説明

フルオロスルホニル基含有モノマーおよびそのポリマー、ならびにスルホン酸基含有ポリマー

【課題】高い重合反応性を有しかつフルオロスルホニル基を複数有するフルオロスルホニル基含有モノマーを提供する。また、このモノマーを使用して得られる、フルオロスルホニル基含有ポリマーおよびスルホン酸基含有ポリマーを提供する。
【解決手段】2つのフルオロスルホニル基を有するパーフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)誘導体、その製造方法およびその合成中間体。この化合物を単独でまたはコモノマーと重合して得られるフルオロスルホニル基含有ポリマー、および該ポリマーのフルオロスルホニル基を加水分解して得られるスルホン酸基含有ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン交換膜(例えば、食塩電解や固体高分子型燃料電池に使用される膜)や燃料電池の触媒層に用いる電解質等として有用なスルホン酸基含有ポリマーの前駆体である、フルオロスルホニル基を含有するポリマーおよびこの原料となりうる新規なフルオロスルホニル基含有モノマーに関する。また本発明は、該フルオロスルホニル基含有モノマーの製造方法、および該モノマーの製造中間体として有用な新規化合物に関する。さらに、上記フルオロスルホニル基を含有するポリマーから得られるスルホン酸基含有ポリマーおよび該スルホン酸基含有ポリマーからなる固体高分子型燃料電池用電解質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食塩電解用膜、固体高分子型燃料電池の膜または触媒層には、下式で表される含フッ素モノマーとテトラフルオロエチレンのコポリマーが用いられている。ただし、下式中、Yはフッ素原子またはトリフルオロメチル基を示し、nは1〜12の整数を示し、mは0〜3の整数を示し、kは0または1を示し、かつ、m+k>0である。
CF=CF−(OCFCFY)−O−(CF−SO
さらに、該コポリマー中のフルオロスルホニル基(−SOF)は、アルカリ加水分解した後、酸で処理することによって、スルホン酸基(−SOH)に変換されうる。
【0003】
スルホン酸基含有ポリマー(以下、スルホン酸ポリマーとも記す。)は、高イオン交換容量の膜にして食塩電解セル等に使用した場合には、電解電力を低減できるポリマーである。またスルホン酸ポリマーを燃料電池に使用した場合には、発電エネルギー効率を向上させうるポリマーである。そして、該スルホン酸ポリマーとしては、よりイオン交換容量が大きく、より電気抵抗が低い重合体であるのが好ましい。
【0004】
しかし、スルホン酸ポリマーのイオン交換容量を大きくする目的で、共重合に用いるフルオロスルホニル基含有モノマーの比率を高くすると、コポリマーの分子量が低くなる問題があった。分子量の低いコポリマーから形成される膜は、機械強度および耐久性が不充分であり、実用的ではない問題があった。フルオロスルホニル基含有モノマーの比率を高くすることなくスルホン酸ポリマーのイオン交換容量を大きくする手段として、フルオロスルホニル基を複数有するフルオロスルホニル基含有モノマーの使用が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、高分子量のスルホン酸ポリマーを得るためにフルオロスルホニル基含有モノマーはテトラフルオロエチレンなどの他のフルオロモノマーとの共重合性が高いことが必要であり、従来のフルオロスルホニル基含有モノマーではこの共重合性が充分でなかった。高い重合反応性を有するフルオロスルホニル基含有モノマーとしてフルオロスルホニル基を有するパーフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)誘導体が知られている(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。しかし、フルオロスルホニル基を複数有する当該誘導体は知られていない。
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/013532号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/037885号パンフレット
【特許文献3】特開2005−314388号公報
【特許文献4】特開2006−290864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、イオン交換容量が高く抵抗の小さい電解質材料であって、従来汎用的に用いられている電解質材料よりも高い軟化温度を有し、耐久性に優れた固体高分子形燃料電池用の電解質材料を提供することを課題とする。また、本発明は、その材料を合成するための新規なモノマーおよびポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高い重合反応性を有しかつフルオロスルホニル基を複数有するフルオロスルホニル基含有モノマーを提供する。本発明の、2つのフルオロスルホニル基を有するパーフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)誘導体は新規なモノマーである。
【0009】
本発明は、2つのフルオロスルホニル基を有しかつ高い重合反応性を有するフルオロスルホニル基含有のパーフルオロモノマー、その製造方法およびその合成中間体、該パーフルオロモノマーを重合して得られるフルオロスルホニル基含有ポリマー、該ポリマーからスルホン酸ポリマーを製造する方法、該スルホン酸ポリマー、並びに、該スルホン酸ポリマーからなる固体高分子形燃料電池用の電解質材料に関する下記発明である。
【0010】
<1> 下記式(3)で表される化合物。
【0011】
【化1】

【0012】
ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【0013】
<2> −Rf1−SOF、−Rf2−SOFがいずれも、パーフルオロ化された、2−フルオロスルホニルエトキシ基置換アルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は1〜3)である、上記<1>に記載の化合物。
【0014】
<3> 下記式(2)で表される化合物を熱分解する、下記式(3)で表される化合物の製造方法。
【0015】
【化2】

【0016】
ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【0017】
<4> −Rf1−SOF、−Rf2−SOFがいずれも、パーフルオロ化された、2−フルオロスルホニルエトキシ基置換アルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は1〜3)である、上記<3>に記載の製造方法。
【0018】
<5> 前記式(2)で表される化合物を、下記式(1)で表される化合物から、(a)エポキシ化工程、(b)ジオキソラン環形成工程、および(c)フッ素化工程を経て製造する、上記<3>または<4>に記載の製造方法。
【0019】
【化3】

【0020】
ただし、
、R:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい、炭素数1〜8のアルキレン基。
【0021】
<6> −R−SOF、−R−SOFがいずれも、2−フルオロスルホニル−テトラフルオロエトキシ基置換アルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は1〜3)である、上記<5>に記載の製造方法。
【0022】
<7> 下記式(2)で表される化合物。
【0023】
【化4】

【0024】
ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
<8> −Rf1−SOF、−Rf2−SOFがいずれも、パーフルオロ化された、2−フルオロスルホニルエトキシ基置換アルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は1〜3)である、上記<7>に記載の化合物。
【0025】
<9> 下記式(3)で表される化合物の1種以上、または当該化合物の1種以上と当該化合物と共重合しうる重合性単量体の1種以上、を重合することを特徴とするフルオロスルホニル基含有重合体の製造方法。
【0026】
【化5】

【0027】
ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【0028】
<10> 下記式(3U)で表されるモノマー単位の1種以上、または当該モノマー単位の1種以上と他のモノマー単位の1種以上と、を含むフルオロスルホニル基含有ポリマー。
【0029】
【化6】

【0030】
ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【0031】
<11> 分子量が5×10〜5×10であり、他のモノマー単位を含む場合には、式(3U)で表されるモノマー単位を0.1〜99.9モル%で含む、上記<10>に記載のフルオロスルホニル基含有ポリマー。
【0032】
<12> 上記<10>または<11>に記載のフルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基をアルカリ加水分解する、または、該アルカリ加水分解した後に酸処理する、ことを特徴とするスルホン酸塩基またはスルホン酸基を含有するポリマーの製造方法。
【0033】
<13>下記式(5U)で表される単位の1種以上、または当該単位の1種以上と他の単位の1種以上と、を含むスルホン酸基含有ポリマー。
【0034】
【化7】

【0035】
ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【0036】
<14>分子量が5×10〜5×10であり、他の単位を含む場合には、式(5U)で表される単位を0.1〜99.9モル%で含む、上記<13>に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
<15>上記<13>または<14>に記載のスルホン酸基含有ポリマーからなる固体高分子型燃料電池用電解質材料。
【発明の効果】
【0037】
本発明のモノマーは、高い重合反応性を有するペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造を有し、かつ2つのフルオロスルホニル基を有するパーフルオロモノマーであることより、テトラフルオロエチレンなどの共重合性モノマーとの共重合により高分子量のコポリマーを得やすく、機械強度および耐久性が高いスルホン酸ポリマーを得ることが容易である。また、本発明モノマーは2つのフルオロスルホニル基を有することより、1つのフルオロスルホニル基を有するモノマーに比較して、その共重合割合が低くてもイオン交換容量の高いスルホン酸ポリマーを得ることができる。
【0038】
本発明のスルホン酸ポリマーは、高いイオン交換容量を有するため電気抵抗が低く、かつ軟化温度が高く機械的強度に優れ、さらに耐久性も有することより、固体高分子形燃料電池用電解質材料として有用である。電解質材料の軟化温度が高いことより、従来よりも高い温度で電池運転することが可能になり、燃料電池の高出力化や冷却効率向上に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本明細書においては、式(3)で表される化合物を化合物(3)と記す。また、式(3a)で表される基は基(3a)と記し、式(3U)で表される単位は単位(3U)と記す。単位(3U)を含むポリマーをポリマー(3U)と記す。他の式で表される化合物、基、単位、およびポリマーにおいても同様に記す。
【0040】
ポリマーにおける単位とは、モノマーが重合することによって形成される該モノマーに由来する単位を意味し、本発明における単位は重合反応によって直接形成する単位であっても、重合反応後の化学変換によって形成される単位であってもよい。それら単位のうち、モノマーの重合反応により変化する不飽和基を除きモノマーの構造が維持された単位をモノマー単位と記す。
以下において、フルオロスルホニル基を−SOF基、フルオロカルボニル基を−COF基、スルホン酸基を−SOH基、とも記す。
【0041】
本発明は下記化合物(3)を提供する。
【0042】
【化8】

【0043】
化合物(3)におけるRf1、Rf2は、それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基を表す。各パーフルオロアルキレン基のより好ましい炭素数は1〜6であり、特に2〜5が好ましい。また、各パーフルオロアルキレン基の炭素数が2以上の場合、その炭素原子間にはエーテル性酸素原子を有していてもよく、そのエーテル性酸素原子の数は1または2が好ましく、特に1が好ましい。また、各パーフルオロアルキレン基は、直鎖状であるか、またはトリフルオロメチル基を多くとも2つ有する分岐状であることが好ましく、特に直鎖状であることが好ましい。なお、Rf1、Rf2は同一の基であることが好ましいがこれに限られない。例えば、Rf1、Rf2は、炭素数の異なるパーフルオロアルキレン基であってもよく、一方がエーテル性酸素原子を有し、他方がエーテル性酸素原子を有しない、パーフルオロアルキレン基であってもよい。
【0044】
化合物(3)における−Rf1−SOF、−Rf2−SOFは、いずれも、下記式(s−1)で表される基が好ましい。ただし、pは1以上の整数、qは1以上の整数であってp+qは2〜5、rは0または1を表す。基(s−1)は、pが1〜3、qが2、rが1であること、すなわち、パーフルオロ化された、2−フルオロスルホニルエトキシ基置換アルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は1〜3)であること、が好ましい。
【0045】
【化9】

【0046】
化合物(3)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0047】
【化10】

【0048】
本発明の化合物(3)は、下記化合物(2)を熱分解して製造することができる。化合物(2)におけるRf1、Rf2は、化合物(3)におけるRf1、Rf2に対応する前記の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基である。なお、化合物(2)は新規化合物である。
【0049】
【化11】

【0050】
化合物(2)の熱分解は、前記特許文献2、特許文献3、特許文献4などに記載の2位に−COF基とトリフルオロメチル基を有する1,3−ジオキソラン誘導体から熱分解により2位にジフルオロメチレン(=CF)基を有する1,3−ジオキソラン誘導体を製造する方法に準じて行うことができる。以下に化合物(2)の熱分解の概要を説明する。
【0051】
熱分解反応は、気相反応または液相反応で実施でき、気相反応で実施するのが効率的であり好ましい。そして、熱分解反応の方法および反応温度は、化合物(2)の沸点や安定性により選択するのが好ましい。さらに、化合物(2)は、気相反応で効率的に熱分解反応を行いうる理由で、常圧における沸点が350℃以下であるのが好ましい。さらに気相反応は、ガラスビーズ、アルカリ金属の塩、またはアルカリ土類金属の塩の存在下に実施するのが好ましい。
【0052】
気相反応は連続式反応で行うのが好ましい。連続式反応は、加熱した反応管中に気化させた化合物(2)を通し、生成した化合物(3)を出口ガスとして得て、これを凝縮し、連続的に回収する方法により実施するのが好ましい。気相反応で熱分解を行う場合の反応温度は、150℃以上が好ましく、200℃〜500℃が特に好ましく、とりわけ250℃〜450℃が好ましい。反応温度が高くなりすぎると、生成物の分解反応により収率が低下するおそれがある。また気相反応で熱分解反応を行う場合には、管型反応器を用いるのが好ましい。管型反応器を用いる場合の滞留時間は、空塔基準で0.1秒〜10分程度が好ましい。反応圧力は特に限定されない。
【0053】
管型反応器を用いて気相反応を行う場合には、反応を促進させる目的で、反応管中にガラス、アルカリ金属の塩、またはアルカリ土類金属の塩を充填するのが好ましい。アルカリ金属の塩またはアルカリ土類金属の塩としては、炭酸塩またはフッ化物が好ましい。ガラスとしては一般的なソーダガラスが挙げられ、特にビーズ状にして流動性を上げたガラスビーズが好ましい。
【0054】
気相反応においては、化合物(2)の気化を促進する目的で、熱分解反応には直接は関与しない不活性ガスの存在下で反応を行うのが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。不活性ガス中の化合物(2)の濃度は0.01〜50vol%程度が好ましい。
【0055】
熱分解反応は、化合物(2)を対応するカルボン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩に変換した後に熱分解することもできる。該方法においては、化合物(2)は溶媒の存在下、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または炭酸水素塩と反応させ、溶媒を除去することにより、対応するカルボン酸のアルカリ金属の塩、またはアルカリ土類金属の塩に導かれる。該方法では、化合物(2)中の−SOF基を加水分解することなく、−COF基をカルボン酸の塩に選択的に導くことができる。溶媒としては非極性溶媒であっても、極性溶媒であってもよく、低温での反応が可能になることから、極性溶媒であるのが好ましい。化合物(2)のアルカリ金属塩の熱分解の温度は、100〜300℃が好ましく、特に150〜250℃が好ましい。アルカリ金属塩を経由する熱分解反応は、気相での熱分解法に比較して低温で行うことができるため好ましい。
【0056】
化合物(2)は、前記特許文献2、特許文献3、特許文献4などに記載の方法に準じて製造することができる。これら文献には、−SOF基を1つ有するモノエンを出発として、エポキシ化工程と1,3−ジオキソラン環形成工程を経て2位に−COF基とトリフルオロメチル基を有する1,3−ジオキソラン誘導体(−SOF基を1つ有する)を製造する方法が記載されている。さらに、上記1,3−ジオキソラン環形成工程で得られる1,3−ジオキソラン誘導体が水素原子を有する場合は、その後フッ素化してパーフルオロの1,3−ジオキソラン誘導体とし、次いで2位に−COF基とトリフルオロメチル基を有する1,3−ジオキソラン誘導体(−SOF基を1つ有する)とすることが記載されている。本発明においては、−SOF基を2つ有するモノエンを出発として、同様の方法で化合物(2)を製造できる。
【0057】
化合物(2)は、下記式で表される化合物(1)から、(a)エポキシ化工程、(b)ジオキソラン環形成工程、および(c)フッ素化工程を経て製造されることが好ましい。以下この好ましい製造方法を説明する。しかし、化合物(2)の製造方法これに限られるものではない。例えば、化合物(1)に対応するパーフルオロ化合物(化合物(1)における水素原子が全てフッ素原子である化合物)を出発とし、特許文献4に記載の方法に準じて、不飽和基部分をエポキシ化を経てジケトンに変換し、次いでヘキサフルオロプロピレンオキシドと反応させて1,4−ジオキサン環化合物とし、得られた1,4−ジオキサン環化合物を熱分解して化合物(2)を製造することができる。この方法ではフッ素化工程を必要としない方法である。
【0058】
【化12】

【0059】
ただし、上記式(1)において、R、Rは、それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい、炭素数1〜8のアルキレン基を表す。また、化合物(1)は、トランス体であっても、シス体であってもよい。このR、Rはそれぞれ前記Rf1、Rf2に対応する基、すなわち、前記Rf1、Rf2と同一の基であるか、またはフッ素化により前記Rf1、Rf2となる基、である。後者の場合、前記Rf1、Rf2のフッ素原子の一部ないし全部が水素原子に置換されている以外は前記Rf1、Rf2と同一の構造を有する基であることが好ましく、特に水素原子とフッ素原子の両者を有する基であることが好ましい。各R、Rにおける水素原子とフッ素原子の合計に対する水素原子の数の割合は30〜100%、特に30〜70%が好ましい。なお、R、Rが前記Rf1、Rf2に対応する基であることより、R、Rの好ましい炭素数、エーテル性酸素原子の数、直鎖状などの構造は前記Rf1、Rf2と同一である。
【0060】
化合物(1)における−R−SOF、−R−SOFは、いずれも、下記式(s−2)で表される基が好ましい。下記式(s−2)においてXは水素原子またはフッ素原子を表し、式中の各Xは異なっていてもよい。p、q、rは、R、Rが前記Rf1、Rf2に対応する基であることより、前記基(s−1)と同一である。より好ましい下記式(s−2)で表される基は、下記式(s−3)で表される2−フルオロスルホニルエトキシ基置換アルキレン基(ただし、式(s−3)におけるpは1〜3)である。
【0061】
【化13】

【0062】
下記式で表される化合物(1)から、(a)エポキシ化工程、(b)ジオキソラン環形成工程、および(c)フッ素化工程を経て化合物(2)を製造するスキームの一例を下記に示す。なお、下記化合物(1)はトランス体であってもよく、後述実施例で使用した化合物(1)はトランス体である。
【0063】
【化14】

【0064】
上記式(13)におけるRは、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい、アルキル基またはポリフルオロアルキル基を示す。Rの炭素数は1〜20が適当であり、3〜12が好ましい。特に好ましいRは、炭素数3〜10のパーフルオロアルキル基と炭素数3〜12かつエーテル性酸素原子の数が1〜3のエーテル性酸素原子含有パーフルオロアルキル基である。上記式(14)におけるR3’は、Rが水素原子を含む基である場合はその水素原子が全てフッ素原子に置換された基(パーフルオロの基)であり、Rが水素原子を含まない基(パーフルオロの基)である場合はRと同一の基である。Rとしては(R3’も同じ)、特に下記のパーフルオロの基が好ましい。
−CF2CF2CF3、−CF(CF3)2、−CF(CF3)CF2CF3、−CF(CF3)O(CF2)3F、−CF(CF3)OCF2CF(CF3)O(CF2)3F。
【0065】
本発明における(a)エポキシ化工程は上記スキームにおける化合物(1)から化合物(11)を製造する工程であり、エポキシ化反応[a]を含む。(b)ジオキソラン環形成工程は上記スキームにおける化合物(11)から化合物(13)を製造する工程であり、ジオキソラン環を形成する反応[b−1]を含む。化合物(13)は化合物(12)を経て側鎖基を変換する反応[b−2]により製造されることが好ましいが、化合物(11)から直接製造することもできる。側鎖基を変換する反応[b−2]としてはケタール交換反応が好ましい。化合物(12)を単離することなく反応[b−1]と反応[b−2]を行って、化合物(11)から化合物(13)を製造することが好ましい。(c)フッ素化工程は上記スキームにおける化合物(13)から化合物(2)を製造する工程であり、フッ素化反応[c−1]を含む。化合物(2)は化合物(14)を経てエステル分解反応[c−2]により製造されることが好ましいが、フッ素化反応[c−1]と同時にエステル分解反応[c−2]が進行して化合物(13)から化合物(2)が得られることもある。好ましくは、フッ素化反応[c−1]とエステル分解反応[c−2]は別個に行うことが好ましい。
【0066】
(a)エポキシ化工程では、化合物(1)を酸化剤で酸化することにより化合物(11)が得られる。酸化剤としては、酸素ガス、次亜塩素酸塩、過酸化物などを使用できる。過酸化物の例としてはm−クロロ過安息香酸、過安息香酸、過酢酸、過酸化水素等が挙げられる。このような酸化剤を使用した不飽和基のエポキシ化は周知の方法で行うことができる。
【0067】
(b)ジオキソラン環形成工程では、化合物(11)とアセトンを反応させて化合物(12)を合成する。この際、化合物(11)とアセトンを直接反応させる代わりに、化合物(11)に水を反応させてジオールとした後、このジオールとアセトンを反応させて化合物(12)を合成することもできる。これらの反応は酸触媒の存在下で行うことが好ましい。酸触媒としては無機酸、ルイス酸、固体酸などを使用できる。次に、化合物(12)と下記式(15)で表されるヒドロキシアセトンエステルとを反応させ(反応[b−2])て化合物(13)を製造する。この反応[b−2]はケタール交換反応であり、アセトン残基がヒドロキシアセトンエステル(15)残基に変換される。また、化合物(12)とヒドロキシアセトンとをケタール交換反応させてアセトン残基をヒドロキシアセトン残基に変換し、その後水酸基をRCOO−基に変換して化合物(13)を製造することもできる。これらケタール交換反応においては、上記のような酸触媒の存在下、高沸点溶媒中で副生するアセトンを反応系から除去しながら行うことが好ましい。また、化合物(11)とアセトンと化合物(15)を共存させ、反応条件を変えて反応[b−1]と反応[b−2]を順次行うこともできる。なお、化合物(11)やそのジオール化物にヒドロキシアセトンエステル(15)を反応させて化合物(13)とすることも可能である。
【0068】
【化15】

【0069】
(c)フッ素化工程では、まずフッ素化反応[c−1]により化合物(13)の水素原子を全てフッ素原子に置換して化合物(14)とする。フッ素化反応の方法としては、電解フッ素化法(ECF法)、コバルトフッ素化法等の液相中で行うフッ素化反応、気相でフッ素と反応させる方法等が挙げられるが、反応の操作性および収率の点から液相中で行うフッ素化が特段に有利な方法であり、化合物(13)とフッ素(F)とを液相中で反応させる方法(いわゆる液相フッ素化と呼ばれる方法)によるのが特に好ましい。液相フッ素化の詳細は前記特許文献2のほか、国際公開第00/056694号パンフレットなどに記載されている。
【0070】
液相フッ素化においては、フッ素は、フッ素ガスをそのまま用いても、窒素ガスなどの不活性ガスで希釈されたフッ素ガスを用いてもよい。不活性ガス中のフッ素量は10vol%以上、特に20vol%以上、とすることが好ましい。
【0071】
液相フッ素化において、液相を形成させるためには、通常溶媒を用いる。溶媒としては、C−H結合を含まずC−F結合を必須とする溶媒が好ましく、さらに、パーフルオロアルカン類、または、塩素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選ばれる1種以上の原子を構造中に有しC−H結合を含まないフッ素系溶媒(パーフルオロアルカン類を含めこれらのフッ素系溶媒を以下パーフルオロ溶媒と記す)が好ましい。溶媒はフッ素化反応に不活性である溶媒であればよく、他の反応に活性な官能基を有していてもよい。例えば、フルオロカルボニル基(−COF基)を有するパーフルオロアルカンやパーフルオロエーテルを溶媒として使用できる。さらに該溶媒としては、化合物(13)の溶解性が高い溶媒を用いることが好ましく、特に化合物(13)を1質量%以上溶解しうる溶媒、特には5質量%以上溶解しうる溶媒を用いることが好ましい。また、溶媒の量は、化合物(13)に対して、5倍質量以上が好ましく、特に10〜100倍質量が好ましい。
【0072】
液相フッ素化反応の反応形式は、バッチ方式であっても連続方式であってもよい。特に、反応器に溶媒を仕込み撹拌を開始して、所定の反応温度と反応圧力に制御した後、フッ素ガスと、化合物(13)とを所定のモル比で連続的かつ同時に供給してフッ素化を行うことが好ましい。
【0073】
液相フッ素化に用いるフッ素量は、バッチ方式で反応を実施する場合にも連続方式で実施する場合にも、フッ素化されうる水素原子に対して、フッ素の量が常に過剰当量になる量にすることが好ましく、該水素原子に対して1.5倍当量以上(すなわち、1.5モル以上)になる量にするのが選択率の点から特に好ましい。またフッ素量は、反応の開始時点から反応の終了時点まで、常に過剰当量になるように保つのが好ましい。
【0074】
液相フッ素化の反応温度は、通常は−60℃以上かつ化合物(13)の沸点以下が好ましく、反応収率、選択率、および工業的実施のしやすさの点から−50℃〜+100℃が特に好ましく、−20℃〜+50℃が特に好ましい。液相フッ素化の反応圧力は特に限定されず、常圧〜2MPaが、反応収率、選択率、工業的な実施のしやすさの観点から特に好ましい。
【0075】
さらに、液相フッ素化を効率的に進行させるためには、反応の後期にC−H結合含有化合物を反応系中に添加したり、紫外線照射を行うことが好ましい。C−H結合含有化合物の使用によって、反応系中に存在する化合物(13)を効率的にフッ素化でき、反応率を飛躍的に向上させうる。C−H結合含有化合物としては、化合物(13)以外の有機化合物であり、特に芳香族炭化水素が好ましく、ベンゼン、トルエン等が特に好ましい。該C−H結合含有化合物の添加量は、化合物(13)中の水素原子に対して0.1〜10モル%であることが好ましく、特に0.1〜5モル%であることが好ましい。
【0076】
液相フッ素化で副生するHFはNaFなどのHF捕捉剤で除去し、生成物と溶媒とを分離して、生成物である化合物(14)を得る。フッ素化で得られた化合物(14)は粗生成物のまま次のエステル分解反応[c−2]を行ってもよく、精製を行った後次のエステル分解反応[c−2]を行ってもよい。
【0077】
化合物(14)のエステル分解反応[c−2]は、熱による分解反応、または求核剤もしくは求電子剤の存在下に液相中で行う分解反応により実施することが好ましい。
【0078】
熱による分解反応は、化合物(14)を加熱することにより実施できる。気相熱分解反応の反応温度は50〜350℃が好ましく、50〜300℃が特に好ましく、150〜250℃が特に好ましい。また、反応には直接には関与しない窒素などの不活性ガスを反応系中に共存させてもよい。不活性ガスは化合物(14)に対して0.01〜50vol%程度を添加することが好ましい。不活性ガスの添加量が多いと、生成物の回収量が低減することがある。
【0079】
化合物(14)を反応器内で液のまま加熱する液相熱分解反応を採用することもできる。この場合の反応圧力は限定されない。通常の場合、化合物(2)を含む生成物は、化合物(14)より低沸点であることから、生成物を気化させて連続的に抜き出す反応蒸留形式による方法で得ることが好ましい。また加熱終了後に反応器中から一括して生成物を抜き出す方法であってもよい。この液相熱分解反応の反応温度は50〜300℃が好ましく、特に100〜250℃が好ましい。
【0080】
液相熱分解反応は、無溶媒で行っても、溶媒の存在下に行ってもよい。該溶媒としては、化合物(14)と反応せず、かつ化合物(14)と相溶性のあるもので、生成する化合物(2)と反応しないものであれば特に限定されない。また、溶媒としては、化合物(2)の精製時に分離しやすいものを選定することが好ましい。溶媒の具体例としては、パーフルオロトリアルキルアミン、パーフルオロデカリンなどのパーフルオロ溶媒やクロロトリフルオロエチレンオリゴマーなどのフッ素系不活性溶媒が好ましい。また、溶媒の量は化合物(14)に対して10〜1000質量%が好ましい。
【0081】
また、化合物(14)を、無溶媒または上記のようなフッ素系不活性溶媒の存在下の液相中で求核剤または求電子剤と反応させてエステル分解させることもできる。特に求核剤と反応させてエステル分解することが好ましい、求核剤としてはFが好ましく、特にアルカリ金属のフッ化物由来のFが好ましい。アルカリ金属のフッ化物としては、NaF、NaHF 、KF、CsFがよく、これらのうち経済性の面からNaFが、低い反応温度で実施できる点からはKFが、特に好ましい。求核剤(例えばF)を用いた場合には、反応の最初に用いた求核剤は触媒量であってもよく、過剰に用いてもよい。すなわちF等の求核剤の量は化合物(14)に対して1〜500モル%が好ましく、1〜100モル%が特に好ましく、とりわけ5〜50モル%が好ましい。反応温度は、−30℃〜溶媒または化合物(14)の沸点までの間の温度が好ましく、−20℃〜250℃が特に好ましい。この方法も、反応蒸留形式で実施することが好ましい。
【0082】
上記製造方法における出発物質である化合物(1)は公知の方法でまたは公知の方法に準じて製造できる。例えば、前記特許文献2にはブロモアルケンとテトラフルオロエタン−1,2−スルトン(以下、単にスルトンという)を反応させて−SOF基を有するアルケニル化合物が得られることが記載されている。これに準じて、ジブロモアルケンとスルトンを反応させて−SOF基を2つ有する不飽和化合物である化合物(1)を得ることができる。また、前記特許文献3にはアルケニルアルコールから−SO(OZ)基を有するアルケニル化合物(Z;アルカリ金属)を経て−SOF基を有するアルケニル化合物を得るプロセスが記載されている。これに準じて、アルケンジオールから2つの−SO(OZ)基を有する不飽和化合物(Z;アルカリ金属)を経て−SOF基を2つ有する不飽和化合物である化合物(1)を得ることができる。このような方法の具体例として、下記式(10a)で表される化合物と式(10b)で表されるスルトンとの反応により、下記式(1a)で表される、基(s−3)を有する化合物(1)を得る方法を挙げることができる。なお、前記のように化合物(10a)、化合物(1a)はトランス体であってもよく、後述実施例ではトランス体を使用している。
【0083】
【化16】

【0084】
本発明は、また、下記式(3U)で表されるモノマー単位の1種以上、または当該モノマー単位の1種以上と他のモノマー単位の1種以上と、を含むフルオロスルホニル基含有ポリマーである。モノマー単位(3U)は化合物(3)の重合で生成するモノマー単位である。モノマー単位(3U)におけるRf1、Rf2は化合物(3)におけるRf1、Rf2と同一である。
【0085】
【化17】

【0086】
モノマー単位(3U)を有するポリマー(すなわちポリマー(3U))、は、食塩電解や燃料電池などの用途に使用される電解質材料の前駆体として有用に用いうる。例えば、化合物(3)のホモポリマーやコポリマーであるフルオロスルホニル基含有ポリマーは、高分子量でイオン交換容量の高いスルホン酸ポリマーの前駆体として有用である。このコポリマーは、化合物(3)を、化合物(3)と共重合しうる他の重合性モノマー(以下、コモノマーと記載する。)と共重合させて得られる。コモノマーは、1種であっても、2種以上であってもよい。
【0087】
コモノマーの例としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン等のパーフルオロ(α−オレフィン)類、パーフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、パーフルオロ(アリルビニルエーテル)、パーフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン)等のパーフルオロジエン類、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、パーフルオロ(4−メトキシ−1,3−ジオキソール)等のパーフルオロ環状モノマー類、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)やパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)等のパーフルオロビニルエーテル類、などのパーフルオロモノマーが挙げられる。
【0088】
さらに、コモノマーとしては、化合物(3)と単独で共重合される、または上記に例示したコモノマーとともに化合物(3)と共重合される、パーフルオロモノマー以外のコモノマーも使用できる。このコモノマーとしては、具体的には、例えば、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル等のフルオロオレフィン類、エチレン、プロペン等のオレフィン類、(パーフルオロブチル)エチレン等の(パーフルオロアルキル)エチレン類、3−パーフルオロオクチル−1−プロペン等の(パーフルオロアルキル)プロペン類、等が挙げられる。さらに、化合物(3)以外の−SOF基を有するモノマー、特にパーフルオロの−SOF基を有するモノマーをコモノマーとして使用することもできる。
【0089】
重合反応は、ラジカルが生起する条件のもとで行われるものであれば特に限定されない。例えば、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、液体または超臨界の二酸化炭素中の重合等により行ってもよい。
【0090】
ラジカルを生起させる方法は特に限定されず、例えば、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法を用いてもよく、通常のラジカル重合で用いられるラジカル開始剤を使用する方法を用いてもよい。重合反応の反応温度も特に限定されず、例えば、通常は15〜150℃程度である。ラジカル開始剤を使用する場合のラジカル開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)パーオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)パーオキシド類、ジアルキルパーオキシジカーボネート類、ジアシルパーオキシド類、パーオキシエステル類、アゾ化合物類、過硫酸塩類等が挙げられる。
【0091】
溶液重合を行う場合には、使用する溶媒は取り扱い性の観点から、通常は20〜350℃の沸点を有していることが好ましく、40〜150℃の沸点を有していることがより好ましい。溶媒としては、重合の生長ラジカルが溶媒に対して連鎖移動反応を起こさないかその程度が小さい溶媒が使用される。そのような溶媒としてはフッ素系モノマーの重合に通常使用されるフッ素系溶媒が好ましい。例えば、ハイドロフルオロカーボン類、ハイドロクロロフルオロカーボン類、クロロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、ポリフルオロジアルキルエーテル類、ポリフルオロ環状エーテル類、ポリフルオロトリアルキルアミン類などが挙げられる。
【0092】
また、分子量を調整するために連鎖移動剤を使用して重合を行うこともできる。連鎖移動剤としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類、連鎖移動剤としても作用するハイドロクロロフルオロカーボン類などの上記フッ素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどのハイドロカーボン類が挙げられる。
【0093】
ポリマー(3U)(すなわち、モノマー単位(3U)を有するホモポリマーやコポリマー)の分子量は、5×10〜5×10であることが好ましく、特に1×10〜3×10が好ましい。コモノマー単位を含む場合には、モノマー単位(3U)を全モノマー単位に対して0.1〜99.9モル%の割合で含むことが好ましい。モノマー単位(3U)の割合は、5〜90モル%が特に好ましく、10〜75モル%がとりわけ好ましい。
【0094】
ポリマー(3U)のうちコポリマーは、食塩電解や燃料電池等の電解質材料の前駆体としての用途に特に有用である。さらに、該共重合体を食塩電解や燃料電池等の用途に使用する場合には、コモノマーはパーフルオロのコモノマーから選択するのが、耐久性の観点から好ましい。コモノマーとしては特にテトラフルオロエチレンなどのパーフルオロオレフィン類やパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類が好ましく、テトラフルオロエチレンがとりわけ好ましい。
【0095】
食塩電解や燃料電池等の電解質材料として有用なスルホン酸ポリマーは、ポリマー(3U)のフルオロスルホニル基をアルカリ加水分解する、または、該アルカリ加水分解した後に酸処理する、ことにより製造できる。得られるスルホン酸ポリマーは下記式(4U)で表される単位を含むポリマーである。ただし、得られるスルホン酸ポリマーはモノマー単位(3U)の片方の−SOF基のみ−SOM基に変換された単位や未反応のモノマー単位(3U)を少量含有していてもよい。なお、下記式(4U)におけるMは水素原子または対イオンを示す。また、下記単位(4U)を有するポリマーを以下ポリマー(4U)ともいう。
【0096】
【化18】

【0097】
ポリマー(4U)(すなわち、単位(4U)を有するホモポリマーやコポリマー)の分子量は、5×10〜5×10であることが好ましく、特に1×10〜3×10が好ましい。コモノマー単位を含む場合には、単位(4U)を全モノマー単位に対して0.1〜99.9モル%の割合で含むことが好ましい。単位(4U)の割合は、5〜90モル%が特に好ましく、10〜75モル%がとりわけ好ましい。
【0098】
ポリマー(3U)のアルカリ加水分解においては、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩を用いるのが好ましい。式NR(OH)で表される化合物(ただし、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜5のアルキル基を示す。)を用いることもできる。酸処理においては、塩酸、硝酸または硫酸を用いるのが好ましい。これにより、フルオロスルホニル基はスルホン酸塩基(−SO基:ここで、Mは対イオンを示す。)に変換されうる。ここでMとしては、アルカリ金属イオンまたはNであるのが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンが好ましい。また、Nとしては、N(CH、N(CHCH、N(CHCHCH、N(CHCHCHCHが好ましい。
【0099】
スルホン酸塩基におけるMがアルカリ金属イオンである場合のポリマーは、スルホン酸基含有ポリマーにアルカリ金属水酸化物を反応させることにより得るのが好ましい。またスルホン酸塩基におけるMがNである場合のポリマーは、フルオロスルホニル基含有重合体に、式NR(OH)で表される化合物を反応させることにより得るのが好ましい。さらに、加水分解で得られたスルホン酸塩基を含有するポリマーは、Mとは異なる対イオンとなりうるイオン、を含む水溶液に浸漬することにより、他の対イオンに変換することができる。また、スルホン酸塩基(−SO基)は、塩酸、硝酸、硫酸等の酸で処理することによりスルホン酸基(−SOH基)に変換することができる。これらの基の変換方法は、公知の方法および条件にしたがって実施できる。
【0100】
本発明はまた下記式(5U)で表される単位の1種以上、または当該単位の1種以上と他の単位の1種以上と、を含むスルホン酸基含有ポリマーである。ただし、下記式(5U)におけるRf1、Rf2は前記と同じパーフルオロアルキレン基である。このポリマー(5U)は、その分子量が5×10〜5×10であり、他の単位を含む場合には、式(5U)で表される単位を0.1〜99.9モル%で含む、ことが好ましい。
【0101】
【化19】

【0102】
スルホン酸基含有ポリマー(5U)は、特に固体高分子型燃料電池用電解質材料として適している。
【0103】
本発明のポリマー(3U)は、他の基材への密着性に優れる。また、炭化水素系ポリマーに比べて屈折率が低く、官能基のないパーフルオロポリマーに比べて高い屈折率を有することから、光学材料としても有用である。また本発明の方法で得られるポリマー(4U)やポリマー(5U)は、食塩電解や燃料電池用の電解質材料に限定されず、固体電解質材料として種々の用途に用いることができる。例えば、水電解、過酸化水素製造、オゾン製造、廃酸回収等に使用するプロトン選択透過膜、脱塩または製塩に使用する電気透析用陽イオン交換膜等に用いることができる。また、リチウムイオン電池のポリマー電解質、固体酸触媒、陽イオン交換樹脂、修飾電極を用いたセンサー、空気中の微量イオンを除去するためのイオン交換フィルターやアクチュエーター等にも使用できる。すなわち、ポリマー(4U)は、各種の電気化学プロセスの材料として使用できる。また、ポリマー(4U)は、酸、塩基、および塩類の分離精製に用いる拡散透析用の膜、蛋白質分離のための荷電型多孔膜(荷電型逆浸透膜、荷電型限外ろ過膜、荷電型ミクロろ過膜等)、除湿膜、加湿膜等にも使用できる。
【実施例】
【0104】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例に記載した反応スキームに反応に使用した化合物や反応条件などを示す。なお、各例に記載の略号は以下の通りである。
CG:ガス クロマトグラフ。
GPC:ゲル パーミエーション クロマトグラフ。
HCFC−225:フッ素系溶媒。CF3CF2CHCl2/CClF2CF2CHClF=45/55(質量比)の混合物。
HCFC−225cb:フッ素系溶媒。CClF2CF2CHClF。
R−113:フッ素系溶媒。CCl2FCClF2
BF3・OEt2:三フッ化ホウ素エーテル錯体。
【0105】
[例1]
【0106】
【化20】

【0107】
5Lの4つ口フラスコに温度計、ジムロート冷却器および撹拌機を装着した。窒素雰囲気下でジグライム1800mlを加えた。次に撹拌しながらAgF(593g、4.68mol)を加えた。滴下ロートを反応容器に装着し、反応容器の内温が10℃以下になるように氷浴にて冷却した。内温を10℃以下に保ちながら、滴下ロートからスルトン(10b)(843g、4.68mol)を2時間かけて滴下した後、水浴にて1時間撹拌した。
再び、氷浴にて冷却し、内温を10℃以下に保ちながら、滴下ロートから500gのジグライムに溶解したtrans−1,3−ジブロモ−2−ブテン(10a−1)(500g、2.34mol)を1.5時間かけて滴下した。滴下後、引き続き11時間撹拌した。反応粗液をGC分析したところ反応がほぼ終了したことが確認された。
【0108】
反応粗液をセライトを用いて吸引ろ過をした。ろ液を5Lの4つ口フラスコに移し、減圧下、加温して溶媒を留去した。フラスコ内に残った内容物は1067gであった。イオン交換水3200 gを加え15分間撹拌して水洗処理を行った。分液ロートにて下層863g(GC;73.66%)を回収した。海砂でろ過した後、回収液を硫酸マグネシウムで乾燥した。
蒸留により化合物(1−1)を500g得た。沸点137〜140℃/0.27〜0.40kPa。収率47%。
1H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3) δ(ppm):6.0(m,2H)、4.7(m,4H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):43.6(2F)、−84.1(4F)、−111.5(4F)。
【0109】
[例2]
【0110】
【化21】

【0111】
5Lの4つ口フラスコに温度計、ジムロート冷却器および撹拌機を装着した。窒素雰囲気下で化合物(1−1)(475g、1.05mol)、1,2−ジクロロエタン2800g、m−クロロ過安息香酸(m−CPBA) 352g(純度>65%)を加え、7時間還流を行った。GCで分析したところ、転化率は36.4%であった。反応容器にさらに1,2−ジクロロエタン1029g、m−CPBA 352g(純度>65%)を加え、31時間還流した。転化率は94.6%であった。
【0112】
反応粗液をろ過して5132gを回収した。飽和炭酸ナトリウム水溶液で2回、4.8mol/l食塩水で洗浄、分液して反応粗液4859gを回収した。
粗液を硫酸ナトリウムで乾燥してろ過後、エバポレーターで濃縮、乾燥して化合物(11−1)を400g得た。
1H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3) δ(ppm):4.3(m,2H)、4.2(m,2H)、2.2(m)、3.3(m、2H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):43.6(2F)、−84.3(4F)、−111.5(4F)。
【0113】
[例3]
【0114】
【化22】

【0115】
[アセトナイド化]
1Lの4口フラスコに温度計、撹拌子、ディーンスタークトラップを備え付けた。窒素雰囲気下で化合物(11−1) 471.32g(152.3mmol)と乾燥アセトン263g、乾燥トルエン290g、化合物(15−1) 58.77g(152.2 mmol)およびBF3・OEt2(2.67g、18.8mmol)を順に加えた。
反応容器をオイルバスで加熱し、常圧で内温90℃まで加熱し、溶媒を300ml留出させた。次に内温100℃で4時間撹拌した。ガスクロマトグラフで分析した転化率は97%であった。
【0116】
[ケタール交換]
フラスコからディーンスタークトラップを取り外して単蒸留装置を取り付けた。33kPaにて内温90℃まで加熱し、トルエン239gを留去した。反応容器にBF3.OEt2(1.33g、9.37mmol)を加え40kPa、内温90℃で2.5時間反応を行った。さらに反応容器にBF3.OEt2(1.39g、9.79mmol)を加え40kPa、内温90℃で2時間反応を行い、化合物(13−1)の反応粗液141.82gを得た。転化率は96.4%であった。
同様にして、化合物(11−1) 328.24g(701mmol)から化合物(13−1)の反応粗液822.6g(転化率93.9%)を得た。
【0117】
上述の2つの反応粗液を合わせ、40kPaで内温100℃まで加熱し、次いで徐々に圧力を0.13kPaまで下げて行った。その後、加熱により内温が107℃で内容物が泡だってきたとろころで低沸分留去の操作を停止した。フラスコの内容物は709gであった。
固定相にシリカゲル(”silica gel 60”、球状、関東化学社製)、移動相にヘキサンとHCFC−225を用いてカラム精製を行い、化合物(13−1) 343.7gを得た。
1H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3) δ(ppm):4.55(m,2H)、4.44〜4.14(m,6H)、1.50(s)、1.44(s)、(1.50ppmと1.44ppmを合わせて3H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):43.5(2F)、−80.5(1F)、−81.8(3F)、−82.6(3F)、−85.3(4F)、−86.8(1F)、−111.7(4F)、−130.2(2F)、−132.5(1F)。
【0118】
[例4]
【0119】
【化23】

【0120】
ステンレス鋼製オートクレーブ(内容積3000mL)にCF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COF(以下、不活性流体Aと記す)4200gを導入した。輸送装置として300L/Hrの能力を有するベローズポンプを使用し、不活性流体Aを循環させた。循環経路の途中に設けた熱交換器に流通させる冷媒の流量を調整することにより、オートクレーブ内の不活性流体Aの温度を20℃に保った。窒素ガスで25%に希釈したフッ素ガス(以下、25%希釈フッ素ガスと記す)を循環経路配管内に設置したステンレス鋼製イジェクタから、流速81.1L/hで連続的に供給した。上記の条件を維持して1時間循環させた。
【0121】
次に、化合物(13−1) 300g(0.29mol)をR−113(300g)に溶解し、循環経路途中に設けた原料供給管を通して、流量56g/hで連続的に供給した。また、オートクレーブ内の液体体積がほぼ一定になるように、フッ素化された化合物を含む不活性液体を連続的に抜き出した。抜き出した粗液をGC分析した結果、不活性液体中に化合物(13−1)の存在は認められなかった。
【0122】
フッ素化された生成物は不活性液体であり、反応が進行するに従って、循環する不活性流体Aは徐々にフッ素化生成物(化合物(14−1))に置換され、循環する不活性流体Aは不活性流体Aとフッ素化生成物(化合物(14−1))の混合物に変化していった。なお、不活性流体Aとフッ素化生成物(化合物(14−1))は沸点が異なる化合物であり、蒸留により容易に両者を分離することができる。
【0123】
全ての化合物(13−1)の溶液を供給後、25%希釈フッ素ガスを48.5時間供給した。さらに、窒素ガスのみを0.5時間吹き込み、反応粗液を抜き出した。全回収粗液量は4409gであった。得られた粗液をフラスコに投入し、減圧下加熱撹拌することでフッ素化生成物(化合物(14−1))が主成分である溶液(以下、フッ素化粗液Bと記す)331gを回収した。
【0124】
次に上記のフッ素化粗液Bのうち230gをR−113(230g)に溶解し、オートクレーブ(500mL、ニッケル製)に投入後、撹拌し、25℃に保った。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。なお、−10℃に保持した冷却器からは凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。窒素ガスを1時間吹き込んだ後、窒素ガスで20%に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスという)を、11.4NL/hで吹き込んだ。
【0125】
次に、反応溶液を25℃から40℃にまで昇温し、オートクレーブに20%フッ素ガスを同じ流速を保って吹き込みながら、ベンゼン濃度が0.012g/mLであるR−113溶液を9ml注入し、オートクレーブのベンゼン注入口を閉め、0.4時間撹拌を続けた。上記のベンゼン溶液を6ml注入し、オートクレーブのベンゼン注入口を閉め、0.4時間撹拌を続けた。さらに同様の操作を22回くり返した。ベンゼンの総注入量は1.9g、R−113の総注入量は153mlであった。
【0126】
さらに、窒素ガスを1時間吹き込んだ。目的物を19F−NMRで定量したところ、化合物(14−1)の生成が確認され、19F−NMRで分析した結果、化合物が収率97%で含まれていることを確認した。
残りのフッ素化粗液Bについても同様にして反応を行い、2つの反応液を合わせて溶媒を留去し、化合物(14−1)を304g得た。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):45.5(2F)、−80.0〜−82.0(18F)、−84.6〜−87.5(3F)、−112.5(4F)、−113.0〜−123.0(2F)、−130.3(2F)、−132.1(1F)。
【0127】
[例5]
【0128】
【化24】

【0129】
温度計を備えた500mLの4つ口フラスコに撹拌子を入れ、蒸留装置を装着した。窒素雰囲気下で、化合物(14−1)を304gを導入した。次に撹拌しながらKF 3.36g(0.06モル、"クロキャットF"、森田化学社製)を加え、オイルバスにて徐々に加熱した。内温87℃よりCF3CF2CF2OCF(CF3)COFが留出し始めた。2時間かけて内温が110℃に達したところで内温をその温度で1時間キープした。一旦、冷却した後、減圧蒸留を行い、化合物(2−1)を176g得た。沸点117〜144℃/0.67〜0.80kPa。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):45.6(2F)、27.2、26.0、25.0(3ピークを合わせて1F)、−80.1〜−81.8(7F)、−82.2(4F)、−112.5(4F)、−118.7、−119.4、−123.8、−129.4(4ピークを合わせて2F)。
【0130】
[例6]
【0131】
【化25】

【0132】
内径1.6cmの管状反応器(インコネル製)にガラスビーズ(中心粒径105〜125μm、岳南光機社製ガラスビーズ#150)を充填高が40cmになるまで充填した後に、管状反応器を325℃に加熱した。そのまま管状反応器を加熱しながら、原料ラインにおいて予め加熱、気化させた化合物(2−1)の気化ガス1mol%と99mol%の窒素ガスとからなる混合ガスを、管状反応器内における混合ガスの線速が2.65cm/sになる様に、管状反応器の底部から導入した。なお、管状反応器の上端部にはドライアイストラップを据え付けた。そのまま、前記混合ガスを2時間供給した後に、窒素ガスのみを1時間流通させた。管状反応器に導入した化合物(2−1)の量は、3.96gであった。
【0133】
ドライアイストラップに回収した液(2.45g)をGCにて分析した結果、原料化合物は確認されず、純度85.5%の目的物の存在が確認された。前記液の回収率も加味した、化合物(3−1)の実収率は60%であった。同様にして得られた熱分解粗液を蒸留することにより、目的の化合物(3−1)(アンチ形とシン形の混合物)を得た。沸点99〜102℃/0.40〜0.53kPa。
【0134】
アンチ形の19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):45.4(2F)、−81.6(4F)、−82.4(4F)、−112.6(4F)、−124.7(2F)、−128.2(2F)。
シン形の19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):45.5(2F)、−81.8(4F)、−82.4(4F)、−112.6(4F)、−124.9(2F)、−127.3(2F)。
NMRからアンチ形とシン形の比率を求めたところ、アンチ形:シン形=3.3:1.0であった。
【0135】
[例7]
[ポリマーの合成]
オートクレーブ(内容積30cm3、ステンレス製)に、化合物(3−1)を1.33g、HCFC−225cbを18.52g、メタノールを5.51mg、パーロイルIPP(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)を0.90mg入れ、液体窒素で冷却して脱気した。内温を40℃に昇温し、オートクレーブにテトラフルオロエチレンを初期一括導入し、圧力を0.49MPa(ゲージ圧)とした。温度を一定に保持して、8.0時間重合を行った。重合終了時の圧力は0.41MPaGであった。オートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。
【0136】
反応液をHCFC−225cbで希釈後、ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HCFC225cb中でポリマーを撹拌して、ヘキサンで再凝集した。80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマーを0.76g得た。
蛍光X線より求めた化合物(3−1)のモノマー単位の含有率は14.1mol%で、イオン交換容量は1.58meq/gであった。GPCより求めたポリスチレン換算分子量は110万であった。
【0137】
[例8]
[酸型ポリマーの合成と物性評価]
例7で得たポリマーを300℃で、加圧プレス成形によりフィルム(膜厚約100μm)に加工した。次にジメチルスルホキシドの30質量%とKOHの15質量%を含む水溶液に、80℃にてポリマーフィルムを16時間浸漬させることにより、ポリマーフィルム中の−SO2F基を加水分解して、−SO3K基に変換した。
さらに該ポリマーフィルムを、3mol/L塩酸水溶液を用い、50℃で2時間浸漬した後塩酸水溶液を交換する酸処理を4回繰り返し行った。イオン交換水で充分洗浄して該ポリマーフィルム中の−SO3K基が−SO3H基に変換されたポリマーフィルムを得た。
【0138】
軟化温度の測定を、次のようにして実施した。動的粘弾性測定装置DVA200(アイティー計測社製)を用いて、試料幅0.5cm、つかみ間長2cm、測定周波数1Hz、昇温速度2℃/分にて、前記酸型フィルムの動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率が50℃における値の半分になる値を軟化温度とした。上述の酸型ポリマーの軟化温度は117℃であった。また、動的粘弾性の測定においてtanδのピーク値より求めたガラス転移温度(Tg)は158℃であった。
比抵抗は、5mm幅のフィルムに5mm間隔で4端子電極が配置された基板を密着させ、公知の4端子法により80℃、95%RHの恒温恒湿条件下で交流10kHz、1Vの電圧で測定した。上記酸型フィルムの比抵抗は2.2Ω・cmであった。
【0139】
[比較例]
テトラフルオロエチレンとCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fのコポリマー(イオン交換容量1.10meq/g, T225℃)の酸型に変換したフィルムについて、例8と同様にして物性を測定した。軟化温度およびTgは、それぞれ76℃、109℃であった。比抵抗は3.6Ω・cmであった。なお、前記コポリマーのT値(単位:℃)は分子量の指標であって、長さ1mm、内径1mmのノズルを用い、2.94MPaの押出し圧力の条件でポリマーの溶融押出しを行った際の押出し量が100mm/秒となる温度である。フローテスタCFT−500A(島津製作所製)を用いて温度を変えて押出し量を測定し、押出し量が100mm/秒となるTQ値を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の化合物を重合して得られる−SOF基含有ポリマーは、電解質材料の前駆体としての用途に有用である。すなわち、このポリマーの−SOF基を加水分解して−SOH基を有するポリマーとすることができ、この−SOH基を有するポリマーは食塩電解や燃料電池等の電解質材料として有用である。例えば、この−SOH基を有するポリマーは、固体高分子型燃料電池のイオン交換膜または触媒層における電解質として使用できる。この用途に限られず、この−SOH基を有するポリマーは、固体電解質材料として各種の電気化学プロセスの材料として使用できる。また、上記−SOF基含有ポリマー自身も光学材料などの用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3)で表される化合物。
【化1】

ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【請求項2】
−Rf1−SOF、−Rf2−SOFがいずれも、パーフルオロ化された、2−フルオロスルホニルエトキシ基置換アルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は1〜3)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
下記式(2)で表される化合物を熱分解する、下記式(3)で表される化合物の製造方法。
【化2】

ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【請求項4】
−Rf1−SOF、−Rf2−SOFがいずれも、パーフルオロ化された、2−フルオロスルホニルエトキシ基置換アルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は1〜3)である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記式(2)で表される化合物を、下記式(1)で表される化合物から、(a)エポキシ化工程、(b)ジオキソラン環形成工程、および(c)フッ素化工程を経て製造する、請求項3または4に記載の製造方法。
【化3】

ただし、
、R:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい、炭素数1〜8のアルキレン基。
【請求項6】
−R−SOF、−R−SOFがいずれも、2−フルオロスルホニル−テトラフルオロエトキシ基置換アルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は1〜3)である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
下記式(2)で表される化合物。
【化4】

ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【請求項8】
−Rf1−SOF、−Rf2−SOFがいずれも、パーフルオロ化された、2−フルオロスルホニルエトキシ基置換アルキレン基(当該アルキレン基の炭素数は1〜3)である、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
下記式(3)で表される化合物の1種以上、または当該化合物の1種以上と当該化合物と共重合しうる重合性単量体の1種以上、を重合することを特徴とするフルオロスルホニル基含有重合体の製造方法。
【化5】

ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【請求項10】
下記式(3U)で表されるモノマー単位の1種以上、または当該モノマー単位の1種以上と他のモノマー単位の1種以上と、を含むフルオロスルホニル基含有ポリマー。
【化6】

ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【請求項11】
分子量が5×10〜5×10であり、他のモノマー単位を含む場合には、式(3U)で表されるモノマー単位を0.1〜99.9モル%で含む、請求項10に記載のフルオロスルホニル基含有ポリマー。
【請求項12】
請求項10または11に記載のフルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基をアルカリ加水分解する、または、該アルカリ加水分解した後に酸処理する、ことを特徴とするスルホン酸塩基またはスルホン酸基を含有するポリマーの製造方法。
【請求項13】
下記式(5U)で表される単位の1種以上、または当該単位の1種以上と他の単位の1種以上と、を含むスルホン酸基含有ポリマー。
【化7】

ただし、
f1、Rf2:それぞれ独立に、炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜8のパーフルオロアルキレン基。
【請求項14】
分子量が5×10〜5×10であり、他の単位を含む場合には、式(5U)で表される単位を0.1〜99.9モル%で含む、請求項13に記載のスルホン酸基含有ポリマー。
【請求項15】
請求項13または14に記載のスルホン酸基含有ポリマーからなる固体高分子型燃料電池用電解質材料。

【公開番号】特開2009−40909(P2009−40909A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208024(P2007−208024)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】