説明

ハイブリッド車両用駆動装置

【課題】クラッチ装置等に供給される潤滑油の温度を適温に保つことができる小型で低コストなハイブリッド車両用駆動装置を提供すること。
【解決手段】ケース11内の油溜部21とポンプ7とバルブ26とクラッチ装置3の油圧室PCとを連通して潤滑油Dを油圧室に給排させる油路52をケースの壁中に形成しているので、車両走行時に発生する走行風による該油路内の潤滑油の過冷却を防止することができる。よって、潤滑油の粘性を適正に維持して電動ポンプの性能を十分に発揮させることができ、潤滑油を円滑に給送することができる。また、バルブの弁体26aを収納する弁体収納部11eをケースの壁中に形成しているので、バルブボディは不要になるためハイブリッド車両用駆動装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としてエンジン及び電動モータを備え、駆動源による駆動力を車軸に伝達するハイブリッド車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、エンジン及び電動モータを備えたハイブリッド車両用駆動装置が開示されている。エンジンは変速機に接続され、電動モータは減速ギヤ機構に接続され、変速機及び減速ギヤ機構は差動装置に夫々接続されている。このように電動モータと差動装置の間に減速ギヤ機構が設けられているため、エンジンにより車両が高速走行する場合は、差動装置の回転が増幅されて電動モータに伝達されることになる。この場合、電動モータが許容回転数を超えるおそれがあるため、電動モータと減速ギヤ機構との間には電動モータの駆動力を切離するクラッチ装置が設けられている。
【0003】
電動モータ、クラッチ装置、減速ギヤ機構、変速機及び差動装置は、ケースにより覆われており、該ケースの外側には、変速制御用の油圧制御装置からの潤滑油をモータ動力制御用の油圧制御装置へ供給するための油圧配管が配設されている。クラッチ装置を作動させる潤滑油は、電動ポンプにより変速制御用の油圧制御装置から油圧配管を通してモータ動力制御用の油圧制御装置に一旦供給され、さらにモータ動力制御用の油圧制御装置から供給されるようになっている。
【0004】
また、特許文献2にも、エンジン及び電動モータを備えたハイブリッド車両用駆動装置が開示されている。電動モータ及びトランスミッションは、ケースにより覆われており、該ケース内の下方には、電動ポンプ及びバルブを有するバルブボディが配設され、さらにバルブボディの下方には潤滑油が貯留された油溜部が形成されている。油溜部に貯留されている潤滑油は、電動ポンプの作動によりバルブを介して電動モータのロータを支承する軸受等に供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−239125号公報(段落番号0008,0009、図2)
【特許文献2】特開2001−187535号公報(段落番号0051,0052、図2,4,5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のハイブリッド車両用駆動装置では、ケースの外側に油圧配管が配設されているため、油圧配管内を給送される潤滑油は車両走行時に発生する走行風により冷却されて潤滑油の粘性が高くなり、潤滑油の給送が困難になるおそれがある。一方、特許文献2に記載のハイブリッド車両用駆動装置では、潤滑油はケース内で給送されるため車両走行時に発生する走行風により冷却されることはないが、ケースとは別にバルブボディが必要になるため大型化しコスト増となる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、クラッチ装置等に供給される潤滑油の温度を適温に保つことができる小型で低コストなハイブリッド車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、エンジンに回転可能に連結される入力軸と、電動モータのロータと同一軸線上に配置されて一体的に連結された出力軸と、油圧室に潤滑油が給琲されることにより前記入力軸と前記出力軸とを係脱可能に連結するクラッチ装置と、前記入力軸及び前記出力軸を前記同一軸線上で回転可能に支承すると共に少なくとも前記電気モータ及び前記クラッチ装置を囲繞し、前記潤滑油を貯留する油溜部が形成されたケースと、吸入ポートが前記ケースの油溜部に連通された電動ポンプと、前記クラッチ装置の油圧室、前記電動ポンプの吐出ポート及び前記油溜部に油路でそれぞれ接続され、前記クラッチ装置の油圧室を前記ポンプの吐出ポート又は前記ケースの油溜部に選択的に連通するバルブと、を備え、前記ケースの壁中に、前記バルブの弁体を収納する弁体収納部と、前記油溜部と前記ポンプと前記バルブと前記油圧室とを連通して前記潤滑油を前記油圧室に給排させる油路と、が形成されていることである。
【0009】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記油路の一部が、前記弁体収納部を覆うカバーに形成されていることである。
【0010】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2において、前記油溜部に貯留される前記潤滑油を外部に排出するドレインが、前記油路と連通するように形成されていることである。
【0011】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜3の何れか一項において、前記クラッチ装置は、バネ力により常時接続状態であり、前記クラッチ装置の油圧室に前記潤滑油が供給されることによって切離状態となることである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、ケース内の油溜部とポンプとバルブとクラッチ装置の油圧室とを連通して潤滑油を油圧室に給排させる油路をケースの壁中に形成しているので、車両走行時に発生する走行風による該油路内の潤滑油の過冷却を防止することができる。よって、潤滑油の粘性を適正に維持して電動ポンプの性能を十分に発揮させることができ、潤滑油を円滑に給送することができる。また、バルブの弁体を収納する弁体収納部をケースの壁中に形成しているので、バルブボディは不要になりハイブリッド車両用駆動装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、バルブとポンプもしくはクラッチ装置の油圧室とを連通する油路を例えばコの字状に形成する必要があるとき、該コの字の折り返し部をカバーに形成することができるので油路形成が容易となり、ケース及びカバーを製作するための型構造が簡単になるため、ハイブリッド車両用駆動装置の低コスト化を図ることができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、ドレインと油路とを連通するように形成しているので、オイルフィルタをドレインに配設することが可能となる。よって、ドレインの排出口を塞ぐドレインボルトを抜くことで、オイル交換と同時にオイルフィルタ交換も可能となり、オイルフィルタのメンテナンス性を向上させることができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、クラッチ装置が常時接続状態にある所謂ノーマルクローズタイプであるため、万が一ポンプ等が故障して潤滑油の供給が不可能になったときもクラッチ装置は接続状態にあるので、モータの回転駆動力を出力軸に伝達することができる。一方、常時切離状態にある所謂ノーマルオープンタイプのクラッチ装置の場合は万が一ポンプが故障して潤滑油の供給が不可能になったときはクラッチを接続させることができず、モータの回転駆動力を出力軸に伝達することができなくなる。また、本発明のノーマルクローズタイプのクラッチ装置を備えたハイブリッド車両用駆動装置は、エンジンによる通常走行時にはポンプを駆動しないので、ノーマルオープンタイプのクラッチ装置を備えたハイブリッド車両用駆動装置と比べエネルギロスを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態によるハイブリッド車両用駆動装置を備えたハイブリッド車両のパワートレーンの概略を示す図である。
【図2】図1のハイブリッド車両用駆動装置の断面図である。
【図3】図2のA−A線に沿って切断した断面のうち右下方に配設されている油圧系におけるクラッチ切離時の潤滑油の流れを示す図である。
【図4】図2のA−A線に沿って切断した断面のうち右下方に配設されている油圧系におけるクラッチ接続時の潤滑油の流れを示す図である。
【図5】(A),(B)はクラッチ切離時及び接続時のバルブの動作を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態によるハイブリッド車両用駆動装置を備えたハイブリッド車両のパワートレーンの概略を示している。尚、図1において、太線は車両の機械的な連結を示し、実線による矢印は装置間をつなぐ油圧配管を示し、破線による矢印は制御用の信号線を示している。また、以下の説明中において回転軸方向という場合、特に断らなければ、電動モータ1の回転軸Cに沿った方向、すなわち図2における左右方向を意味する。
【0018】
ハイブリッド車両駆動用のエンジン2と電動モータ1とは、湿式多板クラッチを有するクラッチ装置3を介して直列に接続されている。また、電動モータ1には、車両のトランスミッション4が直列に接続されており、トランスミッション4には、ディファレンシャル装置5を介して、車両の右駆動輪6R及び左駆動輪6L(以下、単に「駆動輪6R,6L」という)が接続されている。エンジン2は、炭化水素系の燃料により出力を発生させる通常の内燃機関である。電動モータ1は、車輪駆動用の同期モータであり、トランスミッション4は通常の自動変速機である。また、クラッチ装置3は、普段はエンジン2と電動モータ1との間を接続しているノーマルクローズタイプのクラッチ装置であり、エンジン2とトランスミッション4との間のトルク伝達を断続する。
【0019】
このようなパワートレーンを用いた車両は、エンジン2により走行する場合、エンジン2がトランスミッション4を介して駆動輪6R,6Lを回転させる。また、電動モータ1により走行する場合、電動モータ1がトランスミッション4を介して駆動輪6R,6Lを回転させる。そして、電動モータ1のみで走行するときは、エンジン2を停止させ、クラッチ装置3をレリーズさせて、エンジン2と電動モータ1との間の接続を解除している。さらに、電動モータ1は、クラッチ装置3によりエンジン2との連結を遮断された状態で、駆動輪6R,6L側から駆動され、発電機としても機能する。
【0020】
後述するクラッチ装置3の油圧室PC(図2参照)には、電動ポンプ7の吐出口が接続されており、電動ポンプ7には、コントローラ8が電気的に接続されている。コントローラ8は、電動ポンプ7を作動させてクラッチ装置3の油圧室PCに油圧を供給し、クラッチ装置3の接続状態を制御している。また、コントローラ8にはエンジン2及び電動モータ1が接続されるとともに、車両のアクセル開度センサ、車速センサ、トランスミッション4のシフトスイッチ(いずれも図示せず)からの検出信号が入力されている。コントローラ8は、アクセル操作量等に基づいて、電動モータ1、エンジン2及びクラッチ装置3の作動を制御している。
【0021】
図2は、図1のハイブリッド車両用駆動装置の断面、図3は、図2のA−A線に沿って切断した断面のうち右下方に配設されている油圧系を示している。尚、図2において、左方を電動モータ1及びクラッチ装置3の前方といい、右方を後方ということがあるが、実際の車両上における方向とは無関係である。図2に示すように、モータケース11(本発明の「ケース」に該当する)は、電動モータ1及びクラッチ装置3を内蔵した状態で、前方をモータカバー12(本発明の「ケース」に該当する)により封止されている。すなわち、電動モータ1及びクラッチ装置3は、モータケース11の側壁部11a及び外周壁部11bとモータカバー12の側壁部12aとで囲繞されている。モータカバー12の前方にはエンジン2が取り付けられ、モータケース11の後方にはトランスミッション4が取り付けられている。また、電動モータ1を構成するロータ13の半径方向内方には、クラッチ装置3が配設されている。
【0022】
モータケース11とモータカバー12とで形成される内部空間の下方には、潤滑油Dを貯留する油溜部21が形成されている。この油溜部21には、後述する電動モータ1のロータ13の外周よりも若干内周側に寄ったレベルで潤滑油Dが貯留されている。また、モータケース11の中心部に内部空間に突設された環状ボス部11cの上部には、外周から内周に貫通して後述する軸受34に至る軸受油路22が形成されている。この軸受油路22には、ロータ13の回転により発生する風圧により側壁部11aの内壁面11aaに付着し該内壁面11aaに沿って押し上げられる油溜部21に貯留されている潤滑油Dが供給されるようになっている。
【0023】
また、モータケース11の環状ボス部11cの斜め右下部(図2、3参照)には、前方側の外周から内周方向に途中まで向かい、そこから後方側に向かってモータケース11の側壁部11a手前まで延在するL字の管状油路23が形成されている。この管状油路23の前方端部は、リング部材24を介してクラッチ装置3の油圧室PCに連通している。このリング部材24の内周は環状ボス部11cの前方端部の外周に嵌入され、リング部材24の外周はシール部材24cを介して油圧室PCを区画する後述するクラッチアウタ33に嵌入されている。そして、リング部材24の外周にはクラッチ装置3の油圧室PCに連通する環状溝24aが設けられ、該環状溝24aの底部には管状油路23の前方端部に連通する孔24bが穿設されている。
【0024】
モータケース11の側壁部11aの斜め右下部(図3参照)には、環状ボス部11cから外周壁部11bに向かって径方向に延在するリブ11dが回転軸C方向に突設されている。このリブ11d内には、管状油路23の後方端部から外周壁部11bを貫通するまで延在するI字の管状油路25が形成されている。
【0025】
図3に示すように、モータケース11の外周壁部11bにおけるリブ11dの延長上には、バルブ26の弁体26a(図5参照)が収納される弁体収納部11eが突設されている。モータケース11の外周壁部11bにおける弁体収納部11eの下方には、電動ポンプ7が取付けられるポンプ取付部11fが突設されている。モータケース11の外周壁部11bにおけるポンプ取付部11fの下方には、油溜部21に貯留される潤滑油Dを外部に排出する後述するドレイン57が形成されるドレイン形成部11gが突設されている。
【0026】
弁体収納部11e内には、バルブ26の弁体26aを挿入する弁体挿入穴51が回転軸C線方向に穿設されている。ここで、図5に示すように、バルブ26は、弁体26aと、弁体26aの両側に夫々取付けられたソレノイド26bとバネ26cとを有している。弁体挿入穴51には、電動ポンプ7の吐出ポート7aと接続される第1ポート26dと、クラッチ装置3の油圧室PCと接続される第2ポート26eと、油溜部21と接続される第3ポート26fとが開口している。
【0027】
図3に示すように、弁体収納部11e内には、電動ポンプ7の吐出ポート7aとバルブ26の第1ポート26dとを連通するL字の管状油路52と、油圧室PCとバルブ26の第2ポート26eとを連通するコの字の管状油路53と、油溜部21とバルブ26の第3ポート26fとを連通するコの字の管状油路54とが形成されている。管状油路53,54はコの字状に形成しているが、これは第2ポート26eおよび第3ポート26fが弁体挿入穴51に弁体収納部11eの外端側で開口し、第1ポート26dが回転軸側で開口しており、このような位置関係から第2ポート26eおよび第3ポート26fを管状油路53,54と連通させるためには管状油路53,54に折り返し部53a,54aを形成する必要があるからである。
【0028】
ここで、上記のようなコの字状の管状油路53,54を弁体収納部11e内に形成することは一般に困難であるため、管状油路53,54のコの字の折り返し部53a,54aのみは、弁体収納部11eを覆うカバー11hに形成されている。すなわち、弁体収納部11eの外端面11eaと密着するカバー11hの内端面11haには、該内端面11haに平行な溝を管状油路53,54のコの字の折り返し部53a,54aとして形成する。そして、弁体収納部11eには、管状油路53,54のコの字の両側直線部のみを形成する。そして、弁体収納部11eの外端面11eaとカバー11hの内端面11haとを密着させてボルト締結することにより、コの字の管状油路53,54を形成することができる。
【0029】
管状油路52は、第1ポート26dからポンプ取付部11fに向かって下方に折れて電動ポンプ7の吐出ポート7aと連通する後述する管状油路55と連通するように形成されている。管状油路53は、第2ポート26eから弁体収納部11eの外端面11eaに至り、カバー11hに形成された折り返し部53aで上方に折れ、弁体収納部11eの外端面11eaから外周壁部11bを貫通して管状油路25と連通するように形成されている。管状油路54は、第3ポート26fから弁体収納部11eの外端面11eaに至り、カバー11hに形成された折り返し部54aで下方に折れ、弁体収納部11eの外端面11eaから外周壁部11bを貫通して油溜部21と連通するように形成されている。
【0030】
ポンプ取付部11f内には、電動ポンプ7の吐出ポート7aと連通するL字の管状油路55と、電動ポンプ7の吸入ポート7bと連通するL字の管状油路56とが形成されている。管状油路55は、電動ポンプ7の吐出ポート7aから一旦出た後に弁体収納部11eに向かって上方に折れてバルブ26の第1ポート26dと連通する管状油路52と連通するように形成されている。管状油路56は、電動ポンプ7の吸入ポート7bから一旦出た後にドレイン形成部11gに向かって下方に折れてドレイン57と連通するように形成されている。
【0031】
ドレイン形成部11g内には、管状油路56、油溜部21及び外部と連通するドレイン57が形成されている。ドレイン57は、ドレイン形成部11gの外端面11gaから斜め上方に向かって油溜部21の内周に貫通して油溜部21及び外部と連通するように、且つ管状油路56とは直交して連通するように形成されている。ドレイン57内にはオイルフィルタ60が挿入され、ドレイン57の排出口57aにはドレインボルト57bが螺合されている。ドレインボルト57bを抜くことにより、油溜部21内の潤滑油Dをドレイン57の排出口57aから外部に排出することができると共に、オイルフィルタ60をドレイン57の排出口57aから交換することができる。そして、ドレイン57の排出口57aから挿入したオイルフィルタ60に対し、ドレインボルト57bにより軸線方向の位置を精度良く位置決めすることができる。
【0032】
図2に示すように、モータカバー12の中心部に内部空間に突設された環状ボス部12bの内周には、軸受31を介してクラッチ装置3のインプットシャフト32(本発明の「入力軸」に該当する)が、回転軸Cを中心に回転可能に支承されている。回転軸Cは、エンジン2、電動モータ1及びトランスミッション4の回転軸でもある。インプットシャフト32は、エンジン2の図示しないクランクシャフトと回転連結されている。インプットシャフト32は、半径方向外方に突出したクラッチインナ321を備えている。クラッチインナ321の外端面には、複数枚の駆動ディスク322が回転軸C方向に重ねられた状態で支承されている。これにより、各々の駆動ディスク322は、クラッチインナ321に対して回転軸C方向に移動可能で、かつ、クラッチインナ321とともに回転可能となっている。
【0033】
各駆動ディスク322の間には、略リング状に形成された複数の従動プレート331が交互に介装されている。従動プレート331の外周部は、クラッチアウタ33の内周面に係合している。これにより従動プレート331は、クラッチアウタ33に対して回転軸C方向に移動可能で、かつ、クラッチアウタ33とともに回転可能となっている。クラッチアウタ33は、後述する電動モータ1のロータ13の内周面に連結されている。それとともに、クラッチアウタ33は半径方向内方へと延び、中心軸部33aの内周において回転軸Cを中心に回転可能なトランスミッション4のタービンシャフトに連結された出力軸41とスプライン嵌合している。これにより、ロータ13はトランスミッション4を介して、駆動輪6R,6Lへと連結されており、電動モータ1による駆動力が駆動輪6R,6Lに入力される。また、クラッチアウタ33の中心軸部33aの外周とモータケース11の環状ボス部11cとの間には、クラッチアウタ33及び出力軸41をモータケース11に回転可能に支承する軸受34が介装されている。
【0034】
クラッチアウタ33には、リング状のディスク部材35が固定されており、ディスク部材35とクラッチアウタ33との間には、ピストン部材36が回転軸C方向に移動可能に設けられている。また、ピストン部材36とクラッチアウタ33との間には、係合スプリング37が介装されており、係合スプリング37はピストン部材36を、常時、図2おいて左方に押圧している。係合スプリング37により押圧されたピストン部材36は、その左端において従動プレート331を左方に付勢し、クラッチ装置3を接続状態としている。
【0035】
ディスク部材35とクラッチアウタ33とピストン部材36とは液密的に係合しており、ディスク部材35、クラッチアウタ33及びピストン部材36により油圧室PCが形成されている。油圧室PC内には、上述した電動ポンプ7から油圧が供給され、係合スプリング37の付勢力に抗してピストン部材36を図2において右方に移動させ、クラッチ装置3の接続を解除する。
【0036】
電動モータ1のロータ13は、クラッチ装置3に対して半径方向外方に位置するように、モータケース11に回転可能に取り付けられている。ロータ13は、積層された複数の鋼板131を一対の保持プレート132a,132bにより挟み、これに固定部材133を貫通させて端部をかしめることにより形成されている。また、ロータ13の円周上には、図示しない複数の界磁極用マグネットが設けられている。一方の保持プレート132bは、クラッチ装置3のクラッチアウタ33に取り付けられ、これにより、ロータ13はクラッチアウタ33と連結されている。
【0037】
また、モータケース11の内周面には、ロータ13と半径方向に対向するように、電動モータ1のステータ14が取り付けられている。ステータ14は、ステータリング15の内周面に、回転磁界発生用の複数のコア体16が円環状に並ぶように取り付けられて形成されている。各々のコア体16は、略T字状を呈した複数のケイ素鋼板が積層されることにより形成されたティース161を備えている。ティース161には一対のボビン162、163が装着され、ボビン162、163は、ティース161の外周面を囲むように互いに嵌合している。さらに、ボビン162、163の回りには、回転磁界を発生させるためのコイル164が巻回されている。コア体16の周囲に巻回されたコイル164は、図示しないバスリングを介して外部のインバータと接続される。上述した構成を備えた電動モータ1において、コイル164に例えば三相の交流電流が供給されることによりステータ14において回転磁界が発生し、回転磁界に起因する吸引力または反発力によってロータ13が回転される。
【0038】
次に、上述したハイブリッド車両用駆動装置の運転状態でのクラッチ装置3に対する油圧系の作用について図を参照して説明する。車両が渋滞等でエンジン低負荷状態や、極低負荷状態のエンジン効率が悪い領域で走行を始めると、電動モータ1のみの走行を開始する。電動モータ1のみによって走行する場合、クラッチ装置3を係合したままでは、出力軸41を駆動させるための余分な駆動力が電動モータ1に必要となる。このため、クラッチ装置3の係合を切離してクラッチ装置3のインプットシャフト32と出力軸41との連結を解除し、エネルギ効率の高い運転が行えるようにする。
【0039】
クラッチ装置3のインプットシャフト32と出力軸41との連結を解除する際には、先ず、バルブ26のソレノイド26bを作動させる。すると、図5(A)に示すように、バルブ26の弁体26aはソレノイド26bの作動によりバネ26cを圧縮して図示矢印a方向に移動する。これにより、電動ポンプ7の吐出ポート7aと連通するバルブ26の第1ポート26dとクラッチ装置3の油圧室PCと連通するバルブ26の第2ポート26eとが接続され、さらに油溜部21と連通するバルブ26の第3ポート26fと第2ポート26eとが絞り26jを介して接続される。
【0040】
続いて、電動ポンプ7を作動させる。すると、油溜部21に貯留されている潤滑油Dは、オイルフィルタ60からドレイン57及び管状油路56を通って電動ポンプ7の吸入ポート7bに吸入される。そして、電動ポンプ7の吐出ポート7aから管状油路55,52を通ってバルブ26の第1ポート26dに吸入される。そして、バルブ26の第2ポート26eから管状油路53,25,23を通り、さらに図2に示すリング部材24の孔24b及び環状溝24aを通ってクラッチ装置3の油圧室PC内に導入される。そして、油圧室PC内の潤滑油Dの圧力が所定圧になったときは、電動ポンプ7から吐出された潤滑油Dは、バルブ26の絞り部26jを介して第3ポート26fを通り、さらに管状油路54を介して油溜部21に排出される。これにより、油圧室PC内の潤滑油Dの圧力は所定圧に保たれるようになっている。
【0041】
そして、油圧室PC内に導入された潤滑油Dの圧力に応じてピストン部材36がクラッチ装置3の切離方向に油圧力を受ける。その後、該油圧力が、ピストン部材36をクラッチ装置3の係合方向に付勢する係合スプリング37の付勢力を超えた時点から、ピストン部材36が、クラッチ装置3の切離方向に変位され始める。そして、ピストン部材36の左端部が従動プレート331から離脱し、駆動ディスク322と従動プレート331とが切離され、クラッチ装置3のインプットシャフト32と出力軸41との連結が解除される。
【0042】
車両が定常の高速走行状態にありエンジン2のみを駆動して走行する場合や、加速時にエンジン2と電動モータ1の両方の駆動力にて車両が走行する場合、クラッチ装置3を係合してクラッチ装置3のインプットシャフト32と出力軸41とを連結する必要がある。クラッチ装置3のインプットシャフト32と出力軸41とを連結する際には、先ず、電動ポンプ7を作動停止させて、クラッチ装置3の油圧室PC内に導入した潤滑油Dに対する加圧を停止するとともに、バルブ26のソレノイド26bを作動停止させる。すると、図5(B)に示すように、バルブ26の弁体26aはバネ26cの復元力により図示矢印b方向に移動する。これにより、クラッチ装置3の油圧室PCと連通するバルブ26の第2ポート26eと油溜部21と連通するバルブ26の第3ポート26fとが接続される。
【0043】
すると、係合スプリング37の復元力によってピストン部材36がクラッチ装置3の係合方向に付勢力を受けて油圧室PC側に向かって変位される。そして、ピストン部材36によって油圧室PC内に残った潤滑油Dの一部がリング部材24の環状溝24a及び孔24bから管状油路23へ押出され、自重によって管状油路25,53を介してバルブの第2ポート26eから第3ポート26fを通り、さらに管状油路54を介して油溜部21に排出される。そして、ピストン部材36の左端部が従動プレート331を付勢し、駆動ディスク322と従動プレート331とが係合され、クラッチ装置3のインプットシャフト32と出力軸41とが連結される。
【0044】
上述の説明から明らかなように、本実施形態においては、モータケース11とモータカバー12とで形成される内部空間の下方の油溜部21と電動ポンプ7とバルブ26とクラッチ装置3の油圧室PCとを連通して潤滑油Dを油圧室PCに給排させる管状油路52等をモータケース11の外周壁部11b等の壁中に形成しているので、車両走行時に発生する走行風による該油路52等内の潤滑油Dの過冷却を防止することができる。よって、潤滑油Dの粘性を適正に維持して電動ポンプ7の性能を十分に発揮させることができ、潤滑油Dを円滑に給送することができる。また、バルブ26の弁体26aを収納する弁体収納部11eをモータケース11の外周壁部11b等の壁中に形成しているので、バルブボディは不要になりハイブリッド車両用駆動装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0045】
また、バルブ26と電動ポンプ7もしくはクラッチ装置3の油圧室PCとを連通する管状油路53,54をコの字状に形成する必要があるとき、該コの字の折り返し部53a,54aをカバー11hに形成することができるので油路形成が容易となり、モータケース11及びカバー11hを製作するための型構造が簡単になるため、ハイブリッド車両用駆動装置の低コスト化を図ることができる。
【0046】
また、ドレイン57と管状油路56とを連通するように形成しているので、オイルフィルタ60をドレイン57に配設することが可能となる。よって、ドレイン57の排出口57aを塞ぐドレインボルト57bを抜くことで、潤滑油Dの交換と同時にオイルフィルタ60の交換も可能となり、オイルフィルタ60のメンテナンス性を向上させることができる。
【0047】
また、クラッチ装置3がノーマルクローズタイプであるため、万が一電動ポンプ7等が故障して潤滑油Dの供給が不可能になったともクラッチ装置3は常時接続状態にあるので、電動モータ1の回転駆動力を出力軸41に伝達することができる。一方、ノーマルオープンタイプのクラッチ装置の場合は万が一電動ポンプ7等が故障して潤滑油Dの供給が不可能になったときはクラッチ装置を接続させることができず、電動モータ1の回転駆動力を出力軸41に伝達することができなくなる。また、本実施形態のノーマルクローズタイプのクラッチ装置3を備えたハイブリッド車両用駆動装置は、エンジンによる通常走行時にはポンプを駆動しないので、ノーマルオープンタイプのクラッチ装置を備えたハイブリッド車両用駆動装置と比べエネルギロスを抑えることができる。
【0048】
尚、上述の実施の形態においては、ノーマルクローズタイプのクラッチ装置3の油圧系に適用する場合を説明したが、ノーマルオープンタイプのクラッチ装置の油圧系にも適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…電動モータ、2…エンジン、3…クラッチ装置、7…電動ポンプ、7a…吐出ポート、7b…吸入ポート、11…モータケース(ケース)、12…モータカバー(ケース)、11a,12a…側壁部、11b…外周壁部、11c…環状ボス部、11d…リブ、11e…弁体収納部、11f…ポンプ取付部、11g…ドレイン形成部、11h…カバー、21…油溜部、22…軸受油路、23,25,52,53,54,55,56…管状油路、24…リング部材、26…バルブ、26a…弁体、32…インプットシャフト(入力軸)、41…出力軸、51…弁体収納穴、57…ドレイン、57a…排出口、57b…ドレインボルト、60…オイルフィルタ、D…潤滑油。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに回転可能に連結される入力軸と、
電動モータのロータと同一軸線上に配置されて一体的に連結された出力軸と、
油圧室に潤滑油が給琲されることにより前記入力軸と前記出力軸とを係脱可能に連結するクラッチ装置と、
前記入力軸及び前記出力軸を前記同一軸線上で回転可能に支承すると共に少なくとも前記電気モータ及び前記クラッチ装置を囲繞し、前記潤滑油を貯留する油溜部が形成されたケースと、
吸入ポートが前記ケースの油溜部に連通された電動ポンプと、
前記クラッチ装置の油圧室、前記電動ポンプの吐出ポート及び前記油溜部に油路でそれぞれ接続され、前記クラッチ装置の油圧室を前記ポンプの吐出ポート又は前記ケースの油溜部に選択的に連通するバルブと、を備え、
前記ケースの壁中に、前記バルブの弁体を収納する弁体収納部と、前記油溜部と前記ポンプと前記バルブと前記油圧室とを連通して前記潤滑油を前記油圧室に給排させる油路と、が形成されていることを特徴とするハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、前記油路の一部が、前記弁体収納部を覆うカバーに形成されていることを特徴とするハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記油溜部に貯留される前記潤滑油を外部に排出するドレインが、前記油路と連通するように形成されていることを特徴とするハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、前記クラッチ装置は、バネ力により常時接続状態であり、前記クラッチ装置の油圧室に前記潤滑油が供給されることによって切離状態となることを特徴とするハイブリッド車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−105196(P2011−105196A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263521(P2009−263521)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】