説明

パワーモジュールの製造方法

【課題】 絶縁性能を損なうことなく、冷却性能が向上したパワーモジュールを提供する。
【解決手段】 第1のヒートスプレッダ4と半導体チップ1,2と第2のヒートスプレッダ8とをこの順に重ね合わせ、第1のヒートスプレッダ4の一方の主面に第1の固定板11と一体化された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第1の絶縁シート9を接着し、第2のヒートスプレッダ8の一方の主面に第2の固定板12と一体化された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第2の絶縁シート10を接着することにより構成される構造体を形成する工程と、上記構造体をモールドプレスの金型のキャビティに収納する工程と、上金型14と下金型15を型締めする工程と、金型の温度を上げると共にキャビティに熱硬化性樹脂からなる未硬化のモールド樹脂を注入することにより、第1の絶縁シート9、第2の絶縁シート10及びモールド樹脂を硬化させる工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、IGBT等の半導体チップを収納するパワーモジュールの製造方法に係る発明であり、特に半導体チップからの発熱を外部に放散させる冷却構造及びスイッチング用半導体チップに印加される電圧に対する絶縁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーモジュールの大容量化、コンパクト化及び高周波化に伴い、半導体チップの発熱密度が非常に高くなってきており、高い冷却性能を有するパワーモジュールが必要となってきている。従来のパワーモジュールにおいては、半導体チップで発生した熱を半導体チップの一方の主面から冷却器へ放散させることにより、半導体チップの冷却を図ってきた。このため、パワーモジュールの冷却性能を向上させるためには、半導体チップの一方の主面から冷却器までの熱抵抗を低減するしかなく、冷却性能の向上に限界があった。
【0003】
このような問題を解決する従来技術として、例えば特許文献1には、半導体チップとこの半導体チップの両方の主面から放熱するための一対の放熱基板とを備えたパワーモジュールが開示されている。このパワーモジュールにおいては、上記放熱基板はセラミックス板とその両面にろう材を介して接合された金属板とで構成され、上記放熱基板及び上記半導体チップとはモールド樹脂で覆われている。この従来技術によれば、半導体チップからの発熱を両方の主面から放散させることができるので、冷却性能の高く、かつ電気的絶縁性能の高いパワーモジュールが実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−41752号公報 (図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のパワーモジュールは、以下のような問題点を持っている。すなわち、このようなパワーモジュールのモールド樹脂形成のための金型による樹脂モールドの際に、一対の放熱基板に接合された金属板はそれぞれ上金型と下金型とに接触し押圧される。このため、放熱基板にそりがある場合、又は半導体チップと放熱基板との接合厚みにばらつきがある場合には、金型の型締め圧力によってセラミックス板が破損する虞があった。また、セラミックスはモールド樹脂との密着力が低いため、セラミックス板とモールド樹脂との界面に発生する応力により、セラミックス板とモールド樹脂とが剥離しパワーモジュールの絶縁性能が著しく損なわれる虞があった。更に、セラミックス材料は高価であるという問題もあった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、パワーモジュールの絶縁性能を損なうことなく、冷却性能が向上したパワーモジュールの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明に係るパワーモジュールの製造方法の第1の局面においては、第1のヒートスプレッダと半導体チップと第2のヒートスプレッダとをこの順に重ね合わせ、前記第1のヒートスプレッダの一方の主面に第1の固定板と一体化された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第1の絶縁シートを接着し、前記第2のヒートスプレッダの一方の主面に第2の固定板と一体化された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第2の絶縁シートを接着することにより構成される構造体を形成する工程と、前記第1の固定板が下金型に接し前記第2の固定板が上金型に接するように、前記構造体をモールドプレスの金型のキャビティに収納する工程と、上金型と下金型を型締めする工程と、金型の温度を上げると共にキャビティに熱硬化性樹脂からなる未硬化のモールド樹脂を注入することにより、前記第1の絶縁シート、第2の絶縁シート及びモールド樹脂を硬化させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するため、この発明に係るパワーモジュールの製造方法の第2の局面においては、第1のヒートスプレッダと半導体チップと第2のヒートスプレッダとをこの順に重ね合わせ、接合部材で固定することにより構成される構造体を形成する工程と、下金型の内面に第1の防着シートを接着し、上金型の内面に第2の防着シートを接着する工程と、第1の絶縁シートと一体化した第1の固定板を前記第1の防着シートに接着し、第2の絶縁シートと一体化した第2の固定板を前記第2の防着シートに接着する工程と、前記第1のヒートスプレッダが前記第1の絶縁シートに接し前記第2のヒートスプレッダが前記第2の絶縁シートに接するように、前記構造体をモールドプレスの金型のキャビティに収納する工程と、上金型と下金型を型締めする工程と、金型の温度を上げると共にキャビティに熱硬化性樹脂からなる未硬化のモールド樹脂を注入することにより、前記第1の絶縁シート、第2の絶縁シート及びモールド樹脂を硬化させる工程と、前記モールド樹脂を硬化させた後に前記第1の防着シート及び前記第2の防着シートをそれぞれ前記第1の固定板及び前記第2の固定板から剥がす工程と、を含むことを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
上記のような構成としたため、上記パワーモジュールの製造方法により製造されたパワーモジュールは、絶縁性能を損なうことなく、十分な冷却性能を有するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るパワーモジュールの実施の形態1の代表的な実施例を示す断面図である。
【図2】本発明に係るパワーモジュールの実施の形態1の製造方法を示した図である。
【図3】本発明に係るパワーモジュールの実施の形態1の別の製造方法を示した図である。
【図4】本発明に係るパワーモジュールの実施の形態1の変形例を示す断面図である。
【図5】本発明に係るパワーモジュールの実施の形態1の別の変形例を示す断面図である。
【図6】本発明に係るパワーモジュールの実施の形態2の代表的な実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
以下、本発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。図1は本発明の実施の形態1に係るパワーモジュールの代表的な実施例を示す断面図である。
【0012】
図1において、半導体チップ1は、例えば構成材料がシリコンであるダイオードであり、図示していないがその一方の主面にはカソード電極が、他方の主面にはアノード電極が形成されている。半導体チップ2は、例えば構成材料がシリコンであるIGBTであり、図示していないがその一方の主面にはコレクタ電極が、他方の主面にはエミッタ電極及びゲート電極が形成されている。半導体チップ1の一方の主面に形成されたカソード電極は、第1のヒートスプレッダ4の一方の主面に第1の接合材3を介して接合されている。半導体チップ2の一方の主面に形成されたコレクタ電極は、第1のヒートスプレッダ4の一方の主面に第1の接合材3を介して接合されている。
【0013】
半導体チップ1の他方の主面に形成されたアノード電極には、第2の接合材5を介して放熱ブロック6が、その一方の主面において接合されている。半導体チップ2の他方の主面に形成されたエミッタ電極には、第2の接合材5を介して別の放熱ブロック6が、その一方の主面において接合されている。放熱ブロック6は厚みが0.5mmの矩形の板材で、例えば銅のような熱伝導性及び電気伝導性の良好な材料で構成されている。
【0014】
各放熱ブロック6の他方の主面は、第3の接合材7を介して第2のヒートスプレッダ8の一方の主面に接合されている。第1のヒートスプレッダ4及び第2のヒートスプレッダ8は、厚みが3mmの矩形の板材で、たとえば銅のような熱伝導性及び電気伝導性の良好な材料で構成されている。また、第1の接合材3、第2の接合材5及び第3の接合材7には、本実施の形態においてはPb−27Sn−3Sbの組成を有する半田が使われているが、Sn−57Bi−1Agの組成を有する半田でもよい。
【0015】
ここで、ある組成比を有する合金の合金状態図において、その組成比における固相線の値を固相点と定義し、その組成比における液相線の値を液相点と定義すると、Pb−27Sn−3Sbの組成を有する半田の固相点は185℃であり、液相点は250℃である。また、Sn−57Bi−1Agの組成を有する半田の固相点は138℃であり、液相点は204℃である。
【0016】
第1のヒートスプレッダ4の他方の主面には第1の絶縁シート9の一方の主面が接合されている。第2のヒートスプレッダ8の他方の主面には第2の絶縁シート10の一方の主面が接合されている。第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10は、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂で構成されており、電気的絶縁性を有している。また、熱伝導率を大きくするために、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10は、その内部に窒化硼素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)等の球状又は鱗片状のフィラーが添加されている。
【0017】
第1の絶縁シート9の他方の主面には第1の固定板11の一方の主面が接合されている。第2の絶縁シート10の他方の主面には第2の固定板12の一方の主面が接合されている。第1の固定板11及び第2の固定板12は、例えば銅のような熱伝導性及び電気伝導性の良好な材料で構成されている。
【0018】
第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10は矩形のシートであり、したがってそれぞれその一方の主面と他方の主面の面積は等しい。第1の絶縁シート9の寸法は第1のヒートスプレッダ4の寸法より大きいため、第1の絶縁シート9は第1のヒートスプレッダ4の他方の主面を完全に覆い尽している。同様に、第2の絶縁シート10の寸法は第2のヒートスプレッダ8の寸法より大きいため、第2の絶縁シート10は第2のヒートスプレッダ8の他方の主面を完全に覆い尽している。
【0019】
第1の固定板11及び第2の固定板12は厚みが0.1mmの矩形の板材であり、したがってそれぞれその一方の主面と他方の主面の面積は等しい。第1の固定板11の寸法は第1の絶縁シート9の寸法以上であるため、第1の固定板11は第1の絶縁シート9の他方の主面を完全に覆い尽している。同様に、第2の固定板12の寸法は第2の絶縁シート10の寸法以上であるため、第2の固定板12は第2の絶縁シート10の他方の主面を完全に覆い尽している。
【0020】
したがって、第1の絶縁シート9の第1の固定板11との接合面積は第1の絶縁シート9の第1のヒートスプレッダ4との接合面積よりも大きく、第2の絶縁シート10の第2の固定板12との接合面積は第2の絶縁シート10の第2のヒートスプレッダ8との接合面積よりも大きくなっている。
【0021】
図示されていないが、半導体チップ2のゲート電極は、外部より制御信号を導入するための制御端子と電気的に接続されている。外部環境からの保護のために、半導体チップ1及び半導体チップ2の周囲には、第1の固定板11の他方の主面と第2の固定板12の他方の主面とが露出するように、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を構成材料とするモールド樹脂13が配されている。
【0022】
したがって、第1の固定板11の露出部分の面積は第1の絶縁シート9の第1の固定板11との接合面積以上であり、第2の固定板12の露出部分の面積は第2の絶縁シート10の第2の固定板12との接合面積以上となっている。
【0023】
本実施の形態に係るパワーモジュールでは、半導体チップ1及び半導体チップ2において発生した熱は、一方では第1のヒートスプレッダ4、第1の絶縁シート9及び第1の固定板11を経由して第1の固定板11に接する冷却器等に放散され、他方では放熱ブロック6、第2のヒートスプレッダ8、第2の絶縁シート10及び第2の固定板12を経由して第2の固定板12に接する冷却器等に放散されるため、半導体チップの両面からの放熱が実現でき、半導体チップの効率的な冷却が可能となっている。
【0024】
第1のヒートスプレッダ4、第2のヒートスプレッダ8及び放熱ブロック6は、半導体チップ1及び半導体チップ2に電流を流す配線を兼ねているが、第1の絶縁シート9が第1のヒートスプレッダ4と第1の固定板11との間の電気的絶縁を担保しており、第2の絶縁シート10が第2のヒートスプレッダ8と第2の固定板12との間の電気的絶縁を担保しているため、半導体チップに印加された電圧が第1の固定板11又は第2の固定板12を経由して冷却器等に印加されることはない。放熱ブロック6は、半導体チップ1のアノード電極とカソード電極との間の短絡防止、又は半導体チップ2のエミッタ電極とコレクタ電極又はゲート電極との間の短絡防止のために設けられている。
【0025】
更に、第1の絶縁シート9の一方の主面の全面積は第1の絶縁シート9の第1のヒートスプレッダ4との接合面積よりも大きく、第2の絶縁シート10の一方の主面の全面積は第2の絶縁シート10の第2のヒートスプレッダ8との接合面積よりも大きくなっている。これにより、第1の絶縁シート9とモールド樹脂13との境界面に沿った第1のヒートスプレッダ4と第1の固定板11との間の距離が長くなるため、第1のヒートスプレッダ4と第1の固定板11との間の絶縁性をより向上させることができる。
【0026】
第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10は、銅などの金属と比較して熱伝導率が小さいので、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10の熱抵抗をできるだけ低減するためには、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10の厚みを小さくするか伝熱面積を大きくするかのいずれかであるが、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10の厚みを小さくすることは、絶縁性の確保から制約がある。したがって、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10の伝熱面積を大きくするために、本実施の形態のように、第1の固定板11の露出部分の面積を第1の絶縁シート9の第1の固定板11との接合面積以上とし、第2の固定板12の露出部分の面積は第2の絶縁シート10の第2の固定板12との接合面積以上とすることが望ましい。このようにすることにより、第1の絶縁シート9又は第2の絶縁シート10に流入した熱は、より広い面積で第1の固定板11又は第2の固定板12に流れ込み、第1の固定板11又は第2の固定板12を経由して効率的に冷却器等に排出される。
【0027】
次に、本発明に係る実施の形態1のパワーモジュールの製造方法について図2に基づき説明する。まず、第1のヒートスプレッダ4と半導体チップ1及び半導体チップ2と放熱ブロック6と第2のヒートスプレッダ8とをこの順に重ね合わせ、各々接合材で固定し、第1のヒートスプレッダ4の一方の主面に第1の固定板11と一体化された第1の絶縁シート9を接着し、第2のヒートスプレッダ8の一方の主面に第2の固定板12と一体化された第2の絶縁シート10を接着することにより構成される構造体を形成する(図2(a)参照)。
【0028】
この段階では、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10は未硬化の状態の熱硬化性樹脂であるため、それぞれ第1の固定板11及び第2の固定板12と一体化されており、取り扱いが容易になっている。
【0029】
次に、第1の固定板11が下金型15に接し第2の固定板12が上金型14に接するように、前記構造体をモールドプレスの金型のキャビティに収納し上金型14と下金型15を型締めする(図2(b)参照)。然る後に、金型の温度を上げると共にキャビティにエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を基材とする液体状のモールド樹脂を注入する。エポキシ樹脂の硬化温度は190℃であるので、金型の温度はそれ以上にする必要がある。このようにしてモールド樹脂を硬化させると同時に、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10も併せて硬化させ、それぞれ第1のヒートスプレッダ4及び第2のヒートスプレッダ8に圧着させ、図1に示されるような最終形態に至る。
【0030】
以上述べた製造方法において、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10は、モールド樹脂の注入前までは未硬化の状態であり、モールド樹脂がキャビティに注入され金型の温度を上げることにより、モールド樹脂から加圧されながら硬化していく。したがって、金型の型締め圧力を受けた場合でも、未硬化の第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10が変形することにより、型締め圧力による応力を緩和し、第1のヒートスプレッダ4及び第2のヒートスプレッダ8に反りがある場合、又は第1の接合材3、第2の接合材5及び第3の接合材7の厚みにばらつきがある場合においても、第1の絶縁シート9又は第2の絶縁シート10が破損することはない。
【0031】
更に、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10はモールド樹脂から加圧されながら硬化していくので、硬化するまでの間に内部に残存する気泡を取り除くことができ、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10の絶縁性能を向上させることができる。
【0032】
また、第1の接合材3、第2の接合材5及び第3の接合材7で接合された半導体チップ1,半導体チップ2,第1のヒートスプレッダ4,放熱ブロック6及び第2のヒートスプレッダ8は、第1の固定板11と一体化された第1の絶縁シート9及び第2の固定板12と一体化された第2の絶縁シート10と共に金型内で加熱されモールドされるが、本実施の形態における第1の接合材3、第2の接合材5及び第3の接合材7には、その固相点がモールド樹脂13の硬化温度(190℃)より低く、その液相点がモールド樹脂13の硬化温度より高い半田を使用しているため、モールド樹脂13の硬化時においては、第1の接合材3、第2の接合材5及び第3の接合材7は半溶融した状態となっている。このため、各部材の厚さや反り等による寸法誤差を半溶融した状態の第1の接合材3、第2の接合材5及び第3の接合材7で吸収できるので、製作が容易となる。
【0033】
本実施の形態のパワーモジュールは、別の方法によっても製造できる。図3は本発明に係る実施の形態1のパワーモジュールの別の製造方法を示している。まず、第1のヒートスプレッダ4と半導体チップ1及び半導体チップ2と放熱ブロック6と第2のヒートスプレッダ8とをこの順に重ね合わせ、各々接合材で固定することにより構成される構造体を形成する(図3(a)参照)。
【0034】
次に、モールドプレスの下金型15の内面に第1の防着シート16を接着し、更に第1の防着シート16に第1の絶縁シート9と一体化した第1の固定板11を接着する。モールドプレスの上金型14の内面に第2の防着シート17を接着し、更に第2の防着シート17に第2の絶縁シート10と一体化した第2の固定板12を接着する(図3(b)参照)。ここで第1の防着シート16及び第2の防着シート17の材料には、耐熱性に優れたフッ素樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレンを使用している。
【0035】
この工程の後に、第1のヒートスプレッダ4が第1の絶縁シート9に接し第2のヒートスプレッダ8が第2の絶縁シート10に接するように、前記構造体をモールドプレスの金型のキャビティに収納し、上金型14と下金型15を型締めする(図3(c)参照)。然る後に、金型の温度を上げると共にキャビティにエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を基材とする未硬化のモールド樹脂を注入する。このようにしてモールド樹脂を硬化させると同時に、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10も併せて硬化させ、それぞれ第1のヒートスプレッダ4及び第2のヒートスプレッダ8に圧着させる。最後に第1の防着シート16を第1の固定板11から剥がし、第2の防着シート17を第2の固定板12から剥がして、図1に示されるような最終形態に至る。
【0036】
以上述べた製造方法において、第1の防着シート16及び第2の防着シート17は、第1の絶縁シート9又は第2の絶縁シート10の材料より弾性率が小さい材料で構成されている。すなわち、第1の防着シート16及び第2の防着シート17の材料であるポリテトラフルオロエチレンの弾性率は0.5GPaであり、第1の絶縁シート9及び第2の絶縁シート10の材料であるエポキシ樹脂の弾性率は10〜30GPaである。このため、金型の型締め圧力を受けた場合でも、第1の防着シート16及び第2の防着シート17が変形することにより、型締め圧力による応力を緩和し、第1のヒートスプレッダ4及び第2のヒートスプレッダ8に反りがある場合、又は第1の接合材3、第2の接合材5及び第3の接合材7の厚みにばらつきがある場合においても、第1の絶縁シート9又は第2の絶縁シート10が破損することはない。
【0037】
更に、モールド樹脂の硬化後、第1の防着シート16及び第2の防着シート17は第1の固定板11及び第2の固定板12から剥がすことができるため、樹脂バリを発生させることなく第1の固定板11及び第2の固定板12をモールド樹脂13から露出させることができる。
【0038】
図4は本発明に係るパワーモジュールの実施の形態1の変形例を示す断面図である。図1の実施例との相違は、第2のヒートスプレッダ8との接合面である放熱ブロック6の他方の主面の面積が、半導体チップとの接合面である放熱ブロック6の一方の主面の面積よりも大きくなっていることである。このような構成とすることにより、放熱ブロック6の熱抵抗をより低下させ、冷却性能が向上する。
【0039】
図5は本発明に係るパワーモジュールの実施の形態1の別の変形例を示す断面図である。図1の実施例との相違は、放熱ブロック6と第2のヒートスプレッダ8とが一体化され、放熱ブロック6が第2のヒートスプレッダ8の突起部となっていることである。すなわち、第2のヒートスプレッダ8は、半導体チップ1のアノード電極及び半導体チップ2のエミッタ電極と接合される突起部を有している。このような構成とすることにより、第3の接合材7が省略されているため、第2のヒートスプレッダ8の熱抵抗をより低下させ冷却性能が向上すると共に、部品点数の低減も図ることができる。
【0040】
<実施の形態2>
以下、本発明の実施の形態2を図に基づいて説明する。図6は本発明の実施の形態2に係るパワーモジュールの代表的な実施例を示す断面図である。
【0041】
実施の形態1に係るパワーモジュールとの相違点は、実施の形態1に係るパワーモジュールの第1の固定板11の露出面に第1の冷却器19を第4の接合材18により接合し、第2の固定板12の露出面に第2の冷却器20を第4の接合材18により接合している点である。
【0042】
このように構成されたパワーモジュールにおいて、半導体チップ1及び半導体チップ2において発生した熱は、一方では第1のヒートスプレッダ4、第1の絶縁シート9及び第1の固定板11を経由して第1の固定板11に接する第1の冷却器19に放散され、他方では放熱ブロック6、第2のヒートスプレッダ8、第2の絶縁シート10及び第2の固定板12を経由して第2の固定板12に接する第2の冷却器20に放散されるため、半導体チップの両面からの放熱が実現でき、半導体チップの効率的な冷却が可能となっている。
【0043】
また、本実施の形態に係るパワーモジュールにおいては、金属からなる第1の固定板11及び第2の固定板12をモールド樹脂13から露出させているので、半田などの金属接合部材からなる第4の接合材18で第1の冷却器19及び第2の冷却器20をそれぞれ第1の固定板11及び第2の固定板12に接合することができる。更に、第4の接合材18を第1の接合材3、第2の接合材5又は第3の接合材7の融点より低い融点を有する接合部材で構成することにより、第1の接合材3、第2の接合材5又は第3の接合材7を再溶融させることなく、第1の冷却器19及び第2の冷却器20をパワーモジュールに接合することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明に係るパワーモジュールの製造方法により製造されたパワーモジュールは、電動機の制御を必要とする機器に適用することにより、その機器の性能向上に寄与することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 半導体チップ(ダイオード)、
2 半導体チップ(IGBT)、
3 第1の接合部材、
4 第1のヒートスプレッダ、
5 第2の接合部材、
6 放熱ブロック、
7 第3の接合材、
8 第2のヒートスプレッダ、
9 第1の絶縁シート、
10 第2の絶縁シート
11 第1の固定板、
12 第2の固定板、
13 モールド樹脂、
14 上金型、
15 下金型
16 第1の防着シート
17 第2の防着シート
18 第4の接合材
19 第1の冷却器
20 第2の冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のヒートスプレッダと半導体チップと第2のヒートスプレッダとをこの順に重ね合わせ、前記第1のヒートスプレッダの一方の主面に第1の固定板と一体化された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第1の絶縁シートを接着し、前記第2のヒートスプレッダの一方の主面に第2の固定板と一体化された未硬化の熱硬化性樹脂からなる第2の絶縁シートを接着することにより構成される構造体を形成する工程と、
前記第1の固定板が下金型に接し前記第2の固定板が上金型に接するように、前記構造体をモールドプレスの金型のキャビティに収納する工程と、
上金型と下金型を型締めする工程と、
金型の温度を上げると共にキャビティに熱硬化性樹脂からなる未硬化のモールド樹脂を注入することにより、前記第1の絶縁シート、第2の絶縁シート及びモールド樹脂を硬化させる工程と、
を含むことを特徴とするパワーモジュールの製造方法。
【請求項2】
第1のヒートスプレッダと半導体チップと第2のヒートスプレッダとをこの順に重ね合わせ、接合部材で固定することにより構成される構造体を形成する工程と、
下金型の内面に第1の防着シートを接着し、上金型の内面に第2の防着シートを接着する工程と、
第1の絶縁シートと一体化した第1の固定板を前記第1の防着シートに接着し、第2の絶縁シートと一体化した第2の固定板を前記第2の防着シートに接着する工程と、
前記第1のヒートスプレッダが前記第1の絶縁シートに接し前記第2のヒートスプレッダが前記第2の絶縁シートに接するように、前記構造体をモールドプレスの金型のキャビティに収納する工程と、
上金型と下金型を型締めする工程と、
金型の温度を上げると共にキャビティに熱硬化性樹脂からなる未硬化のモールド樹脂を注入することにより、前記第1の絶縁シート、第2の絶縁シート及びモールド樹脂を硬化させる工程と、
前記モールド樹脂を硬化させた後に前記第1の防着シート及び前記第2の防着シートをそれぞれ前記第1の固定板及び前記第2の固定板から剥がす工程と、
を含むことを特徴とするパワーモジュールの製造方法。
【請求項3】
前記第1の防着シート及び前記第2の防着シートの弾性率は、前記第1の絶縁シート及び前記第2の絶縁シートの弾性率より小さいことを特徴とする請求項2に記載のパワーモジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−93631(P2013−93631A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−30256(P2013−30256)
【出願日】平成25年2月19日(2013.2.19)
【分割の表示】特願2010−81477(P2010−81477)の分割
【原出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】