説明

バルク多結晶材料の製造方法

【課題】優れた電気的性質を有する粒界を有し(品質が単結晶なみ)、かつ強度が、従来の多結晶よりも強い多結晶材料の製造方法を提供する。
【解決手段】坩堝内の融液からの結晶成長において、坩堝底部に粒界エネルギーの高い粒界を有する多結晶を形成し、次に、一方向成長を行い、粒界エネルギーの高い粒界から、粒界エネルギーの低い粒界を形成するバルク多結晶材料の製造方法で、バルク多結晶材料が、シリコンまたはシリコンゲルマニウム多結晶であるバルク多結晶材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坩堝を使用した多結晶材料の製造方法に関し、特に、太陽電池に用いられるシリコンやシリコンゲルマニウム多結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国は、世界一の太陽電池生産国であり、ここ数年の太陽電池生産量の年次増加率は25%を超えている。中でも、シリコンのバルク結晶をベースとした太陽電池は、総生産量の90%を超えており、太陽電池の主要材料となっている。しかしながら、今後の生産量の延びに対して、原材料のシリコンの確保が課題となっており、その解決策の一つとして、インゴットからスライスする際の厚みを薄くすることが検討されている。コストの低い多結晶シリコンにおいては、粒界からの破壊が大きな問題となっていた。
【0003】
従来、{110}を成長方位として、二つのシグマ3粒界と一つのシグマ9粒界を有する三結晶シリコンが、薄くスライス可能な太陽電池用シリコンインゴットとして有用であることがMartinelliらにより提案された(非特許文献1)。その後、Schimigaらは、同様の手法で製造した三結晶シリコンから、17.6%の変換効率を有する太陽電池の製造例を報告している(非特許文献2)が、粒界近傍のキャリア拡散長が短いことが明らかになっており、粒界が精密にはシグマ3やシグマ9ではないことが示唆される。
【0004】
(2) 成長方位が{110}であり側面が{100}であるSi結晶と、成長方位が{110}であり側面が{111}であるSi結晶を、交互に積層することによりランダム粒界を形成したものを種結晶として粒界の自発的な変化を利用する方法が提案されているが、低いシグマ値の粒界が得られるが、特殊な種結晶が必要である(特許文献1)。
【0005】
複数の単結晶から方位関係を測定して切り出した結晶を束ねることにより人工的な対応粒界を形成した多結晶を製造し、さらに、この結晶を種結晶として、CZ法により、その方位を継承するような成長条件下で結晶成長を行う手法がある。この手法において製造される多結晶の粒界性格の精度は、切り出しの精度により制限され、必ずしも所望の粒界性格が実現されてはいない。例えば、粒界性格の制御には、相対的な方位関係として0.01°以内の精度が必要とされるが、現状の切断技術からは、実現が極めて困難である。
【0006】
【特許文献1】特願2005-195388号
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 62, 3262, 1993
【非特許文献2】PV in Europe, Oct. 2002, Rome
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた電気的性質を有する粒界を有し(品質が単結晶なみ)、かつ強度が、従来の多結晶よりも強い多結晶材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、坩堝内の融液からの結晶成長において、坩堝底部に粒界エネルギーの高い粒界を有する多結晶を形成し、次に、一方向成長を行い、粒界エネルギーの高い粒界から、粒界エネルギーの低い粒界を形成することを特徴とするバルク多結晶材料の製造方法が得られる。
【0009】
また、本発明によれば、坩堝内の融液からの結晶成長において、坩堝底に、シグマ値を高くした多結晶を形成し、次に、一方向成長を行い、シグマ値の低い粒界を形成することを特徴とするバルク多結晶材料の製造方法が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、融液の入った坩堝を、10℃/cm〜100℃/cmの範囲で制御した温度勾配中を二段階の速度で低温側に移動させることを特徴とするバルク多結晶材料の製造方法が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、前記二段階の速度とは、成長初期に、2mm/min〜10mm/minの範囲で低温側に移動し、1〜60分保持後、0.1 mm/min〜0.5mm/minで低温側に移動することを特徴とするバルク多結晶材料の製造方法が得られる
【0012】
また、本発明によれば、坩堝底に発現させる多結晶として、坩堝底に沿った成長面が{100}または(112)である、デンドライト結晶であることを特徴とするバルク多結晶材料の製造方法が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記バルク多結晶材料が、シリコンまたはシリコンゲルマニウム多結晶であることを特徴とするバルク多結晶材料の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、以下の効果が得られる。
【0015】
本発明では、種結晶を利用せず、坩堝内での融液成長という実用的な手法であるところに技術的優位性がある。本効果は、石英坩堝内でのSiバルク多結晶の成長において、成長初期の坩堝底での成長過程と、その後の一方向成長過程の独立制御と、成長した結晶の粒界構造の変化を測定することにより検証した。本発明によれば、優れた電気的性質を有する粒界を有し(品質が単結晶なみ)、かつ強度が、従来の多結晶よりも強い結晶が製造できる。よって、インゴットからの、薄板切り出しや、その後のハンドリングが容易となり、スライス厚さの低減に材料の側面から寄与できる。このような理由により、現在、太陽電池産業で課題となっている将来的な原料の確保の問題を解決し、太陽電池産業の拡大とエネルギー問題解決に繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
太陽電池用結晶、構造材料、磁性材料など多くの実用材料は、バルク多結晶である。バルク多結晶は、多数の結晶粒(個々の結晶粒は単結晶)と結晶粒界のネットワークにより構成されている。結晶粒界は、粒界を挟んで対向する結晶粒の相対方位関係に依存して、電気的特性や機械的特性が変化することが古くから知られている。近年、バルク多結晶を、結晶粒と粒界のネットワークからなる一つのシステムと見なし、バルク多結晶の微視的構造である結晶粒界の性格と、その分布を設計・制御することにより、材料の巨視的な性質を制御する試みが提案されている。しかしながら、実用的な結晶成長法により、粒界性格を制御する手法は確立されていない。
【0018】
発明者は、粒界性格を制御してバルク多結晶を製造する方法として、意図的に相対方位関係がランダムな粒界エネルギーの高い粒界を有する多結晶を形成し、該多結晶を種結晶して、一方向成長を行うことにより、粒界エネルギーの低い、低シグマ値の粒界を有する多結晶材料が製造可能であることを示した。
【0019】
それに対して、本発明では、種結晶を利用せず、坩堝内の融液成長という実用的な成長方法により、粒界エネルギーの低い、低シグマ値の粒界を有する多結晶材料を製造することに特徴を有する。本発明の手法では、融液成長の初期過程を制御することにより、坩堝底部に複数の結晶を発現させる。これら複数の結晶の相対方位関係に対して、成長方位を回転軸としたランダム性を導入することにより、坩堝底部に、粒界エネルギーの高い粒界を有する多結晶を形成する。更に、成長条件を変化させ、一方向成長を行うことにより、粒界エネルギーの高い粒界が、粒界エネルギーの低い粒界へ変化することを利用して、粒界エネルギーの低い、低シグマ値の粒界を有する多結晶材料を製造する。この手法を利用すれば、坩堝内における融液成長という実用的な結晶成長法により、粒界性格が、低シグマ値により構成されるバルク多結晶が製造できる。この手法を、シリコンやシリコンゲルマニウムなどの太陽電池用バルク多結晶に適用した場合、粒界でのキャリア再結合が無視できるため、効率の高い太陽電池を実現できる。
【0020】
図1は、本発明の基本概念を、図2は、結晶成長装置の概念図を示す。坩堝底部に粒界エネルギーの高い粒界を有する多結晶を形成し、次に、一方向成長を行い、粒界エネルギーの高い粒界から、粒界エネルギーの低い粒界を形成する。実施例として、シリコン原料(チャンク状、純度10N)約2.5kgと、抵抗率調整のためのp型シリコン単結晶片(ボロンドープ、抵抗率0.01〜0.02Wcm)約0.5gを、フッ硝酸溶液で洗浄・乾燥した後、内径150mmの石英製坩堝に充填し、アルゴン雰囲気中で1450℃まで昇温し、シリコン融液を作製した。このシリコン融液を含む坩堝を、20℃/cmの温度勾配中を、坩堝底部が、1390℃の位置に到達するまで5mm/minで移動させ40分間保持した。この過程により、坩堝底面に沿って、結晶の上面が{112}となるようなデンドライト結晶を発現させた。この過程における成長した結晶と融液の界面における過冷却度は、5〜50℃の範囲に調整されている。温度勾配が、10℃/cm〜100℃/cmの範囲になく、移動速度が、2mm/min〜10mm/minの範囲にない場合は、過冷却度の調整ができない。また、保持時間が1分より短いか、60分より長い場合は目的とするデンドライト結晶が得られない。その後、0.2mm/minで坩堝を低温方向へ移動させることにより、残った融液の全てを、坩堝底部に形成したデンドライト結晶を種結晶として、一方向成長させ結晶化した。この際の過冷却度は、7度以下である。成長終了後に、結晶を成長方向と平行に切断した断面の方位解析を行った。
【0021】
図3は、坩堝底部近傍における方位解析結果である。異なるデンドライト結晶粒がぶつかって形成された粒界は、ランダム粒界となっているが、成長過程において粒界の構造が変化し、新たにΣ3粒界が発生している様子がわかる。第二段階での移動速度が、0.1 mm/minより遅い場合には、このような粒界構造の変化は起きない。また、0.5 mm/minより大きい場合には、結晶の品質が劣化する。図4は、成長開始から約30mm付近での方位分布を示す。斜めに延びているランダム粒界から、直線状に多数のΣ3粒界が発現し、ランダム粒界は結晶端にまで到達している。その結果、坩堝底から約40mmより上方の結晶においては、粒界の90%以上が、Σ3粒界となった。また、成長方向に垂直な面は、{112}面および{112}面を<111>軸に対して60°回転して得られる数種類の面に限定される。なお、この幾何学操作は、{111}面を粒界面とするΣ3粒界を挟んで対向する結晶粒間の相対方位関係に対応する。
【0022】
また、成長したシリコンバルク多結晶から、15mmx15mmx0.5mmの板状結晶を切り出し、リンガラス塗布と熱拡散(885℃、5分間)によるpn接合形成、反射防止膜(ITO薄膜)、Alペースト塗布と焼成(800℃、110秒)による裏面電極形成、Agペースト塗布と焼成(800℃、75秒)により太陽電池を作製した。更に、その特性を、擬似太陽光照射下における電流・電圧特性により評価し、変換効率を算出した。
【0023】
図5は、坩堝底からの成長距離と変換効率の関係である。結晶成長に伴う粒界性格の変化を反映して、特性が改善されていく様子がわかる。また、太陽電池の作製プロセスにおいて、表面テクスチュア構造の作製を導入することにより、更なる構造の改善が見込まれる。
【0024】
図6は、シリコンのヤング率の異方性と、このデータから予測される機械的強度の優れたシリコン多結晶の模式図である。図3で示した、本発明に関する手法により作製した結晶の方位分布は、これと同等であり、方位がランダムな既存のシリコン多結晶と比較して機械的強度が優れていることが予測される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の基本概念図。成長の初期過程において坩堝底部に坩堝底部に粒界エネルギーの高い粒界を有する多結晶を形成し、次に、一方向成長を行い、粒界エネルギーの高い粒界から、粒界エネルギーの低い粒界を形成する。
【図2】結晶成長装置の概念図。
【図3】成長したバルク多結晶の坩堝底部近傍の方位分布と粒界構造変化。ランダム粒界からΣ3粒界が発現している。
【図4】成長開始から約30mm付近での方位分布を示す。斜めに延びているランダム粒界から、直線状に多数のΣ3粒界が発現している。
【図5】坩堝底からの成長距離と変換効率の関係
【図6】〔上〕シリコンのヤング率の異方性、(左下)このデータから予測される機械的強度の優れたシリコン多結晶の模式図。(右下)図4の結晶の模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝内の融液からの結晶成長において、坩堝底部に粒界エネルギーの高い粒界を有する多結晶を形成し、次に、一方向成長を行い、粒界エネルギーの高い粒界から、粒界エネルギーの低い粒界を形成することを特徴とするバルク多結晶材料の製造方法。
【請求項2】
坩堝内の融液からの結晶成長において、坩堝底に、シグマ値を高くした多結晶を形成し、次に、一方向成長を行い、シグマ値の低い粒界を形成することを特徴とするバルク多結晶材料の製造方法。
【請求項3】
融液の入った坩堝を、10℃/cm〜100℃/cmの範囲で制御した温度勾配中を二段階の速度で低温側に移動させることを特徴とする請求項1または2に記載のバルク多結晶材料の製造方法。
【請求項4】
前記二段階の速度は、結晶成長初期に、2mm/min〜10mm/minの範囲で低温側に移動し、1〜60分保持後、0.1 mm/min〜0.5mm/minで低温側に移動することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のバルク多結晶材料の製造方法。
【請求項5】
坩堝底に発現させる多結晶として、坩堝底に沿った成長面が{100}または{112}である、デンドライト結晶であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のバルク多結晶材料の製造方法。
【請求項6】
前記バルク多結晶材料が、シリコンまたはシリコンゲルマニウム多結晶であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のバルク多結晶材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−50194(P2008−50194A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227131(P2006−227131)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】