説明

ハイブリッド電気自動車の制御装置

【課題】通信線を介した信号に異常が生じた場合においても電動機の機能制限を最小限に抑え、車両の走行安定性を極力保持することのできるハイブリッド電気自動車の制御装置を提供すること。
【解決手段】TCU36は、CAN38を介して受信する信号をモータ4の回転数制御に関わる信号であるか否かで類別し、回転数制御に関わる信号であるモータ動作信号、実モータ回転数信号、瞬間最大駆動・回生トルク信号のいずれか1つでもフェイルした場合は、モータ4の使用を禁止すべく、走行トルク配分制御及びモータ4による回転合わせ制御の両方を禁止し、回転数制御に関わらない信号である定格最大駆動・回生トルク信号、及びSOC信号のみがフェイルした場合には、走行トルク配分制御は禁止しつつ、モータ4による回転合わせ制御の実行は許可する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としてエンジンと電動機を備えるハイブリッド電気自動車の制御装置に係り、詳しくは通信線を介して送受信される信号に異常が生じた際の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費や排ガス性能の向上等を目的に、駆動源としてエンジンと電動機(以下、モータともいう)を備えるハイブリッド電気自動車が開発されている。
そして、車両には複数の電子制御ユニットが搭載されており、これらの制御ユニットには、CAN(Controller Area Network)方式の車載LAN等の通信線が接続され、各制御ユニット間で相互に信号を送受信可能に車載ネットワークが形成されている。
【0003】
ハイブリッド電気自動車に搭載されている代表的な制御ユニットとしては、例えばエンジンの制御を行うエンジン制御ユニット(ECU:Engine Control Unit)、モータの制御を行うモータ制御ユニット(MCU:Motor Control Unit)、変速機(以下、トランスミッションともいう)の制御を行うトランスミッション制御ユニット(TCU:Transmission Control Unit)、バッテリ状態を管理・制御するバッテリ制御ユニット(BMS:Battery Management System)、及びこれらエンジン、モータ、トランスミッション等の各装置を跨ってハイブリッドシステムとして統合的な制御を行う統合制御ユニットが搭載されている。
【0004】
これら各制御ユニットは、システムの安定化を図るため、各通信線における通信状態を監視し、故障診断等が行われている。例えば、制御ユニット自体に異常が発生した時又は制御ユニットとの信号ライン断線/短絡の発生の時に、各制御ユニットでの動作制御を行うフェイルセーフ制御システムがある(特許文献1参照)。
【0005】
具体的には、特許文献1では、統合制御ユニット(車両制御機HCU)自体又は統合制御ユニットから出力される動作信号がフェイルした時、バッテリ制御ユニットから出力される動作信号がフェイルした時等に、モータ制御ユニットによりモータの使用を禁止したり、ハイブリッド運転モード機能を禁止したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−131293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1記載の技術では、各制御ユニットより出力される動作信号がフェイルしたことに応じてモータの使用禁止等を決定しているが、CAN通信においては動作信号の他にも、各種信号の送受信が行われており、フェイルした信号の種類やフェイルのレベルによっては必ずしもモータ等の使用を全て禁止する必要はなく、フェイルの内容によってはモータの一部の機能を継続することできる場合もある。
【0008】
必要以上にモータの使用を制限すれば、その分走行性能が損なわれるだけでなく、モータがクラッチの接続や変速機のギヤ選択の際に回転数を合わせる機能等を有している場合には、クラッチ接続時や変速機のギヤ選択時にショックが生じて乗客に不快感を与えたり、モータの使用が長期間制限されれば、クラッチや変速機のシンクロの負担が増加して製品寿命が低下する等の問題も生じ得る。
【0009】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、通信線を介した信号に異常が生じた場合においても電動機の機能制限を最小限に抑え、車両の走行安定性を極力保持することのできるハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、請求項1のハイブリッド電気自動車の制御装置では、車両の駆動源としてエンジン及び電動機を備え、複数の制御手段が通信線を介して接続されているハイブリッド電気自動車の制御装置であって、前記電動機を制御するとともに、前記通信線を介して前記電動機に関する信号を送信する電動機制御手段と、前記通信線を介して受信する信号を、前記電動機の回転数制御に関わる第1の信号及び前記電動機の回転数制御に関わらない第2の信号に類別し、当該第1の信号の異常を検出した場合には前記電動機の使用を禁止し、前記第2の信号の異常のみを検出した場合には前記電動機による走行に関する制御を禁止しつつ、前記電動機の回転数制御は許可する統合制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0011】
請求項2のハイブリッド電気自動車の制御装置では、請求項1において、前記電動機は、前記エンジンと変速機との間にて、前記エンジンとクラッチを介して接続されており、当該電動機の回転数制御として前記クラッチの接続の際または前記変速機のギヤ選択の際の回転合わせ制御が可能であり、前記電動機制御手段は、前記電動機に関する信号として、前記電動機の瞬間最大駆動・回生トルクの信号及び定格最大駆動・回生トルクの信号を送信し、前記統合制御手段は、前記電動機の瞬間最大駆動・回生トルクの信号を前記第1の信号に、前記電動機の定格最大駆動・回生トルクの信号を前記第2の信号に類別することを特徴としている。
【0012】
請求項3のハイブリッド電気自動車の制御装置では、請求項1又は2において、前記電動機に電力を供給するバッテリを制御するとともに、前記通信線を介して当該バッテリのSOCに関する信号を送信するバッテリ制御手段を、さらに備え、前記電動機は、前記エンジンと変速機との間にて、前記エンジンとクラッチを介して接続されており、当該電動機の回転数制御として前記クラッチの接続の際または前記変速機のギヤ選択の際の回転合わせ制御が可能であり、前記統合制御手段は、前記バッテリ制御手段から受信する前記SOCに関する信号を前記第2の信号に類別することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
上記手段を用いる本発明の請求項1のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、ハイブリッド電気自動車において複数の制御手段が通信線を介して接続されており、電動機制御手段は当該通信線を介して電動機に関する信号を送信し、統合制御手段はこの電動機に関する信号を受信して電動機の回転数制御に関わる第1の信号と当該回転数制御に関わらない第2の信号とに類別し、第1の信号の異常を検出した場合には電動機の使用を禁止し、第2の信号の異常のみを検出した場合には電動機による走行に関する制御を禁止しつつ、当該電動機の回転数制御は許可する。
【0014】
このように統合制御手段において、受信する信号を一律に判断するのではなく、電動機の回転数制御に関わる信号か否かで類別し、回転数制御に関わらない信号(第2の信号)の異常のみを検出した場合には、安全性を考慮して走行に関する制御は禁止しつつ、正常に受信できている回転数制御に関する信号(第1の信号)に基づき電動機の回転数制御は実行可能なよう許可する。
【0015】
このように、受信した信号の異常に対し同一の処置を行うものでないことから、通信線の一部に異常が生じた場合等でも、電動機の機能制限を最小限に抑えることができ、車両の走行安定性を極力保持することができる。
請求項2のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、電動機がエンジンと変速機との間にて、前記エンジンとクラッチを介して接続されており、当該電動機によりクラッチの接続の際または変速機のギヤ選択の際の回転合わせ制御が可能であり、前記統合制御手段は、電動機制御手段から送信される電動機の瞬間最大駆動・回生トルクの信号を第1の信号に、電動機の定格最大駆動・回生トルクの信号を第2の信号に類別する。
【0016】
回転合わせ制御は、クラッチまたは変速機の回転数を合わせるのに必要なトルクを瞬間的に電動機に発生させればよいことから、瞬間最大駆動・回生トルクの信号が正常であればよく、定格最大駆動・回生トルクの信号を得なくとも実行可能である。そこで、瞬間最大駆動・回生トルクの信号を第1の信号に、定格最大駆動・回生トルクの信号を第2の信号にそれぞれ類別することで、瞬間最大駆動・回生トルクの信号が異常である場合は電動機の使用を禁止し、定格最大駆動・回生トルクの信号のみが異常である場合は、電動機による走行に関する制御は禁止しつつも、回転合わせ制御は許可することとする。
【0017】
このように回転合わせ制御が極力維持されることで、クラッチ接続時または変速機のギヤ選択時におけるショックを軽減して運転者への不快感を抑制することができ、クラッチ及び変速機を傷めずに済むことから製品寿命の低下も防止することができる。
請求項3のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、電動機によりクラッチの接続または変速機のギヤ選択の際の回転合わせ制御が可能であり、バッテリ制御手段からバッテリのSOCに関する信号を送信する。そして、統合制御手段は、当該バッテリ制御手段から送信されるSOCに関する信号を第2の信号に類別する。
【0018】
回転合わせ制御は、クラッチまたは変速機の回転数を合わせるのに必要なトルクを瞬間的に電動機に発生させればよいことから、僅かなSOCで実行可能である。そこで、SOCに関する信号を第2の信号に類別することで、当該SOCに関する信号のみが異常である場合は、電動機による走行に関する制御を禁止しつつも、回転合わせ制御を許可することとする。
【0019】
このように回転合わせ制御が極力維持されることで、クラッチ接続時または変速機のギヤ選択時におけるショックを軽減して運転者への不快感を抑制することができ、クラッチ及び変速機を傷めずに済むことから製品寿命の低下も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態におけるハイブリッド電気自動車の制御装置の概略構成を示したブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るハイブリッド電気自動車の制御装置のTCUによる各信号の類別及び信号フェイル時の処理を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態におけるハイブリッド電気自動車の制御装置の概略構成を示したブロック図であり、同図に基づき説明する。
図1に示す車両1はハイブリッド電気自動車であり、駆動源であるエンジン2及びモータ4(電動機)がクラッチユニット6(クラッチ)を介して変速機8に接続された構成の駆動装置を備えている。車両1は、これらのエンジン2やモータ4からの駆動力をクラッチユニット6及び変速機8を経て左右の駆動輪10、10(例えば後輪)に伝達することにより走行を行うものである。
【0022】
詳しくは、エンジン2が出力する回転駆動力(以下、単に駆動力という)は入力軸12を介してクラッチユニット6に入力され、クラッチユニット6内で2系統に分岐される。クラッチユニット6は第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの2つのクラッチを有しており、クラッチユニット6内で2系統に分岐されたエンジン2の駆動力の一方は第1クラッチ6aの入力側に伝達され、他方は第2クラッチ6bの入力側に伝達されるようになっている。なお、図1では簡略化してブロック図として示しているが、具体的な構成としては、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bは、エンジン2の回転により駆動するポンプ6cより供給される油圧に応じて断接可能な湿式多板クラッチである。また、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bは同軸上にて、第1クラッチ6aは内側、第2クラッチ6bは外側に配設されて構成されている。
【0023】
変速機ユニット8は、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bに対応して、第1変速機構8a(図1のG1)及び第2変速機構8b(図1のG2)の2系統の変速機構を備えている。第1クラッチ6aに対応している第1変速機構8aは、前進用の変速段として第1速、第3速、及び第5速の各変速段を有している。第2クラッチ6bに対応している第2変速機構8bは、前進用の変速段として第2速、第4速、及び第6速の各変速段を有している。即ち、第1クラッチ6aの出力側は第1変速機構8aの入力軸に連結され、第2クラッチ6bの出力側は第2変速機構8bの入力軸に連結されている。
【0024】
そして、第1変速機構8aの出力軸及び第2変速機構8bの出力軸は、共通のカウンタ軸14で構成され、第1変速機構8aから出力される駆動力、及び第2変速機構8bから出力される駆動力は、いずれもこの共通のカウンタ軸14を介してデファレンシャル装置16に伝達され、左右の駆動輪10、10に割り振られるようになっている。このようにクラッチユニット6及び変速機ユニット8により、いわゆるデュアルクラッチ式変速機が構成されている。
【0025】
モータ4は、エンジン2と第2変速機構8bとの間にて、第2クラッチ6bを介してエンジン2と接続されている。具体的には、図示しないが、モータ4は第2クラッチ6bの出力側の外周に配設されている。より詳しくは、モータ4のロータが第2クラッチ6bの外周に固定され、モータ4のステータが変速機8のケーシングに固定されている。つまり、第2クラッチ6bがモータ4の回転軸を兼用しており、第2クラッチ6bと共にロータがステータの内側で回転し、ロータとステータとの間に発生した磁界による駆動トルクや回生トルクが第2クラッチ6bを介して第2変速機構8bに入力されるようになっている。
【0026】
モータ4は、インバータ18を介して車両1に搭載されたHEV(ハイブリッド電気自動車)用のバッテリ20が接続されている。当該バッテリ20は、比較的高電圧(例えば270V)なリチウムイオンバッテリである。当該バッテリ20は、インバータ18を介して、モータ4に電力を供給することで当該モータ4に駆動トルクを発生させたり、モータ4の回生により発生した電力を蓄電するものである。
【0027】
また、車両1には、これらエンジン2、モータ4、クラッチユニット6、変速機ユニット8、バッテリ20の制御を行う各種制御ユニット(制御手段)が搭載されている。具体的には、エンジン2の制御を行うエンジン制御ユニット(以下ECU)30、モータ4の制御を行うモータ制御ユニット(以下MCU)32、バッテリ20の状態の管理を行うバッテリ制御ユニット(以下BMS)34、並びにクラッチユニット6及び変速機ユニット8の制御を行うトランスミッション制御ユニット(以下TCU)36が搭載されている。
【0028】
これら各制御ユニットはCAN38(通信線)により相互に接続されており、当該CAN38を介して各種信号を送受信可能である。各制御ユニット間で送受信する信号として、例えば、ECU30は、エンジン2の動作状態、エンジン回転数等に関する信号を送信する。MCU32は、モータ4の動作状態、実モータ回転数、インバータ18の制御状態、モータ4の瞬間最大駆動・回生トルク、及び定格最大駆動・回生トルク等に関する信号を送信する。BMS34は、バッテリ20のSOC(State Of Charge)、バッテリ20の温度等に関する信号を送信する。TCU36は、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの断接状態、第1変速機構8a及び第2変速機構8bのギヤ選択状態等に関する信号を送信する。
【0029】
また、TCU36においては、これら各信号に応じ、直接的に又は各制御ユニットを介して間接的に、エンジン2、モータ4、クラッチユニット6、変速機ユニット8等に対する統合的な制御を行う。
例えば、TCU36は、走行に関する制御として、車両1の走行状態、アクセル踏み込みに応じた要求負荷、バッテリ20のSOC等に応じてエンジン2とモータ4との間のトルク配分制御を行う。
【0030】
また、TCU36は、モータ4の回転数制御として、第2クラッチ6bを接続する際にモータ4を用いて第2クラッチ6bの回転数をエンジン2の回転数に合わせる回転合わせ制御を行う。さらに、TCU36は、第1クラッチ6aを接続して第1変速機ユニット8aを介してエンジン2の駆動力伝達を行っている間に、次の変速に備えて第2変速機構8bのギヤを切り替えておくいわゆるプレシフトの際にも、モータ4を用いて次のギヤ段の回転数に合わせる回転合わせ制御を行う。
【0031】
ここで、TCU36は、受信する信号の種類に応じて、上述の回転合わせ制御等のモータ4の回転数制御に関わる信号(第1の信号)と、回転数制御に関わらない信号(第2の信号)とに類別し、当該信号が異常である(フェイルした)場合に、類別した信号に応じた処理を行う。
詳しくは、図2を参照すると本実施形態におけるTCU36による各信号の類別及び信号フェイル時の処理を示す表が示されており、以下同図に基づき説明する。なお、各信号のフェイルは、例えばTCU36が、信号を受信できない状態に陥ったときに発せられる途絶信号を受信した場合や、受信した信号が予め定められた範囲を超える異常値を受信した場合にフェイルしたと判定される。
【0032】
図2に示すように、本実施形態におけるTCU36は、MCU32から送信されるモータ動作信号、実モータ回転数信号、瞬間最大駆動・回生トルク信号を回転数制御に関わる信号とし、定格最大駆動・回生トルクを回転数制御に関わらない信号として類別している。また、TCU36は、BMS34から送信されるSOC信号を回転数制御に関わらない信号として類別している。
【0033】
なお、定格最大駆動・回生トルクとは、モータ4やバッテリ20の温度上昇や電圧低下等を考慮し、モータ4を連続的に使用することが可能な駆動トルク及び回生トルクの上限である。一方、瞬間最大モータ駆動・回生トルクとは、モータ4の連続的な使用を考慮せず瞬間的に発生させることが可能な最大限の駆動トルク及び回生トルクのことである。つまり、定格最大駆動・回生トルクは瞬間最大駆動・回生トルクよりも制限された、低い値となる。
【0034】
そして、TCU36は、回転数制御に関わる信号であるモータ動作信号、実モータ回転数信号、瞬間最大駆動・回生トルク信号のいずれか1つでもフェイルした場合は、モータ4の使用を禁止すべく、上述した走行トルク配分制御及びモータ4による回転合わせ制御の両方を禁止する。
具体的には、モータ動作信号がフェイルしている場合とは、モータ4自体が三相短絡等して動作不能であったり、CAN38の通信障害等でモータ動作信号を受信できずモータ4が正常であるか否かの判断ができない状態にあることから、モータ4の使用を禁止する。また、実モータ回転数信号がフェイルしている場合は、モータ4が作動しているとしても、回転の程度を把握できなければ制御を行えないことからモータ4の使用を禁止する。瞬間最大駆動・回生トルク信号がフェイルしている場合は、モータ4の出力が不明確となることから走行トルク配分を禁止するとともに、瞬間的なトルクを必要とするモータ回転合わせ制御も禁止する。
【0035】
一方、TCU36は、回転数制御に関わらない信号である定格最大駆動・回生トルク信号、及びSOC信号のみがフェイルした場合には、走行トルク配分制御は禁止しつつ、モータ4による回転合わせ制御の実行は許可する。
回転合わせ制御は、回転数を合わせるのに必要なトルクを瞬間的にモータ4に発生させればよいことから、モータ4が正常であって瞬間最大駆動・回生トルク信号が正常であればよく、定格最大駆動・回生トルク信号のみがフェイルがしている場合には回転合わせ制御は維持する。
【0036】
また、回転合わせ制御は短時間で実行可能であるため、必要なSOCは僅かであることから、SOC信号のみがフェイルしている場合においても、回転数合わせ制御は維持する。なお、定格最大駆動・回生トルク信号及びSOC信号の両方がフェイルしている場合にも回転数合わせ制御は許可するものとする。
ただし、TCU36は定格最大駆動・回生トルク又はSOC信号がフェイルしている場合で、回転合わせ制御を一定時間実行した結果、モータ4の回転数が回転合わせの目標回転数に達しない場合には、回転合わせ制御を禁止する。
【0037】
以上のように、統合制御を行うTCU36は、受信する信号を一律に判断するのではなく、モータ4の回転数制御に関わる信号か否かで類別し、回転数制御に関わらない信号の異常のみを検出した場合には、安全性を考慮して走行トルク配分制御は禁止しつつ、正常に受信できている回転数制御に関わる信号に基づきモータ4による回転合わせ制御は実行可能なよう許可する。
【0038】
このように、受信した信号の異常に対し同一の処置を行うものでないことから、CAN38の一部に異常が生じた場合等でも、モータ4の機能制限を最小限に抑えることができ、車両の走行安定性を極力保持することができる。
特に回転合わせ制御が極力維持されることで、第2クラッチ6bの接続時または第2変速機構8bのギヤ選択時におけるショックを軽減して運転者への不快感を抑制することができ、クラッチ及び変速機を傷めずに済むことから製品寿命の低下も防止することができる。
【0039】
以上で本発明に係るハイブリッド電気自動車の制御装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
上記実施形態では、モータ4の回転数制御に関わる信号及び関わらない信号を図2に示したように類別しているが、各信号の類別はこれに限られるものではなく、他の信号を追加したり、図2に示した信号を除外しても構わない。
【0040】
上記実施形態では、TCU36が統合制御手段として機能しているが、他の制御ユニットが統合制御手段の機能を有していてもよいし、または統合制御手段専用の制御ユニットを搭載しても構わない。
また、上記実施形態の車両1の駆動装置は、クラッチユニット6及び変速機ユニット8がデュアルクラッチ式変速機を構成しているが、駆動装置はこれに限られるものではない。例えば、動力の伝達経路が1系統からなるクラッチ及び変速機にも本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 車両
2 エンジン
4 モータ(電動機)
6 クラッチユニット
6a 第1クラッチ
6b 第2クラッチ
8 変速機ユニット
8a 第1変速機構
8b 第2変速機構
20 バッテリ
30 エンジン制御ユニット(ECU)
32 モータ制御ユニット(MCU)(電動機制御手段)
34 バッテリ制御ユニット(BMS)(バッテリ制御手段)
36 トランスミッション制御ユニット(TCU)(統合制御手段)
38 CAN(通信線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源としてエンジン及び電動機を備え、複数の制御手段が通信線を介して接続されているハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
前記電動機を制御するとともに、前記通信線を介して前記電動機に関する信号を送信する電動機制御手段と、
前記通信線を介して受信する信号を、前記電動機の回転数制御に関わる第1の信号及び前記電動機の回転数制御に関わらない第2の信号に類別し、当該第1の信号の異常を検出した場合には前記電動機の使用を禁止し、前記第2の信号の異常のみを検出した場合には前記電動機による走行に関する制御を禁止しつつ、前記電動機の回転数制御は許可する統合制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
前記電動機は、前記エンジンと変速機との間にて、前記エンジンとクラッチを介して接続されており、当該電動機の回転数制御として前記クラッチの接続の際または前記変速機のギヤ選択の際の回転合わせ制御が可能であり、
前記電動機制御手段は、前記電動機に関する信号として、前記電動機の瞬間最大駆動・回生トルクの信号及び定格最大駆動・回生トルクの信号を送信し、
前記統合制御手段は、前記電動機の瞬間最大駆動・回生トルクの信号を前記第1の信号に、前記電動機の定格最大駆動・回生トルクの信号を前記第2の信号に類別することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
前記電動機に電力を供給するバッテリを制御するとともに、前記通信線を介して当該バッテリのSOCに関する信号を送信するバッテリ制御手段を、さらに備え、
前記電動機は、前記エンジンと変速機との間にて、前記エンジンとクラッチを介して接続されており、当該電動機の回転数制御として前記クラッチの接続の際または前記変速機のギヤ選択の際の回転合わせ制御が可能であり、
前記統合制御手段は、前記バッテリ制御手段から受信する前記SOCに関する信号を前記第2の信号に類別することを特徴とする請求項1又は2記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−82292(P2013−82292A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222822(P2011−222822)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】