説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】モータトルクを正確に算出することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータジェネレータと、モータジェネレータにより回転制御される第1の要素と、第1の要素と係合する第2の要素と、を有するハイブリッド車両に適用され、所定のトルクをモータジェネレータに出力させることにより、第1の要素と第2の要素の回転位相を同期させる制御手段を有する。制御手段は、エンジン及びモータジェネレータの慣性質量と、モータジェネレータの回転数と、に基づいて、モータジェネレータのモータ軸のイナーシャトルクを算出し、所定のトルクをイナーシャトルクで補正してからモータジェネレータに出力させる。このようにすることで、前記第1の要素を目標回転数に正確に収束させることが可能なモータトルクを算出することができ、オーバーシュートの発生を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)に加えて、電動機やモータジェネレータなどの動力源を備えるハイブリッド車両が知られている。ハイブリッド車両では、内燃機関を可及的に高効率状態で運転する一方、駆動力やエンジンブレーキの過不足を電動機又はモータジェネレータで補う。
【0003】
このようなハイブリッド車両の一例として、無段変速モードと固定比変速モードとを切り替えて運転することが可能なように構成されたハイブリッド車両がある。このハイブリッド車両では、2つの遊星歯車機構を組み合わせた動力分配機構を有し、動力分配機構は、エンジン、第1のモータジェネレータ、出力軸及びブレーキに接続される。ブレーキを解放した状態では、第1のモータジェネレータの回転数を連続的に変化させることにより、エンジンの回転数が連続的に変化し、無段変速モードでの運転が実行される。一方、ブレーキを固定した状態では、上記の回転要素の1つの回転が阻止されることにより変速比が固定となり、固定比変速モードでの運転が実行される。また、無段変速モードと固定比変速モードとを切り替える変速機構は、従来の湿式多板クラッチではなく、ドグ歯を有する噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)を利用した回転位相同期変速制御によるものが知られている。
【0004】
例えば、以下の特許文献1には、噛み合いクラッチを係合するときに、電気モータの回転速度に基づいてモータトルクを算出し、算出されたモータトルクを電気モータに出力させることにより回転位相を同期させる技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−295709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、エンジントルクの推定誤差や摩擦等により、正確なモータトルクを算出できないため、噛み合いクラッチの係合時にオーバーシュートやハンチングを引き起こす恐れがある。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、モータトルクを正確に算出することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの観点では、エンジンと、モータジェネレータと、前記モータジェネレータにより回転制御される第1の要素と、前記第1の要素と係合する第2の要素と、を有するハイブリッド車両に適用され、所定のトルクを前記モータジェネレータに出力させることにより、前記第1の要素と前記第2の要素の回転位相を同期させる制御手段を有するハイブリッド車両の制御装置であって、前記制御手段は、前記エンジン及び前記モータジェネレータの慣性質量と、前記モータジェネレータの回転数と、に基づいて、前記モータジェネレータのモータ軸のイナーシャトルクを算出し、前記所定のトルクを前記イナーシャトルクで補正してから前記モータジェネレータに出力させる。
【0009】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータジェネレータと、前記モータジェネレータにより回転制御される第1の要素と、前記第1の要素と係合する第2の要素と、を有するハイブリッド車両に適用される。モータジェネレータは、例えば、第1のモータジェネレータであり、第1の要素は、例えば、ドグクラッチにおける回転部であり、第2の要素は、例えば、ドグクラッチにおける固定部である。ハイブリッド車両の制御装置は、所定のトルクを前記モータジェネレータに出力させることにより、前記第1の要素と前記第2の要素の回転位相を同期させる制御手段を有する。前記制御手段は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)であり、前記エンジン及び前記モータジェネレータの慣性質量と、前記モータジェネレータの回転数と、に基づいて、前記モータジェネレータのモータ軸のイナーシャトルクを算出し、前記所定のトルクを前記イナーシャトルクで補正してから前記モータジェネレータに出力させる。このようにすることで、前記第1の要素を目標回転数に正確に収束させることが可能なモータトルクを算出することができ、オーバーシュートの発生を防ぐことができる。
【0010】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様は、前記制御手段は、前記所定のトルクに基づいて、前記エンジンより出力軸に伝達される伝達トルクを算出し、算出された前記伝達トルクに基づいて、前記出力軸に出力される出力トルクを制御する。具体的には、前記制御手段は、前記伝達トルクに基づいて求められたトルクを、前記出力軸と接続された第2のモータジェネレータに出力させることによって、前記出力軸に出力される出力トルクを制御する。このようにすることで、出力軸に発生するショックを抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
エンジンと、モータジェネレータと、前記モータジェネレータにより回転制御される第1の要素と、前記第1の要素と係合する第2の要素と、を有するハイブリッド車両に適用され、所定のトルクを前記モータジェネレータに出力させることにより、前記第1の要素と前記第2の要素の回転位相を同期させる制御手段を有するハイブリッド車両の制御装置において、前記制御手段は、前記エンジン及び前記モータジェネレータの慣性質量と、前記モータジェネレータの回転数と、に基づいて、前記モータジェネレータのモータ軸のイナーシャトルクを算出し、前記所定のトルクを前記イナーシャトルクで補正してから前記モータジェネレータに出力させる。このようにすることで、前記第1の要素を目標回転数に正確に収束させることが可能なモータトルクを算出することができ、オーバーシュートの発生を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0013】
図1に本発明を適用したハイブリッド車両の制御装置の概略構成を示す。図1の例は、機械分配式2モータ型と称されるハイブリッド車両であり、エンジン1、第1のモータジェネレータMG1、第2のモータジェネレータMG2、動力分配機構20、を備える。動力源に相当するエンジン1と、回転数制御機構に相当する第1のモータジェネレータMG1とが動力分配機構20に連結されている。動力分配機構20の出力軸3には、駆動トルク又はブレーキ力のアシストを行うための副動力源である第2のモータジェネレータMG2が、MG2変速部6を介して連結されている。さらに、出力軸3は最終減速機8を介して左右の駆動輪9に連結されている。第1のモータジェネレータMG1と第2のモータジェネレータMG2とは、バッテリー、インバータ、又は適宜のコントローラ(図示せず)を介して、もしくは直接的に電気的に接続され、第1のモータジェネレータMG1で生じた電力で第2のモータジェネレータMG2を駆動するように構成されている。
【0014】
エンジン1は燃料を燃焼して動力を発生する熱機関であり、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどが挙げられる。第1のモータジェネレータMG1はエンジン1からトルクを受けて回転することにより主として発電を行うものであり、発電に伴う反力トルクが作用する。第1のモータジェネレータMG1の回転数を制御することにより、エンジン1の回転数が連続的に変化する。このような変速モードを無段変速モードという。無段変速モードは、後述する動力分配機構20の差動作用により実現される。
【0015】
第2のモータジェネレータMG2は、駆動トルク又はブレーキ力を補助(アシスト)する装置である。駆動トルクをアシストする場合、第2のモータジェネレータMG2は電力の供給を受けて電動機として機能する。一方、ブレーキ力をアシストする場合には、第2のモータジェネレータMG2は、駆動輪9から伝達されるトルクにより回転させられて電力を発生する発電機として機能する。
【0016】
図2は、図1に示す第1及び第2のモータジェネレータMG1及びMG2、並びに動力分配機構20の構成を示す。図2において、実線は連結されていることを示し、破線矢印は信号の流れを示している。
【0017】
動力分配機構20は、エンジン1の出力トルクを第1のモータジェネレータMG1と出力軸3とに分配する機構であり、差動作用を生じるように構成されている。具体的には複数組の差動機構を備え、互いに差動作用を生じる4つの回転要素のうち、第1の回転要素にエンジン1が連結され、第2の回転要素に第1のモータジェネレータMG1が連結され、第3の回転要素に出力軸3が連結され、第4の回転要素にドグクラッチ5が接続される。ドグクラッチ5を解放した状態では、第1のモータジェネレータMG1の回転数を連続的に変化させることによりエンジン1の回転数が連続的に変化し、無段変速モードが実現される。一方、ドグクラッチ5を係合して第4の回転要素を固定すると、動力分配機構20により決定される変速比がオーバードライブ状態(即ち、エンジン回転数が出力回転数より小さくなる状態)に固定され、固定変速比モードが実現される。
【0018】
本実施形態では、図2に示すように、動力分配機構20は、2つの遊星歯車機構を組み合わせて構成される。第1の遊星歯車機構はリングギヤ21、キャリア22、サンギヤ23を備え、第2の遊星歯車機構はリングギヤ25、キャリア26、サンギヤ27を備える。
【0019】
エンジン1の出力軸2は第1の遊星歯車機構のキャリア22に連結され、そのキャリア22は第2の遊星歯車機構のリングギヤ25に連結されている。これらが第1の回転要素を構成する。第1のモータジェネレータMG1のロータ11は第1の遊星歯車機構のサンギヤ23に連結され、これらが第2の回転要素を構成している。
【0020】
第1の遊星歯車機構のリングギヤ21と第2の遊星歯車機構のキャリア26は相互に連結されているとともに出力軸3に連結されている。これらが第3の回転要素を構成している。また、第2の遊星歯車機構のサンギヤ27は第4の回転要素に対応し、ドグクラッチ5を介してブレーキ部7に連結している。
【0021】
ECU(Electronic Control Unit)50は、図示しないCPU、ROM、RAM、A/D変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、各種センサからの検出信号に基づいて、エンジン1、第1のモータジェネレータMG1、第2のモータジェネレータMG2、の駆動制御を行う。本実施形態では、例えば、ECU50は、エンジン1、第1のモータジェネレータMG1、の夫々に設けられた図示しない回転数センサからの検出信号に基づいて、エンジン1、第1のモータジェネレータMG1、の夫々の回転数を検出する。ECU50は、これらの回転数に基づいて、第1のモータジェネレータMG1の駆動制御を行う。
【0022】
図3にドグクラッチ5の構成例を模式的に示す。この例では、ドグクラッチ5は固定部53aと、回転部53bとを備えて構成される。回転部53bは、アクチュエータ60に連結されている。固定部53a及び回転部53bは、それぞれ複数のドグ歯55を備えている。回転部53bは図2に示す第2の遊星歯車機構のサンギヤ27に連結されており、第4の回転要素であるサンギヤ27の回転に従って回転する。固定部53aはブレーキ部7に固定されている、図中の矢印122のように、回転部53bは軸方向に移動(ストローク)可能に構成されており、回転部53bを、アクチュエータ60を用いて矢印122方向に移動させることにより、固定部53aに係合し、クラッチをオン状態とする。また、アクチュエータ60を矢印122と逆方向に移動させることにより、回転部53bと固定部53aの係合を解放し、クラッチをオフ状態とする。
【0023】
(回転位相同期制御)
次に、本実施形態に係るドグクラッチの回転位相同期制御について図4を用いて述べる。無段変速モードから固定変速比モードへと切り替える際には、ドグクラッチ5を係合させる必要がある。無段変速モードから固定変速比モードへと切り替える際には、ドグクラッチ5を係合させるために、回転部53bの回転数ωdogを0rpmに近づける回転位相同期制御が行われる。
【0024】
図4は、動力分配機構20の共線図を示している。図4では、エンジン1のエンジントルクを「Te」、エンジン1のエンジン回転数を「ωe」、第1のモータジェネレータMG1のモータトルクを「Tg」、第1のモータジェネレータMG1のモータ回転数を「ωg」、第1のモータジェネレータMG1の目標回転数を「Ng」、出力軸3の回転数を「ωout」、エンジン1より出力軸3に伝達されるトルクを「Tep」、ドグクラッチ5における回転部53bの回転数を「ωdog」、回転部53bの目標回転数を「Ndog」、動力配分機構20の構成により決まるギア比を「ρ」として示している。なお、以下において、「回転数」という場合には、正確には「角速度」のことを示すものとする。従って、例えば「dωe/dt」は、エンジンの角加速度を示すものとする。
【0025】
図4に示すように、ドグクラッチ5を係合させるため、回転部53bの目標回転数Ndogとして、0rpmに近い値が設定される。目標回転数Ngは、回転部53bの回転数ωdogが目標回転数Ndogとなったときの第1のモータジェネレータMG1の回転数である。従って、目標回転数Ngは、図4に示す共線図に基づいて算出することができる。回転部53bの回転数ωdogを目標回転数Ndogに近づけるためには、第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgを、目標回転数Ngに近づける必要がある。
【0026】
なお、ここで、ドグクラッチ5の回転部53bの目標回転数Ndogは、完全に0rpmに設定されるとは限られない。代わりに、目標回転数Ndogは、0rpmに近い値、例えば40rpm程度に設定されるとしてもよい。即ち、ドグクラッチ5の係合時において、回転部53bは、完全に停止しているのではなく、比較的低速度で回転しているとしてもよい。このようにする理由は、もし、係合時において、回転部53bのドグ歯と固定部53aのドグ歯とが対向している状態になっている場合には、回転部53bが完全に停止しているとすると、ドグ歯同士がぶつかり合ってしまい、ドグクラッチ5を係合させるのが難しくなるからである。つまり、ドグクラッチ5の係合時において、回転部53bを、完全に停止させるのではなく、比較的低速度で回転させるとすることにより、回転部53bのドグ歯の位置をずらすことができ、ドグ歯同士がぶつかり合うのを防ぎ、ドグクラッチ5をスムーズに係合させることができる。
【0027】
ECU50は、第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgを目標回転数Ngに近づけるため、第1のモータジェネレータMG1に所定のモータトルクTgを出力させる。一般的には、以下の式(1)で示す、平衡分トルクTgffとフィードバックトルクTgfbとの和であるトルクTg1が、モータトルクTgとして第1のモータジェネレータMG1に出力される。
【0028】
【数1】

ここで、平衡分トルクTgffとは、第1のモータジェネレータMG1のモータ軸にかかるエンジン1からの分力によるトルク(分力トルク)と平衡するトルクのことであり、フィードバックトルクとは、第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgを目標回転数Ngへと変化させるためのトルクである。
【0029】
エンジン1に出力される実トルクTeiは、以下の式(2)で示すように、エンジントルクTeとイナーシャトルクIe×(dωe/dt)の和で示される。ここで、「Ie」はエンジンの慣性質量を示している。
【0030】
【数2】

従って、平衡分トルクTgffは、第1のモータジェネレータMG1のモータ軸にかかるエンジン1の分力トルクと等しいと考えると、ギア比ρを用いて、以下の式(3)で示される。
【0031】
【数3】

フィードバックトルクTgfbは、伝達関数をKp、Kiとすると以下の式(4)で示される。ここで、伝達関数Kp、Kiは予め決められており、ECU50のROMなどに記録されている。
【0032】
【数4】

なお、式(4)の第2項は、伝達関数Kiに対し、第1のモータジェネレータMG1の角速度の偏差Ng−ωgの積分和を掛けたものとなっている。
【0033】
先にも述べたように、ドグクラッチ5を係合させるためには、回転部53bの回転数ωgを0rpmに近い目標回転数Ndogにする必要がある。一般的なハイブリッド車両の制御装置では、ドグクラッチ5の係合時において、式(1)を用いて求められたトルクTg1をモータトルクTgとして第1のモータジェネレータMG1に出力させることにより、第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgを目標回転数Ngに近づけることとしていた。
【0034】
しかしながら、エンジントルクの推定誤差や摩擦等を考慮すると、トルクTg1は、回転部53bの回転数ωgを目標回転数Ndogに正確に収束させることが可能なモータトルクTgとはなっていない。そのため、ドグクラッチ5の係合時に、オーバーシュートが発生してしまい、係合するのに時間がかかり、変速に遅れが生じてしまう。
【0035】
そこで、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、ECU50は、ドグクラッチ5の係合時には、以下の式(5)を用いて、トルクTg1を、第1のモータジェネレータMG1のモータ軸のイナーシャトルクTg_inrで補正することによりトルクTg2を求め、求められたトルクTg2をモータトルクTgとして第1のモータジェネレータMG1に出力させることとする。従って、トルクTg1が、本発明における所定のトルクに相当する。
【0036】
【数5】

ここで、第1のモータジェネレータMG1のモータ軸のイナーシャトルクTg_inrは、以下の式(6)に示すように、第1のモータジェネレータMG1のモータ軸に対する総合慣性質量Iと第1のモータジェネレータMG1の角加速度dωg/dtとに基づいて求められる。
【0037】
【数6】

ここで、総合慣性質量Iは、エンジン1の慣性質量Ieと第1のモータジェネレータMG1の慣性質量Igとに基づいて、以下の式(7)で求められる。
【0038】
【数7】

つまり、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、ECU50は、ドグクラッチ5の係合時において、予め、式(1)で求められたトルクTg1に対しイナーシャトルクTg_inrで補正してトルクTg2を算出している。このようにして算出されたトルクTg2は、回転部53bの回転数ωgを目標回転数Ndogに正確に収束させることが可能なモータトルクとなっている。この算出されたトルクTg2をモータトルクTgとして第1のモータジェネレータMG1に出力させることにより、オーバーシュートの発生を防ぐことができる。このことについて、以下でグラフを用いて具体的に述べる。
【0039】
次に、上述の回転位相同期制御について、図5に示すグラフを用いて説明する。図5(a)は、ドグクラッチ5の回転部53bの回転数ωdogについて、時間に対する変化を示すグラフである。図5(a)において、一点鎖線で示すグラフは、トルクTg1をモータトルクTgとして第1のモータジェネレータMG1に出力させた場合のグラフであり、実線で示すグラフは、トルクTg2をモータトルクTgとして第1のモータジェネレータMG1に出力させた場合のグラフである。図5(b)は、第1のモータジェネレータMG1のモータトルクTgについて、時間に対する変化を示すグラフであり、図5(c)は、ドグクラッチ5のアクチュエータ60の作動状況について、時間に対する変化を示すグラフである。図5(c)において、「ON」とはアクチュエータ60が作動している状態と示し、「OFF」とはアクチュエータ60が作動していない状態を示している。
【0040】
図5(b)に示すように、ECUは、時刻T1からトルクTgを変化させていく。即ち、時刻T1は、回転位相同期制御を開始する時刻である。この回転位相同期制御を開始するタイミングは、第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgの大きさが制御開始回転数Ngstの大きさよりも小さくなったときである。制御開始回転数Ngstは、以下の式(8)で求められる。
【0041】
【数8】

ここで、「応答遅れ時間」は、第1のモータジェネレータMG1に出力されるモータトルクTgの応答遅れ時間である。式(8)より分かるように、制御開始回転数Ngstは、ドグクラッチ5の回転部53bの目標回転数Ndogから、応答遅れ時間に第1のモータジェネレータMG1の角加速度dωg/dtをかけた値を引くことにより求められる。この「応答遅れ時間」は、予め実験などにより計測され、ROMなどに記録されている。
【0042】
図5(a)に示すように、ECU50が、時刻T1から時刻T2まで、第1のモータジェネレータMG1にモータトルクTgを出力させることにより、ドグクラッチ5の回転部53bの回転数ωdogは目標回転数Ndogに近づく。そして時刻T2において、ドグクラッチ5の回転部53bの回転数は、目標回転数Ndogに達する。一般的なハイブリッド車両の制御装置では、ドグクラッチ5の係合時においても、モータトルクTgをトルクTg1としているため、一点鎖線で示すように、時刻T2経過後に、回転数ωdogは目標回転数Ndogに収束せずに、オーバーシュートしてハンチングしてしまう。それに対し、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、ドグクラッチ5の係合時には、モータトルクTgをトルクTg2とすることにより、実線で示すように、時刻T2経過後に、回転数ωdogは目標回転数Ndogに収束して、オーバーシュートすることがない。ECU50は、回転数ωdogが目標回転数Ndogになると、アクチュエータ60を作動させ、回転部53bを固定部53aに係合させる。これにより、クラッチはオン状態となる。
【0043】
以上に述べたことから分かるように、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、ドグクラッチ5の係合時に、トルクTg1をイナーシャトルクTg_inrで補正することにより、回転部53bの回転数ωgを目標回転数Ndogに正確に収束させることが可能なモータトルクTgを算出することができる。このようにすることで、オーバーシュートやハンチングの発生を防ぐことができる。これにより、ドグクラッチ5をスムーズに係合させることができ、変速に遅れが生じるのを防ぐことができる。
【0044】
ここで、第1のモータジェネレータMG1に出力させるモータトルクTgを変化させると、出力軸3に出力される出力トルクにも変動が生じて、出力軸3にショックが発生する恐れがある。そこで、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、ECU50は、モータトルクTpに基づいて、エンジン1より出力軸3に伝達されるトルクである伝達トルクTepを算出し、算出された伝達トルクTepに基づいて、出力軸3に出力される出力トルクを制御することとする。
【0045】
エンジン1より出力軸3に伝達されるトルクである伝達トルクTepは、以下の式(9)で求められる。ECU50は、ドグクラッチ5の係合時、即ち、モータトルクTgをトルクTg2とした場合には、以下の式(9)のモータトルクTgとしてトルクTg2を代入することにより、伝達トルクTepを求めることとする。
【0046】
【数9】

式(9)で求められた伝達トルクTepは、第1のモータジェネレータMG1に出力させるモータトルクTgの変化に対応したものとなっている。そして、ECU50は、以下の式(10)を用いて、要求出力トルクTpを伝達トルクTepで補正してトルクTmを求め、求められたトルクTmを、第2のモータジェネレータMG2に出力させる。
【0047】
【数10】

このようにすることで、モータトルクTgを変化させた場合であっても、出力軸3に出力されるトルクを要求出力トルクTpに一致させることができ、出力軸3に発生するショックを抑えることができる。
【0048】
(回転位相同期制御処理)
次に、本実施形態に係る回転位相同期制御処理について、図6、7に示すフローチャートを用いて説明することとする。以下の制御処理は、所定時間毎に繰り返し行われる。
【0049】
まず、ステップS101において、ECU50は、ドグクラッチ5を係合する変速要求があるか否かについて判定する。具体的には、ECU50は、ドグクラッチ5を係合する変速要求を示す係合要求フラグがオンになっているか否かによって判定する。ECU50は、アクセル開度が増加した場合などの所定の条件が成立した場合に、ドグクラッチ5を係合する変速要求を示す係合要求フラグをオフからオンにする。ECU50は、ステップS101において、係合要求フラグがオンになっている場合には、ドグクラッチ5を係合する変速要求があると判定して(ステップS101:Yes)、ステップS102の処理へ進む。ECU50は、係合要求フラグがオフになっている場合には、ドグクラッチ5を係合する変速要求がないと判定して(ステップS101:No)、ステップS109の処理へ進む。ステップS109において、ECU50は、式(1)で求められたトルクTg1を第1のモータジェネレータMG1のモータトルクTgとした後、ステップS110の処理へ進む。
【0050】
ステップS102において、ECU50は、第1のモータジェネレータMG1の回転数センサからの検出信号に基づいて、第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgを検出する。
【0051】
ステップS103において、ECU50は、制御開始回転数Ngstを算出する。具体的には、ECU50は、第1のモータジェネレータMG1の角加速度dωg/dt、ドグクラッチ5の回転部53bの目標回転数Ndogを式(8)に代入することにより、制御開始回転数Ngstを算出する。角加速度dωg/dtは、例えば、ステップS102で検出された第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgと、本制御処理が前回実行されたときの第1のモータジェネレータMG1の回転数との差分をとることにより算出される。また、ドグクラッチ5の回転部53bの目標回転数Ndogは、先にも述べたように、例えば40rpm程度に設定される。
【0052】
ステップS104において、ECU50は、ステップS102で検出された第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgの大きさが制御開始回転数Ngstの大きさよりも小さいか否かについて判定する。ECU50は、ステップS102で検出された第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgの大きさが制御開始回転数Ngstの大きさよりも小さいと判定した場合には(ステップS104:Yes)、ステップS105の処理へ進む。一方、ECU50は、ステップS102で検出された第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgの大きさが制御開始回転数Ngstの大きさ以上であると判定した場合には(ステップS104:No)、ステップS109の処理へ進み、式(1)で求められたトルクTg1を第1のモータジェネレータMG1のモータトルクTgとした後、ステップS110の処理へ進む。
【0053】
ステップS105において、ECU50は、式(1)を用いて、トルクTg1を求める。ここで、フィードバックトルクTgfbを求める式(4)において、第1のモータジェネレータMG1の角速度の偏差Ng−ωgの時間に対する積分和Σ(Ng−ωg)は、前回実行された本制御処理で求められた積分和Σ(Ng−ωg)に対し、第1のモータジェネレータMG1の角速度の偏差Ng−ωgを加算することで求められる。
【0054】
ステップS106において、ECU50は、第1のモータジェネレータMG1の角加速度dωg/dtを式(6)に代入することによりイナーシャトルクTg_inrを算出する。ステップS107において、ECU50は、ステップS104で算出されたトルクTg1、ステップS106で算出されたイナーシャトルクTg_inrを式(5)に代入することにより、トルクTg2を算出する。ステップS108において、ECU50は、ステップS107で算出されたトルクTg2を第1のモータジェネレータMG1のモータトルクTgとした後、ステップS110の処理へ進む。このようにすることで、ドグクラッチ5の係合時に、回転部53bの回転数ωgを目標回転数Ndogに正確に収束させることが可能なモータトルクTg(即ち、トルクTg2)を求めることができ、オーバーシュートするのを抑えることができる。
【0055】
ステップS110において、ECU50は、第1のモータジェネレータMG1に対し、制御信号を供給することにより、ステップS108又はS109の処理で設定されたモータトルクTgを出力させる。
【0056】
ステップS111において、ECU50は、モータトルクTgを用いて、トルクTgの変化による影響を考慮した、エンジン1により出力軸3に伝達される伝達トルクTepを式(9)で算出する。ECU50は、モータトルクTgをトルクTg1とした場合には、式(9)におけるモータトルクTgにトルクTg1を代入することとし、モータトルクTgをトルクTg2とした場合には、式(9)におけるモータトルクTgにトルクTg2を代入する。ECU50は、要求出力トルクTp、分力トルクTepを式(10)に代入することにより、第2のモータジェネレータMG2に出力させるモータトルクTmを算出する。なお、要求出力トルクTpは、アクセル開度などに基づいて求めることが可能である。
【0057】
ステップS112において、ECU50は、第2のモータジェネレータMG2に対し、制御信号を供給することにより、モータトルクTmを出力させる。このようにすることで、モータトルクTgを変化させた場合であっても、出力軸3に出力される出力トルクを要求出力トルクTpに一致させることができ、出力軸3に発生するショックを抑えることができる。
【0058】
ステップS113において、ECU50は、第1のモータジェネレータMG1の角加速度dωg/dtの大きさが第1の所定値よりも小さいか否かを判定し、小さいと判定した場合には(ステップS113:Yes)、ステップS114の処理へ進む。一方、ECU50は、角加速度dωg/dtの大きさが第1の所定値以上であると判定した場合には(ステップS113:No)、本制御処理をリターンする。ここで、第1の所定値は、角加速度dωg/dtの大きさがこの値よりも小さい場合には、ドグクラッチ5の回転部53bの角加速度が略0になるとみなせる値である。第1の所定値は、予め決められ、ROMなどに記録されている。
【0059】
ステップS114において、ECU50は、第1のモータジェネレータMG1の回転数ωの大きさが第2の所定値よりも小さいか否かを判定し、第2の所定値よりも小さくない、即ち、第2の所定値以上であると判定した場合には(ステップS114:No)、本制御処理をリターンする。一方、ECU50は、回転数ωの大きさが第2の所定値よりも小さいと判定した場合には(ステップS114:Yes)、アクチュエータ60を作動させて、回転部53bを固定部53aに係合し、クラッチをオン状態とした後(ステップS115)、本制御処理をリターンする。ここで、第2の所定値とは、例えば、目標回転数Ngであり、ROMなどに記録されている。
【0060】
以上に述べたことから分かるように、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、ECU50は、エンジン1及び第1のモータジェネレータMG1の慣性質量Ie、Igと、第1のモータジェネレータMG1の回転数ωgと、に基づいて、第1のモータジェネレータMG1のモータ軸のイナーシャトルクTg_inrを算出し、トルクTg1を当該イナーシャトルクTg_inrで補正してから第1のモータジェネレータMG1に出力させる。このようにすることで、ドグクラッチ5を係合させるのに正確なモータトルクTgを算出することができ、オーバーシュートやハンチングの発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を示す図である。
【図2】モータジェネレータ及び動力分割機構の構成を示す図である。
【図3】ドグクラッチの構造を示す図である。
【図4】動力分配機構の共線図を示す図である。
【図5】ドグクラッチの回転部の回転数、第1のモータジェネレータのトルク、ドグクラッチの作動状況の夫々について、時間に対する変化を示すグラフである。
【図6】本実施形態に係る回転位相同期制御処理を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態に係る回転位相同期制御処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
MG1、MG2 モータジェネレータ
1 エンジン
3 出力軸
5 ドグクラッチ
7 ブレーキ部
20 動力分配機構
55 ドグ歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータジェネレータと、前記モータジェネレータにより回転制御される第1の要素と、前記第1の要素と係合する第2の要素と、を有するハイブリッド車両に適用され、所定のトルクを前記モータジェネレータに出力させることにより、前記第1の要素と前記第2の要素の回転位相を同期させる制御手段を有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記制御手段は、前記エンジン及び前記モータジェネレータの慣性質量と、前記モータジェネレータの回転数と、に基づいて、前記モータジェネレータのモータ軸のイナーシャトルクを算出し、前記所定のトルクを前記イナーシャトルクで補正してから前記モータジェネレータに出力させることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記所定のトルクに基づいて、前記エンジンより出力軸に伝達される伝達トルクを算出し、算出された前記伝達トルクに基づいて、前記出力軸に出力される出力トルクを制御する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−143360(P2009−143360A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322134(P2007−322134)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】