説明

ブレーキ制御装置

【課題】精度の高い制動力を確保できるブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ制御装置110のアキュムレータ50は、封入された気体がオイルポンプ34から供給されるブレーキフルードにより圧縮されることで蓄圧される。アキュムレータ70は、高圧管30のアキュムレータ50より液圧回路100に近い位置に設けられ、封入された気体がオイルポンプ34から供給されるブレーキフルードにより圧縮されることで蓄圧される。チェックバルブ72は、アキュムレータ70から液圧回路100へのブレーキフルードの供給およびオイルポンプ34からアキュムレータ70へのブレーキフルードの供給を制御する。ECU200は、蓄圧されているアキュムレータ70から液圧回路100へブレーキフルードが供給されるようにチェックバルブ52およびチェックバルブ72の開閉を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた車輪に付与される制動力を制御するブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキペダルの操作力に応じた液圧を液圧回路内に発生させて、ホイールシリンダにその液圧回路内の液圧を供給することにより車両の制動力を制御するブレーキ制御装置が知られている。このようなブレーキ制御装置の中には、マスタシリンダ圧とは別の液圧源であるアキュムレータから液圧をホイールシリンダに供給して車両を制動するものもある(例えば、特許文献1、特許文献2)。このような装置では、運転者によるブレーキペダルの操作量を検出し、操作量に応じたホイールシリンダ圧となるように、蓄圧されているアキュムレータからブレーキフルードを供給し液圧を制御する。
【0003】
一般的に、ブレーキ制御装置で用いられるブレーキフルードは、温度が低いほど粘度が高くなる。そのため、低温時においては、アキュムレータから供給されるブレーキフルードの粘度が高く、制動に応答遅れが発生する可能性がある。そこで、特許文献3には、ブレーキフルードの温度が設定温度以下である場合にポンプを作動させ、ブレーキフルードを装置内において電気ヒータで加熱しながら循環させることにより、そのブレーキフルードの温度を上昇させる温度上昇装置を設けたブレーキ液圧制御装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献3に開示されている装置であっても、極低温時で車両を始動した直後は、ブレーキフルード全体を十分に加熱することは困難であり、応答遅れを完全に解消するには至らない。特に、アキュムレータと液圧回路とが離れて配置されていると、アキュムレータに蓄えられているブレーキフルードが液圧回路に到達するまでの時間が長くなるため、制動の応答性により影響を与えることになる。
【特許文献1】特開2006−175960号公報
【特許文献2】特開2006−131033号公報
【特許文献3】特開2001−191911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、アキュムレータをアクチュエータの近くに配置することが考えられるが、例えば、エンジンルームにブレーキ制御装置を搭載する場合、車両によってはスペースの制約からアクチュエータの近くにアキュムレータやそれを高圧に維持するためのポンプを配置することが困難なときもある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、精度の高い制動力を確保できるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ制御装置は、モータにより駆動されるポンプと、封入された気体が前記ポンプから供給される作動流体により圧縮されることで蓄圧される第1のアキュムレータと、作動流体の液圧を用いて車輪に制動力を付与する制動力付与手段への作動流体の供給を制御する液圧回路と、前記ポンプと前記第1のアキュムレータと前記液圧回路とを連通する流体路と、前記流体路における作動流体の圧力を検出する圧力検出手段と、前記流体路の前記第1のアキュムレータより前記液圧回路に近い位置に設けられ、封入された気体が前記ポンプから供給される作動流体により圧縮されることで蓄圧される第2のアキュムレータと、前記第1のアキュムレータから前記液圧回路への作動流体の供給および前記ポンプから前記第1のアキュムレータへの作動流体の供給を制御する第1の制御弁と、前記第2のアキュムレータから前記液圧回路への作動流体の供給および前記ポンプから前記第2のアキュムレータへの作動流体の供給を制御する第2の制御弁と、前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の開閉を制御する制御部と、を備える。前記制御部は、蓄圧されている前記第2のアキュムレータから液圧回路へ作動流体が供給されるように前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の開閉を制御する。
【0008】
この態様によると、第2のアキュムレータが第1のアキュムレータより液圧回路に近い位置に設けられているので、第1のアキュムレータから液圧回路へ作動流体を供給する場合と比較して、液圧回路における作動流体圧の圧力変動の応答遅れを低減することができ、精度の高い制動力を確保できる。
【0009】
前記制御部は、前記第1のアキュムレータよりも先に前記第2のアキュムレータにおける蓄圧が開始されるように前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の開閉を制御できる。これにより、第1のアキュムレータよりも先に第2のアキュムレータにおける蓄圧が開始されるので、液圧回路における作動流体圧の圧力変動の応答遅れを低減することができる第2のアキュムレータの蓄圧を短時間で行うことができる。
【0010】
前記第2のアキュムレータは、該第2のアキュムレータの封入圧における気体の容積が前記第1のアキュムレータの封入圧における気体の容積より小さくなるように構成されていてもよい。これにより、第2のアキュムレータの蓄圧をより短時間で行うことができる。ここで、第2のアキュムレータの容積は、第1のアキュムレータが満足に機能する状態になるまでの時間に行われる何回かの制動に必要な作動流体の量や、配置されるスペースを考慮して決定すればよい。第1のアキュムレータが満足に機能するとは、例えば、液圧回路を介して制動力付与手段が十分な制動力を発生させることができる程度に蓄圧されている状態や、作動流体の粘性が高くなるような低温環境下において車両が発する熱により作動流体の粘性が適度に低下した状態をいう。このような点を考慮して第2のアキュムレータの封入圧における気体の容積を決定することで、第2のアキュムレータを小型化することが可能となり、例えば、スペースに制約のあるエンジンルーム内においても液圧回路の近くに配置することができる。
【0011】
前記第2のアキュムレータの封入圧は、前記第1のアキュムレータの封入圧より高く設定されていてもよい。これにより、第2のアキュムレータは、制動力付与手段に十分な制動力を発生させることができる程度に蓄圧するために必要な作動流体の量が少なくて済む。そのため、第2のアキュムレータは、単位時間あたりにポンプから供給される作動流体の量が一定であれば、より短時間で所定の制御圧まで蓄圧されることになる。
【0012】
前記作動流体の温度と相関のある情報を検出する温度情報検出手段を更に備えてもよい。前記制御部は、検出した情報に基づいて算出された作動流体の温度が所定の温度より低い場合、前記第1のアキュムレータよりも先に前記第2のアキュムレータにおける蓄圧が開始されるように前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の開閉を制御してもよい。ここで、所定の温度としては、制動の応答遅れが許容範囲を超えるような作動流体の粘性の増加が生じる閾値としてとらえることができる。具体的には、例えば、氷点下となる0℃を所定の温度としてもよいし、より作動流体の粘性が高まる極低温環境の−30℃〜−40℃の範囲で所定の温度を決定してもよい。これにより、所定の温度より低く第1のアキュムレータのみの動作では制動の応答遅れが許容範囲を超えるような環境下において、第1のアキュムレータよりも液圧回路に近い第2のアキュムレータを先に蓄圧することで、より短時間で、ブレーキ制御装置は制動の応答遅れを許容範囲内にすることができる状態になる。
【0013】
前記制御部は、イグニッションがオンされたことを検出した場合、前記第1の制御弁を閉じるとともに前記第2の制御弁を開いた状態で前記ポンプを駆動させ、供給された作動流体で前記第2のアキュムレータを所定の圧力まで蓄圧させた後、前記第2の制御弁を閉じるとともに前記第1の制御弁を開いて前記第1のアキュムレータを所定の圧力まで蓄圧させてもよい。これにより、車両が暖まっていない始動時にイグニッションのオンと連動させて、第1のアキュムレータより液圧回路に近い第2のアキュムレータを先に蓄圧することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、精度の高い制動力を確保できるブレーキ制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
[ブレーキ制御装置の概略構成]
図1は、第1の実施の形態に係るブレーキ制御装置10を示す系統図である。図1に示されるブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステムを構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12の操作に応じて車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に設定する。つまり、ブレーキ制御装置10は、車両に設けられた車輪に付与される制動力を制御することができる。
【0017】
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動流体(作動液)としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。また、ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。
【0018】
さらに、マスタシリンダ14には、リザーバタンク26が接続されており、マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、開閉弁23を介して、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。なお、開閉弁23は、非通電時に閉状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型電磁弁である。
【0019】
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されている。ブレーキ油圧制御管16は、図示されない右前輪に対して作動流体の液圧を用いて制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、図示されない左前輪に対して作動流体の液圧を用いて制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
【0020】
右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右電磁開閉弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、左電磁開閉弁22FLが設けられている。これらの右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは、いずれも、非通電時に開状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。
【0021】
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。
【0022】
ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLの2つによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。
【0023】
一方、リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、ブレーキフルードが流れる流体路としての高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施の形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、ブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。アキュムレータ50は、封入された窒素等の気体がオイルポンプ34から供給されるブレーキフルードにより圧縮されることで蓄圧される。
【0024】
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧されたブレーキフルードを蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードは油圧給排管28へと戻される。
【0025】
さらに、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。換言すると、アキュムレータ圧センサ51は、高圧管30におけるブレーキフルードの圧力を検出する。
【0026】
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下、適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」といい、適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、いずれも、非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ20の増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。
【0027】
なお、図示されない車両の各車輪に対しては、ディスクブレーキユニットが設けられており、各ディスクブレーキユニットは、ホイールシリンダ20の作用によってブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発生する。
【0028】
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
【0029】
本実施の形態に係るブレーキ制御装置10は、図1に示すように、右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近に、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、シリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「シリンダ圧センサ44」という。
【0030】
上述の右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL等は、ブレーキ制御装置10の油圧アクチュエータ80を構成する。オイルポンプ34、アキュムレータ50等はブレーキ制御装置10の油圧動力源90を構成する。そして、かかる油圧アクチュエータ80および油圧動力源90は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備えるものである。
【0031】
本実施の形態では、増圧弁40、減圧弁42およびこれらを連通する流路により液圧回路100が構成されている。液圧回路100は、増圧弁40および減圧弁42の開閉を制御することでホイールシリンダ20へのブレーキフルードの供給を制御する。液圧回路100は、高圧管30を介して、オイルポンプ34とアキュムレータ50と連通されている。また、本実施の形態では前述のアキュムレータ50とは別のアキュムレータ70が、油圧動力源90と油圧アクチュエータ80とを連結する高圧管30の途中に設けられている。また、アキュムレータ70は、アキュムレータ50より液圧回路100に近い位置に配置されている。
【0032】
これにより、アキュムレータ50およびアキュムレータ70がオイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで十分昇圧された状態で制動要求があった場合、アキュムレータ50から液圧回路100へブレーキフルードを供給する場合と比較して、液圧回路100により近いアキュムレータ70からブレーキフルードを液圧回路100へ供給することができる。そのため、ブレーキ制御装置10は、ホイールシリンダ20におけるブレーキフルード圧の圧力変動の応答遅れを低減することができ、精度の高い制動力を確保できる。
【0033】
次に、本実施の形態に係るブレーキ制御装置10において蓄圧される際の2つのアキュムレータの圧力変化について説明する。図2は、第1の実施の形態に係るブレーキ制御装置が備える各アキュムレータの圧力変動を示すグラフである。
【0034】
図2に示す曲線C1(二点鎖線)は、封入圧がPであるアキュムレータ50に加えて、同じ封入圧Pで同容積のアキュムレータ70を用いた場合の圧力の変動を示している。この場合、アキュムレータ50およびアキュムレータ70は同じように圧力が蓄えられていく。また、曲線C2(一点鎖線)は、封入圧がPであるアキュムレータ50に加えて、同じ封入圧Pに設定されており封入圧Pにおける気体の容積がアキュムレータ50の封入圧Pにおける気体の容積より小さいアキュムレータ70を用いた場合の圧力の変動を示している。
【0035】
曲線C1によれば、制御許可圧Pに到達するまでに必要な時間はtである。一方、曲線C2によれば、制御許可圧Pに到達するまでに必要な時間はtである(t<t)。そのため、液圧回路100の近傍にアキュムレータ50より小型の容積のアキュムレータ70を配置することで、液圧回路100の近傍にアキュムレータ50と同じ容積のアキュムレータ70を配置する場合と比較して、より短時間でアキュムレータ50およびアキュムレータ70を制御許可圧Pまで昇圧することができる。ここで、制御許可圧とは、蓄圧されたアキュムレータを用いて十分な制動力を発生させることが可能な程度の圧力としてとらえることができる。また、アキュムレータ70を小型化することが可能となり、例えば、スペースに制約のあるエンジンルーム内においても液圧回路100の近くに配置しやすくなる。
【0036】
また、図2に示す曲線C3(実線)は、封入圧がPであるアキュムレータ50に加えて、封入圧がPより高い封入圧Pに設定されており封入圧Pにおける気体の容積がアキュムレータ50の封入圧Pにおける気体の容積より小さいアキュムレータ70を用いた場合の圧力の変動を示している。曲線C3によれば、制御許可圧Pに到達するまでに必要な時間はtである。より詳細に説明すると、オイルポンプ34が駆動されるとはじめに封入圧の低いアキュムレータ50から圧力が上昇し時間tにおいて、アキュムレータ70と同じ封入圧Pとなる。その後は、アキュムレータ50およびアキュムレータ70は同じように圧力が蓄えられていき、時間tで制御許可圧Pに到達する。そのため、液圧回路100の近傍にアキュムレータ50より小型の容積で封入圧の高いアキュムレータ70を配置することで、更に短時間でアキュムレータ50およびアキュムレータ70を制御許可圧Pまで昇圧することができる。
【0037】
(第2の実施の形態)
図3は、第2の実施の形態に係るブレーキ制御装置110を示す系統図である。以下では、第1の実施の形態に係るブレーキ制御装置10と同様の構成の説明は省略し相違点を主に説明する。
【0038】
本実施の形態に係るブレーキ制御装置110は、第1の実施の形態に係るブレーキ制御装置10と異なり、アキュムレータ50およびアキュムレータ70と高圧管30との間にチェックバルブ52およびチェックバルブ72がそれぞれ設けられている。チェックバルブ52は、アキュムレータ50から液圧回路100へのブレーキフルードの供給およびオイルポンプ34からアキュムレータ50へのブレーキフルードの供給を制御する第1の制御弁として機能し、チェックバルブ72は、アキュムレータ70から液圧回路100へのブレーキフルードの供給およびオイルポンプ34からアキュムレータ70へのブレーキフルードの供給を制御する第2の制御弁として機能する。
【0039】
図4は、本実施の形態に係るチェックバルブ52を模式的に示した図である。なお、チェックバルブ72はチェックバルブ52と同様の構成のため説明を省略する。チェックバルブ52は、入口側流路54と出口側流路55とが設けられており、それぞれの流路の途中に逆止弁56,57が配置されている。したがって、ECU200は、チェックバルブ52およびチェックバルブ72を制御することで、アキュムレータ50およびアキュムレータ70の一方又は両方の蓄圧を制御することができる。
【0040】
[制御ブロック図]
図5は、第2の実施の形態に係るブレーキ制御装置110の制御ブロック図である。なお、以下の説明ではECU200が持つ種々の機能のうちアキュムレータの制御を行う機能について主に説明する。
【0041】
ECU200には、図5に示されるように、上述のチェックバルブ52,72、モータ32へ電源を供給するリレー58等が電気的に接続されている。チェックバルブ52,72は、ECU200に構築されたバルブ制御部201によって開閉状態がそれぞれ制御される。
【0042】
また、ECU200には、アキュムレータ圧センサ51から、高圧管30に接続されているアキュムレータ50やアキュムレータ70におけるホイールシリンダ圧を示す信号が与えられるとともに、イグニッションセンサ60から、車両が始動されたことを示す信号が与えられる。さらに、ECU200には、温度情報検出手段としての温度センサ62からブレーキフルードの温度と相関のある情報を示す信号が与えられる。ここで、温度センサ62は、ブレーキフルードの温度を直接検出するために液圧回路100や高圧管30に設けられたものでもよいし、ブレーキフルードの温度を間接的に推測できる外気温センサであってもよい。
【0043】
このように構成されるブレーキ制御装置110では、ECU200に構築されているアキュムレータ制御部202は、始動時においてイグニッションセンサ60から与えられた信号に基づいてアキュムレータ50やアキュムレータ70を蓄圧するか否かを判定する。そして、アキュムレータ制御部202は、必要に応じてバルブ制御部201やポンプ制御部204を介してチェックバルブ52,72やモータ32を制御する。以下、フローチャートを参照して具体的に説明する。
【0044】
[始動時におけるアキュムレータの蓄圧方法]
図6は、ブレーキ制御装置110の始動時におけるアキュムレータの蓄圧方法を示すフローチャートである。運転者がキーを使ってイグニッションをオンにすると、ECU200は、温度センサ62から与えられた信号に基づいて算出された環境温度Tと所定の温度Tとを比較する(S10)。ここで、所定の温度Tは、低温環境下でブレーキフルードの粘性の増加が生じる閾値として、例えば、氷点下となる0℃としてもよいし、よりブレーキフルードの粘性が高まる極低温環境の−30℃〜−40℃の範囲のある値としてもよい。
【0045】
環境温度Tが所定の温度T以上の場合(S10のNo)、温度低下によるブレーキフルードの粘性の増加は小さく、アキュムレータ50を用いて液圧回路100へブレーキフルードを供給しても制動の応答遅れは許容範囲内となるため、後述するS20の処理に進む。
【0046】
一方、環境温度Tが所定の温度Tより低い場合(S10のYes)、温度低下によるブレーキフルードの粘性の増加の影響が大きくアキュムレータ70への蓄圧が必要となるので、バルブ制御部201は、チェックバルブ52を閉じてチェックバルブ72を開く(S12)。その状態で、アキュムレータ制御部202は、アキュムレータ圧センサ51から与えられる信号に基づいて高圧管30に接続されているアキュムレータ70の圧力PAC2を検出し(S14)、PAC2と制御許可圧Pとを比較する(S16)。
【0047】
AC2が制御許可圧Pより低い場合(S16のYes)、ポンプ制御部204はリレー58を制御して電流をモータ32に供給し駆動する(S18)。そして、PAC2が制御許可圧P以上となるまで、S14からS18までの処理が繰り返される。PAC2が制御許可圧P以上となった場合(S16のNo)、バルブ制御部201は、チェックバルブ72を閉じてからチェックバルブ52を開く(S20)。そして、その状態で、アキュムレータ制御部202は、アキュムレータ圧センサ51から与えられる信号に基づいて高圧管30に接続されているアキュムレータ50の圧力PAC1を検出し(S22)、PAC1と制御許可圧Pとを比較する(S24)。
【0048】
AC1が制御許可圧Pより低い場合(S24のYes)、ポンプ制御部204はリレー58を制御して電流をモータ32に供給し続ける。そして、PAC1が制御許可圧P以上となるまで、S22からS24までの処理が繰り返される。PAC1が制御許可圧P以上となった場合(S24のNo)、ポンプ制御部204は、リレー58を制御してモータ32に供給する電流を停止し、モータ32を停止する(S26)。
【0049】
したがって、図6に示すアキュムレータの蓄圧方法によれば、所定の温度より低くアキュムレータ50のみの動作では制動の応答遅れが許容範囲を超えるような環境下において、アキュムレータ50よりも液圧回路100に近いアキュムレータ70を先に蓄圧することができ、より短時間で、ブレーキ制御装置110は制動の応答遅れを許容範囲内にすることができる状態になる。
【0050】
ブレーキ制御装置110は、アキュムレータ50より液圧回路100に近い位置に設けられているアキュムレータ70から液圧回路100へブレーキフルードを供給することができるので、アキュムレータ50から液圧回路100へブレーキフルードを供給する場合と比較して、液圧回路100におけるブレーキフルードの圧力変動の応答遅れを低減することができ、精度の高い制動力を確保できる。つまり、低温環境下においては応答遅れを発生させやすいアキュムレータ50から供給されるブレーキフルードではなく、アキュムレータ70から供給されるブレーキフルードを用いて応答遅れの少ない制動が可能となる。
【0051】
また、ブレーキ制御装置110は、ECU200が車両が暖まっていない低温環境下の始動直後において不図示のストロークセンサから与えられた信号により制動要求を検出すると、アキュムレータ50が制御許可圧まで蓄圧される前であってもアキュムレータ70が制御許可圧まで蓄圧されていれば、チェックバルブ52およびチェックバルブ72の開閉を制御することで、蓄圧されているアキュムレータ70から液圧回路100へブレーキフルードを供給することができる。これにより、ブレーキ制御装置110は、低温環境下の始動直後においても精度の高い制動力を確保できる。
【0052】
次に、本実施の形態に係るブレーキ制御装置110において蓄圧される際の2つのアキュムレータの圧力変化について説明する。図7は、第2の実施の形態に係るブレーキ制御装置が備える各アキュムレータの圧力変動を示すグラフである。
【0053】
図7に示す曲線C4,C4’(二点鎖線)は、封入圧がPであるアキュムレータ50に加えて、同じ封入圧Pで同容積のアキュムレータ70を備えたブレーキ制御装置110において、図6で説明した蓄圧方法により蓄圧した場合の圧力の変動を示している。また、曲線C5,C5’(一点鎖線)は、封入圧がPであるアキュムレータ50に加えて、同じ封入圧Pに設定されており封入圧Pにおける気体の容積がアキュムレータ50の封入圧Pにおける気体の容積より小さいアキュムレータ70を備えたブレーキ制御装置110において、図6で示した蓄圧方法により蓄圧した場合の圧力の変動を示している。なお、以下では説明の都合上、車両が始動された直後の各アキュムレータの圧力が封入圧となっている場合について説明する。
【0054】
図6で説明した蓄圧方法によれば、車両の始動が検出されると、まずチェックバルブ52が閉じチェックバルブ72が開いた状態で蓄圧が開始される。その結果、アキュムレータ70は、曲線C4のように制御許可圧Pに到達するまで圧力が蓄えられていく。曲線C4によれば、制御許可圧Pに到達するまでに必要な時間はtである。アキュムレータ70の圧力が制御許可圧Pに到達すると、チェックバルブ72が閉じられ、チェックバルブ52が開かれる。そして、アキュムレータ50は、曲線C4’のように制御許可圧Pに到達するまで圧力が蓄えられていく。曲線C4’によれば、制御許可圧Pに到達するまでに必要な時間はtである。
【0055】
一方、封入圧Pにおける気体の容積がアキュムレータ50の封入圧Pにおける気体の容積より小さいアキュムレータ70を備えたブレーキ制御装置110の場合、車両の始動が検出されると、まずチェックバルブ52が閉じチェックバルブ72が開いた状態で蓄圧が開始される。その結果、アキュムレータ70は、曲線C5のように制御許可圧Pに到達するまで圧力が蓄えられていく。曲線C5によれば、制御許可圧Pに到達するまでに必要な時間はtである(t<t)。これにより、アキュムレータ70の蓄圧をより短時間で行うことができる。アキュムレータ70の圧力が制御許可圧Pに到達すると、チェックバルブ72が閉じられ、チェックバルブ52が開かれる。そして、アキュムレータ50は、曲線C5’のように制御許可圧Pに到達するまで圧力が蓄えられていく。曲線C5’によれば、制御許可圧Pに到達するまでに必要な時間はt(t<t)である。
【0056】
また、図7に示す曲線C6,C6’(実線)は、封入圧がPであるアキュムレータ50に加えて、封入圧がPより高い封入圧Pに設定されており封入圧Pにおける気体の容積がアキュムレータ50の封入圧Pにおける気体の容積より小さいアキュムレータ70を備えたブレーキ制御装置110において、図6で説明した蓄圧方法により蓄圧した場合の変動を示している。この場合、アキュムレータ70は、ホイールシリンダ20に十分な制動力を発生させることができる程度に蓄圧するために必要なブレーキフルードの量が少なくて済む。そのため、アキュムレータ70は、単位時間あたりにオイルポンプ34から供給されるブレーキフルードの量が一定であれば、より短時間で所定の制御許可圧まで蓄圧されることになる。
【0057】
具体的には、車両の始動が検出されると、まずチェックバルブ52が閉じチェックバルブ72が開いた状態で蓄圧が開始される。その結果、アキュムレータ70は、曲線C6のように制御許可圧Pに到達するまで圧力が蓄えられていく。曲線C6によれば、制御許可圧Pに到達するまでに必要な時間はtである(t<t)。これにより、アキュムレータ70の蓄圧をより短時間で行うことができる。アキュムレータ70の圧力が制御許可圧Pに到達すると、チェックバルブ72が閉じられ、チェックバルブ52が開かれる。そして、アキュムレータ50は、曲線C6’のように制御許可圧Pに到達するまで圧力が蓄えられていく。曲線C6’によれば、制御許可圧Pに到達するまでに必要な時間はt(t<t)である。
【0058】
したがって、本実施の形態に係るブレーキ制御装置110は、封入圧がアキュムレータ50の封入圧よりも高く設定されているとともに容積もアキュムレータ50の容積より小さいアキュムレータ70を採用することで、より短時間でアキュムレータ70を制御許可圧まで蓄圧することが可能となる。また、小型化されたアキュムレータ70は液圧回路100近傍のレイアウトに制約がある場合でも配置しやすくなる。
【0059】
また、アキュムレータ50をオイルポンプ34の近傍に配置することで、ポンプの脈動を適正に減衰させることができ、脈動音の伝達を軽減することができる。また、アキュムレータ50とアキュムレータ70を同時に使うことで急制動時のような場合であっても応答遅れのない十分な制動力を発生させることができる。
【0060】
以上、本発明を各実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、各構成要素およびプロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1の実施の形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】第1の実施の形態に係るブレーキ制御装置が備える各アキュムレータの圧力変動を示すグラフである。
【図3】第2の実施の形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図4】本実施の形態に係るチェックバルブを模式的に示した図である。
【図5】第2の実施の形態に係るブレーキ制御装置の制御ブロック図である。
【図6】ブレーキ制御装置の始動時におけるアキュムレータの蓄圧方法を示すフローチャートである。
【図7】第2の実施の形態に係るブレーキ制御装置が備える各アキュムレータの圧力変動を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
10 ブレーキ制御装置、 12 ブレーキペダル、 14 マスタシリンダ、 20 ホイールシリンダ、 30 高圧管、 32 モータ、 34 オイルポンプ、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 44 シリンダ圧センサ、 46 ストロークセンサ、 50 アキュムレータ、 51 アキュムレータ圧センサ、 52 チェックバルブ、 58 リレー、 60 イグニッションセンサ、 62 温度センサ、 70 アキュムレータ、 72 チェックバルブ、 80 油圧アクチュエータ、 90 油圧動力源、 100 液圧回路、 110 ブレーキ制御装置、 200 ECU、 201 バルブ制御部、 202 アキュムレータ制御部、 204 ポンプ制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより駆動されるポンプと、
封入された気体が前記ポンプから供給される作動流体により圧縮されることで蓄圧される第1のアキュムレータと、
作動流体の液圧を用いて車輪に制動力を付与する制動力付与手段への作動流体の供給を制御する液圧回路と、
前記ポンプと前記第1のアキュムレータと前記液圧回路とを連通する流体路と、
前記流体路における作動流体の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記流体路の前記第1のアキュムレータより前記液圧回路に近い位置に設けられ、封入された気体が前記ポンプから供給される作動流体により圧縮されることで蓄圧される第2のアキュムレータと、
前記第1のアキュムレータから前記液圧回路への作動流体の供給および前記ポンプから前記第1のアキュムレータへの作動流体の供給を制御する第1の制御弁と、
前記第2のアキュムレータから前記液圧回路への作動流体の供給および前記ポンプから前記第2のアキュムレータへの作動流体の供給を制御する第2の制御弁と、
前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の開閉を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、蓄圧されている前記第2のアキュムレータから液圧回路へ作動流体が供給されるように前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の開閉を制御することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1のアキュムレータよりも先に前記第2のアキュムレータにおける蓄圧が開始されるように前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の開閉を制御できることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記第2のアキュムレータは、該第2のアキュムレータの封入圧における気体の容積が前記第1のアキュムレータの封入圧における気体の容積より小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記第2のアキュムレータの封入圧は、前記第1のアキュムレータの封入圧より高く設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記作動流体の温度と相関のある情報を検出する温度情報検出手段を更に備え、
前記制御部は、検出した情報に基づいて算出された作動流体の温度が所定の温度より低い場合、前記第1のアキュムレータよりも先に前記第2のアキュムレータにおける蓄圧が開始されるように前記第1の制御弁および前記第2の制御弁の開閉を制御することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、イグニッションがオンされたことを検出した場合、前記第1の制御弁を閉じるとともに前記第2の制御弁を開いた状態で前記ポンプを駆動させ、供給された作動流体で前記第2のアキュムレータを所定の圧力まで蓄圧させた後、前記第2の制御弁を閉じるとともに前記第1の制御弁を開いて前記第1のアキュムレータを所定の圧力まで蓄圧させることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−12557(P2009−12557A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175047(P2007−175047)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】