説明

フィラメントワインディング成形用炭素繊維およびその製造方法

【課題】糸幅が均一な扁平形状で、解舒に際してその断面形状を矩形に保ったまま、糸幅が均一で糸束が回転することなく引き出され、樹脂含浸後、マンドレルなどに巻き上げた際に、糸幅の変動を生じない特徴を有し、FW成形やヤーンプリプレグ成形に適した炭素繊維およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】ストランド引張強度が4000MPa以上、ストランド引張弾性率が225GPa以上350GPa以下であり、フィラメント数が15000〜60000、単糸繊度が0.25〜0.8dtexである炭素繊維束をボビンに巻き上げた炭素繊維パッケージであって、ボビン上糸幅が3.5×10−4〜7.5×10−4mm/dtexであり、明細書に記載される条件で炭素繊維束を解舒したときの解舒時の糸幅の変動率がCV値で10%以下であり、かつ解舒時の糸幅の平均値に対して75%未満の糸幅を有する部分が5/1000m以下であることを特徴とするフィラメントワインディング成形用炭素繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントワインディング(以下、FWと略す)成形法により炭素繊維強化複合材料を成形するのに適した炭素繊維およびその製造方法に関する。詳しくは、炭素繊維パッケージから炭素繊維束(単に「炭素繊維」と称することもある。)を解舒して、樹脂を付与しながらマンドレルに巻き取り、硬化させるFW成形法、および/または炭素繊維を解舒して、樹脂を付与して、幅を制御しながら一旦ボビンに巻き取り、それを解舒してマンドレルに巻き取り、硬化させるヤーンプリプレグ経由のFW成形法に適した炭素繊維およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、FW成形法により炭素繊維強化複合材料を成形するに際して、炭素繊維強化複合材料からなる成形品の品位が均一かつ良好で、炭素繊維の機械的特性をFW成形法により製造した炭素繊維強化複合材料の機械的特性に効率良く反映し得る炭素繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維はその優れた機械的特性、特に比強度、比弾性率が高いという特徴を有しているため、航空宇宙用途、レジャー用途、自動車など一般産業用途などに広く使用されており、その成形方法も様々に開発されている。この中でもFW成形法はその優れた成形性、および得られる炭素繊維強化複合材料の特性から炭素繊維に広く適用されるようになってきている。特に、近年注目されている天然ガス自動車などの燃料用容器は、軽量かつ高性能な特性を得るために、炭素繊維を補強繊維としてFW成形法で成形したものが使用され始めている。さらに近年では、燃料電池用に水素ガスを充填することを想定した圧縮水素ガス容器用途のように、従来より高圧で使用されるFW成形用途に適した炭素繊維の要求が高くなってきている。
【0003】
例えば、従来の圧縮天然ガス容器で有れば、その使用圧力は20〜30MPa程度であるが、圧縮水素ガス容器では50〜100MPaに達するため、使用される炭素繊維の物性のより一層の高性能化と均一性の向上、ならびに炭素繊維物性が高効率で炭素繊維強化複合材料(以下、単に「コンポジット」と称することもある。)に反映されることが要望されている。
【0004】
また、FW成形法は、元来ガラス繊維に適用されてきた方法であり、従来の炭素繊維をそのまま使用すると、炭素繊維ストランドあたりのフィラメント数が多いため、ストランドの糸形状、具体的には糸幅並びにその変動が成形品の品位、コンポジット特性に大きな影響を有することが明らかにされてきている。
【0005】
特許文献1には、糸のドレープ性を表す数値であるK値が10cm以上の無撚炭素繊維束であって、該繊維束を巻取ったパッケージ端部の綾振折返し部の糸幅Aと該パッケージ中央部の糸幅Bとが、実質的に等しい開繊性の優れた無撚炭素繊維パッケージが開示され、その具体的な製法の一例として、サイジング剤水溶液や分散液を付着させた炭素繊維を乾燥するに際して、ホットローラおよび熱風乾燥機の温度等の条件を制御し、特定のワインダートラバースを使用して巻き取ることで、形態変化が小さい炭素繊維を得ることが示されている。この方法によれば、均一な糸形態でプリプレグ等に適した炭素繊維を得ることはできるが、FW成形用途、特に12000フィラメントを越えるフィラメント数の炭素繊維の場合には、巻き上げ時の形態が成形工程の解舒時に十分に保持できないという課題があった。
【0006】
特許文献2には、特定の糸幅、糸厚み、繊維質量(単位体積あたりの繊維質量)と、マルチフィラメントのたわみ量から計算されるたわみ係数が、一定値以下であることによって、繊維強化複合材料(FRP)に使用した場合に成形品の中の糸の蛇行が起こりにくく、補強繊維の強度をFRPに十分に反映させることのできるFRP用マルチフィラメントおよびそのFRP用成形品が開示されている。この場合主としてサイジング剤の改良によって直進性が高い炭素繊維を得る方法は示されているが、この方法によっても、巻き形状が良好であって、FW成形用途に適した炭素繊維であって、成形品製造時における糸条の反転を防ぐという課題は検討されていない。
【0007】
特許文献3には、フィラメント数が3000〜80000本、単繊維フィラメント直径3〜6μmであり、強度などが特定の範囲で、特定の深さの溝を有する炭素繊維を圧力容器等の成形材料に適用することにより、炭素繊維強化複合材料中における炭素繊維の強度発現率を高めることが開示されており、23℃での粘度1〜100ポアズの熱硬化性樹脂を含浸させ、金属あるいはプラスチック製マンドレルに巻き付けた時に、炭素繊維の拡がり幅が、単繊維フィラメント1本当たり0.1〜10μmの間隔で拡がる拡がり性が良好な炭素繊維が開示されているが、この方法によっても、糸条の反転や、拡がりの斑を防ぐという課題は何ら検討されていない。
【0008】
特許文献4には、糸条の総繊度を12000デニール以上とする炭素繊維前駆体(以下、単に「プリカーサ」と称することもある。)であるアクリル系糸条が巻き取られたパッケージにおいて、該パッケージ上の前記アクリル系糸条の糸幅が0.25〜0.6mm/1000デニールである、アクリル系プリカーサパッケージが開示され、焼成工程で毛羽、糸切れのない安定した操業性を与えることが開示されているが、焼成した後にFW成形用途に適した炭素繊維を得るという着想ないしその具体的手段については皆無である。
【0009】
特許文献5には、糸条の総繊度が33000dtex以上であるアクリル系プリカーサ太物糸条がボビンに巻取られてなる200kg以上の円筒パッケージにおいて、パッケージ上の糸幅が0.09〜0.26mm/1000dtexで、糸ずれ割合が50〜100%であるものが開示されており、解舒時に綾落ちや単糸巻付きのないプリカーサパッケージが開示されているが、これらを焼成したときに得られる炭素繊維の品質に対する影響、とくに解舒したときに生じうる反転を防止する方法については何ら開示されていない。
【0010】
特許文献6乃至9には、炭素繊維を巻き取る際のワインダーのガイドに関して安定した糸道と均一な糸幅を得る装置、方法や得られる炭素繊維パッケージが開示されている。特に特許文献6乃至8には、パッケージ上の糸幅の変動が小さな炭素繊維が開示されている。しかしながら、使用する炭素繊維の特性との組み合わせに関しては何ら検討されておらず、特にフィラメント数が12000を越える炭素繊維であり、かつFW工程に適用したときに、解舒時の糸条の反転が少なく、成形品の特性が良好である炭素繊維を製造しようとしても、十分な効果を得ることができないという問題が生じていた。
【0011】
特許文献10乃至13には、特許文献6乃至9と同様にワインダーに関しての発明が開示され、得られる炭素繊維パッケージから炭素繊維を解舒した際の糸幅のバラツキがCV値で10%以下などのものが開示されている。しかしながら、これらの糸条の解舒時の糸幅バラツキは、プリプレグや織物などの比較的低速な解舒を想定して10m/分程度以下で測定されており、FW成形に用いられる50m/分程度の高速時の解舒の結果と直接関係が無い場合があり、またやはり使用する炭素繊維の特性との組み合わせに関しては何ら検討されておらず、特に、CV値には影響を与えにくいが、局所的な糸幅の減少を生じる様な糸幅の異常を防ぐ効果が少ないという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−24264号公報
【特許文献2】特開2001−253952号公報
【特許文献3】特開2002―69754号公報
【特許文献4】特開平9−255227号公報
【特許文献5】特開2002−3081号公報
【特許文献6】特開平10−330038号公報
【特許文献7】特開2004−155590号公報
【特許文献8】特開2005−35073号公報
【特許文献9】特開2010−173859号公報
【特許文献10】特開2001−348166号公報
【特許文献11】特開2004−142945号公報
【特許文献12】特開2005−247582号公報
【特許文献13】特開2006−274497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決し、フィラメント数が15000以上60000以下の炭素繊維束において、特定のプリカーサを使用し、特定の巻き上げ方法を適用することによって、糸幅が均一な扁平形状で、解舒に際してその断面形状を矩形に保ったまま、糸幅が均一で糸束が回転することなく引き出され、樹脂含浸後、マンドレルなどに巻き上げた際に、糸幅の変動を生じない特徴を有し、FW成形やヤーンプリプレグ成形に適した炭素繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するための本発明は、ストランド引張強度が4000MPa以上、ストランド引張弾性率が225GPa以上350GPa以下であり、フィラメント数が15000〜60000、単糸繊度が0.25〜0.8dtexである炭素繊維束をボビンに巻き上げた炭素繊維パッケージであって、ボビン上糸幅が3.5×10−4〜7.5×10−4mm/dtexであって、下記に示す条件で炭素繊維束を解舒したときの解舒時の糸幅の変動率がCV値で10%以下であり、かつ解舒時の糸幅の平均値に対して75%未満の糸幅を有する部分が5個/1000m以下であることを特徴とするフィラメントワインディング成形用炭素繊維である。
【0015】
また、好ましくは、前記炭素繊維が、単糸断面の長径/短径比が1.08以下、表面Raが20以下であり、ドレープ値が6〜18のアクリロニトリル系炭素繊維であることである。
【0016】
さらに、かかる課題を解決するための本発明は、フィラメント数が15000〜60000、単糸繊度が0.6〜1.5dtexにあるアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束をボビン上糸幅1.8×10−4〜4.5×10−4mm/dtexで巻き取り、前駆体繊維パッケージを製造する工程、得られた前駆体繊維を無撚りで耐炎化し、不活性ガス中での炭化温度が最高温度1100℃以上2200℃以下で炭化することによって、ストランド引張強度が4000MPa以上、ストランド引張弾性率が225GPa以上350GPa以下である炭素繊維束を製造する工程、得られた炭素繊維束をワインダーに巻き取る際に、ワインダーのトラバースガイドに、糸道を外れる動作をする繊維束を本来の糸道方向に案内する糸ガイド機構を有するものを用いることによって、巻取り直前のローラ上での糸道変動を3mm未満とし、ボビン上の糸幅が3.5×10−4〜7.5×10−4mm/dtexで前記炭素繊維束をボビンに巻き取る工程からなり、以下に記載する条件で炭素繊維束を解舒したときの解舒時の糸幅の変動率をCV値で10%以下とし、かつ解舒時の糸幅の平均値に対して75%未満の糸幅を有する部分を5個/1000m以下とすることを特徴とするフィラメントワインディング成形用炭素繊維の製造方法である。
【0017】
また、好ましくは、前記糸ガイド機構が、走行する繊維束を案内する糸道ガイドであって、該糸道ガイドがガイドロールと該ガイドロールを支持する支持部材とからなり、該支持部材は、前記ガイドロールの回転軸に対し直角にねじれた位置に回転軸を有するものであり、糸道の変動に対応して、該支持部材の回転軸を回転中心とする回転により該ガイドロールが糸道に対して傾けられることにより、繊維束が本来の糸道方向に自動的に案内されるように構成されてなる糸道ガイドを有することである。
【0018】
また、好ましくは、前記用いられるアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束が、単糸断面の長径/短径比が1.08以下、表面Raが20以下であり、かつ前記得られる炭素繊維束が、単糸断面の長径/短径比が1.08以下、表面Raが20以下であり、ドレープ値が6〜18であることである。
【0019】
また、好ましくは、ポリアクリロニトリル系ポリマをホール数が3000〜15000である口金から吐出、凝固してマルチフィラメント糸とし、その糸条を複数本合糸して、前記フィラメント数が15000〜60000の前駆体繊維を得るに際して、延伸後に合糸する工程を含み、該合糸工程での合糸用のガイドが、フリーガイドローラ群からなり、そのローラ群がローラ軸を走行糸条に対して実質的に直角かつ互いに平行になるよう配置した複数本の第1フリーローラと、該第1フリーローラとはそのローラ軸を実質的に直角に配置した少なくとも1本の第2フリーローラとからなるものであって、かつ、走行糸条が複数本の第1フリーローラに該糸条の表裏を交互に接触させて後、第2フリーローラによりひねりを与えるよう通過せしめることにより、前記糸幅1.8×10−4〜4.5×10−4mm/dtexで巻き取った前駆体繊維パッケージを得ることである。
【0020】
<解舒時の糸条形態の測定>
ここで、本発明で規定される前記解舒時の糸条形態(糸幅、糸幅変動率)は、下記の方法で測定される。
【0021】
図1に示す糸道のクリールに炭素繊維パッケージを仕掛け、図示する糸道に誘導し、糸道を安定させるため、一旦90°に捻り、逆方向に捻り返してから平ローラ群を通過させ、糸幅測定位置を通過させて、ワインダーに巻き取る。張力、速度を所定の条件に合わせて、条件設定後空中糸幅を光学センサーで測定し、糸幅の平均値と変動係数を求め、これらをそれぞれ本発明で規定される糸幅、糸幅変動率と定義する。また、糸幅が平均値の75%以下となったときに反転が1回とカウントする。
引き出し張力:6N/tex(1kg/36K)、測定糸長:1000m、糸速:50m/分
キーエンス社製NR600,NR1000データロガーを用い、0.1秒間隔でデーター取り入れする。
【0022】
<長径/短径比の測定>
また、本発明の好ましい態様として規定される炭素繊維の長径/短径比とは、炭素繊維を繊維軸に対して直角方向に切断し、ランダムに選定したn=25本の単糸の断面を、SEMを用いて観察し、断面を楕円として近似したときの長径/短径比の平均値と定義される。
【0023】
<算術平均粗さ(Ra)の測定>
また、本発明の好ましい態様として規定される炭素繊維表面の算術平均粗さ(Ra)は、測定試料として炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用い、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の幅方向の中央部において、3次元表面形状の像を得る。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムを使用する。観測条件は下記条件とする。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー(探針一体型カンチレバー)
・走査範囲:2.5μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中。
【0024】
各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、算術平均粗さ(Ra)を算出する。単繊維5本について、算術平均粗さ(Ra)を求め平均する。
【0025】
<ドレープ値の測定>
また、本発明の好ましい態様として規定される炭素繊維のドレープ値は、図2,3に示す方法によって測定される。
【0026】
図2で示すように、約50cmにカットされた炭素繊維Fを、温度23℃、湿度60%の雰囲気下で0.0375g/texの張力で30分以上放置する。その試料を図3に示すように約30cmの長さに切断し、その一端部を四角柱Aの上面に片持支持の状態で床面と平行となり、炭素繊維Fが、四角柱Aの側面に対して直角になるように、かつ、四角柱Aの側面から、炭素繊維Fの先端までの長さが25cmになるように平板B(図示しない)で添えて固定する。そのあと、平板Bだけを素早く取り除き、1秒後に重力によって垂れ下がった炭素繊維Fの先端と四角柱Aの側面とがなす最も近い距離X(cm)を測定し、このときの距離X(cm)をドレープ値とする。
【発明の効果】
【0027】
フィラメントワインド(FW)成形工程での糸反転を押さえ、糸幅を一定に保てるので、糸切れを抑制することができ、またその結果、FW成形工程のライン速度を高く設定したり、良好な外観形状と良好なコンポジット特性を有する成形品を得ることができる。本発明の炭素繊維は、圧縮天然ガス容器、圧縮水素ガス容器などのFW成形法による製造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の炭素繊維の解舒時の糸条形態を測定する装置を示す概略図である。
【図2】本発明に使用する炭素繊維のドレープ値を測定する際の、前処理の方法を示す概略図である。
【図3】本発明に使用する炭素繊維のドレープ値を測定するための装置の概略図である。
【図4】本発明の炭素繊維の解舒特性を測定する際に得られる幅の変化を示すチャートの一例である。
【図5】本発明の炭素繊維を巻き取るための巻取り装置の一例として、綾振り装置と巻取装置の全体を示した外観モデルを示す斜視図である。
【図6】(a)は、図5のトラバースガイド部分を拡大した概略図、(b)は(a)の上部ガイドロールを拡大した概略図である。
【図7】本発明の炭素繊維プリカーサを紡糸工程で合糸する場合の製造装置の一例の概略側面図である。
【図8】プリカーサの合糸に用いるフリーローラガイド群の概略上面図である。
【図9】同じくプリカーサの合糸に用いるフリーローラガイド群の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の炭素繊維は、プリカーサとして、ポリアクリロニトリル(以下、PANと略す)繊維を用いることが好ましく、そのフィラメント数として15000〜60000ものを使用する。FW成形用途の炭素繊維は、フィラメント数が12000以下のものが使用されることが多いが、本発明で規定される15000以上であることで、良好な生産性と、本発明の効果が効率的に発揮され、60000以下とすることでFW工程での毛羽、糸切れなどを防ぎ、良好な作業性を確保することができる。
【0030】
本発明の炭素繊維は、単糸繊度が0.25〜0.8dtex、好ましくは、0.3〜0.7dtex、より好ましくは0.4〜0.6dtexである。単糸繊度をこの範囲とすることで、単糸繊度が小さすぎるときの毛羽立ちを押さえて、良好な焼成加工性、FW加工性を確保することができ、単糸繊度が大きすぎるときの引張強度低下を防ぎ、ドレープ値で代表される炭素繊維のしなやかさを確保することができる。
【0031】
これらの炭素繊維は、プリカーサの単糸フィラメント数、合糸する場合の合糸本数、単糸繊度、焼成条件などによって、上記の範囲となるよう設定を行う。特にポリアクリロニトリル系ポリマをホール数が3000〜15000である口金から吐出、凝固してマルチフィラメント糸とすることにより、その糸条を複数本合糸してフィラメント数を15000〜60000としたプリカーサを用いることが好ましい。単糸繊度に関しては、焼成後上記範囲になるように、プリカーサの繊度を0.6〜1.5dtexの範囲から選定して設定する。
【0032】
また、得られる炭素繊維のハンドリング性能、工程通過性能をより高いものとし、さらにはFW成形法によって得られる炭素繊維強化複合材料の性能を良好なものとするためには、炭素繊維(ストランド)を構成する単糸の形状が一定の範囲になることが好ましい。すなわち、単糸断面を走査型顕微鏡で断面に対して垂直方向から観察し、断面を楕円と近似したときに、その長径/短径比が1.08以下の円形断面であり、その表面平滑性をAFMの、算術平均粗さ(Ra)で測定したときに20以下である、表面平滑な炭素繊維であることが好ましい。
【0033】
炭素繊維単糸の長径/短径比が1.08以下であり、Raが20以下の範囲にあると、炭素繊維の集束性が良好であって、FW成形時に解舒したときに糸幅の変動を小さくすることが可能となり、また毛羽などの欠点を生じることを防止できる。より好ましいその長径/短径比は、1.01〜1.05であり、より好ましいRaは2.5〜15である。
【0034】
この特定の断面形状と表面形態を有する炭素繊維は、用いるプリカーサの断面形状と、表面形態を一定の範囲として、そのプリカーサを焼成することによって製造される。このようなプリカーサは、アクリロニトリル共重合体の組成、重合度、溶媒等を決めた後、紡糸原液を口金から吐出して湿式紡糸する際の浴温度、浴濃度などの凝固条件を調整し、凝固時のポリマのドラフトを低下させ、低い速度で凝固させるなどの条件を採用することで製造される。例えば、紡糸原液を口金から一旦空気中に吐出し、凝固浴の温度を比較的低温に保った凝固浴液中に導き凝固させる乾湿式紡糸法を採用することによって、空気中にあるポリマの効果で実質ドラフトを下げて紡糸する方法や、比較的細孔径の口金を使い、低速で直接凝固浴中に紡糸して、しかも比較的凝固速度を遅くする条件とすることによって製造することができる。なお、凝固速度を遅くするための典型的な条件としては、凝固浴の溶媒濃度を高めに設定して、凝固温度を低めに設定することがあげられる。
【0035】
上記紡糸を行ったアクリル繊維凝固糸を適宜、水洗してから、延伸を施すか、延伸と同時にあるいは延伸してから水洗し、界面活性剤を付与して、常法により乾燥を施し、必要に応じて再延伸してからパッケージに巻き取る。
【0036】
そして、このようにして製造されるアクリロニトリル系プリカーサを、単糸断面の長径/短径比が1.08以下、表面Raが20以下とすることが好ましく、かかるプリカーサを焼成することによって、炭素繊維束の単糸断面の長径/短径比を1.08以下、表面Raが20以下と設定することが可能となる。
【0037】
炭素繊維の強度を良好なものとするためには、使用する界面活性剤は、ジメチルシロキサンを骨格とし、一部を官能基で変性し、水系分散状態としたものが好ましく、中でもアミノ基で変性したポリジメチルシロキサン系油剤を適用することが好ましい。
【0038】
また、本発明の炭素繊維の製造方法は、プリカーサであるアクリル繊維として、フィラメント数が15000〜60000のものを用いるが、単糸繊度が0.6〜1.5dtexであって、プリカーサパッケージ上の前記プリカーサの糸幅を、1.8×10−4〜4.5×10−4mm/dtex、好ましくは2.0×10−4〜4.1×10−4mm/dtexとすると良い。
【0039】
本発明では、口金のホール数が最終のフィラメント数より小さく、凝固浴中または、凝固浴から引き出した後、合糸して最終のプリカーサとすることが好ましく、その際、合糸位置として、少なくとも延伸またはそれに続く乾燥工程を終えた工程で合糸を行うことが好ましい。また、糸道では、常法により余分な単糸の捻りなどを避ける必要があるが、このような手段に加えて、特許文献2に開示されているように、合糸する際に、糸条集束用フリーガイドローラ群に少なくとも2段通過させて後、巻き取ることがさらに好ましい。糸条集束用フリーガイドローラ群は、例えば図8、図9に図示されるようにローラ軸を走行糸条に対して実質的に直角かつ互いに平行になるよう配置した複数本の第1フリーローラ34と、該第1フリーローラとはそのローラ軸を実質的に直角に配置した少なくとも1本の第2フリーローラ35とからなるもので、かつ、該糸条集束用フリーガイドローラ群に走行糸条を通過せしめるに際し、その複数本の第1フリーローラに該糸条の表裏を交互に接触させて後、第2フリーローラによりひねりを与えて一体化させるよう通過せしめることが好ましい。
【0040】
本発明の炭素繊維は、ストランド引張強度が4000MPa以上であることが必要で、好ましくは4900MPa以上である。ストランド引張強度を4000MPa以上とすることによって、炭素繊維強化複合材料の引張強度を高く保ち、特に水素ガス用圧力容器に適したコンポジット強度を発現することができる。また、FW成形工程において、特にマトリックス樹脂が付着する前の炭素繊維と固定ガイドあるいはローラとの擦過による弱糸による毛羽発生などの問題を避ける効果も有する。ストランド引張強度の上限については、適用する複合材料のコストパフォーマンスの点から適宜選択できるが、必要以上にストランド引張強度が高い場合における、圧力容器の破壊モード変化を防ぐために、ストランド引張弾性率が350GPa以下の炭素繊維の場合、ストランド引張強度は8200MPa以下であることが好ましい。
【0041】
本発明の炭素繊維は、ストランド引張弾性率が225GPa以上、好ましくは、250GPa以上で、350GPa以下、好ましくは300GPa以下である。ストランド引張弾性率を225GPa以上とすることによって、成形品の変形量を小さく保つことができ、350GPa以下とすることによって、炭素繊維の破断伸びを問題ない範囲に確保して、炭素繊維強化複合材における炭素繊維と樹脂との接着性を良好な範囲に保つことができる。
【0042】
ここで、ストランド引張特性(ストランド引張強度、ストランド引張弾性率)は次のようにして測定されるものである。すなわち、ERL4221(ダウケミカル日本(株)製)/三フッ化ホウ素モノエチルアミン(BF3・MEA)/アセトン=100/3/4部からなる樹脂を炭素繊維に含浸し、得られた樹脂含浸ストランドを130℃で30分間加熱して硬化させた後、JIS R 7608:2007に規定する樹脂含浸ストランド試験法に従って測定する。
【0043】
本発明では、前記プリカーサパッケージから、前記所定のフィラメント数と単糸繊度のプリカーサを無撚りで耐炎化し、引き続く炭素化工程で最高温度を1100℃以上2200℃以下、好ましくは1300℃以上1800℃以下に保ち炭素繊維とする。ここで無撚り耐炎化するとは、プリカーサパッケージからプリカーサを、解舒撚りを防ぎながら解舒し、撚りを付与しないで耐炎化することをいい、続いて無撚りで炭化、後処理を行うことによって、試料長さ4mで測定したとき、撚り数が±1ターン/mの範囲内である炭化糸を得ることができるものであることを意味する。炭素化工程を2つ以上に分割し、最高温度を900℃以下の炉と、最高温度が1100℃以上の炉に分けて多段で炭化し、各々の工程で糸条に毛羽などを生じない範囲で張力を付与して、得られる炭素繊維の品位や機械特性を向上させることが好ましい。最高温度を1100℃以上とすることで、得られる炭素繊維の弾性率を向上させることができると共に、炭化度が低いときの、炭素繊維への吸着水分のマトリックス樹脂の硬化不良などの悪影響を紡糸することができ、最高温度を2200℃以下とすることによって、炭素繊維の弾性率を適切な範囲に押さえFW成形工程の工程通過性能を確保すると共に、マトリックス樹脂とのなじみ性、接着性を確保することができる。さらに、炭素化処理工程において炭素繊維に欠陥を生じにくくするため、たとえば300℃から600℃、および1000℃から1300℃(最高温度が1300℃未満の場合は1000℃から最高温度)の温度域における昇温速度を1000℃/分以下、好ましくは800℃/分以下とすることが望ましい。
【0044】
また、炭化後の炭素繊維は、電解表面処理等の表面処理を行うことが好ましく、電解液としては、有機または無機の酸、アルカリ、あるいは塩化合物の水溶液を用いることができる。
【0045】
さらに炭素繊維には公知のサイジング剤を付与することが好ましい。サイジング剤の付着量としては、0.1質量%以上3質量%以下、好ましくは0.2質量%以上2質量%以下に設定する。サイジング付着量が上記範囲とすることによって、サイジング付着量が低いときのFW成形でのハンドリング性能、工程通過性能の低下を押さえることができ、サイジング付着量が高すぎるときのFW成形時の毛羽立ちや樹脂含浸性の低下を抑えることができる。
【0046】
サイジング剤は、均一に炭素繊維に含浸することのできる水溶液状態、あるいはエマルジョン状態で付与し、水を乾燥除去することが好ましい。また、サイジング剤の樹脂の主成分としては、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂など、あるいはこれらを二種以上組合せて用いてもよい。
【0047】
本発明の炭素繊維は、そのドレープ値が、好ましくは18cm以下、より好ましくは15cm以下であって、好ましくは6cm以上、より好ましくは7cm以上であることがさらに好ましい。この範囲に設定することによって糸束が硬くなりすぎることによる、糸条解舒時のパッケージの端面の折り返し点での糸条反転を防止でき、ドレープ値が低いときの、糸条の解舒時の変形を最小限とすることで、糸幅の安定性を向上できる。
【0048】
またこのように無撚りで焼成した炭素繊維を巻き取ったボビン上の糸幅は、3.5×10−4〜7.5×10−4mm/dtex、より好ましくは4.5×10−4〜7.0×10−4mm/dtexとなるように設定してボビンに巻き上げられる。
【0049】
炭素繊維のボビン上糸幅をこの範囲とすることによって、糸幅が小さすぎたときに生じるFW工程での樹脂含浸性の悪化を防ぎ、FW製品の成形面の均一性を問題ない範囲とすることができる。糸幅を3.5×10−4mm/dtex以上とすることによって、FW時の良好な樹脂含浸性を得ることができ、7.5×10−4mm/dtex以下とすることによって、FW加工時の毛羽立ちを押さえ、糸条糸道の変動や反転を防止することができる。このような所望のドレープ値とボビン上の糸幅は、繊維束に付与されるサイジング付着量、サイジング剤乾燥方式、条件によって調整することができる。通常サイジング剤の種類、付着量を高次加工特性や複合材料特性によって決定し、その後乾燥条件で調整を行う。これらの条件は、サイジングの種類などによって一概に決まらないが、乾燥機器の種類、温度、糸張力で設定が可能である。すなわち乾燥ドラムタイプで乾燥するか、熱風炉タイプで乾燥するか、或いはそれらの組み合わせを使用するか、また、乾燥温度・乾燥時の糸条張力などで好適な範囲に設定することで所望の範囲とすることができる。好ましくは、まず炭素繊維を加熱したローラに接触させることによって水分を減少させ、熱風循環タイプの乾燥機で乾燥して、その乾燥度合いの配分、乾燥張力の設定によって、目的のドレープ値とボビン上の糸幅を所望の値とする炭素繊維を得る。ボビン上の糸を狭幅にして同時にドレープ値を所望の範囲に設定するために、幅寄せ効果を有するガイドを使用すると、糸幅方向の単糸分布の均一性が低下するため、糸幅のバラツキが発生したり、部分的反転が生じやすくなるため好ましくない。
【0050】
本発明の特徴である、糸幅を一定に保ちながらフィラメント数15000〜60000,単糸繊度0.25〜0.8dtexの炭素繊維をボビン上糸幅が3.5×10−4〜7.5×10−4mm/dtexに巻き取り、解舒したときに、糸幅の変動率が小さく、炭素繊維の反転が少ない炭素繊維パッケージを製造するには、該炭素繊維を複数の自由回転するローラからなるトラバースガイドを備え、トラバース機構によりボビン回転軸方向に往復動させることにより繊維束を綾振りする繊維束の綾振り装置であって、前記トラバースガイドが、糸道を外れる動作をする繊維束を本来の糸道方向に案内する糸ガイド機構を有してなる綾振り装置を有する巻取り機により、最終のガイドローラ上での糸持ちのローラ軸方向の糸道変動を3mm未満とし、炭素繊維パッケージに巻き上げる必要がある。この方法を用いることにより、速度50m/分で解舒したときの解舒時の糸幅の変動率がCV値で10%以下であり、かつ解舒時の糸幅の平均値に対して75%未満の糸幅を有する部分が5個/1000m以下であるフィラメントワインディング成形用アクリロニトリル系炭素繊維を製造することができる。前記巻き上げに使用する炭素繊維は、単糸断面の長径/短径比が1.08以下、表面Raが20以下であり、ドレープ性が6〜18のアクリロニトリル系炭素繊維であると、収束性が向上することなどにより、糸幅の均一性が一層向上する。
【0051】
また、巻取り時のトラバース機構において、前記糸道を外れる動作をする繊維束を本来の糸道方向に案内する糸ガイド機構は、走行する繊維束を案内する糸道ガイドであって、好ましくは該糸道ガイドがガイドロールと該ガイドロールを支持する支持部材とからなり、該支持部材は、前記ガイドロールの回転軸に対し直角にねじれた位置に回転軸を有するものであり、糸道の変動に対応して、該支持部材の回転軸を回転中心とする回転により該ガイドロールが糸道に対して傾けられることにより、繊維束が本来の糸道方向に自動的に案内されるように構成されてなるものであると良い。具体的に一例を示すと、特許文献9に開示されているようなものであって、図5に全体図を、トラバース部分が図6に示すものを用いることができる。トラバース部分が図6(a)に示すように代表的には3つのフリーローラからなるものからなっている。さらにトラバース入口のフリー回転の上部ガイドロール21の軸がパッケージ巻取り方向と直交し、トラバースの出口でフリー回転する最終ガイドローラ23がプレッシャーローラ16の軸およびパッケージ14の巻取り方向と平行し、トラバース装置内で糸条が約90°にひねられる構造になっており、その間に1個以上のフリー回転する中間ガイドロールを有している。さらに、図6(b)に示すように上部ガイドロール23は、ガイドロール28を支持する支持部材26が回転軸25で回転可能なように設置されており、上流からの糸道がガイドロールの軸方向に変動したときに、出口側のロールとの角度が変化することによって、出口側の糸道の位置を復元させる分力を生じるため、糸道が安定して巻き取ることにより、解舒したときの糸幅のバラ付きが小さく、糸条の反転が少ない炭素繊維を製造することができる。
【0052】
本発明の炭素繊維は、速度50m/分で解舒したときの解舒時の糸幅の変動率がCV値で10%以下であり、かつ解舒時の糸幅の平均値に対して75%未満の糸幅を有する部分が5個/1000m以下である。また本発明の炭素繊維は、好ましくは糸幅の変動率がCV値で8%以下、より好ましくは5%以下であり、かつ解舒時の糸幅の平均値に対して75%未満の糸幅を有する部分が2個/1000m以下である。
【0053】
糸幅の変動率をCVで10%以下とすることによって、FW工程において樹脂含浸する際の含浸斑を押さえると共に、成形品の巻き付け幅と厚みの均一性を良好な範囲とすることができる。また、解舒時の糸幅の平均値に対して75%未満の糸幅を有する部分を5個/1000m以下とすることによって、局所的に糸幅が狭い部分をなくすことで、均一な成形体を作製することができる。一例を挙げると、FW工程において、マトリックス樹脂はその温度や必要時には濃度を調整することにより、含浸に良好な粘度に調整され、樹脂浴に蓄えられ、樹脂浴に炭素繊維を通すことによって炭素繊維に含浸させるが、その際の張力、糸幅が樹脂の含浸量を左右するため、これらの斑を小さく保つことが必要になり、上記範囲とすることで、良好な成形品の表面品位と、良好なコンポジット特性を得ることができる。
【0054】
このような糸幅変動率が低く、解舒時の糸幅が、平均値の75%以下の部分が殆ど発生しない炭素繊維は、そのプリカーサを、糸道を直進させながら、および合糸する場合は複数本の第1フリーローラと、それらとは実質的に直角に配した第2フリーローラとを組み合わせたフリーローラガイド群によって合糸し、最終のフィラメント数とした後、ボビン上に1.8×10−4〜4.5×10−4mm/dtexの糸幅で巻取り、炭化した後、炭素繊維をワインダーのトラバースガイドに糸道が変動したときに、元に戻す機構を備えたワインダーを適用して巻き取ることにより製造できる。
【実施例】
【0055】
[プリカーサ]
アクリロニトリル(AN)99.5モル%、イタコン酸0.5モル%からなるAN共重合体をアンモニアで中和変性しポリマの濃度が20質量%であるDMSO溶液を調整した。
【0056】
この紡糸原液を40℃にて、3000ホール口金から一旦空気中に吐出させ空間を走行させた後に、温度10℃、30%のDMSO水溶液中に導入して凝固させた。凝固糸条をフィラメント数12000に合糸して凝固浴から引き出し、水洗、延伸し、アミノ変性シリコーン系化合物を主成分とする水系エマルジョン界面活性剤を付与した。この糸条を150℃の加熱ロール群を用いて乾燥、緻密化し、加圧スチーム中で延伸した後、表1に示す方法で3本合糸し、繊度29000dtex、フィラメント数36000のアクリル系プリカーサ繊維糸条を得た。紡糸からのトータルの延伸倍率は12.0倍とした。ここで、プリカーサAに用いたフリーロール3段とは、図8,9に示すフリーロール群を図7に示すように3段使用したもの、プリカーサCに用いたエア処理とは、前記合糸ガイドを使用せず、圧力空気によってエア交絡処理を与えプリカーサを合糸、集束したもので、プリカーサEに用いた幅寄せガイドとは合糸時にフリーロール等を使用せず、糸幅に相当する幅を間隔とした2本のバーガイドで合糸を行ったものである。また吐出量を調整する以外は、プリカーサAと同様の条件で繊度40000dtex、フィラメント数36000のプリカーサBを得た。
【0057】
さらにプリカーサAと同様の紡糸条件にて凝固糸を得、凝固糸条をフィラメント数36000に合糸して凝固浴から引き出し、水洗、延伸し、アミノ変性シリコーン系化合物を主成分とする水系エマルジョン界面活性剤を付与した。この糸条を150℃の加熱ロール群を用いて乾燥、緻密化し、加圧スチーム中で延伸することによって、繊度29000dtex、フィラメント数36000のアクリル系プリカーサ繊維糸条である、プリカーサDを得た。紡糸からのトータルの延伸倍率は12.0倍とした。
【0058】
同一の紡糸原液を45℃に調整し、36000ホール口金から、直接温度45℃、55%のDMSO水溶液中に導入して凝固させ、水洗、延伸し、アミノ変性シリコーン系化合物を主成分とする水系エマルジョン界面活性剤を付与した。この糸条を150℃の加熱ロール群を用いて乾燥、緻密化し、加圧スチーム中で延伸して、繊度28000dtex、フィラメント数36000のアクリル系プリカーサ繊維糸条を得た。紡糸からのトータルの延伸倍率は12.0倍とした。これを表1に示す条件にて合糸してプリカーサFを得た。
【0059】
【表1】

【0060】
[実施例、比較例]
表1に示す各種プリカーサを240〜280℃の空気中で、延伸比0.90で耐炎化処理し、引き続いて窒素雰囲気中、最高温度を800℃と1450℃に設定した炉で、それぞれ300〜600℃の温度域および1000〜1450℃の温度域における昇温速度をいずれも800℃/分以下として炭素化処理した。また、1450℃の炉における延伸比は0.95とした。引き続き、硫酸水溶液中で電解表面処理した後、エポキシ樹脂を主成分としたエマルジョン溶液中に、実施例2、7、8以外は付着量が1.0質量%となるように含浸させ、サイジング処理を施して炭素繊維を得た。また、実施例2では付着量を0.5質量%、7では付着量を1.3質量%に、実施例8では0.3質量%に設定した。この炭素繊維を図5,6に示す巻取り機によって巻取り炭素繊維パッケージを得た。このとき図5bに示す、ガイドロール28を比較例1以外は回転可能なものとし、比較例1ではガイドロール2の支持部材26を、軸受を介すことなく直接ブラケットに固定したものの2種類で炭素繊維の搬送、案内を行った。得られた炭素繊維の特性を表2に示す。
【0061】
【表2】

【符号の説明】
【0062】
F:炭素繊維
A:ドレープ値測定架台
P:プリカーサ繊維束
T:トラバース方向
1:炭素繊維パッケージ
2:巻取りボビン
3:糸道規制ローラ
4:平ローラ
5:糸幅測定装置
6:平ローラ
7:駆動ローラ
11:糸道ガイド
12:綾振り装置
13:トラバースガイド
14:パッケージ
15:巻取装置
16:プレッシャーロール
21:上部ガイドロール
22:中間ガイドロール
23:最終ガイドロール
24:本体ブラケット
25:支持部材の回転軸
26:支持部材
27:ガイドロールの回転軸
28:ガイドロール
31:フリーガイドローラ群
32:ドライブステーション
33:巻き取り糸条パッケージ
34:第1フリーローラ
35:第2フリーローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストランド引張強度が4000MPa以上、ストランド引張弾性率が225GPa以上350GPa以下であり、フィラメント数が15000〜60000、単糸繊度が0.25〜0.8dtexである炭素繊維束をボビンに巻き上げた炭素繊維パッケージであって、ボビン上糸幅が3.5×10−4〜7.5×10−4mm/dtexであり、明細書に記載される条件で炭素繊維束を解舒したときの解舒時の糸幅の変動率がCV値で10%以下であり、かつ解舒時の糸幅の平均値に対して75%未満の糸幅を有する部分が5個/1000m以下であることを特徴とするフィラメントワインディング成形用炭素繊維。
【請求項2】
前記炭素繊維が、単糸断面の長径/短径比が1.08以下、表面Raが20以下であり、ドレープ値が6〜18のアクリロニトリル系炭素繊維である、請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項3】
フィラメント数が15000〜60000、単糸繊度が0.6〜1.5dtexにあるアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束をボビン上糸幅1.8×10−4〜4.5×10−4mm/dtexでボビンに巻き取り、前駆体繊維パッケージを製造する工程、得られた前駆体繊維を無撚りで耐炎化し、不活性ガス中での炭化温度が最高温度1100℃以上2200℃以下で炭化することによって、ストランド引張強度が4000MPa以上、ストランド引張弾性率が225GPa以上350GPa以下である炭素繊維束を製造する工程、得られた炭素繊維束をワインダーに巻き取る際に、ワインダーのトラバースガイドに、糸道を外れる動作をする繊維束を本来の糸道方向に案内する糸ガイド機構を有するものを用いることによって、巻取り直前のローラ上での糸道変動を3mm未満とし、ボビン上の糸幅が3.5×10−4〜7.5×10−4mm/dtexで前記炭素繊維束をボビンに巻き取る工程からなり、明細書に記載される条件で炭素繊維束を解舒したときの解舒時の糸幅の変動率をCV値で10%以下とし、かつ解舒時の糸幅の平均値に対して75%未満の糸幅を有する部分を5個/1000m以下とすることを特徴とするフィラメントワインディング成形用炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
前記糸ガイド機構が、走行する繊維束を案内する糸道ガイドであって、該糸道ガイドがガイドロールと該ガイドロールを支持する支持部材とからなり、該支持部材は、前記ガイドロールの回転軸に対し直角にねじれた位置に回転軸を有するものであり、糸道の変動に対応して、該支持部材の回転軸を回転中心とする回転により該ガイドロールが糸道に対して傾けられることにより、繊維束が本来の糸道方向に自動的に案内されるように構成されてなる糸道ガイドを有する、請求項3に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
前記用いられるアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維束が、単糸断面の長径/短径比が1.08以下、表面Raが20以下であり、かつ前記得られる炭素繊維束が、単糸断面の長径/短径比が1.08以下、表面Raが20以下であり、ドレープ値が6〜18である、請求項3または4に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項6】
ポリアクリロニトリル系ポリマをホール数が3000〜15000である口金から吐出、凝固してマルチフィラメント糸とし、その糸条を複数本合糸して、前記フィラメント数が15000〜60000の前駆体繊維を得るに際して、延伸後に合糸する工程を含み、該合糸工程での合糸用のガイドが、フリーガイドローラ群からなり、そのローラ群がローラ軸を走行糸条に対して実質的に直角かつ互いに平行になるよう配置した複数本の第1フリーローラと、該第1フリーローラとはそのローラ軸を実質的に直角に配置した少なくとも1本の第2フリーローラとからなるものであって、かつ、走行糸条が複数本の第1フリーローラに該糸条の表裏を交互に接触させて後、第2フリーローラによりひねりを与えるよう通過せしめることにより、前記糸幅1.8×10−4〜4.5×10−4mm/dtexで巻き取った前駆体繊維パッケージを得る、請求項3乃至5のいずれかに記載の炭素繊維の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−154000(P2012−154000A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14778(P2011−14778)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】