説明

ハードコート用組成物、ハードコート層を有する物体およびその製造方法

【課題】防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性などを向上させるハードコート層を形成することができるハードコート用組成物を提供すること。
【解決手段】(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体;(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物;および(C)導電性材料;を含むハードコート用組成物であって、この(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体が、(a−1)ポリシロキサンブロック、(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロック、(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロック、を有する、ハードコート用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート用組成物、ハードコート層を有する物体およびその製造方法に関する。本発明は、より詳しくは、防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性等が必要とされる各種物体に良好なハードコート層を形成することができるハードコート用組成物、およびこれらの諸性能を具備したハードコート層が表面に設けられた物体およびその製造方法に関する。
【0002】
本発明は特に、情報記録媒体、光学レンズ、光学フィルター、反射防止膜、および液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等の各種表示素子などの表面に、それらの光学性能や記録特性を損なうことなく防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性、耐摩耗性そして帯電防止性を有するハードコート層を形成することができるハードコート用組成物、ハードコート層の形成方法、およびハードコート層が形成された製品に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、情報記録媒体として、CD、MD、MO、DVD、BD(ブルーレイディスク)、HD−DVDなどの様々な種類の情報記録媒体が用いられている。これらの情報記録媒体のうち、CD、DVD、BD、HD−DVDは、カードリッジに挿入されていない、いわゆるベアディスクである。これらのベアディスクは、信号記録/読み取り面に汚れや指紋などが付着しやすく、これらの汚れによって記録時/再生時に問題が発生するおそれがある。これらのベアディスクはまた、挿入/取り出し時においても信号記録/読み取り面に擦傷などがつきやすいという問題もある。そのため、これらのベアディスクは一般に、その信号記録/読み取り面の表面上に、保護フィルムおよび/またはハードコート層を設けることによって、防汚性、耐擦傷性、耐摩耗性などを向上させている。
【0004】
特に、次世代DVDと言われているBD、HD−DVDなどの情報記録媒体については、記録ピットの微細化が進められており、高密度に記録が行われるという特徴を有している。例えば、BDのレーザースポットのサイズは、従来のDVDのスポットのサイズの約1/5と非常に小さくなっている。このため、BD、HD−DVDなどの情報記録媒体については、従来のCD、DVDなどでは問題とならなかったディスク記録面の微小なキズ、汚れなどが、記録および/または再生に致命的な障害をもたらすことがある。そのため、情報記録媒体の表面上に、指紋がつかない、またはついたとしても表面を傷つけることなく簡単にふき取れるといった、防汚性および耐摩耗性に優れたハードコート層を、情報記録媒体の表面上に設けることが強く望まれている。
【0005】
上記情報記録媒体の中でもベアディスクとして使用されるものはさらに、ディスク表面に付着した塵埃もまた記録および/または再生に大きな影響を及ぼすという問題がある。そのためこれらの情報記録媒体においては、上記防汚性、耐擦傷性、耐摩耗性に加えて、帯電防止性にも優れることが強く望まれている。
【0006】
なお、上記情報記録媒体以外においても、例えば、光学レンズ、光学フィルター、反射防止膜、および液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等の各種表示素子の表面などにおいては、指紋がつかない、またはついたとしても表面を傷つけることなく簡単にふき取れるといった、防汚性および耐摩耗性に優れたハードコート層を表面に設けることが強く望まれている。これらの各種表示素子においてはさらに、塵埃や大気中のオイルミスト(油脂分が混ざった塵埃)などの付着を防ぎ、そして表示素子の帯電による電気信号ノイズの発生を防止するために、帯電防止性が要求されている。
【0007】
ハードコート層の防汚性を向上させる方法として、シリコンオイルやフッ素ポリマーをハードコート層表面に塗布することにより、物体表面の防汚性(撥水性・撥油性)を向上させる方法が提案されている。しかし、この方法においては、防汚剤を物体表面に塗布することでハードコート層を形成しているため、ユーザーの使用により防汚剤が消失して、防汚性の効果が継続されない、すなわち防汚耐久性に劣るという欠点がある。
【0008】
一方で、これらのシリコンオイルやフッ素ポリマーなどの添加剤をハードコート層に混入することによって、防汚性を向上させる方法がある。しかし、これらの添加剤は一般にソフトセグメントといわれるものであり、樹脂に可撓性を付与するという性質も持っているため、これらを添加することによってハードコート層のひとつの機能である、表面硬度などの機械的強度が低下してしまうという欠点がある。
【0009】
例えば、特開2004−047040号公報(特許文献1)には、情報信号の少なくとも記録または再生を行うレーザー光が入射する読み取り面に、防汚剤からなる被覆層が形成されていることを特徴とする光学記録媒体が記載されている(請求項1)。しかし、特許文献1に記載される防汚剤は、パーフルオロポリエーテル基またはフルオロアルキル基を有するアルコキシシラン化合物を含むものであり、本発明によるハードコート層とは構造が異なる。
【0010】
また、特開2002−367229号公報(特許文献2)には、光学的情報記録媒体の基体の上に少なくとも反射膜と記録膜と保護膜を備え、前記保護膜は前記基体と対向する側の表層に形成されている光学的情報記録媒体であって、前記基体および保護膜から選ばれる少なくとも一方の外層に、ハードコート樹脂層と、前記ハードコート樹脂層の外層に、有機シラン分子からなる化学吸着膜が前記ハードコート層と共有結合して形成されていることを特徴とする光学的情報記録媒体が記載されている(請求項1)。特許文献2のハードコート層は、その記載のとおり、ハードコート樹脂層の表面に、共有結合によって形成された化学吸着膜がさらに設けられた、いわゆる複層ハードコート層であり、本発明のハードコート層とはその構成が大きく異なる。
【0011】
さらに、特開2006−107572号公報(特許文献3)には、エネルギー線硬化性化合物を含む有機ハードコート材料を硬化させて形成したハードコート表面に、分子内にフッ素原子を含むフッ化炭化水素系ガスを導入した雰囲気中でプラズマ処理を行うことを特徴とするハードコート表面処理方法、が記載されている(請求項1)。特許文献3には、この方法によって、低コストかつ簡易なプロセスにて、媒体表面に撥水性および撥油性を与えるハードコート表面の処理方法が提供されると記載されているものの、特定の雰囲気下でプラズマ処理を行うために特殊で大型な設備が必要であることから、簡易で低コストなプロセスとしては不十分である。
【0012】
特開2003−277478号公報(特許文献4)には、1分子中に少なくとも2個の環状脂肪族エポキシ基と、少なくとも1つの炭素数6〜12のパーフルオロアルキル基と、少なくとも1つのアルキルシロキサン基と、を有しているエポキシ樹脂と、カチオン重合触媒と、を含有しているエポキシ樹脂組成物であって、上記環状脂肪族エポキシ基及び上記パーフルオロアルキル基は、上記エポキシ樹脂の分岐鎖中に存在し、且つ、上記アルキルシロキサン基は、上記エポキシ樹脂の主鎖中に存在していることを特徴とするエポキシ樹脂組成物が記載されている(請求項1)。特許文献4は、液体噴射記録ヘッドに適用される組成物であり、防汚性はあるものの、情報記録媒体や各種表示素子などにおいて必要となる表面硬度などの機械的強度も併せもつハードコート層としては不十分である。
【0013】
特開2005−206829号公報(特許文献5)には、成膜性を有し、重合性二重結合をもつ含フッ素化合物と、成膜性を有しない含フッ素(メタ)アクリル酸エステルとを含有することを特徴とする含フッ素硬化性塗液が記載されている(請求項1)。この特許文献5は、特許文献4と同様に、防汚性はあるものの、情報記録媒体や各種表示素子などで必要となる表面硬度などの機械的強度も併せもつハードコート層としては不十分である。表面硬度を向上させる手段として、ハードコート層を設けて、その上にフッ素硬化性皮膜を形成することも考えられるが、この方法ではユーザーの使用によりフッ素硬化性被膜が消失してしまい、防汚耐久性に劣るという不具合がある。
【0014】
特開平11−43648号公報(特許文献6)には、(a)両末端を2,2'−アゾビスニトリル基で連結した複数のポリシロキサン鎖を含んでいるシリコーンマクロ開始剤の存在下架橋可能な官能基を有する少なくとも1種のアクリル単量体または該アクリル単量体と他のエチレン性不飽和単量体との混合物を重合して得られるシリコーン−アクリルブロック共重合体、(b)前記(a)成分の架橋可能官能基と同じ硬化剤によって架橋し得る官能基か、または(a)成分の官能基と相互に反応する官能基を持っているフィルム形成性樹脂、および(c)少なくとも(b)成分と反応する硬化剤を含んでいることを特徴とする塗料用硬化性樹脂組成物、が記載されている(請求項1)。しかし、特許文献6に記載の組成物は本発明に適用される組成物とは構成が異なり、物体や各種表示素子などに求められるような、光学性能や記録特性を損なうことなく防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性および耐摩耗性とを有するハードコート層としては不十分である。
【0015】
特開2002−363495号公報(特許文献7)には、(a)両末端を2,2'−アゾビスニトリル基で連結した複数のポリシロキサン鎖を含んでいるシリコーンマクロ開始剤の存在下、フッ素含有不飽和単量体(a−1)と反応性官能基を有するアクリル単量体(a−2)とを含む単量体混合物Aを重合して得られるフッ素/シリコーン−アクリルブロック共重合体、(b)フッ素含有不飽和単量体(b−1)と反応性官能基を有するアクリル単量体(b−2)とを含む単量体混合物Bを重合して得られるフッ素含有共重合体、および(c)硬化剤を含んでいることを特徴とするコーティング組成物が記載されている(請求項1)。しかし、特許文献7に記載の組成物は本発明に適用される組成物とは構成が異なり、物体や各種表示素子などに求められるような、光学性能や記録特性を損なうことなく防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性および耐摩耗性とを有するハードコート層としては不十分である。
【0016】
【特許文献1】特開2004−047040号公報
【特許文献2】特開2002−367229号公報
【特許文献3】特開2006−107572号公報
【特許文献4】特開2003−277478号公報
【特許文献5】特開2005−206829号公報
【特許文献6】特開平11−43648号公報
【特許文献7】特開2002−363495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性に優れたハードコート層が形成された物体を安価に提供することにある。また、本発明の目的は、防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性に優れたハードコートを安価に且つ容易に形成する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体;(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物;および(C)導電性材料;を含むハードコート用組成物であって、
この(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体が、
(a−1)下記式(I)で表されるポリシロキサンブロック
【0019】
【化1】

式(I)
【0020】
[式(I)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはニトリル基を表し;Rは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し;Rは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜12のフェニル基を表し;p及びqは、同一または異なって、0〜6の整数を表し;mは0〜600の整数を表す。]、
(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロック、
(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロック、
を有する、
ハードコート用組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0021】
上記ハードコート用組成物は、
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体0.1〜50重量%、
(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物50〜99.8重量%、および
(C)導電性材料0.1〜60重量%、
(但し、上記成分(A)〜(C)の重量%は何れも組成物中の固形分重量を基準とし、各成分の固形分合計重量を100重量%とする。)
を含むのが好ましい。
【0022】
また上記ハードコート用組成物は、さらに(D)光重合開始剤を含むのが好ましい。
【0023】
また、上記(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を構成する各ブロックの重量比率が、
(a−1)ポリシロキサンブロック0.1〜40重量%
(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロック5〜94.8重量%、および
(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロック4.9〜49.9重量%
であるのが好ましい。
【0024】
また上記(C)導電性材料が、アンチモン、インジウム、スズからなる群から選択される元素を少なくとも1種含む金属酸化物の微粒子であるのが好ましい。
【0025】
本発明はまた、上記ハードコート用組成物から形成されるハードコート層を有する物体も提供する。
【0026】
本発明はさらに、上記ハードコート用組成物から形成されるハードコート層および光透過層を有する積層体を含む物体も提供する。
【0027】
上記光透過層は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む活性エネルギー線硬化性材料から得られる層であるのが好ましい。
【0028】
また上記物体は情報記録媒体であるのが好ましい。
【0029】
本発明はさらに、光透過層の上に、上記ハードコート用組成物を塗装し、次いで活性エネルギー線の照射によりハードコート用組成物を硬化させる、ハードコート層形成工程、を包含する、物体の製造方法、も提供する。
【0030】
上記物体の製造方法において、光透過層が未硬化または半硬化である状態においてハードコート用組成物を塗装して上記ハードコート層を形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のハードコート用組成物は、情報記録媒体などの物体に求められるような光学性能または記録特性を損なうことなく、防汚性、耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性に優れたハードコート層を提供することができるという利点を有する。本発明のハードコート用組成物によって提供されるハードコート層はさらに、防汚性を長期間維持する防汚耐久性に優れているという利点がある。
さらに、本発明のハードコート用組成物は、活性エネルギー線硬化性であることから、ハードコート層形成時における生産効率および製造コストに優れている。そして本発明によって、防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性および耐摩耗性とを有するハードコート層を有する物体を、より安価に且つ簡便に提供できる。
特に、情報記録媒体の光透過層表面に、このハードコート層を形成することによって、情報記録媒体に求められる光学性能や記録特性を損なうことなく、情報記録媒体への記録・再生を行うことができることに加え、防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性に優れた情報記録媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明のハードコート用組成物は、(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体;(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物;および(C)導電性材料;を含み、必要に応じて(D)光重合開始剤を含む。以下、各成分について詳述する。
【0033】
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体は、下記ブロック
(a−1)ポリシロキサンブロック、
(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロック、および
(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロック、
を少なくとも有している。そして本発明におけるハードコート層は、この活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を含むハードコート用組成物から形成されることによって、防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性などに優れたハードコート層となる。
【0034】
(a−1)ポリシロキサンブロック
本発明における(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体に含まれる(a−1)ポリシロキサンブロックとして、下記式(I)で示されるブロックが挙げられる。
【0035】
【化2】

式(I)
【0036】
上記式(I)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはニトリル基を表し;Rは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し;Rは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜12のフェニル基を表し;p及びqは、同一または異なって、0〜6の整数を表し;mは0〜600の整数を表す。
【0037】
より好ましくは、Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し;Rはニトリル基を表し;Rは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し;Rは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜3のアルキル基または炭素数6〜9のフェニル基を表し;p及びqは、同一または異なって、0〜6の整数を表し;mは30〜200の整数を表す。特に好ましくは、R、RおよびRはそれぞれメチル基を表す。
【0038】
ハードコート用組成物に含まれる(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体が、(a−1)ポリシロキサンブロックを有することによって、得られるハードコート層の撥水性を向上させることができる。そしてこれによりハードコート層の防汚性を高めることが可能となる。さらに、この共重合体が、ポリシロキサン構造をその骨格として有していることにより、ハードコート層の撥水性を長期間維持させることが可能となる。
【0039】
(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロック
本発明における(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体に含まれる(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロックは、種々の置換基を有する(メタ)アクリルモノマーが共重合することによって調製される。そして本発明における(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロックは、活性エネルギー線硬化性二重結合基を有するペンダント基を有することを特徴とする。
【0040】
(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロックに含まれる活性エネルギー線硬化性二重結合基として、例えばアクリル基およびメタクリル基などが挙げられる。この(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロックが有するペンダント基として、例えば、下記式(II)で示される基が挙げられる。
【0041】
【化3】

式(II)
【0042】
上記式(II)中、Rは、置換基を有してもよい、直鎖状または分枝状の炭素数1〜10のアルキレン基を表し、Rは、水素原子またはメチル基を表す。Rが有してもよい置換基として、例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基)、シアノ基、ハロゲン原子(例えば、Cl、Br、I、F等)、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。
【0043】
より好ましくは、Rは、置換基を有してもよい、直鎖状または分枝状の炭素数1〜6のアルキレン基を表し、Rはメチル基を表す。Rが有してもよい置換基として、好ましくは、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0044】
ハードコート用組成物に含まれる活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体が、(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロックを含むことによって、共重合体が活性エネルギー線硬化性を有することとなる。そしてこのアクリルブロックに含まれる活性エネルギー線硬化性二重結合基の存在によって、ハードコート層に良好な機械的強度を付与する共重合体を提供することが可能となる。一般に、活性エネルギー線硬化性基として、活性エネルギー線硬化性二重結合基の他に、エポキシ基などがある。これらの活性エネルギー線硬化性エポキシ基は一般にカチオン重合性である。そしてこれらのエポキシ基を有する活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を用いる場合は、カチオン重合開始剤を使用する必要がある。しかしながらこのカチオン重合開始剤は、物品内などに残存することによって環境に対して悪影響を及ぼす恐れがあるため、好ましくない。また、エポキシ基を有する活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を用いる場合は、熱硬化処理が必要となるため、生産性が劣ることとなり好ましくない。
【0045】
(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロック
本発明における(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体は、(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロックを有する。この(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロックが有するペンダント基として、下記式(III)で示される基が挙げられる。
【0046】
【化4】

式(III)
【0047】
上記式(III)中、Rは、炭素数1〜6のアルキレン基を表し;Rfは、直鎖または分枝状の、炭素数1〜12のフルオロアルキル基を表す。
【0048】
より好ましくは、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基を表し;Rfは、直鎖状の炭素数1〜12のフルオロアルキル基を表す。好ましいフルオロアルキル基として、例えば−(CF2〜6H、または−C2n+1(nは1〜12の整数である。)など、より好ましくは−(CF−CF(nは1〜7の整数である。)など、が挙げられる。
【0049】
ハードコート用組成物に含まれる(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体が、(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロックを有することによって、得られるハードコート層の撥水性および撥油性をより向上させることができる。そしてこれにより、得られるハードコート層の防汚性を高めることが可能となる。さらに、この共重合体が、フルオロアルキル構造をその骨格として有していることにより、ハードコート層の撥水性および撥油性を長期間維持させることが可能となる。このような(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を用いることによって、いわゆるフッ素樹脂などを添加することなく、優れた撥水性および撥油性を有するハードコート層を形成することができる。
【0050】
(a−4)その他のアクリルブロック
本発明における(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体は、さらに、(a−1)〜(a−3)以外のアクリルブロックである、(a−4)その他のアクリルブロックを有していてもよい。この(a−4)その他のアクリルブロックが有するペンダント基として、例えば脂環式炭化水素基などが挙げられる。ハードコート用組成物に含まれる(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体が、このような(a−4)その他のアクリルブロックを有することによって、ハードコート層に良好な基材密着性を付与できる(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を調製することが可能となる。
【0051】
本発明における、(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を構成する各ブロックの好ましい重量比率は、
(a−1)ポリシロキサンブロック0.1〜40重量%、より好ましくは10〜40重量%
(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロック5〜94.8重量%、より好ましくは15〜70重量%、および
(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロック4.9〜49.9重量%、より好ましくは5〜35重量%
である。そして、(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体がさらに(a−4)その他のアクリルブロックを有する場合は、この(a−4)その他のアクリルブロックは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%である。この場合は、(a−1)(a−2)(a−3)および(a−4)のブロックの合計重量%が100重量%であることを条件とする。
(a−1)ポリシロキサンブロックが0.1重量%未満である場合は、活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体生成のための重合反応自体が困難となり、40重量%を超える場合は、活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体自体の可とう性の増加、また活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロックの減少のためにハードコート性が低下する、もしくはフルオロアルキル基含有アクリルブロックが減少するために十分な撥油性を維持できないおそれがある。(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロックが5重量%未満である場合は、活性エネルギー線硬化性が不十分なためにハードコート性が低下するおそれがあり、94.8重量%を超える場合はフルオロアルキル基含有アクリルブロックが減少するために十分な撥油性を維持できないおそれがある。(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロックが4.9重量%未満である場合は、十分な撥油性を維持できないおそれがあり、49.9重量%を超える場合は活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体の可とう性の増加、また活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロックの減少のためにハードコート性が低下するおそれがある。
【0052】
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体の調製
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体の調製方法の一例として、アゾ基含有ポリシロキサン化合物と、フルオロアルキル基を有する不飽和モノマーと、アクリル酸および/またはメタクリル酸とを共重合し、次いでエポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーを反応させる方法が挙げられる。なお共重合する際に、その他のラジカル重合性モノマーを併せて用いてもよい。また、(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体の調製方法の他の一例として、アゾ基含有ポリシロキサン化合物と、フルオロアルキル基を有する不飽和モノマーと、エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーとを共重合し、次いでアクリル酸および/またはメタクリル酸を反応させる方法が挙げられる。この方法においてもまた、共重合する際に、その他のラジカル重合性モノマーを併せて用いてもよい。
【0053】
これらの調製方法において、アゾ基含有ポリシロキサン化合物以外のモノマー成分が、(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体におけるアクリルブロックを形成することとなり、(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロック、(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロック、そして必要に応じた(a−4)その他のアクリルブロック、が形成される。その他のラジカル重合性モノマーを用いることによって、ハードコート用組成物により得られるハードコート層の密着性などの物理的特性を調整することができる。
【0054】
活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体の調製に用いられるアゾ基含有ポリシロキサン化合物として、下記式(IV)で示される化合物が挙げられる。
【0055】
【化5】

式(IV)
【0056】
上記式(IV)中、R〜R、m、pおよびqは上記定義と同様であり、Xは、同一または異なって、ハロゲン原子を表し、rは1〜20の整数である。
【0057】
上記アゾ基含有ポリシロキサン化合物は、加熱または活性エネルギー線の照射によって窒素を発生して分解し、ラジカル種を発生させるという性質を有している。そして発生したラジカル種は、各種ビニル系モノマーと容易に重合する。従って、アゾ基含有ポリシロキサン化合物および各種ビニル系モノマーの存在下で加熱または活性エネルギー線を照射することによって、アゾ基含有ポリシロキサン化合物が重合開始剤として作用すると同時に、ポリシロキサンブロックを有するラジカル種を供給することとなり、そしてこれによりポリシロキサンブロックを含む共重合体を容易に調製することができる。
【0058】
アゾ基含有ポリシロキサン化合物は、例えば、カルボキシル基を有する2,2'−アゾビスニトリルの誘導体、例えば4,4'−アゾビス(4−シアノ吉草酸)およびその同族体など、を酸クロライド化し、これと、両末端にアミノ基または水酸基を有するポリジメチルシロキサンのようなポリシロキサン鎖含有化合物とを反応させることにより、調製することができる。このアゾ基含有ポリシロキサン化合物は、特公平2−33053号公報および特開平7−18139号公報に記載されており、その構造および調製方法が公知である。また、4,4'−アゾビス(4−シアノ吉草酸)をアミド結合によりポリジメチルシロキサン鎖へ結合した構造を有するアゾ基含有ポリシロキサン化合物は、VPSシリーズとして和光純薬から市販されている。
【0059】
エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーとして、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレートおよび3,4−エポキシシクロヘキサニル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。バランスのとれた硬化性と貯蔵安定性を示す塗料組成物を調製するためには、グリシジル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0060】
(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロックの導入に用いることができる、フルオロアルキル基を有する不飽和モノマーとして、例えば2−(ペルフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、3−ペルフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(ペルフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(ペルフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(ペルフルオロ−3−メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレート、2−(ペルフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0061】
活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体の調製に用いられるその他のラジカル重合性モノマーとして、例えばスチレンまたはスチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、アルコキシ、ハロゲン、ハロアルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステルにより置換された置換誘導体;ブタジエン、イソプレン、ネオプレン等のオレフィン類;メタクリル酸またはアクリル酸の、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、ter―ブチル、ペンチル、ネオペンチル、イソアミルヘキシル、シクロヘキシル、アダマンチル、アリル、プロパギル、フェニル、ナフチル、アントラセニル、アントラキノニル、ピペロニル、サリチル、シクロヘキシル、ベンジル、フェネシル、クレシル、トリフェニルメチル、ジシクロペンタニルまたはクミルエステル;アントラニルアミド、アクリロニトリル、アクロレイン、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ビニルピリジン、酢酸ビニル等を用いることができる。なお、これらは1種のみを用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0062】
好ましいその他のラジカル重合性モノマーとして、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの脂環式炭化水素基を有するモノマーを挙げることができる。このような重合性モノマーを用いることによって、ハードコート用組成物に含まれる活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体が、脂環式炭化水素基を有するペンダント基を有する(a−4)その他のアクリルブロックを有することとなる。そしてこれにより、ハードコート層に良好な基材密着性を付与できる共重合体を提供することが可能となる。
【0063】
上記調製方法の一例においては、まず、アゾ基含有ポリシロキサン化合物と、アクリル酸および/またはメタクリル酸と、フルオロアルキル基を有する不飽和モノマーと、そして必要に応じたその他のラジカル重合性モノマーと、を重合させる。これらの重合方法として、例えばバルク重合または溶液重合が挙げられる。これらの重合においてアゾ基含有ポリシロキサン化合物は、上記の通り、重合開始剤として作用すると同時に、ポリシロキサンブロックを有するラジカル種の供給源となる。一方、重合において、他の重合開始剤を併用してもよい。併用することができる重合開始剤として、一般的にラジカル重合開始剤として知られているものが使用でき、例えば2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシピバレート、1,1'−ビス−(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;および過酸化水素が挙げられる。ラジカル重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、過酸化物を還元剤とともに用いてレドックス型開始剤として用いてもよい。
【0064】
重合は、例えば60〜150℃で3〜48時間撹拌することによって行うことができる。溶液重合法において、用いられる溶媒としては特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;石油エーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。上記溶媒は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0065】
次いで得られた共重合体と、エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーとを反応させる。この反応により、共重合体のアクリルブロックに含まれるカルボン酸と、(メタ)アクリルモノマーが有するエポキシ基とが反応し、そしてこれにより活性エネルギー線硬化性二重結合基を有するペンダント基がアクリルブロックに導入され、共重合体が(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロックを有することとなる。こうして(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を得ることができる。この反応方法として、例えばガラスフラスコを用いて60〜150℃で3〜48時間撹拌することによって行うことができる。
【0066】
この調製方法において用いられる各成分の好ましい重量部は、アゾ基含有ポリシロキサン化合物0.1〜40重量部、より好ましくは10〜40重量部、アクリル酸および/またはメタクリル酸0.2〜94.8重量部、より好ましくは15〜70重量部、フルオロアルキル基を有する不飽和モノマー4.9〜49.9重量部、より好ましくは5〜35重量部、そしてエポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー0.2〜94.8重量部、より好ましくは5〜70重量部である。また、その他のラジカル重合性モノマー用いる場合は、0.1〜45.1重量部、より好ましくは0.1〜35重量部用いるのが好ましい。
【0067】
一方、上記調製方法の他の一例においては、まず、アゾ基含有ポリシロキサン化合物と、エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーと、フルオロアルキル基を有する不飽和モノマーと、そして必要に応じたその他のラジカル重合性モノマーと、を重合させる。次いで得られた共重合体と、アクリル酸および/またはメタクリル酸とを反応させることにより、共重合体に含まれるエポキシ基と、アクリル酸および/またはメタクリル酸が有するカルボン酸とが反応し、(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体が得られることとなる。この方法における重合方法などの反応方法は、上記と同様である。
【0068】
この調製方法において用いられる各成分の好ましい重量部は、アゾ基含有ポリシロキサン化合物0.1〜40重量部、より好ましくは10〜40重量部、エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー5〜94.8重量部、より好ましくは15〜70重量部、フルオロアルキル基を有する不飽和モノマー4.9〜49.9重量部、より好ましくは5〜35重量部、そしてアクリル酸および/またはメタクリル酸0.2〜94.8重量部、より好ましくは5〜70重量部である。またその他のラジカル重合性モノマーを用いる場合は、0.1〜45.1重量部、より好ましくは0.1〜35重量部用いるのが好ましい。
【0069】
これらの調製方法によって、(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を好適に調製することができる。(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体は、ハードコート用組成物の固形分重量に対して0.1〜50重量%(固形分重量比)ほど用いるのが好ましく、0.1〜30重量%ほど用いるのがより好ましい。(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体の量が0.1重量%より少ない場合は、良好な撥水性および撥油性を発現できないおそれがある。
【0070】
(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物
本発明のハードコート用組成物は(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物を含む。(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物が含まれることによって、ハードコート用組成物の活性エネルギー線硬化性が向上し、また得られるハードコート層の機械的強度が高まることとなる。(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物は、一分子中に2以上の活性エネルギー線硬化性基を有する化合物である。(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物として、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を用いることができる。(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物として、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましい。なお(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物として、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば、モノマーであってもオリゴマーであってもよい。
【0071】
モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの低分子量ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはそのアルキレンオキシド変成体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジまたはトリまたはテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタまたはヘキサ(メタ)アクリレートなどのポリオールポリ(メタ)アクリレートまたはそのアルキレンオキサイド変成体;イソシアヌル酸アルキレンオキシド変成体のジまたはトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0072】
オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートなどのオリゴマーが挙げられる。この中ではウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく用いられる。
【0073】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ポリオールと有機ポリイソシアナートとの反応物に、さらにヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物が挙げられる。ここで、ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールなどの低分子量ポリオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール;上記の低分子量ポリオールおよび/またはポリエーテルポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テレフタル酸などの二塩基酸またはその無水物などの酸成分との反応物であるポリエステルポリオールなどが挙げられる。有機ポリイソシアネートしては、ジイソシアネートやこれらを重合させた多官能イソシアネートが好ましく用いられる。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどが挙げられ、特に、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどの多官能アクリレート化合物が好ましく用いられる。なお、活性エネルギー線硬化性多官能化合物(B)として用いることができるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、数平均分子量が300〜5,000であることが好ましく、500〜3,000であることがより好ましい。300より小さいと揮発性が生じ、環境衛生上好ましくない。5,000より大きいと高粘度になり、取り扱いが困難となる恐れがある。
【0074】
これらの(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0075】
(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物として、一分子中に3またはそれ以上の光重合性基を有するモノマーを用いるのが好ましい。このようなモノマーを用いることによって、得られるハードコート層の機械的強度をより高めることができる。好ましい(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物として、例えばペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。
【0076】
(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物は、ハードコート用組成物の固形分重量に対して50〜99.8重量%(固形分重量比)ほど用いるのが好ましく、50〜99.7重量%用いるのがより好ましい。(B)光重合性多官能化合物の量が50重量%より少ない場合は、耐擦傷性、耐摩耗性などの物理的強度が劣ることとなるおそれがある。
【0077】
(C)導電性材料
本発明のハードコート用組成物は(C)導電性材料を含む。(C)導電性材料が含まれることによって、ハードコート用組成物によって形成されるハードコート層に導電性が付与され、これにより静電気などによるハードコート層へのホコリまたはゴミの吸着を抑制することができる。(C)導電性材料は、導電性をハードコート層に付与することができるものであればよく、例えば金属酸化物などが挙げられる。
【0078】
(C)導電性材料として、例えば、アンチモン、インジウム、スズからなる群から選択される元素を少なくとも1種含む金属酸化物の微粒子が挙げられる。このような金属酸化物微粒子の具体例として、特に限定されるものではないが、例えばアンチモンドープされたスズ酸化物、スズドープされた酸化インジウム、アンチモン酸亜鉛、五酸化アンチモン、酸化スズ、酸化インジウムなどが挙げられる。これらの金属酸化物微粒子のうち、アンチモン酸亜鉛、五酸化アンチモンなどが特に好ましく用いることができる。これらの金属酸化物微粒子は、有機溶剤に分散された状態であるオルガノゾルとして使用してもよい。また、金属酸化物微粒子を、粉末状態で、ハードコート用組成物中に分散させて使用することもできる。
【0079】
(C)導電性材料が金属酸化物微粒子である場合、金属酸化物微粒子の粒径は、粒子状態で気相吸着法により算出されるBET法での粒子径が18nm以下であるのが好ましい。または(C)導電性材料の粒径は、溶剤に分散させたゾル状態で測定した動的散乱法での平均粒子径が100nm以下であるのが好ましい。(C)導電性材料を上記粒子径の範囲内とすることにより、得られるハードコート層の平滑性または透明性を損なうことなく、帯電防止性を付与することができる。(C)導電性材料の粒径の下限値は、BET法、動的散乱法何れの測定方法においても5nm以上であるのが好ましい。
【0080】
本発明において好適に用いられる(C)導電性材料の具体例として、アンチモンドープ・酸化錫(ATO)としては、例えば、FSS−10M、SNS−10M(いずれも石原産業株式会社製)等を挙げることができる。また、酸化インジウム錫(ITO)としては、例えばシーアイ化成株式会社製、ITO分散液等を挙げることができる。アンチモン酸亜鉛としては、例えば、セルナックスCX−Z600M−3、CX−Z600M−3F、CX−Z210IP−F2(いずれも日産化学工業株式会社製)等を挙げることができる。さらに五酸化アンチモンとしては、例えばELCOM(触媒化成工業株式会社製)等を挙げることができる。これら材料は市場から容易に入手することができる。
【0081】
本発明におけるハードコート用組成物の固形分総量中における(C)導電性材料の含有率は、通常0.1〜60重量%であり、好ましくは2〜55重量%である。
【0082】
(D)光重合開始剤
本発明のハードコート用組成物は、必要に応じて、(D)光重合開始剤を含むことができる。(D)光重合開始剤が存在することによって、活性エネルギー線硬化性性シリコーンアクリル共重合体および活性エネルギー線硬化性多官能化合物の光照射時における重合を促進することができる。(D)光重合開始剤の例として、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤、オキシムエステル系重合開始剤などが挙げられる。アルキルフェノン系光重合開始剤として、例えば2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノンなどが挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤として、例えば2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。チタノセン系光重合開始剤として、例えば、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウムなどが挙げられる。オキシムエステル系重合開始剤として、例えば、1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0−アセチルオキシム)、オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステル、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルなどが挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0083】
上記(D)光重合開始剤のうち、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1および2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなどがより好ましく用いられる。
【0084】
(D)光重合開始剤は、ハードコート用組成物の固形分重量に対して0〜20重量%(固形分重量比)ほど用いるのが好ましい。(D)光重合開始剤の量が上記範囲を外れる場合は、物理的強度が劣ることとなるおそれがある。
【0085】
本発明のハードコート用組成物は、上記各成分を
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体0.1〜50重量%、
(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物50〜99.8重量%、および
(C)導電性材料0.1〜60重量%、
(但し、上記成分の重量%は何れも組成物中の固形分重量を基準とし、各成分の固形分合計重量を100重量%とする。)の量で含むのがより好ましい。
本発明のハードコート用組成物がさらに(D)光重合開始剤を含む場合は、
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体0.1〜30重量%、
(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物50〜99.7重量%、および
(C)導電性材料0.1〜60重量%、
(D)光重合開始剤0.1〜20重量%
(但し、上記成分の重量%は何れも組成物中の固形分重量を基準とし、各成分の固形分合計重量を100重量%とする。)の量で含むのがより好ましい。
【0086】
他の成分
本発明のハードコート用組成物は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。これらを含めることによって、ハードコート層が設けられる物体に応じた性能を付与させることが可能となる。しかしながら、これらの添加剤は必ずしも必要とされるものではない。使用できる添加剤として、例えばTEGO(登録商標)Radシリーズ(Tego社製)、2100、2200N、2250、2500、2600、2700などのシリコーン系添加剤を用いることができる。
【0087】
これらの添加剤を用いる場合は、ハードコート用組成物の固形分重量に対して0.01〜1重量%ほど用いるのが好ましい。
【0088】
本発明のハードコート用組成物はさらに、必要に応じて、希釈溶媒としての有機溶媒を含んでもよい。このような有機溶媒として、例えば、用いられる溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ミネラルスピリットなどの脂肪族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また混合して用いてもよい。
【0089】
本発明のハードコート用組成物はさらに、必要に応じて、光重合開始助剤、有機フィラー、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、顔料などの通常用いられる添加剤を含んでもよい。
【0090】
ハードコート用組成物
本発明のハードコート用組成物は、(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体、(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物、および(C)導電性材料を少なくとも含有し、必要に応じて(D)光重合開始剤を含有する。そして、このハードコート用組成物を用いることによって、単層であっても耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性に優れ、かつ防汚性および防汚耐久性にも優れたハードコート層を有する物体を形成することができる。
【0091】
本発明のハードコート用組成物は活性エネルギー線硬化性である。そのため、ハードコート層を形成する際に、加熱重合させる必要がないという利点を有する。例えば種々物体の中には、例えば樹脂部分など耐熱性が低い材質を含んでいるものもある。本発明のハードコート用組成物は、そのような耐熱性が低い材質を含む物体に対しても、良好にハードコート層を形成することができるという利点を有する。
【0092】
本発明のハードコート用組成物の調製方法としては、例えば、上記(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体、(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物および(C)導電性材料、そして必要に応じて(D)光重合開始剤、そしてさらに必要に応じた添加剤および有機溶媒等を混合することによって、調製することができる。
【0093】
本発明のハードコート用組成物を、例えばCD、DVD、BD、HD−DVD等の情報記録媒体などの物体の光透過層表面上に設けることによって、情報記録媒体の光透過層表面上にハードコート層を形成することができる。
【0094】
ハードコート用組成物を光透過層上に設ける方法として、種々の塗装方法、例えばスピンコート法、ディップコート法、グラビアコート法、スプレー法、ローラー法、はけ塗り法など、が挙げられる。これらの塗装方法の中でも、製造方法の容易性やコストメリットを考慮した場合、スピンコート法が好ましい。得られるハードコート層の厚さとしては0.1〜20μmとなるように形成するのが好ましい。
【0095】
情報記録媒体の光透過層表面上に形成されたハードコート用組成物は、次いで活性エネルギー線の照射に曝されることによって硬化し、これによりハードコート層が形成される。活性エネルギー線として、例えば、紫外線、電子線、可視光などのが挙げられる。ここで、光透過層が、活性エネルギー線硬化性樹脂を硬化させることによって得られる場合は、光透過層が未硬化または半硬化の状態でハードコート用組成物を塗布し、同時に硬化することで形成することができる。このような形成方法は、ハードコート層の、光透過層に対する密着性が向上し、耐クラック性も向上するので好ましい。
【0096】
情報記録媒体
本発明の物体は、上記のハードコート用組成物より得られるハードコート層を有することを特徴とする。このような物体の好適な例として、例えば情報記録媒体が挙げられる。以下、情報記録媒体の構造等について記載する。
【0097】
本発明の物体の一例である情報記録媒体は、支持基体上に、少なくとも記録層または反射層と樹脂組成物などによって形成される光透過層とを有する。そしてこの情報記録媒体の支持基体側表面および光透過層側表面のうち少なくとも一方の表面上に、上記ハードコート用組成物より得られるハードコート層が形成されている。本発明の物体の一例である情報記録媒体において、支持基体としての光透過支持基体層側表面および保護層としての光透過層側表面のうち、少なくとも記録又は再生のためのレーザービームが入射される側の表面にハードコート層が形成されている。つまり本発明においては、支持基体または保護層としての光透過層の上に、上記ハードコート用組成物を塗装し硬化させることによって、光透過層およびハードコート層からなる積層体を有する情報記録媒体が製造される。
【0098】
情報記録媒体として、一般に、保護層としての光透過層側表面から、記録又は再生のためのレーザービームが入射されるタイプと、支持基体としての光透過支持基体層側から、記録又は再生のためのレーザービームが入射されるタイプとがある。まず、保護層としての光透過層側表面から、記録又は再生のためのレーザービームが入射されるタイプについて記載する。
【0099】
保護層としての光透過層側表面から、記録又は再生のためのレーザービームが入射される情報記録媒体
このような情報記録媒体について、図面を参照しながら説明する。図1は、情報記録媒体の構成の一例を示す概略断面図である。この情報記録媒体は、支持基体(20)上に情報記録層としての記録層(4)を有し、この記録層(4)上に光透過層(7)を有し、この光透過層(7)上にハードコート層(8)を有する。記録又は再生のためのレーザービームは、ハードコート層(8)および光透過層(7)を通して記録層(4)に入射される。そのため、このハードコート層(8)は光透過性である必要がある。
【0100】
本発明の一例である情報記録媒体は、記録層の種類について限定されない。本発明の物体の一例である情報記録媒体は、例えば、相変化型記録材料による書き換え型情報記録媒体(相変化型記録媒体)であっても、ピット形成タイプの再生専用型情報記録媒体であっても、光磁気記録材料による書き換え型情報記録媒体であってもよい。なお通常は、記録層の少なくとも一方の側に、記録層の保護や光学的効果を目的とした誘電体層または反射層が設けられるが、図1では図示を省略している。
【0101】
次に、相変化型記録媒体ついて、BD−RE(Bru-ray Disc Rewritable)を例に説明する。図2は、BD−REの層構成の一例を示す概略断面図であり、支持基体(20)の情報ピットやプリグルーブ等の微細凹凸が形成されている側の面上に、反射層(3)、第2誘電体層(52)、相変化記録材料層(41)および第1誘電体層(51)をこの順で有する。そしてこの第1誘電体層(51)上に光透過層(7)ハードコート層(8)を有し、これらを通して、記録又は再生のためのレーザー光を入射するようにして構成されている。
【0102】
支持基体(20)は、厚さ0.4〜1.3mmであるのが好ましく、記録層(4)が形成される側の面に、情報ピットやプリグルーブ等の微細な凹凸が形成されている。
【0103】
支持基体(20)としては、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の各種プラスチック材料が好ましく、射出成型法により形成される。なおBDは、光透過層側からレーザー光を入射するように構成されるため、支持基体は光学的に透明である必要はない。
【0104】
必要に応じて、支持基体(20)上に、反射層(3)がスパッタリング法により形成される。反射層の材料としては、Au、Ag、Alおよびこれらの合金(例えばAl−Pd−Cu合金など)等の周知の反射層無機材料を主成分として形成すれば良く、厚さ20〜200nmの薄層として形成することが好ましい。
【0105】
次いで、反射層(3)上に、あるいは反射層のない場合には支持基体(20)上に、第2誘電体層(52)、相変化記録材料層(41)、第1誘電体層(51)がこの順でスパッタリング法により形成される。
【0106】
相変化記録材料層(41)は、レーザー光照射によって結晶状態とアモルファス状態とに可逆的に変化するという特性を有し、これら結晶状態およびアモルファス状態において、光学特性が異なる材料を用いて形成される。このような材料としては特に限定されるものではないが、例えば、Ge−Sb−Te、In−Sb−Te、Sn−Se−Te、Ge−Te−Sn、In−Se−Tl、In−Sb−Te、Sb−Te−Ge−In等が挙げられる。相変化記録材料層(41)の厚さは、特に限定されることなく、例えば、3〜50nm程度である。
【0107】
相変化記録材料層(41)の上下両面は、第2誘電体層(52)および第1誘電体層(51)によって挟まれている。第2誘電体層(52)および第1誘電体層(51)は、相変化記録材料層(41)を機械的および/または化学的に保護する機能と、そして光学特性を調整する干渉層としての機能を有する。第2誘電体層(52)および第1誘電体層(51)はそれぞれ、単層であってもよく、複数層から構成されてもよい。
【0108】
第2誘電体層(52)および第1誘電体層(51)はそれぞれ、Si、Zn、Al、Ta、Ti、Co、Zr、Pb、Ag、Zn、Sn、Ca、Ce、V、Cu、Fe、Mgから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、あるいはこれらの複合物から形成されることが好ましい。
【0109】
第2誘電体層(52)の厚さは特に限定されるものではない。第2誘電体層(52)の厚さは、例えば、20〜150nm程度が好ましい。第1誘電体層(51)の厚さは特に限定されるものではない。第1誘電体層(51)の厚さは、例えば、20〜200nm程度が好ましい。これらの両誘電体層(52)(51)の厚さをこのような範囲で選択することにより、反射を調整することができる。
【0110】
このような第1誘電体層(51)上に、光透過層(7)を形成する。光透過層(7)は、活性エネルギー線硬化性材料を用いて、例えばスピンコート法により形成するか、あるいはポリカーボネートシート等の光透過性シートを接着することにより形成することができる。
【0111】
光透過層(7)として用いることができる活性エネルギー線硬化性材料は、光学的に透明であり、使用されるレーザー波長領域での光学吸収および反射が少なく、複屈折が小さい、紫外線硬化性材料または電子線硬化性材料を用いることができる。
【0112】
活性エネルギー線硬化性材料は、紫外線(電子線)硬化性化合物またはその重合用組成物から構成されるのが好ましい。具体的な活性エネルギー線硬化性材料として、例えば、アクリル酸;メタクリル酸;(メタ)アクリル酸のエステル化合物;アクリル系特殊モノマー;エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系二重結合含有モノマー、オリゴマーまたはポリマー;ジアリルフタレートなどのアリル系二重結合含有モノマー、オリゴマーまたはポリマー;マレイン酸誘導体;およびこれらのモノマー、オリゴマーまたはポリマーの誘導体;など、活性エネルギー線照射によって架橋あるいは重合する基を分子中に含有又は導入したモノマー、オリゴマーおよびポリマー等を挙げることができる。これらの活性エネルギー線硬化性材料は、1種のみ用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。塗膜の弾性率やTgのコントロール、経時安定性等の観点からは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含むことが好ましい。
【0113】
光透過層(7)の形成は、例えば、第1誘電体層(51)上へ活性エネルギー線硬化性材料を塗布することにより形成することができる。この場合は、スピンコーティング法により活性エネルギー線硬化性材料を塗布するのが好ましい。こうして活性エネルギー線硬化性材料を塗布した後に、紫外線などの活性エネルギー線を照射して硬化させることにより、光透過層(7)が形成される。光透過層(7)の硬化度合いは、その上に設けられるハードコート層(8)との密着性や耐クラック性の観点から半硬化の状態が好ましい。光透過層(7)の厚さは、好ましくは30〜150μmであり、より好ましくは50〜120μmである。
【0114】
光透過層(7)の形成の他の例として、光透過性樹脂シートを用いて光透過層を形成することもできる。この場合には、第1誘電体層(51)上に、上記の光透過層の形成に用いることができる活性エネルギー線硬化性材料を塗布し、未硬化の樹脂材料層を形成する。次いで、得られた未硬化の樹脂材料層上に、光透過層(7)としての光透過性シートを載置し、その後、紫外線等の活性エネルギー線を照射して樹脂材料層を硬化することにより、光透過性シートが接着され、光透過層(7)となる。この樹脂材料層の形成に用いられる活性エネルギー線硬化性材料としては、3〜500cpの粘度(25℃)を有するものが好ましい。樹脂材料層の形成はスピンコーティング法により行うことができる。樹脂材料層の厚さは、例えば、硬化後において、1〜50μm程度とするとよい。
【0115】
光透過性シートとしては、例えば、20〜140μmの厚さを有するポリカーボネートシートが用いられる。光透過層(7)の形成は、より具体的には、真空中(0.1気圧以下)において、所定の厚さのポリカーボネートシートを、未硬化の樹脂材料層上に載置し、次いで、大気圧雰囲気に戻し、紫外線を照射して樹脂材料層を硬化させることにより、形成することができる。
【0116】
こうして得られた光透過層(7)の上に、上記のハードコート用組成物を用いてハードコート層(8)を形成する。ハードコート層の形成は、光透過層(7)上に、上記のハードコート用組成物を塗布して未硬化のハードコート層を形成し、その後、紫外線、電子線、可視光等の活性エネルギー線を照射して未硬化層を硬化させることによって、ハードコート層(8)が形成される。
【0117】
ハードコート用組成物の塗布方法は、特に限定されることなく、スピンコート法、ディップコート法、グラビアコート法等の各種塗布方法を用いることができるが、安易で低コストが実現されるスピンコート法が好ましい。光透過層(7)の形成に光透過性シートを使用する場合は、長尺状の光透過性シート原反に予めグラビアコート法等でハードコート層(8)を形成しておき、この原反を情報記録媒体の形状に打ち抜いた後、前記のように未硬化の樹脂材料層上に載置して樹脂材料層を硬化させる方法によって、ハードコート層を形成することもできる。
【0118】
上記のハードコート用組成物が非反応性希釈有機溶媒を含んでいる場合は、ハードコート用組成物を塗布して未硬化のハードコート層を形成した後、非反応性有機溶媒を加熱乾燥により除去し、その後、活性エネルギー線を照射して未硬化層を硬化して、ハードコート層(8)とすることもできる。この際の加熱乾燥の温度としては、例えば、温度40℃以上100℃以下が好ましい。加熱乾燥の時間としては、例えば30秒以上8分以下、好ましくは1分以上5分以下、より好ましくは3分以上5分以下である。
【0119】
ハードコート用組成物を硬化させるのに用いられる活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光などの活性エネルギー線の中から適切なものを選択して用いることができる。活性エネルギー線として好ましくは紫外線又は電子線を用いる。硬化後のハードコート層(8)の厚さは、0.5〜5μm程であるのが好ましい。
【0120】
このようにして、光透過層側表面が記録/再生ビーム入射側表面とされる情報記録媒体である、図2に例示する相変化型情報記録媒体を製造することができる。
【0121】
支持基体としての光透過支持基体層側表面から、記録又は再生のためのレーザービームが入射される情報記録媒体
次に、支持基体側表面が記録/再生ビーム入射側表面とされる情報記録媒体について説明する。
【0122】
図3は、本発明の一例である情報記録媒体の構成の他の一例を示す概略断面図である。図3に例示する情報記録媒体は、光透過層である光透過支持基体層(22)の一方の面上に、情報記録層としての記録層(4)と、この記録層(4)上に形成された保護層(6)とを有し、光透過支持基体層(22)の他方の面上にハードコート層(8)を有する。ハードコート層(8)の面側が記録/再生ビーム入射側であり、記録又は再生のためのレーザービームは、ハードコート層(8)および光透過支持基体層(22)を通して記録層(4)に入射される。そのため、このハードコート層(8)は光透過性である必要がある。
【0123】
図4は、他の一例の情報記録媒体(DVD−R)の構成を示す概略断面図であり、光透過支持基体層(22)の一方の面上に、有機色素層(42)と、有機色素層(42)上の反射層(3)と、反射層(3)上に保護接着層(61)を介して貼り合わされた支持層(21)とを有し、光透過支持基体層(22)の他方の面上にハードコート層(8)を有する。ハードコート層(8)の面側が記録/再生ビーム入射側である。
【0124】
図4に例示した追記型のDVD−Rの他にも、再生専用型のDVD−ROM、書換え可能型のDVD−RAM、DVD−RW等、種々のものが商品化されている。再生専用型のDVDとしては、DVD−VideoやDVD−ROM等があるが、これらの情報記録媒体では、光透過性支持基体の形成の際に、情報信号が記録されたピットと呼ばれる凹凸が形成され、その上にAlなどの金属反射層が形成され、さらに保護層が形成される。保護層上に接着層を介して別の支持層が貼り合わされて、最終的な情報記録媒体となる。書換え可能型のDVDの場合には、上記した相変化型記録媒体についての説明と同様に、情報記録層を構成すればよい。
【0125】
図3および図4に示される、支持基体側表面から記録又は再生のためのレーザービームが入射される情報記録媒体において、光透過支持基体層(22)は、光透過性の基体が用いられる。光透過支持基体層(22)は、例えばポリカーボネート樹脂を射出成形し、その表面に種々の情報、例えばプレピットやプレグルーブ等を形成することによって形成することができる。しかしながら用いる材料はポリカーボネート樹脂に限定されるものでなく、ポリオレフィン樹脂等の樹脂等も用いられる。光透過支持基体層(22)は、厚さ0.3〜1.2mmであるのが好ましく、厚さ0.4〜0.8mmであるのがより好ましい。
【0126】
こうして得られた光透過支持基体層(22)の片面上に有機色素層(42)を形成する。有機色素層(42)は、有機色素を溶媒に溶解し、これをスピンコート法により塗布し、乾燥することによって、目的の層厚を有する有機色素層(42)を形成することができる。有機色素としては、種々のシアニン色素、アゾ色素、フタロシアニン色素等を用いることができる。
【0127】
有機色素層(42)の形成にスピンコート法を用いる場合、有機色素は、溶媒に溶解して有機色素溶液として用いられる。溶媒としては、有機色素を十分溶解することができ、また支持基体に悪影響を及ぼさない溶媒であれば特に限定されない。有機色素の濃度は0.01〜10重量%程度が好ましい。
【0128】
有機色素層(42)の層厚は、用いる色素に応じて適宜選択される。好ましい有機色素層の層厚は10〜300nm程度であり、特に好ましくは60〜250nm程度である。
【0129】
こうして得られた有機色素層(42)の上に、スパッタリング法により反射層(3)を設ける。反射層の材料としては、再生光の波長域において反射率の充分高い材料が用いられる。このような材料として、例えばAu、Ag、Al、等の元素を主成分として用いる。
【0130】
反射層の層厚は特に限定されるものでないが、10〜300nm程度が好ましく、特には80〜200nm程度である。
【0131】
こうして得られた反射層(3)の上には、通常、保護接着層(61)を介して支持層(21)が貼り合わされる。支持層(21)は、上記の光透過支持基体層(22)と同様のものが用いられる。支持層(21)の厚さは0.3〜1.2mmであるのが好ましく、0.4〜0.8mmであるのがより好ましい。
【0132】
保護接着層(61)の材料としては、支持層(21)および光透過支持基体層(22)を接着でき、反射層を外力から保護するものであれば特に限定されるものでなく、公知の有機物質又は無機物質を用いることができる。
【0133】
一方、光透過支持基体層(22)の他方の面上に、上記のハードコート用組成物を用いてハードコート層(8)が形成される。なお上記したとおり、この光透過支持基体層(22)は本発明における光透過層に該当する。
【0134】
こうして得られた情報記録媒体は、ハードコート層(8)側が、記録/再生ビーム入射側である。記録/再生ビームとしては、650〜660nmの波長のレーザービーム、青色レーザービームなどが用いられる。
【0135】
このようにして、支持基体側表面から、記録又は再生のためのレーザービームが入射される情報記録媒体を製造することができる。
【実施例】
【0136】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0137】
製造例1 活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体(1)溶液の製造
VPS−1001(アゾ基含有ポリシロキサン化合物、和光純薬工業社製、ポリシロキサン鎖の分子量10000、固形分27%)227g(活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体中におけるポリシロキサン鎖の固形分重量割合が25重量%になる量)と、アクリルエステル17FE(三菱レイヨン(株)製)74g、アクリル酸37gからなるモノマー混合物(活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体中におけるフッ素含有不飽和モノマーの含有量:30重量%)とを混合した。この混合液を、撹拌羽根、窒素導入管、冷却管および滴下漏斗を備えた1000mlのガラス容器中で、窒素雰囲気下で100℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート310gに3時間かけて等速で滴下し、その後、30分間、100℃で反応させた。
【0138】
その後、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液13gを30分間で等速滴下してから、さらに100℃で1.5時間反応させた。
【0139】
この反応溶液に空気バブリングしながらグリシジルメタクリレート74gとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート98gの混合溶液を1時間かけて滴下し、その後8時間かけて更に反応させて活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体(1)を得た。
【0140】
製造例2 活性エネルギー線硬化性シリコーン−アクリルブロック共重合(2)溶液の製造
VPS−1001(アゾ基含有ポリシロキサン化合物、和光純薬工業社製、ポリシロキサン鎖の分子量10000、固形分27%)227g(活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体中におけるポリシロキサン鎖の固形分重量割合が25重量%になる量)と、アクリルエステル17FE (三菱レイヨン(株)製)74g、シクロヘキシルメタクリレート74g、アクリル酸15gからなるモノマー混合物(活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体中におけるフッ素含有不飽和モノマーの含有量:30重量%)とを混合した。この混合液を、撹拌羽根、窒素導入管、冷却管および滴下漏斗を備えた1000mlのガラス容器中で、窒素雰囲気下で100℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート310gに3時間かけて等速で滴下し、その後、30分間、100℃で反応させた。
【0141】
その後、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液13gを30分間で等速滴下してから、さらに100℃で1.5時間反応させた。
【0142】
この反応溶液に空気バブリングしながらグリシジルメタクリレート22gとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート98gの混合溶液を1時間かけて滴下し、その後8時間かけて更に反応させて活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体(2)を得た。
【0143】
実施例1 ハードコート用組成物の調製および情報記録媒体の作製
上記製造例1により得られた活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体(1)を用いて、表2に示した組成に従い各成分を混合し、ハードコート用組成物を調製した。
【0144】
図2に示す層構成の情報記録媒体を以下の通り作製した。情報記録のためにグルーブが形成されたディスク状支持基体(20)(ポリカーボネート製、直径120mm、厚さ1.1mm)のグルーブが形成された面上に、Al98PdCu(原子比)からなる厚さ100nmの反射層(3)をスパッタリング法により形成した。グルーブの深さは、波長λ=405nmにおける光路長で表してλ/6とした。グルーブ記録方式における記録トラックピッチは、0.32μmとした。
【0145】
次いで、反射層(3)の表面上に、Alターゲットを用いてスパッタリング法により、厚さ20nmの第2誘電体層(52)を形成した。第2誘電体層(52)表面に、相変化材料からなる合金ターゲットを用いてスパッタリング法により、厚さ12nmの記録層(4)を形成した。記録層(4)の組成(原子比)は、Sb74Te18(GeIn)であった。記録層(4)表面に、ZnS(80モル%)−SiO(20モル%)ターゲットを用いてスパッタリング法により、厚さ130nmの第1誘電体層(51)を形成した。
【0146】
次いで、第1誘電体層(51)表面に、表1に示す組成のラジカル重合性の紫外線硬化性材料をスピンコート法により塗布し、次いで、積算光量20mJ/cm2 の弱い紫外線を照射することにより、厚さ98μmの半硬化の光透過層(7)を形成した。
【0147】
光透過層:紫外線硬化性材料の組成
【表1】

【0148】
次いで、得られた半硬化の光透過層(7)上に、表2の実施例1に示した組成により調製したハードコート用組成物を、スピンコート法により塗布して被膜を形成した。得られた被膜を80℃の熱風式乾燥機中で180秒乾燥し、その後、窒素気流下で電子線を照射することによりハードコート層(8)を硬化させた。電子線の照射は、電子線照射装置Min−EB(ウシオ電機(株)製)を用い、電子線加速電圧を50kV、照射線量を100kGyの条件で照射を行った。照射雰囲気の酸素濃度は80ppmであった。硬化後のハードコート層(8)の厚さは3μmであった。その後、積算光量3J/cm2 にて紫外線を照射し、光透過層を完全硬化させた。
【0149】
実施例2 ハードコート用組成物の調製および情報記録媒体の作製
上記製造例1により得られた活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体(1)を用いて、表2の実施例2に示した組成に従い各成分を混合し、ハードコート用組成物を調製した。
【0150】
得られたハードコート組成物を実施例1と同様に塗布、乾燥させた後、電子線照射による硬化をせず、積算光量3J/cm2 にて紫外線を照射することによりハードコート層(8)および光透過層を同時に硬化させた以外は、実施例1と同様にして情報記録媒体を作製した。
【0151】
実施例3 ハードコート用組成物の調製および情報記録媒体の作製
上記製造例2により得られた活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体(2)を用いて、表2の実施例3に示した組成に従い各成分を混合し、ハードコート用組成物を調製した。
【0152】
上記より得られたハードコート用組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、情報記録媒体を作製した。
【0153】
実施例4 ハードコート用組成物の調製および情報記録媒体の作製
上記製造例2により得られた活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体(2)を用いて、表2の実施例4に示した組成に従い各成分を混合し、ハードコート用組成物を調製した。
【0154】
DVD−Rディスクの記録/再生ビームが入射する側の光透過支持基体層(22)であるポリカーボネート層上に直接、得られたハードコート用組成物を、スピンコート法により塗布して被膜を形成した。得られた被膜を80℃の熱風式乾燥機中で180秒乾燥した後、積算光量1J/cm2 にて紫外線を照射し、ハードコート層(8)を硬化させ、情報記録媒体を得た。
【0155】
比較例1〜3
表3の比較例1〜3に示した組成に従い各成分を混合し、ハードコート用組成物を調製した。得られたハードコート用組成物を用いて実施例2と同様に情報記録媒体を作製した。
【0156】
実施例および比較例により得られた情報記録媒体を用いて、以下の通り評価を行った。
【0157】
外観評価
実施例および比較例により得られた情報記録媒体のハードコート層の表面を、目視により観察することにより、評価を行った。評価結果を表2、3に示す。
【0158】
耐摩耗性試験
情報記録層を設けずに、実施例1〜5および比較例1〜3と同様に作製したハードコート層の表面を、JIS K7204:1999に準拠したテーパー摩耗試験装置を用いて、荷重500gで500回摩耗させた。摩耗輪としてはCS−10F TypeIVを用いた。500回摩耗後のハードコート層表面のヘイズを、ヘイズメーター(スガ試験機社製)で測定し、これらの差を△ヘイズとして求めた。得られた結果について、表2、3に示す。
【0159】
電気信号特性
光ピックアップで受光した情報記録媒体からの戻り光に基づいて生成されるトラッキング誤差信号の電圧とあらかじめ設定された基準値とを比較して、情報記録媒体のトラッキング誤差信号の電圧変化量を測定し、これらのバラツキを変化量として求めた。得られた結果について、表2、3に示す。判定については振られ変化量35%以上のものを問題あり、それ以下のものを良好とした。得られた結果について、表2、3に示す。
【0160】
半減期
JIS L1094に準拠して半減期を測定した。温度25度、相対湿度10%に設定された試験室において、実施例および比較例により得られた各情報記録媒体から、寸法35×35mmにて切り出した試料を測定器にセットし、測定時間を180分まで行った以外はJIS L1094記載の方法に従った。測定結果は、試料の帯電圧が1/2に減衰するまでの時間(半減期)として表す。この時間が短いほど、帯電防止性能に優れているといえる。なお本発明における情報記録媒体においては、この半減期が60分以下であれば使用において問題ないと評価できる。
【0161】
防汚性評価
協和界面科学(株)製の接触角計Face Contact−Anglemeterを用いて、静止接触角を測定した。測定液として純水およびn−オクタンを用いた。測定環境は、温度20℃、相対湿度60%であった。最初に、情報記録媒体における、ラビング前の接触角を測定した。
【0162】
防汚耐久性評価
次いで、エタノールラビング後の接触角を測定した。ベンコット(旭化成せんい株式会社製)にエタノールを含浸させ、これを荷重1kg/cmにて、各試験サンプルのハードコート表面に押し付けて100往復摺動させ、その後に、上記と同条件で接触角を測定した。ラビング後の接触角を測定することによって防汚耐久性を評価することができ、ラビング前の接触角およびラビング後の接触角の変化の差が小さいほど、防汚耐久性が高い。得られた結果について、表2、3に示す。
【0163】
【表2】

:実施例4においては、光透過層として、ポリカーボネート層を用いており、このポリカーボネート層に直接、ハードコート用組成物を塗装している。
【0164】
【表3】

【0165】
表中、
*1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
*2:日産化学工業(株)社製、セルナックス CX−Z210IP−F2
*3:イルガキュア184、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
*4:溶媒
*5:大日本インキ化学工業(株)社製、メガファックF−484
*6:ビックケミー・ジャパン(株)社製、BYK−3500
である。
【0166】
表2に示されるとおり、本発明のハードコート層は、良好な耐摩耗性を有していることがわかる。水接触角の値についても、ラビング前およびラビング後の両方共高く、撥水性およびこの撥水性の持続性に優れていることがわかる。さらに、シリコーン系添加剤およびフッ素系添加剤といった添加剤を加えていないにもかかわらず、高いn−オクタン接触角を達成している。そしてこのn−オクタン接触角は、ラビング前およびラビング後の両方共高く、撥油性およびこの撥油性の持続性に優れていることがわかる。また半減期が短いことから、優れた帯電防止性を有していることがわかる。
【0167】
一方、活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を用いず、市販のフッ素系化合物または活性エネルギー線硬化性シリコーン添加剤を加えた比較例1および2においては、耐摩耗性が劣るものであった。またこれら比較例においては、水接触角は高いものの、比較例1では防汚耐久性が劣り、比較例2ではn−オクタン接触角が低かった。これらの比較例についてはさらに、表面が白濁しており、情報記録媒体の電気特性を損なうものであった。活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を含む一方で導電性材料を含まない比較例3においては、表面の白濁はなく、情報記録媒体の電気特性は良好であり防汚性も良好であったものの、半減期が長く、帯電防止性に劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明のハードコート用組成物によって得られるハードコート層を有する物体は、単層化されたハードコート層を有していることから、情報記録媒体または各種表示素子などに求められるような光学性能や記録特性を損なうことなく、防汚性、耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性を有し、さらに、防汚性を長期間維持する防汚耐久性に優れている。さらに、本発明の物体が有するハードコート層は、活性エネルギー線硬化性であることから、生産効率および製造コストに優れ、防汚性、防汚耐久性、耐擦傷性、耐摩耗性および帯電防止性を有するハードコートを有する物体を、安価で且つ容易に提供できる。特に、情報記録媒体の光透過層表面にハードコート層形成した場合は、情報記録媒体に求められる光学性能や記録特性を損なうことなく、情報記録媒体への記録・再生を行うことができることに加え、耐擦傷性、耐摩耗性、帯電防止性、防汚性および防汚耐久性に優れた情報記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】本発明の物体の一例である情報記録媒体の層構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の物体の一例である情報記録媒体の層構成の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の物体の一例である情報記録媒体の層構成の他の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の物体の一例である情報記録媒体の層構成の他の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0170】
1 :情報記録媒体、
20:支持基体、
21:支持層、
22:光透過支持基体層、
3 :反射層、
4 :記録層、
41:相変化記録材料層(記録層)、
42:有機色素層、
51:第1誘電体層、
52:第2誘電体層、
6 :保護層、
61:保護接着層、
7 :光透過層、
8 :ハードコート層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体;(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物;および(C)導電性材料;を含むハードコート用組成物であって、
該(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体が、
(a−1)下記式(I)で表されるポリシロキサンブロック
【化1】

式(I)
[式(I)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはニトリル基を表し;Rは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し;Rは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは非置換の炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜12のフェニル基を表し;p及びqは、同一または異なって、0〜6の整数を表し;mは0〜600の整数を表す。]、
(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロック、
(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロック、
を有する、
ハードコート用組成物。
【請求項2】
前記ハードコート用組成物が、
(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体0.1〜50重量%、
(B)活性エネルギー線硬化性多官能化合物50〜99.8重量%、および
(C)導電性材料0.1〜60重量%、
(但し、上記成分(A)〜(C)の重量%は何れも組成物中の固形分重量を基準とし、各成分の固形分合計重量を100重量%とする。)
を含む、請求項1記載のハードコート用組成物。
【請求項3】
前記ハードコート用組成物がさらに(D)光重合開始剤を含む、請求項1または2記載のハードコート用組成物。
【請求項4】
前記(A)活性エネルギー線硬化性シリコーンアクリル共重合体を構成する各ブロックの重量比率が、
(a−1)ポリシロキサンブロック0.1〜40重量%
(a−2)活性エネルギー線硬化性二重結合基含有アクリルブロック5〜94.8重量%、および
(a−3)フルオロアルキル基含有アクリルブロック4.9〜49.9重量%
である、請求項1〜3いずれかに記載のハードコート用組成物。
【請求項5】
前記(C)導電性材料が、アンチモン、インジウム、スズからなる群から選択される元素を少なくとも1種含む金属酸化物の微粒子である、請求項1〜4いずれかに記載のハードコート用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載のハードコート用組成物から形成されるハードコート層を有する物体。
【請求項7】
請求項1〜5いずれかに記載のハードコート用組成物から形成されるハードコート層および光透過層を有する積層体を含む物体。
【請求項8】
前記光透過層が、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む活性エネルギー線硬化性材料から得られる層である、請求項7記載の物体。
【請求項9】
前記物体が情報記録媒体である、請求項6〜8いずれかに記載の物体。
【請求項10】
光透過層の上に、請求項1〜5いずれかに記載のハードコート用組成物を塗装し、次いで活性エネルギー線の照射によりハードコート用組成物を硬化させる、ハードコート層形成工程、を包含する、請求項7〜9いずれかに記載の物体の製造方法。
【請求項11】
前記物体の製造方法において、光透過層が未硬化または半硬化である状態においてハードコート用組成物を塗装して前記ハードコート層を形成することを特徴とする、請求項10記載の物体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−143999(P2009−143999A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320764(P2007−320764)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】