説明

パワープラントマウント装置

【課題】部品増や組み付け工程増を抑え、車両衝突時のボデーサイドメンバーの変形量を確保でき、十分な支持剛性が得られるパワープラントマウント装置を提供する。
【解決手段】ボデーサイドメンバー10に固定される第1の剛性部材21と、一端がパワープラントに結合され他端がインシュレータ24を介して剛性部材21に装着される第2の剛性部材23と、ボデーサイドメンバー10上で剛性部材21を支持するブラケット40とを備え、ブラケット40は、ボデーサイドメンバー10上面部に重合締結される第1プレート部と、ボデーサイドメンバー10の収容空間に面する立面部12bに重合締結される第2プレート部と、第2プレート部から収容空間側に膨出して鉛直上方に延設される起立部43とを有し、第1プレート部が第1の剛性部材21に結合され、起立部43上端が収容空間側にオフセットして剛性部材21の下向き面に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体にパワープラントを搭載するためのパワープラントマウント装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体にエンジン等のパワープラントを装備する場合、一般に、車体構造部材であるボデーサイドメンバーにパワープラントマウントを介してパワープラントを取り付ける。なお、パワープラントがエンジンとトランスミッションとが組み合わされてなる場合、エンジンを支持するマウントをエンジンマウント、トランスミッションを支持するマウントをトランスミッションマウントとも呼ぶ。
【0003】
このようなパワープラントマウントは、ボデーサイドメンバー側に取り付けられる剛性部材とパワープラント側に取り付けられる剛性部材との間に、ゴム等の弾性体でできたインシュレータを介在させたもので、ボデーサイドメンバー側剛性部材をボデーサイドメンバーに直接取り付ける場合もあるが、マウントブラケットを介してボデーサイドメンバーに取り付ける場合もある。
【0004】
例えば、特許文献1には、ボデーサイドメンバーの上面にマウントブラケットを介してパワープラントマウントを取り付け、パワープラントマウントの上部側をステー部材により車体パネルに支持する構成が記載され、特許文献2には、ボデーサイドメンバーの上面及びこれに隣接する内向き面(パワープラント側の面)に溶接により結合されたマウントブラケットを設けて土台を形成し、その上にパワープラントマウントを取り付ける構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−274485号公報
【特許文献2】特開2005−225360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車のボデーサイドメンバーへパワープラントを搭載するパワープラントマウント装置として、例えば図8の車体要部横断面図に示すようなものが考えられる。この図8は車体前部の左右の一方を示すが、他方も同様に構成する。
図8に示すように、ボデーサイドメンバー10は、車体前後方向に延びる骨格部材であり、比較的平坦なアウタパネル11とハット型横断面を有するインナパネル12とが各上縁フランジ部と各下縁フランジ部とを溶着されて中空に形成されている。インナパネル12のハット型の高さ、即ち、アウタパネル11とインナパネル12との距離を与えることにより、断面二次モーメントを高めて、ボデーサイドメンバー10の強度や剛性を確保している。
【0007】
パワープラントマウント120は、このボデーサイドメンバー10のインナパネル12の上面部12aに取り付けられる。図8に示す例では、パワープラントマウント120は、ボデーサイドメンバー10に取り付けられる剛性部材である車体側取付部材121とパワープラント30側に取り付けられる剛性部材である支持アーム部材122と、これらの間に介在されたインシュレータ(ゴム等の弾性体)123とを備えている。これにより、インシュレータ123を通じてパワープラント30を車体に弾性的に支持させている。
【0008】
なお、ボデーサイドメンバー10のインナパネル12は、従来は図8に二点鎖線で符号12´を付して示すように、インナパネル12のハット型の高さ、すなわちボデーサイドメンバー10の幅(車幅方向の長さ)が大きく確保されるように形成されていたが、近年は図8に実線で示すように、エンジンルーム内の装備品の増加等によるレイアウトの都合上、ボデーサイドメンバー10の幅が抑えられたものになる場合がある。これは、車体の骨格部材をコンパクト化することにより、エンジンルームを拡大してエンジンルーム内の装備品の増加等に対応するだけでなく、車体の軽量化にも寄与しているが、当然ながら、インナパネル12の上面部12aの幅(ボデーサイドメンバー10の上面部の幅)は小さなものになる。
【0009】
このため、インナパネル12の上面部12aがパワープラントマウント120を支持する支持面の中心(面心)に対して、パワープラント30からパワープラントマウント120に加わる荷重はパワープラント30側に大きくオフセットし、ボデーサイドメンバー10の上面部(インナパネル12の上面部12a)のみでパワープラントマウント120を支持しようとすると、ボデーサイドメンバー10へ大きなモーメント入力Mが加わるので、このモーメント入力Mに対抗する構造が必要になる。
【0010】
図8に示す例では、ボデーサイドメンバー10の車体外側に設けられるパネル部材(例えばフロントフェンダシールド)13とパワープラントマウント120との間に、車体側取付部材121と結合するステー124を介装し、モーメント入力に対抗する構造としている。
しかしながら、フロントフェンダシールド等のパネル部材13は、もともと車体の強度や剛性を確保する部材ではない上、近年の車体の軽量化により薄板化される傾向にあるため、このようにステー124を設けた構成とした場合、ステー124を十分に支持できずパネル部材13側を補強する必要があった。そのため、部品点数が増大するうえ、構造が複雑になり、部品コストの増大や組み付け作業工程の増加を招く傾向にあった。
【0011】
また、図8に二点鎖線で示すように、ボデーサイドメンバー10の側面に支持ブラケット125を設け、車体側取付部材121を下方側から支持してモーメント入力に対抗する構造とすることもできるが、このような場合、支持強度の都合上、支持ブラケット125はボデーサイドメンバー10に溶接により結合される。
ボデーサイドメンバー10に溶接箇所が加わると、溶接箇所では剛性が高まるため、車両の前後方向衝突時に、ボデーサイドメンバー10の前後方向変形量が溶接箇所分だけ減少してしまい、ボデーサイドメンバー10の前後方向変形によるエネルギー吸収量を十分に確保できないおそれが生じる。
【0012】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたれたもので、部品コストの増大や組み付け作業工程の増加を抑えるとともに、車両の前後方向衝突時におけるボデーサイドメンバーの前後方向変形量を十分に確保することができるようにしながら、ボデーサイドメンバーに取り付けるパワープラントマウントへのモーメント入力に十分に対抗することができる支持剛性が得られるようにした、パワープラントマウント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明のパワープラントマウント装置は、車両のパワープラントを車体前後方向に延びる骨格部材であるボデーサイドメンバーに弾性支持させるパワープラントマウント装置であって、車体の前記ボデーサイドメンバーに固定される第1の剛性部材と、一端側が前記車体の前記ボデーサイドメンバーよりも内側の収容空間に配置された前記パワープラントに結合され、他端側が弾性体で形成されたインシュレータを介して前記第1の剛性部材の上に装着される第2の剛性部材と、前記ボデーサイドメンバーと前記第1の剛性部材との間に介在されて前記第1の剛性部材を支持するブラケットとを備え、前記ブラケットは、前記ボデーサイドメンバーの上面部に重合された状態で締結具により結合される第1プレート部と、前記ボデーサイドメンバーの前記収容空間に面する立面部に重合された状態で締結具により結合される第2プレート部と、前記第2プレート部から前記収容空間側に膨出形成されるとともに鉛直上方に延設される起立部とを有し、前記第1プレート部が前記第1の剛性部材に結合され、前記起立部の上端部が前記ボデーサイドメンバーよりも前記収容空間側にオフセットした位置で前記第1の剛性部材の下向き面に当接するよう構成されていることを特徴としている。
【0014】
前記第1の剛性部材として、上方に開口したカップ状に形成され、前記ボデーサイドメンバーの前記上面部に固定されるとともに前記インシュレータの下部が嵌合されるカップ状部材を有し、前記カップ状部材には、前記収容空間側に位置する立壁部の上縁から前記収容空間側に水平に突出するフランジ部が形成され、前記フランジ部の下向き面に前記ブラケットの前記起立部の上端部が当接されることが好ましい。
【0015】
また、前記第1の剛性部材は、前記カップ状部材と前記インシュレータと前記第2の剛性部材とを跨ぐように配備され、両下端を前記ブラケットの前記第1プレート部と共に前記ボデーサイドメンバーの前記上面部に締結具により結合されて、前記カップ状部材との間に前記インシュレータ及び前記第2の剛性部材を挟装する挟装用部材を有していることが好ましい。
【0016】
前記起立部は、前記ボデーサイドメンバーの前記上面部よりも下方で前記立面部に沿って配設される基部と、前記基部の上方で前記第1の剛性部材の前記下向き面に当接する前記上端部を有する上方延設部とをそなえ、前記上方延設部は、曲面で形成された段部を介して前記基部よりも前記収容空間側にシフトした位置に配置されていることが好ましい。
また、前記ブラケットは、1枚の板金部材を屈曲成形した部材であって、前記第1プレート部と前記第2プレート部と前記起立部とが一体に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のパワープラントマウント装置によれば、車体のボデーサイドメンバーに結合される第1の剛性部材と、一端側がボデーサイドメンバーよりも内側の収容空間に配置されたパワープラントに結合され、他端側が弾性体で形成されたインシュレータを介して第1の剛性部材に装着される第2の剛性部材とによって、パワープラントを弾性支持する。このため、第1の剛性部材のパワープラント側(収容空間の側)には、パワープラントの荷重が作用することによるモーメント入力が加わる。
【0018】
これに対して、ボデーサイドメンバーと第1の剛性部材との間に介在されて第1の剛性部材を支持するブラケットは、ボデーサイドメンバーの上面部に重合された状態で締結具により結合される第1プレート部と、ボデーサイドメンバーの収容空間に面する立面部に重合された状態で締結具により結合される第2プレート部と、第2プレート部から収容空間側に膨出形成されるとともに鉛直上方に延設される起立部とを有しており、第1プレート部が第1の剛性部材に結合され、起立部の上端部がボデーサイドメンバーよりも収容空間側にオフセットした位置で第1の剛性部材の下向き面に当接する構成とされている。したがって、ブラケットは、ボデーサイドメンバーの上面部と立面部とに重合(接合)する第1プレート部と第2プレート部とでボデーサイドメンバー(上面部および立面部)を補強し、その上で、鉛直上方に延びパワープラントに接近した起立部で第1の剛性部材を下方から支持することができる。これによって、第1の剛性部材に加わるモーメント入力に対抗し、第1の剛性部材に対する支持剛性を高め、パワープラントを安定して支持することができる。
【0019】
また、ブラケットのボデーサイドメンバーへの結合には、締結具を用いているため、ボデーサイドメンバーには溶接箇所が発生しない。このため、ボデーサイドメンバーの前後方向変形量が溶接箇所分だけ減少すると言った不具合はなく、サイドメンバーの前後方向変形によるエネルギー吸収量を十分に確保ですることができる。
また、第1の剛性部材として、上方に開口したカップ状に形成され、ボデーサイドメンバーの上面部に固定されるとともにインシュレータの下部が嵌合されるカップ状部材を有し、カップ状部材には、収容空間側に位置する立壁部の上縁から収容空間側に水平に突出するフランジ部が形成され、フランジ部の下向き面にブラケットの起立部の上端部を当接させれば、起立部によって、収容空間により接近した位置でカップ状部材に加わるモーメント入力に対して効率よく対抗することができる。
【0020】
さらに、第1の剛性部材を、カップ状部材とインシュレータと第2の剛性部材とを跨ぐように挟装用部材を配備し、挟装用部材の両下端をブラケットの第1プレート部と共にボデーサイドメンバーの上面部に締結具により結合して、挟装用部材とカップ状部材との間にインシュレータ及び第2の剛性部材を挟装すれば、第1の剛性部材による支持剛性が高まり、パワープラントをより安定して支持することができる。
【0021】
また、起立部を、ボデーサイドメンバーの上面部よりも下方で立面部に沿って配設される基部と、基部の上方で第1の剛性部材の下向き面に当接する上端部を有する上方延設部とをそなえるようにし、上方延設部を、曲面で形成された段部を介して基部よりも収容空間の方向にシフトした位置に配置すれば、起立部の上端部によって、収容空間により接近した位置でカップ状部材に加わるモーメント入力により効率よく対抗することができる。
【0022】
また、ブラケットを1枚の板金を屈曲形成し、その第1プレート部と第2プレート部と起立部とを一体に形成すれば、部品点数の増加も抑えられ、構造も簡素化でき、部品コストの増大や組み付け作業工程の増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態にかかるパワープラントマウント装置をボデーサイドメンバーの延在する方向の中央で破断させて示すもので、斜め上方から見た斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるパワープラントマウント装置の要部を示す、斜め上方から見た斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるパワープラントマウント装置のブラケットを示す、斜め上方から見た斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるパワープラントマウント装置を示す断面図であり、断面は車幅方向に沿っている。
【図5】本発明の一実施形態にかかるパワープラントマウント装置を第2の剛性部材を省いて示す、斜め上方から見た斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかるパワープラントマウント装置を示す、斜め下方から見た斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかるパワープラントマウント装置示す、斜め下方から見た斜視図である。
【図8】本発明の課題にかかるパワープラントマウント装置を示す断面図であり、断面は車幅方向に沿っている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態にかかるパワープラントマウント装置を説明する。
図1〜図7は本装置を示すもので、図1はその装置をボデーサイドメンバーの延在する方向の中央で破断させて示す斜め上方からの斜視図、図2はその装置の要部を示す斜め上方からの斜視図、図3はその装置のブラケットを示す斜め上方からの斜視図、図4はその装置を示す断面図、図5はその装置を示す斜め上方からの斜視図、図6,図7はその装置を示す斜め下方からの斜視図である。これらの図に基づいて説明する。また、以下の説明で用いる方向は、基本的に装着状態におけるものを示す。
【0025】
図4に示すように、本実施形態にかかるパワープラントマウント装置は、自動車の骨格部材であるボデーサイドメンバー10へパワープラント30を弾性支持するためのパワープラントマウント20を取り付けるためのものである。パワープラント30は、車体前部の左右に車体前後方向(車長方向)に延在するボデーサイドメンバー10,10間の収容空間(エンジンルーム)30L内に配置され、左右端部(即ち、車幅方向両端部)をパワープラントマウント20でそれぞれ支持され、車体前後方向のいずれかの端部をロールストッパで支持される。
【0026】
なお、パワープラント30とは、例えば、車両の駆動源であるエンジンと、このエンジンに接続されたトランスミッションとが組み合わされて構成される。エンジンが横置きであれば、パワープラント30の車幅方向一方側(車両の左右方行の一方側)にエンジンが位置し、他方側に、トランスミッションが位置する。エンジンを支持するパワープラントマウント20をエンジンマウント、トランスミッションを支持するパワープラントマウント20をトランスミッションマウントとも呼ぶ。
【0027】
図4に示すように、ボデーサイドメンバー10は、比較的平坦なアウタパネル11とハット型横断面を有するインナパネル12とが各上縁フランジ部と各下縁フランジ部とを溶着されて中空に形成されている。インナパネル12のハット型の高さ、即ち、アウタパネル11とインナパネル12との距離を与えることにより、断面二次モーメントを高めて、ボデーサイドメンバー10の強度や剛性を確保している。パワープラントマウント20は、このボデーサイドメンバー10のインナパネル12の上面部12aに取り付けられる。
【0028】
本実施形態では、パワープラントマウント20は、ボデーサイドメンバー10に取り付けられる剛性部材(車体側取付部材)であるカップ状部材21及びU字型挟装用部材22と、パワープラント30側に取り付けられる剛性部材である支持アーム部材23と、これらの間に介在されたインシュレータ(ゴム等の弾性体)24とを備えている。これにより、インシュレータ24を通じてパワープラント30を車体に弾性的に支持する。
【0029】
カップ状部材21は、図3に示すように、矩形の底面部21aと、底面部21aの周縁から上方に立設されて底面部21aの四方を囲む立壁部21bとをそなえ、上方が開口した箱型に形成されている。立壁部21bの上端には開口の外方に突き出したフランジ部21cが形成される。なお、フランジ部21cは立壁部21bの上端全域に形成されるが、収容空間30L側(車幅方向内方側)の部位では、より大きく外方(収容空間30L側)に水平に突出している。このカップ状部材21は、その下部が後述するブラケット40に溶接等により結合されており、同ブラケット40を介してボデーサイドメンバー10の上面部(インナパネル12の上面部12a)に取り付けられる。そして、カップ状部材21は、ボデーサイドメンバー10及び後述のブラケット40に下方から支持される。
【0030】
また、U字型挟装用部材22は、図1,図5〜図7に示すように、本体部22aと、本体部22aの車両前後方向両端に本体部22aから何れも下方に湾曲して形成された脚部22b,22cとをそなえた逆U字状を成し、カップ状部材21とインシュレータ24と支持アーム部材23とを跨ぐようにボデーサイドメンバー10の上面部(インナパネル12の上面部12a)に配備される。
【0031】
また、U字型挟装用部材22は、本体部22aの車幅方向外方側で本体部22aから下方に形成されて脚部22b,22c間に掛け渡された端壁部22fをそなえており、本体部22aと脚部22b,22cと端壁部22fとでインシュレータ24の上方と車体前後方向と車幅方向外方側を覆うよう構成されている。
U字型挟装用部材22は、脚部22b,22cの各下端の取付フランジ22d,22eが後述のブラケット40と共にボデーサイドメンバー10の上面部(インナパネル12の上面部12a)にボルト及びナット等の締結具により結合される。このU字型挟装用部材22をボデーサイドメンバー10に結合することにより、ボデーサイドメンバー10上面に固定されたカップ状部材21とU字型挟装用部材22との間にインシュレータ24及び支持アーム部材23が挟装される。
【0032】
支持アーム部材23は、図1,図4〜図7に示すように、ボデーサイドメンバー10のインナパネル12の上部からパワープラント30の上部まで、車体の幅方向に水平に配備される本体部23aと、本体部23aのパワープラント30側(車幅方向内方側)の端部に設けられたパワープラント結合部23bと、パワープラント30側の端部に下方に突設したステー部を介して設けられたパワープラント結合部23c,23dとを備えている。本体部23aのボデーサイドメンバー10側(車幅方向外方側)の端部は、その周囲がインシュレータ24で囲まれており、上面と下面とにそれぞれインシュレータ24が面接触した状態で挟持され、ボデーサイドメンバー10に結合されるU字型挟装用部材22を通じてボデーサイドメンバー10側に支持される。
【0033】
すなわち、支持アーム部材23は、そのボデーサイドメンバー10側の端部が、インシュレータ24を介してカップ状部材21とU字型挟装用部材22との間に挟装された状態でボデーサイドメンバー10側に支持される。一方、各パワープラント結合部23b,23c,23dには、ボルト穴が形成されており、支持アーム部材23のパワープラント30側の端部は、各パワープラント結合部23b,23c,23dのボルト穴に内挿されるボルトとこれに螺合するナット等の締結具によりパワープラント30に結合される。
【0034】
インシュレータ24は、図1,図4〜図7に示すように、カップ状部材21に上載され、支持アーム部材23(本体部23a)のボデーサイドメンバー10側端部の下面に当接されて本体部23aを支持する主ブロック部24aと、支持アーム部材23の本体部23aのボデーサイドメンバー10側の端部の上面を覆う上プレート部24bと、カップ状部材21のフランジ部21cの収容空間30L側(車幅方向内方側)の方向に大きく突出した箇所の上方で支持アーム部材23の本体部23aの下面との間に介装される下プレート部24cと、支持アーム部材23の本体部23aのボデーサイドメンバー10側の端部の端面及び側面を被覆する外周プレート部24dとを備えている。
【0035】
そして、支持アーム部材23の本体部23aは、主ブロック部24aと上プレート部24bと下プレート部24cと外周プレート部24dとにより、上下方向,車両前後方向,車幅方向外方側の各方向が覆われて、それぞれに接触(圧接)している。
なお、上プレート部24bと下プレート部24cと外周プレート部24dは一体で形成されるが、主ブロック部24aは、これらの上プレート部24b、下プレート部24c、外周プレート部24dとは別体で構成される。
【0036】
また、主ブロック部24aは、略直方体状に形成され、下部をカップ状部材21の内部に嵌合され、上部を支持アーム部材23の本体部23aのボデーサイドメンバー10側端部下面に形成された凹部23eに嵌合されて備えられている。
また、外周プレート部24dの外周面は、U字型挟装用部材22の脚部22b,22cの内側面と本体部22aから下方に形成された端壁部22fの内側面とそれぞれ接触(圧接)し、上プレート部24bの上面は、U字型挟装用部材22の本体部22aの下面に接触(圧接)している。したがって、インシュレータ24は、上方,車両前後方向,及び車幅方向外側をU字型カバー部材に接触(圧接)した状態で、上下をボデーサイドメンバー10に取り付けられる剛性部材であるカップ状部材21とU字型挟装用部材22とにより挟持されている。
【0037】
ブラケット40は、図2に示すように、1枚の板金(例えば、鋼板)の要部を直角又は略直角に屈曲形成したもので、例えばプレス加工によって形成される。ブラケット40は、屈曲部44において屈曲されて、ボデーサイドメンバー10の上面部12aに締結具により結合される第1プレート部41と、ボデーサイドメンバー10の立面部12bに締結具により結合される第2プレート部42と、第2プレート部42から上方に延出される起立部43とをそなえている。ブラケット40の第1プレート部41と第2プレート部42は、それぞれボデーサイドメンバー10の上面部12aと立面部12bとに重合(接合)した状態で結合され、当該上面部12aと立面部12bとを補強している。つまり、ブラケット40は、ボデーサイドメンバー10のパワープラントマウント20が取り付けられる部位を補強している。なお、第1プレート部41と第2プレート部42との角度は、ボデーサイドメンバー10のインナパネル12の上面部12aと、インナパネル12の上面部12aに面取り状の角部12cを介して隣接する立面部との角度に対応する。
【0038】
また、ブラケット40は、車体前後方向での中心線CLに対して対称又はほぼ対称に形成され、中心線CLの近傍を含む箇所には、屈曲部44で折り曲げられず、第2プレート部42と共にボデーサイドメンバー10の立面部12bに沿う方向に起立する起立部43が設けられる。起立部43は、板金の屈曲部44となる部位から第1プレート部41となる半部に、予め部分的な切り込みを入れて起立部43となる部位を加工しておき、その後折り曲げ加工をすることにより、第1プレート部41と分離されて上方に起立した状態に形成される。なお、第1プレート部41には、起立部43として切り抜かれた部分が開口部45となっているが、この開口部45を塞ぐようにカップ状部材21が載置され、カップ状部材21の底面部21aに開口部45の周縁部が結合されている。
【0039】
起立部43は、第2プレート部42の面よりも収容空間30L側(車幅方向内方側)の方向に膨出している。つまり、起立部43は、第2プレート部42の面から収容空間30L側に屈曲した脚部43b,43cと脚部43b,43cから連続する膨出面43aとからなり、膨出面43aは、第2プレート部42の面よりも収容空間30L側に偏倚している。このような起立部43の形状は、起立部43の断面二次モーメントを増大させ、起立部43の上下方向への剛性及び強度を高める効果もある。
【0040】
本実施形態では、起立部43は、装着時にボデーサイドメンバー10の上面部12aよりも下方で立面部12bの位置に沿って配設される基部43Bと、その基部43Bの上方で上面部12aよりも上位に配置される上方延設部43Tとに区分でき、上方延設部43Tの上端部43tがカップ状部材21のフランジ部21cの収容空間30L側に大きく突出した箇所の下向き面に当接する。
【0041】
そして、上方延設部43Tは、曲面で形成された段部46を介して基部43Bよりも収容空間30L側にシフトした位置に配置されている。特に、この上方延設部43Tのシフト配置する段部46は、屈曲部44の屈曲形状に合わせて形成されている。
つまり、本実施形態では、屈曲部44は、図2〜図4に示すように、第2プレート部42の面よりも収容空間30L側に一旦湾曲した上で、ボデーサイドメンバー10の上面部12aに双方向に湾曲している。段部46は、この屈曲部44の収容空間30L側に一旦湾曲した形状に合わせて、起立部43の上方延設部43Tを収容空間30L側にシフトさせている。
【0042】
屈曲部44の湾曲形状によれば、カップ状部材21の下面に結合してカップ状部材21を支持する第1プレート部41のカップ状部材21の下面への当接量(車幅方向への当接長さ)を拡張することができ、起立部43の上方延設部43Tの収容空間30L側へのシフトは、上方延設部43Tの上端部43tのカップ状部材21のフランジ部21cとの当接位置を、収容空間30L内のパワープラント30に接近させることができる。すなわち、起立部43の上方延設部43Tは、ボデーサイドメンバー10よりも収容空間30L側にオフセットした位置に配置され、よりパワープラント30に近い位置でカップ状部材21のフランジ部21cの下面を支持することができる。
【0043】
第1プレート部41の車体前後方向両端部及び第2プレート部42下部の車体前後方向両端部には、それぞれボルト穴47a,47bが加工されており、図1,図3〜図7に示すように、ボデーサイドメンバー10の上面部12aに第1プレート部41が、ボデーサイドメンバー10の立面部12bに第2プレート部42がそれぞれ当接されて、ボルト穴47a,47bに内挿されるボルトとこれに螺合するナット等の締結具によりボデーサイドメンバー10に結合される。なお、第1プレート部41は、U字型挟装用部材22の脚部22b,22cの取付フランジ22d、22eと共にボデーサイドメンバー10の上面部(インナパネル12の上面部12a)に締結される。
【0044】
本発明の一実施形態にかかるパワープラントマウント装置は、上述のように構成されているので、以下のような効果を得ることができる。
図4に示すように、パワープラントマウント20がパワープラント30を弾性支持すると、支持アーム部材23の本体部23aには、パワープラント30の荷重が作用することによるモーメント入力Mが発生する。これにより、カップ状部材21のパワープラント30側(収容空間30Lの側)、すなわちボデーサイドメンバー10の上面部12aからオフセットした位置に荷重が入力される。
【0045】
これに対して、カップ状部材21のパワープラント30寄りに位置するフランジ部21cで支持アーム部材23の本体部23aの下面を受け、さらにフランジ部21cの下向き面に、ボデーサイドメンバー10の上面部12a及び立面部12bに締結されるブラケット40の起立部43の上端部43tを当接させて支持する構成としたので、支持アーム部材23に発生するモーメント入力Mに対抗して入力荷重をボデーサイドメンバー10の立面部12bで確実に受けることができる。
【0046】
特に、ブラケット40の起立部43の上端部43tは、カップ状部材21の底面部21aもよりパワープラント30に近い位置にあるフランジ部21cの部位を支持するので、モーメント入力Mに対してより効率よく対抗することができる。
また、図1,図4,図5に示すように、U字型挟装用部材22が、主ブロック部24aと上プレート部24bと下プレート部24cと外周プレート部24dとからなるインシュレータ24とを介して、支持アーム部材23の本体部23aを上下方向,車体前後方向,車幅方向の各方向から弾性支持した状態で、ボデーサイドメンバー10の上面部12aに結合されており、特に、U字型挟装用部材22により支持アーム部材23の本体部23aのボデーサイドメンバー10側端部の上面側を押える構成としているので、支持アーム部材23に発生するモーメントMを、U字型挟装用部材22を介してボデーサイドメンバー10の上面部12aでも受けることができる。したがって、パワープラント30からパワープラントマウント20を介して入力される荷重を、ボデーサイドメンバー10の上面部12aと立面部12bとの両方で効率よく分散して受けることができる。
【0047】
また、図3,図4,図5に示すように、ブラケット40の第1プレート部41及び第2プレート部42が、それぞれボデーサイドメンバー10の上面部12aと立面部12bに重合(接合)した状態で締結されて、ボデーサイドメンバー10のパワープラントマウント20が取り付けられる部位をブラケット40により上面部12aから立面部12bに亘って連続して補強しているので、高い支持剛性を得ることができ、より確実に入力荷重を受けることができる。
【0048】
このように、本願発明のパワープラントマウント装置によれば、ボデーサイドメンバー10のパワープラントマウント20が取り付けられる部位の上面部12aと立面部12bとの両方をブラケット40で補強しつつ、上面部12aと立面部12bとで確実かつ効率よく入力荷重を受けることができるので、高い支持剛性を得てパワープラントをより安定して支持することができる。
【0049】
さらに、ブラケット40のボデーサイドメンバー10への結合には、締結具を用いているため、ボデーサイドメンバー10には溶接箇所が発生しない。このため、ボデーサイドメンバー10の前後方向変形量が溶接箇所分だけ減少すると言った不具合はなく、ボデーサイドメンバー10の前後方向変形によるエネルギー吸収量を十分に確保ですることができる効果もある。
【0050】
なお、ブラケット40は、1枚の板金を屈曲形成することで構成され、しかも補強部材を兼ねるので、部品点数の増加も抑えられ、構造も簡素化でき、部品コストの増大や組み付け作業工程の増加を抑えることができる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、かかる実施形態を適宜変更して実施しうるものである。
例えば、上記実施形態では、ブラケット40の起立部43について、上方延設部43Tを曲面で形成された段部46を介して基部43Bよりも収容空間30L側にシフトした位置に配置しているが、基部43Bにおける膨出面43aの膨出量(収容空間30L側への偏倚量)が十分であれば、基部43Bをそのまま上方に延長させて上方延設部43Tを形成してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、ボデーサイドメンバー10に取り付けられる剛性部材(車体側取付部材)をカップ状部材21及びU字型挟装用部材22との2部材としたが、これらは一部材でもよい。
また、上記実施形態では、インシュレータ24の主ブロック部24aを上プレート部24b、下プレート部24c、外周プレート部24dと別体としたが、一体で形成されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 ボデーサイドメンバー
11 アウタパネル
12 インナパネル
12a インナパネル12の上面部
12b インナパネル12の立面部
20 パワープラントマウント
21 カップ状部材(第1の剛性部材)
21c フランジ部
22 U字型挟装用部材(第1の剛性部材)
23 支持アーム部材(第2の剛性部材)
24 インシュレータ(ゴム等の弾性体)
30 パワープラント
30L 収容空間(エンジンルーム)
40 ブラケット
41 第1プレート部
42 第2プレート部
43 起立部
43B 起立部43の基部
43T 起立部43の上方延設部
43t 起立部43の上端部
44 屈曲部
46 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のパワープラントを車体前後方向に延びる骨格部材であるボデーサイドメンバーに弾性支持させるパワープラントマウント装置であって、
車体の前記ボデーサイドメンバーに固定される第1の剛性部材と、
一端側が前記車体の前記ボデーサイドメンバーよりも内側の収容空間に配置された前記パワープラントに結合され、他端側が弾性体で形成されたインシュレータを介して前記第1の剛性部材の上に装着される第2の剛性部材と、
前記ボデーサイドメンバーと前記第1の剛性部材との間に介在されて前記第1の剛性部材を支持するブラケットとを備え、
前記ブラケットは、前記ボデーサイドメンバーの上面部に重合された状態で締結具により結合される第1プレート部と、前記ボデーサイドメンバーの前記収容空間に面する立面部に重合された状態で締結具により結合される第2プレート部と、前記第2プレート部から前記収容空間側に膨出形成されるとともに鉛直上方に延設される起立部とを有し、
前記第1プレート部が前記第1の剛性部材に結合され、前記起立部の上端部が前記ボデーサイドメンバーよりも前記収容空間側にオフセットした位置で前記第1の剛性部材の下向き面に当接するよう構成されている
ことを特徴とする、パワープラントマウント装置。
【請求項2】
前記第1の剛性部材として、上方に開口したカップ状に形成され、前記ボデーサイドメンバーの前記上面部に固定されるとともに前記インシュレータの下部が嵌合されるカップ状部材を有し、
前記カップ状部材には、前記収容空間側に位置する立壁部の上縁から前記収容空間側に水平に突出するフランジ部が形成され、
前記フランジ部の下向き面に前記ブラケットの前記起立部の上端部が当接される
ことを特徴とする、請求項1記載のパワープラントマウント装置。
【請求項3】
前記第1の剛性部材は、前記カップ状部材と前記インシュレータと前記第2の剛性部材とを跨ぐように配備され、両下端を前記ブラケットの前記第1プレート部と共に前記ボデーサイドメンバーの前記上面部に締結具により結合されて、前記カップ状部材との間に前記インシュレータ及び前記第2の剛性部材を挟装する挟装用部材を有している
ことを特徴とする、請求項2記載のパワープラントマウント装置。
【請求項4】
前記起立部は、前記ボデーサイドメンバーの前記上面部よりも下方で前記立面部に沿って配設される基部と、前記基部の上方で前記第1の剛性部材の前記下向き面に当接する前記上端部を有する上方延設部とをそなえ、
前記上方延設部は、曲面で形成された段部を介して前記基部よりも前記収容空間側にシフトした位置に配置されている
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のパワープラントマウント装置。
【請求項5】
前記ブラケットは、1枚の板金部材を屈曲成形した部材であって、前記第1プレート部と前記第2プレート部と前記起立部とが一体に形成されている
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のパワープラントマウント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−240579(P2012−240579A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113896(P2011−113896)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】