説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】機械式変速機構のアップシフトを実行する際に、アップシフト全体の目標エネルギ収支への収束と変速ショックの抑制とを両立させる。
【解決手段】自動変速機18のアップシフトに際して、トルク相中では、第1電動機MG1によりエンジン回転速度Nを上昇させることでエンジンパワーPが増大させられてトルク相補償制御が実行され、イナーシャ相中では、トルク相補償時エネルギ収支Wtと変速時目標エネルギ収支Wsとの差分エネルギΔWが、各回転要素RE1,RE2,RE3における各変速進行度が同一となるように変速制御を行って充足させられることで、アップシフト時のエネルギ収支Wsが制御されるので、トルク相補償の為のエンジントルクTeの増大を実行し難いような走行状況においても、トルク相中の変速機出力トルクTOUTの落ち込みが抑制され、アップシフト時のエネルギ収支Wsが目標値へ制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動機構を有する電気式変速機構と摩擦係合装置の係合作動により複数の変速段が選択的に成立させられる機械式変速機構とを直列に備えるハイブリッド車両の制御装置に係り、特に、機械式変速機構をアップシフトする際の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンが動力伝達可能に連結された第1回転要素と差動用電動機が動力伝達可能に連結された第2回転要素と走行用電動機が動力伝達可能に連結された出力回転部材である第3回転要素との3つの回転要素を有する差動機構を備えてその差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、その電気式変速機構の出力回転部材と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成すると共に摩擦係合装置の係合と解放とにより変速が実行されて複数の変速段が選択的に成立させられる機械式変速機構とを有する車両用動力伝達装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド駆動装置がそれである。
【0003】
一方で、摩擦係合装置の掴み替えにより変速が進行させられる前記機械式変速機構では、アップシフト中のトルク相にて出力トルク(駆動トルク)の落ち込みが発生することも良く知られている。このようなトルク相での落ち込みは、変速ショック等の変速フィーリングの悪化に繋がるので、この機械式変速機構の出力トルクの落ち込みを抑制する所謂トルク相補償制御が種々提案されている。例えば、特許文献1には、機械式変速機構の変速中のトルク相においてエンジントルクを増大させたり、走行用電動機の力行トルクを増大(出力)させたりして、トルク相中の機械式変速機構の出力トルクの変化(低下)を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−9657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アクセル全開(例えばその時点でのエンジン回転速度において既に最大のエンジントルクを発生する領域にてエンジンが作動させられているとき)での車両走行中におけるアップシフトである為にエンジントルクを更に増大させることが難しいような車両状況や、アップシフト全体におけるエネルギ収支を考慮しなくてはいけない為に走行用電動機の力行トルクを増大(出力)させることが難しいような車両状況などでは、前記トルク相補償制御を適切に実行できない可能性がある。尚、このような課題は未公知であり、機械式変速機構のアップシフトを実行する過程で、アップシフト全体におけるエネルギ収支を目標値に収束させつつ、エンジントルクを増大し難い走行状況においても、電気式変速機構における差動作用を利用して前記トルク相補償制御を適切に実行して変速ショックを抑制することについて未だ提案されていない。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、機械式変速機構のアップシフトを実行する際に、アップシフト全体におけるエネルギ収支の目標値への収束と変速ショックの抑制とを両立させることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する為の第1の発明の要旨とするところは、(a) エンジンが動力伝達可能に連結された第1回転要素と差動用電動機が動力伝達可能に連結された第2回転要素と走行用電動機が動力伝達可能に連結された出力回転部材である第3回転要素との3つの回転要素を有する差動機構を備えてその差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、その電気式変速機構の出力回転部材と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成すると共に摩擦係合装置の係合と解放とにより変速が実行されて複数の変速段が選択的に成立させられる機械式変速機構とを有する車両用動力伝達装置を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、(b) 前記機械式変速機構のアップシフトに際して、トルク相中では、前記差動用電動機によりエンジン回転数を上昇させることでエンジンパワーを増大させて、前記機械式変速機構の出力トルクの落ち込みを抑制するトルク相補償制御を実行し、イナーシャ相中では、前記トルク相補償制御において消費或いは蓄電された電力量と、前記アップシフト中において消費或いは蓄電する目標の電力量との差分エネルギを、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素における各変速進行度が同一となるように変速制御を行って充足させることで、前記アップシフト時のエネルギ収支を制御することにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記機械式変速機構のアップシフトに際して、トルク相中では、前記差動用電動機によりエンジン回転数を上昇させることでエンジンパワーが増大させられて、前記機械式変速機構の出力トルクの落ち込みを抑制するトルク相補償制御が実行され、イナーシャ相中では、前記トルク相補償制御において消費或いは蓄電された電力量と、前記アップシフト中において消費或いは蓄電する目標の電力量との差分エネルギが、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素における各変速進行度が同一となるように変速制御を行って充足させられることで、前記アップシフト時のエネルギ収支が制御されるので、トルク相中での機械式変速機構の出力トルクの落ち込みを抑制するトルク相補償の為のエンジントルクの増大を実行し難いような走行状況においても、エンジンパワーを増大させることで、すなわち機械式変速機構を介して駆動輪側へ伝達されるパワーを増大させることで、回転変化を伴わないトルク相中ではトルクアップされることとなり、結果的に機械式変速機構の出力トルクの落ち込みを抑制することができる。また、トルク相補償制御において消費或いは蓄電された電力量をイナーシャ相中で相殺或いは利用することでアップシフト時のエネルギ収支すなわちアップシフト全体でのトータル充放電収支(充放電収支の積分値)を目標値へ制御することができる。よって、機械式変速機構のアップシフトを実行する際に、アップシフト全体におけるエネルギ収支の目標値への収束と変速ショックの抑制とを両立させることができる。
【0009】
ここで、第2の発明は、前記第1の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記トルク相中では、前記機械式変速機構の出力トルクの落ち込み分とその機械式変速機構の出力回転数とに基づく出力パワーの増大分の一部乃至全部を、エンジントルクとエンジン回転数の変化分とに基づくエンジンパワーの増大分にて補償する為のエンジン回転数を目標値として、そのエンジン回転数を上昇させることにある。このようにすれば、トルク相中においてエンジン回転数を上昇させてエンジンパワーを増大させることによるトルク相補償制御が適切に実行される。
【0010】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素における各変速進行度が同一となるように変速制御を行うことは、その第1回転要素、その第2回転要素、及びその第3回転要素の変速後の各目標回転数と現時点の各実回転数との各差分値をそれぞれ算出し、その回転要素の各回転数時間変化率の相互間の比が、その回転要素の各差分値の相互間の比と等しくなるように制御するものである。このようにすれば、その各回転要素における各変速進行度が同一となるように変速制御することが適切に実行され、アップシフト全体におけるエネルギ収支の目標値への収束と変速ショックの抑制とを確実に両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用されるハイブリッド車両を説明する図である。
【図2】車両用動力伝達装置に備えられた動力分配機構における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
【図3】車両用動力伝達装置に備えられた自動変速機を構成している遊星歯車装置についての各回転要素の相互関係を表す共線図である。
【図4】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】エンジンの動作点の移動及び自動変速機の変速制御を同時に行う制御について説明する図である。
【図6】エンジンの動作点の移動及び有段変速部の変速制御を同時に行う制御の一例を示すタイムチャートである。
【図7】アクセル開度が略一定とされた走行中に、自動変速機のアップシフトを実行する場合を説明する図である。
【図8】電子制御装置の制御作動の要部すなわち自動変速機のアップシフトを実行する際にアップシフト全体における変速時目標エネルギ収支への収束と変速ショックの抑制とを両立させる為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図9】図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、好適には、前記機械式変速機構は、例えば1組或いは複数組の遊星歯車装置の回転部材が摩擦係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進2段、前進3段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式多段変速機により構成される。この摩擦係合装置としては、油圧アクチュエータによって係合させられる多板式、単板式のクラッチやブレーキ、或いはベルト式のブレーキ等の油圧式摩擦係合装置が広く用いられる。この油圧式摩擦係合装置を係合作動させる為の作動油を供給するオイルポンプは、例えば走行用駆動力源であるエンジンにより回転駆動されて作動油を吐出するものでも良いが、エンジンとは別に配設された専用の電動モータなどで回転駆動されるものでも良い。
【0013】
また、好適には、上記油圧式摩擦係合装置を含む油圧制御回路は、例えば電磁弁装置としてのソレノイドバルブの出力油圧を直接的に油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)にそれぞれ供給することが応答性の点で望ましいが、そのソレノイドバルブの出力油圧をパイロット油圧として用いることによりシフトコントロールバルブ(変速制御弁)を制御して、そのコントロールバルブから油圧アクチュエータに作動油を供給するように構成することもできる。また、上記ソレノイドバルブは、例えば複数の油圧式摩擦係合装置の各々に対応して1つずつ設けられるが、同時に係合したり係合、解放制御したりすることがない複数の油圧式摩擦係合装置が存在する場合には、それ等に共通のソレノイドバルブを設けることもできるなど、種々の態様が可能である。
【0014】
また、好適には、前記差動機構はシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、前記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリアであり、前記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0015】
また、好適には、前記車両用動力伝達装置の車両に対する搭載姿勢は、駆動装置の軸線が車両の幅方向となるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などの横置き型でも、駆動装置の軸線が車両の前後方向となるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両などの縦置き型でも良い。
【0016】
また、好適には、前記エンジンと前記差動機構とは作動的に連結されればよく、例えばエンジンと差動機構との間には、脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)、直結クラッチ、ダンパー付直結クラッチ、或いは流体伝動装置などが介在させられるものであってもよいが、エンジンと差動機構とが常時連結されたものであってもよい。また、流体伝動装置としては、ロックアップクラッチ付トルクコンバータやフルードカップリングなどが用いられる。
【0017】
また、好適には、前記エンジンとしては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関が広く用いられる。さらに、補助的な走行用の駆動力源として、電動機等がこのエンジンに加えて用いられても良い。
【0018】
尚、本明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。また、本明細書では、「回転数」とは、「単位時間当たりの回転数」すなわち「回転速度(rpm)」を意味している。例えば、エンジンの回転数はエンジンの回転速度を、回転数時間変化率は回転速度時間変化率をそれぞれ意味している。
【0019】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両(以下、車両)10を説明する図である。この図1に示す車両10は、主動力源としてのエンジン12から出力される動力を差動用電動機としての第1電動機MG1と出力回転部材としての伝達部材14とに分配する動力分配機構16と、伝達部材14に作動的に(動力伝達可能に)連結された走行用電動機としての第2電動機MG2と、動力分配機構16(伝達部材14)と駆動輪22との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構としての自動変速機18とを有する車両用動力伝達装置(以下、動力伝達装置)11を備えて構成されている。この動力伝達装置11は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)車両等に好適に用いられるものであって、エンジン12や第2電動機MG2から出力されるトルクが伝達部材14に伝達され、その伝達部材14から自動変速機18や差動歯車装置20を介して左右一対の後輪(駆動輪)22にトルクが伝達されるようになっている。尚、動力伝達装置11は、その中心線に対して対称的に構成されているため、図1ではそれらの半分を省略して示している。
【0021】
また、車両10には、例えば動力伝達装置11の各種制御を実行する制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。この電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン12の出力制御、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の回生制御を含む各出力制御、自動変速機18の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用電子制御装置(E−ECU)、モータジェネレータ制御用電子制御装置(MG−ECU)、変速制御用電子制御装置(T−ECU)等に分けて構成される。
【0022】
エンジン12は、車両10の主動力源であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等、所定の燃料を燃焼させて動力を出力させる公知の内燃機関である。このエンジン12は、例えば前記エンジン制御用電子制御装置(E−ECU)によってスロットル開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が電気的に制御されることにより、エンジン12の出力トルク(エンジントルク)Teが制御されるようになっている。
【0023】
第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、駆動トルクを発生させる電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能のうち少なくとも一方を備えた例えば同期電動機であって、好適には、発動機又は発電機として選択的に作動させられるモータジェネレータである。これら第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、例えばインバータ24を介してバッテリやコンデンサ等の蓄電装置26に接続されており、前記モータジェネレータ制御用電子制御装置(MG−ECU)によってそのインバータ24が制御されることにより、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の各々の出力トルク或いは回生トルク(MG1トルクTg、MG2トルクTm)が制御されるようになっている。
【0024】
動力分配機構16は、サンギヤS0と、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0と、それらサンギヤS0及びリングギヤR0に噛み合うピニオンギヤP0を自転且つ公転自在に支持するキャリアCA0とを三つの回転要素(回転部材)として備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されており、差動作用を生じる差動機構として機能する。この遊星歯車装置は、エンジン12及び自動変速機18と同心に設けられている。また、動力伝達装置11において、エンジン12のクランク軸28は、ダンパ30を介して動力分配機構16のキャリアCA0に連結されている。これに対してサンギヤS0には第1電動機MG1が連結され、リングギヤR0には伝達部材14が連結されている。動力分配機構16において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
【0025】
動力分配機構16における各回転要素の回転速度の相対的関係は、図2の共線図により示される。この共線図において、縦軸S(g軸)、縦軸CA(e軸)、及び縦軸R(m軸)は、サンギヤS0の回転速度、キャリアCA0の回転速度、及びリングギヤR0の回転速度をそれぞれ表す軸であり、縦軸S、縦軸CA、及び縦軸Rの相互の間隔は、縦軸Sと縦軸CAとの間隔を1としたとき、縦軸CAと縦軸Rとの間隔がρ(すなわち動力分配機構16のギヤ比(歯車比)ρ=サンギヤS0の歯数Zs/リングギヤR0の歯数Zr)となるように設定されたものである。斯かる動力分配機構16において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTeに対して、第1電動機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、出力要素となっているリングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクT(=Te/(1+ρ)=−(1/ρ)×Tg)が現れる。このとき、正回転にて負トルクを発生する第1電動機MG1は発電機として機能する。すなわち、エンジン12が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と第1電動機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と第2電動機MG2が動力伝達可能に連結された出力回転部材である第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する動力分配機構16を備えてその第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより動力分配機構16の差動状態が制御される電気式変速機構(電気式差動機構)としての電気式無段変速機17(図1参照)が構成される。つまり、エンジン12が動力伝達可能に連結された差動機構としての動力分配機構16と動力分配機構16に動力伝達可能に連結された差動用電動機としての第1電動機MG1とを有して、第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより動力分配機構16の差動状態が制御される電気式無段変速機17が構成される。従って、電気式無段変速機17は、その変速比γ0(=エンジン12の回転速度N/伝達部材14の回転速度N14)を連続的に変化させて電気的な無段変速機として作動させられる。そして、エンジン12の動力は、この電気式無段変速機17を介して伝達部材14に伝達される。
【0026】
また、この電気式無段変速機17では、動力分配機構16の差動状態が制御されることにより、リングギヤR0の回転速度(伝達部材14の回転速度N14)が一定であるとき、第1電動機MG1の回転速度(以下、第1電動機回転速度)NMG1を上昇或いは下降させることで、エンジン12の回転速度(以下、エンジン回転速度)Nを連続的に(無段階に)変化させることができる。図2の破線は第1電動機回転速度NMG1を実線に示す値から下げたときにエンジン回転速度Nが低下する状態を示している。また、第1電動機MG1を制御することで動力分配機構16が無段変速機として機能させられることにより、例えば燃費が最もよいエンジン12の動作点(例えばエンジン回転速度NとエンジントルクTeとで定められるエンジン12の運転点;以下、エンジン動作点という)に沿ってエンジン12を作動させることができる。また、このとき、車両10では、例えば第1電動機MG1により発電された電気エネルギをインバータ24を通して蓄電装置26や第2電動機MG2へ供給するので、エンジン12の動力の主要部はエンジン直達トルクTとして機械的に伝達部材14へ伝達される。一方で、エンジン12の動力の一部は第1電動機MG1の発電の為に消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ24を通してその電気エネルギの一部乃至全部が蓄電装置26や第2電動機MG2へ供給され、第1電動機MG1の発電電力や蓄電装置の電力等の電気エネルギによりその第2電動機MG2から出力される駆動力が伝達部材14へ伝達される。この発電に係る第1電動機MG1による電気エネルギの発生から駆動に係る第2電動機MG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン12の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。この種のハイブリッド形式は、機械分配式或いはスプリットタイプと称される。
【0027】
図1に戻って、自動変速機18は、電気式無段変速機17(電気式無段変速機17の出力回転部材である伝達部材14)と駆動輪22との間の動力伝達経路に直列に設けられたものであり、例えば回転要素が相互に連結された2つの遊星歯車装置31,32を主体として構成されている。すなわち、サンギヤS1、リングギヤR1、及びピニオンギヤP1を自転且つ公転自在に支持するキャリアCA1を三つの回転要素として備える公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車装置31と、サンギヤS2、リングギヤR2、及びピニオンギヤP2を自転且つ公転自在に支持するキャリアCA2を三つの回転要素として備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車装置32とを備え、キャリアCA1とリングギヤR2とが相互に連結されると共に、リングギヤR1とキャリアCA2とが相互に連結されている。また、サンギヤS2が伝達部材14に連結されると共に、リングギヤR1及びキャリアCA2が変速機出力軸19に連結されている。従って、サンギヤS2(つまり伝達部材14)は自動変速機18の入力回転部材として機能し、リングギヤR1及びキャリアCA2は自動変速機18の出力回転部材として機能する。
【0028】
また、自動変速機18には、自動変速機18においてそれぞれ変速比の異なる複数の変速段を選択的に成立させる為の複数の係合装置(係合要素)が設けられている。すなわち、自動変速機18には、サンギヤS1を選択的に固定する為にそのサンギヤS1と非回転部材であるハウジング33との間に設けられた第1ブレーキB1と、相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2を選択的に固定する為にそれらキャリアCA1及びリングギヤR2とハウジング33との間に設けられた第2ブレーキB2とが設けられている。これら第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2は摩擦力によって制動力を生じる所謂摩擦係合装置であって、好適には互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型の油圧式摩擦係合装置などにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結する為のものである。そして、これら第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を作動させる為の図示しない油圧制御回路から供給される作動油の油圧(係合圧)に応じて第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の各トルク容量すなわちクラッチトルク(係合トルク)Tb1及びTb2が連続的に変化するように構成されている。
【0029】
以上のように構成された自動変速機18では、第1ブレーキB1が係合させられると、自動変速機18の変速比γAT(=伝達部材14の回転速度N14/変速機出力軸19の回転速度NOUT)が「1」より大きい変速比γAThの高速段Hが達成される。また、第1ブレーキB1に替えて第2ブレーキB2が係合させられると、自動変速機18の変速比γATがその高速段Hの変速比γAThより大きい変速比γATlの低速段Lが達成される。このように、自動変速機18は、油圧式摩擦係合装置への作動油の給排を制御することにより変速段が成立させられる、すなわち油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより変速が実行されて複数の変速段が選択的に切り替えられる有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。例えば、公知の車両によく用いられる所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。上記変速段H及びLの間での変速は、車速や要求駆動力関連値(目標駆動力関連値)等の走行状態に基づいて実行される。より具体的には、前記変速制御用電子制御装置(T−ECU)によって、変速段を選択する為の変速線を有する予め求められて記憶された公知の関係(変速線図、変速マップ)から実際の走行状態に基づいて何れかの変速段を成立させられるようになっている。尚、前記要求駆動力関連値における駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するものであって、駆動輪22での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速機18の出力トルク(変速機出力トルク)TOUT、エンジントルクTe、車両加速度であってもよい。また、要求駆動力関連値は、例えばアクセル開度(或いはスロットル弁開度、吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)に基づいて決定される駆動力関連値の要求値(目標値)であるが、アクセル開度等がそのまま用いられても良い。
【0030】
図3は、自動変速機18を構成している遊星歯車装置31,32についての各回転要素の相互関係を表す為に4本の縦軸S2、縦軸R1,CA2、縦軸CA1,R2、及び縦軸S1を有する共線図を示している。これら縦軸S2、縦軸R1,CA2、縦軸CA1,R2、及び縦軸S1は、サンギヤS2の回転速度、相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度、相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、及びサンギヤS1の回転速度をそれぞれ示すものである。この共線図に示すように、自動変速機18では、第2ブレーキB2によってキャリアCA1及びリングギヤR2が固定されると、低速段Lが形成され、伝達部材14におけるトルク(m軸上のトルク)すなわち自動変速機18の入力トルク(変速機入力トルク)TATがそのときの変速比γATlに応じて増大されて変速機出力軸19に伝達される。これに替えて、第1ブレーキB1によって第1サンギヤS1が固定されると、低速段Lの変速比γATlよりも小さい変速比γAThを有する高速段Hが形成される。この高速段Hにおける変速比も「1」より大きいので、変速機入力トルクTATがその変速比γATlに応じて増大させられて変速機出力軸19に伝達される。尚、各変速段L、Hが定常的に形成されている状態では、変速機出力軸19に伝達されるトルクすなわち変速機出力トルクTOUTは、変速機入力トルクTATを各変速比に応じて増大させたトルクとなるが、自動変速機18の変速過渡状態では各ブレーキB1,B2でのトルク容量や回転速度変化に伴う慣性トルク等の影響を受けたトルクとなる。また、この変速機入力トルクTATは、機械的に伝達されるエンジン直達トルクT分と電気パスを介して伝達される電力により駆動されるMG2トルクTm分との合算トルクである。
【0031】
図1に戻り、電子制御装置50には、例えばアクセルペダル34の操作量であるアクセル操作量(アクセル開度)Accを検出する為のアクセル開度センサAS、ブレーキペダル36の操作を検出する為のブレーキセンサBS、シフトレバー38の操作位置(シフトポジション)PSHを検出する為の操作位置センサSS、作動油の温度(作動油温)THOILを検出する為の油温センサTS、車速Vに対応する変速機出力軸19の回転速度(以下、変速機出力回転速度)NOUTを検出する為の出力回転速度センサNOS、エンジン回転速度Nを検出する為のエンジン回転速度センサNES、第1電動機回転速度NMG1を検出する為の第1電動機回転速度センサNM1S、第2電動機MG2の回転速度(以下、第2電動機回転速度)NMG2を検出する為の第2電動機回転速度センサNM2S、蓄電装置26の温度(蓄電装置温度)THbatや充電電流又は放電電流(充放電電流或いは入出力電流)Icdや電圧(蓄電装置電圧)Vbatを検出する為のバッテリ状態検出センサBATS等からの検出信号が供給されるようになっている。尚、上記蓄電装置温度THbat、充放電電流Icd、及び蓄電装置電圧Vbatに基づいて蓄電装置26の充電容量(充電状態、充電レベル)SOCが算出される。
【0032】
図4は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、変速制御部すなわち変速制御手段52は、電気式無段変速機17及び自動変速機18による変速を制御する。すなわち、変速制御手段52は、予め定められた関係から車両10の走行状態例えば車速V及びアクセル操作量Acc等に応じて第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を制御することにより電気式無段変速機17の変速比γ0を無段階に変化させる無段変速制御を行う。また、変速制御手段52は、予め定められた公知の関係(変速線図、変速マップ)から車両10の走行状態例えば車速V及びアクセル操作量Acc等に応じて自動変速機18において高速段H又は低速段Lを選択的に成立させる有段変速制御を行う。例えば、変速制御手段52は、低速段Lから高速段Hへの変速動作を判断した場合、不図示の油圧制御回路を介して第1ブレーキB1を係合させると共に第2ブレーキB2を解放させるようにそれらブレーキB1,B2の油圧アクチュエータを制御する。また、変速制御手段52は、高速段Hから低速段Lへの変速動作を判断した場合、油圧制御回路を介して第1ブレーキB1を解放させると共に第2ブレーキB2を係合させるようにそれらブレーキB1,B2の油圧アクチュエータを制御する。
【0033】
ここで、本実施例の変速制御手段52は、必要に応じて電気式無段変速機17及び自動変速機18による変速制御を同時に実行する。すなわち、変速制御手段52は、予め定められた関係から車両10の走行状態に応じて、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を制御することにより電気式無段変速機17の変速比γ0を無段階に変化させる無段変速制御及び自動変速機18において高速段H又は低速段Lを選択的に成立させる有段変速制御を同時に(併行して)実行する。つまり、変速制御手段52は、エンジン動作点の移動及び自動変速機18の変速制御を同時に実行する。そのようなエンジン動作点の移動及び自動変速機18の変速制御を同時に行う制御に関して、変速制御手段52は、回転勾配比算出部すなわち回転勾配比算出手段54、エンジントルク値取得部すなわちエンジントルク値取得手段56、クラッチトルク値取得部すなわちクラッチトルク値取得手段58、パワー収支目標値取得部すなわちパワー収支目標値取得手段60、回転勾配目標値算出部すなわち回転勾配目標値算出手段62、及びMG必要トルク算出部すなわちMG必要トルク算出手段64を含んでいる。
【0034】
図5に示すように、動力伝達装置11におけるエンジン動作点の移動に際しては、予め定められたエンジン12の燃費効率(最適燃費率)に基づいてそのエンジン12から必要なパワーが出力されるようにエンジントルクTe及びエンジン回転速度Nが変更される。この際、例えば比較的高いエンジントルクTeを必要とする走行条件において、燃費等の要請からエンジン動作点を管理する必要性が大きくなり、エンジン動作点を成り行きにできない状態において、好適な制御を実現することが望まれる。更に、比較的要求トルクが高く且つ回転方向のエンジン動作点移動を伴いながら自動変速機18における変速を行うといったような不安定な状態における変速制御では、動力の辻褄を合わせ難いという問題がある。すなわち、比較的高いエンジントルクTeを必要とする走行条件においてエンジン動作点の移動及び自動変速機18の変速制御が同時に行われる場合、比較的大きな動力を伝達しながらの変速になるので、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の動力もそれに応じて大きくなり、単にエンジントルクアップによる発電量で辻褄を合わせようとするとエンジン動作点がトルク方向に大きくずれることになる。更に、そのエンジン動作点のずれは、パワー収支(充放電収支)の動きに応じて成り行き任せで動いてしまうおそれがある。従って、このような変速においては、電気式無段変速機17及び自動変速機18から成る変速機構(動力伝達装置11)全体でのエネルギ収支等を予め見込んで、全体でのバランスを考えた変速制御を行うことが望ましい。本実施例の変速制御手段52は、回転勾配比算出手段54、エンジントルク値取得手段56、クラッチトルク値取得手段58、パワー収支目標値取得手段60、回転勾配目標値算出手段62、及びMG必要トルク算出手段64を介して斯かる変速制御を実現する。尚、図5における同時変速制御は、例えばアクセル踏増しによる自動変速機18のキックダウンと、アクセル踏増しに伴う目標パワーの増大に対応してエンジンパワーを引き上げる為のエンジン最適燃費線(燃費最適線)に沿ったエンジン動作点の移動とが並行して実行される変速制御が想定される。
【0035】
図6は、変速制御手段52によるエンジン動作点の移動及び自動変速機18の変速制御を同時に行う過程(例えばイナーシャ相中の回転変化を伴う変速過渡期)で実行する本実施例の第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3の回転速度制御の一例を示すタイムチャートであり、自動変速機18の変速段が高速段Hから低速段Lへ切り替えられるダウン変速制御に対応する。尚、この図6に示す第1ブレーキB1のクラッチトルク(係合トルク)Tb1及び第2ブレーキB2のクラッチトルク(係合トルク)Tb2は、m軸上に換算した値である。
【0036】
図6に示す制御においては、先ず、時点t1において、エンジン動作点の移動及び自動変速機18の変速制御を同時に行う制御の開始が判定される。そして、変速制御手段52による変速制御が実行され、エンジントルクTeが漸増させられると共にMG1トルクTg及びMG2トルクTmが所定値(図6においては略零)まで増加させられる。また、解放側係合装置すなわち第1ブレーキB1のクラッチトルクTb1が所定値まで減少させられてその所定値にて低圧待機させられ、その後零に向かって漸減させられる。また、第1ブレーキB1のクラッチトルクTb1が零に向かって漸減させられるときに合わせて、係合側係合装置すなわち第2ブレーキB2のクラッチトルクTb2の増加が開始される。すなわち、第2ブレーキB2の係合が開始される。また、このようなエンジン12、第1電動機MG1、第2電動機MG2、及び第1ブレーキB1の制御に伴い、第2回転要素RE2であるサンギヤS0(MG1)に対応するm軸、第1回転要素RE1であるキャリアC0(エンジン12)に対応するe軸、及び第3回転要素RE3であるリングギヤR0(MG2)に対応するg軸の回転速度が漸増させられる。
【0037】
続いて、第1ブレーキB1のクラッチトルクTb1が零まで漸減させられると共に、第2ブレーキB2のクラッチトルクTb2が所定値まで増加させられる。また、MG1トルクTgが所定値まで減少させられると共に、MG2トルクTmが所定値まで増加させられる。このような第1電動機MG1、第2電動機MG2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の制御に伴い、m軸、e軸、及びg軸の回転速度がそれぞれの目標値(変速後の目標回転速度)に到達する。そして、第2ブレーキB2のクラッチトルクTb2が所定値まで減少させられて変速後の目標クラッチトルク値とされる。また、MG1トルクTgが所定値まで増加させられると共に、MG2トルクTmが所定値まで低下させられて共に変速後の目標トルクとされ、時点t2にて一連の同時変速制御が終了させられる。尚、図6に示す制御においては、m軸、e軸、及びg軸の各回転速度が吹き上がった後に目標値(変速後の目標回転速度)に収束させられる。また、図6に示す制御においてはパワー収支値の目標値を例えば零としているが、実際の制御においては多少のずれを生じるため、狙いである零を中心として若干パワー収支が変動している。
【0038】
図6に示すように、自動変速機18において高速段Hから低速段Lへの変速が行われる場合には、第1ブレーキB1が解放されると共に第2ブレーキB2が係合される。また、低速段Lから高速段Hへの変速が行われる場合には、第2ブレーキB2が解放されると共に第1ブレーキB1が係合される。すなわち、自動変速機18においては、高速段Hから低速段Lへの変速、及び低速段Lから高速段Hへの変速の何れにおいても、解放側係合装置を解放させると共に係合側係合装置を係合させる所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が行われる。このようなクラッチ・ツウ・クラッチ変速においては、変速ショックを抑制する為、係合装置の掴み替えは各回転要素の回転速度が同期回転速度(目標回転速度)を過ぎているタイミングで実行される場合が考えられ、図6に示す制御においてもそのようになっている。
【0039】
以下、図6に示す変速制御について詳しく説明する。変速制御手段52による変速制御において、回転勾配比算出手段54は、動力分配機構16における3つの回転要素すなわち第2回転要素RE2であるサンギヤS0(MG1)、第1回転要素RE1であるキャリアC0(エンジン12)、及び第3回転要素RE3であるリングギヤR0(MG2)の各回転勾配の相互間の比(回転勾配比)、すなわち第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3それぞれの実際の回転数時間変化率すなわち回転速度時間変化率dω/dt(図面乃至数式においては時間微分すなわち時間変化率をドットで示している、以下の説明において同じ)の相互間の比(回転速度時間変化率比)を算出する。具体的には、回転勾配比算出手段54は、エンジン動作点の移動及び自動変速機18の変速制御を同時に行う場合において、変速後の第2回転要素RE2の目標回転速度(同期回転速度)すなわち第1電動機MG1の目標回転速度ωgaimと現時点における実際の回転速度(以下、実回転速度)ωgとの差分値Δωg(=ωgaim−ωg)、変速後の第1回転要素RE1の目標回転速度(同期回転速度)すなわちエンジン12の目標回転速度ωeaimと現時点における実回転速度ωeとの差分値Δωe(=ωeaim−ωe)、及び変速後の第3回転要素RE3の目標回転速度(同期回転速度)すなわち第2電動機MG2の目標回転速度ωmaimと現時点における実回転速度ωmとの差分値Δωm(=ωmaim−ωm)を算出する。そして、それら各差分値Δωg,Δωe,Δωmの相互間の比すなわち差分値比Δωg:Δωe:Δωmを算出する。また、回転勾配比算出手段54は、第2回転要素RE2の回転勾配としての回転速度時間変化率dωg/dt、第1回転要素RE1の回転速度時間変化率dωe/dt、及び第3回転要素RE3の回転速度時間変化率dωm/dtを算出し、それら各回転速度時間変化率dωg/dt,dωe/dt,dωm/dtの相互間の比すなわち回転速度時間変化率比dωg/dt:dωe/dt:dωm/dtを算出する。
【0040】
エンジントルク値取得手段56は、現時点におけるエンジントルクTeを取得する。例えば、エンジントルク値取得手段56は、予め定められた公知の関係(エンジントルクマップ)から、実際のエンジン回転速度N及び図示しない電子スロットル弁のスロットル弁開度θTH等の値に基づいてエンジントルクTeを算出する。尚、例えばトルクセンサ等により実際のエンジントルクTeを検出するものであっても良い。
【0041】
クラッチトルク値取得手段58は、自動変速機18に備えられた係合装置すなわち第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の現時点における各クラッチトルクTb1,Tb2を取得する。例えば、予め定められた公知の関係(係合トルク特性)から、現時点における第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の各油圧指令値(例えば図示しない油圧制御回路における電磁制御弁の出力圧指令値)に基づいて各クラッチトルク値Tb1,Tb2を算出する。そして、クラッチトルク値取得手段58は、各クラッチトルクTb1,Tb2の合算値としてm軸上に換算したクラッチトルク値Tbを取得する。尚、例えば上記油圧制御回路に備えられた油圧センサにより第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2にそれぞれ供給される作動油の実際の油圧を検出するものであっても良い。
【0042】
パワー収支目標値取得手段60は、第1電動機MG1及び第2電動機MG2に係るパワー収支目標値(すなわち蓄電装置26の充電電力値(バッテリ充電電力値))ΔPaimを取得する。例えば、予め定められた関係から、車両10の走行状態及び動力伝達装置11に備えられた蓄電装置26の充電容量SOC等に基づいてパワー収支目標値ΔPaimを算出する。このパワー収支目標値ΔPaimは、例えば−30[kW]〜30[kW]の範囲内の値をとるものであり、好適には零(±0[kW])であるが、蓄電装置26に対する充電要求があった場合には5[kW]程度、放電要求があった場合には−5[kW]程度といったように、システムの充放電状況に応じて適宜定められる。
【0043】
回転勾配目標値算出手段62は、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3の各回転速度時間変化率dω/dtの目標値を算出する。すなわち、回転勾配目標値算出手段62は、サンギヤS0(MG1)の回転速度時間変化率dωg/dt、キャリアC0(エンジン12)の回転速度時間変化率dωe/dt、及びリングギヤR0(MG2)の回転速度時間変化率dωm/dtそれぞれの制御の狙い値となる各目標値を算出する。具体的には、回転勾配目標値算出手段62は、エンジン動作点の移動及び自動変速機18の変速制御を同時に行う場合において、変速中の少なくとも一定期間、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3の各回転速度変化勾配の相互間の比が、現時点における実回転速度から目標回転速度までの各差分値(回転速度変化量)の相互間の比、若しくはそれに準じて算出される値と等しくなるように制御する。すなわち、回転勾配比算出手段54により算出される回転要素RE1,RE2,RE3における差分値比Δωg:Δωe:Δωmと、回転要素RE1,RE2,RE3における回転速度時間変化率比dωg/dt:dωe/dt:dωm/dtとが等しくなるように、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3の各回転速度時間変化率dω/dtの目標値を算出する。
【0044】
より具体的には、回転勾配目標値算出手段62は、回転要素RE1,RE2,RE3における差分値比が次式(1)で表される場合、回転要素RE1,RE2,RE3における回転速度時間変化率比が次式(2)を満たすように制御する。すなわち、回転勾配目標値算出手段62は、次式(3)を満たすように各回転要素RE1,RE2,RE3それぞれの回転速度時間変化率dω/dtの目標値を算出する。
【0045】
【数1】

【数2】

【数3】

【0046】
加えて、回転勾配目標値算出手段62は、上記式(1)−(3)に基づく回転速度時間変化率dω/dtの目標値の算出は、変速中のエンジン12の出力パワー(エンジンパワー)、クラッチ伝達パワー(クラッチパワー)、狙いとするパワー収支値、及び慣性仕事率の釣合計算に基づいて行う。すなわち、回転勾配目標値算出手段62は、予め定められた関係から、回転要素RE1,RE2,RE3における差分値比Δωg:Δωe:Δωmに対応する(すなわちその比に等しい)回転要素RE1,RE2,RE3における回転速度時間変化率比dωg/dt:dωe/dt:dωm/dt、変速中におけるエンジンパワー、自動変速機18に備えられた係合装置(すなわち第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2)のクラッチパワーすなわちブレーキB1,B2による駆動伝達パワー、第1電動機MG1及び第2電動機MG2に係るパワー収支値の目標値ΔPaim、及び慣性仕事率に基づく釣合計算を行うことにより、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3それぞれの回転速度時間変化率dω/dtの目標値を算出する。
【0047】
回転勾配目標値算出手段62は、例えば前記式(2)を満たすと共に次式(4)を満たす第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3それぞれの回転速度時間変化率dω/dtの目標値を算出する。この式(4)の下段左辺において、第1項に係るTe・ωeはエンジンパワーに、第2項に係るTb・ωmはブレーキB1,B2による駆動伝達パワー(換言すれば駆動系が消費するパワー)に、第3項に係るIg・dωg/dt・ωg+Ie・dωe/dt・ωe+Im・dωm/dt・ωmは各回転要素RE1,RE2,RE3のイナーシャの引き上げに使用されるパワーにそれぞれ対応する。尚、上記クラッチトルクTbは、例えば自動変速機18の変速に係る係合装置のクラッチトルクに対応するものであり、m軸上に換算した変速過渡中の第1ブレーキB1のクラッチトルクTb1と第2ブレーキB2のクラッチトルクTb2との合算トルク(=Tb1+Tb2)である。従って、ブレーキB1,B2による駆動伝達パワーは、ブレーキB1,B2のクラッチトルク(上記合算トルク)により自動変速機18において駆動輪22側へ伝達されるクラッチパワーであって、自動変速機18が駆動輪22側へ伝達する出力パワーすなわち自動変速機18を介して駆動輪22側へ伝達されるパワーに相当する自動変速機18における駆動伝達パワーである。
【0048】
【数4】

【0049】
MG必要トルク算出手段64は、回転勾配目標値算出手段62により算出された第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3それぞれの回転速度時間変化率dω/dtの目標値を実現する第1電動機MG1及び第2電動機MG2のトルクを算出する。例えば、MG必要トルク算出手段64は、回転勾配目標値算出手段62により算出された第2回転要素(MG1)の回転速度時間変化率dωg/dtの目標値、第1回転要素(エンジン12)の回転速度時間変化率dωe/dtの目標値、第3回転要素(MG2)の回転速度時間変化率dωm/dtの目標値、エンジントルク値取得手段56により取得されたエンジントルク値Te、及びクラッチトルク値取得手段58により取得されたクラッチトルク値Tb(m軸上換算値)に対して、次式(5)に示す運動方程式を満たすMG1トルクTg及びMG2トルクTmを求める。また、変速制御手段52は、上述のようにして算出されたMG1トルクTg及びMG2トルクTmが実現されるように第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を制御する。
【0050】
【数5】

【0051】
以上に説明したように、変速制御手段52による変速制御においては、(a;回転勾配比算出手段54)回転要素RE1,RE2,RE3における差分値比Δωg:Δωe:Δωmを算出すると共に、回転要素RE1,RE2,RE3における回転速度時間変化率比dωg/dt:dωe/dt:dωm/dtを算出し、(b;エンジントルク値取得手段56)現時点におけるエンジントルク値Teを取得し、(c;クラッチトルク値取得手段58)第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2の現時点におけるクラッチトルク値Tbを取得し、(d;パワー収支目標値取得手段60)第1電動機MG1及び第2電動機MG2に係るパワー収支目標値ΔPaimを取得し、(e;回転勾配目標値算出手段62)上記(a)−(d)において得られた各値を用いて各回転要素の回転速度時間変化率dωg/dt、dωe/dt、dωm/dtの目標値を算出し、(f;MG必要トルク算出手段64)上記(e)において算出された各回転要素の回転速度時間変化率dω/dtの目標値を達成するMG1トルクTg及びMG2トルクTmを算出し、(g;変速制御手段52)上記(f)で算出されたMG1トルクTg及びMG2トルクTmを達成する作動指令を第1電動機MG1及び第2電動機MG2へ出力する。すなわち、上記(a)−(g)の一連の処理に対応するアルゴリズムにより第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3における各変速進行度(変化具合)を同一とするように、各回転要素の回転を制御する。
【0052】
尚、ここでは、自動変速機18のダウンシフトとエンジン動作点の移動とが並行して実行される変速制御に、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3における各変速進行度が同一となるように変速制御することを適用したが、自動変速機18のアップシフトとエンジン動作点の移動とが並行して実行される変速制御にも適用されることは言うまでもないことである。
【0053】
ここで、本実施例の車両10では、自動変速機18の入力回転部材(すなわち伝達部材14)の変化状態に拘束されることなくエンジン回転速度Nや第1電動機回転速度NMG1を任意に(自由に)制御することが可能である。従って、アクセル開度Accが略一定とされた走行中(例えば目標パワーが変化させられない走行中)に、動力伝達装置11全体の変速前後でエンジン動作点を固定したままでエンジンパワーを変化させることなく、車速V上昇に伴って自動変速機18をアップシフトさせる等パワー変速を実行することが考えられる。
【0054】
図7は、アクセル開度Accが略一定とされた走行中に、自動変速機18のアップシフト(例えばアクセル開度一定のパワーオンアップシフト)を実行する場合を説明する図である。図7において、実線で示すように、自動変速機18のアップシフトの進行に併せて、電気式無段変速機17の差動作用によりエンジン動作点を移動させないように第1電動機回転速度NMG1を制御して、等パワー変速を実行する。ところで、このような自動変速機18におけるクラッチツゥクラッチ変速のアップシフトにおいて、係合装置(ブレーキB1,B2)の掴み替えが行われるトルク相では、変速機出力トルクTOUT(すなわち動力伝達装置11の出力トルクでもあり、駆動トルクと同意)の落ち込みが発生し、変速ショック等の変速フィーリングの悪化を招く可能性がある。その為、そのアップシフト中のトルク相において、エンジントルクTeを増大させたり、第2電動機MG2の力行トルクを増大(出力)させたりして、そのトルク相中の変速機出力トルクTOUTの落ち込みを抑制する所謂トルク相補償制御を実行することが考えられる。しかしながら、アクセル開度Accが全開での車両走行中におけるアップシフトである為にエンジントルクTeを更に増大させることが難しいような車両状況や、アップシフト全体におけるエネルギ収支(すなわちパワー収支の積分値)を考慮しなくてはいけない為に第2電動機MG2の力行トルクを増大(出力)させることが難しいような車両状況などでは、前記トルク相補償制御を適切に実行できない可能性がある。これに対して、本実施例では、動力伝達装置11は、自動変速機18単体を備えるものではなく、電気式無段変速機17と自動変速機18とを直列に備えるものであり、自動変速機18の変速に伴う伝達部材14の変化に拘わらず、エンジン回転速度Nを自在に変化させられることに着目して、エンジントルクTeを増大し難い走行状況においても前記トルク相補償制御を適切に実行可能にすることを提案するものである。
【0055】
すなわち、本実施例の電子制御装置50は、自動変速機18のアップシフトに際して、トルク相中では、第1電動機MG1によりエンジン回転速度Nを上昇させることでエンジンパワーPを増大させて、変速機出力トルクTOUTの落ち込みを抑制するトルク相補償制御を実行し、イナーシャ相中では、前記トルク相補償制御において消費或いは蓄電された電力量(トルク相補償時エネルギ収支)Wtと、前記アップシフト中において消費或いは蓄電する目標の電力量(変速時目標エネルギ収支)Wsとの差分エネルギΔW(=Ws−Wt)を、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3における各変速進行度が同一となるように変速制御を行って充足させることで、前記アップシフト時のエネルギ収支Wsすなわちアップシフト全体でのトータルパワー収支(パワー収支の積分値)を制御する。
【0056】
つまり、自動変速機18のアップシフトにおけるトルク相中では、エンジン回転速度Nの上昇によりエンジンパワーPを増大させることで自動変速機18を介して駆動輪22側へ伝達されるパワーを増大させ、回転変化を伴わないトルク相中において、エンジントルクTeを増大させることなく結果的に変速機出力トルクTOUTの上昇をもたらしてトルク相補償制御を実行するのである。また、自動変速機18のアップシフトにおけるイナーシャ相中では、変速時目標エネルギ収支Wsとなるように、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3における各変速進行度が同一となるように変速制御することにおいて、トルク相補償時エネルギ収支Wtを考慮したパワー収支目標値ΔPaimを設定する。
【0057】
図7において、破線で示すように、自動変速機18のアップシフトにおけるトルク相中では、第1電動機MG1を用いて、エンジン回転速度Nを上昇させ、エンジントルクTeを増大させることなくエンジンパワーPが増大させられる。そして、自動変速機18のアップシフトにおけるイナーシャ相中では、その破線で示す状態から、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3における各変速進行度が同一となるように変速制御することが所望するパワー収支目標値ΔPaimにて実行される。
【0058】
より具体的には、図4に戻り、変速過程判定部すなわち変速過程判定手段66は、例えば自動変速機18におけるクラッチツゥクラッチ変速のアップシフトにおいて、トルク相中であるか否かを判定する。また、変速過程判定手段66は、例えば自動変速機18におけるクラッチツゥクラッチ変速のアップシフトにおいて、イナーシャ相中であるか否かを判定する。例えば、クラッチツゥクラッチ変速のアップシフト過渡中におけるイナーシャ相は、第2電動機回転速度NMG2が変速前同期回転速度(=NOUT×γATl(低速段Lのギヤ比))から変速後同期回転速度(=NOUT×γATh(高速段Hのギヤ比))へ向かって変化している区間として特定することができる。また、クラッチツゥクラッチ変速のアップシフト過渡中におけるトルク相は、上記イナーシャ相が開始される前の区間であり、そのトルク相の開始は、例えば係合側係合装置(ブレーキB1)がトルク容量を持ち始めた為に、変速機入力トルクTATが略一定にも拘わらず、変速機出力トルクTOUTが例えば変速後の変速比γAThに対応するトルク値(=TAT×γATh)に向かって落込み始めた時点として特定することができる。見方を換えれば、トルク相の開始は、例えば変速出力後(変速の為の油圧指令値出力後)において、係合側係合装置の油圧指令値が、係合側係合装置がトルク容量を持たない最大限の係合油圧として予め実験的に求められて設定された油圧指令値から立ち上がり始めた時点として特定することができる。但し、制御的には、予め実験的に求められて設定された変速出力開始からの所定時間(すなわちトルク相開始予測時間)経過後にトルク相開始を判断しても良い。この場合には、この所定時間は、どの変速段間の変速であるのかなどの変速の種類毎に設定しても良いし、また作動油の油温THOILや車速Vをパラメータとする予め実験的に求められて設定されたマップから設定しても良い。
【0059】
変速制御手段52は、自動変速機18のアップシフト時の制御に関して、変速時目標エネルギ収支設定部すなわち変速時目標エネルギ収支設定手段68、出力トルク値取得部すなわち出力トルク値取得手段70、クラッチ伝達パワー値取得部すなわちクラッチ伝達パワー値取得手段72、補償前出力トルク値算出部すなわち補償前出力トルク値算出手段74、トルク相中目標回転算出部すなわちトルク相中目標回転算出手段76、及びトルク相中収支値取得部すなわちトルク相中収支値取得手段78を更に含んでいる。
【0060】
変速時目標エネルギ収支設定手段68は、例えば変速前の蓄電装置26の充電容量SOCや走行状態などに基づいて、自動変速機18の1回のアップシフト中において消費或いは蓄電するエネルギ収支Wsの目標値である変速時目標エネルギ収支Wsを設定する。例えば、変速時目標エネルギ収支設定手段68は、変速前の蓄電装置26の充電容量SOCが蓄電装置26を充放電する必要がないとして予め求められた適性範囲に入っている場合には、変速時目標エネルギ収支Wsを零[kW・h]に設定する。一方で、変速時目標エネルギ収支設定手段68は、変速前の蓄電装置26の充電容量SOCが蓄電装置26を充電する必要があるとして予め求められた所定下限値以下である場合には、例えば充電容量SOCに応じて変速時目標エネルギ収支Wsを負値[kW・h](蓄電側)に設定する。他方で、変速時目標エネルギ収支設定手段68は、変速前の蓄電装置26の充電容量SOCが蓄電装置26を放電する必要があるとして予め求められた所定上限値以上である場合には、例えば充電容量SOCに応じて変速時目標エネルギ収支Wsを正値[kW・h](放電側)に設定する。
【0061】
出力トルク値取得手段70は、例えばMG1トルクTg及びMG2トルクTmに基づいて、エンジン直達トルクT(=−(1/ρ)×Tg)とMG2トルクTmとの合算トルクである実際の変速機入力トルクTATを算出する。そして、出力トルク値取得手段70は、その実際の変速機入力トルクTATと現在の自動変速機18のギヤ段に基づいて、変速機出力トルクTOUT(=TAT×γAT)を算出する。尚、例えばスロットル弁開度θTH等の値に基づくエンジントルクTeに基づいてエンジン直達トルクT(=Te/(1+ρ))を算出するなど、変速機出力トルクTOUTは種々の方法により算出されても良い。
【0062】
クラッチ伝達パワー値取得手段72は、例えば変速過程判定手段66により自動変速機18におけるクラッチツゥクラッチ変速のアップシフトにおいてトルク相中であると判定されている場合には、クラッチトルク値取得手段58により取得された各クラッチトルクTb1,Tb2の合算値としてm軸上に換算したクラッチトルク値Tbに基づいて、ブレーキB1,B2のクラッチパワーすなわちブレーキB1,B2による駆動伝達パワーTb・ωmを算出する。
【0063】
補償前出力トルク値算出手段74は、例えば変速過程判定手段66により自動変速機18におけるクラッチツゥクラッチ変速のアップシフトにおいてトルク相中であると判定されている場合には、トルク相補償制御を実行しないときのすなわち補償前の変速機出力トルクTOUT(以下、補償前変速機出力トルクTOUTb)を算出する。この補償前変速機出力トルクTOUTbは、トルク相中での係合装置(ブレーキB1,B2)の掴み替えを反映したものであり、例えば変速過程判定手段66によりトルク相中であると最初に判定された直前において出力トルク値取得手段70により算出された実際の変速機入力トルクTAT及びトルク相中においてクラッチ伝達パワー値取得手段72により逐次算出されるクラッチトルク値Tbに基づいて算出される。例えば、上記変速機入力トルクTAT及びクラッチトルク値Tbのミニマムセレクト値と、現在の変速比γATとに基づく出力トルクTOUTの値として算出される。或いは、補償前変速機出力トルクTOUTbは、例えば変速過程判定手段66によりトルク相中であると最初に判定された直前において出力トルク値取得手段70により算出された変速機出力トルクTOUTが、トルク相の開始から予め求められて記憶された所定のトルク相期間において変速後の変速比γAThに対応するトルク値(=TAT×γATh)に向かって落ち込んでいく値として算出されても良い。
【0064】
トルク相中目標回転算出手段76は、例えば変速過程判定手段66により自動変速機18におけるクラッチツゥクラッチ変速のアップシフトにおいてトルク相中であると判定されている場合には、そのトルク相中におけるエンジン回転速度Nの目標値(以下、トルク相中目標エンジン回転速度N)を算出する。具体的には、トルク相中目標回転算出手段76は、変速機出力トルクTOUTの落ち込み分としてすなわちトルク相中に補償すべき変速機出力トルクTOUTの補償トルクとして、変速過程判定手段66によりトルク相中であると最初に判定された直前において出力トルク値取得手段70により算出された変速機出力トルクTOUTと、補償前出力トルク値算出手段74により算出された補償前変速機出力トルクTOUTbとの差分出力トルクΔTOUT(=TOUT−TOUTb)を算出する。また、トルク相中目標回転算出手段76は、差分出力トルクΔTOUTと変速機出力回転速度NOUTとに基づく出力パワーPOUTの増大分(出力パワー増大分)ΔPOUT(=ΔTOUT×NOUT)を算出し、その出力パワー増大分ΔPOUTを、差分出力トルクΔTOUTを補償する為に必要なエンジンパワーPの増大分(エンジンパワー増大分)ΔPとする。また、トルク相中目標回転算出手段76は、トルク相開始時のエンジンパワーP(=Te×N)に対して、エンジンパワー増大分ΔPを賄う為に必要なエンジン回転速度Nの変化分(エンジン回転速度変化分)ΔN(=ΔP/Te)を算出する。そして、トルク相中目標回転算出手段76は、トルク相開始時のエンジン回転速度Nにそのエンジン回転速度変化分ΔNを加算してトルク相中目標エンジン回転速度N(=N+ΔN)を算出する。このように、トルク相中目標回転算出手段76は、出力パワー増大分ΔPOUT(=ΔTOUT×NOUT)を、エンジンパワー増大分ΔP(=Te×ΔN)にて補償する為のトルク相中目標エンジン回転速度Nを算出する。また、トルク相中目標回転算出手段76は、動力分配機構16における3軸(g軸、e軸、m軸)の関係からトルク相中目標エンジン回転速度N及び実際の第2電動機回転速度NMG2に基づいて、トルク相中における第1電動機回転速度NMG1の目標値(以下、トルク相中目標第1電動機回転速度NMG1)を算出する。
【0065】
MG必要トルク算出手段64は、例えばトルク相中目標回転算出手段76により算出されたトルク相中目標エンジン回転速度N及びトルク相中目標第1電動機回転速度NMG1と、トルク相中においては一定とされる第2電動機回転速度NMG2の目標値とを実現するように、前述したイナーシャ相中と同様に、例えば前記式(5)に示す運動方程式を満たすMG1トルクTg及びMG2トルクTmを求める。また、変速制御手段52は、上述のようにして算出されたMG1トルクTg及びMG2トルクTmが実現されるように第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を制御する。
【0066】
トルク相中収支値取得手段78は、例えばMG必要トルク算出手段64により算出されたMG1トルクTg及びMG2トルクTmと、第1電動機回転速度NMG1及び第2電動機回転速度NMG2とに基づいて、制御サイクル(例えば後述する図8のフローチャート参照)毎のパワー収支を算出する。或いは、制御サイクル毎のパワー収支として、制御サイクル毎の蓄電装置26における消費或いは蓄電された電力を直接的に取得しても良い。そして、トルク相中収支値取得手段78は、変速過程判定手段66により自動変速機18におけるクラッチツゥクラッチ変速のアップシフトにおいてトルク相中であると判定されている間中、制御サイクル毎に算出されたパワー収支を積算して、トルク相補償時エネルギ収支Wt(すなわちトルク相補償に要した積算電力)を算出する。
【0067】
パワー収支目標値取得手段60は、例えばトルク相中収支値取得手段78により算出されたトルク相補償時エネルギ収支Wt及び変速時目標エネルギ収支設定手段68により設定された変速時目標エネルギ収支Wsに基づいて、イナーシャ相中にて充足すべき差分エネルギΔW(=Ws−Wt)を算出する。そして、パワー収支目標値取得手段60は、イナーシャ相中におけるパワー収支目標値ΔPaimの積分値が差分エネルギΔWとされるように、差分エネルギΔWに基づいてイナーシャ相中における制御サイクル毎のパワー収支目標値ΔPaimを取得(設定)する。具体的には、予め求められて記憶された所定のイナーシャ相期間の全期間乃至一部の期間における平均値としてパワー収支目標値ΔPaimを設定しても良い。或いは、イナーシャ相開始後から予め求められて記憶された一定値としてパワー収支目標値ΔPaimを取得し、その一定値の積分値が差分エネルギΔWとされた後からはその一定値に替えて零値としてパワー収支目標値ΔPaimを設定しても良い。
【0068】
変速制御手段52は、例えば変速過程判定手段66により自動変速機18におけるクラッチツゥクラッチ変速のアップシフトにおいてイナーシャ相中であると判定されている場合には、パワー収支目標値取得手段60により設定されたパワー収支目標値ΔPaimを満たしつつ、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3における各変速進行度(変化具合)を同一とするように、各回転要素の回転を制御する。
【0069】
図8は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち自動変速機18のアップシフトを実行する際にアップシフト全体における変速時目標エネルギ収支Wsへの収束と変速ショックの抑制とを両立させる為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図9は、図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。尚、この図8のフローチャートにおけるスタート時点は、例えば自動変速機18のアップシフトを実行する変速制御の開始が前提とされる。
【0070】
図8において、先ず、変速時目標エネルギ収支設定手段68に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えば変速前の蓄電装置26の充電容量SOCや走行状態などに基づいて変速時目標エネルギ収支Wsが設定される(図9のt1時点以前)。次いで、変速過程判定手段66に対応するS20において、クラッチツゥクラッチ変速過程におけるトルク相中であるか否かが判定される。このS20の判断が否定される場合は変速過程判定手段66に対応するS30において、クラッチツゥクラッチ変速過程におけるイナーシャ相中であるか否かが判定される。このS30の判断が否定される場合は出力トルク値取得手段70に対応するS40において、例えばMG1トルクTg及びMG2トルクTmに基づいて実際の変速機入力トルクTATが算出される。そして、その実際の変速機入力トルクTATと現在の自動変速機18のギヤ段に基づいて変速機出力トルクTOUTが算出される。
【0071】
一方で、前記S20の判断が肯定される場合はクラッチトルク値取得手段58及びクラッチ伝達パワー値取得手段72に対応するS50において、例えばブレーキB1,B2の各油圧指令値に基づいてクラッチトルク値Tbが取得され、そのクラッチトルク値Tbに基づいてブレーキB1,B2による駆動伝達パワーTb・ωmが算出される(図9のt1時点乃至t2時点)。次いで、補償前出力トルク値算出手段74に対応するS60において、例えば上記S50にて取得されたクラッチトルク値Tb及び前記S40にて算出された実際の変速機入力トルクTATに基づいて、トルク相補償制御を実行しないときの補償前変速機出力トルクTOUTbが算出される(図9のt1時点乃至t2時点における破線参照)。次いで、トルク相中目標回転算出手段76に対応するS70において、例えばトルク相中に補償すべき変速機出力トルクTOUTの補償トルクとして、前記S40にて算出された変速機出力トルクTOUTと、上記S60にて算出された補償前変速機出力トルクTOUTbとの差分出力トルクΔTOUTが算出される。また、その差分出力トルクΔTOUTと変速機出力回転速度NOUTとに基づいて算出される出力パワー増大分ΔPOUTが、差分出力トルクΔTOUTを補償する為に必要なエンジンパワー増大分ΔPとされる。そして、トルク相開始時(前記S20が最初に肯定された時)のエンジンパワーPに対して、エンジンパワー増大分ΔPを賄う為に必要なエンジン回転速度変化分ΔNが算出され、トルク相開始時のエンジン回転速度Nにそのエンジン回転速度変化分ΔNを加算してトルク相中目標エンジン回転速度Nが算出される。また、動力分配機構16における3軸(g軸、e軸、m軸)の関係からそのトルク相中目標エンジン回転速度N及び実際の第2電動機回転速度NMG2に基づいて、トルク相中目標第1電動機回転速度NMG1が算出される(図9のt1時点乃至t2時点)。次いで、MG必要トルク算出手段64及び変速制御手段52に対応するS80において、例えば上記S70にて算出されたトルク相中目標エンジン回転速度N及びトルク相中目標第1電動機回転速度NMG1と、トルク相中においては一定とされる第2電動機回転速度NMG2の目標値とを実現するように、前記式(5)に示す運動方程式を満たすMG1トルクTg及びMG2トルクTmが求められる。そして、このように算出されたMG1トルクTg及びMG2トルクTmが実現されるように第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動が制御される(図9のt1時点乃至t2時点)。次いで、トルク相中収支値取得手段78に対応するS90において、例えば上記S80にて算出されたMG1トルクTg及びMG2トルクTmと、第1電動機回転速度NMG1及び第2電動機回転速度NMG2とに基づいて、制御サイクル毎のパワー収支が算出される。そして、その制御サイクル毎に算出されたパワー収支が積算されて、トルク相補償時エネルギ収支Wtが算出される(図9のt1時点乃至t2時点)。
【0072】
他方で、前記S30の判断が肯定される場合は回転勾配比算出手段54に対応するS100において、例えば回転要素RE1,RE2,RE3における差分値比Δωg:Δωe:Δωmが算出されると共に、回転要素RE1,RE2,RE3における回転速度時間変化率比dωg/dt:dωe/dt:dωm/dtが算出される(図9のt2時点乃至t3時点)。次いで、パワー収支目標値取得手段60に対応するS110において、例えば前記S90にて算出されたトルク相補償時エネルギ収支Wt及び前記S10にて設定された変速時目標エネルギ収支Wsに基づいてイナーシャ相中にて充足すべき差分エネルギΔWが算出され、その差分エネルギΔWに基づいて制御サイクル毎のパワー収支目標値ΔPaimが取得(設定)される(図9のt2時点乃至t3時点)。次いで、エンジントルク値取得手段56に対応するS120において、エンジントルク値Teが取得される(図9のt2時点乃至t3時点)。次いで、クラッチトルク値取得手段58に対応するS130において、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2のクラッチトルク値Tb1,Tb2が取得され、それらクラッチトルクTb1,Tb2の合算値としてm軸上に換算されたクラッチトルク値Tbが取得される(図9のt2時点乃至t3時点)。次いで、回転勾配目標値算出手段62に対応するS140において、上記S100−S130にて得られた各値を用いて、前記式(2)及び前記式(4)を満たす各回転要素の回転速度時間変化率dω/dtの目標値が算出される(図9のt2時点乃至t3時点)。次いで、MG必要トルク算出手段64及び変速制御手段52に対応するS150において、上記S130にて取得されたクラッチトルク値Tb、上記S120にて取得(或いは算出)されたエンジントルク値Te、及び上記S140にて算出された各回転要素の回転速度時間変化率dω/dtの目標値を達成するMG1トルクTg及びMG2トルクTmが算出され、その算出されたMG1トルクTg及びMG2トルクTmを達成する作動指令が第1電動機MG1及び第2電動機MG2へ出力される(図9のt2時点乃至t3時点)。前記S40、前記S90、或いは上記S150に次いで、変速制御手段52に対応するS160において、変速制御終了であるか否かが判断される。このS160の判断が否定される場合は前記S20以下の処理が再び実行されるが、このS160の判断が肯定される場合はそれをもって本ルーチンが終了させられる(図9のt3時点)。
【0073】
図9において、自動変速機18のアップシフトにおけるトルク相中にてエンジン回転速度Nが引き上げられることによりエンジンパワーPが増大させられて、トルク相中における変速機出力トルクTOUTの落ち込み(破線参照)が抑制される(実線参照)。そして、この図9の実施例では、例えば自動変速機18のアップシフト全体における変速時目標エネルギ収支Wsは零[kW・h]とされており、イナーシャ相中にて第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3における各変速進行度が同一となるように変速制御が実行されることにより、トルク相中にて消費したエネルギ(トルク相補償時エネルギ収支Wt)が回収される。例えば、イナーシャ相開始後から予め求められて記憶された一定値としてパワー収支目標値ΔPaimが設定され、その一定値の積分値が差分エネルギΔW(この実施例では、−Wt)とされた後からはその一定値に替えて零値としてパワー収支目標値ΔPaimが設定されている。
【0074】
上述のように、本実施例によれば、自動変速機18のアップシフトに際して、トルク相中では、第1電動機MG1によりエンジン回転速度Nを上昇させることでエンジンパワーPが増大させられて、変速機出力トルクTOUTの落ち込みを抑制するトルク相補償制御が実行され、イナーシャ相中では、前記トルク相補償制御において消費或いは蓄電された電力量(トルク相補償時エネルギ収支)Wtと、前記アップシフト中において消費或いは蓄電する目標の電力量(変速時目標エネルギ収支)Wsとの差分エネルギΔW(=Ws−Wt)が、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3における各変速進行度が同一となるように変速制御を行って充足させられることで、前記アップシフト時のエネルギ収支Wsが制御されるので、トルク相中での変速機出力トルクTOUTの落ち込みを抑制するトルク相補償の為のエンジントルクTeの増大を実行し難いような走行状況においても、エンジンパワーPを増大させることで、すなわち自動変速機18を介して駆動輪22側へ伝達されるパワーを増大させることで、回転変化を伴わないトルク相中ではトルクアップされることとなり、結果的に変速機出力トルクTOUTの落ち込みを抑制することができる。また、トルク相補償制御において消費或いは蓄電された電力量をイナーシャ相中で相殺或いは利用することでアップシフト時のエネルギ収支Wsすなわちアップシフト全体でのトータル充放電収支(充放電収支の積分値)を目標値へ制御することができる。よって、自動変速機18のアップシフトを実行する際に、アップシフト全体における変速時目標エネルギ収支Wsへの収束と変速ショックの抑制とを両立させることができる。つまり、狙いのバッテリ充放電収支を保持しつつ変速ショックが抑制される。また、この制御は、エンジントルクTeを変化させることなく、エンジン回転速度Nの上昇によってエンジンパワーPを増大させていることから、例えば燃費向上の為にエンジントルクTeの目標値が予め設定されているような車両状況においても、適用することが可能である。
【0075】
また、本実施例によれば、前記トルク相中では、出力パワー増大分ΔPOUT(=ΔTOUT×NOUT)を、エンジンパワー増大分ΔP(=Te×ΔN)にて補償する為のトルク相中目標エンジン回転速度Nを目標値として、エンジン回転速度Nを上昇させるので、トルク相中においてエンジン回転速度Nを上昇させてエンジンパワーPを増大させることによるトルク相補償制御が適切に実行される。
【0076】
また、本実施例によれば、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3における各変速進行度が同一となるように変速制御を行うことは、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3の変速後の各目標回転速度と現時点の各実回転速度との各差分値をそれぞれ算出し、その回転要素の各回転速度時間変化率の相互間の比が、その回転要素の各差分値の相互間の比と等しくなるように制御するものであるので、その各回転要素における各変速進行度が同一となるように変速制御することが適切に実行され、アップシフト全体における変速時目標エネルギ収支Wsへの収束と変速ショックの抑制とを確実に両立させることができる。
【0077】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0078】
例えば、前述の実施例では、トルク相中目標回転算出手段76は、出力パワー増大分ΔPOUTの全部を、エンジンパワー増大分ΔPにて補償する為のトルク相中目標エンジン回転速度Nを算出したが、必ずしもこれに限らない。例えば、トルク相中目標回転算出手段76は、出力パワー増大分ΔPOUTの一部を、エンジンパワー増大分ΔPにて補償する為のトルク相中目標エンジン回転速度Nを算出しても良い。このようにしても、トルク相補償制御の実行において、変速機出力トルクTOUTの落ち込みを抑制するという一定の効果が得られる。
【0079】
また、前述の実施例では、アクセル開度Accが略一定とされた走行中に自動変速機18のアップシフトを実行する場合を例示し、図7に示すように、自動変速機18のアップシフト前後にてエンジン動作点を移動させない場合を例示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、アクセル開度Accがある程度変更された走行中に自動変速機18のアップシフトを実行する場合であっても良いし、自動変速機18のアップシフト前後にてエンジン動作点を移動させる場合であっても良い。このような場合であっても、本発明は適用され得る。
【0080】
また、前述の実施例では、自動変速機18のアップシフト過程のトルク相中における制御は、エンジントルクTeを変化させることなく、エンジン回転速度Nの上昇によってエンジンパワーPを増大させるものであったが、必ずしもこれに限らない。例えば、エンジントルクTeの変化が可能である場合には、例えばエンジン回転速度Nの上昇と共にエンジントルクTeをも変化させて、トルク相中のエンジン動作点を燃費最適線に沿って移動させても良い(図7参照)。
【0081】
また、前述の実施例では、自動変速機18は低速段Lと高速段Hとを有する2段の自動変速機(減速機)であったが、この自動変速機18に限らず、伝達部材14上のトルクが駆動輪22に伝達されるように伝達部材14と駆動輪22との間に備えられた機械式変速機構であれば本発明は適用され得る。例えば、3段以上の変速段を有する遊星歯車式多段変速機、一部或いは全部の変速段において変速機入力トルクが増大させられて駆動輪22側へ伝達される有段式自動変速機などであっても良い。
【0082】
また、前述の実施例において、動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであっても良い。また、動力分配機構16は、例えばエンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び伝達部材14に作動的に連結された差動歯車装置であっても良い。
【0083】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0084】
10:ハイブリッド車両
11:車両用動力伝達装置
12:エンジン
14:伝達部材(出力回転部材)
16:動力分配機構(差動機構)
17:電気式無段変速機(電気式変速機構)
18:自動変速機(機械式変速機構)
22:駆動輪
50:電子制御装置(制御装置)
RE1−RE3:第1回転要素−第3回転要素
MG1:第1電動機(差動用電動機)
MG2:第2電動機(走行用電動機)
B1,B2:第1ブレーキ,第2ブレーキ(摩擦係合装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが動力伝達可能に連結された第1回転要素と差動用電動機が動力伝達可能に連結された第2回転要素と走行用電動機が動力伝達可能に連結された出力回転部材である第3回転要素との3つの回転要素を有する差動機構を備えて該差動用電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式変速機構と、該電気式変速機構の出力回転部材と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成すると共に摩擦係合装置の係合と解放とにより変速が実行されて複数の変速段が選択的に成立させられる機械式変速機構とを有する車両用動力伝達装置を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記機械式変速機構のアップシフトに際して、
トルク相中では、前記差動用電動機によりエンジン回転数を上昇させることでエンジンパワーを増大させて、前記機械式変速機構の出力トルクの落ち込みを抑制するトルク相補償制御を実行し、
イナーシャ相中では、前記トルク相補償制御において消費或いは蓄電された電力量と、前記アップシフト中において消費或いは蓄電する目標の電力量との差分エネルギを、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素における各変速進行度が同一となるように変速制御を行って充足させることで、前記アップシフト時のエネルギ収支を制御することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記トルク相中では、前記機械式変速機構の出力トルクの落ち込み分と該機械式変速機構の出力回転数とに基づく出力パワーの増大分の一部乃至全部を、エンジントルクとエンジン回転数の変化分とに基づくエンジンパワーの増大分にて補償する為のエンジン回転数を目標値として、該エンジン回転数を上昇させることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素における各変速進行度が同一となるように変速制御を行うことは、該第1回転要素、該第2回転要素、及び該第3回転要素の変速後の各目標回転数と現時点の各実回転数との各差分値をそれぞれ算出し、該回転要素の各回転数時間変化率の相互間の比が、該回転要素の各差分値の相互間の比と等しくなるように制御するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−240551(P2012−240551A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112403(P2011−112403)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】