説明

ハイブリッド動力装置

【課題】ハイブリッド動力装置において、クラッチに生じるドラグトルクによる動力損失を減少させて、燃料消費率を減少させる。
【解決手段】デュアルクラッチ12の2つのクラッチC1,C2を介してそれぞれエンジン10により回転駆動される2本の入力軸13a,13bを、2組の歯車切換機構SM1,SM2を介して出力軸14に連結し、両入力軸の何れか一方にはモータジェネレータ15を連結する。制御装置20は、モータに連結されない他方の入力軸に設けたクラッチが係合されてその入力軸と出力軸の間に設けられた他方の歯車切換機構を介してエンジンの駆動トルクが出力軸に伝達され、かつモータが出力軸に連結される場合には、一方の入力軸に設けたクラッチをも係合して、モータは一方の入力軸、両クラッチ、他方の入力軸並びに他方の歯車切換機構を介して出力軸に連結されるように、各クラッチなどの部材を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車などに使用するハイブリッド動力装置、特にデュアルクラッチを使用したハイブリッド動力装置におけるハイブリッド作動の際に動力伝達系に生じる動力損失を低減させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
デュアルクラッチを使用したハイブリッド動力装置としては、例えば特許文献1(特開2005−186931号公報)に開示されたものがある。これは第1入力軸の外周に同軸的にかつ回転自在に筒状の第2入力軸を設け、エンジンの回転はデュアルクラッチを構成する第1及び第2クラッチを介して第1及び第2入力軸に交互に伝達され、第1及び第2入力軸とこれらと平行に配置されて駆動車輪に連結される出力軸の間にはそれぞれ2段の第1及び第2歯車切換機構を設けて第1速〜第4速の歯車変速機構を形成し、また電流が供給されればエンジンと協働して駆動車輪を駆動し逆にエンジンまたは駆動車輪側から回転駆動されれば発電機として作動してバッテリに充電するモータをクラッチを介することなく第2入力軸に連結したものである。この特許文献1ではさらに、第1及び第2入力軸と平行に駆動車輪に連結された第2出力軸及び後進アイドル軸を設けて、それらの間に第5速、第6速及び後進歯車機構を設けている。
【特許文献1】特開2005−186931号公報(段落0019〜0037、図1、図3〜図6)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したハイブリッド動力装置では、第1及び第2入力軸は、デュアルクラッチを構成する第1及び第2クラッチを介して交互にエンジンに連結されて駆動され、第1及び第2歯車切換機構を介して出力軸に連結されている。一方モータは、電動機または発電機として作動させる場合には、第2入力軸及び第2歯車切換機構を介して出力軸に連結されるようになっている。このようなハイブリッド動力装置では、エンジンが、第1クラッチ、第1入力軸及び第1歯車切換機構を介して出力軸に連結されている状態において、モータを電動機または発電機として作動させるために第2入力軸及び第2歯車切換機構を介して出力軸に連結させると、第1歯車切換機構と第2歯車切換機構と第1クラッチがトルク伝達可能に連結され、第2クラッチが解除された状態となる。この状態では、第1歯車切換機構及び第1クラッチを介して連結される出力軸とデュアルクラッチのクラッチカバーの間の変速比と、第2歯車切換機構を介して連結される出力軸と第2クラッチのクラッチプレートの間の変速比は互いに異なったものとなるので、デュアルクラッチのクラッチカバーと第2クラッチのクラッチプレートは強制的に相対回転される。この作動状態では第2クラッチは解除されてはいるが、そのクラッチプレートとデュアルクラッチのクラッチカバーの間には摩擦抵抗によるドラグトルクが存在するので、この作動中は常にドラグトルクによる動力損失が生じる。湿式クラッチの場合には、このドラグトルクは大きくなるので、この動力損失も増大する。本発明はこのような動力損失を減少させて燃料消費率を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によるハイブリッド動力装置は、エンジンと、2つのクラッチを有するデュアルクラッチと、各クラッチを介してそれぞれエンジンにより回転駆動される2本の入力軸と、被動部材に連結されてこれを駆動する出力軸と、各入力軸と出力軸の間にそれぞれ設けられ各入力軸の各回転をそれぞれ互いに異なる複数の変速比で選択的に出力軸に伝達する2組の歯車切換機構と、両入力軸の何れか一方に連結され電流が供給されれば一方の入力軸を駆動する電動機として作動するとともに一方の入力軸側から駆動されれば発電機として作動するモータと、各部材が協働して変速機能を有する動力装置として作動するようそれぞれを制御する制御装置を備えてなるハイブリッド動力装置において、制御装置はさらに、モータに連結されない他方の入力軸に設けた他方のクラッチが係合されて他方の入力軸と出力軸の間に設けられた他方の歯車切換機構を介してエンジンの駆動トルクが出力軸に伝達され、かつモータが出力軸に連結される場合には、一方の入力軸に設けた一方のクラッチをも係合して、モータは一方の入力軸、両クラッチ、他方の入力軸並びに他方の歯車切換機構を介して出力軸に連結されるように、各クラッチ及び各歯車切換機構を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、制御装置は、モータが連結されない他方の入力軸に設けた他方のクラッチが係合されて他方の入力軸と出力軸の間に設けられた他方の歯車切換機構を介してエンジンの駆動トルクが出力軸に伝達され、かつモータが出力軸に連結される場合には、一方の入力軸に設けた一方のクラッチをも係合して、モータは一方の入力軸、両クラッチ、他方の入力軸並びに他方の歯車切換機構を介して出力軸に連結されるように、各クラッチ及び各歯車切換機構を制御するので、他方の入力軸に設けた他方のクラッチが係合され他方の歯車切換機構を介してエンジンの駆動トルクが出力軸に伝達されている状態においてモータジェネレータが出力軸に連結される場合には、モータは一方の入力軸、両クラッチ、他方の入力軸並びに他方の歯車切換機構を介して出力軸に連結される。すなわちこの状態では、両クラッチは何れも係合され、エンジンとモータジェネレータは何れも他方の歯車切換機構を介して出力軸に連結され、両クラッチの何れも相対回転されることはないので、ドラグトルクによる動力損失が生じることはなく、燃料消費率を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
先ず図1〜図6により本発明によるハイブリッド動力装置の実施形態の説明をする。この実施形態は、図1に示す前進6段、後進1段の自動変速機TMを備えたハイブリッド動力装置に本発明を適用したものである。先ずこの自動変速機TMの説明をする。
【0007】
この自動変速機TMはデュアルクラッチ式のもので、その変速機ケースH内には、図1に示すように、互いに平行に配置された第1入力軸(他方の入力軸)13a、第2入力軸(一方の入力軸)13b、第1出力軸14a及び第2出力軸14bが回転自在に支持されている。2本の入力軸13a,13bは、第1摩擦クラッチ(他方のクラッチ)C1、第2摩擦クラッチ(一方のクラッチ)C2、第1及び第2入力連結軸11d,11e、第1及び第2入力被動ギヤ11b,11c並びに入力駆動ギヤ11aを介して互いに連結されており、入力駆動ギヤ11aをエンジン10の出力軸10aに連結することによりエンジン10により回転駆動されるようになっている。また第1出力軸14a及び第2出力軸14bは、第1及び第2出力駆動ギヤ14d,14e並びに出力被動ギヤ14fを介して互いに連結されており、出力被動ギヤ14fに同軸的に連結した第3出力軸14c、ドライブピニオン16a、リングギヤ16b、デファレンシャルギヤ17及びアクスルシャフト18,18を介して駆動車輪(被動部材)19,19に連結されている。
【0008】
デュアルクラッチ12を構成する第1及び第2摩擦クラッチC1,C2は、通常の作動状態では、切り換えの途中は半クラッチとなって一方の伝達トルクと他方の伝達トルクが互いに逆向きに増減し、切り換えの完了後は何れか一方が完全に係合されて伝達トルクが所定の最大値となり、他方が完全に解除されて伝達トルクが0となるように、ハイブリッド動力装置の制御装置20(後述)により制御されるものである。
【0009】
第1入力軸13aと第1出力軸14aの間には第1歯車切換機構(他方の歯車切換機構)SM1が設けられ、第2入力軸13bと第2出力軸14bの間には第2歯車切換機構(一方の歯車切換機構)SM2が設けられている。第1歯車切換機構SM1は、第1速段、第3速段及び第5速段(奇数段)の各変速ギヤ対G1,G3,G5並びに後進段の後進ギヤ列GBを備えている。これら4組の変速ギヤ対G1,G3,G5及び後進ギヤ列GBは、それぞれの各駆動ギヤが第1入力軸13aに固定され、各被動ギヤが第1出力軸14aに回転自在に支持されている。第1変速ギヤ対G1と第3変速ギヤ対G3の各被動ギヤの間にはそれぞれを選択的に第1出力軸14aに連結する第1切換クラッチD1が設けられ、第5変速ギヤ対G5と後進ギヤ列GBの各被動ギヤの間にはそれぞれを選択的に第1出力軸14aに連結する第3切換クラッチD3が設けられている。後進ギヤ列GBの駆動ギヤと被動ギヤの間にはアイドルギヤが介在されている。
【0010】
また第2歯車切換機構SM2は、第2速段、第4速段及び第6速段(偶数段)の変速ギヤ対G2,G4,G6を備えている。これら3組の変速ギヤ対G2,G4,G6は、それぞれの各駆動ギヤが第2入力軸13bに固定され、各被動ギヤが第2出力軸14bに回転自在に支持されている。第2変速ギヤ対G2と第4変速ギヤ対G4の各被動ギヤの間にはそれぞれを選択的に第2出力軸14bに連結する第2切換クラッチD2が設けられ、第6変速ギヤ対G6の被動ギヤの一側にはそれを選択的に第2出力軸14bに連結する第4切換クラッチD4が設けられている。
【0011】
各切換クラッチD1〜D4は、周知のシンクロメッシュ機構よりなるもので、第1または第2出力軸14a,14bに固定されたクラッチハブLと、その外周にスプライン係合されたスリーブMを備えている。各スリーブMは、シフトフォークF1〜F4を介して、自動的にあるいは手動により軸線方向に往復動されて両側(または片側)のギヤに固定された係合部材Nに係合することにより、各ギヤをクラッチハブLに選択的に連結するものである。なお、シンクロナイザリングは図示を省略してある。
【0012】
この実施形態の自動変速機TMでは、第2入力軸13bにモータジェネレータ(モータ)15が設けられ、このモータジェネレータ15は、自動変速機TM及びエンジン10の作動を制御する制御装置20に連結されている。この制御装置20はモータジェネレータ15を、エンジン10に出力の余裕がない状態ではバッテリ(図示省略)より電流が供給されてエンジン10と協働して駆動車輪19,19を駆動する電動機として作動し、駆動車輪19,19側からエンジン10が駆動される状態あるいはエンジン10の出力に余裕がある状態では第2入力軸13bにより駆動され発電を行ってバッテリに充電する発電機として作動するように制御するものである。この実施形態では制御装置20は1つのものとして説明しているが、その機能に応じた複数の部分に分割してもよい。
【0013】
なお図1に示す自動変速機TMでは、変速ギヤ対G1〜G6及び後進ギヤ列GBの各駆動ギヤは全て第1または第2入力軸13a,13bに固定し、各被動ギヤは全て第1または第2出力軸14a,14bに回転自在に設け、各第1〜第4切換クラッチD1〜D4は全て第1または第2出力軸14a,14bに設けるものとして説明したが、第1〜第4切換クラッチD1〜D4の一部を第1または第2入力軸13a,13bに設け、それと対応する駆動ギヤは第1または第2入力軸13a,13bに回転自在に設け、またそれと対応する被動ギヤは第1または第2出力軸14a,14bに固定するようにしてもよい。またモータジェネレータ15は第2入力軸13bに設ける代わりに、第1入力軸13aに設けるようにしてもよい。
【0014】
このハイブリッド動力装置を自動車に適用した場合の作動の説明をする。制御装置20は先ず、アクセル開度、エンジン回転速度、車速などの自動車の作動状態に応じて、デュアルクラッチ12の2つの摩擦クラッチC1,C2並びに第1〜第4切換クラッチD1〜D4を作動させて変速を行う。これを具体的に説明すれば、自動車の不作動状態では第1及び第2摩擦クラッチC1,C2は何れも解除されており、各切換クラッチD1〜D4は図1に示す中立位置にある。駆動車輪19,19がエンジン10により駆動されて走行する場合は、停車状態からエンジン10を始動させて変速装置のシフトレバー(図示省略)を前進位置にすれば、制御装置20は第1変速シフトフォークF1を介して第1切換クラッチD1のスリーブMを右向きに移動させて第1歯車切換機構SM1の第1変速ギヤ対G1による第1速段を形成する。アクセル開度が増大してエンジン10が所定の低回転速度を越えれば、制御装置20はデュアルクラッチ12の第1摩擦クラッチC1の係合力を徐々に増加させ、これによりエンジン10の駆動トルクは第1摩擦クラッチC1から第1入力軸13a、第1変速ギヤ対G1、第1切換クラッチD1、第1出力軸14a、ギヤ14d,14f、第3出力軸14c、ギヤ16a,16b、デファレンシャルギヤ17及びアクスルシャフト18,18を介して駆動車輪19,19に伝達されて、自動車は第1速で走行し始める。
【0015】
アクセル開度が増大するなどして自動車の作動状態が第2速段での走行に適した状態となれば、制御装置20は、第2切換クラッチD2のスリーブMを右向きに移動させて第2歯車切換機構SM2の第2変速ギヤ対G2による第2速段を形成してから、デュアルクラッチ12を第2摩擦クラッチC2側に切り換えて第2速走行に切り換え、次いで第1切換クラッチD1のスリーブMを中立位置に戻す。以下同様にして制御装置20は、そのときの自動車の作動状態に適した変速段を順次形成し、第1摩擦クラッチC1と第2摩擦クラッチC2を交互に切り換えて、自動車の作動状態に応じた変速段で走行する。図2の破線の矢印は、自動車がエンジン10により第1歯車切換機構SM1の第3速段で走行している状態の動力伝達経路を示し、図3の破線の矢印は、エンジン10により第2歯車切換機構SM2の第4速段で走行している状態の動力伝達経路を示す。変速のシフトダウンは上述と逆の手順で行う。
【0016】
停車状態でシフトレバーを後進位置とすれば、制御装置20は第3切換クラッチD3のスリーブMを左向きに移動させて後進ギヤ列GBによる後進段を形成し、アクセル操作によりエンジン10の回転速度が増大すれば、制御装置20はデュアルクラッチ12の第1摩擦クラッチC1の係合力を徐々に増加させ、これによりエンジン10の駆動トルクは後進ギヤ列GBを介して第1入力軸13aに伝達され、第1速の場合と同様にして後進が開始される。
【0017】
また、モータジェネレータ15により走行する場合は、停車状態で変速装置のシフトレバーを前進位置にすれば、制御装置20は、前述したエンジン10による走行の場合と同様にして第1歯車切換機構SM1による第1速段を形成し、アクセル開度が増大すればモータジェネレータ15に給電して電動機として作動させると同時に第1及び第2摩擦クラッチC1,C2の係合力を徐々に増加させ、モータジェネレータ15の駆動トルクは第2入力軸13b、第1及び第2摩擦クラッチC1,C2、第1入力軸13a、第1変速ギヤ対G1、第1切換クラッチD1、第1出力軸14a、ギヤ14d,14f、第3出力軸14c、ギヤ16a,16b、デファレンシャルギヤ17及びアクスルシャフト18,18を介して駆動車輪19,19に伝達されて、自動車は第1速で走行し始める。図4の実線の矢印は、このようにして自動車が第1速段で(第1変速ギヤ対G1を使用して)走行している状態の動力伝達経路を示す。
【0018】
アクセル開度が増大するなどして自動車の作動状態が第2速段での走行に適した状態となれば、制御装置20は、モータジェネレータ15への給電を一旦停止し、両摩擦クラッチC1,C2を離脱させるとともに第1切換クラッチD1を中立位置に戻し、前述と同様にして第2歯車切換機構SM2による第2速段を形成してから、再びモータジェネレータ15に給電して電動機として作動させて、第2速段で走行する。図4の破線の矢印は、このようにして自動車が第2速段で(第2変速ギヤ対G2を使用して)走行している状態の動力伝達経路を示す。
【0019】
以下同様にして制御装置20は、そのときの自動車の作動状態に適した変速段を順次形成し、第1歯車切換機構SM1の各変速段を使用する場合は両摩擦クラッチC1,C2を係合させ、第2歯車切換機構SM2の各変速段を使用する場合は両摩擦クラッチC1,C2を離脱させて、自動車の作動状態に応じた変速段で走行する。変速のシフトダウンは上述と逆の手順で行う。
【0020】
なお次に述べるように、モータジェネレータ15がエンジン10と協働して駆動車輪19,19を駆動する場合において、両摩擦クラッチC1,C2を係合させてモータジェネレータ15の動力を第1歯車切換機構SM1の変速段で伝達しているときは、変速機TMのインターロックを避けるために、エンジン10の動力も第1歯車切換機構SM1の同じ変速段で伝達するようにする。モータジェネレータ15による後進は、エンジン10による後進と同様、後進ギヤ列GBによる後進段を形成し、第1速の場合と同様にして行う。
【0021】
次に駆動車輪19,19がエンジン10及びモータジェネレータ15の両方により駆動されて走行する場合の説明をする。図4に示すようにモータジェネレータ15のみにより駆動車輪19,19が駆動されて走行している状態において、エンジン10による駆動をも行う場合には、制御装置20は先ず第2摩擦クラッチC2を係合させ、これによりエンジン10は第2入力連結軸11e、第2入力被動ギヤ11c及び入力駆動ギヤ11aを介して回転駆動されて始動される。エンジン10の始動後は、制御装置20は第2摩擦クラッチC2の係合を解除し、走行状態に応じて2組の歯車切換機構SM1,SM2の各変速ギヤ対G1〜G6から何れか1つを選択して各切換クラッチD1〜D4によりその変速段を形成する。
【0022】
この場合において、第1歯車切換機構SM1の何れかの変速段(例えば第3速段)が形成されたときは、制御装置20は第2歯車切換機構SM2の各変速段を全て解除し第1及び第2摩擦クラッチC1,C2の両方を係合して、エンジン10の駆動トルクは第1摩擦クラッチC1及び第1歯車切換機構SM1の何れかの変速段(例えば第3速段)を介して駆動車輪19,19に伝達され、モータジェネレータ15の駆動トルクは第2摩擦クラッチC2、第1摩擦クラッチC1及び第1歯車切換機構SM1の何れかの変速段(例えば第3速段)を介して駆動車輪19,19に伝達される(図5参照)よう各部材を制御する。また、第2歯車切換機構SM2の何れかの変速段(例えば第4速段)を形成したときは、制御装置20は第1歯車切換機構SM1の各変速段を何れも形成せずに第2摩擦クラッチC2のみを係合して、エンジン10の駆動トルクは第2摩擦クラッチC2及び第2歯車切換機構SM2の何れかの変速段(例えば第4速段)を介して駆動車輪19,19に伝達され、モータジェネレータ15の駆動トルクも第2歯車切換機構SM2の何れかの変速段(例えば第4速段)を介して駆動車輪19,19に伝達される(図6参照)よう各部材を制御する。これにより、エンジン10及びモータジェネレータ15の駆動トルクは何れも駆動車輪19,19に伝達される。
【0023】
以上は、モータジェネレータ15のみにより駆動車輪19,19が駆動されて走行している状態において、エンジン10による駆動をも行って駆動車輪19,19がエンジン10及びモータジェネレータ15の両方により駆動され場合につき説明したが、図2及び図3に示すように、エンジン10により駆動車輪19,19が駆動されて走行している状態において、モータジェネレータ15による駆動をも行って駆動車輪19,19がエンジン10及びモータジェネレータ15の両方により駆動され場合も、制御装置20はほゞ同様に各部材を制御し、図5及び図6に示す状態として、エンジン10及びモータジェネレータ15の両方により駆動車輪19,19を駆動する。
【0024】
図1に示すようなハイブリッド動力装置に、前述した従来技術をそのまま適用すれば、エンジン10からの動力伝達は、図2及び図3と同様第1及び第2摩擦クラッチC1,C2を交互に係合して第1及び第2歯車切換機構SM1,SM2により行い、モータジェネレータ15からの動力伝達は、図4と同様第2歯車切換機構SM2のみを使用して行うものとなる。従って、エンジン10及びモータジェネレータ15の両方の駆動トルクを伝達する場合には、エンジン10から駆動車輪19,19への駆動トルクの伝達は、第1歯車切換機構SM1を使用する場合は第1摩擦クラッチC1を介して行い(図7の破線の矢印参照)、第2歯車切換機構SM2を使用する場合は第2摩擦クラッチC2を介して行い(図6の破線の矢印参照)、またモータジェネレータ15から駆動車輪19,19への駆動トルクの伝達は両摩擦クラッチC1,C2の何れも介することなく常に第2歯車切換機構SM2のみを使用して行う(図6及び図7の実線の矢印参照)ものとなる。
【0025】
このようにした場合、図6に示す状態は上述した実施形態の場合と同じで特に問題はない。しかし図7に示すように第1摩擦クラッチC1を係合し、エンジン10から駆動車輪19,19への駆動トルクの伝達を第1歯車切換機構SM1を使用して行っている状態では、第1歯車切換機構SM1と第1摩擦クラッチC1を介して連結される第3出力軸14cと第2摩擦クラッチC2のクラッチカバーの間の変速比と、第2歯車切換機構SM2を介して連結される第3出力軸14cと第2摩擦クラッチC2のクラッチプレートの間の変速比は互いに異なったものとなるので、第2摩擦クラッチC2のクラッチカバーとクラッチプレートは強制的に相対回転される。この図7で示す作動状態では、クラッチカバーとクラッチプレートが相対的に回転される第2摩擦クラッチC2は解除されてはいるが、クラッチカバーとクラッチプレートの間にはある程度のドラグトルクが存在するので、常にドラグトルクによる動力損失が生じるという問題がある。このドラグトルクは湿式クラッチの場合には大きくなるのでこの動力損失も増大する。
【0026】
このようなドラグトルクによる動力損失は、エンジン10及びモータジェネレータ15の両方により走行する場合に限らず、エンジン10により自動車が駆動され、モータジェネレータ15が発電機として作動されてバッテリに充電する場合にも、エンジン10と駆動車輪19,19及びモータジェネレータ15と駆動車輪19,19の間で動力伝達がなされるので、同様に存在する。
【0027】
これに対し上述した実施形態では、エンジン10から駆動車輪19,19への動力伝達に第1歯車切換機構SM1を使用し第1摩擦クラッチC1を係合して行っている状態では、図5に示すように第2摩擦クラッチC2も係合され、エンジン10とモータジェネレータ15は何れも第1歯車切換機構SM1を介して第3出力軸14cに連結されている。このように第1及び第2摩擦クラッチC1,C2は何れも係合されて、それらのクラッチカバーとクラッチプレートが相対的に回転されることはないので、ドラグトルクによる動力損失が生じることはなく、燃料消費率を減少させることができる。なおこの状態では、第2及び第4切換クラッチD2,D4のクラッチハブLと係合部材Nの間に相対回転が生じるが、この相対回転に伴うドラグトルクはわずかであるので、それによる動力損失は実質的に無視できる程度である。
【0028】
次に図8により、図1〜図6に示すハイブリッド動力装置の変形例の説明をする。この変形例も前進6段、後進1段のデュアルクラッチ式の自動変速機TMを備えている。この変形例の自動変速機TMと図1に示す自動変速機TMの主な相違点は、デュアルクラッチ12を構成する第1及び第2摩擦クラッチC1,C2を介してエンジン10により駆動される第1及び第2入力軸13a,13bは互いに同軸的に配置された二重軸であり、図1に示す自動変速機TMにおける出力ギヤ14d,14e,14fにより連結された3本の出力軸14a,14b,14c及びギヤ14d〜14fが1本の出力軸14にまとめられていることである。第1及び第2入力軸13a,13bは、デュアルクラッチ12のクラッチカバー12aをエンジン10の出力軸10aに連結することによりエンジン10により回転駆動され、出力軸14は最終減速ギヤ対16c.16d、デファレンシャルギヤ17及びアクスルシャフト18,18を介して駆動車輪19,19に連結されている。デュアルクラッチ12を構成する第1及び第2摩擦クラッチC1,C2は、図1に示す自動変速機TMと同様、一方と他方の伝達トルクが互いに逆向きに増減するように、ハイブリッド動力装置の制御装置20により制御される。
【0029】
第2入力軸13bから突出する第1入力軸13aの後半部と出力軸14の間には第1歯車切換機構SM1が設けられ、第2入力軸13bと第2出力軸14bの間には第2歯車切換機構SM2が設けられている。この両歯車切換機構SM1,SM2は図1に示す歯車切換機構SM1,SM2と実質的に同一構造である。モータジェネレータ15は、その出入力軸15aに固定されたギヤ15bを第6変速ギヤ対G6の駆動ギヤに噛合することにより、第2入力軸13bに連結されている。
【0030】
この変形例のハイブリッド動力装置は、第1及び第2入力軸13a,13bが同軸的に配置され、第1及び第2出力軸14a,14bが1本の出力軸14にまとめられ、モータジェネレータ15がギヤ15bを介して第2入力軸13bに連結されているなどの相違はあるが、全ての機能において図1に示すハイブリッド動力装置と実質的に同一である。また、この変形例の制御装置20は、上述した実施形態の制御装置20と同様、自動変速機TM及びエンジン10の作動を制御するとともに、モータジェネレータ15に直接連結されない第1入力軸13aに設けた第1摩擦クラッチC1が係合されて第1入力軸13aと出力軸14の間に設けられた第1歯車切換機構SM1を介してエンジン10の駆動トルクが出力軸14に伝達され、かつモータジェネレータ15が出力軸14に連結される場合には、第2入力軸13bに設けた第2摩擦クラッチC2をも係合して、モータジェネレータ15は第2入力軸13b、第1及び第2摩擦クラッチC1,C2、第1入力軸13a並びに第1歯車切換機構SM1を介して出力軸14に連結されるように、第1及び第2摩擦クラッチC1,C2及び第1及び第2歯車切換機構SM1,SM2を制御するものである。
【0031】
従ってこの変形例も、エンジン10から駆動車輪19,19への動力伝達に第1歯車切換機構SM1を使用し第1摩擦クラッチC1を係合して行っている状態では、第2摩擦クラッチC2も係合され、エンジン10とモータジェネレータ15は何れも第1歯車切換機構SM1を介して第3出力軸14cに連結されており、第1及び第2摩擦クラッチC1,C2は何れも係合されて、それらのクラッチカバーとクラッチプレートが相対的に回転されることはないので、ドラグトルクによる動力損失が生じることはなく、燃料消費率を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明によるハイブリッド動力装置の一実施形態の全体構造を説明するスケルトン図である。
【図2】図1に示す実施形態における、第1クラッチ及び第1歯車切換機構を介してエンジンにより被動部材を駆動している状態を示すスケルトン図である。
【図3】図1に示す実施形態における、第2クラッチ及び第2歯車切換機構を介してエンジンにより被動部材を駆動している状態を示すスケルトン図である。
【図4】図1に示す実施形態における、第1及び第2歯車切換機構を介してモータにより被動部材を駆動している状態を示すスケルトン図である。
【図5】図1に示す実施形態における、第1及び第2クラッチ並びに第1歯車切換機構を介してエンジン及びモータにより被動部材を駆動している状態を示すスケルトン図である。
【図6】図1に示す実施形態における、第2クラッチ及び第2歯車切換機構を介してエンジン及びモータにより被動部材を駆動している状態を示すスケルトン図である。
【図7】従来技術における、第1クラッチ及び第1歯車切換機構を介してエンジンにより被動部材を駆動し、第2クラッチを介してモータにより被動部材を駆動している状態を示すスケルトン図である。
【図8】図1に示すハイブリッド動力装置の変形例を示すスケルトン図である。
【符号の説明】
【0033】
10…エンジン、12…デュアルクラッチ、13a…他方の入力軸(第1入力軸)、13b…一方の入力軸(第2入力軸)、14,14a,14b…出力軸(第1出力軸、第2出力軸)、15…モータ(モータジェネレータ)、19…被動部材(駆動車輪)、20…制御装置、C1…他方のクラッチ(第1摩擦クラッチ)、C2…一方のクラッチ(第2摩擦クラッチ)、SM1…他方の歯車切換機構(第1歯車切換機構)、SM2…一方の歯車切換機構(第2歯車切換機構)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、2つのクラッチを有するデュアルクラッチと、前記各クラッチを介してそれぞれ前記エンジンにより回転駆動される2本の入力軸と、被動部材に連結されてこれを駆動する出力軸と、前記各入力軸と前記出力軸の間にそれぞれ設けられ前記各入力軸の各回転をそれぞれ互いに異なる複数の変速比で選択的に前記出力軸に伝達する2組の歯車切換機構と、前記両入力軸の何れか一方に連結され電流が供給されれば前記一方の入力軸を駆動する電動機として作動するとともに前記一方の入力軸側から駆動されれば発電機として作動するモータと、前記各部材が協働して変速機能を有する動力装置として作動するようそれぞれを制御する制御装置を備えてなるハイブリッド動力装置において、
前記制御装置はさらに、前記モータに連結されない他方の前記入力軸に設けた他方の前記クラッチが係合されて前記他方の入力軸と前記出力軸の間に設けられた他方の前記歯車切換機構を介して前記エンジンの駆動トルクが前記出力軸に伝達され、かつ前記モータが前記出力軸に連結される場合には、前記一方の入力軸に設けた一方の前記クラッチをも係合して、前記モータは前記一方の入力軸、前記両クラッチ、前記他方の入力軸並びに前記他方の歯車切換機構を介して前記出力軸に連結されるように、前記各クラッチ及び各歯車切換機構を制御することを特徴とするハイブリッド動力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−262578(P2009−262578A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110543(P2008−110543)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】