説明

ハイブリッド車のシフト制御装置

【課題】エンジンの始動とパーキングロックの解除とが重畳した場合のショックを防止する。
【解決手段】エンジンが出力したトルクを駆動輪に対して出力する出力部材と、パーキングポジションが選択された場合にその出力部材の回転を止めるパーキング機構と、駆動輪に対する伝動機構にトルクを与える電動機とを有し、出力部材のロックを解除するのに先立って、伝動機構に蓄積している捩りトルクによりパーキング機構に作用しているトルクを低減するように電動機の出力トルクを増大補正するトルク補正手段(ステップS3)と、電動機の出力トルクが増大補正されている間に出力部材の回転を止めるロックを外すロック解除手段(ステップS4)と、出力部材のロックが外された後に電動機の出力トルクの増大補正量を次第に減少させて増大補正前のトルクに戻すトルク補正復帰手段(ステップS5)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力源として電動機を備えているハイブリッド車に関し、特に車両を停止状態に維持するパーキングポジションから他のポジションにシフトする際の制御を行うシフト制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気的に、あるいは油圧により変速比を制御できる変速機構を搭載した車両では、停車状態や前進走行状態あるいは後進走行状態などをシフト装置によって選択するように構成されている。この種のシフト装置には、シフトレバーやスイッチなどによって選択される複数のポジションが設けられ、運転者がそれらのポジションを選択することにより、車両を適宜の駆動状態もしくは走行状態に設定するようになっている。特に車両を停止状態に維持するパーキングポジションが選択された場合には、変速機構の出力軸を強制的に固定し、駆動輪の回転を止めるように構成されており、そのための機構としてパーキング機構が、従来、知られている。
【0003】
パーキング機構は、変速機構における出力軸の回転を止めるように構成されており、その一例として、出力軸もしくはこれと一体の部材にパーキングギヤが取り付けられ、そのパーキングギヤにロックポールを係合させることにより、パーキングギヤおよびこれと一体の出力軸を固定するように構成された機構が知られている。したがって、パーキングギヤと駆動輪との間には、プロペラシャフトや軸継手あるいは終減速機などの伝動部材が介在することになる。そのため、例えばパーキングギヤによって出力軸の回転を止めた状態で、車両の慣性力などによって駆動輪にトルクが作用した場合には、伝動部材に捩れが生じ、その状態で車両が停止状態に維持される。すなわち、車両は捩りトルクを蓄えた状態になる。その結果、再度車両を走行させるためにパーキングポジションからドライブポジションなどの他のポジションにシフトした場合、パーキングギヤの固定が外れことにより、蓄積されている捩りトルクによって伝動部材や変速機構でのギヤの回転が生じ、それに伴っていわゆるガタ打ち音やショックが生じることがある。
【0004】
そこで従来、パーキングロックを解除する際にパーキングギヤとパーキングポールとの係合荷重を低減することを目的とした発明が特許文献1によって提案されている。その特許文献1に記載された発明では、パーキングギヤと駆動輪との間にモータを設け、パーキング解除の際に先ず、駆動輪の回転を阻止するように駆動輪を拘束し、その状態でパーキングギヤと駆動輪との間に捩りを生じさせるようにモータを駆動することによりパーキングギヤとパーキングポールとの係合荷重を低減し、さらに駆動輪の拘束を緩めてモータから駆動輪までの間の捩りを低減し、もってパーキングギヤとパーキングポールとの係合荷重を低減するようしている。
【0005】
また、特許文献2には、パーキング機構をパーキングギヤに噛み合わせて車両を停止状態に設定する場合、ハイブリッド装置におけるモータ・ジェネレータによってパーキングギヤを所定角度回転させることにより、パーキングギヤの噛み合いを確実に行うように構成された装置が記載されている。
【0006】
なお、特許文献3には、ハイブリッド車において、エンジンの始動制御中もしくは停止制御中にパーキングポジションからニュートラルポジションに変更された場合、エンジンの始動もしくは停止の制御が終了するまで、有段変速部の入力軸の回転数をモータ・ジェネレータによって所定の回転速度に維持するように構成された装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−51313号公報
【特許文献2】特開2006−81264号公報
【特許文献3】特開2009−149133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された発明は、パーキングギヤとパーキングポールとの間に作用している捩りトルクもしくはその一部をモータに受け持たせ、その状態で駆動輪の拘束を緩めて出力軸などの伝動機構に蓄えられている捩りトルクを低減するように構成されており、したがってパーキングギヤと駆動輪との間にモータを追加して設置する必要があり、部品点数の増大や構成の複雑化などの課題が生じる。また、エンジンを始動することに伴う反力がパーキングギヤに作用する構成のハイブリッド車などにおいては、特許文献1に記載された制御を実行すると、その反力を考慮したトルク制御となっていないので、ショックが生じる可能性がある。
【0009】
また、特許文献2に記載された発明は、パーキングギヤをロックする際にモータ・ジェネレータを制御するように構成された発明であり、したがってロックを解除する際のショックやガタ打ち音などを解消するために特に機能するものではない。さらに、特許文献3に記載された装置は、パーキングポジションからニュートラルポジションへのシフトが、エンジンの始動性あるいは停止性に影響しないように、有段変速部の入力軸の回転数をモータ・ジェネレータによって制御する装置であり、したがってパーキングギヤのロックを外すことによるトルクの変化あるいはそれとに伴うショックやガタ打ち音を低減もしくは防止することが困難である。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、駆動力源として電動機を備えたハイブリッド車においてパーキングロックを外す際のショックやガタ打ち音などを新たな構成部材を追加することなく防止もしくは低減できる装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、上記の目的を達成するために、エンジンと、そのエンジンを始動する際に反力が作用するとともに前記エンジンが出力したトルクを駆動輪に対して出力する出力部材と、パーキングポジションが選択された場合にその出力部材の回転を止めるパーキング機構と、そのパーキング機構と前記駆動輪との間の伝動機構にトルクを与える電動機とを有し、前記パーキング機構によって前記出力部材の回転を止めている状態で前記エンジンを始動する場合に、エンジンの始動に伴う反力に対抗するトルクを前記電動機によって出力させるように構成されたハイブリッド車のシフト制御装置において、前記パーキングポジションから他のシフトポジションに切り替えられたことに伴って前記パーキング機構による前記出力部材のロックを解除するのに先立って、前記伝動機構に蓄積している捩りトルクにより前記パーキング機構に作用しているトルクを低減するように前記電動機の出力トルクを増大補正するトルク補正手段と、そのトルク補正手段によって前記電動機の出力トルクが増大補正されている間に前記パーキング機構による前記出力部材の回転を止めるロックを外すロック解除手段と、そのロック解除手段によって前記出力部材のロックが外された後に前記電動機の出力トルクの増大補正量を次第に減少させるトルク補正復帰手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記トルク補正手段は、前記パーキングポジションが選択されている状態における前記捩りトルクの推定値に等しいトルクを前記電動機の出力トルクの増大補正量とする手段を含むことを特徴とするハイブリッド車のシフト制御装置である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記エンジンの始動中に、前記トルク補正手段による前記電動機の出力トルクの増大補正を行うことができない場合には、前記エンジンの始動が完了した後に前記パーキング機構による前記駆動輪のロックを解除するように構成されていることを特徴とするハイブリッド車のシフト制御装置である。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記エンジンが連結されている入力要素と、前記出力部材とされている出力要素と、発電用電動機が連結されている反力要素との三つの回転要素によって差動作用を行う差動機構を更に備えていることを特徴とするハイブリッド車のシフト制御装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1または請求項2の発明によれば、エンジンを始動する場合、出力部材に作用する反力に対抗するトルクが電動機によって出力部材に加えられ、またパーキング機構に作用している捩りトルクを低減する方向のトルクが出力部材に加えられる。したがって、パーキング機構による出力部材のロックを解除しても、捩りトルクに起因するトルクが出力部材に大きく作用することがなく、特に請求項2の発明によれば、捩りトルクは電動機によって受け持たれ、出力部材に作用することはないので、ショックやガタ打ち音を防止もしくは低減することができる。また当然、その場合、エンジンの始動に伴う反力が電動機によって受け持たれるので、エンジンの始動に支障を来すことがない。さらに、パーキング機構による出力部材のロックが解除された後は、電動機の増大補正分のトルクが徐々に低減されるので、出力部材に係るトルクが急激に変化することが回避され、この点でもショックやガタ打ち音を防止もしくは抑制することができる。
【0016】
また、請求項3の発明によれば、上述した電動機の出力トルクの増大補正を行うことができない場合には、エンジンの始動が完了した後にパーキング機構による出力部材のロックを解除するので、エンジン始動に伴う反力と捩りトルクとが重畳して作用している状態でロックを解除することを回避でき、その結果、エンジンの始動性が損なわれることがないうえに、パーキングロック解除に伴うショックやガタ打ち音の悪化を回避できる。
【0017】
そして、請求項4の発明によれば、いわゆるツーモータハイブリッド車におけるエンジンの始動性とパーキングロック解除の際のショックやガタ打ち音の回避とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の制御装置で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】第2モータ・ジェネレータの回転変化量と捩りトルクとの関係を定めたマップの一例を示す図である。
【図3】図1に示す制御を実行した場合の各モータ・ジェネレータのトルクおよびエンジン回転数の変化を概略的に示すタイムチャートである。
【図4】パーキングギヤを解除する前に第2モータ・ジェネレータによってガタ詰めを行う制御例を説明するためのフローチャートである。
【図5】この発明で対象とするハイブリッド車の駆動系統の一例を示す模式図である。
【図6】その動力分配機構を構成する遊星歯車機構についての共線図であって、エンジンの始動時の状態を示す共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、この発明を更に具体的に説明する。この発明で対象とするハイブリッド車は、エンジンと電動機とを搭載しており、そのエンジンは要は燃料を燃焼して機械的な動力を出力する熱機関であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいはガスを燃料としたガスエンジンなどがその例である。また、電動機は、電力が供給されて走行のためのトルクを出力するものであり、この発明では特にエンジンを始動する際に反力を受けるように配置されている。すなわち、エンジンが出力したトルクを駆動輪に対して出力する出力部材にその電動機が連結されている。
【0020】
図5はその一例を模式的に示しており、ここに示す例は、いわゆるツーモータ式のハイブリッド装置を搭載した車両の例である。図5において、エンジン1の出力軸2がクラッチ3を介して動力分配機構4に連結されている。動力分配機構4は、三つの回転要素によって差動作用を行うように構成されたいわゆる差動機構であり、それらの三つの回転要素は、歯車やローラである。図5に示す例では、遊星歯車機構によって動力分配機構4が構成されており、したがって動力分配機構4は、外歯歯車であるサンギヤ5と、そのサンギヤ5に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ6と、これらサンギヤ5およびリングギヤ6の間に配置されてこれらサンギヤ5とリングギヤ6とに噛み合っているピニオンギヤを自転かつ公転できるように支持しているキャリヤ7とを回転要素として備えている。
【0021】
前述したエンジン1の出力軸2はクラッチ3を介してキャリヤ7に連結されており、またサンギヤ5には第1モータ・ジェネレータ(MG1)8が連結されている。この第1モータ・ジェネレータ8は、一例として永久磁石式の交流同期電動機であってこの発明における発電用電動機に相当し、インバータ9を介して蓄電装置10に接続されている。そして、この第1モータ・ジェネレータ8は、蓄電装置10から電力が供給されることによりモータとして機能し、また強制的に回転させられることにより発電を行って蓄電装置10に充電するように構成されている。
【0022】
なお、第1モータ・ジェネレータ8のロータ軸は中空軸であって、その内部をキャリヤ軸11が回転自在に貫通している。このキャリヤ軸11の一方の端部は前述したキャリヤ7に連結され、またロータ軸から突出している他方の端部は、機械式オイルポンプ(MOP)12に連結されている。
【0023】
さらに、出力部材であるリングギヤ6には、パーキングギヤ13が一体化されて設けられている。そのパーキングギヤ13は、図示しないシフト装置によってパーキングポジションが選択された場合にリングギヤ6を固定するためのものであって、パーキング機構の一部を構成している。そのパーキング機構は、従来知られているものと同様の構成であってよく、例えば運転者によるスイッチ操作によってパーキングポジションが選択された場合に、リンク機構あるいはアクチュエータ(それぞれ図示せず)が動作してパーキングロックポール14がパーキングギヤ13に噛み合うように構成されている。
【0024】
前述したクラッチ3の出力側の部材と前記キャリヤ7とを連結しているキャリヤ軸11には、出力軸15が回転自在に嵌合させられており、この出力軸15は上記のリングギヤ6に連結されて一体化されている。その出力軸15にカウンタギヤ16が取り付けられており、そのカウンタギヤ16にカウンタドリブンギヤ17が噛み合っている。このカウンタドリブンギヤ17は、前記キャリヤ軸11と平行でかつ回転自在に配置されたカウンタ軸18に取り付けられており、そのカウンタ軸18には出力ギヤ19が更に取り付けられ、その出力ギヤ19は、デフリングギヤ20に噛み合っている。このデフリングギヤ20は、終減速機であるデファレンシャルギヤ21のデフケースに一体化されたギヤであり、したがってこのデファレンシャルギヤ21から左右の駆動輪22に駆動トルクを伝達するように構成されている。
【0025】
さらに、上述したパーキングギヤ13と駆動輪22との間の伝動機構に対してトルクを付与する第2モータ・ジェネレータ23が設けられている。この第2モータ・ジェネレータ(MG2)23はこの発明における電動機に相当し、前述した第1モータ・ジェネレータ8と同様に、一例として永久磁石式の交流同期電動機によって構成され、インバータ24を介して前記蓄電装置10に接続されている。そして、この第2モータ・ジェネレータ23は、前述したカウンタドリブンギヤ17に噛み合っている駆動ギヤ25に連結されており、したがって第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクを駆動ギヤ25およびカウンタドリブンギヤ17ならびに出力ギヤ19を介してデファレンシャルギヤ21に伝達し、ここから左右の駆動輪22にトルクを伝達するようになっている。なお、出力ギヤ19に対してデフリングギヤ20が大径であるから、第2モータ・ジェネレータ23からデファレンシャルギヤ21に到る歯車機構は減速機構を構成している。
【0026】
そして、上記のクラッチ3の係合・解放の制御、パーキング機構によるロックおよびその解除の制御、各インバータ9,24の制御などを行うための電子制御装置(ECU)26が設けられている。この電子制御装置26は、マクロコンピュータを主体として構成され、車速やアクセル開度、ブレーキ操作信号、シフトポジション信号などの入力された各種の信号に基づいて、クラッチ3やパーキング機構、各インバータ9,24などに制御指令信号を出力するように構成されている。
【0027】
ここで、上記のハイブリッド装置の作用を簡単に説明すると、エンジン1によって前記キャリヤ7にいわゆる正トルクが伝達されると、リングギヤ6には車両の走行抵抗などによる負荷が掛かっているので、サンギヤ5にはいわゆる正方向のトルクが作用する。そのサンギヤ5におけるいわゆる正トルクに対抗するように第1モータ・ジェネレータ8によって反力トルクを生じさせると、すなわち第1モータ・ジェネレータ8を発電機として機能させてサンギヤ5の回転数を減じる方向のトルクを生じさせると、出力部材であるリングギヤ6にはこれを正回転させる方向のトルクが現れる。そのトルクが前述したカウンタギヤ16からデファレンシャルギヤ21を介して左右の駆動輪22に伝達される。その場合、動力分配機構4を構成している各回転要素の回転数は、遊星歯車機構のギヤ比(サンギヤの歯数とリングギヤの歯数との比)に応じて決まる回転数となるから、第1モータ・ジェネレータ8の回転数を適宜に制御することにより、エンジン1の回転数を最も効率のよい回転数、すなわち燃費が最適となる回転数に制御することができる。
【0028】
一方、第1モータ・ジェネレータ8で発電した電力は、第2モータ・ジェネレータ23に供給されて第2モータ・ジェネレータ23がモータとして機能し、駆動輪22に対してトルクを付与する。すなわち、エンジン1が出力した動力の一部が、一旦電力に変換された後、第2モータ・ジェネレータ23を介して駆動トルクに再変換されて駆動輪22に伝達される。また、車両を後進走行させる場合、クラッチ3を解放した状態で、第2モータ・ジェネレータ23を前進走行時とは反対方向にモータとして動作させることにより、駆動輪22にはいわゆる逆回転方向の駆動トルクが伝達される。したがって、車両は第2モータ・ジェネレータ23によって後進走行する。
【0029】
さらに、エンジン1を始動させるためのモータリング(クランキング)は、第1モータ・ジェネレータ8を駆動して行われる。すなわち、エンジン1の始動は、パーキングポジションが選択されている場合に行うことができるように構成されており、したがって、リングギヤ6がパーキング機構によって固定されている状態で、サンギヤ5が第1モータ・ジェネレータ8によっていわゆる正回転させられる。その状態を動力分配機構4を構成している遊星歯車機構についての共線図で図6に示してある。
【0030】
図6に示す共線図は、シングルピニオン型の遊星歯車機構についての共線図であり、サンギヤ5およびリングギヤ6ならびにキャリヤ7を示す三本の直線が互いに平行に描かれ、サンギヤ5を示す線とリングギヤ6を示す線との間にキャリヤ7を示す線が配置され、そのサンギヤ5を示す線とキャリヤ7を示す線との間隔を「1」とし、キャリヤ7を示す線とリングギヤ6を示す線との間隔が遊星歯車機構のギヤ比に一致する間隔とされている。そして、それらの線と直交する基線より上側の長さが正回転方向の回転数を示し、下側の長さが負回転方向の回転数を示している。したがって、基線は回転数が「0」であることを示す線となっている。エンジン1を始動する場合、リングギヤ6は固定されていて回転数が「0」であり、その状態で第1モータ・ジェネレータ8によってサンギヤ5を正回転させると、サンギヤ5を示す線における基線より上側の所定回転数の点と、リングギヤ6を示す線と基線との交点とを結ぶ直線が遊星歯車機構の動作状態を示すことになり、したがってキャリヤ7およびこれに連結されているエンジン1の回転数と、上記の直線とキャリヤ7を示す線との交点で表される回転数となる。このように、エンジン1を始動する場合、リングギヤ6を固定してサンギヤ5に第1モータ・ジェネレータ8から正トルクを与えると、キャリヤ7およびこれに連結されているエンジン1が正回転させられ、その状態でエンジン1に燃料を供給するとともに点火すれば、エンジン1を自立回転させることができる。
【0031】
ところで、上述したエンジン1を始動する操作とパーキング機構による駆動輪22の固定(ロック)を外すシフト操作とは互いに独立した操作であるから、同時並行的に実行することが可能である。例えばエンジン1の始動制御中にパーキングポジションからニュートラルポジションなどの他のシフトポジションに切り替えられることがある。そのような場合、リングギヤ6にはエンジン1の始動に伴う反力に対抗するように第2モータ・ジェネレータ8から伝達されるトルクに加えて、パーキング機構から駆動輪22に到るまでの伝動部材に蓄積されている捩りトルクとが作用するので、その捩りトルクを解放することに伴うトルクの変化が生じ、これがショックやガタ打ち音などの振動・騒音の原因となることがある。この発明に係るシフト制御装置は、そのようなエンジン1の始動制御中のパーキングロックの解除を滑らかに生じさせるように構成されている。そのための制御の一例を図1に示すフローチャートを参照して説明する。
【0032】
この図1に示すルーチンは前述したパーキング機構によって出力部材であるリングギヤ6(駆動輪22)の回転を止め、かつエンジン1を停止している状態で実行されるように構成されており、先ず、エンジン(E/G)1の始動制御を行っているか否かが判断される(ステップS1)。この判断は、エンジン1をスタートするためのスイッチ(図示せず)がオンになっているか否か、あるいはエンジン1を始動するための要求信号が生じているか否かを判断することにより行うことができる。あるいは第1モータ・ジェネレータ8がエンジン1をクランキングするようにモータとして動作し、トルクを出力しているか否かを判断することにより行うことができる。
【0033】
エンジン1の始動中ではないことによりステップS1で否定的に判断された場合に、特に制御を行うことなくリターンする。あるいはエンジン1の始動完了の後にパーキング機構のロック解除を行う通常の制御が実行される。これとは反対にエンジン1の始動中であることによりステップS1で肯定的に判断された場合には、パーキング(P)ギヤの解除要求があるか否かが判断される(ステップS2)。図5に示す構成のハイブリッド車では、図示しないパーキング解除スイッチを操作することにより、あるいはシフトレバーをパーキングポジション以外のシフトポジションにシフトすることによりパーキングギヤ解除要求が成立し、その要求信号が出力されるように構成されている。したがってステップS2の判断は、その要求信号が出力されているか否かを検出することにより行うことができる。パーキングギヤの解除要求がないことによりステップS2で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンし、あるいは通常制御を実行する。
【0034】
これに対してパーキングギヤの解除要求があることによりステップS2で肯定的に判断された場合には、この発明における電動機に相当する第2モータ・ジェネレータ23のトルク補正制御が実行される(ステップS3)。前述したように、エンジン1の始動は、第1モータ・ジェネレータ8をモータとして動作させてエンジン1をクランキングすることにより行われ、したがって図6を参照して説明したようにリングギヤ6にはこれを負方向に回転させるトルクが作用するので、これに対抗するトルクを第2モータ・ジェネレータ23によって出力させる。また、エンジン1の始動中にパーキングロックを解除する場合には、パーキングギヤ13に作用していた捩りトルクの全てあるいはその一部を第2モータ・ジェネレータ23で受け持つように第2モータ・ジェネレータ23のトルクを増大させる。この捩りトルクに基づく第2モータ・ジェネレータ23のトルクの増大が、上記のステップS3でのトルク補正である。
【0035】
したがって、このトルク補正制御では、捩りトルクが求められる。その捩りトルクは、駆動輪22に対してトルクを伝達していることによりそのトルクの伝達経路に捩りが生じている状態でパーキングギヤ13がロックされ、かつ車両が停止させられた場合や、パーキングギヤ13がロックされた後に車両の慣性力によってトルクの伝達経路に捩りトルクが作用し、その状態で車両が停止した場合に生じる。そのため、捩りトルクに応じた捩りがパーキング機構から駆動輪22までの間の伝動機構もしくは伝動部材に生じているから、その伝動機構もしくは伝動部材に連結されている第2モータ・ジェネレータ23の回転角度に基づいて捩りトルクを求めることができる。例えば、前回のパーキングギヤ13の係合時点あるいは係合要求時点の第2モータ・ジェネレータ23の回転角度と、今回のパーキングギヤ13のロック解除要求の時点での第2モータ・ジェネレータ23の回転角度との差を第2モータ・ジェネレータ23の回転変化量とし、伝動機構もしくは伝動部材の捩り弾性係数および機構上定まる所定の定数と前記回転変化量とを掛け合わせることにより捩りトルクを求めることができる。あるいは第2モータ・ジェネレータ23の回転変化量と捩りトルクとの関係を予めマップとして用意しておき、そのマップに基づいて捩りトルクを求めることができる。そのようなマップの一例を図2に示してある。図2に示す例は、第2モータ・ジェネレータ23の回転変化量と捩りトルクとが比例する例である。
【0036】
第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクを上述したように増大補正すると、エンジン1の始動に伴う反力と伝動機構もしくは伝動部材に生じている捩りトルクとを第2モータ・ジェネレータ23が受け持つことになり、パーキングギヤ13に掛かるトルク(パーキングギヤ13とパーキングロックポール14との係合力)が減じられる。その状態でパーキングギヤ13のロックが解除される(ステップS4)。具体的には、パーキングロックポール14からパーキングギヤ13から外れる方向に回転もしくは移動させられる。その場合、捩りトルクは第2モータ・ジェネレータ23によって受け持たれているから、パーキングギヤ13のロックを外すことに伴うトルクの変化は皆無もしくは僅かであり、したがって大きいショックやガタ打ち音(あるいはギヤの歯打ち音)が生じることはない。
【0037】
ついで増大補正した第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクを、補正前のトルクに戻す補正復帰制御が実行され(ステップS5)、リターンする。その補正復帰制御は、第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクを徐々に低減させる制御であり、その低下勾配は、駆動輪22での駆動トルクの変化がショックとして体感されない程度の勾配、またガタ打ち音(あるいはギヤの歯打ち音)が違和感とならない程度の勾配であり、これは実験あるいはシミュレーションなどによって予め設定しておくことができる。また、その低下傾向は、一律に低下する以外に、時間の経過に応じて低下勾配が変化するものであってもよい。
【0038】
上述したエンジン1の始動中にパーキングロックを解除する制御が実行された場合のトルクの変化およびエンジン回転数の変化を図3にタイムチャートで示してある。エンジン1が停止し、かつパーキング機構によって車両が停止状態に維持されている状態での所定時点t1 にエンジン1の始動要求があると、第1モータ・ジェネレータ8はモータとして機能していわゆる正方向のトルクを出力するように制御され、また第2モータ・ジェネレータ23は第1モータ・ジェネレータ8がエンジン1の回転数を引き上げることに伴う反力に対抗する正トルクを出力するように制御される。これらのモータ・ジェネレータ8,23が出力するべきトルクは、予め定めたトルクである。各モータ・ジェネレータ8,23が上記のように正トルクを出力することによりエンジン1が正回転させられ、その回転数が次第に増大する。
【0039】
エンジン1の回転数が増大する過程のt2 時点にパーキングギヤ13の解除要求があると、第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクが増大補正される。その増大補正量は前述したように、伝動機構もしくは伝動部材に生じている捩りトルクに応じた量あるいはその捩りトルクに基づいて求められる量である。第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクがこのように増大補正された後、パーキングギヤ13のロックが解除される(t3 時点)。ついで、第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクが増大補正前のトルクに向けて徐々に低下させられる。こうしてパーキングギヤ13の解除が行われた後、エンジン1がいわゆる完爆の状態に到る(t4 時点)。すなわち、エンジン1の始動とパーキングロックの解除とが完了する。その結果、第1モータ・ジェネレータ8は、発電機として機能するように制御されて、エンジン1の回転数をアイドリング回転数などのその時点の出力要求に基づく回転数に制御する。また、第2モータ・ジェネレータ23は第1モータ・ジェネレータ8から電力を受けてモータとして機能する。
【0040】
なお、上記の具体例は、エンジン1の完爆より以前に第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクの増大補正を行う例であるが、捩りトルクが完全に解放されるタイミングがエンジン1の完爆後になる場合には、エンジン1の完爆後に第2モータ・ジェネレータ23に要求されるトルクに対して上述した例と同様の増大補正を行うこととしてもよい。
【0041】
また、この発明に係る制御では、第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクを増大補正することになるので、そのためには蓄電装置10から電力を出力する必要があるが、蓄電装置10からの放電には制限があるから、蓄電装置10に充電容量(SOC)によって第2モータ・ジェネレータ23のトルク増大補正を行うことができない場合がある。そのような場合には、エンジン1の始動制御中にパーキングギヤ13の解除要求があったとしても、パーキングギヤ13の解除をエンジン1の完爆の後にまで遅延させる。このような遅延制御を行う手段を設けたシフト制御装置が、請求項3に係る発明の一例である。
【0042】
ところでパーキングロックの解除に伴うショックやガタ打ち音は、伝動機構あるいは伝動部材における部品同士の間のクリアランス(ガタ)が詰まることが要因となる場合がある。したがって、パーキングギヤ13のロックを解除するのに先立っていわゆるガタ詰めを行うことによりショックやガタ打ち音を防止もしくは低減することができる。そのような制御を第2モータ・ジェネレータ23を利用して行う例を図4にフローチャートで示してある。
【0043】
図4に示す制御例は、エンジン1が停止し、かつパーキングギヤ13がロックされて車両が停止している状態で実行されるように構成されており、先ず、パーキング(P)ギヤの解除要求があるか否かが判断される(ステップS11)。これは、前述した図1に示す制御例におけるステップS2と同様の判断ステップである。このステップS11で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。これとは反対にパーキングギヤ13の解除要求があることによりステップS11で肯定的に判断された場合には、パーキング機構から駆動輪22に到る伝動機構もしくは伝動部材に生じている捩りトルクが推定される(ステップS12)。その推定は、前述したように図2に示すマップなどを使用して、第2モータ・ジェネレータ23の回転変化量に基づいて行うことができ、あるいは予め定めた値に基づいて行うことができる。
【0044】
ついで、第2モータ・ジェネレータ23のトルクおよび回転方向が制御される(ステップS13)。前述した図5に示すように構成されたハイブリッド車では、第2モータ・ジェネレータ23はその出力軸に取り付けられた駆動ギヤ25およびこれに噛み合っているカウンタドリブンギヤ17などを介して駆動輪22あるいは前記リングギヤ6に連結されているから、捩りトルクを解放することにより第2モータ・ジェネレータ23に対してトルクが作用するようになる。そこで、パーキングギヤ13のロックを解除するのに先立って、第2モータ・ジェネレータ23をモータとして動作させて駆動ギヤ25からカウンタドリブンギヤ17に対してトルクを付与することによりガタ詰めを行う。したがってそのトルクの方向は、捩りトルクを解放した場合に歯当たりが生じる方向でのガタが詰まる方向のトルクである。また、そのトルクの大きさは、捩りトルクの大きさに応じたものとする。すなわち、パーキングギヤ13を解除して捩りトルクを解放した場合にその捩りトルクによって第2モータ・ジェネレータ23が容易に回転したのでは、トルクの変化が急激になってショックの要因となるから、第2モータ・ジェネレータ23によって捩りトルクをある程度受け持つように、第2モータ・ジェネレータ23の出力トルクを捩りトルクに応じたトルクに設定する。こうしてステップS13で第2モータ・ジェネレータ23のトルクを設定した後、パーキングギヤ13のロックが解除される(ステップS14)。
【0045】
したがって図4に示す制御を実行すれば、パーキングギヤ13のロックを解除した場合、伝動機構もしくは伝動部材に生じていた捩りトルクが、パーキングギヤ13に代わって第2モータ・ジェネレータ23によって受け持たれ、その際に既にガタが詰まっているので、大きいガタ打ち音(歯打ち音)が生じることがなく、また大きいショックが生じることもない。
【0046】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、前述したステップS3を実行する機能的手段が、この発明におけるトルク補正手段に相当し、またステップS4を実行する機能的手段が、この発明のロック解除手段に相当し、さらにステップS5を実行する機能的手段が、この発明におけるトルク補正復帰手段に相当する。
【符号の説明】
【0047】
1…エンジン、 4…動力分配機構、 5…サンギヤ、 6…リングギヤ、 7…キャリヤ、 8…第1モータ・ジェネレータ(MG1)、 10…蓄電装置、 13…パーキングギヤ、 14…パーキングロックポール、 15…出力軸、 16…カウンタギヤ、 17…カウンタドリブンギヤ、 18…カウンタ軸、 19…出力ギヤ、 20…デフリングギヤ、 21…デファレンシャルギヤ、 22…駆動輪、 23…第2モータ・ジェネレータ、 26…電子制御装置(ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、そのエンジンを始動する際に反力が作用するとともに前記エンジンが出力したトルクを駆動輪に対して出力する出力部材と、パーキングポジションが選択された場合にその出力部材の回転を止めるパーキング機構と、そのパーキング機構と前記駆動輪との間の伝動機構にトルクを与える電動機とを有し、前記パーキング機構によって前記出力部材の回転を止めている状態で前記エンジンを始動する場合に、エンジンの始動に伴う反力に対抗するトルクを前記電動機によって出力させるように構成されたハイブリッド車のシフト制御装置において、
前記パーキングポジションから他のシフトポジションに切り替えられたことに伴って前記パーキング機構による前記出力部材のロックを解除するのに先立って、前記伝動機構に蓄積している捩りトルクにより前記パーキング機構に作用しているトルクを低減するように前記電動機の出力トルクを増大補正するトルク補正手段と、
そのトルク補正手段によって前記電動機の出力トルクが増大補正されている間に前記パーキング機構による前記出力部材の回転を止めるロックを外すロック解除手段と、
そのロック解除手段によって前記出力部材のロックが外された後に前記電動機の出力トルクの増大補正量を次第に減少させるトルク補正復帰手段と
を備えていることを特徴とするハイブリッド車のシフト制御装置。
【請求項2】
前記トルク補正手段は、前記パーキングポジションが選択されている状態における前記捩りトルクの推定値に等しいトルクを前記電動機の出力トルクの増大補正量とする手段を含むことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車のシフト制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの始動中に、前記トルク補正手段による前記電動機の出力トルクの増大補正を行うことができない場合には、前記エンジンの始動が完了した後に前記パーキング機構による前記駆動輪のロックを解除するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車のシフト制御装置。
【請求項4】
前記エンジンが連結されている入力要素と、前記出力部材とされている出力要素と、発電用電動機が連結されている反力要素との三つの回転要素によって差動作用を行う差動機構を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のハイブリッド車のシフト制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−98706(P2011−98706A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256558(P2009−256558)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】