説明

パワートレインのマウント装置

【課題】 簡易かつ安価な構成で、ピッチング振動を効果的に抑制するパワートレインのマウント装置を提供する。
【解決手段】 マウント装置は、支持部10mと、支持部10mから離れて位置する支持部10nとを有し、支持部10mおよび10n間にある位置を中心に、支持部10mおよび10nが互いに反対方向に変位する振動が生じるリヤディファレンシャルと、リヤディファレンシャルの振動によって変形する弾性ゴム25および35を有し、車両本体と、支持部10mおよび10nとの間にそれぞれ配置されるマウント21および31とを備える。マウント21および31には、弾性ゴム25および35の変形に伴って体積が変化し、液体が封入された液室22および32がそれぞれ形成されている。マウント装置は、さらに、液室22と液室32との間を連通させる配管41を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、パワートレインのマウント装置に関し、より特定的には、ディファレンシャル(差動装置)のマウント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワートレインのマウント装置に関して、たとえば、特開平5−272572号公報には、中高周波振動に対する吸収性能を高め、アクチュエータの応答性を高めることを目的としたパワーユニットマウント装置が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示されたマウント装置は、自動車のパワーユニットと車体フレームとの間に装着されている。
【0003】
マウント装置には、非圧縮性の流体が充填された主室および副室が形成されている。主室と副室とは、オリフィスによって連通されている。マウント装置には、さらに、ソレノイド式のアクチュエータが設けられている。アクチュエータは、可動子と、制御装置に接続されたソレノイドコイルとから構成されている。可動子は、制御装置からソレノイドコイルに駆動電流が供給されることによって、パワーユニットの振動を吸収もしくは減衰させるように駆動する。
【特許文献1】特開平5−272572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に搭載されるディファレンシャルには、車両の前後方向に振動するピッチング振動が発生する。このピッチング振動を効果的に抑制するためには、少なくとも2つのマウントをディファレンシャルに設ける必要がある。しかしながら、アクチュエータ機能を備えるアクティブマウントは高価であるため、特許文献1に開示されているようなマウント装置を複数箇所に設けると、製造コストが増大してしまう。
【0005】
一方、オリフィスで連通された複数の液室を備える従来の液封マウントでは、オリフィスや液室の諸元を変更することによって、振動に対する減衰力を、特定の周波数領域で向上させることができる。しかしながら、ピッチング振動の周波数が広い範囲に渡って変化する場合、振動を十分に抑制することは難しい。また、弾性ゴムを用いた従来のマウントでは、ゴムに設けるすぐり(隙間)の形状によって、ある程度の特性を調整できる。しかしながら、基本的に、低周波数の振動に対しては低いばね係数となり、高周波数の振動に対しては高いばね係数となるため、要求されるばね特性とは逆になってしまう。このため、ピッチング振動を十分に抑制することは難しい。
【0006】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、簡易かつ安価な構成で、ピッチング振動を効果的に抑制するパワートレインのマウント装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従ったパワートレインのマウント装置は、第1の支持部と、第1の支持部から離れて位置する第2の支持部とを有し、第1および第2の支持部間にある位置を中心に、第1および第2の支持部が互いに反対方向に変位する振動が生じるパワートレインと、パワートレインの振動によって変形する弾性部材を有し、車両本体と、第1および第2の支持部との間にそれぞれ配置される第1および第2のマウントとを備える。第1および第2のマウントには、弾性部材の変形に伴って体積が変化し、液体が封入された第1および第2の液室がそれぞれ形成されている。パワートレインのマウント装置は、さらに、第1の液室と第2の液室との間を連通させる配管を備える。
【0008】
このように構成されたパワートレインのマウント装置によれば、パワートレインの振動時、第1および第2のマウントのそれぞれにおいて、第1および第2の液室の体積が変化する。これに伴い、各液室内の液体が圧縮され、第1および第2のマウントからパワートレインに対して、第1および第2の支持部の変位を妨げる方向の力が作用する。この際、第1および第2の支持部の変位量に差があると、適当な量の液体が、配管を通って一方の液室から他方の液室へと移動する。このため、第1および第2の支持部間にある振動の中心位置が絶えず変化し続けても、第1および第2の支持部に適当なバランスで力を作用させ続けることができる。したがって、本発明によれば、液室が形成されたマウントおよび液室間を連通させる配管という簡易かつ安価な構成で、パワートレインの振動を効果的に抑制することができる。
【0009】
また好ましくは、パワートレインは、さらに複数の支持部を有する。車両本体と、複数の支持部の各々との間には、液室が形成されたマウントが配置されており、配管により液室間が連通されている。このように構成されたパワートレインのマウント装置によれば、より多くの支持部に変位を妨げる方向の力を作用させることができるため、パワートレインの振動をさらに効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、この発明に従えば、簡易かつ安価な構成で、ピッチング振動を効果的に抑制するパワートレインのマウント装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、この発明の実施の形態におけるディファレンシャルのマウント装置を示す斜視図である。図中には、FR(front engine rear wheel drive)車の後輪駆動軸に設けられたリヤディファレンシャルが示されている。
【0013】
図1を参照して、リヤディファレンシャル10には、矢印101に示す車両の前後方向に延びるプロペラシャフト12と、後輪が設けられ、車両の左右方向に延びるリヤドライブシャフト13とが連結されている。リヤディファレンシャル10は、プロペラシャフト12が連結された位置の直後に設けられた支持部10mと、リヤディファレンシャル10の後端に設けられた支持部10nとを有する。支持部10mと支持部10nとは、車両の前後方向に離れている。リヤドライブシャフト13は、支持部10mと支持部10nとの間で、リヤディファレンシャル10に連結されている。
【0014】
支持部10mは、マウント21を介して、車両本体側のマウントブラケット17に取り付けられている。支持部10nは、マウント31を介して、車両本体側のサスペンションメンバ16に取り付けられている。マウント21は、支持部10mに対して鉛直下方向に配置されており、マウント31は、支持部10nに対して鉛直上方向に配置されている。つまり、マウント21および31は、鉛直方向において、リヤディファレンシャル10を中心に互いに反対側に位置するように配置されている。
【0015】
図2は、図1中のII−II線上に沿ったマウント装置の側面図である。図3は、図1中のマウントを拡大して示す断面図である。図2および図3を参照して、マウント21は、支持部10mに固定された頂部24と、頂部24と離れて位置し、マウントブラケット17に固定された底部23と、頂部24と底部23との間で筒状に延び、両者を接続する弾性ゴム25とを有する。弾性ゴム25は、頂部24から底部23に向かうに従って拡径するように形成されている。弾性ゴム25は、頂部24と底部23との間の距離が変化するように、伸縮自在に設けられている。
【0016】
マウント21には、頂部24、弾性ゴム25および底部23に囲まれて液室22が形成されている。液室22は、弾性ゴム25の伸縮に伴って体積が増減するように形成されている。液室22は、複数の部屋に区画されずに、1つの部屋から構成されている。つまり、本実施の形態では、液室22内に隔壁が設けられていない。液室22には、たとえば、シリコン油、水もしくはアルキレングリコールなどの非圧縮性の液体が充填されている。
【0017】
マウント31は、マウント21と同様の形状に形成されており、マウント21の頂部24、底部23および弾性ゴム25に対応して、サスペンションメンバ16に固定された頂部34と、支持部10nに固定された底部33と、頂部34と底部33との接続する弾性ゴム35とを有する。
【0018】
本実施の形態におけるマウント装置には、さらに、底部23と底部33との間で延びる配管41が設けられている。配管41によって、液室22と液室32との間が連通している。
【0019】
図4は、図1中のリヤディファレンシャルで発生するピッチング振動の様子を模式的に表わした図である。図2から図4を参照して、車両が走行すると、プロペラシャフト12から入力された力に対してリヤディファレンシャル10で反力が生じるため、ピッチング振動が発生する。このピッチング振動は、リヤディファレンシャル10が、支持部10mと支持部10nとの間にある位置200を中心にシーソーように揺れる振動である。ピッチング振動は、車両の発進時や加減速時に特に大きくなり、車両の振動、騒音を増大させる大きな原因となっている。
【0020】
ピッチング振動が発生すると、ある瞬間、支持部10mは鉛直下方向に変位しようとし、支持部10nは鉛直上方向に変位しようとする。つまり、支持部10mおよび10nは、鉛直方向において互いに反対方向に微小に変位しようとする。このとき、弾性ゴム25および35が縮み、液室22および32の体積が減少する。これにより、液室22および32内の液体が圧縮され、支持部10mおよび10nの変位方向とは反対方向の力が、支持部10mおよび10nに作用する。
【0021】
一方、ピッチング振動の振動中心である位置200は、速度、進行方向、路面の状態等に挙げられる車両の走行状況により、刻々と変化する。このため、ピッチング振動によって生じる支持部10mおよび10nの変位量も、位置200に対応して常に変化し続ける。つまり、位置200が車両前方に寄れば、支持部10mの変位量が小さくなり、支持部10nの変位量が大きくなる。また、位置200が車両後方に寄れば、支持部10mの変位量が大きくなり、支持部10nの変位量が小さくなる。このように支持部10mおよび10nの変位量に差が生じると、支持部10mおよび10nが変位した時の液室22および32の体積にも差が生じる。これにより、変位量が大きい側では液体の圧縮率が大きくなるため、支持部に作用する力が増大し、変位量が小さい側では液体の圧縮率が小さくなるため、支持部に作用する力が減少してしまう。
【0022】
これに対して、本実施の形態では、液室22と液室32との間を連通させる配管41が設けられている。たとえば、図4中に示すように、位置200が車両後方に寄った瞬間を想定すると、液室22の流体は、配管41を通って液室32に流れ込む。これにより、変位量が小さい支持部10nで、マウント31から受ける力を増大させることができ、変位量が大きい支持部10mで、マウント21から受ける力を減少させることができる。したがって、本実施の形態によれば、支持部10mおよび10nに適当なバランスで力を作用させ続けることができる。
【0023】
この発明の実施の形態におけるパワートレインのマウント装置は、第1の支持部としての支持部10mと、支持部10mから離れて位置する第2の支持部としての支持部10nとを有し、支持部10mおよび10n間にある位置200を中心に、支持部10mおよび10nが互いに反対方向に変位する振動が生じるパワートレインとしてのリヤディファレンシャル10と、リヤディファレンシャル10の振動によって変形する弾性部材としての弾性ゴム25および35を有し、車両本体と、支持部10mおよび10nとの間にそれぞれ配置される第1および第2のマウントとしてのマウント21および31とを備える。マウント21および31には、弾性ゴム25および35の変形に伴って体積が変化し、液体が封入された第1および第2の液室としての液室22および32がそれぞれ形成されている。パワートレインのマウント装置は、さらに、液室22と液室32との間を連通させる配管41を備える。
【0024】
このように構成された、この発明の実施の形態におけるパワートレインのマウント装置によれば、ソレノイド式のアクチュエータ等を用いることなく、リヤディファレンシャル10で発生するピッチング振動を効果的に抑制することができる。これにより、車両の騒音や振動を低減させ、搭乗時の快適性を向上させることができる。
【0025】
なお、リヤディファレンシャル10が並行に上下するバウンス振動に対しては、配管41にオリフィスを追加することによって、好適にバウンス振動を抑制することが可能となる。また、本実施の形態では、車両の前後方向に1つずつマウントを設けたが、たとえば、車両の前方側にマウントを2つ配置し、車両の後方側にマウントを1つ配置する3点支持構造や、車両の前方側および後方側に、マウントを2つずつ配置する4点支持構造に、本発明を適用しても良い。また、本発明が適用されるパワートレインは、ディファレンシャルに限定されず、たとえば、プロペラシャフトやトランスファ、トランスミッションであっても良い。
【0026】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施の形態におけるディファレンシャルのマウント装置を示す斜視図である。
【図2】図1中のII−II線上に沿ったマウント装置の側面図である。
【図3】図1中のマウントを拡大して示す断面図である。
【図4】図1中のリヤディファレンシャルで発生するピッチング振動の様子を模式的に表わした図である。
【符号の説明】
【0028】
10 リヤディファレンシャル、10m,10n 支持部、21,31 マウント、22,32 液室、25,35 弾性ゴム、41 配管、200 位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の支持部と、前記第1の支持部から離れて位置する第2の支持部とを有し、前記第1および第2の支持部間にある位置を中心に、前記第1および第2の支持部が互いに反対方向に変位する振動が生じるパワートレインと、
前記パワートレインの振動によって変形する弾性部材を有し、車両本体と、前記第1および第2の支持部との間にそれぞれ配置される第1および第2のマウントとを備え、
前記第1および第2のマウントには、前記弾性部材の変形に伴って体積が変化し、液体が封入された第1および第2の液室がそれぞれ形成されており、さらに、
前記第1の液室と前記第2の液室との間を連通させる配管を備える、パワートレインのマウント装置。
【請求項2】
前記パワートレインは、さらに複数の支持部を有し、
車両本体と、前記複数の支持部の各々との間には、液室が形成されたマウントが配置されており、前記配管により前記液室間が連通されている、請求項1に記載のパワートレインのマウント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−256495(P2006−256495A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77274(P2005−77274)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】