説明

ヒステリシスコンパレータ

【課題】 差動対に入力信号とオフセット電圧を入力し、この差動対に接続される負荷MOSトランジスタのゲートとドレインをたすき掛け接続する構成のヒステリシスコンパレータは、MOSトランジスタのサイズを調整することにより任意のヒステリシス幅を得ることができるが、ヒステリシス幅の1/2のオフセット電圧を与えなければならず、かつヒステリシス幅が半導体プロセスのばらつきによって変動してしまうという課題を解決する。
【解決手段】 差入力信号Vinと閾値Vthが入力される差動対30と負荷部31で構成され、ヒステリシス特性を有する第1のコンパレータ部と、負荷部32と差動対30で構成され、ヒステリシス特性を有さない第2のコンパレータ部の動作を、ヒステリシスコンパレータの出力Voutによって切り替えるようにした。第2のコンパレータ部が動作するときは、出力Voutが遷移する電圧は閾値Vthのみで決まるので、半導体プロセスの影響を受けない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒステリシスを有するコンパレータに関し、閾値が半導体プロセスの影響を受けることがないヒステリシスコンパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3に、従来のCMOS型ヒステリシスコンパレータの構成を示す。図3において、10は入力信号Vinとオフセット電圧Voffが入力されるコンパレータ部、11はコンパレータ部10の出力が入力される出力部である。
【0003】
コンパレータ部10は、差動対を構成するMOSトランジスタQ1、Q2、このMOSトランジスタQ1、Q2のぞれぞれに直列接続されたMOSトランジスタQ4、Q5、およびbias電圧がそのゲートに与えられたMOSトランジスタQ3で構成される。MOSトランジスタQ4、Q5のソースは正電源VDDに接続され、MOSトランジスタQ3のソースは負電源VSSに接続される。
【0004】
MOSトランジスタQ1、Q2のゲートにはそれぞれオフセット電圧Voff、入力信号Vinが印加される。このVoffとVinの大小関係により、MOSトランジスタQ1とQ2は相補的にオンオフする。なお、このコンパレータ部10の出力は、MOSトランジスタQ1とQ4の接続点の電圧である。MOSトランジスタQ1、Q2、Q4、Q5のサイズを変えることにより、ヒステリシス幅を変えることができる。
【0005】
MOSトランジスタQ1のドレインはMOSトランジスタQ4のドレインに接続され、MOSトランジスタQ2のドレインはMOSトランジスタQ5のドレインに接続される。すなわち、MOSトランジスタQ1とQ4、Q2とQ5は直列接続される。
【0006】
MOSトランジスタQ4のゲートとMOSトランジスタQ5のドレイン、MOSトランジスタQ5のゲートとMOSトランジスタQ4のドレインは接続される。このような接続の結果、コンパレータ部10は所定のヒステリシス特性を有する。
【0007】
出力部11はMOSトランジスタQ6とQ7、およびCMOS型出力段を構成するMOSトランジスタQ8、Q9で構成される。MOSトランジスタQ6はコンパレータ部10の出力でオンオフされ、その出力はMOSトランジスタQ8、Q9で構成されたCMOS出力段に入力される。Voutはこのヒステリシスコンパレータの出力である。
【0008】
図3のヒステリシスコンパレータの特性を図4に示す。なお、横軸は入力信号Vin、縦軸は出力信号Voutの電圧であり、実線12は入出力特性を示す曲線である。
【0009】
出力信号Voutが低レベルのときに入力信号Vinを増加させると、電圧V2で出力信号Voutは高レベルに反転する。出力信号Voutが高レベルのときに入力信号Vinを減少させると、電圧V1で出力信号Voutは低レベルに反転する。
【0010】
すなわち、図3のヒステリシスコンパレータは、オフセット電圧Voffを中心として、ヒステリシス幅が(V2−V1)の特性を有する。なお、点線13は半導体プロセスによって特性が変動するプロセス変動幅を表している。
【0011】
特許文献1には、ヒステリシス特性を有するコンパレータの発明が記載されている。図5に基づいてこのコンパレータの概要を説明する。
【0012】
図5において、20、21は差動対を構成するMOSトランジスタであり、それぞれリファレンス電圧Vref、入力信号Vinが入力される。また、MOSトランジスタ22はMOSトランジスタ20と並列に接続される。23、24はそれぞれ第1、第2のスイッチであり、このコンパレータの出力信号Voutでそのオンオフが制御される。
【0013】
Voutが低レベルのときは、第1のスイッチ23がオフ、第2のスイッチ24がオンになる。このため、MOSトランジスタ22はオフになり、MOSトランジスタ20、21のみで差動対が構成される。
【0014】
出力信号Voutが高レベルになると、第1のスイッチ23がオン、第2のスイッチ24がオフになる。MOSトランジスタ22のゲートにはリファレンス電圧Vrefが印加される。このため、MOSトランジスタ20〜22で差動対を構成する。
【0015】
MOSトランジスタの閾値はゲート幅とゲート長さの比で変化する。このコンパレータの差動対は、出力信号Voutが低レベルのときはMOSトランジスタ20、21で構成され、高レベルのときはMOSトランジスタ20〜22で構成されるので、入力信号の立ち上がりと立ち下がりで閾値を変えることができる。このため、ヒステリシス特性を実現できる。
【特許文献1】特開平8−316798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このようなコンパレータには次のような課題があった。図3のコンパレータは、ヒステリシス幅の1/2のオフセット電圧を与えなければならないという課題があった。また、図4の点線13で示したように、半導体プロセスのばらつきによってヒステリシス幅が変動してしまうという課題もあった。
【0017】
図5のコンパレータの閾値はゲート幅とゲート長さの比で変化するので、閾値およびヒステリシス幅が半導体プロセスの影響を受けてしまうという課題があった。
【0018】
従って本発明の目的は、閾値が半導体プロセスのばらつきによって変動することがないヒステリシスコンパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような課題を解決するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
入力信号および閾値が入力され、ヒステリシス特性を有する第1のコンパレータ部と、
前記入力信号および閾値が入力され、ヒステリシス特性を有さない第2のコンパレータ部と、
前記第1、および第2のコンパレータ部の出力が入力され、外部に信号を出力する出力部と、
前記出力部の出力信号に関連する信号が入力され、この入力された信号に基づいて前記第1または第2のコンパレータ部のいずれかを動作させる選択部と、
を具備したものである。閾値が半導体プロセスの影響を受けることがない。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、
前記第1、および第2のコンパレータ部は、
入力信号および閾値が入力される差動対と、この差動対に直列に接続される負荷部とを具備し、前記差動対を共用するようにしたものである。構成が簡単になる。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1若しくは請求項2記載の発明において、
前記出力部の出力信号が高レベルのときに前記第1のコンパレータ部を動作させ、低レベルのときに前記第2のコンパレータ部を動作させるようにしたものである。入力信号が減少するときにヒステリシスを発生させることができる。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項2若しくは請求項3記載の発明において、
前記第1のコンパレータ部の負荷部は2つのMOSトランジスタで構成され、一方のMOSトランジスタのゲートと他方のMOSトランジスタのドレインが接続された構成を具備したものである。簡単にヒステリシス特性を有するコンパレータ部を得ることができる。
【0023】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4いずれかに記載の発明において、
前記選択部を、前記第1のコンパレータ部に供給する電流を通過あるいは遮断する第1のスイッチと、前記第2のコンパレータ部に供給する電流を通過あるいは遮断する第2のスイッチで構成したものである。構成が簡単になる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果がある。
請求項1,2、3、4および5の発明によれば、ヒステリシス特性を有するコンパレータ部とヒステリシス特性を有さないコンパレータ部を具備し、これらのコンパレータ部に入力信号および閾値を入力すると共に、出力信号によってどちらか一方のコンパレータ部のみ動作させるようにした。
【0025】
ヒステリシス特性を有さないコンパレータ部が動作するときは、ヒステリシスコンパレータの出力は入力信号の電圧と閾値が一致したときに反転する。このため、この反転する電圧は閾値のみで決まり、半導体プロセスの影響を受けることがないという効果がある。
【0026】
また、ヒステリシス特性を有するコンパレータ部が動作するときは、閾値とは異なった電圧で出力が反転する。このため、ヒステリシス特性を得ることができるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下本発明を図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係るヒステリシスコンパレータの一実施例を示す構成図である。なお、図3と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0028】
図1において、30は差動対であり、MOSトランジスタQ10、Q11で構成される。MOSトランジスタQ11のゲートには入力信号Vinが印加され、MOSトランジスタQ10のゲートには閾値Vthが印加される。
【0029】
31は負荷部であり、MOSトランジスタQ12、Q13で構成され、差動対30と直列接続される。すなわち、MOSトランジスタQ10のドレインとQ12のドレイン、Q11のドレインとQ13のドレインが接続される。負荷部31と差動対30で第1のコンパレータ部を構成している。
【0030】
MOSトランジスタQ12とQ13は、図3のMOSトランジスタQ4とQ5と同様に接続される。すなわち、MOSトランジスタQ12のゲートとQ13のドレインは接続され、Q13のゲートとQ12のドレインは接続される。このため、負荷部31と差動対30で構成される第1のコンパレータ部は、所定のヒステリシス特性を有する。
【0031】
32は負荷部であり、MOSトランジスタQ14とQ15で構成され、差動対30と直列接続される。すなわち、MOSトランジスタQ10のドレインとQ14のドレイン、Q11のドレインとQ15のドレインは接続される。負荷部32と差動対30で第2のコンパレータ部を構成している。すなわち、この実施例では第1、第2のコンパレータ部は差動対30を共用している。
【0032】
MOSトランジスタQ14とQ15のゲートは接続され、MOSトランジスタQ16とQ17で構成されるバイアス回路からバイアスが供給される。このため、負荷部32と差動対30で構成される第2のコンパレータ部はヒステリシス特性を有しない。
【0033】
第1、および第2のコンパレータ部の出力であるMOSトランジスタQ10のドレインの電圧は出力部11に入力される。この出力部11の出力がヒステリシスコンパレータの出力信号Voutになる。なお、MOSトランジスタQ8とQ9で構成されるCMOS出力段で信号が反転されるので、MOSトランジスタQ8、Q9のゲートに印加される信号は出力信号Voutを反転した信号になる。
【0034】
33はMOSトランジスタで構成されたスイッチであり、そのソースとドレインはそれぞれ正電源VDDとMOSトランジスタQ12とQ13のソースに接続される。34はMOSトランジスタで構成されたスイッチであり、そのソースとドレインはそれぞれ正電源VDDとMOSトランジスタQ14とQ15のソースに接続される。MOSトランジスタ33と34で選択部を構成している。また、スイッチ33、34はそれぞれ第1、第2のスイッチに相当する。
【0035】
スイッチ33のゲートには出力信号Voutを反転した信号が入力され、スイッチ34のゲートには出力信号Voutが入力される。すなわち、スイッチ33、34は出力信号Voutでオンオフされ、かつ相補的に動作する。
【0036】
出力信号Voutが高レベルのときは、スイッチ33がオン、34がオフになる。負荷部32には電流が流れないので、負荷部31と差動対30からなる第1のコンパレータ部が動作する。従って、ヒステリシスが発生する。
【0037】
出力信号Voutが低レベルのときは、スイッチ34がオン、33がオフになる。負荷部31には電流が流れないので、負荷部32と差動対30からなる第2のコンパレータが動作する。従って、ヒステリシスは発生しない。
【0038】
次に、図2に基づいてこの実施例の動作を説明する。図2は図1のヒステリシスコンパレータの入出力特性図であり、横軸は入力信号の電圧、縦軸は出力信号の電圧である。
【0039】
出力信号Voutが低レベルであり、入力信号Vinが増加するときは、矢印40の方向に移動する。入力信号Vinが閾値Vthに等しくなると、出力信号Voutは高レベルに遷移する。
【0040】
出力信号Voutが高レベルであり、入力信号Vinが減少するときは、矢印41の方向に移動する。入力信号Vinが電圧VLに等しくなると、出力信号Voutは低レベルに遷移する。(Vth−VL)がこのヒステリシスコンパレータのヒステリシス幅になる。
【0041】
前述したように、図3のヒステリシスコンパレータでは出力信号Voutが立ち上がり、また立ち下がるときの入力信号V1、V2は、半導体プロセスのばらつきで変動する。この実施例では、出力信号が立ち下がるときはヒステリシス特性を有する第1のコンパレータ部が動作するので、点線42で示すように立ち下がり時の電圧VLは半導体プロセスのばらつきによって変動する。
【0042】
しかし、出力信号Voutが立ち上がるときはヒステリシス特性を有さない第2のコンパレータ部が動作するので、立ち上がり時の電圧は閾値Vthのみで決まり、半導体プロセスのばらつきの影響を受けない。
【0043】
なお、この実施例では出力信号Voutが高レベルのときにスイッチ33がオン、34がオフになるようにしたが、スイッチ33、34に入力する信号を逆にすると、立ち下がり時の電圧が半導体プロセスの影響を受けないヒステリシスコンパレータを得ることができる。
【0044】
また、この実施例では第1のコンパレータ部と第2のコンパレータ部で差動対30を共用するようにしたが、差動対を2つ用い、共用しないようにすることもできる。
【0045】
また、スイッチ33、34、差動対30、負荷部31、32、出力部11の構成は図1の構成に限定されることはない。要は、ヒステリシス特性を有するコンパレータ部とヒステリシス特性を有さないコンパレータ部を用い、出力信号Voutによってこれらのコンパレータ部を切り替える構成であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】本発明の動作を説明するための特性図である。
【図3】従来のヒステリシスコンパレータの構成図である。
【図4】従来のヒステリシスコンパレータの動作を説明するための特性図である。
【図5】従来のヒステリシスコンパレータの構成図である。
【符号の説明】
【0047】
11 出力部
30 差動対
31、32 負荷部
33、34 スイッチ
Q3、Q8〜Q17 MOSトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号および閾値が入力され、ヒステリシス特性を有する第1のコンパレータ部と、
前記入力信号および閾値が入力され、ヒステリシス特性を有さない第2のコンパレータ部と、
前記第1、および第2のコンパレータ部の出力が入力され、外部に信号を出力する出力部と、
前記出力部の出力信号に関連する信号が入力され、この入力された信号に基づいて前記第1または第2のコンパレータ部のいずれかを動作させる選択部と、
を具備したことを特徴とするヒステリシスコンパレータ。
【請求項2】
前記第1、および第2のコンパレータ部は、
入力信号および閾値が入力される差動対と、この差動対に直列に接続される負荷部とを具備し、前記差動対を共用するようにしたことを特徴とする請求項1記載のヒステリシスコンパレータ。
【請求項3】
前記出力部の出力信号が高レベルのときに前記第1のコンパレータ部を動作させ、低レベルのときに前記第2のコンパレータ部を動作させるようにしたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2記載のヒステリシスコンパレータ。
【請求項4】
前記第1のコンパレータ部の負荷部は2つのMOSトランジスタで構成され、一方のMOSトランジスタのゲートと他方のMOSトランジスタのドレインが接続された構成を具備したことを特徴とする請求項2若しくは請求項3記載のヒステリシスコンパレータ。
【請求項5】
前記選択部は、前記第1のコンパレータ部に供給する電流を通過あるいは遮断する第1のスイッチと、前記第2のコンパレータ部に供給する電流を通過あるいは遮断する第2のスイッチで構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれかに記載のヒステリシスコンパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−124037(P2010−124037A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293240(P2008−293240)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】