説明

フッ素含有廃水の処理方法およびフッ素含有廃水の処理設備

【課題】 フッ素化合物の含有量が高く、フッ素のリサイクル利用に適した商品価値の高いスラッジを回収できるフッ素含有廃水の処理方法およびフッ素含有廃水の処理設備を提供する。
【解決手段】 加熱して液温を所定温度に維持してあるフッ素含有廃水にマグネシウム化合物を添加してフッ化マグネシウムを生成させる添加工程と、添加工程により生成したフッ化マグネシウムを凝集剤添加により凝集分離してフッ化マグネシウムスラッジとして回収する凝集分離工程とを有するフッ素含有廃水の処理方法、及び、フッ素含有廃水を加熱する加熱手段3aと、フッ素含有廃水の液温を所定温度に維持する保温手段3bと、フッ素化合物を凝集させる凝集部2aと、凝集したフッ素化合物を沈殿分離させる沈殿分離部2bとを有するフッ素含有廃水の処理設備X。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有廃水の処理方法およびフッ素含有廃水の処理設備であって、特に、半導体・液晶製造工場、フッ素化合物製造工場、電球製造工場、鋼板製造工場、ステンレス酸洗工場、肥料工場等から排出されるフッ素含有廃水の処理方法およびフッ素含有廃水の処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ化物イオンを含有するフッ素含有廃水の処理方法として、フッ素含有廃水にカルシウム化合物を添加してフッ化物イオンをフッ化カルシウム(CaF2)として不溶化した後、フッ化カルシウムを含むスラッジとして分離する方法が知られている(例えば特許文献1〜2)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−293474号公報(特許請求の範囲等参照)
【特許文献2】特開2001−38368号公報(特許請求の範囲等参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地球環境保護の観点からフッ素含有廃水からフッ素をフッ化カルシウム含有スラッジとして分離するだけでなく、分離されたフッ化カルシウム含有スラッジをフッ化水素(HF)やその他の原料としてリサイクルする機運が高まっている。例えば、半導体・液晶などの製造工場において、プラズマCVDに使用される原料ガス(SiH、PH等)やドライエッチングに使用される反応ガス(SF、NF、C等)を含むPFCガスなどの難分解性廃ガスは、地球温暖化係数が高いため燃焼分解処理される。このとき、二次的に生成されるフッ化水素などがスクラバーで洗浄された後に大気開放される。このとき、洗浄により生じた多量の洗浄廃水にはフッ素が含有されているが、この洗浄廃水中のフッ素を回収し、再利用する技術の開発が望まれている。
【0005】
フッ素含有廃水からフッ素を分離するためには、通常、カルシウム化合物が用いられる。特許文献1〜2に開示してあるフッ素含有廃水の処理方法では、フッ素をフッ化カルシウム含有スラッジとして回収することによりフッ素の回収効率は上昇するが、当該スラッジに占めるフッ化カルシウムの含有率が低い。これは、当該スラッジには、フッ素イオン以外の夾雑イオンとカルシウム化合物との反応により生じた夾雑カルシウム塩が含まれているためである。一般にカルシウム化合物の溶解度が小さいことが知られている。つまり、フッ素含有廃水中にフッ素イオンや、例えば硫酸イオン等の夾雑イオンが含まれている状態でカルシウム化合物が添加されると、これらイオンがフッ化カルシウムや硫酸カルシウム等のカルシウム塩として沈殿析出する。
【0006】
そのため、フッ化カルシウム含有スラッジを、フッ化水素等を生成する原料として効率よく再利用することが困難である。これにより、フッ化カルシウム含有スラッジの用途はコンクリート混和材への利用等に限定され、大部分のフッ化カルシウム含有スラッジは産業廃棄物として廃棄されているのが実情である。
【0007】
従って、本発明の目的は、フッ素化合物の含有量が高く、フッ素のリサイクル利用に適した商品価値の高いスラッジを回収できるフッ素含有廃水の処理方法およびフッ素含有廃水の処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の第一特徴構成は、加熱して液温を所定温度に維持してあるフッ素含有廃水にマグネシウム化合物を添加してフッ化マグネシウムを生成させる添加工程と、前記添加工程により生成したフッ化マグネシウムを凝集剤添加により凝集分離してフッ化マグネシウムスラッジとして回収する凝集分離工程とを有する点にある。
【0009】
上記第一特徴構成によれば、フッ素イオン以外の夾雑イオンを含むフッ素含有水にマグネシウム化合物を添加することにより、夾雑イオン存在下においてもフッ化マグネシウムの含有率の高いスラッジを得ることが出来る。
このように、フッ化マグネシウムの含有率が高いスラッジが得られる理由は、フッ化マグネシウムの溶解度が、その他の夾雑イオンとのマグネシウム塩の溶解度に比べて小さいことによる。
【0010】
後述する実施例1の比較例において、複数の夾雑イオンが存在するフッ素含有廃水にマグネシウム化合物を添加したときと、カルシウム化合物を添加したときにおけるそれぞれの生成スラッジが含有するフッ素化合物の割合を調べている。その結果、生成スラッジが含有するフッ素化合物の割合は、マグネシウム化合物を添加したときの割合(97.6%)は、カルシウム化合物を用いたときの割合(80%以下)よりも高いことが判明している(表2参照)。
【0011】
後述の実施例2において、マグネシウム化合物を添加するときのフッ素含有廃水の温度条件を種々変更したときの残留フッ素濃度、及び、フッ素の回収率を調べた。
その結果、フッ素含有廃水の反応温度を加熱してその温度を維持することにより、フッ化マグネシウムスラッジ回収後の溶液中に残留する残留フッ素濃度を低下させ、フッ素の回収率を向上できることが判明した(図6〜7参照)。そのため、原水であるフッ素含有廃水の負荷変動に対しても安定した回収率を確保できる。
【0012】
また、マグネシウム化合物を添加して生成したフッ化マグネシウムを、凝集剤により凝集させる凝集分離工程を行うことにより、効率よく沈殿させてフッ化マグネシウムスラッジとすることができる。そのため、フッ化マグネシウムスラッジの回収を容易に行うことができる。
【0013】
本発明の第二特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、加熱して液温を所定温度に維持してあるフッ素含有廃水にマグネシウム化合物を添加してフッ化マグネシウムを生成させる添加工程と、前記添加工程により生成したフッ化マグネシウムを遠心分離してフッ化マグネシウムスラッジとして回収する遠心分離工程を有する点にある。
【0014】
上記第二特徴構成によれば、添加工程は、上記第一特徴構成と同様に、フッ素イオン以外の夾雑イオンを含むフッ素含有水にマグネシウム化合物を添加することにより、夾雑イオン存在下においてもフッ化マグネシウムの含有率の高いスラッジを得ることが出来る。
また、加熱して液温を所定温度に維持してあるフッ素含有廃水を使用することで、上記第一特徴構成と同様に、原水であるフッ素含有廃水の負荷変動に対しても安定した回収率を確保でき、回収されたフッ化マグネシウムの用途が広くなる効果を奏する。
【0015】
また、マグネシウム化合物を添加して生成したフッ化マグネシウムを遠心分離する遠心分離工程を行うことにより、遠心力を利用して迅速にフッ化マグネシウムスラッジとして回収できる。
【0016】
本発明の第三特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、回収した前記フッ化マグネシウムスラッジを脱水して乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程により乾燥したフッ化マグネシウムスラッジを精製してフッ化マグネシウムを回収する精製工程とを有する点にある。
【0017】
上記第三特徴構成によれば、フッ化マグネシウムの含有量の高いスラッジを脱水して乾燥し、さらにこれを精製してフッ化マグネシウムを回収できるため、フッ素含有廃水から効率よくフッ化マグネシウムを回収できるリサイクル方法を提供できる。
【0018】
本発明の第四特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記フッ化マグネシウムスラッジを回収した処理済廃水から残留フッ素を除去する残留フッ素除去工程を有する点にある。
【0019】
フッ素含有廃水からフッ化マグネシウムスラッジを回収した後であっても、処理済廃水には少量のフッ素が残留している。そのため、上記第四特徴構成によれば、この残留フッ素を除去する処理を行うことにより、処理済廃水を残留イオンの殆ど無い廃水とすることができる。
【0020】
本発明の第五特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記残留フッ素除去工程が、イオン交換樹脂により残留フッ素の除去処理を行う点にある。
【0021】
後述の実施例3において、イオン交換樹脂を用いて残留フッ素除去工程を行った結果、樹脂に通水する前のフッ素濃度に比べて残留フッ素濃度を3mg/L程度にまで減少させることが可能であると判明した。
従って、上記第五特徴構成によれば、取り扱いの容易なイオン交換樹脂を用いて処理済廃水から残留フッ素を効率よく除去できる。
【0022】
本発明の第六特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記イオン交換樹脂が、アニオン系イオン交換樹脂或いはキレート樹脂である点にある。
【0023】
上記第六特徴構成によれば、入手の容易な公知のイオン交換樹脂を利用できるため、残留フッ素除去工程を容易に行える。
【0024】
本発明の第七特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記添加工程における前記フッ素含有廃水の液温が30〜100℃である点にある。
【0025】
後述の実施例2において、マグネシウム化合物を添加するときのフッ素含有廃水の温度条件を種々変更したときの残留フッ素濃度、及び、フッ素の回収率を調べた。
その結果、反応温度30℃以上では、60%以上のフッ素回収率が期待され、反応温度80〜100℃では、80%以上のフッ素回収率が期待されることが判明した(図6〜7参照)。
従って、上記第七特徴構成によれば、経済的に残留フッ素濃度を低下させ、フッ素の高回収率を維持することが可能となる。
【0026】
本発明の第八特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記フッ素含有廃水の液温が60℃より高い点にある。
【0027】
後述の実施例2において、マグネシウム化合物を添加するときのフッ素含有廃水の温度条件を種々変更したときの残留フッ素濃度、及び、フッ素の回収率を調べた。
その結果、反応温度60℃以上では、75%以上のフッ素回収率の確保が可能であった(図7参照)。そのため、上記第八特徴構成によれば、残留フッ素を処理するための後工程への負荷を軽減できる。
【0028】
本発明の第九特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記添加工程における前記フッ素含有廃水のフッ素に対するマグネシウム化合物の添加量を0.5〜2モル当量とする点にある。
【0029】
後述の実施例1において、マグネシウム化合物(硫酸マグネシウム)の添加量とフッ素回収率との関係を調べた。その結果、フッ素の回収率を50%以上確保するには、硫酸マグネシウムの添加量が0.5モル当量以上必要であり、添加量を2.0モル当量以上としても残留フッ素イオン濃度は200mg/Lより低下することがないことが判明した(図3参照)。つまり、フッ化マグネシウムの溶解度が飽和するためフッ化マグネシウムの回収率は向上せず、2.0モル当量を超過した場合、マグネシウム化合物はフッ化マグネシウムの形成に関与しないため、2.0モル当量以上添加する必要は無い。
一方、硫酸マグネシウムの添加量が0.5モル当量未満であれば、フッ素の回収率が50%未満となってフッ化マグネシウムの回収が不十分となる。
そのため、上記第九特徴構成によれば、フッ素含有廃水に含まれるフッ素に対するマグネシウム化合物を0.5〜2モル当量とすることで、50%以上のフッ素の回収が可能となる。
【0030】
本発明の処理方法の第十特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記添加工程における前記フッ素含有廃水のpH値を3〜8.5としてある点にある。
【0031】
後述の実施例1において、反応液のpH値とフッ素回収率との関係を調べた。
これより、pH値が3.0より下回るとフッ化マグネシウムの沈殿物が生成し難くなり回収率が60%以下に大きく低下することが判明した(図4参照)。従って、経済的な回収率を確保するには、少なくともpH3以上に維持する必要がある。
また、pH値8.5以下ではフッ化マグネシウムの含有率が85%以上のフッ化マグネシウムスラッジが得られ、pH値が8.5を上回ると夾雑塩がスラッジに混入してスラッジに含まれるフッ化マグネシウムの含有率が低下することが判明した(図5参照)。
従って、上記第九特徴構成によれば、添加工程におけるフッ素含有廃水のpH値を3〜8.5とすることにより、60%以上の商品価値に優れたフッ素の回収率を確保できる。
【0032】
本発明の第十一特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記フッ素含有廃水のpH値を5〜7としてある点にある。
【0033】
後述の実施例1において、反応液のpH値とフッ素回収率との関係を調べた結果、フッ素含有廃水のpH値を5〜7とした場合、フッ化マグネシウムの含有率が96%以上のフッ化マグネシウムスラッジを得ることが可能であることが判明した。
従って、上記第十一特徴構成によれば、前記添加工程におけるフッ素含有廃水のpH値を5〜7とすることにより、さらに商品価値の高い、フッ化マグネシウムの含有率が96%以上のフッ化マグネシウムスラッジを得ることが可能である。
【0034】
本発明の第十二特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記フッ素含有廃水にケイ酸イオンが含まれるとき、pH値を3〜7としてある点にある。
【0035】
原水にケイ酸イオンが含まれている場合にマグネシウム化合物を添加するとケイ酸マグネシウムが生成し、フッ化マグネシウムスラッジ中におけるフッ化マグネシウムの含有率が低下する。
ここで、pH値が3〜7の範囲ではケイ酸マグネシウムは沈殿しない。そのため、上記第十二特徴構成によれば、フッ化マグネシウムスラッジに占めるフッ化マグネシウムの含有率を低下させることはないため、フッ化マグネシウム含有率の高いフッ化マグネシウムスラッジを得ることができる。
【0036】
本発明の処理方法の第十三特徴構成は、前記フッ素含有廃水にリン酸イオン又は亜硫酸イオンのうち少なくとも一方が含まれるとき、前記添加工程の前に、イオン交換膜により当該リン酸イオン又は亜硫酸イオンを分離除去するイオン交換膜処理工程を行う点にある。
【0037】
原水にリン酸イオン又は亜硫酸イオンのうち少なくとも一方が含まれている場合にマグネシウム化合物を添加すると、難溶性のリン酸化合物又は亜硫酸化合物がそれぞれ生成し、フッ化マグネシウムスラッジ中におけるフッ化マグネシウムの含有率が低下する。これを防止するため、あらかじめイオン交換膜によりリン酸イオン又は亜硫酸イオンを分離除去する。
このように添加工程の前にリン酸イオン又は亜硫酸イオンを除去することで、添加工程において難溶性のリン酸化合物又は亜硫酸化合物の生成を防止できる。このため、上記第十三特徴構成によれば、フッ化マグネシウムスラッジ中にリン酸化合物又は亜硫酸化合物は混入せず、フッ化マグネシウムの含有率が高いスラッジを得ることができる。
【0038】
本発明の第十四特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記フッ素含有廃水に亜硫酸イオンが含まれるとき、前記添加工程の前に、亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化する酸化工程を行う点にある。
【0039】
つまり、フッ素含有廃水が亜硫酸イオンを多量に含む場合にマグネシウム化合物を添加すると、難溶性の亜硫酸マグネシウムが生成し、フッ化マグネシウムスラッジ中におけるフッ化マグネシウムの含有率が低下する。
これを防ぐため、添加工程の前に亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化することにより、添加工程において難溶性の亜硫酸マグネシウムの生成を防止できる。このため、上記第十四特徴構成によれば、フッ化マグネシウムスラッジ中に亜硫酸マグネシウムが混入せず、フッ化マグネシウムの含有率が高いスラッジを得ることができる。
【0040】
本発明の第十五特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記添加工程の前に、前記フッ素含有廃水を濃縮する濃縮工程を行う点にある。
【0041】
つまり、原水のフッ素濃度が低い場合、あらかじめ原水を濃縮することにより、フッ素回収率を向上させることが可能となる。
【0042】
本発明の第十六特徴構成は、フッ素含有廃水の処理方法において、前記マグネシウム化合物が、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムからなる群より選択される点にある。
【0043】
上記第十六特徴構成に記載したマグネシウム化合物が回収率・経済性の点から好ましく利用できる。例えば硫酸マグネシウムを利用した場合、フッ素含有廃水中に硫酸イオンが多量に存在したとしても、硫酸マグネシウムの溶解度が大きいため沈殿生成物は形成されない。そのため、フッ化マグネシウムスラッジ中には硫酸マグネシウムは混入せず、高純度のフッ化マグネシウムを含有するスラッジを得ることができる。
【0044】
本発明の第十七特徴構成は、フッ素含有廃水を処理してフッ素化合物を生成するフッ素含有廃水の処理設備であって、前記フッ素含有廃水を加熱する加熱手段と、前記フッ素含有廃水の液温を所定温度に維持する保温手段と、前記フッ素化合物を凝集させる凝集部と、凝集したフッ素化合物を沈殿分離させる沈殿分離部とを有する点にある。
【0045】
上記第十七特徴構成によれば、フッ素含有廃水を加熱手段により加熱して昇温し、その昇温状態を保温手段により維持できるため、フッ素化合物回収後の溶液中に残留する残留フッ素濃度を低下させ、フッ素の回収率を向上できるリサイクルシステムを提供できる。
また、フッ素化合物を凝集させる凝集部と、凝集したフッ素化合物を沈殿分離させる沈殿分離部とを有することにより、フッ素化合物を凝集剤により凝集・沈殿させる構成とすることができるため、フッ素化合物の回収を容易に行うことができるリサイクルシステムとなる。
【0046】
本発明の第十八特徴構成は、フッ素含有廃水を処理してフッ素化合物を生成するフッ素含有廃水の処理設備であって、前記フッ素含有廃水を加熱する加熱手段と、前記フッ素含有廃水の液温を所定温度に維持する保温手段と、前記フッ素化合物を遠心分離する遠心分離手段とを有する点にある。
【0047】
上記第十八特徴構成によれば、フッ素含有廃水を加熱手段により加熱して昇温し、その昇温状態を保温手段により維持できるため、フッ素化合物回収後の溶液中に残留する残留フッ素濃度を低下させ、フッ素の回収率を向上できるリサイクルシステムを提供できる。
また、フッ素化合物を遠心力により遠心分離する遠心分離手段を有することにより、遠心力を利用してフッ素化合物の回収を迅速に行うことができるリサイクルシステムとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示したように、本発明のフッ素含有廃水の処理方法は、加熱して液温を所定温度に維持してあるフッ素含有廃水にマグネシウム化合物を添加してフッ化マグネシウムを生成させる添加工程(A)と、添加工程(A)により生成したフッ化マグネシウムを、フッ化マグネシウムスラッジとして分離回収する分離工程(B)とを有する。
【0049】
この分離工程(B)は、添加工程(A)により生成したフッ化マグネシウムを凝集剤添加により凝集分離してフッ化マグネシウムスラッジとして回収する凝集分離工程(B−1)を行う。或いは、添加工程(A)により生成したフッ化マグネシウムを遠心分離してフッ化マグネシウムスラッジとして回収する遠心分離工程(B−2)を行うことが可能である。
【0050】
その後、回収したフッ化マグネシウムスラッジを脱水して乾燥する乾燥工程(C)と、乾燥したフッ化マグネシウムスラッジを精製してフッ化マグネシウムを回収する精製工程(D)とを行う。
また、フッ化マグネシウムスラッジを回収した処理済廃水から残留フッ素を除去する残留フッ素除去工程(E)を行う。
尚、本明細書における「フッ化マグネシウムスラッジ」とは、フッ化マグネシウムを含有するスラッジを指すものとする。
以下、各工程について詳述する。
【0051】
A.添加工程
添加工程では、加熱して液温を所定温度に維持してあるフッ素含有廃水にマグネシウム化合物を添加する処理を行う。
ここで、フッ素含有廃水は、例えば、半導体・液晶製造工場、フッ素化合物製造工場、電球製造工場、鋼板製造工場、ステンレス酸洗工場、肥料工場等から排出される、フッ素イオンを含有する廃水である。
【0052】
フッ素含有廃水の処理設備Xの概要を図2に示した。
原水であるフッ素含有廃水は、加熱手段3aにより加熱(加熱処理)し、その後、加熱されたフッ素含有廃水の液温は保温手段3bにより所定温度に維持(保温処理)される。加熱手段3aと保温手段3bとは、別々の装置であっても、一体化された装置であってもかまわない。後者の装置の場合は装置の設置スペースが省けるため好ましく利用できる。例えば、溶液の加熱と保温が可能なウォーターバス等が使用できるが、これに限られるものではない。フッ素含有廃水の液温は、30〜100℃程度に加熱し、この液温を維持する。好ましくは、60℃より高い液温とする。
【0053】
このように加熱・保温処理されたフッ素含有廃水を導入管1aから反応槽1に導入する。反応槽1には、攪拌機5aおよびpHセンサ(図外)が設けてあり、pH調整剤の投入により所定のpH値に維持しながら、マグネシウム化合物を、フッ素含有廃水に含まれるフッ素に対して0.5〜2モル当量、好ましくは、1.0〜1.5モル当量になるように添加する。そして、攪拌機5aで穏やかに攪拌することにより、フッ化マグネシウムが生成される。
【0054】
マグネシウム化合物は、回収率・経済性の点から硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムからなる群より選択できるがこれらに限られるものではない。
特に、硫酸マグネシウムがフッ素の回収率・経済性の点から最も好ましく利用できる。この場合、フッ素含有廃水中に硫酸イオンが多量に存在したとしても、硫酸マグネシウムの溶解度が大きいため沈殿生成物は形成されない。フッ化マグネシウムスラッジ中には硫酸マグネシウムは混入せず、高純度のフッ化マグネシウムを含有するスラッジを得ることができる。
【0055】
pH調整剤としては、酸性調整剤として、例えば、塩酸・硫酸等、アルカリ調整剤として、水酸化ナトリウム・水酸化カリウム等が利用できる。尚、難溶性のカルシウム塩を生成する水酸化カルシウムは使用できない。
導入管1aには、イオン電極を備えたフッ素モニタ6が設けてあり、モニタリングされたフッ素濃度に基づき、マグネシウム化合物の添加量が調整される。フッ素モニタ6は、例えば、オンラインフッ素モニタ、電気伝導度計等により行う。
【0056】
B.分離工程
分離工程には、凝集分離工程と遠心分離工程とを適用できる。以下にこれら工程毎に説明する。
【0057】
B−1.凝集分離工程
本工程では、凝集剤を添加して添加工程(A)により生成したフッ化マグネシウムを凝集分離してフッ化マグネシウムスラッジとして回収する処理を行う(図2参照)。
凝集剤は、PAC(ポリ塩化アルミニウム)、硫酸バン土(硫酸アルミニウム)、塩化鉄、硫酸鉄などの無機凝集剤、或いは、アクリルアミド系などの有機高分子凝集剤が適用可能である。この凝集剤を凝集部である凝集槽2aに添加し、攪拌機5bで穏やかに攪拌することにより凝集して粒度が増し、沈降性のフッ化マグネシウムとなる。その後、凝集剤が添加されたフッ素含有廃水は、沈殿分離部である沈殿槽2bに導入され、フッ化マグネシウムが重力により沈殿することによりフッ化マグネシウムスラッジが生成する。このように沈殿生成したフッ化マグネシウムスラッジは回収され、乾燥工程に供される。
【0058】
B−2.遠心分離工程
本工程では、添加工程(A)により生成したフッ化マグネシウムを遠心分離してフッ化マグネシウムスラッジとして回収する処理を行う(図示しない)。
遠心分離は、遠心力により、目的の物質を比重差に応じて分離する手法である。例えば、公知の遠心分離機等の遠心分離手段を利用することができる。このようにフッ素含有廃水にマグネシウム化合物を添加して生成したフッ化マグネシウム等の沈降性成分は、遠心力によりフッ化マグネシウムスラッジとして回収できる。このように沈殿生成したフッ化マグネシウムスラッジは回収され、乾燥工程に供される。
【0059】
C.乾燥工程
本工程では、回収されたフッ化マグネシウムスラッジを洗浄水で洗浄した後、脱水機4等で脱水して乾燥機5で乾燥する処理を行う。乾燥されたフッ化マグネシウムスラッジは、フッ化マグネシウムを高純度で含むスラッジとなる。
【0060】
脱水機4および乾燥機5は、フッ化マグネシウムスラッジを脱水或いは乾燥できる形態であれば限定されず、例えば温度調節可能なロータリーキルン等の公知の装置を適用できる。脱水および乾燥の両処理を実行できる装置であれば、装置の設置スペースが省けるため、好ましく利用できる。
尚、フッ化マグネシウムスラッジを洗浄した洗浄処理水は、公知の適切な処理を施して有効利用するが、加熱・保温処理前のフッ素含有廃水に添加してもよい。
【0061】
D.精製工程
本工程では、乾燥工程により乾燥したフッ化マグネシウムスラッジを精製してフッ化マグネシウムを回収する処理を行う。
スラッジの精製は、例えば水洗といった公知の方法に準じて行う。
【0062】
E.残留フッ素除去工程
本工程では、上述した分離工程(B)でフッ化マグネシウムスラッジを分離してこれを回収した後の上澄み液(処理済廃水)に残留するフッ素を除去する処理を行う。
具体的には、イオン交換樹脂7により残留フッ素の除去処理を行う。イオン交換樹脂7は、アニオン系イオン交換樹脂或いはキレート樹脂が好適に例示されるがこれに限られるものではない。アニオン系イオン交換樹脂およびキレート樹脂は、フッ素イオンを選択的に捕捉する機能を有するものであれば何れの樹脂でも使用できる。
このようにイオン交換樹脂7を用いて残留フッ素を除去することにより、処理済廃水中のフッ素濃度を0.3mg/L程度まで除去することが可能となる。
その他、例えば減圧蒸留装置を用いて処理済廃水を蒸留することにより上澄み液(処理済廃水)に残留するフッ素を分離除去することが可能である。
【0063】
上述した添加工程(A)の前処理として、以下の工程を行うことが可能である(図1参照)。尚、各工程の前には、原水であるフッ素含有廃水の成分分析を行う。
【0064】
F.イオン交換膜処理工程
原水であるフッ素含有廃水に、リン酸イオン又は亜硫酸イオンのうち少なくとも一方が含まれるとき、添加工程(A)の前に、イオン交換膜により当該リン酸イオン又は亜硫酸イオンを分離除去するイオン交換膜処理工程(F)を行う。
【0065】
原水にリン酸イオン又は亜硫酸イオンのうち少なくとも一方が含まれている場合にマグネシウム化合物を添加すると、難溶性のリン酸化合物又は亜硫酸化合物がそれぞれ生成し、フッ化マグネシウムスラッジ中におけるフッ化マグネシウムの含有率が低下する。これを防ぐため、あらかじめイオン交換膜によりリン酸イオン又は亜硫酸イオンを分離除去する。
このように添加工程(A)の前にリン酸イオン又は亜硫酸イオンを除去することで、添加工程(A)において難溶性のリン酸化合物又は亜硫酸化合物の生成を防止できる。このため、フッ化マグネシウムスラッジ中にリン酸化合物又は亜硫酸化合物が混入せず、フッ化マグネシウムの含有率が高いスラッジを得ることができる。
イオン交換膜は、溶液中の電解質である各種イオンを電気エネルギーや濃度差を利用して選択的に分離させる膜であり、本発明では、リン酸イオン又は亜硫酸イオンを選択的に分離できるものであれば適用できる。例えば、旭硝子株式会社製「セレミオン(登録商標)」が好適に例示される。
【0066】
G.酸化工程
原水であるフッ素含有廃水に亜硫酸イオンが含まれるとき、添加工程(A)の前に、亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化する酸化工程(G)を行う。
原水に亜硫酸イオンが含まれている場合にマグネシウム化合物を添加すると、難溶性の亜硫酸マグネシウムが生成し、フッ化マグネシウムスラッジ中におけるフッ化マグネシウムの含有率が低下する。
これを防ぐため、添加工程(A)の前に、酸化剤、紫外線またはオゾン、またはこれら二種以上の組み合わせにより亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化する。これにより、添加工程(A)において難溶性の亜硫酸マグネシウムの生成を防止できる。このため、フッ化マグネシウムスラッジ中に亜硫酸マグネシウムは混入せず、フッ化マグネシウムの含有率が高いスラッジを得ることができる。
【0067】
尚、上述したイオン交換膜処理工程では、フッ素含有廃水に亜硫酸イオンが含まれている場合はイオン交換膜により亜硫酸イオンを分離除去して添加工程(A)において難溶性の亜硫酸化合物の生成を防止したが、本工程のように酸化処理を行った場合でも添加工程(A)において難溶性の亜硫酸化合物の生成を防止できる。この場合、イオン交換膜処理工程を行ったときと比べてフッ化マグネシウム含有率の高いスラッジを得ることができる。
【0068】
H.濃縮工程
添加工程(A)の前に、原水であるフッ素含有廃水を濃縮する濃縮工程を行う。
つまり、原水のフッ素濃度が低い場合、あらかじめ原水を濃縮することにより、フッ素回収率を向上させることが可能である。原水の濃縮方法として、イオン交換法、逆浸透法、電気透析、減圧蒸留があげられる。
【0069】
上述したリン除去工程、酸化工程および濃縮工程は、単独で、或いは、適宜組み合わせて添加工程の前処理とすることができる。
このように上記各工程を経て得られたフッ化マグネシウムの含有率が高いフッ化マグネシウムスラッジは、光学特性が優れたフッ化マグネシウムの光学素子製造のための材料に供することができる。フッ化物の単結晶は紫外線領域の光学特性が優れており、ステッパー等の光学素子として不可欠である。特にフッ化マグネシウムは、表面反射率が低いことから、一般の光学機器からメガネのレンズ等の低反射コーティング材として幅広く利用される。
また、フッ化マグネシウムスラッジを精製して得られたフッ化マグネシウムは、例えば、ロータリーキルン等の設備において熱濃硫酸と反応させて高純度のフッ化水素ガスを得ることができる。そのため、本発明のフッ素含有廃水の処理方法は、フッ素のリサイクル利用に適した商品価値の高いスラッジを回収できる。
【実施例1】
【0070】
フッ素含有廃水として液晶工場における廃液(pH10.8)を用い、添加物であるマグネシウム化合物の添加量、マグネシウム化合物添加後の反応液のpH値の条件を検討した。成分分析を行った結果得られた当該フッ素含有廃水の組成を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1より、このフッ素含有廃水には、フッ素イオンの他に、夾雑イオンとして塩素イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、ケイ酸イオン等が含まれることが判る。
【0073】
(実施方法1)
マグネシウム化合物として硫酸マグネシウムを用いた。硫酸マグネシウムの添加量はフッ素含有廃水に含まれるフッ素に対して0.3〜2モル当量とし、反応液のpH値を2〜9まで変化させた。反応は室温で1時間反応させることにより行った。
【0074】
(実施結果1−1)硫酸マグネシウムの添加量とフッ素回収率との関係
反応液のpH値を7に調整し、フッ素含有廃水に含まれるフッ素に対して0.3〜2モル当量の硫酸マグネシウムを添加したときのフッ素含有廃水に含まれるフッ素濃度(フッ素回収率)の変化を図3に示した。
図3より、フッ素含有廃水に含まれるフッ素濃度を鑑みると、フッ素の回収率を50%以上確保するには、硫酸マグネシウムの添加量が0.5モル当量以上必要である。また、添加量を2.0モル当量以上としても残留フッ素イオン濃度は200mg/Lより低下することがないことが判明した。つまり、フッ化マグネシウムの溶解度が飽和するためフッ化マグネシウムの回収率は向上せず、2.0モル当量を超過した場合、マグネシウム化合物はフッ化マグネシウムの形成に関与しないため2.0モル当量以上添加する必要は無い。
一方、硫酸マグネシウムの添加量が0.5モル当量未満であれば、フッ素の回収率が50%未満となってフッ化マグネシウムの回収が不十分となる。
【0075】
そのため、フッ素含有廃水に含まれるフッ素に対する硫酸マグネシウムを0.5〜2モル当量とすることで、50%以上のフッ素の回収が可能となる。
さらに、フッ素含有廃水に含まれるフッ素に対する硫酸マグネシウムを1.0〜1.5モル当量とすることで、75%以上のフッ素の回収が可能となる。
【0076】
(実施結果1−2)反応液のpH値とフッ素回収率との関係
フッ素含有廃水に含まれるフッ素に対して1.2モル当量の硫酸マグネシウムを添加し、反応液のpH値を2〜9に変化させたときのフッ素回収率の変化を図4に示した。
図4より、pH値が3を下回ると、フッ化マグネシウムの沈殿物が生成し難くなり回収率が60%以下に大きく低下することが判明した。従って、経済的な回収率を確保するには、少なくともpH3以上に維持する必要がある。
また、pH値3〜9において生成したスラッジに占めるフッ化マグネシウムの含有率を図5に示した。図5より、pH値8.5以下ではフッ化マグネシウムの含有率が85%以上のフッ化マグネシウムスラッジが得られた。pH値によって夾雑イオンの溶解度が変化するため、pH値が8.5を上回ると夾雑塩がスラッジに混入し、スラッジに含まれるフッ化マグネシウムの含有率が低下した。
【0077】
反応液のpH値が5〜7の範囲ではさらに商品価値の高いフッ化マグネシウムの含有率が96%以上のフッ化マグネシウムスラッジを得ることが可能であることが判明した。
尚、表1に示したように、フッ素含有廃水にはケイ酸イオンが含まれている。このとき、pH値が3〜7の範囲ではケイ酸マグネシウムは沈殿しないため、スラッジに占めるフッ化マグネシウムの含有率を96%以上に維持できる。
【0078】
(比較例)
フッ素含有廃水に添加物として、マグネシウム化合物を添加したときと、カルシウム化合物を添加したときにおけるそれぞれの生成スラッジ(フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム)が含有するフッ素化合物の割合を調べた。
添加物は、マグネシウム化合物として硫酸マグネシウム(MgSO)を、カルシウム化合物として水酸化カルシウム(CaOH)、硝酸カルシウム(Ca(NO)を用いた。添加物の添加量はそれぞれ1.2モル当量とし、反応時のpH値は、硫酸マグネシウムおよび硝酸カルシウムを使用した際には6.5、水酸化カルシウムを使用した際には12とした。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
この結果、複数の夾雑イオンが存在するフッ素含有廃水に添加物としてカルシウム化合物を用いた場合は、生成スラッジが含有するフッ素化合物の割合が80%以下であるのに対して、マグネシウム化合物を添加した場合は、生成スラッジが含有するフッ素化合物の割合が97.6%の高い値が得られた。これより、添加物としてマグネシウム化合物を添加した場合は、カルシウム化合物を用いた場合よりもフッ素化合物の含有率の高いスラッジを得ることが可能であることが判明した。
【実施例2】
【0081】
フッ素含有廃水として液晶工場における廃液を用い、添加物であるマグネシウム化合物を添加するときのフッ素含有廃水の温度条件を検討した。フッ素含有廃水は、各種イオンを高濃度に含むサンプル1と、各種イオンがサンプル1より低濃度であるサンプル2とを用いた。フッ素含有廃水の各種イオンの組成(mg/L)を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
(実施方法2−1)
マグネシウム化合物として硫酸マグネシウムを用いた。硫酸マグネシウムの添加量はフッ素含有廃水に含まれるフッ素に対して1.0モル当量とし、反応液のpH値は6、反応時間は1時間とし、硫酸マグネシウムを添加するときのフッ素含有廃水の反応温度を5〜80℃まで変化させた。反応時の液温は、所望の温度に到達した後は、その温度が維持されるようにした。
【0084】
(実験結果2−1)
図6に、フッ素含有廃水の反応温度を変化させ、硫酸マグネシウム添加により生成したフッ化マグネシウムスラッジ回収後の処理済廃水に含まれる残留フッ素濃度の変化を調べた結果を示した。また、図7にフッ素の回収率を示した。
【0085】
反応温度の上昇に伴い、両サンプル共に残留フッ素濃度が低下することが判明した。例えば、反応温度80℃における残留フッ素濃度およびフッ素回収率は、サンプル1でそれぞれ40mg/Lおよび97%、サンプル2で100mg/Lおよび82%であった。これは、液温上昇によりフッ化マグネシウムの溶解度が低下したためと考えられる。即ち、反応温度80〜100℃では、80%以上のフッ素回収率が期待される。尚、反応温度が100℃以上となると、フッ素含有廃水が沸騰するため、設備面或いは作業面において好ましくない。
【0086】
また、反応温度30℃以上では、60%以上のフッ素回収率が期待される。
このように、反応温度を高めることにより、残留フッ素濃度を低下させ、回収率を向上させることが可能となる。原水であるフッ素含有廃水の負荷変動に対して安定した回収率を確保するため、反応温度を高めることが好ましい。
【0087】
また、反応温度60℃以上では、サンプル2においても75%以上のフッ素回収率の確保が可能であった。そのため、残留フッ素を処理するための後工程への負荷を軽減する上でも、反応温度を60℃以上にすることが望ましい。
【0088】
ここで、初期フッ素濃度により残留フッ素濃度に差がみられることが判る。つまり、初期フッ素濃度が低いサンプル2では初期フッ素濃度の高いサンプル1に比べ、残留フッ素濃度が高い(フッ素の回収率が低い)結果となった。この現象は、溶解度積の差に起因する結果と考えられる。すなわち、初期フッ素濃度の高低により、添加されるマグネシウム量も増減するため、サンプル2においては、サンプル1に比べ原水のフッ素含有廃水に含まれるフッ素濃度が低く、添加されるマグネシウム量が減少する。そのため、サンプル1に比較して溶解度積が大きくなり、残留フッ素濃度が高くなったと考えられる。
【0089】
また低温反応時(5℃)では、サンプル2における残留フッ素濃度は、初期フッ素濃度540mg/Lに対して480mg/Lが残留していた。これは、初期フッ素濃度により過飽和状態として存在する時間に差が生じるためと考えられる。すなわち、初期フッ素濃度が低いと過飽和状態にある時間が長くなることを示していると考えられる。
【実施例3】
【0090】
フッ化マグネシウムスラッジを回収した処理済廃水から、イオン交換樹脂を用いて残留フッ素を除去する残留フッ素除去工程を行った。イオン交換樹脂はキレート樹脂(エポラスK−1(ミヨシ油脂株式会社製))を使用した。処理済廃水の組成(mg/L)を表4に示す。
【0091】
【表4】

【0092】
キレート樹脂に処理済廃水を通水速度SV10(SV:通水量/樹脂量/hr)で通水した。キレート樹脂への通水量に対する流出フッ素濃度を調べた結果を図8に示した。
その結果、通液量が樹脂量の60倍までは、流出フッ素濃度は3mg/L程度であった。そのため、この条件では樹脂に通水する前のフッ素濃度(46mg/L)に比べて15分の1以下とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明のフッ素含有廃水の処理方法の工程概略図
【図2】本発明のフッ素含有廃水の処理方法のシステム概略図
【図3】マグネシウム化合物の添加量とフッ素含有廃水に含まれるフッ素濃度の変化を示した図
【図4】反応液のpH値を2〜9に変化させたときのフッ素回収率の変化を示した図
【図5】反応液のpH値3〜9において生成したスラッジに占めるフッ化マグネシウムの含有率を示した図
【図6】フッ素含有廃水の反応温度を変化させ、マグネシウム化合物添加により生成したフッ化マグネシウムスラッジ回収後の処理済廃水に含まれる残留フッ素濃度の変化を示した図
【図7】フッ素含有廃水の反応温度を変化させたときのフッ素の回収率を示した図
【図8】キレート樹脂への通水量に対する流出フッ素濃度を調べた結果を示した図
【符号の説明】
【0094】
X フッ素含有廃水の処理設備
2a 凝集部
2b 沈殿分離部
3a 加熱手段
3b 保温手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱して液温を所定温度に維持してあるフッ素含有廃水にマグネシウム化合物を添加してフッ化マグネシウムを生成させる添加工程と、前記添加工程により生成したフッ化マグネシウムを凝集剤添加により凝集分離してフッ化マグネシウムスラッジとして回収する凝集分離工程とを有するフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項2】
加熱して液温を所定温度に維持してあるフッ素含有廃水にマグネシウム化合物を添加してフッ化マグネシウムを生成させる添加工程と、前記添加工程により生成したフッ化マグネシウムを遠心分離してフッ化マグネシウムスラッジとして回収する遠心分離工程を有するフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項3】
回収した前記フッ化マグネシウムスラッジを脱水して乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程により乾燥したフッ化マグネシウムスラッジを精製してフッ化マグネシウムを回収する精製工程とを有する請求項1又は2に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項4】
前記フッ化マグネシウムスラッジを回収した処理済廃水から残留フッ素を除去する残留フッ素除去工程を有する請求項1〜3の何れか一項に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項5】
前記残留フッ素除去工程が、イオン交換樹脂により残留フッ素の除去処理を行う請求項4に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項6】
前記イオン交換樹脂が、アニオン系イオン交換樹脂或いはキレート樹脂である請求項5に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項7】
前記添加工程における前記フッ素含有廃水の液温が30〜100℃である請求項1〜6の何れか一項に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項8】
前記フッ素含有廃水の液温が60℃より高い請求項7に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項9】
前記添加工程における前記フッ素含有廃水のフッ素に対するマグネシウム化合物の添加量を0.5〜2モル当量とする請求項1〜8の何れか一項に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項10】
前記添加工程における前記フッ素含有廃水のpH値を3〜8.5としてある請求項1〜9の何れか一項に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項11】
前記フッ素含有廃水のpH値を5〜7としてある請求項10に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項12】
前記フッ素含有廃水にケイ酸イオンが含まれるとき、pH値を3〜7としてある請求項10に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項13】
前記フッ素含有廃水にリン酸イオン又は亜硫酸イオンのうち少なくとも一方が含まれるとき、前記添加工程の前に、イオン交換膜により当該リン酸イオン又は亜硫酸イオンを分離除去するイオン交換膜処理工程を行う請求項1〜12の何れか一項に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項14】
前記フッ素含有廃水に亜硫酸イオンが含まれるとき、前記添加工程の前に、亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化する酸化工程を行う請求項1〜12の何れか一項に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項15】
前記添加工程の前に、前記フッ素含有廃水を濃縮する濃縮工程を行う請求項1〜14の何れか一項に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項16】
前記マグネシウム化合物が、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムからなる群より選択される請求項1〜15の何れか一項に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【請求項17】
フッ素含有廃水を処理してフッ素化合物を生成するフッ素含有廃水の処理設備であって、
前記フッ素含有廃水を加熱する加熱手段と、前記フッ素含有廃水の液温を所定温度に維持する保温手段と、前記フッ素化合物を凝集させる凝集部と、凝集したフッ素化合物を沈殿分離させる沈殿分離部とを有するフッ素含有廃水の処理設備。
【請求項18】
フッ素含有廃水を処理してフッ素化合物を生成するフッ素含有廃水の処理設備であって、
前記フッ素含有廃水を加熱する加熱手段と、前記フッ素含有廃水の液温を所定温度に維持する保温手段と、前記フッ素化合物を遠心分離する遠心分離手段とを有するフッ素含有廃水の処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−61754(P2006−61754A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243862(P2004−243862)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(501344821)株式会社アクアテック (4)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】