説明

ブラシレスモータの駆動装置

【課題】ブラシレスモータの脱調を抑制する。
【解決手段】複数の巻線を備えたブラシレスモータの各相に対するパルス電圧の通電モードを切り替えることで、ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置は、非通電相の電圧(誘起電圧)と電圧閾値とに基づいて通電モードを順次切り替える(S36〜S40)。また、ブラシレスモータの駆動装置は、パルス電圧の印加直後に現われる誘起電圧の振れを検出しないように、PWM制御のデューティ比の下限値を設定すると共に(S33)、誘起電圧が低下しないように、通電モードの切り替えタイミングにおける誘起電圧変化と電圧閾値に基づいてデューティ比の上限値を設定する(S34)。そして、デューティ比をその上限値及び下限値で画定される範囲内に規制することで、ブラシレスモータの脱調を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
センサレスでブラシレスモータを低速駆動する技術として、特開2009−189176号公報(特許文献1)に記載されるように、非通電相の誘起電圧(磁気飽和電圧)に応じて通電モードを切り替える技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術におけるブラシレスモータの駆動技術では、次のように、PWM(Pulse Width Modulation)制御のデューティ比が大きくなり、ブラシレスモータが脱調するおそれがあった。即ち、極低速領域にてブラシレスモータを回転フィードバック制御している状態において、例えば、高負荷などによりブラシレスモータが目標回転速度まで到達しない場合、デューティ比を増加させる制御がなされる。この場合、ブラシレスモータのデューティ比を大きくすると電流も大きくなるため、その電流を制限する必要がある。
【0005】
電流には、「相電流」と「電源電流」との2種類があり、高負荷状態において先に制限されるのは相電流である。相電流が制限された状態では、ブラシレスモータの回転速度が徐々に増加したり、コイル温度上昇によるコイル抵抗の増加などにより、同一の相電流に対してデューティ比・電源電流が大きくなる。この結果、通電している相間の磁束変化率が小さくなって誘起電圧が減少することから、ブラシレスモータの通電モードが適切なタイミングで切り替わらなくなり、ブラシレスモータが脱調してしまう。
【0006】
そこで、本発明は従来技術の問題点に鑑み、ブラシレスモータの脱調を抑制した、ブラシレスモータの駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、複数の巻線を備えたブラシレスモータの各相に対する通電モードを切り替えることで、ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置は、非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて通電モードを順次切り替える切替手段と、通電モードの切り替えタイミングにおける非通電相の電圧変化と電圧閾値とに基づいて通電量の上限値を規制する規制手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
ブラシレスモータに対する通電量の上限値を規制することで、非通電相の電圧が低下することを抑制し、ブラシレスモータが脱調することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】自動車AT(Automatic Transmission)用油圧ポンプシステムの概略構成図である。
【図2】モータ制御装置及びブラシレスモータの構成を示す回路図である。
【図3】ブラシレスモータの通電パターンを示すタイムチャートである。
【図4】ブラシレスモータの駆動制御を示すフローチャートである。
【図5】電圧閾値を学習するサブルーチンのフローチャートである。
【図6】ブラシレスモータを駆動するサブルーチンのフローチャートである。
【図7】目標モータ回転速度を設定するマップの説明図である。
【図8】デューティ比の下限値を設定する方法の説明図である。
【図9】デューティ比の上限値を設定する方法の説明図である。
【図10】電源電圧に応じてデューティ比の上限値を補正する方法の説明図である。
【図11】温度に応じてデューティ比の上限値を補正する方法の説明図である。
【図12】非通電相の相電圧検出期間の説明図である。
【図13】印加電圧の上限値を設定する方法の説明図である。
【図14】デューティ比に応じて電圧閾値を補正する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、ブラシレスモータの駆動装置の適用対象の一例である、自動車AT用油圧ポンプシステムの概略構成図を示す。
【0011】
自動車AT用油圧ポンプシステムでは、変速機7やアクチュエータ8にオイルを供給するオイルポンプとして、エンジン(図示せず)の出力により駆動される機械式オイルポンプ6と、モータで駆動される電動オイルポンプ1と、を備えている。
【0012】
また、エンジンの制御システムは、自動停止条件の成立時にエンジンを停止し、自動始動条件が成立するとエンジンを再始動するアイドルストップ制御機能を備えている。そして、アイドルストップによってエンジンが停止している間は、機械式オイルポンプ6もその動作を停止するため、アイドルストップ中は、電動オイルポンプ1を作動させて、変速機7やアクチュエータ8に対するオイルの供給を行う。
【0013】
電動オイルポンプ1は、直結したブラシレスモータ(3相同期電動機)2により駆動される。ブラシレスモータ2は、モータ制御装置(MCU)3により、AT制御装置(ATCU)4からの指令に基づいて制御される。
【0014】
モータ制御装置(駆動装置)3は、ブラシレスモータ2を駆動制御して電動オイルポンプ1を駆動し、オイルパン10のオイルを、電動オイル配管5を介して変速機7やアクチュエータ8に供給する。
【0015】
エンジン運転中は、エンジン駆動の機械式オイルポンプ6により、変速機7やアクチュエータ8にオイル配管9を介してオイルパン10のオイルが供給され、このとき、ブラシレスモータ2はオフ状態(停止状態)であって、電動オイルポンプ1に向かうオイルは逆止弁11によって遮断される。
【0016】
エンジンがアイドルストップすると、機械式オイルポンプ6の回転速度が低下してオイル配管9の油圧が低下するので、エンジンのアイドルストップに同期して、AT制御装置4がモータ起動の指令をモータ制御装置3に向けて送信する。
【0017】
起動指令を受けたモータ制御装置3は、ブラシレスモータ2を起動させて電動オイルポンプ1を回転させ、電動オイルポンプ1によるオイルの供給を開始させる。
そして、機械式オイルポンプ6の吐出圧が低下する一方で、電動オイルポンプ1の吐出圧が逆止弁11の開弁圧を超えるようになると、オイルは、電動オイル配管5,電動オイルポンプ1,逆止弁11,変速機7・アクチュエータ8,オイルパン10の経路を通って循環する。
【0018】
なお、本実施形態では、ブラシレスモータ2が、油圧ポンプシステムの電動オイルポンプ1を駆動するが、この他、ハイブリッド車両などにおいてエンジンの冷却水の循環に用いる電動ウォータポンプを駆動するブラシレスモータなどであってもよく、ブラシレスモータ2が駆動する対象機器をオイルポンプに限定するものでない。
【0019】
図2は、モータ制御装置3及びブラシレスモータ2の詳細を示す。
モータ制御装置3は、モータ駆動回路212とコンピュータを内蔵した制御器213とを有し、制御器213がAT制御装置4との間で通信を行う。
【0020】
ブラシレスモータ2は、3相DC(Direct Current)ブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相,V相及びW相の3相巻線215u,215v,215wが、図示しない円筒状の固定子に巻き回され、その固定子の中央部に形成された空間に永久磁石回転子(ロータ)216が回転可能に配設される。ここで、3相巻線215u,215v,215wがY字状に結合されている箇所が、中性点214と呼ばれる。
【0021】
そして、モータ駆動回路212は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)からなる6個のスイッチング素子217a〜217fを3相ブリッジ接続し、かつ、各スイッチング素子217a〜217fに逆並列にダイオード218a〜218fを夫々接続して構成され、電源回路219を有している。
【0022】
スイッチング素子217a〜217fの制御端子(ゲート端子)は、制御器213に接続されており、スイッチング素子217a〜217fのオン/オフは、制御器213によるパルス幅変調(PWM)動作で制御される。
【0023】
制御器213は、非通電相の誘起電圧と電圧閾値とに基づいて通電モードを順次切り替えつつ、モータ駆動回路212にパルス幅変調信号(PWM信号)を出力することで、ブラシレスモータ2の駆動を制御する。
【0024】
なお、誘起電圧(パルス誘起電圧)は、2相に対するパルス電圧の印加によって非通電相に誘起される電圧であって、回転子の位置(磁極位置)により磁気回路の飽和状態が変化することから、回転子の位置に応じた誘起電圧が非通電相に発生することになり、非通電相の誘起電圧から、回転子位置を推定して、通電モードの切替タイミングを検出することができる。また、通電モードとは、3相のうちでパルス電圧を印加する2相の選択パターンを示す。
【0025】
図3は、各通電モードにおける各相への電圧印加状態を示す。
通電モードは、電気角60degごとに順次切り替わる6通りの通電モード(1)〜(6)からなり、各通電モード(1)〜(6)において、3相から選択された2相に対してパルス電圧を印加する。
【0026】
本実施形態では、永久磁石回転子216のN極が、U相のコイルに対向する位置を0[deg]としたときに、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う回転子の角度位置(磁極位置)を30degに、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う回転子の角度位置を90degに、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う回転子の角度位置を150degに、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う回転子の角度位置を210degに、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う回転子の角度位置を270degに、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う回転子の角度位置を330degに設定している。
【0027】
通電モード(1)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に中性点214に対して電圧Vを印加し、V相に中性点214に対して電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流す。
【0028】
通電モード(2)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に中性点214に対して電圧Vを印加し、W相に中性点214に対して電圧―Vを印加し、U相からW相に向けて電流を流す。
【0029】
通電モード(3)は、スイッチング素子217c及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に中性点214に対して電圧Vを印加し、W相に中性点214に対して電圧―Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流す。
【0030】
通電モード(4)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217cをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に中性点214に対して電圧Vを印加し、U相に中性点214に対して電圧―Vを印加し、V相からU相に向けて電流を流す。
【0031】
通電モード(5)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217eをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に中性点214に対して電圧Vを印加し、U相に中性点214に対して電圧―Vを印加し、W相からU相に向けて電流を流す。
【0032】
通電モード(6)は、スイッチング素子217e及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に中性点214に対して電圧Vを印加し、V相に中性点214に対して電圧―Vを印加し、W相からV相に向けて電流を流す。
【0033】
なお、このような通電制御の場合、例えば、通電モード(1)では、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧―Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流すようにしたが、下段のスイッチング素子217dを駆動するPWM波と逆位相のPWM波で上段のスイッチング素子217cを駆動し、下段のスイッチング素子217dがオンであるときに、上段のスイッチング素子217cをオフさせ、下段のスイッチング素子217dがオフであるときに、上段のスイッチング素子217cをオンさせるようにする相補制御方式で、各通電モード(1)〜(6)での通電制御を行わせることができる。
【0034】
このように、6つの通電モード(1)〜(6)を、電気角60degごとに切り替えることで、各スイッチング素子217a〜217fは、240degごとに120deg間通電されることから、図3に示すような通電方式は120度通電方式と呼ばれる。
【0035】
本実施形態では、通電モードの切り替えを、非通電相に発生する電圧(誘起電圧)と電圧閾値との比較に基づいて行うようになっており、モータ制御装置3は、いわゆる位置センサレスの通電制御を行う。
【0036】
具体的には、制御器213が、通電モードに応じて、3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から選択した非通電相(開放相)の端子電圧が電圧閾値を横切ったか否かを判断する。そして、制御器213が、非通電相の端子電圧が電圧閾値を横切ったときに(非通電相の端子電圧が電圧閾値に一致したときに)、又は、非通電相の端子電圧が電圧閾値を横切って増大変化若しくは減少変化したときに、通電モードを切り替える。
【0037】
次に、図4を参照し、モータ制御装置3の制御器213が、所定時間Δtごとに繰り返し実行する、ブラシレスモータ2の駆動制御について説明する。
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様。)では、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる電圧閾値は、ブラシレスモータ2のばらつき、温度などで変化することに鑑み、学習により決定する。このため、電動オイルポンプ1の駆動前に、電圧閾値の学習条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、電源投入直後又は電動オイルポンプ1の停止直後など、ブラシレスモータ2の駆動要求が発生していないことを、電圧閾値の学習条件とする。そして、電圧閾値の学習条件が成立したと判定すれば処理をステップ2へと進める一方(Yes)、電圧閾値の学習条件が成立していないと判定すれば処理をステップ3へと進める(No)。
【0038】
ステップ2では、電圧閾値を学習するサブルーチンを実行する。
ステップ3では、例えば、アイドルストップ制御機能によりアイドルストップ要求が発生しているか否か、要するに、AT制御装置4が電動オイルポンプ1の駆動を要求しているか否かを判定する。そして、電動オイルポンプ1の駆動要求が発生していると判定すれば処理をステップ4へと進める一方(Yes)、電動オイルポンプ1の駆動要求が発生していないと判定すれば処理を終了させる(No)。なお、図4では図示されていないが、ステップ2の学習中に電動オイルポンプ1の駆動要求が発生した場合、学習を終了して改めて設定した電圧閾値を使用する。
【0039】
ステップ4では、ブラシレスモータ2を駆動するサブルーチンを実行する。
図5は、電圧閾値を学習するサブルーチン(設定手段)の詳細を示す。
ステップ11〜13では、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を学習し、ステップ14〜16では、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6を学習し、ステップ17〜19では、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1を学習し、ステップ20〜22では、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2を学習し、ステップ23〜25では、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3を学習し、ステップ26〜28では、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を学習する。但し、各電圧閾値の学習順は任意であり、適宜変更することができる。
【0040】
ステップ11では、永久磁石回転子216を、通電モード(3)に対応する角度に位置決めする。具体的には、通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinを各相に加える。通電モード(3)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が角度90degまで回転する。なお、通電モード(3)に対応する印加電圧を加えたときの角度である90degは、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置である。
【0041】
ステップ12では、ステップ11でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(3)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(3)に対応する90degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が90degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(3)に対応する印加電圧から、通電モード(4)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に切り替える。
【0042】
ステップ13では、通電モード(3)に対応する印加電圧から通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(4)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを検出し、端子電圧Vwに基づいて、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を更新して記憶する。即ち、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えは、角度90degで行わせるように設定されていて、角度90degになったか否かは、通電モード(4)における開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwに基づいて判定する。
【0043】
ここで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置(90deg)に位置決めすることができ、かかる状態で通電モード(3)から通電モード(4)に切り替えれば、切り替え直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置90degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
【0044】
そこで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(4)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づいて、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を更新して記憶し、通電モード(4)の開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwが、電圧閾値V4-5を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=電圧閾値V4-5になったとき)、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを実行させるようにする。
【0045】
電圧閾値の更新処理においては、今回求めた開放相の端子電圧Vをそのまま電圧閾値として記憶させてもよいし、また、前回までの電圧閾値と今回求めた開放相の端子電圧Vとの加重平均値を新たな電圧閾値として記憶させてもよいし、更に、過去複数回に亘って求めた開放相の端子電圧Vの移動平均値を新たな電圧閾値として記憶させてもよい。
【0046】
また、今回求めた開放相の端子電圧Vが、予め記憶している正常範囲内の値であれば、今回求めた開放相の端子電圧Vに基づいて電圧閾値の更新を行い、正常範囲から外れている場合には、今回求めた開放相の端子電圧Vに基づく電圧閾値の更新を禁止し、電圧閾値を前回値のまま保持させるとよい。電圧閾値の初期値として設計値を記憶させておき、電圧閾値の学習を1度も経験していない未学習状態では、電圧閾値として初期値(設計値)を用いて通電モードの切り替えタイミングを判定させるようにする。開放相(非通電相)の端子電圧を、一定時間周期でA/D(アナログ/デジタル)変換して読み込む場合には、通電モード切り替え直後の開放相の端子電圧を検出させるときに、通電モードの切り替え実行後、最初に読み込んだ開放相の端子電圧を、切り替え直後の開放相の端子電圧とすることができるが、通電モードの切り替え処理に同期してA/D変換処理を実行させてもよい。
【0047】
ステップ14では、永久磁石回転子216を、通電モード(4)に対応する角度に位置決めする。具体的には、通電モード(4)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0を各相に加える。通電モード(4)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が角度150degまで回転する。なお、通電モード(4)に対応する印加電圧を加えたときの角度である150degは、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置である。
【0048】
ステップ15では、ステップ14でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(4)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(4)に対応する150degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が150degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(4)に対応する印加電圧から、通電モード(5)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinに切り替える。
【0049】
ステップ16では、通電モード(4)に対応する印加電圧から通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(5)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを検出し、端子電圧Vvに基づいて、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6を更新して記憶する。即ち、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えは、角度150degで行わせるように設定されていて、角度150degになったか否かは、通電モード(5)における開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvに基づいて判定する。
【0050】
ここで、通電モード(4)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置(150deg)に位置決めすることができ、かかる状態で通電モード(4)から通電モード(5)に切り替えれば、切り替え直後のV相の端子電圧Vvは、角度位置150degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
【0051】
そこで、通電モード(4)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(5)に切り替えた直後におけるV相の端子電圧Vvに基づいて、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6を更新して記憶し、通電モード(5)の開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvが、電圧閾値V5-6を横切ったときに(V相の端子電圧Vv=電圧閾値V5-6になったとき)、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを実行させるようにする。
【0052】
ステップ17では、永久磁石回転子216を、通電モード(5)に対応する角度に位置決めする。具体的には、通電モード(5)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinを各相に加える。通電モード(5)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が角度210degまで回転する。なお、通電モード(5)に対応する印加電圧を加えたときの角度である210degは、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置である。
【0053】
ステップ18では、ステップ17でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(5)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(5)に対応する210degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が210degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(5)に対応する印加電圧から、通電モード(6)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=―Vin、Vw=Vinに切り替える。
【0054】
ステップ19では、通電モード(5)に対応する印加電圧から通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(6)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを検出し、端子電圧Vuに基づいて、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1を更新して記憶する。即ち、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えは、角度210degで行わせるように設定されていて、角度210degになったか否かは、通電モード(6)における開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuに基づいて判定する。
【0055】
ここで、通電モード(5)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置(210deg)に位置決めすることができ、かかる状態で通電モード(5)から通電モード(6)に切り替えれば、切り替え直後のU相の端子電圧Vuは、角度位置210degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
【0056】
そこで、通電モード(5)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(6)に切り替えた直後におけるU相の端子電圧Vuに基づいて、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1を更新して記憶し、通電モード(6)の開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuが、電圧閾値V6-1を横切ったときに(U相の端子電圧Vu=電圧閾値V6-1になったとき)、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを実行させるようにする。
【0057】
ステップ20では、永久磁石回転子216を、通電モード(6)に対応する角度に位置決めする。具体的には、通電モード(6)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vinを各相に加える。通電モード(6)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が角度270degまで回転する。なお、通電モード(6)に対応する印加電圧を加えたときの角度である270degは、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置である。
【0058】
ステップ21では、ステップ20でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(6)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(6)に対応する270degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が270degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(6)に対応する印加電圧から、通電モード(1)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=―Vin、Vw=0に切り替える。
【0059】
ステップ22では、通電モード(6)に対応する印加電圧から通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(1)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを検出し、端子電圧Vwに基づいて、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2を更新して記憶する。即ち、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えは、角度270degで行わせるように設定されていて、角度270degになったか否かは、通電モード(1)における開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwに基づいて判定する。
【0060】
ここで、通電モード(6)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置(270deg)に位置決めすることができ、かかる状態で通電モード(6)から通電モード(1)に切り替えれば、切り替え直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置270degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
【0061】
そこで、通電モード(6)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(1)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づいて、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2を更新して記憶し、通電モード(1)の開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwが、電圧閾値V1-2を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=電圧閾値V1-2になったとき)、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを実行させるようにする。
【0062】
ステップ23では、永久磁石回転子216を、通電モード(1)に対応する角度に位置決めする。具体的には、通電モード(1)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=―Vin、Vw=0を各相に加える。通電モード(1)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が角度330degまで回転する。なお、通電モード(1)に対応する印加電圧を加えたときの角度である330degは、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置である。
【0063】
ステップ24では、ステップ23でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(1)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(1)に対応する330degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が330degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(1)に対応する印加電圧から、通電モード(2)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vinに切り替える。
【0064】
ステップ25では、通電モード(1)に対応する印加電圧から通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(2)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを検出し、端子電圧Vvに基づいて、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3を更新して記憶する。即ち、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えは、角度330degで行わせるように設定されていて、角度330degになったか否かは、通電モード(2)における開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvに基づいて判定する。
【0065】
ここで、通電モード(1)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置(330deg)に位置決めすることができ、かかる状態で通電モード(1)から通電モード(2)に切り替えれば、切り替え直後のV相の端子電圧Vvは、角度位置330degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
【0066】
そこで、通電モード(1)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(2)に切り替えた直後におけるV相の端子電圧Vvに基づいて、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3を更新して記憶し、通電モード(2)の開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvが、電圧閾値V2-3を横切ったときに(V相の端子電圧Vv=電圧閾値V2-3になったとき)、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを実行させるようにする。
【0067】
ステップ26では、永久磁石回転子216を、通電モード(2)に対応する角度に位置決めする。具体的には、通電モード(2)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=―Vinを各相に加える。通電モード(2)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が角度30degまで回転する。なお、通電モード(2)に対応する印加電圧を加えたときの角度である30degは、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置である。
【0068】
ステップ27では、ステップ26でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(2)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(2)に対応する30degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が30degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(2)に対応する印加電圧から、通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinに切り替える。
【0069】
ステップ28では、通電モード(2)に対応する印加電圧から通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(3)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを検出し、端子電圧Vuに基づいて、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を更新して記憶する。即ち、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えは、角度30degで行わせるように設定されていて、角度30degになったか否かは、通電モード(3)における開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuに基づいて判定する。
【0070】
ここで、通電モード(2)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置(30deg)に位置決めすることができ、かかる状態で通電モード(2)から通電モード(3)に切り替えれば、切り替え直後のU相の端子電圧Vuは、角度位置30degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
【0071】
そこで、通電モード(2)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(3)に切り替えた直後におけるU相の端子電圧Vuに基づいて、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を更新して記憶し、通電モード(3)の開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuが、電圧閾値V3-4を横切ったときに(U相の端子電圧Vu=電圧閾値V3-4になったとき)、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを実行させるようにする。
【0072】
このように、通電モード(1)〜(6)のいずれか1つに保持することで、通電モードの切り替えを行う角度位置に永久磁石回転子216を位置決めし、位置決め時の通電モードから次の通電モードに切り替え、切り替え直後における開放相の端子電圧を、位置決めした角度位置で通電モードを切り替えるとき(切り替え直後の通電モードから更に次の通電モードに切り替えるとき)に用いる電圧閾値として学習する。
【0073】
従って、電圧検出回路の検出ばらつき、モータのばらつき、温度などの環境条件の変化などによって、切り替えを行わせる角度位置での開放相の端子電圧がばらついても、このばらつきに応じて電圧閾値を逐次修正することができ、通電モードの切り替えタイミングが、所期の角度位置からずれてしまうことを抑制できる。また、通電モードの6通りの切り替えごとに、電圧閾値を個別に学習し、どの通電モードに切り替えるかによって、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる電圧閾値を選択するから、ブラシレスモータ2の個々の巻線にばらつきがあっても、各通電モードへの切り替えを適正なタイミング(所期の角度位置)で行わせることができる。
【0074】
図6は、ブラシレスモータ2を駆動するサブルーチンを示す。なお、ブラシレスモータ2を駆動するサブルーチンによる処理が、切替手段、規制手段及び補正手段に該当する。
ステップ31では、例えば、図7に示すような、ATF(Automatic Transmission Fluid)の油温に対応した目標回転速度が設定されたマップを参照し、ブラシレスモータ2の目標回転速度を演算する。ここで、図7に示すマップでは、油温が上昇するにつれて、目標回転速度が線形に増加しているが、このような特性に限るものではない。ブラシレスモータ2がウォータポンプを駆動する場合には、エンジンの冷却水温度が高いほど目標回転速度をより高い回転速度に設定すればよい。
【0075】
ステップ32では、ブラシレスモータ2の目標回転速度と実際の回転速度(実回転速度)とに基づいて、次のように、ブラシレスモータ2に印加する印加電圧を演算する。即ち、印加電圧を回転フィードバックによりPI(比例積分)制御する場合では、「回転速度偏差=目標回転速度―実回転速度」とおくと、「印加電圧=回転速度偏差×P(比例)ゲイン+回転速度偏差積分値×I(積分)ゲイン」という式から印加電圧を求めることができる。他の制御方式、例えば、PID制御でも同様である。なお、実回転速度は、後述するステップ41で演算した演算値を用いるが、公知のセンサなどで検出した検出値を用いるようにしてもよい。
【0076】
このとき、相電流及び電源電流が制限されていることに鑑み、次のように、相電流及び電源電流に応じて印加電圧を補正する。即ち、電源電流は、回路で検出した検出値を用い、相電流は、「相電流=電源電流/デューティ比」という式から演算した演算値を用いる。先ず、以下の式により、電流制限値と電流値との差分を演算する。
【0077】
差分1=電源電流の電流制限値―電源電流(検出値)
差分2=相電流の電流制限値―相電流(演算値)
そして、差分1及び差分2のうち小さい方を選択し、その差分が0以下であれば、次のように、差分にゲインをかけた電流制限項により、印加電圧を補正する。
【0078】
電流制限項=電流ゲイン×min(差分1,差分2)
ステップ33では、次のような方法で、相電流をPWM制御するときのデューティ比の下限値を設定する。
【0079】
例えば、図8に示すように、PWM制御においてキャリア周期ごとに増減を繰り返すPWMカウンタの谷(カウンタ値が減少から増大に転じる点)、換言すれば、パルス印加電圧のパルス幅PWの中心付近を、非通電相のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合、パルス電圧の印加直後(立ち上がり直後)の非通電相のパルス誘起電圧が振れる期間(電圧振れ時間)がパルス幅PWの1/2よりも長いと、パルス誘起電圧が振れている間に、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることになってしまい、非通電相のパルス誘起電圧を精度よく検出することができない。また、非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換処理に要する時間(A/D変換開始から完了までのA/D変換時間)が、パルス幅PWの1/2よりも長いと、A/D変換処理中に相通電に対する電圧の印加が停止してしまい、この場合も、非通電相のパルス誘起電圧を精度よく検出することができず、ブラシレスモータ2が脱調してしまう可能性がある。
【0080】
そこで、デューティ比の下限値を次式に従って演算する。
下限値=max(電圧振れ時間,A/D変換時間)×2/キャリア周期×100
この式によると、電圧振れ時間とA/D変換時間との長い方の2倍を最小パルス幅PWminとすることになり、パルス誘起電圧が振れている間に非通電相のパルス誘起電圧のA/D変換(サンプリング)が行われることを抑制でき、かつ、A/D変換処理中に通電相に対する電圧の印加が停止してしまうことを抑制できる。
【0081】
なお、PWM制御においてキャリア周期ごとに増減を繰り返すPWMカウンタの山(カウンタ値が増大から減少に転じる点)を非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合や、PWM切替りタイミングを非通電相の電圧のA/D変換タイミング(サンプリングタイミング)とする場合にも、上記のようにして、デューティ比の下限値を設定する。
【0082】
ステップ34では、次のような方法で、相電流をPWM制御するときのデューティ比の上限値を設定する。
即ち、図9に示すように、ブラシレスモータ2をPWM制御するデューティ比を変化させたときの誘起電圧を事前に取得しておき、電圧閾値と誘起電圧との関係に基づいてデューティ比の上限値を設定する。具体的には、電圧閾値と誘起電圧とが一致しているデューティ比から、ばらつきを考慮して、例えば、電圧閾値より10%程度の余裕を持った誘起電圧を発生するデューティ比を、デューティ比の上限値として設定する。ここで、誘起電圧は、1つ1つ学習をして取得してもよいし、N個の平均値や最小値でもよい。
【0083】
このようにすれば、デューティ比の上限値が規制されることで、通電している相間の磁束変化率が小さくなって誘起電圧が減少することが抑制される。このため、ブラシレスモータ2の通電モードが適切なタイミングで切り替わり、ブラシレスモータ2が脱調することを抑制できる。
【0084】
また、このように設定したデューティ比の上限値について、電源電圧及び温度の少なくとも一方に応じた補正を実施する。即ち、電源電圧が高い場合には、図10に示すように、電源電圧が低い場合と比較して、誘起電圧が大きくなる。このため、電源電圧に応じた誘起電圧と電圧閾値との偏差が大きくなるにつれて、ばらつきを考慮した余裕を確保しつつ、デューティ比の上限値を更に大きくする補正を行う。一方、モータ温度が低い場合には、図11に示すように、モータ温度が高い場合と比較して、誘起電圧が大きくなる。このため、モータ温度に応じた誘起電圧と電圧閾値との偏差が大きくなるにつれて、ばらつきを考慮した余裕を確保しつつ、デューティ比の上限値を更に大きくする補正を行う。ここで、モータ温度としては、ブラシレスモータ2のロータ温度若しくはこれに関連する温度、例えば、ATF油温などを用いることができる。なお、相電流が大きくなればデューティ比も大きくなるため、相電流による補正も考えられるが、ここでは、電流制限中で相電流は略一定であると仮定する。
【0085】
このようにすれば、電源電圧又はモータ温度の変化に伴って誘起電圧が変化しても、この変化を補うように、デューティ比の上限値が補正される。このため、ブラシレスモータ2の通電モードの切り替えタイミングが、適切なタイミングからずれることが抑制され、ブラシレスモータ2が脱調することをより抑制できる。
【0086】
ステップ35では、ステップ32で設定した印加電圧(入力電圧)、ステップ33で設定したデューティ比の下限値、及び、ステップ34で設定したデューティ比の上限値に基づいて、モータ印加デューティ(デューティ比)を設定する。
【0087】
まず、基本デューティ[%]を、「基本デューティ=印加電圧/電源電圧×100」から算出する。そして、基本デューティが下限値よりも大きい場合、基本デューティをモータ印加デューティとする一方、基本デューティが下限値よりも小さい場合、下限値をモータ印加デューティとすることで、モータ印加デューティが下限値を下回ることがないように制限する。また、基本デューティが上限値よりも大きい場合、上限値をモータ印加デューティとする一方、基本デューティが上限値よりも小さい場合、基本デューティをモータ印加デューティとすることで、モータ印加デューティが上限値を上回ることがないように
制限する。要するに、モータ印加デューティを、上限値及び下限値により画定される範囲内に制限する。
【0088】
本実施形態のような油圧ポンプシステムの場合、モータ回転速度を高精度に制御することは要求されず、要求よりも高い印加電圧を与えるから、デューティ比を制限しても、要求量以上のオイル吐出量を確保でき、油圧低下や潤滑不足などが生じることがない。また、ブラシレスモータ2がウォータポンプを駆動する場合には、デューティ比を制限しても、少なくとも要求量以上の冷却水循環量を確保でき、エンジン過熱の発生を抑制できる。
【0089】
なお、ブラシレスモータ2の脱調が生じる可能性の少ない高速センサレス制御では、本制御を使用しなくてもよい。
ステップ36では、そのときの通電モードにおける非通電相の電圧を検出する。具体的には、通電モード(1)の場合はW相の電圧を検出し、通電モード(2)の場合はV相の電圧を検出し、通電モード(3)の場合はU相の電圧を検出し、通電モード(4)の場合はW相の電圧を検出し、通電モード(5)の場合はV相の電圧を検出し、通電モード(6)の場合はU相の電圧を検出する。
【0090】
ここで、非通電相の端子電圧の検出期間を、通電モード(3)を例とした図12を参照して説明する。通電モード(3)では、V相に電圧Vを印加し、W相にパルス幅変調動作によって指示電圧に相当する電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流すから、電圧検出相はU相であり、このU相の相端子電圧を、W相下段のスイッチング素子217fのオン期間で検出する。
【0091】
また、通電モードの切り替え直後は、転流電流が発生し、この転流電流の発生区間で検出した電圧を用いると、通電モードの切り替えタイミングを誤判定することになってしまう。そこで、通電モードの切り替え直後の電圧検出値については、初回から所定回数に亘って切り替えタイミングの判定には用いないようにする。所定回数は、モータ回転速度及び電流(モータ負荷)に応じて可変に設定することができ、モータ回転速度が高く、モータ電流が高いほど、所定回数を大きな値に設定する。
【0092】
ステップ37では、低速センサレス制御の実施条件が成立しているか否かを判定する。非通電相に発生する誘起電圧(速度起電圧)の信号をトリガに通電モードの切り替えを行うセンサレス制御においては、モータ回転速度が低い領域では、誘起電圧(速度起電圧)が低くなって切り替えタイミングを精度よく検出することが難しくなるので、モータの低回転領域では、パルス誘起電圧と電圧閾値との比較に基づいて、切り替えタイミングの判定を行う。従って、低速センサレス制御の実施条件が成立しているか否かを、モータ回転速度が所定回転速度以下であるか否かに基づいて判定する。ここで、所定回転速度は、速度起電圧をトリガとする切り替え判定を行えるモータ回転速度の最小値であり、例えば、実験やシミュレーションなどによって予め決定しておく。そして、低速センサレス制御の実施条件が成立していると判定すれば処理をステップ38へと進める一方(Yes)、低速センサレス制御の実施条件が成立していないと判定すれば処理をステップ39へと進める(No)。
【0093】
なお、モータ回転速度は、通電モードの切り替え周期に基づいて算出される。また、所定回転速度として、例えば、低速センサレス制御への移行を判定する第1回転速度と低速センサレス制御の停止を判定する第2回転速度(>第1回転速度)とを設定し、いわゆる「ヒステリシス」を持たせることで、センサレス制御の切り替えが短時間で繰り返されることを抑制してもよい。
【0094】
また、非通電相に発生する速度起電力を用いて通電モードの切り替えを行う場合、ブラシレスモータ2が脱調する可能性が小さければ、デューティ比の上限値を設定する処理を実施しなくてもよい。
【0095】
ステップ38では、非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて、通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定する。具体的には、そのときに通電モード(1)であった場合には、非通電相であるW相の電圧が電圧閾値V1-2以下になったときに、通電モード(2)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(2)であった場合には、非通電相であるV相の電圧が電圧閾値V2-3以上になったときに、通電モード(3)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(3)であった場合には、非通電相であるU相の電圧が電圧閾値V3-4以下になったときに、通電モード(4)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(4)であった場合には、非通電相であるW相の電圧が電圧閾値V4-5以上になったときに、通電モード(5)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(5)であった場合には、非通電相であるV相の電圧が電圧閾値V5-6以下になったときに、通電モード(6)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(6)であった場合には、非通電相であるU相の電圧が電圧閾値V6-1以上になったときに、通電モード(1)への切り替えタイミングであると判定する。そして、通電モードの切り替えタイミングであると判定すれば処理をステップ40へと進める一方(Yes)、通電モードの切り替えタイミングでないと判定すれば処理を終了させる(No)。
【0096】
ステップ39では、非通電相の電圧に基づいて、通電モードの切り替えタイミングであるか否かを判定する。具体的には、そのときに通電モード(1),(3)又は(5)であった場合には、非通電相の電圧が0[V]以下になり、かつ、その時点から永久磁石回転子216が更に30deg回転したときに、次の通電モード(2),(4)又は(6)への切り替えタイミングであると判定し、そのときに通電モード(2),(4)又は(6)であった場合には、非通電相の電圧が0[V]以上になり、かつ、その時点から永久磁石回転子216が更に30deg回転したときに、次の通電モード(3),(5)又は(1)への切り替えタイミングであると判定する。そして、通電モードの切り替えタイミングであると判定すれば処理をステップ40へと進める一方(Yes)、通電モードの切り替えタイミングでないと判定すれば処理を終了させる(No)。
【0097】
ステップ40では、次の通電モードに切り替える。具体的には、そのときに通電モード(1)であった場合には通電モード(2)に切り替え、そのときに通電モード(2)であった場合には通電モード(3)に切り替え、そのときに通電モード(3)であった場合には通電モード(4)に切り替え、そのときに通電モード(4)であった場合には通電モード(5)に切り替え、そのときに通電モード(5)であった場合には通電モード(6)に切り替え、そのときに通電モード(6)であった場合には通電モード(1)に切り替える。
【0098】
ステップ41では、通電モードの切り替え周期に基づいて、ブラシレスモータ2の回転速度を演算する。具体的には、通電モードの切り替えが行われる時間間隔を計測し、この時間間隔から回転速度を演算する。例えば、ブラシレスモータ2の極対数が3である場合、回転速度は、「回転速度=60/3/時間間隔」という式から求めることができる。
【0099】
以上説明した実施形態に対して、次のような機能を更に付け加えるようにしてもよい。
低速センサレス制御を実施している場合、図13に示すように、電源電流が大きくなると、非通電相の誘起電圧が徐々に小さくなって電圧閾値未満になってしまう。このため、ブラシレスモータ2をPWM制御するデューティ比相当の電源電流を事前に取得しておき、ばらつきを考慮した余裕を持たせつつ、電源電流が第1の所定値以上にならないように印加電圧の上限値を規制する。ここで、第1の所定値としては、例えば、ステップ34で設定したデューティ比の上限値相当の電源電流とすればよい。なお、印加電圧の上限値は、デューティ比の上限値と同様な方法で、電源電圧及び温度の少なくとも一方に基づいて補正してもよい。
【0100】
また、図14に示すように、ブラシレスモータ2をPWM制御するデューティ比が第2の所定値よりも大きくなると、非通電相の誘起電圧が徐々に小さくなって電圧閾値未満になってしまう。このため、デューティ比が第2の所定値よりも大きくなった場合には、電圧閾値を徐々に小さくする。ここで、第2の所定値としては、例えば、ステップ34で設定したデューティ比の上限値相当とすればよい。
【0101】
なお、上記実施形態では、3相のブラシレスモータを前提としたが、その相数は3相に限らず、他の相数であってもよい。
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
【0102】
(イ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータを低速センサレス制御で駆動している場合、電源電流が通電量の上限値に相当する電流以上とならないように、前記ブラシレスモータに印加する電圧を規制する、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、電源電流が通電量の上限値に相当する電流に制限されるため、非通電相の誘起電圧が電圧閾値未満になることがなく、ブラシレスモータの脱調抑制の実効を図ることができる。
【0103】
(ロ)(イ)に記載のブラシレスモータの駆動装置において、
電源電圧及び温度の少なくとも一方に基づいて、前記ブラシレスモータに印加する電圧を補正する、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、電源電圧又は温度の変化を補うようにブラシレスモータに印加する電圧が補正されるので、電源電圧又は温度の変化に応じて誘起電圧が変化することを抑制できる。
【0104】
(ハ)請求項1〜3、(イ)及び(ロ)のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータの通電量が所定値よりも大きくなった場合、前記電圧閾値を徐々に小さくする、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、ブラシレスモータの通電量が所定値よりも大きくなると、誘起電圧が電圧閾値未満となる可能性があるが、電圧閾値を徐々に小さくすることで、誘起電圧が電圧閾値未満となることを抑制できる。
【0105】
(ニ)請求項1〜3及び(イ)〜(ハ)のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータが停止した場合、その再起動時に前記電圧閾値を所定割合だけ小さくする、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、ブラシレスモータを円滑に再始動させることができる。
【0106】
(ホ)請求項1〜3及び(イ)〜(ニ)のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記通電量の上限値は、前記ブラシレスモータが所定回転速度以下で回転しているときのみ規制される、ブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、ブラシレスモータが中・高速運転している場合、通電量の上限値が規制されないため、ブラシレスモータを目標回転速度で運転することができる。
【符号の説明】
【0107】
1…電動オイルポンプ、2…ブラシレスモータ、3…モータ制御装置、212…モータ駆動回路、213…制御器、215u,215v,215w…巻線、216…永久磁石回転子、217a〜217f…スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻線を備えたブラシレスモータの各相に対する通電モードを切り替えることで、前記ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置であって、
非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて前記通電モードを順次切り替える切替手段と、
前記通電モードの切り替えタイミングにおける前記非通電相の電圧変化と前記電圧閾値とに基づいて通電量の上限値を規制する規制手段と、
を有することを特徴とするブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
1つの通電モードを継続させてブラシレスモータを停止させた状態から次の通電モードへの切り替えを行い、前記通電モードの切り替え直後における非通電相の電圧に基づいて前記電圧閾値を設定する設定手段を、
更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のブラシレスモータの駆動装置。
【請求項3】
電源電圧、並びに、前記ブラシレスモータの温度の少なくとも一方に基づいて、前記通電量の上限値を補正する補正手段を、
更に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブラシレスモータの駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−70467(P2013−70467A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205654(P2011−205654)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】