説明

ハイブリッド車両の自動変速機とその接合方法

【課題】ハイブリッド車両の自動変速機ケースからの冷却水の漏洩を防止する。
【解決手段】本発明は、内部に駆動用及び発電用のモータ4、5を配置する円筒状のケース1を有するハイブリッド車両の自動変速機において、前記ケースに、一端が開口する溝部2c、2dと、この溝部の開口部を塞ぐ蓋3とからなり、前記ケースと前記蓋との接合面S1、S2を接合することにより前記溝部内に形成され、冷却水が循環する冷却水通路2a、2bを備え、冷却水が前記冷却水通路を循環して前記モータを冷却することを特徴とするハイブリッド車両の自動変速機である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の自動変速機とその接合方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両の自動変速機の自動変速機ケースの内面には、駆動用あるいは発電用のモータ/ジェネレータ(以下、M/Gという。)が固定される。M/Gは稼動により発熱するため、放熱のための冷却水が必要となり、冷却水を循環させるための冷却水通路がケースに形成される。
【0003】
従来、ケースは鋳造により製造することが一般的であり、ケースに冷却水通路を形成する方法としては、一端が外部に開放された形状で冷却水通路をケースに形成し、その開口部をOリングを介した蓋を用いて密閉して冷却水通路を形成する方法がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、Oリングを用いたシール部から冷却水が漏洩した場合に、その冷却水が自動変速機内に入り込み、潤滑油と混入し、その割合が0.5%程度に達すると内部に配置されたクラッチの締結特性に悪影響が出ることが知られている。
【0005】
しかしながら、従来技術のようなOリングのシール性は、要求されるシール性を担保できず、漏洩した冷却水が変速機内に混入しない位置に冷却水通路を設定することで対処しており、必ずしも冷却性能の観点から最適な位置に冷却水通路を配設することができないという課題がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、冷却水通路を設けたハイブリッド車両の自動変速機において、冷却水の漏洩を確実に防止する冷却水通路の構成を備えたケースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内部に駆動用及び発電用のモータを配置する円筒状のケースを有するハイブリッド車両の自動変速機において、前記ケースに、一端が開口する溝部と、この溝部の開口部を塞ぐ蓋とからなり、前記ケースと前記蓋との接合面を接合することにより前記溝部内に形成され、冷却水が循環する冷却水通路を備え、冷却水が前記冷却水通路を循環して前記モータを冷却することを特徴とするハイブリッド車両の自動変速機である。
【0008】
また、本発明は、内部に駆動用及び発電用のモータを配置する円筒状のケースを有するハイブリッド車両の自動変速機において、前記ケースに一端が開口する溝部を形成し、この溝部の開口部を蓋により塞ぎ、前記ケースの前記蓋との接合面からオフセットした位置に設けられた摩擦撹拌接合時の始点となる孔部に摩擦撹拌接合用の工具を配置し、前記接合面に前記工具を回転しつつ押し当てて摩擦撹拌接合し、前記接合面を摩擦撹拌接合することにより前記溝部内に冷却水が循環して前記モータを冷却する冷却水通路を形成することを特徴とするハイブリッド車両の自動変速機の接合方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、冷却水通路を形成する溝部と蓋との接合面を接合することにより、接合面からの冷却水の漏洩を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明を適用するハイブリッド車両の自動変速機ケースの部分断面図である。図は、自動変速機の円筒状のケース1の内面に軸方向に並んで2個の第1M/G4、第2M/G5を固定する構成を示す。図示しないが、図において、左側にクラッチ機構及びエンジンが配置され、右側に変速機構が配置される。
【0011】
自動変速機のケース1は、径違いの第1段部1a、第2段部1bを備え、大径側の第1段部1aの内面1cに第1M/G4がエンジン側から圧入固定される。一方、小径側の第2段部1bの内面1dに第2M/G5が変速機側から圧入固定される。
【0012】
第1段部1a、第2段部1bには、第1M/G4、第2M/G5の冷却のための冷却水が循環する冷却水通路2a、2bが第1段部1aと第2段部1bの段差を利用して環状に設けられる。これら冷却水通路2a、2bは、ケース1が鋳造にて製造される際に軸方向に一端が開口して形成される環状の溝部2c、2dと、この溝部の開口部を閉じる環状の蓋3とからなり、後述する接合方法でケース1と蓋3との接合面を接合することで形成される。
【0013】
図2は、ケース1と蓋3との接合方法を説明する図である。
【0014】
ケース1の第1段差部1a及び第2段差部1bと蓋3との接合面S1、S2が形成される端面と反対側の端面1e、1fを治具10上に載置する。この状態から、摩擦撹拌接合用の工具6が、各接合面S1、S2に沿って回転しつつ押し込まれる。接合時、工具6を接合面S1、S2に沿って押し込む力は、接合面S1、S2が形成される端面と反対側の端面1e、1fを含む肩部1g、1hにより支持される。
【0015】
図3は、ケース1と蓋3との接合に用いる摩擦撹拌接合について説明する図である。6は、摩擦撹拌接合に用いる段付円柱状の鉄系材料からなる工具であり、小径の先端部6aと大径の本体部6bとから構成される。摩擦撹拌接合法は、先端部6aの先端の端面6cと、先端部6aと本体部6bとの段差部6dとがケース1及び蓋3に接触することで摩擦により被接合材を発熱、軟化し、塑性流動を生じることで被接合材間(ケース1と蓋3)の接合面S1、S2を接合する接合法である。
【0016】
図3(a)は、接合開始時の構成を模式的に示す図であり、図において、摩擦撹拌接合を開始するために、ケース1の接合面S1、S2が露出する端面1i上のケース1の接合面S1、S2からオフセットした位置に始点孔7が形成され、工具6は、まずこの始点孔7内に配置される。始点孔7の断面形状は、工具6の先端部6aの形状と略同一に形成される。始点孔7は、ケース1の切削加工時に他の孔加工と共に切削されるため、コストの上昇や加工時間の長期化を最小限に抑制することができる。
【0017】
所定回転速度で回転する工具6が始点孔7に挿入され、所定の荷重でケース1に押し付けられると、工具6の先端部6aの端面6c及び先端部6aと本体部6bとの段差部の端面6dがケース1に接触し、端面6c、6dとケース1との摩擦によりケース1が発熱し、軟化する。ケース1が軟化し、工具6がケース1と蓋3との接合面Sを含む位置まで移動して、接合面S1、S2の摩擦撹拌接合が開始される。図3(b)に示すように、工具6は、摩擦撹拌接合に伴う塑性流動による接合領域Mを形成しつつ、接合面Sに沿って移動し、ケース1と蓋3との接合を行う。接合面S1、S2の摩擦撹拌接合を終えたら、ケース1に設定された終点位置に工具6が移動し、接合が終了する。
【0018】
図4は、工具6の移動の軌跡、つまり摩擦撹拌接合の順序を説明する図である。図4(a)は軸方向から見た第1段部1aの接合面Sを模式的に示し、図に示すように、ケース1に形成された冷却水通路2a、2bを形成する溝は、環状に形成され、この溝の開口部を塞ぐ蓋3も環状の部材である。したがって、ケース1と蓋3との接合面Sは、内側と外側とにそれぞれの接合面S1、S2が形成される。そして、図3で説明したようにケース1には蓋3の外側に位置して始点孔7が形成される。
【0019】
図4(b)に示す接合順序は、ケース1と蓋3との外側の接合面S2をまず接合し、その後に内側の接合面S1を接合するパターンであり、工具6が始点孔7から接合面S2に移動しつつ摩擦撹拌接合を行い、引き続き接合面S2に沿って周方向に摩擦撹拌接合を行う。工具6が接合面S1の接合開始点Aに戻り、外側の接合面S2から内側の接合面S1へと工具6が移動する際に、図に示すように、接合面S2の点A−点B間の接合部のラップ代を設けることにより、接合面S2の接合端部での接合品質を確実にしている。同様に、内側の接合面S1の接合においても、外側の接合面S2の接合を終えて工具6が点Bから点Cに移動し、接合面S1を接合後、接合面S1の接合開始点C−点D間のラップ代を設けて接合を行い、終点位置に移動し、工具6を被接合材から離す。このとき、終点位置には工具6の形状に沿った終点孔8が形成される。図4(c)に示すように、終点孔8は、接合面Sの接合時に形成される接合領域Mと工具6の先端部6aとが干渉しない位置に設定される。このため、終点孔8が接合面Sの接合品質へ影響を及ぼすことがない。
【0020】
このようにして、ケース1と蓋3との接合面S1、S2を摩擦撹拌接合により接合することにより、確実に接合面を接合することができ、冷却水が漏洩することがない。また、摩擦撹拌接合法は、他の溶接法に比して、接合時に生じる熱量が少なく、熱歪みが生じ難い。なお、接合面Sの接合方法は、摩擦拡散接合法に限らず、溶接等、他の接合法を用いてもよい。
【0021】
図4(c)に示す接合順序は、ケース1と蓋3の内側の接合面S1をまず接合し、その後に外側の接合面S2を接合するパターンであり、図4(b)と同様に接合箇所を切り換える際に接合端部をラップするように接合することで、接合品質を確保することができる。
【0022】
したがって、本発明では、内部に駆動用及び発電用のモータ4、5を配置するケース1を有するハイブリッド車両の自動変速機において、前記ケース1に、一端が開口する溝部2c、2dと、この溝部2c、2dの開口部を塞ぐ蓋3とにより冷却水が循環する冷却水通路2a、2bを形成し、前記ケース1と前記蓋3との接合面S1、S2を接合することにより、前記冷却水通路2a、2bからの冷却水の漏洩を防止し、冷却水が前記冷却水通路2a、2bを循環して前記モータ4、5を冷却するため、接合面を接合により確実に接合するため、接合面からの冷却水の漏洩を防止することができる。
【0023】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明と均等であることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ハイブリッド車両の自動変速機ケースの部分断面図。
【図2】ケースと蓋との摩擦撹拌接合方法を説明する図。
【図3】摩擦撹拌接合について説明する図。
【図4】摩擦撹拌接合の順序を説明する図。
【符号の説明】
【0025】
1:ケース
1a:第1段部
1b:第2段部
1g、1h:肩部
1i:端面
2a、2b:冷却水通路
2c、2d:溝部
3:蓋
4:第1M/G
5:第2M/G
6:摩擦撹拌接合用工具
7:始点孔
8:終点孔
M:接合領域
S:接合面
S1:内側接合面
S2:外側接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に駆動用及び発電用のモータを配置する円筒状のケースを有するハイブリッド車両の自動変速機において、
前記ケースに、一端が開口する溝部と、この溝部の開口部を塞ぐ蓋とからなり、前記ケースと前記蓋との接合面を接合することにより前記溝部内に形成され、冷却水が循環する冷却水通路を備え、
冷却水が前記冷却水通路を循環して前記モータを冷却することを特徴とするハイブリッド車両の自動変速機。
【請求項2】
前記接合面は、摩擦撹拌接合により接合されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の自動変速機。
【請求項3】
摩擦撹拌接合用の工具と、
前記ケースの前記接合面からオフセットした位置に設けられ、前記工具を配置し、摩擦撹拌接合時の始点となる孔部とを備えたことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の自動変速機。
【請求項4】
摩擦撹拌接合の終点を、摩擦撹拌接合により前記接合面に形成される接合領域と前記工具とが干渉しない位置としたことを特徴とする請求項2または3に記載のハイブリッド車両の自動変速機。
【請求項5】
前記冷却水通路は、前記モータの位置に隣接して形成されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の自動変速機。
【請求項6】
摩擦撹拌接合時に、摩擦撹拌接合用の工具が前記ケースを押し付ける荷重を支持する肩部を前記ケースに形成したことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の自動変速機。
【請求項7】
内部に駆動用及び発電用のモータを配置する円筒状のケースを有するハイブリッド車両の自動変速機において、
前記ケースに一端が開口する溝部を形成し、この溝部の開口部を蓋により塞ぎ、
前記ケースの前記蓋との接合面からオフセットした位置に設けられた摩擦撹拌接合時の始点となる孔部に摩擦撹拌接合用の工具を配置し、
前記接合面に前記工具を回転しつつ押し当てて摩擦撹拌接合し、
前記接合面を摩擦撹拌接合することにより前記溝部内に冷却水が循環して前記モータを冷却する冷却水通路を形成することを特徴とするハイブリッド車両の自動変速機の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−74242(P2008−74242A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255712(P2006−255712)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】