説明

パーキングブレーキを操作するための方法及び装置

パーキングブレーキの引張分力の検出は、本発明に従って、パーキングブレーキの動力伝達装置(8)の摩擦損失及び劣化損失を最小にし、動力測定を、駆動装置(6)において直接的に行うか、又は駆動装置(6)によって行うことによって、行われる。摩擦損失及び劣化損失の最小化は、動力伝達装置(8)の少なくとも一部が液密な被覆部で被覆され、この被覆部を潤滑剤で満たすことによって、行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両車輪用の少なくとも1つのパーキングブレーキを操作するための方法及び装置に関する。
【0002】
ケーブル牽引装置(ケーブルプーラー)を備えた電動式のパーキングブレーキ(EPB)として構成された、パーキングブレーキ(駐車ブレーキ、ハンドブレーキ)用の操作装置は、電動モータとして構成されたそれぞれ1つの駆動装置と、歯車伝動装置、スピンドル駆動装置及びケーブル牽引装置として構成された動力伝達装置とを有している。この操作装置はさらに、一般的な形式で、パーキングブレーキの引張分力を検出するための装置を備えている。この装置は一般的に、例えば引張分力を直接検出する厚膜センサとして構成された別個のセンサと、距離測定を介して引張分力を間接的に検出する距離センサとから成っている。このセンサは、動力伝達装置のスピンドル駆動装置の出力部に配置されているか、又はパーキングブレーキ自体に配置されている。
【0003】
本発明の課題は、自動車車輪用の少なくとも1つのパーキングブレーキを操作するための方法及び装置を改良して、パーキングブレーキの引張分力を検出するための別の、特により簡単な可能性を提供することができるようにすることである。
【0004】
この課題を解決するための本発明の方法及び装置は、請求項1若しくは請求項3に記載されている。
【0005】
本発明の方法の手段によれば、動力伝達装置の摩擦損失及び劣化損失を最小にし、パーキングブレーキの引張分力を検出するために、動力測定を、駆動装置において直接的に行うか、又は駆動装置によって行うようにした。
【0006】
本発明は、基本的にパーキングブレーキの引張力を、駆動装置の駆動力を検出することによって、例えば電動モータの電流を測定することによって、検出する、という考え方から出発している。しかしながら、これに反して、動力伝達装置の効率は、特に歯車伝動装置及びスピンドル駆動装置の摩耗に基づいて、その経年劣化が著しく変化し、それによって動力検出の精度が相応に低下することになる。たしかに、動力伝達装置の構成部分は、組込時に潤滑剤によって濡らされるが、長期の駆動運転時には、潤滑膜が完全に無くなるまで損耗できるので、引張分力の検出時における不正確さは、2桁のパーセント範囲に達する。
【0007】
このような理由により、本発明によれば、動力伝達装置の摩擦損失及び劣化損失は、最小にされる。これは有利には、動力伝達装置の少なくとも一部を液密な被覆部によって被覆し、該液密な被覆部を潤滑剤で満たして、前記動力伝達装置の当該部分を連続的に、かつ均一に前記潤滑剤で洗浄することによって、動力伝達装置の摩擦損失及び劣化損失を最小になるようにした。このような形式で、劣化の機械的な影響は、特に歯車伝動装置及びスピンドル駆動装置の領域において、無視できる程度に小さく維持することができる。
【0008】
動力測定は、駆動装置で直接行われるか、又は駆動装置によって行われる。1つの可能性によれば、駆動装置に相応のセンサが配置されている。別の可能性によれば、駆動装置に供給されたエネルギー、又は駆動装置から導出可能な値の直接的な検出は、例えば電動モータとして構成された駆動装置の電流を測定することによって行われる。
【0009】
この場合、別個のセンサを省くことができる。本発明の別の利点は、動力伝達装置の構成部分の摩耗が最小化される、という点にある。これによって、場合によっては、機械的な構成部分の寸法を縮小することができ、全体的にコンパクトな構造が得られる。
【0010】
本発明の別の利点は、動力伝達装置の構成部分を洗浄する潤滑剤が、機械的な振動も、また雑音発生も考慮して、システムを著しく緩衝することができる、という点にある。これは、潤滑剤を相応に選択することによって促進される。潤滑剤として、液状の潤滑剤も、また固定の潤滑剤も使用することができる。
【0011】
操作装置は、個別のブレーキのためにも、また複数のブレーキ特に2つのブレーキのためにも、設計することができる。
従来技術において設けられた、パーキングブレーキのブレーキライニング摩耗を補償するための調整法は、本発明に従って構成された、パーキングブレーキ用の操作装置においても設けることができる。
【0012】
本発明のその他の有利な実施態様は、従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】2つのパーキングブレーキ用の従来の操作装置(ケーブルプーラー)の部分の上から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
2つのパーキングブレーキ用の従来の操作装置(ケーブルプーラー)の部分を上から見た斜視図を用いて、本発明のその他の詳細及び利点を説明する。
【0015】
図示の操作装置2は、自動車の2つの車輪用の2つの個別の車輪パーキングブレーキ(図示せず)を備えた伝動パーキングブレーキ(EPB)を操作するための、いわゆるケーブルプーラー(Cable-Puller)より成っている。図示のように、操作装置2はケーシング4を有しており、このケーシング4は、一般的な形式でカバー(図示せず)によって閉鎖されている。
【0016】
ケーシング内には、電動モータとしての駆動装置6と、動力伝達装置8の一部とが配置されている。動力伝達装置8は、駆動装置6の駆動力を2つの車輪パーキングブレーキ(図示せず)に伝達するための、歯車伝動装置10と、右側のスピンドル12a及び左側のスピンドル12bを備えたスピンドル駆動装置12と、右側のケーブル14a及び左側のケーブル14bを備えたケーブル牽引装置とから成っている。このような形式の「ケーブルプーラー」の構造及び機能形式は公知であるので、それについては詳しく説明しない。
【0017】
歯車伝動装置10及びスピンドル駆動装置12は、ケーシング4のチャンバ16a,16b,16c及び16d内に配置されている。本発明によれば、これらのチャンバは、動力伝達装置8の当該の構成部材の液密な被覆部を形成するように、構成されている。この液密な被覆部は、液状又は固形の潤滑剤によって満たされているので、動力伝達装置の当該の構成部分は、連続的かつ均質に潤滑剤によって洗浄される。チャンバ16a,16b,16c及び16dは、互いに独立して構成されているか、又は互いに結合されて構成されている。また、例えばボーデンケーブル(Bowdenzuege)として構成されたケーブル14a,14bも潤滑剤で満たされる。
【0018】
冒頭に述べたように、当該の液密な被覆部を潤滑剤で満たすことによって、駆動装置6と車輪パーキングブレーキとの間の機械的な動力伝達経路上の摩擦損失及び劣化損失を減少させることができる。この場合に重要なことは、動力伝達装置8の効率が、操作装置2の耐用年数に亘って事実上変化しない、ということである。
【0019】
これによって、車輪パーキングブレーキの引張分力の検出は、従来技術におけるようにスピンドル駆動装置12の出力部で行われるのではなく、駆動部6において若しくは駆動部6自体によって行われる。
【0020】
このための可能性は、駆動装置6に相応のセンサ(図示せず)を配置する点にある。この場合、従来技術とは異なり、センサは定置に配置されており、それによってセンサ構造は相応に簡略化される。
【0021】
本発明の別の可能性によれば、動力測定は、駆動装置6自体によって直接的に行われる。これは有利な形式で、駆動装置6(電動モータ)に供給された電流を測定することによって行われ、その場合も、駆動装置6の別の駆動値、例えばトルクを検出することができる。別個のセンサはもはや必要なくなる。
【0022】
本発明に従って構成された操作装置において、動力伝達装置の作用効率は、当該の動力伝達構成部分が潤滑剤で洗浄されることに基づいて、事実上変化しないので、駆動装置6における又は駆動装置6による動力検出によって、パーキングブレーキに作用する引張分力は、高い精度で検出することができる。これによって、冒頭に述べた利点が得られる。
【0023】
図示の操作装置2は、2つの車輪パーキングブレーキのために設計されている。しかしながら、本発明は、個別のパーキングブレーキ又は2つ以上のパーキングブレーキのために設計された操作装置においても使用することができる。また、動力伝達が共通のスピンドル駆動装置から唯一のケーブルに伝達される操作装置も可能である。次いで、唯一のケーブルは、2つ又はそれ以上の車輪パーキングブレーキを操作するための2つ又はそれ以上の別個のケーブルに分岐される。
【0024】
潤滑剤として有利には、潤滑剤によって洗浄される、動力伝達装置の部分を最適に緩衝する潤滑剤が選択される。緩衝は、機械的な振動を考慮して、また操作装置の雑音発生を考慮して、最適に作用する。前述のように、液状の又は固形の潤滑剤を使用してもよい。
【0025】
前述のように、本発明によれば、パワーセンサの節約、動力伝達装置の摩耗の減少、機械的な構成部分の寸法縮小、コンパクトな構造、並びに動力伝達装置の最適な緩衝が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置(6)と動力伝達装置(8)と、パーキングブレーキの引張分力を検出するための装置とを有する、車両車輪のための少なくとも1つのパーキングブレーキを操作するための方法において、
動力伝達装置(8)の摩擦損失及び劣化損失を最小にし、パーキングブレーキの引張分力を検出するために、動力測定を、駆動装置(6)で直接行うか、又は駆動装置(6)によって行うことを特徴とする、パーキングブレーキを操作するための方法。
【請求項2】
動力伝達装置(8)の少なくとも一部を液密な被覆部によって被覆し、該液密な被覆部を潤滑剤で満たして、前記動力伝達装置(8)の当該部分を連続的に、かつ均一に前記潤滑剤で洗浄することによって、動力伝達装置(8)の摩擦損失及び劣化損失を最小にする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
駆動装置(6)と動力伝達装置(8)と、パーキングブレーキの引張分力を検出するための装置とを有する、自動車車輪用の少なくとも1つのパーキングブレーキを操作するための装置において、
引張分力を検出するための装置が、動力伝達装置(8)の摩擦損失及び劣化損失を最小にするための手段と、駆動装置(6)において直接的に動力測定を行うか又は駆動装置(6)によって動力測定を行うための手段とを有していることを特徴とする、パーキングブレーキを操作するための装置。
【請求項4】
動力伝達装置(8)の摩擦損失及び劣化損失を最小にするための前記手段が、動力伝達装置(8)の少なくとも一部を液密に被覆する被覆部と、該被覆部を潤滑剤で満たすことから成っている、請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記動力伝達装置(8)が、歯車伝動装置(10)と、スピンドル駆動装置(12)とケーブル(14a,14b)とを有しており、少なくとも歯車伝動装置(10)とスピンドル駆動装置(12)とが、液密な被覆部内に配置されている、請求項3又は4記載の装置。
【請求項6】
前記歯車伝動装置(10)と前記スピンドル駆動装置(12)とが、前記駆動装置(6)と一緒に共通のケーシング(4)内に配置されており、前記液密の被覆部が、歯車伝動装置(10)とスピンドル駆動装置(12)とを収容する、前記ケーシング(4)内のチャンバをカプセル状に包囲したものより成っている、請求項5記載の装置。
【請求項7】
有利にはボーデンケーブルとして構成されたケーブル(14a,14b)が潤滑剤で満たされている、請求項5又は6記載の装置。
【請求項8】
動力伝達装置(8)の当該部分を最適に緩衝する潤滑剤が設けられている、請求項4から7までのいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
動力測定を行うための手段が、駆動装置(6)に配置されたセンサより成っている、請求項3から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
動力測定を行う前記手段が、駆動装置(6)に供給されたエネルギーを直接検出することによって、又は駆動装置(6)に供給されたエネルギーから導出可能な、駆動装置(6)の運転値を検出することによって、形成されている、請求項3から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
電動モータに供給された電流、又は電動モータに供給された電流から導き出される、電動モータの運転値が検出される、請求項10記載の装置。
【請求項12】
引張分力を検出する際にゼロ位置調節を可能にするために、駆動装置(6)の、ブレーキなしの操作部分を、パーキングブレーキを操作する装置内に作用する摩擦力を検出するために利用する調整手段が設けられている、請求項3から10までのいずれか1項記載の装置。

【図1】
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【公表番号】特表2009−538777(P2009−538777A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512592(P2009−512592)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055276
【国際公開番号】WO2007/138087
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(508097870)コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (205)
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
【住所又は居所原語表記】Vahrenwalder Strasse 9, D−30165 Hannover, Germany
【Fターム(参考)】