説明

ハイブリッド車両制御装置

【課題】複数の動力源を備えるハイブリッド車両において、バッテリ効率を向上する。
【解決手段】ドライバーの要求駆動力に基づき、モータの駆動力のみで走行するモータ走行モードの出力効率と、エンジン出力によりモータ発電を行いつつエンジンの駆動力で走行を行う発電走行モードの出力効率とをそれぞれ算出して比較する(S20)。効率の良い走行モードを選択する(S21およびS22)ことで、適切な走行モードを選択できる。モータ走行モードの出力効率を算出する場合、バッテリの充電に要した燃料消費に基づくエネルギー変換効率を考慮して効率を算出する。また、発電走行モードの出力効率を算出する場合、ドライバーの要求駆動力と要求発電量とに基づいて効率を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動機とを複数の駆動力源として有するハイブリッド車両のハイブリッド車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータとエンジンとで走行するハイブリッド車両の駆動装置としては、モータを複数搭載したものの他、ATとモータとの組合せ、およびCVTとモータとの組合せといった変速機とモータとを組合せたものが数種類あり、いずれも燃費向上を目的に開発が進められている。このようなハイブリッド車両はエンジンとモータとの使い方により、いくつかの走行モードを選択可能である。例えば、以下の走行モードが挙げられる。第1の走行モードは、モータを停止し、エンジンのみが駆動力を発生させることにより、車両が走行するエンジン走行モードである。第2の走行モードは、エンジンを停止しモータのみで駆動力を発生させることにより走行するモータ走行モードである。第3の走行モードは、エンジンが駆動力を発生し、モータが発電することによりエンジン駆動力の一部をバッテリ充電に回す発電走行モードである。第4の走行モードは、エンジンおよびモータが共に駆動力を発生させるモータアシストモードである。このように選択可能な複数の走行モードを走行状況に応じて適切に選択して車両を走行させることで、燃費の向上を図ることが可能である。
【0003】
このような適切な走行モードの選択手段が開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。特許文献1ではドライバーによる要求駆動力に基づき、エンジン駆動に要する燃料消費量とモータ駆動に要する燃料消費量とをそれぞれ算出し、燃料消費量の少ない駆動方法による走行モードを選択している。またエンジン駆動による走行モードを選択した場合では、発電機のエネルギー変換効率を考慮してバッテリの充電量を決定し、システム全体の効率に基づいてその充電時のエンジン出力を設定する等の技術が開示されている。
【0004】
特許文献2ではドライバーによる要求駆動力に基づき、エンジン駆動に要する燃料消費量とモータ駆動に要する燃料消費量とをそれぞれ算出し、燃料消費量が最も少なくなるようなエンジンとモータとの駆動力配分を決定している。またモータ駆動に要する燃料消費量を算出する際、過去にバッテリ電力を充電するために要した燃料消費量を考慮して実際の車両の走行状況に即したエネルギー効率の評価を行う等の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−98516号公報
【特許文献2】特開2007−239511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術においては以下のような問題がある。エンジンが動力を発生し、モータが発電を行うような発電走行モードにおいては、エンジンが車両駆動に必要なトルクよりも大きなトルクを発生させるためエンジンの駆動効率が変動する。駆動に要する燃料消費量を算出して評価する従来技術においては、ドライバーによる要求駆動力のみに基づいてエンジンの駆動効率を決定しており、発電に伴うエンジンの駆動効率の変動を考慮していないため、エネルギー効率の算出精度が十分ではない。その結果、適切な走行モードの選択ができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のハイブリッド車両制御装置は、内燃機関とモータとを協調制御することによって、内燃機関及びモータに車両の駆動のための駆動力を発生させるとともに、内燃機関が発生する内燃機関出力に応じてモータが発電出力を発生させると、発電出力によりバッテリを充電するハイブリッド車両制御装置であって、内燃機関による駆動力の発生が停止してモータのみが駆動力を発生するモータ走行モードで、内燃機関及びモータを制御する第1制御手段と、内燃機関出力により、内燃機関に駆動力を発生させるための駆動出力と、モータの発生する発電出力とが得られる発電走行モードで、内燃機関及びモータを制御する第2制御手段と、発電走行モードにおける発電出力によるバッテリの充電効率と、回生制動によるバッテリの充電効率と、車両の操縦者による要求駆動力に応じて求められるモータの駆動効率とに基づいて、モータ走行モードにおける第1駆動出力効率を算出する第1駆動出力効率算出手段と、要求駆動力と、バッテリを充電するための発電出力とに応じて求められる内燃機関の駆動力に基づいて、発電走行モードにおける第2駆動出力効率を算出する第2駆動出力効率算出手段と、第1出力効率と第2出力効率との比較結果に応じて、内燃機関及びモータを、モータ走行モードで第2制御手段に制御させるか、発電走行モードで第1制御手段に制御させるかのいずれか一方を選択する選択手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モータ走行モードまたは発電走行モードが適切に選択されるように制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態によるハイブリッド車両制御装置を含むハイブリッド車両制御システム構成の一例を示す図である。
【図2】ハイブリッド車両制御装置の構成を示した図である。
【図3】発電走行モードにおけるエネルギー伝達経路を示した図である。
【図4】発電走行モード駆動効率演算部の詳細な構成を示す図である。
【図5】モータ力行効率平均値算出部によるモータ力行効率平均値算出処理のフローチャートである。
【図6】モータ発電効率平均値算出部によるモータ発電効率平均値ηgenAvg[%]算出処理のフローチャートである。
【図7】モータ走行モード駆動効率演算部の詳細な構成を示す図である。
【図8】バッテリ充電効率平均値演算部によるバッテリ充電効率平均値算出処理のフローチャートである。
【図9】走行モード判定部68による走行モード判定および選択処理のフローチャートである。
【図10】エンジン駆動効率参照マップを示す図である。
【図11】モータ力行効率参照マップおよびモータ発電効率参照マップを示す図である。
【図12】バッテリ充電効率が悪い状態での走行状態を示す図である。
【図13】バッテリ充電効率が良い状態で走行したときの走行モード切り替えを示した変化チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明の一実施の形態によるハイブリッド車両制御装置を含むハイブリッド車両制御システム構成の一例を示す図である。第一動力発生装置として内燃機関であるエンジン1を用い、第二動力発生装置として力行動作および発電動作ならびに回生動作が可能なモータジェネレータであるモータ5を用いている。モータ5にはモータ5を制御するモータ制御装置7が電気的に接続される。モータ5が交流モータであれば、モータ制御装置7は、インバータと呼ばれる直流−交流変換装置である。モータ制御装置7の電源としてバッテリ6が搭載されている。
【0011】
自動車のエンジン1には変速機2が接続され、その出力軸3はディファレンシャルギア等を介して車輪4を駆動する。エンジン1のエンジン軸は、回転エネルギーを伝達または遮断するクラッチ41を介して変速機2の入力軸21に接続されている。エンジン1には電子制御スロットル弁10が設けられており、内燃機関制御装置9の要求信号でエンジン1の出力を制御することができる。
【0012】
変速機2は、たとえば有段自動変速機(AT)または無段自動変速機(CVT)である。変速機2は、変速機制御装置11により任意の変速段で変速機入力軸の駆動トルクを増幅して変速機出力軸に伝達できる。変速機2の入力軸21は、モータ5の回転子にも接続されている。
【0013】
変速機2は、内部に搭載されたアクチュエータの動作により、変速時のギアを切り換えて、または変化させて、エンジンの回転トルクおよび回転速度を変化させることが可能である。このアクチュエータは変速機制御装置11により制御される。
【0014】
モータ5は、インバータと呼ばれるモータ制御装置7に三相交流線で接続されており、インバータ内の半導体素子をモータ制御装置により制御することで任意の駆動トルクを発生可能である。モータ5は、いわゆるモータジェネレータであって、回転軸を加速する方向に作用する力行状態、ならびに回転軸を減速する方向に作用する発電状態のどちらの状態もとりうる。モータ5が発電状態にあるとき、エンジン1が後述するエンジン発電中に発生した電力、および後述する回生制動中に発生した電力は、いずれもバッテリ6の充電に用いられる。
【0015】
ハイブリッド車両制御装置8には、各制御装置、入力軸回転センサ31および出力軸回転センサ33から回転速度、トルクおよびアクセル開度などの情報が入力される。ハイブリッド車両制御装置8は、モータ制御装置7を介してモータ5のトルクや回転数を制御すると共に、車両駆動用動力制御装置9および電子制御スロットル弁10を介してエンジン1の出力を制御する。ハイブリッド車両制御装置8は、こうしたモータ5の制御とエンジン1の制御との間の協調制御を行って自動車の駆動力を発生させる。さらに、変速機制御装置11およびアクチュエータを介して変速機のギア位置ならびにクラッチ41も制御可能である。ハイブリッド車両制御装置8は、他の制御装置、例えば変速機制御装置11、内燃機関制御装置9またはモータ制御装置7に同様な機能を搭載して一体化させることも可能である。
【0016】
図2はハイブリッド車両制御装置8の構成を示している。ハイブリッド車両制御装置8は、要求駆動トルク算出部60、要求駆動トルク変換部(エンジン軸換算)61、要求発電トルク算出部62、要求駆動トルク変換部(モータ軸換算)63、エンジン駆動効率仮想値算出部64、モータ力行効率仮想値算出部65、発電走行モード駆動効率演算部66、モータ走行モード駆動効率演算部67、走行モード判定部68等を有する。
【0017】
後述するように、モータ走行モード駆動効率演算部67は、モータ走行モード駆動効率ηmdreq’を出力する。後述するように、発電走行モード駆動効率演算部66は、発電走行モード駆動効率ηengreq’を出力する。
【0018】
まず、図2に記載した要求駆動トルク算出部60について説明する。要求駆動トルク算出部60は、運転者の加減速の意図に応じたアクセルペダルの踏み込み量を示すアクセル開度APOと、アクセルの踏み込み量の変化値であるアクセル開速度ΔAPOと、車両の速度Vspとに基づいて、目標とする要求駆動トルクtToutを演算し、出力する。この要求駆動トルクtToutは、アクセル開度APOが大きいほど大きく、車両の速度Vspが大きいほど小さい。またアクセル開速度ΔAPOが大きいほどドライバーが大きな加速を要求したと判断し、要求駆動トルクtToutもそれに応じ大きくなる。なおここでは要求駆動トルクtToutは変速機出力軸換算としている。
【0019】
次に図2に記載した要求駆動トルク変換部(エンジン軸換算)61について説明する。要求駆動トルク変換部(エンジン軸換算)61は、要求駆動トルク算出部60において算出した要求駆動トルクtToutを、変速機2のギア比及びギア効率を用いエンジン軸換算のトルクtTout_eに変換する。車両速度Vspを、車輪動半径、ディファレンシャルギアのギア比及びギア効率、変速機2のギア比及びギア効率を用いエンジン軸換算の回転数Ne_vspに変換する。
【0020】
次に図2に記載した要求発電トルク算出部62について説明する。要求発電トルクとは、バッテリ6に電力を充電するためにエンジンが出力するトルクのことを指す。要求発電トルク算出部62は、要求駆動トルク(エンジン軸換算)tTout_e及び車両回転数(エンジン軸換算)Ne_vspを用い、要求発電トルクTgenを算出する。まず、車両回転数(エンジン軸換算)Ne_vspが、エンジン発電可能な所定の回転数以上であるかどうかを判定する。所定回転数を下回っている場合は、要求発電トルクは0とする。所定回転数を上回っている場合は、車両回転数(エンジン軸換算)Ne_vspに基づき最大効率で駆動可能な最適燃費トルク(エンジン軸換算)TengOptを算出し、要求駆動トルク(エンジン軸換算)tTout_eとの差分を要求発電トルクTgenとして与える。最適燃費トルクTengOptの算出方法については後述する。
【0021】
要求駆動トルク(エンジン軸換算)tTout_eが最適燃費トルク(エンジン軸換算)TengOptより大きい値の場合、要求発電トルクTgenを0とするか、もしくは変速機2のギア比をローギア側にシフトさせ、要求発電トルクTgenを再度計算しても良い。
【0022】
次に図2に記載した要求駆動トルク変換部(モータ軸換算)63について説明する。要求駆動トルク変換部(モータ軸換算)63は、要求駆動トルク算出部60において算出した要求駆動トルクtToutを、変速機2のギア比及びギア効率、モータ5のリダクションギアのギア比及びギア効率を用いモータ軸換算のトルクtTout_mに変換する。車両速度Vspを、車輪動半径、ディファレンシャルギアのギア比及びギア効率、変速機2のギア比及びギア効率ならびにモータ5のリダクションギア比及びギア効率を用い、モータ軸換算の回転数Nm_vspに変換する。
【0023】
次に図2に記載したエンジン駆動効率仮想値算出部64について説明する。エンジン駆動効率仮想値算出部64は、要求駆動トルク変換部(エンジン軸換算)61で算出した要求駆動トルク(エンジン軸換算)tTout_e、車両回転数(エンジン軸換算)Ne_vsp及び要求発電トルク算出部62で算出した要求発電トルク(エンジン軸換算)Tgenに基づき、エンジン駆動効率仮想値ηengreq[%]を出力する。エンジン駆動効率は、所望のエンジン回転数およびエンジントルクでエンジンを駆動するときに要する燃料消費率を用いた以下の式(1)で表現されるように、燃料消費に基づいたエネルギー効率を意味する。
【数1】

【0024】
エンジン駆動効率仮想値算出部64は、ROM等の記憶装置を有し、あらかじめ実験値または設計値に基づいて設定したエンジン回転数及びエンジントルクとエンジン駆動効率とが対応付けられたエンジン駆動効率参照マップを記憶させている。図10はエンジン駆動効率参照マップを示している。このように設定されたエンジン駆動効率参照マップを用い、要求駆動トルク(エンジン軸換算)tTout_e及び要求発電トルク(エンジン軸換算)Tgenの和であるエンジン駆動トルクと車両回転数(エンジン軸換算)Ne_vspとに基づき、エンジン駆動効率仮想値ηengreq[%]を算出する。
【0025】
要求発電トルク算出部62による最適燃費トルクTengOptの算出について説明する。図10に示すエンジン駆動効率参照マップによれば、エンジントルク及びエンジン回転数に応じたエンジン駆動効率が算出可能である。この参照マップにおいて、エンジン等出力線上で効率が最大となるようなエンジン動作点を線で結んだものを燃費最適線と定義する。この燃費最適線上のエンジントルクおよびエンジン回転数の組み合わせを参照テーブルとして記憶装置に予め記憶しておく。最適燃費トルクTengOptは、その参照テーブルに基づき算出される。
【0026】
次に図2に記載したモータ力行効率仮想値算出部65について説明する。モータ力行効率仮想値算出部65は、要求駆動トルク変換部(モータ軸換算)63で算出した要求駆動トルク(モータ軸換算)tTout_m及び車両回転数(モータ軸換算)Nm_vspに基づき、モータ力行効率仮想値ηmotreq[%]を出力する。モータ力行効率[%]は、所望のモータ回転数及びモータトルクでモータを駆動するときに必要なモータ力行時電力消費量[W]を用いた以下の式(2)で表現されるように、力行運転時の電力消費に基づいたエネルギー変換効率を意味する。
【数2】

【0027】
モータ力行効率仮想値算出部65は、ROM等の記憶装置を有し、あらかじめ実験値または設計値に基づいて設定したモータ回転数及びモータトルクとモータ力行効率とが対応づけられたモータ力行効率参照マップを記憶させている。図11は、モータトルクが正の領域において、モータ力行効率参照マップを示している。このように設定されたモータ力行効率参照マップを用い、要求駆動トルク(モータ軸換算)tTout_mと車両回転数(モータ軸換算)Nm_vspとに基づき、モータ力行効率仮想値ηmotreq[%]を算出する。
【0028】
なお、本実施の形態においては、図11に示すように、モータトルクが正の場合はモータが力行動作をしているとしてモータ力行効率のデータを参照し、逆に負の場合はモータが発電動作をしているとしてモータ発電効率のデータを参照することとする。モータ発電効率は、所望のモータ回転数及びモータトルクでモータを発電したときに得られるモータ発電出力を用いた以下の式(3)で表現されるように、発電時における発電出力に基づいたエネルギー変換効率を意味する。
【数3】

【0029】
次に図2に記載した発電走行モード駆動効率66について説明する。発電走行モード駆動効率演算部66は、エンジン駆動効率仮想値算出部64で算出したエンジン駆動効率仮想値ηengreq[%]、要求駆動トルク算出部60で算出した要求駆動トルクtTout、要求発電トルク演算部62で算出した要求発電トルクTgen、車速Vsp、モータトルク現在値Tmおよびモータ回転数現在値Nmを入力とし、発電走行モード駆動効率ηengreq’[%]を出力する。以下図3〜図6を用いて詳細な説明を行う。
【0030】
図3は発電走行モードにおけるエネルギー伝達経路を示している。図3においては発電走行モードにて車両回転数(エンジン軸換算)Ne_vsp[rad/s]でエンジンを駆動している。車両駆動に必要な駆動トルク(エンジン軸換算)tTout_e[Nm]とバッテリに充電を行うための要求発電トルクTgen[Nm]とがエンジン1に要求されたとすると、必要なエンジン出力Pereqは次式で求められる: Pereq= (tTout_e+Tgen) × Ne_vsp[W]。エンジン駆動効率参照マップを用いてエンジン駆動効率仮想値ηengreq[%]が得られたとする。エンジン出力Pereqのうち、エンジン出力Pdrvは、要求駆動トルク(エンジン軸換算)tTout_eに基づき、次式で求められる: Pdrv = tTout_e×Ne_vsp[W]。エンジン出力Pdrvは、クラッチ41、変速機2、ディファレンシャルギアを介し、車輪4へと伝達される経路R1を通過する。
【0031】
エンジン出力Pereqのうち、発電に用いられるエンジン発電出力Pgen_rは、要求発電トルクTgenに基づき、次式で求められる: Pgen_r=Tgen×Ne_vsp[W]。エンジン発電出力Pgen_rは、クラッチ41を介しモータ5における発電により電力に変換された後、モータ制御装置7を介し、バッテリ6に充電される経路R2を通過する。経路R2を通過したエンジン発電出力Pgen_r[W]は、再びバッテリ6およびモータ制御装置7を介し、モータ5にて電力から機械的な出力に変換され、変速機2およびディファレンシャルギアを介し、車輪4へと伝達される経路R3を通過する。経路R3を通過するエンジン発電有効出力Pgen’は、電力変換の過程で電気的損失が発生しているのでエンジン発電出力Pgen_rより小さい値となる。
【0032】
経路R1では、モータ制御装置7、バッテリ6等を経由しないため、電気的な損失は発生しない。経路R2、R3を通過する場合、モータ制御装置7、バッテリ6等を経由するため、モータの力行または発電に伴う電気的損失が発生する。つまり発電走行モードにおいてエンジン出力Pereq [W]を出力したとしても、そうした電気的損失相当分が減じられて、実際に有効な駆動力に用いられるエンジン有効出力Peng’[W]を得ることができる。上述したように、Pgen_r>Pgen’の関係が成り立っており、発電走行モードにおけるエンジン出力Pereq [W]及びエンジン有効出力Peng’[W]は次式で表される: Pereq=Pdrv+Pgen_r[W]; Peng’=Pdrv+Pgen’。このエンジン有効出力Peng’[W]に基づき発電走行モード駆動効率ηengreq’[%]を算出すると、エンジン出力Pereq[W]に基づき算出したエンジン駆動効率仮想値ηengreq[%]よりも電気的な損失分だけ効率が悪くなる。
【0033】
図4は発電走行モード駆動効率演算部66の詳細な構成を示す図である。まず回転数変換演算部69において、車速、変速機2のギア比、ディファレンシャルギアのギア比及び車輪動半径を用い、変速機出力軸換算の回転数Ntm_vspを算出する。次に要求発電量演算部70において、要求発電トルク算出部62で算出した要求発電トルクTgenと車両回転数(エンジン軸換算)Ne_vspとの乗算によりエンジン発電出力Pgen_r[W]を算出する。次に要求駆動力演算部71において、要求駆動トルクtTout及び車速の変速機出力軸回転数Ntm_vspの乗算により要求駆動力Pdrv[W]を算出する。次に要求駆動力Pdrv[W]とエンジン発電出力Pgen_r[W]とを足し合わせたエンジン要求出力Pereq[W]をエンジン駆動効率仮想値算出部64で算出したエンジン駆動効率仮想値ηengreq[%]で除し、燃料消費に伴う発熱量Pburn[W]を算出する。
【0034】
モータ力行効率平均値算出部72において、モータトルク現在値Tm及びモータ回転数現在値Nmを入力とし、モータ力行効率平均値ηmotAvg[%]を算出する。またモータ発電効率平均値算出部73において、モータトルク現在値Tm及びモータ回転数現在値Nmを入力とし、モータ発電効率平均値ηgenAvg[%]を算出する。このモータ力行効率平均値ηmotAvg[%]、モータ発電効率平均値ηgenAvg[%]及びエンジン発電出力Pgen_r[W]を全て掛け合わせることで、エンジン発電有効出力Pgen’[W]を算出する。すなわち、エンジン発電有効出力Pgen’は式(4)で算出される。
【数4】

【0035】
次に要求駆動力Pdrv[W]とエンジン発電有効出力Pgen’[W]とを足し合わせて得られるエンジン有効出力Peng’[W]を、燃料消費に伴う発熱量Pburn[W]で除し、発電走行モード駆動効率ηengreq’[%]を算出する。エンジン有効出力Peng’及び発電走行モード駆動効率ηengreq’の算出式を式(5)および(6)に示す。
【数5】

【数6】

【0036】
図5は、モータ力行効率平均値算出部72によるモータ力行効率平均値ηmotAvg[%]算出処理のフローチャートを示している。所定のサンプリングタイムに基づきS1からS6までのステップの演算を周期的に実行し、モータ力行効率平均値ηmotAvg[%]及びモータ力行時電力消費量平均値PmotAvg[W]を更新する。以下各ステップについて説明する。
【0037】
まずステップS1において、モータトルク現在値Tmの正負によりモータ駆動を行っているか否かを判定する。Tm>0であれば、モータ駆動状態、すなわちモータ力行状態と判定してステップS2からS5までを実行する。Tm≦0であれば、モータ駆動状態でない、すなわちモータ停止状態もしくはモータ発電状態と判定してステップS6を実行する。
【0038】
ステップS1にてモータ駆動状態と判定された場合、まずステップS2において、図11に示すモータ力行効率参照マップを用い、モータ回転数現在値Nm及びモータトルク現在値Tmを入力パラメータとしてモータ力行効率現在値ηmot[%]を算出する。次にステップS3において、モータ回転数現在値Nm[rad/s]、モータトルク現在値Tm[Nm]及びモータ力行効率現在値ηmot[%]を用い、モータ力行時電力消費量現在値Pmot[W]を算出する。このときモータ力行時電力消費量現在値Pmot[W]は次の式(7)により算出される。
【数7】

【0039】
次にステップS4において、モータ力行時電力消費量平均値PmotAvg[W]を更新する。一つ前の計算周期で算出したモータ力行時電力消費量平均値PmotAvg[%]、すなわち前回値と、モータ力行時電力消費量現在値Pmot[W]とを用い、モータ力行時電力消費量平均値PmotAvg[W]を更新する。モータ力行時電力消費量平均値PmotAvg[W]は次の式(8)により更新される。
【数8】

【0040】
次にステップS5において、モータ力行効率平均値ηmotAvg[%]を更新する。一つ前の計算周期で算出したモータ力行時電力消費量平均値PmotAvg[W]及びモータ力行効率平均値ηmotAvg[%]の前回値、モータ力行効率現在値[%]ηmot、モータ力行時電力消費量現在値Pmot[W]、モータ力行時電力消費量平均値PmotAvg[W]ならびにカウンター値Cmotを用い、モータ力行効率平均値ηmotAvg[%]を更新する。モータ力行効率平均値ηmotAvg[%]は次の式(9)により更新される。
【数9】

【0041】
なお、カウンター値Cmotは一定の走行時間または一定の走行距離に基づき設定する平均値算出に用いる定数である。例えば、車両の直前の走行において発進から停止までに要した走行時間Tを記憶しておき、走行時間TをサンプリングタイムTsで除した値をカウンター値Cmotとしてもよい。また、車両走行中にモータが力行動作している時間を記憶しておき、その時間をサンプリングタイムTsで除した値をカウンター値Cmotとしてもよい。
【0042】
ステップS1において、モータ駆動状態でないと判定された場合、ステップS6を実行する。ステップS6においては、モータ力行効率平均値ηmotAvg[%]およびモータ力行時電力消費量現在値PmotAvg[W]は更新せず、前回値を引き継ぐ。
【0043】
図6は、モータ発電効率平均値算出部73によるモータ発電効率平均値ηgenAvg[%]算出処理のフローチャートを示している。所定のサンプリングタイムに基づきS7からS12までのステップの演算を周期的に実行し、モータ発電効率平均値ηgenAvg[%]及びモータ発電負荷平均値PgenAvg[W]を更新する。以下各ステップについて説明する。
【0044】
まずステップS7において、モータトルク現在値Tmの正負によりモータ発電を行っているか否かを判定する。Tm<0であれば、モータ発電状態と判定してステップS8からS11までを実行する。Tm>=0であれば、モータ発電状態でない、すなわちモータ停止状態もしくはモータ駆動状態(モータ力行状態)と判定してステップS12を実行する。
【0045】
ステップS7にてモータ発電状態と判定された場合、まずステップS8において、図11に示すモータ発電効率参照マップを用い、モータ回転数現在値Nm及びモータトルク現在値Tmを入力パラメータとしてモータ発電効率現在値ηgen[%]を算出する。次にステップS9において、モータ回転数現在値Nm及びモータトルク現在値Tmの乗算によってモータ発電負荷現在値Pgen[W]を算出する。
【0046】
次にステップS10において、モータ発電負荷平均値PgenAvg[W]を更新する。一つ前の計算周期で算出したモータ発電負荷平均値PgenAvg[W]、すなわち前回値と、モータ発電負荷現在値Pgen[W]とを用いて、モータ発電負荷平均値PgenAvg[W]を更新する。モータ発電負荷平均値PgenAvg[W]は次の式(10)により更新される。
【数10】

【0047】
次にステップS11においてモータ発電効率平均値ηgenAvg[%]を更新する。一つ前の計算周期で算出したモータ発電負荷平均値PgenAvg[%]及びモータ発電効率平均値ηgenAvg[%]の前回値、モータ発電効率現在値ηgen[%]、モータ発電負荷現在値Pgen[W]ならびにカウンター値Cgenを用いモータ発電効率平均値ηgenAvg[%]を更新する。モータ発電効率平均値ηgenAvg[%]は次の式(11)により更新される。
【数11】

【0048】
なお、カウンター値Cgenは一定の走行時間または一定の走行距離に基づき設定する平均値算出に用いる定数である。例えば、車両の直前の走行において発進から停止までに要した走行時間Tを記憶しておき、走行時間TをサンプリングタイムTsで除した値をカウンター値Cgenとしてもよい。また車両走行中にモータが発電動作している時間を記憶しておき、その時間をサンプリングタイムTsで除した値をカウンター値Cgenとしてもよい。
【0049】
ステップS7において、モータ発電状態でないと判定された場合、ステップS12を実行する。ステップS12においては、モータ発電効率平均値ηgenAvg[%]及びモータ発電負荷平均値PgenAvg[W]は更新せず、前回値を引き継ぐ。
【0050】
次に図2に記載したモータ走行モード駆動効率演算部67について説明する。モータ走行モード駆動効率演算部67は、モータ力行効率仮想値算出部65で算出したモータ力行効率仮想値ηmotreq[%]を用い、モータ走行モード駆動効率ηmdreq’[%]を算出する。以下図7、図8を用いて詳細な説明を行う。
【0051】
図7はモータ走行モード駆動効率演算部67の詳細な構成を示す図である。まずモータ発電効率現在値算出部74において、図11に示すモータ発電効率参照マップを用い、モータトルク現在値Tm及びモータ回転数現在値Nmをパラメータとして、モータ発電効率現在値ηgen[%]を算出する。次にエンジン駆動効率現在値算出部75において、図10に示すエンジン駆動効率参照マップを用い、エンジントルク現在値Te及びエンジン回転数現在値Neを入力パラメータとして、エンジン駆動効率現在値ηeng[%]を算出する。
【0052】
次に、バッテリ充電効率平均値演算部76において、アクセル開度APO[%]、モータトルク現在値Tm、モータ発電効率現在値ηgen[%]、エンジン駆動効率現在値ηeng[%]を用い、バッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]の値を更新する。モータ力行効率仮想値算出部65で算出したモータ力行効率仮想値 ηmotreq[%]とバッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]とを乗算しモータ走行モード駆動効率ηmdreq’[%]を算出する。モータ走行モード駆動効率ηmdreq’[%]は次の式(12)により算出される。
【数12】

【0053】
図8は、バッテリ充電効率平均値演算部76によるバッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]算出処理のフローチャートを示している。所定のサンプリングタイムに基づきS13からS19までのステップの演算を周期的に実行し、バッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]及びモータ発電負荷平均値PgenAvg[W]を更新する。以下各ステップについて説明する。
【0054】
まずステップS13において、モータトルク現在値Tmの正負によりモータ発電を行っているか否かを判定する。Tm<0であれば、モータ発電状態と判定してステップS14を実行するが、Tm>=0であれば、モータ発電状態でない、すなわちモータ停止状態もしくはモータ駆動状態(モータ力行状態)と判定してステップS19を実行する。
【0055】
ステップS13において、モータ発電状態と判定された場合、まずステップS14においてモータ回転数現在値Nm[rad/s]及びモータトルク現在値Tm[Nm]を乗算することによりモータ発電負荷現在値Pgen[W]を算出する。次にステップS15において、モータ発電負荷現在値Pgen[W]を用い、モータ発電負荷平均値PgenAvg[W]を更新する。モータ発電負荷平均値PgenAvg[W]は前述した式(10)により更新される。次にステップS16において、アクセル開度APO[%]の値によりエンジン発電中であるか否かを判定する。アクセル開度APO[%]>0であれば、ステップS13においてTm<0と既に判定されているので、エンジン発電中であると判定し、ステップS17を実行する。アクセル開度APO[%]=0であれば、ステップS13においてTm<0と既に判定されているので、回生制動中の状態であると判定し、ステップS18を実行する。
【0056】
ステップS16において、エンジン発電中であると判定された場合、ステップS17において、一つ前の計算周期で算出したバッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]及びモータ発電負荷平均値PgenAvg[W]、すなわち前回値と、モータ発電負荷現在値Pgen[W]、モータ発電効率現在値ηgen[%]、エンジン駆動効率現在値ηeng[%]ならびにカウンター値Cbatを用い、バッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]を更新する。バッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]は次の式(13)により更新される。
【数13】

【0057】
ステップS16において、エンジン発電中でない、すなわち回生制動中であると判定された場合、ステップS18においてバッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]を更新する。回生制動時においては、燃料を消費することなく、減速エネルギーを発電出力に変換して電力を獲得することができるため、式(13)に対してηeng=100[%]を設定する。すなわち、回生制動中のバッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]は次の式(14)により更新される。
【数14】

【0058】
通常、エンジン発電中においてηeng=100[%]となることは無く、エンジン駆動効率現在値ηengは、ステップS17に示すように、0≦ηeng<100の範囲の値をとる。したがって、上述したように回生制動時においてηeng=100[%]を設定することは、回生制動時のバッテリ充電効率をエンジン発電時のバッテリ充電効率よりも大きく設定することになる。
【0059】
なお、カウンター値Cbatは、前述したCmot及びCgenと同様に一定の走行時間または一定の走行距離に基づき設定する平均値算出に用いる定数である。
【0060】
ステップS13において、モータ発電状態ではないと判定された場合、ステップS19を実行する。ステップS19においては、バッテリ充電効率平均値ηbatAvg[%]は更新せず、前回値を引き継ぐ。
【0061】
次に図2に記載した走行モード判定部68について説明する。図9は、走行モード判定部68による走行モード判定および選択処理のフローチャートである。ステップS20において、発電走行モード駆動効率ηengreq’[%]とモータ走行モード駆動効率ηmdreq’[%]とを比較し、ステップS21においてηengreq’>ηmdreq’ならば発電走行モードを選択し、ステップS22においてηengreq’≦ηmdreq’ならば、モータ走行モードを選択する。
【0062】
ステップS22においてモータ走行モードを選択した場合、クラッチ41を切り離してエンジンの駆動を停止させ、要求駆動トルク算出部60で算出した要求駆動トルクtToutをモータ駆動力で満たすようにモータトルク指令を与える。ステップS21において発電走行モードを選択した場合、クラッチ41を締結しエンジンを駆動させ、要求駆動トルクtToutと要求発電トルク算出部62において算出した要求発電トルクTgenを足し合わせたトルクがエンジン駆動トルクとなるように指令を与える。このとき与えられる指令のトルク指令値は、例えば要求駆動トルクtToutとエンジンの実トルクTeとの差tTout-Teである。
【0063】
以上の処理をサンプリング周期に基づき周期的に実行することで、常に最適な走行モードの選択が可能である。アクセル開度が振動的に変化したり車両の走行状態によっては、走行モードの切り替わる頻度が増加し、エンジンの再始動および停止が繰り返される場合がある。そのような場合は、走行モードが一度選択されたら一定時間はその走行モードを保持するようにしても良い。
【0064】
以上で説明した実施の形態によるハイブリッド車両制御装置8は、以下のような作用効果を奏する。
(1)図9において、モータ走行モードか発電走行モードかを決定する際に、モータ走行モード駆動効率ηmdreq’と発電走行モード駆動効率ηengreq’ とを算出し、効率の良い方の走行モードを選択する。発電走行モード駆動効率ηengreq’[%]は、要求駆動力Pdrv[W]とエンジン発電出力Pgen_r[W]とに基づきエンジン駆動効率仮想値ηengreq[%]が算出されるため、エンジン発電出力Pgen_r[W]の変化に伴うエンジン駆動効率の変化を反映させることができる。
【0065】
エンジン発電出力Pgen_r[W]と、モータ力行効率平均値ηmotAvg[%]と、モータ発電効率平均値ηgenAvg[%]との乗算により、エンジン発電有効出力Pgen’[W]を算出するので、発電走行モードで得られた発電出力のうち実際に駆動力として取り出すことが可能な有効出力を得ることができる。
【0066】
エンジン駆動効率仮想値ηengreq[%]と要求駆動力Pdrv[W]とエンジン発電出力Pgen_r[W]との和で表されるエンジン出力Pereq[W]を、エンジン駆動効率仮想値ηengreq[%]の効率で動作させたときの燃料消費に伴う発熱量Pburn[W]を算出する。こうして算出された燃料消費に伴う発熱量Pburn[W]と要求駆動力Pdrv[W]とエンジン発電有効出力Pgen’[W]とに基づき、発電走行モード駆動効率ηengreq’[%]を算出する。すなわち、エンジン出力により直接駆動力を伝達する駆動効率と、モータ発電によりバッテリを経由して駆動力を伝達する駆動効率の両方を加味して発電走行モードの駆動効率を算出することとなり、適切なエネルギー評価の下、発電走行モードにおける駆動効率を精度良く算出することができる。
【0067】
このようにしてそれぞれ算出されたモータ走行モード駆動効率ηmdreq’と発電走行モード駆動効率ηengreq’を比較し、駆動効率の良い走行モードを選択することにより、車両としての駆動効率を向上することが出来るので燃費改善が実現できる。
【0068】
(2)図9に示した走行モード選択を行う場合、従来技術とは異なり、10−15モード走行などの一定の走行パターンでの走行を実施したとしても、過去の走行状況によっては同じ場面で選択する走行モードが異なる場合がある。過去の走行において効率の悪いバッテリ充電を繰り返した後、一定の走行パターンで走行を行うと、モータ走行モードを選択する頻度が減少し、発電走行モードを選択する頻度が増加する。過去の走行において効率よくバッテリ充電を繰り返した後、一定の走行パターンで走行を行うと、モータ走行モードを選択する頻度が増加し、発電走行モードを選択する頻度が減少する。
【0069】
例えば、バッテリSOCが満充電に近い状態にあるとき、高速道路などで高速定常走行を実施すると、効率の悪いバッテリ充電となる可能性がある。なぜならば、一般的にモータは高回転領域では出力可能なトルクが減少するため、高車速域で相応の要求駆動力が必要となる場合は、駆動効率の大小に関わらずモータ走行モードを選択することができないからである。必然的に選択可能なものはエンジンを駆動する走行モード、例えば発電走行モード、あるいはモータアシストモードなどに限られる。いずれの走行モードを選択しても、モータの出力可能なトルクは小さく、モータを駆動してバッテリ電力を消費する機会は少ないため、高いSOCが持続されることとなる。高いSOCの場合、バッテリ保護のため、バッテリ充電に用いられるエンジン発電出力、換言すると要求発電量は、低く抑えるよう制御せざるを得ない。このような状況の下、発電走行モードで走行を行った場合、要求発電量が低く抑えられているため、要求駆動力と要求発電量とに依存する発電走行モード駆動効率の向上を期待できない。発電走行モード駆動効率が低いにもかかわらずモータ走行モードを選択できない状態が続くため、式(13)及び(14)によって算出されるバッテリ充電効率平均値ηbatAvgは、通常走行時より低い値をとることとなり、バッテリ充電効率が悪い状態が持続する。引き続いて、上述した一定の走行パターンで走行を行うと、モータ走行モードを選択する頻度が減少し、発電走行モードを選択する頻度が増加するので、バッテリ充電状態を回復させることができる。
【0070】
バッテリSOCが適正な値であるとき、10−15モード走行または市街地走行などの、発進、定常走行および停止を一定の間隔で繰り返すような走行を実施すると、効率よくバッテリ充電を行うことができる。換言すると、式(13)及び(14)によって算出されるバッテリ充電効率平均値ηbatAvgは通常走行時より高い値をとることとなり、バッテリ充電効率が良い状態が持続する。引き続いて、一定の走行パターンで走行を行うと、モータ走行モードを選択する頻度が増加し、発電走行モードを選択する頻度が減少する。
【0071】
バッテリ充電効率が悪い場合と良い場合とで同一のパターン走行を行った場合の走行モードの違いを説明する。図12はバッテリ充電効率が悪い状態での走行状態を示している。図13はバッテリ充電効率が良い状態での走行状態を示している。図12および13は、低車速域(20km/h程度)での発進から停車まで、および中車速域(40km/h程度)での発進から停車までの車速の時間変化の様子を示している。モータトルクが負の値をとる時間においては、モータが発電動作を行っていることを意味する。図12においては、ほとんど全ての時間にわたって、発電走行モードで走行しており、要求トルクの小さい時間T1にのみモータ走行モードで走行している。図13においては、図12の場合と比べてモータ走行モードの頻度が増加し、時間T2及びT3にてモータ走行モードによる走行を行っている。
【0072】
以上示したように、図12に示すバッテリ充電効率の悪い状態で走行した場合に比べ、図13に示すバッテリ充電効率の良い状態で走行した場合の方が、モータ走行モードで走行する時間が長い。つまり、要求駆動力も車両の速度もいずれもが等しい場面であっても、過去のバッテリ充電状態によって、走行モードの選択が変化する。バッテリ充電状態が悪い場合はモータ走行モードを選択する頻度が減少するとともに、バッテリ充電状態が良い場合はモータ走行モードを選択する頻度を増加させることができるため、バッテリの電力を効率よく使うことができる。
【0073】
(3)図8のステップS17およびS18に関して、式(13)および(14)に示すように、発電走行モードにおける発電出力のエネルギー変換効率値より、回生走行時における回生出力のエネルギー変換効率値を大きく設定することとした。これにより、回生制動の頻度が増大した場合にモータ走行モード駆動効率ηmdreq’が向上するので、モータ走行モードの頻度が増大し回生走行により獲得した電力を有効に利用することができる。
【0074】
(4)図4において、発電走行モード駆動効率ηengreq’を算出するとき、モータ運転時に発生する電気的損失を考慮したエンジン発電有効出力Pgen’を用いることとした。これにより、後になって駆動力として用いることができるようにバッテリを充電するのに必要な発電出力の算出精度を高めることができる。
【0075】
(5)図4において、エンジン発電有効出力Pgen’は、モータ力行効率平均値ηmotAvg、モータ発電効率平均値ηgenAvg及びエンジン発電出力Pgen_rに基づいて算出することとした。これにより、発電走行モード駆動効率ηengreq’の算出精度を高めることができる。
【0076】
−−−変形例−−−
以上で説明した実施の形態のハイブリッド車両制御装置8は、エンジンと変速機との間にクラッチ41とモータ5とを配置したシステム構成としたが、本発明の実施形態は上記システム構成に限定されるものではない。例えば、モータ5が変速機2と出力軸3との間に配置されるようなシステム構成であってもよいし、モータ5が変速機2の内部に配置されるようなシステム構成であってもよい。変速機2のギア比やモータのリダクションギア比などの、車両を構成するパラメータが既知であれば、ドライバーの要求駆動トルクをエンジン軸相当、およびモータ軸相当に変換することは可能である。したがって、上述した実施の形態と同様に、効率マップを参照して発電走行モード駆動効率ηengreq’およびモータ走行モード駆動効率ηmdreq’を算出することが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 エンジン
2 変速機
3 出力軸
4 車輪
5 モータ
6 バッテリ
7 モータ制御装置
8 ハイブリッド車両制御装置
9 内燃機関制御装置
10 電子制御スロットル弁
11 変速機制御装置
21 入力軸
31 入力軸回転センサ
33 出力軸回転センサ
41 クラッチ
61、63 要求駆動トルク変換部
62 要求発電トルク算出部
64 エンジン駆動効率仮想値算出部
65 モータ力行効率仮想値算出部
66 発電走行モード駆動効率演算部
67 モータ走行モード駆動効率演算部
68 走行モード判定部
69 回転数変換演算部
70 要求発電量演算部
71 要求駆動力演算部
72 モータ力行効率平均値算出部
73 モータ発電効率平均値算出部
74 モータ発電効率現在値算出部
75 エンジン駆動効率現在値算出部
76 バッテリ充電効率平均値演算部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関とモータとを協調制御することによって、前記内燃機関及び前記モータに車両の駆動のための駆動力を発生させるとともに、前記内燃機関が発生する内燃機関出力に応じて前記モータが発電出力を発生させると、前記発電出力によりバッテリを充電するハイブリッド車両制御装置であって、
前記内燃機関による前記駆動力の発生が停止して前記モータのみが前記駆動力を発生するモータ走行モードで、前記内燃機関及び前記モータを制御する第1制御手段と、
前記内燃機関出力により、前記内燃機関に前記駆動力を発生させるための駆動出力と、前記モータの発生する前記発電出力とが得られる発電走行モードで、前記内燃機関及び前記モータを制御する第2制御手段と、
前記発電走行モードにおける前記発電出力による前記バッテリの充電効率と、回生制動による前記バッテリの充電効率と、前記車両の操縦者による要求駆動力に応じて求められる前記モータの駆動効率とに基づいて、前記モータ走行モードにおける第1駆動出力効率を算出する第1駆動出力効率算出手段と、
前記要求駆動力と、前記バッテリを充電するための前記発電出力とに応じて求められる前記内燃機関の前記駆動力に基づいて、前記発電走行モードにおける第2駆動出力効率を算出する第2駆動出力効率算出手段と、
前記第1出力効率と前記第2出力効率との比較結果に応じて、前記内燃機関及び前記モータを、前記モータ走行モードで前記第2制御手段に制御させるか、前記発電走行モードで前記第1制御手段に制御させるかのいずれか一方を選択する選択手段とを備えることを特徴とするハイブリッド車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両制御装置において、
前記第1駆動出力効率算出手段は、前記発電走行モードにおける前記発電出力による前記バッテリの充電効率よりも、前記回生制動による前記バッテリの充電効率を大きく設定することを特徴とするハイブリッド車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のハイブリッド車両制御装置において、
前記第2駆動出力効率算出手段が前記第2駆動出力効率を算出するとき、前記内燃機関の前記駆動力を求める際に用いられる前記発電出力は、前記モータの運転時に発生する電気的損失を考慮した発電有効出力であることを特徴とするハイブリッド車両制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のハイブリッド車両制御装置において、
前記発電有効出力は、前記発電走行モードにおいて前記モータが前記発電出力を発生するのに必要な前記内燃機関の発電要求出力と、前記発電走行モードにおける前記モータの発電効率と、前記モータ走行モードにおける前記モータの力行効率とに基づき算出されることを特徴とするハイブリッド車両制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−213285(P2011−213285A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85098(P2010−85098)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】