説明

ピストン式バランサを備える内燃機関の停止位置制御装置

【課題】この発明は、ピストン式バランサを備える内燃機関において、バランサピストンの往復運動を利用して、気筒内ピストンの停止位置を正確に制御することを目的とする。
【解決手段】内燃機関10の気筒12内に配置される気筒内ピストン14と対向して運動するバランサピストン48を備える。バランサピストン48の挿入を受け、底部50aが閉塞されたバランサライナ50を備える。バランサライナ内部空間50bと、内燃機関10の内部を潤滑するオイルが溜められたオイル貯留部34aとの開閉を担う電磁弁56を備える。内燃機関10の停止動作の途中かつ電磁弁56が開かれている状態で、任意気筒12における気筒内ピストン14が吸気下死点近傍のクランク角度範囲内に位置する場合に、電磁弁56を閉じるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストン式バランサを備える内燃機関の停止位置制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、往復動バランサ付きエンジンが開示されている。この従来のエンジンでは、ガイド筒(バランサライナ)内を往復動するロッド(バランサピストン)の往復運動を、オイルポンプや燃料ポンプとして利用するようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−293363号公報
【特許文献2】特開2007−309276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばアイドリングストップ機能を有する車両やハイブリッド車両等においては、内燃機関の再始動を迅速に行いたいという要求がある。内燃機関の始動を迅速に行うためには、内燃機関の停止動作が完了した際の気筒内ピストンの停止位置を正確に制御することが必要となる。このような要求は、上記従来の技術のようにピストン式バランサを備える内燃機関においても同様である。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ピストン式バランサを備える内燃機関において、バランサピストンの往復運動を利用して、気筒内ピストンの停止位置を正確に制御し得る停止位置制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、ピストン式バランサを備える内燃機関の停止位置制御装置であって、
内燃機関の気筒内に配置される気筒内ピストンと対向して運動するバランサピストンと、
前記バランサピストンの挿入を受け、底部が閉塞されたバランサライナと、
前記バランサピストンの頂面と前記バランサライナの内面とで囲まれたバランサライナ内部空間と、前記内燃機関の内部を潤滑するオイルが溜められたオイル貯留部との開閉を担う制御弁と、
前記内燃機関の停止動作の途中かつ前記制御弁が開かれている状態で、任意気筒における前記気筒内ピストンが吸気下死点近傍のクランク角度範囲内に位置する場合に、前記制御弁を閉じる制御弁制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記制御弁制御手段は、前記内燃機関の前記停止動作の開始後にクランク軸が所定回数だけ回転した後で前記制御弁を閉じる前記制御を行う手段であって、
前記制御弁制御手段は、前記オイルの粘度が高い場合には当該オイルの粘度が低い場合に比して、前記所定回数を少なくするクランク回転数設定手段を含むことを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記制御弁制御手段は、前記制御弁を閉じるタイミングを、前記気筒内ピストンが吸気下死点に達したタイミングから所定のクランク角度だけ遅れたタイミングに遅らせる閉弁タイミング遅延手段を含み、
前記閉弁タイミング遅延手段は、前記オイルの粘度が高い場合には当該オイルの粘度が低い場合に比して、前記制御弁を閉じる前記タイミングの遅れ期間を長くすることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記内燃機関は、2つの気筒を有する内燃機関であって、
前記制御弁制御手段は、吸気行程が到来するもしくは到来している気筒を判別する吸気行程気筒判別手段を含み、吸気行程が到来するもしくは到来している前記気筒に対して、前記制御弁を閉じる前記の制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、気筒内ピストンとバランサピストンとは、対向して運動するように構成されている。このため、本発明によれば、任意気筒の気筒内ピストンが吸気下死点近傍のクランク角度範囲内に位置する場合に制御弁を閉じることにより、内燃機関の停止動作の途中において、オイルが満充填された状態で、バランサライナ内部空間が閉じられるようになる。その結果、バランサピストンがバランサライナ内部空間内に作用する油圧とオイルの圧縮性の影響を受けるようになるので、内燃機関の停止動作中に惰性で回転しようとする気筒内ピストン(クランク軸)が、減衰しながら吸気下死点近傍で停止するようになる。このように、本発明によれば、ピストン式バランサを備える内燃機関において、バランサピストンの往復運動を利用して、気筒内ピストンの停止位置を正確に制御することが可能となる。そして、このように、任意気筒の気筒内ピストンが吸気下死点付近で停止するように制御しておくことで、再始動時には、クランク軸を半回転させた段階で、ピストン停止位置制御の対象となった気筒の気筒内ピストンが圧縮上死点となる。このため、この気筒に対して燃料噴射および点火を行うようにすることで、再始動時に速やかに燃焼を開始させられるようになる。つまり、内燃機関が再始動に要する時間を効果的に短縮することが可能となる。
【0011】
第2の発明によれば、内燃機関の停止動作の開始後にクランク軸が所定回数だけ回転した後で制御弁を閉じるようにしたことにより、停止動作時にクランク軸の惰性回転力が減少するのを待ったうえで、バランサピストンの往復運動を利用した気筒内ピストンの停止位置の制御が行われるようになる。そして、本発明では、オイルの粘度が高い場合には当該オイルの粘度が低い場合に比して、上記所定回数を少なく設定している。このため、オイルの粘性によって変化する停止動作時の内燃機関の回転挙動を考慮して、気筒内ピストンの停止位置制御を行うタイミングをオイルの粘度の高低に関係なく適切に設定することが可能となる。
【0012】
第3の発明によれば、オイルの粘度が高い場合には当該オイルの粘度が低い場合に比して、制御弁を閉じるタイミングの遅れ期間を長くすることにより、オイルの粘性によって変化するバランサライナ内部空間内のオイル挙動を考慮して、より効果的にバランサライナ内部空間内にオイルを充填させられるようになる。これにより、オイルの粘度の高低に関わらず、気筒内ピストンの停止位置を吸気下死点付近により正確に制御できるようになる。
【0013】
第4の発明によれば、ピストン式バランサを有する2気筒型の内燃機関において、バランサピストンの往復運動を利用して、気筒内ピストンの停止位置を正確に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のピストン式バランサを備える内燃機関10の構成を説明するための断面図である。
本発明では、内燃機関の気筒数を特に問わないが、ここでは、図1に示す内燃機関10は、直列2気筒型エンジンであるものとする。内燃機関10の各気筒12の内部には、気筒内ピストン14が摺動可能に配置されている。気筒内ピストン14は、コンロッド16を介して、クランク軸18に設けられたクランクピン20と連結されている。尚、ここでは、内燃機関10の2つの気筒がそれぞれ備えるクランクピン20は、同位相となるように設定されているものとする。つまり、内燃機関10は、爆発行程が等間隔となるように構成されている。
【0015】
内燃機関10の各気筒12を構成する部材であるシリンダブロック22の上方には、シリンダヘッド24が取り付けられている。また、シリンダブロック22内の気筒12、気筒内ピストン14、およびシリンダヘッド24とで囲まれた空間として、内燃機関10の燃焼室26が形成されている。また、シリンダヘッド24には、燃焼室26内に直接燃料を噴射するための燃料噴射弁28が組み込まれている。更に、シリンダヘッド24の中央には、点火プラグ30が組み込まれている。
【0016】
一方、シリンダブロック22の下方には、クランクケース32が取り付けられている。更に、クランクケース32の下方には、内燃機関10の各部を潤滑する潤滑油を溜めておくためのオイルパン34が取り付けられている。また、気筒内ピストン14を間に介する燃焼室26の反対側には、シリンダブロック22、クランクケース32、およびオイルパン34とで囲まれた空間として、クランク室36が形成されている。
【0017】
クランクケース32には、内燃機関10のトルクを動力として作動するオイルポンプ38が設置されている。オイルパン34内のオイルが溜められたオイル貯留部34aには、オイルストレーナ40が設置されている。オイルストレーナ40を介してオイルポンプ38によって汲み上げられたオイルは、シリンダブロック22に形成されたメインギャラリ42から、内燃機関10の各部に供給されるようになっている。
【0018】
また、クランク軸18には、クランク軸18の軸中心を中心としてクランクピン20と対称(すなわち、逆位相)となる位置に、バランサ用クランクピン44が設けられている。バランサ用クランクピン44は、バランサ用コンロッド46を介して、バランサピストン48に連結されている。バランサピストン48の周囲には、当該バランサピストン48の挿入を受けるバランサライナ50が配置されている。
【0019】
より具体的には、バランサピストン48は、バランサライナ50によって摺動可能に案内された状態で、クランク軸18の回転に伴って、気筒内ピストン14と対向して運動するように構成されている。また、バランサピストン48は、気筒内ピストン14の慣性力に釣り合う力であって、かつ逆向きの慣性力が発生するようにその質量が調整されている。以上のようなバランサ用クランクピン44、バランサ用コンロッド46、バランサピストン48、およびバランサライナ50によって、本実施形態の内燃機関10のピストン式バランサ機構が実現されている。
【0020】
また、図1に示すように、バランサライナ50は、バランサピストン48の頂面と対向する底部50aを備えており、当該底部50aは閉塞されている。当該底部50aは、クランク室36内に(オイルパン34に)溜められたオイルの油面高さよりも低い位置に配置されている。このように、バランサライナ50は、その一部が、オイル貯留部34a内に油没されるようにしてクランク室36内に配置されている。
【0021】
また、バランサライナ50の底部50aには、バランサピストン48の頂面とバランサライナ50の内面とで囲まれたバランサライナ内部空間50bと、オイルパン34内のオイル貯留部34aとに連通するオイル通路52が設けられている。また、バランサライナ50の底部50aには、バランサライナ内部空間50bと、内燃機関10における図示省略するオイル利用部(例えば、油圧により制御される可変動弁機構など)とを接続するオイル通路54が設けられている。
【0022】
オイル通路52における上記底部50aに近接した位置には、当該オイル通路52の開閉を担う吸込側電磁弁56が設けられている。また、オイル通路54における上記底部50aに近接した位置には、当該オイル通路54の開閉を担う吐出側電磁弁58が設けられている。このような構成によれば、クランク軸18の回転に伴ってバランサライナ内部空間50bが拡大する方向(図1の上方向)にバランサピストン48が動作する際に、(吐出側電磁弁58を閉じつつ)吸込側電磁弁56を開くようにすることで、オイル貯留部34a内のオイルをバランサライナ内部空間50bに回収(吸引)することができる。そして、クランク軸18の回転に伴ってバランサライナ内部空間50bが縮小する方向(図1の下方向)にバランサピストン48が動作する際に、(吸込側電磁弁56を閉じつつ)吐出側電磁弁58を開くようにすることで、バランサライナ内部空間50b内のオイルを上記オイル利用部に向けて排出(供給)することができる。
【0023】
本実施形態のシステムは、制御装置であるECU(Electronic Control Unit)60を備えている。ECU60の入力側には、クランク角度やエンジン回転数を検出するためのクランク角センサ62、および内燃機関10を潤滑するオイルの温度を検出するための油温センサ64等の内燃機関10の運転状態を検出するための各種センサが接続されている。また、ECU60は、内燃機関10が搭載された車両のイグニッションスイッチ(IGスイッチ)66の信号を検出できるように構成されている。また、ECU60の出力側には、燃料噴射弁28、点火プラグ30、および電磁弁56、58に加え、内燃機関10の運転状態を制御するための各種アクチュエータが接続されている。ECU60は、各センサからの信号に基づき、所定のプログラムに従って各アクチュエータを作動させることにより、内燃機関10の運転状態を制御するようになっている。
【0024】
一般に、内燃機関を始動させる際には、始動装置(図示省略)により内燃機関が回転駆動され始めた後に、先ず、クランク角度の判別が行われ、次いで、気筒判別が行われる。その後、ようやく燃料噴射が開始され、燃焼に伴う爆発力によって内燃機関の回転数が上昇することで始動完了となる。内燃機関の始動時には、このような工程が必要となる。
【0025】
ところで、例えばアイドリングストップ機能を有する車両やハイブリッド車両等においては、内燃機関の再始動を迅速に行いたいという要求がある。内燃機関の始動を迅速に行うためには、始動装置が動き始めてから上記工程を如何に早く完結させるかが重要である。そのためには、内燃機関の停止動作が完了した際の気筒内ピストンの停止位置を正確に制御することが必要となる。このような要求は、本実施形態の内燃機関10のようにピストン式バランサを備える内燃機関においても同様である。
【0026】
図2は、本発明の実施の形態1における特徴的な気筒内ピストン14の停止位置制御を説明するための図である。より具体的には、図2(A)は一方の気筒12における吸気行程の経過中の動作を、図2(B)は一方の気筒12の気筒内ピストン14が吸気下死点に位置する際の動作を、それぞれ説明するための図である。
【0027】
本実施形態の内燃機関10は、上述したように、ピストン式バランサ機構を備えており、バランサピストン48の往復運動を油圧ポンプとして活用できるように構成されている。本実施形態では、そのようなバランサピストン48の往復運動を利用して、気筒内ピストン14の停止位置を制御することを特徴としている。
【0028】
より具体的には、本実施形態では、IGスイッチ66がOFFされたことが検出された後の内燃機関10の停止動作中に一方の気筒12の吸気行程が到来したタイミングで、図2(A)に示すように、吐出側電磁弁58を閉じた状態で吸込側電磁弁56を開くようにしている。その結果、バランサライナ内部空間50bには、オイルが吸引されて満たされていく。
【0029】
そのうえで、図2(B)に示すように、気筒内ピストン14が吸気下死点近傍の所定クランク角度範囲に達したタイミングで吸込側電磁弁56を閉じるようにしている。その結果、バランサライナ内部空間50bは、その内部にオイルが満充填された状態で外部(オイル貯留部34a)と遮断されるようになる。以下、図3を参照して、本実施形態におけるピストン停止位置制御を詳述するものとする。
【0030】
図3は、上記ピストン停止位置制御を実現するために、ECU60が実行するルーチンのフローチャートである。
図3に示すルーチンでは、先ず、内燃機関10の運転中であるか否かがエンジン回転数の情報などに基づいて判別される(ステップ100)。
【0031】
その結果、内燃機関10の運転中であると判定された場合には、次いで、油温センサ64を用いて検出される内燃機関10の油温が読み込まれる(ステップ102)。そのうえで、本ステップ102では、読み込まれた油温に基づいて、IGOFF後クランク回転数βおよび電磁弁閉遅れ期間γが算出される。
【0032】
IGスイッチ66がOFFとされたことが検出されたタイミングで直ちに上記図2に示す動作を行うことによって気筒内ピストン14の惰性運動を制動しようとした場合には、その時点ではクランク軸18の惰性回転力が強すぎるため、バランサ用コンロッド46に過大な負荷を与えてしまう。このため、本ルーチンでは、IGスイッチ66がOFFされたことが検出されたタイミングではなく、ピストン停止位置制御時にバランサ用コンロッド46にそのような過大な負荷が作用するのを回避できる程度にまで上記惰性回転力が減少するのを待ったうえで、上記図2に示す動作を行うようにしている。つまり、上記IGOFF後クランク回転数βは、IGスイッチ66がOFFされたことが検出されたタイミングから吸込側電磁弁56を開くタイミングまでのクランク軸18の回転数を規定するために定められた値である。
【0033】
ECU60は、予め実験等によって、油温との関係で上記IGOFF後クランク回転数βを定めたβ−油温マップを記憶している。図4は、そのようなβ−油温マップの傾向を表した図である。β−油温マップでは、図4に示すように、油温が低くなるほど、IGOFF後クランク回転数βが少なくなるように設定されている。
【0034】
また、電磁弁閉遅れ期間γは、後述するステップ112の処理によって内燃機関10の停止動作中に吸込側電磁弁56が開くように制御される場合において、吸気下死点が経過するタイミングからの吸込側電磁弁56の閉じタイミングの遅れ期間を規定するために定められた(クランク角度(°CA)ベースの)期間である。
【0035】
ECU60は、予め実験等によって、油温との関係で上記電磁弁遅れ期間γを定めたγ−油温マップを記憶している。図5は、そのようなγ−油温マップの傾向を表した図である。γ−油温マップでは、図5に示すように、油温が低くなるほど、電磁弁遅れ期間γが長くなるように設定されている。
【0036】
図3に示すルーチンでは、上記クランク回転数βおよび遅れ期間γが現在の油温に基づいて算出されると、次いで、IGスイッチ66をOFFにする要求(すなわち、内燃機関10の停止要求)があるか否かが判別される(ステップ104)。その結果、IGスイッチ66がOFFとされたと判定された場合には、当該IGスイッチ66がOFFされたタイミングからのクランク回転数がカウントされる(ステップ106)。
【0037】
次に、IGOFF後クランク回転数のカウント値が上記IGOFF後クランク回転数βに達したか否かが判別される(ステップ108)。その結果、上記カウント値>βが成立すると判定された場合には、最初に吸気行程が到来する気筒12が内燃機関10の2気筒のうちの何れであるかが判別される(ステップ110)。そして、該当する気筒12の吸気行程が開始するタイミング(該当する気筒12の気筒内ピストン14が排気上死点に位置するタイミング、言い換えれば、バランサピストン48がバランサライナ50の底部50aに最も接近したタイミング)で、吸込側電磁弁56が開かれる(ステップ112)。
【0038】
次に、上記該当気筒12の気筒内ピストン14が吸気下死点(吸気BTDC)から更に上記遅れ期間γだけ進角したタイミングで、吸込側電磁弁56が閉じられる(ステップ114)。尚、吐出側電磁弁58は、本ルーチンの一連の処理が実行される間、閉弁状態に制御される。
【0039】
以上説明した図3に示すルーチンによれば、内燃機関10の停止動作の途中において、バランサライナ内部空間50b内にオイルが満充填された状態で、吸込側電磁弁56が閉じられるようになる。その結果、バランサピストン48がバランサライナ内部空間50b内に作用する油圧とオイルの圧縮性の影響を受けるようになるので、内燃機関10の停止動作中に惰性で回転しようとする気筒内ピストン14(クランク軸18)が、減衰しながら停止するようになる。本実施形態の内燃機関10では、既述したように、気筒内ピストン14側のクランクピン20とバランサ用クランクピン44とは対称(すなわち、逆位相)となる関係で設定されており、これにより、気筒内ピストン14とバランサピストン48とは、対向して運動するようになっている。このため、バランサライナ内部空間50b内にオイルが満充填された状態でバランサピストン48が停止することにより、一方の気筒12の気筒内ピストン14が吸気下死点近傍で停止するようになる。
【0040】
上記のように、本実施形態のピストン停止位置制御によれば、バランサピストン48の往復運動を利用して、気筒内ピストン14の停止位置を制御できるようになる。そして、このように、一方の気筒12の気筒内ピストン14が吸気下死点付近で停止するように制御しておくことで、再始動時には、クランク軸18を半回転させた段階で、ピストン停止位置制御の対象となった気筒12の気筒内ピストン14が圧縮上死点となる。このため、この気筒12に対して燃料噴射および点火を行うようにすることで、再始動時に速やかに燃焼を開始させられるようになる。つまり、内燃機関10が再始動に要する時間を効果的に短縮することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態のピストン停止位置制御の手法によれば、上述したように、内燃機関10の停止動作中に吸込側電磁弁56を閉じた後には、バランサピストン48がバランサライナ内部空間50b内に作用する油圧とオイルの圧縮性の影響を受けて、気筒内ピストン14(クランク軸18)が減衰しながら停止するようになる。このように、本手法によれば、クランク軸18をブレーキなどによって急激に停止させることがないため、クランク軸18やバランサ用コンロッド46等の各部品に過大な負荷をかけずに気筒内ピストン14を狙いの位置に停止させられるようになる。
【0042】
また、本実施形態のピストン停止位置制御の手法では、油温が低くなるほど、IGOFF後クランク回転数βが少なくなるように設定している。油温が低くなるほどオイルの粘度が高くなるので、内燃機関10が停止動作を行う際のフリクションが大きくなる。このため、IGスイッチ66がOFFされたタイミングから実際に内燃機関10が停止するまでにクランク軸18が回転する回数は、油温が低くなるほど少なくなる。上記クランク回転数βの設定(図4に示すβ−油温マップの関係)によれば、油温(オイル粘性)によって変化する停止動作時の内燃機関10の回転挙動を考慮して、ピストン停止位置制御を行うタイミングをオイルの粘度の高低に関係なく適切に設定することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態のピストン停止位置制御の手法では、油温が低くなるほど、電磁弁遅れ期間γが長くなるように設定している。上記のように油温が低くなるほどオイルの粘度が高くなるので、バランサピストン48の往復運動を利用したオイルの吸込み動作(図2(A)に示す動作)によってバランサライナ内部空間50b内にオイルが満たされるまでに要する時間が長くなる。上記遅れ期間γの設定(図5に示すγ−油温マップの関係)によれば、油温(オイル粘性)によって変化するバランサライナ内部空間50b内のオイル挙動を考慮して、より効果的にバランサライナ内部空間50b内にオイルを充填させられるようになる。これにより、オイルの粘度の高低に関わらず、気筒内ピストン14の停止位置を吸気下死点付近により正確に制御できるようになる。
【0044】
ところで、上述した実施の形態1においては、バランサライナ50の一部がオイル貯留部34a内に油没されるようにバランサライナ50を配置させている。このような配置手法によれば、バランサライナ50の下方にオイル貯留部34aを配置する構成を採用する場合において、内燃機関10の全高を効果的に下げつつ、本実施形態のピストン停止位置制御を行えるようになる。しかしながら、本発明においては、バランサライナの底部が閉塞されていることによってバランサライナ内部空間が形成されており、当該バランサライナ内部空間とオイル貯留部とが制御弁を介して開閉されるように構成されていればよい。すなわち、本発明のバランサライナはオイル貯留部内に油没されていなくてもよく、また、本発明のオイル貯留部はクランク室外に配置されていてもよい。
【0045】
また、上述した実施の形態1においては、上記IGOFF後クランク回転数βが経過した後に最初に吸気行程が到来する気筒12における吸気行程の開始時に、バランサライナ内部空間50b内にオイルを吸込ませるべく、吸込側電磁弁56を開くようにしている。このようなタイミングで吸込側電磁弁56を開くように制御することで、バランサピストン48の往復運動に伴うポンプ損失を効果的に抑制しつつ、気筒内ピストンの停止位置を制御するためのオイルをバランサライナ内部空間50b内に充填させることができるようになる。しかしながら、本発明において任意気筒における気筒内ピストンの停止位置を制御するうえで制御弁を開くタイミングは、これに限定されるものではない。すなわち、上記吸気行程の開始時ではなく、当該吸気行程の経過中であってもよく、或いは、IGスイッチ66がOFFとされる前か後であるかを問わず、当該吸気行程の開始前であってもよい。
【0046】
また、上述した実施の形態1においては、IGOFF後クランク回転数βに達した後に最初に吸気行程が到来する気筒12をピストン停止位置制御の対象となる気筒に決定するようにしている。しかしながら、本発明における任意気筒は、このような決定手法に限らず、例えば、特定の気筒をピストン停止位置制御の対象となる気筒として固定してもよく、或いは、予め定められた規則に従って、ピストン停止位置制御の対象となる気筒を選択可能としてもよい。
【0047】
尚、上述した実施の形態1においては、吸込側電磁弁56が前記第1の発明における「制御弁」に相当しているとともに、ECU60が上記図3に示すルーチンの一連の処理を実行することにより前記第1の発明における「制御弁制御手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU60が上記ステップ102の処理を実行することにより前記第2の発明における「クランク回転数設定手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU60が上記ステップ102および114の処理を実行することにより前記第3の発明における「閉弁タイミング遅延手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU60が上記ステップ104〜110の処理を実行することにより前記第4の発明における「吸気行程気筒判別手段」が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態1のピストン式バランサを備える内燃機関の構成を説明するための断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における特徴的な気筒内ピストンの停止位置制御を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図4】図3に示すルーチンで用いられるβ−油温マップの傾向の一例を示す図である。
【図5】図3に示すルーチンで用いられるγ−油温マップの傾向の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 内燃機関
12 気筒
14 気筒内ピストン
16 コンロッド
18 クランク軸
20 クランクピン
22 シリンダブロック
24 シリンダヘッド
26 燃焼室
28 燃料噴射弁
30 点火プラグ
32 クランクケース
34 オイルパン
34a オイル貯留部
36 クランク室
44 バランサ用クランクピン
46 バランサ用コンロッド
48 バランサピストン
50 バランサライナ
50a バランサライナの底部
50b バランサライナ内部空間
52、54 オイル通路
56 吸込側電磁弁
58 吐出側電磁弁
60 ECU(Electronic Control Unit)
62 クランク角センサ
64 油温センサ
66 IGスイッチ
β IGOFF後クランク回転数
γ 電磁弁閉遅れ期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒内に配置される気筒内ピストンと対向して運動するバランサピストンと、
前記バランサピストンの挿入を受け、底部が閉塞されたバランサライナと、
前記バランサピストンの頂面と前記バランサライナの内面とで囲まれたバランサライナ内部空間と、前記内燃機関の内部を潤滑するオイルが溜められたオイル貯留部との開閉を担う制御弁と、
前記内燃機関の停止動作の途中かつ前記制御弁が開かれている状態で、任意気筒における前記気筒内ピストンが吸気下死点近傍のクランク角度範囲内に位置する場合に、前記制御弁を閉じる制御弁制御手段と、
を備えることを特徴とするピストン式バランサを備える内燃機関の停止位置制御装置。
【請求項2】
前記制御弁制御手段は、前記内燃機関の前記停止動作の開始後にクランク軸が所定回数だけ回転した後で前記制御弁を閉じる前記制御を行う手段であって、
前記制御弁制御手段は、前記オイルの粘度が高い場合には当該オイルの粘度が低い場合に比して、前記所定回数を少なくするクランク回転数設定手段を含むことを特徴とする請求項1記載のピストン式バランサを備える内燃機関の停止位置制御装置。
【請求項3】
前記制御弁制御手段は、前記制御弁を閉じるタイミングを、前記気筒内ピストンが吸気下死点に達したタイミングから所定のクランク角度だけ遅れたタイミングに遅らせる閉弁タイミング遅延手段を含み、
前記閉弁タイミング遅延手段は、前記オイルの粘度が高い場合には当該オイルの粘度が低い場合に比して、前記制御弁を閉じる前記タイミングの遅れ期間を長くすることを特徴とする請求項1または2項記載のピストン式バランサを備える内燃機関の停止位置制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関は、2つの気筒を有する内燃機関であって、
前記制御弁制御手段は、吸気行程が到来するもしくは到来している気筒を判別する吸気行程気筒判別手段を含み、吸気行程が到来するもしくは到来している前記気筒に対して、前記制御弁を閉じる前記の制御を実行することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のピストン式バランサを備える内燃機関の停止位置制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−138803(P2010−138803A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315868(P2008−315868)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】