説明

ハニカムフィルタ

【課題】強度を上げ、低圧力損失でPM捕集をしつつ、NO還元処理を行い得るハニカムフィルタを提供する。
【解決手段】流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止された所定のセルと、前記一方の端部が目封止され且つ前記他方の端部が開口された残余のセルとが交互に配設されたハニカムフィルタであって、ゼオライトを主成分とする膜が、前記所定のセル側隔壁表層にコートされたハニカムフィルタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス中の粒子状物質を捕集するハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車排ガスに含まれるNOを処理する技術として、従来、三元触媒(TWC;three way catalyst)が広く使用されている。しかしながら、三元触媒には、低温でのNO還元性能が低いという課題がある。特に、ディーゼル車においては、排ガス温度がガソリン車に比べ低いため、NO還元処理がTWC方式では困難となる。
【0003】
そこで、ディーゼル車において、より効率的にNOを還元するために、ゼオライトをハニカム支持体に担持したものが開発されつつある。ゼオライトを使用する理由は、低温においてアンモニアを吸着しやすいからである。アンモニアは下記(1)〜(3)のような反応により、NOを分解する。この方式は、酸素雰囲気であっても、NOなどの酸化物を選択的に還元することから、SCR(Selective Catalytic Reduction;選択的触媒還元)と呼ばれている。アンモニアは酸化雰囲気においても、選択的にNOを還元するだけでなく、Oが共存することで逆に反応速度が増大する性質をもつ。
【0004】
この方式を実現する方策としては、排気ガス中にNHを直接添加することが困難であることから、安価かつ安全な尿素を出発原料とするシステムが提案されている。尿素から分解生成するアンモニアを用いてNO(NO,NO)を還元させることから、特にUrea−SCR(尿素SCR)と呼ばれている(非特許文献1および2参照)。
4NH+4NO+O→4N+6HO (1)
2NH+NO+NO→2N+3HO (2)
8NH+6NO→7N+12HO (3)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ゼオライトの科学と工学」小野嘉夫、八嶋建明編(講談社サイエンティフィク)
【非特許文献2】「ゼオライト触媒開発の新展開」辰巳敬、西村陽一監修(シーエムシー出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ディーゼル車においてSCRシステムを搭載するにあたって、NO還元のみならず、排気ガス中のPM(Particle Matter)を取り除くために、図6のようにSCRとDPF(Diesel Particlate Filter)を直列に配列する方法がある。
【0007】
さらに、今後はダウンサイジングの要請から、SCR(NO還元機能)とDPF(PM捕集機能)を一体化(NO処理DPF;図7参照)し、ひとつの担体でNO還元とPM捕集をする機能が望まれている。これを実現するためには、DPF基材上にゼオライトを担持することになるが、ゼオライト塗布後のDPFの圧力損失を維持するために、DPFは高気孔率(60%以上)な組織をもつことが望まれる。
【0008】
しかしながら、高気孔率な組織をもつ構造体は一般に強度が低く、ゼオライト塗布工程の熱処理に由来する内外温度差により、構造体の内部もしくは表面にクラック、切れ等が発生してしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述の従来技術の課題を解決するため鋭意検討した結果、以下に示すハニカムフィルタにより上記課題が解決され得ることを見出し本発明を完成した。即ち、本発明によれば、以下に示すハニカムフィルタが提供される。本発明は、SCRとDPFを一体化するにあたり、高強度であり、かつ、低圧力損失でPM捕集をしつつ、NO還元処理を可能とするハニカムフィルタを提供する。
【0010】
[1] 流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止された所定のセルと、前記一方の端部が目封止され且つ前記他方の端部が開口された残余のセルとが交互に配設されたハニカムフィルタであって、ゼオライトを主成分とする膜が、前記所定のセル側隔壁表層にコートされたハニカムフィルタ。
【0011】
[2] 前記隔壁がコーディエライト(Cd)、SiC、およびチタン酸アルミニウム(AT)から成る群の少なくともいずれか一種を含む上記[1]に記載のハニカムフィルタ。
【0012】
[3] 前記隔壁は、メジアン径が3μm以上60μm以下、気孔率が30%以上60%以下である上記[1]または[2]に記載のハニカムフィルタ。
【0013】
[4] 前記隔壁の流入端面において目封止されている流通孔1個当たりの、流通孔の長手方向に対する垂直断面における平均面積が流出端面において目封止されている流通孔1個あたりの、前記垂直断面積における平均面積以下である上記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0014】
[5] 前記ゼオライトを主成分とする膜のメジアン径が0.02μm以上60μm以下、気孔率が30%以上60%以下であり、かつ、前記隔壁のメジアン径が前記ゼオライトを主成分とする膜のメジアン径よりも大きい上記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0015】
[6] 前記ゼオライトを主成分とする膜の厚さが前記隔壁の厚さの0.5%以上200%以下である上記[1]〜[5]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0016】
[7] 前記ゼオライトを主成分とする膜を構成するゼオライトがZSM−5、βゼオライト、モルデナイト、フェリエライト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、およびY型ゼオライトからなる群の少なくともいずれか一種を含む上記[1]〜[6]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0017】
[8] 前記ゼオライトを主成分とする膜を構成するゼオライトのSiO/Al比が1以上500以下である上記[1]〜[7]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【0018】
[9] 前記ゼオライトを主成分とする膜がチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ロジウム、パラジウム、銀、および白金からなる群の少なくともいずれか一種を含む上記[1]〜[8]のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るハニカムフィルタは、高強度であり、かつ、低圧力損失でPM捕集をしつつ、NO還元処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るハニカムフィルタを模式的に示す図であり、ハニカムフィルタの正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るハニカムフィルタを模式的に示す図であり、ハニカムフィルタの横断面図である。
【図3】図2におけるQ部分を拡大して示し、他を排した部分断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るハニカムフィルタを模式的に示す図であり、ハニカムフィルタの流入端面の正面の一部拡大図である。
【図5】実施例1のハニカムフィルタのスート付圧損について評価した結果を示すグラフである。
【図6】SCRとDPFを直列に配設したハニカムフィルタシステムを模式的に示す側面図である。
【図7】NO処理DPFを模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明に係る要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明に係る実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0022】
(ハニカムフィルタ)
図1は、本発明に係るハニカムフィルタの一実施形態を模式的に示す図であり、ハニカムフィルタの正面図である。図2は、本発明に係るハニカムフィルタの一実施形態を模式的に示す図であり、ハニカムフィルタの断面図である。図3は、図2におけるQ部分を拡大して示すとともに他を排して表した本発明に係るハニカムフィルタの部分断面図である。
【0023】
図1〜3に示されるハニカムフィルタ1は、外周壁20で囲われた内部に、流体の流路となる複数のセル3を区画形成する、多孔質の隔壁4を備えたハニカム構造体を主たる構成要素とする。このハニカム構造体において、セル3の端部を目封止する目封止部10を形成する。また、このハニカム構造体の排ガス流入セル3a側の隔壁表面にゼオライトを主成分とする膜(コート層)12を塗布してハニカムフィルタ1が形成される。
【0024】
隔壁4の材料(すなわち、ハニカムフィルタ1を構成するハニカム構造体の材料)は、コーディエライト(Cd)、炭化珪素(SiC;炭化珪素とともにSiを含むものでもよい)、およびチタン酸アルミニウム(AT)から成る群の少なくともいずれか一種を含むのが好ましい。また、隔壁4は、コーディエライト(Cd)、炭化珪素(SiC;炭化珪素とともにSiを含むものでもよい)、およびチタン酸アルミニウム(AT)から成る群のいずれか一種から成っていても良い。
【0025】
本発明に係るハニカムフィルタ1は、セル3を目封止するために目封止部10を設けられている。目封止部10の材料としては、例えば、上記した隔壁の材料として挙げたものから選択された少なくとも一種の材料を使用することが出来る。
【0026】
ハニカムフィルタ1の隔壁4の気孔率は30〜60%が好ましい。気孔率を60%以上にすると、強度が十分でなくなる傾向にある。また、気孔率が30%以下では、DPFとした場合の初期(ススなし時)圧力損失が大きく、実用的ではなくなる傾向にある。
【0027】
ハニカムフィルタ1の隔壁4のメジアン径は、3μm以上60μm以下が好ましい。気孔率にもよるが、3μm未満の場合には、ゼオライトを含むスラリーを吸引して製膜する際、吸引しにくい傾向にある。また、60μmより大きい孔径になると、ゼオライトの成分がその孔を塞いでしまい、平坦な製膜が困難となる傾向にある。膜自体が凹凸であると、フィルターの圧力損失が高くなり、好ましくない。
【0028】
前記隔壁の流入端面において目封止されている流通孔1個当たりの、流通孔の長手方向に対する垂直断面における平均面積が流出端面において目封止されている流通孔1個あたりの、前記垂直断面積における平均面積以下であるのが好ましい。図4は、このようなセル構造を有するハニカムフィルタの流入端面の正面図である。ハニカムフィルタのセル構造としては、NOxの還元性能を上げるために、入口側の表面積を多くしたほうがよい。その理由は、排ガス流入側隔壁にゼオライトがコートしてあるため、NOxガスと接触する確率が高くなるからである。また、特開2004−896号公報にあるようにDPFとしての性能を考慮すると、実使用での圧力損失の経時的な増加が少ないため、上記のように入口側のセルの表面積を広くしたほうがよい。
【0029】
ハニカムフィルタ1は、その使用時においては、図2中に太矢印で示すように、排気ガス(流体)は、一方の端面2a側から(所定のセル3aが開口する一方の端部(端面2a側の端部)から)、セル3(所定のセル3a)内に流入し、濾過層となる隔壁4を通過し、透過流体として、他方の端面2b側が開口したセル3(残余のセル3b)へ流出させ、他方の端面2b側(残余のセル3bの他方の端部(端面2b側の端部))から流出する。この隔壁4を通過する際に、排気ガスに含まれるPMが、ゼオライトを主成分とする膜12で少なくとも一部捕集される。加えて、排気ガスに含まれるNOが、ゼオライトを主成分とする膜(コート層)12により還元される。
【0030】
ハニカムフィルタ1において、隔壁4は、二つの端面2a,2b間を連通する複数のセル3が形成されるように配置され、目封止部10は、何れかの端面2a,2bにおいてセル3を目封止するように配置されている。目封止部10は、隣接するセル3が互いに反対側の端部(端面2a,2bの何れか側の端部)で目封止されるように存在し、その結果、図1に示されるように、ハニカムフィルタ1の端面は市松模様状を呈する。
【0031】
ハニカムフィルタ1の最外周に位置する外周壁20は(図1を参照)、製造時に(成形時に)、隔壁4が構成される部分と一体的に成形する成形一体壁であってもよく、成形後に隔壁4が構成される部分の外周を研削して所定形状とし、セメント等で外周壁を形成するセメントコート壁であってもよい。又、ハニカムフィルタ1では、目封止部10が、端面2a,2bにおいてセル3を目封止するように配置された状態が示されているが、ハニカムフィルタは、このような目封止部の配置状態に限定されるものではなく、セルの内部に目封止部を配置してもよく、濾過性能より圧力損失低減を優先させて、一部のセルについては目封止部を設けない態様を採ることも出来る。
【0032】
ハニカムフィルタ1のセル3の密度(セル密度)は、15個/cm以上65個/cm未満であることが好ましく、且つ、隔壁4の厚さは、200μm以上600μm未満であることが好ましい。PM堆積時の圧力損失は、濾過面積が大きいほどに低減されるから、セル密度は高い方が、PM堆積時の圧力損失は低下する。一方、初期の圧力損失は、セルの水力直径を小さくすることによって低下するので、この観点からはセル密度は小さい方がよい。隔壁4の厚さは、厚くすれば捕集効率が向上するが、初期の圧力損失は増加する。初期の圧力損失、PM堆積時の圧力損失、及び捕集効率のトレードオフを考慮して、全てを満足するセル密度及び隔壁の厚さの範囲が、上記した範囲である。
【0033】
ハニカムフィルタ1の、40〜800℃における、セル3の連通方向の熱膨張係数は、1.0×10−6/℃未満であることが好ましく、0.8×10−6未満/℃であることが更に好ましく、0.5×10−6未満/℃であることが特に好ましい。40〜800℃におけるセルの連通方向の熱膨張係数が1.0×10−6/℃未満であると、高温の排気ガスに晒された際の発生熱応力を許容範囲内に抑えることが出来、熱応力破壊が防止されるからである。
【0034】
図1及び図2に示されるように、ハニカムフィルタ1は、その全体形状が円柱形(円筒形)であり、セル3の形状(セル3の連通方向に垂直な面でハニカムフィルタ1の径方向に切断した断面の形状)が四角形であるが、ハニカムフィルタにおいて、その全体形状及びセルの形状は、特に制限されない。例えば、全体形状は、楕円柱形、長円柱形、あるいは四角柱形、三角柱形、その他の多角柱形であってよく、セル形状は、六角形、三角形等を採用し得る。
【0035】
(ゼオライトを主成分とする膜(コート層))
ゼオライトを主成分とする膜(コート層)12のゼオライトの種類としては、ZSM−5、βゼオライト、モルデナイト、フェリエライト、A型、X型、Y型ゼオライトを例示することができる。ZSM−5またはβゼオライトを含むものが好ましい。
【0036】
ゼオライトを主成分とする膜12は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ロジウム、パラジウム、銀、および白金からなる群の少なくともいずれか一種を含むのが好ましい。ゼオライトはそれ自身でもアンモニアなどの極性分子との吸着性があるが、さらに、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属またはロジウム、パラジウム、銀、白金などの貴金属などのカチオンとイオン交換することにより、NOx還元性が向上することが知られている(非特許文献1および2)。
【0037】
コート層12の厚さは隔壁(リブ)4厚さの0.5〜200%がよい。コート層12の厚さについては、0.5%以下では、PMがリブ内部まで侵入してしまい、スス付け時の圧力損失が上がってしまうので好ましくない。一方、200%以上では、PMを内部に侵入させない効果はあるが、膜の強度が不足し、剥離があるため、好ましくない。
【0038】
コート層12の細孔特性については、隔壁4の細孔径(ここでは水銀ポロシメータによって測定されるメジアン径)より小さいことが好ましい。この様子を図3に示す。図3は、図2におけるQ部分を拡大して示し、他を排した部分断面図である。図3に示すように、コート層12の細孔径が隔壁4の細孔径よりも小さいことにより、粒子状物質(PM)7はコート層12上に捕獲され、隔壁4内への侵入が阻止される。具体的には、コート層12のメジアン径としては、0.02μm以上60μm以下がよい。
【0039】
コート層12の気孔率については、隔壁4の気孔率と同等であればよい。具体的には、コート層12の気孔率は、30%以上60%以下がよい。30%未満であると、膜の緻密化が起こり、膜自体の平坦性が悪くなり、圧力損失が高くなる傾向にある。一方、60%より大きい気孔率になると、隔壁よりも多孔質となり、PM自体が膜を透過し、隔壁の孔を埋めてしまい、圧力損失が高くなる傾向にある。こうした理由により、コート層の気孔率は上記の範囲が好適である。
【0040】
前記ゼオライトを主成分とする膜を構成するゼオライトのSiO/Al比が1以上500以下であるのが好ましい。SiO/Al比が小さいほど、極性吸着剤としての性能が上がり、アンモニア分子を吸着しやすくなるが、膜自体の強度が弱くなる。一方、SiO/Al比が大きいと極性分子吸着効果は下がるが、強度が上がる。こうした背反する性質を考慮すると、上記の範囲が好適である。
【0041】
基材の気孔率が低いNOx−DPFは、ロバスト(robust)性が高い。また、隔壁(リブ)4の細孔径よりコート層12の細孔径を小さくすると、PMが隔壁4内部に侵入しにくい。PMが隔壁(リブ)4内に侵入すると圧力損失が大きくなるが、本発明ではコート層12が被覆しているため、隔壁4内へPMが侵入しなくなる。そのため、スス付時の圧力損失が低減する効果が発現する。また、ゼオライトの化学特性から、アンモニアを吸着しやすく、前述のSCR反応により、NOxを効率よく還元することができる。
【0042】
(製造方法)
ハニカムフィルタ1を得るために、予め、ハニカム構造体を、焼成体として作製する。ハニカム構造体は、コート層12を設ける前に、セル3の端部を目封止部10によって目封止し、目封止ハニカム構造体として作製しておくことが好ましい。ハニカム構造体(目封止ハニカム構造体)を得るための手段は限定されない。ハニカム構造体は、例えば、以下の方法によって作製することが出来る。
【0043】
先ず、既に隔壁の材料として挙げたものの原料を用い、その原料を混合、混練して坏土を形成する。例えば、コージェライトを隔壁の材料とする場合には、コージェライト化原料に、水等の分散媒、及び造孔材を加えて、更に、有機バインダ及び分散剤を加えて混練し、粘土状の坏土を形成する。コージェライト化原料(成形原料)を混練して坏土を調製する手段は、特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることが出来る。
【0044】
コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライトとなる原料を意味し、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミックス原料である。具体的に、タルク、カオリン、仮焼カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びシリカの中から選ばれた複数の無機原料を上記化学組成となるような割合で含むものが挙げられる。造孔材としては、焼成工程により飛散消失する性質のものであればよく、コークス等の無機物質や発泡樹脂等の高分子化合物、澱粉等の有機物質等を単独で用いるか組み合わせて用いることが出来る。有機バインダとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を使用することが出来る。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。分散剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を使用することが出来る。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
次に、得られた坏土を、ハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製する。ハニカム成形体を作製する方法は、特に制限はなく、押出成形、射出成形、プレス成形等の従来公知の成形法を用いることが出来る。中でも、上述のように調製した坏土を、所望のセル形状、隔壁の厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形する方法等を好適例として挙げることが出来る。
【0046】
次に、例えば、得られたハニカム成形体の両端部を目封止する。目封止の方法は、特に限定されない。例えば、コージェライト化原料、水又はアルコール、及び有機バインダを含む目封止用スラリーを、容器に貯留しておき、ハニカム成形体の一方の端面には、セルを交互に塞いで市松模様状にマスクを施す。そして、そのマスクを施した端面側の端部を、上記容器の中に浸漬し、マスクを施していないセルに目封止スラリーを充填して、目封止部(目封止部10)を形成する。他方の端部については、一方の端部において目封止されたセルについてマスクを施し、上記一方の端部に目封止部を形成したのと同様の方法によって目封止部を形成する。これにより、ハニカム成形体は、一方の端部において開口した(目封止されていない)セルが他方の端部において目封止され、一方の端部及び他方の端部において、セルが市松模様状に交互に塞がれた構造を有するものとなる。
【0047】
次に、目封止を施したハニカム成形体を乾燥させて、ハニカム乾燥体を作製する。乾燥の手段は、特に制限はなく、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の、従来公知の乾燥法を用いることが出来る。中でも、成形体全体を迅速且つ均一に乾燥することが出来る点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0048】
次に、得られたハニカム乾燥体を本焼成する前に仮焼して仮焼体を作製する。仮焼とは、ハニカム成形体中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)を燃焼させて除去する操作を意味する。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼温度は200〜1000℃程度とすればよい。仮焼時間としては特に制限はないが、通常は、10〜100時間程度である。
【0049】
次に、得られた仮焼体を焼成(本焼成)することによって、(目封止)ハニカム構造体を得る。本発明において、本焼成とは、仮焼体中の成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するための操作を意味する。焼成条件(温度・時間)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。コージェライト原料を焼成する場合には、1410〜1440℃で焼成することが好ましい。又、3〜10時間程度焼成することが好ましい。
【0050】
次に、ゼオライトと任意に金属を湿式で混合し、乾燥、粉砕を経て、これをシリカゾルやアルミナゾル、水と混ぜ合わせスラリーを作製する。たとえば、銅は酢酸銅、鉄はアンミン錯体にすることでゼオライトの細孔中にイオン交換することができる。作製したスラリーを上記で得たハニカム構造体の所定のセルの内部に吸引させて塗布する。塗布後600℃〜700℃で約4時間乾燥させ、水分を取り除く。このようにして、ゼオライトを含むコート層を作製する。形成されたゼオライトコート層はハニカム構造体内部には入り込まず、極表面に塗布されている。以上のようにしてハニカム構造体の所定のセルの側壁表層にゼオライトをコートしたハニカムフィルタを得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
(目封止ハニカムフィルタの作製)
コージェライト化原料として、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用し、コージェライト化原料100質量部に、造孔材を13質量部、分散媒を35質量部、有機バインダを6質量部、分散剤を0.5質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。分散媒として水を使用し、造孔材としては平均粒子径10μmのコークスを使用し、有機バインダとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0053】
次いで、所定の金型を用いて坏土を押出成形し、セル形状が四角形で、全体形状が円柱形(円筒形)のハニカム成形体を得た。そして、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。
【0054】
次に、ハニカム成形体の一方の端面のセル開口部に、市松模様状に交互にマスクを施し、マスクを施した側の端部をコージェライト化原料を含有する目封止スラリーに浸漬し、市松模様状に交互に配列された目封止部を形成した。他方の端部については、一方の端部において目封止されたセルについてマスクを施し、上記一方の端部に目封止部を形成したのと同様の方法で目封止部を形成した。その後、目封止部を形成したハニカム成形体を熱風乾燥機で乾燥し、更に、1410〜1440℃で、5時間、焼成することによって、ハニカムフィルタ用の目封止ハニカム構造体を得た。
【0055】
サンプルの形状はφ140mm×L150mmの円柱状とした。表1中のリブ厚とは、隔壁の厚さであり、milとはmili inch lengthを意味し、1mil=2.54mmである。「セル構造」のAは、DPFのガス流入側端面において封じられている流通孔1個当たりの、流通孔の長手方向に対する垂直断面における平均面積を表す。また、BはDPFの流出端面において封じされている流通孔1個当たりの前記垂直断面における平均面積を表している。「セル構造」のA:Bはこれらの比を表している。隔壁及びコート層の細孔特性は島津製作所オートポアIVにて測定した。メディアン径とは、細孔分布を積算表示した際の50%径を意味する。隔壁の強度はガスの流れる長手方向に1インチ、ガス流通方向と垂直な方向にφ1インチの円柱形状の試料を取り出し、長手方向から圧縮した際の強度を意味する。
【0056】
また「金属濃度」は母材に塗布するスラリー中に含まれる金属の濃度を意味する。本実施例ではすべて3%濃度とした。
【0057】
(実施例1、比較例1〜3)
気孔率45%と65%のコーディエライト製ハニカム構造体を用意した。ZSM−5(SiO/Al=36)のゼオライトを56%、コロイダルシリカ4%、酢酸銅(Cu(CHCOO))3%、水37%のスラリーを作製し、吸引方式にてスラリーをハニカム構造体に塗布した。ゼオライト含有スラリー塗布後、90℃で2時間乾燥させた後、電気路に入れ、昇温速度200℃/時間、650℃で4時間乾燥させ、その後400℃/hで室温まで戻した。
【0058】
また、比較のため、両気孔率のサンプルに対し、γアルミナとPt(三元触媒を模擬)を含むスラリーを塗布し、650℃で処理した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
ゼオライトスラリー、γアルミナ系スラリーともに65%のハニカム構造体に塗布し熱処理をした後、クラックが入ってしまった。隔壁の気孔率が65%では、圧縮強度も低いことから、クラックが発生したものと推定した。
【0061】
また、NOの還元性能を評価するために、NOガス1%、アンモニア1%、窒素ガス98%のガスを流し、NOが半減するときの温度を評価した。その結果、ゼオライトをコートした方(実施例1)が、γアルミナとPtを塗布したもの(比較例1)に比べ、低温で還元できることを確認した(表1 Light off Temperatureの欄参照)。
【0062】
(圧力損失への有効性について)
スート付圧損について評価した結果を図5に示す。スート付け前(初期)圧力損失は、何もコートをしていないもの(Bare)に比べ、やや高いものの、スス堆積時の圧力損失は小さい結果となった(図5参照)。Bareでは隔壁(リブ)内部までススが入り込んでいたが、ゼオライトコートをした場合、リブの表面のみにススが堆積していることから、スートがリブ内部に入りにくい構造になっており、そのために圧力損失がBareに比べて小さくなったものと推定している。
【0063】
(実施例2〜4)
次にハニカム構造体(母材)のセル構造を変え、ガス流入側のセルの開口面積を、ガス流出側の開口面積より広くするセル構造をもつハニカム構造体を作製し、ゼオライト層をコートした。結果を表1に示す。表1のなかにA:Bと表記してあるが、Aは、DPFのガス流入側端面において封じられている流通孔1個当たりの、流通孔の長手方向に対する垂直断面における平均面積を表す。また、BはDPFの流出端面において封じされている流通孔1個当たりの前記垂直断面における平均面積を表している。実施例1では、A:Bが1:1であるが、A:Bの比においてBを大きくすること(すなわち、入口側セルの開口面積を出口側セルの開口面積より大きくすること)により、Light off temperatureをより低くできることがわかった。
【0064】
(実施例5〜8)
ゼオライトコート層の厚さを変えて評価を実施した。結果を表1に示す。隔壁リブ厚300μmに対し、コート層の厚さを0.5%(1.5μm)から200%相当(600μm)にした。実施例5においては、コート層が薄いために、実施例1よりLight off temperatureが高いものの、実施例5〜8全てで比較例1より低い結果であり、ゼオライトコートの効果を確認した。
【0065】
(実施例9〜11)
次に、SiO/Al比を変えて、同様な試験を実施した。結果を表2に示す。この結果、Light off TemperatureはSiO/Al比を上げるにつれて、Light off temperatureが低くなる傾向があったが、比較例1よりはLight off temperatureが低い結果となった。
【0066】
【表2】

【0067】
(実施例12)
ゼオライトの種類をZSM−5からβゼオライトに変更した。結果を表2に示す。Light off temperatureは比較例1より低く、NO還元に有効であることがわかった。
【0068】
(実施例13〜15)
添加金属種の変更を実施した。結果を表2に示す。ゼオライト中に鉄、ニッケル、鉄と銅を添加した。鉄については、ゼオライトZSM−5を56%、コロイダルシリカを4%、錯体[Fe(CO)2−3%、水37%からなる水溶液を作製し、これを母材に塗布して作製した。また、ニッケルについては、鉄と同様に錯体イオンを用いてスラリーを作製し、母材に塗布した。さらに、鉄と銅を1.5%ずつ含むスラリーを酢酸銅及び鉄の錯体イオンを利用して作製し、これを母材に塗布した。結果、Light off temperatureは3元触媒を用いた比較例1より低く、NOX還元に有効であることがわかった。
【0069】
(実施例16〜18)
次に母材の隔壁の細孔特性を変えた。また、母材の隔壁の細孔がPMにより埋まらないようにするために、コート層のメディアン径は母材の隔壁のメディアン径より小さくなるようにした。結果を表2に示す。NOの還元性を評価したところ、比較例1よりLight off temperatureが低く、NO還元に有効であることがわかった。また、実施例16及び17のように母材の隔壁の気孔率を60%以下とした場合、熱処理によるクラックは発生しなかった。このことから、母材の隔壁の気孔率としては、60%以下が好ましいことがわかった。
【0070】
(実施例19〜20)
母材をSiCおよびAT材に変えた。結果を表2に示す。母材が異なるため、単純にCdと比較できないが、Light off temperatureが低く、NO還元に有効であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係るハニカムフィルタは、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業機械用定置エンジン等の内燃機関、その他の燃焼機器等から排出される排気ガス中の粒子状物質を排気ガス中から除去するために利用することが出来る。
【符号の説明】
【0072】
1:ハニカムフィルタ、2a,2b:端面、3:セル、3a:所定のセル、3b:残余のセル、4:隔壁、7:粒子状物質(PM)、10:目封止部、12:ゼオライトを主成分とする膜(コート層)、20:外周壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止された所定のセルと、前記一方の端部が目封止され且つ前記他方の端部が開口された残余のセルとが交互に配設されたハニカムフィルタであって、
ゼオライトを主成分とする膜が、前記所定のセル側隔壁表層にコートされたハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記隔壁がコーディエライト(Cd)、SiC、およびチタン酸アルミニウム(AT)から成る群の少なくともいずれか一種を含む請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記隔壁は、メジアン径が3μm以上60μm以下、気孔率が30%以上60%以下である請求項1または2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記隔壁の流入端面において目封止されている流通孔1個当たりの、流通孔の長手方向に対する垂直断面における平均面積が流出端面において目封止されている流通孔1個あたりの、前記垂直断面積における平均面積以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記ゼオライトを主成分とする膜のメジアン径が0.02μm以上60μm以下、気孔率が30%以上60%以下であり、かつ、前記隔壁の平均細孔径が前記ゼオライトを主成分とする膜のメジアン径よりも大きい請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項6】
前記ゼオライトを主成分とする膜の厚さが前記隔壁の厚さの0.5%以上200%以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項7】
前記ゼオライトを主成分とする膜を構成するゼオライトがZSM−5、βゼオライト、モルデナイト、フェリエライト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、およびY型ゼオライトからなる群の少なくともいずれか一種を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項8】
前記ゼオライトを主成分とする膜を構成するゼオライトのSiO/Al比が1以上500以下である請求項1〜7のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項9】
前記ゼオライトを主成分とする膜がチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ロジウム、パラジウム、銀、および白金からなる群の少なくともいずれか一種を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載のハニカムフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−227767(P2010−227767A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76130(P2009−76130)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】