説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】シフトアップ方向への変速中に駆動輪側に伝達されるトルクの瞬断をモータトルクにより適切に補償でき、もって変速中の不自然な加速度変動に起因する加速フィーリングの悪化を未然に防止できるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】シフトアップ方向への変速に伴うクラッチ切断によりエンジン7及び第1モータ6の前輪1側へのトルク伝達が一時的に中止されたとき、第2モータ3の運転によりモータトルクを前輪1側に伝達してトルク補償する。このとき現変速段による加速度Gから次変速段による加速度Gまで円滑に変化するように目標加速度Gtgtを設定し、目標加速度Gtgtに対して実加速度Grealを接近させるようにモータトルクを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両の制御装置に係り、詳しくはシフトアップ時のトルク伝達の瞬断に起因するトルク抜けを防止するハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン及びモータのトルクを任意に駆動輪側に伝達可能なハイブリッド車両が実用化されており、エンジン及びモータのレイアウト、変速機の種類などについて種々の形式の車両が存在している。例えば、駆動輪に対して第2モータを介して変速機を連結し、この変速機にクラッチを介して第1モータ及びエンジンを連結して構成されたハイブリッド車両がある(全体構成は図1に示す実施形態の車両と共通)。この車両には有段のマニュアル変速機をベースとして変速操作がアクチュエータにより行われる変速機が搭載されており、その変速操作時には上記クラッチの断接操作が連動して実行されることで自動変速機として機能するようになっている。
【0003】
変速機の構造上、変速中にトルク伝達が一時的に中止されるため、例えばエンジンのみの走行時、或いはエンジン及び第1モータを動力源とした走行時に変速機が変速されると、エンジンや第1モータのトルクが瞬断することになる。変速がシフトアップ方向になされたときには、このトルクの瞬断に起因して車両駆動力が瞬間的に消失する所謂トルク抜けが生じ、加速フィーリングを悪化させてしまうという問題がある。そこで、シフトアップ方向の変速中に第2モータを作動させて、瞬断したトルクに代えてモータトルクを駆動輪側に伝達することによりトルク補償する技術が提案されている。
【0004】
一方、上記従来技術とは別に車両の加速度に着目した技術として特許文献1に記載されたものを挙げることができる。当該従来技術もハイブリッド車両に関するものであるが、エンジン走行中における加速ピーク後の立ち下がり時のフィーリング悪化を防止するために、加速ピーク後の時系列の目標加速度に対して実加速度が追従するようにエンジン出力を制御すると共に、加速度が不足するときにはモータを作動させてトルクを補っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−163020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前段の従来技術のように、変速機の変速中に発生するトルクの瞬断をモータトルクで補償する場合、モータによる最適な補償トルクは車両の走行状態に応じて大きく相違する。そこで、例えば事前に実施した走行試験に基づき走行領域毎に最適なモータトルクを補償トルクの目標値としてマップに設定し、車両走行時の変速中にはマップから読み出した目標値に基づきモータトルクを制御するなどの手法が考えられる。
【0007】
しかしながら、目標値に基づくモータのトルク制御には誤差が生じることから、目標値に対して完全に一致するトルク制御が不可能であり、また、走行試験から設定された目標値自体にも誤差が含まれている。このため変速中に瞬断したトルクを完全に補償するようにモータトルクを制御できず、結果として変速中に加速度が不自然に変動して加速フィーリングの悪化を完全に防止できないという問題があった。
【0008】
例えば、図3に破線で示すように変速中の補償トルクが不足すると、加速度(=車両駆動力)が急激に低下して次変速段で得られる加速度よりも一旦落ち込む現象が発生し、トルク抜けを完全に防止できないことが判る。また図4に破線で示すように変速中の補償トルクが過剰なときには加速度の低下が緩慢なため、次変速段で得られる加速度まで落ちきる以前に変速完了によりクラッチが接続されてトルク段差を生じてしまう。当然であるが、変速中のトルク補償を何ら考慮していない後段の従来技術(上記特許文献1の技術)では問題解決にならないことは明らかであった。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シフトアップ方向への変速中に駆動輪側に伝達されるトルクの瞬断をモータトルクにより適切に補償でき、もって変速中の不自然な加速度変動に起因する加速フィーリングの悪化を未然に防止することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車両に搭載される走行用動力源に対しクラッチを介して変速機を連結し、変速機に対し電動モータを介して車両の駆動輪を連結して構成され、クラッチを接続して走行用動力源のトルクを変速機の所定の変速段を介して駆動輪に伝達する一方、変速機を変速する際に上記クラッチを切断すると共に電動モータを作動してモータトルクを駆動輪に伝達するトルク補償制御を実行するモータアシスト制御手段を備えるハイブリッド車両の制御装置において、変速機の変速中におけるクラッチの切断に伴う車両の減速を補うように車両の目標加速度を設定する目標加速度設定手段と、車両の実加速度を検出する実加速度検出手段と、を有し、モータアシスト制御手段は、実加速度と目標加速度との差を縮小するようにクラッチが切断されている際の電動モータのトルク量を決定して、トルク量を駆動輪に伝達するものである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1において、目標加速度設定手段は、現変速段により得られる実加速度から次変速段により得られる実加速度まで実加速度の減少率が減少するように目標加速度を設定するものである。
請求項3の発明は、請求項1または2において、目標加速度設定手段が、少なくとも変速機の変速中における運転者によるアクセル操作量、変速前後の変速段、及び車両が走行中の道路勾配に基づき車両の目標加速度を設定するものである。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、変速機を変速するためにクラッチ切断により走行用動力源からのトルクの伝達が一時的に中止されたときに、モータを運転して走行用動力源のトルクに代えてモータトルクを駆動輪側に伝達すると共に、このときのクラッチ切断に伴う車両の減速を補うように目標加速度を設定し、この目標加速度と実加速度との差を縮小するようにモータトルクを制御するようにした。
【0013】
従って、目標加速度と実加速度とに基づきモータトルクが制御されることにより、変速中のトルクの瞬断をモータトルクにより適切に補償して車両加速度を円滑、つまり加速度の減少率が減少するように変化させることができ、もって変速中の不自然な加速度変動に起因する加速フィーリングの悪化を未然に防止することができる。
請求項2の発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、請求項1に加えて、現変速段により得られる加速度から次変速段により得られる加速度まで加速度の減少率が減少するように目標加速度を設定するようにした。結果として、変速中の車両加速度は現変速段による加速度から次変速段による加速度まで円滑に変化し、変速中の不自然な加速度変動をより確実に防止することができる。
【0014】
請求項3の発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、請求項1または2に加えて、アクセル操作量、変速前後の変速段及び路面勾配に基づき目標加速度を設定するようにした。アクセル操作量や変速前後の変速段に応じて駆動輪への伝達トルク、ひいては車両加速度が変化し、また駆動輪への伝達トルクが同一であったとしても路面勾配に応じて車両加速度は変化する。このため、これらの指標に基づき適切な目標加速度を設定でき、この目標加速度に基づくモータトルクの制御により変速中の不自然な加速度変動をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のハイブリッド車両の制御装置が適用された車両を示す全体構成図である。
【図2】HEVECUが実行するトルク補正ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】目標加速度に対して実加速度が過小なときの補償トルクの補正状況を従来技術と共に示したタイムチャートである。
【図4】目標加速度に対して実加速度が過大なときの補償トルクの補正状況を従来技術と共に示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化したハイブリッド車両の制御装置の一実施形態を説明する。
図1は本発明のハイブリッド車両の制御装置が適用された車両を示す全体構成図である。
車両の前輪(駆動輪)1には差動装置2を介して第2モータ3が連結され、第2モータ3のトルクが差動装置2から前輪1に伝達されるようになっている。また、第2モータ3には変速機4が連結され、変速機4にはクラッチ5を介して第1モータ6(走行用動力源)及びエンジン7(走行用動力源)が連結されている。クラッチ5の切断時には第1モータ6及びエンジン7のトルクが遮断され、一方、クラッチ5の接続時には第1モータ6やエンジン7のトルクが変速機4の所定の変速段を介して差動装置2から前輪1に伝達されるようになっている。
【0017】
上記変速機4は有段のマニュアル変速機をベースとして構成され、その変速操作が図示しないアクチュエータにより行われるようになっている。また、上記クラッチ5の断接操作も図示しないアクチュエータにより行われるようになっている。
このようなモータ6,3及びエンジン7の運転状態とクラッチ5の断接状態とに応じて、車両の走行モードが切り換えられる。例えばモータ走行では、クラッチ5を切断してエンジン7及び第1モータ6を停止させた上で第2モータ3を運転し、第2モータ3のトルクを前輪1に伝達して車両を走行させる。また、エンジン走行では、第1及び第2モータ6,3を停止させた上でクラッチ5を接続してエンジン7を運転し、エンジン7のトルクをクラッチ5及び変速機4を介して前輪1に伝達して車両を走行させる。また、モータ・エンジン走行では、第1及び第2モータ6,3の一方または両方を運転すると共にクラッチ5を接続してエンジン7を運転し、それらのトルクを前輪1に伝達して車両を走行させる。
【0018】
また、第1及び第2モータ6,3はジェネレータとしても機能し、例えば第2モータ3は車両減速時に前輪1側から逆駆動されて発電し、第1モータ6はエンジン7により駆動されて発電するようになっている。
第1及び第2モータ6,3にはインバータMCU10,11がそれぞれ接続され、これらのMCU10,11は走行用バッテリ12からの直流電力を交流電力に変換して対応するモータ6,3に供給して運転させる一方、上記各モータ6,3の発電時には、発電された交流電力を直流電力に変換して走行用バッテリ12に充電する。各インバータMCU10,11は走行用バッテリ12のSCOを管理するバッテリECU13に接続され、このバッテリECUを介して各インバータMCU10,11はHEVECU14に接続されている。
【0019】
また、エンジン7にはエンジンECU15が接続され、エンジンECU15はエンジン7の燃料噴射量や噴射時期などを制御してエンジン7を運転する。変速機4及びクラッチ5にはトランスミッションECU16が接続され、トランスミッションECU16は変速機4のアクチュエータを駆動して変速操作を行うと共に、その変速操作に連動してクラッチ5のアクチュエータを駆動して断接操作し、変速機4を自動変速機として機能させる。
【0020】
これらのエンジンECU15及びトランスミッションECU16もHEVECU14に接続され、HEVECU14により各ECU13,15,16及びMCU10,11が統合制御される。これによりモータ6,3及びエンジン7の運転、変速機4の変速操作、クラッチ5の断接操作が連携して行われて、上記走行モードの切換などが実行される。
このような制御のためにHEVECU14には、車速Vを検出する車速センサ18、アクセル操作量θaccを検出するアクセルセンサ19、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ20、車両の前後方向の加速度G(以下、単に加速度という)を検出する加速度センサ21(実加速度検出手段)などの各種センサ類から検出情報が入力されると共に、バッテリECU13により算出される走行用バッテリ12のSOC情報が入力される。
【0021】
HEVECU14は、アクセル操作量θaccや車速Vなどに基づき運転者の要求トルクを算出する一方、バッテリECU13からSOC情報を入力し、これら要求トルクやSOCに基づき走行モードを選択する。例えば、走行用バッテリ12のSOCが所定値以上で、且つ運転者の要求トルクが所定値未満のときには、第2モータ3のトルクのみで要求トルクを達成可能なため走行モードとしてモータ走行を選択する。また、例えばモータ走行中においてSOCが所定値を下回ると、クラッチ5を切断したまま第1モータ6によりエンジン7を始動させ、エンジン駆動により第1モータ6をジェネレータとして機能させて発電電力を走行用バッテリ12に充電してSOCを回復させる。
【0022】
また、例えばモータ走行中においてアクセル踏込みなどで要求トルクが所定値を上回るとモータ・エンジン走行を選択し、一方、SOCが極端に低下して正常なモータ作動が望めなくなると、エンジン走行を選択すると共に、第1モータ6や第2モータ3をジェネレータとして機能させて走行用バッテリ12のSOC回復を図る。
以上のような走行モードの切換に際してHEVECU14は、モータ走行やエンジン走行では運転者の要求トルクから第2モータ3やエンジン7が出力すべきトルクを算出し、モータ・エンジン走行では要求トルクをモータ6,3側とエンジン7側とに分配してそれぞれのトルクを算出する。そして、算出結果に基づきHEVECU14から出力される指令に応じて、上記のようにインバータMCU10,11によるモータ6,3の運転、エンジンECU15によるエンジン7の運転が行われる。
【0023】
一方、HEVECU14は、車両の走行中にアクセル操作量θacc及び車速Vに基づき所定の変速マップから変速機4の目標変速段を算出し、算出結果に基づきHEVECU14から出力される目標変速段に応じて、上記のようにトランスミッションECU16によるクラッチ5の断接操作及び変速機4の変速操作が行われる。
このような変速機4のシフトアップ方向への変速中には、変速機4の構造上、エンジン7や第1モータ6のトルクが瞬断してトルク抜けが発生することから、本実施形態ではエンジン走行及び第1モータ6によるモータ・エンジン走行中の変速時に、瞬断したトルクを第2モータ3のトルクにより補償する対策を講じている。ところが、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、第2モータ3に対するトルク制御の誤差に起因してモータトルクを適切に制御できないという問題がある。
【0024】
本発明者は、運転者がトルク抜けを感じる要因が変速中の不自然な加速度変動にあり、たとえ第2モータ3のトルク制御に誤差が含まれていたとしても、変速中の前後加速度Gを適切に制御できればトルク抜けなどを防止可能であることに着目した。そこで、この知見の下に、本実施形態では変速中に最適な加速度Gを目標値Gtgtとして逐次算出し、その目標値Gtgtと実際の加速度Grealとに基づきモータトルクを制御する対策を講じており、以下、その詳細を説明する。
【0025】
図2はHEVECU14が実行するトルク補正ルーチンを示すフローチャートであり、HEVECU14はエンジン走行及びモータ・エンジン走行の実行中に、当該ルーチンを図示しないトルク補償ルーチンと共に所定の制御インターバルで実行している。トルク補償ルーチンにより、クラッチ5の切断を伴うシフトアップ方向への変速時に第2モータ3に補償トルクを発生させる処理が実行され(モータアシスト制御手段)、この変速中において補償トルクを車両加速度Gに基づき補正する役割をトルク補正ルーチンが果たしている。
【0026】
図2に示すように、まず、ステップS2で加速度センサ21により検出された加速度Gを実加速度Grealとして入力し、続くステップS4で変速中における車両の目標加速度Gtgtを算出する(目標加速度設定手段)。目標加速度Gtgtは、変速中に運転者にトルク抜けなどの不自然な加速度変動を感じさせることなく自然に変化したときの加速度Gとして算出される。より具体的には、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、変速中のトルク抜けは、車両加速度Gが急激に低下して次変速段で得られる加速度Gよりも一旦落ち込んだときに発生する。また、変速完了時のトルク段差は、車両加速度Gが緩慢に低下して次変速段で得られる加速度Gまで落ちきる以前に変速完了によりクラッチが接続されたときに発生する。このため、車両加速度Gが現変速段により得られる加速度Gから次変速段により得られる加速度Gまで円滑、つまり加速度の減少率が減少するように変化したときの加速度Gが目標加速度Gtgtとして逐次算出される。
【0027】
このような目標加速度Gtgtは、車両の走行状態に関する種々の指標に基づき算出できる。図3,4には車両加速時の加速度Gの変化状況が示されており、加速が開始されると車両は所定の加速度Gをもって加速すると共に、車速Vの上昇に応じて順次高ギヤ側の変速段にシフトアップされることで、変速毎に車両加速度Gが次第に低下している。車両加速度Gは前輪1に伝達されるトルク(車両駆動力)と相関し、前輪1への伝達トルクは、アクセル操作に応じた要求トルクに基づき制御されるエンジン7や第1モータ6が発生したものであり、変速前後の変速段を介してそれぞれ前輪1に伝達されている。このため目標加速度Gtgtを算出するための指標としては、例えばアクセル操作量θacc及び変速前後の変速段を用いることができる。
【0028】
また、前輪1への伝達トルクが同一であったとしても、車両が走行中の路面の勾配が相違すると、それに応じて変速中の加速度Gが変化することから、路面勾配も目標加速度Gtgtを算出するための指標と見なすことができる。そこで本実施形態では、これらアクセル操作量θacc、変速前後の変速段、及び路面勾配に基づきステップS6の目標加速度Gtgtの算出処理を実行している。
【0029】
なお、アクセル操作量θaccはアクセルセンサ19により検出され、変速前後の変速段はHEVECU14自身が実行している変速制御状況から判別でき、道路勾配は、例えば加速度センサ21により検出された実加速度Grealとエンジン7の燃料消費量から求めた推定加速度Gとの比率に基づき算出でき、これらの値がステップS6の算出処理に用いられる。当然ながら、各指標は一例であるため任意に変更可能であり、例えば指標の一つとして車両重量などを加えてもよい。
【0030】
以上のようにして目標加速度Gtgtを算出した後にステップS6に移行し、現在の実加速度Grealと同じく現在の目標加速度Gtgtとの差ΔGを算出する。トルク補償ルーチンでは、予め設定されたマップから初期値として補償トルクが読み出され、この補償トルクに基づき第2モータ3のトルクを制御している。補償トルクが適切であれば実加速度Grealが目標加速度Gtgtにほぼ一致するが、補償トルクに過不足があれば、それに応じて実加速度Grealと目標加速度Gtgtとの間に差ΔGが生じることになる。その後ステップS8で、算出した加速度差ΔGにフィルタ処理を施すことにより高周波成分を取り除き、フィルタ処理後の差ΔGからトルク補正値を算出する。続くステップS10では現在第2モータ3の制御に適用されている補償トルクをトルク補正値に基づき補正し、その後にルーチンを終了する。
【0031】
トルク補正値は、実加速度Grealと目標加速度Gtgtとの差ΔGを縮小する方向に設定される。即ち、実加速度Grealが目標加速度Gtgtの近傍にあるときには、トルク補正値として0が算出されて補償トルクの補正は行われない。また、目標加速度Gtgtに対して実加速度Grealが過小なときには、その加速度差ΔGに応じてステップS8で正側のトルク補正値が算出されてステップS10で補償トルクが増加側に補正されて実加速度Grealの増加が図られる。また、逆に目標加速度Gtgtに対して実加速度Grealが過大なときには、その加速度差ΔGに応じてステップS8で負側のトルク補正値が算出されてステップS10で補償トルクが減少側に補正されて実加速度Grealの低下が図られる。
【0032】
トルク補正ルーチンでは変速中に以上の処理が繰り返され、その時点の実加速度Grealと目標加速度Gtgtとの差ΔGに応じた補償トルクの補正処理が逐次実行される。トルク補償ルーチンでは、変速開始により第2モータ3の制御を開始した当初はマップから読み出した初期値の補償トルクに基づき第2モータ3を制御するが、その後はトルク補正ルーチンで順次補正された後の補償トルクをモータ制御に適用する。
【0033】
以上のトルク補償ルーチン及びトルク補正ルーチンにより、変速時には第2モータ3の補償トルクが以下のように制御される。
図3は目標加速度Gtgtに対して実加速度Grealが過小なときの補償トルクの補正状況を示すタイムチャート、図4は逆に目標加速度Gtgtに対して実加速度Grealが過大なときの補償トルクの補正状況を示すタイムチャートである。なお、これらの図はモータ・エンジン走行による加速時を示しているが、エンジン走行による加速時でも同様の過程を辿って各制御が行われる。
【0034】
車両の停車中や定速走行中などにアクセル踏込みによりエンジン7及び第1モータ6のトルクが増加すると、変速機4の現変速段を介したトルク伝達により車両駆動力と共に車両加速度Gが増加し、それに伴って車両が加速してエンジン回転速度Ne及び車速Vが次第に上昇する。車速Vの上昇により変速マップ上でシフトアップ線を横切ると、クラッチ5が切断されると共にエンジン7及び第1モータ6のトルクが一時中断されて、次変速段への変速が行われる。変速完了後にクラッチ5が接続されてエンジン7及び第1モータ6のトルクが回復し、車両は次変速段による走行を開始し、以上の一連の制御が変速毎に繰り返される。
【0035】
そして、各変速中に発生するトルク伝達の瞬断を防止するために、上記のように第2モータ3を利用したトルク補償がトルク補償ルーチンによって実行され、このときの補償トルクがトルク補正ルーチンにより車両加速度Gに基づき逐次補正される。
例えば、変速を開始した当初の補償トルクが不足した場合、図3に破線で示すように目標加速度Gtgtに対して実加速度Grealが過小になる。このため、そのままの補償トルクを第2モータ3の制御に適用し続ければ、実加速度Grealは急激に低下して次変速段で得られる加速度よりも一旦落ち込む現象が発生し、トルク抜けを完全に防止できなくなる。このとき本実施形態では、実線で示すようにトルク補正ルーチンにより補償トルクが増加側に補正されることから、実加速度Grealは実線で示す目標加速度Gtgtのラインに沿って低下して急激な低下が防止され、もって、変速完了直前の加速度Gの落ち込み現象を抑制してトルク抜けを防止することができる。
【0036】
なお、図3では変速中に一定のトルク補正値が適用されているが、実際のトルク補正値は加速度差ΔGに応じて変動しており、この点は、図4の減少補正でも同様である。
一方、変速を開始した当初の補償トルクが過剰な場合、図4に破線で示すように目標加速度Gtgtに対して実加速度Grealが過大になる。このため、そのままの補償トルクを第2モータ3の制御に適用し続ければ、実加速度Grealの低下が緩慢になって次変速段で得られる加速度Gまで落ちきる以前に変速完了によりクラッチが接続されてトルク段差が生じてしまう。このとき本実施形態では、実線で示すようにトルク補正ルーチンにより補償トルクが減少側に補正されることから、実加速度Grealは実線で示す目標加速度Gtgtのラインに沿って低下して緩慢な低下が防止され、もって、変速完了によるクラッチ接続時のトルク段差を防止することができる。
【0037】
結果として補償トルクの不足及び過剰の何れの場合でも、変速中の車両加速度Gは現変速段により得られる加速度Gから次変速段により得られる加速度Gまで円滑、つまり加速度の減少率が減少するように変化し、もって、変速中の不自然な加速度変動に起因する加速フィーリングの悪化を確実に防止することができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、走行用動力源として第1モータ6及びエンジン7を備えたハイブリッド車両に具体化したが、第1モータ6は必ずしも備える必要はなく、当該モータ6を省略してもよい。なお、このように構成した場合、モータ・エンジン走行ではエンジン7と共に第2モータ3を運転すればよい。或いはモータ・エンジン走行を省略して、走行モードとしてエンジン走行及びモータ走行のみを実行するようにしてもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、変速中にHEVECU14の制御インターバル毎にトルク補正ルーチンを実行して、逐次目標加速度Gtgtと実加速度Grealとの差に基づき補償トルクを補正したが、必ずしも制御インターバル毎に補正処理を実行する必要はなく、また補正処理を加速度差ΔGに基づいて実行する必要もない。例えば、変速中のあるタイミングで目標加速度Gtgtと実加速度Grealとの比率などに基づき補償トルクを補正し、その後は補正後の補償トルクを適用し続けるようにしてもよい。この場合でも変速開始当初のマップなどによる補償トルクを適切に補正できることから、補正後は目標加速度Gtgtのラインに沿って実加速度Grealを低下させて不自然な加速度変動を抑制することができる。
【0039】
また、上記実施形態では、シフトアップ方向への全ての変速で第2モータ3により補償トルクを発生させると共に、加速度Gに基づく補償トルクの補正処理を実行したが、これに限ることはない。例えば高ギヤ側の変速では運転者が不自然な加速度変動を感じ難いことから、所定変速段以上では補償トルクの補正処理を行わないようにしてもよいし、第2モータ3によるトルク補償自体を行わないようにしてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、変速開始当初から第2モータ3を運転させてマップに基づく補償トルクを発生させたが、これに限ることはなく、例えば変速開始当初には補償トルクを発生させなくてもよい。この場合には変速開始と共に実加速度Grealがほぼ0まで低下するが、その直後に目標加速度Gtgtと実加速度Grealとの差に基づき補償トルクが急激に増加側に補正されるため、結果として目標加速度Gtgtのラインに沿って実加速度Grealを低下させることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 前輪(駆動輪)
3 第2モータ(モータ)
4 変速機
6 第1モータ(走行用動力源)
7 エンジン(走行用動力源)
14 HEVECU(モータアシスト制御手段、目標加速度設定手段)
21 加速度センサ(実加速度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される走行用動力源に対しクラッチを介して変速機を連結し、該変速機に対し電動モータを介して上記車両の駆動輪を連結して構成され、上記クラッチを接続して上記走行用動力源のトルクを変速機の所定の変速段を介して上記駆動輪に伝達する一方、該変速機を変速する際に上記クラッチを切断すると共に上記電動モータを作動してモータトルクを上記駆動輪に伝達するトルク補償制御を実行するモータアシスト制御手段を備えるハイブリッド車両の制御装置において、
上記変速機の変速中における上記クラッチの切断に伴う前記車両の減速を補うように上記車両の目標加速度を設定する目標加速度設定手段と、
上記車両の実加速度を検出する実加速度検出手段と、を有し、
上記モータアシスト制御手段は、上記実加速度と上記目標加速度との差を縮小するように上記クラッチが切断されている際の上記電動モータのトルク量を決定して、該トルク量を上記駆動輪に伝達する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
上記目標加速度設定手段は、現変速段により得られる実加速度から次変速段により得られる実加速度まで実加速度の減少率が減少するように上記目標加速度を設定する
ことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
上記目標加速度設定手段は、少なくとも上記変速機の変速中における運転者によるアクセル操作量、変速前後の変速段、及び上記車両が走行中の道路勾配に基づき上記車両の目標加速度を設定する
ことを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43503(P2013−43503A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181413(P2011−181413)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】