説明

ブレーキ倍力制御装置

【課題】 運転者のブレーキペダル操作力により発生する圧力を精度よく検出し、ブレーキペダル操作力に応じたホイルシリンダ圧を高い精度で発生させるブレーキ倍力制御装置を提供すること。
【解決手段】 制動意図と目標制動力との差に基づいてゲートアウトバルブのコイルに通電する電流値を与えると共に、ホイルシリンダとゲートアウトバルブとの間に目標制動力以上の液圧を発生可能な液圧源を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者のブレーキペダル操作力を倍力して大きなホイルシリンダ圧を発生させるブレーキ倍力制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者のブレーキペダル操作力を倍力して大きなホイルシリンダ圧を発生させるブレーキシステムとして、エンジン負圧を利用した負圧倍力装置や、アキュムレータを利用した液圧倍力装置が多く採用されている。しかしながら、これらの倍力装置は大型であることから、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。この公報では、運転者のブレーキペダル操作を検出したときに、アンチロックブレーキシステムに内蔵された油圧ポンプを作動させ、ブレーキペダル操作力により発生する圧力よりも大きなホイルシリンダ圧を発生させるものが開示されている。
【特許文献1】特開平11−227590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の特許文献1に記載のブレーキ倍力制御装置においては、ブレーキペダル操作量を検出するペダルセンサが、ブレーキペダルとマスタシリンダとの間に設けられている。ペダルセンサは直接的に圧力を検出するものではないため、インプットロッドのフリクションやマスタシリンダ内のピストンのフリクションの影響を受け、正確な圧力が検出できないという問題がある。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その課題は、運転者のブレーキペダル操作力により発生する圧力を精度よく検出し、ブレーキペダル操作力に応じたホイルシリンダ圧を高い精度で発生させるブレーキ倍力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、運転者のブレーキ操作に応じて圧力を発生させるマスタシリンダと、各輪に設けられ、車輪に制動力を発生させるホイルシリンダと、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間に配置され、コイルの電磁吸引力と、マスタシリンダ圧に応じた力と、ホイルシリンダ圧に応じた力の釣り合いに基づいて開度が決定される電磁弁と、運転者の制動意図を検出する制動意図検出手段と、前記制動意図に基づいて目標制動力を算出する目標制動力算出手段と、前記制動意図と前記目標制動力との差に基づいて前記コイルに通電する電流値を算出する制御量算出手段と、前記ホイルシリンダと前記電磁弁との間に前記目標制動力以上の液圧を発生可能な液圧源と、を備えた。
【0006】
よって、制動意図と目標制動力との差に基づく制御量をフィードフォワード的に電磁弁の電流値として与えるのみで、液圧源を細かく制御することなく自動的にマスタシリンダとホイルシリンダとの差圧を制御することができる。即ち、電流により電磁弁のバルブ開度を制御することができるため、ホイルシリンダ圧を所望の目標制動力に応じた液圧に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の最良の実施形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
実施例1のブレーキ倍力制御装置は、モータ,ポンプ,電磁弁及びセンサ等が搭載されると共に、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとの間に介在された油圧ユニット31と、この油圧ユニット31に一体に取り付けられ各要素を制御するコントロールユニットCUとから構成された機電一体型のブレーキ倍力装置である。尚、機電一体の構成に限定するものではなく、油圧ユニット31とコントロールユニットCUとが別体の構成であってもよく、特に限定しない。
【0009】
〔ブレーキ配管の構成〕
図1は本発明のブレーキ倍力制御装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。このブレーキシステムにおいては、P系統とS系統との2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造となっている。
【0010】
P系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統それぞれに、ポンプPPとポンプPSとが設けられ、このポンプPPとポンプPSは、1つのモータMによって駆動される。尚、一つのモータと一つのポンプから構成してもよいし、プランジャポンプやギヤポンプを搭載してもよく、特に限定しない。
【0011】
ブレーキペダルBPには、ブレーキペダルBPの操作状態を検出するブレーキスイッチBSが設けられている。ブレーキペダルBPは、インプットロッド1を介してマスタシリンダM/Cに接続されている。
【0012】
マスタシリンダM/CとポンプPP,PS(以下、ポンプPと記載する)の吸入側とは、管路11P,11S(以下、管路11と記載する(第3ブレーキ回路に相当))によって接続されている。この各管路11上には、常閉型の電磁弁であるゲートインバルブ2P,2Sが設けられている。マスタシリンダM/Cとゲートインバルブ2Pとの間には、マスタシリンダM/Cの圧力を検出する圧力センサPMCが設けられている。
【0013】
また、管路11上であって、ゲートインバルブ2P,2S(以下、ゲートインバルブ2と記載する)とポンプPとの間にはチェックバルブ6P,6S(以下、チェックバルブ6と記載する)が設けられ、この各チェックバルブ6は、ゲートインバルブ2からポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0014】
各ポンプPの吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路12P,12S(以下、管路12と記載する(第2ブレーキ回路に相当))によって接続されている。この各管路12上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の電磁弁であるソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RL(以下、ソレノイドインバルブ4)が設けられている。
【0015】
また、各管路12上であって、各ソレノイドインバルブ4とポンプPとの間にはチェックバルブ7P,7S(以下、チェックバルブ7と記載する)が設けられて、この各チェックバルブ7は、ポンプPからソレノイドインバルブ4へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0016】
更に、各管路12には、各ソレノイドインバルブ4を迂回する管路17FL,17RR,17FR,17RL(以下、管路17と記載する)が設けられ、この管路17には、チェックバルブ10FL,10RR,10FR,10RL(以下、チェックバルブ10と記載する)が設けられている。この各チェックバルブ10は、ホイルシリンダW/CからポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0017】
マスタシリンダM/Cと管路12とは管路13P,13S(以下、管路13と記載する(第1ブレーキ回路に相当))によって接続され、管路12と管路13とはポンプPとソレノイドインバルブ4との間において合流する。この各管路13上には、常開型の電磁弁であるゲートアウトバルブ3P,3S(以下、ゲートアウトバルブ3と記載する(機械的フィードバック機構に相当))が設けられている。ここで、管路13のうち、ゲートアウトバルブ3よりもマスタシリンダ側の管路をマスタ側管路13aとし、ホイルシリンダ側の管路をホイル側管路13bとする。
【0018】
また各管路13には、各ゲートアウトバルブ3を迂回する管路18P,18S(以下、管路18と記載する)が設けられ、この管路18には、チェックバルブ9P,9S(以下、チェックバルブ9と記載する)が設けられている。この各チェックバルブ9は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0019】
ポンプPの吸入側にはリザーバ16P,16S(以下、リザーバ16と記載する)が設けられ、このリザーバ16とポンプPとは管路15P,15S(以下、管路15と記載する)によって接続されている。リザーバ16とポンプPとの間にはチェックバルブ8P,8S(以下、チェックバルブ8と記載する)が設けられて、この各チェックバルブ8は、リザーバ16からポンプPへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0020】
ホイルシリンダW/Cと管路15とは管路14P,14S(以下、管路14と記載する(第4ブレーキ回路に相当))によって接続され、管路14と管路15とはチェックバルブ8とリザーバ16との間において合流する。この各管路14には、それぞれ常閉型の電磁弁であるソレノイドアウトバルブ5FL,5RR,5FR,5RLが設けられている。
【0021】
図2は実施例1のブレーキ倍力制御装置のコントロールユニットCU内における制御構成を表すブロック図である。このコントロールユニットCUは、圧力センサPMCを入力とし、モータM及びゲートアウトバルブ3への駆動指令値を出力とする部分のみ記載する。他の各種電磁弁制御(ソレノイドインバルブ4,ソレノイドアウトバルブ5,ゲートインバルブ2)への駆動指令値については他の制御ロジックから適宜駆動指令値が出力される。
【0022】
目標液圧演算部101では、圧力センサPMCにより検出されたマスタシリンダ圧Pmcの信号に基づいてホイルシリンダW/Cの目標液圧P*を演算し、後述する差圧演算部102及び目標液量算出部105へ出力する。ここで、実施例1のブレーキ倍力制御装置には、マスタシリンダM/Cと油圧ユニット31との間に機械的な倍力装置(例えば、エンジンの負圧を用いたタイプ)等を備えていない。よって、圧力センサPMCの検出する値は、運転者の踏力に応じたマスタシリンダ圧Pmcを検出することとなる。
【0023】
一般の車両は倍力装置がブレーキペダルとマスタシリンダの間に配置されており、運転者のブレーキペダル踏力を倍力してインプットロッドを押し付け、高いマスタシリンダ圧Pmcを発生させるように構成されている。これに対し、実施例1では運転者の踏力に応じたマスタシリンダ圧Pmcが発生する点で相違する。また、上記目標液圧P*は、倍力装置が搭載されていたとした場合にマスタシリンダ圧Pmcに発生すると考えられる液圧を目標としているが、適宜設定可能であり特に限定しない。
【0024】
〔ゲートアウトバルブ制御について〕
差圧演算部102では、検出されたマスタシリンダ圧Pmcと目標液圧P*との目標差圧△Pを演算し、後述するゲートアウトバルブ目標電流演算部103へ出力する。
【0025】
ゲートアウトバルブ目標電流演算部103では、図3に示すゲートアウトバルブ電流−差圧特性マップに示すように、入力された差圧△Pに基づいてゲートアウトバルブ3の目標電流値I*を演算する。例えば、3.0Mpaの目標差圧△Pを確保するには、目標電流値I*として0.5Aを設定する。この特性は、電磁弁の設計値により決定される値である。
【0026】
ゲートアウトバルブ駆動指令部104では、目標電流値I*となるように図外のスイッチング回路等をPWM駆動し、所望の電流値をゲートアウトバルブ3に出力する。
【0027】
ここで、ゲートアウトバルブ3における差圧制御について説明する。図4はゲートアウトバルブ3の構成を表す概略図である。ゲートアウトバルブ3は、電磁吸引力を発生するコイル3aと、この電磁吸引力に応じて作動する可動子3bと、管路13aと管路13bが接続されたバルブボディ3cから構成されている。
【0028】
可動子3bが図4中下方に移動すると、管路13aと管路13bとが閉弁状態となり、一方、可動子3bが図4中上方に移動すると、管路13aと管路13bとが開弁状態となる。すなわち、可動子3bの上下方向位置に応じて管路13aと管路13bとの連通状態(差圧)が決定される。
【0029】
可動子3bには、ホイルシリンダ側の圧力Pwcに応じて図4中上方に押し上げようとする力Fwcと、マスタシリンダ圧Pmcに応じて図4中下方に押し下げようとする力Fmcと、電磁吸引力に応じて図4中下方に押し下げようとする力Fbが作用する。尚、常開弁であるため実際にはスプリングにより開弁方向への力が作用しているが、ここでは無視して考える(考慮する場合はオフセット値等を与えればよい)。
【0030】
可動子3bの位置は、これらの力の釣り合いが取れた位置で停止する。言い換えると、Fmc+Fb−Fwc=0のときは、可動子3bは停止し、Fmc+Fb-Fwc>0のときは、可動子3bは下方に移動し、Fmc+Fb-Fwc<0のときは、可動子3bは上方に移動する。Fmcはマスタシリンダ圧Pmcと相関する値であり、Fwcはホイルシリンダ圧と相関する値であることから、目標差圧△Pは、(Fmc-Fwc)と相関があると言える。上記関係式を変形すると、(Fmc-Fwc)とFbとの大小関係によって可動子3bの位置が決まることから、目標差圧△Pと同じ電磁吸引力Fbを設定すれば、目標差圧△Pを確保する可動子3bの位置が自動的に決定される。
【0031】
今、倍力制御装置を提案することを考えると、ゲートアウトバルブ3よりもホイルシリンダ側でポンプ等を用いて高い圧力を発生させ、マスタシリンダ圧Pmcよりホイルシリンダ圧Pwcが高い状態を想定することとなる。このとき、電磁吸引力Fbを、得たい差圧△Pに相当する値に設定しておけば、ホイルシリンダ側で行われる増圧作用に応じて自動的に可動子3bの位置が変更され、目標とするホイルシリンダ圧を得ることができる。例えば、ポンプ等の吐出圧が高いときは可動子3bが上方に移動して自動的に目標差圧△Pとなるまでホイルシリンダ圧をマスタシリンダ側に排出し、減圧方向に作用する。
【0032】
これにより、複雑なフィードバック制御が不要となるとともに、モータの制御誤差をゲートアウトバルブ3で吸収することが可能となる。言い換えると、運転者のブレーキペダル踏力に基づいてフィードフォワード的に目標差圧△Pに相当する目標電流値I*を与えた後は、ゲートアウトバルブ3は、その機能として、目標差圧△Pを達成する機械的フィードバック機構と同義であり、電子的フィードバック制御機構に比べて制御対象の状態を検出するセンサ等が必要なく、制御安定性が非常に高いと言える。
【0033】
〔モータ駆動制御について〕
目標液量演算部105では、目標液圧P*を目標液量Q*に変換する。目標液量Q*とは、ホイルシリンダW/C内にこの液量Qを入れると、この液圧Pが発生するという関係に基づくものであり、ホイルシリンダの設計値によって決定される値である。
【0034】
液量偏差演算部106では、目標液量Q*と後述する液量変換部110から入力される実液量Qとの液量偏差△Qを演算し、後述するモータ目標回転数演算部107へ出力する。
【0035】
モータ目標回転数演算部107では、入力された液量偏差△Qを制御周期で除して(微分に相当)流量に換算し、この流量に基づいてモータMの目標回転数N*を演算する。すなわち、モータ回転数は、ポンプPから吐出される単位時間当たりの流量と相関があることから、液量の微分値に基づいて必要な液量偏差を埋めるのに必要なモータ目標回転数N*を演算する。
【0036】
モータ駆動指令部108では、モータ目標回転数N*を達成するモータ駆動指令値を演算し、モータMに対して駆動指令値を出力する。ここで、実施例1では、モータMについて特に限定しないが、例えば、ブラシモータを採用する場合には、ブラシモータをオン−オフ制御したときの逆起電圧を検出し、この逆起電圧とモータ回転数とは比例関係にあることからモータ回転数を推定し、この推定された回転数がモータ目標回転数N*と一致するように制御する。また、ブラシレスモータを採用する場合には、回転角センサを備えていることから、回転角センサの値に基づいてモータ目標回転数N*と一致するように制御することとしてもよい。
【0037】
ホイルシリンダ圧推定部109では、マスタシリンダ圧Pmcとゲートアウトバルブ駆動指令値とモータ駆動指令値に基づいてホイルシリンダ圧を推定する。具体的には、以下の手順により推定される。
(i)モータ回転数からポンプ吐出量〔m3/s〕を計算する。そして、制御周期の時間とポンプ吐出量との乗算によりポンプ吐出液量〔m3〕を算出する。
(ii)ホイルシリンダ圧とホイルシリンダ液量との関係を予め持っており、この関係から、前回制御周期において推定されたホイルシリンダ圧からホイルシリンダ液量を換算しておき、上記(i)において演算したポンプ吐出液量を加算する。それを再びホイルシリンダ圧に換算する。
(iii)マスタシリンダ圧Pmcと、ゲートアウトバルブ駆動指令で決まる目標差圧とから、ホイルシリンダ圧の上限値が決定され、上記(ii)において算出されたホイルシリンダ圧にリミッタ処理を施して最終的な推定ホイルシリンダ圧とする。
【0038】
液量換算部110では、推定されたホイルシリンダ圧から実際にホイルシリンダW/Cに供給された液量Qに換算し、液量偏差演算部106に出力する。すなわち、モータ駆動制御にあっては、無駄なモータ駆動を回避するとともにブレーキペダルフィーリングを確保するために、目標液量Q*と実液量Qに基づいて電子的にフィードバック制御する。
【0039】
図5は倍力制御を実現するフローチャートである。
ステップS1では、各変数の初期値をセットする。ここで、各変数とは、制御に用いられる各種フラグや、タイマ値、演算係数等を表す。
ステップS2では、各種センサの検出値を読み込む。
ステップS3では、ブレーキスイッチBPの信号から運転者のブレーキペダル操作の有無を検出する。
【0040】
ステップS4では、検出されたマスタシリンダ圧Pmcと推定したホイルシリンダ圧との関係から、増圧/保持/減圧のいずれの制御を行うかを判断する。増圧のときはモータ駆動制御を行い、それ以外のときはモータ駆動制御を停止もしくは禁止する(液圧源制御手段、保持手段に相当)。
ステップS5では、目標モータ回転数N*を決定して動作指令を出力する。
ステップS6では、ゲートインバルブ2の開指令を決定して動作指令を出力する。
ステップS7では、ゲートアウトバルブ3の目標差圧から目標電流I*を決定し、駆動指令を出力する。
【0041】
ステップS8では、モータMおよびバルブの動作指令からホイルシリンダ圧を推定する。
ステップS9では、倍力制御の終了を判断する。
【0042】
次に、上記制御フローに基づく倍力制御の作用を説明する。図5はステップS4に示す制御判断を行う制御判断マップである。マスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧とで形成される座標平面において、マスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧とから、増圧、保持、減圧のいずれか1つを選択する。
【0043】
例えば、マスタシリンダ圧PmcをP1、ホイルシリンダ圧をP2としたとき、制御判断マップの座標平面に示す点Aは増圧に属するため、増圧制御を選択する。また保持の領域は、例えば油圧ポンプがプランジャポンプである場合、ポンプ吐出位置でのマスタシリンダ圧Pmcの低下量よりも広く設定する。図6に示すマップは、マスタシリンダ圧Pmcに応じて増圧と保持とを切り替える第1所定値が直線的に設定されており、保持と減圧とを切り替える第2所定値が、第1所定値よりも小さな値となるように設定されている。
【0044】
図7は上記倍力制御を行った際のタイムチャート、図8は、図7のタイムチャートに示すマスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧の遷移を制御判断マップ上に記述したものである。
【0045】
時刻t11で運転者がブレーキペダルを操作すると、ステップS3で示すブレーキ操作状態判断でブレーキスイッチがONになったことを判断して倍力制御を開始する。このときステップS4において、マスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧との関係から増圧制御を選択する。
【0046】
増圧制御が選択されると、ステップS5において、マスタシリンダ圧Pmcと目標ホイルシリンダ圧である目標液圧P*とから目標モータ回転数N*を決定し、モータ動作指令を出力する。次にステップS6において、ゲートインバルブ2を開状態にする。次にステップS7において、目標液圧P*とマスタシリンダ圧Pmcとからゲートアウトバルブ電流I*を演算し、デューティ比を出力する。
【0047】
次にステップS8において、増圧時はマスタシリンダ圧Pmcとモータ回転数Nとゲートアウトバルブ電流I*とからホイルシリンダ圧を推定する。ホイルシリンダW/Cに油圧ポンプからブレーキ液が供給されるため、ホイルシリンダ圧は増加する。
【0048】
時刻t12でマスタシリンダ圧Pmcが低下すると、ステップS4においてマスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧との関係から保持制御を選択する。保持制御が選択されると、ステップS5においてモータMを停止する。次にステップS6において、ゲートインバルブ2を閉状態にする。次にステップS7において、目標液圧P*とマスタシリンダ圧Pmcとからゲートアウトバルブ電流I*を演算し、デューティ比を出力する。
【0049】
次にステップS8において、保持時はホイルシリンダ液量が変化しないため、前回のホイルシリンダ圧を継続してセットする。尚、保持時はホイルシリンダW/C内の液圧を変化しないようにする制御であるため、ゲートアウトバルブ電流I*を高めの固定値に設定し、確実にゲートアウトバルブ3を閉じるように制御してもよい。
【0050】
時刻t13でマスタシリンダ圧Pmcが上昇すると、ステップS4において再び増圧制御を選択する。ステップ5からS8の処理は、時刻t11からt12の場合と同様であるため省略する。
【0051】
時刻t14でマスタシリンダ圧Pmcが低下すると、ステップS4において保持制御を選択する。ステップS5からS8までの処理は、時刻t12からt13の場合と同様であるため省略する。
【0052】
時刻t15でマスタシリンダ圧Pmcがさらに低下すると、ステップS4においてマスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧との関係から減圧制御を選択する。減圧制御が選択されると、ステップS5においてモータMを停止する。次にステップS6において、ゲートインバルブ2を閉状態にする。次にステップS7において、目標液圧P*とマスタシリンダ圧Pmcとからゲートアウトバルブ電流I*を演算し、デューティ比を出力する。
【0053】
次にステップS8において、減圧時はマスタシリンダ圧Pmcとゲートアウトバルブ電流からホイルシリンダ圧を推定する。ホイルシリンダW/Cのブレーキ液がマスタシリンダ側に排出されるため、ホイルシリンダ圧は減少する。
【0054】
以上説明したように、実施例1のブレーキ倍力制御装置にあっては、マスタシリンダ圧Pmcが上昇したときにホイルシリンダ圧を増加させ、マスタシリンダ圧Pmcが低下したときにホイルシリンダ圧を減少させることを基本とし、マスタシリンダ圧Pmcの低下量が小さいときはホイルシリンダ圧を保持することで、倍力制御を実行する。
【0055】
以上説明したように、実施例1のブレーキ倍力制御装置にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
【0056】
(1)マスタシリンダM/Cと、ホイルシリンダW/Cと、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとの間に配置され、入力された制御量である電流値に基づく電磁吸引力と、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとの差圧△Pとが一致するように作動するゲートアウトバルブ3と、運転者の制動意図であるマスタシリンダ圧Pmcを検出する圧力センサと、マスタシリンダ圧Pmcに基づいて目標制動力であるホイルシリンダW/Cの目標液圧P*を算出する目標液圧演算部101と、差圧△Pに基づいて目標電流値I*を算出するゲートアウトバルブ目標電流演算部103と、ホイルシリンダW/Cとゲートアウトバルブ3との間に目標液圧P*以上の液圧を発生可能な液圧源であるポンプPとを備えた。
【0057】
よって、差圧△Pに基づく制御量をフィードフォワード的に与えるのみで、液圧源を細かく制御することなく自動的にマスタシリンダとホイルシリンダとの差圧を制御することができる。これに伴い、マスタシリンダとホイルシリンダとが遮断されていないにも関わらず、ホイルシリンダ圧を所望の目標液圧に制御することができる。例えば、あまり精度の高くない安価なポンプ、もしくはこのポンプを駆動する安価なモータを採用した場合であっても、ポンプの脈動やモータの過回転等を自動的に吸収できるため、安価なシステム構成で安定した倍力作用を得ることができる。
【0058】
(2)機械的フィードバック機構であるゲートアウトバルブ3は、コイル3aの電磁吸引力と、マスタシリンダ圧Pmcに応じた力Fmcと、ホイルシリンダ圧に応じた力Fwcの釣り合いに基づいて開度が決定される電磁弁であり、コイル3aに通電する電流値を制御することとした。
【0059】
よって、既存の電磁弁を用いて簡単に機械的フィードバック機構を達成することができる。
【0060】
(3)マスタシリンダM/Cの液圧を検出する圧力センサPMCを用いて制御することとした。すなわち、ゲートアウトバルブ3の差圧△Pを制御する上で、もっとも制御対象に近い液圧を検出することが可能となり、ブレーキペダルBP近傍の値を検出するのに比べてフリクションによるロス等を誤検出することが無く、制御精度を向上することができる。また、従来の負圧倍力装置や液圧倍力装置を用いたブレーキシステムに比べて、マスタシリンダで発生する圧力が低くなることから、圧力検出レンジが小さな小型の圧力センサを用いることが可能となり、ブレーキ倍力制御装置の小型化を図ることができると共に、コントロールユニットCUに圧力センサ信号を入力する際の分解能を細かくできるため、圧力検出精度を向上させることができる。
【0061】
(4)液圧源は、マスタシリンダM/Cのブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ側に吐出するポンプである。よって、ストロークシミュレータ等を備えることなく、運転者のブレーキペダルストロークを確保することができる。
【0062】
(5)ホイルシリンダの液圧を推定し、目標液圧P*と推定されたホイルシリンダ液圧とが一致するようにポンプPの駆動量を制御する電子的フィードバック制御を備えた。よって、無駄なポンプ駆動を抑制することができ、また、マスタシリンダ側へ排出されるブレーキ液を抑制することができることから、ブレーキペダルフィーリングを向上することができる。
【0063】
(6)車両の制動力を検出又は推定する制動力検出手段と、検出された制動意図が、検出又は推定された制動力に応じて設定された第1所定値以上のときにのみ液圧源から液圧を供給する液圧源制御手段と、を設けた。具体的には、図6に示すマップにおいて増圧と判断されたときのみポンプPを駆動し、それ以外ではポンプPの駆動を禁止することとした。よって、倍力作用が必要なシーンでのみポンプPを駆動することが可能となり、エネルギ損失を抑制することができる。
【0064】
(7)検出された制動意図が、第1所定値よりも小さく、かつ、第1所定値よりも小さな値として設定された第2所定値より大きいときは、ホイルシリンダの圧力を保持する保持手段を設けた。具体的には、図6に示すマップにおいて保持と判断されたときはホイルシリンダの圧力を保持するようゲートアウトバルブ3を作動させることとした。
【0065】
よって、ブレーキペダルを踏み増しているにも関わらず、油圧ポンプを作動させてマスタシリンダM/Cからブレーキ液を吸入することに起因するマスタシリンダ圧Pmcの低下が発生しても、ホイルシリンダ圧を減少させることなく制動力を維持することができる。
【0066】
(8)制動意図検出手段はマスタシリンダの液圧を検出する手段であり、制動力検出手段はホイルシリンダの液圧を検出又は推定する手段とした。
【0067】
すなわち、インプットロッドやマスタシリンダでのフリクションの影響を受けることなく運転者のブレーキペダル操作により発生する圧力を正確に検出でき、検出した圧力に基づいて油圧ポンプおよび圧力制御弁を作動させる事でホイルシリンダ圧、即ち制動力を高い精度で発生させることができる。
【0068】
(9)液圧源であるポンプPと、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cを接続する管路13(第1ブレーキ回路)と、管路13とポンプPの吐出側とを管路13側への流れのみ許容する逆止弁を介して接続する管路12(第2ブレーキ回路)と、管路13上であって管路12の接続位置よりもマスタシリンダ側に設けられた常開のゲートアウトバルブ3と、管路13上であってゲートアウトバルブ3よりもマスタシリンダ側の位置とポンプPの吸入側とを接続する管路11(第3ブレーキ回路)と、管路13上であって管路12の接続位置よりもホイルシリンダ側に設けられた常開のソレノイドインバルブ4と、管路13上であってソレノイドインバルブ4よりもホイルシリンダ側の位置とポンプPの吸入側とを接続する管路14(第4ブレーキ回路)と、管路14上に設けられた常閉のソレノイドアウトバルブ5と、管路14上であってソレノイドアウトバルブ5よりもポンプPの吸入側に設けられたリザーバ16とを備えた。
【0069】
すなわち、上記回路構成は、既存の車両挙動制御やアンチスキッド制御を達成可能なブレーキユニットと同じ構成である。この既存の構成においてゲートアウトバルブ3を差圧制御するのみで、ブレーキ倍力制御装置を提案することが可能となり、負圧倍力装置等を排除することによるコストダウン及び車両搭載性の向上を図り、更には車両挙動制御をも提案することができる。
【0070】
ここで、車両挙動制御とは、車両の実ヨーレイトをヨーレイトセンサ等により検出し、また、舵角センサ等を用いて目標ヨーレイトを求め、この目標ヨーレイトと実ヨーレイトとが一致するように特定の車輪にのみ制動力を付与する公知の技術である。また、アンチスキッド制御とは、擬似車体速度と車輪速度との関係からスリップ率等を算出し、このスリップ率が所望の値となるようにソレノイドインバルブ4やソレノイドアウトバルブ5を用いてホイルシリンダ圧の増減圧制御を行う公知の技術である。
【実施例2】
【0071】
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図9はマスタシリンダ圧Pmcとブレーキペダル踏力との関係を示した特性図である。実線MC1は無効踏力が小さいブレーキシステムの特性で、実線MC2は無効踏力が大きいブレーキシステムの特性である。この特性は、ブレーキペダルのペダル比、マスタシリンダのピストン径といった設計値で決定されるものである。
【0072】
図10は、ステップS4に示す制御判断を行う制御判断マップである。図9に示すように、マスタシリンダ圧Pmcからブレーキペダル踏力に読み替えた後、ブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧とで形成される座標平面において、ブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧とから、増圧、保持、減圧のいずれか1つを選択する。例えば、ブレーキペダル踏力F1、ホイルシリンダ圧P2であるとき、制御判断マップの座標平面に示す点Bは保持に属するため、保持制御を選択する。
【0073】
図11は実施例2の倍力制御のタイムチャートである。図12は図11のタイムチャートに示すブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧の遷移を制御判断マップ上に記述したものである。図13は倍力制御を行った結果であるブレーキペダル踏力に対するホイルシリンダ圧の関係を表す図である。
【0074】
時刻t21で運転者がブレーキペダルを操作すると、ステップS3で示すブレーキ操作状態判断でブレーキスイッチがONになったことを判断して倍力制御を開始する。このときステップS4において、マスタシリンダ圧Pmcからブレーキペダル踏力を演算し、ブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧との関係から増圧制御を選択する。
【0075】
増圧制御が選択されると、ステップS5において、ブレーキペダル踏力から目標液圧であるホイルシリンダ圧と目標モータ回転数を決定し、モータ動作指令を出力する。次にステップS6において、ゲートインバルブ2を開状態にする。次にステップS7において、目標液圧とマスタシリンダ圧Pmcとからゲートアウトバルブ電流I*を演算し、デューティ比を出力する。
【0076】
次にステップS8において、増圧時はマスタシリンダ圧Pmcとモータ回転数Nとゲートアウトバルブ電流Iとからホイルシリンダ圧Pwcを推定する。ホイルシリンダに油圧ポンプからブレーキ液が供給されるため、ホイルシリンダ圧は増加する。
【0077】
時刻t22でマスタシリンダ圧Pmcが低下すると、ステップS4においてマスタシリンダ圧Pmcからブレーキペダル踏力を演算し、ブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧との関係から保持制御を選択する。
【0078】
保持制御が選択されると、ステップS5においてモータを停止する。次にステップS6において、ゲートインバルブ2を閉状態にする。次にステップS7において、目標液圧P*とマスタシリンダ圧Pmcとからゲートアウトバルブ電流I*を演算し、デューティ比を出力する。次にステップS8において、保持時はホイルシリンダ液量が変化しないため、前回のホイルシリンダ圧を継続してセットする。
【0079】
時刻t23でマスタシリンダ圧Pmcが上昇すると、ステップS4において再び増圧制御を選択する。ステップ5からS8の処理は、時刻t21からt22の場合と同様であるため省略する。
【0080】
時刻t24でマスタシリンダ圧Pmcが低下すると、ステップS4において保持制御を選択する。ステップS5からS8までの処理は、時刻t22からt23の場合と同様であるため省略する。
【0081】
時刻t25でマスタシリンダ圧Pmcがさらに低下すると、ステップS4においてマスタシリンダ圧Pmcからブレーキペダル踏力を演算し、ブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧との関係から減圧制御を選択する。
【0082】
減圧制御が選択されると、ステップS5においてモータMを停止する。次にステップS6において、ゲートインバルブ2を閉状態にする。次にステップS7において、目標液圧P*とマスタシリンダ圧Pmcとからゲートアウトバルブ電流I*を演算し、デューティ比を出力する。
【0083】
次にステップS8において、減圧時はマスタシリンダ圧Pmcとゲートアウトバルブ電流Iからホイルシリンダ圧を推定する。ホイルシリンダのブレーキ液がマスタシリンダ側に排出されるため、ホイルシリンダ圧は減少する。
【0084】
以上説明したように、実施例2のブレーキ倍力制御装置にあっては、検出したマスタシリンダ圧Pmcからブレーキペダル踏力を演算し、ブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧との関係を管理して倍力制御を実行する。
【0085】
これにより、ブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧との関係を管理することで、運転者の要求するブレーキ力を発生させることができるためフィーリングが良い。
【実施例3】
【0086】
図14は実施例3のブレーキ倍力制御装置において、ホイルシリンダ圧とペダルストロークとの関係を示した特性図である。実線WC1は少ない液量で大きな圧力を発生させるホイルシリンダで、実線WC2は実線WC1と同じ圧力を発生させるのに多くの液量を要するホイルシリンダである。この特性は、ホイルシリンダの液量−圧力特性およびマスタシリンダのピストン径で決定されるものである。
【0087】
図15はステップS4に示す制御判断を行う制御判断マップである。ブレーキペダル踏力とペダルストロークとで形成される座標平面において、ブレーキペダル踏力とペダルストロークとから、増圧、保持、減圧のいずれか1つを選択する。例えば、ブレーキペダル踏力F1、ペダルストロークL2であるとき、制御判断マップの座標平面に示す点Cは減圧に属するため、減圧制御を選択する。
【0088】
図16は実施例3の倍力制御のタイムチャートである。図17は、図16のタイムチャートに示すブレーキペダル踏力とペダルストロークの遷移を制御判断マップ上に記述したものである。図18は、図14に示した特性を持つホイルシリンダを図16のタイムチャートに従って倍力制御した結果を示したものである。
【0089】
時刻t31で運転者がブレーキペダルを操作すると、ステップS3で示すブレーキ操作状態判断でブレーキスイッチがONになったことを判断して倍力制御を開始する。
【0090】
このときステップS4において、マスタシリンダ圧Pmcからブレーキペダル踏力を演算するとともに推定ホイルシリンダ圧からペダルストロークを演算し、ブレーキペダル踏力とペダルストロークとの関係から増圧制御を選択する。
【0091】
増圧制御が選択されると、ステップS5において、ブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧とから目標モータ回転数N*を決定し、モータ動作指令を出力する。次にステップS6において、ゲートインバルブ2を開状態にする。次にステップS7において、目標液圧とマスタシリンダ圧Pmcとからゲートアウトバルブ電流I*を演算し、デューティ比を出力する。
【0092】
次にステップS8において、増圧時はマスタシリンダ圧Pmcとモータ回転数Nとゲートアウトバルブ電流Iとからホイルシリンダ圧を推定する。ホイルシリンダW/Cに油圧ポンプからブレーキ液が供給されるため、ホイルシリンダ圧は増加する。
【0093】
時刻t32でマスタシリンダ圧Pmcが低下すると、ステップS4においてブレーキペダル踏力とペダルストロークとの関係から保持制御を選択する。
【0094】
保持制御が選択されると、ステップS5においてモータMを停止する。次にステップS6において、ゲートインバルブ2を閉状態にする。次にステップS7において、目標液圧P*とマスタシリンダ圧Pmcとからゲートアウトバルブ電流I*を演算し、デューティ比を出力する。次にステップS8において、保持時はホイルシリンダ液量が変化しないため、前回のホイルシリンダ圧を継続してセットする。
【0095】
時刻t33でマスタシリンダ圧Pmcが上昇すると、ステップS4において再び増圧制御を選択する。ステップ5からS8の処理は、時刻t31からt32の場合と同様であるため省略する。
【0096】
時刻t34でマスタシリンダ圧Pmcが低下すると、ステップS4において保持制御を選択する。ステップS5からS8までの処理は、時刻t32からt33の場合と同様であるため省略する。
【0097】
時刻t35でマスタシリンダ圧Pmcがさらに低下すると、ステップS4においてマスタシリンダ圧Pmcからブレーキペダル踏力を演算するとともに推定したホイルシリンダ圧からペダルストロークを演算し、ブレーキペダル踏力とペダルストロークとの関係から減圧制御を選択する。
【0098】
減圧制御が選択されると、ステップS5においてモータMを停止する。次にステップS6において、ゲートインバルブ2を閉状態にする。次にステップS7において、目標液圧P*とマスタシリンダ圧Pmcとからゲートアウトバルブ電流I*を演算し、デューティ比を出力する。
【0099】
次にステップS8において、減圧時はマスタシリンダ圧Pmcとゲートアウトバルブ電流Iからホイルシリンダ圧を推定する。ホイルシリンダW/Cのブレーキ液がマスタシリンダ側に排出されるため、ホイルシリンダ圧は減少する。
【0100】
以上説明したように、実施例3のブレーキ倍力制御装置にあっては、検出したマスタシリンダ圧Pmcからブレーキペダル踏力を演算するとともに推定したホイルシリンダ圧からペダルストロークを演算し、ブレーキペダル踏力とペダルストロークとの関係を管理して倍力制御を実行する。
【0101】
これにより、ブレーキペダル踏力とペダルストロークとの関係を管理することで、ブレーキペダル踏力に対するペダルのストローク量を可変にすることができ、ペダルフィーリングをブレーキ操作部材等の設計変更を行うことなく、ソフトウェアの変更のみで実現できる。
【0102】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても本発明に含まれる。
【0103】
例えば、ホイルシリンダ圧力を推定するのではなく、圧力センサを設けて直接検出してもよい。このとき、ステップS8の処理が不要になるとともに、正確な圧力を検出することができるため、運転者のブレーキペダル操作に応じた制動力をより正確に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】実施例1のブレーキ倍力制御装置を適用したブレーキシステムの油圧回路図である。
【図2】実施例1のブレーキ倍力制御装置のコントローラ内における制御構成を表すブロック図である。
【図3】実施例1におけるゲートアウトバルブ電流−差圧特性マップである。
【図4】実施例1のゲートアウトバルブの構成を表す概略図である。
【図5】実施例1の倍力制御を実現するフローチャートである。
【図6】実施例1のマスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧とから増圧、保持、減圧を判断する制御判断マップである。
【図7】実施例1のマスタシリンダ圧に対応したホイルシリンダ圧に倍力制御するタイムチャートである。
【図8】実施例1のマスタシリンダ圧に対応したホイルシリンダ圧に倍力制御するときの、制御判断マップの遷移を表す図である。
【図9】実施例1のマスタシリンダ圧とブレーキペダル踏力との関係を表す特性図である。
【図10】実施例2のブレーキペダル踏力とホイルシリンダ圧とから増圧、保持、減圧を判断する制御判断マップである。
【図11】実施例2のブレーキペダル踏力に対応したホイルシリンダ圧に倍力制御するタイムチャートである。
【図12】実施例2のブレーキペダル踏力に対応したホイルシリンダ圧に倍力制御するときの、制御判断マップの遷移を表す図である。
【図13】実施例2のブレーキペダル踏力に対応したホイルシリンダ圧に倍力制御した結果を表す図である。
【図14】実施例3におけるホイルシリンダ圧とペダルストロークとの関係を表す特性図である。
【図15】実施例3におけるブレーキペダル踏力とペダルストロークとから増圧、保持、減圧を判断する制御判断マップである。
【図16】実施例3におけるブレーキペダル踏力に対応したペダルストロークになるよう管理して倍力制御するタイムチャートである。
【図17】実施例3におけるブレーキペダル踏力に対応したペダルストロークになるよう管理して倍力制御するときの、制御判断マップの遷移を表す図である。
【図18】実施例3におけるブレーキペダル踏力に対応したペダルストロークになるよう管理して倍力制御した結果を表す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 インプットロッド
2 ゲートインバルブ
3 ゲートアウトバルブ
3a コイル
3b 可動子
3c バルブボディ
4 ソレノイドインバルブ
5 ソレノイドアウトバルブ
6〜10 チェックバルブ
M モータ
BP ブレーキペダル
BS ブレーキスイッチ
CU コントロールユニット
M/C マスタシリンダ
P ポンプ
PMC 圧力センサ
W/C ホイルシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキ操作に応じて圧力を発生させるマスタシリンダと、
各輪に設けられ、車輪に制動力を発生させるホイルシリンダと、
前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間に配置され、コイルの電磁吸引力と、マスタシリンダ圧に応じた力と、ホイルシリンダ圧に応じた力の釣り合いに基づいて開度が決定される電磁弁と、
運転者の制動意図を検出する制動意図検出手段と、
前記制動意図に基づいて目標制動力を算出する目標制動力算出手段と、
前記制動意図と前記目標制動力との差に基づいて前記コイルに通電する電流値を算出する制御量算出手段と、
前記ホイルシリンダと前記電磁弁との間に、前記目標制動力以上の液圧を発生可能な液圧源と、
を備えたことを特徴とするブレーキ倍力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ倍力制御装置において、
前記制動意図検出手段は、前記マスタシリンダの液圧を検出する圧力センサであることを特徴とするブレーキ倍力制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブレーキ倍力制御装置において、
前記液圧源は、前記マスタシリンダのブレーキ液を吸入し、前記ホイルシリンダ側に吐出するポンプであることを特徴とするブレーキ倍力制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のブレーキ倍力制御装置において、
前記ホイルシリンダの液圧を検出又は推定する液圧推定手段と、
前記目標制動力と前記検出又は推定された液圧とが一致するように前記ポンプの駆動量を制御する電子的フィードバック制御手段と、
を備えたことを特徴とするブレーキ倍力制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のブレーキ倍力制御装置において、
車両の制動力を検出又は推定する制動力検出手段と、
前記検出された制動意図が、前記検出又は推定された制動力に応じて設定された第1所定値以上のときにのみ前記液圧源から液圧を供給する液圧源制御手段と、
を設けたことを特徴とするブレーキ倍力制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のブレーキ倍力制御装置において、
前記検出された制動意図が、前記第1所定値よりも小さく、かつ、前記第1所定値よりも小さな値として設定された第2所定値より大きいときは、前記ホイルシリンダの圧力を保持するよう前記電磁弁を作動させる保持手段を設けたことを特徴とするブレーキ倍力制御装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のブレーキ倍力制御装置において、
前記制動意図検出手段はマスタシリンダの液圧を検出する手段であり、前記制動力検出手段はホイルシリンダの液圧を検出又は推定する手段であることを特徴とするブレーキ倍力制御装置。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のブレーキ倍力制御装置において、
前記制動意図検出手段は運転者のブレーキペダル踏力を検出する手段であり、前記制動力検出手段はホイルシリンダの液圧を検出又は推定する手段であることを特徴とするブレーキ倍力制御装置。
【請求項9】
請求項5又は6に記載のブレーキ倍力制御装置において、
前記制動意図検出手段は運転者のブレーキペダル踏力を検出する手段であり、前記制動力検出手段はブレーキペダルストロークを検出する手段であることを特徴とするブレーキ倍力制御装置。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1つに記載のブレーキ倍力制御装置において、
前記液圧源であるポンプと、
前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダを接続する第1ブレーキ回路と、
前記第1ブレーキ回路と前記ポンプの吐出側とを前記第1ブレーキ回路側への流れのみ許容する逆止弁を介して接続する第2ブレーキ回路と、
前記第1ブレーキ回路上であって前記第2ブレーキ回路の接続位置よりも前記マスタシリンダ側に設けられ前記電磁弁として機能するゲートアウトバルブと、
前記第1ブレーキ回路上であって前記ゲートアウトバルブよりも前記マスタシリンダ側の位置と前記ポンプの吸入側とを接続する第3ブレーキ回路と、
前記第1ブレーキ回路上であって前記第2ブレーキ回路の接続位置よりも前記ホイルシリンダ側に設けられたソレノイドインバルブと、
前記第1ブレーキ回路上であって前記ソレノイドインバルブよりも前記ホイルシリンダ側の位置と前記ポンプの吸入側とを接続する第4ブレーキ回路と、
前記第4ブレーキ回路上に設けられたソレノイドアウトバルブと、
前記第4ブレーキ回路上であって前記ソレノイドアウトバルブよりも前記ポンプの吸入側に設けられたリザーバと、
を備えたことを特徴とするブレーキ倍力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−260417(P2008−260417A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104738(P2007−104738)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】