説明

ブレーキ制御装置

【課題】電動モータを駆動源とする車両用のブレーキ制御装置において、故障診断情報の不揮発性メモリへの書込み処理の確実性を高める。
【解決手段】ブレーキペダル100の操作に基づき、マスタ圧制御装置3により電動モータ20を制御し、回転−直動変換装置25を介してアシストピストン40を推進してマスタシリンダ9でブレーキ液圧を発生させる。通常は車両電源Eから電力を供給し、車両電源Eの異常時には補助電源12から電力を供給する。マスタ圧制御装置3は、故障検出時に故障診断情報を一旦、揮発性メモリに書込み、システムシャットダウン時に、その故障診断情報を不揮発性メモリに書込む。また、車両電源Eから補助電源12への切換時には、補助電源12の電力供給開始直後に揮発性メモリの故障診断情報を不揮発性メモリに書込む。これにより、故障診断情報を不揮発性メモリに確実に書込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源としてサーボ力を発生させるブレーキ装置の作動を制御するブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、電動モータを駆動源とする電動倍力装置を備えたブレーキ制御装置において、万一、主電源が故障した場合でも補助電源を用いて制動機能を維持するようにしたものが公知である。このブレーキ制御装置では、センサ、電動モータ等の構成部品に故障が発生したとき、故障診断情報を記憶し、修理工場等において、故障原因を事後的に特定できるようにしている。このとき、故障診断情報は、故障発生時に、随時、RAM等の揮発性メモリに書込まれ、制御システムをシャットダウンする際に、揮発性メモリに書込まれた故障診断情報をEEPROM等の不揮発性メモリに書込む処理が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/113574号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように故障診断機能を有する従来のブレーキ制御装置では、主電源の故障により、補助電源への切換が実行された場合、補助電源は容量が小さいため、ブレーキ装置の作動状況によっては短時間で補助電源による電力の供給が不能になる場合もあり得る。ところが、補助電源の正確な持続時間を予測することは非常に困難であり、万一、不用意に補助電源による電力の供給が断たれた場合、揮発性メモリに書込まれた故障診断情報が失われることになる。また、不揮発性メモリへの書込み中に電力の供給が断たれた場合、不揮発性メモリ自体が損傷する虞がある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、故障診断情報の不揮発性メモリへの書込み処理の確実性を高めるようにしたブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、ピストンの推進によってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダと、前記ピストンを駆動する電動モータと、ブレーキペダルの操作に応じて前記電動モータの作動を制御する制御装置と、前記電動モータ及び前記制御装置に電力を供給する主電源及び補助電源とを備え、前記制御装置は、通常は主電源により前記制御装置及び前記電動モータに電力供給を行う主電源モードを実行し、前記主電源側の異常を検知したとき、前記補助電源により前記制御装置及び前記電動モータに電力供給を行う補助電源モードを実行するブレーキ制御装置において、前記制御装置は、当該ブレーキ制御装置の故障を検知したとき、その故障診断情報を揮発性メモリに書込み、所定の制御終了処理を実行する際、前記揮発性メモリに書込まれた故障診断情報を不揮発性メモリに書込む故障診断機能を有し、さらに、主電源モードから補助電源モードに遷移したとき、前記補助電源による電力供給が開始された直後に、前記揮発性メモリに書込まれた故障診断情報を不揮発性メモリに書込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るブレーキ制御装置によれば、故障診断情報の不揮発性メモリへの書込み処理の確実性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置の概略構成を示す回路図である。
【図3】図1に示すブレーキ制御装置における故障診断情報の不揮発性メモリへの書込み処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るブレーキ制御装置1の全体構成を示すブロック図である。図で矢印付きの破線は信号線であり、矢印の向きによって信号の流れを表している。ブレーキ制御装置1は、マスタシリンダ9と、マスタシリンダ9が発生するブレーキ液圧であるマスタ圧を制御するための電動モータ20を備えたマスタ圧制御機構4と、マスタ圧制御機構4を電気的に制御するための制御装置であるマスタ圧制御装置3と、各車輪のブレーキ装置にブレーキ液圧を供給するホイール圧制御機構6と、ホイール圧制御機構6を電気的に制御するためのホイール圧制御装置5と、入力ロッド7と、操作量検出装置8と、リザーバタンク10と、主電源である車両電源Eと、補助電源12と、を有している。
【0010】
そして、マスタシリンダ9で液圧を発生させるための第1の加減圧部として、ブレーキペダル100の操作によって移動する入力ロッド7と、入力ロッド7のマスタシリンダ9側に設けられ、マスタシリンダ9のプライマリ液室42の圧力を制御する入力ピストン16とが設けられている。また、マスタシリンダ9で液圧を発生させるための第2の加減圧部として、マスタ圧制御装置3と、マスタ圧制御機構4と、マスタ圧制御機構4により制御されるアシストピストン40とが設けられている。なお、後述のとおり、入力ピストン16とアシストピストン40とは、マスタシリンダ9のプライマリ液室42の液圧を制御するピストンであるプライマリピストンとして作用する。
【0011】
入力ピストン16とアシストピストン40とは、軸方向に相対移動可能に設けられ、これらの間に一対の中立バネ19A、19Bが介装されている。入力ピストン16とアシストピストン40は、中立バネ19A、19Bのバネ力によって一定の中立位置に弾性的に保持され、これらの軸方向の相対変位に対して中立バネ19A、19Bのバネ力が作用する。
【0012】
マスタ圧制御装置3とホイール圧制御装置5とは双方向の通信を行っており、制御指令、車両状態量を共有している。車両状態量とは、例えば、ヨーレート、前後加速度、横加速度、操舵角、車輪速、車体速、故障診断情報、作動状態等を表す値あるいはデータである。
【0013】
ブレーキ制御を行うためのマスタ圧制御装置3は、車両電源Eから供給される電力により動作し、操作量検出装置8の検出値であるブレーキ操作量に基づいて、電動モータ20の作動を制御する。ここで、車両電源Eは、車載のバッテリおよび車両発電機のことを示しており、一般的な従来の自動車の場合は、オルタネータ及びバッテリであり、いわゆるハイブリッド自動車または電気自動車の場合は、高電圧電源から12ボルト系または24ボルト系などの低電圧電源へ電圧変換するDC/DCコンバータ及び低電圧バッテリのことを示す。マスタ圧制御機構4は、マスタ圧制御装置3から出力されるモータ駆動電流に従って、アシストピストン40を押圧する機構であり、回転トルクを発生する電動モータ20と、この電動モータ20の回転トルクを増幅する減速装置21と、回転運動と直進運動との間の相互変換を行う回転−直動変換装置25とを備えている。
【0014】
ホイール圧制御装置5は、車両電源Eから供給される電力により作動し、各車輪がロックすることを防止するアンチロックブレーキ制御機能、各車輪に供給するブレーキ液圧を制御することにより、アンダーステア及びオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両挙動安定化制御機能等を有しており、車両状態量に基づいて各車輪で発生させるべき目標ブレーキ力を算出し、この算出値に基づいてホイール圧制御機構6を制御する。ホイール圧制御機構6は、ホイール圧制御装置5の出力に従って、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液を受け、各車輪に対して摩擦制動力を発生するための各液圧ブレーキ装置11a〜11dへ供給するブレーキ液の液圧を制御する。
【0015】
入力ロッド7はブレーキペダル100に連結され、その他端がプライマリ液室42に挿入される入力ピストン16を駆動する。このような構成を採ることにより、運転者のブレーキ操作によってもマスタ圧を上昇することができるため、万一、電動モータ20が作動不能になった場合でも、制動力を発生することができる。また、マスタ圧に応じた反力が入力ロッド7を介してブレーキペダル100に作用しブレーキペダル反力として運転者に伝達される。
【0016】
操作量検出装置8は、運転者のペダル操作量から要求ブレーキ力を検出するセンサを少なくとも1つ以上備えた構成となっている。また、ここで使用するセンサとしては、ブレーキペダル100の移動角度もしくは入力ロッド7の移動量を検出する変位センサを用いてもよいが、ブレーキペダル100の踏力を検出する踏力センサを使用してもよく、あるいは、マスタシリンダ9内の液圧を検出するマスタ圧センサ56、57を使用してもよい。また、操作量検出装置8のセンサ構成として、変位センサ、踏力センサ、マスタ圧センサ等、異なる種類のセンサを少なくとも2つ以上組み合わせた構成であってもよい。
【0017】
マスタシリンダ9は、アシストピストン40によって加圧されるプライマリ液室42と、セカンダリピストン41によって加圧されるセカンダリ液室43の二つの加圧室を有するタンデム型のものである。アシストピストン40および入力ピストン16によって各加圧室で加圧されたブレーキ液は、マスタ配管102a及び102bを経由してホイール圧制御機構6に供給される。リザーバタンク10は、リザーバポートを介してプライマリ液室42及びセカンダリ液室43に接続されている。リザーバポートは、アシストピストン40及びセカンダリピストン41が後退位置にあるとき開いて、プライマリ液室42及びセカンダリ液室43をリザーバタンク10に連通して適宜ブレーキ液を補充し、アシストピストン40及びセカンダリピストン41が前進すると閉じて、プライマリ液室42及びセカンダリ液室43の加圧を可能にする。
【0018】
液圧ブレーキ装置11a〜11dは、図示しないシリンダとピストンとブレーキパッド等から構成されており、ホイール圧制御機構6から供給されたブレーキ液圧によってピストンが推進され、ピストンに連結されたブレーキパッドがディスクロータ101a〜101dに押圧され、摩擦制動力を発生する。ディスクロータ101a〜101dは、車輪と一体に回転するため、ディスクロータ101a〜101dに作用するブレーキトルクは、車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。なお、図示されたFL輪は左前輪、FR輪は右前輪、RL輪は左後輪、RR輪は右後輪を示している。
【0019】
補助電源12は、電力を蓄電すると共に、車両電源Eが失陥した時に、マスタ圧制御装置3へ電力を供給することが可能であり、信頼性の観点からキャパシタを用いるのが適当である。また、小型のバッテリもしくは別系統の車両電源を用いてもよいが、いずれにしても補助電源12は、本来マスタ圧制御装置3に電力を供給する主電源である車両電源Eと比べて供給できる電力量が少ない。
【0020】
次に、マスタ圧制御機構4の構成と作動について説明する。電動モータ20は、マスタ圧制御装置3で制御されるモータ駆動電流によって作動し、所望の回転トルクを発生する。電動モータ20としては、例えば、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等を使用することができるが、制御性、静粛性、耐久性の点において、DCブラシレスモータが望ましい。電動モータ20には、例えばレゾルバなどの回転角検出センサ205が備わっており、この信号がマスタ圧制御装置3に入力されるように構成されている。これにより、マスタ圧制御装置3は、回転角検出センサ205の信号に基づいて電動モータ20の回転角すなわち回転量を算出することができ、これに基づいて回転−直動変換装置25の推進量、すなわちアシストピストン40の変位量を算出することができる。
【0021】
減速装置21は、電動モータ20の回転トルクを、減速比分だけ増幅させるものである。減速の方式としては、例えば歯車減速、プーリ減速等を用いることができる、本実施形態では、駆動側プーリ22と、従動側プーリ23と、ベルト24とからなるプーリ減速による方式を採用している。電動モータ20の回転トルクが充分に大きく、減速によるトルクの増幅が必要でない場合には、減速装置21を備えずに電動モータ20と回転−直動変換装置25とを直結することが可能である。これにより、減速装置の介在に起因して発生する信頼性、静粛性、搭載性等に係る諸問題を回避することが期待できる。
【0022】
回転−直動変換装置25は、電動モータ20の回転運動を直線運動に変換してアシストピストン40を駆動するものである。変換の機構としては、例えばラックピニオン、ボールネジ等を用いることができるが、本実施形態では、ボールネジによる方式を採用している。このボールネジによる方式では、ボールネジナット26の外側には、従動側プーリ23が嵌合されており、その回転によるボールネジナット26の回転によりボールネジ軸27が軸に沿って直線的に移動し、この推力によって可動部材28を介してアシストピストン40が押圧される。
【0023】
可動部材28には、一端がハウジングの固定部に支持された戻しバネ29の他端が係合されており、ボールネジ軸27の推力と逆方向の力が可動部材28を介してボールネジ軸27に作用するように構成されている。これにより、ブレーキ中、すなわちアシストピストン40が押圧されてプライマリ液室42を加圧している状態において、電動モータ20が作動不能となり、ボールネジ軸27の戻し制御が不能となった場合にも、戻しバネ29のバネ力によってボールネジ軸27が初期位置に戻されてマスタ圧が概ね零付近まで低下するので、ブレーキの引きずりに起因して車両挙動が不安定になることが回避される。
【0024】
次に、入力ロッド7の推力の増幅について説明する。運転者のブレーキ操作による入力ロッド7を介した入力ピストン16の変位量に応じてアシストピストン40を変位させることにより、入力ロッド7の推力に応じてアシストピストン40の推力が付与されるため、入力ロッド7の推力が増幅される形でプライマリ液室42が加圧される。その増幅比(以下「倍力比」という)は、入力ロッド7とアシストピストン40との相対変位及び入力ピストン16とアシストピストン40の断面積の比等によって任意に設定することができる。
【0025】
特に、入力ロッド7の変位量と同量だけアシストピストン40を変位させる場合(入力ロッド7とアシストピストン40との相対変位を零とした場合)、入力ピストン16の断面積を「AI」とし、アシストピストン40の断面積を「AA」とすると、倍力比は、(AI+AA)/AIとして一意に定まる。すなわち、必要な倍力比に基づいて、AIとAAを設定し、その変位量が入力ピストン16の変位量に等しくなるようにアシストピストン40を制御することで、常に一定の倍力比を得ることができる。なお、アシストピストン40の変位量は、回転角検出センサ205の出力信号に基づいて算出することができる。
【0026】
次に、倍力比可変機能を実行する際の処理について説明する。倍力比可変制御処理は、入力ピストン16の変位量に比例ゲイン(K1)を乗じた量だけアシストピストン40を変位させる制御処理である。なお、K1は、制御性の点からは1であることが望ましいが、緊急ブレーキ等により運転者のブレーキ操作量を超える大きなブレーキ力が必要な場合等において、一時的に1を超える値に変更してもよい。これにより、入力ピストン16とアシストピストン40との相対変位に対して中立バネ19A、19Bのバネ力が作用して入力ピストン16に作用する反力を調整し、同量のブレーキ操作量でも、マスタ圧を通常時(K1=1の場合)に比べて引き上げることができ、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、操作量検出装置8の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定することができる。
【0027】
以上述べたとおり、倍力比可変制御処理によれば、運転者のブレーキ要求に従う入力ロッド7の変位量に応じてマスタ圧が増減圧されるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。また、K1を1未満の値にすることで、ハイブリッド車または電気自動車において、液圧ブレーキを回生ブレーキ力分だけ減圧する回生協調ブレーキ制御に適用することも可能である。
【0028】
次に、自動ブレーキ機能を実施する際の処理について説明する。自動ブレーキ制御処理は、マスタシリンダ9の作動圧を自動ブレーキの要求液圧(以下「自動ブレーキ要求液圧という。」に調節するようにアシストピストン40を前進又は後退させる処理である。この場合のアシストピストン40の制御方法としては、テーブルに記憶された事前に取得したアシストピストン40の変位量とマスタ圧との関係に基づいて、自動ブレーキ要求液圧を実現するアシストピストン40の変位量を抽出して目標値とする方法、マスタ圧センサ57で検出されたマスタ圧をフィードバックする方法等があるが、いずれの方法を採っても構わない。なお、自動ブレーキ要求液圧は、外部ユニットから受信することが可能であり、例えば車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等でのブレーキ制御に適用可能である。
【0029】
次に、ホイール圧制御機構6の構成と作動について説明する。ホイール圧制御機構6は、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液の各液圧ブレーキ装置11a〜11dへの供給を制御するゲートOUT弁50a、50b、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液のポンプ54a、54bへの供給を制御するゲートIN弁51a、51b、マスタシリンダ9又はポンプ54a、54bから各液圧ブレーキ装置11a〜11dへのブレーキ液の供給を制御するIN弁52a〜52d、液圧ブレーキ装置11a〜11dを減圧制御するOUT弁53a〜53d、マスタシリンダ9で発生したブレーキ液圧を昇圧するポンプ54a、54b、ポンプ54a、54bを駆動するモータ55、マスタ圧を検出するマスタ圧センサ56を有する。なお、ホイール圧制御機構6としては、アンチロックブレーキ制御用の液圧制御ユニット、車両挙動安定化制御用の液圧制御ユニット等を用いることができる。
【0030】
ホイール圧制御機構6は、プライマリ液室42からブレーキ液の供給を受け、FL輪とRR輪のブレーキ力を制御する第1のブレーキ系統と、セカンダリ液室43からブレーキ液の供給を受け、FR輪とRL輪のブレーキ力を制御する第2のブレーキ系統の二つの系統から構成されている。このような構成を採ることにより、一方のブレーキ系統が失陥した場合にも、正常な他方のブレーキ系統によって対角2輪分のブレーキ力を確保できるので、車両の挙動が安定に保たれる。
【0031】
ゲートOUT弁50a、50bは、マスタシリンダ9とIN弁52a〜52dとの間に設けられ、マスタシリンダで加圧されたブレーキ液を液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。ゲートIN弁51a、51bは、マスタシリンダ9とポンプ54a、54bとの間に設けられ、マスタシリンダで加圧されたブレーキ液をポンプ54a、54bで昇圧して液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。
【0032】
IN弁52a〜52dは、液圧ブレーキ装置11a〜11dの上流に設けられ、マスタシリンダ9又はポンプ54a、54bで加圧されたブレーキ液を液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。OUT弁53a〜53dは、液圧ブレーキ装置11a〜11dの下流に備えられ、ホイール圧を減圧する際に開弁される。なお、ゲートOUT弁、ゲートIN弁、IN弁、OUT弁は、いずれもソレノイド(図示省略)への通電によって弁の開閉が行われる電磁式であり、ホイール圧制御装置5が行う電流制御によって各弁の開閉量を独立に調節できるものである。
【0033】
ゲートOUT弁50a、50bとIN弁52a〜52dが常開弁、ゲートIN弁51a、51bとOUT弁53a〜53dが常閉弁である。このような構成を採ることにより、故障時にこれらの弁への電力供給が停止した場合にも、ゲートIN弁とOUT弁が閉じ、ゲートOUT弁とIN弁が開いて、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液が全ての液圧ブレーキ装置11a〜11dに到達するので、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0034】
ポンプ54a、54bは、例えば車両挙動安定化制御、自動ブレーキ制御等を行うために、マスタシリンダ9の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタ圧を昇圧して液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する。ポンプ54a、54bとしては、プランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の使用が適当である。
【0035】
モータ55は、ホイール圧制御装置5の制御指令に基づいて供給される電力により動作してモータに連結されたポンプ54a、54bを駆動する。モータとしては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の使用が適当である。
【0036】
マスタ圧センサ56は、セカンダリ側のマスタ配管102bの下流に設けられており、マスタ圧を検出する圧力センサである。マスタ圧センサ56の個数及び設置位置については、制御性、フェイルセーフ等を考慮して任意に決定することができる。
【0037】
以上、ホイール圧制御機構6の構成と動作について説明したが、マスタ圧制御装置3の故障の際には、ホイール圧制御装置6は、マスタ圧センサ56で検知するブレーキ液圧により、運転者のブレーキ操作量を検出し、この検出値に応じたホイール圧を発生させるようにポンプ54a、54b等を制御することができる。
【0038】
図2は、図1に示されたマスタ圧制御装置3の回路構成の一例を示している。マスタ圧制御装置3の制御回路は、図2において実線枠201で示されており、マスタ圧制御機構4の電気部品や電気回路は、破線枠202で示されている。実線枠5は、ホイール圧制御装置5を示す。また、破線枠208は、操作量検出装置8のセンサを示しており、図2に示された例では、2個の変位センサを備えた構成としているが、少なくとも1つ以上備えた構成であればよい。ここで用いるセンサを、踏力センサもしくはマスタ圧センサとしてもよいし、異なるセンサを少なくとも2つ以上組み合わせた構成としてもよい。
【0039】
まず、実線枠201で囲まれた制御回路は、車両電源EからECU電源リレー214を介して供給される電力が5V電源回路215(以下第1電源回路215という)と5V電源回路216(以下第2電源回路215という)に入力されるようになっている。ECU電源リレー214は、起動信号とCAN通信I/F218でCAN受信により生成する起動信号のいずれか一つによりオンする構成となっており、起動信号は、ドアスイッチ信号、ブレーキスイッチ、イグニッションスイッチ信号(メインスイッチ)等を使用することができ、複数使用する場合は、マスタ圧制御装置3に全て取り込み、複数信号のいずれか一つのスイッチがオンした時に、起動信号がECU電源リレー214をオンする側に作動する回路構成とする。また、車両電源Eが失陥した時には、補助電源12から補助電源リレー236を介して供給される電力が第1電源回路215と第2電源回路216に供給できるようになっている。第1電源回路215によって得られる安定した電源(VCC1)は、中央制御回路(CPU)211に供給される。第2電源回路216によって得られる安定した電源(VCC2)は監視用制御回路219に供給される。
【0040】
フェイルセーフリレー回路213は、車両電源Eから三相モータ駆動回路222に供給する電力を遮断できるようになっており、CPU211と監視用制御回路219によって、三相モータ駆動回路222への電力の供給と遮断を制御できるようになっている。また、車両電源Eが失陥した時には、補助電源12から補助電源リレー235を介して三相モータ駆動回路222に電力を供給できるようになっている。外部から供給される電力は、フィルタ回路212を介することによってノイズが除去され、三相モータ駆動回路222に供給される。
【0041】
次に、車両電源Eから電力供給を行なう主電源モードから、車両電源Eが失陥した場合に補助電源12からの電力供給を行う補助電源モードに切換える方法について説明する。ここでいう車両電源Eの失陥とは、車両バッテリの故障、車両発電機の故障、そしてハイブリッド自動車、電気自動車の場合は、モータジェネレータの故障、高電圧バッテリの故障、DC/DCコンバータの故障、低電圧バッテリの故障等により、車両電源Eが車両に搭載されている電気機器および電子制御装置へ電力を供給できなくなることを意味する。
【0042】
まず、車両電源Eの失陥の検出は、車両電源Eからの電力供給ラインの電圧をモニタし、モニタ電圧が所定値以下になった場合に電源の失陥と判断する。こうして車両電源Eの失陥を検出した時に、正常状態ではオフしている補助電源リレー235及び236をオンする。これにより、補助電源12から電力を供給することが可能となる。また、車両電源Eの失陥を検出して補助電源リレー235及び236をオンする時に、ECU電源リレー214及びフェイルセーフリレー回路213をオフした方が望ましい。もし、車両電源Eの失陥の原因が車両電源系のどこかが車体などのGNDへの短絡故障であった場合、短絡箇所より上流のヒューズが溶断するまで、補助電源12の電力を消費してしまうからである。また、ECU電源リレー214及びフェイルセーフリレー回路213の上流か下流のいずれかに、アノードを車両電源E側にしてダイオードを入れるような回路構成としてもよい。
【0043】
CPU211には、CAN通信I/F回路218を介してマスタ圧制御装置3の外部からの車両情報と自動ブレーキ要求液圧等の制御信号が入力されるようになっていると共に、マスタ圧制御機構4の側に配置された回転角検出センサ205、モータ温度センサ206、変位センサ8a、8b、マスタ圧センサ57からの出力が、それぞれ回転角検出センサI/F回路225、モータ温度センサI/F回路226、変位センサI/F回路227、228、マスタシリンダ圧センサI/F回路229を介して入力されるようになっている。
【0044】
CPU211には、外部装置からの制御信号と現時点における各センサの検出値等が入力され、これらに基づいて三相モータ駆動回路222に適切な信号を出力して、マスタ圧制御装置4を制御する。三相モータ駆動回路222は、マスタ圧制御機構4内の電動モータ20にその出力端が接続され、CPU211により制御され、直流電力を交流電力に変換し、電動モータ20を駆動する。この場合、三相モータ駆動回路222の三相出力の各相には、相電流モニタ回路223と相電圧モニタ回路224が具備されており、これらの回路223、224によって、それぞれ相電流及び相電圧が監視され、これらの情報により、CPU211は、マスタ圧制御機構4内の電動モータ20を適切に動作させるように、三相モータ駆動回路222を制御する。そして、相電圧モニタ回路でのモニタ値が正常範囲外となった場合、制御指令どおりに制御できていない場合等には、故障と判断されるようになっている。
【0045】
マスタ圧制御装置3の制御回路201内には、例えば故障診断情報等を含む制御情報が格納されたEEPROM等からなる不揮発性メモリである記憶回路230及びRAM等からなる揮発性メモリであるバッファ記憶回路240が設けられ、CPU211との間で信号の送受がなされる。CPU211は、検出した故障診断情報と、マスタ圧制御機構4の制御で用いる学習値、例えば制御ゲイン、各種センサのオフセット値、等をバッファ記憶回路240及び記憶回路230に適宜記憶させる。また、マスタ圧制御装置3の制御回路201内には、監視用制御回路219が備えられ、CPU211との間で信号の送受がなされる。監視用制御回路219は、CPU211の故障、VCC1電圧等を監視している。そして、CPU211、VCC1電圧等の異常を検出した場合は、速やかにフェイルセーフリレー回路213を動作させ、三相モータ駆動回路222への電源供給を遮断する。監視用制御回路219とVCC2電圧の監視はCPU211で行う。
【0046】
本実施形態では、補助電源リレー235及び236をマスタ圧制御装置3内に実装し、マスタ圧制御装置3内部で車両電源Eからの電力供給と補助電源12からの電力供給とを切換える構成としているが、車両側の電源制御装置で車両電源Eからの電力供給と補助電源12からの電力供給とを切換える構成とし、マスタ圧制御装置3のへの電力供給ラインは、図2の車両電源Eからのみとすることもできる。
【0047】
次に、マスタ圧制御装置3の自己診断機能について説明する。自己診断機能は、操作量検出装置8、回転角検出センサ205、電動モータ20、マスタ圧センサ56、57、車両電源E、補助電源12、ホイール圧制御機構6のセンサ及びアクチュエータ、並びに、ホイール圧制御装置5を含む車載の各種センサ、アクチュエータ、コントローラ、電源、通信系統等の電子部品からの入力信号を監視し、入力信号が正常範囲外となったとき、異常を検出して、異常内容を故障診断情報としてバッファ記憶回路240及び記憶回路230に適宜記憶し、必要に応じて所定の処理を実行する。
【0048】
故障診断情報としては、例えば、故障部位毎に設定される故障診断コード、過去故障情報(現在は故障していないが過去に故障があった場合)を示す情報について、その故障発生時期を示すカウンタ情報(例えばイグニッションスイッチのオン、オフ毎にカウントアップを行なう)、故障発生時の制御状態(各センサ値、制御指令値等のキャプチャ情報)を含むことができる。
【0049】
マスタ圧制御装置3は、故障診断情報の書込み処理について、バッチ処理を採用しており、主電源モード及び補助電源モードの実行に応じて、故障診断情報の書込み処理を実行する。いずれの場合においても、システム作動状態においては、故障を検出したとき、随時、故障診断情報を一旦、揮発性メモリであるバッファ記憶回路240への書込みを実行する。そして、主電源モード及び補助電源モードの実行に応じて、次のように書込み処理を実行する。
【0050】
(1)イグニッションスイッチ(メインスイッチ)オフによる通常の終了処理
主電源モードの実行中において、運転者によりイグニッションスイッチがオフされた場合、通常終了処理に遷移し、バッファ記憶回路240に書込まれた故障診断情報を記憶回路230に書込む処理を実行した後、システムシャットダウンを行なう。
【0051】
(2)車両電源Eの異常により主電源モードから補助電源モードに遷移した場合
主電源モードで待機中に車両電源Eの異常の発生により、補助電源モードへの切換処理が実行された場合、補助電源12からの電力の供給開始直後に、バッファ記憶回路240に書込まれた故障診断情報を記憶回路230に書込む補助電源遷移時書込み処理を実行し、その後、補助電源モードで待機する。そして、補助電源12により、ブレーキ制御機能を維持し、この間に異常が発生した場合には、故障診断情報をバッファ記憶回路240に書込む。また、車両電源Eの異常が解消した場合には、車両電源Eによる主電源モードに復帰する。
これにより、補助電源12は容量が小さいため、ブレーキの作動状態により、万一、イグニッションスイッチのオフによるシステムシャットダウン前に補助電源12の電力が枯渇した場合でも、補助電源モードへの切換前にバッファ記憶回路240に記憶された故障診断情報については、補助電源モードへの切換時に既に記憶回路230に書込まれて保存されているので、事後的な読出しが可能となる。
【0052】
(3)補助電源モード実行中に、補助電源12の供給電力が低下した場合
補助電源モードで待機中には、補助電源12の供給電圧をモニタし、供給電圧が所定電圧未満(例えば、電動モータ20の定格電圧が12ボルトの場合、9ボルト未満)となったとき、補助電源12の供給可能な電力が充分でないとして、電動モータ20の作動指令を終了し、バッファ記憶回路240に書込まれた故障診断情報を記憶回路230に書込む補助電源枯渇時書込み処理を実行する。その後、補助電源12の電力が枯渇することによってマスタ圧制御装置3によるブレーキ制御を強制終了する。ここで、補助電源枯渇時書込み処理を実行するために必要な電力は、電動モータ20の作動に必要な電力よりも小さいので、供給電圧の低下を監視することにより、電動モータ20の作動に必要な電力が供給不能になったことを検知することができる。
これにより、補助電源モード実行中に得た故障診断状情報を確実に記憶回路230に書込んで保存することができ、事後的な読出しが可能となる。
【0053】
上述の故障診断情報の書込み処理を実行するための制御フローの一例について、図3を参照して説明する。
図3を参照して、ステップS1で、車両電源Eによる主電源モードで待機し、ステップS2で、運転者のイグニッションスイッチオフ等により、通常の制御終了処理に遷移したか否かを判定する。通常の制御終了処理への遷移と判定された場合、ステップS3で、バッファ記憶回路240に書込まれた故障診断情報及びその他の制御情報を記憶回路230に書込み、その後、ステップS4でマスタ圧制御装置3の制御回路201の電源遮断処理を実行する。
【0054】
一方、ステップS2で通常の制御終了処理への遷移ではないと判定された場合、ステップS5に進む。ステップS5では、車両電源Eの異常により補助電源12への切換(補助電源モードへの遷移)が行なわれたか否かを判定する。補助電源モードへの切換が実行されている場合には、ステップS6に進み、切換が実行されていない場合にはステップS1に戻る。
【0055】
ステップS6では、バッファ記憶回路240に書込まれた故障診断情報を記憶回路230に書込み、ステップS7に進む。ステップS7では、補助電源モードで待機し、ステップS8に進む。ステップS8では、車両電源Eの異常が解消したか否かを判定し、解消していない場合にはステップS9に進み、解消している場合には、主電源モードに復帰してステップS1に戻る。
【0056】
ステップS9では、補助電源12の供給電圧を監視し、電動モータ20の作動に必要な電力が得られるか否かを判定する。供給電圧が所定電圧以上の場合(電動モータ20の作動が可能な場合)には、ステップS7に戻り、所定電圧未満の場合(電動モータ20の作動が不可能な場合)には、ステップS10に進む。ステップS10では、電動モータ20の作動を終了し、ステップS11に進む。ステップS11では、バッファ記憶回路240に書込まれた故障診断情報を記憶回路230に書込み、その後、ステップS12で補助電源モードで待機する。
このようにして、主電源モード及び補助電源モードの実行に応じて、故障診断情報の書込み処理を実行する。
【0057】
なお、上記実施形態では、入力ピストン16がマスタシリンダ9に挿入されている構成を用いているが、必ずしも入力ピストン16がマスタシリンダ9に挿入されている必要はなく、電動モータによって駆動されるピストンがマスタシリンダに挿入されていればよく、例えば、ブレーキペダルの踏力がマスタシリンダに直接伝達されない、いわゆるバイワイヤ式の構成に上記実施形態の制御を適用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 ブレーキ制御装置、3 マスタ圧制御装置(制御装置)、9 マスタシリンダ、12 補助電源、20 電動モータ、40 アシストピストン(ピストン)、100 ブレーキペダル、E 車両電源(主電源)、230 記憶回路(不揮発性メモリ)、240 バッファ記憶回路(揮発性メモリ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの推進によってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダと、
前記ピストンを駆動する電動モータと、
ブレーキペダルの操作に応じて前記電動モータの作動を制御する制御装置と、
前記電動モータ及び前記制御装置に電力を供給する主電源及び補助電源とを備え、
前記制御装置は、通常は主電源により前記制御装置及び前記電動モータに電力供給を行う主電源モードを実行し、前記主電源側の異常を検知したとき、前記補助電源により前記制御装置及び前記電動モータに電力供給を行う補助電源モードを実行するブレーキ制御装置において、
前記制御装置は、
当該ブレーキ制御装置の故障を検知したとき、その故障診断情報を揮発性メモリに書込み、所定の制御終了処理を実行する際、前記揮発性メモリに書込まれた故障診断情報を不揮発性メモリに書込む故障診断機能を有し、
さらに、主電源モードから補助電源モードに遷移したとき、前記補助電源による電力供給が開始された直後に、前記揮発性メモリに書込まれた故障診断情報を不揮発性メモリに書込むことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、補助電源モードの実行中に、前記補助電源の供給可能な電力が所定電力未満に低下したとき、前記電動モータへの電力供給を終了し、前記揮発性メモリに書込まれた故障診断情報を前記不揮発性メモリに書込むことを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−116214(P2012−116214A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264966(P2010−264966)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】