説明

フレキシブルフラットケーブル(FFC)製造用撥水性離型フィルム

【課題】 有機成分を含有する有機珪素酸合物の撥水性連続蒸着膜を有するFFC製造用撥水性離型フィルムを提供する。
【解決手段】 プラズマ化学気相成長法(PE−CVD法)により、プラスチック基材上に炭素含有珪素化合物膜を形成させてなるFFC製造用撥水性離型フィルムにおいて、離型層として、分子内にSi−O結合を含有する有機珪素化合物を蒸着原料とし、前記有機珪素化合物ガスの蒸着時に低酸素ガス雰囲気下で、プラスチック基材上に有機成分を含有するように有機珪素酸化物の連続蒸着膜をプラズマ化学気相成長により成膜させ、有機珪素化合物中の有機成分に基づく撥水性を発現させ、離型性を付与してなるFFC製造用撥水性離型フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルフラットケーブル(以下、FFCと略記する)を熱圧着する際、用いる離型フィルムに関するもので、プラズマ化学気相成長法によりプラスチック基材上に炭素含有有機珪素酸化物の蒸着膜を設けることにより基材との密着性に優れ、表面の平滑性に優れていると共に濡れ性が悪く(撥水性)かつ膜厚の均一性に優れた離型性を有する、FFCを製造するのに極めて有用なFFC製造用離型フィルムに関するものである。
具体的には、有機珪素化合物を蒸着原料とし、蒸着時に低酸素ガス雰囲気下、プラスチック基材を冷却保持した状態で、プラズマ化学気相成長を行い、炭素含有有機珪素酸化物の蒸着膜をプラスチック基材上に成膜することを特徴とするFFC製造用撥水性離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器、電化製品において、機器を動かすための信号や電気を供給するため電線等の配線材が使用され、電気配線が行われていた。近年は、各種機器は小型化、高性能、高集積、軽量化などが求められ、機器の狭い空間に電気配線することが求められ、電気配線材においても同様のことが求められて来ている。
しかし、従来の電線では、小型化した機器の狭い空間において、複雑化し、高密度化した電気回路、電子回路の電気接続に対応しきれなくなり、新たに電気配線の実装スペースを取らない、多芯数を一括して電気接続できる優れた配線手段としてFFCが導入された。
【0003】
FFCは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム表面に難燃性接着性絶縁樹脂層として、溶剤等に溶解させたポリエステス系樹脂中に、難燃材料、隠蔽材料、充填材料等の粉体を均一分散させ、所望の厚みにコーティングしたフィルムをあらかじめ製造しておき、それらFFC用難燃性接着性絶縁フィルム間に、所定ピッチで複数本配列支持された金属導体を供給し、一対の回転ローラ間を通過させ、熱圧着することにより金属導体を挟み込んだ絶縁フィルムのラミネートとして連続的に製造されている。
製造の際、難燃性接着性絶縁フィルムが熱ロール間に挟まれた時に、圧力及び熱により一部、軟化・溶融し、フィルム両端からあるいはPETフィルムに所定の間隔で形成された切除部からはみ出し、FFC製造装置であるロール部と直接接触し、ロールに付着し、そのはみ出した溶融樹脂が、送り込まれる絶縁フィルムがロールにより加熱加圧され、かつ挟持されるため、さらにロール上へ付着したり、あるいはロール上の樹脂が絶縁フィルムへ移行したりして、FFCの表面が連続的に荒れ、汚染が広がることがあるため、それを防止するため、FFC製造用離型フィルムが必要とされている。
特に、近年は、多機能化、微細化する電子機器の製造工程においては離型工程材料のクリーン性や耐熱、寸法安定性などが必要不可欠となっている。さらには、環境対応の観点から、使用後の離型材料の処理による環境負荷の低減も重要な機能の一つに数えられるようになっている。
【0004】
ところで、FFC製造に用いる離型フィルムとしては、従来からポリエステル系樹脂フィルム等の基材の一方の面に、接着剤を介したドライラミネート方式によりOPP等のポリオレフィン樹脂系フィルムをラミネートし離型性を付与したものや、同じく、ポリエステル系樹脂フィルム等の基材の一方の面に、硬化型のシリコ−ン系樹脂組成物をコ−ティングして離型性を付与したものが、一般に広く使われている。
【0005】
こうした離型フィルムにおいて、シロキサン結合による主骨格を有するシリコーン材料
により離型性を付与する場合は、たとえば、PET上に離型層としてシリコーンを積層したシリコーン積層体及びその製造方法(特許文献1)があるが、シリコーン積層体の場合、優れた離型性、低表面エネルギー、コーティング加工可能であるが、一方、長期間の大気暴露により重剥離化(表面特性が劣化する)が促進され、表面特性が変化するといった問題があり、また、離型層のシリコーンが剥離時に転移し、欠陥となる問題があった。
【0006】
フッ素系材料を用いた場合は、基材上に離型層としてフッ素化合物を形成させるもの、又はフッ素樹脂そのものを離型層として使用するもの(特許文献2、3)があり、フッ素樹脂が耐熱、耐薬品、柔軟性、繰り返し耐久性、防汚性、耐候性などに優れた物性、性能を有するものの、フッ素化合物自体の材料価格が高いことに加え、焼却時に有害なフッ化ガスが発生するといった問題や、他の基材と積層することが難しく、複合材料の作成が難しく、コスト、廃棄処理、複合加工の困難性などの点で問題があるものであった。
【0007】
また、ポリオレフィン樹脂によるシート、フィルムを用いた場合は、ポリオレフィン自体又は基材フィルムと積層して使用し、離型性を発揮させたもの(特許文献4、5)があり、オレフィン系の材料が低価格、柔軟性、加工性にも優れるといった利点を有し、離型性とコストのバランスがとれているが、高ヘイズや耐熱性に劣るなどの面で工業的な利用性という点で劣るといった問題点があるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2846155号公報
【特許文献2】特開2007−119640号公報
【特許文献3】特開平8−186141号公報
【特許文献4】特許第2619034号公報
【特許文献5】特開2006−257399号公報
【発明の概要】
【0009】
プラズマ化学気相成長法(PE−CVD法又はプラズマCVD法と表記することがある)によりプラスチック基材上に炭素含有珪素化合物膜を形成させてなるFFC製造用撥水性離型フィルムにおいて、分子内にSi−O結合を含有する有機珪素化合物を蒸着原料とし、酸素を含むガス雰囲気下、プラスチック基材を冷却保持した状態で前記有機珪素化合物を気化したガスをプラズマ化学気相成長させ、撥水性を有する炭素含有有機珪素酸化物蒸着膜をプラスチック基材上に成膜したことを特徴とするFFC製造用撥水性離型フィルムに関するものである。
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したようにFFC製造用離型フィルムの具体的な利用面から求められる性能としては、例えば、加熱加圧加工の際に用いられる離型フィルムでは、耐熱性並びに適度な離型性とクッション性、母材への非転移性が求められる。また、コストメリットとして、繰り返し耐性や低価格性、廃棄のたやすさも重要である。
また、従来の塗工による離型層を用いた場合、離型層の転移、重剥離化による表面特性の変化により離型フィルムの離型性を長期に維持し、制御された撥水性を有する離型性層を調製することは困難とされ、均質でかつ均一な撥水性離型層として安定かつ確実に、かつ低コストでFFCを製造可能とする撥水性離型フィルムを形成するには未だ至っていない。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の状況を鑑みてなされたものであり、FFC製造における熱ロールによる加熱加圧処理及び接触する相手がヒートシール性を有する溶融樹脂であっても、確実に平滑な表面を形成し、容易に剥離可能な均質で均一な撥水性と離型性を
同時に発現でき、耐熱性を有する撥水性離型層を、安定かつ確実に低コストで提供するとともに、従来技術の問題点をも解消した撥水性離型フィルムを提供するものである。
そこで、本発明は、基材の一方の面に膜厚の均一性に優れた離型層を設けることができ、かつ、その離型層は、無機蒸着膜で形成され耐熱性であり、基材との密着性に優れ、転移がなく、さらに、その表面の平滑性に優れると共に濡れ性が悪く、均一な離型性を示し、熱ラミネートにより製造されるFFCを製造するのに極めて有用なFFC製造用撥水性離型フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
FFC製造用離型フィルムにおける上記のような問題点を解決すべく種々検討の結果、有機珪素化合物の蒸気を、プラスチック基材上にプラズマ発生装置を利用するPE−CVD法により化学気相成長する炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜に着目したものである。
本発明は、少なくとも、有機珪素化合物の蒸気からなるモノマーガスを蒸着原料とし、キャリヤーガスとしてアルゴンガスまたはヘリウムガスからなる不活性ガス、及び酸素供給ガスとして低濃度の酸素ガスを含むガス組成物を調製し、当該ガス組成物を、プラスチックス基材フィルムの一方の面に、プラスチック基材を冷却保持した状態でPE−CVD法により化学気相成長させて成膜した有機珪素酸化物の連続蒸着膜層を離型層とするものであって、有機珪素酸化物の連続蒸着膜層は、その層中に炭素、水素、珪素、及び酸素の中の1種類あるいは2種類以上からなる化合物を少なくとも1種類以上を含有するように形成するもので、当該離型層を直接プラスチックス基材フィルムに形成して、FFC製造用離型フィルムとすることにより、当該離型フィルムを使用して通常の方法でFFCを製造したところ、製造されたFFCは離型フィルムから容易に剥離でき、しかも、離型層の付着もなく、表面平滑なフレキシブルフラットケーブルが製造できた。
上記FFC製造用撥水性離型フィルムは、膜厚が薄く一定で均一性に優れ、さらに、基材と極めて強固に密接着して転移せず、その密着性に優れ、かつ、その表面の平滑性に優れていると共に高い水接触角を有する撥水性が付与され、濡れ性が悪く、その結果、離型性にむらがなく均一な撥水性離型蒸着膜を有するものである。
【0013】
また、FFC製造装置ラミネーターロール周辺が難燃ヒートシール材料等により汚染されるという影響を受けることなく、連続的かつ安定的に 極めて良好にFFCを製造することができる。
さらに、PE−CVD法を用いることにより、プラスチック基材、特に耐熱性の低い材料や一般の物理蒸着では蒸着困難な低表面エネルギーの材料にも強固に密着した蒸着膜を形成できることから、任意のプラスチック材料を選択し、透明な撥水蒸着膜を形成させることが可能であり、これにより、求められる機械物性やコストに合わせて種々の基材を選択することができることとなり、設計自由度が極めて高い製造方法として利用できるメリットがあることを見出して本発明を完成したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、PE−CVD法の反応条件として、反応原料が有機珪素化合物のみであり、ガス雰囲気は希ガスと酸素だけのガス組成物であるので、有機珪素酸化物の連続蒸着膜の状態を制御する際、プラズマCVD蒸着時の酸素のみを制御対象とする単純な系であり、所望の表面状態(撥水性、離型性、接触角、剥離強度など)を有する蒸着膜を確実に形成できる。また、蒸着膜の厚み、適用幅等の制御も基材の搬送速度などを制御することで所望に応じて変化させることができるので、均一且つ安定的に蒸着膜を成膜できる。その結果、FFC製造用離型フィルムとして優れた剥離性を有し、基材との密接着性により従来よりも繰り返し使用可能な頻度が向上し、歩留まりのよいものができる。
【0015】
本発明の低酸素存在下でPE−CVD法により有機珪素化合物を蒸着モノマー原料とし
て成膜された有機珪素酸化物の連続蒸着膜の優位性は、PET、ポリオレフィンなど蒸着可能な基材フィルムであれば、特に、材料を選ばず、密接着性で剥離し難く、ヒートシール樹脂との離型性においても優れた撥水性離型フィルムを確実に制御して製造することができるものであり、設計自由度が極めて高く、所望の物性、性能のものを安価に製造することができる。
また、有機珪素化合物をPE−CVD法により低酸素雰囲気下で珪素酸化物蒸着膜を形成し、有機珪素酸化物中の炭素含有量が大きい膜が形成されるものであり、エチル基(−CH2−CH3)、メチル基(−CH3)が末端として残り、Si−OH基が少なくなることで、撥水性がある(水接触角の数値が大きい値)離型性となり疎水性の膜を得ることができる。
【0016】
本発明の有機珪素化合物から有機珪素酸化物の蒸着膜を成膜するものでは、シリコーン離型剤を塗布した離型コート品と異なり、ドライプロセスのため、有機珪素化合物の成膜に使用する量が少なく済み、かつ形成される蒸着膜は基材フィルムと化学結合を形成するため密着性に優れ、FFC製造用離型フィルムとして使用した際に離型層である有機珪素酸化物の蒸着膜の剥離による転移性は極めて低く、ほとんど見られない。
【0017】
そして、本発明の方法による有機珪素酸化物の蒸着膜は、有機成分を含有する有機珪素酸化物の蒸着膜であり有機無機系蒸着膜といえるもので、経時変化や温湿度変化に強く、表面状態が安定した膜が形成でき、また、巻き取り加工が可能であり、大面積かつ安価に作成可能である。さらに、本発明の有機珪素酸化物の蒸着膜自体の毒性もなく、リサイクル可能であり、燃焼による廃棄を行っても有害ガスがほとんど発生しないというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る撥水性離型フィルムを示す概略的断面図
【図2】プラズマ化学気相成長装置の概略的断面図
【図3】フレキシブルフラットケーブル製造装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、有機珪素酸化物の連続蒸着膜が有機成分を含有し、その有機成分の含有量すなわち炭素含有量を制御することにより形成される有機珪素酸化物の連続蒸着膜が離型性を有し、撥水性が制御された状態で形成できるようにした撥水性離型フィルムである。
本発明の撥水性離型フィルムによれば、撥水性炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜の厚みがナノメートルレベルからマイクロメートルレベルまで正確に任意の膜厚レベルで制御して形成することが可能であり、離型性が維持でき、かつ転移性もほとんどなく、しかも、撥水性をも制御可能である安定的な連続蒸着膜を形成することができる。
【0020】
本発明は、有機珪素酸化物の蒸着により形成される炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜を成膜する技術としてCVD法を利用することで、供給される反応系に関与する材料を少なくし、制御しやすい状態で離型層表面の撥水性及び離型性を維持し、制御した離型層を形成したFFC製造用撥水性離型フィルムが提供できる。
また、本発明のFFC製造用離型フィルムにおいては、熱ロールによる熱ラミネートを行う際の使用環境の厳しい状態下にあって、求められる耐熱性、離型性及び撥水性に加えて、省資源、省エネあるいは廃棄処理にも優れたものである。すなわち、炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜をCVD法により形成したものであり、ハロゲン系元素を含有せず、基材フィルムと離型層との間に化学結合が形成され、優れた密着性が発揮され、基材フィルムと離型層とは密着性に優れ、剥離しにくく、かつ離型層表面に疎水性基が存在し、被離型材と離型層との剥離力が小さく、離型層の離型性を長期に維持できるものである。
【0021】
本発明にかかる炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜を有するFFC製造用撥水性離型フィルム及びその製造方法について、その層構成の一例を例示して図面を用いて説明すると、図1は、本発明にかかる炭素含有有機珪素酸化物の撥水性連続蒸着膜を有する撥水性離型フィルムについてその層構成の一例を示す概略的断面図である。
なお、本発明において、フィルムとは、シート、フィルム、フィルム状物又はシート状物のいずれの場合も意味するもので、特別な意味を与えるものではない。
【0022】
本発明にかかる炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜を有するFFC製造用撥水性離型フィルムとしては、図1に示すように、基材1と、該基材1の一方の面に設けた有機珪素酸化物の連続膜蒸着膜(2a)とからなるものである。
当該蒸着膜(2a)である撥水性離型層を形成するプラズマ化学気相成長法は、例えば、図2に示すようなプラズマ化学気相成長蒸着装置を用い、真空チャンバ内で基材フィルムをプラズマ化学気相成長する雰囲気下に順次送り出し、巻き取り式のプラズマ化学気相成長方式を適用し、連続的に撥水性離型蒸着膜形成することができるものである。
本発明にかかるFFC製造用撥水性離型フィルムは、広範な用途に利用可能であるが、特に、FFC製造用に適した撥水性離型フィルムである。
【0023】
本発明で用いる基材フィルムは、使用条件に応じ、離型フィルムの基材フィルムに求められる物性、性能に適合するプラスチック材料を選択し、かつその表面粗さ、基材の厚み、表面凹凸形状など用途に応じた基材性状を設定、選択することができる。
本発明にかかるFFC製造用撥水性離型フィルムにおいて、使用する材料、方法等について説明する。
【0024】
撥水性離型フィルムの基材は、本発明において、一般的には、プラスチック基材、紙及びその処理紙が用いられる。プラスチック基材として使用できる材料としては、具体的には、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂等の各種樹脂フィルムを挙げることができる。なかでも、耐熱性、機械的性質、寸法安定性、密着性、価格等の点から、本発明においては、特に、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂のフィルムが好ましい。また、基材として、上記の2種以上の樹脂を用いて2層以上の積層フィルムであってもよい。
【0025】
本発明のフィルムの製造法として、特に限定されるものではなく、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、インフレーション法等の従来から一般に知られているフィルムの製法を適宜採用して製造することができる。また、2種以上の樹脂を使用して多層成膜化する方法、さらには、2種以上の樹脂を使用し、成膜化する前に混合して成膜化する方法等により、多層化してもよい。
さらに、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸ないし2軸延伸処理してもよい。
【0026】
本発明の基材において、フィルムの厚さとしては、特に限定されないが、10〜100μm、より好ましくは20〜50μm程度が好ましい。基材の厚みが離型層の厚みに対する比率が薄くなると、離型層を形成する際、基材の寸法安定性の低下や、CVD法処理又は塗工などの製造時の温度、気流、支持状況などの製造状況の影響を受け易く、基材フィルムの平坦性や平滑状態の維持に支障を来す恐れがある。厚みが100μmを超えると材
料の浪費となり、資源及び環境のコストが高くなる。
【0027】
本発明において、基材フィルムの形成に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、表面粗さなど離型層の形成に影響を及ぼさない範囲で選択、添加することができる。
本発明における一般的な添加剤としては、離型フィルムの基材として必要な機能を維持するため、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、染料、顔料等の着色剤等を使用することができる。
【0028】
本発明において、基材フィルムの表面に、離型層を構成する有機珪素酸化物の連続蒸着膜との密接着性を向上させるため、必要に応じて、予め、所望の表面処理をすることができる。上記表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の前処理を施すことができる。
【0029】
基材フィルムと離型層を構成する有機珪素酸化物の連続蒸着膜層との密接着性を改善するための方法として、プラズマCVD法により形成される有機珪素酸化物の連続蒸着膜と基材との密接着性が低下しない範囲で、例えば、プライマーコート層、アンダーコート層、アンカーコート層、接着剤層、あるいは、蒸着アンカーコート層等を形成することもできる。上記の前処理のコート材としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂等を使用することができる。
【0030】
[有機成分を含有する有機珪素酸化物の離型性層]
本発明にかかる蒸着膜の形成方法は、有機珪素化合物の蒸着原料モノマーガスを含有するガス組成物を使用し、所定の蒸着条件下、PE−CVD法により有機珪素酸化物の連続蒸着膜を所定の搬送速度で送られるプラスチック基材の一方の面に化学気相成長させて形成するものである。
本発明の方法では、低酸素濃度でガス組成物の供給量を変更するだけで、形成される有機珪素酸化物の連続蒸着膜中に、有機珪素化合物に起因する有機成分を含有し、かつ、Si−C結合の含有量を高濃度に調整してなる均一で十分な撥水性を有する離型層を形成することができ、本発明にかかるFFC製造用撥水性離型フィルムを確実に簡単に製造することができる。
【0031】
本発明において、重要なことは有機珪素酸化物の連続蒸着膜の離型層中に、C−H結合又はSi−C結合を有する化合物、蒸着原料のモノマーである有機珪素化合物やそれらの誘導体などの有機成分を含有する有機珪素酸化物(以下、単に炭素含有有機珪素酸化物ということもある)を化学結合等によってプラスチック基材上に蒸着膜として形成することであり、特に、CH3基及び/又はC25基を残すようにPE−CVD法で形成するものである。それにより、有機成分が膜表面に配列し、その有機成分の含有する密度により水接触角すなわち表面自由エネルギーが変わるものの、均一な撥水性及び離型性を示す炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜が形成できることになる。
有機珪素酸化物の連続蒸着膜層に含有する化合物としては、特に、CH3部位を持つハイドロカーボンを基本構造とするものを多く含有するものが撥水性離型層として好ましいものである。
【0032】
そこで、本発明の離型層を形成する有機成分を含有する有機珪素酸化物の連続蒸着膜を形成するために使用する有機珪素化合物としては、メチル基あるいはエチル基を含み、且つSiを主鎖とする、次のようなモノマー材料、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン(TMS)、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等を使用することができる。また、これらの1種又は2種以上を含むものであってもよい。
【0033】
撥水性を有する有機珪素酸化物の蒸着膜を形成するモノマー材料には、上記の例に係わらず、Si原子とCH3基及び/又はC25基を含む有機珪素化合物で、常温で適当な蒸気圧を持ち、プラズマCVD法を実施することが可能な材料であれば、どのような材料でも構わない。
具体例を挙げると、CH32部位を持つハイドロカ−ボンを挙げることができる。
本発明においては、有機珪素化合物として、特に、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)又はヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を原料として使用することが、その取り扱い性、形成された有機珪素酸化物の蒸着膜の撥水性等の特性から、特に、好ましい。
【0034】
プラズマCVD法により撥水性が付与された有機珪素酸化物の蒸着膜を形成するためには、Si原子とCH3基及び/又はC25基を含む有機珪素化合物におけるCH3基及び/又はC25基を残し、酸化分解してすべてがCOx、H2Oなどに酸化してしまわない必要がある。
したがって、ガス組成物は、上記のモノマー材料のほかのガス成分として、通常の蒸着法において行っているような高濃度で酸素ガスを供給することを止め、低酸素状態にする必要がある。撥水性は、CH3基及び/又はC25基の存在量で制御可能であり、酸素供給源を制御することで、あるいは撥水膜(撥水基)の密度を制御することで、撥水性すなわち離型性が制御可能となる。
上記以外でも蒸着過程の条件、基材の表面形状等を変化させることにより、有機珪素酸化物の連続蒸着膜層中に含有される有機成分の種類、量等を変化させることができる。
【0035】
モノマーガスのほかにモノマー蒸気を効率よく真空チャンバ内に導入するためのガス(キャリアーガス)やプラズマを発生させたり、プラズマを増強させたりする目的のガスを導入することも必要に応じて採用される。
キャリアーガスとして、アルゴンガスまたはヘリウムガス等の希ガス、又は窒素ガス、あるいはそれらの混合ガスなどの不活性ガスを含有させることができる。
【0036】
プラズマ発生装置には、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、または、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができる。
さらに、プラスチック基材にプラズマ化学気相成長を適用する方法としては、一般的には、プラズマ発生装置内でロール状のプラスチック基材を巻き取りながら、あるいはプラズマ発生装置内をプラスチック基材が通過することにより、プラスチック基材上にプラズマ化学気相成長させ、有機珪素酸化物の撥水性離型蒸着膜を形成することができる。
【0037】
本発明において、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスを使用して形成される有機珪素酸化物の連続蒸着膜は、通常、一般式SiOxCy(ただし、0<x≦2.5)で表される炭素含有珪素酸化物を主体とする連続蒸着膜であって、有機珪素酸化物の連続蒸着膜の離型性層としては、xが0.3〜1.5の範囲内にあって、yが1.2〜2.4の範囲にある
のが好ましく、そして、xが1.0〜1.4の範囲内にあって、yが1.5〜2.1の範囲内にあるのが好ましい。
【0038】
有機成分の含有量は、原料となる蒸着モノマーの有機珪素化合物により変わってくると考えて差し支えなく、撥水性及び離型性は、炭素含有有機珪素酸化物の蒸着膜における炭素を含有する密度及び平面的な広がりの密度分布を有機珪素化合物の分子構造から予測し、制御することも期待できる。
一般的には、有機成分の含有量が20〜80%位、好ましくは、30〜60%位が望ましいものである。含有率が、20%未満であると、有機珪素酸化物の連続蒸着膜層の離型性が低下し、あるいは、その耐衝撃性、延展性、柔軟性等が不十分となり、曲げ等により、擦り傷、クラック等が発生し易く、その安定性を維持することが困難になり、また、80%を越えると、離型性、蒸着膜の密着性も低下して好ましくない。
【0039】
CVD法によりメチル基及び/又はエチル基を導入する条件は、前記した材料を使用することに加え、Si原子とCH3基及び/又はC25基を含む有機珪素化合物からなるモノマー材料と希ガスとの組成比を、モノマー材料100重量部に対して希ガス30〜100重量部とすることである。希ガスが10重量部未満だとSiO2膜を形成することができず、また低酸素条件下での酸素ガスが10重量部を超えるとSiO2膜の中にメチル基又はエチル基が含まれなくなり、撥水性が失われるので好ましくない。
また、蒸着膜が撥水性及び離型性を発揮するためには、少なくとも10Å以上の撥水性蒸着膜の厚みが必要である。撥水性蒸着膜の厚みが10Å未満だと連続した蒸着膜として存在しなくなる。
【0040】
本発明においては、有機珪素酸化物の連続蒸着膜において、上記有機成分の含有量が有機珪素酸化物の連続蒸着膜の表面から深さ方向に向かって減少させることが好ましく、これにより有機珪素酸化物の連続蒸着膜の表面においては、上記有機成分により撥水性、離型性及び耐衝撃性等が高められ、他方、樹脂フィルムとの界面においては、上記有機成分の含有量が少なく、−SiO−による化学結合が基材フィルムとの間で形成されるために、基材フィルムと珪素酸化物の連続蒸着膜との密着性が強固なものとなるという利点を有するものである。
【0041】
離型層を構成する有機珪素酸化物の連続蒸着膜中に含有される有機成分の含有量が少なくなると撥水基であるメチル基(CH3)等の存在が少なくなることを意味し、離型性が低下するという理由により好ましくない。また、炭素原子含有量が多くなると膜の硬度、強度等が低下し、剥がれ落ちる現象が生じるという理由により好ましくないものである。
【0042】
本発明において、有機珪素酸化物の連続蒸着膜の膜厚としては、蒸着膜が炭素含有有機珪素酸化物であり、有機・無機の複合的な性質を有する膜であり、無機酸化物膜ほどの剛性がなく、膜が柔軟なため膜厚2nm〜400nmの範囲であれば特に問題はない。
具体的には、その膜厚としては、5〜200nmが好ましく、膜厚が200nm、さらには、400nmより厚くなると、剛性を増すため膜にクラック等が発生し易くなるので好ましくなく、また、膜厚が5nm以下であると、蒸着膜の平面密度が低下して基材フィルムが表面に露出することとなり、剥離性が低下し、離型層自体が被離型材へ付着し、離型層が剥離する可能性が増加する。さらに、2nm未満であると、離型層として離型性の効果を奏することが困難になることから好ましくないものである。
【0043】
蒸着膜の膜厚は、例えば、株式会社理学製の蛍光X線分析装置(機種名、RIX2000型)を用いて、測定することができる。また、上記の有機珪素酸化物の連続蒸着膜層の膜厚を変更するには、蒸着時の条件として連続蒸着膜の層の体積速度を大きくすること、すなわち、有機珪素化合物の蒸着モノマーガスを多くすること及び基材の搬送速度を遅く
することにより、膜厚を厚くすることができ、また、蒸着する速度を遅くすることにより膜厚を薄くすることができる。
本発明においては、有機珪素酸化物の連続蒸着膜層としては、有機珪素酸化物の連続蒸着膜層の1層だけではなく、その2層あるいはそれ以上を積層した多層膜の状態でもよく、また、使用する有機珪素化合物も1種または2種以上の混合物で使用し、また、異種の材質で混合した有機珪素酸化物の連続蒸着膜層を構成することもできる。
【0044】
本発明の低温プラズマ化学気相成長法による有機珪素酸化物の連続蒸着膜層の形成法について、プラズマ化学蒸着装置の一例を用いて説明する。
【0045】
図2は、上記有機珪素酸化物の連続蒸着膜層をプラズマ化学気相成長法により形成する際に用いる低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。
本発明においては、プラズマ化学気相成長装置11の真空チャンバ12内に配置された巻き出しロール13から基材フィルム1を繰り出し、所定の速度で冷却・電極ドラム15周面上に搬送する。ガス供給装置及び原料揮発供給装置16等から酸素ガス、不活性ガス等と混合させ、かつ原料である有機珪素化合物の蒸着用モノマーガス等を揮発させ、供給し、蒸着用混合ガス組成物を調製しながら原料供給ノズルを介して真空チャンバ内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、上記冷却・電極ドラムの周面上に搬送された基材フィルムの上に、グロー放電プラズマによって発生したプラズマを照射して、有機珪素酸化物の連続蒸着膜層を成膜化する。
なお、混合ガス中の有機珪素化合物、希ガス、及び不活性ガス等の含有量は、有機珪素酸化物の連続蒸着膜層に求める性質に応じて任意の組成で変更することができる。
そして、有機珪素酸化物の連続蒸着膜を形成した基材フィルムは、所定の巻き取りスピードで巻き取りロール14に巻き取って、本発明にかかる有機珪素酸化物の連続蒸着膜をプラズマ化学気相成長法により形成した基材フィルムとするものである。
上記の例示は、プラズマ化学気相成長法の一例を示すものであり、これによって本発明は限定されるものではないことは言うまでもないことである。
【0046】
本発明において、真空チャンバ内の真空度は、1×10-1〜1×10-4Torr、好ましくは、真空度1×10-1〜1×10-2Torrに調整する。従来の真空蒸着法による真空度1×10-4〜1×10-5Torrに比較して低真空度であることから、基材フィルムを原反交換時の真空状態設定時間を短くすることができ、真空度が安定しやすく、成膜プロセスが安定するものである。
また、基材1の搬送速度は、形成する有機珪素酸化物の連続蒸着膜層の膜厚、密度、生産性等に関係し、通常は10〜500m/min、好ましくは、20〜100m/minに調整することが好ましい。また、プラズマ発生電圧は、形成する有機珪素酸化物の連続蒸着膜層の膜厚、密度、生産性等に関係し、特に、有機珪素化合物との反応あるいは有機珪素化合物の分解を生じないマイルドな条件下、通常5〜20kwに調整することが好ましい。
【0047】
上記のプラズマ化学気相成長装置を用いた有機珪素酸化物の連続蒸着膜の層の形成は、基材フィルムの上にプラズマ化した有機珪素化合物の原料ガスを導入し、プラズマにより基材フィルムの表面が清浄化され、基材1の表面に極性基やフリ−ラジカル等が発生するので、形成される有機珪素酸化物の連続蒸着膜層と基材1との結合が形成され、密着性が高いものとなるという利点を有する。従って、有機珪素酸化物の連続蒸着膜層は、基材との密着性に優れ、さらに、膜厚の均一性も高い。また、有機珪素酸化物の蒸着膜は真空中で成膜化することからその表面に塵埃等が付着することはなく、有機珪素化合物基本骨格のSi−O結合が連鎖して蒸着膜を形成することから、分子鎖中に均一にSi−C結合が配置され、均一な撥水性及び離型性を有する優れた特性を有する蒸着膜が形成されるものである。
【0048】
[フレキシブルフラットケーブルの製造]
次に、本発明のFFC製造用撥水性離型フィルムを使用したFFCの製造方法の一例を説明する。
図3に示すようなFFC連続製造装置9を用い、支持ローラに所定の間隔を隔てて配列、支持された複数の導体5と、前記導体を上下両面から挟むようにポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂からなるベースフィルム3に接着剤層が設けられている絶縁フィルム4を連続的に供給して、一対の回転熱圧着ロール8,8間を通過させ、熱圧着ラミネートすることにより一体的に固定し、フレキシブルフラットケーブル6を製造する。その際、上下両面の絶縁フィルムと回転熱圧着ロールとの間に本発明のFFC製造用撥水性離型フィルムAを離型層2が絶縁フィルム側に来るように供給して熱圧着し、製造されたFFCをロールに巻き取る。ここで、上側の面の絶縁フィルムは、絶縁層として限定されないが、20〜60μmの熱可塑性フィルムを厚さ12〜50μmのポリエステルフィルムに積層したものが好ましく、また、所定の間隔で導体露出窓部7が形成されているものを用いる。
【0049】
絶縁フィルムとしては、ベースフィルムとしてFFCと同様の取扱いを可能とし、各FFCの突出する導体を補強(保護)するものであり、そのような機能を有する材料であれば任意の材料で形成することができる。絶縁材層には、絶縁性を有する各種樹脂材料により形成され、例えば、ポリエチレンテレフタレート、熱接着性の熱可塑性樹脂フィルムが用いられ、導体との接着性において良好なもの、例えば、不飽和ポリエステル系熱可塑性樹脂、エチレンビニルアセテート、アイオノマーなど接着性熱可塑性樹脂が用いられる。
ここで、FFCを構成する導体は平角導体として形成されるもので、その材質は導電性材料であれば任意であり、例えば、スズメッキ平角軟銅線等を使用することができる。導体の寸法や数も任意である。例えば、導体の厚みは35〜100μm、幅は0.3〜0.8mm程度である。
【0050】
本発明にかかる撥水性離型フィルムをFFC製造用の熱ラミネート時のロール間に配して使用することにより、撥水性離型フィルムの表面離型層は、シリコーン樹脂を離型剤とする離型フィルムに比し、離型層の厚みをオングストローム単位の厚みで形成することができ、かつ無機材料系の有機珪素酸化物の連続蒸着膜からなることから、離型フィルムの廃棄処理に際し、環境を悪化、破壊するような原因物質を発生させない。
また、CVD法により有機珪素酸化物の連続蒸着膜を形成することから基材フィルムとの密着性に優れかつナノオーダーの膜厚みで優れた離型性を有する離型フィルムが得られることから、塗工型の離型フィルムに見られるような離型層の製品への転移が起きず、製品の後処理、製品の品質管理などの面で優れ、歩留まりも向上し、かつ撥水性離型フィルムの使用期間が長くなり、製造コストも低減できる。
【実施例】
【0051】
本発明を以下の実施例に基づいて説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
本発明における実施例は、下記測定又は評価方法を用いて各種測定又は観察を行い、評価した。以下に実施例の物性値の測定方法及び評価方法を説明する。
【0052】
(測定方法)
(1)水接触角の測定
製造したFFC製造用撥水離型フィルムの撥水離型層表面の撥水性を評価するため、作成したFFC製造用撥水離型フィルムの表面に対する水の接触角を、接触角試験機(協和界面科学株式会社製:DropMaster700)装置を用いて、異なる場所で5回測定を実施し、5回の平均値を以て接触角の測定値を求めた。
【0053】
(2)離型性;剥離強度の測定
試料調製:製造したFFC製造用撥水離型フィルム(38μm)の離型層側と貼り合わせ用基材としてフレキシブルフラットケーブルの絶縁材原反を重ね合わせてフラットケーブルラミネーターでヒートシールして貼り合わせ、剥離強度試験としてORIENTIC
TENSILON RTC−1310Aを用い、試験片として15mm巾に切り出した離型フィルム付きフラットケーブル試験片を剥離速度50mm/minにてT字剥離を行い、剥離強度を測定した。
【0054】
(3)高温熱ロール適正の評価
試料調製:製造したFFC製造用撥水離型フィルム(38μm)とフレキシブルフラットケーブルの絶縁材原反2枚とを重ね合わせ、フラットケーブルラミネーターの熱ロールを用いて熱ラミネートして貼り合わせ、離型フィルム付きフラットケーブル試験片を形成し、耐熱性、熱収縮性、しわにならないなどの外観を観察して評価した。
評価するに当たり、○:良好、△:しわ発生、×:しわと熱収縮が両方発生、で評価した。
【0055】
(4)シリコーン転移性の評価
離型層の転移性
離型層の転移性については、フレキシブルフラットケーブルの絶縁材原反を重ね合わせ、熱ロールを用いて熱シールする際に、熱ロールと絶縁材原反との間にFFC製造用撥水離型フィルムを介在させて加熱温度℃、厚さ20μmのFFCを形成した。FFC製造用撥水離型フィルム付きFFCを形成後、FFCと離型フィルムを剥離させた。
FFCを剥離させた後、FFC製造用撥水離型フィルムからFFCの剥離フィルム側の表面への離型層の転移を確認するため、蛍光X線分析装置(リガク製RIX2000)を用いて剥離前後における離型フィルムの表面のSi強度を測定し、剥離前後のSi強度の変化を調べた。FFC形成前の離形層側のSi強度と比較することにより、離型層の転移性(転移していれば、Si強度が低下するので、その転移の有無を評価)を評価する。
【0056】
(5)燃焼廃棄性の評価
燃焼廃棄性とは大気中への有害ガス(ハロゲン系ガス)の発生及び燃焼残渣の有無で評価した。フッ素樹脂は有害なハロゲンガスの発生があり、離型層がシリコーン樹脂では、難燃性で焼却処理がし難く、残渣も多い
【0057】
本発明について、以下に実施例を挙げてさらに具体的に説明する。
(実施例1)
基材フィルムとして、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ製「PTH」、PET#12、表面粗さ(Ra)50nmの片面にコロナ処理を施したものを用い、該2軸延伸ポリエステルフィルムを巻取り式PE−CVD法蒸着装置の繰り出し側に、コロナ処理面が被蒸着面となるように設置し、その後、該基材フィルムを巻き出し、巻上げ張力を1.4N/mに設定し、巻取り式PE−CVD法蒸着装置の容器を密閉し、排気ポンプ用いて減圧するとともに、蒸着ドラムの冷却装置の出口側温度を0℃に冷却した。
装置内圧力をキャパシタンスマノメーターにより測定し、0.3Paに到達した段階で、蒸着モノマーとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を採用し、液体状態で流量を計量し、その供給ラインの流量を1000sccm(スタンダードシーシーパーミニッツ、1atm、0℃あるいは、25℃など一定温度で規格化されたslmを意味する。)に、また、装置内の雰囲気ガスとしてヘリウムを用い、その供給ラインの流量を1000sccmに、酸素ガスを100sccmに、それぞれ設定し、PE−CVD法蒸着装置の真空チャンバ内へ供給し、PE−CVD法蒸着装置の容器内の真空圧力を3.0Paに調整した。
上記のとおり設定したPE−CVD法蒸着装置の動作が安定化した後、下記PE−CVD法の蒸着条件として、印加電圧:40KHzの交流電源8kW、フィルムの搬送速度:30m/min、成膜圧力:3.0Pa、基材保持温度:0℃で、ヘキサメチレンジシロキサンを蒸着原料としたプラズマ化学気相成長を二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ放電処理面に施し、厚さ8nmの有機珪素酸化物の蒸着膜を成膜し、炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜を有する撥水離型フィルムを製造した後、基材フィルムの搬送を停止させ、捲き取り部の撥水離型フィルムを回収し、所定の物性測定を実施した。
成膜した蒸着膜の組成は、C:29.53、O:40.28、Si:30.19、O/Si:1.33であった。
【0058】
(蒸着条件)
基材: 二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(「ユニチカ製PET#25」)
蒸着面: コロナ放電処理
蒸着材料: ヘキサメチレンジシロキサン(HMDSO)
雰囲気ガス: Heガス
導入ガス比: HMDSO:O2:He=1.0:0.1:1.0[slm]
巻き取り型PE−CVD装置
印加電圧: 40KHz交流電源、8kW
フィルムの搬送速度: L/S=30m/min
成膜圧力: 3.0[Pa]
基材保持温度: 0℃
【0059】
(フレキシブルフラットケーブルの製造例)
次いで、図3に示す如くローラ上に複数法の導体(半田メッキ軟銅)を長手方向に沿って同一平面状に所定間隔をもって並設し、整列状態にして走行させ、その上部及び下部より厚さ12μmのポリエステルフィルムと厚さ40μmの不飽和ポリエステル難燃性接着剤層との絶縁性フィルムを供給するとともに、該絶縁性フィルムと重ね合わせるように本発明の実施例1で製造した撥水性離型フィルムの有機珪素酸化物の連続蒸着膜層が絶縁性フィルム側に来るように供給し、FFC製造用撥水性離型フィルムで絶縁性フィルムをサンドイッチしたのち熱圧着ロールにより加熱融着して一体化させ、フレキシブルフラットケーブルを製造した。FFC製造において、本発明の撥水性離型フィルムは、特に、フレキシブルフラットケーブルを製造するにおいて、絶縁材の熱シール一体化時に離型層の転移がなく、離型性があり、高温熱ロール適正、シリコーン転移性及び燃焼廃棄性にも優れており、全般的に優れた物性、性能を示した。
【0060】
(実施例2)
基材として、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ製のエンブレット「PTH」、表面粗さ(Ra)>300nm)の片面にコロナ処理を施したものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、プラズマ化学気相成長により有機珪素酸化物の連続蒸着膜を有するFFC製造用撥水離型フィルムを得た。該撥水離型フィルムを用いて実施例1と同様にFFCを製造した。
【0061】
(比較例1)
離型フィルムとして二軸延伸PETフィルム(ユニチカ製のエンブレット「PTH」使用、12μm、表面粗さ(Ra)50nm)を用いて、実施例1と同様にFFCを製造した。
【0062】
(比較例2)
離型フィルムとしてフタムラ化学製無延伸CPPフィルム(FHK2 25μm)を用
いて、実施例1と同様にFFCを製造した。
【0063】
(比較例3)
離型フィルムとして東レ製二軸延伸PETフィルム(E7002 25μm)を用いて、実施例1と同様にFFCを製造した。
【0064】
(比較例4)
離型フィルムとして旭硝子製フッ素樹脂フィルム(アフレックス 25μm)を用いて、実施例1と同様にFFCを製造した。
【0065】
上記本発明の各実施例及び比較例の離型フィルムを用いて製造された離型フィルム付きFFCについて、水接触角、離型性、高温熱ロール適性、シリコーン転移性、コスト及び燃焼廃棄性を、前記測定方法又は評価方法に従い測定し、それぞれの評価を行った。
その結果は、以下のとおりである。
【0066】
【表1】

【0067】
(結果の評価)
実施例と比較例1を比較すると、本発明では有機珪素化合物中のメチル基などの有機成分の存在により、メチル基等の疎水性基に起因して水接触角が大きくなり、有機珪素酸化物の連続蒸着膜の離型性が大きくなって、離型フィルムとして適正な離型性が発揮される。
また、実施例1と2の水接触角を比較してみると、蒸着膜の組成が同じであり、表面粗さが異なることからみて、表面粗さが大きい材料の方が、表面積が大きいため撥水性蒸着膜の効果が強くなることがわかった。
そして、実施例と従来の離型フィルムとして知られているものをFFC製造に用いた比較例の結果と比べて明らかなように、FFC製造時の使用環境の厳しい条件下においてでさえ、酸素雰囲気の条件下で優れた撥水性及び離型性を示す有機成分を含有する有機珪素酸化物の連続蒸着膜を離型層としたFFC製造用離型フィルムを用いることにより、比較例2のように熱ロールによるFFC絶縁フィルムの熱ラミネート時に、カール、熱収縮が見られることなく、高温熱ロール適正に優れている。また、従来型の水接触角が大きいシリコーン樹脂を離型層とする比較例3に見られるようなシリコーン成分の転移がなく、ヒートシール性の樹脂との離型性においても優れているものであった。
また、FFC製造時、離型フィルムとして長期間にわたり安定して離型性を維持でき、
離型フィルムとして廃棄する量が少なくすることができ、ランニングコスト面で有利なものであり、さらには、離型層の膜厚はnmオーダーと薄く、材料が有機珪素酸化物の蒸着膜であって燃焼時に二酸化珪素となり、環境面での適正に優れているものである。
本発明の離型フィルムは、FFC製造において離型フィルムに求められる性能を十分に満たす、非常に優れた性能を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、効率よく、かつ低コストで物性的に優れたFFC製造用撥水性離型フィルムを正確に制御して安定的に製造できる。得られた撥水性離型層は、特に、フレキシブルフラットケーブルを製造する際、絶縁材の熱シール一体化時に、はみ出した樹脂の転移を防ぎ、かつ離型層の転移がなく離型性に優れており、結果、繰り返し使用可能であり、また、しわや熱収縮の発生もないものであり、高温熱ロール適正、シリコーン転移性及び燃焼廃棄性等に優れ、FFC製造に適したものである。また、本発明のFFC製造用撥水性離型フィルムは、各種複合材料の製造時、FPC、多層プリント基板製造時、粘着用セパレートフィルム、感光剤用離型フィルム、電子材料・機能性材料用工程紙などの多くの離型フィルム用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
A:離型フィルム
1:基材フィルム
2(2a):離型層、有機成分を含有する有機珪素酸化物蒸着膜
3:補強シート
4:絶縁シート
5:複数の導体
6:フレキシブルフラットケーブル
7:導体露出窓部
8:熱圧着ロール
9:FFC連続製造装置
11:プラズマ化学気相成長装置
12:真空チャンバ
13:巻き出しロール
14:巻き取りロール
15:冷却・電極ドラム
16:原料揮発供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の絶縁性フィルムの間に複数本の導体を一定間隔で配置し、両端部で一定長導体を露出したフレキシブルフラットケーブルを製造する際に絶縁性フィルムに重ねて熱圧着ロールにより挟持され、2枚の絶縁性フィルムを熱融着させる離型層を有するFFC製造用撥水性離型フィルムであって、該離型層が、分子内にSi−C又はC−H結合を含有する有機珪素化合物を蒸着原料とし、低酸素ガス雰囲気下、プラスチック基材上に有機成分を含有するように有機珪素酸化物の連続蒸着膜をプラズマ化学気相成長させて成膜したものであることを特徴とするFFC製造用撥水性離型フィルム。
【請求項2】
低酸素ガス雰囲気が、希ガス又は希ガス以外の不活性ガスの存在するガス雰囲気下であることを特徴とする請求項1に記載のFFC製造用撥水性離型フィルム。
【請求項3】
分子内にSi−O結合を有する有機珪素化合物が、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)又はヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のFFC製造用撥水性離型フィルム。
【請求項4】
プラスチック基材が、二軸延伸ポリエステル系フィルム又は二軸延伸ポリアミド系フィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のFFC製造用撥水性離型フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−152691(P2011−152691A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15142(P2010−15142)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】