説明

ビスフェナザシリン化合物、ビスフェナザシリン化合物の製造方法、ビスフェナザシリン化合物を用いた有機薄膜トランジスタ

【課題】フェナザシリンの重合体の特性を保ちつつ、分子量分布の小さいビスフェナザシリン化合物、ビスフェナザシリン化合物の製造方法、ビスフェナザシリン化合物を用いた有機薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】下記に示すビスフェナザシリン化合物は有機溶媒への溶解性が高いので、スピンコート法、ディップコート法等の通常の塗布法を用いて簡易に成膜化して薄膜を形成できる。よって、有機薄膜トランジスタの構成材料に用いることが可能である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン(以下、単に「フェナザシリン」という)化合物に関し、詳細には、フェナザシリン化合物を二量化したビスフェナザシリン化合物、ビスフェナザシリン化合物の製造方法、ビスフェナザシリン化合物を用いた有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェナザシリン化合物は酸化を防止する化合物として知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、ジェットエンジンの潤滑剤用の耐熱性添加剤としても知られている(例えば、非特許文献2参照)。さらに、フェナザシリンの低分子化合物については、発光素子の正孔輸送材料として好適に用いられることも知られている(例えば、特許文献1,2参照)。また、ポリアニリンを初めとする芳香族アミン型ポリマーは、高い電気活性を示すことが知られている。
【0003】
その一方で、フェナザシリンの重合体に関しては、発光素子の正孔輸送材料として好適に用いられることが知られている(例えば、特許文献3,4,5参照)。さらに、樹脂に蛍光機能を与える添加剤としても知られている(例えば、特許文献6参照)。
【非特許文献1】Issled.Obl.Fiz.Khim.Kauch.Rezin,2,14(1973)
【非特許文献2】Ann.N.Y.Acad.Sci.,125,242(1965)
【特許文献1】特開平8−302339号公報
【特許文献2】特開平10−218884号公報
【特許文献3】特開2000−313739号公報
【特許文献4】特開2001−316457号公報
【特許文献5】特開2002−69161号公報
【特許文献6】特開2004−250536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したフェナザシリンの重合体を、発光素子をはじめとする電子素子の構成材料として用いる場合、一般の有機溶媒に十分な溶解性が得られないことがあるため、素子化が難しいという問題点があった。また、高分子化合物には分子量分布があるため、均質な材料を提供するのが難しいという問題点もあった。さらに、上記従来のフェナザシリンをはじめとするフェナザシリンの単量体を用いる場合、重合体の場合と比較して、十分な特性が得られない可能性があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、フェナザシリンの重合体の特性を保ちつつ、分子量分布の小さいビスフェナザシリン化合物、ビスフェナザシリン化合物の製造方法、ビスフェナザシリン化合物を用いた有機薄膜トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明のビスフェナザシリン化合物は、下記一般式(1)に示すビスフェナザシリン化合物であることを特徴とする。
【化5】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示す。)
【0007】
また、請求項2に係る発明のビスフェナザシリン化合物は、下記一般式(2)に示すビスフェナザシリン化合物であることを特徴とする。
【化6】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、Arは二価のアリール基を示す。)
【0008】
また、請求項3に係る発明のビスフェナザシリン化合物の製造方法は、5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン化合物をニッケル錯体を用いてカップリング反応をすることによって、上記一般式(1)に示す請求項1に記載のビスフェナザシリン化合物を製造することを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明のビスフェナザシリン化合物の製造方法は、ハロゲン化モノフェナザシリン化合物と、ジスタニル化合物又はジボリル化合物とを、パラジウム系触媒の存在下で反応させることによって、上記一般式(2)に示す請求項2に記載のビスフェナザシリン化合物を製造することを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に係る発明の有機薄膜トランジスタは、請求項1又は2に記載のビスフェナザシリン化合物を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上記一般式(1)で表されるビスフェナザシリン化合物が前記条件に合致することを見出した。即ち、第一発明の化合物は上記一般式(1)で示されるようなビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)である。
【0012】
また、第二発明の化合物は、上記一般式(2)で示されるような、二つの5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン化合物が芳香族化合物に結合したものである。
【0013】
また、第一発明の化合物は、下記一般式(3)で表されるモノフェナザシリン化合物をニッケル錯体を用いて脱ハロゲン化カップリング反応を行うことによって製造することができる。
【化7】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
【0014】
また、第二発明の化合物は、上記一般式(3)で表されるモノフェナザシリン化合物と、ジスタニル化合物又はジボリル化合物とを、パラジウム系触媒の存在下で反応させることによって製造することができる。
【0015】
また、本発明のビスフェナザシリン化合物は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、トリフルオロ酢酸等の有機酸、トルエンやTHF(テトラヒドロフラン)等の通常の有機溶剤に容易に結晶化することなく溶解するから、真空蒸着法のみならず、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法等の通常の塗布法を用いて簡易に成膜化して薄膜を形成できるものであり、有機薄膜トランジスタの構成材料に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について、複数の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0017】
まず、前記一般式(1)〜(3)において、R〜Rで表されるアルキル基としては、メチル、エチル、n−またはiso−プロピル、n−、iso−またはtert−ブチル、n−、iso−またはneo−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル等の直鎖、分岐、環状の炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−またはiso−プロポキシ、n−、iso−またはtert−ブトキシ、n−、iso−またはneo−ペントキシ、n−ヘキソキシ、シクロヘキソキシ、n−ヘプトキシ、n−オクトキシ等の直鎖、分岐、環状の炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、o−、m−、p−トリル基、1−および2−ナフチル基、アントリル基等の炭素数6〜20、好ましくは6〜14のアリール基が挙げられる。アリーロキシ基としては、フェノキシ基、o−、m−、p−トリロキシ基、1−および2−ナフトキシ基、アントロキシ基等の炭素数6〜20、好ましくは6〜14のアリーロキシ基が挙げられる。
【0018】
さらに、R〜Rにおける「置換されていてもよい」の置換基としては、後記するカップリング反応に関与しないものであればよく、例えば、前記したアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基が挙げられる。
【0019】
また、前記一般式(2)において、Arで表される二価のアリール基としては、o−、p−フェニレン、チオフェン−2,5−ジイル、チオフェン−2,3−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,3−ジイル、ピリジン−4,5−ジイル、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、ナフタレン−1,2−ジイル、ナフタレン−1,7−ジイル、アントラセン−9,10−ジイル、アントラセン−1,4−ジイル、アントラセン−2,6−ジイル、アントラセン−1,7−ジイル、ビフェニレン−4,4’−ジイル、フルオレン−2,7−ジイルが挙げられ、これらの芳香族化合物の芳香環上が置換された化合物も含まれる。
【0020】
Arとして、アリール基の芳香環上が置換された化合物としては、アルコキシベンゼン−1,4−ジイル、アルキルベンゼン−1,4−ジイル、アリールベンゼン−1,4−ジイル、アリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、アルコキシチオフェン−2,5−ジイル、アルキルチオフェン−2,5−ジイル、アリールチオフェン−2,5−ジイル、アリーロキシチオフェン−2,5−ジイル、ジアルコキシチオフェン−2,5−ジイル、ジアルキルチオフェン−2,5−ジイル、ジアリールチオフェン−2,5−ジイル、ジアリーロキシチオフェン−2,5−ジイル、9,9−ジアルコキシフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジアリールフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジアリーロキシフルオレン−2,7−ジイルが挙げられる。
【0021】
さらに、前記一般式(1)および(2)のR〜Rが有する置換基としては、後述するカップリング反応に関与しないものであればよく、例えば、前記したアルコキシ基、アルキル基、アリール基、アリーロキシ基が挙げられる。
【0022】
前記一般式(1)で表される化合物は前記一般式(3)のモノハロゲン化モノフェナザシリン化合物を溶媒に溶かし、このモノマーに対し1〜20当量のニッケル錯体を用いて脱ハロゲン化カップリング反応を行うことによって製造することができる。この場合の反応は式(a)で表される。
【0023】
【化8】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
【0024】
前記ニッケル錯体としては、テトラカルボニルニッケル(0)、ジカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、(η−エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(イソシアン化t−ブチル)ニッケル(0)、[(1,2,5,6,8,10−η)−trans,trans,trans−1,5,9−シクロドデカトリエン]ニッケル(0)、等を例示することができる。ニッケル錯体は、前記(3)の化合物一当量あたり、0.1〜20当量、好ましくは1〜5当量の割合で用いられる。
【0025】
また、ニッケル錯体には支持配位子として0.1〜10当量の2,2’−ビピリジルやトリフェニルホスフィン等の配位子を加えてもよい。例を挙げれば、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)に2,2’−ビピリジルを1当量加えて用いる、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)にトリフェニルホスフィンを2当量加えて用いる等である。
【0026】
前記一般式(2)で表される化合物の製造は、モノハロゲン化モノフェナザシリン化合物とジスタニル化合物又はジボリル化合物をパラジウム系触媒の存在下に反応させることにより行うことができる。この反応は、下記反応式(b)で示される。
【0027】
【化9】

反応式(b)において、R〜R及びArは、いずれも前記一般式(1)および(2)で説明したと同意義である。また、Xは、ハロゲン原子を示し、Y、Yは、それぞれ独立に、ボリル基又はスタニル基を示す。
【0028】
これらの製造方法では、まず、ハロゲン化されたモノフェナザシリン化合物及びジスタニル化合物又はジボリル化合物を適当な有機溶媒に溶解させる。そして、その溶液中にモノマー1当量に対して0.001〜20当量のパラジウム系触媒を添加することによりカップリング反応が進行し、一般式(2)で表されるビスフェナザシリン化合物を容易に得ることができる。
【0029】
また、反応式(b)中のY−Ar−Yにおいて、Y及びYで示されるスタニル基としては、トリメチルスタニル基、トリエチルスタニル基、トリブチルスタニル基、ジメチルブチルスタニル基が挙げられる。また、Y及びYで示されるボリル基としては、ジヒドロキシボリル基、ジメトキシボリル基、ジエトキシボリル基、メトキシエトキシボリル基、2,1,3−ジオキサボリル基が挙げられる。
【0030】
ここで、カップリング反応にはパラジウム系触媒が用いられる。パラジウム系触媒としては、従来公知の金属パラジウムを含むパラジウム化合物やパラジウム錯体が用いられる。具体的には、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、酢酸パラジウム、テトラキス(トリメチルホスフィン)パラジウム、トリス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリエチルホスフィト)パラジウム、テトラキス(トリフェニルアルシン)パラジウム、カルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、(η−エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、(η−無水マレイン酸)[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、クロロ(メチル)(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、ジエチルビス(トリフェニルフォスフィト)パラジウム、ジエチルビス(トリメチルフォスフィト)パラジウム、ジエチルビス(トリ−i−プロピルフォスフィト)パラジウム、ジメチル[1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン]パラジウム、ジメチル[1,3−ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン]パラジウム、ジメチル[1,2−ビス(ジメチルアミノ)エタン]パラジウム、ジメチルビス(4−エチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン)パラジウム、ビス(t−ブチルイソシアニド)ジメチルパラジウム、ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルイソシアニド)ジメチルパラジウム、ジフェニルビス(メチルジフェニルホスフィニト)パラジウム、ジベンジルビス(トリメチルホスフィン)パラジウム、ジエチニルビス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ジネオペンチル(2,2’−ビピリジル)パラジウム、ブロモ(メチル)ビス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ベンゾイル(クロロ)ビス(トリメチルホスフィン)パラジウム、シクロペンタジエニル(フェニル)(トリエチルホスフィン)パラジウム、η−アリル(ペンタメチルシクロペンタジエニル)パラジウム、π−アリル(1,5−シクロオクタジエン)パラジウムテトラフルオロほう酸塩、ビス(π−アリル)パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジクロロエチレンジアミンパラジウム、塩化パラジウム、パラジウム炭素などの担持パラジウム金属等を例示することができる。これらのパラジウム系触媒は、原料のモノフェナザシリン化合物一当量あたり、0.001〜20当量、好ましくは0.01〜0.1当量の割合で用いられる。
【0031】
また、式(b)においては、パラジウム系触媒に対し0.1〜10当量の塩化リチウムや臭化銅等の添加剤を加えて反応させてもよい。さらに、カップリング反応では塩基を加えて反応させることができる。その塩基としては、カップリング反応において通常用いられる種々の塩基を用いることができる。これを例示すれば、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムエトキシド、酢酸ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、酢酸カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、フッ化セシウム、酸化アルミニウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルモルホリンが挙げられる。使用する塩基の量としては、前記反応式(b)に示したモノフェナザシリン化合物1当量に対して1〜100当量、好ましくは1〜20当量である。また、これらの塩基は水溶液にして使用してもよい。
【0032】
反応式(a)および反応式(b)に示したハロゲン化フェナザシリン化合物において、Xで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、合成の容易さおよび化合物の安定性から特に臭素原子が好ましい。
【0033】
反応式(a)および反応式(b)におけるカップリング反応は、この種の反応において通常用いられる種々の溶媒を用いることができる。これを例示すれば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)等である。
【0034】
また、反応式(a)および反応式(b)におけるカップリング反応は、溶媒の融点〜溶媒の沸点まで種々の温度で実施できるが、特に0℃〜100℃程度が望ましい。反応終了後、生成物は再沈法やクロマトグラム等によって容易に精製できる。
【0035】
前記の方法によって得られる本発明のビスフェナザシリン化合物は、蒸着等の膜形成により、様々な光機能材料や半導体等の電子材料として使用可能である。また、これらの化合物は、高強度等の機械的特性と優れた耐熱性を有するうえに、多様な電気的特性及び光特性を持つことから、有機薄膜トランジスタ素子等の電子材料に用いることができる。また、有機薄膜発光素子や有機感光体の正孔輸送層として用いることもできる。
【0036】
・実施例1
下式に示すビス(5,8,10,10テトラメチルフェナザシリン−2−イル)(一般式1,R=R=R=R=R=R=R=R=メチル基)の合成
【化10】

まず、四塩化炭素100mLとクロロホルム100mLの混合溶媒に、5.0g(27.3mmol)の4−メチルジフェニルアミンを溶かしたフラスコを氷浴にいれ、さらにN−ブロモこはく酸イミドを15.1g(84.6mmol)加えて2日撹拌した。水を加えて抽出したのち、メタノールで洗浄することにより10.5g(24.4mmol)4−メチル−2’,4’,4−トリブロモジフェニルアミンを粉末として得た。
【0037】
次に、3.93gの水素化ナトリウムを入れた窒素雰囲気下のシュレンク管に40mLのTHFを加え、さらに3.03gの4−メチル−2’,4’,4−トリブロモジフェニルアミンを加えて50℃で1時間撹拌した。さらにヨウ化メチル3.23gを加えて50℃で24時間撹拌した。水を加えることにより反応を止めて抽出した後、租生成物をメタノールで洗浄することによって2.37gの4,N−ジメチル−2’,4’,4−トリブロモジフェニルアミンを粉末として得た。
【0038】
さらに、氷浴中で4.51gの4,N−ジメチル−2’,4’,4−トリブロモジフェニルアミンを30mLのエーテルに懸濁させた後に14.3mLのn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)を加えた。さらにジメチルジクロロシランを1.48g加え、沈殿が生成した後に氷浴を外して12時間かくはんした。反応液を氷水に注ぎ、エーテルで抽出した後にメタノールで再結晶することにより1.80gの2−ブロモ−5,8,10,10−テトラメチル−5,10−ジヒドロフェナザシリンを無色の結晶として単離した。
【0039】
続いて、窒素雰囲気下で490mg(1.8mmol)のビス(シクロオクタジエン)ニッケル(0)に1,5−シクロオクタジエン1mLを加えた後にトルエン10mLを加えて懸濁させた。さらに2,2’−ビピリジル280mg(1.8mmol)を加えてかくはんした。さらに840mg(2.5mmol)の2−ブロモ−5,8,10,10テトラメチルフェナザシリンを加えた後に60℃に昇温して48時間かくはんした。反応液に2M塩酸を加え、さらにクロロホルムで抽出した後、有機層をメタノールで再沈殿させることによりビス(5,8,10,10テトラメチルフェナザシリン−2−イル)を410mg(0.8mmol)を単離した。
【0040】
化合物のNMRデータは以下の通りである。
H‐NMRスペクトル(CDCl):δ6.9〜7.7(m,12H),3.55(s,6H),2.34(s,6H),0.45(s,12H)ppm
13C−NMRスペクトル(CDCl):δ149.88,148.69,133.58,132.71,131.30,130.66,129.23,128.32,123.34,122.98,115.06,114.86,38.10,20.44,−1.99ppm
【0041】
この化合物のクロロホルム溶液の吸収極大波長は336nmであり、蛍光極大波長は385nmであった。
【0042】
・実施例2
下記式に示す2,5−ビス(5,8,10,10−テトラメチルフェナザシリン−2−イル)チオフェン(一般式2,R=R=R=R=R=R=R=R=メチル基,Ar=チオフェン−2,5−ジイル)の合成
【化11】

【0043】
化合物のNMRデータは以下の通りである。
H‐NMRスペクトル(CDCl):δ6.9〜7.7(m,14H),3.54(s,6H),2.34(s,6H),0.47(s,12H)ppm
13C−NMRスペクトル(CDCl):δ150.24,148.49,142.71,133.62,130.75,130.35,129.52,127.27,126.40,123.42,122.90,122.59,115.08,114.98,38.19,20.45,−1.97ppm
【0044】
この化合物のクロロホルム溶液の吸収極大波長は379nmであり、蛍光極大波長は442nmであった。
【0045】
・実施例3
下記式に示す2,7−ビス(5,8,10,10−テトラメチルフェナザシリン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(一般式2,R=R=R=R=R=R=R=R=メチル基,Ar=9,9−ジアルキルフルオレン−2,7−ジイル)の合成
【化12】

窒素雰囲気下で2−ブロモ−5,8,10,10−テトラメチル−5,10−ジヒドロフェナザシリン296mgと9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジボロン酸(反応式a参照、Ar=9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル,Y=Y=ジヒドロキシボリル基)200mgをトルエン10mLに加えて懸濁させた。次に、炭酸カルシウム1.07gを5mLの水に溶かしたものを加えてかくはんした。更にテトラキストリフェニルホスフインパラジウム(0)25mgを加えた後、90℃に昇温して48時間かくはんした。生成した反応液をエーテルで抽出し、メタノールに析出させることにより、2,7−ビス(5,8,10,10−テトラメチルフェナザシリン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレンを225mg(0.25mmol)を単離した。
【0046】
化合物のNMRデータは以下のとおりである。
H‐NMRスペクトル(CDCl):δ6.9〜7.8(m,18H),3.58(s,6H),2.35(s,6H),2.02(t,4H),0.8〜1.4(m,30H)0.49(s,12H)ppm
【0047】
・実施例4
ビスフェナザシリン化合物を用いた有機薄膜トランジスタ(その1)の作製
図1は、有機薄膜トランジスタ10の模式的断面図である。基板6には厚さ0.7mmのガラス板を用い、このガラス板を、超純水と有機溶媒を用いて超音波洗浄をした後、ゲート電極5としてアルミニウムを50nm真空蒸着した。次にオゾン洗浄を行った後、ゲート電極5上にポリイミド前駆体をスピンコート法で成膜し、200℃でベークして厚さ270nmのゲート絶縁層4とした。ポリイミドの上には実施例1に記載のビスフェナザシリン化合物3を、真空蒸着法により50nm成膜した。さらにその上に、金を50nm真空蒸着により成膜し、ソース電極1とドレイン電極2として有機薄膜トランジスタ10の作製を行った。
【0048】
実施例1に記載の化合物を用いたゲート長175μm、ゲート幅506μmの素子の移動度は1.73×10−[cm/Vs]、on−off比1003、閾値電圧−25.9Vのp型トランジスタ特性を示した。
【0049】
・実施例5
ビスフェナザシリン化合物を用いた有機薄膜トランジスタ(その2)の作製
実施例4と同じ条件で、実施例2に記載の化合物を用いたを用いたゲート長181mm、ゲート幅511mmの素子は、移動度1.98×10−[cm/Vs]、on−off比1036、閾値電圧−12.3Vのp型トランジスタ特性を示した。
【0050】
以上説明したように、ビスフェナザシリン化合物は有機溶媒への溶解性が高いので、蒸着等の方法のみならず、スピンコート法、ディップコート法等の通常の塗布法を用いても膜形成が可能である。得られた薄膜は、様々な光機能材料や半導体等の電子材料として使用可能である。また、これらの化合物は、高強度等の機械的特性と優れた耐熱性を有するうえに、多様な電気的特性及び光特性を持つことから、有機薄膜発光素子や有機感光体の正孔輸送層として用いることができる。また、有機薄膜トランジスタ素子等の電子材料の構成材料に用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】有機薄膜トランジスタ10の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ソース電極
2 ドレイン電極
3 ビスフェナザシリン化合物
4 ゲート絶縁層
5 ゲート電極
6 基板
10 有機薄膜トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示すビスフェナザシリン化合物。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示す。)
【請求項2】
下記一般式(2)に示すビスフェナザシリン化合物。
【化2】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、Arは二価のアリール基を示す。)
【請求項3】
5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン化合物をニッケル錯体を用いてカップリング反応をすることによって、下記一般式(1)に示す請求項1に記載のビスフェナザシリン化合物を製造することを特徴とするビスフェナザシリン化合物の製造方法。
【化3】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示す。)
【請求項4】
ハロゲン化モノフェナザシリン化合物と、ジスタニル化合物又はジボリル化合物とを、パラジウム系触媒の存在下で反応させることによって、下記一般式(2)に示す請求項2に記載のビスフェナザシリン化合物を製造することを特徴とするビスフェナザシリン化合物の製造方法。
【化4】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、Arは二価のアリール基を示す。)
【請求項5】
請求項1又は2に記載のビスフェナザシリン化合物を用いた有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−298730(P2009−298730A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155086(P2008−155086)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】