説明

ハニカムフィルタ

【課題】高いPM補集効果を発揮することができるとともに、再生処理を繰り返しても高いNOx浄化率を発揮することができるハニカムフィルタを提供すること。
【解決手段】 多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルのいずれか一方の端部が封止されたハニカム構造体と、上記ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトとを有するハニカムフィルタであって、上記ハニカム構造体は、炭化ケイ素を含んで構成されており、上記ハニカム構造体の気孔率は、55〜65%であり、上記セル壁に担持されたゼオライトの量は、80〜150g/Lであり、上記ゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率が、3W/mK以上であることを特徴とするハニカムフィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック等の車両や建設機械等の内燃機関から排出される排ガス中に含有されるNOx等の有害ガスや、パティキュレートマター(以下、単にPMともいう)が環境や人体に害を及ぼすことが最近問題となっている。
【0003】
このような問題に鑑み、排ガス中のNOxを浄化するべく、NOx浄化用触媒が担持されたハニカム構造体(以下、触媒担持体ともいう)を主要構成要素とした尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)装置が構築されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
尿素SCR装置は、触媒担持体と、触媒担持体の外周に巻き付けられ、触媒担持体を保持する保持シール材と、触媒担持体及び保持シール材を内部に設置するケーシングとから構成されている。そして、排ガスが触媒担持体内に流入する前段部分(排ガスの上流側)には、尿素水を噴霧する尿素噴霧口が設けられている。
触媒担持体は柱状であって、多孔質セラミックから構成されている。また、触媒担持体の長手方向に沿って、一方の端部側から他方の端部側まで多数のセルがセル壁を隔てて並設されている。このセル壁には、NOx浄化用触媒として、ゼオライトが担持されている。なお、セルの端部は、封止材で封止されておらず、触媒担持体の一方の端部から他方の端部までセルが貫通している。
【0005】
尿素SCR装置で有害ガスを浄化する場合には、尿素水を触媒担持体に向けて噴霧する。すると尿素水に含まれる尿素が排ガスの熱によって熱分解してアンモニアが生じる。
ここで、NOxが含まれた排ガスが触媒担持体の一方の端部側からセルに流入すると、排ガスがセルの形成方向に沿って流れていく過程で、セル壁に担持されたゼオライトと上記アンモニアにより、排ガス中のNOxがNに還元され、浄化される。
そして、NOxが浄化された排ガスは、触媒担持体の他方の端部側から排出される。
【0006】
一方、排ガス中のPMを浄化することを目的として、いずれか一方の端部が封止されたセルを有するハニカム構造体(ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、単にDPFともいう))が種々提案されている(例えば、特許文献2)。
【0007】
DPFは柱状であって、多孔質セラミックから構成されている。また、その内部には、DPFの長手方向に沿って、一方の端部側から他方の端部側まで、多数のセルがセル壁を隔てて並設されている。また、セルのいずれか一方の端部が封止材により封止されている。
【0008】
そのため、DPFの一方の端部側が開口したセルに流入した排ガスは、隣り合うセル同士を隔てるセル壁を通過し、他方の端部側が開口したセルから流出する。そして、排ガスがセル壁を通過する過程で、排ガスに含まれるPMがセル壁に補集されることにより、排ガスが浄化される。
なお、補集されたPMが所定量堆積し、圧力損失が一定の値に達したところでDPFを加熱する再生処理を施す。これにより、PMが燃焼してDPFが再生される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第02/38922号パンフレット
【特許文献2】特開2008−272737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、上述した尿素SCR装置及びDPFを使用して、NOx浄化とPM除去とを連続して行うことを試みた。
具体的には、尿素SCR装置とDPFとを直列的に接続し、両者の組み合わせを種々検討した。その結果、ディーゼルエンジンの排気口により近い排ガスの上流側にDPFを設置して、まずPMの除去を行い、次にNOxが含まれた排ガスをDPFの下流に設置された尿素SCR装置で浄化することにより、NOx浄化とPM除去を効率よく行うことができることが分かった。
【0011】
しかしながら、尿素SCR装置とDPFとを直列的に接続した排ガス浄化装置では、比較的大きなスペースが必要となることから、排ガス浄化装置用スペースの減少が求められる近年の車両開発ニーズにはそぐわないものである。
【0012】
係る開発ニーズに鑑み、本発明者らは、尿素SCR装置の触媒担持体の機能とDPFの機能とを一つに統合すれば省スペース化の問題を解決できると考え、DPFにゼオライトを担持させてなるハニカムフィルタを作製した。
【0013】
作製したハニカムフィルタを用いてNOx浄化率を測定したところ、運転初期段階では所望のNOx浄化率を得られることが分かった。
【0014】
しかしながら、ハニカムフィルタの再生処理を行った後には、発明者らの予想に反して、著しくNOx浄化率が低下してしまうことが明らかとなった。特に、再生処理を繰り返せば繰り返すほど、NOx浄化率がいっそう低下することが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記問題を解決すべく、セル壁にゼオライトを担持させたハニカムフィルタにおいて、再生処理後にNOx浄化率が低くなる原因について検討した。
【0016】
その結果、再生処理時には、PMの燃焼により発生した熱(以下、単に、PM燃焼熱ともいう)によって、ハニカムフィルタが850℃以上の高温になることが分かった。
そして、ハニカムフィルタが850℃以上の高温に曝された状態で長時間経過すると、ゼオライトがシンタリングすることが分かった(以下、ゼオライトのシンタリングが発生する温度のことを、単に、シンタリング温度ともいう)。
そのため、このことが、再生処理後にNOx浄化率が低くなる原因であると推測される。
【0017】
これに基づいて、本発明者らがゼオライトのシンタリング防止の観点から鋭意検討したところ、ハニカムフィルタの放熱性を高くすることができれば、再生処理時のPM燃焼熱を効率よく放熱することが可能となり、ハニカムフィルタが長時間シンタリング温度に曝されるのを防止することができるのではないかとの考えに至った。
【0018】
そして、係る知見に基づいて本発明者らが検討を続けた結果、ハニカムフィルタの熱伝導率を所定の値以上とすれば、ハニカムフィルタに高い放熱性を持たせることができることを見出した。また、ハニカム構造体の気孔率及びセル壁に担持されたゼオライトの量を所定の範囲に制御すれば、ハニカムフィルタのNOx浄化率を高めることができることを見出し、上述した問題を解決することのできる本発明のハニカムフィルタを完成させた。
【0019】
即ち、請求項1に記載のハニカムフィルタは、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルのいずれか一方の端部が封止されたハニカム構造体と、上記ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトとを有するハニカムフィルタであって、上記ハニカム構造体は、炭化ケイ素を含んで構成されており、上記ハニカム構造体の気孔率は、55〜65%であり、上記セル壁に担持されたゼオライトの量は、80〜150g/Lであり、上記ゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率が、3W/mK以上であることを特徴とする。
【0020】
請求項1に記載のハニカムフィルタでは、高いPM補集効果を発揮することができるとともに、再生処理を繰り返した後でも高いNOx浄化率を発揮することができる。
これについて、図面を用いて以下に詳しく説明する。
【0021】
図1は、本発明のハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図であり、図2(a)は、本発明のハニカムフィルタに係るハニカム構造体を構成する一のハニカム焼成体の一例を模式的に示す斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示すハニカム焼成体のA−A線断面図である。
【0022】
図1に示す本発明のハニカムフィルタ1は、ハニカム構造体10と、ハニカム構造体10のセル壁に担持されたゼオライト(図示せず)とを有する。
【0023】
まず、ハニカム構造体10について説明する。
図1に示すハニカム構造体10は、炭化ケイ素を含む材料からなる複数のハニカム焼成体20が接着材層14を介して結束されることにより構成されたセラミックブロックからなる。
なお、セラミックブロックの外周部には、コート層13が形成されている。但し、コート層13は、必要に応じて形成されていればよい。
また、本明細書では、複数のハニカム焼成体が接着材層を介して結束されてなるハニカム構造体のことを、集合型ハニカム構造体ともいう。
【0024】
図2(a)及び(b)に示すハニカム焼成体20には、ハニカム焼成体20の長手方向(図2(a)中、両矢印aで示す)に沿って多数のセルが並設されており、多数のセルは、互いに形状の異なる大容量セル21aと小容量セル21bとからなる。
【0025】
大容量セル21aは、ハニカム焼成体20の第一の端面22a側(ハニカムフィルタの第一の端面1a側)の端部が開放され、ハニカム焼成体20の第二の端面22b側(ハニカムフィルタの第二の端面1b側)の端部が封止材23bにより封止されている。
一方、小容量セル21bは、ハニカム焼成体20の第二の端面22b側の端部が開放され、第一の端面22a側の端部が封止材23aにより封止されている。
そのため、ハニカムフィルタ1を尿素SCR装置に使用した場合には、大容量セル21aに流入した排ガスG(図2(b)中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、必ず、大容量セル21aと小容量セル21bとを隔てるセル壁24を通過した後、小容量セル21bから流出するようになっている。
従って、排ガス中のPMがセル壁24で補集されることになる。
なお、大容量セル21a及び小容量セル21bの詳細な構成については、後述の第一実施形態で説明することとする。
【0026】
ハニカム構造体10(ハニカム焼成体20)のセル壁24に担持されたゼオライトは接触還元触媒として働き、還元剤であるアンモニア等とともにNOxに作用して、NOxをNに還元することができる。
そのため、ハニカムフィルタ1を尿素SCR装置に使用した場合には、排ガスがセル壁24を通過する過程で、セル壁24に担持されたゼオライトと、尿素SCR装置の尿素噴霧口から噴霧された尿素水由来のアンモニアとの作用により、排ガス中のNOxがNに還元される。
【0027】
また、ゼオライトが担持されたセル壁24の熱伝導率は、3W/mK以上であり、ハニカムフィルタ1の放熱性が充分に高い。
それゆえ、ハニカムフィルタ1を用いた尿素SCR装置で排ガスを浄化すると、再生処理で発生したPM燃焼熱がハニカムフィルタ1から効率よく放熱される。
従って、ハニカムフィルタ1が長時間シンタリング温度に曝されず、ゼオライトが失活しない。そのため、再生処理を繰り返したとしても、高いNOx浄化率を維持することができる。
【0028】
また、ゼオライトが担持されていないハニカム構造体10(ゼオライトが担持されていないハニカム焼成体20)の気孔率は、55〜65%である。
【0029】
ハニカム構造体(ゼオライトが担持されていないハニカム焼成体)の気孔率が55%未満であると、ハニカム構造体に多量のゼオライトを担持させた場合、セル壁の気孔部分にゼオライトが詰まってしまい、排ガスがセル壁を通りにくくなるため、NOxが充分に浄化できない。また、圧力損失が高くなる。
【0030】
一方、ハニカム構造体の気孔率が65%を超えると、所定の気孔径を有する複数の気孔が形成されているとすると、セル壁を構成する気孔の割合が高すぎることになる。
そのため、ゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率が低くなりやすく、ハニカムフィルタの放熱性が低くなる。また、ハニカム構造体(ハニカムフィルタ)の強度が低くなる。
【0031】
ハニカム構造体10(ハニカム焼成体20)のセル壁24に担持されたゼオライトの量は80〜150g/Lであり、NOxを還元するのに充分な量のゼオライトがセル壁24に担持されている。
【0032】
ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトの量が80g/L未満であると、セル壁に担持されたゼオライトの量が少なすぎて、NOxを充分に浄化することができない。
【0033】
また、ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトの量が150g/Lを超えると、セル壁の気孔部分にゼオライトが詰まってしまい、排ガスが通過できる気孔が減って排ガスがセル壁を通りにくくなるため、NOxを充分に浄化することができない。また、圧力損失が高くなる。
【0034】
上述した理由により、請求項1に記載のハニカムフィルタ1では、PM補集効果を発揮することができるとともに、再生処理を繰り返した後でも高いNOx浄化率を発揮することができる。
【0035】
請求項2に記載のハニカムフィルタでは、ハニカムフィルタの熱伝導率が、5〜10W/mKである。
そのため、ハニカムフィルタの放熱性がさらに高く、再生処理で発生するPM燃焼熱がハニカムフィルタからさらに効率よく放熱される。
従って、再生処理時には、ハニカムフィルタがシンタリング温度に曝されるのを防止することができる。
【0036】
請求項3に記載のハニカムフィルタでは、上記多数のセルが、大容量セルと小容量セルとからなり、上記小容量セルの上記長手方向に垂直な断面の面積に対する上記大容量セルの上記長手方向に垂直な断面の面積の面積比が、1.4〜2.4である。
係るハニカムフィルタを尿素SCR装置に使用する場合には、排ガスが流入する流入側セルが大容量セルとなり、それとは反対に、排ガスが流出する流出側セルが小容量セルとなるように、ケーシング内にハニカムフィルタを設置することができる。これにより、流入側セルの表面積の総量を大きくすることができる。
従って、排ガス浄化時には、流入側セルの表面積の総量と流出側セルの表面積の総量とが等しいハニカム構造体(ハニカムフィルタ)と比較して、PMの堆積層の厚さを薄くすることができる。そのため、圧力損失の上昇を抑制したり、PMの捕集限界量を多くしたりすることができる。
また、一定量のPMを補集する場合、本発明に係るハニカムフィルタのPMの堆積層の厚さが薄くなって、PMを燃焼させやすくなる。
そのため、再生処理の回数を減らすことができ、ハニカムフィルタがシンタリング温度に曝される時間を短くすることができる。
【0037】
請求項4に記載のハニカムフィルタでは、上記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は略八角形であり、上記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は略四角形である。
また、請求項5に記載のハニカムフィルタでは、上記大容量セルの上記長手方向に垂直な断面の形状は略四角形であり、上記小容量セルの上記長手方向に垂直な断面の形状は略四角形である。
これらの形状のセルを有するハニカムフィルタでは、本発明のハニカムフィルタの効果を好適に享受することができる。
【0038】
請求項6に記載のハニカムフィルタでは、上記ゼオライトが、β型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト、及び、SAPOからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0039】
請求項7に記載のハニカムフィルタでは、上記ゼオライトが、銅イオン及び/又は鉄イオンによりイオン交換されている。
【0040】
請求項8に記載のハニカムフィルタでは、上記ハニカム構造体は、複数のハニカム焼成体が接着材層を介して結束されてなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、本発明のハニカムフィルタに係るハニカム構造体を構成する一のハニカム焼成体を模式的に示す斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示すハニカム焼成体のA−A線断面図である。
【図3】図3(a)は、本発明の第二実施形態のハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示したハニカムフィルタのB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(第一実施形態)
以下、本発明のハニカムフィルタの一実施形態である第一実施形態について図面を参照しながら説明する。
なお、上述した請求項1に記載のハニカムフィルタと重複する構成等については説明を省略する。
【0043】
本実施形態のハニカムフィルタは、ハニカム構造体と、ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトとを有する。なお、本実施形態のハニカム構造体は、集合型ハニカム構造体である。
【0044】
ハニカム構造体10(複数のハニカム焼成体20が接着材層14を介して結束されたセラミックブロック)の外周部には、排ガスの漏れを防止したり、ハニカム構造体10の破損を防止したりする目的でコート層13が設けられている。
コート層13には、アルミナファイバ等の無機繊維と、炭化ケイ素等の無機粒子と、シリカゾル等の無機バインダと、カルボキシメチルセルロース等の有機バインダ等とが含まれている。
【0045】
次に、ハニカム焼成体20に形成された大容量セル21aと小容量セル21bの構成について、図2(a)及び図2(b)を参照しながら詳しく説明する。
【0046】
図2(a)に示すハニカム焼成体20の多数のセルは、ハニカム焼成体の長手方向(図2(a)中、両矢印aの方向)に垂直な断面の面積が小容量セル21bよりも相対的に大きい大容量セル21aと、上記長手方向に垂直な断面の面積が大容量セル21aよりも相対的に小さい小容量セル21bとからなる。
大容量セル21aは、ハニカム焼成体20の長手方向に垂直な断面の形状が略八角形であり、小容量セル21bは、ハニカム焼成体20の長手方向に垂直な断面の形状が略四角形である。
また、小容量セル21bの長手方向に垂直な断面の面積に対する、大容量セル21aの長手方向に垂直な断面の面積の面積比は、1.4〜2.4である。
なお、ハニカム焼成体20の第一の端面22aは、ハニカムフィルタ1の第一の端面1aを構成しており、ハニカム焼成体20の第二の端面22bは、ハニカムフィルタ1の第二の端面1bを構成している。
【0047】
また、セル壁にゼオライトが担持されていないハニカム構造体の気孔率は、55〜65%である。
【0048】
本明細書において、ハニカム構造体のセル壁の気孔率とは、ゼオライトを担持させていないハニカム構造体のセル壁の気孔率のことをいう。
なお、上記気孔率は、例えば、水銀圧入法、アルキメデス法、重量法、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定等の従来公知の方法により測定することができる。
【0049】
また、ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトの量は、80〜150g/Lである。
なお、本明細書において、ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトの量とは、ハニカム構造体の見掛けの体積1リットル当たりのゼオライトの重量をいう。
ハニカム構造体が集合型ハニカム構造体からなる場合には、ハニカム構造体の見掛けの体積には、接着材層の体積を含むものとし、コート層が形成されている場合には、コート層の体積も含むものとする。
【0050】
また、ゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率は、3W/mK以上である。
ここで、ゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率は、3.2W/mK以上が望ましく、5〜10W/mKがより望ましく、5.1〜10.0W/mKがさらに望ましい。その理由については、上述したとおりであるので説明を省略する。
なお、本明細書にいう熱伝導率とは、レーザーフラッシュ法を使用して得られる熱伝導率のことをいう。
【0051】
上記ゼオライトとしては、NOxを還元させることができるゼオライトであれば、その種類は特に限定されないが、例えば、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、フェリエライト、ZSM−5型ゼオライト、モルデナイト、フォージャサイト、A型ゼオライト、L型ゼオライト、SAPO(Silicoaluminophosphate、シリコアルミノリン酸塩)、又は、MeAPO(Metaloaluminophosphate、金属アルミノリン酸塩)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記ゼオライトの中では、β型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト、及び、SAPOからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、SAPOの中では、SAPO−5、SAPO−11、又は、SAPO−34が望ましく、SAPO−34がより望ましい。そして、MeAPOの中では、MeAPO−34が望ましい。
なお、本明細書におけるゼオライトには、アルミノケイ酸塩であるゼオライトだけでなく、アルミノリン酸塩等のゼオライト類縁体も含むこととする。
【0052】
また、ゼオライトは、金属イオンによりイオン交換されていてもよい。
金属イオンとしては、銅イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、コバルトイオン、銀イオン、又は、バナジウムイオン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なかでも、ゼオライトは、銅イオン及び/又は鉄イオンによりイオン交換されていることが望ましい。
【0053】
次に、本実施形態のハニカムフィルタの製造方法の一例について説明する。
ここでは、図2(a)及び図2(b)に示したハニカム焼成体からなるハニカム構造体のセル壁にゼオライトを担持させたハニカムフィルタを製造する方法について説明する。
【0054】
(湿潤混合物調製工程)
セラミック原料として平均粒子径の異なる炭化ケイ素粉末と有機バインダと造孔材と液状の可塑剤と潤滑剤と水とを混合して、成形体製造用の湿潤混合物を調製する。
なお、湿潤混合物の調製にあたり、作製したハニカム構造体の気孔率が55〜65%となるように、炭化ケイ素粗粉末及び微粉末の平均粒子径、造孔材の粒子径、各原料の配合比等を適宜調整する。
【0055】
(成形工程)
続いて、上記湿潤混合物を押出成形機に投入して押出成形する成形工程を行い、所定の形状のハニカム成形体を作製する。
この際、長手方向に垂直な断面の形状が略八角形であり、断面の面積が大きい大容量セルと、長手方向に垂直な断面の形状が略四角形であり、断面の面積が小さい小容量セルとが交互に配設されたハニカム成形体であって、小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積に対する大容量セルの長手方向に垂直な断面の面積の面積比が所定の範囲となるような金型を用いることにより、ハニカム成形体を作製する。
【0056】
(乾燥工程)
次に、ハニカム成形体の両端を切断装置を用いて切断する切断工程を行い、ハニカム成形体を所定の長さに切断し、切断したハニカム成形体を乾燥機を用いて乾燥することにより、ハニカム乾燥体を作製する。
【0057】
(封止工程)
作製したハニカム乾燥体の大容量セル及び小容量セルのいずれか一方の端部に、封止材となる上記湿潤混合物と同様の組成の封止材ペーストを所定量充填することによりセルを封止する。
具体的には、下記工程を経て作製されたハニカム焼成体において、大容量セルの端部のうち、ハニカム焼成体の第二の端面側の端部が封止され、小容量セルの端部のうち、ハニカム焼成体の第一の端面側の端部が封止されるように封止を行う。
これにより、セル封止ハニカム成形体を作製する。
【0058】
(脱脂工程)
セル封止ハニカム成形体を脱脂炉中で加熱することにより、セル封止ハニカム成形体に含まれる有機バインダ等の有機物を脱脂し、ハニカム脱脂体を作製する。
【0059】
(焼成工程)
作製したハニカム脱脂体を焼成炉に搬送し、常圧のアルゴン雰囲気下、2000〜2300℃、1〜10時間焼成する焼成工程を行う。
これにより、図2(a)及び図2(b)に示した形状のハニカム焼成体を作製する。即ち、大容量セル及び小容量セルを有し、セルのいずれか一方の端部が封止された略四角柱状のハニカム焼成体を作製する。
そして、成形工程以降の工程を繰り返すことにより、略同様の形状を有するハニカム焼成体を複数個作製する。
なお、下記するゼオライト担持工程をハニカム焼成体に対して行うことにより、ハニカム焼成体のセル壁にゼオライトを担持させてもよい。
【0060】
(ハニカム構造体の作製工程)
続いて、ハニカム焼成体(又は、セル壁にゼオライトが担持されたハニカム焼成体、以下同じ)間に接着材ペーストを塗布して接着材ペースト層を形成し、接着材ペースト層を乾燥固化して接着材層とすることにより、複数のハニカム焼成体が接着材層を介して結束されてなる略角柱状のセラミックブロックを作製する。
この際、各ハニカム焼成体の第一の端面同士が同じ向きになるように各ハニカム焼成体の向きを揃えて複数のハニカム焼成体を結束させる。
なお、接着材ペーストとしては、無機繊維及び/又はウィスカ、無機バインダ、並びに、有機バインダを含む接着材ペーストが好適に用いられる。
【0061】
その後、ダイヤモンドカッターを用いて略角柱状のセラミックブロックの外周を研削して略円柱状のセラミックブロックを作製する。
なお、下記するコート層形成工程を行わない場合には、略円柱状のセラミックブロックを本発明のハニカム構造体として用いる。
【0062】
略円柱状のセラミックブロックの外周部にコート材ペーストを塗布し、熱風乾燥機等を用いてコート材ペーストを乾燥固化させてコート層を形成するコート層形成工程を行う。
なお、上記コート材ペーストとしては、上記接着材ペーストと同様のペーストを使用することができる。
以上の工程により、ハニカム構造体を作製する。
【0063】
(ゼオライト担持工程)
所定量のゼオライトを水に懸濁させることにより、ゼオライトスラリーを調製する。
そして、作製したゼオライトスラリーにハニカム構造体を浸漬し、引き上げた後、加熱工程及び焼成工程を施すことによりハニカム構造体のセル壁にゼオライトを担持させる。
ここでは、ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトの量が80〜150g/Lとなるように調整する。ゼオライト担持量の調整は、例えば、スラリー濃度の変更、スラリーへの浸漬及び加熱の繰り返し等により行うことができる。
以上の工程によって、ハニカム構造体のセル壁にゼオライトが担持されたハニカムフィルタを製造する。
【0064】
以下、本実施形態のハニカムフィルタの作用効果を列挙する。
【0065】
(1)本実施形態のハニカムフィルタを構成するハニカム構造体のセル壁には、ゼオライトが担持されており、ゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率が3W/mK以上であるので、ハニカムフィルタの放熱性が充分に高い。
それゆえ、本実施形態のハニカムフィルタを用いた尿素SCR装置で排ガスを浄化すると、再生処理で発生したPM燃焼熱がハニカムフィルタから効率よく放熱される。
従って、再生処理時には、ハニカムフィルタが長時間シンタリング温度に曝されず、ゼオライトが失活しない。そのため、再生処理を繰り返したとしても、高いNOx浄化率を発揮することができる。
特に、熱伝導率が5〜10W/mKである場合には、PM燃焼熱がハニカムフィルタからさらに効率よく放熱されるので、ハニカムフィルタが長時間シンタリング温度に曝されるのを防止することができる。
【0066】
(2)ハニカム構造体の気孔率が55〜65%(ゼオライト担持前)であるので、ハニカム構造体に多量のゼオライトを担持させても、セル壁の気孔部分がゼオライトで詰まりにくい。そのため、排ガスがセル壁を通過しやすくなり、NOxを充分に浄化することができるし、圧力損失を低くすることができる。
また、ハニカム構造体のセル壁に形成された気孔の割合が適切な範囲にあるので、ゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率が高くなり、ハニカムフィルタの放熱性が高くなる。また、ハニカム構造体(ハニカムフィルタ)の強度が高くなり、ハニカム構造体が破損しにくい。
【0067】
(3)ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトの量は80〜150g/Lであり、NOxを還元するのに充分な量のゼオライトがセル壁に担持されている。
また、セル壁の気孔部分がゼオライトで詰まりにくく、排ガスがセル壁を通過しやすくなり、NOxを充分に浄化することができる。また、圧力損失を低くすることができる。
【0068】
(4)ハニカムフィルタ(ハニカム構造体)の多数のセルは、大容量セルと小容量セルとからなり、小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積に対する、大容量セルの長手方向に垂直な断面の面積の面積比が、1.4〜2.4である。
本実施形態のハニカムフィルタを尿素SCR装置に使用する場合には、流入側セルを大容量セルとし、流出側セルを小容量セルとすることにより、流入側セルの表面積の総量を大きくすることができる。
従って、排ガス浄化時には、圧力損失の上昇を抑制したり、PMの捕集限界量を多くしたりすることができる。また、PMの堆積層の厚さが薄くなりPMを燃焼させやすくなる。
そのため、再生処理の回数を減らすことができ、ハニカムフィルタがシンタリング温度に曝される時間を短くすることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
【0070】
(湿潤混合物調製工程)
セラミック原料として平均粒子径24μmの炭化ケイ素粉末の粗粉末46.6重量%と、平均粒子径0.5μmの炭化ケイ素粉末の微粉末20重量%と、有機バインダ(メチルセルロース)3.8重量%と、造孔材(平均粒子径21μmの中空アクリル粒子)6.8重量%と、潤滑剤(日油社製 ユニルーブ)3.5重量%、可塑剤(グリセリン)1.6重量%、及び、水17.4重量%を加えて混練することにより、湿潤混合物を調製した。
【0071】
(成形工程)
続いて、上記湿潤混合物を押出成形機に投入して押出成形する成形工程を行い、図2(a)及び図2(b)に示したような、断面視略八角形の大容積セルと断面視略四角形の小容積セルとを有する四角柱状であって、セルが封止されていないハニカム成形体を作製した。
【0072】
(乾燥工程)
次に、ハニカム成形体の両端を切断装置を用いて切断する切断工程を行うことによりハニカム成形体を所定の長さに切断し、切断したハニカム成形体をマイクロ波乾燥機を用いて乾燥させることにより、ハニカム乾燥体を作製した。
【0073】
(封止工程)
作製したハニカム乾燥体の大容量セル及び小容量セルのいずれか一方の端部に、封止材となる上記湿潤混合物と同様の組成の封止材ペーストを所定量充填してセルを封止することにより、セル封止ハニカム成形体を作製した。
具体的には、下記工程を経て作製されたハニカム焼成体において、大容量セルの端部のうち、ハニカム焼成体の第二の端面側の端部が封止され、小容量セルの端部のうち、ハニカム焼成体の第一の端面側の端部が封止されるように封止を行った。
【0074】
(脱脂工程)
セル封止ハニカム成形体を脱脂炉中、400℃で加熱することにより、セル封止ハニカム成形体に含まれる有機バインダ等の有機物を脱脂し、ハニカム脱脂体を作製した。
【0075】
(焼成工程)
作製したハニカム脱脂体を焼成炉に搬送し、常圧のアルゴン雰囲気下、2250℃、5時間焼成の条件で焼成する焼成工程を行った。
これにより、図2(a)及び図2(b)に示すような、長手方向に垂直な断面の形状が略八角形である大容量セル、及び、長手方向に垂直な断面の形状が略四角形である小容量セルを有し、セルのいずれか一方の端部が封止された略四角柱状のハニカム焼成体を作製した。
作製したハニカム焼成体の大きさは、34.3mm×34.3mm×150mmであった。
また、小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積に対する、大容量セルの長手方向に垂直な断面の面積の面積比は、1.55であった。
作製したハニカム焼成体の気孔率は、60%であった。気孔率は、重量法にて測定した。
なお、作製したハニカム焼成体をタイプ1とする。
【0076】
(ハニカム構造体の作製工程)
ハニカム焼成体間に接着材ペーストを塗布して接着材ペースト層を形成し、接着材ペースト層を乾燥固化して接着材層とすることにより、16個のハニカム焼成体が接着材層を介して結束されてなる略角柱状のセラミックブロックを作製した。
この際、各ハニカム焼成体の第一の端面同士が同じ向きになるように各ハニカム焼成体の向きを揃えて複数のハニカム焼成体を結束させた。
なお、接着材ペーストとしては、平均繊維長20μmのアルミナファイバ30重量%、平均粒径0.6μmの炭化ケイ素粒子21重量%、シリカゾル15重量%(固形分30重量%)、カルボキシメチルセルロース5.6重量%、及び、水28.4重量%を含む接着材ペーストを使用した。
【0077】
その後、ダイヤモンドカッターを用いて、角柱状のセラミックブロックの外周を研削することにより、直径142mmの円柱状のセラミックブロックを作製した。
【0078】
次に、円柱状のセラミックブロックの外周部にコート材ペーストを塗布し、コート材ペーストを120℃で乾燥固化することにより、セラミックブロックの外周部にコート層を形成した。
なお、上記コート材ペーストとしては、上記接着材ペーストと同様のペーストを使用した。
以上の工程によって、直径143.8mm×長さ150mmの円柱状のハニカム構造体を作製した。
【0079】
(ゼオライト担持工程)
まず、鉄イオンによりイオン交換されたβ型ゼオライト粉末(平均粒子径2μm)を充分量の水と混合して攪拌し、ゼオライトスラリーを作製した。
このゼオライトスラリー中にハニカム構造体を一方の端面を下にして浸漬し、1分間保持した。続いて、ハニカム構造体を110℃で1時間加熱する乾燥工程を行い、さらに700℃で1時間焼成する焼成工程を行って、ハニカム構造体のセル壁にゼオライトを担持させた。
このとき、ゼオライト担持量が、ハニカム構造体の見掛けの体積1リットルあたり80gとなるように、ハニカム構造体のゼオライトスラリーへの浸漬、乾燥工程及び焼成工程を繰り返し行った。
以上の工程を経ることにより、ハニカム構造体のセル壁にゼオライトが担持されたハニカムフィルタを作製した。
【0080】
(熱伝導率の測定)
ハニカムフィルタのゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率をレーザーフラッシュ法(JIS R 1611(2007)及びJIS R 1650−3(2002)に準拠)で測定した。
その結果、実施例1で作製したハニカムフィルタのゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率は、7.5W/mKであった。
【0081】
(NOx浄化率の測定)
はじめに、NOx浄化率測定用サンプルを下記の手順で作製した。
上記ゼオライト担持工程で作製したハニカムフィルタの外周に保持シール材を巻き付け、これを円筒状のケーシングに圧入することにより排ガス浄化装置を作製した。
この排ガス浄化装置の排ガス流入側の端部を、2Lのコモンレール式ディーゼルエンジンに連結された導入管に接続した。また、排ガス浄化装置の排ガス流出側の端部を外部に連結された排出管に接続した。
【0082】
次に、エンジンを回転数が2000min−1、トルクが47Nmとなるように運転し、エンジンからの排ガスをハニカムフィルタに流通させた。
そして、PMがハニカムフィルタの体積1リットルあたり5.0g捕集されるまで運転を行った後、ポストインジェクションによってPMを燃焼させ、ハニカムフィルタの再生処理を行った。
上記再生処理を連続して20回繰り返した。
【0083】
その後、再生処理を行ったハニカムフィルタから、ダイヤモンドカッターを使用することにより一個のハニカム焼成体(34.3mm×34.3mm×150mm)を切り出し、切り出したハニカム焼成体をさらに切断して長さを短くすることにより、34.3mm×34.3mm×40mmの短尺体を作製した。
次に、上述した封止工程及び脱脂工程と同様に、短尺体のセルのいずれか一方の端部が封止されるように短尺体のセルを接着材ペーストで封止し、セルが封止された短尺体を400℃で脱脂することによりNOx浄化率測定用サンプルを作製した。
【0084】
NOx浄化率の測定は、NOx浄化率測定装置(堀場製作所製 触媒評価装置SIGU−2000)を用いて行った。
NOx浄化率測定装置は、ガス発生部と反応部とからなり、ガス発生部で発生させた擬似排ガスを、NOx浄化率測定用サンプルをセットした反応部に流通させた。
擬似排ガスの組成は、NO:175ppm、NO:175ppm、NH:350ppm、O:14%、CO:5%、HO:10%、N:balanceであり、各ガスの流量を流量調節器を用いて調節することにより上記組成とした。
また、反応部の温度を200℃で一定とした。そして、ゼオライトと擬似排ガスとが接触する条件として、空間速度(SV)を70000hr−1に設定した。
擬似排ガスがNOx浄化率測定用サンプルを流通する前のNOx濃度N、及び、擬似排ガスがNOx浄化率測定用サンプルを通過した後のNOx濃度Nを測定し、以下の式からNOx浄化率を計算した。
NOx浄化率(%)=[(N−N)/N]×100
その結果、実施例1で作製したNOx浄化率測定用サンプルの再生処理後のNOx浄化率は、57%であった。
【0085】
下記要領にて、実施例2〜6、及び、比較例1〜5のハニカムフィルタ及びNOx浄化率測定用サンプルを作製した。
【0086】
(実施例2)
ハニカム構造体のセル壁に担持させるゼオライトの量を120g/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にしてハニカムフィルタ及びNOx浄化率測定用サンプルを作製した。
なお、実施例2で作製したハニカム焼成体は、実施例1で作製したハニカム焼成体と同じであり、タイプ1である。
【0087】
(実施例3〜6、及び、比較例1〜5)
下記表1に示すように、配合する各粉末の粒子径や配合比等を変えることによりハニカム焼成体の気孔率を変更し、下記表2に示すようにゼオライト担持量を変えたこと以外は、実施例1と同様にしてハニカムフィルタ及びNOx浄化率測定用サンプルを作製した。
ゼオライト担持量は、ハニカム構造体の見掛けの体積1リットル当たりに所定量のゼオライトが担持されるように、ハニカム構造体のゼオライトスラリーへの浸漬、乾燥工程、焼成工程を適宜繰り返すことにより調整した。
なお、実施例3、4及び比較例5で作製したハニカム焼成体は作製条件がともに同じであり、これらをタイプ2とする。
実施例5で作製したハニカム焼成体をタイプ5とし、比較例3で作製したハニカム焼成体をタイプ6とする。
また、実施例6で作製したハニカム焼成体をタイプ3とし、比較例1及び2で作製したハニカム焼成体は作製条件がともに同じであり、これらをタイプ4とする。
また、比較例4で作製したハニカム焼成体は、タイプ1である。
【0088】
各実施例及び各比較例で作製したハニカム焼成体に関し、湿潤混合物の原料の配合比、焼成条件、ハニカム焼成体の種類及び気孔率を表1にまとめて示す。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例2〜6、及び、比較例1〜5で作製したハニカムフィルタ及びNOx浄化率測定用サンプルについて、実施例1と同様にして、熱伝導率の測定及び再生処理後のNOx浄化率の測定を行った。また、ハニカム焼成体(タイプ1〜6)について、実施例1と同様にして、気孔率の測定を行った。
その結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
表2より、本発明のハニカムフィルタにおける構成(1):ハニカム構造体の気孔率が55〜65%、構成(2):ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトの量が80〜150g/L、構成(3):ゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率が3W/mK以上の全てを備える場合には、再生処理後のNOx浄化率が高くなることが分かる。
それとは反対に、上記本発明の構成(1)〜(3)のうちの少なくとも一つが欠ける場合には、再生処理後のNOx浄化率が低くなることが分かる。
【0093】
(第二実施形態)
以下、本発明の一実施形態である第二実施形態について説明する。
本実施形態では、ハニカムフィルタを構成するハニカム構造体が、1つのハニカム焼成体からなる。このような、1つのハニカム焼成体からなるハニカム構造体を一体型ハニカム構造体ともいう。
【0094】
図3(a)は、本発明の第二実施形態のハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示したハニカムフィルタのB−B線断面図である。
【0095】
図3(a)に示すハニカムフィルタ79は、炭化ケイ素を含む材料からなるハニカム構造体80と、ハニカム構造体80のセル壁に担持されたゼオライト(図示せず)とを有する。
【0096】
ハニカムフィルタ79(ハニカム構造体80)は、第一の端面84及び第二の端面85を有する略円柱状であり、長手方向(図3(a)中、両矢印bの方向)に垂直な断面の面積が小容量セル91bより相対的に大きい大容量セル91a、及び、長手方向に垂直な断面の面積が大容量セル91aより相対的に小さい小容量セル91bを有する。
大容量セル91aは、その長手方向に垂直な断面の形状が略八角形であり、小容量セル91bは、その長手方向に垂直な断面の形状が略四角形である。
ハニカム構造体80の外周部にはコート層82が設けられている。
【0097】
大容量セル91aは、ハニカム構造体80の第一の端面84側の端部が開口され、第二の端面85側の端部で封止材92aにより封止されている。一方、小容量セル91bは、ハニカム構造体80の第二の端面85側の端部が開口され、第一の端面84側の端部で封止材92bにより封止されている。そして、大容量セル91a及び小容量セル91bを隔てるセル壁93がフィルタとして機能するようになっている。
すなわち、大容量セル91aに流入した排ガスは、必ずこれらのセル壁93を通過した後、小容量セル91bから流出するようになっている。
【0098】
ゼオライトが担持されたセル壁93の熱伝導率は、3W/mK以上であり、ハニカムフィルタ79の放熱性が充分に高いので、再生処理時には、ハニカムフィルタ79が長時間シンタリング温度に曝されず、高いNOx浄化率を維持することができる。
また、セル壁93にゼオライトが担持されていない状態のハニカム構造体80の気孔率は、55〜65%であるので、NOxを充分に浄化することができるし、圧力損失を低くすることもできる。また、ハニカムフィルタ79の強度が高い。
さらに、ハニカム構造体80のセル壁に担持されたゼオライトの量は、80〜150g/Lであるので、このことによってもNOxを充分に浄化することができるし、圧力損失を低くすることもできる。
なお、ゼオライトの種類については、第一実施形態と同様である。
【0099】
また、小容量セルの長手方向に垂直な断面の面積に対する大容量セルの長手方向に垂直な断面の面積の面積比は、1.4〜2.4である。
【0100】
本実施形態のハニカムフィルタを製造する場合には、押出成形により成形するハニカム成形体の大きさが、第一実施形態において説明したハニカム成形体の大きさに比べて大きく、その外形が異なる他は、第一実施形態と同様にしてハニカム成形体を作製する。
【0101】
その他の工程は、第一実施形態におけるハニカムフィルタの製造工程とほぼ同様である。但し、本実施形態では、ハニカムフィルタを構成するハニカム構造体が1つのハニカム焼成体からなるため、結束工程を行う必要はない。また、略円柱状のハニカム成形体を作製した場合には、外周研削工程を行う必要はない。
【0102】
製造したハニカムフィルタは、尿素SCR装置に使用することができる。
【0103】
本実施形態のハニカムフィルタにおいても、第一実施形態と同様の作用効果(1)〜(4)を発揮することができる。
【0104】
(その他の実施形態)
本発明のハニカムフィルタを構成するハニカム構造体(ハニカム焼成体)のセル壁の厚さは、特に限定されないが、0.2〜0.4mmが望ましい。
ハニカム構造体(ハニカム焼成体)のセル壁の厚さが、0.2〜0.4mmであると、NOxを充分に浄化することができる。また、ハニカムフィルタの強度を充分に高くすることができる。
また、上記厚さが0.4mmを超えると、圧力損失の上昇を引き起したりする場合がある。
【0105】
また、ハニカムフィルタの長手方向に垂直な断面におけるセル密度は特に限定されないが、望ましい下限は、31個/cm(200個/in)、望ましい上限は、93個/cm(600個/in)、より望ましい下限は、46.5個/cm(300個/in)、より望ましい上限は、62個/cm(400個/in)である。
セル密度が、31個/cm〜93個/cmの範囲にあると、NOx浄化率が向上する。
【0106】
ハニカムフィルタの形状は、略円柱状に限定されるものではなく、略楕円柱状、略多角柱状等の任意の柱の形状であればよい。
【0107】
集合型ハニカム構造体を構成するハニカム焼成体、及び、一体型ハニカム構造体の平均気孔径は5〜30μmであることが望ましい。
平均気孔径が5μm未満であると、パティキュレートが容易に気孔の目詰まりを起こすことがあり、一方、平均気孔径が30μmを超えると、パティキュレートが気孔を通り抜けてしまい、該パティキュレートを捕集することができず、該ハニカム構造体はフィルタとして機能することができないことがあるからである。
【0108】
集合型ハニカム構造体を構成するハニカム焼成体、及び、一体型ハニカム構造体を作製する際に使用されるセラミック粉末の粒径は特に限定されないが、後の焼成工程を経て作製されたハニカム焼成体の大きさが、脱脂工程を経て作製されたハニカム脱脂体の大きさに比べて小さくなる場合が少ないものが望ましく、例えば、1.0〜50μmの平均粒径を有する粉末100重量部と0.1〜1.0μmの平均粒径を有する粉末5〜65重量部とを組み合わせたものが好ましい。
【0109】
集合型ハニカム構造体を構成するハニカム焼成体、及び、一体型ハニカム構造体を作製する際に使用される湿潤混合物における有機バインダとしては特に限定されず、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらのなかでは、メチルセルロースが望ましい。有機バインダの配合量は、通常、セラミック粉末100重量部に対して、1〜10重量部が望ましい。
【0110】
湿潤混合物に含まれる可塑剤としては、特に限定されず、例えば、上述したグリセリン等が挙げられる。
また、湿潤混合物に含まれる潤滑剤としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物等が挙げられる。
潤滑剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンモノブチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル等が挙げられる。
なお、可塑剤、潤滑剤は、場合によっては、湿潤混合物に含まれていなくてもよい。
【0111】
また、湿潤混合物を調製する際には、分散媒液を使用してもよく、分散媒液としては、例えば、水、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール等が挙げられる。
さらに、湿潤混合物中には、成形助剤が添加されていてもよい。
成形助剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられる。
【0112】
さらに、湿潤混合物には、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。
バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)、ムライトバルーン等が挙げられる。これらのなかでは、アルミナバルーンが望ましい。
【0113】
上記ゼオライトの担持は、上述したようにハニカム構造体に対して行ってもよいが、ハニカム焼成体に行ってもよい。
集合型ハニカム構造体を作製する場合には、ハニカム焼成体に上述したゼオライト担持工程を行った後、ゼオライトを担持させた複数のハニカム焼成体を接着材層を介して結束させることにより、集合型ハニカム構造体を作製してもよい。
【符号の説明】
【0114】
1、79 ハニカムフィルタ
10、80 ハニカム構造体
21a、21b、91a、91b セル
a、b 長手方向
24、93 セル壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、前記セルのいずれか一方の端部が封止されたハニカム構造体と、前記ハニカム構造体のセル壁に担持されたゼオライトとを有するハニカムフィルタであって、
前記ハニカム構造体は、炭化ケイ素を含んで構成されており、
前記ハニカム構造体の気孔率は、55〜65%であり、
前記セル壁に担持されたゼオライトの量は、80〜150g/Lであり、
前記ゼオライトが担持されたセル壁の熱伝導率が、3W/mK以上であることを特徴とするハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記熱伝導率が、5〜10W/mKである請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記多数のセルは、大容量セルと、小容量セルとからなり、
前記小容量セルの前記長手方向に垂直な断面の面積に対する前記大容量セルの前記長手方向に垂直な断面の面積の面積比は、1.4〜2.4である請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は略八角形であり、前記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は略四角形である請求項3に記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記大容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は略四角形であり、前記小容量セルの長手方向に垂直な断面の形状は略四角形である請求項3に記載のハニカムフィルタ。
【請求項6】
前記ゼオライトは、β型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト、及び、SAPOからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【請求項7】
前記ゼオライトは、銅イオン及び/又は鉄イオンによりイオン交換されている請求項1〜6のいずれかに記載のハニカムフィルタ。
【請求項8】
前記ハニカム構造体は、複数のハニカム焼成体が接着材層を介して結束されてなる請求項1〜7のいずれかに記載のハニカムフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−98336(P2011−98336A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112420(P2010−112420)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】