ピリミジンジアミン化合物を使用することによる細胞増殖性障害を処置する方法
本開示は、SykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害剤の投与による、細胞増殖性障害の治療方法を提供する。これらの方法によって治療可能な細胞増殖性障害は、造血新生物およびウイルス関連腫瘍を包含する。これらの化合物はまた、腫瘍転移の治療的または予防的阻害も対象とする。一局面において、本発明の化合物で治療可能な造血新生物としては、様々な骨髄およびリンパ系の新生物、例えば慢性骨髄性白血病、バーキットリンパ腫、および急性骨髄性白血病が挙げられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2006年4月18日に出願された米国特許出願第11/407,233に優先権を主張し、この全ての内容は本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、細胞増殖性障害の治療のための方法および組成物に関しており、該組成物は、細胞の増殖可能性に影響を与えるキナーゼ活性を標的とする阻害剤を含んでいる。
【背景技術】
【0003】
(背景)
非調節細胞成長は、腫瘍および癌ならびに他の細胞増殖性障害の顕著な特徴である。細胞分裂および細胞増殖を制御する細胞プロセスは複雑であり、細胞分裂および成長を促進する遺伝子産物と、このようなプロセスを阻止する遺伝子産物との間の複雑な相互作用をともなう。成長および増殖の正の調節剤は一般に、前癌遺伝子として記載され、これらは、改変遺伝子、ならびに腫瘍および癌形成を促進することが知られているこれらの遺伝子産物の正常な対応物である。前癌遺伝子は、細胞分裂を促進し、細胞アポトーシスを負に調節をする。これらの正常な調節状態からのこれらの遺伝子産物の活性の脱共役は、前癌遺伝子を癌遺伝子へ転化する。前癌遺伝子の正常な機能は、成長因子、成長因子受容体、細胞情報伝達分子、および核因子を包含する。前癌遺伝子の癌遺伝子形態への活性化は、多様な方法で起こりうる。これは、遺伝子突然変異、増幅、遺伝子転座、およびウイルス活性化を包含する。
【0004】
前癌遺伝子とは対照的に、腫瘍抑制剤は一般に、細胞成長に対して負の影響を及ぼし、細胞のアポトーシスを促進し、細胞サイクルの進行を阻害し、浸潤および転移の可能性に影響を与える。いくつかの例において、腫瘍抑制剤は、これらの改変形態においてでさえ癌遺伝子の活性に対抗しうる。腫瘍抑制機能の損失または阻害の際に、前癌遺伝子またはこれらの対応癌遺伝子形態の非調節活性は、細胞形質転換および発癌をもたらす。遺伝子突然変異もしくは欠失、抑制転写、分解の増加、または腫瘍抑制剤と協力して作用する関連タンパク質の異常性は、腫瘍抑制活性を危うくすることがある。腫瘍抑制遺伝子は、突然変異体対立遺伝子とともに正常対立遺伝子を有する細胞が、依然として正常に挙動するように、劣性対立遺伝子として作用する。このようにして、異型接合の損失(LOH)とも呼ばれている正常対立遺伝子の損失は、異常な細胞成長および増殖のいくつかの型を特徴付ける。癌遺伝子活性および正常な細胞分裂制御の破壊の結果として生じるゲノムの不安定性は、LOHの確率、したがって癌遺伝子による形質転換表現型の発生を増加させうる。
【0005】
細胞増殖性障害の治療は、形質転換細胞において影響を受けた癌遺伝子および/または腫瘍抑制剤を標的としうる。しかしながら、機能の損失、例えば腫瘍抑制剤に起因する障害は典型的には、根底にある分子欠陥を治療しようとする際、機能の獲得の変化、例えば癌遺伝子の活性化に起因する障害における、根底にある分子欠陥の治療よりも問題が多い。失われた細胞機能を与えるための細胞プロセスの改変は、多くの事例では実際的でない。このようにして、腫瘍抑制活性の損失に起因する細胞増殖性障害についてでさえ、治療は典型的には、失われた腫瘍抑制機能の結果として作用する、調節不全分子(例えば前癌遺伝子)へ向けられる。多くの分子標的、例えば非受容体および受容体ベースのタンパク質キナーゼが同定されているが、細胞増殖および成長において効果を現わす細胞調節メカニズムの複雑な性質は、治療標的になりうる他の分子が依然として同定されていないことを示すであろう。これらのうちのいくつかは未知であろうが、一方、公知であっても、細胞増殖性障害と関連付けられないことがある場合もある。
【0006】
このように、細胞増殖性障害において癌遺伝子的に、それ自体の活性の改変の帰結として、またはその活性を調節する作用をする細胞機能の損失の結果としてのどちらかとして作用する、他の細胞分子を同定することが望ましい。このような分子を同定する際、特異的にその細胞分子に向けられた化合物を同定することができ、独立して、または他の公知療法と組み合わせて、細胞増殖性障害を治療するために用いることができる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本開示は、細胞増殖性障害の治療方法であって、細胞増殖性障害を治療するのに有効な量のSykキナーゼ阻害化合物を被験体に投与することによる方法を提供する。いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、Sykキナーゼに対して選択的であり、これによって、増殖性障害に存在する異常なSykキナーゼ活性を特異的に標的する。Sykが、正常でない細胞分裂または細胞成長のいくつかの態様においてある役割を果たすいずれの細胞増殖性障害も、これらの阻害化合物で治療することができる。いくつかの実施形態において、これらの阻害化合物で治療可能な細胞増殖性障害は、造血新生物であり、これらは、造血系統の細胞に関わる正常でない成長である。これらのSyk阻害化合物で治療可能な造血新生物は、とりわけ、様々な骨髄およびリンパ系の新生物、例えば慢性骨髄性白血病、バーキットリンパ腫、および急性骨髄性白血病を包含する。
【0008】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害化合物は、SykキナーゼおよびFlt−3キナーゼの両方の活性を阻害しうる、Syk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を含む。これらの化合物は、異常なFlt−3キナーゼ活性と関連する細胞増殖性障害を治療するために用いることができる。Flt−3活性が正常でない様々な造血新生物は、とりわけ、急性骨髄性白血病、B−前駆体細胞急性リンパ芽球性白血病、T−細胞急性リンパ芽球性白血病、骨髄異形成症候群、および慢性骨髄性白血病を包含する。Flt−3に関わるこれらおよび他のこのような障害は、Syk/Flt−3阻害化合物、例えば本明細書に記載されている2,4−ピリミジンジアミン化合物のメンバーで治療することができる。
【0009】
他の態様において、これらの阻害化合物は、正常細胞を腫瘍細胞に形質転換するウイルス遺伝子によって媒介された腫瘍を治療するために用いることができる。これらの実施形態において、ウイルス癌遺伝子の活性がその形質転換メカニズムの一部としてSykキナーゼ機能を破壊する腫瘍は、治療のための標的とすることができる。このようにして、いくつかの実施形態において、ウイルス媒介腫瘍は、免疫受容体チロシン−ベースの活性化モチーフ(ITAM)を有するタンパク質をコードする遺伝子を保有するウイルスによる感染と関連している。通常、これらの保存された配列は、免疫系細胞(例えば、B細胞、T細胞、好中球など)の発達および機能の間にSykキナーゼ活性を調節する。しかしながら、ITAM配列を有するウイルスタンパク質の永続的な発現は、異常なSykキナーゼ活性および結果として生じる腫瘍形成および/または維持を生じうる。様々な実施形態において、ウイルス媒介腫瘍は、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、エプスタイン−バーウイルス、ヒトT−細胞リンパ球向性ウイルス(HTLV−1)、または乳腺癌ウイルス(MTV)と関連する場合がある。これらのウイルスの存在は、いくつかの細胞増殖性障害と相関関係がある。これは、カポジ肉腫、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、成人T細胞白血病、および乳癌のあるいくつかの形態を包含する。
【0010】
いくつかの態様において、本開示は、腫瘍転移の阻害方法であって、腫瘍転移を阻害するのに有効な量のSykキナーゼ阻害化合物を被験体に投与することによる方法を提供する。転移の可能性があるいずれの腫瘍も、これらの阻害化合物で治療することができる。いくつかの実施形態において、腫瘍転移は、インテグリンの活性と関連している。これらは、細胞接着特性の調節においてSykキナーゼを通して作用しうる。例えば腫瘍細胞の転移において観察されるものである。Sykキナーゼ阻害剤は、インテグリン、例えばβ1、β2、および/またはβ3インテグリンによって媒介された細胞シグナル伝達事象に影響を与えることによって、腫瘍転移を阻害するために用いることができる。
【0011】
いくつかの態様において、これらの阻害化合物は、他の癌治療と組み合わせて用いることができる。いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、他の化学療法薬と組み合わせて用いられる。これはとりわけ、代謝拮抗物質、アルキル化剤、配位化合物、転写阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNA副溝結合化合物、ビンカアルキロイド、抗腫瘍抗生物質、ホルモン、および抗腫瘍酵素を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
6.1 処理方法
本開示は、細胞増殖性障害の治療方法であって、SykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を投与することによる方法を提供する。Sykキナーゼは、Syk族(SykおよびZAP−70)非受容体チロシンキナーゼの2つの公知メンバーの1つである。Sykは、そのsrc相同体2(SH2)ドメインの免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)への結合の時に活性化される。Sykキナーゼは、リンパ球の発達および免疫細胞の活性化において必須の役割を果たし、B細胞受容体シグナル伝達およびマスト細胞顆粒のFc受容体媒介放出におけるその役割について最もよく特徴付けられている。Sykは、造血細胞中に遍在的に発現されるが、他の組織、例えば乳房上皮細胞および肝細胞においても発現される。Sykは腫瘍抑制剤であり、転移可能性の負の調節剤として作用することを、この分野において信じている人もいる。Syk活性の損失は、浸潤性乳癌の形成と関連していることが示唆され、Syk遺伝子の染色体消失が、原発性乳癌のリンパ節転移のあるいくつかの型において示されている。このようにして、細胞増殖性障害の治療のため、または腫瘍細胞の転移可能性を低下させるための治療としてのSyk阻害剤の使用は、Sykが腫瘍抑制剤として機能する場合、禁忌であろう。
【0013】
Flt−3はまた、チロシンキナーゼでもあるが、Sykとは異なって、これはチロシンキナーゼ受容体タンパク質族に属する。Flt−3は、クラスIII受容体チロシンキナーゼのメンバーであり、これらは、アミノ酸配列および構造特性によって関連付けられる。Flt−3は、その同族リガンドFlt−3Lへの結合によって活性化される。Flt−3キナーゼは、正常な骨髄の初期造血幹細胞中に発現され、様々な下流細胞標的の活性を制御することによって、多能幹細胞およびB細胞の発達において機能するように見える。これらは、とりわけ、ホスホリパーゼC−(PLC)、ホスファチジルイノシトール3’−キナーゼ(PI3K)のp85サブユニット、Shc、Shp−2、Ship、Grb2、Vav、Fynキナーゼ、Srcキナーゼ、Stat5情報伝達タンパク質、およびErkを包含する。Flt−3キナーゼは、骨髄中の神経前駆細胞中に正常に発現されるが、発現の高レベルはまた、血液細胞増殖性障害、例えば急性骨髄性白血病(AML)、B−前駆体細胞急性リンパ芽球性白血病、T−細胞急性リンパ芽球性白血病、およびリンパ急性転化における慢性骨髄性白血病(CML)の範囲内でも観察される(例えばRosnetら、1996,Leukemia 10:238−248;Carowら、1996,Blood 87:1089−1096を参照されたい)。血液細胞増殖性障害におけるFlt−3突然変異の存在は、寛解率の減少、再発率の増加、および一般により低い全体の生存率と相関関係がある(Romboutsら、2000,Leukemia 14:675−683;Thiedeら、2002、Blood 99:4326−4335;Frohlingら、2002,Blood 100:4372−4380)。
【0014】
当業界は、Sykが腫瘍抑制剤として作用しうることを示唆しているが、本開示は、Sykがその仮定された役割とは反対の機能を果たすという指摘に基づいている。例えば、腫瘍細胞中のSykキナーゼの強制的発現は、腫瘍細胞の形質転換された表現型を逆転するようには見えない。対して、Sykが細胞増殖を促進および/または維持する発癌能力において作用することが、本発明において示唆されている。Sykの役割に関するこの観点で、本開示は、細胞増殖性障害の治療方法であって、細胞増殖性障害を治療するのに有効な量のSykキナーゼ阻害化合物を被験体に投与することによる方法を提供する。
【0015】
さらには、いくつかのSyk阻害化合物、例えば下にさらに詳細に記載されている2,4−ピリミジンジアミン化合物のメンバーもまた、Flt−3キナーゼの阻害剤として作用しうることも、本明細書において示されている。その結果、いくつかの実施形態において、Flt−3キナーゼならびにSykキナーゼを阻害する、この二重または多作用阻害プロフィール(すなわちSyk/Flt−3キナーゼ阻害活性)を有するSyk阻害化合物は、異常なFlt−3受容体キナーゼ活性と関連した細胞増殖性障害の治療のための用途を見出す。SykキナーゼおよびFlt−3キナーゼの両方と、造血細胞の発達との組合せは、造血新生物の治療のための、このようなSyk/Flt−3キナーゼ阻害化合物の使用を支持する。
【0016】
本発明の方法の記載において、用いられている用語は、本明細書において特別に他の規定がなされていなければ、これらの通常かつ共通の意味を有する。
【0017】
「Syk」または「Sykキナーゼ」とは、B−細胞および他の造血細胞中に発現される72kDa非受容体(細胞質)脾臓タンパク質チロシンキナーゼのことを言う。Sykキナーゼは、リン酸化免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(「ITAM」)、「リンカー」ドメイン、および触媒ドメインへ結合する、縦列の2つのコンセンサスSrc−同族体2(SH2)ドメインを特徴とする(概論については、Sadaら、2001,J.Biochem.(Tokyo)130:177−186、および同様にTurnerら、2000,Immunology Today 21:148−154、およびWongら、2004,Expert Opin Investig Drugs 13(7):743−62を参照のこと)。Sykキナーゼはまた、免疫受容体から通じている重要な経路、例えばCa2+動員、およびマイトゲン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)カスケード、および脱顆粒を調節する、多重タンパク質のチロシンリン酸化にとっても重要である。Sykキナーゼはまた、好中球中のインテグリンシグナル伝達においても重要な役割を果たす(例えばMocsaiら、2002,Immunity 16:547−558参照のこと)。Sykキナーゼは、Syk族に属すると認識されているあらゆる動物種からのキナーゼを包含する。この動物種は、非限定的にホモサピエンス、サル、ウシ、ブタ、げっ歯類などを包含する。具体的には、自然発生および人工の両方のイソ型、スプライス変異体、対立変異体、突然変異体が含まれる。このようなSykキナーゼのアミノ酸配列は、GENBANKから入手しうる。ヒトSykキナーゼの異なるイソ型をコードするmRNAの具体例は、GENBANK受入番号gil21361552|ref|NM 003177.2、gil496899|emb|Z29630.1|HSSYKPTK[496899]、およびgil5030258|gb|BC011399.1|BC011399[15030258]として入手可能であり、これらは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
「Flt−3」または「Flt−3受容体チロシンキナーゼ」とは、flt−3リガンド(Flt−3LまたはFL)を結合する受容体チロシンキナーゼのことを言う。Flt−3はまた、Fms−様チロシンキナーゼ3、FLK−2(胎児肝臓キナーゼ−2)およびSTK−1(ヒト幹細胞キナーゼ−11)としても公知である(例えばMathewsら、1991,Cell.65:1143−1152;Rosnetら、1991,Oncogene.6:1641−1650を参照されたい)。Flt−3は、クラスIII受容体チロシンキナーゼ(RTKIII)族のメンバーとの配列類似性を有し、これのサブセットは、とりわけ、FMS、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、およびKitを包含する(Rosnetら、1993,Crit Rev Oncog.4:595−613)。マウスおよびヒトにおけるFlt−3ポリペプチドは、それぞれ1000−および993−アミノ酸タンパク質であり、未成熟造血細胞、胎盤、生殖腺、および脳で発現されることが公知である。上記のように、Flt−3は、多能性幹細胞およびB細胞の発達において想定された役割を有する。クラスIII受容体チロシンキナーゼの他のメンバーと同様に、Flt−3は、細胞外ドメイン、膜貫通(TM)ドメイン、近接膜(JM)ドメイン、キナーゼ挿入(KI)ドメインによって分離された2つの細胞内チロシンキナーゼ(TK1およびTK2)ドメイン、およびC−末端ドメインにおける5免疫グロブリン様反復を特徴とする(Agnesら、1994,Gene 145:283−288;2004,Griffithら、Molecular Cell 13:169−178)。Flt−3キナーゼは、Flt−3受容体族に属すると認識されている、非限定的にホモサピエンス、サル、ウシ、ブタ、げっ歯類などを包含するあらゆる動物種からのキナーゼを包含する。具体的には、自然発生および人工の両方のイソ型、スプライス変異体、対立変異体、突然変異体が含まれる。このようなSykキナーゼのアミノ酸配列は、GENBANKから入手しうる。異なるFlt−3キナーゼの核酸配列および対応アミノ酸配列の具体例は、とりわけ、ヒト(受入番号NM 004119.1)、チンパンジー(受入番号452508;XM 509601.1;XP 509601.1)、イヌ(NM 001020811.1;NP 001018647.1)、およびマウス(受入番号142551;NM 010229.11;NP 034359.11;AK0458654;AK1492924;AK1636404;BC1090034;BC1090044;L361634;M646894;X593984)を包含し、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0019】
Flt−3変異体のいくつかの実施形態は、ある造血細胞増殖性障害と関連している。「Flt−3 ITD」とは、近接膜(JM)ドメインに内部縦列重複(ITD)を有するFlt−3の変異体のことを言う(Nakaoら、1996,Leukemia 10:1911−1918;Griffithら、上記)。Flt−3 ITDにおいて重複されたJMドメインの数は被験体毎に異なるが、インフレームであり、一般に、異常な(すなわち増加した)チロシンキナーゼ活性を有するタンパク質を結果として生じる。Flt−3 ITD型の変異体は、多くの場合、急性骨髄性白血病、および骨髄異形成症候群と関連している。変異体の別の型は、「Flt−3活性化ループ突然変異」であり、これは、第2チロシンキナーゼ(TK2)ドメインの活性化ループにアミノ酸配列変化(野生型と比較した場合)を有する変異体のことを言う。理論によって縛られるわけではないが、この活性化ループは、アデノシントリホスフェート(ATP)および基質のキナーゼドメインへのアクセスを妨げることにおいて機能を果たすように見え、これによってキナーゼに対して阻害効果を与える。結果として、活性化ループ突然変異は、構成的活性を有するFlt−3キナーゼ形態を生じうる。例示的活性化ループ変異体は、D835Aであり、これは、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、および急性リンパ芽球性白血病において観察される(Yamamotoら、2001,Blood 97:2434−2439;Griffin,J.D.,2001,Blood 97:2193a)。ヒトにおける細胞増殖性障害と関連した他の例示的活性化ループ変形例は、とりわけ、D835Y、D835A、D835E、D835H、D835N、D835V、D835del、およびI836delを包含していた。
【0020】
「細胞増殖性障害」とは、細胞の正常でない増殖を特徴とする障害のことを言う。増殖性障害は、細胞成長率に関する制限を含まず、単に成長および細胞分裂に影響を与える正常な制御の損失を示すだけである。このようにして、いくつかの実施形態において、増殖性障害の細胞は、正常な細胞と同じ細胞分裂速度を有しうるが、このような成長を制限するシグナルに応答しない。「細胞増殖性障害」の領域内には、新生物または腫瘍があり、これは、組織の正常でない成長である。癌とは、周囲組織に侵入し、および/または新しいコロニー化部位へ転移する能力を有する細胞の増殖を特徴とする、様々な悪性新生物のいずれかのことを言う。
【0021】
「造血新生物」とは、造血系統の細胞に起因する細胞増殖性障害のことを言う。一般に造血は、未分化細胞または幹細胞が、末梢血中に見られる様々な細胞として発達する生理学的プロセスである。発達の初期段階において、典型的には骨髄中に見られる造血幹細胞は、一連の細胞分裂を受け、2つの主な発達経路、すなわちリンパ系統および骨髄系統に責任を有する多能性前駆細胞を形成する。骨髄系統の委任前駆細胞は、赤血球、巨核球、および顆粒球/単球発達経路からなる、3つの主要なサブブランチに分化する。追加経路は、抗原提示に関与する樹状細胞の形成を生じる。赤血球系統は、赤血球細胞を生じ、一方、巨核球系統は、血小板を生じる。顆粒球/単球系統の委任細胞は、顆粒球または単球発達経路に分裂し、前者の経路は、好中球、好酸球、および好塩基球の形成を生じ、後者の経路は、血中単球およびマクロファージを生じる。
【0022】
リンパ系統の委任前駆細胞は、発達してB細胞経路、T細胞経路、または非−T/B細胞経路になる。骨髄系統と同様に、追加のリンパ経路は、抗原提示に関与する樹状細胞を生じるように見える。B細胞前駆細胞は、発達して前駆体B細胞(プレ−B)になり、これは、免疫グロブリンの生産の原因となるB細胞に分化する。T細胞系統の前駆体細胞は、前駆体T細胞(プレ−T)に分化し、これらは、あるサイトカインの影響に基づき、発達して、細胞媒介免疫に関与する細胞毒性またはヘルパー/抑制剤T細胞になる。非−T/B細胞経路は、ナチュラルキラー(NK)細胞の発生を生じる。造血細胞の新生物は、造血のいずれの段階の細胞を含んでいてもよく、これは、造血幹細胞、多能性前駆細胞、オリゴ能性委任前駆細胞、前駆体細胞、および成熟分化細胞を包含する。造血新生物のカテゴリーは一般に、当業者によって使用されている説明および診断基準に従いうる(例えばInternational Classification of Disease and Related Health Problems(ICD 10)、World Health Organization(2003)を参照されたい)。造血新生物はまた、分子特徴、例えば細胞表面マーカーおよび遺伝子発現プロフィール、異常細胞によって示される細胞表現型、および/またはある造血新生物に特徴的な染色体異常(例えば欠失、転座、挿入など)、例えば慢性骨髄性白血病に見られるフィラデルフィア染色体に基づいて特徴付けることもできる。他の分類は、National Cancer Institute Working Formulation(Cancer,1982,49:2112−2135)およびRevised European−American Lymphoma Classification(REAL)を包含する。
【0023】
「リンパ系の新生物」とは、造血のリンパ系統の細胞に関与する増殖性障害のことを言う。リンパ系の新生物は、造血幹細胞、ならびにリンパ委任前駆細胞、前駆体細胞、および最終分化細胞に起因しうる。これらの新生物は、異常細胞の表現型属性、または正常でない細胞が起因する分化状態に基づいて再分割されうる。再分割は、とりわけ、B細胞新生物、T細胞新生物、NK細胞新生物、およびホジキンリンパ腫を包含する。
【0024】
「骨髄新生物」とは、造血の骨髄系統の細胞の増殖性障害のことを言う。新生物は、造血幹細胞、骨髄委任前駆細胞、前駆体細胞、および最終分化細胞に起因しうる。骨髄新生物は、異常細胞の表現型属性、または正常でない細胞が起因する分化状態に基づいて再分割されうる。再分割は、とりわけ、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、および急性二表現型白血病を包含する。
【0025】
「ウイルス媒介腫瘍」とは、ウイルス感染、またはウイルスでコードされた産物の活性に関連した新生物または腫瘍のことを言う。新生物は、細胞ゲノム中に統合された潜伏ウイルスの存在に起因するか、またはウイルス関連遺伝子産物の活性に起因しうる。ウイルス感染は、インキュベーション期間が、腫瘍表現型の発達前に数ヶ月または数年に及びうるという点で、時間的に腫瘍形成と密接な相関関係があるとする必要はない。本発明における治療は、Syk阻害剤の使用を対象としているので、適用可能なウイルス関連腫瘍は、Syk活性のウイルス調節が、異常な細胞増殖と相関関係がある腫瘍である。Sykの活性化がウイルス感染の結果である、RNAおよびDNAウイルス、およびエピソーム的に存在するか、または細胞ゲノム中に統合されるウイルスを包含するあらゆるウイルスは、本発明の方法を用いて標的することができる。
【0026】
「腫瘍転移」とは、腫瘍細胞が、元の腫瘍部位から移動して、他の組織中でコロニー化する能力のことを言う。広がった細胞から形成される腫瘍は、「二次性腫瘍」と呼ばれ、元の「原発性」腫瘍にあるものと同様な細胞を含有する。転移性腫瘍は典型的には、元の腫瘍部位から血液およびリンパ系を通って他の組織への腫瘍細胞の移動によって形成される。
【0027】
「Syk媒介インテグリンシグナル伝達」とは、Sykキナーゼとの相互作用を介して発生する、細胞表面インテグリンの情報伝達のことを言う。インテグリンは、細胞外マトリックスおよび細胞表面リガンドを結合する、細胞表面接着受容体の拡大された族を含む。構造的には、インテグリンは、αおよびβ鎖からなるヘテロダイマータンパク質であり、各々のサブユニットは、細胞外ドメイン、単一膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインを有する。αサブユニットは一般に、約7の縦列反復から構成され、反復のサブセットは、一般的構造DxDxDGxxD(式中、xは、いずれかのアミノ酸である)の推定金属結合配列を含有する。インテグリンの2つのグループは、αサブユニットによって特徴付けることができる。すなわち、「A」ドメインを含有するもの、およびタンパク質分解の切断部位を有するものである。βサブユニットは、細胞外ドメインに約200アミノ酸の保存領域を含み、これは、αサブユニットの「A」ドメインと構造的類似性を有する領域、およびラミニン中に見られるものと同様な、上皮成長因子(EGF)様反復を有する別の領域を特徴とする(例えばXiongら、2003,Blood,102(4):1155−1159)。インテグリン活性は、細胞内Sykを調節しうるか、または逆に、インテグリン機能は、Sykの活性を介して調節することができる。いくつかの例において、インテグリンは、その同族リガンドを結合するために、細胞内の活性化を必要とすることが、一般に理解されている(インサイドアウト活性化)。Sykを調節するか、またはこれによって調節されるインテグリンは、とりわけ、β1−インテグリン(Linら、J.Biol.Chem.1995,270(27):16189−97)、例えばα2b1(Keelyら、1996,J.Biol.Chem.271(43):26668−76)、β2−インテグリン、およびβ3−インテグリン(Woodsideら、2001,Curr Biol.11(22):1799−804)、例えばαIIbβ3(Clarkら、J.Biol.Chem.1994、269(46):28859−64)を包含する。例えば、Sykは、インテグリンβ3細胞質尾へ、SH2ドメインを通って直接結合すると考えられている。しかしながら、ITAMへ結合するSykとは異なり、β3インテグリンとの相互作用は、縦列SH2ドメインのホスホチロシン結合機能とは独立して現われる。
【0028】
一般に、本明細書において開示されている化合物で治療可能な細胞増殖性障害は、異常な細胞増殖を特徴とするあらゆる障害に関する。これらは、良性または悪性、転移性または非転移性の様々な腫瘍および癌を包含する。癌の具体的な特性、例えば組織浸潤性または転移は、本明細書に記載された方法を用いて標的することができる。細胞増殖性障害は、多様な癌を包含し、これは、とりわけ、乳癌、卵巣癌、腎性癌(renal cancer)、胃腸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、肺扁平癌(lung squamous carcinoma)、および腺癌を包含する。
【0029】
いくつかの実施形態において、治療された細胞増殖性障害は造血新生物であり、これは、造血系の細胞の異常成長である。造血悪性腫瘍は、造血に関与する多能性幹細胞、多能性前駆細胞、オリゴ能性委任前駆細胞、前駆体細胞、および最終分化細胞にその起源を有しうる。いくつかの血液悪性腫瘍は、自己更新能力を有する造血幹細胞に起因すると考えられている。例えば、移植の際に急性骨髄性白血病(AML)の特定の亜類型を発達させうる細胞は、造血幹細胞の細胞表面マーカーを示し、このことは、造血幹細胞を白血病細胞源としての関与を示唆する。造血幹細胞に特徴的な細胞マーカーを有しない芽細胞は、移植の際に腫瘍を定着させることができないように見える(Blaireら、1997,Blood 89:3104−3112)。ある血液悪性腫瘍の幹細胞起源はまた、特定の型の白血病に関連した特定の染色体異常が、造血系統の正常な細胞ならびに白血病芽細胞中に見られるという観察事項においても裏付けが得られる。例えば慢性骨髄性白血病の約95%に関連する相互転座t(9q34:22q11)は、骨髄、赤血球、およびリンパ系統の細胞中に存在するようであり、このことは、この染色体異常が、造血幹細胞に由来することを示唆している。CMLのあるいくつかの型における細胞のサブグループは、造血幹細胞の細胞マーカー表現型を示す。
【0030】
造血新生物は、多くの場合幹細胞に由来するが、委任前駆細胞、または発達系統のより多くの最終分化細胞もまた、いくつかの白血病源でありうる。例えば、共通の骨髄前駆体または顆粒球/マクロファージ前駆体細胞における(慢性骨髄性白血病に関連する)融合タンパク質Bcr/Ablの強制発現は、白血病様状態を生成する。さらには、白血病の亜類型と関連したいくつかの染色体異常は、造血幹細胞のマーカー表現型を有する細胞集団では見られないが、造血経路のより分化した状態のマーカーを示す細胞集団では見られる(Turhanら、1995,Blood 85:2154−2161)。このようにして、委任前駆体細胞および他の分化細胞は、細胞分裂に対して限定した可能性しか有しないが、白血病細胞は、未調節で成長する能力を獲得している場合があり、いくつかの場合には、造血幹細胞の自己更新特徴を模倣する(Passegueら、Proc,Natl.Acad.Sci.USA,2003,100:11842−9)。
【0031】
いくつかの実施形態において、治療された造血新生物は、リンパ系の新生物であり、正常でない細胞は、リンパ系統の細胞の特徴的表現型に由来し、および/またはこれを示す。リンパ系の新生物は、B−細胞新生物、TおよびNK−細胞新生物、およびホジキンリンパ腫に再分割されうる。B−細胞新生物はさらに、前駆体B−細胞新生物および成熟/末梢B−細胞新生物に再分割されうる。例示的B−細胞新生物は、前駆体B−リンパ芽球性白血病/リンパ腫(前駆体B−細胞急性リンパ芽球性白血病)であるが、例示的成熟/末梢B−細胞新生物は、B−細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B−細胞前リンパ球性白血病、リンパ芽球性リンパ腫、脾臓辺縁帯域B−細胞リンパ腫、ヘアリー細胞白血病、形質細胞性骨髄腫/形質細胞腫、MALT型の節外性辺縁帯域B−細胞リンパ腫、節性辺縁帯域B−細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、外套細胞リンパ腫、びまん性大B−細胞リンパ腫、縦隔大B−細胞リンパ腫、原発性浸出リンパ腫、およびバーキットリンパ腫/バーキット細胞白血病である。T−細胞およびNK−細胞新生物はさらに、前駆体T−細胞新生物および成熟(末梢)T−細胞新生物に再分割される。例示的前駆体T−細胞新生物は、前駆体T−リンパ芽球性リンパ腫/白血病(前駆体T−細胞急性リンパ芽球性白血病)であり、一方、例示的成熟(末梢)T−細胞新生物は、T−細胞前リンパ球性白血病、T−細胞顆粒リンパ球性白血病、攻撃性NK−細胞白血病、成人T−細胞リンパ腫/白血病(HTLV−1)、節外性NK/T−細胞リンパ腫、鼻腔型、腸疾患型T−細胞リンパ腫、肝脾γ−δT−細胞リンパ腫、皮下脂肪組織炎様T−細胞リンパ腫、真菌症菌状腫/セザリー症候群、未分化大細胞リンパ腫、T/ヌル細胞、原発性皮膚型、末梢T−細胞リンパ腫、他に特徴決定されていない、血管免疫芽球性T−細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、T/ヌル細胞、原発性全身型である。リンパ系の新生物の第3のメンバーは、ホジキン病とも呼ばれるホジキンリンパ腫である。これらの化合物で治療することができる、この種類の例示的診断は、とりわけ、結節性リンパ球優勢ホジキンリンパ腫、およびホジキン病の様々な従来の型を包含し、これらの例示的メンバーは、結節性硬化症ホジキンリンパ腫(グレード1および2)、リンパ球リッチな従来のホジキンリンパ腫、混合細胞質ホジキンリンパ腫、およびリンパ球枯渇ホジキンリンパ腫である。様々な実施形態において、異常なSyk活性と関連するリンパ系の新生物のどれも、Syk阻害化合物で治療することができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、治療される造血新生物は骨髄新生物である。このグループは、骨髄系統の細胞の特徴的表現型に関与するか、またはこれを示す細胞増殖性障害の大きなクラスを含む。骨髄新生物は、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、および急性骨髄性白血病に再分割されうる。例示的骨髄増殖性疾患は、慢性骨髄性白血病(例えばフィラデルフィア染色体陽性(t(9;22)(qq34;q11))、慢性好中球性白血病、慢性好酸球性白血病/高好酸球性症候群、慢性突発性骨髄線維症、真性赤血球増加症、および本態性血小板血症である。例示的骨髄異形成/骨髄増殖性疾患は、慢性骨髄単球性白血病、非定型慢性骨髄性白血病、および若年性骨髄単球性白血病である。例示的骨髄異形成症候群は、環状鉄芽球をともなう、および環状鉄芽球をともなわない不応性貧血、多系統異形成をともなう不応性血球減少(骨髄異形成症候群)、過剰な芽をともなう不応性貧血(骨髄異形成症候群)、5q−症候群、およびt(9;12)(q22;p12)をともなう骨髄異形成症候群である(TEL−Syk融合;例えばKunoら、2001,Blood 97:1050を参照されたい)。様々な実施形態において、異常なSyk活性と関連した骨髄新生物のどれも、Syk阻害化合物で治療することができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は急性骨髄性白血病(AML)を治療するために用いることができる。これは、障害のそれ自体の下位区分を有する骨髄新生物の大きなクラスを代表する。これらの下位区分は、とりわけ、再発性細胞遺伝転座を有するAML、多系統異形成を有するAML、および他のカテゴリーに入れられない他のAMLを包含する。再発性細胞遺伝転座を有する例示的AMLは、とりわけ、t(8;21)(q22;q22)をともなうAML、AML1(CBF−α)/ETO、急性前骨髄性白血病(t(15;17)(q22;q11−12)をともなうAML、および変異体PML/RAR−α)、正常でない骨髄好酸球(inv(16)(p13q22)またはt(16;16)(p13:q11)、CBFb/MYH11X)をともなうAML、および11q23(MLL)異常をともなうAMLを包含する。多系統異形成をともなう例示的AMLは、以前の骨髄異形成症候群に関連するか、または関連しないものである。いずれかの規定可能なグループ中に分類されない他の急性骨髄性白血病は、最小限に分化されたAML、成熟をともなわないAML、成熟をともなうAML、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、急性赤血球白血病、急性巨核球性白血病、急性好塩基性白血病、および骨髄線維症をともなう急性汎骨髄症を包含する。
【0034】
他の態様において、Sykキナーゼ阻害剤で標的することができる細胞増殖性障害は、ウイルス媒介腫瘍を含む。これらは、正常細胞を腫瘍細胞に形質転換させる能力を有する発癌ウイルスによる細胞の感染に起因しうる。ウイルス感染率は、細胞形質転換の実際の発生数をはるかに超えるので、ウイルス媒介形質転換は一般に、他の細胞因子とともに作用して、形質転換腫瘍細胞を発生させる。このようにして、ウイルス媒介腫瘍は、このウイルスが細胞増殖性障害の唯一の原因物質であることを必要としないが、むしろウイルス感染またはウイルスの永続的な存在が、腫瘍の発生と関連していることを必要とする。一般に、原因物質がウイルスである腫瘍は典型的には、限定数のウイルス遺伝子の継続的な発現を有し、ウイルス性のこれらの癌遺伝子は、ウイルス感染の一部として、またはこのウイルスの永続を通して発現され、正常な細胞遺伝子発現および情報伝達経路を破壊する。理論によって縛られるわけではないが、細胞形質転換に関与するウイルス癌遺伝子は、4つの主な細胞プロセスを破壊するように見える:すなわち、成長因子および細胞外マトリックスと相互作用する細胞表面受容体、膜貫通型シグナル伝達ネットワーク、細胞質ゾル要素、例えば可溶性タンパク質および第2のメッセンジャー、および遺伝子調節および複製において直接的および間接的に機能するDNA結合タンパク質および因子を包含する核タンパク質である。あるウイルスでコードされたタンパク質は、形質転換プロセスの一部として特定の細胞成分を標的するので、Syk阻害剤の適用は、ウイルス成分がSykキナーゼの活性を標的する場合に適切でありうる。
【0035】
いくつかの実施形態において、本明細書において開示されている化合物で治療可能なウイルス媒介腫瘍は、Syk活性を調節しうる免疫受容体チロシン−ベース活性化モチーフ(ITAM)をコードするいずれかのウイルスと関連している。このモチーフは、上記のように、非受容体チロシンキナーゼと相互作用し、これを活性化することによって機能する保存アミノ酸配列モチーフのことを言う。ITAMモチーフは、とりわけ、FcεRIのβおよびγ鎖、T細胞受容体のεサブユニット、および免疫グロブリンβ(Igβ)、およびB細胞受容体のIgα中に見られる。規範的配列モチーフは典型的には、Yxx(L/I)x6−8Yxx(L/I)(式中、xはいずれかのアミノ酸を表わす)である。一般に、このモチーフ中のチロシン残渣は、ITAMシグナル伝達に関与し、キナーゼのSrc族によるリン酸化のための基質である。ITAMのリン酸化形態は、シグナル伝達タンパク質、例えばSyk/ZAP−70キナーゼを含有するSH2(src同族体ドメイン)のための相互作用部位として機能する。多様な細胞の細胞表面分子中のその存在に加えて、ITAM配列は、ウイルスでコードされたタンパク質中に同定されている。癌遺伝子としてのSykキナーゼの機能を指摘している本明細書の記載に鑑みて、ITAM配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を保有するウイルスと関連した腫瘍は、Syk阻害化合物で治療することができる。
【0036】
したがって、いくつかの実施形態において、これらの阻害化合物で治療可能なウイルス媒介腫瘍は、カポジ肉腫(KS)関連ヘルペスウイルス、カポジ肉腫に関わるリンパ栄養ウイルス、HIV感染集団の中でより高い発生率で発見される稀な悪性腫瘍と関連している。KS関連ヘルペスウイルスは、免疫受容体チロシン−ベース活性化モチーフ(ITAM)様配列を有する、KIと呼ばれている膜貫通型タンパク質をコードする。KI遺伝子産物は、Sykおよびその関連キナーゼZap−70を活性化するために、そのシステインリッチなエクトドメインを通して構成的に作用すると考えられる(Lagunoff,M.ら、1999,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96(10):5704−5709)。本発明の方法のさらなる裏付けとして、KI遺伝子を有するトランスジェニックマウスは、感染動物においてある肉腫およびリンパ種の発生率を増加させるように見え、このことは、腫瘍形成におけるKI活性についての役割を示している(Prakashら、2002,J.Natl.Cancer Inst.94:926−35)。
【0037】
いくつかの実施形態において、ウイルス媒介腫瘍は、エプスタイン−バーウイルス(EBV)と関連している。エプスタイン−バーウイルスは、Herpesviridae族のメンバーであり、これは、一次感染後、中咽頭の上皮細胞において複製され、再循環Bリンパ球を感染させる。感染は、腺熱としても公知の急性感染性単球増加症を生じうる。感染性単球増加症は、一時的免疫抑制、および大部分がCD8+T細胞である異常なリンパ球の拡張を特徴とする良性のリンパ増殖性疾病である。これらのT細胞において、EBVは、潜在的であるが永続性の感染を樹立し、感染の間、精選された組のウイルス遺伝子が発現される。ゲノム全体が、エピソームDNAとして増殖するリンパ球中に存続しうる。EBV感染は、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、および成人T細胞白血病と関連している。
【0038】
EBVゲノムによってコードされたLMP2Aタンパク質は、感染後のEBVウイルスの潜伏の維持においてある役割を果たすと考えられている膜貫通型タンパク質である。これは、延長アミノ末端尾、12膜スパンのドメイン、および細胞質ドメインからなる。アミノ末端領域は、ITAMモチーフを含有し、これは、LMP2AとSykキナーゼとの相互作用を可能にする(Fruehlingら、1997,Virology,235:241−251)。LMP2Aは、B−細胞生存を促進し、潜伏を維持するために、リンパ細胞中のSykキナーゼを調節するように見える。Sykは、他のシグナル伝達経路、例えばPI−3K、BLNK、およびホスホリパーゼγ2を調節する情報伝達経路において重要な役割を果たし、リンパ細胞生存の強化に関与しているので、LMP2Aタンパク質、または他のウイルス媒介エフェクターを通した不適切なSyk活性化は、異常なリンパ増殖の誘発においてある役割を果たすことがある(Caldwellら、2000,J Virol 74(19):9115;Caldwellら、1998,Immunity 9:405)。このようにして、Syk活性の阻害は、EBVウイルス感染と関連した細胞増殖性障害に対して治療効果を与えうる。
【0039】
いくつかの実施形態において、Syk阻害剤で治療されることになるウイルス媒介腫瘍は、ヒトT−細胞リンパ球性ウイルス(HTLV−1ウイルス)、エイズウイルスHIV−1と同じ種類のウイルス中のレトロウイルスと関連している。CD8+T−細胞は、ウイルスリザーバとしても機能しうるが、このウイルスは、CD4+T−細胞に対しても親和性である。HTLV−1感染は、とりわけ、成人T−細胞白血病/リンパ腫(ATLL)、およびいくつかの他のリンパ球障害と関連している。HTLV−1感染の間、Sykは感染細胞中に発現され、一方、Syk関連キナーゼZAP−70の発現は存在しない(Weilら、1999,J.Virol.73(5):3709−17)。Sykを包含するいくつかのキナーゼの制御不良は、成人T−細胞白血病のHTLV−1媒介誘発に関わっている。
【0040】
いくつかの実施形態において、ウイルス媒介腫瘍は、乳癌ウイルス(MTV)と関連している。ITAM配列は、ネズミ乳癌ウイルス(MMTV)、すなわちマウスの乳癌の病因的作用物質として同定されたB型レトロウイルスのEnv遺伝子の中に見出される。MMTV Env遺伝子でトランスフェクションされたマウス乳房上皮細胞は、形質転換表現型の特性、例えば軟寒天中のコロニー形成、および基底膜調製物中への侵入力を示す(Katzら、2005,J Exp Med.201(3):431−9)。ネズミ乳癌ウイルス様配列はまた、ヒト癌、例えば乳癌およびT細胞リンパ腫中にも存在し(Wangら、2000,Clinical Cancer Res.6:1273−1278)、腫瘍形成と相関関係があるが、その理由は、これらの配列が、正常な乳房組織の大部分において観察されないからである。このようにして、MTVと関連した腫瘍は、Sykキナーゼ阻害剤で治療することができる。
【0041】
ウイルス媒介腫瘍の治療のためのSyk阻害化合物の使用は、先に特定されたウイルスと関連した腫瘍に限定されないと理解すべきである。記載されているように、Sykが、その発癌性メカニズムの一部として活性化される発癌性ウイルスと関連したあらゆる腫瘍は、これがITAM配列をともなっていてもいなくても、Syk阻害化合物を用いて標的することができる。
【0042】
いくつかの実施形態において、これらの阻害剤で標的することができる細胞増殖性障害は、異常なFlt−3キナーゼ活性と関連した細胞増殖性障害を含む。「異常なFlt−3キナーゼ活性」という用語は、次のものから見て正常でない活性のことを言う。すなわち、Flt−3キナーゼ活性の正常レベルが、野生型Flt−3キナーゼについてはどんなものであろうか、または正常なFlt−3発現細胞、組織、器官、または有機体中においてはどんなものであろうかという観点からである。異常なFlt−3キナーゼ活性は、タンパク質の誤った局在化(空間発現)、(直接的または間接的)酵素の活性の増加または減少、または一時的発現の変化(すなわち発達発現)に起因しうる。
【0043】
いくつかの実施形態において、異常なキナーゼ活性は、Flt−3の変異体と関連している。いくつかの実施形態において、これらの変異体は、増加したFlt−3受容体キナーゼ活性を特徴とする。本明細書において用いられているように、「増加したキナーゼ活性」とは、野生型Flt−3キナーゼについて、または正常なFlt−3発現細胞、組織、器官、または有機体において観察されるものよりも高いキナーゼ活性のことを言う。例示的な増加したキナーゼ活性は、あるFlt−3変異体、例えばFlt−3 ITD、およびFlt−3活性化ループ突然変異を有する細胞中に見出される。
【0044】
異常なFlt−3キナーゼ活性は、造血新生物の多くの異なる型の中に観察されるので、いくつかの実施形態において、Syk/Flt−3阻害化合物は、異常なFlt−3キナーゼの存在を特徴とする造血新生物を治療するために用いることができる。このようにして、いくつかの実施形態において、Syk/Flt−3阻害化合物で治療可能な造血新生物は、とりわけ、急性骨髄性白血病、B−前駆体細胞急性リンパ芽球性白血病、T−細胞急性リンパ芽球性白血病、および被験体において異常なFlt−3の存在が診断されているか、または疑われている慢性骨髄性白血病(CML)を包含しうる。しかしながら、当業者は、このような情報がなくてもこれらの治療を適用しうること、およびこれらの阻害化合物が、生存率の確率を高めるために予防的に与えることができることを理解すべきである。さらに当業者は、異常なFlt−3キナーゼ活性が検出されているか、または疑われている他の細胞増殖性障害へ、本明細書におけるSyk/Flt−3阻害化合物を適用することができる。
【0045】
他の態様において、本開示は、Sykキナーゼ阻害剤の使用による、腫瘍転移の治療を対象とする。転移は、腫瘍細胞が、その起源部位から脱離し、ついで広がって他の部位でコロニー化する、悪性腫瘍細胞の特徴である。これらの二次性腫瘍は、腫瘍細胞が由来する細胞と関連しない組織中に形成されうる。癌の悪性形態からの死亡率の主要原因であるように見えるのは、転移によるこれらの二次性腫瘍の形成である。転移は、悪性細胞が原発腫瘍から離脱し、血液またはリンパ系に入り、ついで他のコロニー化部位へ移動する時に始まる。一般に正常細胞は、異種細胞が互いに接着するのを阻害する様々なシグナル、ならびに細胞成長を阻害する細胞間のシグナルによって脱離せず、かつ他の組織に侵入しない。しかしながら細胞形質転換は、腫瘍細胞が局部的組織細胞と相互作用して、局部的細胞外マトリックスを修飾し、移動を刺激し、増殖および生存を促進するように、これらの正常な調節プログラムを改変する。細胞接着分子(CAM)、例えば免疫グロブリンおよびカルシウム依存性カドへリン族およびインテグリンのメンバーの改変は、侵入および転移において重要な役割を果たすように見える。例えば、接着性の高いイソ型から接着性の低い型へのN−CAMの改変は、そのダウンレギュレーションとともに、浸潤性膵臓癌を生じることがある。
【0046】
組織侵入および転移に関わる別のクラスの接着性タンパク質は、インテグリンである。上に記載されているように、インテグリンは、多様なクラスの細胞表面分子を形成する。22超のインテグリン亜類型の範囲内の順列もまた、異なる細胞シグナル伝達状態または変わりつつある外部環境に応答して細胞の相互作用を変更するための柔軟系を作成することができる。インテグリンは、インテグリンの活性化状態に応じて、細胞外リガンドと動的に相互作用する。これは、インテグリン親和性および結合活性を修飾する細胞内シグナルによって制御される(すなわちインサイドアウトシグナル伝達)。逆に、インテグリンと細胞外リガンドとの相互作用は、細胞接着特性、および変わりつつある細胞外環境への細胞応答に影響を与える情報伝達カスケードを始動させうる(すなわちアウトサイドインシグナル伝達)。インテグリンサブユニットの発現における変更は、浸潤性および転移性成長を誘発または阻害し、このことは、これらのタンパク質をこれらのプロセスの重要な決定因としての関与を示唆する(Guoら、2004,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.5(10):816−26;Jinら、2004,Br.J.Cancer,90:561−565)。例えば、インテグリンαvβ3が、脈管形成に必要とされ、そのアップレギュレーションは、腫瘍浸潤性および転移可能性と相関関係がある(Liapisら、1996,Diag.Mol.Pathol.23:127−135)。培養された転移乳癌細胞は、αvβ3の構成的発現を示し(Pecheurら、2002,FASEB J.16:1266−1268)、一方、例えば、インテグリンとその天然基質との結合のために競合するRGDペプチド類似剤の使用による、インテグリン活性を含有するαvサブユニットの阻害は、細胞増殖特性に影響を与えることなく、腫瘍の転移可能性を減少させうる(Krinstenら、2004,Clin.Exp.Metastasis 21(2):129−38;Harmsら、2004,Clin.Exp.Metastasis 21(2):119−28)。同様に、β1インテグリンの過剰発現は、細胞を基底膜へ付着させたままにする機能を果たす接着性接合部を破壊する場合がある。
【0047】
Sykキナーゼ活性は、造血系統の細胞上で発現するが、同様に非造血細胞中でも発現する様々なインテグリンと関連している。Sykキナーゼは、肺上皮細胞(Ulanovaら、2004,Am.J.Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.288:L497−L507)および単球(Linら、1995,J.Biol.Chem.270(27):16189−97)のβ1インテグリンシグナル伝達、顆粒球/好中球中のβ2インテグリンシグナル伝達(Miuraら、2000,Blood 96(5):1733−9;Kusumotoら、2001,Microbiol.Immunol.45(3):241−8)、および血小板活性化および細胞接着におけるβ3インテグリンシグナル伝達(Gaoら、1997,EMBO J.16(21):6414−25)に関わっている。Sykキナーゼ活性と腫瘍形成との間に、本発明において示されている関係があるとすれば、腫瘍の浸潤性および転移特性の軽減におけるSykキナーゼ阻害剤の使用は、Sykキナーゼ活性とあるいくつかのインテグリンとの間の連結を通して示される(Mocsaiら、2002,Immunity 16(4):547−58)。このようにして、いくつかの実施形態において、Sykキナーゼの阻害剤は、インテグリン活性によって媒介された腫瘍の転移特性を調節するために用いることができる。いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、腫瘍細胞組織の浸潤性、およびβ1インテグリンによって影響される転移可能性を軽減するために用いることができる(Linら、1995,J.Biol.Chem.270:16189−16197;Kusumotoら、Microbiol Immunol.2001,45(3):241−8;Ortiz−Sternら、2005,J.Leukoc Biol.(Epub))。この型の例示的インテグリンは、インテグリンα2b1である。
【0048】
いくつかの実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、腫瘍細胞組織浸潤性、およびβ2インテグリン(CD18)の活性によって影響された転移可能性を軽減するために用いることができる(Willekeら、2003,J Leukoc.Biol.74(2):260−9)。これらは、とりわけ、CD11a/CD18、CD11b/CD18、CD11c/CD18、およびCD11d/CD18を包含する。さらなる実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、腫瘍細胞組織浸潤性、およびβ3インテグリンの活性によって影響された転移可能性を軽減するために用いることができる。この型の例示的インテグリンは、αIIbβ3およびαvβ3である。
【0049】
転移が可能な様々な腫瘍型は、これらのSyk阻害化合物で治療することができる。このような腫瘍は、例として非限定的に、乳癌、卵巣癌、腎性癌、胃腸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、肺扁平癌、および腺癌を包含する(例えば、Felding−Habermannら、2001,Proc Natl Acad Sci USA 98(4):1853−8を参照されたい)。定着腫瘍の転移を軽減するための治療的処理は、転移の診断に従うことができる。転移の診断がなされなかったならば、この阻害化合物は、転移の確率を減少させるために予防的に投与することができる。
【0050】
これらのSyk阻害化合物は、他のどの治療からも独立して用いることができるか、または外科手術、放射線使用、または他の化学療法を包含する他の癌治療法と組み合わせて用いることができると理解すべきである。したがって、いくつかの実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、他の化学療法薬と組み合わせて用いることができる。Syk阻害剤との組み合わせ治療は、第2の化学療法薬の適切な選択によって、異なる細胞成分を標的しうる。例えば、Syk阻害剤は、いくつかの実施形態において、腫瘍細胞の転移可能性を制限するために用いることができ、一方で、別の化学療法薬は、異常な細胞を除去または死滅させるために用いることができる。
【0051】
様々な化学療法薬が、細胞増殖性障害を治療するために、Sykキナーゼ阻害剤と組み合わせて用いることができる。これらの化学療法薬は、一般的な細胞毒性薬であってもよく、または特定の細胞分子を標的してもよい。様々なクラスの癌化学療法薬は、とりわけ、代謝拮抗薬、DNAと反応する作用物質(例えばアルキル化剤、配位化合物など)、転写酵素の阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNA副溝結合化合物、抗有糸分裂薬(例えばビンカアルキロイド)、抗腫瘍抗生物質、ホルモン、および酵素を包含する。例示的アルキル化剤は、例として非限定的に、メクロロタミン、シクロホスファミド、イフォスファミド、メルファラン、クロラムブシル、エチレンイミン、メチルメラミン、アルキルスルホネート(例えばブスルファン)、およびカルムスチンを包含する。例示的代謝拮抗薬は、例として非限定的に、葉酸類似体メトトレキセート;ピリミジン類似体フルオロウラシル、シトシンアラビノシド;およびプリン類似体メカプトプリン、チオグアニン、およびアザチオプリンを包含する。例示的ビンカアルキロイドは、例として非限定的に、ビンブラスシン、ビンクリスチン、パクリタキセル、およびコルシシンを包含する。例示的抗腫瘍抗生物質は、例として非限定的に、アクチノマイシンD、ダウノルビシン、およびブレオマイシンを包含する。抗新生物薬として効果的な例示的酵素は、L−アスパラギナーゼである。例示的配位化合物は、例として非限定的に、シスプラチンおよびカルボプラチンを包含する。例示的ホルモンおよびホルモン関連化合物は、例として非限定的に、アドレノコルチコステロイドプレドニゾン、およびデキサメタゾン;アロマターゼ阻害剤アミノグルテチミド、ホルメスタン、およびアナストロゾール;プロゲスチン化合物ヒドロキシプロゲステロンカプロエート、メドロキシプロゲステロン;および抗エストロゲン化合物タモキシフェンを包含する。例示的トポイソメラーゼ阻害剤は、例として非限定的に、アムサクリン(m−AMSA);ミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン、およびカンプトセシンを包含する。
【0052】
これらの抗癌化合物および他の有用な抗癌化合物は、Merck Index,13th Ed.(O’Neil,M.J.ら、ed)Merck Publishing Group(2001)、およびGoodman and Gilmans The Pharmacological Basis of Therapeutics,10th Edition,Hardman,J.G.、およびLimbird,L.E.eds.pg.1381−1287,McGraw Hill,(1996)に記載されている。これらの文献のどちらも、参照により本明細書に組み込まれる。
【0053】
Syk阻害剤と組み合わせて有用な他の抗増殖性化合物は、例として非限定的に、成長因子受容体に対して向けられた抗体(例えば抗−Her2);サイトカイン、例えばインターフェロン−αおよびインターフェロン−γ、インターロイキン−2、およびGM−CSF;および細胞表面マーカー用抗体(例えば抗−CTLA−4、抗−CD20(リチュキシマブ);抗−CD33)を包含する。細胞表面マーカーに対する抗体が用いられるとき、化学療法薬は、腫瘍細胞への特異的標的のためにこれへ共役することができる。適切な共役体は、放射性化合物(例えば抗体共役キレート剤へ結合された放射性金属)、細胞毒性化合物、および薬品活性化酵素(例えばアリナーゼ、ペプチダーゼ、エステラーゼ、触媒抗体など)を包含する(例えば、Ardittiら、2005,Mol.Cancer Therap.4(2):325−331;米国特許第6,258,360号を参照されたい;これらは、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0054】
いくつかの実施形態において、Syk阻害剤は、Syk、またはSykおよびFlt−3とは異なる発癌キナーゼを標的する第2のキナーゼ阻害剤とともに用いることができる。Syk阻害剤が、造血新生物の治療のために本明細書に開示されているとすれば、造血新生物の治療のために用いられている他の適合性キナーゼ阻害剤もまた、用いることができる。いくつかの実施形態において、この第2のキナーゼ阻害剤は、Ablキナーゼの阻害剤である。慢性骨髄性白血病は、骨髄中の白血病幹細胞の悪性増殖を特徴とする骨髄新生物である。慢性骨髄性白血病の大部分は、相互転座t(9;22)(q34;q11)によって規定された細胞遺伝異常と関連している。この染色体異常は結果として、活性化キナーゼ活性を有するBCR/ABL融合タンパク質の発生をもたらす。この融合タンパク質キナーゼ活性の阻害剤は、抵抗形態が連続治療の際に発達しうるが、慢性骨髄性白血病の治療において有効でありうる。Ablキナーゼ阻害剤と組み合わせたSykキナーゼ阻害剤の使用は、第2のキナーゼ阻害剤により標的されたのとは異なる細胞プロセスを標的することによって、抵抗性細胞の機会を減少させうる。例示的Ablキナーゼ阻害剤は、イマチニブメシレートおよびGleeve(登録商標)としても公知の2−フェニルアミノピリミジンである。このようにして、いくつかの実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、Ablキナーゼ阻害剤2−フェニルアミノピリミジンおよびその誘導体と組み合わせて用いることができる。他の実施形態において、この第2のキナーゼ阻害剤は、ピリドール[2−3−d]ピリミジンおよびその誘導体であってもよく、これは元来、Srcキナーゼの阻害剤として同定された。さらに他の実施形態において、第2のキナーゼ阻害剤は、チルホスチンおよびその誘導体(例えばアダホスチン)であってもよく、これらは、このキナーゼとその基質との会合に影響を与えることがある。他のキナーゼ阻害化合物は、当業者には明白であろう。
【0055】
本明細書にさらに記載されているように、他の化学療法薬の投与は、組成物の形態で行なうか、またはSyk阻害剤と組み合わせて付加的に投与されてもよい。化学療法薬は、付加的に与えられるとき、Syk阻害剤の投与とともに同時に、または連続的に投与されてもよい。
【0056】
6.2 SykキナーゼおよびSyk/Flt−3キナーゼ阻害剤
様々な阻害剤に関連して、これらの化合物を記載するために用いられる用語は、異なる定義が本明細書において示されているか、または特定の阻害化合物について記載している参考文献において示されているのでなければ、当業者によって用いられているこれらの通常かつ共通の意味を有する。
【0057】
単独で、または別の置換基の一部としての「アルキル」とは、親アルカン、アルケン、またはアルキンの単一炭素原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、記載された数の炭素原子を有する(すなわちC1−C6とは、1〜6炭素原子を意味する)飽和または不飽和、分枝、直鎖、または環状一価炭化水素基を言う。典型的なアルキル基は、メチル;エチル、例えばエタニル、エテニル、エチニル;プロピル、例えばプロパン−1−イル、プロパン−2−イル、シクロプロパン−1−イル、プロプ−1−エン−1−イル、プロプ−1−エン−2−イル、プロプ−2−エン−1−イル(アリル)、シクロプロプ−1−エン−1−イル、シクロプロプ−2−エン−1−イル、プロプ−1−イン−1−イル、プロプ−2−イン−1−イルなど;ブチル、例えばブタン−1−イル、ブタン−2−イル、2−メチル−プロパン−1−イル、2−メチル−プロパン−2−イル、シクロブタン−1−イル、ブト−1−エン−1−イル、ブト−1−エン−2−イル、2−メチル−プロプ−1−エン−1−イル、ブト−2−エン−1−イル、ブト−2−エン−2−イル、ブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1,3−ジエン−2−イル、シクロブト−1−エン−1−イル、シクロブト−1−エン−3−イル、シクロブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブト−1−イン−1−イル、ブト−1−イン−3−イル、ブト−3−イン−1−イル等々を包含するが、これらに限定されない。「アルキル」という用語は具体的には、いずれかの程度またはレベルの飽和を有する基、すなわちまったく炭素−炭素単結合のみを有する基、1またはそれ以上の炭素−炭素二重結合を有する基、1またはそれ以上の炭素−炭素三重結合を有する基、および炭素−炭素単結合、二重結合、および三重結合の混合物を有する基を包含するものとする。特定レベルの飽和が意図されている場合、「アルカニル」、「アルケニル」、および「アルキニル」という表現が用いられる。「低級アルキル」という表現は、1〜6炭素原子からなるアルキル基を言う。
【0058】
単独で、または別の置換基の一部としての「アルカニル」とは、飽和分枝、直鎖、または環状アルキル基を言う。典型的なアルカニル基は、メタニル;エタニル;プロパニル、例えばプロパン−1−イル、プロパン−2−イル(イソプロピル)、シクロプロパン−1−イルなど;ブチアニル、例えばブタン−1−イル、ブタン−2−イル(sec−ブチル)、2−メチル−プロパン−1−イル(イソブチル)、2−メチル−プロパン−2−イル(t−ブチル)、シクロブタン−1−イルなどを包含するが、これらに限定されない。
【0059】
単独で、または別の置換基の一部としての「アルケニル」とは、親アルケンの単一炭素原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和分枝、直鎖、または環状アルキル基を言う。この基は、1または複数の二重結合の周りでシスまたはトランスのどちらかのコンホメーションにあってもよい。典型的なアルケニル基は、エテニル;プロペニル、例えばプロプ−1−エン−1−イル、プロプ−1−エン−2−イル、プロプ−2−エン−1−イル(アリル)、プロプ−2−エン−2−イル、シクロプロプ−1−エン−1−イル;シクロプロプ−2−エン−1−イル;ブテニル、例えばブト−1−エン−1−イル、ブト−1−エン−2−イル、2−メチル−プロプ−1−エン−1−イル、ブト−2−エン−1−イル、ブト−2−エン−1−イル、ブト−2−エン−2−イル、ブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1,3−ジエン−2−イル、シクロブト−1−エン−1−イル、シクロブト−1−エン−3−イル、シクロブタ−1,3−ジエン−1−イルなどを包含するが、これらに限定されない。
【0060】
単独で、または別の置換基の一部としての「アルキニル」とは、親アルキンの単一炭素原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する不飽和分枝、直鎖、または環状アルキル基を言う。典型的なアルキニル基は、エチニル;プロピニル、例えばプロプ−1−イン−1−イル、プロプ−2−イン−1−イルなど;ブチニル、例えばブト−1−イン−1−イル、ブト−1−イン−3−イル、ブト−3−イン−イルなどを包含するが、これらに限定されない。
【0061】
「親芳香族環系」とは、共役pi電子系を有する不飽和環状または多環式環系を言う。具体的には、「親芳香族環系」の定義の中に、これらの環の1またはそれ以上が芳香族であり、これらの環の1またはそれ以上が飽和または不飽和である縮合環系、例えばフルオレン、インダン、インデン、フェナレンなどが含まれる。典型的な親芳香族環系は、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as−インダセン、s−インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ−2,4−ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン、ルビセン、トリフェニレン、トリナフタレンなどを包含するが、これらに限定されない。
【0062】
単独で、または別の置換基の一部としての「アリール」とは、親芳香族環系の単一炭素原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、記載された数の炭素環原子を有する(すなわちC5−C14とは、5〜14炭素環原子を意味する)一価の芳香族炭化水素基を言う。典型的なアリール基は、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as−インダセン、s−インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ−2,4−ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン、ルビセン、トリフェニレン、トリナフタレンなどに由来する基を包含するが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、アリール基は、(C5−C14)アリールであり、(C5−C10)がさらに好ましい。特に好ましいアリールは、シクロペンタジエニル、フェニル、およびナフチルである。
【0063】
単独で、または別の置換基の一部としての「アリールアルキル」とは、炭素原子に結合した水素原子の1つ、典型的には末端またはsp3炭素原子がアリール基で置換されている非環式アルキル基を言う。典型的なアリールアルキル基は、ベンジル、2−フェニレンタン−1−イル、2−フェニレンテン−1−イル、ナフチルメチル、2−ナフチルエタン−1−イル、2−ナフチルエテン−1−イル、ナフトベンジル、2−ナフトフェニルエタン−1−イルなどを包含するが、これらに限定されない。特定のアルキル部分が意図されている場合、用語アリールアルカニル、アリールアルケニル、および/またはアリールアルキニルが用いられる。好ましい実施形態において、アリールアルキル基は、(C6−C16)アリールアルキルであり、例えばアリールアルキル基のアルカニル、アルケニル、またはアルキニル部分は、(C1−C6)であり、アリール部分は(C5−C10)である。特に好ましい実施形態において、アリールアルキル基は、(C6−C13)であり、例えばアリールアルキル基のアルカニル、アルケニル、またはアルキニル部分は、(C1−C3)であり、アリール部分は(C5−C10)である。
【0064】
「親ヘテロ芳香族環系」とは、1またはそれ以上の炭素原子が各々独立して、同一または異なるヘテロ原子またはヘテロ原子基で置換されている親芳香族環系を言う。炭素原子を置換するのに典型的なヘテロ原子またはヘテロ原子基は、N、NH、P、O、S、Siなど包含するが、これらに限定されない。具体的には、「親ヘテロ芳香族環系」の定義中に、これらの環の1またはそれ以上が芳香族であり、これらの環の1またはそれ以上が飽和または不飽和である縮合環系が含まれる。例えばアルシンドール、ベンゾジオキサン、ベンゾフラン、クロマン、クロメン、インドール、インドリン、キサンテンなどである。同様に「親ヘテロ芳香族環系」の定義中に、置換基を含む、認識された環、例えばベンゾピロンが含まれる。典型的な親ヘテロ芳香族環系は、アルシンドール、ベンゾジオキサン、ベンゾフイラン、ベンゾピロン、カルバゾール、β−カルボリン、クロマン、クロメン、シンノリン、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、インドリン、インドリジン、イソベンゾフラン、イソクロメン、イソインドール、イソインドリン、イソキノリン、イソチアゾール、イソキサゾール、ナフチリジン、オキサジアゾール、オキサゾール、ペリミジン、フェナントリジン、フェナントロリン、フェナジン、フタラジン、プテリジン、プリン、ピラン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、キナゾリン、キノリン、キノリジン、キノキサリン、テトラゾール、チアジアゾール、チアゾール、チオフェン、トリアゾール、キサンテンなどを包含するが、これらに限定されない。
【0065】
単独で、または別の置換基の一部としての「ヘテロアリール」とは、親ヘテロ芳香族環系の単一原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、記載された数の環原子を有する(すなわち「5〜14員」とは、5〜14環原子を意味する)一価のヘテロ芳香族基を言う。典型的なヘテロアリール基は、アクリジン、アルシンドール、カルバゾール、β−カルボリン、クロマン、クロメン、シンノリン、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、インドリン、インドリジン、イソベンゾフラン、イソクロメン、イソインドール、イソインドリン、イソキノリン、イソチアゾール、イソキサゾール、ナフチリジン、オキサジアゾール、オキサゾール、ペリミジン、フェナントリジン、フェナントロリン、フェナジン、フタラジン、プテリジン、プリン、ピラン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、キナゾリン、キノリン、キノリジン、キノキサリン、テトラゾール、チアジアゾール、チアゾール、チオフェン、トリアゾール、キサンテンなどに由来する基を包含するが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール基は、5〜14員ヘテロアリール、または5〜10員ヘテロアリールである。
【0066】
単独で、または別の置換基の一部としての「ヘテロアリールアルキル」とは、炭素原子に結合した水素原子の1つ、典型的には末端またはsp3炭素原子が、ヘテロアリール基で置換されている非環式アルキル基を言う。特定のアルキル部分が意図されている場合、用語ヘテロアリールアルカニル、ヘテロアリールアルケニル、および/またはヘテロリルアルキニルが用いられる。いくつかの実施形態において、ヘテロアリールアルキル基は、6〜20員ヘテロアリールアルキルであり、例えばヘテロアリールアルキルのアルカニル、アルケニル、またはアルキニル部分は1〜6員であり、ヘテロアリール部分は、5〜14員ヘテロアリールである。特に好ましい実施形態において、ヘテロアリールアルキルは、6〜13員ヘテロアリールアルキルであり、例えばアルカニル、アルケニル、またはアルキニル部分は1〜3員であり、ヘテロアリール部分は5〜10員ヘテロアリールである。
【0067】
「置換アルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、またはヘテロアリールアルキル」とは、1またはそれ以上の水素原子が別の置換基で置換されているアルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、またはヘテロアリールアルキル基を言う。例示的置換基は、−OR’、−SR’、−NR’R’、−NO2、−NO、−CN,−CF3、ハロゲン(例えば−F、−Cl、−Br、および−I)、−C(O)R’、−C(O)OR’、−C(O)NR’、−S(O)2R’、−S(O)2NR’R’(式中、各R’は独立して、水素および(C1−C6)アルキルからなる群から選択される)を包含するが、これらに限定されない。
【0068】
「プロドラッグ」とは、使用条件、例えば体内で、活性薬を放出するために形質転換を必要とする活性化合物(薬品)の誘導体のことを言う。プロドラッグは、活性薬へ転化されるまで、薬理学的に不活性であることが多いが、必ずしもそうではない。プロドラッグは典型的には、活性のために一部必要とされると考えられている薬品中の官能基を、プロ基(下に規定されている)でマスキングすることによって得られ、プロ部分を形成し、これは、特定の使用条件下に形質転換、例えば切断を受け、官能基を放出し、したがって活性薬が得られる。プロ部分の切断は、自然に、例えば加水分解反応によって進行しうる。またはこれは別の作用物質、例えば酵素、光、酸、または物理的または環境的パラメータの変化またはこれへの暴露、例えば温度の変化によって触媒されるか、または誘発されうる。この作用物質は、使用条件、例えばプロドラッグが投与される細胞中に存在する酵素、または胃の酸性条件に対して内因性であってもよく、またはこれは外部的に供給されてもよい。
【0069】
プロドラッグを生じるために活性薬中の官能基をマスキングするのに適した非常に多様なプロドラッグ、ならびにその結果生じたプロ部分は、当業界において周知である。例えば、ヒドロキシル官能基は、スルホネート、エステル、またはカーボネートプロ部分としてマスキングされてもよく、これは、インビボで加水分解されて、ヒドロキシル基を生じうる。アミノ官能基は、アミド、カルバメート、イミン、ウレア、ホスフェニル、ホスホリル、またはスルフェニルプロ部分としてマスキングされてもよく、これは、インビボで加水分解されて、アミノ基を生じうる。カルボキシル基は、エステル(シリルエステルおよびチオエステルを包含する)、アミド、またはヒドラジドプロ部分としてマスキングされてもよく、これは、インビボで加水分解されて、カルボキシル基を生じうる。適切なプロ基およびこれらのそれぞれのプロ部分の他の具体例は、当業者には明らかであろう。
【0070】
SykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ活性を阻害する様々な化合物は、本明細書に記載された方法において用いることができる。これらは、とりわけ、小さい有機分子、ペプチドもしくはタンパク質、または核酸を包含する。本明細書において用いられているように、「Syk阻害剤」または「Sykキナーゼ阻害化合物」とは、Sykキナーゼそれ自体の活性を直接阻害するか、または本明細書に記載されているIC50範囲における適切なSyk機能に必要とされる他の細胞標的とのSykの相互作用を阻害するいずれかの化合物を言う。本明細書において用いられている阻害剤は、酵素阻害剤、例えば競合的、非競合的、および不競合的阻害剤の従来の記載を包含する。Syk阻害剤である化合物は一般に、インビトロまたは細胞アッセイにおいて、Sykキナーゼ活性、例えばSykキナーゼが合成または内因性基質をリン酸化する能力に対して、約5uMまたはそれ以下、約1uMまたはそれ以下、約500nmまたはそれ以下、約100nmまたはそれ以下、約50nmまたはそれ以下、約10nmまたはそれ以下、または約1nmまたはそれ以下の範囲内のIC50を示す化合物である。例えば例示的Syk阻害化合物は、米国特許出願第10/631,029号およびPCT公報第WO2004/014382号に開示されている。当業者なら、より低いIC50、例えば約100nM、10nM、1nM、またはそれ以下でさえある範囲内のIC50を示す化合物が、本発明の方法に有用であることを理解するであろう。
【0071】
いくつかの実施形態において、この阻害化合物は、Sykキナーゼに対して選択的であってもよい。「Sykキナーゼ選択的阻害化合物」とは、Sykに対して選択性を示す化合物を言い、これは、規定された組のアッセイにおいて、SykキナーゼについてのIC50に対する、参照キナーゼについてのIC50の比として規定される。一般に、Sykキナーゼ選択的阻害化合物は、約10超、約50超、約100超、約1,000超、またはそれ以上である、Sykキナーゼに対する選択率を有しうる。参照キナーゼは、細胞増殖性障害と関連したいずれのキナーゼ活性であってもよく、これは、キナーゼ、例えば、例として非限定的に、Aurora−A、AKT、CDK1/サイクリンB、CDK2/サイクリンA、CDK3/サイクリンE、CDK5/p35、CDK6/サイクリンD3、CDK7/サイクリンH/MAT1、CHK1、CHK2、EGFR、c−RAF、RAS、cSRC、Yes、Fyn、Lck、Fes、Lyn、Bmx、FGFR3、GSK3α、GSK3β、P13、IGF−1R、MAPK2、MAPKAP−K2、JNK,MEK1、p70S6K、PAK2、PDGFRα、PDGFRβ、PDK1、PKA、PKCε、PKC、PKD2、VEGF、PRAK、PRAK2、ROCK−II、Rsk1、Rsk2、Rsk3、SGKを包含する。これらのキナーゼの各々についての様々なアッセイは、当業者には明らかであろう。例えば、Auroraキナーゼ活性は、インビトロアッセイ、または細胞中のリン酸化産物の測定において、天然または合成基質(例えば蛍光ペプチド、ヒストンH3)を用いうる(Walterら、2000、Oncogene 19(42):4906−16)。キナーゼ活性は、様々な研究方法を用いて検出することができる。これは、例として非限定的に、免疫沈降(例えばCyclex Aurora A Kinase Assay;MBL Corp,Woburn,MA,USA)、移動度シフト(例えばCaliper Technologies,Mountain View,CA,USA)、自己蛍光融合タンパク質基質(例えば米国特許第6,248,550号)、およびFRETベースのアッセイ(Z−LYTE(登録商標);Invitrogen,CA,USA)を包含する。当業者によって理解されるように、異常な細胞増殖に関与する他の活性キナーゼが、Sykに対するキナーゼ阻害剤の選択性を決定するために用いることができる。
【0072】
いくつかの実施形態において、細胞増殖性障害の治療のために用いられる阻害化合物は、Syk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を含む。「Syk/Flt−3キナーゼ阻害化合物」または「Syk/Flt−3キナーゼ阻害剤」とは、例えばFlt−3キナーゼそれ自体の活性を直接阻害することによって、または本明細書に記載されているIC50範囲における適切なFlt−3機能に必要とされる他の細胞標的との相互作用を阻害することによって、Flt−3キナーゼを阻害することもできるSyk阻害化合物を言う。Syk/Flt−3阻害剤である化合物は一般に、インビトロまたは細胞アッセイにおいて、Flt−3キナーゼ活性、例えばFlt−3キナーゼが合成または内因性基質をリン酸化する能力に対して、約5uMまたはそれ以下、約1uMまたはそれ以下、約500nmまたはそれ以下、約100nmまたはそれ以下、約50nmまたはそれ以下、約10nmまたはそれ以下、または約1nmまたはそれ以下の範囲内のIC50を示す化合物である。例えば例示的Syk/Flt−3阻害化合物は、米国特許出願第10/631,029号およびPCT公報第WO2004/014382号に開示されている化合物の属に見出すことができる。当業者なら、より低いIC50、例えば約100nM、10nM、1nM、またはそれ以下でさえある範囲内のIC50を示す化合物が、本発明の方法に有用であることを理解するであろう。
【0073】
様々なキナーゼ阻害剤を、本発明の方法において用いることができ、適用可能な場合、対応阻害化合物の塩、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物を包含するものとする。いくつかの実施形態において、SykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害剤は、米国特許出願第10/631,029号および公開されたPCT出願第WO2004/014382号に記載されているように、2,4−ピリミジンジアミン化合物およびその様々な誘導体を含む。これらの特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これらの化合物は一般に、次の構造および番号付け方式を有する、2,4−ピリミジンジアミン「核」を含む:
【0074】
【化9】
該化合物は、C2窒素(N2)で置換されて第二級アミンを形成し、場合により次の位置、すなわちC4窒素(N4)、およびC5位および/またはC6位の1またはそれ以上でさらに置換されている。N4で置換されている時、置換基は、第二級アミンを形成する。N2における置換基、ならびに他の位置における任意置換基は、特徴および物理化学的性質において広い範囲にわたることができる。例えば、1または複数のこの置換基は、分枝、直鎖、または環状アルキル、分枝、直鎖、または環状ヘテロアルキル、単環式もしくは多環式アリール、単環式もしくは多環式ヘテロアリール、またはこれらの基の組み合わせであってもよい。これらの置換基は、米国特許出願第10/631,029号およびPCT公報第WO2004/014382号に記載されているように、さらに置換されてもよい。
【0075】
N2および/またはN4置換基は、これらのそれぞれの窒素原子へ直接付着されてもよく、またはこれらは、これらのそれぞれの窒素原子から、同一または異なっていてもよいリンカーを介して間隔があけられていてもよい。これらのリンカーの性質は、広く様々であってもよく、互いから1分子部分の間隔をあけるのに有用な原子または基の事実上いずれの組み合わせを含んでいてもよい。例えばリンカーは、非環式炭化水素橋(例えば、飽和または不飽和アルキレノ、例えばメタノ、エタノ、エテノ、プロパノ、プロプ[1]エノ、ブタノ、ブト[1]エノ、ブト[2]エノ、ブタ[1,3]ジエノなど)、単環式もしくは多環式炭化水素橋(例えば、[1,2]ベンゼノ、[2,3]ナフタレノなど)、単純非環式へテロ原子またはヘテロアルキルジイル橋(例えば、−O−、−S−、−S−O−、−NH−、−PH−、−C(O)−、−C(O)NH−、−S(O)−、−S(O)2−、−S(O)NH−、−S(O)2NH−、−O−CH2−、−CH2−O−CH2−、−O−CH=CH−CH2−など)、単環式もしくは多環式ヘテロアリール橋(例えば、[3,4]フラノ、ピリジノ、チオフェノ、ピペリジノ、ピペラジノ、ピラジニノ、ピロリジノなど)、またはこのような橋の組み合わせであってもよい。
【0076】
N2、N4、C5位および/またはC6位における置換基、ならびに任意選択的なリンカーは、同一または異なる置換基の1またはそれ以上でさらに置換されていてもよい。これらの置換基の性質は、広く様々であってもよい。適切な置換基の非限定例は、分枝、直鎖、または環状アルキル、単環式もしくは多環式アリール、分枝、直鎖、または環状ヘテロアルキル、単環式もしくは多環式ヘテロアリール、ハロ、分枝、直鎖、または環状ハロアルキル、ヒドロキシル、オキソ、チオキソ、分枝、直鎖、または環状アルコキシ、分枝、直鎖、または環状ハロアルコキシ、トリフルオロメトキシ、単環式もしくは多環式アリールオキシ、単環式もしくは多環式へテロアリールオキシ、エーテル、アルコール、スルフィド、チオエーテル、スルファニル(チオール)、イミン、アゾ、アジド、アミン(第一級、第二級、および第三級)、ニトリル(いずれかの異性体)、シアネート(いずれかの異性体)、チオシアネート(いずれかの異性体)、ニトロソ、ニトロ、ジアゾ、スルホキシド、スルホニル、スルホン酸、スルファミド、スルホンアミド、スルファミンエステル、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、アミド、アミジン、ホルマジン、アミノ酸、アセチレン、カルバメート、ラクトン、ラクタム、グルコシド、グルコヌリド、スルホン、ケタール、アセタール、チオケタール、オキシム、オキサミン酸、オキサミンエステルなど、およびこれらの基の組み合わせを包含する。反応性官能基を保有する置換基は、当業界において周知のように、保護されていてもよく、保護されていなくてもよい。
【0077】
Sykキナーゼ阻害化合物の特定の実施形態はまた、2003年7月29日に出願された米国特許出願第10/631,029号;2004年7月30日に出願された米国特許出願第10/903,263号(米国出願公報第2005/0234049号);2004年7月30日に出願された米国特許出願第10/903,870号(米国出願公報第2005/0209224号);米国特許出願第60/630,808号;およびPCT公報第WO2004/014382号にも記載されている。2,4−ピリミジンジアミン化合物のプロドラッグ形態は、2006年1月19日に出願された米国特許出願第11/337,049号に記載されている。すべての公報および特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これらの化合物はまた、2005年4月18日に出願された米国仮出願第60/672,648号の付属書A、B、C、およびDにも開示されている。これの内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、2003年8月7日に出願された米国特許出願第60/494,008号、2004年5月18日に出願された米国特許出願第60/572,534号;および米国出願公報第2005/0113398号(出願番号第10/913,270号)に記載されている特定の実施形態を包含しない。すべての特許出願および公報は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これらの化合物はまた、2005年4月18日に出願された米国仮出願第60/672,648号の付属書1、2、および3にも開示されている。これの内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0079】
本明細書に記載されている状態および障害の治療のための、2,4−ピリミジンジアミンをベースとするSykまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害剤の例示的実施形態は、とりわけ、次の構造:
【0080】
【化10】
を有する化合物、およびその様々な塩、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物を包含する。
【0081】
2,4−ピリミジンジアミンをベースとするSykまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害剤の他の例示的実施形態は、とりわけ、N4−(2,2−ジメチル−3−オキソ−4H−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2,4−ピリミジンジアミン(化合物VI);N4−(2,2−ジメチル−4−[(二水素ホスホノキシ)メチル]−3−オキソ−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2,4−ピリミジンジアミン(化合物VII);およびこれらの様々な塩(例えばカルシウム塩など)、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物を包含する。
【0082】
いくつかの実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2004/0106615号およびPCT公報第WO2004/016597号に記載されているように、ピリジン、ピリミジン、またはトリアジン環をベースとする化合物を含んでいてもよい。これらは、参照により本明細書に組み込まれる。一般に、ピリジン、ピリミジン、またはトリアジン環は、0〜3窒素原子を有する6員アリールもしくはヘテロアリール環へ直接付着されている。
【0083】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、PCT公報第WO2005/013982号および第WO2004/046120号、および公開された米国特許出願第2004/0214817号に記載されているように、アミノ−もしくはジアミノトリアゾールをベースとする化合物を含んでいる。これらは、参照により本明細書に組み込まれる。アミノトリアゾール化合物は典型的には、トリアゾール環の3位または4位において窒素原子上に置換基を有するか、またはこの環上にアミノ置換基を有する。例示的アミノトリアゾールは、とりわけ、アミノトリアゾールピリジンおよびアミノトリアゾールピリミジンを包含する(例えば第WO2005/013982号を参照されたい)。同様に、キナーゼを阻害するジアミノトリアゾール化合物は、アミノ基の1つの上に複数の置換基を有し、およびトリアゾール環の3位または4位において窒素原子上に1つの置換基を有する。ジアミノトリアゾールをベースとする例示的キナーゼ阻害剤は、第WO2004/046120号および米国出願第2004/0214817号に記載されている。
【0084】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、米国特許第6,849,641号、公開された米国特許出願第2004/0053931号、およびPCT公報第WO03/000688号に記載されているように、アザインドールをベースとする化合物を含んでいる。これらの特許のすべては、参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第6,849,641号は、3−ヘテロアリーリデンアザインドリン−2−オン化合物について記載している。同様に、米国特許出願第2004/0053931号およびPCT公報第WO03/000688号は、とりわけ、ピロロピリジンが、2位または3位に芳香族またはヘテロ環式置換基(例えばベンジルまたはインドリル)を有するアザインドール化合物について記載している。
【0085】
他の実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2004/0048868号およびPCT公報第WO03/020698号に記載されているように、ベンズイミダゾールをベースとする化合物を含んでいる。これらの特許のどちらも、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これらの化合物は典型的には、ベンジル環上の追加置換基とともに、イミダゾリルの1位および2位に置換基を有する。2位における例示的置換基は、アリールまたはヘテロアリール、例えばピラゾリル、トリアゾリル、イミダゾリル、インドリル、インダゾリル、チエノピラゾリル、テトラヒドロインダゾリル、テトラヒドロシクロペンタピラゾリル、ジヒドロフロピラゾリル、オキソジヒドロピリダジニル、テトラヒドロピロロピラゾリル、オキソテトラヒドロピロロピラゾリル、テトラヒドロピラノピラゾリル、テトラヒドロピリジノピラゾリル、またはオキソジヒドロピリジノピラゾリル基である。
【0086】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、米国特許第6,762,179号、公開された米国特許出願第2003/0119856号および第2005/0004152号、およびPCT公報第WO02/096905号に記載されているように、チアゾールをベースとした化合物を含んでいる。これらの特許は、参照により本明細書に組み込まれる。例示的なチアゾールベースの阻害剤は、ピリミジンが2位および4位に置換基を有する4−チアゾリルピリミジンである。典型的には2位における基は、非置換もしくは置換アミンである。アミン上の置換基は一般に、単環式およびヘテロ環式環、例えば置換フェニル、インダニル、ナフチル、ピリミジニル、またはピリジル環である。
【0087】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2004/0142947号およびPCT公報第WO03/000695号および第WO2004/016597号に記載されているように、ピロロピリミジンをベースとした化合物を含んでいる。これらの特許は、参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態において、ピロロピリミジンは、インドール環の3位に付着されている。一般に、このインドールは、1位および/または5位に置換基を有する。追加置換基は、このピロロピリミジンの4位に存在しうる。これは、とりわけ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、アリール、ヘテロアリール、アルケニル、またはアルキニルを包含する。
【0088】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2005/0009876号、および米国特許第6,534,524号に記載されているように、インダゾールをベースとした化合物を含んでいる。これらの特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。米国特許第6,534,524号は、インダゾールが3位および/または5位に置換基を有する阻害化合物を開示している。3位における置換基は、とりわけ、非置換アリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリール、またはCH=CH−R、またはCH=N−R(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールである)である。5位における置換基は、とりわけ、置換もしくは非置換アリール、ヘテロアリール、またはY−X(式中、Yは、O、S、C=CH2、C=O、S=O、SO2、アルキリデン、NH、N−アルキルであり、R1は、置換もしくは非置換アリール、ヘテロアリール、またはN−R’(式中、R’は、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシル、またはジアルキルアミドである)である。同様に、米国特許出願第2005/0009876号は、インダゾールがこのインダゾールの3位および/または5位に置換基を有する化合物を開示している。3位において、置換もしくは非置換アリール、またはヘテロアリール、またはフェニルへ縮合されたヘテロ環は、アルキル、例えばアルカニル、アルケニル、またはアルキニルを介して付着されている。5位における置換基は、とりわけ、ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、アルキル、アルコキシ、ハロアルキル、アシルオキシ、チオアルキル、スルフィニルアルキル、スルホニルアルキル、ヒドロキシアルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロ環、置換へテロ環、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、エステル、アミド、シアノ、または置換もしくは非置換アミンである。
【0089】
いくつかの実施形態において、このSykキナーゼ阻害剤は、米国特許第6,573,295号、公開された米国特許出願第2002/0062031号、およびPCT公報第WO00/27802号に記載されているように、二環式化合物を含んでいる。これらの特許のすべては、参照により本明細書に組み込まれる。これらの実施形態のいくつかにおいて、非置換もしくは置換ベンジルは、これも置換もしくは非置換であるシクロアルキルへ縮合されている。例示的シクロアルキルは、ヘプテニルである。例示的二環式阻害化合物は、{4−[2−(7−カルバモイル−8−シクロヘキシルメトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−ベンゾ[b]オキセピン−(S)−5−イルカルバモイル)−2−フェニルアセチルアミノ−エチル]−2−ホスホノ−フェニル}−ホスホン酸;{4−[(S)−2−アセチルアミノ−2−(3−カルバモイル−2−シシクロキシメトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−(S)−5−イルカルバモイル)−エチル]−フェノキシ}−酢酸;および(4−[(s)−2−アセチルアミノ−2−(3−カルバモイル−2−シシクロキシメトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−(S)−5−イルカルバモイル)−エチル]−2−カルボキシメチル−フェノキシ−酢酸である。
【0090】
他の実施形態において、キナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2004/0198750号およびPCT公報第WO2004/092154号に記載されているように、クロメノンオキシム化合物を含んでいる。これらの特許は、参照により本明細書に組み込まれる。一般に、置換基はクロメノンオキシム核の2位および7位にある。
【0091】
他のキナーゼ阻害化合物は、PCT公報第WO99/47529号に記載されている置換へテロ環(例えばチアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、ジアゾール、オキサジアゾール、ジオキサゾール、フラン、およびピリジン)、および置換アリール、またはPCT公報第WO2004/085388号に記載されているような5−もしくは6−員ヘテロアリール環;およびLaiら、2003,Bioorg Med Chem Lett.13(18):3111−4に記載されているようなスルホンアミドを包含する。他のキナーゼ阻害化合物は、当業者には明らかであろうし、本明細書に示されたガイダンスを用いて、Sykキナーゼ阻害活性について試験することができる。
【0092】
化合物は、様々な生化学的アッセイおよび細胞アッセイにおいて、Sykおよび/またはFlt−3キナーゼに対するこれらの阻害効果について試験することができる。Sykキナーゼは、LATおよびPLC−γlをリン酸化し、これは、とりわけ、マスト細胞および/または好塩基性細胞における脱顆粒を生じる。Sykキナーゼ活性はまた、T−細胞受容体刺激への応答において観察される。これらの活性のどれも、Syk阻害化合物の活性を確認するために用いることができることを理解すべきである。いくつかの実施形態において、Sykキナーゼアッセイは、抗−IgEでの刺激後の顆粒内容物放出の測定に基づく脱顆粒アッセイである。これらのアッセイは、例えば、トリプターゼ、ヒスタミン、ロイコトリエンLTC4、またはヘキソサミニダーゼ放出の測定を包含する。他の実施形態において、活性は、単離Sykキナーゼもしくはこれの活性断片と阻害化合物とを、Sykキナーゼ基質(例えばシグナル伝達カスケードにおいてSykによってリン酸化されることが公知である合成ペプチドもしくはタンパク質)の存在下に接触させ、Sykキナーゼがこの基質をリン酸化するかどうかを評価することによって決定される。あるいはまた、アッセイは、Sykキナーゼを発現する細胞を用いて実施することができる。これらの細胞は、Sykキナーゼを内因的に発現しうるか、またはこれらは組換えSykキナーゼを発現するように設計することができる。これらの細胞は場合により、Sykキナーゼ基質を発現させることも可能である。このような確認アッセイを実施するのに適した細胞、ならびに適切な細胞を設計する方法は、当業者には明らかであろう。適切なSykキナーゼ基質は、例として非限定的に、ヒトバンド3タンパク質(Wangら、1999,J Biol Chem.274(45),32159−32166);タンパク質キナーゼC(Kawakamiら、2003,Proc Natl Acad Sci USA,100(16):9470−5)、チューブリン(Petersら、1996,J.Biol Chem.271:4755)、コルタクチン(Maruyamaら、1996,J.Biol Chem.271:6631)、およびp50/HS1(Ruzzeneら、1996,Biochemistry 35:1527)を包含する。Syk阻害化合物の活性を確認するのに適した生化学的アッセイおよび細胞アッセイの具体例は、Foxら、1998,Protein Science,7:2249、米国特許出願第10/631,029号、第WO2004/014382号、およびその中に引用されている引例に記載されている。これらの特許のすべては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0093】
Flt−3キナーゼの活性化は、自己リン酸化、ならびにとりわけ、単球性THP−1細胞中にイノシトール−5−ホスファターゼ(SHIP)および100−kDタンパク質を含有するSrc相同体2(SH2)−のいくつかの細胞基質のリン酸化:骨髄細胞中のShcおよびCb1のリン酸化;β−アレスチン;SH2含有チロシンホスファターゼ、およびプロ−B細胞中のCb1−bを生じる(例えばRottapelら、1994,Oncogene 9:1755−1765;Zhangら、1999,J.Leukoc.Biol.65:372−380を参照されたい)。いくつかの実施形態において、Flt−3キナーゼの活性は、Flt−3キナーゼのリン酸化形態への抗体の使用によって測定することができる(すなわち自己リン酸化アッセイ;Kiyoiら、1998,Leukemia 12:1333−1337)。いくつかの実施形態において、この活性は、単離されたFlt−3キナーゼもしくはこれの活性断片と阻害化合物とを、Flt−3キナーゼ基質(例えばシグナル伝達カスケードにおいてFlt−3によってリン酸化されることが公知である合成ペプチドもしくはタンパク質)の存在下に接触させることによって決定することができる。あるいは、アッセイは、内因的にFlt−3キナーゼを発現するか、またはこれらが組換えFlt−3キナーゼを発現するように設計されている細胞を用いて実施することができる(例えばYamamotoら、2001,Blood 97(8):2434−2439)。これらの細胞は任意選択的に、Flt−3キナーゼ基質を発現することも可能である。いくつかの実施形態において、Flt−3発現細胞は、上に記載されている様々な下流標的、例えばホスホリパーゼC−(PLC)、ホスファチジルイノシトール3’−キナーゼ(PI3K)のp85サブユニット、SHC、SHP−2、SHIP、GRB2、VAV、Fynキナーゼ、Srcキナーゼ、Stat5情報伝達タンパク質、およびERKの活性化について調べられる。
【0094】
細胞増殖に対するこれらの阻害化合物の効果の測定は、インビトロおよびインビボアッセイをいくつ用いてもよい。例えば増殖性細胞は、インビトロで適切に培養することができ、該化合物で処理することができる。細胞集団中の増殖能力は、染料染色(例えばトリパンブルー染料−排除;3−4,5−ジメチルチアゾール−2,5−ジフェニルテトラゾリウム(MTT);およびアネキシンV)、または細胞ソーティング技術(例えばプロピジウムヨーダイドでの蛍光活性化細胞ソーティング)を用いて決定することができる。細胞増殖についてのインビボアッセイは、実験動物への腫瘍細胞の移植、ついでこれらの阻害化合物の投与に基づいていてもよい。細胞増殖のこれらの評価方法および他の評価方法は、当業者には明らかであろう。
【0095】
6.3 投薬量
1つまたは複数の活性化合物、またはこれらの組成物は、治療される特定の疾病を治療または予防するのに有効な量で用いることができる。該化合物は、治療効果を得るために治療的に、または予防効果を得るために予防的に投与することができる。治療効果とは、治療される、根底にある細胞増殖性障害、例えばリンパ系の新生物、骨髄新生物、ウイルス関連腫瘍の根絶または改善、および/または根底にある障害に関連した症状の1またはそれ以上の根絶または改善を意味し、したがって患者が依然として、根底にある障害に悩むことがあるにもかかわらず、患者が状態の改良を報告するようになっている。治療効果はまた、改善が実感されるかどうかにかかわらず、疾病の進行を停止または遅延化することも含む。
【0096】
予防的投与のために、活性化合物は、異常な細胞増殖を特徴とするか、またはこれによって引き起こされるか、またはこれに関連した障害、例えば既に上に記載されている様々な障害を発症するリスクのある患者へ投与することができる。例えば、患者が腫瘍を有すると診断されるが、転移の兆候がないならば、これらの阻害化合物は、腫瘍転移を阻害するために、予防的に投与することができる。
【0097】
投与される1または複数の阻害化合物の量は、多様な要因によるであろう。これは例えば、治療される特定の適応症、投与様式、所望の効果が予防的であるかまたは治療的であるか、治療される適応症の重症度、および患者の年齢および体重、特定の活性化合物のバイオアベイラビリティなどを包含する。有効投薬量の決定は、十分に当業者の能力範囲内にある。
【0098】
初期投薬量は、最初はインビトロアッセイから推定することができる。例えば、動物への使用のための初期投薬量は、細胞増殖または腫瘍細胞の浸潤性を減少させるのに十分なほど、SykまたはFlt−3を阻害する化合物の循環血または血清濃度を得るように配合することができる。あるいは、動物への使用のための初期投薬量は、SykキナーゼまたはFlt−3阻害アッセイにおいて測定されているようなIC50と等しいか、またはそれを超える活性化合物の循環血または血清濃度を得るように配合することができる。特定の阻害化合物のバイオアベイラビリティを考慮に入れて、このような循環血または血清濃度を得るための投薬量の計算は、十分に当業者の能力範囲内にある。例えば、読者は、The Pharmaceutical Basis of Therapeutics,Chapter 1,pp.1−46,1975中のFinglおよびWoodbury,”General Principles”、およびその中で引用されている文献を参照されたい。初期投薬量はまた、インビボデータ、例えば動物モデルから推定することもできる。SykキナーゼまたはFlt−3キナーゼ活性を特徴とするか、またはこれによって引き起こされるか、またはこれに関連した病気を治療または予防するための化合物の有効性を試験するのに有用な動物モデルは、本明細書に記載されている。
【0099】
投薬量は典型的には、約1mg/kg/日〜約100mg/kg/日、200mg/kg/日、300mg/kg/日、400mg/kg/日、または500mg/kg/日の範囲内にあるであろうが、他の要因の中でも特に、阻害化合物の活性、そのバイオアベイラビリティ、投与様式、および上で考察された様々な要因に応じて、これよりも高くても低くてもよい。投薬量および間隔は、治療または予防効果を維持するのに十分な、1または複数のこの活性化合物の血漿レベルを与えるように個別に調節することができる。局部的投与または選択的摂取、例えば局部的局所投与の場合、活性化合物の有効な局部的濃度は、血漿濃度と関連しなくてもよい。当業者なら、必要以上の実験を行なわずに、有効投薬量を最適化することができるであろう。
【0100】
該化合物は、とりわけ、治療される適応症、および処方する医師の判断に応じて、一日あたり1回、一日あたり2〜3回もしくは数回、または一日あたり多数回さえ投与することができる。
【0101】
好ましくは、該活性化合物は、実質的な毒性を引き起こすことなく、治療的または予防的効果を与えるであろう。該活性化合物の毒性は、標準的製薬手順を用いて決定することができる。毒性と治療(または予防)効果との間の用量比が、治療指数である。高い治療指数を示す活性化合物が好ましい。
【0102】
6.4 投与
細胞増殖性障害を治療または予防するために用いられる時、SykまたはSyk/Flt−3阻害化合物は、単独で、または1またはそれ以上の活性化合物の混合物として、またはこのような病気、および/またはこのような病気と関連した症状の治療に有用な他の薬剤と混合して、または組み合わせて、投与することができる。これらの活性化合物は、それ自体で、または製薬組成物として投与することができる。
【0103】
本発明の活性化合物を含んでいる製薬組成物は、従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠製造のすり潰し、乳化、カプセル化、エントラッピング、または凍結乾燥方法を用いて製造することができる。組成物は、活性化合物を、製薬的に用いることができる調製物に加工処理することを容易にする、1またはそれ以上の生理学的に許容しうる担体、希釈剤、賦形剤、または補助剤を用いて、従来の方法で配合することができる。投与された実際の製薬組成物は、投与方法によるであろう。ほぼあらゆる投与方法を用いることができ、これは、例えば局所、経口、全身、吸入、注入、経皮などを包含する。
【0104】
活性化合物は、それ自体で、または製薬的に許容しうる塩の形態で、製薬組成物中に配合することができる。本明細書において用いられているように、「製薬的に許容しうる塩」という表現は、実質的に生物学的有効性および活性化合物の特性を保持し、かつ生物学的または他の点でも望ましくないわけではない塩を意味する。このような塩は、当業界において周知であるように、無機および有機酸、および塩基から調製することができる。典型的には、このような塩は、対応遊離酸および塩基よりも、水溶液中に可溶である。
【0105】
局所投与のためには、活性化合物は、当業界において周知であるように、溶液、ジェル、軟膏、クリーム、縣濁液などとして配合することができる。
【0106】
全身配合物は、注入、例えば皮下、静脈内、筋肉内、クモ膜下、または腹腔内注入による投与のために設計されたもの、ならびに経皮、経粘膜経口、または肺投与のために設計されたものを包含する。
【0107】
有用な注入可能な調製物は、水性または油性ビヒクル中の1または複数のこの活性化合物の滅菌縣濁液、溶液、またはエマルジョンを包含する。これらの組成物はまた、配合剤、例えば縣濁剤、安定剤、および/または分散剤も含有しうる。注入のためのこれらの配合物は、単位投薬形態において、例えばアンプル、または多用量容器において提示されてもよく、添加防腐剤を含有してもよい。
【0108】
あるいは、注入可能な配合物は、使用前に、非限定的に、発熱物質のない滅菌水、緩衝剤、デキストロース溶液などを包含する適切なビヒクルで再構成するための粉末形態で提供されてもよい。この目的のために、活性化合物は、いずれかの当業界で公知の技術、例えば凍結乾燥によって乾燥され、使用前に再構成することができる。
【0109】
経粘膜投与のために、透過されるバリアに適した浸透剤が、配合物において用いられる。このような浸透剤は、当業界において公知である。
【0110】
経口投与のために、製薬組成物は例えば、従来の手段によって、製薬的に許容しうる賦形剤、例えば結合剤(例えば予めゼラチン化されたトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えばラクトース、微晶質セルロース、またはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えばジャガイモデンプン、またはナトリウムデンプングリコレート);または湿潤剤(例えばナトリウムラウリルサルフェート)を用いて調製された錠剤またはカプセルの形態を取ってもよい。錠剤は、当業界において公知の方法、例えば糖または腸溶コーティングでコーティングされてもよい。
【0111】
経口投与のための液体調製物は、例えばエリキシル、溶液、シロップ、または縣濁液の形態を取ってもよく、またはこれらは、使用前に水または他の適切なビヒクルでの構成のための乾燥物質として提示されてもよい。このような液体調製物は、従来の手段によって、製薬的に許容しうる添加剤、例えば縣濁剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素化食用脂);乳化剤(例えばレシチンまたはアカシア);非水性ビヒクル(例えばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、または分別植物油);および防腐剤(例えばメチルもしくはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエート、またはソルビン酸)を用いて調製することができる。これらの調製物はまた、必要に応じて、緩衝塩、風味料、着色料、および甘味料を含有してもよい。経口投与のための調製物は、活性化合物の制御放出を与えるように、適切に配合することができる。
【0112】
口腔内投与のために、組成物は、従来の方法で配合された錠剤またはトローチ剤の形態を取ってもよい。
【0113】
直腸および膣投与経路のために、活性化合物は、従来の座薬の基剤、例えばカカオバターまたは他のグリセリドを含有する溶液(保持浣腸)座薬または軟膏として配合されてもよい。
【0114】
吸入による投与のためには、活性化合物は、加圧パックからのエアゾールスプレー、またはネブライザの形態で、適切な推進薬、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切なガスを使用して好都合に送達することができる。加圧エアゾールの場合、投薬単位は、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定することができる。吸入器または注入器への使用のための例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物と適切な粉末基剤、例えばラクトースまたはデンプンとの粉末混合物を収容して配合することができる。
【0115】
長時間送達のために、活性化合物は、移植、例えば皮下、皮内、または筋肉内注入による投与のために、デポー調製物として配合されてもよい。このようにして例えば、活性成分は、適切なポリマーまたは疎水性材料を用いて(例えば許容しうる油中のエマルジョンとして)、またはイオン交換樹脂として、またはやや溶解性がない誘導体として;例えばやや溶解性がない塩として配合されてもよい。
【0116】
あるいは、経皮吸収のために活性化合物をゆっくりと放出する、接着性ディスクまたはパッチとして製造された経皮送達系を用いることもできる。この目的のために、活性化合物の経皮浸透を容易にするために、透過エンハンサーを用いることができる。適切な経皮パッチは、例えば米国特許第5,407,713号;米国特許第5,352,456号;米国特許第5,332,213号;米国特許第5,336,168号;米国特許第5,290,561号;米国特許第5,254,346号;米国特許第5,164,189号;米国特許第5,163,899号;米国特許第5,088,977号;米国特許第5,087,240号;米国特許第5,008,110号;および米国特許第4,921,475号に記載されている。
【0117】
あるいはまた、他の製薬送達系を用いることもできる。リポソームおよびエマルジョンは、活性化合物を送達するために用いることができる送達ビヒクルの周知例である。ある有機溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)もまた、通常はより大きい毒性という代償を払うが、用いることもできる。
【0118】
製薬組成物は、所望であれば、活性化合物を含有する、1または複数の単位投薬形態を含有することができるパックまたはディスペンサーにおいて提示されてもよい。このパックは例えば、金属またはプラスチックホイル、例えばブリスターパックを含んでいてもよい。パックまたはディスペンサー装置は、投与のための説明書をともなってもよい。
【実施例】
【0119】
7.実施例
7.1 実施例1:Syk誘発プレ−B細胞形質転換に対するSyk阻害化合物の効果
Syk阻害化合物によるSyk−形質転換細胞の増殖の阻害を証明する実験は、Wossning,T.,Herzog,S.,Kohler,F.,Meixlsperger,S.,Kulathu,Y.,Mittler,G.,Abe,A.,およびJumaa,H.,“The protein tyrosine kinase Syk is involved in malignant transformation and leukemia development”、(準備中の原稿)に記載されている。この原稿に記載されている実験は、下に簡単に要約されている。
【0120】
染色体転座Tel−Sykの結果として生じる異常なSyk変異体を、Tel−Sykを発現するIRES−GFPベクターを有する、新たに単離された骨髄プレ−B細胞をレトロウイルス的に形質導入することによって、プレ−B細胞を形質転換するその能力について試験した。これらの細胞培養からのIL−7の回収は、Tel−Syk発現細胞の濃縮、および安定IL−7非依存性細胞系の発生を生じ、このことは、Tel−Syk発現が、プレ−B細胞の増殖および形質転換を促進しうることを示している。Tel−Syk活性によるプレ−B細胞の形質転換を、Tel−SYK形質導入細胞をRAG/γC−/−マウスに注入することによって確認した。これは、骨髄異形成疾患の症状を示す動物を生じた。データは、Tel−Syk発現細胞が、インビボで急速に増殖し、これによって攻撃的白血病を誘発しうることを示している。
【0121】
Tel−Sykで形質転換された細胞中のSyk活性の阻害が細胞増殖を妨げるかどうかを試験するために、Sykキナーゼ阻害剤2,4−ピリミジンジアミン化合物IVの効果を、処理済み細胞のDNA含有量を調べることによって、インビトロで試験した。化合物IVは、これらの細胞中のκ軽鎖の発現によって示されているように、Syk誘発プレ−B細胞増殖を効果的に妨げ、プレ−B細胞が分化することを可能にした。データは、Syk発現が、白血病細胞の増殖のために必要とされる場合があること、およびSykキナーゼ活性の妨げが、白血病細胞増殖の阻害を生じうる場合を示している。
【0122】
7.2 実施例2:定着白血病に対するSyk阻害剤の効果
白血病細胞の増殖に対するSyk阻害剤の効果を決定するために、マウス中への注入後に白血病を誘発するいくつかの腫瘍形成性プレ−B細胞系を用いた。腫瘍形成性細胞は、増殖のためにプレ−B細胞受容体(プレ−BCR)を必要とし、Sykが、プレ−BCRシグナル伝達カスケードのための重要なタンパク質であるので、Syk阻害剤は、これらの腫瘍形成性プレ−B細胞の増殖を阻害するであろうと予想される。1つの実験において、化合物VIが増殖を妨げる能力を、Myc発現ベクターで形質導入されたプレ−B細胞を用いて調べ、IL−7の不在下で培養した。これらのインビボでの増殖能力を調べるために、細胞をRAG/γC−+/−マウスに注入した。VIが増殖を妨げる能力を、Myc形質導入細胞系を用いて、インビトロで試験した(図2Aおよび図2B)。
【0123】
VIが増殖を妨げる能力はまた、腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系を用いても調べた。これらのインビボでの増殖能力を調べるために、細胞をRAG/γC−+/−マウスに注入した。VIが腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系の増殖を妨げる能力を、インビトロで試験した(図3Aおよび図3B)。
【0124】
Syk阻害化合物の効果を調べるのに有用な他の白血病細胞系は、例として非限定的に、B細胞リンパ種細胞系JM1(ATCC No.CRL−10423)、ホジキンリンパ種細胞系RPMI−6666(ATCC No.CCL−113)、前骨髄球性白血病細胞系HL−60クローン15(ATCC No.CRL−1964)、バーキットリンパ種細胞系GL−10(ATCC No.CRL−2392)、急性骨髄性白血病細胞系BDCM(ATCC No.CRL−2740)、骨髄単球性白血病(EBV)細胞系CESS(ATCC No.TIB−190)、EBV形質転換形質細胞腫/骨髄腫細胞系MC−CAR(ATCC No.CRL−8083)、およびEBV形質転換プラズマ細胞白血病細胞系ARH−77(ATCC No.CRL−1621)を包含する。
【0125】
7.3 実施例3:化合物VIIのカルシウム塩形態のインビボ評価、およびシクロホスファミドで予め処理されたNOD−SCID免疫不全マウスにおけるMV4−11急性骨髄性白血病(AML)静脈内腫瘍植付けモデルにおける細胞滴定
Flt−3 ITD突然変異を、罹患したAML患者における予後の悪さおよび寛解率の低下と関連付け、治療的介入の魅力的な標的とした。調査は、変異体Flt−3 ITD受容体が、Flt−3リガンド−非依存的に二量体化し、受容体の自己リン酸化が、結果として構成的活性化、増殖の増加、および変異体細胞の成長因子独立を生じることを示した。初期の調査は、カルシウム塩形態VIIが皮下腫瘍成長を減少させ、生存率を延ばし、Flt−3 ITD突然変異を有する5百万のMV4−11ヒト急性骨髄性白血病細胞が静脈内(i.v.)接種されたマウスの全身腫瘍組織量を減少させたことを示した。この調査は、シクロホスファミドで予め処理されたNOD−SCIDマウスへの、5百万または1千万のどちらかのMV4−11白血病細胞のi.v.注入の結果生じた病気の進行、重症度、および生存率に対する、40mg/kgのVIIで一日2回の経口処理を通した、腫瘍成長の阻害におけるVII投与の有効性を証明するために実施した。
【0126】
7.3.1 実験方法
細胞系
白血病細胞系:MV4−11ヒト急性骨髄性白血病(AML)(供給業者:American Type Cuture Collection(ATCC))を、RigelにおけるOncology Groupによって維持し、採集した。細胞を、2004年11月30日にIMPACT試験し、エクトロメリア、EDIM、Hantaan、Kウイルス、LCMV、LDEV、MAD、mCMV、MHV、MMV、MPV、MTV、マイコプラズマsp.、ポリオーマ、PVM,REO3、センダイ、TMEV、およびGDVIIについてマイナスであった。
【0127】
細胞系維持:MV4−11細胞を、イスコフ改変ダルベッコ培地(ATCC(登録商標)番号:30−2005)に、1.5g/L重炭酸ナトリウム、80%;胎仔ウシ血清、20%(GIBCO BRL,Carlsbad,CA)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(10,000IU/mlおよび10,000ug/ml)(CellGro/Media Tech,カタログ番号30−002−Cl)を含有するように調節した4mM L−グルタミンとともに維持する。細胞を、対数増殖期に採集し、洗浄し、新鮮な培地に注入した。MV4−11細胞を、動物あたり5×106または10×106細胞で接種した。
【0128】
薬剤学
この調査において用いられた試験製品および試験配合物の明細を、以下の配合物シートに列挙する。試験製品およびビヒクル配合物は、投薬(ビヒクル(ロット:1024−15−01);8mg/mL VIIカルシウム塩(ロット:1024−15−03)の開始前に薬剤部によって作製した。カルシウム塩形態VIIは、VIの等濃度で調製した。配合物を4℃で保存し、光保護し、使用前にボルテックスた。
【0129】
【化11】
動物および収容
生後約10週のメスNOD.CB17−Prkdc scid/J(NOD/SCID)マウス(n=60;出生日2005年5月30日;Jackson Laboratories,Bar Harbor,MEから2005年7月19日に入荷)を調査のために用いた。NOD−SCIDマウス(系統番号001303)は、Jackson Laboratoryからのみ入手可能であり、NOD−SCIDマウスに独特な生来の適応的免疫における多重欠陥は、ヒト造血細胞での再構成のための優れたインビボ環境を提供する。約50匹のマウスにシクロホスファミドを与え、この調査の生存中部分のために用いたが、追加のマウスは、植付けレベルのフローサイトメトリー分析用のバックグラウンド染色の評価のための非腫瘍対照のために用いた。わずかに年長のマウス(>19グラム)を、シクロホスファミド注入後の過剰な体重減少による早期の死を避けようとするために用いた(V050144と比較して)。
【0130】
動物を、換気されたHEPA−フィルターケージラック(Alternative Design,Siloam Springs,AZ)のMicroアイソレーターケージに、ケージあたり5匹ずつ収容した。到着の際、これらを、使用前に少なくとも4作業日の間順化させた。温度を72±5°F、相対湿度を35〜70%に維持し、12時間明/暗サイクルを用いた。マウスには、認定されたげっ歯類食(Deans Feed,San Carlos,CA)を無制限に与えた。オートクレーブされたR.O.飲料水が無制限に利用可能であった。ケージおよび食料を使用前にオートクレーブした。すべての生存中手順は、Rigel IACUCによって承認された。
【0131】
NOD−SCIDマウスは、生存の間中は、NOD自己免疫糖尿病傾向のバックグラウンドにもかかわらず、インスリン炎および糖尿病のどちらでもないが、特定の病原を含まない条件下では、この共通遺伝子系統には胸腺リンパ腫の高い発生率があり、平均寿命をわずか8.5ヶ月に制限される。染色体11上のEmv−30プロウイルスは、NOD−SCIDにおいて生後5〜6ヶ月に始まる胸腺腫の高い頻度を結果として生じ(3,4)、(5)、これは、レシピエントとしてNOD−SCIDマウスを用いて実施される実験期間を制限する。この実験では、すべての生存マウスにおいて、この調査における結果変数に対する自然な胸腺腫の影響を制限するために、マウスが生後約5ヶ月(調査の83日目)に達したとき終結させた。
【0132】
動物手順
植付けの強化のための骨髄枯渇:これらの動物についての順化期間の終わりに(この調査において>3週間)、マウスを、2日間、ついで下記のように、側面尾静脈を介した白血病細胞の静脈内(i.v.)注入前72時間の残存期間、150mg/kg/日の腹腔内注入により、0.9%滅菌生理食塩水(Sigma,St Louis,MO)中で調製された、(0.22μMシリンジフィルターを用いて)滅菌濾過されたシクロホスファミドで予め処理した。
【0133】
腫瘍接種:調査の0日目、マウスを、表1に概要が示されているように100マイクロリットルの新鮮培地中に再縣濁された5百万または1千万ヒトMV4−11白血病細胞の静脈内尾静脈注入によって一回接種した。
【0134】
投薬:マウスに、ヒトMV4−11細胞(0日目)を接種した後、調査の17日目に投薬を開始した。マウスには、調査の間、投薬間に最小8時間の間隔を空けて、5mL/kg投薬容量で、ビヒクルまたは40mg/kg VIIのどちらかを一日2回(bid)経口(PO)投与した。
【0135】
実験手順
腫瘍モデル:この調査は、腫瘍の植付けを強化するためのシクロホスファミド予備処理とともに、宿主としてNOD−SCID免疫不全マウスを用いて、ネズミ静脈内MV4−11白血病モデルにおける腫瘍の植付け、病気の進行、重症度、および全生存に対する、様々な用量のVIIの効果を評価するよう設計した。歴史的データは、>20%体重減少、瀕死状態、後肢麻痺による運動性の多大な損失、または終点としての予期せぬ死によって決定された腫瘍細胞注入の均一な致死率にもかかわらず、骨髄(BM)および末梢血単核細胞(PBMC)における可変腫瘍細胞植付けを示している(調査V050123およびV050144)。加えて、シクロホスファミドは、このモデルにおいて致死のために必要であることが証明された。ビヒクル対照マウスにおける51日間の中央値生存時間を示す公開された調査もまた、BM区画において検出された2〜19%ヒト細胞の範囲の犠牲において、可変BM植付けを実証している。
【0136】
この調査は、調査から以前の有効性データを確認しようとして実施すたが、同様に、5百万または1千万の細胞接種が、骨髄および末梢血における腫瘍細胞植付けにおいて同様な不一致を生じるかどうか、またはこれらのマウスにおいて結果として生じる致死率を改変するかどうかを決定するためにも実施した。いくつかの動物における植付けの検出可能レベルはパイロット調査において腫瘍細胞注入の4週間後に早くも観察され、歴史的有効性データがこのレジメンで決定しているので、腫瘍細胞注入の約2週間後に開始し、毎日一日あたり2回(bid)のスケジュールで、40mg/kgにおいてビヒクルまたはR945788カルシウム塩で、動物は経口的に(PO)処理した。動物には、安楽死するまで、またはこの調査の終わりまで、このレジメンを続行した。この実験では、すべての生存マウスにおいて、自然な胸腺腫の発症の影響を制限するために、マウスが生後約5ヶ月(調査の83日目)に達したとき終結させた。自然な胸腺腫の発症は、NOD−SCIDマウスにおいて、生後約5〜6ヶ月で始まるのがわかる。
【0137】
調査の設計:0日目(2005年8月12日)、マウスに、側面尾静脈を介してマウスあたり5百万または1千万細胞で、新鮮培地中のヒトMV4−11細胞をi.v.注入した。MV4−11細胞注入後3日目(2005年8月15日)までに、無作為化または処理の前に、潜在的にはシクロホスファミド処理によって、1匹のマウスを過剰な体重減少からの早期の死によって除外した。残りの動物を体重によって処理グループに無作為に入れ、細胞注入後17日目(2005年8月29日)に投薬を開始した。グループ1〜4の平均体重は、それぞれ20.66±0.43、20.23±0.41、20.18±0.54、および20.88±0.59であった。処理グループの概要を、表1に示す。
【0138】
【表1】
疾病の進行および疾病の重症度:全体的な疾病の重症度は、体重減少、臨床的観察事項、検死発見事項、および選択された組織中の腫瘍細胞植付けの定量の組み合わせから決定した。マウスを毎週2〜3回体重測定し、パーセント体重変化を計算した。IACUC Protocol Rigel 6−2002,“Efficacy of Novel Chemotherapeutics in Human/Mouse Tumor Xenograft Models”に概要が示されているように、嗜眠、かき乱された毛などをともなう、病的状態、明らかな消耗を有する後肢麻痺、重症の悪液質、または20%超の体重減少の最初の兆候があったとき、動物を調査から除去し、安楽死させた。犠牲時、動物をCO2ガスで麻酔し、血液を心臓穿刺によって収集した。動物からの血液を、K2EDTAコーティングしたMicrotainer(ラベンダートップ)チューブに移した。全血を間接的に氷に載せ、以下のセクションに記載されているように、フローサイトメトリー染色のために加工処理した。病気の重症度をさらに評価するために、全体試験において、触知可能なまたは疑わしい腫瘍の位置および描写を検死の際に注意深く書き留めた。
【0139】
腫瘍細胞植付け:全身腫瘍組織量を評価するために、骨髄および末梢血中のMV4−11腫瘍細胞の分布は、ヒトおよびマウス表面マーカー染色を用いて、フローサイトメトリー分析を介して、数匹のマウスの犠牲の上に決定した。
【0140】
腫瘍植付けの範囲は、数匹のマウスにおいて、犠牲の際の大腿部および/または脛骨の単離によって評価した。骨髄(BW)を1mlの冷PBSを有するクリーンなエッペンドルフ管内に吸引し、フロー染色前に氷に保持した。すべての残留組織または腫瘍を、組織病理学および免疫組織化学(IHC)のために10%緩衝ホルマリンに固定した。末梢血もまた、心臓穿刺を介して得、K2EDTAコーティングしたMicrotainer(紫色)管に入れた。赤血球を溶解し、試料を洗浄し、腫瘍細胞植付けレベルを決定するためのフローサイトメトリー染色および分析のために、単核細胞(PBMC)のみが残った。
【0141】
ヒトMV4−11腫瘍細胞を同定するために、BMおよびPBMC試料を、マウスCD45、ヒトCD45、ヒトHLA、およびヒトCD33細胞表面マーカーに特異的な抗体で染色した。次いでフローサイトメトリー染色および分析を、VII処理およびビヒクル処理された動物から無作為に選択された試料中に存在するヒトMV4−11白血病細胞のパーセントを同定および計量するために、この多重マーカーストラテジーを用いて実施した(付属書5および6)。ヒトMV4−11細胞のパーセントは、全事象(ヒトCD33+HLA+およびネズミCD45+事象の合計として規定される)からのCD33+HLA+事象の数として規定した。調査におけるすべての動物を収集および分析するためにあらゆる努力がなされた。しかしながら、このモデル中のビヒクル処理されたマウスにおける死の突然性によって、分析にはより少ない試料しか利用可能でなく、動物の数は、これらのグループの間で可変であった。細胞調製およびフロー染色および分析手順の詳細については、付属書5および6を参照されたい。
【0142】
統計分析:マウスの生存を、GraphPad Prism 4.0(登録商標)ソフトウエアパッケージを用いて、相対的疾病重症度の決定として(n=18〜20匹/グループ)、カプラン−マイヤー積極限法によって評価した。可能な場合、曲線比較のためのLog Rank(Mantel−Haenszel)試験(両側p値)、生存動力学のためのハザード比、および全体の中央値生存を含めた追加の生存率曲線分析もまた、Prism 4.0(登録商標)を用いて計算した。調査終了時(83日目)に生存しているすべての動物を、Prism(登録商標)分析において統計目的のために審査した。生存曲線の傾斜として規定されたハザード統計は、被験体がどれほど急速に死にかけているかの尺度である。したがって報告されたハザード比は、2つのグループ間の死亡率の比較である。例えば、ハザード比が2.0であると、1つのグループ中の死亡率は、他方のグループの死亡率の2倍である。一般に、Prism 4.0(登録商標)は、D.G.Altman,Practical Statistics for Medical Research,1991,ChapmanおよびHallに詳細に記載されているような標準的計算を用いる。すべての結果は、別途指示しない限り、平均±SEMとして表示する。
【0143】
加えて、寿命におけるパーセント増加(%ILS)は、次の方程式を用いて、ビヒクル対照グループと比較した各グループについての計算された中央値死亡日を用いて決定した。式中、DODを死亡日と規定する:
%ILS=(中央値DOD処理−中央値DODビヒクル)/中央値DODビヒクル×100
40mg/kg VIIで処理されたマウスは、規定されない中央値生存時間を有したが、それは、不適切な数のマウス(<50%)が、調査の終了までに死んだからである。したがって%ILSの計算は、このグループについて80日の最大中央値生存率と仮定し、計算値よりも大きいことを意味した。
【0144】
植付けデータは、不等質分散がバートレット検定によって検出されない場合、一元ANOVAを用いて分析した。この場合、不等質の分散を説明するために、ウエルチ補正を用いて非対両側スチューデント検定を実施した。細胞の総数あたりのパーセントCD33+HLA+細胞の標準化を実施した。平均パーセント腫瘍細胞は、各試料について次の方程式を用い、ついでこれらの値の平均を測定することによって決定した。マウス細胞の総数を、単一細胞表面マーカーネズミCD45を用いて決定し、ヒト事象の総数を二重ヒト表面マーカーCD33およびHLAを用いて決定した。
【0145】
パーセント腫瘍細胞=[(#CD33+HLA+二重陽性事象)/(総#ネズミCD45+および#CD33+HLA+事象)]×100
このモデル中のビヒクル処理されたマウスにおける死の突然性によって、分析にはより少ない試料しか利用可能でなく、本発明者らが統計的有意性を得る能力を制限した。十分な試料サイズおよび無作為サンプリングは、VII処理されたマウスの場合に得た。したがって、20、40、および80mg/kg VII処理されたマウス間で比較を行ない、統計を上記のように実施した。
【0146】
カテゴリー変数、例えばグループあたりの腫瘍動物の総数について、p値は、同様にGraphPad Prism 4.0(登録商標)ソフトウエアパッケージを用いて実施された、95%信頼区間を有する両側フィッシャー精密検定を用いて、処理グループ対ビヒクルグループの比較の結果を反映している。
【0147】
7.3.2 結果
生存率に対する化合物VII処理の効果:全体として、VIIで処理された動物は、検死の際に調べた時、長い生存率および触知可能な腫瘍塊体の減少数を示した。5百万MV4−11細胞が接種された、ビヒクル処理されたマウスは、40mg/kg VII処理されたマウスにおける79日と比較して、54日の中央値生存時間を有した。1千万腫瘍が接種された、ビヒクル処理されたマウスは、54日の中央値生存時間を有し、40mg/kg VII処理されたマウスについて、中央値死亡日は不確定数であった(>83日)。1千万MV4−11細胞グループにおいて40mg/kg VIIで処理されたマウスは、不確定中央値生存時間を有したが、それは、不適切な数のマウス(<50%)が調査の終了までに死んだからである。したがって、%ILSの計算は、このグループについて83日の最大中央値生存率と仮定し、計算値よりも大きいことを意味した。VII処理された動物とビヒクル処理された動物との間の全体の生存率において、有意差が見られた(5百万細胞での40mg/kg VIIについてはLogRank p<0.0022および%ILS=45%、1千万細胞での40mg/kg VIIについてはLogRank p<0.0001および%ILS=>54%(このグループについて中央値DOD=83と仮定して))。
【0148】
【表2】
83日目には、ビヒクル処理グループには生存動物はいなかった。これに対して、5百万および1千万MV4−11細胞が注入されたVII処理グループからのマウスは、それぞれ5匹および9匹の生存マウスを有した。50%以上のマウスが、ビヒクル対照の0%生存率と比較して、40mg/kgでVII処理された1千万細胞グループにおいて83日目まで生存した。
【0149】
疾病の重症度および腫瘍頻度および分布に対する化合物VIIの効果
ビヒクルおよびVII処理動物の疾病の進行を比較した時、有意な表現型の差が明白であった。検死の際、ビヒクル処理動物における触知可能な腫瘍が、様々なリンパ節(LN)、下大静脈近くの下領域の脊髄(LNの可能性がある)、胸壁に、および肋骨および胸骨の周りに、気管の近くに、顎および喉区域(おそらくは唾液腺およびLN関連)において観察された。腫瘍はまた、腎臓、卵巣、および心臓にも見られた。加えて、非常に大きい腫瘍が、多くの場合、肩、腕、および脚の骨の周りに見られた。いくつかのマウスは、柔らかで滑らかな脳または明白な腫瘍を有するのが注目され、1匹のマウスは、初期の調査におけるMOLM13白血病モデルからの数匹のマウスと同様、検死の際に腫瘍があるように見える、非常に拡張された目を有していた。
【0150】
ビヒクル処理された動物は、5百万細胞グループにおいてはMV4−11注入の42日後、1千万細胞グループにおいては48日後に早くも後肢麻痺を明らかに示した。検死の際、ビヒクル処理された動物における触知可能な腫瘍が、以前の調査と同様な位置において観察された。全体で、5百万腫瘍細胞が接種された8匹のマウスのうちの8匹が、検死の際に触知可能な腫瘍塊体を有し、多くのマウスは、腫瘍を有すると同定された多重の解剖学的部位を有した。ビヒクル処理グループからの5匹のマウスは、死んでいるのが発見され、これらのマウスのうちの4匹は、進行した崩壊によって検死報告を有しておらず、結果として、このグループにおいて全部でわずか8つの検死となった。調査の終了まで(MV4−11移植後83日目)に、12匹のビヒクル処理動物のうちの12匹は終結させ、これらの動物のうち5匹は死んでいるのが発見され、これらのうち3匹は検査の際に瀕死状態にあり、2匹は、>20%の体重減少で犠牲にし、2匹は、重い衰弱と関連したHLPのために犠牲にした。
【0151】
同様に、12匹のマウスのうち11匹は、目に見える腫瘍塊体を有し、多くは、1千万細胞が接種されたビヒクル処理マウスにおいて同定された多重部位を有していた。全部で1匹のビヒクル処理動物が死んでいるのが発見され、1匹は進行した崩壊によって検視を実施せず、その結果、このグループでは全部で11の検死を行なった。調査の終了の際(MV4−11移植後83日目)、13匹のビヒクル処理マウスのうち13匹は終結させ、これらの動物のうち1匹は死んでいるのが発見され、これらのうち3匹は調べた際に瀕死状態にあり、7匹は>20%の体重減少を有し、2匹は重い衰弱に関連したHLPのために犠牲にした。
【0152】
好対照として、40mg/kg VIIで処理されたマウスはほとんど腫瘍を示さず、5百万細胞グループにおいて検死された全部で11匹の動物のうち3匹のみ、および1千万細胞グループにおいて13匹の動物のうち7匹が、いくらかの目に見えるか、または触知可能な腫瘍を示した。処理グループ中のこれらの動物の大部分は、ビヒクル処理グループよりもはるかに小さい腫瘍を示した。腫瘍は、同様な解剖学的部位に位置し、調査の終了までに、12匹の動物のうちの7匹は5百万細胞40mg/kg VII処理グループにおいて終結させ、これらの動物のうちの2匹は死んでいるのが発見され、1匹は調べた際に瀕死状態にあり、4匹は>20%の体重減少を有し、HLPのために犠牲にした動物はいなかった。同様に、1千万MV4−11細胞が接種された40mg/kg VII処理動物はほとんど腫瘍を示さず、いくつかのマウスが、拡張された唾液腺、またはわずかに拡張されたLNを有した。調査の終了の際、40mg/kg VII処理マウス13匹のうちわずか4匹は、これまでに終結させ、3匹のマウスは>20%の体重減少を有し、1匹のマウスは調べた際に瀕死状態にあるのが発見された。全体として、VII処理マウスは、腫瘍の総数、検死の際に観察された腫瘍の相対サイズ、およびこの調査における疾病の全体的な重症度の有意な減少を示し、40mg/kg VII処理は、初期の調査において見られたのと同様な有効性を示した。
【0153】
骨髄(BM)および末梢血(PB)におけるMV4−11腫瘍細胞の植付けに対する化合物VIIの影響:以前の調査と相関させるために、骨髄または末梢血におけるMV4−11植付けのレベルもまた、いくつかの動物において終結時に調べた。本発明者らの最高の努力にもかかわらず、この実験におけるビヒクル処理マウスの死の突然性によって、いくつかの試料は、分析のために利用不可能であった。初期の調査とは異なって、犠牲の際のVII処理動物の骨髄および末梢血における平均パーセントMV4−11腫瘍細胞の統計学的に有意な減少は、ビヒクル処理動物と比較したとき、接種された細胞の滴定とは無関係に観察された(表3)。
【0154】
5百万細胞が接種されたビヒクル処理マウスは、BM(n=6)およびPB(n=4)中に、それぞれ25%および61%CD33+/HLA+ヒト腫瘍細胞を有していた。対して、5百万細胞が接種されたVII処理マウスは、BM(n=8)およびPB(n=8)中に、それぞれ1%および0.6%CD33+/HLA+ヒト腫瘍細胞を有していた(ビヒクル対照に対して、40mg/kgについて、BMはp=0.13、PBはp=0.02である)。1千万細胞ビヒクル処理グループは、BM(n=8)およびPB(n=8)中に、それぞれ13%および45%CD33+/HLA+ヒト腫瘍細胞を有していた。対して、1千万細胞VII処理グループは、BM(n=13)およびPB(n=11)中に、それぞれ5%および3%CD33+/HLA+ヒト腫瘍細胞を有していた(ビヒクル対照に対して、40mg/kgについて、BMはp=0.05、PBはp=0.007である)。
【0155】
【表3】
()内の数字は、汚染が疑われる2つのPB試料を除外するために調節された値を反映する(各グループにおいてn=1)。これらの試料は、心臓穿刺による血液収集を試みている間に、乳白色の浸出液を有することが注目され、その後、検死の際に、心臓または胸腺の近くに腫瘍を有することが注目された。これら2つの疑われた値は、ビヒクルおよび40mg/kg VIIグループ(1千万細胞)において、それぞれ98%および93%腫瘍細胞を示した。
【0156】
*平均%腫瘍細胞は、CD33+HLA+事象の数/総事象として規定し、ここで、総事象=ネズミCD45+細胞の数+CD33+HLA+事象の数である。
【0157】
**ナイーブ試料を、3つの別々の調査のうち別々の3日で染色した。値は、アッセイの検出限界を反映するが、それは、マウスにMV4−11腫瘍細胞を注入しなかったからである。
【0158】
***統計的有意性は、試料サイズが等質分散についてのバートレット検定には小さすぎる事象でさえ、データ中の不等質分散を説明するために、ウエルチ補正を有する非対両側スチューデントt検定を用いて決定した。
【0159】
これらのデータは、ビヒクルグループと比較した時、VII処理でのBM中の全身腫瘍組織量において96%および59%減少(それぞれ5百万および1千万細胞注入グループ)、およびビヒクルグループと比較した時、VII処理での腫瘍細胞植付けにおいてPB中の99%および94%減少(それぞれ5百万および1千万細胞)を示している(表4)。
【0160】
【表4】
()内の数字は、汚染が疑われる試料を除外するために調節された値を反映する(各1千万細胞PBグループにおいてn=1)。これらの試料は、心臓穿刺によって血液収集を試みている間、乳白色の浸出液を有することが注目され、その後、検死の際に、心臓または胸腺の近くに腫瘍を有することが注目された。これら2つの疑われた値は、ビヒクルおよび40mg/kg VIIグループ(1千万細胞)においてそれぞれ98%および93%腫瘍細胞を示した。
【0161】
NOD−SCIDマウスにおける化合物VIIの薬物動力学:NOD−SCIDマウスにおける初期のPKデータは、初期の調査において、この調査における投薬に先立って生成された。結果は、20、40、または80mg/kg用量および暴露でのVIの血漿レベルの用量比例増加が投薬後2〜4時間に限定され、VIの血漿レベルは、すべてのメスマウスにおいて投薬後6時間までには事実上検出不可能であったことを示している。オスは、メスと比較したとき、同等の用量および血漿中のVIレベルのより長い期間で、より高い暴露を示した。
【0162】
初期の調査および他の調査において調製された調査中の配合物中に観察された沈殿物によって、調査終了後、残りの投薬溶液を用いて追加のPKデータを得た。NOD−SCIDメスマウス(n=4)にVIIの40mg/kg用量溶液を投薬し、投薬後1時間で血漿を得た。表5に示されているように、残留配合物を用いたPKデータは、4匹の動物間で中程度に可変であり、パーセント変動係数(%CV)値は25%であった。1時間の暴露について得られた血漿VI濃度は以前のPK調査において得られた値と同様であり、これらの配合物が匹敵しうることを示した。
【0163】
表5Aおよび5B:VIIカルシウム塩のPO投与:血漿中の化合物VIの平均濃度(ng/mL)
【0164】
【表5A】
【0165】
【表5B】
【0166】
【表6】
7.3.3 結論
マウス匹あたり1千万細胞でのMV4−11腫瘍細胞の静脈内投与は、5百万細胞と比較して、多重の解剖学的部位への腫瘍のより大きい播種を結果として生じた。さらに、1千万細胞が接種されたマウスはより一貫して、骨髄および末梢血における植付けの高いレベルを有していた。播種されたMV4−11腫瘍を保有するマウスへの40mg/kg VIIの投与は、細胞滴定とは関係なく、全体的生存率および病気関連後遺症に関して、ビヒクル処理マウスと比較したとき、顕著な有効性を証明した。加えて、VIIは、この調査において、60日超の期間、NOD−SCIDマウスによって十分に許容され、用いられた配合物は、以前のPK調査においてと同様な全身暴露を得るのに適しているように見えた。
【0167】
要約すれば、VII処理マウスは、同定された総腫瘍の数、腫瘍のある動物の総数において、および体重減少、検死の際の状態、および他の生存中の臨床観察事項によって測定された疾病の重症度において、薬品関連の減少を再現可能に証明した。この調査からのデータは、以前の有効性調査と同様であり、VII処理では、MV4−11保有マウスの生存率の度重なる延長を示した。加えて、VIIで処理されたマウスは、ビヒクル対照と比較したとき、骨髄および末梢血において、検出可能なより少ないMV4−11腫瘍細胞を証明した。これらのデータは、Syk/Flt−3キナーゼ阻害剤が、FLT−3ITDを保有する白血病患者、またはFlt−3突然変異に関連する他の白血病の治療のための貴重な治療薬でありうることを示唆している。
【0168】
7.4 実施例4:MV4−11腫瘍移植片からの溶解物における構成的Flt−3活性の阻害
初期の調査は、MV4−11ヒトAML細胞の処理が結果としてFlt−3の構成的リン酸化の阻害を生じたことを示した。これらのデータがあるとして、総Flt−3に対するFlt−3のリン酸化を、ヒトFlt−3の免疫沈降(IP)を用いて、この調査からの無作為に選択されたマウスからの腫瘍細胞溶解物においてエキソビボで評価し、その後リン酸化Flt−3のウェスタンブロット分析を次のように実施した。
【0169】
7.4.1 実験プロトコル
腫瘍溶解物の調製
1.腫瘍をできるだけ早く採集する。
2.凍結腫瘍を液体窒素中に微粉砕する。
3.プロテアーゼ阻害剤およびホスホターゼ阻害剤カクテル(Sigma、P5726、1ml/100ml溶解緩衝剤)を含有する、250mg/1ml氷冷RIPA緩衝剤(Santa Cruz Biotechnology,sc−24948)中に、重量を測り、標準化する。
4.氷にて均質化する。
腫瘍溶解物である透明な上澄み液をマイクロ遠心分離し、収集する。
【0170】
タンパク質濃度を測定するためのBCAアッセイ
BCAアッセイキットをPierce Prod#23227から得た。
1.BSA標準の調製:
2000ug/ml→1500ug/ml→1000ug/ml→750ug/ml→500ug/ml→250ug/ml→125ug/ml→25ug/ml
2.冷PBSで試験試料を前希釈する(腫瘍溶解物1:20希釈)
3.200ul BCA作業溶液+25ul標準/試料、37℃で30分間インキュベートする。
4.プレートを冷却し、OD570nmを読取る。
【0171】
免疫沈降
1.1mgの腫瘍溶解物を取り、一次抗体2ug(抗Flt−3 S−18、Santa Cruz、#sc−480)を添加し、溶液を溶解緩衝剤で500ulに調節する。4℃で1時間穏やかに振動させながらインキュベートする。
2.タンパク質A/Gプラス−アガロースビーズ(Santa Cruz、SC−2003)40ulを添加する。室温で1時間穏やかに振動させながらインキュベートする。
3.4℃で30秒間マイクロ遠心分離する。500ulの1×溶解緩衝剤で3回ペレットを洗浄する。洗浄の間、氷上に保持する。
4.30ulの2×トリス−グリシンSDS負荷緩衝剤+5ulの還元剤10×(Invitrogen)でペレットを再縣濁する。
5.試料を5分間95〜100℃へ加熱する。
6.試料を−80℃で保存する。
【0172】
ウェスタンブロット手順
1.8%トリス−グリシンゲルに20ulの試料を負荷する。
2.1×トリス−グリシンSDS作業緩衝剤中で作業する。
3.1×トリス−グリシン転移緩衝剤中でPVDF膜へ移す。
4.室温で1時間、1%BSA/TBST(TBS+0.1%Tween−20)中で遮断する。
5.一次抗体1:5,000を一晩4℃で添加する。
【0173】
抗−ホスホチロシンクローン4G10(マウスモノクローナル、Upstate、#05−321)。
抗−ホスホ−Flt−3(Tyr591)(マウスmAb、Cell Signaling、#3466S)。
6.TBST中で2時間洗浄する。
7.5%ミルク/TBST(ブロッティンググレード遮断剤、ノンファットドライミルク、Bio−Rad、#170−6404)中で1時間の、2°Ab抗−マウスIgG−HRP(Amersham、NA931V)1:5,000。
ECL−プラス(Amersham、RPN2132)の短時間暴露。
【0174】
膜のストリッピングおよびリプロービング
1.膜をストリッピング緩衝剤(Pierce、#21062)に沈め、37℃で1時間インキュベートする。
2.膜をTBST中で15分間、2回洗浄する。
3.膜を1%BSA/TBSTで1時間遮断する。
4.5%ミルク/TBST中の抗−Flt−3 1:5,000(Santa Cruz、#sc−480)を添加し、4℃で一晩インキュベートする。
5.TBST中で2時間洗浄する。
6.室温で1時間、5%ミルク/TBST中の2°Ab抗−ウサギIgG−HRP(Amersham、NA934V)1:5,000。
7.ECL−プラスの短時間暴露。
【0175】
加えて、ブロットを総Flt−3レベルについてリプローブした。Flt−3の構成的リン酸化は、ビヒクル処理対照と比較したとき、用量依存的に40mg/kg VII処理動物からの腫瘍において低下した。
【0176】
7.4.2 MV4−11腫瘍異種移植片のリン酸化ヒストンH3分析
腫瘍細胞増殖についてのマーカーとして、ヒト特異的リン酸化ヒストンH3(phH3)の免疫組織化学染色を用いて、この調査からの3匹の無作為選択されたマウスからのホルマリン固定腫瘍切片において、増殖をエキソビボで評価した。ヒトphH3発現は、VIIでの処理後、用量依存的に腫瘍切片において低下した。ビヒクル処理されたマウスからのMV4−11腫瘍異種移植片と比較したとき、20および40mg/kg VIIでの処理は結果として、それぞれphH3染色の53%および71%阻害を生じた。これらのデータは、VII阻害がインビボでのMV4−11腫瘍の増殖能力を減少させ、この調査の生存中部分の間に観察された減少した腫瘍容積と相関関係があることを示している。減少した増殖は、減少した構成的Flt−3リン酸化による可能性があるが、それは、この活性が、インビトロでのMV4−11細胞の生存に必要とされることが証明されているからである。
【0177】
7.4.3 下流シグナル伝達事象の阻害
26日間40mg/kg VIIで治療されたマウスからの腫瘍切片の追加の免疫組織化学染色は、減少したSTAT5およびERK1/2リン酸化を証明した。これらは、MV4−11細胞中のFlt−3:ITDシグナル伝達経路における下流分子である(図11)。
【0178】
7.5 実施例5:急性骨髄性白血病細胞に対する化合物VIの調査、およびキナーゼ阻害剤AG1296との比較
AML細胞または32Dトランスフェクタントを1uMのVIで48時間(AML)または24時間(32D)処理し、アポトーシス細胞の%増加は、アネキシンVおよびPI染色を用いて決定した。データは、Flt−3 ITDを有するAML細胞が、VI−誘発アポトーシスのみへ感受性があることを示している。同様に、ITDでトランスフェクションされた32Dまたは点突然変異Flt−3 TDKは、wt Flt−3でトランスフェクションされた32D細胞よりも、24時間でより多くのアポトーシスを受ける。
【0179】
本発明の具体的な実施形態の前記の記載は、例証および説明を目的として提示されている。これらは、網羅的であることも、開示された正確な形態へ本発明を限定することも意図されておらず、明らかに多くの改変例および変形例が、上の教示に鑑みて可能である。これらの実施形態は、本発明の原理およびその実際の適用を最もよく説明し、これによって他の当業者が、本発明、および考察されている特別な使用に適した様々な改変を有する様々な実施形態を最もよく利用することを可能にするために選択され、記載されている。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその同等物によって規定されるものとする。
【0180】
本明細書において引用されたすべての特許、特許出願、出版物、および参考文献は明らかに、各々の個別出版物または特許出願が、具体的かつ個別に参照により組み込まれることが指示されているかのように、同程度まで参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1A】Syk阻害化合物VIが増殖を妨げ、TEL−Syk−形質転換細胞の分化を誘発する能力を示している。DMSO、Syk−阻害化合物VI(2μM)、またはAb1キナーゼ阻害剤STI−571(2μM)のいずれかで36時間処理されたTEL−Syk−またはBCRAb1−形質転換細胞のDNA含有量が示されている。
【図1B】Syk阻害化合物VIが増殖を妨げ、TEL−Syk−形質転換細胞の分化を誘発する能力を示している。TEL−Sykがプレ−B細胞の分化を妨げる能力が示されている。
【図1C】Syk阻害化合物VIが増殖を妨げ、TEL−Syk−形質転換細胞の分化を誘発する能力を示している。細胞は、IL−7の不在下に3日間培養され、FACSによってκLCの発現について分析された。化合物VIでのTEL−Syk活性の阻害が示されている。
【図2A】Syk−阻害剤VIが、Myc−形質転換されたプレ−B細胞の増殖を妨げる能力を示している。図2Aは、Myc発現ベクターで形質導入され、かつIL−7の不在下に1週間培養されたプレ−B細胞のFACSプロフィールである。
【図2B】Syk−阻害剤VIが、Myc−形質転換されたプレ−B細胞の増殖を妨げる能力を示している。図2Bの下方の図は、指示された細胞の注入の5週間後のRAG/γC−+/−マウスの脾臓を示し、Myc−形質転換細胞が脾腫および白血病を引き起こす能力を図解している。図2Bは、DMSO、VI(2μM)、またはSTI−571(2μM)のいずれかで36時間処理されたMyc−形質転換細胞のDNA含有量を示している。
【図3A】Syk−阻害剤VIが、腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系の増殖を妨げる能力を示している。図3Aは、SLP−65−/−プレ−B細胞系が、指示された細胞の注入の5週間後のRAG/γC−−/−マウスの脾臓の状態によって証明されているように、脾腫および白血病を引き起こしうることを示している。
【図3B】Syk−阻害剤VIが、腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系の増殖を妨げる能力を示している。図3Bは、DMSO、VI(2μM)、またはSTI−571(2μM)のいずれかで36時間処理された腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系のDNA含有量を示している。
【図4】MV4−11ヒト急性骨髄性白血病細胞が静脈内(i.v.)接種され、かつ腫瘍細胞接種後17日目から調査の間中ずっと、一日2回POで40mg/kgにおいて化合物VIIで処理されたNOD−SCIDマウスについての生存曲線を示している。40mg/kg VIIグループ(106細胞)のILS%についての計算は、調査終了時(83日目)におけるこのグループの50%超の生存率により、83日の中央値死亡日と想定される。
【図5】個々の動物についての死亡までの日数を示している。生存率データは、MV4−11腫瘍細胞が静脈内に注入されたNOD−SCIDマウスについてである。マウスは、腫瘍細胞注入後17日目から調査の終了(83日目)まで、一日2回POで、ビヒクルまたは様々な用量のVIIで処理された。犠牲にされた動物についての死亡までの日数が、グラフ中で、青い線で表示された中央値死亡日で示されている。調査終了時の各グループにおける生存動物は、グラフの頂部に、生存動物数/総マウス数として示されている。
【図6A】検死時にMV4−11腫瘍を保有するNOD−SCIDマウスにおける腫瘍の頻度を示している。病気の重症度は、犠牲の理由とは無関係に、終了時の検死の時に触診可能な腫瘍を有するマウスの頻度を定量化することによって評価された。
【図6B】検死時にMV4−11腫瘍を保有するNOD−SCIDマウスにおける腫瘍の頻度を示している。1グループあたりの腫瘍の総数が、図6Bに示されている。マウスは、5百万または1千万MV4−11ヒトAML細胞(それぞれ5E6または10E6として示されている)でi.v.接種された。細胞注入後17日目に、マウスは、犠牲にされるまで、または調査の間中ずっと、生存動物については83日目まで、ビヒクルまたは40mg/kg VII(PO.bid)で処理された。マウスは犠牲にされ、包括的検死が実施された。グループあたり実施された検死の総数は、8〜13匹であった。
【図7】実験動物の腫瘍分布プロフィールを示している。様々な解剖学的位置に見られた総腫瘍のパーセントが、犠牲時の検死の時に記録された。マウスは、5百万または1千万MV4−11細胞がi.v,注入され、調査の間中ずっと、一日2回ビヒクルまたは40mg/kg VIIのどちらかが経口投与された。触診可能な腫瘍は検出されなかったが、拡張された唾液腺を示す動物がグラフに含まれている。グループあたり実施された検死の総数は、8〜13匹であった。
【図8】NOD−SCIDマウスの骨髄(BM)および末梢血(PB)におけるMV4−11腫瘍細胞の植付けプロフィールを示している。データは、腫瘍細胞i.v.注入後17日目から調査の終了まで、一日2回POで、ビヒクルまたは40mg/kg VIIで処理されたNOD−SCIDマウスにおけるMV4−11ヒト腫瘍細胞の植付けからのものである。骨髄(BM)および末梢血(PB)腫瘍細胞植付けは、MV4−11腫瘍細胞の検出のためにCD33およびHLA細胞表面染色を用いて、フローサイトメトリック分析によって検出された。データは標準化され、総細胞からのパーセントヒト腫瘍細胞が計算された。総細胞は、ヒトCD33+HLA+陽性事象およびネズミCD45陽性染色事象の数として規定された。グラフはすべての試料を含む。
【図9】免疫沈降およびウェスタンブロット分析によるMV4−11異種移植片におけるFlt−3の検出を示している。図Aは、ブロットの左側で抗ホスホチロシン抗体およびブロットの右側で抗−ホスホ−Flt−3特異的抗体を用いて、VIIまたはビヒクルの最終投与の約2時間後、マウスからのMV4−11腫瘍溶解物におけるリン酸化Flt−3の検出である。加えて、総Flt−3レベルについてのブロットのリプローブは、図Bに示されている。
【図10】MV4−11腫瘍異種移植片のリン酸化ヒストンH3分析を示している。増殖は、腫瘍細胞増殖についてのマーカーとして、ヒト特異的リン酸化ヒストンH3(phH3)の免疫組織化学染色を用いて、この調査から無作為に選択された3匹のマウスからのホルマリン固定腫瘍切片においてエキソビボで評価された。ヒトphH3発現は、腫瘍切片において、VIIでの処理後に用量依存的に低下した。ビヒクル処理マウスからのMV4−11腫瘍異種移植片と比較したとき、20および40mg/kg VIIでの処理は結果として、それぞれphH3染色の53%および71%阻害を生じた。これらのデータは、VII媒介阻害が、インビボのMV4−11腫瘍の増殖能力を低下させ、このことは、この調査の生存中部分の間に観察された腫瘍容積の低下と相関関係があることを示している。低下した増殖は、低下した構成的Flt−3リン酸化によるものである可能性があるが、それは、この活性がインビトロでのMV4−11細胞の生存に必要とされることが証明されているからである。
【図11】一日2回26日間経口処理されたMV4−11腫瘍保有マウスからの腫瘍切片における、pErk1/2およびpStat5についての免疫組織化学染色を図解している代表的なデータを示している。腫瘍は、ビヒクルまたは40mg/kg VIIの最終投与の約2時間後にマウスから採集された。
【図12】アネキシンVおよびPI染色によって決定された、アポトーシスの誘発における、1uM VIでのAML細胞または32Dトランスフェクタントの処理の効果を示している。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2006年4月18日に出願された米国特許出願第11/407,233に優先権を主張し、この全ての内容は本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、細胞増殖性障害の治療のための方法および組成物に関しており、該組成物は、細胞の増殖可能性に影響を与えるキナーゼ活性を標的とする阻害剤を含んでいる。
【背景技術】
【0003】
(背景)
非調節細胞成長は、腫瘍および癌ならびに他の細胞増殖性障害の顕著な特徴である。細胞分裂および細胞増殖を制御する細胞プロセスは複雑であり、細胞分裂および成長を促進する遺伝子産物と、このようなプロセスを阻止する遺伝子産物との間の複雑な相互作用をともなう。成長および増殖の正の調節剤は一般に、前癌遺伝子として記載され、これらは、改変遺伝子、ならびに腫瘍および癌形成を促進することが知られているこれらの遺伝子産物の正常な対応物である。前癌遺伝子は、細胞分裂を促進し、細胞アポトーシスを負に調節をする。これらの正常な調節状態からのこれらの遺伝子産物の活性の脱共役は、前癌遺伝子を癌遺伝子へ転化する。前癌遺伝子の正常な機能は、成長因子、成長因子受容体、細胞情報伝達分子、および核因子を包含する。前癌遺伝子の癌遺伝子形態への活性化は、多様な方法で起こりうる。これは、遺伝子突然変異、増幅、遺伝子転座、およびウイルス活性化を包含する。
【0004】
前癌遺伝子とは対照的に、腫瘍抑制剤は一般に、細胞成長に対して負の影響を及ぼし、細胞のアポトーシスを促進し、細胞サイクルの進行を阻害し、浸潤および転移の可能性に影響を与える。いくつかの例において、腫瘍抑制剤は、これらの改変形態においてでさえ癌遺伝子の活性に対抗しうる。腫瘍抑制機能の損失または阻害の際に、前癌遺伝子またはこれらの対応癌遺伝子形態の非調節活性は、細胞形質転換および発癌をもたらす。遺伝子突然変異もしくは欠失、抑制転写、分解の増加、または腫瘍抑制剤と協力して作用する関連タンパク質の異常性は、腫瘍抑制活性を危うくすることがある。腫瘍抑制遺伝子は、突然変異体対立遺伝子とともに正常対立遺伝子を有する細胞が、依然として正常に挙動するように、劣性対立遺伝子として作用する。このようにして、異型接合の損失(LOH)とも呼ばれている正常対立遺伝子の損失は、異常な細胞成長および増殖のいくつかの型を特徴付ける。癌遺伝子活性および正常な細胞分裂制御の破壊の結果として生じるゲノムの不安定性は、LOHの確率、したがって癌遺伝子による形質転換表現型の発生を増加させうる。
【0005】
細胞増殖性障害の治療は、形質転換細胞において影響を受けた癌遺伝子および/または腫瘍抑制剤を標的としうる。しかしながら、機能の損失、例えば腫瘍抑制剤に起因する障害は典型的には、根底にある分子欠陥を治療しようとする際、機能の獲得の変化、例えば癌遺伝子の活性化に起因する障害における、根底にある分子欠陥の治療よりも問題が多い。失われた細胞機能を与えるための細胞プロセスの改変は、多くの事例では実際的でない。このようにして、腫瘍抑制活性の損失に起因する細胞増殖性障害についてでさえ、治療は典型的には、失われた腫瘍抑制機能の結果として作用する、調節不全分子(例えば前癌遺伝子)へ向けられる。多くの分子標的、例えば非受容体および受容体ベースのタンパク質キナーゼが同定されているが、細胞増殖および成長において効果を現わす細胞調節メカニズムの複雑な性質は、治療標的になりうる他の分子が依然として同定されていないことを示すであろう。これらのうちのいくつかは未知であろうが、一方、公知であっても、細胞増殖性障害と関連付けられないことがある場合もある。
【0006】
このように、細胞増殖性障害において癌遺伝子的に、それ自体の活性の改変の帰結として、またはその活性を調節する作用をする細胞機能の損失の結果としてのどちらかとして作用する、他の細胞分子を同定することが望ましい。このような分子を同定する際、特異的にその細胞分子に向けられた化合物を同定することができ、独立して、または他の公知療法と組み合わせて、細胞増殖性障害を治療するために用いることができる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本開示は、細胞増殖性障害の治療方法であって、細胞増殖性障害を治療するのに有効な量のSykキナーゼ阻害化合物を被験体に投与することによる方法を提供する。いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、Sykキナーゼに対して選択的であり、これによって、増殖性障害に存在する異常なSykキナーゼ活性を特異的に標的する。Sykが、正常でない細胞分裂または細胞成長のいくつかの態様においてある役割を果たすいずれの細胞増殖性障害も、これらの阻害化合物で治療することができる。いくつかの実施形態において、これらの阻害化合物で治療可能な細胞増殖性障害は、造血新生物であり、これらは、造血系統の細胞に関わる正常でない成長である。これらのSyk阻害化合物で治療可能な造血新生物は、とりわけ、様々な骨髄およびリンパ系の新生物、例えば慢性骨髄性白血病、バーキットリンパ腫、および急性骨髄性白血病を包含する。
【0008】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害化合物は、SykキナーゼおよびFlt−3キナーゼの両方の活性を阻害しうる、Syk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を含む。これらの化合物は、異常なFlt−3キナーゼ活性と関連する細胞増殖性障害を治療するために用いることができる。Flt−3活性が正常でない様々な造血新生物は、とりわけ、急性骨髄性白血病、B−前駆体細胞急性リンパ芽球性白血病、T−細胞急性リンパ芽球性白血病、骨髄異形成症候群、および慢性骨髄性白血病を包含する。Flt−3に関わるこれらおよび他のこのような障害は、Syk/Flt−3阻害化合物、例えば本明細書に記載されている2,4−ピリミジンジアミン化合物のメンバーで治療することができる。
【0009】
他の態様において、これらの阻害化合物は、正常細胞を腫瘍細胞に形質転換するウイルス遺伝子によって媒介された腫瘍を治療するために用いることができる。これらの実施形態において、ウイルス癌遺伝子の活性がその形質転換メカニズムの一部としてSykキナーゼ機能を破壊する腫瘍は、治療のための標的とすることができる。このようにして、いくつかの実施形態において、ウイルス媒介腫瘍は、免疫受容体チロシン−ベースの活性化モチーフ(ITAM)を有するタンパク質をコードする遺伝子を保有するウイルスによる感染と関連している。通常、これらの保存された配列は、免疫系細胞(例えば、B細胞、T細胞、好中球など)の発達および機能の間にSykキナーゼ活性を調節する。しかしながら、ITAM配列を有するウイルスタンパク質の永続的な発現は、異常なSykキナーゼ活性および結果として生じる腫瘍形成および/または維持を生じうる。様々な実施形態において、ウイルス媒介腫瘍は、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、エプスタイン−バーウイルス、ヒトT−細胞リンパ球向性ウイルス(HTLV−1)、または乳腺癌ウイルス(MTV)と関連する場合がある。これらのウイルスの存在は、いくつかの細胞増殖性障害と相関関係がある。これは、カポジ肉腫、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、成人T細胞白血病、および乳癌のあるいくつかの形態を包含する。
【0010】
いくつかの態様において、本開示は、腫瘍転移の阻害方法であって、腫瘍転移を阻害するのに有効な量のSykキナーゼ阻害化合物を被験体に投与することによる方法を提供する。転移の可能性があるいずれの腫瘍も、これらの阻害化合物で治療することができる。いくつかの実施形態において、腫瘍転移は、インテグリンの活性と関連している。これらは、細胞接着特性の調節においてSykキナーゼを通して作用しうる。例えば腫瘍細胞の転移において観察されるものである。Sykキナーゼ阻害剤は、インテグリン、例えばβ1、β2、および/またはβ3インテグリンによって媒介された細胞シグナル伝達事象に影響を与えることによって、腫瘍転移を阻害するために用いることができる。
【0011】
いくつかの態様において、これらの阻害化合物は、他の癌治療と組み合わせて用いることができる。いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、他の化学療法薬と組み合わせて用いられる。これはとりわけ、代謝拮抗物質、アルキル化剤、配位化合物、転写阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNA副溝結合化合物、ビンカアルキロイド、抗腫瘍抗生物質、ホルモン、および抗腫瘍酵素を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
6.1 処理方法
本開示は、細胞増殖性障害の治療方法であって、SykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を投与することによる方法を提供する。Sykキナーゼは、Syk族(SykおよびZAP−70)非受容体チロシンキナーゼの2つの公知メンバーの1つである。Sykは、そのsrc相同体2(SH2)ドメインの免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)への結合の時に活性化される。Sykキナーゼは、リンパ球の発達および免疫細胞の活性化において必須の役割を果たし、B細胞受容体シグナル伝達およびマスト細胞顆粒のFc受容体媒介放出におけるその役割について最もよく特徴付けられている。Sykは、造血細胞中に遍在的に発現されるが、他の組織、例えば乳房上皮細胞および肝細胞においても発現される。Sykは腫瘍抑制剤であり、転移可能性の負の調節剤として作用することを、この分野において信じている人もいる。Syk活性の損失は、浸潤性乳癌の形成と関連していることが示唆され、Syk遺伝子の染色体消失が、原発性乳癌のリンパ節転移のあるいくつかの型において示されている。このようにして、細胞増殖性障害の治療のため、または腫瘍細胞の転移可能性を低下させるための治療としてのSyk阻害剤の使用は、Sykが腫瘍抑制剤として機能する場合、禁忌であろう。
【0013】
Flt−3はまた、チロシンキナーゼでもあるが、Sykとは異なって、これはチロシンキナーゼ受容体タンパク質族に属する。Flt−3は、クラスIII受容体チロシンキナーゼのメンバーであり、これらは、アミノ酸配列および構造特性によって関連付けられる。Flt−3は、その同族リガンドFlt−3Lへの結合によって活性化される。Flt−3キナーゼは、正常な骨髄の初期造血幹細胞中に発現され、様々な下流細胞標的の活性を制御することによって、多能幹細胞およびB細胞の発達において機能するように見える。これらは、とりわけ、ホスホリパーゼC−(PLC)、ホスファチジルイノシトール3’−キナーゼ(PI3K)のp85サブユニット、Shc、Shp−2、Ship、Grb2、Vav、Fynキナーゼ、Srcキナーゼ、Stat5情報伝達タンパク質、およびErkを包含する。Flt−3キナーゼは、骨髄中の神経前駆細胞中に正常に発現されるが、発現の高レベルはまた、血液細胞増殖性障害、例えば急性骨髄性白血病(AML)、B−前駆体細胞急性リンパ芽球性白血病、T−細胞急性リンパ芽球性白血病、およびリンパ急性転化における慢性骨髄性白血病(CML)の範囲内でも観察される(例えばRosnetら、1996,Leukemia 10:238−248;Carowら、1996,Blood 87:1089−1096を参照されたい)。血液細胞増殖性障害におけるFlt−3突然変異の存在は、寛解率の減少、再発率の増加、および一般により低い全体の生存率と相関関係がある(Romboutsら、2000,Leukemia 14:675−683;Thiedeら、2002、Blood 99:4326−4335;Frohlingら、2002,Blood 100:4372−4380)。
【0014】
当業界は、Sykが腫瘍抑制剤として作用しうることを示唆しているが、本開示は、Sykがその仮定された役割とは反対の機能を果たすという指摘に基づいている。例えば、腫瘍細胞中のSykキナーゼの強制的発現は、腫瘍細胞の形質転換された表現型を逆転するようには見えない。対して、Sykが細胞増殖を促進および/または維持する発癌能力において作用することが、本発明において示唆されている。Sykの役割に関するこの観点で、本開示は、細胞増殖性障害の治療方法であって、細胞増殖性障害を治療するのに有効な量のSykキナーゼ阻害化合物を被験体に投与することによる方法を提供する。
【0015】
さらには、いくつかのSyk阻害化合物、例えば下にさらに詳細に記載されている2,4−ピリミジンジアミン化合物のメンバーもまた、Flt−3キナーゼの阻害剤として作用しうることも、本明細書において示されている。その結果、いくつかの実施形態において、Flt−3キナーゼならびにSykキナーゼを阻害する、この二重または多作用阻害プロフィール(すなわちSyk/Flt−3キナーゼ阻害活性)を有するSyk阻害化合物は、異常なFlt−3受容体キナーゼ活性と関連した細胞増殖性障害の治療のための用途を見出す。SykキナーゼおよびFlt−3キナーゼの両方と、造血細胞の発達との組合せは、造血新生物の治療のための、このようなSyk/Flt−3キナーゼ阻害化合物の使用を支持する。
【0016】
本発明の方法の記載において、用いられている用語は、本明細書において特別に他の規定がなされていなければ、これらの通常かつ共通の意味を有する。
【0017】
「Syk」または「Sykキナーゼ」とは、B−細胞および他の造血細胞中に発現される72kDa非受容体(細胞質)脾臓タンパク質チロシンキナーゼのことを言う。Sykキナーゼは、リン酸化免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(「ITAM」)、「リンカー」ドメイン、および触媒ドメインへ結合する、縦列の2つのコンセンサスSrc−同族体2(SH2)ドメインを特徴とする(概論については、Sadaら、2001,J.Biochem.(Tokyo)130:177−186、および同様にTurnerら、2000,Immunology Today 21:148−154、およびWongら、2004,Expert Opin Investig Drugs 13(7):743−62を参照のこと)。Sykキナーゼはまた、免疫受容体から通じている重要な経路、例えばCa2+動員、およびマイトゲン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)カスケード、および脱顆粒を調節する、多重タンパク質のチロシンリン酸化にとっても重要である。Sykキナーゼはまた、好中球中のインテグリンシグナル伝達においても重要な役割を果たす(例えばMocsaiら、2002,Immunity 16:547−558参照のこと)。Sykキナーゼは、Syk族に属すると認識されているあらゆる動物種からのキナーゼを包含する。この動物種は、非限定的にホモサピエンス、サル、ウシ、ブタ、げっ歯類などを包含する。具体的には、自然発生および人工の両方のイソ型、スプライス変異体、対立変異体、突然変異体が含まれる。このようなSykキナーゼのアミノ酸配列は、GENBANKから入手しうる。ヒトSykキナーゼの異なるイソ型をコードするmRNAの具体例は、GENBANK受入番号gil21361552|ref|NM 003177.2、gil496899|emb|Z29630.1|HSSYKPTK[496899]、およびgil5030258|gb|BC011399.1|BC011399[15030258]として入手可能であり、これらは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
「Flt−3」または「Flt−3受容体チロシンキナーゼ」とは、flt−3リガンド(Flt−3LまたはFL)を結合する受容体チロシンキナーゼのことを言う。Flt−3はまた、Fms−様チロシンキナーゼ3、FLK−2(胎児肝臓キナーゼ−2)およびSTK−1(ヒト幹細胞キナーゼ−11)としても公知である(例えばMathewsら、1991,Cell.65:1143−1152;Rosnetら、1991,Oncogene.6:1641−1650を参照されたい)。Flt−3は、クラスIII受容体チロシンキナーゼ(RTKIII)族のメンバーとの配列類似性を有し、これのサブセットは、とりわけ、FMS、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、およびKitを包含する(Rosnetら、1993,Crit Rev Oncog.4:595−613)。マウスおよびヒトにおけるFlt−3ポリペプチドは、それぞれ1000−および993−アミノ酸タンパク質であり、未成熟造血細胞、胎盤、生殖腺、および脳で発現されることが公知である。上記のように、Flt−3は、多能性幹細胞およびB細胞の発達において想定された役割を有する。クラスIII受容体チロシンキナーゼの他のメンバーと同様に、Flt−3は、細胞外ドメイン、膜貫通(TM)ドメイン、近接膜(JM)ドメイン、キナーゼ挿入(KI)ドメインによって分離された2つの細胞内チロシンキナーゼ(TK1およびTK2)ドメイン、およびC−末端ドメインにおける5免疫グロブリン様反復を特徴とする(Agnesら、1994,Gene 145:283−288;2004,Griffithら、Molecular Cell 13:169−178)。Flt−3キナーゼは、Flt−3受容体族に属すると認識されている、非限定的にホモサピエンス、サル、ウシ、ブタ、げっ歯類などを包含するあらゆる動物種からのキナーゼを包含する。具体的には、自然発生および人工の両方のイソ型、スプライス変異体、対立変異体、突然変異体が含まれる。このようなSykキナーゼのアミノ酸配列は、GENBANKから入手しうる。異なるFlt−3キナーゼの核酸配列および対応アミノ酸配列の具体例は、とりわけ、ヒト(受入番号NM 004119.1)、チンパンジー(受入番号452508;XM 509601.1;XP 509601.1)、イヌ(NM 001020811.1;NP 001018647.1)、およびマウス(受入番号142551;NM 010229.11;NP 034359.11;AK0458654;AK1492924;AK1636404;BC1090034;BC1090044;L361634;M646894;X593984)を包含し、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0019】
Flt−3変異体のいくつかの実施形態は、ある造血細胞増殖性障害と関連している。「Flt−3 ITD」とは、近接膜(JM)ドメインに内部縦列重複(ITD)を有するFlt−3の変異体のことを言う(Nakaoら、1996,Leukemia 10:1911−1918;Griffithら、上記)。Flt−3 ITDにおいて重複されたJMドメインの数は被験体毎に異なるが、インフレームであり、一般に、異常な(すなわち増加した)チロシンキナーゼ活性を有するタンパク質を結果として生じる。Flt−3 ITD型の変異体は、多くの場合、急性骨髄性白血病、および骨髄異形成症候群と関連している。変異体の別の型は、「Flt−3活性化ループ突然変異」であり、これは、第2チロシンキナーゼ(TK2)ドメインの活性化ループにアミノ酸配列変化(野生型と比較した場合)を有する変異体のことを言う。理論によって縛られるわけではないが、この活性化ループは、アデノシントリホスフェート(ATP)および基質のキナーゼドメインへのアクセスを妨げることにおいて機能を果たすように見え、これによってキナーゼに対して阻害効果を与える。結果として、活性化ループ突然変異は、構成的活性を有するFlt−3キナーゼ形態を生じうる。例示的活性化ループ変異体は、D835Aであり、これは、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、および急性リンパ芽球性白血病において観察される(Yamamotoら、2001,Blood 97:2434−2439;Griffin,J.D.,2001,Blood 97:2193a)。ヒトにおける細胞増殖性障害と関連した他の例示的活性化ループ変形例は、とりわけ、D835Y、D835A、D835E、D835H、D835N、D835V、D835del、およびI836delを包含していた。
【0020】
「細胞増殖性障害」とは、細胞の正常でない増殖を特徴とする障害のことを言う。増殖性障害は、細胞成長率に関する制限を含まず、単に成長および細胞分裂に影響を与える正常な制御の損失を示すだけである。このようにして、いくつかの実施形態において、増殖性障害の細胞は、正常な細胞と同じ細胞分裂速度を有しうるが、このような成長を制限するシグナルに応答しない。「細胞増殖性障害」の領域内には、新生物または腫瘍があり、これは、組織の正常でない成長である。癌とは、周囲組織に侵入し、および/または新しいコロニー化部位へ転移する能力を有する細胞の増殖を特徴とする、様々な悪性新生物のいずれかのことを言う。
【0021】
「造血新生物」とは、造血系統の細胞に起因する細胞増殖性障害のことを言う。一般に造血は、未分化細胞または幹細胞が、末梢血中に見られる様々な細胞として発達する生理学的プロセスである。発達の初期段階において、典型的には骨髄中に見られる造血幹細胞は、一連の細胞分裂を受け、2つの主な発達経路、すなわちリンパ系統および骨髄系統に責任を有する多能性前駆細胞を形成する。骨髄系統の委任前駆細胞は、赤血球、巨核球、および顆粒球/単球発達経路からなる、3つの主要なサブブランチに分化する。追加経路は、抗原提示に関与する樹状細胞の形成を生じる。赤血球系統は、赤血球細胞を生じ、一方、巨核球系統は、血小板を生じる。顆粒球/単球系統の委任細胞は、顆粒球または単球発達経路に分裂し、前者の経路は、好中球、好酸球、および好塩基球の形成を生じ、後者の経路は、血中単球およびマクロファージを生じる。
【0022】
リンパ系統の委任前駆細胞は、発達してB細胞経路、T細胞経路、または非−T/B細胞経路になる。骨髄系統と同様に、追加のリンパ経路は、抗原提示に関与する樹状細胞を生じるように見える。B細胞前駆細胞は、発達して前駆体B細胞(プレ−B)になり、これは、免疫グロブリンの生産の原因となるB細胞に分化する。T細胞系統の前駆体細胞は、前駆体T細胞(プレ−T)に分化し、これらは、あるサイトカインの影響に基づき、発達して、細胞媒介免疫に関与する細胞毒性またはヘルパー/抑制剤T細胞になる。非−T/B細胞経路は、ナチュラルキラー(NK)細胞の発生を生じる。造血細胞の新生物は、造血のいずれの段階の細胞を含んでいてもよく、これは、造血幹細胞、多能性前駆細胞、オリゴ能性委任前駆細胞、前駆体細胞、および成熟分化細胞を包含する。造血新生物のカテゴリーは一般に、当業者によって使用されている説明および診断基準に従いうる(例えばInternational Classification of Disease and Related Health Problems(ICD 10)、World Health Organization(2003)を参照されたい)。造血新生物はまた、分子特徴、例えば細胞表面マーカーおよび遺伝子発現プロフィール、異常細胞によって示される細胞表現型、および/またはある造血新生物に特徴的な染色体異常(例えば欠失、転座、挿入など)、例えば慢性骨髄性白血病に見られるフィラデルフィア染色体に基づいて特徴付けることもできる。他の分類は、National Cancer Institute Working Formulation(Cancer,1982,49:2112−2135)およびRevised European−American Lymphoma Classification(REAL)を包含する。
【0023】
「リンパ系の新生物」とは、造血のリンパ系統の細胞に関与する増殖性障害のことを言う。リンパ系の新生物は、造血幹細胞、ならびにリンパ委任前駆細胞、前駆体細胞、および最終分化細胞に起因しうる。これらの新生物は、異常細胞の表現型属性、または正常でない細胞が起因する分化状態に基づいて再分割されうる。再分割は、とりわけ、B細胞新生物、T細胞新生物、NK細胞新生物、およびホジキンリンパ腫を包含する。
【0024】
「骨髄新生物」とは、造血の骨髄系統の細胞の増殖性障害のことを言う。新生物は、造血幹細胞、骨髄委任前駆細胞、前駆体細胞、および最終分化細胞に起因しうる。骨髄新生物は、異常細胞の表現型属性、または正常でない細胞が起因する分化状態に基づいて再分割されうる。再分割は、とりわけ、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、および急性二表現型白血病を包含する。
【0025】
「ウイルス媒介腫瘍」とは、ウイルス感染、またはウイルスでコードされた産物の活性に関連した新生物または腫瘍のことを言う。新生物は、細胞ゲノム中に統合された潜伏ウイルスの存在に起因するか、またはウイルス関連遺伝子産物の活性に起因しうる。ウイルス感染は、インキュベーション期間が、腫瘍表現型の発達前に数ヶ月または数年に及びうるという点で、時間的に腫瘍形成と密接な相関関係があるとする必要はない。本発明における治療は、Syk阻害剤の使用を対象としているので、適用可能なウイルス関連腫瘍は、Syk活性のウイルス調節が、異常な細胞増殖と相関関係がある腫瘍である。Sykの活性化がウイルス感染の結果である、RNAおよびDNAウイルス、およびエピソーム的に存在するか、または細胞ゲノム中に統合されるウイルスを包含するあらゆるウイルスは、本発明の方法を用いて標的することができる。
【0026】
「腫瘍転移」とは、腫瘍細胞が、元の腫瘍部位から移動して、他の組織中でコロニー化する能力のことを言う。広がった細胞から形成される腫瘍は、「二次性腫瘍」と呼ばれ、元の「原発性」腫瘍にあるものと同様な細胞を含有する。転移性腫瘍は典型的には、元の腫瘍部位から血液およびリンパ系を通って他の組織への腫瘍細胞の移動によって形成される。
【0027】
「Syk媒介インテグリンシグナル伝達」とは、Sykキナーゼとの相互作用を介して発生する、細胞表面インテグリンの情報伝達のことを言う。インテグリンは、細胞外マトリックスおよび細胞表面リガンドを結合する、細胞表面接着受容体の拡大された族を含む。構造的には、インテグリンは、αおよびβ鎖からなるヘテロダイマータンパク質であり、各々のサブユニットは、細胞外ドメイン、単一膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインを有する。αサブユニットは一般に、約7の縦列反復から構成され、反復のサブセットは、一般的構造DxDxDGxxD(式中、xは、いずれかのアミノ酸である)の推定金属結合配列を含有する。インテグリンの2つのグループは、αサブユニットによって特徴付けることができる。すなわち、「A」ドメインを含有するもの、およびタンパク質分解の切断部位を有するものである。βサブユニットは、細胞外ドメインに約200アミノ酸の保存領域を含み、これは、αサブユニットの「A」ドメインと構造的類似性を有する領域、およびラミニン中に見られるものと同様な、上皮成長因子(EGF)様反復を有する別の領域を特徴とする(例えばXiongら、2003,Blood,102(4):1155−1159)。インテグリン活性は、細胞内Sykを調節しうるか、または逆に、インテグリン機能は、Sykの活性を介して調節することができる。いくつかの例において、インテグリンは、その同族リガンドを結合するために、細胞内の活性化を必要とすることが、一般に理解されている(インサイドアウト活性化)。Sykを調節するか、またはこれによって調節されるインテグリンは、とりわけ、β1−インテグリン(Linら、J.Biol.Chem.1995,270(27):16189−97)、例えばα2b1(Keelyら、1996,J.Biol.Chem.271(43):26668−76)、β2−インテグリン、およびβ3−インテグリン(Woodsideら、2001,Curr Biol.11(22):1799−804)、例えばαIIbβ3(Clarkら、J.Biol.Chem.1994、269(46):28859−64)を包含する。例えば、Sykは、インテグリンβ3細胞質尾へ、SH2ドメインを通って直接結合すると考えられている。しかしながら、ITAMへ結合するSykとは異なり、β3インテグリンとの相互作用は、縦列SH2ドメインのホスホチロシン結合機能とは独立して現われる。
【0028】
一般に、本明細書において開示されている化合物で治療可能な細胞増殖性障害は、異常な細胞増殖を特徴とするあらゆる障害に関する。これらは、良性または悪性、転移性または非転移性の様々な腫瘍および癌を包含する。癌の具体的な特性、例えば組織浸潤性または転移は、本明細書に記載された方法を用いて標的することができる。細胞増殖性障害は、多様な癌を包含し、これは、とりわけ、乳癌、卵巣癌、腎性癌(renal cancer)、胃腸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、肺扁平癌(lung squamous carcinoma)、および腺癌を包含する。
【0029】
いくつかの実施形態において、治療された細胞増殖性障害は造血新生物であり、これは、造血系の細胞の異常成長である。造血悪性腫瘍は、造血に関与する多能性幹細胞、多能性前駆細胞、オリゴ能性委任前駆細胞、前駆体細胞、および最終分化細胞にその起源を有しうる。いくつかの血液悪性腫瘍は、自己更新能力を有する造血幹細胞に起因すると考えられている。例えば、移植の際に急性骨髄性白血病(AML)の特定の亜類型を発達させうる細胞は、造血幹細胞の細胞表面マーカーを示し、このことは、造血幹細胞を白血病細胞源としての関与を示唆する。造血幹細胞に特徴的な細胞マーカーを有しない芽細胞は、移植の際に腫瘍を定着させることができないように見える(Blaireら、1997,Blood 89:3104−3112)。ある血液悪性腫瘍の幹細胞起源はまた、特定の型の白血病に関連した特定の染色体異常が、造血系統の正常な細胞ならびに白血病芽細胞中に見られるという観察事項においても裏付けが得られる。例えば慢性骨髄性白血病の約95%に関連する相互転座t(9q34:22q11)は、骨髄、赤血球、およびリンパ系統の細胞中に存在するようであり、このことは、この染色体異常が、造血幹細胞に由来することを示唆している。CMLのあるいくつかの型における細胞のサブグループは、造血幹細胞の細胞マーカー表現型を示す。
【0030】
造血新生物は、多くの場合幹細胞に由来するが、委任前駆細胞、または発達系統のより多くの最終分化細胞もまた、いくつかの白血病源でありうる。例えば、共通の骨髄前駆体または顆粒球/マクロファージ前駆体細胞における(慢性骨髄性白血病に関連する)融合タンパク質Bcr/Ablの強制発現は、白血病様状態を生成する。さらには、白血病の亜類型と関連したいくつかの染色体異常は、造血幹細胞のマーカー表現型を有する細胞集団では見られないが、造血経路のより分化した状態のマーカーを示す細胞集団では見られる(Turhanら、1995,Blood 85:2154−2161)。このようにして、委任前駆体細胞および他の分化細胞は、細胞分裂に対して限定した可能性しか有しないが、白血病細胞は、未調節で成長する能力を獲得している場合があり、いくつかの場合には、造血幹細胞の自己更新特徴を模倣する(Passegueら、Proc,Natl.Acad.Sci.USA,2003,100:11842−9)。
【0031】
いくつかの実施形態において、治療された造血新生物は、リンパ系の新生物であり、正常でない細胞は、リンパ系統の細胞の特徴的表現型に由来し、および/またはこれを示す。リンパ系の新生物は、B−細胞新生物、TおよびNK−細胞新生物、およびホジキンリンパ腫に再分割されうる。B−細胞新生物はさらに、前駆体B−細胞新生物および成熟/末梢B−細胞新生物に再分割されうる。例示的B−細胞新生物は、前駆体B−リンパ芽球性白血病/リンパ腫(前駆体B−細胞急性リンパ芽球性白血病)であるが、例示的成熟/末梢B−細胞新生物は、B−細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B−細胞前リンパ球性白血病、リンパ芽球性リンパ腫、脾臓辺縁帯域B−細胞リンパ腫、ヘアリー細胞白血病、形質細胞性骨髄腫/形質細胞腫、MALT型の節外性辺縁帯域B−細胞リンパ腫、節性辺縁帯域B−細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、外套細胞リンパ腫、びまん性大B−細胞リンパ腫、縦隔大B−細胞リンパ腫、原発性浸出リンパ腫、およびバーキットリンパ腫/バーキット細胞白血病である。T−細胞およびNK−細胞新生物はさらに、前駆体T−細胞新生物および成熟(末梢)T−細胞新生物に再分割される。例示的前駆体T−細胞新生物は、前駆体T−リンパ芽球性リンパ腫/白血病(前駆体T−細胞急性リンパ芽球性白血病)であり、一方、例示的成熟(末梢)T−細胞新生物は、T−細胞前リンパ球性白血病、T−細胞顆粒リンパ球性白血病、攻撃性NK−細胞白血病、成人T−細胞リンパ腫/白血病(HTLV−1)、節外性NK/T−細胞リンパ腫、鼻腔型、腸疾患型T−細胞リンパ腫、肝脾γ−δT−細胞リンパ腫、皮下脂肪組織炎様T−細胞リンパ腫、真菌症菌状腫/セザリー症候群、未分化大細胞リンパ腫、T/ヌル細胞、原発性皮膚型、末梢T−細胞リンパ腫、他に特徴決定されていない、血管免疫芽球性T−細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、T/ヌル細胞、原発性全身型である。リンパ系の新生物の第3のメンバーは、ホジキン病とも呼ばれるホジキンリンパ腫である。これらの化合物で治療することができる、この種類の例示的診断は、とりわけ、結節性リンパ球優勢ホジキンリンパ腫、およびホジキン病の様々な従来の型を包含し、これらの例示的メンバーは、結節性硬化症ホジキンリンパ腫(グレード1および2)、リンパ球リッチな従来のホジキンリンパ腫、混合細胞質ホジキンリンパ腫、およびリンパ球枯渇ホジキンリンパ腫である。様々な実施形態において、異常なSyk活性と関連するリンパ系の新生物のどれも、Syk阻害化合物で治療することができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、治療される造血新生物は骨髄新生物である。このグループは、骨髄系統の細胞の特徴的表現型に関与するか、またはこれを示す細胞増殖性障害の大きなクラスを含む。骨髄新生物は、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、および急性骨髄性白血病に再分割されうる。例示的骨髄増殖性疾患は、慢性骨髄性白血病(例えばフィラデルフィア染色体陽性(t(9;22)(qq34;q11))、慢性好中球性白血病、慢性好酸球性白血病/高好酸球性症候群、慢性突発性骨髄線維症、真性赤血球増加症、および本態性血小板血症である。例示的骨髄異形成/骨髄増殖性疾患は、慢性骨髄単球性白血病、非定型慢性骨髄性白血病、および若年性骨髄単球性白血病である。例示的骨髄異形成症候群は、環状鉄芽球をともなう、および環状鉄芽球をともなわない不応性貧血、多系統異形成をともなう不応性血球減少(骨髄異形成症候群)、過剰な芽をともなう不応性貧血(骨髄異形成症候群)、5q−症候群、およびt(9;12)(q22;p12)をともなう骨髄異形成症候群である(TEL−Syk融合;例えばKunoら、2001,Blood 97:1050を参照されたい)。様々な実施形態において、異常なSyk活性と関連した骨髄新生物のどれも、Syk阻害化合物で治療することができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は急性骨髄性白血病(AML)を治療するために用いることができる。これは、障害のそれ自体の下位区分を有する骨髄新生物の大きなクラスを代表する。これらの下位区分は、とりわけ、再発性細胞遺伝転座を有するAML、多系統異形成を有するAML、および他のカテゴリーに入れられない他のAMLを包含する。再発性細胞遺伝転座を有する例示的AMLは、とりわけ、t(8;21)(q22;q22)をともなうAML、AML1(CBF−α)/ETO、急性前骨髄性白血病(t(15;17)(q22;q11−12)をともなうAML、および変異体PML/RAR−α)、正常でない骨髄好酸球(inv(16)(p13q22)またはt(16;16)(p13:q11)、CBFb/MYH11X)をともなうAML、および11q23(MLL)異常をともなうAMLを包含する。多系統異形成をともなう例示的AMLは、以前の骨髄異形成症候群に関連するか、または関連しないものである。いずれかの規定可能なグループ中に分類されない他の急性骨髄性白血病は、最小限に分化されたAML、成熟をともなわないAML、成熟をともなうAML、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、急性赤血球白血病、急性巨核球性白血病、急性好塩基性白血病、および骨髄線維症をともなう急性汎骨髄症を包含する。
【0034】
他の態様において、Sykキナーゼ阻害剤で標的することができる細胞増殖性障害は、ウイルス媒介腫瘍を含む。これらは、正常細胞を腫瘍細胞に形質転換させる能力を有する発癌ウイルスによる細胞の感染に起因しうる。ウイルス感染率は、細胞形質転換の実際の発生数をはるかに超えるので、ウイルス媒介形質転換は一般に、他の細胞因子とともに作用して、形質転換腫瘍細胞を発生させる。このようにして、ウイルス媒介腫瘍は、このウイルスが細胞増殖性障害の唯一の原因物質であることを必要としないが、むしろウイルス感染またはウイルスの永続的な存在が、腫瘍の発生と関連していることを必要とする。一般に、原因物質がウイルスである腫瘍は典型的には、限定数のウイルス遺伝子の継続的な発現を有し、ウイルス性のこれらの癌遺伝子は、ウイルス感染の一部として、またはこのウイルスの永続を通して発現され、正常な細胞遺伝子発現および情報伝達経路を破壊する。理論によって縛られるわけではないが、細胞形質転換に関与するウイルス癌遺伝子は、4つの主な細胞プロセスを破壊するように見える:すなわち、成長因子および細胞外マトリックスと相互作用する細胞表面受容体、膜貫通型シグナル伝達ネットワーク、細胞質ゾル要素、例えば可溶性タンパク質および第2のメッセンジャー、および遺伝子調節および複製において直接的および間接的に機能するDNA結合タンパク質および因子を包含する核タンパク質である。あるウイルスでコードされたタンパク質は、形質転換プロセスの一部として特定の細胞成分を標的するので、Syk阻害剤の適用は、ウイルス成分がSykキナーゼの活性を標的する場合に適切でありうる。
【0035】
いくつかの実施形態において、本明細書において開示されている化合物で治療可能なウイルス媒介腫瘍は、Syk活性を調節しうる免疫受容体チロシン−ベース活性化モチーフ(ITAM)をコードするいずれかのウイルスと関連している。このモチーフは、上記のように、非受容体チロシンキナーゼと相互作用し、これを活性化することによって機能する保存アミノ酸配列モチーフのことを言う。ITAMモチーフは、とりわけ、FcεRIのβおよびγ鎖、T細胞受容体のεサブユニット、および免疫グロブリンβ(Igβ)、およびB細胞受容体のIgα中に見られる。規範的配列モチーフは典型的には、Yxx(L/I)x6−8Yxx(L/I)(式中、xはいずれかのアミノ酸を表わす)である。一般に、このモチーフ中のチロシン残渣は、ITAMシグナル伝達に関与し、キナーゼのSrc族によるリン酸化のための基質である。ITAMのリン酸化形態は、シグナル伝達タンパク質、例えばSyk/ZAP−70キナーゼを含有するSH2(src同族体ドメイン)のための相互作用部位として機能する。多様な細胞の細胞表面分子中のその存在に加えて、ITAM配列は、ウイルスでコードされたタンパク質中に同定されている。癌遺伝子としてのSykキナーゼの機能を指摘している本明細書の記載に鑑みて、ITAM配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を保有するウイルスと関連した腫瘍は、Syk阻害化合物で治療することができる。
【0036】
したがって、いくつかの実施形態において、これらの阻害化合物で治療可能なウイルス媒介腫瘍は、カポジ肉腫(KS)関連ヘルペスウイルス、カポジ肉腫に関わるリンパ栄養ウイルス、HIV感染集団の中でより高い発生率で発見される稀な悪性腫瘍と関連している。KS関連ヘルペスウイルスは、免疫受容体チロシン−ベース活性化モチーフ(ITAM)様配列を有する、KIと呼ばれている膜貫通型タンパク質をコードする。KI遺伝子産物は、Sykおよびその関連キナーゼZap−70を活性化するために、そのシステインリッチなエクトドメインを通して構成的に作用すると考えられる(Lagunoff,M.ら、1999,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96(10):5704−5709)。本発明の方法のさらなる裏付けとして、KI遺伝子を有するトランスジェニックマウスは、感染動物においてある肉腫およびリンパ種の発生率を増加させるように見え、このことは、腫瘍形成におけるKI活性についての役割を示している(Prakashら、2002,J.Natl.Cancer Inst.94:926−35)。
【0037】
いくつかの実施形態において、ウイルス媒介腫瘍は、エプスタイン−バーウイルス(EBV)と関連している。エプスタイン−バーウイルスは、Herpesviridae族のメンバーであり、これは、一次感染後、中咽頭の上皮細胞において複製され、再循環Bリンパ球を感染させる。感染は、腺熱としても公知の急性感染性単球増加症を生じうる。感染性単球増加症は、一時的免疫抑制、および大部分がCD8+T細胞である異常なリンパ球の拡張を特徴とする良性のリンパ増殖性疾病である。これらのT細胞において、EBVは、潜在的であるが永続性の感染を樹立し、感染の間、精選された組のウイルス遺伝子が発現される。ゲノム全体が、エピソームDNAとして増殖するリンパ球中に存続しうる。EBV感染は、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、および成人T細胞白血病と関連している。
【0038】
EBVゲノムによってコードされたLMP2Aタンパク質は、感染後のEBVウイルスの潜伏の維持においてある役割を果たすと考えられている膜貫通型タンパク質である。これは、延長アミノ末端尾、12膜スパンのドメイン、および細胞質ドメインからなる。アミノ末端領域は、ITAMモチーフを含有し、これは、LMP2AとSykキナーゼとの相互作用を可能にする(Fruehlingら、1997,Virology,235:241−251)。LMP2Aは、B−細胞生存を促進し、潜伏を維持するために、リンパ細胞中のSykキナーゼを調節するように見える。Sykは、他のシグナル伝達経路、例えばPI−3K、BLNK、およびホスホリパーゼγ2を調節する情報伝達経路において重要な役割を果たし、リンパ細胞生存の強化に関与しているので、LMP2Aタンパク質、または他のウイルス媒介エフェクターを通した不適切なSyk活性化は、異常なリンパ増殖の誘発においてある役割を果たすことがある(Caldwellら、2000,J Virol 74(19):9115;Caldwellら、1998,Immunity 9:405)。このようにして、Syk活性の阻害は、EBVウイルス感染と関連した細胞増殖性障害に対して治療効果を与えうる。
【0039】
いくつかの実施形態において、Syk阻害剤で治療されることになるウイルス媒介腫瘍は、ヒトT−細胞リンパ球性ウイルス(HTLV−1ウイルス)、エイズウイルスHIV−1と同じ種類のウイルス中のレトロウイルスと関連している。CD8+T−細胞は、ウイルスリザーバとしても機能しうるが、このウイルスは、CD4+T−細胞に対しても親和性である。HTLV−1感染は、とりわけ、成人T−細胞白血病/リンパ腫(ATLL)、およびいくつかの他のリンパ球障害と関連している。HTLV−1感染の間、Sykは感染細胞中に発現され、一方、Syk関連キナーゼZAP−70の発現は存在しない(Weilら、1999,J.Virol.73(5):3709−17)。Sykを包含するいくつかのキナーゼの制御不良は、成人T−細胞白血病のHTLV−1媒介誘発に関わっている。
【0040】
いくつかの実施形態において、ウイルス媒介腫瘍は、乳癌ウイルス(MTV)と関連している。ITAM配列は、ネズミ乳癌ウイルス(MMTV)、すなわちマウスの乳癌の病因的作用物質として同定されたB型レトロウイルスのEnv遺伝子の中に見出される。MMTV Env遺伝子でトランスフェクションされたマウス乳房上皮細胞は、形質転換表現型の特性、例えば軟寒天中のコロニー形成、および基底膜調製物中への侵入力を示す(Katzら、2005,J Exp Med.201(3):431−9)。ネズミ乳癌ウイルス様配列はまた、ヒト癌、例えば乳癌およびT細胞リンパ腫中にも存在し(Wangら、2000,Clinical Cancer Res.6:1273−1278)、腫瘍形成と相関関係があるが、その理由は、これらの配列が、正常な乳房組織の大部分において観察されないからである。このようにして、MTVと関連した腫瘍は、Sykキナーゼ阻害剤で治療することができる。
【0041】
ウイルス媒介腫瘍の治療のためのSyk阻害化合物の使用は、先に特定されたウイルスと関連した腫瘍に限定されないと理解すべきである。記載されているように、Sykが、その発癌性メカニズムの一部として活性化される発癌性ウイルスと関連したあらゆる腫瘍は、これがITAM配列をともなっていてもいなくても、Syk阻害化合物を用いて標的することができる。
【0042】
いくつかの実施形態において、これらの阻害剤で標的することができる細胞増殖性障害は、異常なFlt−3キナーゼ活性と関連した細胞増殖性障害を含む。「異常なFlt−3キナーゼ活性」という用語は、次のものから見て正常でない活性のことを言う。すなわち、Flt−3キナーゼ活性の正常レベルが、野生型Flt−3キナーゼについてはどんなものであろうか、または正常なFlt−3発現細胞、組織、器官、または有機体中においてはどんなものであろうかという観点からである。異常なFlt−3キナーゼ活性は、タンパク質の誤った局在化(空間発現)、(直接的または間接的)酵素の活性の増加または減少、または一時的発現の変化(すなわち発達発現)に起因しうる。
【0043】
いくつかの実施形態において、異常なキナーゼ活性は、Flt−3の変異体と関連している。いくつかの実施形態において、これらの変異体は、増加したFlt−3受容体キナーゼ活性を特徴とする。本明細書において用いられているように、「増加したキナーゼ活性」とは、野生型Flt−3キナーゼについて、または正常なFlt−3発現細胞、組織、器官、または有機体において観察されるものよりも高いキナーゼ活性のことを言う。例示的な増加したキナーゼ活性は、あるFlt−3変異体、例えばFlt−3 ITD、およびFlt−3活性化ループ突然変異を有する細胞中に見出される。
【0044】
異常なFlt−3キナーゼ活性は、造血新生物の多くの異なる型の中に観察されるので、いくつかの実施形態において、Syk/Flt−3阻害化合物は、異常なFlt−3キナーゼの存在を特徴とする造血新生物を治療するために用いることができる。このようにして、いくつかの実施形態において、Syk/Flt−3阻害化合物で治療可能な造血新生物は、とりわけ、急性骨髄性白血病、B−前駆体細胞急性リンパ芽球性白血病、T−細胞急性リンパ芽球性白血病、および被験体において異常なFlt−3の存在が診断されているか、または疑われている慢性骨髄性白血病(CML)を包含しうる。しかしながら、当業者は、このような情報がなくてもこれらの治療を適用しうること、およびこれらの阻害化合物が、生存率の確率を高めるために予防的に与えることができることを理解すべきである。さらに当業者は、異常なFlt−3キナーゼ活性が検出されているか、または疑われている他の細胞増殖性障害へ、本明細書におけるSyk/Flt−3阻害化合物を適用することができる。
【0045】
他の態様において、本開示は、Sykキナーゼ阻害剤の使用による、腫瘍転移の治療を対象とする。転移は、腫瘍細胞が、その起源部位から脱離し、ついで広がって他の部位でコロニー化する、悪性腫瘍細胞の特徴である。これらの二次性腫瘍は、腫瘍細胞が由来する細胞と関連しない組織中に形成されうる。癌の悪性形態からの死亡率の主要原因であるように見えるのは、転移によるこれらの二次性腫瘍の形成である。転移は、悪性細胞が原発腫瘍から離脱し、血液またはリンパ系に入り、ついで他のコロニー化部位へ移動する時に始まる。一般に正常細胞は、異種細胞が互いに接着するのを阻害する様々なシグナル、ならびに細胞成長を阻害する細胞間のシグナルによって脱離せず、かつ他の組織に侵入しない。しかしながら細胞形質転換は、腫瘍細胞が局部的組織細胞と相互作用して、局部的細胞外マトリックスを修飾し、移動を刺激し、増殖および生存を促進するように、これらの正常な調節プログラムを改変する。細胞接着分子(CAM)、例えば免疫グロブリンおよびカルシウム依存性カドへリン族およびインテグリンのメンバーの改変は、侵入および転移において重要な役割を果たすように見える。例えば、接着性の高いイソ型から接着性の低い型へのN−CAMの改変は、そのダウンレギュレーションとともに、浸潤性膵臓癌を生じることがある。
【0046】
組織侵入および転移に関わる別のクラスの接着性タンパク質は、インテグリンである。上に記載されているように、インテグリンは、多様なクラスの細胞表面分子を形成する。22超のインテグリン亜類型の範囲内の順列もまた、異なる細胞シグナル伝達状態または変わりつつある外部環境に応答して細胞の相互作用を変更するための柔軟系を作成することができる。インテグリンは、インテグリンの活性化状態に応じて、細胞外リガンドと動的に相互作用する。これは、インテグリン親和性および結合活性を修飾する細胞内シグナルによって制御される(すなわちインサイドアウトシグナル伝達)。逆に、インテグリンと細胞外リガンドとの相互作用は、細胞接着特性、および変わりつつある細胞外環境への細胞応答に影響を与える情報伝達カスケードを始動させうる(すなわちアウトサイドインシグナル伝達)。インテグリンサブユニットの発現における変更は、浸潤性および転移性成長を誘発または阻害し、このことは、これらのタンパク質をこれらのプロセスの重要な決定因としての関与を示唆する(Guoら、2004,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.5(10):816−26;Jinら、2004,Br.J.Cancer,90:561−565)。例えば、インテグリンαvβ3が、脈管形成に必要とされ、そのアップレギュレーションは、腫瘍浸潤性および転移可能性と相関関係がある(Liapisら、1996,Diag.Mol.Pathol.23:127−135)。培養された転移乳癌細胞は、αvβ3の構成的発現を示し(Pecheurら、2002,FASEB J.16:1266−1268)、一方、例えば、インテグリンとその天然基質との結合のために競合するRGDペプチド類似剤の使用による、インテグリン活性を含有するαvサブユニットの阻害は、細胞増殖特性に影響を与えることなく、腫瘍の転移可能性を減少させうる(Krinstenら、2004,Clin.Exp.Metastasis 21(2):129−38;Harmsら、2004,Clin.Exp.Metastasis 21(2):119−28)。同様に、β1インテグリンの過剰発現は、細胞を基底膜へ付着させたままにする機能を果たす接着性接合部を破壊する場合がある。
【0047】
Sykキナーゼ活性は、造血系統の細胞上で発現するが、同様に非造血細胞中でも発現する様々なインテグリンと関連している。Sykキナーゼは、肺上皮細胞(Ulanovaら、2004,Am.J.Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.288:L497−L507)および単球(Linら、1995,J.Biol.Chem.270(27):16189−97)のβ1インテグリンシグナル伝達、顆粒球/好中球中のβ2インテグリンシグナル伝達(Miuraら、2000,Blood 96(5):1733−9;Kusumotoら、2001,Microbiol.Immunol.45(3):241−8)、および血小板活性化および細胞接着におけるβ3インテグリンシグナル伝達(Gaoら、1997,EMBO J.16(21):6414−25)に関わっている。Sykキナーゼ活性と腫瘍形成との間に、本発明において示されている関係があるとすれば、腫瘍の浸潤性および転移特性の軽減におけるSykキナーゼ阻害剤の使用は、Sykキナーゼ活性とあるいくつかのインテグリンとの間の連結を通して示される(Mocsaiら、2002,Immunity 16(4):547−58)。このようにして、いくつかの実施形態において、Sykキナーゼの阻害剤は、インテグリン活性によって媒介された腫瘍の転移特性を調節するために用いることができる。いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、腫瘍細胞組織の浸潤性、およびβ1インテグリンによって影響される転移可能性を軽減するために用いることができる(Linら、1995,J.Biol.Chem.270:16189−16197;Kusumotoら、Microbiol Immunol.2001,45(3):241−8;Ortiz−Sternら、2005,J.Leukoc Biol.(Epub))。この型の例示的インテグリンは、インテグリンα2b1である。
【0048】
いくつかの実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、腫瘍細胞組織浸潤性、およびβ2インテグリン(CD18)の活性によって影響された転移可能性を軽減するために用いることができる(Willekeら、2003,J Leukoc.Biol.74(2):260−9)。これらは、とりわけ、CD11a/CD18、CD11b/CD18、CD11c/CD18、およびCD11d/CD18を包含する。さらなる実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、腫瘍細胞組織浸潤性、およびβ3インテグリンの活性によって影響された転移可能性を軽減するために用いることができる。この型の例示的インテグリンは、αIIbβ3およびαvβ3である。
【0049】
転移が可能な様々な腫瘍型は、これらのSyk阻害化合物で治療することができる。このような腫瘍は、例として非限定的に、乳癌、卵巣癌、腎性癌、胃腸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、肺扁平癌、および腺癌を包含する(例えば、Felding−Habermannら、2001,Proc Natl Acad Sci USA 98(4):1853−8を参照されたい)。定着腫瘍の転移を軽減するための治療的処理は、転移の診断に従うことができる。転移の診断がなされなかったならば、この阻害化合物は、転移の確率を減少させるために予防的に投与することができる。
【0050】
これらのSyk阻害化合物は、他のどの治療からも独立して用いることができるか、または外科手術、放射線使用、または他の化学療法を包含する他の癌治療法と組み合わせて用いることができると理解すべきである。したがって、いくつかの実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、他の化学療法薬と組み合わせて用いることができる。Syk阻害剤との組み合わせ治療は、第2の化学療法薬の適切な選択によって、異なる細胞成分を標的しうる。例えば、Syk阻害剤は、いくつかの実施形態において、腫瘍細胞の転移可能性を制限するために用いることができ、一方で、別の化学療法薬は、異常な細胞を除去または死滅させるために用いることができる。
【0051】
様々な化学療法薬が、細胞増殖性障害を治療するために、Sykキナーゼ阻害剤と組み合わせて用いることができる。これらの化学療法薬は、一般的な細胞毒性薬であってもよく、または特定の細胞分子を標的してもよい。様々なクラスの癌化学療法薬は、とりわけ、代謝拮抗薬、DNAと反応する作用物質(例えばアルキル化剤、配位化合物など)、転写酵素の阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNA副溝結合化合物、抗有糸分裂薬(例えばビンカアルキロイド)、抗腫瘍抗生物質、ホルモン、および酵素を包含する。例示的アルキル化剤は、例として非限定的に、メクロロタミン、シクロホスファミド、イフォスファミド、メルファラン、クロラムブシル、エチレンイミン、メチルメラミン、アルキルスルホネート(例えばブスルファン)、およびカルムスチンを包含する。例示的代謝拮抗薬は、例として非限定的に、葉酸類似体メトトレキセート;ピリミジン類似体フルオロウラシル、シトシンアラビノシド;およびプリン類似体メカプトプリン、チオグアニン、およびアザチオプリンを包含する。例示的ビンカアルキロイドは、例として非限定的に、ビンブラスシン、ビンクリスチン、パクリタキセル、およびコルシシンを包含する。例示的抗腫瘍抗生物質は、例として非限定的に、アクチノマイシンD、ダウノルビシン、およびブレオマイシンを包含する。抗新生物薬として効果的な例示的酵素は、L−アスパラギナーゼである。例示的配位化合物は、例として非限定的に、シスプラチンおよびカルボプラチンを包含する。例示的ホルモンおよびホルモン関連化合物は、例として非限定的に、アドレノコルチコステロイドプレドニゾン、およびデキサメタゾン;アロマターゼ阻害剤アミノグルテチミド、ホルメスタン、およびアナストロゾール;プロゲスチン化合物ヒドロキシプロゲステロンカプロエート、メドロキシプロゲステロン;および抗エストロゲン化合物タモキシフェンを包含する。例示的トポイソメラーゼ阻害剤は、例として非限定的に、アムサクリン(m−AMSA);ミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン、およびカンプトセシンを包含する。
【0052】
これらの抗癌化合物および他の有用な抗癌化合物は、Merck Index,13th Ed.(O’Neil,M.J.ら、ed)Merck Publishing Group(2001)、およびGoodman and Gilmans The Pharmacological Basis of Therapeutics,10th Edition,Hardman,J.G.、およびLimbird,L.E.eds.pg.1381−1287,McGraw Hill,(1996)に記載されている。これらの文献のどちらも、参照により本明細書に組み込まれる。
【0053】
Syk阻害剤と組み合わせて有用な他の抗増殖性化合物は、例として非限定的に、成長因子受容体に対して向けられた抗体(例えば抗−Her2);サイトカイン、例えばインターフェロン−αおよびインターフェロン−γ、インターロイキン−2、およびGM−CSF;および細胞表面マーカー用抗体(例えば抗−CTLA−4、抗−CD20(リチュキシマブ);抗−CD33)を包含する。細胞表面マーカーに対する抗体が用いられるとき、化学療法薬は、腫瘍細胞への特異的標的のためにこれへ共役することができる。適切な共役体は、放射性化合物(例えば抗体共役キレート剤へ結合された放射性金属)、細胞毒性化合物、および薬品活性化酵素(例えばアリナーゼ、ペプチダーゼ、エステラーゼ、触媒抗体など)を包含する(例えば、Ardittiら、2005,Mol.Cancer Therap.4(2):325−331;米国特許第6,258,360号を参照されたい;これらは、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0054】
いくつかの実施形態において、Syk阻害剤は、Syk、またはSykおよびFlt−3とは異なる発癌キナーゼを標的する第2のキナーゼ阻害剤とともに用いることができる。Syk阻害剤が、造血新生物の治療のために本明細書に開示されているとすれば、造血新生物の治療のために用いられている他の適合性キナーゼ阻害剤もまた、用いることができる。いくつかの実施形態において、この第2のキナーゼ阻害剤は、Ablキナーゼの阻害剤である。慢性骨髄性白血病は、骨髄中の白血病幹細胞の悪性増殖を特徴とする骨髄新生物である。慢性骨髄性白血病の大部分は、相互転座t(9;22)(q34;q11)によって規定された細胞遺伝異常と関連している。この染色体異常は結果として、活性化キナーゼ活性を有するBCR/ABL融合タンパク質の発生をもたらす。この融合タンパク質キナーゼ活性の阻害剤は、抵抗形態が連続治療の際に発達しうるが、慢性骨髄性白血病の治療において有効でありうる。Ablキナーゼ阻害剤と組み合わせたSykキナーゼ阻害剤の使用は、第2のキナーゼ阻害剤により標的されたのとは異なる細胞プロセスを標的することによって、抵抗性細胞の機会を減少させうる。例示的Ablキナーゼ阻害剤は、イマチニブメシレートおよびGleeve(登録商標)としても公知の2−フェニルアミノピリミジンである。このようにして、いくつかの実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、Ablキナーゼ阻害剤2−フェニルアミノピリミジンおよびその誘導体と組み合わせて用いることができる。他の実施形態において、この第2のキナーゼ阻害剤は、ピリドール[2−3−d]ピリミジンおよびその誘導体であってもよく、これは元来、Srcキナーゼの阻害剤として同定された。さらに他の実施形態において、第2のキナーゼ阻害剤は、チルホスチンおよびその誘導体(例えばアダホスチン)であってもよく、これらは、このキナーゼとその基質との会合に影響を与えることがある。他のキナーゼ阻害化合物は、当業者には明白であろう。
【0055】
本明細書にさらに記載されているように、他の化学療法薬の投与は、組成物の形態で行なうか、またはSyk阻害剤と組み合わせて付加的に投与されてもよい。化学療法薬は、付加的に与えられるとき、Syk阻害剤の投与とともに同時に、または連続的に投与されてもよい。
【0056】
6.2 SykキナーゼおよびSyk/Flt−3キナーゼ阻害剤
様々な阻害剤に関連して、これらの化合物を記載するために用いられる用語は、異なる定義が本明細書において示されているか、または特定の阻害化合物について記載している参考文献において示されているのでなければ、当業者によって用いられているこれらの通常かつ共通の意味を有する。
【0057】
単独で、または別の置換基の一部としての「アルキル」とは、親アルカン、アルケン、またはアルキンの単一炭素原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、記載された数の炭素原子を有する(すなわちC1−C6とは、1〜6炭素原子を意味する)飽和または不飽和、分枝、直鎖、または環状一価炭化水素基を言う。典型的なアルキル基は、メチル;エチル、例えばエタニル、エテニル、エチニル;プロピル、例えばプロパン−1−イル、プロパン−2−イル、シクロプロパン−1−イル、プロプ−1−エン−1−イル、プロプ−1−エン−2−イル、プロプ−2−エン−1−イル(アリル)、シクロプロプ−1−エン−1−イル、シクロプロプ−2−エン−1−イル、プロプ−1−イン−1−イル、プロプ−2−イン−1−イルなど;ブチル、例えばブタン−1−イル、ブタン−2−イル、2−メチル−プロパン−1−イル、2−メチル−プロパン−2−イル、シクロブタン−1−イル、ブト−1−エン−1−イル、ブト−1−エン−2−イル、2−メチル−プロプ−1−エン−1−イル、ブト−2−エン−1−イル、ブト−2−エン−2−イル、ブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1,3−ジエン−2−イル、シクロブト−1−エン−1−イル、シクロブト−1−エン−3−イル、シクロブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブト−1−イン−1−イル、ブト−1−イン−3−イル、ブト−3−イン−1−イル等々を包含するが、これらに限定されない。「アルキル」という用語は具体的には、いずれかの程度またはレベルの飽和を有する基、すなわちまったく炭素−炭素単結合のみを有する基、1またはそれ以上の炭素−炭素二重結合を有する基、1またはそれ以上の炭素−炭素三重結合を有する基、および炭素−炭素単結合、二重結合、および三重結合の混合物を有する基を包含するものとする。特定レベルの飽和が意図されている場合、「アルカニル」、「アルケニル」、および「アルキニル」という表現が用いられる。「低級アルキル」という表現は、1〜6炭素原子からなるアルキル基を言う。
【0058】
単独で、または別の置換基の一部としての「アルカニル」とは、飽和分枝、直鎖、または環状アルキル基を言う。典型的なアルカニル基は、メタニル;エタニル;プロパニル、例えばプロパン−1−イル、プロパン−2−イル(イソプロピル)、シクロプロパン−1−イルなど;ブチアニル、例えばブタン−1−イル、ブタン−2−イル(sec−ブチル)、2−メチル−プロパン−1−イル(イソブチル)、2−メチル−プロパン−2−イル(t−ブチル)、シクロブタン−1−イルなどを包含するが、これらに限定されない。
【0059】
単独で、または別の置換基の一部としての「アルケニル」とは、親アルケンの単一炭素原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和分枝、直鎖、または環状アルキル基を言う。この基は、1または複数の二重結合の周りでシスまたはトランスのどちらかのコンホメーションにあってもよい。典型的なアルケニル基は、エテニル;プロペニル、例えばプロプ−1−エン−1−イル、プロプ−1−エン−2−イル、プロプ−2−エン−1−イル(アリル)、プロプ−2−エン−2−イル、シクロプロプ−1−エン−1−イル;シクロプロプ−2−エン−1−イル;ブテニル、例えばブト−1−エン−1−イル、ブト−1−エン−2−イル、2−メチル−プロプ−1−エン−1−イル、ブト−2−エン−1−イル、ブト−2−エン−1−イル、ブト−2−エン−2−イル、ブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1,3−ジエン−2−イル、シクロブト−1−エン−1−イル、シクロブト−1−エン−3−イル、シクロブタ−1,3−ジエン−1−イルなどを包含するが、これらに限定されない。
【0060】
単独で、または別の置換基の一部としての「アルキニル」とは、親アルキンの単一炭素原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する不飽和分枝、直鎖、または環状アルキル基を言う。典型的なアルキニル基は、エチニル;プロピニル、例えばプロプ−1−イン−1−イル、プロプ−2−イン−1−イルなど;ブチニル、例えばブト−1−イン−1−イル、ブト−1−イン−3−イル、ブト−3−イン−イルなどを包含するが、これらに限定されない。
【0061】
「親芳香族環系」とは、共役pi電子系を有する不飽和環状または多環式環系を言う。具体的には、「親芳香族環系」の定義の中に、これらの環の1またはそれ以上が芳香族であり、これらの環の1またはそれ以上が飽和または不飽和である縮合環系、例えばフルオレン、インダン、インデン、フェナレンなどが含まれる。典型的な親芳香族環系は、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as−インダセン、s−インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ−2,4−ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン、ルビセン、トリフェニレン、トリナフタレンなどを包含するが、これらに限定されない。
【0062】
単独で、または別の置換基の一部としての「アリール」とは、親芳香族環系の単一炭素原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、記載された数の炭素環原子を有する(すなわちC5−C14とは、5〜14炭素環原子を意味する)一価の芳香族炭化水素基を言う。典型的なアリール基は、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as−インダセン、s−インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ−2,4−ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン、ルビセン、トリフェニレン、トリナフタレンなどに由来する基を包含するが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、アリール基は、(C5−C14)アリールであり、(C5−C10)がさらに好ましい。特に好ましいアリールは、シクロペンタジエニル、フェニル、およびナフチルである。
【0063】
単独で、または別の置換基の一部としての「アリールアルキル」とは、炭素原子に結合した水素原子の1つ、典型的には末端またはsp3炭素原子がアリール基で置換されている非環式アルキル基を言う。典型的なアリールアルキル基は、ベンジル、2−フェニレンタン−1−イル、2−フェニレンテン−1−イル、ナフチルメチル、2−ナフチルエタン−1−イル、2−ナフチルエテン−1−イル、ナフトベンジル、2−ナフトフェニルエタン−1−イルなどを包含するが、これらに限定されない。特定のアルキル部分が意図されている場合、用語アリールアルカニル、アリールアルケニル、および/またはアリールアルキニルが用いられる。好ましい実施形態において、アリールアルキル基は、(C6−C16)アリールアルキルであり、例えばアリールアルキル基のアルカニル、アルケニル、またはアルキニル部分は、(C1−C6)であり、アリール部分は(C5−C10)である。特に好ましい実施形態において、アリールアルキル基は、(C6−C13)であり、例えばアリールアルキル基のアルカニル、アルケニル、またはアルキニル部分は、(C1−C3)であり、アリール部分は(C5−C10)である。
【0064】
「親ヘテロ芳香族環系」とは、1またはそれ以上の炭素原子が各々独立して、同一または異なるヘテロ原子またはヘテロ原子基で置換されている親芳香族環系を言う。炭素原子を置換するのに典型的なヘテロ原子またはヘテロ原子基は、N、NH、P、O、S、Siなど包含するが、これらに限定されない。具体的には、「親ヘテロ芳香族環系」の定義中に、これらの環の1またはそれ以上が芳香族であり、これらの環の1またはそれ以上が飽和または不飽和である縮合環系が含まれる。例えばアルシンドール、ベンゾジオキサン、ベンゾフラン、クロマン、クロメン、インドール、インドリン、キサンテンなどである。同様に「親ヘテロ芳香族環系」の定義中に、置換基を含む、認識された環、例えばベンゾピロンが含まれる。典型的な親ヘテロ芳香族環系は、アルシンドール、ベンゾジオキサン、ベンゾフイラン、ベンゾピロン、カルバゾール、β−カルボリン、クロマン、クロメン、シンノリン、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、インドリン、インドリジン、イソベンゾフラン、イソクロメン、イソインドール、イソインドリン、イソキノリン、イソチアゾール、イソキサゾール、ナフチリジン、オキサジアゾール、オキサゾール、ペリミジン、フェナントリジン、フェナントロリン、フェナジン、フタラジン、プテリジン、プリン、ピラン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、キナゾリン、キノリン、キノリジン、キノキサリン、テトラゾール、チアジアゾール、チアゾール、チオフェン、トリアゾール、キサンテンなどを包含するが、これらに限定されない。
【0065】
単独で、または別の置換基の一部としての「ヘテロアリール」とは、親ヘテロ芳香族環系の単一原子からの1つの水素原子の除去によって誘導された、記載された数の環原子を有する(すなわち「5〜14員」とは、5〜14環原子を意味する)一価のヘテロ芳香族基を言う。典型的なヘテロアリール基は、アクリジン、アルシンドール、カルバゾール、β−カルボリン、クロマン、クロメン、シンノリン、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、インドリン、インドリジン、イソベンゾフラン、イソクロメン、イソインドール、イソインドリン、イソキノリン、イソチアゾール、イソキサゾール、ナフチリジン、オキサジアゾール、オキサゾール、ペリミジン、フェナントリジン、フェナントロリン、フェナジン、フタラジン、プテリジン、プリン、ピラン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、キナゾリン、キノリン、キノリジン、キノキサリン、テトラゾール、チアジアゾール、チアゾール、チオフェン、トリアゾール、キサンテンなどに由来する基を包含するが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール基は、5〜14員ヘテロアリール、または5〜10員ヘテロアリールである。
【0066】
単独で、または別の置換基の一部としての「ヘテロアリールアルキル」とは、炭素原子に結合した水素原子の1つ、典型的には末端またはsp3炭素原子が、ヘテロアリール基で置換されている非環式アルキル基を言う。特定のアルキル部分が意図されている場合、用語ヘテロアリールアルカニル、ヘテロアリールアルケニル、および/またはヘテロリルアルキニルが用いられる。いくつかの実施形態において、ヘテロアリールアルキル基は、6〜20員ヘテロアリールアルキルであり、例えばヘテロアリールアルキルのアルカニル、アルケニル、またはアルキニル部分は1〜6員であり、ヘテロアリール部分は、5〜14員ヘテロアリールである。特に好ましい実施形態において、ヘテロアリールアルキルは、6〜13員ヘテロアリールアルキルであり、例えばアルカニル、アルケニル、またはアルキニル部分は1〜3員であり、ヘテロアリール部分は5〜10員ヘテロアリールである。
【0067】
「置換アルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、またはヘテロアリールアルキル」とは、1またはそれ以上の水素原子が別の置換基で置換されているアルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、またはヘテロアリールアルキル基を言う。例示的置換基は、−OR’、−SR’、−NR’R’、−NO2、−NO、−CN,−CF3、ハロゲン(例えば−F、−Cl、−Br、および−I)、−C(O)R’、−C(O)OR’、−C(O)NR’、−S(O)2R’、−S(O)2NR’R’(式中、各R’は独立して、水素および(C1−C6)アルキルからなる群から選択される)を包含するが、これらに限定されない。
【0068】
「プロドラッグ」とは、使用条件、例えば体内で、活性薬を放出するために形質転換を必要とする活性化合物(薬品)の誘導体のことを言う。プロドラッグは、活性薬へ転化されるまで、薬理学的に不活性であることが多いが、必ずしもそうではない。プロドラッグは典型的には、活性のために一部必要とされると考えられている薬品中の官能基を、プロ基(下に規定されている)でマスキングすることによって得られ、プロ部分を形成し、これは、特定の使用条件下に形質転換、例えば切断を受け、官能基を放出し、したがって活性薬が得られる。プロ部分の切断は、自然に、例えば加水分解反応によって進行しうる。またはこれは別の作用物質、例えば酵素、光、酸、または物理的または環境的パラメータの変化またはこれへの暴露、例えば温度の変化によって触媒されるか、または誘発されうる。この作用物質は、使用条件、例えばプロドラッグが投与される細胞中に存在する酵素、または胃の酸性条件に対して内因性であってもよく、またはこれは外部的に供給されてもよい。
【0069】
プロドラッグを生じるために活性薬中の官能基をマスキングするのに適した非常に多様なプロドラッグ、ならびにその結果生じたプロ部分は、当業界において周知である。例えば、ヒドロキシル官能基は、スルホネート、エステル、またはカーボネートプロ部分としてマスキングされてもよく、これは、インビボで加水分解されて、ヒドロキシル基を生じうる。アミノ官能基は、アミド、カルバメート、イミン、ウレア、ホスフェニル、ホスホリル、またはスルフェニルプロ部分としてマスキングされてもよく、これは、インビボで加水分解されて、アミノ基を生じうる。カルボキシル基は、エステル(シリルエステルおよびチオエステルを包含する)、アミド、またはヒドラジドプロ部分としてマスキングされてもよく、これは、インビボで加水分解されて、カルボキシル基を生じうる。適切なプロ基およびこれらのそれぞれのプロ部分の他の具体例は、当業者には明らかであろう。
【0070】
SykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ活性を阻害する様々な化合物は、本明細書に記載された方法において用いることができる。これらは、とりわけ、小さい有機分子、ペプチドもしくはタンパク質、または核酸を包含する。本明細書において用いられているように、「Syk阻害剤」または「Sykキナーゼ阻害化合物」とは、Sykキナーゼそれ自体の活性を直接阻害するか、または本明細書に記載されているIC50範囲における適切なSyk機能に必要とされる他の細胞標的とのSykの相互作用を阻害するいずれかの化合物を言う。本明細書において用いられている阻害剤は、酵素阻害剤、例えば競合的、非競合的、および不競合的阻害剤の従来の記載を包含する。Syk阻害剤である化合物は一般に、インビトロまたは細胞アッセイにおいて、Sykキナーゼ活性、例えばSykキナーゼが合成または内因性基質をリン酸化する能力に対して、約5uMまたはそれ以下、約1uMまたはそれ以下、約500nmまたはそれ以下、約100nmまたはそれ以下、約50nmまたはそれ以下、約10nmまたはそれ以下、または約1nmまたはそれ以下の範囲内のIC50を示す化合物である。例えば例示的Syk阻害化合物は、米国特許出願第10/631,029号およびPCT公報第WO2004/014382号に開示されている。当業者なら、より低いIC50、例えば約100nM、10nM、1nM、またはそれ以下でさえある範囲内のIC50を示す化合物が、本発明の方法に有用であることを理解するであろう。
【0071】
いくつかの実施形態において、この阻害化合物は、Sykキナーゼに対して選択的であってもよい。「Sykキナーゼ選択的阻害化合物」とは、Sykに対して選択性を示す化合物を言い、これは、規定された組のアッセイにおいて、SykキナーゼについてのIC50に対する、参照キナーゼについてのIC50の比として規定される。一般に、Sykキナーゼ選択的阻害化合物は、約10超、約50超、約100超、約1,000超、またはそれ以上である、Sykキナーゼに対する選択率を有しうる。参照キナーゼは、細胞増殖性障害と関連したいずれのキナーゼ活性であってもよく、これは、キナーゼ、例えば、例として非限定的に、Aurora−A、AKT、CDK1/サイクリンB、CDK2/サイクリンA、CDK3/サイクリンE、CDK5/p35、CDK6/サイクリンD3、CDK7/サイクリンH/MAT1、CHK1、CHK2、EGFR、c−RAF、RAS、cSRC、Yes、Fyn、Lck、Fes、Lyn、Bmx、FGFR3、GSK3α、GSK3β、P13、IGF−1R、MAPK2、MAPKAP−K2、JNK,MEK1、p70S6K、PAK2、PDGFRα、PDGFRβ、PDK1、PKA、PKCε、PKC、PKD2、VEGF、PRAK、PRAK2、ROCK−II、Rsk1、Rsk2、Rsk3、SGKを包含する。これらのキナーゼの各々についての様々なアッセイは、当業者には明らかであろう。例えば、Auroraキナーゼ活性は、インビトロアッセイ、または細胞中のリン酸化産物の測定において、天然または合成基質(例えば蛍光ペプチド、ヒストンH3)を用いうる(Walterら、2000、Oncogene 19(42):4906−16)。キナーゼ活性は、様々な研究方法を用いて検出することができる。これは、例として非限定的に、免疫沈降(例えばCyclex Aurora A Kinase Assay;MBL Corp,Woburn,MA,USA)、移動度シフト(例えばCaliper Technologies,Mountain View,CA,USA)、自己蛍光融合タンパク質基質(例えば米国特許第6,248,550号)、およびFRETベースのアッセイ(Z−LYTE(登録商標);Invitrogen,CA,USA)を包含する。当業者によって理解されるように、異常な細胞増殖に関与する他の活性キナーゼが、Sykに対するキナーゼ阻害剤の選択性を決定するために用いることができる。
【0072】
いくつかの実施形態において、細胞増殖性障害の治療のために用いられる阻害化合物は、Syk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を含む。「Syk/Flt−3キナーゼ阻害化合物」または「Syk/Flt−3キナーゼ阻害剤」とは、例えばFlt−3キナーゼそれ自体の活性を直接阻害することによって、または本明細書に記載されているIC50範囲における適切なFlt−3機能に必要とされる他の細胞標的との相互作用を阻害することによって、Flt−3キナーゼを阻害することもできるSyk阻害化合物を言う。Syk/Flt−3阻害剤である化合物は一般に、インビトロまたは細胞アッセイにおいて、Flt−3キナーゼ活性、例えばFlt−3キナーゼが合成または内因性基質をリン酸化する能力に対して、約5uMまたはそれ以下、約1uMまたはそれ以下、約500nmまたはそれ以下、約100nmまたはそれ以下、約50nmまたはそれ以下、約10nmまたはそれ以下、または約1nmまたはそれ以下の範囲内のIC50を示す化合物である。例えば例示的Syk/Flt−3阻害化合物は、米国特許出願第10/631,029号およびPCT公報第WO2004/014382号に開示されている化合物の属に見出すことができる。当業者なら、より低いIC50、例えば約100nM、10nM、1nM、またはそれ以下でさえある範囲内のIC50を示す化合物が、本発明の方法に有用であることを理解するであろう。
【0073】
様々なキナーゼ阻害剤を、本発明の方法において用いることができ、適用可能な場合、対応阻害化合物の塩、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物を包含するものとする。いくつかの実施形態において、SykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害剤は、米国特許出願第10/631,029号および公開されたPCT出願第WO2004/014382号に記載されているように、2,4−ピリミジンジアミン化合物およびその様々な誘導体を含む。これらの特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これらの化合物は一般に、次の構造および番号付け方式を有する、2,4−ピリミジンジアミン「核」を含む:
【0074】
【化9】
該化合物は、C2窒素(N2)で置換されて第二級アミンを形成し、場合により次の位置、すなわちC4窒素(N4)、およびC5位および/またはC6位の1またはそれ以上でさらに置換されている。N4で置換されている時、置換基は、第二級アミンを形成する。N2における置換基、ならびに他の位置における任意置換基は、特徴および物理化学的性質において広い範囲にわたることができる。例えば、1または複数のこの置換基は、分枝、直鎖、または環状アルキル、分枝、直鎖、または環状ヘテロアルキル、単環式もしくは多環式アリール、単環式もしくは多環式ヘテロアリール、またはこれらの基の組み合わせであってもよい。これらの置換基は、米国特許出願第10/631,029号およびPCT公報第WO2004/014382号に記載されているように、さらに置換されてもよい。
【0075】
N2および/またはN4置換基は、これらのそれぞれの窒素原子へ直接付着されてもよく、またはこれらは、これらのそれぞれの窒素原子から、同一または異なっていてもよいリンカーを介して間隔があけられていてもよい。これらのリンカーの性質は、広く様々であってもよく、互いから1分子部分の間隔をあけるのに有用な原子または基の事実上いずれの組み合わせを含んでいてもよい。例えばリンカーは、非環式炭化水素橋(例えば、飽和または不飽和アルキレノ、例えばメタノ、エタノ、エテノ、プロパノ、プロプ[1]エノ、ブタノ、ブト[1]エノ、ブト[2]エノ、ブタ[1,3]ジエノなど)、単環式もしくは多環式炭化水素橋(例えば、[1,2]ベンゼノ、[2,3]ナフタレノなど)、単純非環式へテロ原子またはヘテロアルキルジイル橋(例えば、−O−、−S−、−S−O−、−NH−、−PH−、−C(O)−、−C(O)NH−、−S(O)−、−S(O)2−、−S(O)NH−、−S(O)2NH−、−O−CH2−、−CH2−O−CH2−、−O−CH=CH−CH2−など)、単環式もしくは多環式ヘテロアリール橋(例えば、[3,4]フラノ、ピリジノ、チオフェノ、ピペリジノ、ピペラジノ、ピラジニノ、ピロリジノなど)、またはこのような橋の組み合わせであってもよい。
【0076】
N2、N4、C5位および/またはC6位における置換基、ならびに任意選択的なリンカーは、同一または異なる置換基の1またはそれ以上でさらに置換されていてもよい。これらの置換基の性質は、広く様々であってもよい。適切な置換基の非限定例は、分枝、直鎖、または環状アルキル、単環式もしくは多環式アリール、分枝、直鎖、または環状ヘテロアルキル、単環式もしくは多環式ヘテロアリール、ハロ、分枝、直鎖、または環状ハロアルキル、ヒドロキシル、オキソ、チオキソ、分枝、直鎖、または環状アルコキシ、分枝、直鎖、または環状ハロアルコキシ、トリフルオロメトキシ、単環式もしくは多環式アリールオキシ、単環式もしくは多環式へテロアリールオキシ、エーテル、アルコール、スルフィド、チオエーテル、スルファニル(チオール)、イミン、アゾ、アジド、アミン(第一級、第二級、および第三級)、ニトリル(いずれかの異性体)、シアネート(いずれかの異性体)、チオシアネート(いずれかの異性体)、ニトロソ、ニトロ、ジアゾ、スルホキシド、スルホニル、スルホン酸、スルファミド、スルホンアミド、スルファミンエステル、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、アミド、アミジン、ホルマジン、アミノ酸、アセチレン、カルバメート、ラクトン、ラクタム、グルコシド、グルコヌリド、スルホン、ケタール、アセタール、チオケタール、オキシム、オキサミン酸、オキサミンエステルなど、およびこれらの基の組み合わせを包含する。反応性官能基を保有する置換基は、当業界において周知のように、保護されていてもよく、保護されていなくてもよい。
【0077】
Sykキナーゼ阻害化合物の特定の実施形態はまた、2003年7月29日に出願された米国特許出願第10/631,029号;2004年7月30日に出願された米国特許出願第10/903,263号(米国出願公報第2005/0234049号);2004年7月30日に出願された米国特許出願第10/903,870号(米国出願公報第2005/0209224号);米国特許出願第60/630,808号;およびPCT公報第WO2004/014382号にも記載されている。2,4−ピリミジンジアミン化合物のプロドラッグ形態は、2006年1月19日に出願された米国特許出願第11/337,049号に記載されている。すべての公報および特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これらの化合物はまた、2005年4月18日に出願された米国仮出願第60/672,648号の付属書A、B、C、およびDにも開示されている。これの内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、2003年8月7日に出願された米国特許出願第60/494,008号、2004年5月18日に出願された米国特許出願第60/572,534号;および米国出願公報第2005/0113398号(出願番号第10/913,270号)に記載されている特定の実施形態を包含しない。すべての特許出願および公報は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これらの化合物はまた、2005年4月18日に出願された米国仮出願第60/672,648号の付属書1、2、および3にも開示されている。これの内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0079】
本明細書に記載されている状態および障害の治療のための、2,4−ピリミジンジアミンをベースとするSykまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害剤の例示的実施形態は、とりわけ、次の構造:
【0080】
【化10】
を有する化合物、およびその様々な塩、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物を包含する。
【0081】
2,4−ピリミジンジアミンをベースとするSykまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害剤の他の例示的実施形態は、とりわけ、N4−(2,2−ジメチル−3−オキソ−4H−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2,4−ピリミジンジアミン(化合物VI);N4−(2,2−ジメチル−4−[(二水素ホスホノキシ)メチル]−3−オキソ−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2,4−ピリミジンジアミン(化合物VII);およびこれらの様々な塩(例えばカルシウム塩など)、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物を包含する。
【0082】
いくつかの実施形態において、これらのSykキナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2004/0106615号およびPCT公報第WO2004/016597号に記載されているように、ピリジン、ピリミジン、またはトリアジン環をベースとする化合物を含んでいてもよい。これらは、参照により本明細書に組み込まれる。一般に、ピリジン、ピリミジン、またはトリアジン環は、0〜3窒素原子を有する6員アリールもしくはヘテロアリール環へ直接付着されている。
【0083】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、PCT公報第WO2005/013982号および第WO2004/046120号、および公開された米国特許出願第2004/0214817号に記載されているように、アミノ−もしくはジアミノトリアゾールをベースとする化合物を含んでいる。これらは、参照により本明細書に組み込まれる。アミノトリアゾール化合物は典型的には、トリアゾール環の3位または4位において窒素原子上に置換基を有するか、またはこの環上にアミノ置換基を有する。例示的アミノトリアゾールは、とりわけ、アミノトリアゾールピリジンおよびアミノトリアゾールピリミジンを包含する(例えば第WO2005/013982号を参照されたい)。同様に、キナーゼを阻害するジアミノトリアゾール化合物は、アミノ基の1つの上に複数の置換基を有し、およびトリアゾール環の3位または4位において窒素原子上に1つの置換基を有する。ジアミノトリアゾールをベースとする例示的キナーゼ阻害剤は、第WO2004/046120号および米国出願第2004/0214817号に記載されている。
【0084】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、米国特許第6,849,641号、公開された米国特許出願第2004/0053931号、およびPCT公報第WO03/000688号に記載されているように、アザインドールをベースとする化合物を含んでいる。これらの特許のすべては、参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第6,849,641号は、3−ヘテロアリーリデンアザインドリン−2−オン化合物について記載している。同様に、米国特許出願第2004/0053931号およびPCT公報第WO03/000688号は、とりわけ、ピロロピリジンが、2位または3位に芳香族またはヘテロ環式置換基(例えばベンジルまたはインドリル)を有するアザインドール化合物について記載している。
【0085】
他の実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2004/0048868号およびPCT公報第WO03/020698号に記載されているように、ベンズイミダゾールをベースとする化合物を含んでいる。これらの特許のどちらも、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これらの化合物は典型的には、ベンジル環上の追加置換基とともに、イミダゾリルの1位および2位に置換基を有する。2位における例示的置換基は、アリールまたはヘテロアリール、例えばピラゾリル、トリアゾリル、イミダゾリル、インドリル、インダゾリル、チエノピラゾリル、テトラヒドロインダゾリル、テトラヒドロシクロペンタピラゾリル、ジヒドロフロピラゾリル、オキソジヒドロピリダジニル、テトラヒドロピロロピラゾリル、オキソテトラヒドロピロロピラゾリル、テトラヒドロピラノピラゾリル、テトラヒドロピリジノピラゾリル、またはオキソジヒドロピリジノピラゾリル基である。
【0086】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、米国特許第6,762,179号、公開された米国特許出願第2003/0119856号および第2005/0004152号、およびPCT公報第WO02/096905号に記載されているように、チアゾールをベースとした化合物を含んでいる。これらの特許は、参照により本明細書に組み込まれる。例示的なチアゾールベースの阻害剤は、ピリミジンが2位および4位に置換基を有する4−チアゾリルピリミジンである。典型的には2位における基は、非置換もしくは置換アミンである。アミン上の置換基は一般に、単環式およびヘテロ環式環、例えば置換フェニル、インダニル、ナフチル、ピリミジニル、またはピリジル環である。
【0087】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2004/0142947号およびPCT公報第WO03/000695号および第WO2004/016597号に記載されているように、ピロロピリミジンをベースとした化合物を含んでいる。これらの特許は、参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態において、ピロロピリミジンは、インドール環の3位に付着されている。一般に、このインドールは、1位および/または5位に置換基を有する。追加置換基は、このピロロピリミジンの4位に存在しうる。これは、とりわけ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、アリール、ヘテロアリール、アルケニル、またはアルキニルを包含する。
【0088】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2005/0009876号、および米国特許第6,534,524号に記載されているように、インダゾールをベースとした化合物を含んでいる。これらの特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。米国特許第6,534,524号は、インダゾールが3位および/または5位に置換基を有する阻害化合物を開示している。3位における置換基は、とりわけ、非置換アリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリール、またはCH=CH−R、またはCH=N−R(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールである)である。5位における置換基は、とりわけ、置換もしくは非置換アリール、ヘテロアリール、またはY−X(式中、Yは、O、S、C=CH2、C=O、S=O、SO2、アルキリデン、NH、N−アルキルであり、R1は、置換もしくは非置換アリール、ヘテロアリール、またはN−R’(式中、R’は、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシル、またはジアルキルアミドである)である。同様に、米国特許出願第2005/0009876号は、インダゾールがこのインダゾールの3位および/または5位に置換基を有する化合物を開示している。3位において、置換もしくは非置換アリール、またはヘテロアリール、またはフェニルへ縮合されたヘテロ環は、アルキル、例えばアルカニル、アルケニル、またはアルキニルを介して付着されている。5位における置換基は、とりわけ、ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、アルキル、アルコキシ、ハロアルキル、アシルオキシ、チオアルキル、スルフィニルアルキル、スルホニルアルキル、ヒドロキシアルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロ環、置換へテロ環、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、エステル、アミド、シアノ、または置換もしくは非置換アミンである。
【0089】
いくつかの実施形態において、このSykキナーゼ阻害剤は、米国特許第6,573,295号、公開された米国特許出願第2002/0062031号、およびPCT公報第WO00/27802号に記載されているように、二環式化合物を含んでいる。これらの特許のすべては、参照により本明細書に組み込まれる。これらの実施形態のいくつかにおいて、非置換もしくは置換ベンジルは、これも置換もしくは非置換であるシクロアルキルへ縮合されている。例示的シクロアルキルは、ヘプテニルである。例示的二環式阻害化合物は、{4−[2−(7−カルバモイル−8−シクロヘキシルメトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−ベンゾ[b]オキセピン−(S)−5−イルカルバモイル)−2−フェニルアセチルアミノ−エチル]−2−ホスホノ−フェニル}−ホスホン酸;{4−[(S)−2−アセチルアミノ−2−(3−カルバモイル−2−シシクロキシメトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−(S)−5−イルカルバモイル)−エチル]−フェノキシ}−酢酸;および(4−[(s)−2−アセチルアミノ−2−(3−カルバモイル−2−シシクロキシメトキシ−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−(S)−5−イルカルバモイル)−エチル]−2−カルボキシメチル−フェノキシ−酢酸である。
【0090】
他の実施形態において、キナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2004/0198750号およびPCT公報第WO2004/092154号に記載されているように、クロメノンオキシム化合物を含んでいる。これらの特許は、参照により本明細書に組み込まれる。一般に、置換基はクロメノンオキシム核の2位および7位にある。
【0091】
他のキナーゼ阻害化合物は、PCT公報第WO99/47529号に記載されている置換へテロ環(例えばチアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、ジアゾール、オキサジアゾール、ジオキサゾール、フラン、およびピリジン)、および置換アリール、またはPCT公報第WO2004/085388号に記載されているような5−もしくは6−員ヘテロアリール環;およびLaiら、2003,Bioorg Med Chem Lett.13(18):3111−4に記載されているようなスルホンアミドを包含する。他のキナーゼ阻害化合物は、当業者には明らかであろうし、本明細書に示されたガイダンスを用いて、Sykキナーゼ阻害活性について試験することができる。
【0092】
化合物は、様々な生化学的アッセイおよび細胞アッセイにおいて、Sykおよび/またはFlt−3キナーゼに対するこれらの阻害効果について試験することができる。Sykキナーゼは、LATおよびPLC−γlをリン酸化し、これは、とりわけ、マスト細胞および/または好塩基性細胞における脱顆粒を生じる。Sykキナーゼ活性はまた、T−細胞受容体刺激への応答において観察される。これらの活性のどれも、Syk阻害化合物の活性を確認するために用いることができることを理解すべきである。いくつかの実施形態において、Sykキナーゼアッセイは、抗−IgEでの刺激後の顆粒内容物放出の測定に基づく脱顆粒アッセイである。これらのアッセイは、例えば、トリプターゼ、ヒスタミン、ロイコトリエンLTC4、またはヘキソサミニダーゼ放出の測定を包含する。他の実施形態において、活性は、単離Sykキナーゼもしくはこれの活性断片と阻害化合物とを、Sykキナーゼ基質(例えばシグナル伝達カスケードにおいてSykによってリン酸化されることが公知である合成ペプチドもしくはタンパク質)の存在下に接触させ、Sykキナーゼがこの基質をリン酸化するかどうかを評価することによって決定される。あるいはまた、アッセイは、Sykキナーゼを発現する細胞を用いて実施することができる。これらの細胞は、Sykキナーゼを内因的に発現しうるか、またはこれらは組換えSykキナーゼを発現するように設計することができる。これらの細胞は場合により、Sykキナーゼ基質を発現させることも可能である。このような確認アッセイを実施するのに適した細胞、ならびに適切な細胞を設計する方法は、当業者には明らかであろう。適切なSykキナーゼ基質は、例として非限定的に、ヒトバンド3タンパク質(Wangら、1999,J Biol Chem.274(45),32159−32166);タンパク質キナーゼC(Kawakamiら、2003,Proc Natl Acad Sci USA,100(16):9470−5)、チューブリン(Petersら、1996,J.Biol Chem.271:4755)、コルタクチン(Maruyamaら、1996,J.Biol Chem.271:6631)、およびp50/HS1(Ruzzeneら、1996,Biochemistry 35:1527)を包含する。Syk阻害化合物の活性を確認するのに適した生化学的アッセイおよび細胞アッセイの具体例は、Foxら、1998,Protein Science,7:2249、米国特許出願第10/631,029号、第WO2004/014382号、およびその中に引用されている引例に記載されている。これらの特許のすべては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0093】
Flt−3キナーゼの活性化は、自己リン酸化、ならびにとりわけ、単球性THP−1細胞中にイノシトール−5−ホスファターゼ(SHIP)および100−kDタンパク質を含有するSrc相同体2(SH2)−のいくつかの細胞基質のリン酸化:骨髄細胞中のShcおよびCb1のリン酸化;β−アレスチン;SH2含有チロシンホスファターゼ、およびプロ−B細胞中のCb1−bを生じる(例えばRottapelら、1994,Oncogene 9:1755−1765;Zhangら、1999,J.Leukoc.Biol.65:372−380を参照されたい)。いくつかの実施形態において、Flt−3キナーゼの活性は、Flt−3キナーゼのリン酸化形態への抗体の使用によって測定することができる(すなわち自己リン酸化アッセイ;Kiyoiら、1998,Leukemia 12:1333−1337)。いくつかの実施形態において、この活性は、単離されたFlt−3キナーゼもしくはこれの活性断片と阻害化合物とを、Flt−3キナーゼ基質(例えばシグナル伝達カスケードにおいてFlt−3によってリン酸化されることが公知である合成ペプチドもしくはタンパク質)の存在下に接触させることによって決定することができる。あるいは、アッセイは、内因的にFlt−3キナーゼを発現するか、またはこれらが組換えFlt−3キナーゼを発現するように設計されている細胞を用いて実施することができる(例えばYamamotoら、2001,Blood 97(8):2434−2439)。これらの細胞は任意選択的に、Flt−3キナーゼ基質を発現することも可能である。いくつかの実施形態において、Flt−3発現細胞は、上に記載されている様々な下流標的、例えばホスホリパーゼC−(PLC)、ホスファチジルイノシトール3’−キナーゼ(PI3K)のp85サブユニット、SHC、SHP−2、SHIP、GRB2、VAV、Fynキナーゼ、Srcキナーゼ、Stat5情報伝達タンパク質、およびERKの活性化について調べられる。
【0094】
細胞増殖に対するこれらの阻害化合物の効果の測定は、インビトロおよびインビボアッセイをいくつ用いてもよい。例えば増殖性細胞は、インビトロで適切に培養することができ、該化合物で処理することができる。細胞集団中の増殖能力は、染料染色(例えばトリパンブルー染料−排除;3−4,5−ジメチルチアゾール−2,5−ジフェニルテトラゾリウム(MTT);およびアネキシンV)、または細胞ソーティング技術(例えばプロピジウムヨーダイドでの蛍光活性化細胞ソーティング)を用いて決定することができる。細胞増殖についてのインビボアッセイは、実験動物への腫瘍細胞の移植、ついでこれらの阻害化合物の投与に基づいていてもよい。細胞増殖のこれらの評価方法および他の評価方法は、当業者には明らかであろう。
【0095】
6.3 投薬量
1つまたは複数の活性化合物、またはこれらの組成物は、治療される特定の疾病を治療または予防するのに有効な量で用いることができる。該化合物は、治療効果を得るために治療的に、または予防効果を得るために予防的に投与することができる。治療効果とは、治療される、根底にある細胞増殖性障害、例えばリンパ系の新生物、骨髄新生物、ウイルス関連腫瘍の根絶または改善、および/または根底にある障害に関連した症状の1またはそれ以上の根絶または改善を意味し、したがって患者が依然として、根底にある障害に悩むことがあるにもかかわらず、患者が状態の改良を報告するようになっている。治療効果はまた、改善が実感されるかどうかにかかわらず、疾病の進行を停止または遅延化することも含む。
【0096】
予防的投与のために、活性化合物は、異常な細胞増殖を特徴とするか、またはこれによって引き起こされるか、またはこれに関連した障害、例えば既に上に記載されている様々な障害を発症するリスクのある患者へ投与することができる。例えば、患者が腫瘍を有すると診断されるが、転移の兆候がないならば、これらの阻害化合物は、腫瘍転移を阻害するために、予防的に投与することができる。
【0097】
投与される1または複数の阻害化合物の量は、多様な要因によるであろう。これは例えば、治療される特定の適応症、投与様式、所望の効果が予防的であるかまたは治療的であるか、治療される適応症の重症度、および患者の年齢および体重、特定の活性化合物のバイオアベイラビリティなどを包含する。有効投薬量の決定は、十分に当業者の能力範囲内にある。
【0098】
初期投薬量は、最初はインビトロアッセイから推定することができる。例えば、動物への使用のための初期投薬量は、細胞増殖または腫瘍細胞の浸潤性を減少させるのに十分なほど、SykまたはFlt−3を阻害する化合物の循環血または血清濃度を得るように配合することができる。あるいは、動物への使用のための初期投薬量は、SykキナーゼまたはFlt−3阻害アッセイにおいて測定されているようなIC50と等しいか、またはそれを超える活性化合物の循環血または血清濃度を得るように配合することができる。特定の阻害化合物のバイオアベイラビリティを考慮に入れて、このような循環血または血清濃度を得るための投薬量の計算は、十分に当業者の能力範囲内にある。例えば、読者は、The Pharmaceutical Basis of Therapeutics,Chapter 1,pp.1−46,1975中のFinglおよびWoodbury,”General Principles”、およびその中で引用されている文献を参照されたい。初期投薬量はまた、インビボデータ、例えば動物モデルから推定することもできる。SykキナーゼまたはFlt−3キナーゼ活性を特徴とするか、またはこれによって引き起こされるか、またはこれに関連した病気を治療または予防するための化合物の有効性を試験するのに有用な動物モデルは、本明細書に記載されている。
【0099】
投薬量は典型的には、約1mg/kg/日〜約100mg/kg/日、200mg/kg/日、300mg/kg/日、400mg/kg/日、または500mg/kg/日の範囲内にあるであろうが、他の要因の中でも特に、阻害化合物の活性、そのバイオアベイラビリティ、投与様式、および上で考察された様々な要因に応じて、これよりも高くても低くてもよい。投薬量および間隔は、治療または予防効果を維持するのに十分な、1または複数のこの活性化合物の血漿レベルを与えるように個別に調節することができる。局部的投与または選択的摂取、例えば局部的局所投与の場合、活性化合物の有効な局部的濃度は、血漿濃度と関連しなくてもよい。当業者なら、必要以上の実験を行なわずに、有効投薬量を最適化することができるであろう。
【0100】
該化合物は、とりわけ、治療される適応症、および処方する医師の判断に応じて、一日あたり1回、一日あたり2〜3回もしくは数回、または一日あたり多数回さえ投与することができる。
【0101】
好ましくは、該活性化合物は、実質的な毒性を引き起こすことなく、治療的または予防的効果を与えるであろう。該活性化合物の毒性は、標準的製薬手順を用いて決定することができる。毒性と治療(または予防)効果との間の用量比が、治療指数である。高い治療指数を示す活性化合物が好ましい。
【0102】
6.4 投与
細胞増殖性障害を治療または予防するために用いられる時、SykまたはSyk/Flt−3阻害化合物は、単独で、または1またはそれ以上の活性化合物の混合物として、またはこのような病気、および/またはこのような病気と関連した症状の治療に有用な他の薬剤と混合して、または組み合わせて、投与することができる。これらの活性化合物は、それ自体で、または製薬組成物として投与することができる。
【0103】
本発明の活性化合物を含んでいる製薬組成物は、従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠製造のすり潰し、乳化、カプセル化、エントラッピング、または凍結乾燥方法を用いて製造することができる。組成物は、活性化合物を、製薬的に用いることができる調製物に加工処理することを容易にする、1またはそれ以上の生理学的に許容しうる担体、希釈剤、賦形剤、または補助剤を用いて、従来の方法で配合することができる。投与された実際の製薬組成物は、投与方法によるであろう。ほぼあらゆる投与方法を用いることができ、これは、例えば局所、経口、全身、吸入、注入、経皮などを包含する。
【0104】
活性化合物は、それ自体で、または製薬的に許容しうる塩の形態で、製薬組成物中に配合することができる。本明細書において用いられているように、「製薬的に許容しうる塩」という表現は、実質的に生物学的有効性および活性化合物の特性を保持し、かつ生物学的または他の点でも望ましくないわけではない塩を意味する。このような塩は、当業界において周知であるように、無機および有機酸、および塩基から調製することができる。典型的には、このような塩は、対応遊離酸および塩基よりも、水溶液中に可溶である。
【0105】
局所投与のためには、活性化合物は、当業界において周知であるように、溶液、ジェル、軟膏、クリーム、縣濁液などとして配合することができる。
【0106】
全身配合物は、注入、例えば皮下、静脈内、筋肉内、クモ膜下、または腹腔内注入による投与のために設計されたもの、ならびに経皮、経粘膜経口、または肺投与のために設計されたものを包含する。
【0107】
有用な注入可能な調製物は、水性または油性ビヒクル中の1または複数のこの活性化合物の滅菌縣濁液、溶液、またはエマルジョンを包含する。これらの組成物はまた、配合剤、例えば縣濁剤、安定剤、および/または分散剤も含有しうる。注入のためのこれらの配合物は、単位投薬形態において、例えばアンプル、または多用量容器において提示されてもよく、添加防腐剤を含有してもよい。
【0108】
あるいは、注入可能な配合物は、使用前に、非限定的に、発熱物質のない滅菌水、緩衝剤、デキストロース溶液などを包含する適切なビヒクルで再構成するための粉末形態で提供されてもよい。この目的のために、活性化合物は、いずれかの当業界で公知の技術、例えば凍結乾燥によって乾燥され、使用前に再構成することができる。
【0109】
経粘膜投与のために、透過されるバリアに適した浸透剤が、配合物において用いられる。このような浸透剤は、当業界において公知である。
【0110】
経口投与のために、製薬組成物は例えば、従来の手段によって、製薬的に許容しうる賦形剤、例えば結合剤(例えば予めゼラチン化されたトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えばラクトース、微晶質セルロース、またはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えばジャガイモデンプン、またはナトリウムデンプングリコレート);または湿潤剤(例えばナトリウムラウリルサルフェート)を用いて調製された錠剤またはカプセルの形態を取ってもよい。錠剤は、当業界において公知の方法、例えば糖または腸溶コーティングでコーティングされてもよい。
【0111】
経口投与のための液体調製物は、例えばエリキシル、溶液、シロップ、または縣濁液の形態を取ってもよく、またはこれらは、使用前に水または他の適切なビヒクルでの構成のための乾燥物質として提示されてもよい。このような液体調製物は、従来の手段によって、製薬的に許容しうる添加剤、例えば縣濁剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素化食用脂);乳化剤(例えばレシチンまたはアカシア);非水性ビヒクル(例えばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、または分別植物油);および防腐剤(例えばメチルもしくはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエート、またはソルビン酸)を用いて調製することができる。これらの調製物はまた、必要に応じて、緩衝塩、風味料、着色料、および甘味料を含有してもよい。経口投与のための調製物は、活性化合物の制御放出を与えるように、適切に配合することができる。
【0112】
口腔内投与のために、組成物は、従来の方法で配合された錠剤またはトローチ剤の形態を取ってもよい。
【0113】
直腸および膣投与経路のために、活性化合物は、従来の座薬の基剤、例えばカカオバターまたは他のグリセリドを含有する溶液(保持浣腸)座薬または軟膏として配合されてもよい。
【0114】
吸入による投与のためには、活性化合物は、加圧パックからのエアゾールスプレー、またはネブライザの形態で、適切な推進薬、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切なガスを使用して好都合に送達することができる。加圧エアゾールの場合、投薬単位は、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定することができる。吸入器または注入器への使用のための例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物と適切な粉末基剤、例えばラクトースまたはデンプンとの粉末混合物を収容して配合することができる。
【0115】
長時間送達のために、活性化合物は、移植、例えば皮下、皮内、または筋肉内注入による投与のために、デポー調製物として配合されてもよい。このようにして例えば、活性成分は、適切なポリマーまたは疎水性材料を用いて(例えば許容しうる油中のエマルジョンとして)、またはイオン交換樹脂として、またはやや溶解性がない誘導体として;例えばやや溶解性がない塩として配合されてもよい。
【0116】
あるいは、経皮吸収のために活性化合物をゆっくりと放出する、接着性ディスクまたはパッチとして製造された経皮送達系を用いることもできる。この目的のために、活性化合物の経皮浸透を容易にするために、透過エンハンサーを用いることができる。適切な経皮パッチは、例えば米国特許第5,407,713号;米国特許第5,352,456号;米国特許第5,332,213号;米国特許第5,336,168号;米国特許第5,290,561号;米国特許第5,254,346号;米国特許第5,164,189号;米国特許第5,163,899号;米国特許第5,088,977号;米国特許第5,087,240号;米国特許第5,008,110号;および米国特許第4,921,475号に記載されている。
【0117】
あるいはまた、他の製薬送達系を用いることもできる。リポソームおよびエマルジョンは、活性化合物を送達するために用いることができる送達ビヒクルの周知例である。ある有機溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)もまた、通常はより大きい毒性という代償を払うが、用いることもできる。
【0118】
製薬組成物は、所望であれば、活性化合物を含有する、1または複数の単位投薬形態を含有することができるパックまたはディスペンサーにおいて提示されてもよい。このパックは例えば、金属またはプラスチックホイル、例えばブリスターパックを含んでいてもよい。パックまたはディスペンサー装置は、投与のための説明書をともなってもよい。
【実施例】
【0119】
7.実施例
7.1 実施例1:Syk誘発プレ−B細胞形質転換に対するSyk阻害化合物の効果
Syk阻害化合物によるSyk−形質転換細胞の増殖の阻害を証明する実験は、Wossning,T.,Herzog,S.,Kohler,F.,Meixlsperger,S.,Kulathu,Y.,Mittler,G.,Abe,A.,およびJumaa,H.,“The protein tyrosine kinase Syk is involved in malignant transformation and leukemia development”、(準備中の原稿)に記載されている。この原稿に記載されている実験は、下に簡単に要約されている。
【0120】
染色体転座Tel−Sykの結果として生じる異常なSyk変異体を、Tel−Sykを発現するIRES−GFPベクターを有する、新たに単離された骨髄プレ−B細胞をレトロウイルス的に形質導入することによって、プレ−B細胞を形質転換するその能力について試験した。これらの細胞培養からのIL−7の回収は、Tel−Syk発現細胞の濃縮、および安定IL−7非依存性細胞系の発生を生じ、このことは、Tel−Syk発現が、プレ−B細胞の増殖および形質転換を促進しうることを示している。Tel−Syk活性によるプレ−B細胞の形質転換を、Tel−SYK形質導入細胞をRAG/γC−/−マウスに注入することによって確認した。これは、骨髄異形成疾患の症状を示す動物を生じた。データは、Tel−Syk発現細胞が、インビボで急速に増殖し、これによって攻撃的白血病を誘発しうることを示している。
【0121】
Tel−Sykで形質転換された細胞中のSyk活性の阻害が細胞増殖を妨げるかどうかを試験するために、Sykキナーゼ阻害剤2,4−ピリミジンジアミン化合物IVの効果を、処理済み細胞のDNA含有量を調べることによって、インビトロで試験した。化合物IVは、これらの細胞中のκ軽鎖の発現によって示されているように、Syk誘発プレ−B細胞増殖を効果的に妨げ、プレ−B細胞が分化することを可能にした。データは、Syk発現が、白血病細胞の増殖のために必要とされる場合があること、およびSykキナーゼ活性の妨げが、白血病細胞増殖の阻害を生じうる場合を示している。
【0122】
7.2 実施例2:定着白血病に対するSyk阻害剤の効果
白血病細胞の増殖に対するSyk阻害剤の効果を決定するために、マウス中への注入後に白血病を誘発するいくつかの腫瘍形成性プレ−B細胞系を用いた。腫瘍形成性細胞は、増殖のためにプレ−B細胞受容体(プレ−BCR)を必要とし、Sykが、プレ−BCRシグナル伝達カスケードのための重要なタンパク質であるので、Syk阻害剤は、これらの腫瘍形成性プレ−B細胞の増殖を阻害するであろうと予想される。1つの実験において、化合物VIが増殖を妨げる能力を、Myc発現ベクターで形質導入されたプレ−B細胞を用いて調べ、IL−7の不在下で培養した。これらのインビボでの増殖能力を調べるために、細胞をRAG/γC−+/−マウスに注入した。VIが増殖を妨げる能力を、Myc形質導入細胞系を用いて、インビトロで試験した(図2Aおよび図2B)。
【0123】
VIが増殖を妨げる能力はまた、腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系を用いても調べた。これらのインビボでの増殖能力を調べるために、細胞をRAG/γC−+/−マウスに注入した。VIが腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系の増殖を妨げる能力を、インビトロで試験した(図3Aおよび図3B)。
【0124】
Syk阻害化合物の効果を調べるのに有用な他の白血病細胞系は、例として非限定的に、B細胞リンパ種細胞系JM1(ATCC No.CRL−10423)、ホジキンリンパ種細胞系RPMI−6666(ATCC No.CCL−113)、前骨髄球性白血病細胞系HL−60クローン15(ATCC No.CRL−1964)、バーキットリンパ種細胞系GL−10(ATCC No.CRL−2392)、急性骨髄性白血病細胞系BDCM(ATCC No.CRL−2740)、骨髄単球性白血病(EBV)細胞系CESS(ATCC No.TIB−190)、EBV形質転換形質細胞腫/骨髄腫細胞系MC−CAR(ATCC No.CRL−8083)、およびEBV形質転換プラズマ細胞白血病細胞系ARH−77(ATCC No.CRL−1621)を包含する。
【0125】
7.3 実施例3:化合物VIIのカルシウム塩形態のインビボ評価、およびシクロホスファミドで予め処理されたNOD−SCID免疫不全マウスにおけるMV4−11急性骨髄性白血病(AML)静脈内腫瘍植付けモデルにおける細胞滴定
Flt−3 ITD突然変異を、罹患したAML患者における予後の悪さおよび寛解率の低下と関連付け、治療的介入の魅力的な標的とした。調査は、変異体Flt−3 ITD受容体が、Flt−3リガンド−非依存的に二量体化し、受容体の自己リン酸化が、結果として構成的活性化、増殖の増加、および変異体細胞の成長因子独立を生じることを示した。初期の調査は、カルシウム塩形態VIIが皮下腫瘍成長を減少させ、生存率を延ばし、Flt−3 ITD突然変異を有する5百万のMV4−11ヒト急性骨髄性白血病細胞が静脈内(i.v.)接種されたマウスの全身腫瘍組織量を減少させたことを示した。この調査は、シクロホスファミドで予め処理されたNOD−SCIDマウスへの、5百万または1千万のどちらかのMV4−11白血病細胞のi.v.注入の結果生じた病気の進行、重症度、および生存率に対する、40mg/kgのVIIで一日2回の経口処理を通した、腫瘍成長の阻害におけるVII投与の有効性を証明するために実施した。
【0126】
7.3.1 実験方法
細胞系
白血病細胞系:MV4−11ヒト急性骨髄性白血病(AML)(供給業者:American Type Cuture Collection(ATCC))を、RigelにおけるOncology Groupによって維持し、採集した。細胞を、2004年11月30日にIMPACT試験し、エクトロメリア、EDIM、Hantaan、Kウイルス、LCMV、LDEV、MAD、mCMV、MHV、MMV、MPV、MTV、マイコプラズマsp.、ポリオーマ、PVM,REO3、センダイ、TMEV、およびGDVIIについてマイナスであった。
【0127】
細胞系維持:MV4−11細胞を、イスコフ改変ダルベッコ培地(ATCC(登録商標)番号:30−2005)に、1.5g/L重炭酸ナトリウム、80%;胎仔ウシ血清、20%(GIBCO BRL,Carlsbad,CA)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(10,000IU/mlおよび10,000ug/ml)(CellGro/Media Tech,カタログ番号30−002−Cl)を含有するように調節した4mM L−グルタミンとともに維持する。細胞を、対数増殖期に採集し、洗浄し、新鮮な培地に注入した。MV4−11細胞を、動物あたり5×106または10×106細胞で接種した。
【0128】
薬剤学
この調査において用いられた試験製品および試験配合物の明細を、以下の配合物シートに列挙する。試験製品およびビヒクル配合物は、投薬(ビヒクル(ロット:1024−15−01);8mg/mL VIIカルシウム塩(ロット:1024−15−03)の開始前に薬剤部によって作製した。カルシウム塩形態VIIは、VIの等濃度で調製した。配合物を4℃で保存し、光保護し、使用前にボルテックスた。
【0129】
【化11】
動物および収容
生後約10週のメスNOD.CB17−Prkdc scid/J(NOD/SCID)マウス(n=60;出生日2005年5月30日;Jackson Laboratories,Bar Harbor,MEから2005年7月19日に入荷)を調査のために用いた。NOD−SCIDマウス(系統番号001303)は、Jackson Laboratoryからのみ入手可能であり、NOD−SCIDマウスに独特な生来の適応的免疫における多重欠陥は、ヒト造血細胞での再構成のための優れたインビボ環境を提供する。約50匹のマウスにシクロホスファミドを与え、この調査の生存中部分のために用いたが、追加のマウスは、植付けレベルのフローサイトメトリー分析用のバックグラウンド染色の評価のための非腫瘍対照のために用いた。わずかに年長のマウス(>19グラム)を、シクロホスファミド注入後の過剰な体重減少による早期の死を避けようとするために用いた(V050144と比較して)。
【0130】
動物を、換気されたHEPA−フィルターケージラック(Alternative Design,Siloam Springs,AZ)のMicroアイソレーターケージに、ケージあたり5匹ずつ収容した。到着の際、これらを、使用前に少なくとも4作業日の間順化させた。温度を72±5°F、相対湿度を35〜70%に維持し、12時間明/暗サイクルを用いた。マウスには、認定されたげっ歯類食(Deans Feed,San Carlos,CA)を無制限に与えた。オートクレーブされたR.O.飲料水が無制限に利用可能であった。ケージおよび食料を使用前にオートクレーブした。すべての生存中手順は、Rigel IACUCによって承認された。
【0131】
NOD−SCIDマウスは、生存の間中は、NOD自己免疫糖尿病傾向のバックグラウンドにもかかわらず、インスリン炎および糖尿病のどちらでもないが、特定の病原を含まない条件下では、この共通遺伝子系統には胸腺リンパ腫の高い発生率があり、平均寿命をわずか8.5ヶ月に制限される。染色体11上のEmv−30プロウイルスは、NOD−SCIDにおいて生後5〜6ヶ月に始まる胸腺腫の高い頻度を結果として生じ(3,4)、(5)、これは、レシピエントとしてNOD−SCIDマウスを用いて実施される実験期間を制限する。この実験では、すべての生存マウスにおいて、この調査における結果変数に対する自然な胸腺腫の影響を制限するために、マウスが生後約5ヶ月(調査の83日目)に達したとき終結させた。
【0132】
動物手順
植付けの強化のための骨髄枯渇:これらの動物についての順化期間の終わりに(この調査において>3週間)、マウスを、2日間、ついで下記のように、側面尾静脈を介した白血病細胞の静脈内(i.v.)注入前72時間の残存期間、150mg/kg/日の腹腔内注入により、0.9%滅菌生理食塩水(Sigma,St Louis,MO)中で調製された、(0.22μMシリンジフィルターを用いて)滅菌濾過されたシクロホスファミドで予め処理した。
【0133】
腫瘍接種:調査の0日目、マウスを、表1に概要が示されているように100マイクロリットルの新鮮培地中に再縣濁された5百万または1千万ヒトMV4−11白血病細胞の静脈内尾静脈注入によって一回接種した。
【0134】
投薬:マウスに、ヒトMV4−11細胞(0日目)を接種した後、調査の17日目に投薬を開始した。マウスには、調査の間、投薬間に最小8時間の間隔を空けて、5mL/kg投薬容量で、ビヒクルまたは40mg/kg VIIのどちらかを一日2回(bid)経口(PO)投与した。
【0135】
実験手順
腫瘍モデル:この調査は、腫瘍の植付けを強化するためのシクロホスファミド予備処理とともに、宿主としてNOD−SCID免疫不全マウスを用いて、ネズミ静脈内MV4−11白血病モデルにおける腫瘍の植付け、病気の進行、重症度、および全生存に対する、様々な用量のVIIの効果を評価するよう設計した。歴史的データは、>20%体重減少、瀕死状態、後肢麻痺による運動性の多大な損失、または終点としての予期せぬ死によって決定された腫瘍細胞注入の均一な致死率にもかかわらず、骨髄(BM)および末梢血単核細胞(PBMC)における可変腫瘍細胞植付けを示している(調査V050123およびV050144)。加えて、シクロホスファミドは、このモデルにおいて致死のために必要であることが証明された。ビヒクル対照マウスにおける51日間の中央値生存時間を示す公開された調査もまた、BM区画において検出された2〜19%ヒト細胞の範囲の犠牲において、可変BM植付けを実証している。
【0136】
この調査は、調査から以前の有効性データを確認しようとして実施すたが、同様に、5百万または1千万の細胞接種が、骨髄および末梢血における腫瘍細胞植付けにおいて同様な不一致を生じるかどうか、またはこれらのマウスにおいて結果として生じる致死率を改変するかどうかを決定するためにも実施した。いくつかの動物における植付けの検出可能レベルはパイロット調査において腫瘍細胞注入の4週間後に早くも観察され、歴史的有効性データがこのレジメンで決定しているので、腫瘍細胞注入の約2週間後に開始し、毎日一日あたり2回(bid)のスケジュールで、40mg/kgにおいてビヒクルまたはR945788カルシウム塩で、動物は経口的に(PO)処理した。動物には、安楽死するまで、またはこの調査の終わりまで、このレジメンを続行した。この実験では、すべての生存マウスにおいて、自然な胸腺腫の発症の影響を制限するために、マウスが生後約5ヶ月(調査の83日目)に達したとき終結させた。自然な胸腺腫の発症は、NOD−SCIDマウスにおいて、生後約5〜6ヶ月で始まるのがわかる。
【0137】
調査の設計:0日目(2005年8月12日)、マウスに、側面尾静脈を介してマウスあたり5百万または1千万細胞で、新鮮培地中のヒトMV4−11細胞をi.v.注入した。MV4−11細胞注入後3日目(2005年8月15日)までに、無作為化または処理の前に、潜在的にはシクロホスファミド処理によって、1匹のマウスを過剰な体重減少からの早期の死によって除外した。残りの動物を体重によって処理グループに無作為に入れ、細胞注入後17日目(2005年8月29日)に投薬を開始した。グループ1〜4の平均体重は、それぞれ20.66±0.43、20.23±0.41、20.18±0.54、および20.88±0.59であった。処理グループの概要を、表1に示す。
【0138】
【表1】
疾病の進行および疾病の重症度:全体的な疾病の重症度は、体重減少、臨床的観察事項、検死発見事項、および選択された組織中の腫瘍細胞植付けの定量の組み合わせから決定した。マウスを毎週2〜3回体重測定し、パーセント体重変化を計算した。IACUC Protocol Rigel 6−2002,“Efficacy of Novel Chemotherapeutics in Human/Mouse Tumor Xenograft Models”に概要が示されているように、嗜眠、かき乱された毛などをともなう、病的状態、明らかな消耗を有する後肢麻痺、重症の悪液質、または20%超の体重減少の最初の兆候があったとき、動物を調査から除去し、安楽死させた。犠牲時、動物をCO2ガスで麻酔し、血液を心臓穿刺によって収集した。動物からの血液を、K2EDTAコーティングしたMicrotainer(ラベンダートップ)チューブに移した。全血を間接的に氷に載せ、以下のセクションに記載されているように、フローサイトメトリー染色のために加工処理した。病気の重症度をさらに評価するために、全体試験において、触知可能なまたは疑わしい腫瘍の位置および描写を検死の際に注意深く書き留めた。
【0139】
腫瘍細胞植付け:全身腫瘍組織量を評価するために、骨髄および末梢血中のMV4−11腫瘍細胞の分布は、ヒトおよびマウス表面マーカー染色を用いて、フローサイトメトリー分析を介して、数匹のマウスの犠牲の上に決定した。
【0140】
腫瘍植付けの範囲は、数匹のマウスにおいて、犠牲の際の大腿部および/または脛骨の単離によって評価した。骨髄(BW)を1mlの冷PBSを有するクリーンなエッペンドルフ管内に吸引し、フロー染色前に氷に保持した。すべての残留組織または腫瘍を、組織病理学および免疫組織化学(IHC)のために10%緩衝ホルマリンに固定した。末梢血もまた、心臓穿刺を介して得、K2EDTAコーティングしたMicrotainer(紫色)管に入れた。赤血球を溶解し、試料を洗浄し、腫瘍細胞植付けレベルを決定するためのフローサイトメトリー染色および分析のために、単核細胞(PBMC)のみが残った。
【0141】
ヒトMV4−11腫瘍細胞を同定するために、BMおよびPBMC試料を、マウスCD45、ヒトCD45、ヒトHLA、およびヒトCD33細胞表面マーカーに特異的な抗体で染色した。次いでフローサイトメトリー染色および分析を、VII処理およびビヒクル処理された動物から無作為に選択された試料中に存在するヒトMV4−11白血病細胞のパーセントを同定および計量するために、この多重マーカーストラテジーを用いて実施した(付属書5および6)。ヒトMV4−11細胞のパーセントは、全事象(ヒトCD33+HLA+およびネズミCD45+事象の合計として規定される)からのCD33+HLA+事象の数として規定した。調査におけるすべての動物を収集および分析するためにあらゆる努力がなされた。しかしながら、このモデル中のビヒクル処理されたマウスにおける死の突然性によって、分析にはより少ない試料しか利用可能でなく、動物の数は、これらのグループの間で可変であった。細胞調製およびフロー染色および分析手順の詳細については、付属書5および6を参照されたい。
【0142】
統計分析:マウスの生存を、GraphPad Prism 4.0(登録商標)ソフトウエアパッケージを用いて、相対的疾病重症度の決定として(n=18〜20匹/グループ)、カプラン−マイヤー積極限法によって評価した。可能な場合、曲線比較のためのLog Rank(Mantel−Haenszel)試験(両側p値)、生存動力学のためのハザード比、および全体の中央値生存を含めた追加の生存率曲線分析もまた、Prism 4.0(登録商標)を用いて計算した。調査終了時(83日目)に生存しているすべての動物を、Prism(登録商標)分析において統計目的のために審査した。生存曲線の傾斜として規定されたハザード統計は、被験体がどれほど急速に死にかけているかの尺度である。したがって報告されたハザード比は、2つのグループ間の死亡率の比較である。例えば、ハザード比が2.0であると、1つのグループ中の死亡率は、他方のグループの死亡率の2倍である。一般に、Prism 4.0(登録商標)は、D.G.Altman,Practical Statistics for Medical Research,1991,ChapmanおよびHallに詳細に記載されているような標準的計算を用いる。すべての結果は、別途指示しない限り、平均±SEMとして表示する。
【0143】
加えて、寿命におけるパーセント増加(%ILS)は、次の方程式を用いて、ビヒクル対照グループと比較した各グループについての計算された中央値死亡日を用いて決定した。式中、DODを死亡日と規定する:
%ILS=(中央値DOD処理−中央値DODビヒクル)/中央値DODビヒクル×100
40mg/kg VIIで処理されたマウスは、規定されない中央値生存時間を有したが、それは、不適切な数のマウス(<50%)が、調査の終了までに死んだからである。したがって%ILSの計算は、このグループについて80日の最大中央値生存率と仮定し、計算値よりも大きいことを意味した。
【0144】
植付けデータは、不等質分散がバートレット検定によって検出されない場合、一元ANOVAを用いて分析した。この場合、不等質の分散を説明するために、ウエルチ補正を用いて非対両側スチューデント検定を実施した。細胞の総数あたりのパーセントCD33+HLA+細胞の標準化を実施した。平均パーセント腫瘍細胞は、各試料について次の方程式を用い、ついでこれらの値の平均を測定することによって決定した。マウス細胞の総数を、単一細胞表面マーカーネズミCD45を用いて決定し、ヒト事象の総数を二重ヒト表面マーカーCD33およびHLAを用いて決定した。
【0145】
パーセント腫瘍細胞=[(#CD33+HLA+二重陽性事象)/(総#ネズミCD45+および#CD33+HLA+事象)]×100
このモデル中のビヒクル処理されたマウスにおける死の突然性によって、分析にはより少ない試料しか利用可能でなく、本発明者らが統計的有意性を得る能力を制限した。十分な試料サイズおよび無作為サンプリングは、VII処理されたマウスの場合に得た。したがって、20、40、および80mg/kg VII処理されたマウス間で比較を行ない、統計を上記のように実施した。
【0146】
カテゴリー変数、例えばグループあたりの腫瘍動物の総数について、p値は、同様にGraphPad Prism 4.0(登録商標)ソフトウエアパッケージを用いて実施された、95%信頼区間を有する両側フィッシャー精密検定を用いて、処理グループ対ビヒクルグループの比較の結果を反映している。
【0147】
7.3.2 結果
生存率に対する化合物VII処理の効果:全体として、VIIで処理された動物は、検死の際に調べた時、長い生存率および触知可能な腫瘍塊体の減少数を示した。5百万MV4−11細胞が接種された、ビヒクル処理されたマウスは、40mg/kg VII処理されたマウスにおける79日と比較して、54日の中央値生存時間を有した。1千万腫瘍が接種された、ビヒクル処理されたマウスは、54日の中央値生存時間を有し、40mg/kg VII処理されたマウスについて、中央値死亡日は不確定数であった(>83日)。1千万MV4−11細胞グループにおいて40mg/kg VIIで処理されたマウスは、不確定中央値生存時間を有したが、それは、不適切な数のマウス(<50%)が調査の終了までに死んだからである。したがって、%ILSの計算は、このグループについて83日の最大中央値生存率と仮定し、計算値よりも大きいことを意味した。VII処理された動物とビヒクル処理された動物との間の全体の生存率において、有意差が見られた(5百万細胞での40mg/kg VIIについてはLogRank p<0.0022および%ILS=45%、1千万細胞での40mg/kg VIIについてはLogRank p<0.0001および%ILS=>54%(このグループについて中央値DOD=83と仮定して))。
【0148】
【表2】
83日目には、ビヒクル処理グループには生存動物はいなかった。これに対して、5百万および1千万MV4−11細胞が注入されたVII処理グループからのマウスは、それぞれ5匹および9匹の生存マウスを有した。50%以上のマウスが、ビヒクル対照の0%生存率と比較して、40mg/kgでVII処理された1千万細胞グループにおいて83日目まで生存した。
【0149】
疾病の重症度および腫瘍頻度および分布に対する化合物VIIの効果
ビヒクルおよびVII処理動物の疾病の進行を比較した時、有意な表現型の差が明白であった。検死の際、ビヒクル処理動物における触知可能な腫瘍が、様々なリンパ節(LN)、下大静脈近くの下領域の脊髄(LNの可能性がある)、胸壁に、および肋骨および胸骨の周りに、気管の近くに、顎および喉区域(おそらくは唾液腺およびLN関連)において観察された。腫瘍はまた、腎臓、卵巣、および心臓にも見られた。加えて、非常に大きい腫瘍が、多くの場合、肩、腕、および脚の骨の周りに見られた。いくつかのマウスは、柔らかで滑らかな脳または明白な腫瘍を有するのが注目され、1匹のマウスは、初期の調査におけるMOLM13白血病モデルからの数匹のマウスと同様、検死の際に腫瘍があるように見える、非常に拡張された目を有していた。
【0150】
ビヒクル処理された動物は、5百万細胞グループにおいてはMV4−11注入の42日後、1千万細胞グループにおいては48日後に早くも後肢麻痺を明らかに示した。検死の際、ビヒクル処理された動物における触知可能な腫瘍が、以前の調査と同様な位置において観察された。全体で、5百万腫瘍細胞が接種された8匹のマウスのうちの8匹が、検死の際に触知可能な腫瘍塊体を有し、多くのマウスは、腫瘍を有すると同定された多重の解剖学的部位を有した。ビヒクル処理グループからの5匹のマウスは、死んでいるのが発見され、これらのマウスのうちの4匹は、進行した崩壊によって検死報告を有しておらず、結果として、このグループにおいて全部でわずか8つの検死となった。調査の終了まで(MV4−11移植後83日目)に、12匹のビヒクル処理動物のうちの12匹は終結させ、これらの動物のうち5匹は死んでいるのが発見され、これらのうち3匹は検査の際に瀕死状態にあり、2匹は、>20%の体重減少で犠牲にし、2匹は、重い衰弱と関連したHLPのために犠牲にした。
【0151】
同様に、12匹のマウスのうち11匹は、目に見える腫瘍塊体を有し、多くは、1千万細胞が接種されたビヒクル処理マウスにおいて同定された多重部位を有していた。全部で1匹のビヒクル処理動物が死んでいるのが発見され、1匹は進行した崩壊によって検視を実施せず、その結果、このグループでは全部で11の検死を行なった。調査の終了の際(MV4−11移植後83日目)、13匹のビヒクル処理マウスのうち13匹は終結させ、これらの動物のうち1匹は死んでいるのが発見され、これらのうち3匹は調べた際に瀕死状態にあり、7匹は>20%の体重減少を有し、2匹は重い衰弱に関連したHLPのために犠牲にした。
【0152】
好対照として、40mg/kg VIIで処理されたマウスはほとんど腫瘍を示さず、5百万細胞グループにおいて検死された全部で11匹の動物のうち3匹のみ、および1千万細胞グループにおいて13匹の動物のうち7匹が、いくらかの目に見えるか、または触知可能な腫瘍を示した。処理グループ中のこれらの動物の大部分は、ビヒクル処理グループよりもはるかに小さい腫瘍を示した。腫瘍は、同様な解剖学的部位に位置し、調査の終了までに、12匹の動物のうちの7匹は5百万細胞40mg/kg VII処理グループにおいて終結させ、これらの動物のうちの2匹は死んでいるのが発見され、1匹は調べた際に瀕死状態にあり、4匹は>20%の体重減少を有し、HLPのために犠牲にした動物はいなかった。同様に、1千万MV4−11細胞が接種された40mg/kg VII処理動物はほとんど腫瘍を示さず、いくつかのマウスが、拡張された唾液腺、またはわずかに拡張されたLNを有した。調査の終了の際、40mg/kg VII処理マウス13匹のうちわずか4匹は、これまでに終結させ、3匹のマウスは>20%の体重減少を有し、1匹のマウスは調べた際に瀕死状態にあるのが発見された。全体として、VII処理マウスは、腫瘍の総数、検死の際に観察された腫瘍の相対サイズ、およびこの調査における疾病の全体的な重症度の有意な減少を示し、40mg/kg VII処理は、初期の調査において見られたのと同様な有効性を示した。
【0153】
骨髄(BM)および末梢血(PB)におけるMV4−11腫瘍細胞の植付けに対する化合物VIIの影響:以前の調査と相関させるために、骨髄または末梢血におけるMV4−11植付けのレベルもまた、いくつかの動物において終結時に調べた。本発明者らの最高の努力にもかかわらず、この実験におけるビヒクル処理マウスの死の突然性によって、いくつかの試料は、分析のために利用不可能であった。初期の調査とは異なって、犠牲の際のVII処理動物の骨髄および末梢血における平均パーセントMV4−11腫瘍細胞の統計学的に有意な減少は、ビヒクル処理動物と比較したとき、接種された細胞の滴定とは無関係に観察された(表3)。
【0154】
5百万細胞が接種されたビヒクル処理マウスは、BM(n=6)およびPB(n=4)中に、それぞれ25%および61%CD33+/HLA+ヒト腫瘍細胞を有していた。対して、5百万細胞が接種されたVII処理マウスは、BM(n=8)およびPB(n=8)中に、それぞれ1%および0.6%CD33+/HLA+ヒト腫瘍細胞を有していた(ビヒクル対照に対して、40mg/kgについて、BMはp=0.13、PBはp=0.02である)。1千万細胞ビヒクル処理グループは、BM(n=8)およびPB(n=8)中に、それぞれ13%および45%CD33+/HLA+ヒト腫瘍細胞を有していた。対して、1千万細胞VII処理グループは、BM(n=13)およびPB(n=11)中に、それぞれ5%および3%CD33+/HLA+ヒト腫瘍細胞を有していた(ビヒクル対照に対して、40mg/kgについて、BMはp=0.05、PBはp=0.007である)。
【0155】
【表3】
()内の数字は、汚染が疑われる2つのPB試料を除外するために調節された値を反映する(各グループにおいてn=1)。これらの試料は、心臓穿刺による血液収集を試みている間に、乳白色の浸出液を有することが注目され、その後、検死の際に、心臓または胸腺の近くに腫瘍を有することが注目された。これら2つの疑われた値は、ビヒクルおよび40mg/kg VIIグループ(1千万細胞)において、それぞれ98%および93%腫瘍細胞を示した。
【0156】
*平均%腫瘍細胞は、CD33+HLA+事象の数/総事象として規定し、ここで、総事象=ネズミCD45+細胞の数+CD33+HLA+事象の数である。
【0157】
**ナイーブ試料を、3つの別々の調査のうち別々の3日で染色した。値は、アッセイの検出限界を反映するが、それは、マウスにMV4−11腫瘍細胞を注入しなかったからである。
【0158】
***統計的有意性は、試料サイズが等質分散についてのバートレット検定には小さすぎる事象でさえ、データ中の不等質分散を説明するために、ウエルチ補正を有する非対両側スチューデントt検定を用いて決定した。
【0159】
これらのデータは、ビヒクルグループと比較した時、VII処理でのBM中の全身腫瘍組織量において96%および59%減少(それぞれ5百万および1千万細胞注入グループ)、およびビヒクルグループと比較した時、VII処理での腫瘍細胞植付けにおいてPB中の99%および94%減少(それぞれ5百万および1千万細胞)を示している(表4)。
【0160】
【表4】
()内の数字は、汚染が疑われる試料を除外するために調節された値を反映する(各1千万細胞PBグループにおいてn=1)。これらの試料は、心臓穿刺によって血液収集を試みている間、乳白色の浸出液を有することが注目され、その後、検死の際に、心臓または胸腺の近くに腫瘍を有することが注目された。これら2つの疑われた値は、ビヒクルおよび40mg/kg VIIグループ(1千万細胞)においてそれぞれ98%および93%腫瘍細胞を示した。
【0161】
NOD−SCIDマウスにおける化合物VIIの薬物動力学:NOD−SCIDマウスにおける初期のPKデータは、初期の調査において、この調査における投薬に先立って生成された。結果は、20、40、または80mg/kg用量および暴露でのVIの血漿レベルの用量比例増加が投薬後2〜4時間に限定され、VIの血漿レベルは、すべてのメスマウスにおいて投薬後6時間までには事実上検出不可能であったことを示している。オスは、メスと比較したとき、同等の用量および血漿中のVIレベルのより長い期間で、より高い暴露を示した。
【0162】
初期の調査および他の調査において調製された調査中の配合物中に観察された沈殿物によって、調査終了後、残りの投薬溶液を用いて追加のPKデータを得た。NOD−SCIDメスマウス(n=4)にVIIの40mg/kg用量溶液を投薬し、投薬後1時間で血漿を得た。表5に示されているように、残留配合物を用いたPKデータは、4匹の動物間で中程度に可変であり、パーセント変動係数(%CV)値は25%であった。1時間の暴露について得られた血漿VI濃度は以前のPK調査において得られた値と同様であり、これらの配合物が匹敵しうることを示した。
【0163】
表5Aおよび5B:VIIカルシウム塩のPO投与:血漿中の化合物VIの平均濃度(ng/mL)
【0164】
【表5A】
【0165】
【表5B】
【0166】
【表6】
7.3.3 結論
マウス匹あたり1千万細胞でのMV4−11腫瘍細胞の静脈内投与は、5百万細胞と比較して、多重の解剖学的部位への腫瘍のより大きい播種を結果として生じた。さらに、1千万細胞が接種されたマウスはより一貫して、骨髄および末梢血における植付けの高いレベルを有していた。播種されたMV4−11腫瘍を保有するマウスへの40mg/kg VIIの投与は、細胞滴定とは関係なく、全体的生存率および病気関連後遺症に関して、ビヒクル処理マウスと比較したとき、顕著な有効性を証明した。加えて、VIIは、この調査において、60日超の期間、NOD−SCIDマウスによって十分に許容され、用いられた配合物は、以前のPK調査においてと同様な全身暴露を得るのに適しているように見えた。
【0167】
要約すれば、VII処理マウスは、同定された総腫瘍の数、腫瘍のある動物の総数において、および体重減少、検死の際の状態、および他の生存中の臨床観察事項によって測定された疾病の重症度において、薬品関連の減少を再現可能に証明した。この調査からのデータは、以前の有効性調査と同様であり、VII処理では、MV4−11保有マウスの生存率の度重なる延長を示した。加えて、VIIで処理されたマウスは、ビヒクル対照と比較したとき、骨髄および末梢血において、検出可能なより少ないMV4−11腫瘍細胞を証明した。これらのデータは、Syk/Flt−3キナーゼ阻害剤が、FLT−3ITDを保有する白血病患者、またはFlt−3突然変異に関連する他の白血病の治療のための貴重な治療薬でありうることを示唆している。
【0168】
7.4 実施例4:MV4−11腫瘍移植片からの溶解物における構成的Flt−3活性の阻害
初期の調査は、MV4−11ヒトAML細胞の処理が結果としてFlt−3の構成的リン酸化の阻害を生じたことを示した。これらのデータがあるとして、総Flt−3に対するFlt−3のリン酸化を、ヒトFlt−3の免疫沈降(IP)を用いて、この調査からの無作為に選択されたマウスからの腫瘍細胞溶解物においてエキソビボで評価し、その後リン酸化Flt−3のウェスタンブロット分析を次のように実施した。
【0169】
7.4.1 実験プロトコル
腫瘍溶解物の調製
1.腫瘍をできるだけ早く採集する。
2.凍結腫瘍を液体窒素中に微粉砕する。
3.プロテアーゼ阻害剤およびホスホターゼ阻害剤カクテル(Sigma、P5726、1ml/100ml溶解緩衝剤)を含有する、250mg/1ml氷冷RIPA緩衝剤(Santa Cruz Biotechnology,sc−24948)中に、重量を測り、標準化する。
4.氷にて均質化する。
腫瘍溶解物である透明な上澄み液をマイクロ遠心分離し、収集する。
【0170】
タンパク質濃度を測定するためのBCAアッセイ
BCAアッセイキットをPierce Prod#23227から得た。
1.BSA標準の調製:
2000ug/ml→1500ug/ml→1000ug/ml→750ug/ml→500ug/ml→250ug/ml→125ug/ml→25ug/ml
2.冷PBSで試験試料を前希釈する(腫瘍溶解物1:20希釈)
3.200ul BCA作業溶液+25ul標準/試料、37℃で30分間インキュベートする。
4.プレートを冷却し、OD570nmを読取る。
【0171】
免疫沈降
1.1mgの腫瘍溶解物を取り、一次抗体2ug(抗Flt−3 S−18、Santa Cruz、#sc−480)を添加し、溶液を溶解緩衝剤で500ulに調節する。4℃で1時間穏やかに振動させながらインキュベートする。
2.タンパク質A/Gプラス−アガロースビーズ(Santa Cruz、SC−2003)40ulを添加する。室温で1時間穏やかに振動させながらインキュベートする。
3.4℃で30秒間マイクロ遠心分離する。500ulの1×溶解緩衝剤で3回ペレットを洗浄する。洗浄の間、氷上に保持する。
4.30ulの2×トリス−グリシンSDS負荷緩衝剤+5ulの還元剤10×(Invitrogen)でペレットを再縣濁する。
5.試料を5分間95〜100℃へ加熱する。
6.試料を−80℃で保存する。
【0172】
ウェスタンブロット手順
1.8%トリス−グリシンゲルに20ulの試料を負荷する。
2.1×トリス−グリシンSDS作業緩衝剤中で作業する。
3.1×トリス−グリシン転移緩衝剤中でPVDF膜へ移す。
4.室温で1時間、1%BSA/TBST(TBS+0.1%Tween−20)中で遮断する。
5.一次抗体1:5,000を一晩4℃で添加する。
【0173】
抗−ホスホチロシンクローン4G10(マウスモノクローナル、Upstate、#05−321)。
抗−ホスホ−Flt−3(Tyr591)(マウスmAb、Cell Signaling、#3466S)。
6.TBST中で2時間洗浄する。
7.5%ミルク/TBST(ブロッティンググレード遮断剤、ノンファットドライミルク、Bio−Rad、#170−6404)中で1時間の、2°Ab抗−マウスIgG−HRP(Amersham、NA931V)1:5,000。
ECL−プラス(Amersham、RPN2132)の短時間暴露。
【0174】
膜のストリッピングおよびリプロービング
1.膜をストリッピング緩衝剤(Pierce、#21062)に沈め、37℃で1時間インキュベートする。
2.膜をTBST中で15分間、2回洗浄する。
3.膜を1%BSA/TBSTで1時間遮断する。
4.5%ミルク/TBST中の抗−Flt−3 1:5,000(Santa Cruz、#sc−480)を添加し、4℃で一晩インキュベートする。
5.TBST中で2時間洗浄する。
6.室温で1時間、5%ミルク/TBST中の2°Ab抗−ウサギIgG−HRP(Amersham、NA934V)1:5,000。
7.ECL−プラスの短時間暴露。
【0175】
加えて、ブロットを総Flt−3レベルについてリプローブした。Flt−3の構成的リン酸化は、ビヒクル処理対照と比較したとき、用量依存的に40mg/kg VII処理動物からの腫瘍において低下した。
【0176】
7.4.2 MV4−11腫瘍異種移植片のリン酸化ヒストンH3分析
腫瘍細胞増殖についてのマーカーとして、ヒト特異的リン酸化ヒストンH3(phH3)の免疫組織化学染色を用いて、この調査からの3匹の無作為選択されたマウスからのホルマリン固定腫瘍切片において、増殖をエキソビボで評価した。ヒトphH3発現は、VIIでの処理後、用量依存的に腫瘍切片において低下した。ビヒクル処理されたマウスからのMV4−11腫瘍異種移植片と比較したとき、20および40mg/kg VIIでの処理は結果として、それぞれphH3染色の53%および71%阻害を生じた。これらのデータは、VII阻害がインビボでのMV4−11腫瘍の増殖能力を減少させ、この調査の生存中部分の間に観察された減少した腫瘍容積と相関関係があることを示している。減少した増殖は、減少した構成的Flt−3リン酸化による可能性があるが、それは、この活性が、インビトロでのMV4−11細胞の生存に必要とされることが証明されているからである。
【0177】
7.4.3 下流シグナル伝達事象の阻害
26日間40mg/kg VIIで治療されたマウスからの腫瘍切片の追加の免疫組織化学染色は、減少したSTAT5およびERK1/2リン酸化を証明した。これらは、MV4−11細胞中のFlt−3:ITDシグナル伝達経路における下流分子である(図11)。
【0178】
7.5 実施例5:急性骨髄性白血病細胞に対する化合物VIの調査、およびキナーゼ阻害剤AG1296との比較
AML細胞または32Dトランスフェクタントを1uMのVIで48時間(AML)または24時間(32D)処理し、アポトーシス細胞の%増加は、アネキシンVおよびPI染色を用いて決定した。データは、Flt−3 ITDを有するAML細胞が、VI−誘発アポトーシスのみへ感受性があることを示している。同様に、ITDでトランスフェクションされた32Dまたは点突然変異Flt−3 TDKは、wt Flt−3でトランスフェクションされた32D細胞よりも、24時間でより多くのアポトーシスを受ける。
【0179】
本発明の具体的な実施形態の前記の記載は、例証および説明を目的として提示されている。これらは、網羅的であることも、開示された正確な形態へ本発明を限定することも意図されておらず、明らかに多くの改変例および変形例が、上の教示に鑑みて可能である。これらの実施形態は、本発明の原理およびその実際の適用を最もよく説明し、これによって他の当業者が、本発明、および考察されている特別な使用に適した様々な改変を有する様々な実施形態を最もよく利用することを可能にするために選択され、記載されている。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその同等物によって規定されるものとする。
【0180】
本明細書において引用されたすべての特許、特許出願、出版物、および参考文献は明らかに、各々の個別出版物または特許出願が、具体的かつ個別に参照により組み込まれることが指示されているかのように、同程度まで参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1A】Syk阻害化合物VIが増殖を妨げ、TEL−Syk−形質転換細胞の分化を誘発する能力を示している。DMSO、Syk−阻害化合物VI(2μM)、またはAb1キナーゼ阻害剤STI−571(2μM)のいずれかで36時間処理されたTEL−Syk−またはBCRAb1−形質転換細胞のDNA含有量が示されている。
【図1B】Syk阻害化合物VIが増殖を妨げ、TEL−Syk−形質転換細胞の分化を誘発する能力を示している。TEL−Sykがプレ−B細胞の分化を妨げる能力が示されている。
【図1C】Syk阻害化合物VIが増殖を妨げ、TEL−Syk−形質転換細胞の分化を誘発する能力を示している。細胞は、IL−7の不在下に3日間培養され、FACSによってκLCの発現について分析された。化合物VIでのTEL−Syk活性の阻害が示されている。
【図2A】Syk−阻害剤VIが、Myc−形質転換されたプレ−B細胞の増殖を妨げる能力を示している。図2Aは、Myc発現ベクターで形質導入され、かつIL−7の不在下に1週間培養されたプレ−B細胞のFACSプロフィールである。
【図2B】Syk−阻害剤VIが、Myc−形質転換されたプレ−B細胞の増殖を妨げる能力を示している。図2Bの下方の図は、指示された細胞の注入の5週間後のRAG/γC−+/−マウスの脾臓を示し、Myc−形質転換細胞が脾腫および白血病を引き起こす能力を図解している。図2Bは、DMSO、VI(2μM)、またはSTI−571(2μM)のいずれかで36時間処理されたMyc−形質転換細胞のDNA含有量を示している。
【図3A】Syk−阻害剤VIが、腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系の増殖を妨げる能力を示している。図3Aは、SLP−65−/−プレ−B細胞系が、指示された細胞の注入の5週間後のRAG/γC−−/−マウスの脾臓の状態によって証明されているように、脾腫および白血病を引き起こしうることを示している。
【図3B】Syk−阻害剤VIが、腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系の増殖を妨げる能力を示している。図3Bは、DMSO、VI(2μM)、またはSTI−571(2μM)のいずれかで36時間処理された腫瘍形成性SLP−65−/−プレ−B細胞系のDNA含有量を示している。
【図4】MV4−11ヒト急性骨髄性白血病細胞が静脈内(i.v.)接種され、かつ腫瘍細胞接種後17日目から調査の間中ずっと、一日2回POで40mg/kgにおいて化合物VIIで処理されたNOD−SCIDマウスについての生存曲線を示している。40mg/kg VIIグループ(106細胞)のILS%についての計算は、調査終了時(83日目)におけるこのグループの50%超の生存率により、83日の中央値死亡日と想定される。
【図5】個々の動物についての死亡までの日数を示している。生存率データは、MV4−11腫瘍細胞が静脈内に注入されたNOD−SCIDマウスについてである。マウスは、腫瘍細胞注入後17日目から調査の終了(83日目)まで、一日2回POで、ビヒクルまたは様々な用量のVIIで処理された。犠牲にされた動物についての死亡までの日数が、グラフ中で、青い線で表示された中央値死亡日で示されている。調査終了時の各グループにおける生存動物は、グラフの頂部に、生存動物数/総マウス数として示されている。
【図6A】検死時にMV4−11腫瘍を保有するNOD−SCIDマウスにおける腫瘍の頻度を示している。病気の重症度は、犠牲の理由とは無関係に、終了時の検死の時に触診可能な腫瘍を有するマウスの頻度を定量化することによって評価された。
【図6B】検死時にMV4−11腫瘍を保有するNOD−SCIDマウスにおける腫瘍の頻度を示している。1グループあたりの腫瘍の総数が、図6Bに示されている。マウスは、5百万または1千万MV4−11ヒトAML細胞(それぞれ5E6または10E6として示されている)でi.v.接種された。細胞注入後17日目に、マウスは、犠牲にされるまで、または調査の間中ずっと、生存動物については83日目まで、ビヒクルまたは40mg/kg VII(PO.bid)で処理された。マウスは犠牲にされ、包括的検死が実施された。グループあたり実施された検死の総数は、8〜13匹であった。
【図7】実験動物の腫瘍分布プロフィールを示している。様々な解剖学的位置に見られた総腫瘍のパーセントが、犠牲時の検死の時に記録された。マウスは、5百万または1千万MV4−11細胞がi.v,注入され、調査の間中ずっと、一日2回ビヒクルまたは40mg/kg VIIのどちらかが経口投与された。触診可能な腫瘍は検出されなかったが、拡張された唾液腺を示す動物がグラフに含まれている。グループあたり実施された検死の総数は、8〜13匹であった。
【図8】NOD−SCIDマウスの骨髄(BM)および末梢血(PB)におけるMV4−11腫瘍細胞の植付けプロフィールを示している。データは、腫瘍細胞i.v.注入後17日目から調査の終了まで、一日2回POで、ビヒクルまたは40mg/kg VIIで処理されたNOD−SCIDマウスにおけるMV4−11ヒト腫瘍細胞の植付けからのものである。骨髄(BM)および末梢血(PB)腫瘍細胞植付けは、MV4−11腫瘍細胞の検出のためにCD33およびHLA細胞表面染色を用いて、フローサイトメトリック分析によって検出された。データは標準化され、総細胞からのパーセントヒト腫瘍細胞が計算された。総細胞は、ヒトCD33+HLA+陽性事象およびネズミCD45陽性染色事象の数として規定された。グラフはすべての試料を含む。
【図9】免疫沈降およびウェスタンブロット分析によるMV4−11異種移植片におけるFlt−3の検出を示している。図Aは、ブロットの左側で抗ホスホチロシン抗体およびブロットの右側で抗−ホスホ−Flt−3特異的抗体を用いて、VIIまたはビヒクルの最終投与の約2時間後、マウスからのMV4−11腫瘍溶解物におけるリン酸化Flt−3の検出である。加えて、総Flt−3レベルについてのブロットのリプローブは、図Bに示されている。
【図10】MV4−11腫瘍異種移植片のリン酸化ヒストンH3分析を示している。増殖は、腫瘍細胞増殖についてのマーカーとして、ヒト特異的リン酸化ヒストンH3(phH3)の免疫組織化学染色を用いて、この調査から無作為に選択された3匹のマウスからのホルマリン固定腫瘍切片においてエキソビボで評価された。ヒトphH3発現は、腫瘍切片において、VIIでの処理後に用量依存的に低下した。ビヒクル処理マウスからのMV4−11腫瘍異種移植片と比較したとき、20および40mg/kg VIIでの処理は結果として、それぞれphH3染色の53%および71%阻害を生じた。これらのデータは、VII媒介阻害が、インビボのMV4−11腫瘍の増殖能力を低下させ、このことは、この調査の生存中部分の間に観察された腫瘍容積の低下と相関関係があることを示している。低下した増殖は、低下した構成的Flt−3リン酸化によるものである可能性があるが、それは、この活性がインビトロでのMV4−11細胞の生存に必要とされることが証明されているからである。
【図11】一日2回26日間経口処理されたMV4−11腫瘍保有マウスからの腫瘍切片における、pErk1/2およびpStat5についての免疫組織化学染色を図解している代表的なデータを示している。腫瘍は、ビヒクルまたは40mg/kg VIIの最終投与の約2時間後にマウスから採集された。
【図12】アネキシンVおよびPI染色によって決定された、アポトーシスの誘発における、1uM VIでのAML細胞または32Dトランスフェクタントの処理の効果を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞増殖性障害の治療方法であって、該細胞増殖性障害を治療するのに有効な量のSykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を、これを必要としている被験体に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記細胞増殖性障害が、造血新生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記造血新生物が、リンパ系の新生物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記リンパ系の新生物が、T細胞新生物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記T細胞新生物が、Tリンパ芽球性白血病である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リンパ系の新生物が、B細胞新生物である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記B細胞新生物が、B−リンパ芽球性白血病である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記B細胞新生物が、バーキットリンパ腫である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞増殖性障害が、骨髄新生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記骨髄新生物が、骨髄増殖性疾患である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記骨髄増殖性疾患が、慢性骨髄性白血病(CML)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記骨髄新生物が、骨髄異形成疾患である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記骨髄異形成疾患が、慢性骨髄単球性白血病である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記骨髄新生物が、骨髄異形成症候群である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記骨髄新生物が、急性骨髄性白血病である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記急性骨髄性白血病が、TEL/Syk融合タンパク質の活性と関連している、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記造血新生物が、flt−3キナーゼの異常活性と関連している、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記flt−3キナーゼの異常活性が、Flt−3 ITDによって引き起こされる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記造血新生物が、急性骨髄性白血病、B−前駆体細胞急性リンパ芽球性白血病、T−細胞急性リンパ芽球性白血病、骨髄異形成症候群、および慢性骨髄性白血病から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記増殖性障害が、Sykキナーゼ活性の調節から生じるウイルス媒介腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記ウイルス媒介腫瘍が、ITAMモチーフをコードするウイルスと関連している、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ウイルス媒介腫瘍が、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスと関連している、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記ウイルス媒介腫瘍が、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスのK1タンパク質の活性と関連している、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ウイルス媒介腫瘍が、エプスタイン−バーウイルスと関連している、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記ウイルス媒介腫瘍が、エプスタイン−バーウイルスのLMP2Aタンパク質の活性と関連している、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ウイルス媒介腫瘍が、HTLV−1ウイルスと関連している、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記Syk阻害化合物が、2,4−ピリミジンジアミン化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化1】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化2】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化3】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化4】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記Syk阻害化合物が、Syk阻害化合物の混合物を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記Syk阻害化合物を、Ab1キナーゼ阻害剤とともに付加的に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記Ab1キナーゼ阻害剤が、2−フェニルアミノピリミジンである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記SykおよびAb1キナーゼ阻害剤を、連続的に投与する、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記SykおよびAb1キナーゼ阻害剤を、同時に投与する、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
腫瘍転移を阻害する方法であって、
腫瘍転移を阻害するのに有効な量のSykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を、これを必要としている被験体に投与することを含む、方法。
【請求項38】
前記腫瘍が、乳癌、卵巣癌、腎性癌、胃腸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、肺扁平癌、および腺癌から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記阻害剤を、腫瘍転移の診断前に予防的に投与する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記転移が、Sykを通るインテグリンシグナル伝達によって引き起こされる、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記転移が、β1インテグリンによるインテグリンシグナル伝達によって引き起こされる、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記転移が、β2インテグリンによるインテグリンシグナル伝達によって引き起こされる、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記転移が、β3インテグリンによるインテグリンシグナル伝達によって引き起こされる、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記Syk阻害化合物が、2,4−ピリミジンジアミン化合物である、請求項37に記載の方法。
【請求項45】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化5】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化6】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化7】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化8】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項44に記載の方法。
【請求項1】
細胞増殖性障害の治療方法であって、該細胞増殖性障害を治療するのに有効な量のSykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を、これを必要としている被験体に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記細胞増殖性障害が、造血新生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記造血新生物が、リンパ系の新生物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記リンパ系の新生物が、T細胞新生物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記T細胞新生物が、Tリンパ芽球性白血病である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リンパ系の新生物が、B細胞新生物である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記B細胞新生物が、B−リンパ芽球性白血病である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記B細胞新生物が、バーキットリンパ腫である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞増殖性障害が、骨髄新生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記骨髄新生物が、骨髄増殖性疾患である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記骨髄増殖性疾患が、慢性骨髄性白血病(CML)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記骨髄新生物が、骨髄異形成疾患である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記骨髄異形成疾患が、慢性骨髄単球性白血病である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記骨髄新生物が、骨髄異形成症候群である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記骨髄新生物が、急性骨髄性白血病である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記急性骨髄性白血病が、TEL/Syk融合タンパク質の活性と関連している、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記造血新生物が、flt−3キナーゼの異常活性と関連している、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記flt−3キナーゼの異常活性が、Flt−3 ITDによって引き起こされる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記造血新生物が、急性骨髄性白血病、B−前駆体細胞急性リンパ芽球性白血病、T−細胞急性リンパ芽球性白血病、骨髄異形成症候群、および慢性骨髄性白血病から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記増殖性障害が、Sykキナーゼ活性の調節から生じるウイルス媒介腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記ウイルス媒介腫瘍が、ITAMモチーフをコードするウイルスと関連している、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ウイルス媒介腫瘍が、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスと関連している、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記ウイルス媒介腫瘍が、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスのK1タンパク質の活性と関連している、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ウイルス媒介腫瘍が、エプスタイン−バーウイルスと関連している、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記ウイルス媒介腫瘍が、エプスタイン−バーウイルスのLMP2Aタンパク質の活性と関連している、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ウイルス媒介腫瘍が、HTLV−1ウイルスと関連している、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記Syk阻害化合物が、2,4−ピリミジンジアミン化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化1】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化2】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化3】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化4】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記Syk阻害化合物が、Syk阻害化合物の混合物を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記Syk阻害化合物を、Ab1キナーゼ阻害剤とともに付加的に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記Ab1キナーゼ阻害剤が、2−フェニルアミノピリミジンである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記SykおよびAb1キナーゼ阻害剤を、連続的に投与する、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記SykおよびAb1キナーゼ阻害剤を、同時に投与する、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
腫瘍転移を阻害する方法であって、
腫瘍転移を阻害するのに有効な量のSykキナーゼまたはSyk/Flt−3キナーゼ阻害化合物を、これを必要としている被験体に投与することを含む、方法。
【請求項38】
前記腫瘍が、乳癌、卵巣癌、腎性癌、胃腸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、肺扁平癌、および腺癌から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記阻害剤を、腫瘍転移の診断前に予防的に投与する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記転移が、Sykを通るインテグリンシグナル伝達によって引き起こされる、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記転移が、β1インテグリンによるインテグリンシグナル伝達によって引き起こされる、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記転移が、β2インテグリンによるインテグリンシグナル伝達によって引き起こされる、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記転移が、β3インテグリンによるインテグリンシグナル伝達によって引き起こされる、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記Syk阻害化合物が、2,4−ピリミジンジアミン化合物である、請求項37に記載の方法。
【請求項45】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化5】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化6】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化7】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記2,4−ピリミジンジアミン化合物が、式:
【化8】
を有するか、またはその塩、プロドラッグ、水和物、溶媒和物、およびN−酸化物である、請求項44に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2009−534397(P2009−534397A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506662(P2009−506662)
【出願日】平成19年3月21日(2007.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/064511
【国際公開番号】WO2007/124221
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(504294145)ライジェル ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (63)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月21日(2007.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/064511
【国際公開番号】WO2007/124221
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(504294145)ライジェル ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (63)
【Fターム(参考)】
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