説明

ハイブリッド車両の始動制御装置

【課題】極低温時等のバッテリの内部抵抗が大きい状態でも、バッテリの消費電力量を少なくして、エンジンの始動ができるハイブリッド車両の始動制御装置を提供すること。
【解決手段】統合コントローラ20は、バッテリ温度センサ18で検出される温度が設定値よりも低い状態で前記エンジン1を始動制御する際に、エンジン回転センサ10がエンジン1の稼働を検出するまではモータジェネレータ2を低回転数で作動制御し、エンジン回転センサ10が前記エンジン1の稼働を検出した後はモータジェネレータ2を高回転数で作動制御するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行モードとしてハイブリッド車モードと電気自動車モードを有するハイブリッド車両の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両としては、エンジンとモータジェネレータ間に伝達トルク容量を変更可能な第1クラッチを介在させると共に、モータジェネレータと車両の駆動輪間に伝達トルク容量を変更可能な第2クラッチを介在させたものがある。このようなハイブリッド車両では、走行モードとしてハイブリッド車モード(以下、「HEVモード」という。)と電気自動車モード(以下、「EVモード」という。)が設けられている。
【0003】
このハイブリッド車モードでは、第1クラッチを締結状態にすると共に第2クラッチを締結状態にすることで、エンジンの動力とモータジェネレータの動力を駆動輪に伝達するようになっている。また、電気自動車モードでは、第1クラッチを開放状態にすると共に第2クラッチを締結状態にすることで、モータジェネレータの動力を駆動輪に伝達するようになっている。
【0004】
また、第1クラッチを締結状態にすると共に第2クラッチを開放状態にして、モータ/ジェネレータを作動させることにより、モータジェネレータをエンジン始動時のエンジン始動装置としても用いるようにしている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−69789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のハイブリッド車両においては、極低温時等にバッテリの内部抵抗が大きい状態で、モータジェネレータをバッテリーの電力により作動させて、エンジンのクランクをアイドル回転で回転させることにより、エンジンを始動すると、バッテリの消費電力量が大きくなる。
【0007】
この極低温時等のエンジン始動に際して、バッテリの消費電力量が許容量を超えると、エンジンの始動ができないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、極低温時等のバッテリの内部抵抗が大きい状態でも、バッテリの消費電力量を少なくして、エンジンの始動ができるハイブリッド車両の始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の始動制御装置は、エンジンと、前記エンジンから駆動輪への駆動系に設けられ、力行により前記エンジンの始動と前記駆動輪の駆動を行い、回生により発電を行うモータジェネレータを有する。また、始動制御装置は、前記エンジンと前記モータジェネレータの連結部に設けられ、前記エンジンと前記モータジェネレータを駆動源とするハイブリッド車モードと、前記モータジェネレータを駆動源とする電気自動車モードと、を切り替えるモード切り替え手段を有する。更に、始動制御装置は、前記モータジェネレータと前記駆動輪との間に設けられたクラッチ要素と、前記エンジンの動作状態を検出して動作状態検出信号を出力するエンジン動作検出手段と、前記モータジェネレータの回転数を検出してモータ回転数検出信号を出力するモータ回転センサを有する。また、始動制御装置は、前記エンジンの始動時に前記クラッチ要素を開放状態に制御し、且つ、前記モード切り替え手段を作動制御して前記モータジェネレータの回転を前記エンジンに伝達させて、前記エンジンの始動制御を行う制御手段を備えている。そして、前記制御手段は、前記動作状態検出信号と前記モータ回転数検出信号に基づいて前記モータジェネレータの回転制御をおこなうようになっている。更に、ハイブリッド車両の始動制御装置は、 前記モータジェネレータに電力を供給するバッテリと、前記バッテリの温度を直接又は間接的に検出する温度センサとを備えている。しかも、前記制御手段は、温度センサで検出される温度が設定値よりも低い状態で前記エンジンを始動制御する際に、前記エンジン動作検出手段が前記エンジンの稼働を検出するまでは前記モータジェネレータを低回転数で作動制御し、前記エンジン動作検出手段が前記エンジンの稼働を検出した後は前記モータジェネレータを高回転数で作動制御するようになっている。
【発明の効果】
【0010】
この構成によれば、極低温時等のバッテリの内部抵抗が大きい状態でも、バッテリの消費電力量を少なくして、エンジンの始動ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両のパワートレインを示すパワートレイン構成図である。
【図2】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御システムを示す制御システム構成図である。
【図3】実施例1の統合コントローラを示す演算ブロック図である。
【図4】実施例1の制御装置で用いられる目標定常トルクマップ(a)とMGアシストトルクマップ(b)を示すマップ図である。
【図5】実施例1の制御装置で用いられるエンジン始動停止線マップを示すマップ図である。
【図6】実施例1の制御装置で用いられるバッテリSOCに対する走行中発電要求出力を示す特性図である。
【図7】実施例1の制御装置で用いられるエンジンの最適燃費線を示す特性図である。
【図8】実施例1の自動変速機における変速線の一例を示す変速マップ図である。
【図9】実施例1の統合コントローラにて実行されるモード遷移制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】実施例1の統合コントローラにて実行されるモード遷移制御処理のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
まず、構成を説明する。図1は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両のパワートレイン構成図である。以下、図1に基づきパワートレインの構成を説明する。
【0014】
実施例1のハイブリッド車両の制御装置は、図1に示すように、エンジン1と、モータジェネレータ(以下、モータジェネレータまたは単に「モータ」という略称のいずれかを用いて説明する。)2と、自動変速機3と、第1クラッチ4(モード切り替え手段)と、第2クラッチ5と、ディファレンシャルギア6と、タイヤ7,7(駆動輪)と、を備えている。
【0015】
実施例1のハイブリッド車両は、エンジンと1モータ・2クラッチを備えたパワートレイン構成であり、走行モードとして、第1クラッチ4の締結によるHEVモードと、第1クラッチ4の解放によるEVモードと、を有する。
【0016】
前記エンジン1は、その出力軸とモータジェネレータ2(略称MG)の入力軸とが、トルク容量可変の第1クラッチ4(略称CL1)を介して連結される。
【0017】
前記モータジェネレータ2は、その出力軸と自動変速機3(略称AT)の入力軸とが連結される。
【0018】
前記自動変速機3は、その出力軸にディファレンシャルギア6を介してタイヤ7,7が連結される。
【0019】
前記第2クラッチ5(略称CL2)は、自動変速機3のシフト状態に応じて異なる変速機内の動力伝達を担っているトルク容量可変のクラッチ・ブレーキによる締結要素のうち、1つを用いている。これにより自動変速機3は、第1クラッチ4を介して入力されるエンジン1の動力と、モータジェネレータ2から入力される動力を合成してタイヤ7,7へ出力する。
【0020】
前記第1クラッチ4と前記第2クラッチ5とには、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチ等を用いればよい。このパワートレイン系には、第1クラッチ4の接続状態に応じて2つの運転モードがあり、第1クラッチ4の切断状態では、モータジェネレータ2の動力のみで走行するEVモードであり、第1クラッチ4の接続状態では、エンジン1とモータジェネレータ2の動力で走行するHEVモードである。
【0021】
そして、パワートレインには、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転センサ10と、モータジェネレータ2の回転数を検出するMG回転センサ11と、自動変速機3の入力軸回転数を検出するAT入力回転センサ12と、自動変速機3の出力軸回転数を検出するAT出力回転センサ13と、が設けられる。
【0022】
図2は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御システムを示す制御システム構成図である。以下、図2に基づいて制御システム構成を説明する。
【0023】
実施例1の制御システムは、図2に示すように、統合コントローラ20と、エンジンコントローラ21と、モータコントローラ22と、インバータ8と、バッテリ9と、ソレノイドバルブ14と、ソレノイドバルブ15と、アクセル開度センサ17と、ブレーキ油圧センサ23と、SOCセンサ16と、を備えている。また、この制御システムは、バッテリ9の温度を検出するバッテリ温度センサ18と、エンジン水温を検出する水温センサ19を有する。尚、このバッテリ温度センサ18は、バッテリ9の温度ではなく車両周囲の温度を検出するセンサであっても良い。
【0024】
前記統合コントローラ20は、パワートレイン系の動作点を統合制御する。この統合コントローラ20では、アクセル開度APOとバッテリ充電状態SOCと、車速VSP(自動変速機出力軸回転数に比例)と、に応じて、運転者が望む駆動力を実現できる運転モードを選択する。そして、モータコントローラ22に目標MGトルクもしくは目標MG回転数を指令し、エンジンコントローラ21に目標エンジントルクを指令し、ソレノイドバルブ14,15に駆動信号を指令する。
【0025】
また、統合コントローラ20には、バッテリ温度センサ18からの温度検出信号が入力されると共に、車両のアクセサリスイッチACCからのオン・オフ信号およびイグニッションスイッチIGNからのオン・オフ信号が入力されようになっている。また、統合コントローラ20には、エンジン1の回転トルクを検出するトルクセンサEtsからのトルク検出信号が入力される。そして、統合コントローラ20は入力されるトルク検出信号から実際のトルクを求める。
【0026】
前記エンジンコントローラ21は、エンジン1を制御する。前記モータコントローラ22は、モータジェネレータ2を制御する。前記インバータ8は、モータジェネレータ2を駆動する。前記バッテリ9は、電気エネルギーを蓄える。前記ソレノイドバルブ14は、第1クラッチ4の油圧を制御する。前記ソレノイドバルブ15は、第2クラッチ5の油圧を制御する。前記アクセル開度センサ17は、アクセル開度(APO)を検出する。前記ブレーキ油圧センサ23は、ブレーキ油圧(BPS)を検出する。前記SOCセンサ16は、バッテリ9の充電状態を検出する。
【0027】
図3は、実施例1の統合コントローラ20を示す演算ブロック図である。以下、図3に基づいて統合コントローラ20の構成を説明する。
【0028】
前記統合コントローラ20は、図3に示すように、目標駆動トルク演算部100と、モード選択部200と、目標発電出力演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を備えている。
【0029】
前記目標駆動トルク演算部100は、図4(a)に示す目標定常トルクマップと、図4(b)に示すMGアシストトルクマップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPから、目標定常駆動トルクとMGアシストトルクを算出する。
【0030】
前記モード選択部200は、図5に示す車速毎のアクセル開度で設定されているエンジン始動停止線マップを用いて、運転モード(HEVモード、EVモード)を演算する。エンジン始動線とエンジン停止線は、エンジン始動線(SOC高、SOC低)とエンジン停止線(SOC高、SOC低)の特性に代表されるように、バッテリSOCが低くなるにつれて、アクセル開度APOが小さくなる方向に低下する特性として設定されている。ここで、エンジン始動処理は、EVモード状態で図5に示すエンジン始動線をアクセル開度APOが越えた時点で、第2クラッチ5を半クラッチ状態にスリップさせるように、第2クラッチ5のトルク容量を制御する。そして、第2クラッチ5がスリップ開始したと判断した後に第1クラッチ4の締結を開始してエンジン回転を上昇させる。エンジン回転が初爆可能な回転数に達成したらエンジン1を燃焼作動させ、モータ回転数とエンジン回転数が近くなったところで第1クラッチ4を完全に締結する。その後、第2クラッチ5をロックアップさせてHEVモードに遷移させることをいう。
【0031】
前記目標発電出力演算部300は、図6に示す走行中発電要求出力マップを用いて、バッテリ充電状態SOCから目標発電出力を演算する。また、現在の動作点から図7で示す最適燃費線までエンジントルクを上げるために必要な出力を演算し、前記目標発電出力と比較して少ない出力を要求出力として、エンジン出力に加算する。
【0032】
前記動作点指令部400では、アクセル開度APOと目標定常トルク,MGアシストトルクと目標モードと車速VSPと要求発電出力とを入力する。そして、これらの入力情報を動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標MGトルクと目標CL2トルク容量と目標変速比とCL1ソレノイド電流指令を演算する。
【0033】
前記変速制御部500は、目標CL2トルク容量と目標変速比とから、これらを達成するように自動変速機3内のソレノイドバルブを駆動制御する。図8に変速制御で用いられる変速線マップの一例を示す。車速VSPとアクセル開度APOから現在の変速段から次変速段をいくつにするか判定し、変速要求があれば変速クラッチを制御して変速させる。
<バッテリ9や車両の周囲温度が通常の条件下でのエンジン始動制御等>
【0034】
統合コントローラ20は、バッテリ9または車両周囲の温度をバッテリ温度センサ18により検出する。そして、バッテリ9または車両周囲の温度が通常の温度であれば、統合コントローラ20の目標駆動トルク演算部100,モード選択部200,目標発電出力演算部300,動作点指令部400,変速制御部500は、上述した図4(a)〜図8に示した各マップに基づく制御を実行する。
<バッテリ9や車両の周囲温度が極低温時のエンジン始動制御>
【0035】
また、統合コントローラ20は、車両の周囲温度が極低温時等に図9に示したフローチャートおよび図10に示したタイムチャートに基づいてエンジンの始動制御を行うように設定されている。
【0036】
車両のアクセサリスイッチACCが図10の時間t0でオンされると、統合コントローラ20は図9に示したフローチャートに基づいてエンジン始動の制御動作を開始する。この図10において、Mndはモータジェネレータ2の目標モータ回転数設定線を示し、EMnはモータジェネレータ2の実際の回転数(実モータ回転数)およびエンジン1の実際の回転数(実エンジン回転数)の実回転特性線を示す。
この目標モータ回転数設定線Mndにおいて、N1はモータジェネレータ2の初爆フェーズ(phase1)の目標低回転数(例えば150rpm)を示し、Nxはモータジェネレータ2の回転数を目標低回転数N1から徐々に傾斜上昇させる第1完爆フェーズ(phase2)の目標上昇回転数を示し、N2はモータジェネレータ2の第2完爆フェーズ(phase3)の目標高回転数(例えば1000rpm)を示す(N1<Nx<N2)。
また、Mtはモータジェネレータ2の実際のモータトルク線(実モータトルク線)を示し、Mt0はモータトルク線Mtの下限トルク「0Nm」であり、Mt1はモータトルク線Mtのphase1における上モータトルクで下限トルクMt0より大きい値である。Etdはエンジン1の目標エンジントルク設定線を示し、Etxはエンジン1の実際のトルク変化線を示す。この目標エンジントルク設定線Etdにおいて、Etd1は目標エンジン低回転トルクを示し、Etd2は目標エンジン高回転トルクを示す。
【0037】
統合コントローラ20は、車両のアクセサリスイッチACCがオンされると、ステップS1においてイグニッションIGNがオンしているか否かを判断する。この判断において、イグニッションIGNがオンしていなければ終了し、イグニッションIGNが図10の時間t1でオンしていればステップS2に移行する。
【0038】
このステップS2において統合コントローラ20は、バッテリ温度センサ18からの温度検出信号からバッテリ9又はその周囲の温度が低温(極低温)か否かを判断する。そして、バッテリ9又はその周囲の温度が低温(極低温)でなければステップS2−1に移行し、バッテリ9又はその周囲の温度が低温(極低温)であればステップS3に移行する。
【0039】
このステップS2−1では、水温センサ19からの水温検出信号からエンジン水温が低温(極低温)か否かが判断され、低温でなければ処理を終了し、低温であればステップS3に移行する。このエンジン水温は、車両のCANシステムを介して得られる。
【0040】
このステップS3において統合コントローラ20は、モータジェネレータ(モータ)2の目標回転数を「低回転でのクランキング回転数」すなわち図10のphase1で目標低回転数N1に設定して、モータジェネレータ(モータ)2を設定した目標低回転数N1で回転制御することにより、エンジン1を低回転で駆動させ、ステップS4に移行する。ここで、クランキングとはエンジン1のクランクシャフトを回転させることを言い、クランキング回転数とはエンジン1のクランクシャフト回転数を言う。また、実際のモータトルク(実モータトルク)は、phase1(初爆フェーズ1)ではMt1になる。
【0041】
ステップS4において統合コントローラ20は、エンジン回転センサ10からの回転検出信号に基づいてエンジン1の回転数が閾値(目標低回転数N1より上の値)以上か否かを判断し、閾値以下の場合にはステップS3に戻ってループし、閾値以上の場合にはステップS5に移行する。
【0042】
尚、図10のphase1においては、時間t2になると、エンジン1およびモータジェネレータ2の実際の回転数Emnがモータジェネレータ2の目標低回転数N1を超え、実際のエンジントルクがエンジントルク変化線Etxで示したように上昇し始める。この時間t1からt2までの時間は、車両の仕様により異なるので、車両の仕様に応じて予め試験等で求めておくものとする。
【0043】
そして、時間t1からt2までの時間より長い時間を目標低回転数N1を超える時間t3として求めて、時間t3のときに閾値(目標低回転数N1より上の値、例えば500rpm)を超えたとする。この時間t3では実際のエンジントルクがエンジントルク変化線Etxで示したように目標エンジン低回転トルクEtd1を超えた状態となる。従って、本実例では、時間t1からt3までの時間を例えば2.5秒とする。
【0044】
尚、エンジン1が初爆すなわち始動初期に点火して作動し始めたかの判断を行う条件としての時間t3は、例えば時間t1から2.5秒のときに設定する。この時間t1から時間t3までの秒数(期間)は、例えば時間t1からエンジン回転センサ10で検出されるエンジン1の回転数を500rpm又はその前後の値になるまでの秒数を大まかに設定したものである。
また、エンジン1が初爆すなわち始動初期に点火して作動し始めたかの判断を行う条件として、上述した目標低回転数N1より上の値の閾値を設定することもできる。この閾値である目標低回転数N1より上の値としては、例えば上述したようなエンジン1の回転数500rpmとすることができる。
従って、この場合の閾値を以上か否かの判断は、エンジン1の回転数が500rpmに等しいか、又はエンジン1の回転数が500rpmより大きいかの判断になる(エンジン回転数>500rpm又はエンジン回転数=500rpm)。この閾値の値は、一例を示したもので、車両の仕様により異なる。
更に、エンジン1の初爆すなわち始動初期に点火して作動し始めたかの判断を行う条件としては、目標低回転数N1以上の値(例えば、500rpm)に加えて、図10のモータトルク線Mtで示したモータジェネレータ2のモータトルクを用いることもできる。この場合、モータジェネレータ2のモータトルクとしては、モータジェネレータ2の推定MGトルク(推定モータトルク)を用いる。
この推定MGトルク(推定モータトルク)を用いての判定では、推定MGトルクが極低温始動時完爆判定トルク(モータトルク線Mtで示したモータトルクMt1)より小さいか否かを判定する。この際、モータトルクMt1(極低温始動時完爆判定トルク)は例えば10Nmとし、この極低温始動時完爆判定トルク10Nmが0.1秒継続していることを条件とする。従って、モータトルクが時間t1からMt1まで上昇して、Mt1になってから時間t2まで0.1秒継続していることを条件とする。尚このモータジェネレータ2の実際のモータトルクは、モータジェネレータ2の回転数とモータジェネレータ2に流れる電流等から推定MGトルク(推定モータトルク)として検出できる。
【0045】
このような閾値は、エンジン1が供給される燃料により燃焼・排気を繰り返して稼働し始めたか否かの判断に用いられる値であり、車両の仕様により異なる。そして、このエンジン1の回転数が閾値を超えると、エンジン1が稼働したと判断できる。しかも、エンジントルクがエンジン1の可動部のフリクション(摩擦抵抗)に打ち勝って始動が完了するまでの時間を短縮できる。
【0046】
ステップS5において統合コントローラ20は、モータジェネレータ(モータ)2の目標回転が目標低回転数N1から「高回転でのクランキング回転数」すなわち目標高回転数N2になるまでphase2(第2完爆フェーズ)の目標上昇回転数Nxで示したように時間t3から時間t4の間で徐々に上昇するようにランプ(傾斜)上昇させて、ステップS6に移行する。
【0047】
ここで、エンジン1の回転がステップS4において時間t2で閾値(目標低回転数N1より上の値)を超えてエンジン1が稼働すると、モータトルク線Mtで示した実際のモータトルクMt1が時間t2から減少し始めるので、モータジェネレータ(モータ)2への負トルクすなわちモータジェネレータ(モータ)2の回転方向とは逆方向のトルク量(FB量)が減少し(制限され)、速やかに高回転側にエンジン1のクランキング回転数を上昇させることができ、エンジントルクがエンジン1の可動部のフリクション(摩擦抵抗)に打ち勝って始動が完了するまでの時間を短縮できる。
【0048】
また、モータジェネレータ(モータ)2の目標回転を「高回転でのクランキング回転数」まで徐々に上昇するようにランプ(傾斜)上昇させることで、バッテリ9の消費電力量を低減できる。
【0049】
ステップS6において統合コントローラ20は、モータジェネレータ(モータ)2の目標回転が「高回転でのクランキング回転数」まで到達したか否かを判断する。そして、モータジェネレータ(モータ)2の目標回転が「高回転でのクランキング回転数」すなわち目標高回転数N2まで到達していなければステップS5に戻ってループし、モータジェネレータ(モータ)2の目標回転が時間t4で示したように「高回転でのクランキング回転数」すなわち目標高回転数N2まで到達していればステップS7に移行する。
【0050】
このステップS7において統合コントローラ20は、モータジェネレータ(モータ)2の目標回転が「高回転でのクランキング回転数」すなわち目標高回転数N2に設定して、高い回転数でエンジン1をクランキングさせ、ステップS8に移行する。
【0051】
このステップS8において統合コントローラ20は、エンジン1が供給される燃料により燃焼・排気を繰り返して稼働し、エンジン1がモータジェネレータ2の回転トルク無しで自立稼働できるか否かが判断される。この判断において、エンジン1がモータジェネレータ2の回転トルク無しで自立稼働できない場合にはステップS7に戻ってループし、エンジン1がモータジェネレータ2の回転トルク無しで自立稼働できる場合には終了する。
【0052】
ここで、実際のモータトルクは、実際のモータトルク線Mtにおけるように時間t5で下限トルクMt0「=0Nm」より減少し始めて、時間t5から時間t7まで更に減少して、時間t7以後は一定のマイナスのモータトルクMt2となるので、時間t4から時間t6までの期間をphase3(第2完爆フェーズ)とし、時間t6から時間t7の間で目標エンジントルクを目標エンジン低回転トルクEtd1から目標エンジン高回転トルクEtd2に切り替えて、この時間t7以降を目標エンジン高回転トルクEtd2に設定する。そして、実際のエンジントルクは、エンジントルク線Etxで示したように、時間t8で目標エンジン高回転トルクEtd2まで達する。従って、時間t8以降はエンジン1がモータジェネレータ2の回転トルク無しで自立稼働できることになるので、実際には目標エンジン高回転トルクEtd2と実際のエンジントルクとをエンジン1の自立稼働の判断条件とすることができる。
【0053】
以上説明したように、この発明の実施例のハイブリッド車両の始動制御装置は、エンジン1と、前記エンジン1から駆動輪(タイヤ7)への駆動系に設けられ、力行により前記エンジン1の始動と前記駆動輪(タイヤ7)の駆動を行い、回生により発電を行うモータジェネレータ2をそなえている。また、始動制御装置は、前記エンジン1と前記モータジェネレータ2の連結部に設けられ、前記エンジン1と前記モータジェネレータ2を駆動源とするハイブリッド車モードと、前記モータジェネレータ1を駆動源とする電気自動車モードと、を切り替えるモード切り替え手段(第1クラッチ4)を有する。更に、始動制御装置は、前記モータジェネレータ2と前記駆動輪(タイヤ7)との間に設けられたクラッチ要素(第2クラッチ5)と、前記エンジン1の動作状態を検出して動作状態検出信号を出力するエンジン動作検出手段(エンジン回転センサ10)と、前記モータジェネレータ2の回転数を検出してモータ回転数検出信号を出力するモータ回転センサ(MG回転センサ11)と、前記エンジンの始動時に前記クラッチ要素(第2クラッチ5)を開放状態に制御し、且つ、前記モード切り替え手段(第1クラッチ4)を作動制御して前記モータジェネレータ2の回転を前記エンジン1に伝達させて、前記エンジン1の始動制御を行う制御手段(統合コントローラ20)と、を備えている。また、前記制御手段(統合コントローラ20)は、前記動作状態検出信号と前記モータ回転数検出信号に基づいて前記モータジェネレータ2の回転制御をおこなうようになっている。しかも、始動制御装置には、前記モータジェネレータ2に電力を供給するバッテリ9と、前記バッテリ9の温度を直接又は間接的に検出するバッテリ温度センサ18とを更に備えている。しかも、前記制御手段(統合コントローラ20)は、バッテリ温度センサ18で検出される温度が設定値よりも低い状態で前記エンジン1を始動制御する際に、前記エンジン動作検出手段(エンジン回転センサ10)が前記エンジン1の稼働を検出するまでは前記モータジェネレータ2を低回転数で作動制御し、前記エンジン動作検出手段(エンジン回転センサ10)が前記エンジン1の稼働を検出した後は前記モータジェネレータ2を高回転数で作動制御するようになっている。
【0054】
この構成によれば、極低温時等において、エンジン1の可動部のフリクション(摩擦抵抗)が大きく、バッテリ9の内部抵抗が大きいためにバッテリ9の発生できる電力量が少ない場合でも、エンジン始動時にエンジン1をモータジェネレータ2で低回転で駆動させることにより、エンジン1が供給される燃料に点火されて稼働するまで、バッテリ9の消費電力量を少なくできる。また、エンジン1の稼働後はエンジン1をモータジェネレータ2で高回転で駆動させることにより、エンジン1の稼働後はエンジン1の可動部のフリクションが低減する時間を短縮できる。これにより、バッテリの使用電力量を最小にしつつ、エンジントルクがフリクションに打ち勝つ(始動完了)までの時間を短縮できる。
【0055】
また、この発明の実施例のハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジン動作検出手段は前記エンジンの回転数を検出してエンジン回転数検出信号を出力するエンジン回転センサ10であると共に、前記制御手段(統合コントローラ20)は、エンジン回転数検出信号が設定された閾値になったときに前記エンジンが稼働したと判断して、前記モータジェネレータ2の回転数を上げて前記エンジン回転数を高くするようになっている。
【0056】
この構成によれば、エンジン回転数が閾値以上になったことで、エンジン1が供給される燃料に点火されて稼働したことを検出できるので、モータジェネレータ2によるエンジン1の回転を速やかに高回転のクランキング回転数に移行することで、エンジントルクがフリクションに打ち勝つ(始動完了)までの時間を短縮できる。
【0057】
更に、この発明の実施例のハイブリッド車両の制御装置において、前記制御手段は(統合コントローラ20)、エンジン回転数検出信号が設定された閾値になったときに前記エンジン1が稼働したと判断したとき、前記モータジェネレータ2を作動させる前記バッテリ9の電力消費量が許容量を超えない範囲で、前記エンジン1から前記モータジェネレータ2への回転反力が小さくなる方向に前記モータジェネレータ2の回転数を上げるようになっている。
【0058】
この構成によれば、モータジェネレータ2によるエンジン1の回転を速やかに高回転のクランキング回転数に移行することができ、エンジントルクがフリクションに打ち勝つ(始動完了)までの時間を短縮できる。
【0059】
また、この発明の実施例の形態のハイブリッド車両の制御装置において、前記制御手段は(統合コントローラ20)、前記モータジェネレータ2の回転数の上昇状態に傾斜を持たせるようになっている。
【0060】
この構成によれば、エンジン1の回転数を上昇させるのに必要なバッテリ9の電力量を低減させることができる。
【符号の説明】
【0061】
1・・・エンジン
2・・・モータジェネレータ
4・・・第1クラッチ(モード切り替え手段)
5・・・第2クラッチ(クラッチ要素)
7・・・タイヤ(駆動輪)
9・・・バッテリ
10・・・エンジン回転センサ(エンジン動作検出手段)
11・・・MG回転センサ(モータ回転センサ)
18・・・バッテリ温度センサ
20・・・統合コントローラ(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンから駆動輪への駆動系に設けられ、力行により前記エンジンの始動と前記駆動輪の駆動を行い、回生により発電を行うモータジェネレータと、
前記エンジンと前記モータジェネレータの連結部に設けられ、前記エンジンと前記モータジェネレータを駆動源とするハイブリッド車モードと、前記モータジェネレータを駆動源とする電気自動車モードと、を切り替えるモード切り替え手段と、
前記モータジェネレータと前記駆動輪との間に設けられたクラッチ要素と、
前記エンジンの動作状態を検出して動作状態検出信号を出力するエンジン動作検出手段と、
前記モータジェネレータの回転数を検出してモータ回転数検出信号を出力するモータ回転センサと、
前記エンジンの始動時に前記クラッチ要素を開放状態に制御し、且つ、前記モード切り替え手段を作動制御して前記モータジェネレータの回転を前記エンジンに伝達させて、前記エンジンの始動制御を行う制御手段と、を備えると共に、
前記制御手段は、前記動作状態検出信号と前記モータ回転数検出信号に基づいて前記モータジェネレータの回転制御をおこなうハイブリッド車両の始動制御装置において、
前記モータジェネレータに電力を供給するバッテリと、前記バッテリの温度を直接又は間接的に検出する温度センサとを備えるとともに、
前記制御手段は、温度センサで検出される温度が設定値よりも低い状態で前記エンジンを始動制御する際に、前記エンジン動作検出手段が前記エンジンの稼働を検出するまでは前記モータジェネレータを低回転数で作動制御し、前記エンジン動作検出手段が前記エンジンの稼働を検出した後は前記モータジェネレータを高回転数で作動制御することを特徴とするハイブリッド車両の始動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジン動作検出手段は前記エンジンの回転数を検出してエンジン回転数検出信号を出力するエンジン回転センサであると共に、
前記制御手段は、エンジン回転数検出信号が設定された閾値になったときに前記エンジンが稼働したと判断して、前記モータジェネレータの回転数を上げて前記エンジン回転数を高くすることを特徴とするハイブリッド車両の始動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、前記制御手段は、エンジン回転数検出信号が設定された閾値になったときに前記エンジンが稼働したと判断したとき、前記モータジェネレータを作動させる前記バッテリの電力消費量が許容量を超えない範囲で、前記エンジンから前記モータジェネレータへの回転反力が小さくなる方向に前記モータジェネレータの回転数を上げることを特徴とするハイブリッド車両の始動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、前記制御手段は、前記モータジェネレータの回転数の上昇状態に傾斜を持たせることを特徴とするハイブリッド車両の始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−86783(P2012−86783A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237259(P2010−237259)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】