説明

ニキビ治療におけるデルモピノールの使用

本発明は、一般式(I)(式中、R1は、モルホリノ環の2位または3位に結合し、8〜16個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R2は2〜10個の炭素原子を含有し、アルファ位以外がヒドロキシ基で置換された、直鎖または分岐鎖アルキル基である)を有するモルホリノ化合物、または医薬的に許容されるその塩の、ニキビの治療用組成物の製造における使用に関する。
【化9】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニキビの治療法、皮膚の外観を改善する美容法およびこのような方法において使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニキビは、皮膚における毛嚢脂腺単位の炎症により特徴付けられる多くの皮膚障害を指す一般名称である(クラウザイムおよびゴルニック、クリニックス・イン・ダーマトロジー(Krautheim and Gollnick,Clinics in Dermatology)、2004;22:398−407)。
【0003】
ニキビは、人生のいくつかの時点で多くの人々に影響を及ぼす一般的皮膚疾患である。ニキビは、毛髪を含有する皮膚の表面における空洞であり、皮膚の深層から伸びて表面で孔をあける毛包で起こる。皮脂腺は、皮脂を毛包中に分泌し、これは皮膚表面に流出して、潤滑をもたらし、皮膚が乾燥するのを予防する。
【0004】
ニキビは、穴が詰まり(例えば、死んだ皮膚細胞または皮脂の過度の産生による)、皮膚表面上に流出する代わりに、皮脂が毛包中に集まった場合に起こる。詰まった毛包は、次いで細菌に感染するようになる。通常、皮膚上に存在するプロピオニバクテリア(propionibacteria)は、ニキビ、特にプロピオニバクテリウム・アクネズ(Propionibacterium acnes)(P.acnes)の進行に関与している。
【0005】
様々な種類のニキビが既知であり、最も一般的な形態は、尋常性座瘡(Acne Vulgaris)である。尋常性座瘡の軽度の形態においては、孔が皮脂栓を露出させ、その表面は黒くなる。これは、「ブラックヘッド」または「開放面皰」と呼ばれる。他の軽度の場合には、孔は外部環境に対して閉じたままであり、閉じ込められた皮脂および細菌は皮膚表面のすぐ下にとどまる。これは、「ホワイトヘッド」または「閉鎖面皰」として知られている。ホワイトヘッドおよびブラックヘッドは、比較的軽微な非炎症性疾患であり、医療問題よりも美容的問題として主に考えられる。
【0006】
しかしながら、ニキビは、閉塞した毛包が炎症を起こし、表面から肥大し、発赤外観に至り、丘疹および小膿庖を形成する場合に深刻さを増す。炎症は、主に、閉塞した孔にコロニーを形成するピー・アクネズ(P.acnes)の細胞外産物に対する免疫反応により誘発されると考えられる(ズーブリス(Zouboulis)、クリニックス・イン・ダーマトロジー(Clinics in Dermatology)、2004、22:360−366)。炎症を起こした毛庖は、皮膚上で破裂して、小膿庖頭部を形成し得る。重篤な場合、激しく炎症を起こした毛庖は皮膚の下で破裂して、小節および嚢胞を形成し、深い傷に至る。集簇性座瘡(acne conglobata)は、ニキビの最も重度の形態につけられた用語である。
【0007】
ニキビは、見苦しく、特に顔面上の重度の瘢痕の原因となり得る。これらの身体的影響に加えて、ニキビは重度の精神的影響、例えば、低い自尊心および鬱を引き起こし得る。
【0008】
多くの局所治療が現在、ニキビを治療するために用いられている。これらは典型的には、抗微生物特性を有する活性成分を含有する。過酸化ベンゾイルはこのような抗菌剤の重要な一例である。抗生物質も、通常、局所的および全身的の両方で使用され、この結果、細菌耐性が発生する(「プロピオニバクテリウム・アクネズの抗生物質感受性に関するヨーロッパ調査研究」(European Surveillance Study on the Antibiotic Susceptibility of Propionibacterium Acnes)、シー・オプリカ(C.Oprica)およびシー・イー・ノード(C.E.Nord);クリニカル・ミクロバイオロジー・アンド・インフェクション(Clinical Microbiology and Infection)、第11巻、3号、2005年3月、204ページから213ページ)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
既存のニキビ治療法はある程度まで有効であるが、この分野において改善の余地があり、有効なニキビ治療法に対する強い要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、デルモピノール、およびその誘導体がニキビの治療において有用であるという驚くべき発見に基づく。
【0011】
第一の態様によると、本発明は、一般式、
【0012】
【化5】

【0013】
(式中、R1は、モルホリノ環の2位または3位に結合し、8〜16個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R2は2〜10個の炭素原子を含有し、アルファ位以外がヒドロキシ基で置換された、直鎖または分岐鎖アルキル基である)を有するモルホリノ化合物、または医薬的に許容されるその塩の、ニキビの治療用薬剤の製造における使用に関する。
【0014】
第二の態様によると、本発明は、皮膚の外観を改善する美容法に関し、本方法は、組成物を皮膚に塗布する工程を含み、前記組成物が一般式、
【0015】
【化6】

【0016】
(式中、R1はモルホリノ環の2位または3位に結合し、8〜16個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R2は2〜10個の炭素原子を含有し、アルファ位以外がヒドロキシ基で置換されている直鎖または分岐鎖アルキル基である)を有するモルホリノ化合物、または医薬的に許容されるその塩を含むことを特徴とする。
【0017】
第三の態様によると、本発明は、一般式、
【0018】
【化7】

【0019】
(式中、R1は、モルホリノ環の2位または3位に結合し、8〜16個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R2は2〜10個の炭素原子を含有し、アルファ位以外がヒドロキシ基で置換された直鎖または分岐鎖アルキル基である)を有するモルホリノ化合物、または医薬的に許容されるその塩を含むことを特徴とする、皮膚用途に適した組成物に関する。
【0020】
第四の態様によると、本発明は、ニキビの治療法であって、一般式、
【0021】
【化8】

【0022】
(式中、R1は、モルホリノ環の2位または3位に結合し、8〜16個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R2は2〜10個の炭素原子を含有し、アルファ位以外がヒドロキシ基で置換された直鎖または分岐鎖アルキル基である)を有するモルホリノ化合物、または医薬的に許容されるその塩を含む組成物の皮膚への局所適用を含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物は、ニキビの治療において有用である。
【0024】
本明細書において用いられる場合、用語「ニキビ」は、毛嚢脂腺単位の閉塞した状態の孔を含めた、いずれの皮膚疾患をもいう。用語「ニキビ」は、ホワイトヘッド(閉鎖面皰)、ブラックヘッド(開放面皰)、丘疹、小膿庖、根粒および嚢胞の存在を含む。用語「ニキビ」は、非炎症性座瘡、例えば、小さなブラックヘッドおよびホワイトヘッド、および免疫反応が閉塞した毛包に炎症を起こし、小膿庖、根粒または嚢胞を生じさせる、炎症性座瘡を含む。好ましくは、ニキビは、プロピオニバクテリウム・アクネズの存在により特徴付けられる。
【0025】
好ましい実施形態において、ニキビは、尋常性座瘡である。軽度から中程度、並びに重度までの、尋常性座瘡のすべての形態は、本発明の範囲内に含まれる。尋常性座瘡の重度の形態は、集簇性座瘡および劇症座瘡(Acne fulminans)と呼ばれる場合もある。集簇性座瘡は、尋常性座瘡の最も重度の形態であり、しばしば連結した多くの損傷により特徴付けられる。劇症座瘡は、集簇性座瘡の急性発症形である。用語「ニキビ」は、毛包炎、特にグラム陰性毛包炎、および顔面膿皮症(女性のみを冒す顔のニキビの一種)も含む。
【0026】
請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物は、米国特許第4,894,221号および米国特許第5,082,653号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているように、それ自体既知である。
【0027】
本発明の第一の態様は、請求の範囲に記載されている化合物の、ニキビの治療における使用に関する。
【0028】
本発明において、モルホリノ化合物は、上記の一般式により定義される。本発明の好ましい実施形態において、R1およびR2基中の炭素原子の合計は、少なくとも10個、好ましくは10個から20個の間である。さらに好ましい実施形態において、R2基の末端はヒドロキシ基である。
【0029】
本発明において使用される好ましいモルホリノ化合物は、3−(4−プロピル−ヘプチル)−4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンであり、これは一般に、デルモピノール(Delmopinol)(CAS No.79874−76−3)として知られている。
【0030】
本発明のモルホリノ化合物は、その遊離塩基形態、または医薬的に許容されるその塩の形態で使用できる。医薬的に許容される塩の例は、酢酸、リン酸、ホウ酸、塩酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、グルタル酸、ゲンチシン酸、吉草酸、没食子酸、ベータ−レゾルサイクリン酸(beta-resorcyclic acid)、アセチルサリチル酸、サリチル酸、過塩素酸、バルビツール酸、スルファニル酸、フィチン酸、p−ニトロ安息香酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸などの酸の塩である。最も好ましい塩形態は塩酸塩である。好ましい化合物は、デルモピノール塩酸塩(CAS No.98092−92−3)である。
【0031】
請求の範囲に記載されている化合物は、任意の既知方法、例えば、米国特許第5,082,653号およびWO90/14342において記載されている方法により製造できる。
【0032】
請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物自体は、実質的な抗微生物作用を有さないと考えられている。従って、請求の範囲に記載されている化合物は、細菌の数を減少させる治療と組み合わせて有利に用いることができる。例えば、請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物を含有する組成物は、皮膚清浄ルーチンの一部として使用できる。
【0033】
請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物は、好ましくは、抗菌剤との組み合わせにおいて用いられる。抗菌剤は、ニキビに関連する細菌に対して有効な、任意の医薬的に許容される化合物、例えば、過酸化ベンゾイルであってよい。
【0034】
抗炎症および間接的抗菌効果を有すると考えられる局所レチノイドも、請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物と組み合わせて用いることができる。好適なレチノイドは当業者に明らかであり、トレチノイン、イソトレチノイン、アダパレンおよびタゾルテン(tazortene)が挙げられる。
【0035】
請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物を含む組成物において、抗生物質を用いることができる。ニキビに関連する細菌に対して有効な任意の抗生物質を使用できる。好ましくは、抗生物質は、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ベンジルペニシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、バンコマイシンおよびリネゾリドからなる群から選択される。
【0036】
請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物を含む組成物には、抗炎症剤を使用することができる。当業者は、抗炎症剤の使用が炎症性座瘡の治療において特に有用であることを理解するであろう。ステロイド系抗炎症剤、例えば、コルチゾン、または、シクロオキシゲナーゼイソ酵素を阻害する非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDS)、例えば、アスピリンおよびイブプロフェンは、本発明の範囲内に含まれる。
【0037】
誤解を避けるために、本明細書に記載される組成物成分のそれぞれのあらゆる組み合わせは、本発明の範囲内に含まれる。
【0038】
請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物は、本発明の第二の態様に関連して皮膚の外観を改善する化粧効果を有するためにも使用できる。請求の範囲に記載されている化合物は、見苦しいニキビを治療するだけでなく、ニキビの形成を阻止することにより、皮膚の外観を改善する。
【0039】
本発明において用いられる組成物は、皮膚への局所適用に適し、医薬的に許容されるクリーム、軟膏またはジェル中の請求の範囲に記載されている化合物からなるべきである。組成物は、親水性であっても、疎水性であってもよい。組成物には、他の好適な溶媒、例えば、アルコールまたは他の有機溶媒を使用することもできるが、組成物は水性組成物であってもよい。溶媒を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
好適なクリームは、例えば、界面活性剤を用いて水性媒体中に分散させた、軽質流動パラフィンなどの局所ビヒクル中に、活性化合物を組み入れることにより調製できる。軟膏は、活性化合物を局所ビヒクル、例えば、鉱油またはワックスと混合することにより調製できる。ゲルは、活性化合物を、ゲル化剤を含む局所ビヒクルと混合することにより調製できる。
【0041】
局所投与可能な組成物には、マトリックスも含むことができ、マトリックス中に本発明の医薬的に活性な化合物が分散されて、化合物を経皮投与するために皮膚と接触した状態に保持することができる。
【0042】
請求の範囲に記載されているモルホリノ化合物は、状態の重度に基づいて決定できる、前記化合物が有効である濃度で組成物中に含むべきである。本発明の化合物は任意の好適な濃度で存在することができる。通常、化合物は、0.01%(w/v)から20%(w/v)、例えば、15%(w/v)、好ましくは、0.01%(w/v)〜10%(w/v)、好ましくは、0.1%(w/v)〜5%(w/v)、最も好ましくは、1%(w/v)〜3%(w/v)、例えば、2%(w/v)の濃度で存在する。一般に、高濃度のモルホリノ化合物は、皮膚の外観を改善する化粧用途よりも、ニキビの医療における使用に適している。好適な濃度は、当業者が容易に選択することができる。
【0043】
抗菌剤、局所レチノイド、抗生物質、抗炎症剤および/または他の追加の成分が組成物中に含まれる場合、これらも、当業者により容易に決定され得る有効な濃度で含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式、
【化1】

(式中、R1は、モルホリノ環の2位または3位に結合し、8〜16個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R2は2〜10個の炭素原子を含有し、アルファ位以外がヒドロキシ基で置換された、直鎖または分岐鎖アルキル基である)を有するモルホリノ化合物、または医薬的に許容されるその塩の、ニキビの治療用組成物の製造における使用。
【請求項2】
1およびR2の炭素原子の合計が少なくとも10個、好ましくは10個から20個である、請求項1に記載のモルホリノ化合物の使用。
【請求項3】
2の末端がヒドロキシ基である、請求項1または請求項2に記載のモルホリノ化合物の使用。
【請求項4】
前記モルホリノ化合物が3−(4−プロピル−ヘプチル)−4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンである、先行する請求項のいずれか一項に記載のモルホリノ化合物の使用。
【請求項5】
前記組成物がさらに抗菌剤を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載のモルホリノ化合物の使用。
【請求項6】
前記抗菌剤が抗生物質、好ましくは、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ベンジルペニシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、バンコマイシンおよびリネゾリドからなる群から選択される抗生物質である、請求項5に記載のモルホリノ化合物の使用。
【請求項7】
前記組成物がさらに抗炎症剤を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載のモルホリノ化合物の使用。
【請求項8】
皮膚の外観を改善するための美容法であって、皮膚に組成物を塗布する工程を含み、前記組成物が、一般式、
【化2】

(式中、R1はモルホリノ環の2位または3位に結合し、8〜16個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R2は2〜10個の炭素原子を含有し、アルファ位以外がヒドロキシ基で置換された、直鎖または分岐鎖アルキル基である)を有するモルホリノ化合物、または医薬的に許容されるその塩を含むことを特徴とする前記美容法。
【請求項9】
ニキビを治療する方法であって、一般式、
【化3】

(式中、R1はモルホリノ環の2位または3位に結合し、8〜16個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R2は2〜10個の炭素原子を含有し、アルファ位以外がヒドロキシ基で置換された、直鎖または分岐鎖アルキル基である)を有するモルホリノ化合物、または医薬的に許容されるその塩を含む組成物を皮膚に局所適用することを含む前記方法。
【請求項10】
皮膚用途に適した組成物であって、一般式、
【化4】

(式中、R1はモルホリノ環の2位または3位に結合し、8〜16個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基であり、R2は2〜10個の炭素原子を含有し、アルファ位以外がヒドロキシ基で置換された、直鎖または分岐鎖アルキル基である)を有するモルホリノ化合物、または医薬的に許容されるその塩を含むことを特徴とする組成物。
【請求項11】
請求項2〜7に記載の特徴のいずれかをさらに含む、請求項10に記載の組成物。

【公表番号】特表2009−502769(P2009−502769A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−522069(P2008−522069)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002770
【国際公開番号】WO2007/010294
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(508022067)シンクレア ファーマシューティカルズ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】