒子の濃度勾配を作り出す。
【0018】
本発明の別の実施形態は、ポリマー中で分散したナノ粒子を含むナノコンポジットであり、ここで、上記ナノコンポジットの表面は内側より高い濃度のナノ粒子を有する。例えば、ナノ粒子の表面濃度は、内容積部のナノ粒子の濃度より最大250%高い濃度であり得る。別の例では、ナノ粒子の表面濃度は、内容積部のナノ粒子の濃度より最大500%高い濃度であり得る。別の例では、ナノ粒子の表面濃度は、ナノ粒子の内容積部の濃度より250%〜1000%高い濃度であり得る。別の例では、ナノ粒子の表面濃度はナノ粒子の内容積部濃度より1000%を超えて高い濃度であり得る。本発明の1つの例示的実施形態において、ナノコンポジットの表面は少なくとも50%の多形体オリゴシルセスキオキサンを含み得る。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、ナノ粒子はPOSS、モンモリロナイト、および有機化処理されたモンモリロナイトからなる群から選択され得、好ましくは剥離した形態であり得る。また、本発明の好ましい実施形態において、上記ポリマーはポリプロピレンポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−プロピレンコポリマー(EP)、ポリアミド(PA)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、エチレン−ビニルコポリマー(EVA)、ポリ尿素、ポリウレタン(PU)、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、およびスチレン−アクリロニトリル(SAN)からなる群から選択され得る。また、本発明の好ましい実施形態において、上記酸化剤は空気、および有機過酸化物からなる群から選択され得る。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、上記焼きなましは約20℃〜約300℃の温度、または代わりに約40℃〜約200℃の温度、または代わりに約50℃〜約200℃の温度で実行され得る。例えば、上記焼きなましは、約1秒〜約1年、または代わりに約1秒〜約1日、または代わりに約1秒〜約2時間という時間にわたって実行され得る。例えば、焼きなましはマイクロ波照射を利用して達成され得る。例えば、焼きなましはナノコンポジットの表面からの、移動したナノ粒子の昇華を減少させるために、NおよびOを含む大気中で実行され得る。
【0021】
本発明の他の実施形態において、ナノ粒子/ポリマーブレンドを形成するように、酸化剤の存在下でポリマー中にナノ粒子を分散させた後、ナノ粒子/ポリマーブレンドから作製される様々な形状およびサイズのプラスチック生成物が調製され得る。
【実施例】
【0022】
以下の実施例は本発明の例示である。
【0023】
(1.ポリプロピレンのナノコンポジットの調製)
(実施例1〜実施例5)
100gの新品のポリプロピレンを5gのIP−44粘土(Southern Clay Products,Inc.により生産された)と混合し、TBHの既定の重量%であるaを、ブラベンダー(Brabender)中にて190℃で5分間、40rpmで回転させながら混合した。アルミノシリケートの2つの層の間の空間の層間距離dは、挿入物の大きさを示す。表1に見られる通り、dはTBHの増加と共に増加し、ナノコンポジットとして典型的である、挿入物の増加を示す。このことは、TBHの添加の際にナノコンポジットが形成することに対する十分な証拠を提供する。ポリプロピレンの穏やかな酸化が起き、ポリプロピレン中に十分な極性基が導入され、そのことが挿入を可能にする。
【0024】
【表1】

TBH:tert−ブチルヒドロペルオキシド
XRD:X線回折
(実施例6)新品のポリプロピレンと5%の粘土との混合物を、ブラベンダー中にて190℃で5分間、40rpm(回転毎分)で混合することにより調製した場合、同様の結果を得る。混合する間、粘土の分散は起きない。混合材料のサンプルを190℃に加熱し、加熱を、空気を12.5%含む窒素気流下でさらに60分間その温度で続けて、XRDによって立証されるナノコンポジットが形成される。3.11というd値が得られる。このことは、上記サンプルをパージするために使用した、窒素中の小さいパーセンテージの空気が、粘土の分散およびナノコンポジットの形成に影響を与えるのに十分な極性基をポリプロピレン中に作り出すのに十分であることを示す。
【0025】
(2.新たな表面の調製)
(実施例7)また、実施例6で調製したサンプルを60分間加熱するが、パージガス中の空気のパーセンテージは50%である。XRDからのd値は3.51である。次いで、上記サンプルを冷却し、その表面をATR−FTIRによって分光学的に調査する。1375cm−1のピーク(CH対称変角)を基準にした1043cm−1のピーク高さは、表面のSiOの濃度、すなわち、粘土の濃度を示す。rの値として1.73を得る。この値は、ブラベンダー混合後かつ焼きなます前に得たサンプルである対照の値rより3.6倍大きい。r/rの比=rであり、r×100は、60分間の焼きなまし後の、移動に起因する表面の粘土濃度の増加をパーセントで示す。このことは、ブラベンダー後の表面の粘土の初期濃度が5重量%であった場合、実施例7によると焼きなまし後の濃度は3.6×5=18であり、すなわち、360%の増加であることを意味する。
【0026】
(実施例8)実施例6の混合物のサンプルを、空気の気流下で60分間焼きなます。r値はr/rであり、ここでは4.35に等しい、すなわち、焼きなまし後の表面の粘土濃度は4.35×5=21.75である。実施例8を実施例7と比較した場合、6.25%から50%への空気のパーセンテージの増加は、移動の程度を大いに増加させ、結果として表面の粘土濃度を大いに増加させることが理解され得る。
【0027】
(実施例9)グラフトされた無水マレイン酸を0.5%含有するポリプロピレンを、ブラベンダー中にて、5%が有機化処理されたモンモリロナイト(OMMT)の粘土と190℃で5分間混合する。この混合物のサンプルを25%空気の気流下で60分間225℃で焼きなます。r=2.82、r=6.88、そしてr=0.41である。このことは表面の粘土濃度が6.88×5=34.4であることを意味する。
【0028】
(実施例10)グラフトされたMAを1.5%含有するポリプロピレンのサンプルをロックウェル硬度試験機で試験した。硬度の値は66.35±3.43を得た。
【0029】
(実施例11)グラフトされたMAを1.5%含有するポリプロピレンを、ブラベンダー中にて5%OMMTと190℃で5分間、40rpmで混合した。冷却後、この混合物のサンプルをロックウェル硬度試験機で試験した。75.55±12.91の硬度を得た。5%OMMTを含有するナノコンポジットは、表面の粘土の存在に起因して、13.9%の増加した硬度を有することが理解される。
【0030】
(実施例12)実施例11の混合物のサンプルを、12.5%の空気の存在下、180℃で60分間焼きなました。焼きなましたサンプルのrは、0.97、r=0.47、そしてr=2.06であり、すなわち、表面の粘土の濃度は10.3重量%であった。得られた硬度の値は112.75±13.21N/mmであった。実施例11における5%から実施例12における10.3%への表面の粘土濃度の増加は、49.2%の増加を達成する。
【0031】
他の種類のナノ粒子はまた、ナノコンポジットを産生するために使用されている。これらの粒子はいくつかの種類のPOSSを含む。POSS誘導体は上記粘土とは異なる。POSS誘導体は、2つのアルミノシリケートの層の間の空間を伴う、互いに接近した2つのアルミノシリケートの層から構成されず、上記空間中に陽イオン(例えば、Na)が存在し、アルミノシリケート層の負電荷を中和する。POSSは(SiO1.5)Rから構成される籠を構成し、(SiO1.5)Rは、1:1.5の比でケイ素と酸素が存在し、8つの角のある籠の8つの角に位置する。様々な有機基が結合され得、その結果、様々なPOSS誘導体が産生され得る。
【0032】
以下の実施例は、図1に見られるようなオクタイソブチルPOSS(OibPOSS)に関連する。OibPOSSは非極性化合物である。実施例において、POSSが分散しているポリマー(例えば、ポリプロピレン)とPOSSとのブレンドを調製し、物理学的特性、熱力学的特性、および光学的特性に関してナノコンポジットを基にする粘土と同様の多くの特性を有するナノコンポジットを得た。分散体の調製を以下の通り実行した:PP+5重量%のPOSSをブラベンダー中で、190℃で5分間、40rpmで混合した。約5gのサンプルを型(4mm×1cm×4cm)の中へ移し、次いで、型と一緒にサンプルを、Carver Press(Model #33500−328)を用いて190℃で圧縮して試験片とした。上記試験片を、減衰全反射フーリエ変換赤外分光法(ATR−FTIR)により試験した。POSS濃度について、スペクトル中のピークは1110cm−1であり、1375cm−1を基準とした。得られる値rは焼きなます前のPOSSの濃度に該当し、これを測定した。このサンプルを対照サンプルと呼んだ。
【0033】
驚くべきことに、PP−OibPOSSブレンドのサンプルが恒温炉中に置かれ、PPの融点より高い温度で焼きなました場合、サンプルの表面への非常に顕著な急速なPOSSの移動を観測した。この移動は、パージガスがN単独から構成されたとしても、様々な濃度の空気を含むNから構成されたとしても起きる。POSSの移動の程度を、1110cm−1のATR−FTIRのピークを1375cm−1のピークの基準に合わせた後、1110cm−1のピークの値を記録することによりモニターした。移動はサンプルの全ての表面へ向けて進行する。サンプルの底面および最上面でのPOSSの濃度の増加を観察した。焼きなましを190℃で実行した場合、底面のPOSS濃度は最上面の濃度より高かった。この違いは、最上面からのPOSSの昇華に起因する。最上面は空気にさらされているが、底面は空気にさらされていない。パージガス中の空気の濃度を増加させたとき、表面から昇華したPOSSの量は減少した。このことは、空気がPOSSの有機基を非揮発性部分へ酸化し、おそらくPOSSの籠と籠の間に橋かけ結合を形成していることを示す。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

実施例14〜実施例16は、実施例13に従って調製した。約5gのサンプルを型(4mm×1cm×4cm)の中へ移し、次いで、Carver Press(Model #33500−328)を用いて、サンプルを型と一緒に190℃で圧縮し試験片とした。得られた試験片を1つの面は覆わずにアルミニウムホイルで覆い、次いで、シリンジの中へ位置付けした。上記シリンジをシリコンゴムで密閉した。次いで、シリンジをサーモスタットで調節された等温炉(isotemp furnace)(Fisher Scientific Company)中で30分間加熱した。焼きなまし中の実際の温度を熱電対によりモニターした。これらのサンプルを、2つの較正された流量計により制御しながら、Nの気流下、または特定の比の空気を含むNの気流下で焼きなました。パージガスの流速は800ml/分であった。
【0037】
(実施例14)サンプルは実施例13に従って調製し、Nの気流下で190℃で30分間焼きなました。次いで、上記サンプルを冷却し、最上面および底面をATR−FTIRにより試験した。底面のrおよびrの値は、それぞれ2.78±0.56、3.66±0.74である。最上面のrおよびrの値は、それぞれ1.12±0.27、1.47±0.36であった。最上面と底面との間のPOSSの量における差は、60%であり、最上面は昇華に起因して、移動したPOSSの60%を失った。
【0038】
(実施例15)サンプルを、実施例14と同様の様式で調製し、焼きなました;しかし、Nの気流中に空気が12.5%含まれる。底面のrの値は、ほんのわずかに変化したが、最上面のrの値は、2.01±0.47へ増加した。
【0039】
(実施例16)サンプルを、実施例14と同様の様式で調製し、焼きなました;しかし、Nの代わりに空気を、焼きなまし中にサンプルをパージするために使用した。底面上のrの値は、わずかに変化するが、最上面のrの値は、2.53±0.62である。
【0040】
これらの実施例において、昇華されるPOSSの量が、パージするガスの気流中の空気を増量させて用いることにより、減少され得ることが理解される。サンプルをパージするガスの流速を増加させて、それゆえに1分当たりより多くの空気を使用する場合、少量のPOSSが昇華し、移動したPOSSの収量が最上面で増加することが推定され得る。
【0041】
実施例17は、実施例13の条件に従って5%のPOSSとブレンドした、PPMA(1.5%MA)を溶融した対照サンプルの調製を記載する。
【0042】
驚くべきことに、ある極性をPP分子中に導入する場合、例えば、1.5%の無水マレイン酸(MA)をPP分子へグラフトする場合、実施例17〜実施例20において見られ得る通り、5%のOibPOSSとPPMAとのこのブレンドを焼きなます際に得られる結果は異なる。PPMA−OibPOSSブレンドの場合、移動の程度、MI(移動指数、=r)が、底面の実施例18のr値(すなわち4.48)と、実施例14のr値(すなわち3.66)を比較するときに明らかであるように、約20%増加した。実施例14〜実施例20における移動は、以前に開示されたナノコンポジットを基にした粘土の場合と同様に、理論的にPPMAの極性に起因する。マトリクスポリマーの極性の増加はPOSSのMIを増加させることが期待されるべきである。当業者は、過度の実験をすることなしに異なる極性化ポリマーを用いることによりMIを制御することが可能である。
【0043】
実施例17〜実施例20は、最上面および底面で得られたNの下で焼きなましたサンプル(実施例18)、および空気を25%まで含むNの気流の下で焼きなましたサンプル(実施例20)におけるrの値はおよそ同じであることを示す。このことは、極性化PPの場合、顕著な昇華が起きていないことを示す。
【0044】
本発明の別の驚くべき特徴は、移動プロセスが、融点未満でも、すなわちより低い温度にて固体サンプル上でもポリマーPOSSブレンド上で起き得ることを見出したことである。サイズおよび組成において実施例13および実施例17と同様のサンプルを、家庭用の電子レンジ(これらの実験に対して使用された電子レンジは、商業用キッチンのGalaxy(商標)の電子レンジ、モデル721.64002)中で加熱した。材料を処理するためのマイクロ波の使用は、処理時間の減少およびエネルギーの節約において利点を提供するという可能性を有する。従来の熱処理において、エネルギーは、材料の表面からの熱の対流、伝導、および放射を通して材料へ伝えられる。電子レンジにおけるこの加熱の間、エネルギーは分子レベルで伝えられ、このことは新たな可能性を開く。マイクロ波加熱の重要な利点は、マイクロ波がサンプル全体を同時に加熱し、熱がサンプル内部へ広がる時間を必要とせず、均一なサンプルをもたらすことである。
【0045】
実施例21〜実施例30から理解されるように、PPMA−POSSブレンドおよびPP−POSSブレンドの両方において、MI値は加熱時間の増加と共に増加した。
【0046】
(実施例21)ここでは4分間電子レンジ中で加熱され、実施例17に従って調製されたサンプルについて記載する。最上面および底面上のrの値は、実験誤差を考慮する場合、同じである。4分経過してサンプルの温度は96℃であった。サンプルをこの温度へ上げるのに3分間加熱したので、ほんの約1分間だけこの温度で加熱した。
【0047】
(実施例22)実施例21からのサンプルは、デシケーター中で冷却後、さらに4分間加熱した。最上面および底面に対して得られたr値は約4.2であり、このことは実施例21からのかなりの増加を示す。
【0048】
(実施例23)ここでは、冷却され、さらに4分間加熱された、すなわち、サンプルと一緒に12分間加熱された、実施例17に従って調製されたサンプルについて記載する。最上面および底面に対して得られたr値は、移動の程度においてさらなる増加を示す約5.7であった。
【0049】
(実施例24)ここでは、冷却され、さらに4分間加熱された、実施例23に従って調製されたサンプルについて記載する。最上面および底面に対して得られたr値は、約6.7であり、移動の程度においてさらなる増加を示した。最上面および底面に対するr値の差は、小さいと思われる。
【0050】
(実施例25)ここでは、冷却され、さらに4分間加熱された、実施例24に従って調製されたサンプルについて記載する。最上面および底面に対して得られたr値は、約10であり、移動の程度においてさらなる増加を示した。このことは、対照サンプルにおけるPOSS初期濃度が5%であったことを考慮するとき、20分間の加熱後の表面で50%のPOSSに実質的に等しく、すなわち、対照の濃度と比較して表面のPOSS濃度の1000%の増加に実質的に等しい。
【0051】
実施例26〜実施例30は新品のPP+5%OibPOSSから調製されたサンプルに関する。
【0052】
(実施例26)ここでは、実施例13に従って調製され、実施例21と同様に電子レンジで4分間加熱されたサンプルについて記載する。最上面および底面に対するr値は、おおよそ同じであり、1.6に等しい。それは、PPMAに基づくサンプルと同様の方向に動くが、より低い移動速度である。
【0053】
(実施例27)実施例26の手順に従って得られたサンプルを電子レンジでさらに4分間加熱した。最上面および底面に対するr値は、約2.58へ増加する。
【0054】
(実施例28)このサンプルは、冷却され、さらに4分間加熱された(すなわち、サンプルは合計で12分間加熱された)実施例27からのサンプルに関する。最上面および底面に対するr値は、約3.25へ増加する。
【0055】
(実施例29)このサンプルは、冷却され、さらに4分間加熱された(すなわち、合計で16分間)実施例28からのサンプルに関する。最上面および底面に対するr値は、約4.84へ増加する。
【0056】
(実施例30)このサンプルは、冷却され、さらに4分間加熱された(すなわち、合計で20分間加熱された)実施例29のサンプルに関する。最上面および底面に対するr値は、約6.4へ増加する。この値は、実施例21〜実施例25におけるPPMAブレンドに対して同じ加熱条件下で得られた値より著しく低い。図2は、実施例30から得られる表面のAFM画像である。図3は、実施例30から得られる表面のSEM画像である。
【0057】
実施例21〜実施例25に対するMIの平均値は、実施例26〜実施例30の平均値より47%高い。この差は、PP−POSSおよびPPMA−POSSの190℃での焼きなましの場合、以前に考察された20%より高い。このより高い移動速度は、電子レンジでの極性化ポリマーの加熱のより高い効率の結果である。
【0058】
(実施例31)高密度ポリエチレン(HDPE)を、ブラベンダー中にて135℃で5分間溶融混合した。約5gのサンプルを型(4mm×1cm×4cm)の中へ移し、次いで、サンプルを型と一緒に、Carver Press(Model #33500−328)を用いて135℃で圧縮し試験片とした。試験片をATR−FTIRによって、1110cm−1でスペクトル中のPOSSピークの濃度についてATR−FTIRで試験し、2920cm−1を基準とした。得られる値rは、焼きなまし前のPOSS濃度に該当し、この値を測定した。このサンプルを対照サンプルと呼ぶ。
【0059】
得られた試験片を1つの面を覆わずに、アルミニウムホイルで覆い、次いで、シリンジ中へ位置付けした。上記シリンジをシリコンゴムで密閉した。次いで、シリンジをサーモスタットで調節された等温炉(Fisher Scientific Company)中で30分間加熱した。焼きなまし中の実際の温度を熱電対によってモニターした。上記サンプルを、流量計により制御しながらNの気流下で、30分間135℃で焼きなました。パージガスの流速は800ml/分であった。次いで、上記サンプルを冷却し、最上面および底面をATR−FTIRにより試験した。r値は、それぞれ2.73±0.97および6.33±1.04である。
【0060】
(実施例32)PA6、Ultramide B−3 NC010を、ブラベンダー中にて240℃で5分間、40rpmで溶融混合した。約5gのサンプルを型(4mm×1cm×4cm)の中へ移し、次いで、上記サンプルを型と一緒に、Carver Press(Model #33500−328)を用いて240℃で圧縮し試験片とした。試験片をATR−FTIRにより、1110cm−1でスペクトル中のPOSSピークの濃度について試験し、1640cm−1を基準とした。得られる値rは、焼きなまし前のPOSS濃度に該当し、この値を測定した。このサンプルを対照サンプルと呼ぶ。このサンプルを家庭用の電子レンジで50秒間加熱した(時間が異なることを除いて、実施例21のように、同じ条件で加熱した)。最上面の温度は、赤外線温度計を用いて測定した場合150℃であった。次いで、上記サンプルを冷却し、ATR−FTRで試験した。最上面のr値は3.25±0.95であった。
【0061】
実施例21〜実施例25に記載された実験は、加熱工程の間に冷却しながらサンプルを段階的に加熱するとき、非常に高いMIが得られ得ることを示す。同様の結果が、合間に冷却することなしに一段階で加熱することによっても得られ得る。例えば、実施例25と同様のサンプルを調製し、同じ電子レンジで10分間加熱した。底面で70というMIを得た;しかし、最上面のMIは、昇華に起因して著しくより低いことを見出した。サンプルを電子レンジで長く加熱すればするほど、より高い温度に到達し、この実施例においては達した温度は120℃であった。この温度で昇華は起き、最上面のMIは減少する。昇華に起因するMIの減少を避けるために、より低い温度が好ましく、このことは段階的加熱により達成され得る。昇華を伴わない非常に高いMIは、PP−POSSナノコンポジットまたはPPMA−POSSナノコンポジットの場合に、適切な温度での適した段階的加熱スケジュールを適合させることにより達成され得、そして、当業者は過度の実験をすることなくそのような生成スケジュールを計画し得る。このことは、移動を達成するための焼きなましまたは加熱の方法およびスケジュールに関する本発明の別の特徴であり、極性ポリマーを処理するとき特に重要である。電子レンジでの加熱速度は、ポリアミドPOSSブレンドサンプルの温度がほんの50秒後に150℃の温度に達した実施例32に見られ得る通り、ポリマーの極性と共に大いに増加する。段階的なスケジュールを適用することは、様々なポリマーに対してMIの様々な程度を得るのに適した手順の設計を可能にする。
【0062】
本発明の1つの特徴は、ポリマーPOSSブレンド生成物が電子レンジで加熱される場合、移動がポリマーPOSSブレンド生成物の全ての方向に進行することである。例えば、POSS含有量の比較的低い(例えば、5%)ポリマーPOSSナノコンポジットから作製されるボールベアリングを電子レンジで加熱するとき、POSSはボールの全ての表面に移動し、POSSが豊富な表面が得られる。市販の電子レンジでの加熱スケジュールに応じて、POSSを60%まで含有する表面、および60%を超えて含有する表面が、比較的短い時間で、そして、第二世代ナノコンポジットと呼ばれ得る新たな生成物を生成するような方法で得られ得る。この表面は、非常に低い摩擦係数、低摩耗性および高摩耗抵抗、ならびに高硬度を有すると考えられ、これらは、多くの適用に対して有利に使用され得る低摩擦性の表面の新たなボールベアリングおよび他の生成物の特徴であり得る。低摩擦は、二乗平均粗さ(RMS nm)および粗い領域の直径を測定する、表面の粗さの原子間力顕微鏡(AFM)測定により明白に示され、上記RMSおよび上記直径が大きければ大きいほど、摩擦はより低くなる。表5において見られ得る通り、粗さはサンプルの移動と共に劇的に増加する。POSSの高パーセンテージはまた、POSSの低表面張力に起因する非常に高い疎水性を生成物へ与える。この非常に高い疎水性はTeflon(商標)のフッ素ポリマーの疎水性に近い。
【0063】
【表5】

注:RMSは二乗平均粗さである。
【0064】
(原子間力顕微鏡法(AFM))表5におけるAFM実験を、Veeco Instruments(Santa Barbara、CA)製のマルチモード走査プローブ顕微鏡で実行した。125μmの長さのシリコンの片持ちばりを有するシリコンプローブ、および275kHzの共鳴振動数を、タッピングモードの表面トポグラフ調査のために使用した。選択されたサンプルの表面トポグラフを、約1.1Hzの走査速度で5μm×5μmの走査領域上を調査した。
【0065】
【表6】

プローブ液体(すなわち、超純水)を用いる静的接触角測定を、室温でCam 200 Optical Contact Anglemeter(KSV Instruments)で実行した。
【0066】
表6において、水との表面の接触角は、サンプル表面のPOSSの増加と共に劇的に増加することが理解され得る。PPMA−POSSブレンドの表面の50%POSSの濃度で、111という水接触角の値を得たのに対し、水とPOSSそれ自体の水接触角は118という値に達する。両方の値は、Teflon(商標)のポリテトラフルオロエチレンの値に近い。POSS濃度に対して、109.5°という水接触角の値を得た。
【0067】
上で言及された通り、本発明の原理は、副次的な基の構造に応じて、多くの種類のPOSSを用いて、異なる極性の多くのポリマーから調製された多くの様々なナノコンポジットへ適用される。上記副次的な基は、追加のケイ素または他の元素、例えば、金属誘導体、芳香族基、ポリマー基、フッ素誘導体、およびその他を含有する分子から構成され得る。このことは、POSSの適用をさらに大いに広げる、特に移動後のPOSSの適用を広げる。特定の特性を有する特定の表面はまた、様々なさらなる用途のために産生され得る。
【0068】
本明細書中に記載されるような第二世代ナノコンポジットは表面特性を強力に高めてきた。例えば、5%POSSを含有するPPおよび10%POSSを含有するPPに対して、得た硬度の値は:
新品のPP: 109MPa
5% POSS: 157MPa
10% POSS: 225MPa
であり、推定値は:
30% POSS: 300MPa
50% POSS: 500MPa
であった。
【0069】
先行技術文献中に見つけられたPP−oibPOSSブレンドに対する水接触角は、新品のPPに対する72.95から、5%POSSに対する78.20へ、および10%POSSに対する86.10へ増加する。これらの値は、同様のPP−oibPOSS(表6を参照)について本発明に従って見出された110〜111という高値と比較されるべきである。これらの値は、純粋なoib−POSSに対して測定された118という値に近く、Teflon(商標)のポリテトラフルオロエチレンに対する値に近い。同様に、摩擦力/法線力の比によって測定されるような摩擦は、新品のPPに対する0.17から、5%POSSに対する0.14へ、および10%POSSに対する0.07へ減少する。50%POSSに対して、Teflon(商標)のポリテトラフルオロエチレンに対する値である0.03に近い値が得られると想定され得る。
【0070】
本発明から得られたこれらの非常に高められた特性は、高度に改良された特性を有する膨大な数の製品(例えば、限定はされないが、低摩擦カーペット、高耐磨耗性ボールベアリング、および高耐摩耗性プラスチック窓)の生産を可能にする。
【0071】
(3.用途)
本発明の改良されたナノコンポジットは様々な用途を有し得、様々な用途の例示的可能性は以下の通りである。
【0072】
ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエチレン、および他のポリオレフィンの生産者はナノコンポジットの産生に適合した極性ポリマーを生産し得る。
【0073】
本発明に従って高められた表面を有するナノコンポジット(第二世代ナノコンポジット)は、様々な適用(例えば、高硬度ツールの産生のために高められた硬度を有するプラスチックから作製されるボールベアリングの産生、高硬度かつ低摩擦の自動車および航空機の部品、低摩擦かつ高耐摩耗性の機械の部品およびテキスタイル、防食処理、より長い貯蔵寿命のプラスチック製品、および多数の他の適用)に対して特殊化されたナノコンポジットの生産者にとって興味深い。
【0074】
1つの製品は、食物を包む、電気を防ぐ、および他の関連用途のために使用され得る、表面に高濃度のナノ粒子を有する空気不浸透性フィルムであり得る。
【0075】
特殊化された膜、特に物質、気体の分離のための非対称膜、限外ろ過のための非対称膜、および、おそらく水の脱塩化のための非対称膜、ならびに産業上のオフガスおよび環境廃棄物(environmental waste)の特別なフィルターのための非対称膜の発達。
【0076】
前述の好ましい実施形態の詳細な説明、および添付された背景にある物質は、例示および説明の目的のためだけに提供されてきており、網羅的であることも、本発明の範囲および趣旨を限定することも意図されていない。上記実施形態は選択され、本発明の原理およびその実践的適用を最も適切に説明するために記載された。当業者は、多くの変更が、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく本明細書中に開示された本発明に対しなされ得ることを認識する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノコンポジットを調製する方法であって、該ナノコンポジットが表面および内容積部を有し、該表面が該内容積部と異なる化学組成を有し、該方法が:
a)溶融ポリマー中または適切な溶媒中に溶解されたポリマー中にナノ粒子を分散させる工程、および
b)所定の時間で該ナノコンポジットを焼きなまし、それにより該ナノコンポジットの表面への該ナノ粒子の移動を誘導し、そうして該ナノコンポジットの表面で該ナノ粒子の濃度を増加させる工程
を包含し、それにより、該ナノコンポジットが、該ナノコンポジットの表面でより高い濃度の該ナノ粒子を有し、該ナノコンポジットの内容積部でより低い濃度の該ナノ粒子を有し、該ナノコンポジットの内容積部から該ナノコンポジットの外側の表面へ向かって徐々に増加していく該ナノ粒子の濃度勾配を有する、方法。
【請求項2】
前記溶融ポリマー中に前記ナノ粒子を分散させている間に、穏やかな酸化剤が加えられる、請求項1に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、粘土、多形体オリゴシルセスキオキサン、モンモリロナイト、および有機化処理されたモンモリロナイトからなる群から選択される、請求項1に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項4】
前記ポリマーがポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−プロピレンコポリマー(EP)、ポリアミド(PA)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、エチレン−ビニルコポリマー(EVA)、ポリ尿素、ポリウレタン(PU)、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、およびスチレン−アクリロニトリル(SAN)からなる群から選択される、請求項1に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項5】
前記酸化剤が空気および有機過酸化物からなる群から選択される、請求項2に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項6】
前記表面のナノ粒子の濃度が、前記内容積部のナノ粒子の濃度より高い、請求項3に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、前記表面の組成の99%までを構成する、請求項6に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項8】
前記焼きなましが、約20℃〜約300℃の温度で、約1秒〜約1年という時間にわたって実行される、請求項1に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項9】
前記焼きなましがマイクロ波加熱を利用して達成される、請求項8に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項10】
前記ナノコンポジットが所定のサイズおよび形状の生成物へ変換される、請求項6に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項11】
前記焼きなましが、前記ナノコンポジットの表面からの、移動したナノ粒子の昇華を減少させるために、NおよびOを含む大気中で実行される、請求項8に記載のナノコンポジットを調製する方法。
【請求項12】
ポリマー生成物を調製する方法であって、該ポリマー生成物はナノ粒子とポリマーとのブレンドであり、表面および内容積部を有し、該方法は該ナノ粒子と該ポリマーとのブレンドをガラス転移温度(T)より高い温度で所定の時間焼きなます工程を包含し、ここで、該表面の該ナノ粒子の濃度は該内容積部の該ナノ粒子の濃度より高く、それにより、該ポリマー生成物は該ポリマー生成物の表面近くでより高い濃度の該ナノ粒子を有し、該ポリマー生成物の内側近くでより低い濃度の該ナノ粒子を有し、それにより、該ポリマー生成物の表面より下で該ナノ粒子の濃度勾配を作り出す、方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子がモンモリロナイト、有機化処理されたモンモリロナイト、および多形体オリゴシルセスキオキサンからなる群から選択される、請求項12に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項14】
穏やかな酸化剤が前記ナノ粒子と前記ポリマーとのブレンドに加えられる、請求項13に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項15】
前記ポリマーがポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−プロピレンコポリマー(EP)、ポリアミド(PA)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、エチレン−ビニルコポリマー(EVA)、ポリ尿素、ポリウレタン(PU)、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、およびスチレン−アクリロニトリル(SAN)からなる群から選択される、請求項12に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項16】
前記酸化剤が空気および有機過酸化物からなる群から選択される、請求項14に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項17】
前記ナノ粒子が多形体オリゴシルセスキオキサンであり、前記ナノコンポジットの表面が少なくとも25%の多形体オリゴシルセスキオキサンを含み、該表面の該ナノ粒子の濃度が前記内容積部のナノ粒子の濃度の2倍より高い、請求項12に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項18】
前記焼きなましが、約20℃〜約300℃の温度で、約1秒〜約1年という時間にわたって実行される、請求項12に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項19】
前記焼きなましがマイクロ波加熱を利用して達成される、請求項18に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項20】
前記焼きなましが時間の限定された工程において行われ、該時間の限定された工程のそれぞれの間に前記ポリマー生成物が室温へ冷却される、請求項19に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項21】
前記焼きなましが、前記表面からの、移動したナノ粒子の昇華を減少させるためにNおよびOを含む大気中で実行される、請求項12に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項22】
前記ナノコンポジットが前記表面で高濃度の前記ナノ粒子を有する空気不浸透性フィルムである、請求項17に記載のポリマー生成物を調製する方法。
【請求項23】
ポリマー中に分散したナノ粒子を含むナノコンポジットであって、該ナノコンポジットが表面および内容積部を有し、該表面が該内容積部より高濃度の該ナノ粒子を有する、ナノコンポジット。
【請求項24】
前記ナノ粒子がモンモリロナイト、有機化処理されたモンモリロナイト、および多形体オリゴシルセスキオキサンからなる群から選択される、請求項23に記載のナノコンポジット。
【請求項25】
前記ナノ粒子が多形体オリゴシルセスキオキサンであり、該ナノコンポジットの表面が少なくとも25%の多形体オリゴシルセスキオキサンを含み、該表面の該ナノ粒子の濃度が前記内容積部のナノ粒子の濃度より高い、請求項24に記載のナノコンポジット。
【請求項26】
前記ポリマーがポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−プロピレンコポリマー(EP)、ポリアミド(PA)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、エチレン−ビニルコポリマー(EVA)、ポリ尿素、ポリウレタン(PU)、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、およびスチレン−アクリロニトリル(SAN)からなる群から選択される、請求項23に記載のナノコンポジット。
【請求項27】
前記ナノコンポジットが、少なくとも50%の多形体オリゴシルセスキオキサンを含む表面を有する、請求項25に記載のナノコンポジット。
【請求項28】
ポリマー中に分散したナノ粒子を含むポリマー生成物であって、該ポリマー生成物が表面および内容積部を有し、該表面が該内容積部より高い濃度の該ナノ粒子を有する、ポリマー生成物。
【請求項29】
前記ナノ粒子がモンモリロナイト、有機化処理されたモンモリロナイト、および多形体オリゴシルセスキオキサンからなる群から選択される、請求項28に記載のポリマー生成物。
【請求項30】
前記ポリマーがポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−プロピレンコポリマー(EP)、ポリアミド(PA)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、エチレン−ビニルコポリマー(EVA)、ポリ尿素、ポリウレタン(PU)、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、およびスチレン−アクリロニトリル(SAN)からなる群から選択される、請求項28に記載のポリマー生成物。
【請求項31】
前記ポリマー生成物が、少なくとも25%の多形体オリゴシルセスキオキサンを含む表面を有する、請求項29に記載のポリマー生成物。
【請求項32】
前記ポリマー生成物が、99%までの多形体オリゴシルセスキオキサンを含む表面を有する、請求項31に記載のポリマー生成物。
【請求項33】
前記ポリマー生成物が、前記表面で高濃度の該ナノ粒子を有する空気不浸透性フィルムである、請求項32に記載のポリマー生成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−523771(P2010−523771A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502266(P2010−502266)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/059140
【国際公開番号】WO2008/156891
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509207818)ポリテクニック インスティテュート オブ ニューヨーク ユニバーシティー (4)
【Fターム(参考)】