説明

ハイブリッド車両用駆動装置

【課題】シリーズ走行からエンジン走行への切換制御が簡易化されたハイブリッド車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】エンジン14および第1モータジェネレータ(発電機)MG1と前輪16との間に設けられる第1クラッチC1は、エンジン14から前輪16への動力伝達を許容するが前輪16からエンジン14への動力伝達を阻止する一方向クラッチであることから、シリーズ走行とエンジン走行とを切り換える際に第1クラッチC1を係合させるための係合制御およびその第1クラッチC1前後の回転を同期させる回転同期制御が共に不要であるので、シリーズ走行からエンジン走行への切換制御を簡易化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリーズ走行とエンジン走行とを実施するハイブリッド車両用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1駆動輪に連結されたエンジンと、そのエンジンと直列に連結された発電機と、それらエンジンおよび発電機と前記第1駆動輪との間に設けられた制御クラッチと、前記第1駆動輪または第2駆動輪に連結された電動機とを備え、前記エンジンにより前記発電機を駆動してその発電機で発電させつつ前記電動機により前記第2駆動輪を駆動させるシリーズ走行と、前記エンジンにより前記第1駆動輪を駆動させるエンジン走行とを行うハイブリッド車両用駆動装置が知られている。例えば、特許文献1および2に記載されたものがそれである。上記特許文献1では、第2電動機が第1駆動輪に連結されている。また、上記特許文献2では、第2電動機が第2電動機に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−050767号公報
【特許文献2】特開2007−296975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のハイブリッド車両用駆動装置においては、シリーズ走行からエンジン走行へ切り換える際に、エンジンと第1駆動輪との間に設けられた前記クラッチを係合させるための電気的な制御が必要であると共に、そのクラッチ係合時のショックを抑制するための回転同期制御が必要であるため、シリーズ走行からエンジン走行への切換制御が複雑となり制御性が悪いという問題があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、シリーズ走行からエンジン走行への切換制御が簡易化されたハイブリッド車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a)第1駆動輪に連結されたエンジンと、そのエンジンと直列に連結された発電機と、それらエンジンおよび発電機と前記第1駆動輪との間に設けられたクラッチと、前記第1駆動輪または第2駆動輪に連結された電動機とを備え、前記エンジンにより前記発電機を駆動してその発電機で発電させつつ前記電動機により前記第2駆動輪を駆動させるシリーズ走行と、前記エンジンにより前記第1駆動輪を駆動させるエンジン走行とを行うハイブリッド車両用駆動装置であって、(b)前記クラッチは、前記エンジンから前記第1駆動輪への動力伝達を許容するが前記第1駆動輪から前記エンジンへの動力伝達を阻止する一方向クラッチであることにある。
【0007】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、(a)前記エンジンおよび前記発電機と前記第1駆動輪との間に設けられた変速機と、(b)その変速機の変速比または前記エンジンの回転速度を制御することにより前記シリーズ走行と前記エンジン走行とを切り換える制御装置とを備えることにある。
【0008】
また、第3発明の要旨とするところは、第2発明において、前記制御装置は、前記クラッチの前記エンジン側の回転速度をそのクラッチの前記第1駆動輪側の回転速度以上とすることにより前記シリーズ走行から前記エンジン走行へ切り換えることにある。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、エンジンおよび発電機と第1駆動輪との間に設けられるクラッチは、エンジンから第1駆動輪への動力伝達を許容するが第1駆動輪からエンジンへの動力伝達を阻止する一方向クラッチであることから、シリーズ走行とエンジン走行とを切り換える際にクラッチを係合させる係合制御およびそのクラッチ前後の回転を同期させる回転同期制御が共に不要であるので、シリーズ走行からエンジン走行への切換制御を簡易化することができる。
【0010】
また、第2発明によれば、エンジンおよび発電機と第1駆動輪との間に設けられた変速機と、その変速機の変速比またはエンジンの回転速度を制御することにより前記シリーズ走行と前記エンジン走行とを切り換える制御装置とを備える。このようにすれば、シリーズ走行とエンジン走行とを切り換える際にクラッチを係合させる係合制御およびそのクラッチ前後の回転を同期させる回転同期制御が不要であり、変速機の変速比やエンジン回転速度を変化させるための比較的簡単な制御によりシリーズ走行とエンジン走行とを切り換えることができる。
【0011】
また、第3発明によれば、前記制御装置は、クラッチのエンジン側の回転速度をクラッチの第1駆動輪側の回転速度以上とすることにより前記シリーズ走行から前記エンジン走行への切り換えを行う。このようにすれば、変速機の変速比やエンジン回転速度を変化させてクラッチ前後の回転速度比を変化させる比較的簡単な制御によりシリーズ走行からエンジン走行へ切り換えることができる。
【0012】
ここで、好適には、(a)前記変速機と前記第1駆動輪との間に設けられた第2クラッチを備え、(b)前記クラッチは、前記エンジンおよび前記発電機と前記変速機との間に設けられ、(c)前記制御装置は、前記エンジンおよび前記発電機を停止させつつ前記電動機により前記第2駆動輪を駆動させるEV走行から、前記シリーズ走行へ切り換える際に、前記第2クラッチを係合させて前記第1駆動輪により前記変速機の入力軸を回転させてから、前記エンジンを始動させる。このようにすれば、エンジン始動時には既に第2クラッチが係合されて第1駆動輪により変速機が回転させられ、エンジンを始動しても前記クラッチの開放状態が維持されるので、エンジン始動時のエンジン始動装置(エンジンスタータ)の負荷が少なくなる。そのため、エンジン始動時のエンジン始動装置の電力消費を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例のハイブリッド車両用駆動装置を備えた車両の構成を概念的に示す図である。
【図2】図1の車両の走行モード毎の各装置の作動状態を示した表である。
【図3】図1の車両に設けられた制御系統の要部を示すブロック線図である。
【図4】図3の電子制御装置に備えられた制御機能のうちの走行モード切換制御のための制御機能を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図3の電子制御装置の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の一実施例のハイブリッド車両用駆動装置(以下、駆動装置と記載する)10を備えた車両12の構成を概念的に示す図である。図1において、車両12は、複数種類の駆動力源、すなわちエンジン14と、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2とを備えたハイブリッド車両である。
【0016】
駆動装置10は、駆動力源としてエンジン14および第1モータジェネレータMG1を備え、左右一対の前輪(第1駆動輪)16を駆動するフロント駆動部10Aと、駆動力源として第2モータジェネレータMG2を備え、左右一対の後輪(第2駆動輪)18を駆動するリヤ駆動部10Bとを含む。
【0017】
上記フロント駆動部10Aは、エンジン14と、そのエンジン14と前輪16との間の動力伝達経路にエンジン14側から順に配設され、相互に直列に連結された第1モータジェネレータMG1、第1クラッチC1、変速機20、第2クラッチC2、第1ギヤ対22、および前輪用差動歯車装置24とを備えている。エンジン14は、それら第1モータジェネレータMG1、第1クラッチC1、変速機20、第2クラッチC2、第1ギヤ対22、および前輪用差動歯車装置24を順に介して前輪16に連結されている。
【0018】
エンジン14は、良く知られた内燃機関から構成され、例えば吸入空気量、燃料噴射量、および点火時期などを制御することで出力が調節される。エンジン始動時には、第1モータジェネレータMG1がエンジン始動装置(エンジンスタータ)として機能する。
【0019】
第1モータジェネレータMG1は、電動機としても発電機としても機能する交流同期型のモータジェネレータから構成され、インバータ26を介して蓄電装置28と電気的に接続されている。第1モータジェネレータMG1の回転速度はインバータ26により制御される。なお、第1モータジェネレータMG1は、本発明における発電機に相当する。
【0020】
変速機20は、第1クラッチC1を介して第1モータジェネレータMG1に連結された入力側溝幅可変プーリ30と、その入力側溝幅可変プーリ30と平行に配置され、第2クラッチC2を介して第1ギヤ対22に連結された出力側溝幅可変プーリ32と、それらのプーリ30および32にそれぞれ巻き掛けられた伝動ベルト34とを備える良く知られたベルト式無段変速機から構成されている。この変速機20では、油圧制御回路36によって溝幅可変プーリ32の溝幅およびベルト挟圧力がそれぞれ制御されることで入出力回転速度比すなわち変速比γが変化させられるようになっている。上記変速比γは、入力側溝幅可変プーリ30の回転速度すなわち入力側プーリ回転速度NCFと出力側溝幅可変プーリ32の回転速度すなわち出力側プーリ回転速度NCRとの比(NCF/NCR)である。
【0021】
第1クラッチC1は、一方向すなわちエンジン14から前輪16への方向の動力伝達を許容するが、前輪16からエンジン14への方向の動力伝達を阻止する良く知られた一方向クラッチから構成される。この第1クラッチC1は、その第1クラッチC1のエンジン14側の回転速度たとえばエンジン回転速度Neが、その第1クラッチC1の前輪16側の回転速度たとえば入力側プーリ回転速度NCF以上となった場合において機械的に係合させられる。なお、第1クラッチC1は、本発明におけるクラッチに相当するものである。
【0022】
第2クラッチC2は、良く知られた湿式多板クラッチから構成される。この第2クラッチC2の係合状態は、油圧制御回路36により制御される。
【0023】
また、前記リヤ駆動部10Bは、第2モータジェネレータMG2と、その第2モータジェネレータMG2と後輪18との間の動力伝達経路に第2モータジェネレータMG2側から順に配設され、相互に直列に連結された第2ギヤ対38、第3クラッチC3、第3ギヤ対40、および後輪用差動歯車装置42とを備えている。第2モータジェネレータMG2は、それら第2ギヤ対38、第3クラッチC3、第3ギヤ対40、および後輪用差動歯車装置42を順に介して後輪18に連結されている。
【0024】
第2モータジェネレータMG2は、第1モータジェネレータMG1と同様に電動機としても発電機としても機能する交流同期型のモータジェネレータから構成され、インバータ26を介して蓄電装置28に電気的に接続されている。第2モータジェネレータMG2の回転速度はインバータ26により制御される。なお、第2モータジェネレータMG2は、本発明における電動機に相当する。
【0025】
第3クラッチC3は、第2クラッチC2と同様に、良く知られた湿式多板クラッチから構成され、油圧制御回路36によって係合状態が制御される。
【0026】
以上のように構成された駆動装置10は、図2に示す作動パターンに従って各装置を作動させることで車両12を走行させる。なお、図2の表において、エンジン14の欄で“ON”は作動させることを示し、また“OFF”は停止させることを示している。そして、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の欄で“発電”は発電機として作動させることを示し、また“力行”は電動機として作動させることを示し、また“OFF”は停止させることを示している。そして、第1クラッチC1の欄で“ON”は係合していることを示し、また“OFF”は開放していることを示している。そして、第2クラッチC2、および第3クラッチC3の欄で“ON”は係合させることを示し、また“OFF”は開放させることを示している。
【0027】
図2に示すように、駆動装置10は、第2クラッチC2を開放させて第3クラッチC3を係合させ、エンジン14および第1モータジェネレータMG1を停止させつつ第2モータジェネレータMG2を力行させることにより、第2モータジェネレータMG2により後輪18を駆動させるEV走行を行う。このEV走行中において、第1クラッチC1は開放状態とされる。そして、車両12は後輪駆動状態とされる。
【0028】
また、駆動装置10は、第2クラッチC2および第3クラッチC3をそれぞれ係合させ、エンジン14により第1モータジェネレータMG1を駆動してその第1モータジェネレータMG1で発電させつつ第2モータジェネレータMG2を力行させることにより、蓄電装置28を必要に応じて充電しつつ第2モータジェネレータMG2により後輪18を駆動させるシリーズ走行を行う。このシリーズ走行中において、第1クラッチC1は開放状態とされる。そして、車両12は後輪駆動状態とされる。
【0029】
また、駆動装置10は、第2クラッチC2を係合させ、エンジン14を作動させることにより、エンジン14により前輪16を駆動させる第1エンジン走行を行う。この第1エンジン走行中において、第1クラッチC1は係合状態すなわち動力伝達状態とされる。この際、第3クラッチC3は係合および開放のどちらでもよいが、例えば発進加速走行時や悪路走行時等に第3クラッチC3を係合させて第2モータジェネレータMG2を力行させることにより、車両12を一時的に4輪駆動状態とすることができる。なお、第3クラッチC3を開放させて第2モータジェネレータMG2を作動を停止させると、車両12は2輪駆動状態となる。また、例えば発進加速走行時などに第1モータジェネレータMG1を力行させることにより、エンジン14の出力を第1モータジェネレータMG1により補助させることができる。この第1エンジン走行において、車両12は、駆動力がエンジン14と第1モータジェネレータMG1との両方またはいずれか一方から並列的に得られるパラレルハイブリッド方式となる。
【0030】
また、駆動装置10は、第2クラッチC2および第3クラッチC3をそれぞれ係合させ、エンジン14の動力の一部により第1モータジェネレータMG1を駆動してその第1モータジェネレータMG1で発電させつつ第2モータジェネレータMG2を力行させることにより、エンジン14により前輪16を駆動させると共に、蓄電装置28を充電しつつ第2モータジェネレータMG2により後輪18を駆動させる第2エンジン走行を行う。この第2エンジン走行中において、第1クラッチC1は係合状態すなわち動力伝達状態とされる。そして、車両12は4輪駆動状態とされる。この第2エンジン走行において、車両12は、駆動力がエンジン14と第2モータジェネレータMG2との両方から得られ、且つ第1モータジェネレータMG1で発電を行うシリーズ・パラレルハイブリッド方式となる。
【0031】
図3は、車両12に設けられた制御系統の要部を示すブロック線図である。図3において、電子制御装置44は、駆動装置10の制御装置としての機能を有するものであって、本発明における制御装置に相当するものである。この電子制御装置44は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン14の出力制御、モータジェネレータMG1およびMG2の出力制御、変速機20の変速比制御、および第2クラッチC2および第3クラッチC3の係合制御などを実行する。
【0032】
電子制御装置44には、車両に設けられた各センサにより検出された各種入力信号が供給される。上記入力信号は、例えば、電池監視ユニット46により検出された蓄電装置28の温度や電圧や電流等の状態を表す信号、車速センサ48により検出された車速Vを表す信号、エンジン回転速度センサ50により検出されたエンジン回転速度Neを表す信号などである。
【0033】
また、電子制御装置44からは、車両に設けられた各装置に各種出力信号が供給される。上記出力信号は、例えば、エンジン14の出力制御のためにそのエンジン14に供給される信号、第1モータジェネレータMG1および第2モータジェネレータMG2の出力制御のためにインバータ26に供給される信号、変速機20の変速比制御および第2クラッチC2および第3クラッチC3の係合制御のために油圧制御回路36に供給される信号などである。
【0034】
電子制御44は、変速機20の変速比γまたはエンジン回転速度Neを制御することにより前記シリーズ走行と前記エンジン走行とを切り換える走行モード切換制御を行う。図4は、電子制御装置44に備えられた制御機能の要部すなわち上記走行モード切換制御のための制御機能を説明する機能ブロック線図である。図4において、SOC算出手段50は、蓄電装置28の状態を表す信号に基づいてその蓄電装置28の充電残量(充電状態)SOCを算出する。
【0035】
EV走行制御手段52は、たとえば予め定められた車両の低速低負荷領域すなわちアクセル開度に基づく要求駆動力が所定値以下の領域においては充電残量SOCが所定以上であることを条件としてEV走行を判定し、前記図2の作動表に従ってエンジン14、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2、第2クラッチC2、および第3クラッチC3の作動をそれぞれ制御することで、車両12の走行状態をEV走行状態とするためのEV走行制御を行う。
【0036】
EV走行判定手段54は、EV走行制御手段52の制御信号に基づいて、車両12がEV走行中であるか否かを判定する。
【0037】
シリーズ走行移行判定手段56は、車両12がEV走行中であるときに、予め記憶された関係から例えばアクセル開度に基づく要求駆動力、充電残量SOC、および車速Vに基づいて、EV走行からシリーズ走行への移行を実施するか否かを判定する。例えば、シリーズ走行移行判定手段56は、充電残量SOCが予め記憶された第1充電残量SOC1以下であり充電が必要である場合、或いは車速Vが、充電無しの状態において第2モータジェネレータだけでは駆動力が要求駆動力に対して不足する予め記憶された第1車速V1以上である場合に、シリーズ走行への移行判断をする。
【0038】
第2クラッチ係合手段58は、シリーズ走行移行判定手段56によりシリーズ走行への移行が判定された場合に、第2クラッチC2を係合させる。
【0039】
第1変速制御手段60は、第2クラッチ係合手段58により第2クラッチC2が係合された後に、第1クラッチC1の前輪16側の回転速度すなわち入力側プーリ回転速度NCFが、エンジン14の効率が最適となる予め記憶された最適エンジン回転速度Nesよりも大きくなるように、例えば車速Vに基づいて変速機20の変速比γを制御する。
【0040】
エンジン始動手段62は、第1変速制御手段60により入力側プーリ回転速度NCFが最適エンジン回転速度Nesよりも大きくされてから、第1モータジェネレータMG1によりエンジン14を始動させる。
【0041】
シリーズ走行制御手段64は、前記図2の作動表に従ってエンジン14、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2、第2クラッチC2、および第3クラッチC3の作動をそれぞれ制御することで、車両12の走行状態をシリーズ走行状態とするためのシリーズ走行制御を行う。
【0042】
シリーズ走行判定手段66は、シリーズ走行制御手段64の制御信号に基づいて、車両12がシリーズ走行中であるか否かを判定する。
【0043】
エンジン走行移行判定手段68は、車両12がシリーズ走行中であるときに、予め記憶された関係から例えばアクセル開度に基づく要求駆動力、充電残量SOC、および車速Vに基づいて、シリーズ走行からエンジン走行(第1エンジン走行または第2エンジン走行)への移行を実施するか否かを判定する。例えば、エンジン走行移行判定手段68は、充電残量SOCが予め記憶された第2充電残量SOC2以下であり充電が必要である場合、或いは車速Vが、充電有りでも第2モータジェネレータMG2だけでは駆動力が要求駆動力に対して不足する予め記憶された第2車速V2以上である場合等に、エンジン走行への移行判断をする。
【0044】
第2変速制御手段70は、第1クラッチC1の前輪16側の回転速度すなわち入力側プーリ回転速度NCFが、エンジン14の効率が最適となる予め記憶された最適エンジン回転速度Nes以下となるように、例えば車速Vに基づいて変速機20の変速比γおよび/またはエンジン回転速度Neを制御する。この制御により、第1クラッチC1のエンジン14側の回転速度すなわちエンジン回転速度Neが第1クラッチC1の前輪16側の回転速度すなわち入力側プーリ回転速度NCF以上とされ、第1クラッチC1が係合状態とされる。
【0045】
エンジン走行制御手段72は、前記図2の作動表に従ってエンジン14、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2、第2クラッチC2、および第3クラッチC3の作動をそれぞれ制御することで、車両12の走行状態を第1エンジン走行状態または第2エンジン走行状態とするためのエンジン走行制御を行う。
【0046】
図5は、電子制御装置44の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。このフローチャートは、電子制御装置44による制御作動のうちの走行モード切換制御のための制御作動を説明するためのものであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0047】
図5において、EV走行判定手段54に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)S1においては、車両12がEV走行中であるか否かが判定される。
【0048】
S1での判定が否定される場合には、S7以下が実行される。また、S1での判定が肯定される場合には、シリーズ走行移行判定手段56に対応するS2において、予め記憶された関係から例えばアクセル開度に基づく要求駆動力、充電残量SOC、および車速Vに基づいて、EV走行からシリーズ走行への移行を実施するか否かが判定される。例えば、充電残量SOCが予め記憶された第1充電残量SOC1以下であり充電が必要である場合、或いは車速Vが、充電無しの状態において第2モータジェネレータだけでは駆動力が要求駆動力に対して不足する予め記憶された第1車速V1以上である場合に、シリーズ走行への移行判断が為される。
【0049】
S2での判定が否定される場合には、S2以下が繰り返し実行される。また、S2での判定が肯定される場合には、第2クラッチ係合手段58に対応するS3において、第2クラッチC2が係合させられる。シリーズ走行のためには必ずしも第2クラッチC2の係合を要しないが、シリーズ走行からエンジン走行への切り換えを予定して予め第2クラッチC2が係合される。
【0050】
S3に次いで、第1変速制御手段60に対応するS4においては、シリーズ走行を可能とするために、入力側プーリ回転速度NCFが最適エンジン回転速度Nesよりも大きくなるように、例えば車速Vに基づいて変速機20の変速比γが制御される。
【0051】
S4に次いで、エンジン始動手段62に対応するS5においては、第1モータジェネレータMG1によりエンジン14が始動させられる。
【0052】
S5に次いで、シリーズ走行制御手段64に対応するS6では、車両12のシリーズ走行制御が実施される。
【0053】
S6に次いで、シリーズ走行判定手段66に対応するS7においては、車両12がシリーズ走行中であるか否かが判定される。
【0054】
S7での判定が否定される場合には、本ルーチンが終了させられる。また、S7での判定が肯定される場合には、エンジン走行移行判定手段68に対応するS8において、予め記憶された関係から例えばアクセル開度に基づく要求駆動力、充電残量SOC、および車速Vに基づいて、シリーズ走行からエンジン走行(第1エンジン走行または第2エンジン走行)への移行を実施するか否かが判定される。例えば、充電残量SOCが予め記憶された第2充電残量SOC2以下であり充電が必要である場合、或いは車速Vが、充電有りでも第2モータジェネレータMG2だけでは駆動力が要求駆動力に対して不足する予め記憶された第2車速V2以上である場合等に、エンジン走行への移行判断が為される。
【0055】
S8での判定が否定される場合には、S8以下が繰り返し実施される。またS8での判定が肯定される場合には、第2変速制御手段70に対応するS9において、第1クラッチC1の前輪16側の回転速度すなわち入力側プーリ回転速度NCFが、エンジン14の効率が最適となる予め記憶された最適エンジン回転速度Nes以下となるように、例えば車速Vに基づいて変速機20の変速比γおよび/またはエンジン回転速度Neが制御される。この制御により、第1クラッチC1のエンジン14側の回転速度すなわちエンジン回転速度Neが第1クラッチC1の前輪16側の回転速度すなわち入力側プーリ回転速度NCF以上とされ、第1クラッチC1が係合状態とされる。
【0056】
S9に次いで、エンジン走行制御手段72に対応するS10では、車両12のエンジン走行制御が実施される。
【0057】
本実施例のハイブリッド車両用駆動装置10によれば、エンジン14および第1モータジェネレータ(発電機)MG1と前輪(第1駆動輪)16との間に設けられる第1クラッチ(クラッチ)C1は、エンジン14から前輪16への動力伝達を許容するが前輪16からエンジン14への動力伝達を阻止する一方向クラッチであることから、シリーズ走行とエンジン走行とを切り換える際に第1クラッチC1を係合させるための係合制御およびその第1クラッチC1前後の回転を同期させる回転同期制御が共に不要であるので、シリーズ走行からエンジン走行への切換制御を簡易化することができる。
【0058】
また、本実施例のハイブリッド車両用駆動装置10によれば、エンジン14および第1モータジェネレータMG1と前輪16との間に設けられた変速機20と、その変速機22の変速比γまたはエンジン回転速度Neを制御することにより前記シリーズ走行と前記エンジン走行とを切り換える電子制御装置(制御装置)44とを備える。このようにすれば、シリーズ走行とエンジン走行とを切り換える際に第1クラッチC1を係合させる係合制御およびその第1クラッチC1前後の回転を同期させる回転同期制御が共に不要であり、変速機20の変速比γやエンジン回転速度Neを変化させるための比較的簡単な制御によりシリーズ走行とエンジン走行とを切り換えることができる。
【0059】
また、本実施例のハイブリッド車両用駆動装置10によれば、電子制御装置44は、第1クラッチC1のエンジン14側の回転速度すなわちエンジン回転速度Neを第1クラッチC1の前輪16側の回転速度すなわち入力側プーリ回転速度NCF以上とすることにより前記シリーズ走行から前記エンジン走行への切り換えを行う。このようにすれば、変速機20の変速比γやエンジン回転速度Neを変化させて第1クラッチC1前後の回転速度比を変化させる比較的簡単な制御によりシリーズ走行からエンジン走行へ切り換えることができる。
【0060】
また、本実施例のハイブリッド車両用駆動装置10によれば、変速機20と前輪16との間に設けられた第2クラッチC2を備え、第1クラッチC1は、エンジン14および第1モータジェネレータMG1と変速機20との間に設けられ、電子制御装置44は、エンジン14および第1モータジェネレータMG1を停止させつつ第2モータジェネレータMG2により後輪(第2駆動輪)18を駆動させるEV走行から、前記シリーズ走行へ切り換える際に、第2クラッチC2を係合させて変速機20の変速比γを所定値に変更してから、エンジン14を始動させる。上記所定値は、変速機20の入力回転速度すなわち入力側プーリ回転速度NCFが、エンジン14の効率が最適となるように予め記憶された最適エンジン回転速度Nesよりも高くなるように設定されている。このようにすれば、エンジン始動時には既に第2クラッチC2が係合されて前輪16により変速機20が回転させられ、エンジン14を始動しても第1クラッチC1の開放状態が維持されるので、エンジン始動時にエンジン始動装置として機能する第1モータジェネレータMG1の負荷が少なくなる。そのため、エンジン始動時の第1モータジェネレータMG1の電力消費を低減することができる。
【0061】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0062】
例えば、前述の実施例において、第2モータジェネレータMG2は、後輪18に連結されていたが、これに限らず、エンジン14および第1モータジェネレータMG1と並列に前輪16に駆動可能に連結されてもよい。
【0063】
また、前述の実施例においては、一方向クラッチから成る第1クラッチC1が第1モータジェネレータMG1と変速機20との間に設けられ、湿式多板クラッチから成る第2クラッチC2が変速機20と前輪16との間に設けられていたが、これに限らず、一方向クラッチから成る第1クラッチC1が変速機20と前輪16との間に設けられ、湿式多板クラッチから成る第2クラッチC2が第1モータジェネレータMG1と変速機20との間に設けられてもよい。
【0064】
また、前述の実施例においては、EV走行からシリーズ走行へ切り換える際に第2クラッチC2を係合させた後、シリーズ走行中は常にその第2クラッチC2の係合を継続させるように構成されていたが、これに限らず、EV走行からシリーズ走行への切り換えの際にエンジン始動が完了したら第2クラッチC2を開放し、シリーズ走行からエンジン走行へ切り換える際に第2クラッチC2を係合させるように構成してもよい。これにより、シリーズ走行中にエンジンと無段変速機との連結が解除され、その無段変速機のひきずりが無くなる分だけ第1電動機の発電効率が高められる。
【0065】
また、前述の実施例においては、シリーズ走行からエンジン走行へ切り換える際に第2クラッチC2を係合させて変速比γを所定値に制御した後、エンジン始動を行っていたが、これに限らず、エンジン始動を行ってから第2クラッチC2を係合させて変速比γを所定値に制御してもよい。なお、実施例のように第2クラッチC2を係合させて変速比γを所定値に制御した後にエンジン始動を行うことで、エンジン始動の際の第1モータジェネレータMG1の消費電力を抑えることができるという効果が得られる。
【0066】
また、前述の実施例においては、EV走行中は第2クラッチが開放されていたが、これに限らず係合されてもよい。なお、EV走行中に第2クラッチが開放されることで、そのEV走行中に変速機20がひきずられないという効果が得られる。
【0067】
また、前述の実施例においては、第1モータジェネレータMG1がエンジン14と第1クラッチC1との間に設けられていたが、これに限らず、エンジン14が第1モータジェネレータMG1と第1クラッチC1との間に設けられてもよい。
【0068】
また、前述の実施例においては、変速機20は、ベルト式無段変速機であったが、これに限らず、たとえば遊星歯車式の有段変速機など、その他の公知の変速機であってもよい。
【0069】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
10:ハイブリッド車両駆動装置
14:エンジン
16:前輪(第1駆動輪)
18:後輪(第2駆動輪)
20:変速機
44:電子制御装置(制御装置)
C1:第1クラッチ(クラッチ,一方向クラッチ)
MG1:第1モータジェネレータ(発電機)
MG2:第2モータジェネレータ(電動機)
Ne:エンジン回転速度(クラッチのエンジン側の回転速度)
CF:入力側プーリ回転速度(クラッチの第1駆動輪側の回転速度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動輪に連結されたエンジンと、該エンジンと直列に連結された発電機と、該エンジンおよび該発電機と前記第1駆動輪との間に設けられたクラッチと、前記第1駆動輪または第2駆動輪に連結された電動機とを備え、前記エンジンにより前記発電機を駆動して該発電機で発電させつつ前記電動機により前記第2駆動輪を駆動させるシリーズ走行と、前記エンジンにより前記第1駆動輪を駆動させるエンジン走行とを行うハイブリッド車両用駆動装置であって、
前記クラッチは、前記エンジンから前記第1駆動輪への動力伝達を許容するが該第1駆動輪から該エンジンへの動力伝達を阻止する一方向クラッチであることを特徴とするハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項2】
前記エンジンおよび前記発電機と前記第1駆動輪との間に設けられた変速機と、
該変速機の変速比または前記エンジンの回転速度を制御することにより前記シリーズ走行と前記エンジン走行とを切り換える制御装置と
を備えることを特徴とする請求項1のハイブリッド車両用駆動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記クラッチの前記エンジン側の回転速度を該クラッチの前記第1駆動輪側の回転速度以上とすることにより前記シリーズ走行から前記エンジン走行へ切り換えることを特徴とする請求項2のハイブリッド車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−166687(P2012−166687A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29172(P2011−29172)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】