説明

ヒアルロン酸産生促進剤

【課題】安全で、かつ簡便に用いることができる、ヒトにおけるヒアルロン酸産生能を促進させヒアルロン酸量を増加させるヒアルロン酸産生促進剤を提供する。該ヒアルロン酸産生促進剤は皮膚外用剤、飲食品、経口用製剤等に好適に用いられ、ヒト皮膚の老化防止(皮膚のハリや弾力保持)、保湿、潤い、関節炎等の予防・治療、熱傷の初期の治療等に有効に適用され得る。
【解決手段】ウチワサボテン属(Opuntia)に属する植物の果実から得られるカクタスフルーツ果汁からなるヒアルロン酸産生促進剤。ウチワサボテン属(Opuntia)の植物として、ウチワサボテン(Opuntia ficus-indica)、オプンティアエンゲルマンニィ(O. engelmannii)、オプンティアディエレンニィ(O. dillenii)等が好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカクタスフルーツ果汁からなるヒアルロン酸産生促進剤に関する。さらに詳しくは、ヒトにおけるヒアルロン酸産生能を促進させるヒアルロン酸産生促進剤に関する。該ヒアルロン酸産生促進剤は、ヒト皮膚の老化防止(皮膚のハリや弾力保持)、保湿、潤い、関節炎等の予防・治療、熱傷の初期の治療等に有効に適用され得る。
【背景技術】
【0002】
近年、老化に関する研究が進められている。皮膚老化の原因は、マクロ的にみれば加齢が重要な因子であるが、それに加えて乾燥、酸化、太陽光(紫外線)等による影響も皮膚老化に関わる直接的な因子として挙げられる。皮膚老化の具体的な現象としては、ヒアルロン酸をはじめとするムコ多糖類の減少、コラーゲンの架橋反応、紫外線による細胞の損傷などが知られている。
【0003】
なかでもヒアルロン酸は、細胞間隙への水分の保持、組織内にジェリー状のマトリックスを形成することに基づく細胞の保持、組織の潤滑性と柔軟性の保持、機械的障害等の外力に対する抵抗、および細菌感染の防止など、多くの機能を有している。例えば、皮膚のヒアルロン酸量は加齢とともに減少し、それに伴い、小ジワやかさつき等の皮膚老化が現れるといわれている。そのため、このような老化した皮膚の改善剤として、ヒアルロン酸やコラーゲンを配合した化粧料が数多く提案されている。しかしながらこれら従来の化粧料は、皮膚表面における保湿効果を発揮するだけであり、本質的に老化肌を改善し得るものではない。また、皮膚細胞賦活剤として各種のビタミン類や生薬類を配合した化粧料が提案されているが、これらもやはり老化肌を改善、治療し得るまでには至っていないのが現状である。
【0004】
さらに、関節液中に含まれるヒアルロン酸は、関節軟骨の表面を覆い、関節機能の円滑な作動に役立っている。正常人関節液中のヒアルロン酸濃度は約2.3mg/mLであるが、慢性関節リウマチの場合、関節液中のヒアルロン酸濃度は約1.2mg/mLと低下し、同時に関節液の粘度も著しく低下する(非特許文献1)。また、化膿性関節炎や痛風性関節炎などでも慢性関節リウマチの場合と同様、ヒアルロン酸含量の低下が起こることが知られている(非特許文献2)。上記疾患において、潤滑機能の改善、関節軟骨の被覆・保護、疼痛抑制および病的関節液の改善若しくは正常化のために、関節液中のヒアルロン酸量を増加させることが考えられる。例えば、慢性関節リウマチ患者にヒアルロン酸ナトリウムの関節注入療法を行うと上記の改善が認められることが報告されている(非特許文献3)。同様に、外傷性関節炎、骨関節炎や変形性関節炎においても、ヒアルロン酸の関節注入療法により上記の改善効果が報告されている。(非特許文献4)。
【0005】
しかしながら、上記疾患の治療は長期にわたり、しかも医師の処方を必要とする。従って、日常生活のなかで手軽に治療することができるヒアルロン酸産生促進剤を含有させた皮膚外用剤が望まれていた。
【0006】
また、熱傷受傷後の治癒過程で、壊死組織の下方から増生してくる肉芽組織の初期から組織全体が肉芽組織に置き換えられるまでの期間では、肉芽中にヒアルロン酸が著しく増加することが知られており(非特許文献5)、熱傷の初期の治療薬としても、ヒアルロン酸産生促進剤が期待されている。
【0007】
一方、ヒト細胞のヒアルロン酸を産生する薬剤としては、インシュリン様成長因子−1や上皮成長因子(非特許文献6)およびインターロイキン−1(非特許文献7)などのサイトカイン、あるいはフォルボールエステル(非特許文献8)などが知られているが、いずれも化粧品、入浴剤や医薬品等として簡便にかつ安心して使用することができるものではない。
【0008】
後述するように、本発明はサボテン類の中のカクタスフルーツ果汁を利用した技術である。これまでにサボテン類を利用した技術として、例えば以下に示す文献に記載の技術が知られている。
【0009】
すなわち、特開平6−271452号公報(特許文献1)には、サボテン類植物抽出物が抗酸化作用、過酸化脂質生成抑制作用を有することや、これら作用を利用してサボテン類植物抽出物を配合した皮膚化粧料が記載されている。
【0010】
特開2003−300860号公報(特許文献2)には、(A)ハンニチバナ科植物由来の特定の化合物と、(B)サボテン抽出物のほか、カンゾウ抽出物、ヨクイニン抽出物など十余種類の植物・果実等の抽出物を含有する、美白用皮膚外用剤および/または老化防止用皮膚外用剤が記載されている。
【0011】
特開2007−143518号公報(特許文献3)には、ウチワサボテン属のプリックリィペアカクタス(Prickly pear cactus)の果実から得られるベタレインが抗酸化力を有することや、該ベタレインを含む食品、化粧品が記載されている。
【0012】
特開2005−8539号公報(特許文献4)には、サボテンほか約十種類の中から選ばれる植物あるいはその抽出物を含むマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤について記載されている。
【0013】
特開2002−68933号公報(特許文献5)には、ウチワサボテン属植物の抽出物や圧搾汁を含有する線維芽細胞増殖促進剤について記載されている。
【0014】
しかしながら、サボテン類の中のカクタスフルーツ果汁がヒアルロン酸産生促進効果に優れ、ヒト細胞においてヒアルロン酸量を積極的に増加させる作用を有することは、上記文献のいずれにも記載・示唆がなく、本発明者が知る限りにおいてこれまで全く知られていなかった。本発明でのヒアルロン酸産生促進とはヒアルロン酸量増加を意味する。
【0015】
なお、上記特許文献4にマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤について記載されているが、マトリックスメタロプロテアーゼは細胞外マトリックスタンパク質(例えば、コラーゲン等)を分解する酵素であり、マトリックスメタロプロテアーゼ活性阻害(=酵素活性阻害)作用は、細胞外マトリックス成分の一つであるヒアルロン酸の産生作用を促進させてヒアルロン酸量を積極的に増加促進させる作用とは全く別異のもので、両作用に関連性はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平6−271452号公報
【特許文献2】特開2003−300860号公報
【特許文献3】特開2007−143518号公報
【特許文献4】特開2005−8539号公報
【特許文献5】特開2002−68933号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】"Arthritis Rheumatism"、vol.10、p.357(1967)
【非特許文献2】「結合組成」、金原出版、481頁、1984年
【非特許文献3】「炎症」、日本炎症学会、11巻、16頁、1991年
【非特許文献4】「結合組織と疾患」、講談社、246頁、1980年
【非特許文献5】「結合組織と疾患」、講談社、153頁、1980年
【非特許文献6】"Biochemica Biophysica Acta"、1014、p.305(1989)
【非特許文献7】「日本産科婦人科学会」雑誌、41巻、1943頁、1989年
【非特許文献8】"Experimental Cell Research"、vol.148、p.377(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、安全で、かつ簡便に用いることができる、ヒトにおけるヒアルロン酸産生能を促進させてヒアルロン酸量を増加させるヒアルロン酸産生促進剤を提供することを目的とする。本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、食品、皮膚外用剤、経口剤等に配合してヒト皮膚の老化防止(皮膚のハリや弾力保持)、保湿、潤い、関節炎等の予防・治療、熱傷の初期の治療等に有効に適用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは上記課題の解決に向けて広く種々の物質にヒアルロン酸産生促進能を調べた結果、ウチワサボテン属(Opuntia)に属する植物の果実から得られるカクタスフルーツ果汁に極めて優れたヒアルロン酸産生促進作用を有することを見出した。
【0020】
すなわち本発明によれば、ウチワサボテン属(Opuntia)に属する植物の果実から得られるカクタスフルーツ果汁からなるヒアルロン酸産生促進剤が提供される。
【0021】
また本発明によれば、ウチワサボテン属(Opuntia)に属する植物としてオプンティアエンゲルマンニィ(Opuntia engelmannii)を用いる、上記ヒアルロン酸産生促進剤が提供される。
【0022】
また本発明によれば、経口用である、上記ヒアルロン酸産生促進剤が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は優れたヒアルロン酸産生促進作用を有しており、ヒト皮膚の老化防止(皮膚のハリや弾力保持)、保湿、潤い、関節炎等の予防・治療、熱傷の初期の治療等に有効に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例におけるヒアルロン酸産生促進効果の結果を示すグラフである。
【図2】実施例における肌アンケート結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳述する。
【0026】
カクタスフルーツは、サボテン科ウチワサボテン属(Opuntia)に属する食用サボテン類の果実をいう。これら食用サボテン類は、メキシコやアメリカ南部に自生し、現在はインド、北アフリカ、ヨーロッパ等で栽培もされている。果実は楕円形をなし、果皮表面が鋭い小さな棘で覆われていることから、プリックリィペアカクタス(Prickly pear cactus)等とも称される。ウチワサボテン属(Opuntia)に属する食用サボテン類としては、例えばウチワサボテン(Opuntia ficus-indica)、オプンティアエンゲルマンニィ(O. engelmannii)、オプンティアディエレンニィ(O. dillenii)、オプンティアストリクタ(O. stricta)、オプンティアエラタ(O. elata)、オプンティアフラジリス(O. fragilis)、オプンティアストレプトアキャンザ(O. streptacantha)、オプンティアポリアキャンザ(O. polyacantha)、オプンティアビオラセア(O. violacea)等が含まれる。
【0027】
カクタスフルーツ果汁は、カクタスフルーツを圧搾して得られる果実圧搾汁液、若しくは適当な溶媒で抽出して得られる果実抽出液である。圧搾、抽出は常法により行うことができる。
【0028】
圧搾による方法では、例えば、カクタスフルーツをすり潰してピューレとした後、これを細かな網目状のスクリーンに通してろ過することにより果実液を得ることができる。通常はこの果実液にさらにリンゴ酸等を添加してpH調整した後、タンクに貯蔵し、90℃近い温度で30秒間程度加熱して滅菌し、その後、冷却装置で常温に冷却する等の方法で得ることができる。所望により濃縮してもよい。
【0029】
抽出による方法では、例えば、カクタスフルーツを必要により乾燥した後、抽出溶媒に一定期間浸漬するか、あるいは加熱還流している抽出溶媒と接触させ、次いで濾過し、濃縮して得ることができる。抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。上記溶媒で抽出して得た抽出液をそのまま、あるいは濃縮したエキスを用いるか、あるいはこれらエキスを吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD−2)のカラムにて吸着させた後、メタノールまたはエタノールで溶出し、濃縮したものも使用することができる。また分配法、例えば水/酢酸エチルで抽出した抽出物等も用いられる。
【0030】
このようにして得たカクタスフルーツ果汁は、安全性が高く、優れたヒアルロン酸産生促進作用を有する。カクタスフルーツ果汁にヒアルロン酸産生促進作用があることはこれまで全く知られておらず、本発明者らによってこれら作用をもつことが初めて確認されたものである。カクタスフルーツ果汁は、例えば(株)リバー食品から「カクタス濃縮果汁」等として市販されており、これら市販品を利用してもよい。
【0031】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、皮膚外用剤に配合してヒトおよび動物に用いることができる他、各種飲食品、飼料(ペットフード等)に配合して摂取させることができる。また医薬製剤としてヒトおよび動物に投与することができる。
【0032】
本発明のカクタスフルーツ果汁を皮膚外用剤に配合する場合、カクタスフルーツ果汁の配合量(100%果汁質量)は外用剤全量中、0.000001〜1質量%が好ましく、より好ましくは0.00001〜0.05質量%である。
【0033】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤を皮膚外用剤に適用する場合、上記成分に加えて、さらに必要により、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば酸化防止剤、油分、紫外線防御剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0034】
さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0035】
またこの皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等、特に好適には化粧料に広く適用することが可能であり、その剤型も、皮膚に適用できるものであればいずれでもよく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。
【0036】
使用形態も任意であり、例えば化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料やファンデーション、口紅、アイシャドウ等のメーキャップ化粧料、芳香化粧料、浴用剤等に用いることができる。
【0037】
また、メーキャップ化粧品であれば、ファンデーション等、トイレタリー製品としてはボディーソープ、石けん等の形態に広く適用可能である。さらに、医薬部外品であれば、各種の軟膏剤等の形態に広く適用が可能である。そして、これらの剤型及び形態に、本発明のヒアルロン酸産生促進剤の採り得る形態が限定されるものではない。
【0038】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤を飲食品や飼料等に配合する場合、カクタスフルーツ果汁の配合量(100%果汁質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができ、例えば、飲食品全量中に0.1〜300質量%程度とすることができ、好ましくは1〜150質量%である。なおここで100質量%を超える配合量数値は、濃縮果汁を用いた場合、この濃縮果汁を100%果汁に希釈した場合の配合量に換算した値である。特に、保健用飲食品等として利用する場合には、本発明の有効成分を所定の効果が十分発揮されるような量で含有させることが好ましい。
【0039】
飲食品や飼料の形態としては、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、または、液体状に任意に成形することができる。これらには、飲食品等に含有することが認められている公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤などの賦形剤を適宜含有させることができる。
【0040】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤を医薬製剤として用いる場合、該製剤は経口的にあるいは非経口的(静脈投与、腹腔内投与、等)に適宜に使用される。剤型も任意で、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、または、注射剤などの非経口用液体製剤など、いずれの形態にも公知の方法により適宜調製することができる。これらの医薬製剤には、通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤などの賦形剤を適宜使用してもよい。
【0041】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤を、皮膚外用剤、飲食品、飼料、医薬製剤等として用いる場合、ヒアルロン酸量低下等が関与する種々の症状や疾病、病態等の治療、予防、改善等に役立つ。具体的適用例としては、例えば、ヒト皮膚の老化防止(皮膚のハリや弾力保持)、保湿、潤い、関節炎等の予防・治療、熱傷の初期の治療等に好適に用いられる。また上記症状や疾病、病態等の治療、予防、改善等の生理機能をコンセプトとして、その旨を表示した皮膚外用剤、機能性飲食品、疾病者用食品、特定保健用食品等に応用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
1.試料の調製
カクタスフルーツ果汁として、(株)リバー食品の「カクタス濃縮果汁」を用いた。該製品はオプンティアエンゲルマンニィ(O. engelmannii)の果汁を300%濃縮(=100%果汁を3倍に濃縮)したものである。
【0044】
2.ヒアルロン酸量測定
上記1.で得た試料のヒアルロン酸産生促進作用を評価した。すなわち、24ウェルプレートに、5.0×104細胞/ウェルの濃度でヒト真皮線維芽細胞を播種し、コンフルエント状態にしたところで、上記1.の試料(最終濃度0.03%、0.003%)を含む500μLのDMEM(0.5%FBS含有)培養液を添加した。添加後、72時間インキュベーションした後、ELISA法にてヒアルロン酸産生量を測定した。なお対照例(コントロール)として、滅菌水(試料添加なし)を用いた。測定にはHyaluronan assay kit(生化学バイオビジネス社製)を用いた。結果を図1に示す。同図中、縦軸はヒアルロナン(hyaluronan。ヒアルロン酸と同義)産生量〔対照例(コントロール)に対するヒアルロナン産生量(%)〕を示す。
【0045】
図1の結果から明らかなように、カクタスフルーツ果汁含有培地で培養した細胞でのヒアルロン酸量が、コントロール細胞でのヒアルロン酸量に比べ増大した。すなわちカクタスフルーツ果汁に優れたヒアルロン酸産生促進効果があることが確認された。
【0046】
なお上記試験(ヒアルロン酸量測定)方法は、通常ヒアルロン酸産生促進効果を評価する方法として用いられており、ヒアルロニダーゼ分解抑制効果を評価する方法ではないとされている。ヒアルロニダーゼ分解抑制効果の評価では、上述のような72時間という短期間でヒアルロン酸量が1.1.〜1.2倍(対コントロール)という高いヒアルロン酸量の増加は考えられず、少なくともヒアルロン酸産生促進作用が関与しないとこのような結果になり得ない。In vitroの試験ではカクタスフルーツ好適濃度は0.0001%〜0.05%である。
【0047】
(実施例2)
1.試料の調製
カクタスフルーツ果汁として、(株)リバー食品の「カクタス濃縮果汁」を用いた。150%濃縮果汁液(100mL)を試料とした。
【0048】
2.試験方法
5名のパネルにより、夕方に上記試料(飲料)を100mL摂取し、翌朝の肌改善効果をVAS法によるアンケート解析を用いて摂取前後での比較を行った。
【0049】
VAS法(Visual Analogue Scale)とは、視覚的アナログ尺度と訳され、痛みなどを客観的に評価するために「無痛」から「最強の苦痛」までの表現を0から100mmのライン上に回答する方法である。今回は、満足度を尺度にとり、「肌のうるおいがない」を0点、「肌のうるおいがある」を100点とし、同様に「肌のはりがない」を0点、「肌のはりがある」を100点とし、ライン上の任意のポイントを被験者にチェックさせることによって評価を実施した。結果を図2に示す。図2では「経口摂取前のアンケート結果」をコントロールとし、図の縦軸を「カクタスフルーツ果汁経口摂取前アンケート結果に対する経口摂取後の相対評価」とした。
【0050】
図2に示す結果から明らかなように、「肌のうるおい」アンケートでは、「カクタスフルーツ果汁経口摂取前」と比較して「カクタスフルーツ果汁経口摂取後」において高い肌のうるおい効果が得られた。同様に「肌のハリ」アンケートでも、「カクタスフルーツ果汁経口摂取前」と比較して「カクタスフルーツ果汁経口摂取後」において高い肌のハリ効果が得られた。
【0051】
以下に配合処方例を示す。以下において「カクタスフルーツ果汁」配合量は100%果汁での配合量(質量%)で示す。
【0052】
[配合処方例1:錠剤]
(配合成分) (質量%)
ショ糖エステル 16.1
結晶セルロース 16.4
メチルセルロース 15.4
グリセリン 1.7
シカクマメ抽出物(乾燥質量) 2
コラーゲンペプチド 6
ハトムギ抽出物(乾燥質量) 0.7
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 6
N−アセチルグルコサミン 12
ヒアルロン酸 10
ビタミンE 2
ビタミンB6 1.3
ビタミンB2 0.7
α−リポ酸 1.3
コエンザイムQ10 2.7
セラミド(コンニャク抽出物) 3.7
L−プロリン 2
【0053】
[配合処方例2:ドリンク剤]
(配合成分) (質量%)
コラーゲンペプチド 1
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 1
ハトムギ抽出物(乾燥質量) 0.4
還元麦芽糖水飴 5.6
エリスリトール 1.6
クエン酸 0.4
香料 0.3
N−アセチルグルコサミン 0.2
ヒアルロン酸 0.1
ビタミンE 0.06
α−リポ酸 0.04
コエンザイムQ10 0.24
水 残余
【0054】
[配合処方例3:ドリンク剤]
(配合成分) (質量%)
こんにゃく芋抽出物(セラミド含有) 0.001
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 10
甘草抽出物 0.4
ハトムギ抽出物(乾燥質量) 0.4
γ−アミノ酪酸(GABA) 0.06
ビタミンC 0.003
酵素処理ヘスペリジン 0.1
クエン酸 0.4
ビタミンE 0.02
アセスルファムカリウム 1
スクラロース 1
香料 0.3
水 残余
【0055】
[配合処方例4:ソフトカプセル]
(配合成分) (質量%)
食用大豆油 35.4
トチュウエキス 3.3
ニンジンエキス 3.3
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 6.7
ローヤルゼリー 3.3
マカ 2
γ−アミノ酪酸(GABA) 2
ミツロウ 4
ゼラチン 25
グリセリン 8
グリセリン脂肪酸エステル 7
【0056】
[配合処方例5:顆粒]
(配合成分) (質量%)
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 33.4
ビタミンC 8.3
大豆イソフラボン 20.8
還元乳糖 25
大豆オリゴ糖 3
エリスリトール 3
デキストリン 2.5
香料 2
クエン酸 2
【0057】
[配合処方例6:化粧水]
(配合成分) (質量%)
水 残余
エタノール 10
ブチレングリコール 7
ジプロピレングリコール 5
グリセリン 2
ポリエチレングリコール(PEG−6) 0.5
ポリエチレングリコール(PEG−32) 0.5
ヒドロキシエチルセルロース 0.1
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 0.2
アルギニン 0.01
イザヨイバラエキス 0.2
加水分解酵母エキス 0.02
ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
イチヤクソウエキス 0.2
水溶性コラーゲン 0.2
アセンヤクエキス 0.1
ポリプロピレングリコール−13デシルテトラデセス−24 0.5
クエン酸ナトリウム 0.05
メタリン酸ナトリウム 0.05
クエン酸 0.05
防腐剤 適量
香料 適量
【0058】
[配合処方例7:美容液]
(配合成分) (質量%)
(A相)
水 残余
グリセリン 6
エタノール 5
ジプロピレングリコール 5
ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール
−14/7ジメチルエーテル 3
ポリエチレングリコール−400 1
ポリアクリル酸ナトリウム 0.1
キサンタンガム 0.05
シカクマメエキス 0.3
アルギニン 0.01
イザヨイバラエキス 0.1
加水分解酵母エキス 0.2
ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
イチヤクソウエキス 0.3
水溶性コラーゲン 0.2
アセンヤクエキス 0.1
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 0.2
カルボキシビニルポリマー 0.3
ブチレングリコール 3
水酸化カリウム 0.15
(アクリル酸/アクリル酸アルキル(C10-30)コポリマー 0.1
メタリン酸ナトリウム 0.03
(B相)
シクロメチコン 2.5
ジメチコン 2
ポリエチレングリコール−60水添ヒマシ油 0.5
防腐剤 適量
香料 適量
(製法)
それぞれ均一に溶解したA相およびB相を室温にて混合し、ホモミキサー処理を行う。
【0059】
[配合処方例8:乳液]
(配合成分) (質量%)
(A相)
水 残余
ブチレングリコール 8
エタノール 5
ジプロピレングリコール 5
グリセリン 5
ジメチコン 2
2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(AMPD) 0.08
カルボキシビニルポリマー 0.15
EDTA−3Na 0.05
キサンタンガム 0.1
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 0.1
アルギニン 0.01
イザヨイバラエキス 0.2
加水分解酵母エキス 0.2
ヒアルロン酸ナトリウム 0.05
イチヤクソウエキス 0.3
水溶性コラーゲン 0.2
アセンヤクエキス 0.1
(B相)
ベヘニルアルコール 0.4
テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル 5
ポリエチレングリコール−60水添ヒマシ油 0.5
水添ポリデセン 2
水添パーム油 0.5
バチルアルコール 0.4
パーム核油 0.4
パーム油 0.1
防腐剤 適量
香料 適量
(製法)
A相(油相部)とB相(水相部)をそれぞれ70℃に加熱し、完全溶解する。A相をB相に加えてよく撹拌した後、乳化機で乳化する。得られた乳化物を、熱交換器を用いて冷却する。
【0060】
[配合処方例9:軟膏]
(配合成分) (質量%)
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 1
ステアリルアルコール 18
モクロウ 20
ポリオキシエチレン(20)モノオレイン酸エステル 0.25
グリセリンモノステアリン酸エステル 0.3
ワセリン 40
精製水 残余
(製造方法)
精製水にカクタスフルーツ果汁(100%果汁)を加えて溶解し、70℃に保つ(水相)。残りの成分を70℃にて混合溶解する(油相)。水相に油相を加え、ホモミキサーで均一に乳化後、冷却して軟膏を得る。
【0061】
[配合処方例10:貼付剤]
(配合成分) (質量%)
ヒアルロン酸産生促進剤:カクタスフルーツ果汁(100%果汁) 1
クロタミトン 3.2
エステル油(「パナセート875R」) 2.5
スクワラン 1
dl−カンフル 0.07
ポリオキシエチレン(60モル)硬化ヒマシ油 1.2
濃グリセリン 5
ゼラチン 1.2
ポリビニルピロリドン 0.6
メチルパラベン 適量
d−ソルビトール液 35
水酸化アルミニウム 0.2
亜硫酸ナトリウム 適量
エデト酸ナトリウム 適量
クエン酸 適量
カルボキシビニルポリマー 0.22
ポリアクリル酸ナトリウム 0.24
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2.8
カオリン 1
精製水 残余
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、安全で長期使用によっても副作用がなく、かつ簡便に用いることができ、しかもヒアルロン酸産生量増大に優れるヒアルロン酸産生促進剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウチワサボテン属(Opuntia)に属する植物の果実から得られるカクタスフルーツ果汁からなるヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項2】
ウチワサボテン属(Opuntia)に属する植物としてオプンティアエンゲルマンニィ(Opuntia engelmannii)を用いる、請求項1記載のヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項3】
経口用である、請求項1または2記載のヒアルロン酸産生促進剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−195473(P2011−195473A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61427(P2010−61427)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】