説明

ナノ粒子分散イオンゲル及びナノ粒子分散イオンゲルの製造方法

【課題】ナノ粒子を内部に分散させたナノ粒子分散イオンゲルを提供する。
【解決手段】ナノ粒子分散イオンゲルは、イオン液体をゲル化して形成したイオンゲルの内部に複数のナノ粒子を分散させたものである。複数のナノ粒子の分散は、ナノ粒子分散イオンゲルは、内部気圧を大気圧よりも減圧させた蒸着装置を用いて、ナノ粒子前駆体のナノ粒子をイオンゲルに蒸着させる工程により行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子に関わるものであり、たとえばナノ粒子を含み該ナノ粒子が存在することにより現れる特性を有するもの及び該特性を有するものの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ粒子に関する研究及び開発が活発に行われるようになってきている。ナノ粒子は、ナノレベルの粒子であり一般的には1〜100nm(ナノメートル)の程度の粒子とされている。固体をどんどん細かくしていくとある大きさからその物質の性質が大きく変化する。その特性の変化は、電磁気的特性、光学的特性及び機械的特性などの変化として現れる。固体を細分化していくと、個数が増えると共に表面積の合計値が増える。各種特性の変化は、通常は酸化などの反応は物質の表面で起こることから表面積が大きくなると反応がより促進されること、超微粒子にすると原子の結合や作用に変化が起きること、などに起因すると考えられている。ナノ粒子は、固体ではこれまで考えられなかった用途に応用の幅を広げるものであり、ナノ粒子を用いることは新しい機能材料を作り出すことができると考えられる。
【0003】
ナノ粒子となることによる特性の変化には次のようなものがある。
【0004】
電磁気的特性の変化としては、ナノ粒子は一旦磁化させれば永久磁石のように磁化が取れなくなる。この現象は磁気ディスクなどの記憶装置に応用ができることになる。
【0005】
光学的特性の変化としては、金属のナノ粒子は特定の周波数の色を吸収し、これに対応した所定の色を表すことができる。これは、ナノ粒子の表面の自由電子が特定の周波数で振動する、表面プラズモン共鳴と呼ばれる現象に起因するものであり、金属の種類やナノ粒子の大きさにより異なった色が現れる。この現象はディスプレイなどに応用できると期待されている。
【0006】
機械的特性の変化としては、金属やセラミックスを超微細構造にすると機械的強度が大幅に増加することが知られており、金属やセラミックスなどのナノ粒子をカッターなどの材料に混ぜることにより、カッターなどの機械的強度を向上させることができる。
【0007】
しかしながら、一般的にナノ粒子は活性が高く他の物質と反応し易いという特徴がある。このため、ナノ粒子を単独で存在させることに難しさがある。この問題を解決するためにナノ粒子の表面に有機物などの修飾を行い、該有機物を他の物質との反応の障害物とする工夫がなされる場合がある。尚、ナノ粒子の製造方法としては、例えば、化学反応を利用して溶液中でナノ粒子を製造する湿式法(ウエットプロセス)が特許文献1に記載されている。また、真空技術を利用して基板上にナノ粒子を析出させる乾式法(ドライプロセス)が特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−281781号公報
【特許文献2】特開平9−256140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ナノ粒子を用いることで様々な応用が広がるものであるが、ナノ粒子を用いた加工においてナノ粒子表面の修飾物が加工の邪魔になる場合があると考えられる。また、該修飾物を分離してナノ粒子を用いる場合でも、修飾物を分離してしまった後のナノ粒子の活性が高いことから、ナノ粒子の取り扱いが難しくなる場合があると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した問題若しくは課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例若しくは実施形態をとることができる。
【0011】
[適用例1]
本適用例にかかるナノ粒子分散イオンゲルは、イオンゲルと、複数のナノ粒子と、を含み、前記イオンゲル内部に前記複数のナノ粒子が分散されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、イオンゲル内部に複数のナノ粒子を分散させることで、ナノ粒子分散イオンゲル内部にナノ粒子の表面に修飾物を形成しない状態でのナノ粒子を保存することが可能となる。また、ナノ粒子分散イオンゲルの状態でもナノ粒子としての特性を現すことから、ナノ粒子分散イオンゲルそのものを検査装置などのセンサー若しくはセンサーの一部として使用することができる。
【0013】
[適用例2]
上記適用例にかかるナノ粒子分散イオンゲルにおいて、前記イオンゲルは、イオン液体をゲル化したものであることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、イオンゲルがイオン液体をゲル化したものであることから、複数のナノ粒子を分散させるために用いるイオンゲルを容易に構成することができる。イオン液体は融点が低く常温では液体で存在するが、化学反応後の分離が容易であり、不燃性を有する。また、イオン液体は、支持電解質を加えなくても電流を流すことができ、イオンの種類の選択によっては様々な特性を持たせることができる。イオン液体を用いることで用途の幅が広がるとともに、ゲル化することで固体として扱うことができるため取り扱いが容易となる。
【0015】
[適用例3]
本適用例にかかるナノ粒子分散イオンゲルの製造方法は、イオンゲル内部に複数のナノ粒子を形成する第1の工程を含み、前記第1の工程は、内部気圧を大気圧よりも減圧させた蒸着装置を用いて行うことを特徴とする。
【0016】
この方法によれば、イオンゲル内部に複数のナノ粒子を分散させる工程を、内部気圧を大気圧よりも減圧させた蒸着装置を用いて行うことにより、容易に行うことができる。また、蒸着先がイオンゲルであることから、蒸着装置内部における蒸着源(ターゲットと呼ばれることがある)と蒸着先との位置関係の自由度が高いことから使用できる装置の幅を広くすることができる。たとえば、蒸着先を蒸着源よりも高い位置に配置して行う蒸着装置でも使用することができる。蒸着装置としては、一般的なスパッタ蒸着装置や抵抗加熱蒸着装置などを用いることでよい。尚、以降の実施形態において、蒸着源をナノ粒子前駆体と記載することがある。
【0017】
[適用例4]
上記適用例にかかるナノ粒子分散イオンゲルの製造方法において、更に、前記イオンゲルを生成する第2の工程と、を含み、前記第2の工程は、イオン液体とゲル化剤とを含む混合液を攪拌する工程と、攪拌させた前記混合液を乾燥させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、イオンゲルの作製をイオン液体とゲル化剤とを含む混合液を攪拌し乾燥させて行うことができることから、イオンゲルの作製を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】スパッタ蒸着装置を用いた場合のイメージ図。
【図2】イオンゲルの写真。
【図3】透過型電子顕微鏡によるナノ粒子分散イオンゲルの写真。
【図4】透過型電子顕微鏡によるナノ粒子分散イオンゲル内部の写真。
【図5】透過型電子顕微鏡によるナノ粒子の写真。
【図6】透過型電子顕微鏡によるナノ粒子分散イオンゲルの回折光の写真。
【図7】ナノ粒子分散イオンゲルの吸収スペクトル。
【図8】電子線加熱蒸着装置を用いた場合のイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
下記のようにして作製したイオンゲルにスパッタリングを行うことでナノ粒子分散イオンゲルを形成した。
【0022】
(イオンゲルの作製)
材料として次に挙げたイオン液体、ゲル化剤及び有機溶剤を使用した。

・イオン液体:EMIBF4
(1−ethyl−3−methylimidazolium tetrafluoroborate)
・ゲル化剤:フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン重合体(PVdF−HFP)
・有機溶剤(1):Propylene Carbonate
・有機溶剤(2):Methyl Pentanone

イオン液体100mgとゲル化剤100mgとを混合する。これを、有機溶剤(1)360mgと有機溶剤(2)1mlの混合液に溶かし、80℃で5時間攪拌する。攪拌した混合液を乾燥させることによりイオンゲルが作製される。作製されたイオンゲルの写真を図2として示す。
【0023】
(イオンゲル内部へのナノ粒子の分散)
上記イオンゲルをスパッタ蒸着装置(JFC−1500、日本電子株式会社製)内に設置し、ターゲット材(ナノ粒子前駆体)として金板を装着して、金のスパッタリングを5分間行った。作製されたナノ粒子分散イオンゲルの写真を図3として示す。
【0024】
本実施例におけるイメージを図1に示す。図1には、スパッタ蒸着装置100を示している。スパッタ蒸着装置100は、試料処理室10を有し、試料処理室10内の上部には陰極12が、下部には陽極13が取り付けられている。陰極12には高電圧部11が接続されている。また、試料処理室10内部を減圧するために排出管15には真空ポンプ(図示していない)が取り付けられている。また、Arガスなどを導入するための導入管14が設けられている。
【0025】
ナノ粒子前駆体17は陰極12に取り付けられ、イオンゲル18は陽極上に置かれる。本実施例においては、ナノ粒子前駆体17は金板である。この状態で陰極12に高電圧を印加するとナノ粒子前駆体17から金の原子が飛び出して放電プラズマ領域19を形成し、金の原子がイオンゲル18内部に入り込んでナノ粒子を形成し保持される。これによりナノ粒子分散イオンゲルが作製される。
【0026】
作製されたナノ粒子分散イオンゲルの透過型電子顕微鏡写真を図4〜図6に示す。図4は、イオンゲルとイオンゲル内部に分散された金のナノ粒子の像である。黒く見える粒子が金のナノ粒子である。図5に、ナノ粒子単体の高分解透過型電子顕微鏡写真を示す。図5のナノ粒子の粒径は約25nmであり、金のfcc構造の(111)面における面間隔0.235nmに帰属する格子縞が見て取れる。また、図6はナノ粒子分散イオンゲルの電子線回折パターンであり,この回折パターンからもイオンゲル中の金ナノ粒子の結晶構造はバルク結晶と同じfcc構造であることがわかる。
【0027】
図7に示したのは、作製されたナノ粒子分散イオンゲルにおける光吸収スペクトルの測定結果である。540nm付近に金のナノ粒子の表面プラズモンに由来するピークを見ることができる。これは、生成された金のナノ粒子の粒子径の多くが25nm程度であることに符合する測定結果である。
【0028】
以上、透過型電子顕微鏡による観察結果および光吸収スペクトルの測定結果から、イオンゲルに金板をターゲット(ナノ粒子前駆体)としてスパッタリングを行うことで、金のナノ粒子を有するナノ粒子分散イオンゲルが作製されたことが確認された。
【実施例2】
【0029】
本実施例は、イオンゲル内部へのナノ粒子の分散の工程に電子線加熱蒸着装置を用いた場合の例である。図8に、本実施例のイメージ図を示す。尚、イオンゲルは実施例1と同じであり、ナノ粒子前駆体として金を用いることも実施例1と同じである。
【0030】
電子線加熱蒸着装置200は試料処理室21を有し、試料処理室21内には電子線放出部22、蒸着源保持部24及び試料を保持する台座25が設けられている。蒸着源保持部24は凹部を有し、該凹部に蒸着源(金)26(ナノ粒子前駆体)が保持される。電子線放出部22は、蒸着源(金)26から飛び出した粒子の蒸着がないように、蒸着源保持部24の下方向に設けられている。また、台座25は蒸着源保持部24の上方向に設けられ、イオンゲル28は蒸着源保持部24の方向に保持される。尚、試料処理室21内部を減圧するために、排出管23は真空ポンプ(図示していない)に接続されている。
【0031】
電子線放出部22における電子線の放出は、熱フィラメントに電流を通して加熱することにより行われる。放出された電子線は、4〜10kV程度の高電圧により加速され、磁場によって収束されて電子線放出部22の出力である電子線30として出力される。電子線放出部22から出力された電子線30は、磁場をかけて偏向させられ、蒸着源(金)26に照射される。
【0032】
電子線30が照射された蒸着源(金)26は局所的に高温になり蒸発する(図8の矢印31)。蒸発した蒸着源(金)27がイオンゲル28に入り込み金のナノ粒子が形成され、ナノ粒子分散イオンゲルを作製することができる。
【実施例3】
【0033】
本実施例は、イオンゲル内部へのナノ粒子の分散の工程に抵抗加熱蒸着装置を用いた場合の例である。抵抗加熱蒸着装置(図示せず)は、図8を流用して簡単に説明すると、電子線放出部22を取り除き、台座25を加熱させることで蒸着源を加熱し蒸発させるタイプの蒸着装置である。蒸着源に金を用い、蒸着先を上述したイオンゲルとすることで、金のナノ粒子分散イオンゲルを作製することができる。
【0034】
以上、本発明にかかるふたつの実施例の説明を行ったが、ナノ粒子分散イオンゲル内部に分散保持されているナノ粒子は、ナノ粒子表面にナノ粒子の活性を妨げるための修飾はなされていない。このため、ナノ粒子分散イオンゲルはナノ粒子を保存することに利用することができ、また、ナノ粒子分散イオンセルは固体として扱うことが可能であることからこれ自身の保存・運搬も容易に行えるようになる。また、ナノ粒子分散イオンゲルの内部に分散されたナノ粒子は、ナノ粒子特有の振る舞いをすることから、ナノ粒子分散イオンゲルそのままの状態でセンサーなどの各種の装置に用いることが可能である。ナノ粒子分散イオンゲルは、ナノ粒子の取り扱いを非常に簡便にするものであるといえる。
【0035】
尚、上述した実施例においてはイオン液体としてEMIBF4を用いたが、本発明に適応可能は親水性であっても疎水性であってもよく、その種類は特に限定されるものではない。たとえば、使用可能なイオン液体としては、脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、若しくは、ピリジニウム系イオン液体などが挙げられる。
【0036】
また、ナノ粒子前駆体は、純物質であってもよいし混合物でもよい。純物質は単体であっても化合物でもよい。ナノ粒子前駆体の種類も限定するものではない。また、イオンゲルは固体して扱うことができることから、蒸着装置における扱いが容易である。
【0037】
上記の本発明は上記の内容に限定されるものでなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で広く適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10…試料処理室、11…高電圧部、12…陰極、13…陽極、14…導入管、15…排出管、17…ナノ粒子前駆体、18…イオンゲル、19…放電プラズマ領域、21…試料処理室、22…電子線放出部、23…排出管、24…蒸着源保持部、25…台座、26…蒸着源(金)、27…蒸発した蒸着源(金)、28…イオンゲル、30…電子線、31…矢印、100…スパッタ蒸着装置、200…電子線加熱蒸着装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンゲルと、
複数のナノ粒子と、
を含み、
前記イオンゲル内部に前記複数のナノ粒子が分散されていることを特徴とするナノ粒子分散イオンゲル。
【請求項2】
前記イオンゲルは、イオン液体をゲル化したものであることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子分散イオンゲル。
【請求項3】
イオンゲル内部に複数のナノ粒子を形成する第1の工程を含み、
前記第1の工程は、内部気圧を大気圧よりも減圧させた蒸着装置を用いて行うことを特徴とするナノ粒子分散イオンゲルの製造方法。
【請求項4】
更に、前記イオンゲルを生成する第2の工程と、を含み、
前記第2の工程は、イオン液体とゲル化剤とを含む混合液を攪拌する工程と、攪拌させた前記混合液を乾燥させる工程と、を含むことを特徴とする請求項3に記載のナノ粒子分散イオンゲルの製造方法。

【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167140(P2012−167140A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26879(P2011−26879)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】