説明

パワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール用基板

【課題】セラミックス基板と金属板とを多層に積層し、セラミックス基板の両側の金属板を接続状態とすることができ、しかもセラミックス基板と金属板との間の剥離やセラミックス基板の割れ等が生じにくいパワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール用基板を提供する。
【解決手段】セラミックス基板2及び金属板4A,4C,4D,5A,6を積層する際に、セラミックス基板2の貫通孔11内に、貫通孔11よりも長い柱状の金属部材12を挿入しておき、セラミックス基板及び金属板を接合する際に金属部材12を加圧して塑性変形させ、金属部材12と貫通孔11の内周面との間に隙間を形成した状態で金属部材12によりセラミックス基板2の両側の金属板5A、4A,4Dを接続状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、大電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワーモジュールとして、セラミックス基板の一方の面に、導体パターン層を形成する金属板が積層され、この導体パターン層の上に半導体チップ等の電子部品がはんだ付けされるとともに、セラミックス基板の他方の面に放熱層となる金属板が形成され、この放熱層にヒートシンクが接合された構成のものが知られている。
このパワーモジュールに用いられるパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板の表面に金属板をろう付けにより接合している。例えば、特許文献1では、セラミックス基板の表面に揮発性有機媒体の表面張力によってろう材箔を仮固定するとともに、そのろう材箔の表面に基材から打ち抜かれた導体パターン層を仮固定した状態で加熱し、揮発性有機媒体を揮発させ、これらを厚さ方向に加圧することにより、金属板とセラミックス基板とをろう付けしたパワーモジュール用基板を形成している。
一方、この種のパワーモジュール用基板としては、絶縁基板としての機能、放熱基板としての機能の他に、近年の高集積化に伴い、配線基板としての機能も求められてきており、多層化することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献2に開示の金属−セラミックス接合基板(パワーモジュール用基板)では、バイアホール用の貫通孔が形成された複数のセラミックス基板と、これらセラミックス基板の間に介在するアルミニウム製の金属板とが多層構造に設けられている。この場合、金属板は、鋳型の中で積み重ねたセラミックス基板に金属溶湯を流し込んで固化することにより形成されており、このため、セラミックス基板に形成しておいた貫通孔内にも金属溶湯が入り込んで固化され、その貫通孔内の金属を介してセラミックス基板の両側の金属板相互が電気的接続状態とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4311303号公報
【特許文献2】特許第4565249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金属溶湯を流し込んで製造する特許文献2記載の方法では、セラミックス基板の貫通孔に充満された金属が温度サイクルにより熱伸縮を繰り返すと、セラミックス基板との熱膨張係数の差により、両者の間で剥離が生じたり、セラミックス基板に割れが生じるなどの問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、セラミックス基板と金属板とを多層に積層し、セラミックス基板の両側の金属板を接続状態とすることができ、しかもセラミックス基板と金属板との間の剥離やセラミックス基板の割れ等が生じにくいパワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1記載のパワーモジュール用基板のように、セラミックス基板に金属板をろう付けにより接合する方法において、セラミックス基板に貫通孔を形成し、セラミックス基板の両側の金属板を貫通孔の内部を介して接続状態とする場合、貫通孔内に接続用の金属部材を配置して両金属板にろう付けすることが考えられる。しかしながら、セラミックス基板は焼結部品であり、焼結時の収縮による影響で、その寸法交差は金属製の部品に比べて相当に大きい。このため、このようなセラミックス基板に形成した貫通孔に金属部材を挿入して両金属板にろう付けする方法では、金属部材の長さとセラミックス基板の厚さとの寸法差のばらつきのため、安定した接合を得ることが難しい。このような見識のもと、本発明は、以下の解決手段とした。
【0008】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、複数のセラミックス基板と金属板とを交互に積層して接合するとともに、セラミックス基板に形成した貫通孔を介して該セラミックス基板の両側の金属板を接続状態としたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板及び金属板を積層する際に、セラミックス基板の貫通孔内に、該貫通孔よりも長い柱状の金属部材を挿入しておき、前記セラミックス基板及び金属板を接合する際に前記金属部材を加圧して塑性変形させて、前記金属部材により前記セラミックス基板の両側の金属板を接合することを特徴とする。
【0009】
セラミックス基板の貫通孔内に挿入した金属部材を塑性変形させて両金属板を接合することにより、セラミックス基板の厚さの寸法ばらつきを金属部材の塑性変形量によって調整することができ、安定した接合を得ることができる。したがって、熱応力の発生が軽減され、剥離や割れ等の発生が防止される。
【0010】
また、本発明の製造方法において、前記金属部材と前記貫通孔の内周面との間に隙間を形成した状態で前記金属板を接合するのが望ましい。貫通孔の内周面と金属部材との間に隙間が形成され、貫通孔内を金属で充満させないので、温度サイクルにより熱伸縮を繰り返しても、金属部材とセラミックス基板との熱膨張係数の差を隙間により吸収することが可能である。
【0011】
本発明の製造方法において、前記金属部材は、前記セラミックス基板の両側に配置される両金属板の一方の表面に予め一体に立設しておいてもよい。この場合は、金属部材は他方の金属板に接合される。
あるいは、前記金属部材は、前記セラミックス基板の両側に配置される両金属板のそれぞれの表面に予め一体に立設しておいてもよい。この場合、金属部材は二つの部材からなり、両金属板のそれぞれに立設され、貫通孔の長さの途中位置で接合される。
さらに、別の方法として、前記金属部材は、その長さ方向の両端に端面を有しており、前記セラミックス基板の両側に配置される両金属板にそれぞれ接合されるものとしてもよい。
【0012】
本発明のパワーモジュール用基板は、複数のセラミックス基板と金属板とを交互に積層して接合するとともに、セラミックス基板に形成した貫通孔の内部を介して該セラミックス基板の両側の金属板を接続状態としたパワーモジュール用基板であって、前記貫通孔内に挿入された金属部材が塑性変形された状態で前記セラミックス基板の両側の金属板が接合されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のパワーモジュール用基板は、前記金属部材と前記貫通孔の内周面との間に隙間が形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、セラミックス基板の厚さの寸法ばらつきを金属部材の塑性変形量によって調整して、安定した接合を得ることができる。また、貫通孔の内周面と金属部材との間に隙間を形成した場合、温度サイクルにより熱伸縮を繰り返しても、金属部材とセラミックス基板との熱膨張係数の差に起因する熱応力の発生が軽減され、剥離や割れ等の発生が防止される。これにより、長期的に接合信頼性の高い多層のパワーモジュール用基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のパワーモジュール用基板の第1実施形態を示す縦断面図であり、図4のA−A線に沿う矢視図に相当する。
【図2】図1の接合部付近を示す拡大断面図である。
【図3】接合前のセラミックス基板の貫通孔と金属板の凸部との寸法関係を示す図2同様の拡大断面図である。
【図4】図1のパワーモジュール用基板の平面図である。
【図5】図1のB−B線に沿う矢視図である。
【図6】本発明の製造方法で用いられる加圧装置の例を示す正面図である。
【図7】金属板の真応力−真ひずみ線図である。
【図8】本発明のパワーモジュール用基板の第2実施形態を示す縦断面図であり、図10のC−C線に沿う矢視図に相当する。
【図9】図8のパワーモジュール用基板の平面図である。
【図10】図8のD−D線に沿う矢視図である。
【図11】本発明のパワーモジュール用基板の第3実施形態を示す図1同様の縦断面図である。
【図12】図11のパワーモジュール用基板の平面図である。
【図13】本発明のパワーモジュール用基板の第4実施形態の組立途中の状態を示す縦断面図である。
【図14】本発明のパワーモジュール用基板の第5実施形態の組立前の状態を示す縦断面図である。
【図15】本発明のパワーモジュール用基板の第6実施形態の組立途中の状態を示す縦断面図である。
【図16】本発明のパワーモジュール用基板の第3実施形態の組立途中の状態を示す縦断面図である。
【図17】接合部付近の他の例を示す図2同様の拡大断面図である。
【図18】接合部のさらに他の例を示す図2同様の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
図1〜図5は第1実施形態のパワーモジュール用基板を示しており、このパワーモジュール用基板1は、複数のセラミックス基板2,3と金属板4A〜4E,5A,5B,6とが交互に積層され、相互にろう付けにより接合されており、最上段に配置される金属板4A〜4Eの一部(図示例では4D,4E)に電子部品7が搭載され、最下段に配置される金属板6にヒートシンク8が接合される。
図示例ではセラミックス基板2,3が2枚用いられ、金属板4A〜4E,5A,5B,6が3層となるように配置されている。金属板4A〜4E,5A,5B,6は、最上段に5枚、両セラミックス基板の間に2枚、最下段に1枚それぞれ設けられている。最上段の5枚の金属板4A〜4Eは、中間の位置に1枚(4C)、その両側にそれぞれ2枚ずつ(4A,4Bと4D,4E)配置されている。両セラミックス基板2,3の間の金属板(以下、中央の金属板という)5A,5Bは、図4及び図5に示すように、最上段の両側位置に配置されている金属板4A,4D及び金属板4B,4Eをそれぞれ連結し得る長さの細長い帯板状に形成され、2枚が並んで平行に配置されている。そして、最上段における両側の金属板4A,4D及び金属板4B,4Eが組になって、中間位置の金属板4Cの下方で連結するように、中央の金属板5A,5Bを介して相互に電気的接続状態とされている。
【0017】
その接続形態としては、セラミックス基板2に4個の貫通孔11が形成され、前述の5枚の最上段の金属板4A〜4Eのうちの中間位置の金属板4Cを除く4枚の金属板4A,4B,4D,4Eの片面にそれぞれ凸部(本発明の金属部材に相当)12が円柱状に一体に形成され、これら凸部12がそれぞれ貫通孔11内に挿入し、両セラミックス基板2,3の間の中央の金属板5A,5Bに接合された構造とされている。この場合後述するように、凸部12は、中央の金属板5A,5Bに接合され、中央の金属板5A,5Bへの接合部Pと金属板4A,4B,4D及び4Eの下面との中間付近が塑性変形してわずかに拡径した状態とされているが、貫通孔11の内周面との間には隙間Gが形成されている。
【0018】
セラミックス基板2,3は、AlN、Al、SiC等により、例えば0.32mm〜1.0mmの厚さに形成され、金属板4A〜4E,5A,5B,6は、純アルミニウム又はアルミニウム合金により、例えば0.25mm〜2.5mmの厚さに形成され、これらを接合するろう材としては、Al−Si系又はAl−Ge系のろう材が用いられる。
【0019】
次に、このように構成したパワーモジュール用基板1を製造する方法について説明する。
セラミックス基板2,3のうち、貫通孔11を有するセラミックス基板2は、セラミックスの焼成前のグリーンシートにプレス加工により貫通孔を形成した後に焼成することにより得ることができる。その外形は焼成後に加工される。貫通孔を有しないセラミックス基板3は、グリーンシートを焼成した後に外形加工される。
【0020】
金属板4C,5A,5B,6は、ろう材箔13(図3参照)をオクタンジオール等の揮発性有機媒体等により表面に仮固定しておき、プレス加工によって一体に打ち抜くことにより、ろう材箔を貼り付けた金属板としておく。この場合、最上段の金属板4C及び最下段の金属板6は片面にろう材箔が貼り付けられ、中央の金属板5A,5Bには両面にろう材箔が貼り付けられる。
また、最上段の金属板4A〜4Eのうち、凸部12を有する金属板4A,4B,4D,4Eは、予めプレス加工により片面に凸部12を成形しておき、その凸部12を除くように穴をあけたろう材箔を凸部12の周囲の平面に貼り付けることにより形成される。
【0021】
このようにして成形される凸部12は、貫通孔11を有するセラミックス基板2の厚さよりも大きく、図3に示すように、貫通孔11に挿入したときにセラミックス基板2からわずかに突出する長さに設定される。セラミックス基板2の厚さの寸法ばらつきを考慮して、その公差の最大値よりも0.02mm〜0.2mm大きい長さ、例えば0.05mm大きい長さに設定される。また、凸部12の外径D1とセラミックス基板2の貫通孔11の内径D2とは、後述する加圧時に凸部12が拡径するので、その拡径状態でも隙間Gが形成されるように凸部12の外径D1は1.0mm〜20mm、セラミックス基板2の貫通孔11の内径D2は1.1mm〜28mmに形成される。例えば、凸部12の外径D1が10mm、貫通孔11の内径D2は13mmとされる。
【0022】
このようにして形成したセラミックス基板2,3と金属板4A〜4E,5A,5B,6とを交互に重ね合わせ、金属板4A,4B,4D,4Eの凸部12を対応するセラミックス基板2の貫通孔11に挿入した状態とし、その積層体Sを図6に示す加圧装置に設置する。
この加圧装置110は、ベース板111と、ベース板111の上面の四隅に垂直に取り付けられたガイドポスト112と、これらガイドポスト112の上端部に固定された固定板113と、これらベース板111と固定板113との間で上下移動自在にガイドポスト112に支持された押圧板114と、固定板113と押圧板114との間に設けられて押圧板114を下方に付勢するばね等の付勢手段115とを備えている。
固定板113および押圧板114は、ベース板111に対して平行に配置されており、ベース板111と押圧板114との間に前述の積層体Sが配置される。積層体Sの両面には加圧を均一にするためにカーボンシート116が配設される。
【0023】
この加圧装置110により加圧した状態で、加圧装置110ごと図示略の加熱炉内に設置し、例えば630℃のろう付け温度に加熱してろう付けする。
このろう付け時に金属板4A,4B,4D,4Eの凸部12に降伏点以上の荷重が作用するように、予め付勢手段115の付勢力を設定しておく。図7は純度が99.99質量%のアルミニウムの630℃付近での真応力−真ひずみ線図であり、3.5MPa程度で降伏している。したがって、例えば、凸部12の外径D1が10mmとすると、630℃の高温時に、凸部12に270N以上の荷重が作用するように、常温での付勢手段115の付勢力を設定しておく。
【0024】
このように付勢力を設定しておくことにより、ろう付け時に凸部12が塑性変形して押しつぶされながら、中央の金属板5A,5Bに接合するとともに、この凸部12の周囲の金属板4A〜4Eの平面がセラミックス基板2の表面に密接し、面方向に均一な接合状態を得ることができる。
また、接合した後の状態においても、凸部12は部分的に拡径するが、前述したように拡径した状態で凸部12と貫通孔11の内周面との間に隙間Gが形成される設定であるので、凸部12が貫通孔11の内周面に圧迫されることはない。
【0025】
このようにして製造されたパワーモジュール用基板1は、最上段の金属板4A〜4Eの一部に電子部品7が搭載され、最下段の金属板6にヒートシンク8が取り付けられて使用に供される。凸部12と貫通孔11の内周面との間に隙間Gが形成されているので、使用時の温度サイクルにより熱伸縮が繰り返されても、貫通孔11の部分での熱応力が軽減され、接合部の剥離やセラミックス基板2,3の割れ等が防止され、パワーモジュール用基板として高い信頼性を維持することができる。
【0026】
また、最上段の金属板4D,4Eに搭載されている電子部品7で発生する熱は、その金属板4D,4Eから凸部12を経由して中央の金属板5A,5Bにも熱伝達されるが、凸部12が電子部品7の直下に配置される場合は、金属板4D,4Eから凸部12を介して直線的に中央の金属板5A,5Bに熱伝達され、速やかに放熱することができる。この放熱性を高めるためには凸部12の外径D1は大きい方がよく、例えば電子部品7の投影面積よりも大きい横断面積であると、凸部12の延長上に電子部品7を搭載すれば優れた放熱性を発揮する。また、パワーモジュールとしても大電流が流れるので、大きい断面積の凸部12の方が電流密度が小さくなるので好ましい。
【0027】
なお、図5に示すように中央の複数の金属板5A,5Bにより回路を分割して構成する場合、前述した特許文献2記載のように金属溶湯を流し込む方法では、製造上の困難性があるが、本発明の方法では中央の金属板により回路を分割する形態も容易に製造することができる。
【0028】
<第2実施形態>
図8〜図10は、本発明の第2実施形態のパワーモジュール用基板を示している。
このパワーモジュール用基板21では、2枚のセラミックス基板と3層の金属板との積層構造である点は第1実施形態と同様であるが、両セラミック基板2,3の間に配置される中央の金属板22A,22Bが、平面視L字状に屈曲成形され、その屈曲部分を対峙させるようにして並んでいる。
最上段の金属板23A〜23Eは5枚配置され、そのうちの2枚ずつ(23Aと23B、23Cと23D)が中央の金属板22A,22Bを介して電気的接続状態とされ、その接続構造については、第1実施形態と同様であり、説明を省略する。
【0029】
この第2実施形態のパワーモジュール用基板21では、両セラミックス基板2,3の間に配置される中央の金属板22A,22Bが、屈曲部を対峙させて並んでいるため、これらセラミックス基板2,3と金属板22A,22Bとにより形成される空洞部24がクランク状に屈曲状態に形成される。このため、前述した特許文献2記載のように金属溶湯を流し込む方式では製造することはできない。本発明の方法であれば、セラミックス基板2,3の間に配置される金属板22A,22Bの枚数や形状も任意に設定することができ、設計の自由度が高まり、高集積化に有利である。
【0030】
<第3実施形態>
図11〜図13は、本発明の第3実施形態のパワーモジュール用基板を示している。
このパワーモジュール用基板31では、2枚のセラミックス基板2,3と3層の金属板4A〜4E,5A,5B,6との積層構造とされるとともに、最下段の金属板6にピンフィン付ヒートシンク32が接合されている。各図の符号は第1実施形態と共通部分に同一符号をして説明する。
【0031】
2枚のセラミックス基板2,3は、AlN、Al、SiC等により、例えば0.635mmの厚さに形成され、3層の金属板4A〜4E,5A,5B,6は、純度99.99質量%(4N)の純アルミニウムにより、厚さは、例えば最上段の回路層を構成する金属板4A〜4Eが0.5mm、中間層の金属板5A,5Bが0.5mm、下層の金属板6が2mmに形成される。また、その中間層の金属板5A,5Bの上面に凸部12が一体に形成され、上側セラミックス基板2に形成した貫通孔11内に凸部12が挿入され、最上段の金属板4A〜4Eに接合されている。
ヒートシンク32は、例えばA6063アルミニウム合金の熱間鍛造により、板状部33の片面に多数のピン状フィン34が一体成形されたものであり、寸法的に限定されるものではないが、例えば、板状部33は、50mm角で厚さが5mmの正方形板に形成され、各フィン34は、直径3mm、高さ15mmに形成され、ピッチ6mmの千鳥状に配列されている。
【0032】
このような構造のパワーモジュール用基板31を製造するには、セラミックス基板2,3を前述した第1実施形態と同様の方法によりグリーンシートを焼成して作製するとともに、各金属板4A〜4E,5A,5B,6をプレス加工により打ち抜き成形する。また、熱間鍛造により、板状部33とフィン34とを一体成形したヒートシンク32を作製する。各金属板には、最上段の金属板4A〜4Eの裏面及び中間層の金属板5A,5Bの両面にそれぞれろう材箔を貼り付けた状態とする。
そして、2枚のセラミックス基板2,3と3層の金属板4A〜4E,5A,5B,6とを先に接合(一次接合)し、その後にヒートシンク32を接合(二次接合)する。
【0033】
一次接合では、3層の金属板4A〜4E,5A,5B,6と2枚のセラミックス基板2,3とを交互に積層して、金属板5A,5Bの凸部12をセラミックス基板2の貫通孔11内に挿入した状態とし、その積層体を第1実施形態と同様、図6に示す加圧装置110に設置して加圧する。金属板4A〜4E,5A,5B,6に貼り付けておくろう材箔としては、例えばAl−7.5質量%Siからなる15μmの厚さのものが使用される。これらの積層体を加圧した状態で真空中で加熱してろう付けする。加熱温度としては例えば630℃、加圧力としては例えば0.5MPa(5kg/cm)とされ、630℃の高温時に、凸部12に3.5MPa以上の荷重が作用するようにする。
この一次接合により、中間層の金属板5A,5Bに形成した凸部12が塑性変形しながら最上段の金属板4A〜4Eに接合し、セラミックス基板2の貫通孔11を経由して両層の金属板4A〜4E,5A,5Bが接続状態となる。この場合も、塑性変形により拡径した凸部12の外周面とセラミックス基板2の貫通孔11の内周面との間には隙間が形成される。
【0034】
二次接合では、一次接合体31Xの最下段の金属板6とヒートシンク32の板状部33の上面との間にろう材箔35を介在させ、これらを加圧した状態で真空中で加熱してろう付けする。この場合のろう材箔35としては、例えばAl−10.5質量%Siからなる50μm厚さのものが用いられる。加圧力としては例えば0.7MPa(7kg/cm)、加熱温度としては例えば610℃とされる。この場合の加圧装置としても図6と同様のものが用いられるが、ヒートシンク32にピン状にフィン34が突出しているので、ヒートシンク32に接するカーボンシートとしては、これらフィン34を配置する穴のあいたカーボンシートが用いられ、フィン34の周囲でヒートシンク31の板状部32を押さえるようにする。
【0035】
このように製造することにより、セラミックス基板2,3を介して最上段の金属板4A〜4Eと中間の金属板5A,5Bとが接続状態とされ、第1実施形態と同様の電気的特性のものが得られるとともに、ヒートシンク32と一体のパワーモジュール用基板31として提供することができる。
【0036】
<第4実施形態>
第3実施形態では、2枚のセラミックス基板2,3と3層の金属板4A〜4E,5A,5B,6とを先に接合した後にヒートシンク32を接合したが、第4実施形態では、これらを同時に接合したヒートシンク付パワーモジュール用基板41を提供する。この第4実施形態では、各要素の符号は第3実施形態と同一として説明する。
【0037】
このような構造のパワーモジュール用基板41を製造するには、セラミックス基板2,3を前述した第1実施形態等と同様の方法によりグリーンシートを焼成して作製するとともに、各金属板4A〜4E,5A,5B,6をプレス加工により打ち抜き成形する。また、熱間鍛造により、板状部33とフィン34とを一体成形したヒートシンク32を作製する。金属板4A〜4E,5A,5B,6については、図14に示すように、セラミックス基板2,3との接合面及びヒートシンク32との接合面、つまり、最上段の金属板4A〜4Eは裏面、中間層の金属板5A,5Bは凸部12を除いて両面の平面部分、最下段の金属板6は両面に、それぞれ蒸着等により厚さ0.4μm程度の銅層42を形成しておく。
【0038】
そして、ヒートシンク32の板状部33の上面に、各金属板4A〜4E,5A,5B,6とセラミックス基板2,3とを交互に積層して、金属板5A,5Bの凸部12をセラミックス基板2の貫通孔11内に挿入した状態とし、図6と同様の加圧装置110に設置して加圧する。第3実施形態で述べたように、ヒートシンク32に接するカーボンシートは、フィン34を配置する穴のあいたカーボンシートが用いられ、フィン34の周囲でヒートシンク32の板状部33を押さえるようにする。加圧力としては、例えば0.6MPa(6kg/cm)とし、600℃の高温時に、凸部12が降伏する以上の荷重が作用するようにする。この加圧状態で10−3〜10−6Paの真空中で、600℃で0.5時間加熱することにより、3層の金属板4A〜4E,5A,5B,6と2枚のセラミックス基板2,3及びヒートシンク32とを同時に接合する。この接合法は、TLP接合法(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)と称される過渡液相接合法である。
【0039】
この過渡液相接合法においては、金属板4A〜4E,5A,5B,6の表面に蒸着させた銅層42が金属板4A〜4E,5A,5B,6とセラミックス基板2,3及びヒートシンク32との界面に介在しており、加熱により、その銅がまず金属板4A〜4E,5A,5B,6のアルミニウム中に拡散し、その金属板4A〜4E,5A,5B,6の銅層近傍の銅濃度が上昇して融点が低下し、これにより、アルミニウムと銅との共晶域にて接合界面に金属液相が形成される。この金属液相が形成された状態で温度を一定に保持しておくと、金属液相がセラミックス2,3又はヒートシンク32と一定温度で一定時間接触し反応するとともに、銅がさらにアルミニウム中に拡散することに伴い、金属液相中の銅濃度が徐々に低下して融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより金属板4A〜4E,5A,5B,6とセラミックス基板2,3及びヒートシンク32との強固な接合が得られ、凝固が進行した後に、常温にまで冷却する。
【0040】
このような過渡液相接合法における加圧力により、中間層の金属板5A,5Bに形成した凸部12も塑性変形しながら最上段の金属板4A〜4Eに接合し、セラミックス基板2の貫通孔11を経由して両金属板4A〜4E,5A,5Bが接続状態となる。この場合も、塑性変形により拡径した凸部12の外周面とセラミックス基板2の貫通孔11の内周面との間には隙間が形成される。
そして、セラミックス基板2を介して最上段の金属板4A〜4Eと中間の金属板5A,5Bとが接続状態とされるとともに、第3実施形態と同様に、ヒートシンク32と一体のパワーモジュール用基板41として提供することができる。
この製造方法によれば、セラミックス基板2,3、各金属板4A〜4E,5A,5B,6、ヒートシンク32とを一度に接合でき、組立作業の効率がよい。
【0041】
<第5実施形態>
以上の各実施形態では、基板としてセラミックス基板の両面の金属板にアルミニウムを用いた、いわゆるDBA(Direct Brazed Aluminum)基板の例を示したが、図15に示す第5実施形態のパワーモジュール用基板51では最上段の金属板52A〜52E及び中間層の金属板53A,53Bとして銅板が用いられる。また、図示例では、ヒートシンク54としてはストレートフィン55を有するヒートシンクが用いられる。なお、各金属板の平面形状及び平面上の配置は図4及び図5と同様とし、図15は図1同様、図4のA−A線に沿う断面に相当するものとし、各金属板52A〜52E,53A,53Bのうち、金属板52A,52C,52D,53Aが示されている。
【0042】
最上段及び中間層の両金属板52A〜52E,53A,53Bとしては例えば0.3mm厚さのタフピッチ銅が用いられる。最下段の金属板6は前述の各実施形態と同様に例えば厚さ2.0mmの99.99質量%純アルミニウム、セラミックス基板2,3としては厚さ0.635mmのAlNが用いられる。ヒートシンク54は、例えばA6063アルミニウム合金の押出成形により形成される。図示例では、紙面に直交する方向に押し出され、その押出方向に沿って帯板状にストレートのフィン55が形成される。寸法的に限定されるものではないが、例えば50mm角で厚さ5mmの板状部56の片面に、押出方向に沿う厚さ4mm、高さ15mmのストレート状のフィン55が複数形成されている。
【0043】
この構造のパワーモジュール用基板51を製造する場合、セラミックス基板2,3を前述した第1実施形態等と同様の方法によりグリーンシートを焼成して作製するとともに、各金属板52A〜52E,53A,53B,6をプレス加工により打ち抜き成形する。また、押出成形により、板状部56とフィン55とを一体成形したヒートシンク54を作製する。
【0044】
そして、これら金属板52A〜52E,53A,53B,6、セラミックス基板2,3、ヒートシンク54を一次接合と二次接合との2回に分けて接合する。一次接合においては、2枚のセラミックス基板2,3と最上段及び中間層の金属板52A〜52E,53A,53Bとをろう材を介して積層する。このろう材には、例えばAg−27.4質量%Cu−2.0質量%Tiの活性金属ろう材が用いられる。このろう材を介在させた積層体を加圧装置により850℃の高温時に、凸部12が降伏する以上の荷重が作用するように加圧し、真空中で850℃で約10分加熱する。
この一次接合では、ろう材中の活性金属であるTiが優先的にセラミックス基板2,3の表面に拡散してTiNを形成し、Ag−Cu合金を介して金属板52A〜52E,53A,53Bと接合する。そして、この一次接合時に中間層の金属板53A,53Bの凸部12がセラミックス基板2の貫通孔12を介して最上段の金属板52A〜52Eに接合する。
【0045】
次いで、二次接合では、最下段を構成する金属板6の両面に蒸着等により厚さ0.4μm程度の銅層57を形成しておき、ヒートシンクの板状部の上面に積層し、その上に一次接合体51Xの下段側セラミックス基板3を積層して、これらを過渡液相接合法(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)により接合する。その際の加圧力としては98kPa(1kg/cm)〜3.4MPa(35kg/cm)、10−3〜10−6Paの真空中で、600℃で0.5時間加熱する。
【0046】
<第6実施形態>
図16に示す第6実施形態のパワーモジュール用基板61は、金属板52A〜52E,53A,53B,62が全て銅(例えばタフピッチ銅)により形成されるとともに、ヒートシンク63も銅によって形成され、このヒートシンク63と最下段の金属板62との間がはんだ付けにより接合されている。セラミックス基板2,3は各実施形態と同様、AlNが用いられる。また、図示例ではヒートシンク63は板状のものが用いられている。
【0047】
このパワーモジュール用基板61を製造するには、まず、2枚のセラミックス基板2,3と3層の金属板52A〜52E,53A,53B,62とを活性金属接合により接合(一次接合)し、その後にヒートシンク63を接合(二次接合)する。
一次接合では、ろう材に、例えばAg−27.4質量%Cu−2.0質量%Tiの活性金属ろう材を用い、これら金属板とセラミックス基板との積層体を、850℃の高温時に凸部12が降伏する以上の荷重が作用するように加圧し、真空中で850℃で約10分加熱することにより、活性金属であるTiをセラミックス基板2,3に優先的に拡散させてTiNを形成し、Ag−Cu合金を介して金属板52A〜52E,53A,53B,62と接合する。
【0048】
次いで、二次接合では、一次接合体61Xの最下段の金属板62の裏面及びヒートシンク63の上面にそれぞれ無電解メッキにより例えば5μm程度の厚さでニッケルメッキを形成しておき、これらの間にSn−3.5質量%Ag−0.5質量%Cu等からなる厚さ200μmのはんだ箔64を介在して、例えば3%水素による還元雰囲気中で280℃まで加熱することにより、はんだ箔64をリフローさせ、冷却して接合する。
このパワーモジュール用基板61は、金属板52A〜52E,53A,53B,62がすべて銅により形成されているので、放熱性に優れている。
【0049】
さらに、金属板に凸部を一体に形成した実施形態として説明したが、図17に示すように、柱状の金属部材31を金属板4,5とは別に形成しておき、セラミックス基板2の貫通孔11内に金属部材31を配置して、その両端面を両金属板4,5に接合させるものとしてもよい。この場合は、金属部材71の両端面に接合部Pが形成される。
さらに、図18に示すように、両金属板4,5にそれぞれ凸部(金属部材)12A,12Bを形成しておき、セラミックス基板2の貫通孔11の長さの途中位置で接合される構成としてもよい。この場合は、貫通孔11の途中位置に接合部Pが形成される。
また、この金属部材は円柱状でなく、横断面多角形の柱状に形成し、貫通孔も同様の多角形とすることにより、貫通孔内で金属部材を回り止めすることが可能になり、多層構造とする場合の金属板の位置決めを容易にすることができる。
また、各実施形態ではセラミックス基板を2枚で金属板を3層構造としたが、これに限らず、セラミックス基板を3枚以上として金属板を積層してもよい。
さらに、本明細書では、ピンフィンやストレートフィンなどのフィン付のタイプに限らず、放熱板と呼ばれる板状のタイプも合わせてヒートシンクと定義する。
【符号の説明】
【0050】
1 パワーモジュール用基板
2,3 セラミックス基板
4,5,4A〜4E,5A,5B,6 金属板
7 電子部品
8 ヒートシンク
11 貫通孔
12,12A,12B 凸部(金属部材)
21 パワーモジュール用基板
22A,22B,23A〜23E 金属板
24 空洞部
31 パワーモジュール用基板
31X 一次接合体
32 ヒートシンク
33 板状部
34 フィン
35 ろう材箔
41 パワーモジュール用基板
42 銅層
51 パワーモジュール用基板
52A〜52E,53A,53B 金属板
54 ヒートシンク
55 フィン
61 パワーモジュール用基板
61X 一次接合体
62 金属板
63 ヒートシンク
71 金属部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセラミックス基板と金属板とを交互に積層して接合するとともに、セラミックス基板に形成した貫通孔を介して該セラミックス基板の両側の金属板を接続状態としたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板及び金属板を積層する際に、セラミックス基板の貫通孔内に、該貫通孔よりも長い柱状の金属部材を挿入しておき、前記セラミックス基板及び金属板を接合する際に前記金属部材を加圧して塑性変形させて、前記金属部材により前記セラミックス基板の両側の金属板を接合することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記金属部材と前記貫通孔の内周面との間に隙間を形成した状態で前記金属板を接合することを特徴とする請求項1記載のパワーモジユール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記金属部材は、前記セラミックス基板の両側に配置される両金属板の一方の表面に予め一体に立設しておくことを特徴とする請求項1又は2記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属部材は、前記セラミックス基板の両側に配置される両金属板のそれぞれの表面に予め一体に立設しておくことを特徴とする請求項1又は2記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属部材は、その長さ方向の両端に端面を有しており、前記セラミックス基板の両側に配置される両金属板にそれぞれ接合されることを特徴とする請求項1又は2記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
複数のセラミックス基板と金属板とを交互に積層して接合するとともに、セラミックス基板に形成した貫通孔の内部を介して該セラミックス基板の両側の金属板を接続状態としたパワーモジュール用基板であって、前記貫通孔内に挿入された金属部材が塑性変形した状態で前記セラミックス基板の両側の金属板が接合されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項7】
前記金属部材と前記貫通孔の内周面との間に隙間が形成されたことを特徴とする請求項6記載のパワーモジュール用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−235077(P2012−235077A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175282(P2011−175282)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】