説明

フッ素含有高分子化合物、その製造方法及び口腔用組成物

【課題】口腔内にフッ化物イオンを長時間滞留させるフッ素含有高分子化合物、その製造方法、及び該フッ素含有高分子化合物を配合してなる口腔用組成物を提供する。
【解決手段】カチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基の一部又は全部が、フッ素原子を有する多価アニオンを対イオンとする塩であることを特徴とするフッ素含有高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有高分子化合物、その製造方法、及びフッ素含有高分子化合物を含有する口腔用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から口腔の疾患の一つであるう蝕の予防及び修復を目的に、フッ化物配合口腔用製剤の使用が日常のセルフケア行動として推奨されている。う蝕の予防及び修復は、フッ素イオンが初期のう蝕部位を再石灰化することにより、歯質を修復することによる。ここでフッ素イオンは、通常、口腔用製剤中に配合される様々なフッ化物から供給されるもので、実際に多く使用されるフッ化物には、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ等が挙げられる。う蝕の予防及び修復効果を向上させるためには、フッ素イオンや、フッ素イオンを唾液中のフォスファターゼにより放出するモノフルオロリン酸イオン等のフッ化物イオンの口腔内滞留性を上げる技術開発が必要とされている。
【0003】
これまでのフッ化物配合口腔用製剤に関する技術としては、フッ化物とカチオン化セルロースに特定の香料成分を配合することで、フッ化物イオンの口腔内滞留性等を向上させる技術(例えば、特許文献1:特開2001−163743号公報)、フッ素イオンを対イオンとして含有するカチオン性基含有高分子を配合し、製剤中でのフッ素配合性を向上させる技術(例えば、特許文献2:特開平3−5417号公報)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、フッ化物とカチオン化セルロースとの単なる配合による方法では、フッ化物イオンの口腔内滞留効果が不十分であるという問題がある。また、フッ素イオンを対イオンとして含有するカチオン性基含有高分子においては、製造時や、製剤中、又は使用時に口腔内において、フッ素イオンはすぐに他のアニオンと置換されてしまうため、フッ化物イオンを口腔内に長時間滞留させることは困難であった。以上のことから、フッ化物イオンが口腔内に滞留し、う蝕予防効果が短時間で消失することなく、効果的にフッ化物イオンの口腔内滞留性を向上させる技術が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開2001−163743号公報
【特許文献2】特開平3−5417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、口腔内にフッ化物イオンを長時間滞留させるフッ素含有高分子化合物、その製造方法、及び該フッ素含有高分子化合物を配合してなる口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、カチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基がフッ素原子を有する多価アニオンを対イオンとする塩であるフッ素含有高分子化合物が、口腔内にフッ化物イオンを長時間滞留させることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は、
[1].カチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基の一部又は全部が、フッ素原子を有する多価アニオンを対イオンとする塩であることを特徴とするフッ素含有高分子化合物、
[2].フッ素原子を有する多価アニオンがモノフルオロリン酸である[1]記載のフッ素含有高分子化合物、
[3].カチオン性基を有する高分子化合物と、そのカチオン性基のモル当量の0.5倍以上のアニオン性基を有するフッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを、溶液中で接触させることを特徴とする[1]のフッ素含有高分子化合物の製造方法、
[4].[1]又は[2]記載のフッ素含有高分子化合物を配合してなる口腔用組成物、
[5].カチオン性基を有する高分子化合物と、フッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを接触させ、カチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基の一部又は全部が、フッ素原子を有する多価アニオンを対イオンとする塩であるフッ素含有高分子化合物を得、この得られたフッ素含有高分子化合物を配合してなる口腔用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、口腔内にフッ化物イオンを長時間滞留させることできるフッ素含有高分子化合物、その製造方法、及び該フッ素含有高分子化合物を配合してなる口腔用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のフッ素含有高分子化合物は、カチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基の一部又は全部が、フッ素原子を有する多価アニオンを対イオンとする塩であるものである。
【0011】
カチオン性基を有する高分子化合物とは、カチオン基及び/又はカチオン基にイオン化され得る基を有する高分子化合物であり、両性高分子化合物も含まれ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。この中でも、第1級、第2級、第3級アミン基及び/又は第4級アンモニウム基を有する高分子化合物が好ましい。
【0012】
具体的には、タンパク質、その加水分解物、タンパク質のカチオン化物、アミノ酸からなるポリマー、カチオン化多糖類、カチオン化ポリビニルピロリドン、カチオン性モノマー含有重合体、アミノ変性又はアンモニウム変性シリコーン等が挙げられる。
【0013】
タンパク質の具体例としては、ラクトフェリン、リゾチーム、コラーゲン、カゼイン等が挙げられる。
タンパク質のカチオン化物としては、カチオン化コラーゲン、カチオン化ケラチン、カチオン化加水分解コムギタンパク等が挙げられる。
アミノ酸からなるポリマーとしては、ポリリジン等が挙げられる。
【0014】
カチオン化多糖類としては、カチオン化デキストラン、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化グアガム、カチオン化デンプン等が挙げられる。カチオン化デキストランとしては、デキストランヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテル(名糖産業社製のカチオン化デキストラン CDC−L、CDC、CDC−3M、CDC−H(以上、商品名)等)が挙げられる。カチオン化ヒドロキシエチルセルロースとしては、ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテル(ライオン社製のレオガードG、レオガードGP等、ユニオン・カーバイト・コーポレーション製のポリマーJR−125、ポリマーJR−400、ポリマーJR−30M等(以上、商品名))や、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(日本エヌエスシー社製セルコートL−200、セルコートH−100等(以上、商品名))が挙げられる。カチオン化グアガムとしては、グアーガムヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテル(ローディア社製のジャガーC−13S、ジャガーC−14S、ジャガーC−17、ジャガーEXCEL(以上、商品名)等)が挙げられる。
【0015】
また、カチオン性基を有する高分子化合物としては、カチオン性モノマーを含有するモノマー混合物の(共)重合体が挙げられる。カチオン性モノマーを含有するモノマー混合物の(共)重合体としては、カチオン性モノマーのホモポリマー、カチオン性モノマーを含有するモノマー混合物の共重合体が挙げられる。共重合に用いられるカチオン性モノマー以外のモノマーとしては限定されるものではなく、例えば、市販のアニオン性モノマー、ノニオン性モノマー、両性モノマー、他のカチオン性モノマー等を1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0016】
カチオン性モノマーを含有するモノマー混合物の(共)重合体の具体例としては、メタクリル酸トリメチルアンモニウムエチルクロリド(共)重合体、メタクリル酸ジメチルアミノエチル(共)重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド(共)重合体、ジメチルメチレンピペリジニウムクロリド(共)重合体、N−メタクリロイルオキシエチルN,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(共)重合体等が挙げられる。
【0017】
メタクリル酸トリメチルアンモニウムエチルクロリド(共)重合体としては、メタクリル酸アルキルとの共重合体が挙げられ、具体的には、デグサ社製のオイドラギット(RL100、RS100、RLPO、RSPO、RL30D、RS30D、RL12.5、RS12.5(以上、商品名))等が挙げられる。
【0018】
メタクリル酸ジメチルアミノエチル(共)重合体としては、メタクリル酸アルキルとの共重合体が挙げられ、具体的には、デグサ社製のオイドラギット(E100、E12.5、EPO(以上、商品名))等が挙げられる。
【0019】
ジメチルジアリルアンモニウムクロリド(共)重合体としては、アクリルアミドとの共重合体が挙げられ、具体的には、イー・シー・シー・インターナショナル社製のマーコート(280、550、2200(以上、商品名))等が挙げられる。また、アクリルアミドとアクリル酸との共重合体が挙げられ、具体的には、カルゴン社製のマーコート(コート3330プラス(以上、商品名))等が挙げられる。
【0020】
ジメチルメチレンピペリジニウムクロリド(共)重合体としては、具体的には、ジメチルメチレンピペリジニウムクロリドのホモポリマーである、イー・シー・シー・インターナショナル社製のマーコート(100(以上、商品名))等が挙げられる。
【0021】
N−メタクリロイルオキシエチルN,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(共)重合体等としては、メタクリル酸アルキルエステルとの共重合体が挙げられ、三菱化学社製のユカフォマー(R205S、R402、SM、W、202、301、510(以上、商品名))等が挙げられる。
【0022】
上記カチオン性モノマーを含有するモノマー混合物の(共)重合体の重量平均分子量は、モノマー濃度、重合開始剤濃度、重合に用いる溶媒、重合温度、その他、添加剤等により、自由に調節することができる。
【0023】
カチオン性基の一部又は全部の対イオンであるフッ素原子を有する多価アニオンとは、分子中にフッ素原子を有する2価以上のアニオン電荷を有するイオンをいう。このようなイオンであれば特に限定されず、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。フッ素原子を有する多価アニオンとしては、口腔用組成物への使用実績等の観点から、モノフルオロリン酸イオンが挙げられる。この対イオンが一価のアニオンである場合には、カチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基と、アニオン性基とからなるイオン結合が、他のアニオンの存在環境下で容易に再イオン交換され、口腔内で、カチオン性基を有する高分子化合物が持続的にフッ化物イオンを事実上保持できない。また、塩はカチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基の一部又は全部に形成されればよいが、特に、高分子化合物がタンパク質以外の場合は、全部に形成されることが好ましい。タンパク質の場合は、その折りたたみ構造のため、塩が全部に形成されることは困難であるが、構造的に塩形成が可能な全ての箇所に形成されることが好ましい。
【0024】
本発明のフッ素含有高分子化合物の重量平均分子量としては、一般に高分子化合物とみなされうる限り特に限定されないが、通常500〜10,000,000であり、5,000〜5,000,000が好ましい。なお、本発明において、重量平均分子量は、プルランを基準物質としたゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)による測定値である。
【0025】
本発明のフッ素含有高分子化合物は、従来知られている対イオン導入法を全て使用でき、特に限定されないが、例えば、カチオン性基を有する高分子化合物と、フッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを、溶液中で接触させてイオン交換する方法が好ましい。接触の方法としては、カチオン性基を有する高分子化合物と、フッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを水溶液中で混合する方法や、イオン交換樹脂等のイオン交換担体にフッ素原子を有する多価アニオンを一旦担持させた後に、カチオン性基を有する高分子化合物水溶液をイオン交換樹脂に通す方法等が挙げられる。多価アニオン性フッ化物塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等が挙げられ、好ましくはナトリウム塩が挙げられる。この中でもカリウム塩が好ましい。
【0026】
ここで、カチオン性基を有する高分子化合物と、フッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを溶液中で接触させる際の比率は、特に限定されないが、カチオン性基を有する高分子化合物と、そのカチオン性基のモル当量の0.5倍以上、好ましくは1倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上のアニオン性基を有するフッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを、溶液中で接触させることが好ましい。上記倍率の上限は特に限定されないが、好ましくは100倍以下、より好ましくは50倍以下である。
【0027】
本発明の口腔用組成物は、上記フッ素含有高分子化合物を配合してなる口腔用組成物、 カチオン性基を有する高分子化合物と、フッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを接触させ、カチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基の一部又は全部が、フッ素原子を有する多価アニオンを対イオンとする塩であるフッ素含有高分子化合物を得、この得られたフッ素含有高分子化合物を配合してなる口腔用組成物である。
【0028】
口腔用組成物中の本発明のフッ素含有高分子化合物の配合量は、口腔用組成物0.05〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%である。
【0029】
本発明の口腔用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の成分を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。任意成分としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、界面活性剤、洗浄剤、保湿剤、増粘剤、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、油分、アルコール類、本発明のフッ素含有高分子化合物以外の高分子化合物、防腐剤、包接化合物、酸化防止剤・抗酸化剤、キレート剤、無機粉体、ガムベース、酸味料、軟化剤、着色料、光沢剤、乳化剤、甘味剤、pH調整剤、香料、色素、生薬、糖類、塩類、アミノ酸類、薬効成分、抗菌剤等が挙げられる。
【0030】
本発明の口腔用組成物の具体的な製品形態は特に限定されるものではなく、例えば、固形歯磨き剤、ジェル状歯磨き剤、液体歯磨き剤、洗口剤、口中清涼剤、ガム、トローチ、塗布剤、入れ歯洗浄剤、シート剤、スプレー、その他任意の形態で使用することができる。
【0031】
本発明の口腔用組成物は、本発明のフッ素含有高分子化合物、必要に応じて任意成分、及び水(残部)を混合し、常法に基づいて得ることができる。本発明の口腔用組成物は、カチオン性基を有する高分子化合物と、フッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを別々に、必要に応じて任意成分、及び水(残部)を混合することでは得ることができず、予め、カチオン性基を有する高分子化合物と、フッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを接触させ、カチオン性基を含有する高分子化合物のカチオン性基がフッ素原子を有する多価アニオンを対イオンとする塩であるフッ素含有高分子化合物を得、この得られたフッ素含有高分子化合物を、必要に応じて任意成分、及び水(残部)と混合することにより得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下、調製例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0033】
[高分子化合物1の製造例]
1質量%ラクトフェリン水溶液100gをビーカーに入れ、5質量%モノフルオロリン酸ナトリウム水溶液100gを添加し(カチオン性基のモル当量に対するアニオン性基42倍)、スターラーバーで24時間撹拌した。撹拌後、得られた溶液を透析膜に入れて、24時間透析処理し、高分子化合物とイオン結合しているイオン以外の溶液中のイオンを除去した後、エバポレーター及び凍結乾燥器を使用して、高分子化合物1(モノフルオロリン酸化ラクトフェリン:ラクトフェリンのカチオン性基の一部又は全部が、モノフルオロリン酸を対イオンとする塩)を得た。なお、高分子中のモノフルオロリン酸イオンの割合は、高周波誘導結合プラズマ発光(ICP発光)分析装置において、リンを定量することにより測定した。
【0034】
[高分子化合物2の製造例]
フッ素含有高分子化合物1の製造例において、ラクトフェリンをカチオン化ヒドロキシエチルセルロース(セルコートL−200(日本エヌエスシー社製,商品名))とした以外は、同様にして、フッ素含有高分子化合物2(モノフルオロリン酸化ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド:ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリドのカチオン性基の一部又は全部が、モノフルオロリン酸を対イオンとする塩)を得た。この場合のカチオン性基のモル当量に対するアニオン性基量は38倍である。
【0035】
[比較高分子化合物1の製造例]
フッ素含有高分子化合物1の製造例において、5質量%モノフルオロリン酸ナトリウム水溶液を、1.4質量%フッ化ナトリウム水溶液とした以外は同様にして、比較高分子化合物1(フッ化ラクトフェリン)を得た。この場合のカチオン性基のモル当量に対するアニオン性基は40倍である。
【0036】
上記で得られたフッ素含有高分子化合物について、下記方法に基づいてフッ素保持率を評価した。結果を表1に記載する。
フッ素保持率
高分子化合物0.1質量%水溶液を10gずつ調製し、それを半透膜中に入れた。ビーカーに唾液モデル液として塩化カリウム50mmol/L水溶液60gを入れ、その溶液中に、上記高分子化合物0.1質量%水溶液を入れた半透膜を宙吊りになるように入れた。ここで、半透膜は、高分子化合物を透過せず、モノフルオロリン酸イオン及びフッ素イオンを透過するもので、Spectrum Laboratories(スペクトラム ラボラトリーズ)社製の再生セルロース(商品名Spectra/Por 7、分画分子量1000)を用いた。ビーカーの底には、スターラーバーを入れ撹拌した。30分後、半透膜内側の水溶液を回収し、液量がほぼ10gであることを確認の上、液中のフッ素イオン濃度を定量した。フッ素イオンの場合はフッ素電極を使用して直接フッ素イオン濃度(FC1とする)を測定し、モノフルオロリン酸イオンの場合には、まずモノフルオロリン酸イオンのリン濃度(PC1とする)を定量し、次式により、モノフルオロリン酸イオンのフッ素イオン濃度(FC1)を算出した。
C1=PC1/31×19
また、ここで、浸漬前の高分子化合物0.1質量%水溶液のフッ素イオン濃度FC0について、フッ素イオンの場合、及びモノフルオロリン酸イオンの場合それぞれについて、同様の方法により測定した。
浸漬後の半透膜内側の水溶液中のフッ素イオン濃度FC1と半透膜内側の水溶液の質量L1、及び浸漬前の高分子化合物0.1質量%水溶液中のフッ素イオン濃度FC0と液質量L0から、下記式に基づいてフッ素含有高分子化合物の唾液モデル液中におけるフッ素保持率を算出した。
フッ素保持率=(FC1×L1)/(FC0×L0)×100(%)
結果は、上記フッ素保持率が15%未満のものを×、15%以上50%未満のものを△、50%以上70%未満のものを○、70%以上のものを◎として示した。なお、フッ素含有高分子化合物が全くフッ素保持性を有しない場合においても、浸漬後のフッ素化合物は、半透膜内側の高分子化合物0.1質量%水溶液(10g)と唾液モデル液(60g)とに均一分散するため、見かけ上フッ素保持率は1/7(14%)となる。このため、フッ素保持率が15%未満のものを×とした。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示されるように、実施例の高分子化合物は、比較例の高分子化合物と比べて、唾液モデル液浸漬後のフッ素保持性に優れていた。
【0039】
[実施例1〜2、比較例1]
高分子化合物1の1質量%水溶液(実施例1)、高分子化合物2の1質量%水溶液(実施例2)、モノフルオロリン酸ナトリウム0.076質量%、及びラクトフェリン1質量%を含む水溶液(比較例1)を得た。得られた各組成物について、下記評価を行った。
【0040】
モノフルオロリン酸イオンの長時間滞留性の評価
実施例及び比較例の水溶液それぞれ0.5gと塩化カリウム50mmol/L水溶液1.5gの混合液に、ヒドロキシアパタイト(HAP)粉100mgを浸漬し、20分撹拌した。遠心濾過器によりHAP粉を回収し、ナノピュア水で濯いだ。得られたHAP粉を、ヒトから吐出した唾液5gに分散して室温で6時間撹拌し、その後、遠心濾過器によりHAP粉を回収して、高分子化合物処理HAP粉を得た。次に、高分子化合物処理HAP粉に吸着したモノフルオロリン酸イオン量を、モノフルオロリン酸の加水分解によって生成するフッ素イオンの定量により算出した。まず、高分子化合物処理HAP粉に、0.5mol/Lの過塩素酸水溶液3.5gを添加し60℃で10分加熱して、モノフルオロリン酸イオンをフッ素イオンに分解した。得られた液を、1mol/L、pH5.5のクエン酸カリウムバッファーで100倍希釈した後に、フッ素イオン電極によりフッ素イオンの定量を行い、HAP粉に吸着したモノフルオロリン酸イオン及びフッ素イオンに由来する全フッ素イオン量を算出した(F1とする)。また、同時に、高分子化合物処理HAP粉に、0.5mol/Lの過塩素酸水溶液3.5gを添加した後、直ぐに1mol/L、pH5.5のクエン酸カリウムバッファーで100倍希釈してフッ素イオンの定量を行なった。この条件下ではモノフルオロリン酸イオン由来のフッ素イオンは検出されないため、得られた定量値から、HAP粉に吸着したフッ素イオンのみに由来するフッ素イオン量を算出した(F2とする)。これらの値から、モノフルオロリン酸イオンの吸着残存率を次式により算出した。
モノフルオロリン酸イオンの吸着残存率(%)=[(F1−F2)/F0]×100
ここで、F0は、使用した組成物及び比較組成物中のフッ素イオン量であり、高周波誘導結合プラズマ発光(ICP発光)分析装置により、組成物中のモノフルオロリン酸イオンのリン量(P0とする)を定量し、次式により算出した。
0=P0/31×19
【0041】
上記吸着残存率が0.1%未満のものを×、0.1%以上〜0.5%未満のものを△、0.5%以上のものを○とした。なお、測定はそれぞれの組成物に対して5回ずつ行い、最大値と最小値を除去した後、残りの3点に対する平均値を測定値とした。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示されるように、上記各実施例の組成物は、比較例の組成物と比べて、モノフルオロリン酸イオンの長時間滞留性に優れるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基の一部又は全部が、フッ素原子を有する多価アニオンを対イオンとする塩であることを特徴とするフッ素含有高分子化合物。
【請求項2】
フッ素原子を有する多価アニオンがモノフルオロリン酸である請求項1記載のフッ素含有高分子化合物。
【請求項3】
カチオン性基を有する高分子化合物と、そのカチオン性基のモル当量の0.5倍以上のアニオン性基を有するフッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを、溶液中で接触させることを特徴とする請求項1記載のフッ素含有高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のフッ素含有高分子化合物を配合してなる口腔用組成物。
【請求項5】
カチオン性基を有する高分子化合物と、フッ素原子を有する多価アニオン及び/又はその塩とを接触させ、カチオン性基を有する高分子化合物のカチオン性基の一部又は全部が、フッ素原子を有する多価アニオンを対イオンとする塩であるフッ素含有高分子化合物を得、この得られたフッ素含有高分子化合物を配合してなる口腔用組成物。

【公開番号】特開2008−7475(P2008−7475A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181068(P2006−181068)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】