説明

ネガ型感光性平版印刷版

【課題】本発明の目的は、光重合性感光層を備えたネガ型平版印刷版において、印刷時の画像部の耐摩耗性に優れたネガ型平版印刷版を提供することである。
【解決手段】支持体上に、側鎖にエチレン性不飽和二重結合を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体とラジカル発生剤を含有する光重合性感光層を有するネガ型平版印刷版において、光重合性感光層が一般式(I)〜(IV)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機亜鉛化合物を含有することを特徴とするネガ型感光性平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネガ型感光性平版印刷版に関する。詳細には、レーザー光を用いた走査露光方式により製版される、印刷時の画像部の耐摩耗性の向上した光重合性平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
ネガ型感光性平版印刷版は、支持体上にネガ型重合性感光層を設け、紫外線などの画像露光の後アルカリ水溶液で現像することにより、露光部では重合が進んで親油性画像が形成されると共に、未露光部は溶出除去されて親水性の支持体表面が露出されて非画像部が形成される。平版印刷は、平版印刷版の画像部と非画像部の親油性、親水性の差を利用して、インキに対する給湿液のバランスを変化させることによりインキ乳化率を制御し、印刷物の画像濃度や画像サイズを微妙に制御することにより行われている。
【0003】
この様なネガ型感光性平版印刷版は印刷枚数の増加と共に、画像部の摩耗や支持体表面からの欠落が生じる場合があり、画像部の濃度が次第に低下したり、画像が細ったりする為、平版印刷時においてはインキに対する給湿液の供給量を絞ることにより画像部の摩耗や欠落に伴う印刷物上の画像濃度の低下や細りを緩和する為の調整が行われる。しかし、近年、印刷機の高速化に伴い、より高速にインキの転移が版とブランケット間で行われることにより、版に加わる応力が大きくなった結果、画像部の摩耗が激しく、給湿液の制御では調整しきれないという問題があった。
【0004】
一方、近年、紫外光露光により感光し、画像形成を行う従来からの感光性樹脂およびこれを利用した平版印刷版に加えて、可視光領域から近赤外光領域(380〜1300nm)に対応する感度を大幅に向上させた高感度の感光性樹脂系が開発され、各種のレーザー光源を利用し、これらレーザーによる直接描画、製版が可能な系が実用化されている。これらは、感光層にラジカル発生剤と色素増感剤および重合性化合物を有し、色素増感剤が吸収した光エネルギーをラジカル発生剤のラジカル開裂に利用し、発生するラジカルによる重合性化合物の重合を利用するものである。
【0005】
上記の光重合系を構成するラジカル発生剤と増感剤の具体的な組み合わせについては、例えば有機ホウ素アニオンとカチオン色素の組み合わせが特開昭62−143044号、同62−150242号、特開平5−5988号、特開2000−89455号公報等に記載されている。ラジカル発生剤の他の例としては、チタノセン化合物と増感剤の組み合わせについて特開昭63−221110号公報などに見られる。さらに、トリハロアルキル置換トリアジン化合物とシアニン色素の組み合わせについては特開平2−189548号公報等に見られ、ヘキサアリールビイミダゾール化合物と色素の組み合わせについては特開平1−279903号公報などに記載されている。しかし、可視光領域から近赤外光領域の光エネルギーは紫外光に比べて小さいのでラジカル発生剤のラジカル開裂の効率が低くなり重合効率が低い為、露光のみでは不十分な場合が多く、画像部の耐摩耗性を確保する為には露光後あるいは現像処理後に加熱処理して、重合を促進完結させる等の処理が必要であった。
【0006】
特開2000―218953号公報(特許文献1)にはエチレン性二重結合を有する化合物、光重合開始剤および高分子重合体を含有する光重合性感光層とアルミニウム陽極酸化皮膜の間に亜鉛を含有する層を設けることにより細線やハイライト部の耐刷性に優れた光重合性平版印刷版が得られることが記載されている。しかし、係る平版印刷版はアルミニウム支持体の陽極酸化皮膜の表面の一部を亜鉛で置換させるよって画像部と支持体表面の密着性を上げることにより耐刷性を向上させるものであり、非画像部の陽極酸化皮膜表面に存在する亜鉛がインキを引きつける結果、耐汚れ性が低下するという欠点があった。また、画像部の摩耗そのものがこれによって低減されるものでもなかった。
【0007】
一方、特開平8−240909号公報(特許文献2)には亜鉛を触媒として重合したノボラック樹脂を用いて耐薬品性の向上したポジ型感光性樹脂について記載している。また、特開平8−334892号公報(特許文献3)にはエチレン不飽和結合とアミノ基構造を有する重合体に亜鉛原子をその一部に含む脂環性の環状骨格を導入するこことにより耐刷性が向上することを記載している。しかし、何れの方法も、印刷時の画像部の耐摩耗性を根本的に改良出来るものではなかった。
【特許文献1】特開2000―218953号公報
【特許文献2】特開平8−240909号公報
【特許文献3】特開平8−334892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、光重合性感光層を備えたネガ型感光性平版印刷版において、印刷時の画像部の耐摩耗性に優れたネガ型感光性平版印刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は支持体上に、側鎖にエチレン性不飽和二重結合を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体とラジカル発生剤を含有する光重合性感光層を有するネガ型平版印刷版において、光重合性感光層が下記の一般式(I)〜(IV)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機亜鉛化合物を含有することを特徴とするネガ型感光性平版印刷版によって基本的に達成された。
【0010】
【化1】

【0011】
式中、R1、R2は炭素数2〜8のアルキル基またはアリール基を表し、R1とR2は同じであっても異なっていても良い。
【0012】
【化2】

【0013】
式中、R3は炭素数6〜20までのアルキル基、またはアリール基を表す。
【0014】
【化3】

【0015】
式中、R4、R5は炭素数1〜4のアルキル基、またはアリール基を表し、R4とR5は同じであっても異なっていても良い。
【0016】
【化4】

【0017】
式中、X、Yは炭素原子、窒素原子またはイオウ原子を表し、Zは5員または6員の複素環を完成するための原子群を表し、複素環は縮合環を有していても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明により印刷時の画像部の耐摩耗性に優れたネガ型感光性平版印刷版を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に用いる有機亜鉛化合物について説明する。本発明の有機亜鉛化合物は下記の一般式(I)〜(IV)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機亜鉛化合物である。
【0020】
【化5】

【0021】
式中、R1、R2は炭素数2〜8のアルキル基、またはアリール基を表す。アルキル基の例としては、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基、tert−ブチル基、2−メチルプロピル基などの直鎖または側鎖を有するアルキル基等が挙げられる。また、アルキル基はハロゲン原子、カルボキシ基、アミノ基などの置換基を有していても良い。アリール基は置換または未置換のフェニル基またはナフチル基を指す。アリール基の置換基としてはハロゲン原子、カルボキシ基、アミノ基、アリール基、炭素数1〜4までのアルキル基などが挙げられる。R1とR2は同じであっても異なっていても良い。
【0022】
【化6】

【0023】
式中、R3は炭素数6〜20までのアルキル基、またはアリール基を表す。アルキル基の例としてはn−オクチル基、n−ドデシル基、2,4−ジメチルヘプチル基、2−メチル−3−エチルヘキシル基などの直鎖または側鎖を有するアルキル基等が挙げられる。また、アルキル基はハロゲン原子、カルボキシ基、アミノ基などの置換基を有していても良い。アリール基は置換または未置換のフェニル基またはナフチル基を指す。アリール基の置換基としてはハロゲン原子、カルボキシ基、アミノ基、アリール基、炭素数1〜4までのアルキル基などが挙げられる。
【0024】
【化7】

【0025】
式中、R4、R5は炭素数1〜4のアルキル基、またはアリール基を表す。アルキル基の例としてはメチル基、エチル基、2−メチルプロピル基、tert−ブチル基などの直鎖または側鎖を有するアルキル基等が挙げられる。また、アルキル基はハロゲン原子、カルボキシ基、アミノ基などの置換基を有していても良い。アリール基は置換または未置換のフェニル基またはナフチル基を指す。アリール基の置換基としてはハロゲン原子、カルボキシ基、アミノ基、アリール基、炭素数1〜4までのアルキル基などが挙げられる。R4とR5は同じであっても異なっていても良い。
【0026】
【化8】

【0027】
式中、X、Yは炭素原子、窒素原子またはイオウ原子を表し、Zは5員または6員の複素環を完成するための原子群を表す。複素環の例としてチオフェン環、ピロール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環等が挙げられる。複素環は縮合環を有していても良く、縮合環としてベンゼン環、ナフタレン環が挙げられる。複素環および縮合環はハロゲン原子、カルボキシ基、アミノ基、アリール基、炭素数1〜4までのアルキル基等の置換基を有していても良い。
【0028】
以下に上記一般式(I)〜(IV)で表される本発明の好ましい有機亜鉛化合物の具体例を示す。
【0029】
【化9】

【0030】
【化10】

【0031】
【化11】

【0032】
本発明の有機亜鉛化合物の好ましい含有量は側鎖にエチレン性不飽和二重結合を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体1質量部に対して、金属亜鉛換算で0.001〜0.1質量部の範囲であり、更に好ましくは0.01〜0.05質量部の範囲である。亜鉛の含有量が0.001質量部未満の場合には、耐摩耗性に効果が十分に発現されず、また0.1質量部を超える場合には画質の低下や非画像部の溶出性の低下が生じることがある。本発明の有機亜鉛化合物の添加時期は平版印刷版製造時の任意の時期に添加することが出来る。本発明の有機亜鉛化合物は感光層中に直接添加しても良いが、活性剤やポリマーにより有機溶媒中に分散させた後、光重合性感光層中に添加することも出来る。
【0033】
本発明に使用される、側鎖に重合性二重結合を有しかつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体(以下、本発明の重合体と称する。)について説明する。本発明の重合体に共重合成分として導入されるカルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸−2−カルボキシエチルエステル、メタクリル酸−2−カルボキシエチルエステル、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン等のような例が挙げられる。
【0034】
本発明の重合体の側鎖に重合性二重結合を導入する場合のモノマーとしては、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ビニルアクリレート、ビニルメタクリレート、1−プロペニルアクリレート、1−プロペニルメタクリレート、β−フェニルビニルメタクリレート、β−フェニルビニルアクリレート、ビニルメタクリルアミド、ビニルアクリルアミド、α−クロロ−ビニルメタクリレート、α−クロロビニルアクリレート、β−メトキシビニルメタクリレート、β−メトキシビニルアクリレート、ビニルチオアクリレート、ビニルチオメタクリレート等が挙げられる。
【0035】
上記本発明の重合体の例として、下記で表されるような重合体が挙げられる。
【0036】
【化12】

【0037】
ここで、例示された構造式の中の数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0038】
本発明の重合体として特に好ましくは、ビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有し、かつカルボキシ基含有モノマーを共重合成分として有する重合体である。係る重合体は後述する様に、380nm〜1300nmの間の波長領域に感度を付与する増感色素およびラジカル発生剤として有機ホウ素化合物を用いることによって高感度に増感することが出来る。ビニル基が置換したフェニル基は直接もしくは連結基を介して主鎖と結合したものであり、連結基としては特に限定されず、任意の基、原子またはそれらの複合した基が挙げられる。また、前記フェニル基は置換可能な基もしくは原子で置換されていても良く、また、前記ビニル基はハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等で置換されていても良い。上記した側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する重合体とは、更に詳細には、下記で表される基を側鎖に有するものである。
【0039】
【化13】

【0040】
式中、Z1は連結基を表し、R11、R12、及びR13は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R14は水素原子と置換可能な基または原子を表す。n1は0または1を表し、m1は0〜4の整数を表し、k1は1〜4の整数を表す。
【0041】
上記した基について更に詳細に説明する。Z1の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R15)−、−C(O)−O−、−C(R16)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基、及び下記で表される基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR15及びR16は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0042】
【化14】

【0043】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。ビニル基が置換したフェニル基で表される基の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0044】
【化15】

【0045】
【化16】

【0046】
【化17】

【0047】
【化18】

【0048】
上記側鎖に有する基の中には好ましいものが存在する。即ち、R11及びR12が水素原子でR3が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であるものが好ましい。更に、Z1の連結基としては複素環を含むものが好ましく、k1は1または2であるものが好ましい。
【0049】
ビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有し、かつカルボキシ基含有モノマーを共重合成分として有する重合体の例を下記に示す。式中、数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0050】
【化19】

【0051】
【化20】

【0052】
【化21】

【0053】
【化22】

【0054】
【化23】

【0055】
本発明の重合体は、更に他のモノマーを共重合体成分として含んでもよい。他のモノマーとしては、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アミノスチレン、クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル等のメタクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アリールエステル或いはアルキルアリールエステル類、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基を有するメタクリル酸エステル類、メタクリル酸−2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸−2−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有メタクリル酸エステル類、或いはアクリル酸エステルとしてこれら対応するメタクリル酸エステルと同様の例、或いは、リン酸基を有するモノマーとしてビニルホスホン酸等、或いは、アリルアミン、ジアリルアミン等のアミノ基含有モノマー類、或いは、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩、メタリルスルホン酸およびその塩、スチレンスルホン酸およびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有するモノマー類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、或いは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、或いはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーが挙げられる。
【0056】
本発明に係わる重合体の分子量については好ましい範囲が存在し、重量平均分子量として1000から100万の範囲にあることが好ましく、さらに5000から50万の範囲にあることがさらに好ましい。
【0057】
本発明の感光層は、ラジカル発生剤を含有する。ラジカル発生剤としては公知の化合物を用いることができる。例えば、有機ホウ素化合物、トリハロアルキル置換された化合物(例えばトリハロアルキル置換された含窒素複素環化合物としてs−トリアジン化合物およびオキサジアゾール誘導体、トリハロアルキルスルホニル化合物)、ヘキサアリールビスイミダゾール、チタノセン化合物、ケトオキシム化合物、チオ化合物、有機過酸化物、オニウム塩(特開2003−114532号公報に記載のヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩)等が挙げられる。これらのラジカル発生剤の中でも、特に有機ホウ素化合物が有機亜鉛化合物と組み合わせて耐摩耗性を向上させる上ことから、好ましく用いられる。更に好ましくは、有機ホウ素化合物をトリハロアルキル置換化合物と組み合わせて用いることである。
【0058】
有機ホウ素化合物を構成する有機ホウ素アニオンは、下記一般式で表される。
【0059】
【化24】

【0060】
式中、R17、R18、R19およびR20は各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R17、R18、R19およびR20の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0061】
有機ホウ素アニオンと塩を構成するカチオンとしては、アルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が挙げられるが、好ましくは、オニウム塩であり、例えばテトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素化合物の例を下記に示す。
【0062】
【化25】

【0063】
【化26】

【0064】
他の好ましいラジカル発生剤として、トリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0065】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を以下に示す。
【0066】
【化27】

【0067】
【化28】

【0068】
上述したようなラジカル発生剤の含有量は、側鎖にエチレン性不飽和二重結合を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体に対して、1〜100質量%の範囲が好ましく、更には1〜40質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0069】
本発明の380〜1300nmの間の波長領域に感度を付与する好ましい増感色素として、シアニン、フタロシアニン、メロシアニン、クマリン、ポリフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム化合物、ピリリウム化合物が挙げられ、更に、欧州特許第0,568,993号、米国特許第4,508,811号、同5,227,227号公報に記載の化合物も用いることができる。
【0070】
可視光(380〜700nm)に吸収を有する増感色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0071】
【化29】

【0072】
【化30】

【0073】
【化31】

【0074】
【化32】

【0075】
【化33】

【0076】
【化34】

【0077】
近年、380〜430nmに発振波長を有する青色半導体レーザーを搭載した出力機が開発されている。この出力機は、最大露光エネルギー量が数十μJ/cm2程度で、用いられる感光材料も高感度が要求される。本発明のネガ型感光性平版印刷版は、上記した増感色素を組み合わせて用いることによってこの出力機への対応を可能にした。上記した増感色素の中でも、青色半導体レーザー用としてはピリリウム系化合物またはチオピリリウム系化合物が好ましい。
【0078】
また、本発明のネガ型感光性平版印刷版は、近赤外〜赤外光、即ち700nm以上、更には750〜1300nmの波長領域のレーザー光を用いた走査露光に対しても極めて好適に用いられる。このような近赤外に増感するために用いられる増感色素の具体例を以下に示す。
【0079】
【化35】

【0080】
【化36】

【0081】
上記で例示した増感色素の対アニオンを、前述の有機ホウ素アニオンに置換した増感色素も同様に用いることができる。増感色素の含有量は、感光性平版印刷版1m2当たり3〜300mg程度が適当である。好ましくは10〜200mg/m2である。
【0082】
本発明の光重合性感光層は、重合性モノマーもしくはオリゴマーを含有することが好ましい。かかるモノマーもしくはオリゴマーの分子量は1万以下で、好ましくは5000以下である。該化合物としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルフェニル基等の重合性二重結合を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0083】
重合性二重結合としてアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ピロガロールトリアクリレート等が挙げられる。
【0084】
重合性二重結合を有するビニルフェニル基を2個以上有する化合物は、代表的には下記一般式で表される。
【0085】
【化37】

【0086】
式中、Z2は連結基を表し、R21、R22、R23及びR24は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R24は水素原子と置換可能な基または原子を表す。m2は0〜4の整数を表し、k2は2以上の整数を表す。
【0087】
上記一般式について更に詳細に説明する。Z2の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R25)−、−C(O)−O−、−C(R26)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR25及びR26は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0088】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらには置換基が結合していても良い。
【0089】
上記一般式で表される化合物の中でも好ましい化合物が存在する。即ち、R21及びR22は水素原子でR23は水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)で、k2は2〜10の化合物が好ましい。以下に具体例を示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0090】
【化38】

【0091】
【化39】

【0092】
【化40】

【0093】
上記したようなモノマーもしくはオリゴマーの含有量は、前記の重合体に対して、1〜100質量%の範囲が好ましく、更に5〜50質量%の範囲が好ましい。
【0094】
本発明の光重合性感光層は、上述した成分以外にも種々の目的で他の成分を添加することも好ましく行われる。例えば、保存性を向上させる目的で、ヒンダードフェノール化合物やヒンダードアミン化合物を添加することが好ましく行われる。これらの化合物の添加量は、バインダー樹脂に対して0.1〜10質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0095】
本発明の感光層は、公知の種々の塗布方式を用いて支持体上に塗布、乾燥される。塗布方式としては、例えばロールコーティング、ディップコーティング、エアナイフコーティング、グラビアコーティング、ホッパーコーティング、ブレードコーティング、ワイヤドクターコーティングなどが挙げられる。
【0096】
本発明の感光性平版印刷版の支持体については、例えばポリエステルフィルムやポリエチレン被覆紙を使用しても良いが、より好ましい支持体は、研磨され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板である。好ましく用いられるアルミニウム支持体について説明する。本発明に用いられるアルミニウム板の厚みは、0.1〜0.6mm程度である。この厚みは印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザーの希望により適宜変更することができる。以下にアルミニウム支持体の処理方法について説明する。
【0097】
アルミニウム板は、通常、より好ましい形状に砂目立て処理される。砂目立て処理方法は、特開昭56−28893号公報に開示されているような機械的砂目立て(機械的粗面化処理)、化学的エッチング、電解グレイン等がある。更に、塩酸電解液中または硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的砂目立て法(電気化学的粗面化処理、電解粗面化処理)や、アルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法等の機械的砂目立て法(機械的粗面化処理)を用いることができる。これらの砂目立て法は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。例えば、ナイロンブラシと研磨剤とによる機械的粗面化処理と、塩酸電解液または硝酸電解液による電解粗面化処理との組み合わせや、複数の電解粗面化処理の組み合わせが挙げられる。
【0098】
ブラシグレイン法の場合、研磨剤として使用される粒子の平均粒径、最大粒径、使用するブラシの毛径、密度、押し込み圧力等の条件を適宜選択することによって、アルミニウム支持体表面の長い波長成分の凹部の平均深さを制御することができる。ブラシグレイン法により得られる凹部は、平均波長が3〜15μmであるのが好ましく、平均深さが0.3〜1μmであるのが好ましい。
【0099】
電気化学的粗面化方法としては、塩酸電解液中または硝酸電解液中で化学的に砂目立てする電気化学的方法が好ましい。好ましい電流密度は、陽極時電気量50〜400C/dm2である。更に具体的には、例えば、0.1〜50質量%の塩酸または硝酸を含む電解液中で、温度20〜100℃、時間1秒〜30分、電流密度100〜400C/dm2の条件で直流または交流を用いて行われる。電解粗面化処理によれば、表面に微細な凹凸を付与することが容易であるため、感光層とアルミニウム支持体との密着性を向上させるうえでも好適である。
【0100】
機械的粗面化処理の後の電気化学的粗面化処理により、平均直径約0.3〜1.5μm、平均深さ0.05〜0.4μmのクレーター状またはハニカム状のピットをアルミニウム板の表面に80〜100%の面積率で生成させることができる。なお、機械的粗面化方法を行わずに、電気化学的粗面化方法のみを行う場合には、ピットの平均深さを0.3μm未満とするのが好ましい。設けられたピットは、印刷版の非画像部の汚れにくさおよび耐刷性を向上する作用を有する。電解粗面化処理では、十分なピットを表面に設けるために必要なだけの電気量、即ち、電流と電流を流した時間との積が、重要な条件となる。より少ない電気量で十分なピットを形成できることは、省エネの観点からも望ましい。粗面化処理後の表面粗さは、JIS B0601−1994に準拠してカットオフ値0.8mm、評価長さ3.0mmで測定した算術平均粗さ(Ra)が、0.2〜0.8μmであるのが好ましい。
【0101】
このように砂目立て処理されたアルミニウム板は、化学エッチング処理をされるのが好ましい。化学エッチング処理としては、酸によるエッチングやアルカリによるエッチングが知られているが、エッチング効率の点で特に優れている方法として、アルカリ溶液を用いる化学エッチング処理が挙げられる。
【0102】
好適に用いられるアルカリ剤は、特に限定されないが、例えば、カセイソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウムが挙げられる。アルカリエッチング処理の条件は、Alの溶解量が0.05〜1.0g/m2となるような条件で行うのが好ましい。また、他の条件も、特に限定されないが、アルカリの濃度は1〜50質量%であるのが好ましく、5〜30質量%であるのがより好ましく、また、アルカリの温度は20〜100℃であるのが好ましく、30〜50℃であるのがより好ましい。アルカリエッチング処理は、1種の方法に限らず、複数の工程を組み合わせることができる。なお、本発明においては、機械的粗面化処理の後、電気化学的粗面化処理の前にアルカリエッチング処理を行うこともできる。この場合、Alの溶解量は、0.05〜30g/m2とするのが好ましい。
【0103】
アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗いが行われる。用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。特に、電解粗面化処理後のスマット除去処理方法としては、好ましくは特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度で15〜65質量%の硫酸と接触させる方法が挙げられる。
【0104】
また、化学エッチング処理を酸性溶液で行う場合において、酸性溶液に用いられる酸は、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、塩酸が挙げられる。酸性溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましい。また、酸性溶液の温度は、20〜80℃であるのが好ましい。
【0105】
以上のように処理されたアルミニウム板には、更に、陽極酸化処理が施される。陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の単独のまたは2種以上を組み合わせた水溶液または非水溶液の中で、アルミニウム板に直流または交流を流すとアルミニウム板の表面に陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0106】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温−5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10〜200秒であるのが適当である。これらの陽極酸化処理の中でも、英国特許第1,412,768号明細書に記載されている、硫酸電解液中で高電流密度で陽極酸化処理する方法が特に好ましい。
【0107】
本発明においては、陽極酸化皮膜の量は1〜10g/m2であるのが好ましく、1.5〜7g/m2であるのがより好ましく、2〜5g/m2であるのが特に好ましい。粗面化処理の後、電気化学的粗面化処理の前にアルカリエッチング処理を行うこともできる。この場合、Alの溶解量は、0.05〜30g/m2とするのが好ましい。
【0108】
上記のようにして製造されたアルミニウム支持体上に感光層を塗設されて得られた感光性平版印刷版は、感光層に付与された感光域に応じてレーザー走査露光が行われ、露光された部分が架橋することでアルカリ性現像液に対する溶解性が低下することから、後述するアルカリ性現像液により未露光部を溶出することで露光画像のパターン形成が行われる。
【0109】
本発明に用いられるアルカリ性現像液は、25℃におけるpHが10〜12であるのが好ましい。現像液のpHを上記範囲に調整するためのアルカリ性化合物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、トリエチルアンモニウムハイドロキサイド等が挙げられるが、これらの内、特にアルカノールアミン類が好ましい。さらには、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種アルコール類をアルカリ性現像液中に添加することも好ましく行われる。また、各種界面活性剤の添加も好ましく行うことが出来る。こうしたアルカリ性現像液を用いて現像処理を行った後に、アラビアガム、デキストリン類等を使用して通常のガム引きが好ましく行われる。
【実施例1】
【0110】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、効果はもとより本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中の部は質量部を示す。
【0111】
<感光性平版印刷版の作製>
砂目立て及び陽極酸化処理が施された厚み0.24mmのアルミニウム板上に、本発明の側鎖にエチレン性不飽和二重結合を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体P−1を含有する下記の光重合性感光層塗工液に表1に示すような一般式(I)〜(IV)で表される本発明の有機亜鉛化合物を含有するサンプル1〜7を乾燥時の塗工量が、2g/m2になるように塗布した。また、有機亜鉛化合物を全く含まないか、下記の(Z20)で示される比較の有機亜鉛化合物あるいは無機の亜鉛化合物である硫酸亜鉛または酸化亜鉛を含有する光重合性乾燥層塗工液を同様にして塗布し、比較サンプル8〜11とした。
【0112】
<重合性感光層塗工液処方(1)>
重合体(P−1;質量平均分子量約9万) 100質量部
重合性二重結合モノマー(C−5) 20質量部
ラジカル発生剤1(BC−6) 20質量部
ラジカル発生剤2(BS−1) 10質量部
増感色素(S−39) 4質量部
10%フタロシアニン分散液 5質量部
ジオキサン 700質量部
シクロヘキサノン 200質量部
有機亜鉛化合物(表1に記載) (表1に記載)
界面活性剤 0.1質量部
【0113】
【化41】

【0114】
<画像露光方法>
サンプルを、830nm半導体レーザーを搭載した外面ドラム方式プレートセッター、大日本スクリーン製造株式会社製PT−R4000を使用して、ドラム回転速度1000rpm解像度2400dpi、レーザー照射エネルギー100mJ/cm2の条件で画像露光を行った。露光後に自動現像機として大日本スクリーン製造株式会社製PS版用自動現像機PD−1310を使用し、下記現像液を使用して現像処理(現像液温度29℃15秒処理)を行い、続いて下記処方のガム液を塗布した。
【0115】
<現像液>
35%アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム
(花王(株)製界面活性剤) 30g
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド 60g
リン酸 10g
N−エチルモノエタノールアミン 35g
EDTA2Na 1g
水で 1L
<ガム液>
リン酸2水素カリウム 5g
アラビアガム 25g
デヒドロ酢酸 0.5g
EDTA2Na 1g
水で 1L
【0116】
耐摩耗性の評価は、オフセット輪転機リソピアL−600(三菱重工社製)を使用し、インキはNEWS MAJOR HC−S NEW 墨(東京インキ社製)、給湿液はエコセブンN−1(サカタインクス社製)の0.5%水溶液を使用して印刷を行い10万枚および20万枚印刷時の画像部の耐摩耗性を以下の方法で評価した。
【0117】
<耐摩耗性評価方法>
耐摩耗性は印刷前の単位面積当たり画像部の重量に対する10万枚または20万枚印刷後の画像部残存率を次式により計算しすることにより評価した。
画像部残存率(%)=100×
[印刷後の画像部平均重量(g/m2)]/[印刷前の画像部平均重量(g/m2)]
画像部の平均重量はプレート上の60mm×60mmのサイズの矩形の画像部から50mm×50mmのサイズの矩形を切り出し、アセトン溶剤中に浸漬して画像部の感光層のみを溶出して、溶出前後の重量の差を各々10サンプルずつ測定して平均値を取って求めた。尚、印刷後のプレートは重量の測定はプレートプリザーバー(光陽化学社製)により表面のインキを完全に除去、水洗、乾燥を行った後に実施した。上記のようにして求めた画像部残存率から耐摩耗性を以下の5段階で評価を行った。
5 画像部残存率85%以上
4 画像部残存率75%以上85%未満
3 画像部残存率65%以上75%未満
2 画像部残存率50%以上65%未満
1 画像部残存率50%以下
【0118】
【表1】

【0119】
表1の結果から、光重合性感光層に一般式(I)〜(IV)で表される有機亜鉛化合物を含有する本発明の平版印刷版は画像部の耐摩耗性が顕著に向上しているが、他の有機亜鉛化合物や硫酸亜鉛や酸化亜鉛の様な無機の亜鉛化合物ではこの様な効果が全く得られないことが分かる。
【0120】
(比較例)
実施例1の砂目立て及び陽極酸化処理が施された厚み0.24mmのアルミニウム板上に有機亜鉛化合物(Z−7)を含有する下記の中間層塗工液を乾燥時の塗工量が0.03g/m2になるように塗布、乾燥後、実施例1のサンプル8の重合性感光層塗工液を乾燥重量が2.0g/m2となるように塗布、乾燥して、比較のサンプル12とした。実施例1と同様に耐摩耗性の評価を行った結果、10万枚および20万枚印刷後の耐摩耗性はそれぞれ、2および1であり、中間層に有機亜鉛化合物を含有させても耐摩耗性が向上する効果は見られなかった。
【0121】
<中間層塗工液処方>
有機亜鉛化合物(Z−7) 10質量部
メタノール 100質量部
界面活性剤 0.1質量部
【実施例2】
【0122】
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板を使用して、この上に下記の処方で示す側鎖にエチレン性不飽和二重結合を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体(P−10)と有機亜鉛化合物(Z−7)を含有する下記の光重合性感光層塗工液(2)を乾燥時の塗工量が2g/m2になるように塗布し、本発明のネガ型感光性平版印刷版サンプル20を作製した。
【0123】
<光重合性感光層塗工液(2)処方>
重合体(P−10;質量平均分子量約6万) 100質量部
重合性二重結合モノマー(C−5) 20質量部
ラジカル発生剤1(BC−6) 20質量部
ラジカル発生剤2(T−3) 10質量部
増感色素(S−9) 3質量部
10%フタロシアニン分散液 5質量部
ジオキサン 700質量部
シクロヘキサノン 200質量部
有機亜鉛化合物(Z−7) 1質量部
界面活性剤 0.1質量部
【0124】
上記光重合性感光層塗工液(2)の重合体(P−10)の代わりに、重合体(J−4)を用いる以外は本発明のサンプル20と同様のネガ型感光性平版印刷版を作製し本発明のサンプル21とした。
【0125】
また上記光重合性感光層塗工液(2)のラジカル発生剤1(BC−6)の代わりに下記の構造式で示されるラジカル発生剤(T−20)を用いる以外はサンプル20と同様のネガ型感光性平版印刷版を作製し本発明のサンプル22とした。
【0126】
【化42】

【0127】
上記のようにして得られた本発明のサンプル20〜22について、410nm半導体レーザーを搭載したプレートセッター、EscherGrad社製Cobalt8を使用する以外は実施例1と同様に耐摩耗性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
表2の結果より、側鎖にエチレン性不飽和二重結合を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体は有機亜鉛化合物と共に用いることにより良好な耐摩耗性を示す。また、ビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体、ラジカル発生剤として有機ホウ素化合物を有機亜鉛化合物と共に用いることにより一層良好な耐摩耗性が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、側鎖にエチレン性不飽和二重結合を有し、かつカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として有する重合体とラジカル発生剤を含有する光重合性感光層を有するネガ型平版印刷版において、光重合性感光層が下記の一般式(I)〜(IV)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機亜鉛化合物を含有することを特徴とするネガ型感光性平版印刷版。
【化1】

(式中、R1、R2は炭素数2〜8のアルキル基またはアリール基を表し、R1とR2は同じであっても異なっていても良い。)
【化2】

(式中、R3は炭素数6〜20までのアルキル基、またはアリール基を表す。)
【化3】

(式中、R4、R5は炭素数1〜4のアルキル基、またはアリール基を表し、R4とR5は同じであっても異なっていても良い。)
【化4】

(式中、X、Yは炭素原子、窒素原子またはイオウ原子を表し、Zは5員または6員の複素環を完成するための原子群を表し、複素環は縮合環を有していても良い。)
【請求項2】
前記光重合性感光層が380nm〜1300nmの間の波長領域に感度を付与する増感色素およびラジカル発生剤として有機ホウ素化合物とを含有する請求項1に記載のネガ型感光性平版印刷版。

【公開番号】特開2008−216749(P2008−216749A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55483(P2007−55483)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】