説明

ハイブリッド車両のバッテリー保護方法およびその装置

【課題】高速走行中にモータの故障が発生した場合、高電圧バッテリーに過充電が起こらないようにするハイブリッド車両のバッテリー保護方法およびその装置を提供する。
【解決手段】バッテリーの電源としてモータを選択的に駆動させ、モータの駆動によって発生した電気によってバッテリーを選択的に充電させるハイブリッド車両のバッテリー保護方法であって、モータが設定された一定速度以上の速度で運転されているかを判断する段階、モータの故障が発生したかを判断する段階、モータが一定速度以上の速度で運転する状態でモータの故障が発生すれば、過充電防止変速マップを適用して目標変速段を決める段階、および目標変速段に変速を実行する段階を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両のバッテリー保護方法およびその装置に係り、より詳細には、走行中にモータの故障が発生した場合、高電圧バッテリーに過充電が起こらないようにするハイブリッド車両のバッテリー保護方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に対する継続する燃費向上の要求と各国の排出ガス規制強化の動向に応じて親環境自動車に対する要求が増加しており、これに対する現実的な対応としてハイブリッド車両が注目を集めている。
ハイブリッド車両は、エンジン、変速機、モータ、インバータシステム、そしてバッテリーを含んでおり、このようなエンジン、変速機、モータ、インバータシステム、そしてバッテリーは制御器によって制御されて目標動力を生ずるようになっている。
【0003】
ハイブリッド車両においてモータは、高電圧バッテリーの電源によって駆動されるため、高い効率特性が得られる速度制御領域とトルク制御領域に広い特性を有する埋め込み型永久磁石モータが用いられる。
埋め込み型永久磁石モータが高速で作動している途中で故障が発生すれば、高速で回転する永久磁石によって高電圧が発生する。
【0004】
そして、モータの故障によって発生する高電圧は、インバータシステムを介してハイブリッド車両のエネルギー貯蔵装置である高電圧バッテリーに過度な充電電圧で供給され、高電圧バッテリーの寿命を短縮させ、甚だしい場合には高電圧バッテリーを破損するという問題が発生する(例えば、特許文献1参照)。
さらに、高電圧バッテリーを保護するための過充電保護機能が失われた場合、火災などが発生し、運転者等の安全を保障できなくなるという問題を生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平特開2009−234559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、高速走行中にモータの故障が発生した場合、高電圧バッテリーに過充電が起こらないようにするハイブリッド車両のバッテリー保護方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明のハイブリッド車両のバッテリー保護方法は、バッテリーの電源としてモータを選択的に駆動させ、モータの駆動によって発生した電気によってバッテリーを選択的に充電させるハイブリッド車両のバッテリー保護方法であって、モータが設定された一定速度以上の速度で運転されているかを判断する段階、モータの故障が発生したかを判断する段階、モータが一定速度以上の速度で運転する状態でモータの故障が発生すれば、過充電防止変速マップを適用して目標変速段を決める段階、および目標変速段に変速を実行する段階を含むことを特徴とする。
【0008】
上記の過充電防止変速マップを適用して決められた目標変速段は、同じ運転条件で一般運転変速マップを適用して決められた目標変速段よりも低いことが好ましい。
モータの速度は、加速ペダルの変位と車速から計算されることがよい。
【0009】
上記の方法は、エンジン速度が設定された最大速度を超過するかを判断する段階、およびエンジン速度が設定された最大速度を超過する場合、エンジン速度を制限する制御を実行する段階をさらに含むことが好ましい。
エンジン速度が設定された最大速度以下である場合、エンジントルク制御を実行する段階をさらに含むことが好ましい。
【0010】
上記の目的を達成するための本発明のハイブリッド車両のバッテリー保護装置は、動力源としてエンジンとモータを含み、動力源から発生した動力を変速機を介して出力し、バッテリーの電源としてモータを選択的に駆動させ、モータの駆動によって発生した電気によってバッテリーを選択的に充電させるハイブリッド車両に適用されるハイブリッド車両のバッテリー保護装置であって、
上記の装置は、ハイブリッド車両の全般的な動作を制御する少なくとも1つの制御器を含み、制御器は、一般運転変速マップと過充電防止変速マップのうちのいずれか1つのマップによって決められた変速段に応じて変速を行い、モータが一定速度以上の速度で運転している状態でモータの故障が発生した場合にのみ過充電防止変速マップを適用して目標変速段を決め、目標変速段に変速を実行することを特徴とする。
【0011】
過充電防止変速マップを適用して決められた目標変速段は、同じ運転条件で一般運転変速マップを適用して決められた目標変速段よりも低いことがよい。
【0012】
制御器は、エンジン速度が設定された最大速度を超過する場合、エンジン速度を制限する制御を実行することが好ましい。
制御器は、エンジン速度が設定された最大速度以下である場合、エンジントルク制御を実行することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態に係るハイブリッド車両は、高速走行中にモータの故障が発生した場合、過度な高電圧の発生を抑制させて、高電圧バッテリーで過充電が起こらないようにすることにより、バッテリーの耐久性および運転者等の安定性を向上させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両のバッテリー保護装置を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両のバッテリー保護方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係るハイブリッド車両のバッテリー保護装置を示す概略図である。
【0016】
図1に示したとおり、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両のバッテリー保護装置は、運転情報検出部(Driving Condition Detector)101、ECU(Engine Control Unit)102、HCU(Hybrid Control Unit)103、TCU(Transmission Control Unit)104、PCU(Power Control Unit)105、バッテリー(Battery)106、BMS(Battery Management System)107、エンジン200、エンジンクラッチ250、モータ300、および変速機400を含む。
【0017】
運転情報検出部101は、加速ペダルの変位とブレーキペダルの変位、車速、およびエンジン速度などの情報を検出し、これに対する情報をHCU103に提供する。
運転情報検出部101は、ブレーキペダルの作動可否を検出するブレーキペダルセンサ(図示せず)、および加速ペダルの作動変位を検出するAPS(Accelerator Pedal Sensor)(図示せず)を含む。さらに、運転情報検出部101は、現在の車速を検出する車速検出手段とエンジン速度を検出するエンジンの速度検出手段を含んでもよい。
【0018】
ECU102は、ネットワークに連結するHCU103と連動してエンジン200の諸般の動作を制御し、HCU103の要求に応じてエンジン200の速度を制限してモータ300の速度が低速になるように誘導することによってバッテリー106の過充電を防ぐ。
HCU103は最上位制御器であって、ネットワークに連結する下位制御器を統合制御してハイブリッド車両の全般的な動きを制御し、車両の高速走行中にモータ300の故障が検出された場合、有段変速機の特性を利用して変速段を制限し、エンジン200の速度を制御してモータ300の速度が低速になるように誘導し、過電圧が発生しないようにする。
これによって、バッテリー106の過充電を防止する。
【0019】
TCU104は、ネットワークに連結するHCU103の制御に応じて変速機400に備えられるアクチュエータを制御して目標変速段に変速を制御し、エンジンクラッチ250に供給される流体の圧力を制御してエンジンクラッチ250の結合および解除を実行し、エンジン200の動力伝達を制御する。このようなTCU104には、一般運転変速マップと高速運転でモータ故障によるバッテリー過充電防止変速マップが設定されている。
車両が高速運転される状態でモータ300の故障が検出されればTCU104は、HCU103の要求に応じて過充電防止変速マップを適用し、目標変速段を決めた後、変速機400に備えられるアクチュエータを制御し、決められた目標変速段に変速を制御する。これにより、故障が発生したモータ300の高速回転を防止し、過電圧発生を防止する。
【0020】
モータ300の故障が発生した状態で過充電防止変速マップが適用され決められる目標変速段は、現在の変速段よりも低い低速変速段に決定される。
PCU105は、MCU(Motor Control Unit)と複数の電力スイッチング素子で構成されるインバータおよび保護回路を含み、HCU103で印加される制御信号に応じ、バッテリー106で供給される直流電圧を三相交流電圧に変換させてモータ300の駆動を制御する。
【0021】
また、PCU105は、モータ300で発電する電圧を利用してバッテリー106を充電する。
PCU105に含まれる電力スイッチング素子は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)、トランジスタおよびリレーのうちのいずれか1つで構成されてもよい。
【0022】
バッテリー106は、HEVモード(エンジンとモータが駆動するモード)およびEVモード(モータが駆動するモード)でモータ300に電源を供給し、モータ300で発電する電圧を貯蔵する。
BMS107は、バッテリー106の電圧、電流、温度などの情報を検出してバッテリー106の充電状態を管理し、バッテリー106の充電電流量または放電電流量を制御して限界電圧以下に過放電したり限界電圧以上に過充電しないようにする。
【0023】
エンジン200は、ECU102の制御に応じて最適な運転状態に駆動制御される。
ISG(Integrated Starter Generator)210は、車両の運転状況に応じてエンジン200のアイドル停止および再始動を実行させる。
エンジンクラッチ250は、エンジン200とモータ300との間に配置され、TCU104の制御に応じて作動し、エンジン200とモータ300との間の動力伝達を制御する。
【0024】
モータ300は、PCU105を介して供給される三相交流電圧によって駆動されてエンジン200の出力トルクを補助することができ、エンジン200の出力トルクに余剰トルクがある場合や制動時に発電機として作動してバッテリー106を充電する。
変速機400は、TCU104の制御に応じて変速比を調整し、運転モードに応じてクラッチ250を介して印加される出力トルクを変速比に応じて調整し、駆動輪に伝達する。これによって自動車が走行するようになる。
変速機400としては、自動変速機あるいは無段変速機が用いられてもよい。
本発明の実施形態が適用されるハイブリッド車両の通常の動作は、従来のハイブリッド車両と同一あるいは類似しているため、これについての具体的な説明は省略する。
【0025】
図2は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両のバッテリー保護方法を示すフローチャートである。
本発明の実施形態が適用されるハイブリッド車両が運行する状態において、最上位制御器であるHCU103は、運転情報検出部101から運転要求である加速ペダルの変位を検出する(S101)。そして、車速検出手段を介して現在の車速を検出する(S102)。
このとき、HCU103は、運転要求である加速ペダルの変位と現在の車速を分析し、モータ300が設定された基準速度以上の高速で運転されているかを判断する(S103)。
【0026】
S103段階において、モータ300が設定された基準速度未満で運転されている状態であれば、モータ300の故障が発生しても過電圧が発生しない。したがって、本発明の実施形態に係る方法はS101段階に戻る。
しかし、S103段階において、モータ300が高速で運転されている状態であれば、モータ300の状態をモニタリングし(S104)、モータ300の故障が発生したかを判断する(S105)。
【0027】
S105段階において、モータ300が正常であれば、HCU103は運転要求に応じてECU102を介し、エンジン200を制御して出力トルクを安定に維持する(S112)。
しかし、S105段階において、モータ300の故障が発生した状態であると判断されれば、TCU104から提供される変速段の情報を分析し、現在の変速段が過充電防止変速マップによって決められて同期された状態であるかを判断する(S106)。
【0028】
S106段階において、現在の変速段が過充電防止変速マップによって決められて同期された状態でなく、一般運転変速マップによって決められて同期された状態であれば、HCU103はモータ300の故障が発生したことをTCU104に知らせる。
TCU104は、過充電防止変速マップを適用して目標変速段を決め(S107)、目標変速段に同期されるように変速機400を制御する(S108)。
過充電防止変速マップによって決められた目標変速段は、一般運転変速マップが適用されて決められた現在の変速段よりも低い変速段であることがよく、これによって車速が減少してモータ300の回転速度が減少する。
【0029】
しかし、S106段階において、現在の変速段が過充電防止変速マップによって決められた状態であれば、モータ300の故障によるバッテリー過充電防止制御が実行されているものと判定して現在の変速段を維持する(S109)。
この後、エンジン200の速度を検出し、エンジン200の速度が設定された最大速度を超過したかを判断する(S110)。S110段階において、エンジン200の速度が設定された最大速度以下であれば、ECU102を介して現在のエンジントルクを制御する(S112)。S110段階において、エンジン200の速度が設定された最大速度を超過した状態であれば、ECU102を介してエンジン200の速度を制限する制御を実行する(S111)。
【0030】
したがって、モータ300が高速運行される状態でモータ300の故障が発生した場合、過充電防止変速マップを適用して下位変速段に同期されるように制御し、エンジン200の出力を制限する。したがって、モータ300の高速回転を防ぎ、モータ300から過電圧が発生しないようにする。
これにより、バッテリー106の過充電を防いでバッテリー106の寿命を延ばし、運転者の安全性を確保する。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲内で多様な形態への変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0032】
101:運転情報検出部
102:ECU(Engine Control Unit)
103:HCU(Hybrid Control Unit)
104:TCU(Transmission Control Unit)
105:PCU(Power Control Unit)
106:バッテリー
107:BMS(Battery Management System)
200:エンジン
210:ISG(Integrated Starter Generator)
250:エンジンクラッチ
300:モータ
400:変速機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーの電源としてモータを選択的に駆動させ、前記モータの駆動によって発生した電気によって前記バッテリーを選択的に充電させるハイブリッド車両のバッテリー保護方法であって、
前記モータが設定された一定速度以上の速度で運転されているかを判断する段階、
前記モータの故障が発生したかを判断する段階、
前記モータが一定速度以上の速度で運転する状態で前記モータの故障が発生すれば、過充電防止変速マップを適用して目標変速段を決める段階、および
前記目標変速段に変速を実行する段階、
を含むことを特徴とするハイブリッド車両のバッテリー保護方法。
【請求項2】
前記過充電防止変速マップを適用して決められた前記目標変速段は、同じ運転条件で一般運転変速マップを適用して決められた目標変速段よりも低いことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のバッテリー保護方法。
【請求項3】
前記モータの速度は、加速ペダルの変位と車速から計算されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のバッテリー保護方法。
【請求項4】
前記保護方法は、
エンジン速度が設定された最大速度を超過するかを判断する段階、および
前記エンジン速度が設定された最大速度を超過する場合、エンジン速度を制限する制御を実行する段階、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のバッテリー保護方法。
【請求項5】
前記エンジン速度が設定された最大速度以下である場合、エンジントルク制御を実行する段階をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両のバッテリー保護方法。
【請求項6】
動力源としてエンジンとモータを含み、動力源から発生した動力を変速機を介して出力し、バッテリーの電源として前記モータを選択的に駆動させ、前記モータの駆動によって発生した電気によって前記バッテリーを選択的に充電させるハイブリッド車両のバッテリー保護装置であって、
該保護装置は、ハイブリッド車両の全般的な動作を制御する少なくとも1つの制御器を含み、
該制御器は、一般運転変速マップと過充電防止変速マップのうちのいずれか1つのマップで決められた変速段に応じて変速を行い、
前記モータが一定速度以上の速度で運転している状態で前記モータに故障が発生した場合にのみ前記過充電防止変速マップを適用して目標変速段を決め、
該目標変速段に変速を実行することを特徴とするハイブリッド車両のバッテリー保護装置。
【請求項7】
前記過充電防止変速マップを適用して決められた目標変速段は、同じ運転条件で前記一般運転変速マップを適用して決められた目標変速段よりも低いことを特徴とする請求項6に記載のハイブリッド車両のバッテリー保護装置。
【請求項8】
前記制御器は、エンジン速度が設定された最大速度を超過する場合、前記エンジン速度を制限する制御を実行することを特徴とする請求項6に記載のハイブリッド車両のバッテリー保護装置。
【請求項9】
前記制御器は、エンジン速度が設定された最大速度以下である場合、エンジントルク制御を実行することを特徴とする請求項8に記載のハイブリッド車両のバッテリー保護装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−91770(P2012−91770A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117565(P2011−117565)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(500518050)起亞自動車株式会社 (449)
【Fターム(参考)】